説明

内服用虫よけ剤

【課題】安全にして効果が高い内服用虫よけ剤を提供すること。
【解決手段】シトラール、シトロネルアセトアルデヒド及びリモネンから選ばれる、特定の非芳香族モノテルペン化合物を有効成分とする内服用虫よけ剤。本発明に係る内服用虫よけ剤は、医薬品組成物、サプリメント、飲食品組成物のいずれにも製剤化することができる。本発明に係る内服用虫除け剤は、その有効成分が香料として用いられるものであって、安全性にも問題がない点でも特徴的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内服で安全な虫よけのための剤及びその虫よけのための剤を含有する医薬組成物等の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
蚊に刺されると発赤と痒みを伴う不快のみならず、日本脳炎、西ナイル熱、マラリア、デング熱、フィラリア症等の病気の原因ともなっており、とくに熱帯・亜熱帯地域では現在なお深刻な脅威となっている。それ以外の地域でも、海外旅行ブームによる現地感染、輸入農作物からの侵入、地球温暖化による生息地拡大等により無関係ではいられなくなってきていることは、各種報道媒体からの情報で周知の通りとなっている。
蚊以外にも、ノミ、ハエ、ダニ、シラミ等によって媒介される病気も数多くある。また、健康には直接影響しないが、繊維ケラチンを食べることで衣服に被害与えるものも我々にとっては深刻な害虫である。
【0003】
これまで、皮膚や衣服に適用する虫よけスプレー等に、ディート(DEET、ジエチルトルアミド)を含有したものが数多く用いられている。ディートは40年以上使用され重大な健康被害の報告はないようであるが、誤飲防止、吸入を避けること、幼児への制限など、安全のために使用上の厳しい条件が設けられている(例えば、非特許文献1参照)。
さらに、この技術は、適用する面積が広いため塗布すること自体が面倒であることや、顔面への使用はできないこと等の欠点があった。
【0004】
また、蚊などの害虫の防虫・殺菌効果のある成分を空間中に一定濃度以上になるように存在させる方法も、古くから蚊取り線香や樟脳等で実用に供されてきた。最近では、除虫菊に含まれる有効成分を合成した合成ピレスロイドやディートが使用されている。しかし、この技術は屋内利用に限定され、屋外活動には利用しにくいという欠点があった。
【0005】
一方、このような化学物質の使用をためらう消費者のために、天然香料・精油を利用した防虫技術も実用に供されるようになってきている(特許文献1〜4参照)。しかしながら、これらはいずれも内服によるものではなく、さらに、天然香料・精油成分の中でも、非芳香族モノテルペン化合物であるシトロネロールは、逆にダニ類を誘引する物質であることが具体的データとともに開示され(特許文献5参照)、また、該化合物であるゲラニオール及びリナロールも、具体的データの開示はないが該誘引物質であると記載されており(特許文献5参照)、天然香料・精油中の全ての成分が有効な防虫効果を奏するわけではない。
【0006】
このように、これまでに害虫忌避成分を内服することによって虫よけを試みたという報告は見当たらない。ましてや、内服による虫よけに成功した報告は全く見当らないのが本技術分野の現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−285993号公報
【特許文献2】特開平7−112907号公報
【特許文献3】特開平11−269009号公報
【特許文献4】特開2003−138290号公報
【特許文献5】特開平10−117657号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】2005年8月24日付厚生労働省医薬食品局安全対策課長通知、薬食安発第0824003号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
化学合成品であろうと天然成分であろうと、害虫忌避剤は本質的に危険(毒又は有害)であるという潜在意識があり、これまでに、忌避剤を服用して虫よけ効果を得ようとする発想自体が生まれる余地がなかった。もし仮にそのような発想をしたとしても、当業者からみれば危険かつ無謀な思いつきとして一蹴されるであろう。このことは、これまでに報告も実用化もなされていなかったことからも裏付けられる。
【0010】
