説明

内因性DHEA−Sを増加させるための製剤およびその製造方法、ならびに内因性DHEA−Sを増加させるための方法

【課題】被験者の体内に有する内因性DHEA−Sを積極的に増大させることにより、加齢による内因性DHEA−Sの経年減少を阻止し、あるいは増加させる。
【解決手段】被験者より採取したリンパ球を固相化した抗CD3抗体及びインターロイキン2を含む培養液中で培養を行うことにより増殖活性化させた自己由来リンパ球を主成分とした内因性DHEA−Sを増加するための製剤とする。これにより内因性のDHEA、とくにDHEA−Sの血中濃度レベル量を積極的に増加させて明らかなアンチエイジング効果を発揮させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の体内に有する内因性DHEA−Sを積極的に増加させることにより、加齢による内因性DHEA−Sの経年減少を阻止し、あるいは増加させてアンチエイジング効果を発揮し、また被験者のQOLを向上させることを目的とする。
【背景技術】
【0002】
内因性DHEA−S、すなわちデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(Dehydroepiandrosterone sulfate)は、DHEA−SやDHEAが外用投与されていないときに体内に存在するDHEA−Sのことである。男性・女性ホルモン合成の中間代謝産物であり、同じく中間代謝産物であるデヒドロエピアンドロステロン(Dehydroepiandrosterone;DHEA)の硫酸抱合体である。DHEA−Sは副腎で産生されるステロイドホルモンの中では血中に最も多く存在し、しかもDHEAの血中における濃度レベルは短期的には早朝に最高値を示すが急速に低下する性質があるのに対し、DHEA−Sは血中濃度の半減期が長く長期的に安定した血中動態を示す。
【0003】
しかし、DHEA−Sの男性ホルモンとしての活性はテストステロンの1/5程度であり、その生理学的な意義や役割には不明な部分が多い。これまで外来性DHEAをラットに投与して乳癌、糖尿病、肥満、自己免疫性腎炎、ウイルス感染、化学発癌性大腸癌及び肺癌の発症を抑える試みがなされているが、ヒトに対する投与によってはその臨床的効果は全く認められなかった(New Engl J Med 2006,355:1347−1659、Aging Male 2003,6:151−156)ことより、現時点では治療目的での閉経後の女性に対するDHEAの投与は薦められていない(Menopause Int 2007;13:75−78)。
【0004】
内因性のDHEA−Sでは、上記した乳癌、糖尿病、肥満、自己免疫性腎炎、ウイルス感染、化学発癌性大腸癌及び肺癌の発症抑制といった病気の治療に対する臨床的な効果はあまりないものの、乳癌や前立腺癌、甲状腺癌におけるリスクの相関は認められていない。一方でDHEA−Sは、その分泌が20歳前後で高値を示した後、加齢とともに次第に低下するため、老化の程度を示す一つの客観的指標とされている(日本老年医学会誌1994,31:85−95)。
【0005】
また内因性DHEA−Sに関しては、その血中レベルが長生きに寄与する可能性が指摘されている(Science 2002,297:811)ところから、体内に有する内因性のDHEA−Sの暫減を阻止することができるならば、アンチエイジング効果の向上が大きく期待されるところである。このような複雑な状況の下において最近、老化防止を目的としたDHEAに関する種々の研究がおこなわれている。たとえば内因性DHEAの作用を高める方法(特開2007−77093号公報参照)が知られている。
【0006】
またDHEA投与による副作用を改善して免疫系の防御調節を増進させるべくDHEAの代謝産物を投与する方法(特開2002−322065号公報参照)が試みられつつある。これらはDHEAが作用する細胞、酵素ないしは器官の感受性を高める物質であったり、あるいはDHEAと結合して効果を高めるものであったり、またDHEAを安定化させる物質であるものなどであるが、それらはいずれも内在性DHEA自体の活性を増強するだけであるところから、アンチエイジング効果の点においてはそれほど大きな期待がもてない。
【0007】
さらに薬剤等により内因性DHEA−Sの血中レベルを上昇させる方法としては、例えば鬱金と蛇胆と田七人参を原料として顆粒状にした若返り効果のあるとされる漢方系食品の摂食による方法(特開2005−204504号公報参照)などが知られている。
【特許文献1】特開2007−77093号公報号公報
