説明

内空側に表面板を有する合成セグメントおよびトンネル

【課題】メンテナンス性を向上させるとともに充填材との一体化による合成効果を確保して高性能化が実現できる内空側に表面板を有する合成セグメント、この合成セグメントを組み合わせたトンネル覆工を備えるトンネルを提供すること。
【解決手段】内空側表面板15の内空側リブ材16によって中詰めコンクリート12の抜け出しが防止でき、鋼殻11と中詰めコンクリート12とを一体的に挙動させる合成効果が得られることから、合成セグメント10の剛性や耐力を向上させつつ薄型化を図ることができる。また、トンネル内空S側に設けた内空側表面板15は目視等で点検することができ、そのメンテナンス性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のセグメントピースを組み合わせてトンネル覆工に利用される合成セグメントであって、内空側に表面板を有する合成セグメント、この合成セグメントを組み合わせたトンネル覆工を備えるトンネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
主桁と、主桁の両端部に渡って固定される継手板と、トンネル地山側にて対向する主桁に渡って設けられる地山側のスキンプレートとを有し、それらの内部に中詰めコンクリートを充填して構成される合成セグメントが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載された合成セグメントでは、対向する主桁に渡ってH形鋼からなるずれ止めが複数架設され、このずれ止めにおけるフランジとウェブとで囲まれた中詰めコンクリートが拘束されることにより、ずれ止めを介して主桁と中詰めコンクリートとの間で応力が確実に伝達できるように構成されている。このように主桁などの鋼材と中詰めコンクリートとのずれを防止し、外力に対して一体的に挙動させる合成効果が得られることで、剛性や耐力を向上させつつ薄型化が可能な高性能の合成セグメントが実現できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−27894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されるように従来の合成セグメントは、地下水などの漏水を地山に接するトンネルの地山側で防止するという設計思想からトンネル地山側にスキンプレートが設けられることが通例である。トンネルに発生する外力による曲げモーメントはトンネル内空側へ曲げられる正曲げが大きく、トンネル地山側に曲げられる負曲げはトンネル周囲が地盤で囲まれるため、設計上、大きな問題とはならない。セグメント断面性能の観点からすれば、正曲げ時に引張材として外力に対抗でき得る位置、すなわちトンネル内空側にスキンプレートを配置したほうが効率的に部材耐力を発揮する。さらにスキンプレートをトンネル内空側に配置することでトンネル供用時におけるスキンプレートの目視点検が容易に行なえ、メンテナンス性能を向上させ得る長所も生まれる。
しかしながら、トンネル内空側にスキンプレートを配置する際の大きな課題として外力が作用した場合にスキンプレートがトンネル内空側へと剥離する挙動が発生してしまい、スキンプレートを有効に機能させることが出来ないことが挙げられる。
他方、従来の合成セグメントとしては、H形鋼を用いたずれ止め構造を持つセグメントが提案されているが、鋼材とコンクリートとを一体化することができるものの、使用する鋼材量や接合のための溶接量が多大になってしまう課題がある。そこで、H形鋼に代えて平板等を用いる簡便な構造であって、使用鋼材量や溶接量を低減しつつ、ずれ止めとして充填材(コンクリート)との一体化をも可能とする合成セグメントの実現が望まれていた。
【0005】
本発明の目的は、今後、我が国のインフラ構造物が共通して直面するであろう公共事業費削減と維持管理問題の双方を解決するために、充填材との一体化による合成効果を確保して高性能化を実現可能とする内空側に表面板を有する合成セグメント、この合成セグメントを組み合わせたトンネル覆工を備えるトンネルを提供することと、将来に渡る長期供用下におけるメンテナンス性能の向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントは、鋼殻と、その内部に充填される充填材とを有して構成されるとともに、複数のピースを組み合わせてトンネル覆工に利用される合成セグメントであって、前記鋼殻は、トンネル周方向に沿って延びて互いに対向する主桁と、これら主桁のトンネル周方向両端部同士を連結する一対の継手板と、トンネル内空側にて前記主桁に渡って設けられる内空側表面板とを少なくとも備え、これらの主桁、継手板および内空側表面板で5面が囲まれた内部に前記充填材が充填され、前記内空側表面板におけるトンネル径方向地山側表面には、当該表面から突出するとともにトンネル軸方向に沿って延びる複数の内空側リブ材が設けられ、前記複数のリブ材のうち、互いに隣り合う一対のリブ材同士は、前記内空側表面板側の基端部から突出先端側に向かって互いに接近する方向に傾斜して設けられ、前記内空側表面板に固着されていることを特徴とする。
