説明

内径溝加工方法及び溝切り工具

【課題】周壁部の内周面に突条部が円周方向に等間隔で形成された内周面に複数の内径溝を溝入れ加工する際に切粉が内径溝に嵌り込むのを防止する。
【解決手段】溝切り工具1が、第1及び第2スナップリング溝105、106の溝幅Wと一致する幅寸法の前部切刃13を有する切刃部12及び前部切刃13より小幅の切粉排除部22を有する掃除用ダミーチップ20を備え、切粉排除部材22が被加工部材であるクラッチドラム100Aに非接触状態を維持した状態で切刃部12により第1スナップリング溝105を溝入れ加工し、次に切粉排除部22が溝入れ加工済みの第1スナップリング溝105に非接触状態で第1スナップリング溝105内に進入しつつ切刃部12により第2スナップリング溝106を溝入れ加工する。加工された第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106に切粉が残存することがなくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内径溝加工方法及び溝切り工具に関し、特に円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が円周方向に形成された被加工部材の内周面に内径溝を溝入れ加工する内径溝加工方法及び溝切り工具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の自動変速機に使用されるクラッチドラム100は、図9に一部破断説明図を示すように円板状の底壁部101と、底壁部101の外周縁に形成された円筒状の周壁部102とからなり、この周壁部102の内周面に半径方向内向きに突出して周壁部102の軸方向に延びる複数の内歯スプライン103が円周方向に等間隔で形成される。この内歯スプライン103は周壁部102内に収容される図示しないクラッチ板がクラッチドラム100に対して相対的に回転するのを防止するために形成されるものであり、クラッチ板の外周に内歯スプライン103の山部104が嵌入される複数の凹溝が形成されている。周壁部102の開口端部の内周面に第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106が円周方向に形成されて各スナップリング溝105及び106にそれぞれ図示しない環状のスナップリングが装着される。
【0003】
このように構成されるクラッチドラム100の成形は、例えば特許文献1に開示されるように、外周に内歯スプライン成形部を有する円柱状の第1型と、第2型とにより板状部材を挟持して回転させながら、板状部材にフォーミングローラを押し当てて図10に示すように周壁部102の内周に内歯スプライン103を有するクラッチドラム本体100Aを成形する。
【0004】
そして、旋盤等によってクラッチドラム本体100Aの内周面に同じ溝幅の第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106を順次溝入れ加工して図9に示すクラッチドラム100を成形する。
【0005】
この各スナップリング溝、105、106を溝切り工具によって溝入れ加工する際に、図11に示すように各スナップリング溝105、106の溝幅Wと幅寸法が一致した前部切刃111aを有する溝切り工具111によって各内歯スプライン103の山部104を断続的に切削することから、前部切刃111aによって削り出された切粉109は、前部切刃111aの直後のすくい面111b上をカールしながら矩形状に分断され、図12に斜視図を示すように第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106の溝幅Wと同等の幅を有して湾曲する矩形板状の切粉形状となる。
【0006】
このため、先に加工されたスナップリング溝105或いは106に、後から溝入れ加工する際に発生して飛散する切粉109が嵌り込むことがある。例えば、第1スナップリング溝105を溝入れ加工した後に、第2スナップリング溝106を溝入れ加工する場合には、先の第1スナップリング溝105を溝切り工具 111によって溝入れ加工する際には、各内歯スプライン103の山部104を断続的に切削して発生する切粉109が仮に溝入れ加工中の第1スナップリング溝105に入り込むことがあっても、溝切り工具111の前部切刃111aによって掻き出されて排出され、第1スナップリング溝106内に切粉109が残存することはない。
【0007】
一方、第1スナップリング溝105の溝入れ加工後に第2スナップリング溝106を溝切り工具111により溝入れ加工する際には、各内歯スプライン103の山部104の切削に伴って発生した切粉109が飛散し、既に加工された第1スナップリング溝105に嵌り込むことがある。
