説明

共重合体乾燥粉末の製造方法

【課題】本発明が解決しようとする課題は、従来の共重合体乾燥粉末の製造工程における乾燥工程の問題に鑑み、共重合体乾燥粉末中の揮発性有機物を低減することである。
【解決手段】本発明の共重合体乾燥粉末の製造方法は、二重結合を有するモノマーを水溶媒中で重合してなる共重合体の乾燥粉末の製造方法であって、該共重合体60〜75重量%、水20〜40重量%、及び揮発性有機物100〜50,000重量ppmからなる湿潤粉末100重量%を、水の沸点温度より高い温度の水蒸気雰囲気に保持する高温高湿度乾燥工程を含むことを特徴とする、共重合体乾燥粉末の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体乾燥粉末の製造方法に関する。さらに詳しくは、水溶媒中で二重結合を有するモノマーを重合した共重合体の乾燥粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂の熱耐衝撃性、加工性、成形性などを改良するために、二重結合を有する複数のモノマーを重合した共重合体を熱可塑性樹脂に添加することが従来から広く利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
共重合体は、二重結合を有する複数のモノマーを乳化重合法、懸濁重合法、マイクロサスペンション重合法、ミニエマルション重合法、水系分散重合法などにより製造された高分子ラテックスを用いて、様々な方法により凝集体を得て、その後、該凝集体を脱水もしくは脱溶剤後、乾燥して共重合体を得る方法が実施されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
該モノマーは完全に共重合体には転化しないため、残存モノマー、揮発性有機物として共重合体中に存在する。
【0005】
揮発性有機物は、凝集、乾燥工程における共重合体への加熱操作により飛散し大気環境が悪化する。また、乾燥工程において飛散した揮発性有機物が空気と混合されると爆発性混合気体を形成する懸念がある。大気環境悪化防止、爆発防止の観点から、製造工程の密閉化、揮発物回収、無害化、並びに空気濃度を高め爆発範囲を回避する方法が採用されるが、設備費、エネルギーコストが掛かるという経済上の問題がある。
【0006】
このため、共重合体の残モノマーを低減する方法として重合転化率向上対策が行われてきている。しかし、転化率向上のため触媒を追加すると品質が悪化、重合時間を延長すると生産性が低下するなど、実用上効果的な方法がないのが現状である。
【0007】
一方、近年、非特許文献1、2に示されるように、沸点温度よりも高い温度の水蒸気である過熱水蒸気による乾燥技術が注目されている。過熱水蒸気は乾燥初期に材料表面に凝縮し、その際に多量の凝縮熱を与えることにより材料は素早く沸点温度まで加熱され、揮発性有機物の揮発度も高くなり、材料中の揮発性有機物濃度を低減することが期待される。また、過熱水蒸気は揮発性有機物と爆発組成を形成せず、水蒸気とともに凝縮させることで有機物の回収も容易となる。
【0008】
しかし、本技術は、現状食品加工やバイオマス資源利用等の限られた分野で実用化されているのみで、共重合体湿潤粉末の乾燥に適用された事例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭39−19035号公報
【特許文献2】特開2002−363372
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】過熱水蒸気乾燥を用いた乾燥の特徴と利用技術、粉体と工業、VOL38、NO.11、pp.41〜49(2006)
【非特許文献2】過熱水蒸気技術集成、NTS(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、上記のような従来の共重合体乾燥粉末の製造工程における乾燥工程の問題に鑑み、共重合体乾燥粉末中の揮発性有機物を低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、水溶媒中で二重結合を有するモノマーを重合した共重合体を特定の方法で実施することにより、揮発性有機物を低減できることを見出し、本発明を完成させた。つまり、このような共重合体は、重合後には、揮発性有機物と水を含む湿潤粉末であるが、本発明者らは、この湿潤粉末を従来の様に熱風(高温の低湿度空気)で乾燥すると、粉末と揮発性有機物の結合力が、水と粉末の結合力よりも強いため、脱水速度に比べて、脱揮発性有機物速度が遅くなることを発見した。
【0013】
そこで、本発明者らは、脱揮発性有機物速度を速めるために、乾燥時に粉末と揮発性有機物の結合力を、水と粉末の結合力よりも弱くする方法につき鋭意検討を重ねた結果、湿潤粉末を水の沸点温度より高い温度でかつ水蒸気分圧が全圧の50%以上の高温高湿度の雰囲気に保持する、即ち、乾燥時雰囲気を水蒸気とすると、湿潤粉末は素早く加熱され、揮発性有機物低減速度が速くなることにより、脱揮発性有機物速度が速められることを見出し、本発明を為した。