【0007】
以上の本発明によれば、内空側表面板に複数のリブ材を設け、そのうち互いに隣り合う一対の内空側リブ材同士が内空側表面板側の基端部から突出先端側に向かって互いに接近する方向に傾斜して設けられている。すなわち隣り合う内空側リブ材の先端側の間隔距離が基端側よりも小さく設定されているので、隣り合う内空側リブ材と充填される充填材(例えば、コンクリート)とを楔状に係合させることができる。従って、内空側表面板と充填材とが互い離れる方向に移動する抜け出しが防止でき、前記内空側リブ材を介して前記鋼殻と充填材とを一体的に挙動させる合成効果が得られることで、合成セグメントの剛性や耐力を向上させつつ薄型化を図ることができる。
また、トンネル内空側にて対向する主桁に渡って内空側表面板を設けたことで、この内空側表面板を目視等で点検することができ、メンテナンス性を向上させることもできる。
【0008】
ここで、従来の合成セグメントのように、トンネル地山側の表面板に平板からなるリブ材を固定するようにすれば、それらのリブ材がトンネル径方向内空側に向くことで、外力により地山側の表面板と充填材とが互いに離れる方向に抜け出そうとしても、隣り合うリブ材と充填される充填材とは楔状に係合されるため、充填材と表面板との抜け止めとして機能させることができる。それに対して本発明の合成セグメントでは、トンネル内空側に内空側表面板を設けた構成であるため、当該内空側表面板と直交してリブ材を設けても、例えば前記地山側表面板の例のごとくリブ構造を構成したとしても、そのリブ材がトンネル径方向地山側に突出するために、隣り合うリブ材間に充填される充填材とは逆楔状になってしまい係合させることができない。すなわち、本発明の合成セグメントは、セグメントの性能を向上させるためにトンネル内空側に内空側表面板を設けた場合であっても、その内空側表面板に設けた内空側リブ材と充填材とを楔状に係合させることで、充填材の抜け出しを防止して鋼殻と一体化し、これによって合成効果を確保して高性能な合成セグメントを実現することと、メンテナンス性を向上させることができる点に特徴を有する。
【0009】
この際、本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントでは、前記複数の内空側リブ材は、それぞれ平板材から構成されていることが好ましい。
ここで、従来、断面T形やL形形状を呈する複雑な断面形状のリブ材が採用されているが、リブ材自体の加工や製造コストが掛かることに加え、リブ材を内空側表面板に溶接固定する際に溶接棒が溶接箇所に届かない、或いは溶接姿勢が困難となるなど、加工時間の増大、固着性能に問題を生じるなどの課題があった。
これに対して本発明の構成によれば、リブ材を平板材から構成することで、その加工や溶接手間が大幅に低減できるとともに、使用する鋼材量や接合のための溶接量を抑制することができる。
【0010】
また、本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントでは、前記複数の内空側リブ材のうち、トンネル周方向両端部の少なくとも片方の端部に設けられる内空側リブ材と前記継手板との間には、前記主桁、継手板および内空側表面板のうちの少なくともいずれかに固着されるとともに前記鋼殻の内部側に突出する突出部材が設けられていることが好ましい。
ここで、前記継手板はトンネル径方向に配置されることが通例であるため、前記内空側表面板側の基端部から突出先端側に向かって互いに接近する方向に傾斜して設けられている少なくとも1つの端部のリブ材と継手板とは逆楔状になってしまい、鋼殻と充填材とを係合させることができない。
これに対して本発明の構成によれば、複数の内空側リブ材のうちの両端部の内空側リブ材と継手板との間に突出部材を設けたことで、この突出部材と充填材とが機械的に係合することによって、突出部材を抜け止めとして機能させることができる。従って、両端部の内空側リブ材と継手板とがトンネル径方向地山側に向かって互いに開くような角度で設けられていても、突出部材によって充填材と内空側表面板および主桁との一体性を確保することができる。