【0008】
この第1スナップリング溝105に嵌り込む切粉109は第1スナップリング溝105の溝幅Wと同じ幅を有する矩形板状であり、第1スナップリング溝105に嵌合して保持される。
【0009】
同様に第2スナップリング溝106を先に加工して第1スナップリング溝105を溝入れチップ111により溝入れ加工すると、第1スナップリング溝105の溝入れ加工の際に発生した切粉109が第2スナップリング溝106に嵌り込むことが懸念される。
【0010】
この第1スナップリング溝105や第2スナップリング溝106等に嵌入した切粉109が残存すると、クラッチ及びクラッチを使用する自動変速機の品質上の不具合を誘発する要因となることから切粉109を完全に除去する必要があり、第1、第2のスナップリング溝105、106の加工後に個々のクラッチドラム100を目視チェックし、各スナップリング溝105、106に嵌り込んだ切粉109を工具等により取り除く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−103563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記クラッチドラム100の第1スナップリング溝105や第2スナックリング溝106に嵌入した切粉109は、第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106の溝幅Wと一致乃至ほぼ一致した幅寸法を有することから、比較的強固に第1スナップリング溝105や第2スナップリング溝106に嵌り込まれた状態となり、その切粉109の目視によるチェック及び除去作業は極めて厄介でかつ作業者に負担を掛ける。また、第1スナップリング溝105や第2スナップリング溝106に嵌り込んだ切粉109の除去に使用する際に工具等によって第1スナップリング溝105や第2スナップリング溝106及び内歯スプライン103等に不用意に損傷を与えることが懸念される。
【0013】
同様の不具合は、クラッチドラムに限らず、同様に円筒状の周壁部の内周面に半径方向内向きに突出して軸方向に延びる複数の内歯スプライン状の突条部が円周方向に形成された被加工部材の内周面に環状の複数の内径溝を溝入れ加工する際にも懸念される。
【0014】
従って、かかる点に鑑みなされた本発明の目的は、円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が円周方向に形成された部材の内周面に内径溝を溝入れ加工する際に切粉が内径溝に嵌り込むのを未然に防止し得る内径溝加工方法及び溝切り加工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の内径溝加工方法の発明は、円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する複数の突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に溝切り工具で切削して第1内径溝及び第2内径溝を溝入れ加工する内径溝加工方法において、前記溝切り工具は前記第1及び第2内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃を有する溝入れ部材及び該前部切刃より小幅の切粉排除部を有する切粉排除部材を備え、前記溝入れ部材の前部切刃によって前記切粉排除部材が被加工部材に非接触状態を維持した状態で第1内径溝を溝入れ加工し、次に前記切粉排除部は溝入れ加工済みの前記第1内径溝に進入しつつ前記溝入れ部材の前部切刃により第2内径溝入れ加工することを特徴とする。
【0016】
これによると、第1及び第2内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃を有する切刃部及び前部切刃より小幅の切粉排除部を有する切粉排除部材を備えた溝切り工具により、切粉排除部材が被加工部材に非接触状態を維持した状態で切刃部により第1内径溝を溝入れ加工し、次に切粉排除部が溝入れ加工済みの第1内径溝内に進入しつつ切刃部により第2内径溝を溝入れ加工することから、切刃部による第1内径溝の溝入れ加工にあたっては切粉排除部材は被加工部材に非接触状態が維持されて切刃部による第1内径溝の溝入れ加工に影響を与えることがなく、更に切刃部による第2内径溝の溝入れ加工の際は、第2内径溝の溝入れに伴って飛散して溝入れ加工済みの第1内径溝内に進入した切粉は第1内径溝に進入する切粉排除部によって除去される。これにより成形された第1内径溝及び第2内径溝等に切粉が残存することがなく、厄介な第1内径溝や第2内径溝に嵌り込まれた切粉の目視によるチェックや切粉の除去作業が省略或いは除去作業が極めて軽減されて作業者の作業負担が大幅に軽減されると共に、生産性の向上が得られる。