【特許文献2】特開2002−322065号公報号公報
【特許文献3】特開2005−204504号公報号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1および2のものにおいては、内在性DHEAが作用する細胞や酵素ないしは器官の感受性を高め、あるいはDHEAと結合して効果を高め、もしくはDHEAを安定化させるなど活性を増強するだけであり、また引用文献3の漢方系食品の摂食による内因性DHEA−Sの血中レベルを上昇させる方法をも含めて現実にはそれほど大きな内因性DHEA−Sの血中レベル上昇が見込めるわけではない。
【0009】
とくに特許文献3に開示された方法は、漢方成分を主原料とする食品に関するものであり、この食品を摂食することによるDHEA−Sの上昇について言及しているが、活性化リンパ球を投与することによりDHEA−Sを上昇させたものではなかった。また、DHEA−Sはステロイドホルモンであることより、外来因子による増量には副作用の面で問題があり、自己由来成分を使用することは、安全性の観点から非常な安心をもたらすものであることに鑑みると、内因性DHEA−Sの濃度レベルを上昇させることが最も安全でしかも確実であるといえる。
【0010】
上記したように、内因性のDHEA−Sの血中レベルを上昇させることは十分に意味のあることと考えられる。しかし、2年間隔で測定した血中DHEA−S測定値間の相関係数が0.80(P<0.01)であり、12年間隔では0.63(P<0.01)と、血中のDHEA−Sレベルの変動が少ないことより(Arch Intern Med 2000,160:2193−2198)、内因性のDHEA−Sレベルを変化させることは極めて困難であることが予想される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明においては、単に内在性DHEA又はDHEA−Sの活性を高め、また安定化させるのではなしに、内因性DHEA−Sのとくに血中レベル量を積極的に増加させることにより明らかなアンチエイジング効果を発揮させることができるようにしたものである。
【0012】
具体的には、被験者より採取したリンパ球を固相化した抗CD3抗体及びインターロイキン2を含む培養液中で培養を行うことにより増殖活性化させた自己由来リンパ球を主成分とした内因性DHEA−Sを増加させるための製剤に関する。また本発明は、被験者よりリンパ球を採取する工程と、採取したリンパ球を固相化した抗CD3抗体及びインターロイキン2を含む培養液中で培養を行うことにより増殖活性化させる工程と、培養増殖活性化させた自己由来リンパ球を製剤化する工程とからなる自己由来リンパ球を主成分とした内因性DHEA−Sを増加させる製剤の製造方法に関する。
【0013】
さらに本発明は、被験者よりリンパ球を採取する工程と、採取したリンパ球を固相化した抗CD3抗体及びインターロイキン2を含む培養液中で培養を行うことにより増殖活性化させる工程と、増殖活性化させた自己由来リンパ球を主成分とした製剤を得る工程と、該製剤を被験者の体液中に投与することにより被験者の内因性DHEA−Sを増加するための方法にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、被験者の体液中よりリンパ球を採取し、これを固相化した抗CD3抗体及びインターロイキン2を含む培養液中で培養増殖活性化することにより自己由来リンパ球を主成分とした内因性DHEA−Sを増加させるための製剤とし、また該内因性DHEA−Sを増加させるための製剤を被験者の体液中に繰り返し投与することにより、被験者の内因性DHEA−Sを着実かつ積極的に増加させることができ、その結果被験者自らの免疫状態の維持・増進を図るとともに体感する体調レベルを向上させ、加齢による被験者の体内に有する内因性DHEA−Sの経年減少を阻止し、あるいは増加させてアンチエイジング効果を発揮し、また被験者のQOLを向上させることができる。
【0015】
さらに本発明において用いられる活性化リンパ球は、凍結保存が可能であり、また必要に応じてこれを融解・復元し、復元後或いは細胞の増殖活性化操作後の細胞を格別の操作を必要とすることなく直ちにDHEA−Sを上昇もしくは減少を阻止するために用いることができる。
【0016】
また本発明の活性化リンパ球より、特定のサブタイプの細胞のみを除去し、あるいは選別し、これらをDHEA−S濃度レベルの上昇用製剤として用いることもできる。このように本発明の血中内因性DHEA−Sを上昇させる製剤、その製造方法、ならびに血中内因性DHEA−Sを上昇させる方法によって、動物において血中内因性DHEA−Sレベルの上昇を可能とするものであり、アンチエージング効果を得ることをも可能とするものである。