【0011】
さらに、本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントでは、前記突出部材は、前記内空側表面板に固定されるジベル、前記主桁に内設されてトンネル軸方向に隣接する他の合成セグメントとの接合に用いられるリング間継手部材、および前記継手板に内設されてトンネル周方向に隣接する他の合成セグメントとの接合に用いられるピース間継手部材、の少なくとも1つで構成されることが好ましい。
このような構成によれば、頭付きスタッドボルトを代表とするジベルやリング間継手部材、ピース間継手部材で突出部材を構成することで、比較的容易に端部側の抜け止めを構成することができる。ここで、継手部材としては、合成セグメントのセグメントピース間ボルトボックスやセグメントピース間継手定着材などが利用でき、このような継手部材を抜け止めとして併用することで、別途の抜け止めを省略することもでき、使用鋼材量や溶接量をさらに低減させることができる。
【0012】
また、本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントでは、前記鋼殻は、トンネル地山側にて前記主桁に渡って設けられる地山側表面板を備えて構成されることが好ましい。
このような構成によれば、前記内空側表面板に加えて地山側表面板を備えることで、鋼殻の6面が囲まれた閉断面鋼殻を構成することができ、セグメント部材耐力の向上と併せてその内部への地下水等の浸入をより確実に防止することができる。
【0013】
この際、本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントでは、前記地山側表面板におけるトンネル内空側表面には、当該表面から突出する複数の地山側リブ材が設けられていることが好ましい。
このような構成によれば、地山側表面板に地山側リブ材を設けることで充填材との一体性をより一層向上させることができる。
【0014】
さらに、本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントでは、前記地山側リブ材は内空側表面板に設けられるリブ材とトンネル径方向に対向しないずれた位置に設けられていることが好ましい。
このような構成によれば、内空側および地山側に設けられたリブ材をトンネル径方向に対向させないことによって、ひび割れ誘発点となるリブ材の相互距離が長く確保されることから、ひび割れ長さを長くすることができ、セグメントの性能が向上する。
【0015】
さらに、本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントでは、前記地山側リブ材はトンネル軸方向に沿って延びる複数の平板材から構成され、これら複数の地山側リブ材は、トンネル径方向内空側に向かって突出して設けられていることが好ましい。
このような構成によれば、平板材から構成される地山側リブ材をトンネル径方向内空側に向かって突出して設けたことで、この地山側リブ材を充填材と地山側表面板との抜け止めとして機能させることができるとともに、リブ材を平板材から構成することで、その加工や溶接手間が大幅に低減でき、さらには使用する鋼材量や接合のための溶接量を抑制することができる。
【0016】
さらに、本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントでは、前記地山側リブ材と前記内空側リブ材とを連結するせん断補強材が設けられていることが好ましい。
このような構成によれば、内空側と地山側のリブ材同士をせん断補強材で連結したことで、このせん断補強材によって充填材をせん断補強することができ、合成セグメント全体の強度を向上させて、さらなる高性能化および薄型化を実現することができる。
【0017】
一方、本発明のトンネルは、前記いずれかの内空側に表面板を有する合成セグメントを組み合わせたトンネル覆工を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、前述のように合成効果を確保して高性能化および薄型化した合成セグメントを組み合わせることで、地山の掘削工事における掘削量が削減でき、施工コスト低減および工期短縮を図ることができる。あるいは、従来の合成セグメントを用いたトンネル覆工と比較して、トンネル内空の内径を拡大してトンネルの有効利用を促進させることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のような本発明の内空側に表面板を有する合成セグメントによれば、その内空側表面板に設けたリブ材と充填材との係合によって充填材の抜け出しが防止でき、鋼殻と充填材との一体化によって合成効果を確保して合成セグメントの高性能化を実現することができる。その結果、セグメントの薄壁構造が実現でき、地山の掘削量を削減して施工コスト低減および工期短縮を図ることができるか、トンネル内空を拡大して有効利用を促進させることができる。