【0017】
請求項2に記載の溝切り工具の発明は、円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する複数の突条部が円周方向に等間隔で形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して第1内径溝及び第2内径溝を溝入れ加工する溝切り工具において、前記第1及び第2内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃を有する溝入れ部材及び該前部切刃より小幅の切粉排除部を有する切粉排除部材を備え、前記切粉排除部材が被加工部材に非接触状態を維持した状態で前記溝入れ部材により前記第1内径溝を溝入れ加工し、かつ前記切粉排除部は溝入れ加工済みの前記第1内径溝に進入しつつ前記溝入れ部材により第2内径溝を溝入れ加工することを特徴とする。
【0018】
これによると、溝切り工具が、第1及び第2内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃を有する切刃部及び前部切刃より小幅の切粉排除部を有する切粉排除部材を備え、切粉排除部材が被加工部材に非接触状態を維持した状態で切刃部により第1内径溝を溝入れ加工し、かつ切粉排除部が溝入れ加工済みの第1内径溝に進入しつつ切刃部により第2内径溝を溝入れ加工することで、成形された第1内径溝及び第2内径溝等に切粉が残存することがなくなる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の溝切り工具において、先端にチップ取付部が形成されたホルダを備え、該チップ取付部に前記前部切刃を有する溝入れ部材が固定され、前記第1内径溝と第2内径溝の各幅方向の中央間の離間距離と一致する前記前部切刃の幅方向中央から切粉排除部の幅方向中央までの距離を有して前記切粉排除部材が前記チップ取付部に固定されたことを特徴とする。
【0020】
これによると、ホルダの先端に形成されたチップ取付部に前部切刃を有する切刃部を備えた溝入れチップを固定し、第1内径溝と第2内径溝の各幅方向の中央間の離間距離と一致する前部切刃の幅方向中央から切粉排除部の幅方向中央までの距離を有して切粉排除部材がチップ取付部に固定する簡単な構成で溝切り加工具が構成される。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の溝切り工具において、前記溝入れ部材は、前記チップ取付部に固定される固定部と、該固定部に延設された前記前部切刃を有する切刃部を備えた溝入れチップであり、前記切粉排除部材は、前記チップ取付部に固定される固定部と、該固定部に延設された前記切粉排除部を備えた掃除用ダミーチップであることを特徴とする。
【0022】
これによると、溝入れ部材がホルダのチップ取付部に固定される固定部及び固定部に延設された前部切刃を有する切刃部を備えた溝入れチップによって構成され、切粉排除部材がチップ取付部に固定される固定部及び固定部に延設された切粉排除部を備えた掃除用ダミーチップによって構成できる。
【0023】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載の溝切り工具において、前記溝入れ部材は、前記チップ取付部に固定される固定部と、該固定部に延設された前記前部切刃を有する切刃部を備えた溝入れチップであり、前記切粉排除部材は、前記チップ取付部に固定される基部及び前記切粉排除部を備えたピンであることを特徴とする。
【0024】
これによると、溝入れ部材がホルダのチップ取付部に固定される固定部及び固定部に延設された前部切刃を有する切刃部を備えた溝入れチップによって構成され、切粉排除部材がチップ取付部に固定された基部及び切粉排除部を備えたピンにより簡単に構成できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、溝切り工具が、第1及び第2内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃を有する切刃部及び前部切刃より小幅の切粉排除部を有する切粉排除部材を備え、切粉排除部材が被加工部材に非接触状態を維持した状態で切刃部により第1内径溝を溝入れ加工し、かつ切粉排除部材が溝入れ加工済みの第1内径溝に進入しつつ切刃部により第2内径溝を溝入れ加工することで成形された第1内径溝及び第2内径溝等に切粉が残存することがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施の形態にかかる溝切り工具の説明図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】溝入れチップの斜視図である。