しかし、本発明者らは、内服により優れた虫よけ効果を有する化合物を提供できれば、人類にとって有用な技術となり、しかも病原体を媒介するペットや家畜などに投与しても有用である、ということに気づき、あえてこのタブーともいえる課題に挑戦すべく研究に着手した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、これまで公知又は非公知であった害虫忌避成分の中で、服用しても安全性に問題がない成分はあるかどうかを探索し、それらを経口摂取することによって害虫忌避効果が発現するかどうか長年にわたり鋭意研究を続けてきた。
【0012】
経口投与によって防虫効果が奏されるか否かは、消化管で吸収された後、ヒト体表面に当該防虫成分が放散するか否かを評価すればよいが、このような評価実験系は公序良俗に反する人体実験のおそれが強い。そこで、本発明者らは動物を用いる新しい動物実験システムを新たに構築する必要を認めた。
【0013】
そして、本発明者らは、各方面から鋭意検討した結果、動物の体臭は尿臭で評価でき、尿中の特定の揮発成分が年令によって変化することをはじめて見出した。本発明者らは、この新知見に着目して更に検討した結果、動物に防虫成分を経口投与して尿中に当該成分が代謝されずに排泄されるならば、防虫効果を有する体臭が実現できることにはじめて気付き、経口投与防虫剤をスクリーニングするための動物実験システムを新たに構築することにはじめて成功した。
【0014】
すなわち、本システムは、被験物質を試験動物(発汗しない動物が好適、例えばマウス)に経口摂取させて、その尿中の被験物質量を測定することにより、被験物質の体臭への影響を評価する新規システムである。本システムを利用することにより、人体実験によることなく、経口投与した被験物質がヒトの体表面にて放出されることが確認でき、つまり、内服による防虫・虫よけ作用を奏する体臭の実現を確認することができる。
【0015】
更なる研究を続けていくなかで、本発明者らは、もうひとつの動物実験システムを構築することにも成功した。すなわち、被験物質を体毛の無い動物(例えばヘアレスマウス)に経口摂取させて、吸血昆虫(例えば雌蚊成虫)とともに容器に入れて、所定時間に吸血飛来して降着した延べ数、及び/又は、実際に吸血した数を調べる試験方法で、内服した成分の実際の防虫・虫よけ作用が評価できることも新たに見出した。
【0016】
本発明は、このような内服用虫除け成分確認のための新規動物実験システムも新たに提供するものである。本システムを利用することにより、既知の外用虫よけ成分の内服可能性が確認できるだけでなく、新規な内服用虫よけ成分の開発も可能とするものである。
【0017】
本発明に係る新規システムを利用して、数多くの虫除け成分についてその経口投与による虫除け効果を検討した。
その結果、驚くべきことに、同じ非芳香族モノテルペン化合物であっても、リモネン、シトラール及びシトロネルアセトアルデヒドは経口投与により虫よけ効果が発現するが、ゲラニオールには該効果が期待できないことを見出した。特に、シトラール及びシトロネルアセトアルデヒドには、微量の経口投与で優れた効果が発現することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち本発明は、例えば次のような態様を包含するものである。
【0019】
(1)シトラール、シトロネルアセトアルデヒド及びリモネンから選ばれる少なくともひとつからなる非芳香族モノテルペン化合物を有効成分とすること、を特徴とする内服用虫よけ剤。
(2)シトラールのみを有効成分とし、1回あたり0.1〜0.5mg/Kg、好ましくは0.5mg/Kgの有効成分量で服用されること、を特徴とする内服用虫よけ剤。
(3)シトロネルアセトアルデヒドのみを有効成分とし、1回あたり0.1〜0.5mg/Kg、好ましくは0.5mg/Kgの有効成分量で服用されること、を特徴とする内服用虫よけ剤。
【0020】
(4)対象害虫が、蚊(アカイエカ、ハマダラカ、テングカ等)、ハエ(イエバエ、ヒメイエバエ、クロバエ、キンバエ、ニクバエ、ショウジョウバエ等)、ブヨ(ブユ)(アオキツメトゲブユ、ウマブユ、アシマダラブユ等)、アブ(イヨシロオビアブ、キンイロアブ、ゴマフアブ、ウシアブ、アカウシアブ等)、ノミ(ヒトノミ、ネコノミ等)、ダニ(ヤマトダニ、タネガタマダニ、イエダニ、ヒゼンダニ、ツツガムシ類等)、シラミ(ヒトジラミ、ケジラミ等)、ゴキブリ、蛾(ドクガ、マツカレハ、イラガ等)、繊維害虫(イガ、コイガ、ヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシ等)、カメムシ(サシガメ、ツマグロヨコバイ、トコジラミ等)、アリ(オオハリアリ、アカカミアリ、ヒメアリ、アズマオオズアリ等)、蜂(オオスズメバチ、キイロスズメバチ、フタモンアシナガバチ、キアシナガバチ、ニホンミツバチ、セイヨウミツバチ、コマルハナバチ、クマバチ等)から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の内服用虫除け剤。