さらに、本発明のトンネルによれば、トンネル内空側に内空側表面板を設けたことによって防蝕メンテナンス性や補修性を向上させることができ、将来に渡る長期供用下におけるメンテナンス性能の向上が図られ維持管理費用の低減に繋がる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の合成セグメントを用いたトンネル覆工とそのセグメントが現場架設される状況を示す概略斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る合成セグメントを示す斜視図である。
【図3】前記合成セグメントを示す断面図である。
【図4】第1実施形態の変形例に係る合成セグメントを示す断面図である。
【図5】第2実施形態に係る合成セグメントを示す断面図である。
【図6】前記合成セグメントの変形例を示す断面図である。
【図7】第3実施形態に係る合成セグメントを示す斜視図である。
【図8】前記合成セグメントを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、第2実施形態以降において、次の第1実施形態で説明する構成部材と同じ構成部材、および同様な機能を有する構成部材には、第1実施形態の構成部材と同じ符号を付し、それらの説明を省略または簡略化する。
【0021】
図1は、本発明の合成セグメントを用いたトンネル覆工1とそのセグメントが現場架設される状況を示す概略斜視図である。
トンネル覆工1は、掘削した地山Gの内部にて複数のセグメントピースPを組み合わせて構成されている。なお、以下の説明において、トンネル軸方向をX方向と表現し、トンネル径方向をR方向と表現し、トンネル周方向をθ方向と表現することとする。地山Gを掘削するシールドマシンMは、その後方に複数のジャッキJを有し、ジャッキJでトンネル覆工1を押してX方向に前進し、前進しつつ掘削した空間にてセグメントピースPが円筒状に組み立てられてトンネル覆工1が構築される。このトンネル覆工1は、地山Gとトンネル内空Sとを仕切り、地山Gからの土圧や水圧に抵抗してトンネル内空Sの空間を確保するようになっている。
以下、セグメントピースPを構成する各形態の合成セグメント10,20,30に関し、その構造を詳しく説明する。
【0022】
〔第1実施形態〕
図2は、第1実施形態に係る合成セグメント10を示す斜視図であり、図3は、合成セグメント10を示す断面図である。
図2、図3において、合成セグメント10は、5つの面が囲まれてR方向地山G側が開放された鋼殻11と、この鋼殻11内部に充填される充填材としての中詰めコンクリート12とを有し、これらの鋼殻11および中詰めコンクリート12が一体化されて構成されている。鋼殻11は、θ方向に沿って延びて互いに対向する主桁13,13と、これら主桁13,13のθ方向両端部同士を連結する一対の継手板14,14と、トンネル内空S側にて主桁13,13に渡って設けられる内空側表面板15とを備え、これらの主桁13、継手板14および内空側表面板15を互いに溶接固定して一体化することで箱状に形成されている。なお、本実施形態では主桁14が2枚のみで構成される2主桁構造を示すが、3枚以上で構成される多主桁構造であっても互いに対向する主桁が複数存在する構造を呈することに他ならないので、本発明の効果は変わらず発揮される。
【0023】
主桁13は、X方向に直交してR方向およびθ方向に沿った円弧板状の鋼板から構成され、主桁13の途中位置複数箇所には、X方向に隣り合う他の合成セグメント10と接合するための継手部材としてのリング間ボルトボックス13Aが一体的に固定されている。すなわち、隣り合う他の合成セグメント10にも同様のリング間ボルトボックス13Aが固定されており、これらのリング間ボルトボックス13A同士を図示しない接合材(接合用の短ボルト)で係合固定することで、X方向に隣り合う合成セグメント10同士が機械的に連結されるようになっている。また、主桁13のθ方向両端部近傍の内面には、鋼殻11の内方に突出した突出部材13Bが固定されている。この突出部材13Bは、適宜な形状の鋼材を溶接して主桁13の内面に固定したものでよく、中詰めコンクリート12とのずれ止めとして機能するようになっている。