【0014】
即ち、本発明は、二重結合を有するモノマーを水溶媒中で重合してなる共重合体の乾燥粉末の製造方法であって、該共重合体60〜75重量%、水20〜40重量%、及び揮発性有機物100〜50,000重量ppmからなる湿潤粉末100重量%を、水の沸点温度より高い温度の水蒸気雰囲気に保持する高温高湿度乾燥工程を含むことを特徴とする、共重合体乾燥粉末の製造方法に関する。
【0015】
また、前記水蒸気雰囲気の温度を、水の沸点温度より高く、200℃以下の温度とすることが好ましく、前記水蒸気雰囲気の水蒸気分圧を、全圧の50%以上とすることが好ましい。
【0016】
特に、前記高温高湿度乾燥工程の後、60℃以上110℃以下の温度、かつ、水蒸気分圧が全圧の50%未満の乾燥雰囲気に保持する高温低湿度乾燥工程を含むことが好ましい。
【0017】
また、前記共重合体としては、以下の3種類のものが好ましい。
【0018】
即ち、前記共重合体が、メタクリル酸メチル75〜100重量%、メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体0〜25重量%からなる単量体100重量%の重合体、即ち、塩化ビニル樹脂用の加工性改良剤である。
【0019】
また、前記共重合体100重量部が、ブタジエン系ゴムコア60〜90重量部、及び硬質シェル10〜40重量部を含むグラフト共重合体、即ち、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)であって、
前記ブタジエン系ゴムコアが、ブタジエン65〜100重量%、及びブタジエンと共重合可能な他のビニル単量体0〜35重量%からなる単量体100重量%の単量体の重合体であり、
前記硬質シェルが、メタクリル酸メチル65〜100重量%、及びメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体0〜35重量%からなる単量体100重量%の単量体の重合体である。
【0020】
さらに、前記共重合体100重量部が、アクリル系ゴムコア10〜80重量部、及び硬質シェル20〜90重量部を含むグラフト共重合体、即ち、アクリルゴムで強化されたアクリル樹脂フィルムの原料重合体であって、
前記アクリル系ゴムコアが、アクリル酸エステル65〜100重量%、及びアクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル単量体0〜35重量%からなる単量体100重量%の単量体の重合体であり、
前記硬質シェルが、メタクリル酸メチル65〜100重量%、及びメタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体0〜35重量%からなる単量体100重量%の単量体の重合体である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、湿潤粉末を水の沸点温度より高い温度でかつ水蒸気分圧が全圧の50%以上の高温高湿度の雰囲気に保持することにより、湿潤粉末は素早く加熱され、揮発性有機物低減速度が速くなることにより、従来よりも揮発性有機物を低減した乾燥粉末を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に関わる、乾燥設備の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0024】
(共重合体乾燥粉末の製造方法)
本発明の共重合体乾燥粉末の製造方法は、二重結合を有するモノマーを水溶媒中で重合してなる共重合体の乾燥粉末の製造方法であって、前記共重合体60〜75重量%、水20〜40重量%、及び揮発性有機物100〜50,000重量ppmからなる湿潤粉末100重量%を、水の沸点温度より高い温度の水蒸気雰囲気に保持する高温高湿度乾燥工程を含むことを要する。
【0025】
本発明の共重合体乾燥粉末の製造方法は、前記本発明に係る高温高湿度乾燥工程の後に、さらに、60℃以上110℃以下の温度で、かつ、水蒸気分圧が全圧の50%未満の乾燥雰囲気に保持する高温低湿度乾燥工程を含むことが好ましい。このようにすることで、高価な高温高湿度乾燥設備(過熱水蒸気乾燥設備)と安価な高温低湿度乾燥設備(従来の熱風乾燥機)の組合せ処理とすることによって、設備投資を抑えながら、樹脂中の揮発性有機物の低減を図ることが可能となり、効率的に水分も低減できる。
【0026】
本発明の共重合体乾燥粉末の製造方法によって得られる乾燥粉末100重量は、前記共重合体99重量%以上、水1重量%未満、及び揮発性有機物1,000重量ppm未満からなる乾燥粉末であることが好ましい。
【0027】
図1に本発明を具体化する乾燥機の一例を示す。また、この図1の説明においては、沸点温度より高い温度でかつ水蒸気分圧が全圧の50%以上の蒸気を、便宜上、過熱水蒸気とする。
【0028】
湿潤粉末は、入口1から乾燥室2内へ導入され、粉末捕集部3を経由して出口4へと搬送される間に乾燥される。