(5)ヒト用、ペット(イヌ、ネコ、ウサギ、その他哺乳類、鳥類、爬虫類等であって愛玩を目的としてヒトに飼われている動物)用、家畜(ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ、ヤギ、ウマ等のヒトが利用する目的で飼われている動物)用のいずれかであること、を特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載の内服用虫よけ剤。
【0021】
(6)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の内服用虫よけ剤を有効成分として含有すること、を特徴とする医薬組成物(虫除け用の医療用経口投与剤、ないしは医薬用内服虫よけ剤(医薬品、医薬部外品))。
(7)(1)〜(5)のいずれか1つに記載の内服用虫よけ剤を添加剤として使用し、虫の誘引作用を有する成分及び/又は有効成分の虫よけ作用を阻害、相殺する成分(例えば、シトロネロール、テトラヒドロゲラニオール、ネロール、ゲラニオールなど)を含有しないこと、を特徴とするサプリメント(虫除け用の飲食用の経口投与剤)又は飲食品(虫除け用のヒト飲食品(ドリンク剤を含む)、ペットフード、家畜飼料、その他動物用飲食品、これらの飲食品用の添加剤)。
(8)喫食時までに有効成分が香料の機能を発揮していないこと(消化器官に到達するまで香気が揮発していない状態)、を特徴とする(7)に記載のサプリメント又は飲食品。
(9)有効成分がマイクロカプセル化又は包接化され、あるいは他の香料成分により香気が阻害され、喫食時までに有効成分が香料の機能を発揮していないこと、を特徴とする請求項8に記載のサプリメント又は飲食品。
【0022】
(10)(1)〜(9)のいずれか1つに記載の内服用虫よけ剤、医薬組成物、サプリメント及び飲食品から選ばれる少なくともひとつを服用又は摂取させること、を特徴とするヒトあるいはヒトを除く動物の虫よけ方法。
(11)シトロネルアセトアルデヒドを有効成分として30〜100ppm、好ましくは50ppm添加し、虫の誘引作用を有する成分及び/又は有効成分の虫よけ作用を阻害、相殺する成分(例えば、シトロネロール、テトラヒドロゲラニオール、ネロール、ゲラニオールなど)を含有させないこと、を特徴とする虫よけ飲食品の製造方法。
【0023】
(12)以下の工程を含んでなること(以下の工程からなること)、を特徴とする虫よけ飲食品の使用方法(虫よけ方法)。
(A)(7)〜(9)のいずれか1つに記載の虫よけ飲食品を投与し;
(B)衣服着用中に体表面からの自然発汗又は自然蒸散した汗を衣服に吸着させた後;
(C)当該衣服を着用して虫よけするか、あるいは、当該衣服を保管して衣服自体を繊維害虫から保護する。
(13)シトラール、シトロネルアセトアルデヒド及びリモネンから選ばれる少なくともひとつからなる非芳香族モノテルペン化合物を有効成分とすること、を特徴とする蚊の降着忌避剤及び/又は吸血忌避剤。
【発明の効果】
【0024】
本発明のリモネン、シトラール及びシトロネルアセトアルデヒドは、虫よけ効果を有するとともに、内服しても安全であるため有用である。シトラールを有効成分として含有した医薬組成物、サプリメント又は飲食品は優れた害虫忌避作用が発現するため、特に有用である。
本発明によれば、蚊取り線香、蚊取り器、虫よけスプレー等の器具の必要もなければ、器具を使用する手間も必要でなく、安全な虫よけ剤を経口摂取するという簡単な方法で虫よけが達成できるという著効が奏される。
【0025】
本発明に係る有効成分化合物は、(イ)経口摂取で安全なしかも防虫性、虫よけ性にすぐれた物質であり、(ロ)体内に吸収された後、汗腺から放出される物質であり、(ハ)更に、投与量が少なくても有効であり、また、即効性があるだけでなく持続性もあり(換言すれば、服用するとすぐに効き、しかも防虫、虫よけ性が長時間持続する)、(ニ)そして、社会生活には支障をきたさない物質である(害虫忌避効果を有し且つ人間に不快でない物質)などの特徴、性質を有するものである。
【0026】
これらの特徴、性質を有する化合物は従来知られておらず、しかも、有効成分化合物に一定の方向性や共通の特性があるわけではなく、近似の化合物であっても効果のないものも多数あり、それぞれ効果を確認することが必要であり、試行錯誤の積み重ねの結果、遂に本発明の完成に到ったものである。したがって、このような化合物を有効成分とする内服用虫除け剤は、新規であることはもちろんのこと、容易に推考できるものでもなく、充分に特許要件を具備するものである。