【図4】掃除用ダミーチップの斜視図である。
【図5】第1スナップリング溝及び第2スナップリング溝加工の説明図である。
【図6】第2実施の形態にかかる溝切り工具の説明図である。
【図7】第1スナップリング溝及び第2スナップリング溝加工の説明図である。
【図8】溝切り工具の説明図である。
【図9】クラッチドラムの一部破断説明図である。
【図10】クラッチドラム本体の一部破断説明図である。
【図11】従来の溝入れ加工の説明図である。
【図12】従来の切粉の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明による内径溝加工方法及び溝切り加工具の実施の形態をクラッチドラムのスナップリング溝を溝切り加工する場合を例に説明する。
【0028】
(第1実施の形態)
図1乃至図5及び図9及び図10を参照して第1実施の形態を説明する。図9はクラッチドラム100の斜視図であり、図10は内径溝となるスナップリング溝を溝切り加工する前の被加工部材であるクラッチドラム本体100Aの斜視図である。
【0029】
図10に示す被加工部材となるクラッチドラム本体100Aは、円板状の底壁部101と、この底壁部101の外周縁に形成された円筒状の周壁部102とからなり、この周壁部102の内周面に半径方向内向きに突出して周壁部102の軸方向に延びる突条部となる複数の内歯スプライン103が円周方向に等間隔で形成される。
【0030】
このクラッチドラム本体100Aの周壁部102の開口端部の内周面に内径溝となる溝幅Wの第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106を溝入れ加工することで、図9に示すようなクラッチドラム100が形成される。
【0031】
図1乃至図4は、クラッチドラム本体100Aに第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106を溝入れ加工する溝切り工具の説明図である。この溝切り工具1は、図1に全体を示し図2に図1のA部拡大を示すように棒状のホルダ2の先端に形成されるチップ取付部3に溝入れ部材となる溝入れチップ10及び切粉排除部材となる掃除用ダミーチップ20が取り付けられる。
【0032】
溝入れチップ10は、図3に斜視図を示すように、略三角形板状で固定部11とこの固定部11から突出する3つの切刃部12を有する。切刃部12は先端の前部切刃13の幅寸法が第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106の溝幅Wと一致し、前部切刃13の後方に緩やかに湾曲して連続形成されたすくい面14の両側に沿って側部切刃15が形成される。
【0033】
一方、掃除用ダミーチップ20は、略L字状板状で取付孔21aが形成された矩形板状の固定部21と、この固定部21から矩形板状に突出する一対の切粉排除部22を有する。切粉排除部22は幅が溝入れチップ10の前部切刃13の幅より小さく、即ち第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106の溝幅Wより小さく(W−α)設定され、先端23の後方に緩やかに湾曲するすくい面24が形成される。
【0034】
一方、ホルダ2の先端に形成されるチップ取付部3には、その先端にホルダ2の延在方向となる中心軸線Cと直交するチップ取付座4及びチップ取付座4と直交して中心軸線Cと平行な平面状のクランプ取付座5が形成される。溝入れチップ10は、その固定部11がチップ取付座4に当接しかつ切刃部12がチップ取付部3から突出した状態でチップ取付座4に位置決めされてクランプ取付座5にスクリュー7で固定されたクランプ駒6によって固定される。
【0035】
一方、掃除用ダミーチップ20は、クランプ駒6との間に隙間を介して固定部21がクランプ取付座5に重合すると共に切粉排除部22がチップ取付部3から突出した状態に位置決めされてクランプ取付座5にスクリュー8によって固定される。
【0036】
クランプ駒6と清掃用ダミーチップ20との間に隙間を有して清掃用ダミーチップ20をクランプ取付座5に取り付けることで、ホルダ2に清掃用ダミーチップ20を取り付けた状態で、クランプ駒6によって保持された溝入れチップ10を脱着することができる。また、溝入れチップ10をチップ取付部3に取り付けた状態で掃除用ダミーチップ20をチップ取付部3から脱着することができる。これにより溝入れチップ10及び掃除用ダミーチップ20のメンテナンス作業が容易になる。