【0024】
継手板14は、X方向およびR方向に沿った直板状の鋼板から構成され、その内面の途中位置2箇所には、鋼殻11の内方に突出してピース間ボルトボックス14Aが固定されている。これらのピース間ボルトボックス14Aは、θ方向に隣り合う他の合成セグメント10と接合するための継手部材であって、隣り合う他の合成セグメント10にも同様のピース間ボルトボックス14Aが固定されており、これらのピース間ボルトボックス14A同士を図示しない接合材(接合用の短ボルト)で固定することで、θ方向に隣り合う合成セグメント10同士が機械的に連結されるようになっている。また、継手板14の内面には、鋼殻11の内方に突出した突出部材14Bが固定されている。この突出部材14Bは、適宜な形状の鋼材を溶接して継手板14の内面に固定したものでよく、中詰めコンクリート12とのずれ止めとして機能するようになっている。
【0025】
内空側表面板15は、R方向に略直交してX方向およびθ方向に沿った板状の湾曲鋼板から構成され、そのトンネル径方向地山側表面には、複数(本実施形態では、4枚)の内空側リブ材16が鋼殻11の内方に突出して固定されている。これらの内空側リブ材16は、平板状の鋼材から構成され、X方向に延びるとともに内空側表面板15の内面に溶接固定され、その両端部がそれぞれ主桁13の内面に溶接固定されている。あるいは内空側内空側リブ材16の内空側表面板15に当接する位置に図示しないフランジ材を突出させ、内空側表面板15とボルトもしくはドリルネジ(いずれも図示せず)により係合した後に螺合部を止水処理することでもよい。また、内空側表面板15のθ方向両端部近傍の内面には、鋼殻11の内方に突出した突出部材としての頭付きスタッドボルト15Aが溶植されている。この頭付きスタッドボルト15Aは、中詰めコンクリート12とのずれ止めとして機能するようになっている。もちろん頭つきスタッドボルト15Aに代わりL形鋼や溝形鋼など一般的に使用されるジベルであれば本発明の効果は発揮される。
【0026】
内空側リブ材16は、図3に示すように、内空側表面板15に対する各固定位置におけるR方向に対して所定の傾斜角度を有して固定されている。一般的に鋼殻と中詰めコンクリートとの一体性、さらには骨材を含有する中詰めコンクリート12の充填性を念頭にすれば、このR方向に対する各内空側リブ材16との傾斜角度は、3度〜60度の範囲に設定すれば充分効果が得られる。そして、互いに隣り合う一対の内空側リブ材16同士は、内空側表面板15に固定される基端部から突出先端側(R方向地山側)に向かって互いに接近する方向に傾斜して設けられている。具体的には、4枚の内空側リブ材16のうち、内側2枚の内空側リブ材16Aは、それぞれ図3中の破線Aに沿って突出しており、これらの破線Aは、R方向地山側(つまり地山G側)に延長した位置で交差し、R方向内空側(つまりトンネル内空S側)では交差しないようになっている。また、4枚の内空側リブ材16のうち、外側2枚の内空側リブ材16Bは、それぞれ図3中の破線Bに沿って突出しており、互いに隣り合う破線Aと破線Bとは、R方向地山側に延長した位置で交差し、R方向内空側では交差しないようになっている。本実施形態はセグメントピースのθ方向中央に向かって内空側リブ材16A、16Bが傾斜する例を示しているが、前記のような内空側リブ材間の相互関係が成立していれば良く、例えば全ての内空側リブ材がθ方向片側に向かって傾斜していても本発明の効果は発揮される。
【0027】
以上のように内空側リブ材16を傾斜させて固定したことにより、隣り合う内空側リブ材16およびその延長線(破線A,B)で挟まれる位置の中詰めコンクリート12は、トンネル内空S側つまり内空側表面板15側に向かって角度が大きくなる楔状に形成されることとなる。従って、当該合成セグメント10に外力が作用し、破線A,Bに沿って中詰めコンクリート12にひび割れが発生し、内空側表面板15から離隔する方向の力が作用した場合であっても、隣り合う内空側リブ材16によって中詰めコンクリート12の移動が拘束されるようになっている。このように内空側リブ材16がずれ止めとして機能することで、中詰めコンクリート12と内空側表面板15との剥離が防止できるようになっている。一方、外側の内空側リブ材16Bと継手板14との間に位置する中詰めコンクリート12は、突出部材13B,14Bや頭付きスタッドボルト15Aによって移動が拘束されているため、継手板14側においても内空側表面板15との剥離が防止できるようになっている。
【0028】