【0027】
また、本発明は新規スクリーニング方法を開発するのにも成功したものであって、このスクリーニング方法によって化合物をスクリーニングし、得られた化合物について(イ)〜(ニ)等の性質を確認すれば目的とする内服用虫除け剤(内服用虫よけ化合物)を選択、入手することができる。
【0028】
なお、本発明において、虫よけとは、害虫がヒト及び動物(ペット、家畜を含む)に害を及ぼすことを阻止することを広く意味するものであって、害虫をよせつけない、よせつけないだけでなく更に害虫を追い払う(防虫、忌避、虫よけ作用の少なくともひとつの作用)などが例示される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】縦軸に各成分のピーク強度、横軸に試験開始からの経過日数をとり、被験物質を投与したマウス尿中の各成分を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に使用される非芳香族テルペン化合物、リモネン及びシトラールは食品添加物リストに収載されており、また、シトロネルアセトアルデヒドは食品添加物として使用実績がある。
本発明において、リモネン、シトラール及びシトロネルアセトアルデヒドの使用量は、例えば、食品添加物公定書等に記載された経口摂取の安全量の範囲内である。
【0031】
リモネン、シトラール及びシトロネルアセトアルデヒドの1回あたりの服用又は摂取量は、年齢により異なるが、通常0.05mg/Kg以上であり、好適には、0.1mg〜2mg/Kgである。特に、シトラール又はシトロネルアセトアルデヒドのみを有効成分として用いる場合には、0.1mg〜0.5mg/Kgが特に好ましい。そして、通常これを1日に1〜3回服用又は摂取する。
【0032】
本発明においては、リモネン、シトラール及びシトロネルアセトアルデヒドの1回あたりの服用又は摂取量が極端に多い場合(例えば、100mg/Kg以上、さらには200mg/Kg以上など)には、有効な防虫効果が得られないため好ましくない。本発明は、有効成分の服用又は摂取量と防虫効果が比例しないこと(濃度依存的に効果が得られないこと)も極めて特徴的であり、例えば、5mg/Kg以下、さらには1mg/Kg以下等の比較的低用量の範囲で最も防虫効果を発揮する。
【0033】
本発明に係るリモネン等内服用虫よけ化合物(及び/又は当該化合物を有効成分とする内服用虫除け剤)は、医薬品、医薬部外品(例えば、リゲイン(第一三共ヘルスケア株式会社製品)等)、サプリメント、飲食品等の各組成物とすることができる。
また、本発明に係るリモネン等内服用虫よけ剤は、ヒトを対象動物とするだけでなく、イヌ、ネコ、ウサギ、その他哺乳類、鳥類、爬虫類等の愛玩を目的としてヒトに飼われている動物(ペット)や、ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ、ヤギ、ウマ等のヒトが利用する目的で飼われている動物(家畜)などにも効果を発現する。対象動物は、発汗する動物のみに限定されるものではなく、イヌやマウスなど発汗しない動物にも適用することができ、また、体毛の有無も問わない。
【0034】
本発明の化合物を組成物として用いる場合、剤形が液剤又は半固形製剤の場合、リモネン、シトラール又はシトロネルアセトアルデヒドの含有量、あるいはこれらの合計含有量は、上記服用又は摂取量が1回量として含有されるように添加すればよい。
【0035】
本発明の化合物を特にサプリメント、飲食品(ヒト用だけでなく、ペットフード、家畜飼料等も含まれる)としての組成物に用いる場合には、虫の誘引作用を有する香料成分及び/又は有効成分の虫よけ作用を阻害、相殺する成分(例えば、特許文献5に記載のシトロネロール、テトラヒドロゲラニオール、ネロール、ゲラニオールなど)を含有しないことが重要である。
天然香料・精油等には、リモネンやシトラールなどを含有しているものがあるが、同時にシトロネロール等の他の香料成分も含まれる。よって、このような構成では、有効成分の虫よけ効果が阻害、相殺等されてしまうため好ましくない。本発明に係るサプリメント又は飲食品は、虫の誘引作用を有する香料成分及び/又は有効成分の虫よけ作用を阻害、相殺する成分を含有しないため、顕著な虫よけ効果を奏し、かつ、本発明の化合物を用いたサプリメント又は飲食品は、天然香料・精油等、及びこれらを使用したサプリメント及び飲食品と明確に区別できるものである。