【0037】
このようにチップ取付部3に取付けられた溝入れチップ10の切刃部12と清掃用ダミーチップ20の切粉排除部22は、それらの幅方向の中心間の距離Laが第2スナップリング溝106の幅方向中心と第1スナップリング溝105の幅方向中心との離間距離Lbに設定され(La=Lb)、ホルダ2の中心軸線Cから切刃部12の前部切刃13までの距離Lcに対して中心軸線Cから切粉排除部122の先端23間での距離Ldが若干小さく設定される(Lc>Ld)。即ち、前部切刃13が切粉排除部22の先端23に対して若干突出する。
【0038】
そして、旋盤等によって回転駆動される被加工物となるクラッチドラム本体100Aの内周面に溝入れチップ10により第1内径溝及び第2内径溝となる第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106を順次溝入れ加工して図9に示すクラッチドラム100を成形する。
【0039】
この第1スナップリング溝105を溝入れする加工は、図5(a)に示すようにクラッチドラム本体100Aの開口端部側からホルダ2を挿入して溝入れチップ10の切刃部12を第1スナップリング溝105が加工されるべき周壁部102の内周面の部位に対向する。この状態においては、清掃用ダミーチップ20の切粉排除部22はクラッチドラム本体100Aの開口端部より外側に位置している。
【0040】
次ぎに、ホルダ2を前進させて、溝入チップ10の切刃部12によって溝幅Wの第1スナップリング溝105を溝入れ加工する。この溝入れ加工は第1スナップリング105の溝幅Wに一致した幅寸法の前部切刃13を有する溝入れチップ10によって各内歯スプライン103の山部104を断続的に切削することから、前部切刃13によって削り出された切粉は第1スナップリング溝105と同じ幅Wで前部切刃13の直後のすくい面14上をカールしながら矩形板状に分断される。この前進する溝入れチップ10により第1スナップリング溝105の溝入れに伴って清掃用ダミーチップ20の切粉排除部22は図5(b)に示すようにクラッチドラム本体100Aの開口部より外側を前進移動することで切粉排除部22がクラッチドラム本体100Aに非接触状態が維持されて溝入れチップ10による第1スナップリング溝105の溝入れ加工に影響を与えることはない。
【0041】
溝入れチップ10の前進移動による第1スナップリング溝105の溝入れ加工が完了すると、溝入れチップ10を後退させて第1スナップリング溝105から抜き出し、図5(c)に示すように軸方向に移動してチップ10の切刃部12を第2スナップリング溝106が加工されるべき周壁部102の内周面の部位に対向する。この状態においては、清掃用ダミーチップ20の切粉排除部22は加工された第1スナップリング溝105に対向する。
【0042】
次ぎに、ホルダ2を前進させて溝入チップ10の切刃部12によって第2スナップリング溝106を溝入れ加工する。この溝入れ加工は第2スナップリング106の溝幅Wと幅寸法が一致した前部切刃13を有する溝入れチップ10によって各内歯スプライン103の山部104を断続的に切削することから、前部切刃13によって削り出された切粉は第1スナップリング溝105と同じ幅Wで前部切刃13の直後のすくい面14上をカールしながら矩形板状に分断される。一方、図5(d)に示すように前進する溝入れチップ10により第2スナップリング溝106の溝入れに伴って第1スナップリング溝105の溝幅Wより幅が小さく形成された切粉排除部22が第1スナップリング溝105の側面105aに接触することなく非接触状態で第1スナップリング溝105の底部105b近傍まで進入する。この第1スナップリング溝105の底部105bの近傍まで進入した切粉排除部22の先端23によって第2スナップリング溝106の溝入れ加工の際に発生及び飛散して第1スナップリング溝105内に進入した切粉が除去される。
【0043】
また、第2スナップリング溝106の溝入れ加工中において第2スナップリング溝106によって発生した切粉が第1スナップリング溝105に入り込むことがあっても、その切粉は切粉排除部22によって未然に排除される。
【0044】
