説明

内燃機関用ピストン及び内燃機関

【課題】エンジンの熱効率を低下させることなく、エンジンオイルに由来して生成される粒子状物質の排出を低減する。
【解決手段】トップリング31より上方に位置し且つ燃焼室13内に面するピストン頂面12aの外周部には、空孔が多数形成された多孔質部材36が装着されている。燃焼室13内に漏洩したオイルは、多孔質部材36の空孔に毛細管現象により染み込んで一時的に蓄積されることで、ピストン頂面12aに形成されるオイルの油膜を薄くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ内を往復運動する内燃機関用ピストン、及びピストンを備える内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のピストンは、ピストンリングによって燃焼ガス圧力のクランクケースへの漏洩、及び潤滑に使用されるエンジンオイル(潤滑油)の燃焼室内への漏洩を抑制している。しかし、ピストンリングとピストンは別部品であり、ピストンリングの合口やエンジン実働時におけるピストンリングの挙動によってピストンリングとピストンとの間に隙間が生じるため、少量の漏洩を免れることはできない。
【0003】
漏洩したオイルは、ピストンのトップリング上方のトップランドを経て、燃焼室内に面するピストン頂部に蓄積されることになる。ピストン頂部に蓄積されたオイルは、高温の筒内ガスに曝されて蒸発したり、ピストンの上下動に伴って生じる慣性力によって筒内に飛散したりすることになる。
【0004】
エンジンの燃焼室内に蒸発・飛散したオイルは、エンジンの膨張行程において高温に曝されることになる。蒸発によるオイルは、その蒸発量が少ない場合には周辺の酸素によって酸化(燃焼)されるが、蒸発量が多い場合には局部的な過濃状態、すなわち酸素不足となるために充分な酸化ができずにすす化することになる。また、慣性力で飛散したオイルは、粒子径が小さい場合は周辺の酸素によって酸化(燃焼)されるが、粒子径が大きくなると充分な酸化ができずにすす化することになる。エンジンオイルの場合は、粘度が高いため、粒子が大きくなりやすく、すすが生成されやすい。エンジンオイルに由来して生成される粒子状物質の排出を低減するための手段としては、排気管に設けられるパティキュレートフィルタ等の粒子を捕捉する手段が用いられる。
【0005】
【特許文献1】特開2001−73869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ピストン頂部に蓄積されたオイルの蒸発による消失においては、オイルの油膜厚さが厚いほど油膜の表面温度が高くなるために、単位時間あたりのオイルの蒸発量が増加する。また、ピストン頂部に蓄積されたオイルの筒内への飛散については、オイルの油膜厚さが厚くなると、付着面積あたりのオイル質量が増加するために、オイルの慣性力が増加してピストン頂部表面からオイルが飛散しやすくなる。特にエンジン回転数が高い場合にオイルが飛散しやすくなる。
【0007】
エンジンオイルに由来して生成される粒子状物質の排出を低減するために、パティキュレートフィルタ等の粒子を捕捉する手段を排気管に設けると、エンジンの排気抵抗が増大するため、エンジンの熱効率が低下する。エンジンの熱効率を低下させることなく粒子状物質の排出を低減するためには、エンジンの燃焼室内に蒸発・飛散したオイルのすす化を抑制することが望ましい。そのためには、ピストン頂部に蓄積されるオイルの油膜を薄くして、オイルの蒸発量・飛散量を低減することが望ましい。
【0008】
本発明は、エンジンの熱効率を低下させることなく、エンジンオイルに由来して生成される粒子状物質の排出を低減することができる内燃機関用ピストン及び内燃機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る内燃機関用ピストン及び内燃機関は、上述した目的を達成するために以下の手段を採った。
【0010】
本発明に係る内燃機関用ピストンは、内燃機関の燃焼室内に面するピストン頂部を有し、ピストン頂部より下方で且つピストン外周部にピストンリングが装着されるリング溝が形成された内燃機関用ピストンであって、ピストン頂部の外周部に多孔質部材が設けられていることを要旨とする。
【0011】
また、本発明に係る内燃機関は、シリンダ内を往復運動するピストンを備える内燃機関であって、前記ピストンが、本発明に係る内燃機関用ピストンであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃焼室内に漏洩したエンジンオイルがピストン頂部の外周部に設けられた多孔質部材内に毛細管現象により染み込んで一時的に蓄積されることで、ピストン頂部に形成されるオイルの油膜を薄くすることができる。そのため、オイルの蒸発量・飛散量を低減することができ、燃焼室内に蒸発・飛散したオイルのすす化を抑制することができる。その結果、エンジン熱効率を低下させることなく、エンジンオイルに由来して生成される粒子状物質の排出を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関のピストン近傍の概略構成を示す図であり、図2〜4は、本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンの概略構成を示す図である。