以上のような本実施形態の合成セグメント10によれば、以下の効果を得ることができる。
すなわち、互いに隣り合う一対の内空側リブ材16同士がR方向地山側に向かって互いに接近する方向に傾斜して設けられているので、隣り合う内空側リブ材16と中詰めコンクリート12とを楔状に係合させ、これにより中詰めコンクリート12と内空側表面板15との剥離が防止できる。また、継手板14側においても突出部材13B,14Bや頭付きスタッドボルト15Aによって、中詰めコンクリート12と内空側表面板15との剥離が防止できる。従って、中詰めコンクリート12と内空側表面板15とが互いに離れる方向に移動する抜け出しが防止でき、内空側表面板15を介して主桁13と中詰めコンクリート12とを一体的に挙動させる合成効果が得られることから、合成セグメント10の剛性や耐力を向上させつつ薄型化を図ることができる。
【0029】
また、同時にトンネル内空S側に内空側表面板15が設けられているので、この内空側表面板15を目視等で点検することができ、そのメンテナンス性を向上させることができる。
【0030】
なお、本実施形態の合成セグメントにおいて、θ方向端部側(継手板14側)におけるずれ止めとしては、突出部材13B,14Bや頭付きスタッドボルト15Aに代えて、図4に示すようなピース間継手14Cを突出部材として採用することもできる。
図4に示す合成セグメント10Aでは、継手板14の内面の途中位置2箇所には、ピース間継手14Cが固定され、ピース間継手14Cには、鋼殻11の内側に突出して中詰めコンクリート12に定着される定着材14Dが固定されている。これらのピース間継手14Cは、θ方向に隣り合う他の合成セグメント10と接合するための継手部材であって、隣り合う他の合成セグメント10にも略同様で雄雌逆のピース間継手14Cが固定されており、これらのピース間継手14C同士を機械的に嵌め合わせることで、θ方向に隣り合う合成セグメント10同士が連結されるようになっている。
【0031】
以上のような合成セグメント10Aにおいて、隣り合う内空側リブ材16間では前述の合成セグメント10と同様に、傾斜させた内空側リブ材16が中詰めコンクリート12の抜け出し防止として機能し、継手板14側では、ピース間継手14Cおよび定着材14Dが中詰めコンクリート12の抜け止めとして機能するようになっている。従って、前記突出部材13B,14Bや頭付きスタッドボルト15Aを省略したとしても、合成セグメント10Aの全体に渡って中詰めコンクリート12と内空側表面板15とを一体化することができ、前述と同様の効果を得ることができる。
【0032】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る合成セグメント20を図5に基づいて説明する。
合成セグメント20は、前記第1実施形態の合成セグメント10と同様の鋼殻21および中詰めコンクリート22を有し、鋼殻21は、合成セグメント10と同様に、主桁23,23、一対の継手板24,24、内空側表面板25および内空側リブ材26を有して構成されている。この合成セグメント20は、トンネル地山G側に設けられる地山側表面板27を備える点が第1実施形態と相違する。以下、相違点について詳しく説明する。
【0033】
地山側表面板27は、R方向に略直交してX方向およびθ方向に沿った板状の湾曲鋼板から構成され、その四周端縁が主桁23,23および一対の継手板24,24にそれぞれ溶接固定されている。地山側表面板27のトンネル径方向内空側表面には、複数(本実施形態では、7枚)の地山側リブ材28が内空側表面板25に向かってR方向に沿って突出して固定されている。これらの地山側リブ材28は、平板状の鋼材から構成され、X方向に延びるとともに地山側表面板27の内面に溶接固定され、その両端部がそれぞれ主桁23の内面に溶接固定されている。このような地山側リブ材28で挟まれる位置の中詰めコンクリート22は、地山G側に向かって角度が大きくなる楔状に形成されることから、隣り合う地山側リブ材28によって中詰めコンクリート22の移動が拘束されるようになっている。
【0034】
なお、合成セグメント20では、7枚の地山側リブ材28のうち、4枚の地山側リブ材28が内空側表面板25の内空側リブ材26とR方向に対向して設けられ、これら4枚の地山側リブ材28の間に他の3枚の地山側リブ材28が設けられているが、地山側リブ材28は、図6に示すように設けられていてもよい。
