説明

内燃機関用の点火コイル

【課題】構造や製造工程の簡略化による不良発生の抑制且つ小型化もしくは同じ寸法で出力性能向上を可能とした点火コイルを提供する。
【解決手段】内燃機関用の点火コイルにおいて、中心鉄芯14の円周上内側に積層される薄板の中で均等な幅で積層されている薄板は一方向のみに磁化しやすい方向性鋼板24を用いるとともに、中心鉄芯14の円周上外側に積層される少なくとも一方の薄板の中で中心鉄芯14を略円周形状に成形するために階段状に積層される薄板は特定の方向に偏って磁化しない無方向性鋼板26を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火コイルに収容される中心鉄芯を構成する鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来よりケースに1次コイル、2次コイル、中心鉄芯が収容されている部分がプラグホール内に挿入されるタイプの点火コイルには、薄板を積層して構成している中心鉄芯がいくつか提案されており、さらなる性能向上や不良の抑制を目指すための発明も提案されている。代表的な例として特開平08−293418号公報(以下「特許文献1」)が提案されている。当該特許文献1の実施例として中心鉄芯、2次コイル、1次コイル、外装鉄芯を収容したケースからなる点火コイルでは、前記中心鉄芯を構成する幅の異なる短冊状の方向性鋼板の積層枚数を奇数枚とし、中央部に積層する最大幅の方向性鋼板を1枚にすると共に最外側に積層する最小幅の方向性鋼板の幅寸法を3mm以上とした積層法と、中心鉄芯、2次コイル、1次コイル、外装鉄芯を収容したケースからなる点火コイルでは、前記中心鉄芯を構成する幅の異なる短冊状の方向性鋼板の積層枚数を偶数枚とし、中央部に積層する最大幅の方向性鋼板を2枚にすると共に最外側に積層する最小幅の方向性鋼板の幅寸法を3mm以上とした積層法のうち、2次ボビンの円筒空間に対する中心鉄芯が占める割合が大きくなる方の積層法を選択して、その積層法で中心鉄芯を形成することが提案されている。
【0003】
また別の例として、特開2002−231543号公報(以下「特許文献2」)では、中心鉄芯、2次コイル、1次コイル、外装鉄芯を収容したケースからなる点火コイルでは、前記中心鉄芯の中心付近の薄板に幅を縮小した他の積層方向と垂直な積層方向となるように配置した薄板を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−293418号公報
【特許文献2】特開2002−231543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の点火コイルでは、中心鉄芯の積層枚数を奇数枚であれば中央部に積層する最大幅の方向性鋼板は1枚に、偶数枚であれば中央部に積層する最大幅の方向性鋼板は2枚になるため、前記中心鉄芯の階段状の部分が増えてしまい加工が難しくなるので材料ロスの原因となる。
【0006】
また、特許文献2の点火コイルでは、中心鉄芯の中心付近の薄板に幅を縮小した他の積層方向と垂直な積層方向となるように配置した薄板を配置するため、構造や製造工程の複雑化が生じることになる。本発明は上記課題に鑑みなされたもので、構造や製造工程の簡略化による不良発生の抑制且つ小型化もしくは同じ寸法で出力性能向上を可能とした点火コイルを提供することを目標とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は次のような構成とする。すなわち、請求項1の発明においては、円筒状のケースに外装鉄芯と1次コイルと2次コイルと中心鉄芯を収容し、当該ケースの開口部にモールド樹脂を充填し、前記中心鉄芯は幅の異なる複数の種類の薄板を積層して略円周形状を保つ棒状にし、前記中心鉄芯の軸方向端部の少なくとも一方の端部の延長部に永久磁石を備えた点火コイルにおいて、前記中心鉄芯の円周上内側に積層される薄板の中で均等な幅で積層されている薄板は一方向のみに磁化しやすい方向性鋼板を用いることを特徴とする点火コイルとする。また上記構成においては、前記中心鉄芯の円周上外側に積層される少なくとも一方の薄板の中で前記中心鉄芯を略円周形状に成形するために階段状に積層される薄板は特定の方向に偏って磁化しない無方向性鋼板を用いることを特徴とする点火コイルとしてもよい。
【0008】
また別の発明としては、円筒状のケースに外装鉄芯と1次コイルと2次コイルと中心鉄芯を収容し、当該ケースの開口部にモールド樹脂を充填し、前記中心鉄芯は幅の異なる複数の種類の薄板を積層して略円周形状を保つ棒状にし、前記中心鉄芯の軸方向端部の少なくとも一方の端部の延長部に永久磁石を備えた点火コイルにおいて、前記中心鉄芯の円周上内側に積層される薄板の中で均等な幅で積層されている薄板は特定の方向に偏って磁化しない無方向性鋼板を用いることを特徴とする点火コイルとしてもよい。さらに上記構成においては、前記中心鉄芯の円周上外側に積層される少なくとも一方の薄板の中で前記中心鉄芯を略円周形状に成形するために階段状に積層される薄板は一方向のみに磁化しやすい方向性鋼板を用いることを特徴とする点火コイルとしてもよい。