【0029】
一方、過熱水蒸気は、乾燥室2内と熱交換器5の間で送風機6、循環ライン7によって循環させる。この時、乾燥室内の温度が、上記の様に沸点温度より高く200℃以下となるように、熱交換器5によって制御する。
【0030】
過熱水蒸気は、装置起動時に、供給ライン8より供給する。もちろん飽和水蒸気を供給し、熱交換器5と接触させて昇温し過熱水蒸気にしてもよい。定常状態では、乾燥室2内へ供給される湿潤粉末が乾燥した分だけ、樹脂から揮発性有機物を含んだ過熱水蒸気が新たに発生するので排気ライン9から排気すればよい。
【0031】
なお、本発明では、過熱水蒸気と湿潤粉末が効率よく接触することが重要であるので、乾燥機の形式としては、特に図1の形式にこだわる必要はなく、流動乾燥機の様に樹脂を流動化させる形式が、熱効率の観点から好ましい。
【0032】
(高温高湿度乾燥工程)
本発明に係る高温高湿度乾燥工程は、湿潤粉末を、水の沸点温度より高い温度の高温高湿度の水蒸気雰囲気に保持することで乾燥する工程であり、本発明の特徴部分である。好ましくはその水蒸気雰囲気の水蒸気分圧は全圧の50%以上とすることである。
【0033】
ここで、水の沸点温度よりも高い温度で、水蒸気分圧が全圧の100%である状態を過熱水蒸気と言う。本発明の効果は、この過熱水蒸気雰囲気下で最大となるのであるが、実際は、微量の空気の混入などで過熱水蒸気100%の雰囲気を作り出すことが非常に困難である。空気の混入は、本発明の効果を低下させてしまうものの、実用上は、沸点温度より高い温度でかつ水蒸気分圧が全圧の50%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の高温高湿度の雰囲気であればよい。
【0034】
また、ここでいう全圧とは、乾燥機内の圧力を意味するが、本発明の効果に何ら影響を及ぼすものではないので、大気圧に限定することなく、減圧もしくは加圧雰囲気でも適用が可能である。
【0035】
一方、温度については、乾燥機内の雰囲気温度を以下の様に設定するのが望ましい。雰囲気温度が、乾燥を行う圧力下での水の沸点温度と等しい場合は、飽和状態であり、水を蒸発させることができない。脱揮発性有機物速度を高め、また十分な脱水速度を得るためには、雰囲気温度は、沸点温度より高い必要があり、好ましくは、沸点温度の2.5℃以上、特に好ましくは沸点温度の5℃以上である。一方、雰囲気温度は高くすればするほど、脱揮発性有機物速度とともに、脱水速度も上昇し、乾燥速度が上昇していくので望ましいのであるが、均一な粒子を得るためには200℃以下が好ましい。
【0036】
特に、沸点温度については、圧力によって変動するため、本発明の具体的な適用範囲を例示すると、大気圧下で乾燥する場合は、水の沸点が100℃であるから、100℃を超えて、200℃以下が好ましく、2気圧の加圧下で乾燥する場合は、水の沸点が約120℃であるから、120℃を超えて、200℃以下が望ましい。一方、減圧雰囲気下、例えば、0.69気圧で乾燥する場合、水の沸点が約90℃であるから、90℃を超えて、200℃以下が好ましい。
【0037】
(高温低湿度乾燥工程)
本発明に係る高温低湿度乾燥工程は、本発明に係る前記高温高湿度乾燥工程で、揮発性有機物を低減させた湿潤粉末の水分を低減させるための工程であり、このような湿潤粉末を、60℃以上110℃以下の温度、かつ、水蒸気分圧が全圧の50%未満の乾燥雰囲気に保持する工程である。
【0038】
ここで、前記乾燥雰囲気の水蒸気分圧は、低ければ低いほど脱水時間が短縮されるので好ましいのであるが、好ましくは、全圧の50%未満である。
【0039】
また、前記乾燥雰囲気の温度は、乾燥速度、及び共重合体の融着防止の観点から、好ましくは60〜110℃、より好ましくは、80〜110℃の範囲である。
【0040】
高温低湿度乾燥の方法は、通常の樹脂乾燥工程で用いられるような流動乾燥機のように熱風(高温の低湿度空気)で樹脂を流動させながら乾燥させる方式等、熱風(高温の低湿度空気)を用いて水分を蒸発させる一般的な方法を採用することができる。
【0041】
(湿潤粉末)
本発明に係る湿潤粉末100重量%は、二重結合を有するモノマーを水溶媒中で重合してなる共重合体60〜75重量%、水20〜40重量%、及び揮発性有機物100〜50,000重量ppmからなる、水系溶媒中で重合された一般的な重合物であり、好ましくは、乳化重合により重合された重合物である。
【0042】
(共重合体)
本発明に係る共重合体は、熱耐衝撃性改良剤や加工性改良剤、押し出し成型用熱可塑性樹脂粉末に有用な二重結合を有する複数のモノマーを水溶媒中で重合した共重合体であり、本発明の効果を十分に得る観点から、例えば、主としてジエン系モノマーを重合したジエンゴムや、主としてアクリレート系モノマーを重合したアクリルゴム、ポリシロキサンからなるシリコンゴムのコアに、二重結合を有するモノマーをグラフト重合してシェルを形成したコアシェル重合体のような、多段重合体であり、0.1〜10μmの重量平均一次粒子系の粒子である。