すなわち、図6に示す合成セグメント20Aでは、地山側表面板27に5枚の地山側リブ材28が固定されており、これら5枚の地山側リブ材28は、それぞれ内空側表面板25の内空側リブ材26とR方向に対向しない位置に設けられている。具体的には、地山側リブ材28は、4枚の内空側リブ材26の各中間位置に対向する3枚の地山側リブ材28と、端部側の内空側リブ材26と継手板24との中間位置に対向する2枚の地山側リブ材28とで構成されている。
【0035】
以上のような本実施形態の合成セグメント20によれば、前記第1実施形態と略同様の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
すなわち、内空側表面板25に加えて地山G側に地山側表面板27が設けられ、6つの面が囲まれた閉断面の鋼殻21を構成することにより、鋼殻21の内部への地下水等の浸入をより確実に防止することができる。さらに、地山側表面板27に設けた地山側リブ材28によって中詰めコンクリート22の移動を拘束することで、この地山側リブ材28を中詰めコンクリート22の抜け止めとして機能させることができ、中詰めコンクリート22と鋼殻21との一体性をより一層向上させることができる。さらに、内空側表面板25の内空側リブ材26と地山側表面板27の地山側リブ材28とを、R方向に対向しないずれた位置に設ければ、内空側リブ材26および地山側リブ材28を起点としたひび割れが重ならないようにでき、ひび割れ長さを長くすることができるため、中詰めコンクリート12の強度を高めることができる。
【0036】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る合成セグメント30を図7、図8に基づいて説明する。
合成セグメント30は、前記第2実施形態の合成セグメント20と同様の鋼殻31および中詰めコンクリート32を有し、鋼殻31は、合成セグメント20と同様に、主桁33,33、一対の継手板34,34、内空側表面板35、内空側リブ材36、地山側表面板37および地山側リブ材38を有して構成されている。この合成セグメント30は、内空側表面板35の内空側リブ材36と地山側表面板37の地山側リブ材38とを連結するせん断補強材39を備える点が第2実施形態と相違する。以下、相違点について詳しく説明する。
【0037】
合成セグメント30では、4枚の内空側リブ材36とR方向に対向して4枚の地山側リブ材38が設けられ、互いに対向する内空側リブ材36と地山側リブ材38との間に複数のせん断補強材39が設けられている。せん断補強材39は、両端にフックを有した鉄筋で構成され、その両端のフックがそれぞれ内空側リブ材36の貫通孔および地山側リブ材38の貫通孔に挿通されている。
このような本実施形態の合成セグメント30によれば、内空側表面板35の内空側リブ材36と地山側表面板37の地山側リブ材38とをせん断補強材39で連結したことで、このせん断補強材39によって中詰めコンクリート32のせん断強度を高めることができ、合成セグメント30全体の強度を向上させて、さらなる高性能化および薄型化を実現することができる。
【0038】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記各実施形態では、内空側リブ材16,26,36として平板状の鋼材を用いたが、リブ材として用いる鋼材は、屈折状や屈曲状のものでもよく、また表面に凹凸を有したものや複数の孔を有したものなどでもよい。さらに、リブ材としては、平板状の鋼材を複数組み合わせて、例えばV字形やT字形に形成したものなどが利用可能である。
また、充填材としては、コンクリートに限らず、適宜な強度および剛性を有したものであればよく、無収縮モルタルなども利用可能である。
また、前記実施形態では、突出部材13B,14Bおよび頭付きスタッドボルト15Aをずれ止めとして用いたが、ずれ止めとしての突出部材としては、前記実施形態のものに限らず、適宜な形状のものが利用可能であるとともに、その個数も特に限定されない。さらに、突出部材は本発明の必須要件ではなく適宜に省略することができる。
【0039】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。
従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0040】
1…トンネル覆工、10,10A,20,20A,30…合成セグメント、11,21,31…鋼殻、12,22,32…中詰めコンクリート(充填材)、13,23,33…主桁、13B,14B…突出部材、14,24,34…継手板、14C…ピース間継手(継手部材)、14D…定着材(突出部材)、15,25,35…内空側表面板、15A…頭付きスタッドボルト(突出部材)、16,26,36…内空側リブ材、27,37…地山側表面板、28,38…地山側リブ材、39…せん断補強材、G…地山、S…トンネル内空。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼殻と、その内部に充填される充填材とを有して構成されるとともに、複数のピースを組み合わせてトンネル覆工に利用される合成セグメントであって、