【発明の効果】
【0009】
上記構成通り、中心鉄芯の円周上内側に積層される薄板の中で均等な幅で積層されている薄板は一方向のみに磁化しやすい方向性鋼板を用いたことで前記点火コイルの出力性能向上ができる。さらに、前記中心鉄芯の円周上外側に積層される少なくとも一方の薄板の中で前記中心鉄芯を略円周形状に成形するために階段状に積層される薄板は特定の方向に偏って磁化しない無方向性鋼板を用いることで階段状の部分が加工しやすくすることができることで点火コイルの不良発生の抑制且つ小型化もしくは同じ寸法で出力性能向上が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例とする点火コイルの側面断面図を示す。
【図2】本発明の第1の実施例とする中心鉄芯の径方向断面図を示す。
【図3】本発明の第2の実施例とする中心鉄芯の径方向断面図を示す。
【図4】従来の中心鉄芯の径方向断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を示す複数の実施例を図に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
本発明の第1の実施例による本発明の実施例とする点火コイルの側面断面図を図1に示す。本発明の点火コイルは、図示しないエンジン上部に形成されたプラグホール内に収容され、この高圧出力側は点火プラグに接続され、高電圧を点火プラグへ供給している。
【0013】
図1において、点火コイルの外形を形成しているケース18はプラグホールに挿入される部分を円筒形状とし、プラグホール外に突出している部分は前記円筒形状の断面積よりも広い形状で一体樹脂成形で形成されている。前記ケース18の円筒形状部分には2次ボビンの円筒空間に配置されるため前記円筒空間に沿うように略円筒形状に形成するために幅の異なる複数の種類の薄板を積層し略円周形状を保つ棒状の中心鉄芯14と、当該中心鉄芯14の外側には2次ボビンの外周に2次巻線を1万ターン前後巻き回した2次コイル12と、当該2次コイル12の外側には1次ボビンの外周に1次巻線を200ターン前後巻き回した1次コイル10と、当該1次コイルの外側には筒状の外装鉄芯16を収容している。
【0014】
また、前記ケース18の開口部には点火コイルの点火動作を制御するイグナイタが配置されると共に、1次電源の供給と当該イグナイタに制御信号を入力する1次端子を備えており、前記円筒部分と突出空間には点火コイルの電気的絶縁と各部材の物理的固定を実現するために熱硬化性のモールド樹脂20が充填されている。
【0015】
次に本発明の第1の実施例とする中心鉄芯の径方向断面図を示す図2に基づき説明する。図2において本実施例では、前記中心鉄芯14は2次ボビンの円筒空間に配置されるため前記円筒空間に沿うように略円筒形状に形成するために幅の異なる薄板を30枚程度積層し形成されている。また前記中心鉄芯14の円周上内側に積層される薄板の中で均等な幅で積層されている薄板は一方向のみに磁化しやすいフェライト(以下「方向性鋼板24」という)を用いている。また前記中心鉄芯14の円周上外側に積層される両方向の薄板の中で前記中心鉄芯14を略円周形状に成形するために階段状に積層される薄板は特定の方向に偏って磁化しないマンガン(以下「無方向性鋼板26」という)を用いている。さらに前記中心鉄芯14を略円周形状に成形するため階段状に積層される薄板は前記中心鉄芯14に積層される全薄板の3割程度の枚数としている。さらに前記中心鉄芯14は軸方向の両端部の延長部に誘起される磁界の向きと逆向きの極性を有する円柱形状の永久磁石22を備えている。さらに当該永久磁石22を備えた前記中心鉄芯14を軸方向に垂直面に対してモールド樹脂のクラックを効果的に抑制するための絶縁テープを巻き回して前記永久磁石22と前記中心鉄芯14を固定している。
【0016】
また上記実施例1の変形例として、前記中心鉄芯14に積層される鋼板の枚数は設計事項により他の任意の枚数に変更してもよい。また方向性鋼板24は他の材質、例えばコバルト、ニッケル、カドリニウムを用いてもよい。また前記中心鉄芯14の円周上外側に積層される両方向の薄板の中で前記中心鉄芯14を略円周形状に成形するために階段状に積層される無方向性鋼板26はステンレスを用いてもよい。さらに前記中心鉄芯14を略円周形状に成形するため階段状に積層される薄板の数も任意に選択可能である。さらに前記中心鉄芯14は軸方向の一方の端部の延長部に誘起される磁界の向きと逆向きの極性を有する円柱形状の永久磁石22を備えてもよい。