【0043】
(モノマー)
本発明に係る二重結合を有するモノマーとしては、(メタ)アクリレート類、ビニルアレーン類、ビニルカルボン酸類、ビニルシアン類、ハロゲン化ビニル類、アルケン類、及び酢酸ビニル、(メタ)アクリルアミド系モノマー、アリルエステル系モノマー、ビニルエーテル系モノマー等が挙げられる。なお、本明細書において(メタ)アクリルレートは、アクリルレート、及び/又は、メタクリルレートを意味する。
【0044】
前記(メタ)アクリレート類としては、アルキル(メタ)アクリレート類、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類等が挙げられ、さらに、
前記アルキル(メタ)アクリレート類としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられ、
前記ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
前記ビニルアレーン類としてはスチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、炭素数1〜12までのアルキル基を有するアルキルスチレン、メトキシスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、フェニルスチレン、ビニルナフタレン等が、前記ビニルカルボン酸類としてはアクリル酸、メタクリル酸等が、前記ビニルシアン類としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等が、前記ハロゲン化ビニル類としては塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレン等が、前記アルケン類としてはエチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等が挙げられる。これらのその他のビニル単量体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
また、前記ビニルシアン系モノマーとしては(メタ)アクリロニトリルが、前記(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドが、アリルエステル系モノマーとしては、フタル酸ジアリルが、ビニルエーテル系モノマーとしてはプロパンジオールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル等が例示できる。
【実施例】
【0047】
以下に、本発明の実施例について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、実施例の記載に先立ち、湿潤樹脂の製造方法、過熱水蒸気の発生方法、乾燥方法、及び樹脂の含水率、揮発性有機物の測定方法について説明する。
【0048】
(加工性改良剤の湿潤粉末)
水溶媒中で、メチルメタクリレートを主成分とする単量体を乳化重合した後、塩析凝固・脱水することで、含水率27.4重量%、揮発性有機物520重量ppmの加工性改良剤の湿潤粉末を得た。
【0049】
(MBSの湿潤粉末)
水溶媒中で、ブタジエンを主成分とする単量体を乳化重合した後、さらに、メチルメタクリレートを主成分とする単量体を重合することでMBSを製造し、さらに、塩析凝固・脱水することで、含水率27.9重量%、揮発性有機物10575重量ppmのMBSの湿潤粉末を得た。
【0050】
(実施例1)
過熱水蒸気は飽和蒸気圧0.4MPa(絶対圧力)の飽和蒸気を、その温度よりも高い飽和蒸気圧の飽和蒸気と熱交換させることにより過熱水蒸気を発生させた。熱風は同様の飽和蒸気と空気を熱交換させることにより得た。乾燥は、400メッシュ(目開き64μm)の目皿を有する内径90mm、高さ400mmの流動層型乾燥機に、上記で得た加工性改良剤の湿潤粉末を投入して行った。過熱水蒸気、及び熱風は目皿下部より流通させた。まず、過熱水蒸気を流通させ、装置全体が十分に加温されたことを各所温度計(乾燥機入口、内部、出口)により確認した後に、上記で得た加工性改良剤の湿潤粉末を投入した。一定時間後に樹脂を取り出し、密閉容器に回収した。
【0051】
取出した樹脂の含水率は、KET法(山崎精機研究所社製、山崎式連続赤外線含水率測定機)で分析した。以降示している水分値は全てWetベースである。また、揮発性有機物は、ガスクロマトグラフィー法で分析した。分析機器は島津社製のGC−2014(FID式)を用いた。室温まで冷却した樹脂をジクロロメタンに溶解し、内部標準としてクロロベンゼンを定量添加し、樹脂中に残存する水以外の成分を定量した。以降示している揮発性有機物の含量はDryベースである。
【0052】
含水率27.4%、揮発性有機物520ppmの上記で得た加工性改良剤の湿潤粉末を大気圧下で150℃の過熱水蒸気で乾燥した場合の含水率と揮発性有機物の経時変化を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例2)