前記鋼殻は、トンネル周方向に沿って延びて互いに対向する主桁と、これら主桁のトンネル周方向両端部同士を連結する一対の継手板と、トンネル内空側にて前記主桁に渡って設けられる内空側表面板とを少なくとも備え、これらの主桁、継手板および内空側表面板で5面が囲まれた内部に前記充填材が充填され、
前記内空側表面板におけるトンネル径方向地山側表面には、当該表面から突出するとともにトンネル軸方向に沿って延びる複数の内空側リブ材が設けられ、
前記複数のリブ材のうち、互いに隣り合う一対のリブ材同士は、前記内空側表面板側の基端部から突出先端側に向かって互いに接近する方向に傾斜して設けられ、前記内空側表面板に固着されていることを特徴とする内空側に表面板を有する合成セグメント。
【請求項2】
請求項1に記載の内空側に表面板を有する合成セグメントにおいて、
前記複数の内空側リブ材は、それぞれ平板材から構成されていることを特徴とする内空側に表面板を有する合成セグメント。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の内空側に表面板を有する合成セグメントにおいて、
前記複数の内空側リブ材のうち、トンネル周方向両端部の少なくとも片方の端部に設けられる内空側リブ材と前記継手板との間には、前記主桁、継手板および内空側表面板のうちの少なくともいずれかに固着されるとともに前記鋼殻の内部側に突出する突出部材が設けられていることを特徴とする内空側に表面板を有する合成セグメント。
【請求項4】
請求項3に記載の内空側に表面板を有する合成セグメントにおいて、
前記突出部材は、前記内空側表面板に固定されるジベル、前記主桁に内設されてトンネル軸方向に隣接する他の合成セグメントとの接合に用いられるリング間継手部材、および前記継手板に内設されてトンネル周方向に隣接する他の合成セグメントとの接合に用いられるピース間継手部材、の少なくとも1つで構成されることを特徴とする内空側に表面板を有する合成セグメント。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の内空側に表面板を有する合成セグメントにおいて、
前記鋼殻は、トンネル地山側にて前記主桁に渡って設けられる地山側表面板を備えて構成されることを特徴とする内空側に表面板を有する合成セグメント。
【請求項6】
請求項5に記載の内空側に表面板を有する合成セグメントにおいて、
前記地山側表面板におけるトンネル内空側表面には、当該表面から突出する複数の地山側リブ材が設けられていることを特徴とする内空側に表面板を有する合成セグメント。
【請求項7】
請求項6に記載の内空側に表面板を有する合成セグメントにおいて、
前記地山側リブ材は内空側表面板に設けられる内空側リブ材とトンネル径方向に対向しないずれた位置に設けられていることを特徴とする内空側に表面板を有する合成セグメント。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の内空側に表面板を有する合成セグメントにおいて、
前記地山側リブ材はトンネル軸方向に沿って延びる複数の平板材から構成され、これら複数の地山側リブ材は、トンネル径方向内空側に向かって突出して設けられていることを特徴とする内空側に表面板を有する合成セグメント。
【請求項9】
請求項6から請求項8のいずれかに記載の内空側に表面板を有する合成セグメントにおいて、
前記地山側リブ材と前記内空側リブ材とを連結するせん断補強材が設けられていることを特徴とする内空側に表面板を有する合成セグメント。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の内空側に表面板を有する合成セグメントを組み合わせたトンネル覆工を備えることを特徴とするトンネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−242397(P2010−242397A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92931(P2009−92931)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】