【0017】
さらに本発明の増殖された自己由来活性化リンパ球を主成分とした内因性DHEA−Sを増加させるための製剤、および該製剤のアンチエージング目的での投与については、必ずしも健常者に限られるものではなく、手術もしくは放射線治療、又は抗癌剤投与等の治療後やそれらの寛解後の患者にも投与してアンチエージング効果を期待することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下において本発明の具体的な内容を説明すると、本発明は、被験者の体液中よりリンパ球を採取し、これを固相化した抗CD3抗体及びインターロイキン2を含む培養液中で培養増殖活性化することにより自己由来リンパ球を主成分とした内因性DHEA−Sのとくに血中濃度レベルを増加させる製剤とし、また該内因性DHEA−Sを増加させるための製剤を被験者の体液、とくに血液中に繰り返し投与することにより、被験者の内因性DHEA−Sを着実かつ積極的に体液、とくに血中レベルの増大をはかることができ、その結果加齢による被験者の体内に有する内因性DHEA−Sの経年減少を阻止し、あるいは増加させてアンチエイジング効果を発揮し、また被験者のQOLを向上させることができるものである。
【0019】
〔リンパ球の分離〕
リンパ球細胞は、被験者の末梢血から分離して採取する。末梢血からの採取方法としては、静脈からの採取が望ましく、また一回に採血する量としては、1〜500ml程度であり、特にその量に限定されない。しかしながら少量の血液の場合、被採血者の負担を最小限にとどめることができる。そのため、5〜100ml程度が好ましく、より好ましくは10〜50mlの採血量で行うことができる。一回の採血により数回分の投与に使用できる細胞が調整できるが、投与回数あるいは投与間隔に応じて適宜採血を行ない、細胞を調整することができる。なおリンパ球の採取については、必ずしも末梢血に限られるものではなく、髄液や唾液、尿その他の体液からも採取が可能である。
【0020】
なおこの場合に、血液が凝固しないように、採血した血液にヘパリンやクエン酸を加えることができるが、本方法に限定されない。また上記した血液からのリンパ球細胞の分離は、ショ糖や市販のリンパ球分離液等を用いる不連続密度勾配遠心法などの周知のリンパ球細胞の分離法によっても操作して取得できる。また、末梢血からのリンパ球の分離は、本実施例においては、密度遠心分離によりおこなっている。この場合の密度遠心分離としては、フィコールハイパック、モノポリレゾルーション等が使用できる。しかしながら、本方法に限定されるものではない。
【0021】
〔リンパ球の増殖・活性化〕
被験者から採取したリンパ球細胞の増殖は、インターロイキン2と抗CD3抗体を組み合わせ存在させ、培養することにより実施することができる。この場合例えばインターロイキン2を含む培養用培地液にリンパ球細胞を浮遊させ、抗CD3抗体を固相化した培養容器に入れて培養を開始することができる。さらに必要に応じて各種のマイトージェン増殖因子、活性化因子を使用して細胞の増殖・活性化を行なうことも可能である。
【0022】
抗CD3抗体としては、リンパ球細胞の増殖・活性化を促進できる抗体であれば、特に、限定されるものではない。リンパ球細胞に用いる抗CD3抗体は、精製したCD3分子を用いて動物または細胞に産生させることもできるが、安定性、コスト等に優れた市販のOKT−3抗体(製造元:オーソファーマスーティカル)を使用できる。
【0023】
抗CD3抗体は、リンパ球細胞の増殖の効率、操作性の観点から、固相化して用いることが好ましい。抗体を固相化するための器具としては、ガラス、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリスチレン等の材質の培養容器が挙げられる。入手が容易であることから、市販のプラスチック製の滅菌済み細胞培養用フラスコ等を使用することもでき、その大きさは適宜選択できる。固相化は、抗CD3抗体の希釈液を固相化する器具に添加し、例えば、4℃〜37℃の温度雰囲気で2〜24時間、静置することによって行なうことができる。
【0024】
この抗CD3抗体の固相化には、抗CD3抗体を滅菌したダルベッコリン酸緩衝液等の生理的な緩衝液中に1〜30μg/mlの濃度に希釈して用いることが好ましい。固相化した容器は固相化後、使用時まで低温室や冷蔵庫(4℃)で保存することができる。使用時に液を除去して、また必要であれば常温のダルベッコリン酸緩衝液等の生理的な緩衝液で洗浄できる。