これにより、成形されたクラッチドラム100の第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106等に切粉が残存することがなく、厄介な第1スナップリング溝105や第2スナップリング溝106に嵌り込まれた切粉の目視によるチェックや切粉の除去作業が省略或いは除去作業が極めて軽減されて作業者の作業負担が大幅に軽減されると共に、生産性の向上が得られる。また、切粉の除去に伴う工具等による第1スナップリング溝105や第2スナップリング溝106及び内歯スプライン103等の損傷がなく、製品品質の向上が得られる。
【0045】
(第2実施の形態)
第2実施の形態を図6乃至図8を参照して説明する。本実施の形態は、第1実施の形態における掃除用ダミーチップ20に変えてピン30により切粉排除部材を構成するものであって、他の構成は第1実施の形態と同様であり、対応する部分に同一符号を付することで該部の詳細な説明は省略する。
【0046】
図6はホルダ2の先端の概要を示し、棒状のホルダ2の先端に形成されるチップ取付部3に溝入れチップ10及びピン30が取り付けられる。溝入れチップ10は、第1実施の形態と同様に固定部11がチップ取付座4に当接しかつ切刃部12がチップ取付部3から突出した状態でチップ取付座4に位置決めされてクランプ取付座5にスクリュー7で固定されたクランプ駒6によって固定される。
【0047】
一方、ピン30は、円柱状に形成されてチップ取付部3に形成された取付穴3aに挿入される基部31と取付穴3aから突出する切粉排除部32を有する。切粉排除部32は溝入れチップ10の前部切刃13の幅より小径に形成される。即ち切粉排除部32は第1スナップリング溝105の溝幅Wより小径に設定される。
【0048】
このようにチップ取付部3に取付けられた溝入れチップ10の切刃部12とピン30の切粉排除部32は、それらの中心間の距離が第2スナップリング溝106の幅方向中心と第1スナップリング溝105の幅方向中心との離間距離に設定され、ホルダ2の中心軸線から切刃部12の前部切刃13までの距離に対して中心軸線から切粉排除部32の先端33間での距離が若干小さく設定される。
【0049】
そして、旋盤等によって回転駆動される被加工物となるクラッチドラム本体100Aの内周面に溝入れチップ10により第1内径溝及び第2内径溝となる第1スナップリング溝105及び第2スナップリング溝106を順次溝入れ加工して図9に示すクラッチドラム100を成形する。
【0050】
この第1スナップリング溝105の溝入れ加工は、図7(a)に示すようにクラッチドラム本体100Aの開口端部側からホルダ2を挿入して溝入れチップ10の切刃部12を第1スナップリング溝105が加工する周壁部102の内周面に対向する。この状態においては、ピン30の切粉排除部32はクラッチドラム本体100Aの開口端部より外側に位置している。
【0051】
次ぎに、ホルダ2を前進させて、溝入れチップ10の切刃部12によって第1スナップリング溝105を溝入れ加工する。前進する溝入れチップ10により第1スナップリング溝105の溝入れに伴ってピン30の切粉排除部32は図7(b)に示すようにクラッチドラム本体100Aの開口部より外側を前進移動することで切粉排除部32がクラッチドラム本体100Aに対して非接触状態が維持され溝入れチップ10による第1スナップリング溝105の溝入れ加工に影響を与えることはない。
【0052】
溝入れチップ10の前進移動による第1スナップリング溝105の溝入れ加工が完了すると、溝入れチップ10を後退させて第1スナップリング溝105から抜き出し、図7(c)に示すように軸方向に移動して溝入れチップ10の切刃部12を第2スナップリング溝106が加工されるべき周壁部102の内周面の部位に対向する。この状態においては、ピン30の切粉排除部22は加工された第1スナップリング溝105の溝幅Wの中央部に対向する。
【0053】
次に、ホルダ2を前進させて溝入れチップ10の切刃部12によって第2スナップリング溝106を溝入れ加工する。この溝入れ加工は第2スナップリング106の溝幅Wを幅寸法が一致した前部切刃13を有する溝入れチップ10によって各内歯スプライン103の山部104を断続的に切削することから、前部切刃13によって削り出された切粉は第1スナップリング溝105と同じ幅Wで前部切刃13の直後のすくい面14上をカールしながら矩形板状に分断される。一方、図7(d)に示すように前進する溝入れチップ10により第2スナップリング溝106の溝入れに伴って第1スナップリング溝105の溝幅Wより小径に形成された切粉排除部32が第1スナップリング溝105の側面105aに接触することなく非接触状態で底部105bの近傍まで進入する。この第1スナップリング溝105の底部105bの近傍まで進入した切粉排除部32の先端33によって第2スナップリング溝106の溝入れ加工の際に発生して飛散して第1スナップリング溝105に侵入した切粉が除去される。
【0054】
