説明

内燃機関用点火コイル

【課題】組立作業性を低下させることなく、磁気回路抵抗の増大を大幅に抑制することができる内燃機関用点火コイルを提供する。
【解決手段】1次コイル2及び2次コイル3の内側に配置されたセンターコア1と、1次コイル2及び2次コイル3の外側に配置され、一方の端面がセンターコア1の一端面に当接し、他方の端面がマグネット5を介してセンターコア1の他端面に当接するサイドコア4とを備え、サイドコア4は、積層された電磁鋼板が長手方向の異なる位置で分割された複数のサイドコア部9,10で構成され、隣接するサイドコア部9,10の電磁鋼板が前記長手方向の異なる位置間で互いに重なり合う重合部分11を有すると共に、重合部分11において、電磁鋼板の厚さを他の部分の厚さよりも小さく構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の点火プラグに高電圧を供給する内燃機関用点火コイルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃機関用点火コイルに用いられる閉磁路構成のコアは、1次コイル及び2次コイルの内側に配置されたセンターコアと、一方の端面がセンターコアの一端面に当接し、他方の端面がマグネットを介してセンターコアの他端面に当接するサイドコアとで構成され、サイドコアを二分割することでセンターコアとマグネットとサイドコアの寸法が多少変動したとしても、各々を組み立てる作業性が低下しないようにすることが知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−294914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の内燃機関用点火コイルでは、前述のとおりサイドコアを二分割しているために、分割面のズレによって磁気回路抵抗が生じて点火コイルの性能が低下する。分割面のズレを少なくするために分割面を斜めに形成することが知られているものの、ミクロな視点でみた場合には、コアを金型で打ち抜いた際のダレなどの製造ばらつきによって、磁気回路抵抗が生じる要因を避けることができなかった。前記磁気回路抵抗を小さくするには、コアの材料を可能な限り薄い電磁鋼板を採用して枚数を多く積層、さらに抜きダレ面を後工程でエッジ加工するなどの処理が必要であり、高コストとなっていた。
【0005】
この発明は、前記のような問題に鑑み、組立作業性を低下させることなく、磁気回路抵抗の増大を大幅に抑制することができる内燃機関用点火コイルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の内燃機関用点火コイルは、1次コイル及び2次コイルの内側に配置されたセンターコアと、前記1次コイル及び前記2次コイルの外側に配置され、一方の端面が前記センターコアの一端面に当接し、他方の端面がマグネットを介して前記センターコアの他端面に当接するサイドコアとを備え、前記サイドコアは、積層された電磁鋼板が長手方向の異なる位置で分割された複数のサイドコア部で構成され、隣接する前記サイドコア部の電磁鋼板が前記長手方向の異なる位置間で互いに重なり合う重合部分を有すると共に、前記重合部分において、前記電磁鋼板の厚さを他の部分の厚さよりも小さく構成した。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、組立作業性を低下させることなく、磁気回路抵抗の増大を大幅に抑制することができる内燃機関用点火コイルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1の内燃機関用点火コイルを示す断面図である。
【図2】図1のサイドコア4を示す正面図である。
【図3】この発明の実施の形態2のサイドコアを示す上面及び正面図である。
【図4】サイドコアを積層プレスする際のプレス金型の動作を示す説明図である。
【図5】サイドコアを熱可塑性エラストマでインサート成形した後の上面及び正面図である。
【図6】この発明の実施の形態3のサイドコアを示す正面図である。
【図7】サイドコアの位置決め部を示す要部断面図である。
【図8】この発明の実施の形態4のサイドコアを示す正面図である。
【図9】この発明の実施の形態5を示すサイドコアを示す正面図である。
【図10】前記サイドコアのプレス時の配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1による内燃機関用点火コイルを示す断面図、図2は図1のサイドコア4を示す上面及び正面図である。
この内燃機関用点火コイルでは、電磁鋼板を積層して構成されたほぼI字形状のセンターコア1の外側に1次コイル2が設けられている。1次コイル2の外側に2次コイル3が設けられている。
センターコア1の一端面には、1次コイル2の通電による発生磁束の方向とは逆の方向に磁化されたマグネット5が当接している。2次コイル3の外側には、センターコア1、マグネット5と共同し閉磁路を形成する略U字形状のサイドコア4が設けられている。サイドコア4では、両端部の内側を除いて、弾性樹脂材である熱可塑性エラストマで構成され可とう性を有するコアカバー6で覆われている。
センターコア1、1次コイル2、2次コイル3、サイドコア4、マグネット5、及びコアカバー6は、ケース7内に、熱硬化性のエポキシ樹脂である絶縁樹脂8で固定されて収納されている。
【0010】