【0025】
また、本発明では培養用培地液中にインターロイキン2を用いることが、増殖の効率の観点から好ましい。インターロイキン2は、市販されているものを用いることができ、培養用培地液1〜2000U/mlの濃度となるように用いるのが好ましい。インターロイキン2は、水、生理食塩液、ダルベッコリン酸緩衝液、RPMI−1640、DMEM、IMDM、AIM−V等の一般に広く用いられる細胞培養用培地液等に溶解して使用することができる。なお一度溶解したものは、活性の低下を防ぐため、冷蔵保存することが好ましい。
【0026】
この場合に使用される培養用培地液としては、リンパ球細胞の培養に適したものであれば特に制限されず、血清等の生物由来の培養液、平衡塩類溶液にアミノ酸、ビタミン、核酸塩基などを加えた合成培地などが使用でき、RPMI−1640、AIM−V、DMEM、IMDM等が好ましいものとして挙げられ、なかでもRPMI−1640が特に好ましいものとして挙げられる。培養用培地は、正常ヒト血清を添加したものが増殖効果に優れ好ましい。またこれらの培地は市販品を用いることができる。
【0027】
培養については、一般的な細胞培養の方法に従うことができる。例えば、COインキュベーター内で行なうことができる。CO濃度は1〜10%、特に5%程度が好ましく、また温度については30〜40℃、特に37℃前後の温度が好ましい。さらにここで活性化培養されたリンパ球は、凍結保存することができる。凍結保存温度は、−80℃のフリーザー中でもよく、また液体窒素に保存することもできる。凍結保存した活性化リンパ球は、必要に応じて随時解凍し、これに洗浄を施すのみでこれを投与することができる。
【0028】
〔活性化リンパ球の投与〕
活性化リンパ球の投与については、増殖活性化前のリンパ球を採取した被験者本人に対して投与する。投与の方法は被験者の末梢血管からの輸注が簡便であるが、必ずしもこれに限られるものではない。
【0029】
被験者に対する活性化リンパ球の投与については、その投与頻度が高ければ高いほど、より多くの効果が望めるが、一般的には数日から数ヶ月に一回程度の頻度で実施するものとし、また、投与回数については1回から1000回程の投与を行なう可能性もある。しかし通常1回の投与だけによる効果は比較的薄いので、投与回数が多ければ多いほど好ましいといえる。
【0030】
この場合における投与頻度、期間、投与数については、被験者の状態如何に応じて適宜選択的に決定し、また状況如何によっても変更することができる。また、採血および投与の際には問診を実施する。なおこの場合に、被験者が外科手術前またはその後であり、あるいは感染症や癌患者である場合などにおいては完全寛解後であるのが望ましい。
【0031】
〔DHEA−Sの測定〕
DHEA−Sについては、リンパ球を分離するために末梢血を採取した際に、その一部をDHEA−S測定用に取り置いて測定する。本発明実施例では体液として末梢血のDHEA−Sを測定しているが、体液としては尿でも唾液でもよく、DHEA−Sを測定することができる。また、体液として尿や唾液を用いる場合には、リンパ球分離のための採血とは独立に、DHEA−Sの測定を必要としたときにいつでも検体採取をおこなうことができる。
【0032】
DHEA−Sの測定法としては、一般的なRIA法を採用することができるが、EIA法によってもCLEIA法によっても測定可能である。一般的には被験者が健常者であることを前提とした場合に、活性化リンパ球の投与によって内因性DHEA−S濃度レベルが積極的に上昇し、もしくは低下しなかったことより、健常者においてもDHEA−Sは男性・女性ホルモン等の前駆体であることよりかかる効果を有することが示唆されアンチエージング効果が得られると考える。
【0033】
また被験者が癌患者である場合、あるいはあった場合においては、完全寛解した癌患者において活性化リンパ球がその血中DHEA−Sの濃度を上昇させ得ることで、DHEA−Sは男性・女性ホルモン等の前駆体であることよりアンチエージング効果が得られるものと考える。
【実施例1】
【0034】
(1)〔リンパ球の分離〕
被験者の静脈からヘパリンを加えて末梢血20〜50mlを採血した。クリーンベンチ(昭和科学株式会社製:S−1100)内で無菌的に採血した注射筒の注射針を、接合部近くを触らないようにはずし19G×1 1/2″注射針(発売元:株式会社ニプロ)に付け替えた。50ml遠沈管(岩城硝子株式会社製:2341−050)2本に、洗浄用培地(RPMI1640+6)(500ml、株式会社日研生物医学研究所製:GM1106)を15mlずつ注ぎ込み、その遠沈管に、採血した血液を培養液で3倍に希釈後、その全てを2本とも等量になるようにゆっくりと注いだ。
