説明

内燃機関のピストン

【課題】横断面形状がピストンピン方向を短径とする楕円状のクラウン部とスカート部とを有する内燃機関のピストンにおいて、スカート部とシリンダボアとの間の摩擦を効果的に低減する。
【解決手段】横断面形状がピストンピン方向を短径とする楕円状のクラウン部20とスカート部30とを有する内燃機関のピストン10であって、スカート部30の長径部側面に、ピストンピン直角方向の内方に後退させた後退面35を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横断面形状がピストンピン方向を短径とする楕円状のクラウン部とスカート部とを有する内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関に用いられるピストンは、スカート部の横断面形状が楕円形に形成されている。このような、スカート部が楕円形状に形成されたピストンにおいては、短径部にピストンピンを挿通するボス部が設けられている。したがって、ピストンの摺動時には、この肉厚に形成された短径部の熱膨張が長径部の熱膨張よりも大きくなり、スカート部の横断面形状を真円に近づけることで、スカート部のシリンダボアとの接触面圧を均一にするように構成されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、この種の内燃機関のピストンとして、スカート部の横断面形状が、ピストンピンの軸線方向を短径とする楕円形に形成された内燃機関のピストンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−81558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような、スカート部の横断面形状が楕円形に形成された内燃機関のピストンにおいては、ピストンの摺動時にスカート部の長径部にスラスト方向および反スラスト方向の力が作用する。そのため、スカート部の長径部側面とシリンダボアとの間の接触圧力が高くなり、スカート部とシリンダボアとの間に生じるフリクション(摩擦)が増加されたり、スカート部やシリンダボアの摩耗が増加される場合がある。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたもので、横断面形状がピストンピン方向を短径とする楕円状のクラウン部とスカート部とを有する内燃機関のピストンにおいて、スカート部とシリンダボアとの間に生じる摩擦を効果的に低減することができる内燃機関のピストンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の内燃機関のピストンは、横断面形状がピストンピン方向を短径とする楕円状のクラウン部とスカート部とを有する内燃機関のピストンであって、前記スカート部の長径部側面に、ピストンピン直角方向の内方に後退させた後退面を形成することを特徴とする。
【0008】
また、前記後退面は、前記スカート部の長径部側面に曲面部を介して形成されるようにしてもよい。
【0009】
また、前記後退面は、ピストンピン軸線よりも下方の前記スカート部の長径部側面に形成されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の内燃機関のピストンによれば、横断面形状がピストンピン方向を短径とする楕円状のクラウン部とスカート部とを有する内燃機関のピストンにおいて、スカート部とシリンダボアとの間に生じる摩擦を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストンをピストンピン軸方向から視た模式的な側面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストンのスカート部とシリンダボアとの接触圧力を説明する模式的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1〜3に基づいて、本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストンを説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0013】
図1,2に示すように、ピストン10は内燃機関であるディーゼルエンジン等に用いられる楕円状のピストンで、クラウン部20とスカート部30とを有する。
【0014】
クラウン部20は楕円状に形成されており、外周面21には図示しないピストンリングが収装される複数のリング溝22が形成されている。また、クラウン部20の下部には、このクラウン部20の下面から一体的に延びる楕円筒状のスカート部30が形成されている。なお、図1〜3中の一点鎖線Xは、ピストンピン軸直交線を示している。
【0015】
スカート部30の短径部には、図1,2に示すように、ピストンピン(不図示)が挿通される一対のピン孔31と、このピン孔31が形成された一対のピンボス32とが設けられている。すなわち、スカート部30の短径部は、このピンボス32が設けられることによって、スカート部30の長径部よりも肉厚に形成されている。
【0016】
また、スカート部30の側面は、図2に示すように、ピストンピン軸直交線X方向に延びるピンボス外側面33と、円弧状の楕円側面34と、クラウン部20の長径部よりも曲率半径が大きい円弧状の後退面35と、曲面部36とを一体的に連続して形成されている。
【0017】
ピンボス外側面33は、図2に示すように、ピストンピン軸直交線X方向に延びる平面状に形成されており、その両端を楕円側面34の端部に連接されている。すなわち、ピンボス外側面33は、クラウン部20の外周面21よりもピストン10内側(ピストンピン軸方向の内方)に位置するように形成されている。
【0018】