サイドコア4は、電磁鋼板を積層して形成された略L字形状の2個のサイドコア部9,10で構成され、サイドコア部9,10は積層された電磁鋼板が長手方向の異なる位置で分割されるよう一枚ごとにずらして切断されている。
そして、第一のサイドコア部9の一端9aと第二のサイドコア部10の一端10a、第一のサイドコア部9の他端9bと第二のサイドコア部10の他端10bとが当接し、長手方向の異なる分割位置間で両サイドコア部9,10の電磁鋼板が互いに重なり合う重合部分11を形成している。
【0011】
このように実施の形態1の内燃機関用点火コイルにおいては、1次コイル2及び2次コイル3の内側に配置されたセンターコア1と、1次コイル2及び2次コイル3の外側に配置され、一方の端面がセンターコア1の一端面に当接し、他方の端面がマグネット5を介してセンターコア1の他端面に当接するサイドコア4とを備え、サイドコア4は、積層された電磁鋼板が長手方向の異なる位置で分割された複数のサイドコア部9,10で構成され、隣接するサイドコア部9,10の電磁鋼板が前記長手方向の異なる位置間で互いに重なり合う重合部分11を有するので、サイドコア部9,10の積層面どうしが当接しており、単に分割面のみで当接するのに比べて大幅に広い接触面を確保することが可能となり、磁気回路抵抗の増大を大幅に抑制することが可能となる。
さらに、2個のサイドコア部9,10は積層面で互いに保持されているので、インサート成形する際の成形金型への供給も一度に行うことが可能となり、安価に製造することが可能となる。
【0012】
なお、この実施の形態1では電磁鋼板一枚ごとに分割位置をずらして構成した場合を説明したが、複数枚まとめてずらすことも製品要求性能によっては可能である。
また、2個のサイドコア部を用い、重合部分(ラップ部分)が一箇所のみの例を示したが、2個以上のサイドコア部を用い、重合部分を複数箇所としても良い。
また、両サイドコア部は、互いに保持されているものの多少の力で動かすことが可能であり、両者を一体的に熱可塑性エラストマで成形することにより、センターコア、マグネットと組み立てる際にサイドコアを広げながらの作業が可能であり、作業性が向上する。
さらに、成形された熱可塑性エラストマは、エポキシ樹脂である絶縁樹脂と各コアとの間で緩衝材として機能するために、熱ストレスが加わった際のエポキシ樹脂割れを防ぐことも可能となる。
【0013】
実施の形態2.
図3はこの発明の実施の形態2におけるサイドコアを示す正面図、図4はサイドコアを積層プレスする際のプレス金型の動作を示す説明図、図5は図3のサイドコアを熱可塑性エラストマでインサート成形した後の上面及び正面図である。
電磁鋼板を積層してサイドコア4を形成するには、電磁鋼板23を金型の固定ダイ20にのせてカット刃21をおろすことで切断して積層していくため、切断ごとにカエリ23cと呼ばれる変形部が形成されてしまう。前記カエリ23cは次に積層される電磁鋼板と重ねた際に水平にされ、積層の端面に位置する部分は、コアカバー6で覆うように熱可塑性エラストマでインサート成形する際の押さえピン6aで押さえて水平にしている。
【0014】
以上のように、実施の形態2によるサイドコア4は、第一のサイドコア部9と第二のサイドコア部10が重なり合う重合部分11をインサート成形する際の成形金型で押さえたので、積層端面のカエリの変形が修正されて水平となり、当接する積層板とのギャップをなくすことができるので、磁気抵抗の増大を抑えて高性能な点火コイルを得ることが可能となる。
【0015】
実施の形態3.
図6はこの発明の実施の形態3のサイドコアを示す正面図、図7はサイドコアの位置決め部を示す要部断面図である。
この実施の形態3のサイドコア4は、第一のサイドコア部9と第二のサイドコア部10とに分割されており、その分割位置が一枚ごとにずらして構成され、サイドコア部9,10の重合部分11に位置決め部12を設置している。位置決め部12は、第一のサイドコア部9の凹部9dと第二のサイドコア部10の凸部10dとが嵌合することで構成され、この位置決め部12を軸として回動することが可能である。
さらに、第一のサイドコア部9と第二のサイドコア部10との合わせ面形状は、位置決め部12を中心とする円形状部13aが外側に配置されて、円形状部13aと接する直線部13b部が内側に配置されて形成しており、略U字形状のサイドコア4は外側には回動するものの、内側には直線部13bに制限されて回動しないように構成されている。
【0016】
以上説明したように、この実施の形態3によるサイドコア4は、サイドコア部9,10の重合部分11に位置決め部12を設置しているので、位置決め部12を軸に回動するものの、分割された第一のサイドコア9と第二のサイドコア10とが離れることはないので、センターコア1、マグネット5との組立性がさらに向上して、組立作業時間が短縮可能となる。
さらに、第一のサイドコア部9と第二のサイドコア部10との合わせ面形状を位置決め部12を中心とする円形状部13aを略U字形状コア4の外側に配置し、円形状部13aと接する直線部13bを内側に配置したので、両者の回動方向が略U字形状が開く方向、つまりサイドコア4をセンターコア1、マグネット5と組付けやすい方向にしか動かないように規制したので、組付け性が向上する。
なお、円形状部13aと直線部13bとの割合を変更することで規制量を変化させることができるため、センターコア1、マグネット5のばらつき量に応じて調整が可能である。
【0017】
実施の形態4.