【0036】
さらに、本発明の化合物を特にサプリメント、飲食品に用いる場合、例えば、有効成分を定法によりマイクロカプセル化、あるいはシクロデキストリン等の公知の包接化合物により包接化などを行ってから添加し、喫食時までに有効成分が香料の機能を発揮していない状態(消化器官に到達するまで香気が揮発していない状態)にすることが好ましい。これにより、本発明に係るサプリメント又は飲食品は、密封製品でなくとも有効成分の揮発等による減少がほとんどなく、かつ、本発明の化合物を用いたサプリメント又は飲食品は、有効成分を香料用途として使用したサプリメント及び飲食品と明確に区別できるものである。また、十分量の他の香料成分の併用により有効成分の香気を完全に阻害して、上記構成(喫食時までに有効成分が香料の機能を発揮していない状態)を達成しても良い。
【0037】
本発明の組成物の具体的な形態(剤形)としては、固形製剤、半固形製剤または液剤であり、例えば、錠剤、咀嚼錠剤、顆粒剤、散剤(細粒を含む)、カプセル剤、液剤等を挙げることができる。本発明の組成物を用いて製剤を製造するにあたっては、各剤形に適した医薬品添加物、その他の食品添加物、基材等を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い、製造することができる。
例えば、本発明の組成物の剤形が錠剤の場合、賦形剤としては本発明実施例記載のものを、結合剤としてはヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール等を、滑沢剤としてはステアリン酸マグネシウム、タルク等を使用することができる。
【0038】
また、本発明の組成物の剤形が散剤及びカプセル剤の場合、賦形剤としては本発明実施例記載のものを、結合剤としては、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール等を使用することができる。その他、各形態(剤形)において、必要に応じ、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース等の崩壊剤、ポリソルベート等の界面活性剤、ケイ酸カルシウム、軽質無水ケイ酸等の吸着剤、三二酸化鉄やカラメル等の着色剤、安息香酸ナトリウム等の安定剤、pH調節剤、及びその他の食品添加物等を配合することができる。
【0039】
本発明の化合物を組成物として用いる場合の組成物の剤形が食品の場合でも、公知の製造設備等により製造することができる。
例えば、本発明の化合物を他の食品ないし食品成分と併用したりして適宜常法にしたがって製造することができる。その剤形は適宜選択すればよいが、固体状(粉末状、顆粒状等)、ペースト状、液状、懸濁液状ないし乳化液状のいずれでもよく、例えば、甘味料、酸味料、ビタミン剤等ドリンク剤製造に常用される各種成分を用いて虫よけドリンクに製剤化してもよい。なお、その際には、上述の虫の誘引作用を有する香料成分及び/又は有効成分の虫よけ作用を阻害及び/又は相殺する成分を含有させないことが重要である。また、医薬品組成物ないしサプリメントの剤形に製剤化したものを飲食品組成物として使用しても何らさしつかえはない。なお、シトロネルアセトアルデヒドを有効成分として配合した虫よけ飲食品の製造に際しては、当該成分の配合量を30〜100ppm、好適には30〜50ppmとするのが好ましい。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)錠剤
(1)成分
本錠剤の成分を下記表1に示す。
【0042】
(表1)
1錠中 (mg) (mg)
――――――――――――――――――――――――――――――
リモネン、又は、シトラール 30 −
シトロネルアセトアルデヒド − 20
タルク 30 30
ステアリン酸マグネシウム 10 10
ヒドロキシプロピルセルロース 5 5
結晶セルロース 250 250
トウモロコシ澱粉 150 150
乳糖 適量 適量
――――――――――――――――――――――――――――――
【0043】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造する。
【0044】
(実施例2)顆粒剤
(1)成分
本顆粒剤の成分を下記表2に示す。
【0045】
(表2)
1包中 (mg) (mg)
――――――――――――――――――――――――――――――
リモネン、又は、シトラール 30 −
シトロネルアセトアルデヒド − 20
トウモロコシ澱粉 350 350
ヒドロキシプロピルセルロース 50 50
乳糖 適量 適量