このように第2スナップリング溝106の溝入れ加工中において第2スナップリング溝106によって発生した切粉が第1スナップリング溝105に入り込むことがあっても、その切粉はピン30の切粉排除部32によって排除される。
【0055】
なお、本実施の形態では、ピン30の基部31をチップ取付部3に形成された取付穴3aに挿入してピン30をチップ取付部3に固定したが、詳細な説明は省略するが、図8に図6に対応するチップ取付部3の拡大図を示すようにピン30をチップ取付部3と一体に形成することもできる。
【0056】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施の形態では工具として溝入れチップを例に説明したが、溝入れチップに限らず溝入れバイト等の他の工具に適用することができる。更に、クラッチドラムに限らず、他の円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する突条部が周方向に等間隔で形成された被加工部材の内周面に内径溝を溝入れ加工する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 溝切り工具
2 ホルダ
3 チップ取付部
6 クランク駒
10 溝入れチップ(溝入れ部材)
11 固定部
12 切刃部
13 前部切刃
20 掃除用ダミーチップ(切粉排除部材)
21 固定部
21a 取付穴
22 切粉排除部
23 先端
30 ピン(切粉排除部材)
31 基部
32 切粉排除部
33 先端
100 クラッチドラム
100A クラッチドラム本体(被加工部材)
102 周壁部
103 内歯スプライン(突状部)
105 第1スナップリング溝(内径溝)
106 第2スナップリング溝(内径溝)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する複数の突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に溝切り工具で切削して第1内径溝及び第2内径溝を溝入れ加工する内径溝加工方法において、
前記溝切り工具は前記第1及び第2内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃を有する溝入れ部材及び該前部切刃より小幅の切粉排除部を有する切粉排除部材を備え、
前記溝入れ部材の前部切刃によって前記切粉排除部材が被加工部材に非接触状態を維持した状態で第1内径溝を溝入れ加工し、
次に前記切粉排除部材は溝入れ加工済みの前記第1内径溝に進入しつつ前記溝入れ部材の前部切刃により第2内径溝入れ加工することを特徴とする内径溝加工方法。
【請求項2】
円筒状の周壁部の内周面に軸方向に延在する複数の突条部が形成された被加工部材の内周面に、前記各突条部の山部を断続的に切削して第1内径溝及び第2内径溝を溝入れ加工する溝切り加工具において、
前記第1及び第2内径溝の溝幅と一致する幅寸法の前部切刃を有する溝入れ部材及び該前部切刃より小幅の切粉排除部を有する切粉排除部材を備え、
前記切粉排除部材が被加工部材に非接触状態を維持した状態で前記溝入れ部材により前記第1内径溝を溝入れ加工し、かつ前記切粉排除部材は溝入れ加工済みの前記第1内径溝に進入しつつ前記溝入れ部材により第2内径溝を溝入れ加工することを特徴とする溝切り加工具。
【請求項3】
先端にチップ取付部が形成されたホルダを備え、
該チップ取付部に前記前部切刃を有する溝入れ部材が固定され、
該前部切刃の幅方向中央から前記第1内径溝と第2内径溝の各幅方向の中央間の離間距離と一致する切粉排除部の幅方向中央までの距離を有して前記切粉排除部材が前記チップ取付部に固定されたことを特徴とする請求項2に記載の溝切り加工具。
【請求項4】
前記溝入れ部材は、
前記チップ取付部に固定される固定部と、該固定部に延設された前記前部切刃を有する切刃部を備えた溝入れチップであり、
前記切粉排除部材は、
前記チップ取付部に固定される固定部と、該固定部に延設された前記切粉排除部を備えた掃除用ダミーチップであることを特徴とする請求項3に記載の溝切り加工具。
【請求項5】
前記溝入れ部材は、
前記チップ取付部に固定される固定部と、該固定部に延設された前記前部切刃を有する切刃部を備えた溝入れチップであり、
前記切粉排除部材は、
前記チップ取付部に固定される基部及び前記切粉排除部を備えたピンであることを特徴とする請求項3に記載の溝切り加工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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