図8はこの発明の実施の形態4のサイドコアを示す正面図である。
この実施の形態4のサイドコア4は、実施の形態3と同様に両サイドコア部9,10の重合部分11に位置決め部12を設置しているが、両サイドコア部9,10の重合部分11におけるサイドコア4aの厚さが他の部分よりも小さく設定されている。
以上のように、この実施の形態4によるサイドコア4は第一のサイドコア部9と第二のサイドコア部10との重合部分11の厚さを小さく設定したので、例えば、組み合わせられるセンターコア1、マグネット5の長さが長めにばらついて、略U字形状のサイドコア4が開いた形状で組みつけられたとしても、高電圧発生部である2次コイル3にグランド電位であるサイドコア4が近接することがなく、絶縁距離を確保することが可能となり、信頼性の高い製品を提供可能となる。
【0018】
実施の形態5.
図9はこの発明の実施の形態5を示すサイドコアを示す正面図で、図10は前記サイドコアのプレス時の配置図である。
この実施の形態5のサイドコア4は、I字形状を有する3個のサイドコア部14,15,16により略U字形状に形成されている。そして、これらのサイドコア部14,15,16は、方向性電磁鋼板を材料とし、長手方向が磁化容易方向100となるように形成されると共に、それらの角部17,18を重合部分11として方向性電磁鋼板の分割位置が一枚ごとにずらされている(図示せず)。
以上のように、この実施の形態5によるサイドコア4は、I字形状を有する3個のサイドコア部14,15,16で構成されているので、図10に示すように方向性電磁鋼板19を用いて3個のサイドコア部14,15,16を直線状に同時にプレスでき、かつ、互いに近接して配置できるため、プレス時の歩留まりが非常によくなる。
また、略U字形状を構成する3部分のすべてが方向性電磁鋼板19の磁化容易方向で形成されているので、磁束が通過しやすく高性能な点火コイルを得ることができる。
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0019】
1 センターコア、2 1次コイル、3 2次コイル、4 サイドコア、5 マグネット6 コアカバー、6a 押さえピン、7 ケース、8 絶縁樹脂、9,10 サイドコア部、11 重合部分、12 位置決め部、13a 円形状部、13b 直線部、14,15,16 サイドコア部、17,18 角部、19 方向性電磁鋼板、20 固定ダイ、21 カット刃、23 電磁鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次コイル及び2次コイルの内側に配置されたセンターコアと、前記1次コイル及び前記2次コイルの外側に配置され、一方の端面が前記センターコアの一端面に当接し、他方の端面がマグネットを介して前記センターコアの他端面に当接するサイドコアとを備え、
前記サイドコアは、積層された電磁鋼板が長手方向の異なる位置で分割された複数のサイドコア部で構成され、隣接する前記サイドコア部の電磁鋼板が前記長手方向の異なる位置間で互いに重なり合う重合部分を有すると共に、
前記重合部分において、前記電磁鋼板の厚さを他の部分の厚さよりも小さく構成したことを特徴とする内燃機関用点火コイル。
【請求項2】
前記サイドコアは、前記電磁鋼板の分割位置が一枚ごとずらされた略L字形状を有する2個のサイドコア部で略U字形状に構成されていることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項3】
前記サイドコアは、弾性樹脂材で周囲を覆われていることを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項4】
前記弾性樹脂材は前記重合部分を成形金型で押さえて成形されたことを特徴とする請求項3記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項5】
前記重合部分に、回動可能な位置決め部を形成したことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項6】
前記サイドコアは、I字形状を有する3個のサイドコア部により略U字形状に構成され、かつ、各角部を前記重合部分としたことを特徴とする請求項1,3,4,5のいずれか一つに記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項7】
前記電磁鋼板は、方向性電磁鋼板であることを特徴とする請求項6記載の内燃機関用点火コイル。
【請求項8】
前記3個のサイドコア部は、前記方向性電磁鋼板を直線状に同時にプレス加工して得られたものであることを特徴とする請求項7記載の内燃機関用点火コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−80950(P2013−80950A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−277673(P2012−277673)
【出願日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【分割の表示】特願2010−243634(P2010−243634)の分割
【原出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】