――――――――――――――――――――――――――――――
【0046】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造する。
【0047】
(実施例3)カプセル剤
(1)成分
本カプセル剤の成分を下記表3に示す。
【0048】
(表3)
1〜2カプセル中 (mg) (mg)
――――――――――――――――――――――――――――――
リモネン、又は、シトラール 30 −
シトロネルアセトアルデヒド − 20
トウモロコシ澱粉 350 350
ヒドロキシプロピルセルロース 50 50
乳糖 適量 適量
――――――――――――――――――――――――――――――
【0049】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造した後、カプセルに充てんして硬カプセル剤を製造する。
【0050】
(実施例4)液剤
(1)成分
本液剤の成分を下記表4に示す。
【0051】
(表4)
100mL中 (mg) (mg)
――――――――――――――――――――――――――――――
リモネン、又は、シトラール 30 −
シトロネルアセトアルデヒド − 20
安息香酸ナトリウム 70 70
ポリビニルアルコール 60 60
白糖 900 900
精製水 残部 残部
――――――――――――――――――――――――――――――
【0052】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「液剤」の項に準じて液剤を製造する。
【0053】
(試験例1)防虫効果試験1
以下に、被験物質についての、防虫効果試験を示す。
【0054】
(1)被験物質
リナロール、シトロネラール、リモネン及びゲラニオールはシグマ−アルドリッチ社製のものを購入して使用した。被験物質は、これらを各7.5μgずつ等量含むアロマミックスを作製して投与した。投与液量はいずれの場合も0.2mL/Kgとなるようにした。
【0055】
(2)動物
BALB/c雄性マウスの6週齢を日本チャールズリバー(株)から購入し、温度20〜26℃、湿度30〜70%、照明時間7時〜19時に制御されたラット飼育室内でラット用ブラケットテーパーケージに5匹ずつ入れ、飼料(マウス・ラット飼育用F−2、船橋農場製)および水フイルターを通した水道水を自由に摂取させて約1週間予備飼育した。試験開始日に肉眼で動物の健康状態を観察し良好なことを確認して体重を測定し無作為に1群5匹に群分けして用いた。
【0056】
本発明者らは動物の年齢と体臭の関係につき長年にわたり研究を続け、その中で、動物の体臭は尿臭で評価でき、尿中の特定の揮発成分が年齢によって変化することを突き止めた。
本結果をもとに本発明者らは、動物に防虫成分を経口投与して尿中に当該成分が代謝されずに排泄されるならば、防虫効果を有する体臭が実現できることに気付いた。
更に、本発明者らは、防虫・虫よけ効果のある物質を経口摂取して、ヒト体表面から当該物質が代謝されずに放出されるならば、人体にとって無害な経口防虫剤が実現できることに気付いた。
【0057】
本アイデアの検証は特許法第32条にも抵触するおそれがあるため、動物試験で検証する必要がある。そこで、本発明者らは、被験物質を試験動物に経口摂取させて、その尿中の被験物質量を測定することにより、防虫・虫よけ効果を有する体臭の有無が評価できることに辿り着くに至った。
【0058】
すなわち本発明は、被験物質を試験動物に経口摂取させて、その尿中の被験物質量を測定することによる経口投与虫よけ剤(成分)の新規スクリーニング方法にも関するものである。本スクリーニング方法においては、尿中の被験物質、すなわち尿の中に溶解している被験物質及び/又は尿から揮散する被験物質を測定する。なお、本実施例においては、尿から揮散する被験物質を測定した。
【0059】
尿から発散される被験物質の測定方法は特に限定されるものではなく、先ず、サンプルの抽出法としては、従来から用いられている溶媒抽出法や固相抽出法によるサンプル調整法のほか、固相マイクロ抽出法(Solid Phase Micro Extraction: SPME)が有利に使用でき、中でもSPMEをヘッドスペースで用いる方法(HS−SPME)は揮発性物質のサンプリングに特に好適である。
【0060】
SPMEは、シリンジの針に該当する部分に吸着剤がコーティングされており、ヘッドスペースガスを吸着させた後、ガスクロマトグラフ等測定機器で直接熱脱着させることができ、簡便でかつ再現性も高い。このように、SPMEはサンプリング、抽出、濃縮、そしてサンプル注入機能をたった一つの小器具に集約したものであり、溶媒を使うことなく行えるという特徴を有する。サンプル中の被験物質は抽出用ファイバーで直接抽出、濃縮することができ、非常に有用な器具であって、市販品が適宜使用可能である。