図1はクランクシャフトの軸線方向から見た内燃機関のピストン近傍の内部構成の概略を示す図であり、図2はクランクシャフトの軸線方向から見たピストン12の概略構成を示す断面図(ピストンスラスト方向の断面図)であり、図3はクランクシャフトの軸線方向及びシリンダ11の軸線方向と直交する方向から見たピストン12の概略構成を示す外観図(ピストンピンボス方向の外観図)であり、図4はシリンダ11の軸線方向の上側から見たピストン12の概略構成を示す外観図である。図1では、コネクティングロッドやクランクシャフトや動弁機構等の具体的構成の図示を省略しているが、公知の構成で実現可能である。本実施形態に係るピストン12は、シリンダ11内をその軸線方向に沿って往復運動するものであり、内燃機関の燃焼室13内(シリンダ11内のガス)に面するピストン頂面12aを含むピストンヘッド部14と、ピストンヘッド部14より下方で且つピストン12外周部に設けられ、シリンダ内周壁11aに面する一対のピストンスカート部16と、ピストンヘッド部14より下方に設けられ、ピストンピンが嵌入されるピストンピン孔19が形成された一対のピストンピンボス部18と、を備える。ピストン12の材料としては、例えばアルミニウム合金等、熱伝導率の高い材料が用いられる。また、内燃機関の具体例としては、例えば予混合ガソリンエンジンを挙げることができる。
【0015】
ピストン12(ピストンヘッド部14)の外周部で且つピストン頂面12aより下方の部分には、ピストンリング(コンプレッションリング)が装着されるリング溝として、トップリング溝21及びセカンドリング溝22がピストン周方向に沿って形成されており、トップリング溝21及びセカンドリング溝22には、コンプレッションリングとしてトップリング31及びセカンドリング32がそれぞれ装着されている。ピストン12の外周部におけるピストンヘッド部14とピストンスカート部16との間には、ピストンリング(オイルリング33)が装着されるリング溝として、オイルリング溝23がピストン周方向に沿って形成されている。ピストンヘッド部14とピストンスカート部16との間には、オイルリング溝23に開口するスリット孔24がピストン周方向に沿って形成されている。ピストンリング31〜33は、ピストン12の往復運動の際に、シリンダ内周壁11aに対し摺動し、シリンダ内周壁11aには、潤滑のためのエンジンオイル(潤滑油)が供給される。オイルリング33がシリンダ内周壁11aに対し摺動する際に掻き落としたオイルは、オイルリング33に形成されたオイル穴を通ってスリット孔24へ導かれ、スリット孔24を通った後、図示しないオイルパン内へ落下する。
【0016】
本実施形態では、トップリング31(トップリング溝21)より上方(燃焼室13側)に位置するピストン頂面12aの外周部には、空孔が多数形成された多孔質部材36が燃焼室13内に面する状態で装着されている。ここでの空孔の直径は、例えば数μm〜数十μm程度である。ここでの多孔質部材36は、燃焼室13内の燃焼圧力が漏れるのを防ぐために、ピストン12の裏側には貫通しない。多孔質部材36の材料としては、例えばアルミニウム合金等の焼結金属を用いることができるが、空孔を有していて燃焼室13内の高温の燃焼ガスに耐える材料であればこれに限らない。図4に示す例では、多孔質部材36は、円環状であり、ピストン頂面12aの外周部における全周に渡って設けられている。多孔質部材36は、例えば鋳包みによりピストン12に結合され、ピストン頂面12aの中央部には、上方へ向かうにつれて直径が徐々に増大するテーパ形状の抜け留め37が設けられている。ただし、多孔質部材36については、例えばピストン頂面12aの全面に設けることも可能であり、少なくともピストン頂面12aの外周部に設けられていればよい。
【0017】
前述のように、燃焼室13内に漏洩したオイルは、ピストン頂面12aに蓄積される。図5に示すように、ピストン頂面12aの外周部に多孔質部材36が設けられていない場合は、漏洩したオイル35が油膜となってピストン頂面12aの外周部に付着する。油膜となって付着したオイル35は、高温の筒内ガスに曝されて蒸発したり、ピストン12の慣性力によって筒内に飛散したりする。オイル35の蒸発による消失においては、オイル35の油膜厚さが厚いほど油膜の表面温度が高くなるために、単位時間あたりのオイル35の蒸発量が増加する。図6に、ピストン頂面12aに付着したオイル35の油膜厚さと蒸発量との関係を計算により算定した結果を示す。図6に示す計算の際には、エンジン回転数を一定としている。図6に示すように、オイル35の油膜厚さが厚くなると、オイル35の蒸発量が急激に増加することがわかる。また、オイル35の筒内への飛散については、オイル35の油膜厚さが厚くなると、付着面積あたりのオイル質量が増加するために、オイル35の慣性力が増加してピストン頂面12aからオイル35が飛散しやすくなる。特にエンジン回転数が高い場合にオイル35が飛散しやすくなる。
【0018】