【0035】
遠沈管の蓋を完全に閉めた後、2〜3回転倒混和した。10mlピペット(輸入発売元:コーニングコースタージャパン:4105)でリンホセパールl(100ml、株式会社免疫生物研究所製:23010)を15ml遠沈管(岩城硝子株式会社製:2327−015)6本に各3mlずつ入れ、次に培地で希釈した血液10mlをそれぞれの遠沈管に、液面を乱さないようにゆっくり重層した。回転数1,800rpm、遠心分離温度20℃、ブレーキOFFの状態で15分間遠心した(遠心機:株式会社コクサン製:H−700R)。
【0036】
遠心後、吸引機により無菌的に遠沈管内のリンパ球層の約1cm上までリンパ球細胞を吸い取らないように上層液をゆっくり吸い取った。5mlピペットマンで血餅の層を吸い取らないようにリンパ球細胞の層を取り、これをあらかじめ、洗浄用培地(RPMI1640+6)(500ml、株式会社日研生物医学研究所製:GM1106)25mlを入れておいた50ml遠沈管内に回収した。遠沈管の蓋を閉め2〜3回転倒混和した後、回転数1800rpm、遠心分離温度20℃の状態で10分間遠心した。上清みを捨て、細胞沈渣をボルテックスにかけて良くほぐした。
【0037】
遠沈管中に培地(RPMI1640+6)44mlに35,000U/ml IL−2(カイロン社製)1mlと、ヒト血清5mlを含む培養用培地(以下、単に「培養用培地」と略す)と合わせて50mlを注入して転倒混和し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液10μlをチューブ(輸入発売元:アシスト株式会社:72.690)にとり、これを40μlのチュルク液(武藤化学薬品社製)と混和し、血球計算板(エルマー社製:9731)に10μlをのせ、顕微鏡下で細胞数を計数した結果、その細胞数は1.0×10〜7.0×10個だった。
【0038】
(2)〔OKT3固相化フラスコの調製〕
PBS(−)で5μg/mlに調製しておいたOKT3(輪入発売元:ヤンセン協和株式会社、製造元:オーソファーマスーティカル:OKT3注)溶液を、底面積が225cmの培養用フラスコ(住友ベークライト株式会社製:MS−2080R)に10ml入れ、底面を溶液で均一に浸した。翌日、フラスコのOKT3溶液を吸引機で吸い取り、PBS(−)50mlをフラスコに注ぎ込みフラスコの蓋を閉めて激しく振った後、蓋を開けて液を捨てた。
【0039】
再度、無菌的にPBS(−)50mlをフラスコに注ぎ込みフラスコの蓋を閉めて激しく振った後、蓋を開け、液を捨てた。フラスコ内と蓋に残っている液を吸引機で丁寧に吸い取り,OKT3固相化フラスコの調製を行った。
【0040】
(3)〔リンパ球の活性化培養〕
前記(1)において調製した細胞懸濁液50mlを(2)において調製したOKT3固相化フラスコに分注し、37℃、5%濃度の炭酸ガス存在下において培養を行なった。3日後、培養用培地50mlを加え、37℃、5%濃度の炭酸ガス存在下において培養を行なった。さらに4日後、培養用培地150mlを加え、37℃、5%濃度炭酸ガス存在下において培養を行なった。さらに2日間、37℃、5%濃度炭酸ガス存在下において培養を行なうことにより活性化リンパ球2.0×10〜7.0×10個を得た。
【0041】
(4)〔リンパ球の増大培養〕
上記(3)で調製したリンパ球をCP−4(日研生物医学研究所)、KBM520B(コージンバイオ)あるいはAIM−V750mlを含むガス透過性培養バッグに移し、炭酸ガスインキュベーター(CDP−300A:ヒラサワ社)中で37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で培養をおこなった。2日後、細胞を含むガス透過性バッグ(A−1000)と新たな培地を含むガス透過性培養バッグを無菌接合装置(テルモ社製)により連結し、両ガス透過性培養バッグ中の培地を良く混合した後、再度その結合を切除し、接合部分を無菌的にシールした後、37℃、5%炭酸ガス下で培養をおこなった。
【0042】
さらに2日後、同様にして培養中のガス透過性培養バッグ2バッグと、新たな培地を含むガス透過性培養バッグ2バッグを用いて均一に細胞を分散させた培地を含む4つのガス透過性バッグを作成して培養をおこなった。さらに2日後、細胞を含む4つのガス透過性バッグと新たなガス透過性バッグとを用いて均一に細胞を分散させた培地を含む6つのガス透過性バッグを作成して培養をおこなった。