【0061】
上記したようにサンプルの抽出を行った後、成分の測定を行う。測定方法としては、ガスクロマトグラフィー(GC)、GC/マススペクトロメトリー(GC−MS)、水素イオン炎検出器−GC、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)、キャピラリ電気泳動等常法が適宜使用される。SPME、HS−SPMEは、GCやGC/MS等GCとのコンビネーションで日常的に使用することができる。
【0062】
本実施例においては、マウス尿の分析は、HS−SPMEによって抽出したサンプルを水素イオン炎検出器−ガスクロマトグラフィーにて測定した。
【0063】
試験は次のようにして行った。先ず、 試験開始日の午後4時から5時に被験物質を経口投与した。2日目以降は午後5時前後に1日1回経口投与した。
【0064】
体臭物質として尿を採取した。ヘッドスペース固相マイクロ抽出法により検体を採取し、水素イオン炎検出器−ガスクロマトグラフィーによる化学分析法にて分析した。
【0065】
HS−SPME法は、20mlのヘッドスペース用バイアル瓶にサンプル10mlをとり、内部標準物質として0.1%シクロヘキサノール5μlを添加して35℃、10分間ヘッドスペース中の香気成分をSPMEファイバーに吸着させ、揮発成分量を測定した。詳細条件は次の通りである。
SPMEファイバー:スペルコ社 DVB/Carboxen/PDMS
分析装置:Hewlett Packard 5890(Restek Stabilwax column 装着)
分析条件:キャリアガス:ヘリウム; 流速:2.4ml/min; 気化室温度:230℃;
カラム温度:40℃で5分、その後、毎分5℃ずつ240℃まで上昇
【0066】
尿中の各成分は投与前値と投与後のピーク値を差し引くことによりピーク強度を求めた。
【0067】
(4)試験結果
得られた結果を図1に示す。なお、値は1群5匹の平均値である。
図1より、リモネン、シトロネラール及びリナロールの摂取で防虫効果を有する体臭が実現できると認められた。しかし、同じ非芳香族モノテルペン化合物であっても、ゲラニオールの摂取では防虫効果を有する体臭が実現できるとは認められなかった。
【0068】
(試験例2)防虫効果試験2
(1)被験物質
リモネン、シトロネルアセトアルデヒド、シトラール、リナロール及びシトロネラールはシグマ−アルドリッチ社製のものを購入して使用した。これらの原液を精製水で50ppm、500ppm及び5000ppmの濃度に希釈したものを被験物質として使用した。投与液量はいずれの場合も0.2mL/被験動物となるようにした。
【0069】
(2)被験動物
吸血害虫として未吸血の雌蚊(ヒトスジシマカ)成虫を用い、被吸血動物としては皮膚が露出している動物(ヘアレスマウス雄性)を用いた。
【0070】
(3)試験方法
被験薬経口投与1時間後のヘアレスマウスを、ヒトスジシマカ未吸血雌成虫20匹が入った、ナイロンゴーズ袖付き透明アクリル製容器(300mm×300mm×300mm)に入れ、吸血飛来してマウスにとまった蚊の数を30秒ごとに5分間測定した[のべ降着数(被験薬投与)]。また、5分間に実際に吸血した蚊の数[のべ吸血数(被験薬投与)]を測定した。
なお、被験薬の効果比較のために被験薬を投与していない場合の[のべ降着数(非投与)]と実際の[のべ吸血数(非投与)]は被験薬ごとに測定した。
試験は24.2±1℃、55±3%RH(Relative Humidity:相対湿度)の条件下で行った。降着忌避率および吸血忌避率は以下の式で算出した。
【0071】
降着忌避率(%)=[1−のべ降着数(被験薬投与)/のべ降着数(非投与)]×100
吸血忌避率(%)=[1−のべ吸血数(被験薬投与)/のべ吸血数(非投与)]×100
【0072】
(4)試験結果
各被験薬の降着忌避率および吸血忌避率を表5及び表6に示す。数値は3回行った試験結果の平均値である。
表5より、シトラール及びリモネンはどの投与量(濃度)においても、蚊の延べ降着数、吸血数ともに忌避効果が認められ、特に、シトラールには優れた虫よけ作用が発現した。また、シトラール及びシトロネルアセトアルデヒドについては負の用量依存性が認められ、低用量であるほど優れた防虫効果を発現していることが認められた。一方、表6より、リナロール及びシトロネラールについては正の用量依存性が認められ、低用量(例えば、0.5mg/Kg程度)では逆に虫の誘引作用が認められた。