後退面35は、図1に示すように、スカート部30の長径部側面に、ピストンピン軸直交線Xよりも下方からスカート裾部37に向かって、ピストンピン軸直交線X方向の内方に後退するように形成されている。すなわち、ピストン10をピストンピン軸方向から側面視した場合、後退面35はクラウン部20の外周面21よりもピストン10内側に位置する。本実施形態において、図3に示すように、後退面35のクラウン部20の外周面21からの後退量Bは5〜100μmの範囲に設定されている。また、後退面35の端部とピストン10中心部とを結ぶ線L1と、ピストンピン軸直交線Xとがなす角度θ1は15.0〜25.0度の範囲に設定されている。
【0019】
曲面部36は、図2に示すように、楕円側面34と後退面35との間に設けられている。すなわち、楕円側面34と後退面35とは、曲面部36によって曲形状に連続して形成されている。
【0020】
楕円側面34は、図2に示すように、スカート30を横断面視した場合に、クラウン部20の外周面21と略一致するように形成されている。すなわち、楕円側面34は、ピストン10の摺動時に、ピストン10とシリンダボア(不図示)との間の接触面として機能する。本実施形態において、図3に示すように、楕円側面34のピストンピン軸側の端部とピストン10中心部とを結ぶ線L2と、線L1とがなす角度θ2は20.0〜22.5度の範囲に設定されている。
【0021】
上述のような構成により、本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストン10によれば以下のような作用・効果を奏する。
【0022】
図3中の右側をスラスト側、左側を反スラスト側とした場合、ピストン10の摺動時には、スカート部30の右側長径部にスラスト力F1が作用し、スカート部30の左側長径部に反スラスト力F2が作用する。ここで、本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストン10では、スカート部30の長径部側面に後退面35が形成されているので、ピストン10の摺動時には、楕円側面34がシリンダボアとの接触面として機能する。そして、この楕円側面34に作用するスラスト側の圧力P1と反スラスト側の圧力P2とは、以下の(1式)および(2式)で求められる。
1=F1×cosθ1…(1式)
2=F2×cosθ1…(2式)
【0023】
すなわち、楕円側面34に作用するスラスト側の圧力P1と反スラスト側の圧力P2とは、スラスト力F1および反スラスト力F2よりも低減されることになる。
【0024】
したがって、本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストン10によれば、スカート部30とシリンダボアとの間の接触圧力が低減されるので、当然ながら、このスカート部30とシリンダボアとの間に発生するフリクションを効果的に低減することができる。また、スカート部30やシリンダボアの摩耗も効果的に抑制することができる。
【0025】
また、ピストン10のスカート部30とシリンダボアとの間の接触圧力が低減されるので、ピストン10のシリンダボアへの焼き付きを効果的に防止することができるとともに、ピストン10とシリンダボアとの間で生じる騒音も効果的に低減することができる。
【0026】
また、本発明の一実施形態に係る内燃機関のピストン10では、楕円側面34と後退面35との間に曲面部36を設け、この楕円側面34と後退面35とを曲形状に連続して形成している。
【0027】
したがって、スカート部30とシリンダボアとの局所的な接触が抑制されるので、スカート部30とシリンダボアとの間に発生するフリクションの発生や、スカート部30やシリンダボアの摩耗、ピストン10のシリンダボアへの焼き付きや、ピストン10とシリンダボアとの間で生じる騒音を更に効果的に防止することができる。
【0028】
また、後退面35はピストンピン軸直交線Xよりも下方からスカート裾部37に向かって形成されているので、ピストン10の摺動時には、ピストンピン軸直交線Xよりも上方に位置するスカート部30の長径部側面が、シリンダボアとの間の接触面として機能する。
【0029】
したがって、ピストン10の摺動時に、ピストン10がシリンダボア内に安定して保持され、スラスト力や反スラスト力によってピストン10の摺動動作がスラスト方向や反スラスト方向に傾いて不安定となることを効果的に抑制することができる。
【0030】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0031】
例えば、上述の実施形態において、後退面35はクラウン部20の長径部よりも曲率半径が大きい円弧状に形成されるものとして説明したが、この後退面35をピストンピン軸直交線X方向の内方に凹ませた凹形状としてもよい。また、後退面35をスカート部30の長径部に複数設けるようにしてもよい。この場合も、上述の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 ピストン
20 クラウン部
30 スカート部
35 後退面
36 曲面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面形状がピストンピン方向を短径とする楕円状のクラウン部とスカート部とを有する内燃機関のピストンであって、
前記スカート部の長径部側面に、ピストンピン直角方向の内方に後退させた後退面を形成する
ことを特徴とする内燃機関のピストン。
【請求項2】
前記後退面は、前記スカート部の長径部側面に曲面部を介して形成される
ことを特徴とする請求項1記載の内燃機関のピストン。
【請求項3】
前記後退面は、ピストンピン軸線よりも下方の前記スカート部の長径部側面に形成される
ことを特徴とする請求項1又は2記載の内燃機関のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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