【0043】
(5)〔投与用製剤の調製〕
その2日後に、上記のうち3〜6バッグのガス透過性バッグの中の細胞を含む培地を250ml遠心管(コーニング社製)に移し、遠心により細胞の分離をおこなった。デカンテーションにより培養液を除去し、細胞ペレットに生理食塩水を加え、細胞を再懸濁し、遠心分離により細胞の洗浄操作をおこなった。さらに再度同様の洗浄操作をおこなうとともに、上記生理食塩水に代えて0.1%のヒトアルブミンを含む生理食塩水により洗浄操作をおこなって細胞ペレットを調整した。
【0044】
さらに上記細胞ペレットに2%のヒトアルブミンを含む生理食塩水200mlを加えて懸濁し、これを100μmのセルストレーナーにてろ過後、輸血用のバッグに詰めて投与用製剤とした。なおこの場合の輸血用バッグに含まれる細胞数は、6〜20×10個であった。
【0045】
(6)〔投与用製剤の投与〕
上記(5)で調製した投与用製剤を、(1)で採血を行なった被験者に対して静脈より注入投与した。被験者の健康状態を観察しながら、適宜活性化リンパ球を調製して適当と思われる時期に繰り返し投与した。
【0046】
(7)〔DHEA−S量の測定〕
上記(1)において採血した血液より一部を取りおいてDHEA−S測定用サンプルとした。血液中のDHEA−S量は、検査機関に依頼してこれを測定した。
【実施例2】
【0047】
被験者として胃がんの患者で治療を受けて完全寛解したヒトより採血し末梢血50mlを得た。本末梢血を上記実施例1の手続(1)および(2)に基づいて処理をし、リンパ球を得た。次に上記実施例1の手続(3)および(4)にしたがってリンパ球を増殖活性化した。増殖活性化したリンパ球は上記実施例1の(5)にしたがって投与用製剤とし、さらに本投与用製剤を完全寛解した被験者に投与した。なおこのとき上記のごとく採取した末梢血の一部を取りおいてDHEA−S測定用のサンプルとした。また、2回目以降の投与の場合は、リンパ球投与前に採血を行いDHEA−Sの測定を行った。
【0048】
DHEA−Sを定量したところ、その結果は以下の通りであった。
【表1】

上記表1のごとく、血中DHEA−S濃度は、投与開始と共に経時的に上昇した。
【実施例3】
【0049】
被験者として健常人(70才男性)より採血して末梢血50mlを得た。本末梢血を上記実施例1の手続(1)および(2)に基づいて処理をし、リンパ球を得た。次に上記実施例1の手続(3)および(4)にしたがってリンパ球を増殖活性化した。増殖活性化したリンパ球は上記実施例1の(5)にしたがって投与用製剤とし、さらに本投与用製剤を採血した被験者本人に投与した。なおこのとき上記(7)のごとく採取した末梢血の一部を取りおいてDHEA−S測定用のサンプルとした。
【0050】
DHEA−Sを定量したところ、その結果は以下の通りであった。
【表2】

【0051】
上記した表2のごとく、血中DHEA−S濃度は投与開始と共に上昇したことより、繰り返し投与によりDHEA−S濃度が上昇することが確信できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者より採取したリンパ球を固相化した抗CD3抗体及びインターロイキン2を含む培養液中で培養を行うことにより増殖活性化させた自己由来リンパ球を主成分とした内因性DHEA−Sを増加させるための製剤。
【請求項2】
被験者よりリンパ球を採取する工程と、採取したリンパ球を固相化した抗CD3抗体及びインターロイキン2を含む培養液中で培養を行うことにより増殖活性化させる工程と、培養増殖活性化させたリンパ球を製剤化する工程とからなる自己由来リンパ球を主成分とした内因性DHEA−Sを増加させるための製剤の製造方法。
【請求項3】
被験者よりリンパ球を採取する工程と、採取したリンパ球を固相化した抗CD3抗体及びインターロイキン2を含む培養液中で培養を行うことにより増殖活性化させる工程と、増殖活性化させた自己由来リンパ球を主成分とした製剤を得る工程と、該製剤を被験者の体液中に投与するようにした内因性DHEA−Sを増加させるための方法。

【公開番号】特開2010−77106(P2010−77106A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273586(P2008−273586)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(501005092)株式会社リンフォテック (7)
【Fターム(参考)】