【0073】
(表5)
被験物質 濃度ppm 降着忌避率% 吸血忌避率%
―――――――――――――――――――――――――――――――
50 25.4 25.4
リモネン 500 25.9 20.1
5000 20.4 20.6
―――――――――――――――――――――――――――――――
シトロネル 50 40.2 71.0
アセト 500 −36.7 −1.3
アルデヒド 5000 −65.1 −32.8
―――――――――――――――――――――――――――――――
50 73.5 82.1
シトラール 500 61.0 69.6
5000 41.5 22.6
―――――――――――――――――――――――――――――――
【0074】
(表6)
被験物質 濃度ppm 降着忌避率% 吸血忌避率%
―――――――――――――――――――――――――――――――
50 −39.0 −9.4
リナロール 500 34.8 42.4
5000 20.6 35.7
―――――――――――――――――――――――――――――――
50 −20.8 6.3
シトロネラール 500 6.2 14.9
5000 28.9 31.6
―――――――――――――――――――――――――――――――
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明のリモネン、シトラール及びシトロネルアルデヒドは内服により害虫忌避効果が発現し、特にシトラールは優れた虫よけ効果を有するとともに、内服しても安全であるため有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトラール、シトロネルアセトアルデヒド及びリモネンから選ばれる少なくともひとつからなる非芳香族モノテルペン化合物を有効成分とすること、を特徴とする内服用虫よけ剤。
【請求項2】
シトラールのみを有効成分とし、1回あたり0.1〜0.5mg/Kgの有効成分量で服用されること、を特徴とする内服用虫よけ剤。
【請求項3】
シトロネルアセトアルデヒドのみを有効成分とし、1回あたり0.1〜0.5mg/Kgの有効成分量で服用されること、を特徴とする内服用虫よけ剤。
【請求項4】
対象害虫が、蚊、ハエ、ブヨ、アブ、ノミ、ダニ、シラミ、ゴキブリ、蛾、繊維害虫、カメムシ、アリ、蜂から選ばれる少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内服用虫よけ剤。
【請求項5】
ヒト用、ペット用、家畜用のいずれかであること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の内服用虫よけ剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の内服用虫よけ剤を有効成分として含有すること、を特徴とする医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の内服用虫よけ剤を添加剤として使用し、虫の誘引作用を有する成分及び/又は有効成分の虫よけ作用を阻害、相殺する成分を含有しないこと、を特徴とするサプリメント又は飲食品。
【請求項8】
喫食時までに有効成分が香料の機能を発揮していないこと、を特徴とする請求項7に記載のサプリメント又は飲食品。
【請求項9】
有効成分がマイクロカプセル化又は包接化され、あるいは他の香料成分により香気が阻害され、喫食時までに有効成分が香料の機能を発揮していないこと、を特徴とする請求項8に記載のサプリメント又は飲食品。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の内服用虫よけ剤、医薬組成物、サプリメント及び飲食品から選ばれる少なくともひとつを服用又は摂取させること、を特徴とするヒトを除く動物の虫よけ方法。
【請求項11】
シトロネルアセトアルデヒドを有効成分として30〜100ppm添加し、虫の誘引作用を有する成分及び/又は有効成分の虫よけ作用を阻害、相殺する成分を含有させないこと、を特徴とする虫よけ飲食品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−1285(P2010−1285A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122502(P2009−122502)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】