【実施例2】
【0017】
次に、本発明の第2の実施例とする中心鉄芯の径方向断面図を示す図3に基づき説明する。当該第2の実施例においては第1の実施例で説明した前記中心鉄芯14の円周上内側に積層される薄板の中で均等な幅で積層されている方向性鋼板24に無方向性鋼板26を用いた点と、前記中心鉄芯14の円周上外側に積層される両方向の薄板の中で前記中心鉄芯14を略円周形状に成形するために階段状に積層される無方向性鋼板26に方向性鋼板24を用いた点を除いた他の構造は第1の実施例と同一であるため説明は省略する。
【0018】
図3において本実施例では、中心鉄芯14は2次ボビンの円筒空間に配置されるため前記円筒空間に沿うように略円筒形状に形成するために幅の異なる薄板を30枚程度積層し形成されている。また前記中心鉄芯14の円周上内側に積層される薄板の中で均等な幅で積層されている薄板は特定の方向に偏って磁化しないマンガン(以下「無方向性鋼板26」という)を用いている。また前記中心鉄芯14の円周上外側に積層される両方向の薄板の中で前記中心鉄芯14を略円周形状に成形するために階段状に積層される薄板は一方向のみに磁化しやすいフェライト(以下「方向性鋼板24」という)を用いている。さらに前記中心鉄芯14を略円周形状に成形するため階段状に積層される薄板は前記中心鉄芯14に積層される全薄板の3割程度の枚数としている。さらに前記中心鉄芯14は軸方向の両端部の延長部に誘起される磁界の向きと逆向きの極性を有する円柱形状の永久磁石22を備えている。さらに当該永久磁石22を備えた前記中心鉄芯14を軸方向に垂直面に対してモールド樹脂のクラックを効果的に抑制するための絶縁テープを巻き回して前記永久磁石22と前記中心鉄芯14を固定している。
【0019】
また上記実施例2の変形例として、前記中心鉄芯14に積層される鋼板の枚数は設計事項により他の任意の枚数に変更してもよい。また前記中心鉄芯14の円周上外側に積層される両方向の薄板の中で前記中心鉄芯14を略円周形状に成形するために階段状に積層される無方向性鋼板26はステンレスを用いてもよい。また方向性鋼板24は他の材質、例えばコバルト、ニッケル、カドリニウムを用いてもよい。さらに前記中心鉄芯14を略円周形状に成形するため階段状に積層される薄板の数も任意に選択可能である。さらに前記中心鉄芯14は軸方向の一方の端部の延長部に誘起される磁界の向きと逆向きの極性を有する円柱形状の永久磁石22を備えてもよい。
【符号の説明】
【0020】
10:1次コイル
12:2次コイル
14:中心鉄芯
16:外装鉄芯
18:ケース
20:モールド樹脂
22:永久磁石
24:方向性鋼板
26:無方向性鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のケースに外装鉄芯と1次コイルと2次コイルと中心鉄芯を収容し、当該ケースの開口部にモールド樹脂を充填し、
前記中心鉄芯は幅の異なる複数の種類の薄板を積層して略円周形状を保つ棒状にし、
前記中心鉄芯の軸方向端部の少なくとも一方の端部の延長部に永久磁石を備えた点火コイルにおいて、
前記中心鉄芯の円周上内側に積層される薄板の中で均等な幅で積層されている薄板は一方向のみに磁化しやすい方向性鋼板を用いることを特徴とする点火コイル。
【請求項2】
請求項1に記載の点火コイルにおいて、前記中心鉄芯の円周上外側に積層される少なくとも一方の薄板の中で前記中心鉄芯を略円周形状に成形するために階段状に積層される薄板は特定の方向に偏って磁化しない無方向性鋼板を用いることを特徴とする点火コイル。
【請求項3】
円筒状のケースに外装鉄芯と1次コイルと2次コイルと中心鉄芯を収容し、当該ケースの開口部にモールド樹脂を充填し、
前記中心鉄芯は幅の異なる複数の種類の薄板を積層して略円周形状を保つ棒状にし、
前記中心鉄芯の軸方向端部の少なくとも一方の端部の延長部に永久磁石を備えた点火コイルにおいて、
前記中心鉄芯の円周上内側に積層される薄板の中で均等な幅で積層されている薄板は特定の方向に偏って磁化しない無方向性鋼板を用いることを特徴とする点火コイル。
【請求項4】
請求項3に記載の点火コイルにおいて、前記中心鉄芯の円周上外側に積層される少なくとも一方の薄板の中で前記中心鉄芯を略円周形状に成形するために階段状に積層される薄板は一方向のみに磁化しやすい方向性鋼板を用いることを特徴とする点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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