湿潤粉末を、加工性改良剤の湿潤粉末から、上記で得たMBSの湿潤粉末としたこと以外は実施例1と同様にした実験を実施した。
【0055】
含水率27.9%、揮発性有機物10,575ppmの上記で得たMBSの湿潤粉末を大気圧下で150℃の過熱水蒸気で乾燥した場合の含水率と揮発性有機物の経時変化を表2に示す。
【0056】
【表2】

【0057】
(比較例1)
実施例1と同様の含水率27.4%、揮発性有機物520ppmの加工性改良剤の湿潤粉末を用いて、大気圧下150℃で、水蒸気分圧が1%である高温の低湿度空気(熱風)で乾燥した場合の含水率と揮発性有機物の経時変化を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
(比較例2)
実施例2と同様の含水率27.9%、揮発性有機物10,575ppmのMBSの湿潤粉末を用いて、大気圧下150℃で、水蒸気分圧が1%である高温の低湿度空気(熱風)で乾燥した場合の含水率と揮発性有機物の経時変化を表4に示す。
【0060】
【表4】

【0061】
実施例1と比較例1の乾燥時間2分における揮発性有機物の比較から、過熱水蒸気は揮発性有機物低減に有効なことが示された。また、比較例1において乾燥時間を長くすれば、揮発性有機物が低減されているが、品質上の問題を生じる可能性がある。また、実施例2と比較例2の乾燥時間2分における揮発性有機物の比較から、過熱水蒸気は揮発性有機物低減に有効なことが示された。
【符号の説明】
【0062】
1.入口
2.乾燥室
3.粉末捕集部
4.出口
5.熱交換器
6.送風機
7.循環ライン
8.供給ライン
9.排気ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重結合を有するモノマーを水溶媒中で重合してなる共重合体の乾燥粉末の製造方法であって、該共重合体60〜75重量%、水20〜40重量%、及び揮発性有機物100〜50,000重量ppmからなる湿潤粉末100重量%を、水の沸点温度より高い温度の水蒸気雰囲気に保持する高温高湿度乾燥工程を含むことを特徴とする、共重合体乾燥粉末の製造方法。
【請求項2】
前記水蒸気雰囲気の温度が、200℃以下である、請求項1に記載の共重合体乾燥粉末の製造方法。
【請求項3】
前記水蒸気雰囲気の水蒸気分圧が、全圧の50%以上である、請求項1、又は2に記載の共重合体乾燥粉末の製造方法。
【請求項4】
前記高温高湿度乾燥工程の後、60℃以上110℃以下の温度、かつ、水蒸気分圧が全圧の50%未満の乾燥雰囲気に保持する高温低湿度乾燥工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の共重合体乾燥粉末の製造方法。
【請求項5】
前記共重合体が、メタクリル酸メチル75〜100重量%、メタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体0〜25重量%からなる単量体100重量%の重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の共重合体乾燥粉末の製造方法。
【請求項6】
前記共重合体100重量部が、ブタジエン系ゴムコア60〜90重量部、及び硬質シェル10〜40重量部を含むグラフト共重合体であって、
該ブタジエン系ゴムコアが、ブタジエン65〜100重量%、及びブタジエンと共重合可能な他のビニル単量体0〜35重量%からなる単量体100重量%の単量体の重合体であり、
該硬質シェルが、メタクリル酸メチル65〜100重量%、及びメタクリル酸メチルと共重合可能な他の単量体0〜35重量%からなる単量体100重量%の単量体の重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の共重合体乾燥粉末の製造方法。
【請求項7】
前記共重合体100重量部が、アクリル系ゴムコア10〜80重量部、及び硬質シェル20〜90重量部を含むグラフト共重合体であって、
該アクリル系ゴムコアが、アクリル酸エステル65〜100重量%、及びアクリル酸エステルと共重合可能な他のビニル単量体0〜35重量%からなる単量体100重量%の単量体の重合体であり、
該硬質シェルが、メタクリル酸メチル65〜100重量%、及びメタクリル酸メチルと共重合可能な他のビニル単量体0〜35重量%からなる単量体100重量%の単量体の重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の共重合体乾燥粉末の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−1438(P2011−1438A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144971(P2009−144971)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】