ピストン頂面12aに付着するオイル35の油膜厚さが厚くなってオイル35の蒸発量が増加すると、蒸発したオイル35が局部的に過濃となる(酸素不足となる)ために充分な酸化(燃焼)ができずにすす粒子化することになる。また、飛散したオイル35の粒子径が大きくなると充分な酸化ができずにすす粒子化することになる。特にエンジンオイルの場合は、粘度が高いため、粒子が大きくなりやすく、すすが生成されやすい。予混合ガソリンエンジンにおいては、ほぼ理論空燃比で混合気を燃焼させるため、排気中の酸素濃度が低く、生成されたすす粒子は排気管内で再燃焼することなく大気へ放出されることになる。図7に、予混合ガソリンエンジンにおいてスロットルを閉じた低負荷状態からスロットルを開いて高負荷状態に移行させた場合のエンジンから排出される粒子状物質の粒子数濃度(粒子数/cm3)を実験により計測した結果を示す。エンジンが搭載された車両の運転状態としては、エンジンブレーキで減速した後に急加速をした状態を模擬している。図7から、エンジンブレーキ時(低負荷運転時)のオイル上がりによってピストン頂面12aに付着したオイル35が急加速時(高負荷運転時)に粒子化して排出される様子がわかる。特にスロットルを閉じた低負荷運転時には、吸気行程にて吸気圧力が負圧となってクランクケース圧力よりも低くなることで、オイル上がりが発生しやすく、ピストン頂面12aに付着するオイル35の油膜厚さが厚くなりやすい。そして、高負荷運転時には、ピストン頂面12a温度が高くなることで、ピストン頂面12aに付着したオイル35が蒸発しやすく、粒子化して排出されやすい。このように、ピストン頂面12aに付着するオイル35の油膜厚さが厚くなると、このオイル35から生成される粒子状物質の排出量が増大する。
【0019】
これに対して本実施形態では、燃焼室13内に漏洩したオイル35は、図8に示すように、ピストン頂面12aの外周部に設けられた多孔質部材36の空孔に毛細管現象により染み込んで一時的に蓄積される。このため、多孔質部材36が無い場合と比較して、ピストン頂面12aに形成されるオイル35の油膜を薄くすることができる。オイル35の油膜が薄い場合は油膜の表面温度が低くオイル35の蒸発が緩慢になるので、燃焼室13内に蒸発オイルの過濃部分が形成されにくくなり、すす粒子の生成を抑制することができる。また、多孔質部材36の空孔内に染み込んだオイル35については、表面張力によりピストン12の往復運動時の飛散が防止されるとともに、徐々に蒸発させることができる。そのため、蒸発オイルの過濃部分が形成されることもなく、すす粒子が生成されにくい特性となる。したがって、本実施形態によれば、エンジンオイルに由来して生成される粒子状物質の排出量を低減することができる。その際には、パティキュレートフィルタ等の粒子を捕捉する手段を排気管に設けることなく粒子状物質の排出量を低減することができるので、内燃機関の排気抵抗の増大を招くこともなく、内燃機関の熱効率の低下を招くこともない。
【0020】
なお、特許文献1には、ピストンリング溝の耐摩耗性を向上させるために、ピストンリング溝に焼結体を鋳込む構成が開示されている。しかし、特許文献1では、ピストン頂面に焼結体が設けられていないため、ピストン頂面にオイルの厚い油膜が形成される。そのため、特許文献1では、燃焼室内でのオイルの蒸発・飛散によるすす粒子の生成を抑制する効果は得られない。さらに、特許文献1には、燃焼室内に漏洩するオイルを焼結体の空孔に毛細管現象により染み込ませて一時的に蓄積することについても示されていない。
【0021】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンを備える内燃機関のピストン近傍の内部の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンの概略構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンの概略構成を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンの概略構成を示す図である。
【図5】ピストン頂面の外周部に多孔質部材が設けられていない内燃機関用ピストンのオイル付着状況を説明する図である。
【図6】ピストン頂面に付着したオイルの油膜厚さと蒸発量との関係を計算により算定した結果を示す図である。
【図7】予混合ガソリンエンジンにおいてスロットルを閉じた低負荷状態からスロットルを開いて高負荷状態に移行させた場合のエンジンから排出される粒子状物質の粒子数濃度を実験により計測した結果を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る内燃機関用ピストンのオイル付着状況を説明する図である。
【符号の説明】
【0023】
11 シリンダ、11a シリンダ内周壁、12 ピストン、12a ピストン頂面、13 燃焼室、14 ピストンヘッド部、16 ピストンスカート部、18 ピストンピンボス部、19 ピストンピン孔、21 トップリング溝、22 セカンドリング溝、23 オイルリング溝、24 スリット孔、31 トップリング、32 セカンドリング、33 オイルリング、35 オイル、36 多孔質部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃焼室内に面するピストン頂部を有し、ピストン頂部より下方で且つピストン外周部にピストンリングが装着されるリング溝が形成された内燃機関用ピストンであって、
ピストン頂部の外周部に多孔質部材が設けられている、内燃機関用ピストン。
【請求項2】
シリンダ内を往復運動するピストンを備える内燃機関であって、
前記ピストンが、請求項1に記載の内燃機関用ピストンである、内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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