説明

内視鏡の鉗子栓

【課題】鉗子栓本体内の閉鎖膜に形成されているスリットに、処置具の挿脱による摩耗や亀裂が発生し難い内視鏡の鉗子栓を提供すること。
【解決手段】鉗子栓本体11内に形成された内側閉鎖膜17が、第1のスリット18が形成された細長い長方形状の底壁部17aと、第1のスリット18に対して垂直な断面において底壁部17aを頂点として突端側開口部側へ次第に広がる二等辺三角形の二等辺状のV状壁部17bと、V状壁部17bの二つの壁部の側縁どうしを気密に連結する側壁部17cとにより形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内視鏡の処置具挿通チャンネルを通って逆流する体内汚液等が処置具挿通チャンネルの入口部から吹き出さないようにするための内視鏡の鉗子栓に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡の鉗子栓は一般に、処置具挿通チャンネルに連通する状態に処置具挿通チャンネルの入口に取り付けられる筒状の鉗子栓本体と、その鉗子栓本体の突端側開口部に着脱自在な蓋体とを有していて、鉗子栓本体内と蓋体の各々に形成された閉鎖膜に、処置具挿通チャンネルに挿脱される処置具の通過により押し広げられるスリットが形成されている。
【0003】
そして従来、そのような内視鏡の鉗子栓の閉鎖膜は、内方に凸の球面壁状に形成されたり、内方に凸の築山突出部状に形成されていた(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】実公平7−15522
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉗子栓本体内に形成された閉鎖膜は、処置具挿通チャンネル内の圧力を直接受けるので、そのスリットに隙間ができると体内からの逆流汚液等が患者のゲップ等により蓋体の閉鎖膜との間の空間に吹き出し、その後の処置具の挿脱等に伴って蓋体のスリットから外部に流出して周囲を汚染する恐れがある。
【0005】
しかし、上述のように閉鎖膜が内方に凸の球面壁状或いは築山突出部状に形成された従来の内視鏡の鉗子栓においては、処置具の挿脱によって、鉗子栓本体内の閉鎖膜に形成されているスリットに摩耗や亀裂が発生し易かった。
【0006】
そこで本発明は、鉗子栓本体内の閉鎖膜に形成されているスリットに、処置具の挿脱による摩耗や亀裂が発生し難い内視鏡の鉗子栓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の内視鏡の鉗子栓は、内視鏡の処置具挿通チャンネルに連通する状態に基端側が処置具挿通チャンネルの入口に取り付けられる筒状の鉗子栓本体と、鉗子栓本体の突端側開口部に着脱自在な蓋体とを有し、鉗子栓本体内に形成されて処置具挿通チャンネル内の圧力を直接受ける弾力性のある材料からなる内側閉鎖膜に、常態では閉じていて処置具挿通チャンネルに挿脱される処置具の通過により押し広げられる第1のスリットが形成されると共に、蓋体に形成された弾力性のある材料からなる外側閉鎖膜に、常態では閉じていて処置具挿通チャンネルに挿脱される処置具の通過により押し広げられる第2のスリットが形成された内視鏡の鉗子栓において、鉗子栓本体内に形成された内側閉鎖膜が、第1のスリットが形成された細長い長方形状の底壁部と、第1のスリットに対して垂直な断面において底壁部を頂点として突端側開口部側へ次第に広がる二等辺三角形の二等辺状のV状壁部と、V状壁部の二つの壁部の側縁どうしを気密に連結する側壁部とにより形成されているものである。
【0008】
なお、内側閉鎖膜のV状壁部が、第1のスリットに対して垂直な断面において底壁部を頂点として突端側開口部側へ次第に広がる正三角形の二辺状に形成されていてもよい。
そして、V状壁部と側壁部の壁厚が各々、一定の壁厚であるか或いは底壁部側へ次第に薄く形成されていてもよく、V状壁部と側壁部の壁厚が各々1mm以下であるとよい。
【0009】
なお、第1のスリットと第2のスリットとが、直交する方向に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉗子栓本体内に形成された内側閉鎖膜が、第1のスリットが形成された細長い長方形状の底壁部と、第1のスリットに対して垂直な断面において底壁部を頂点として突端側開口部側へ次第に広がる二等辺三角形の二等辺状のV状壁部と、V状壁部の二つの壁部の側縁どうしを気密に連結する側壁部とにより形成されていることにより、使用時に処置具が挿入されるとその処置具の外形形状や横振れの動作等に追従して内側閉鎖膜全体が容易に変形し、第1のスリットに処置具の挿脱による摩耗や亀裂が発生し難い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
内視鏡の処置具挿通チャンネルに連通する状態に基端側が処置具挿通チャンネルの入口に取り付けられる筒状の鉗子栓本体と、鉗子栓本体の突端側開口部に着脱自在な蓋体とを有し、鉗子栓本体内に形成されて処置具挿通チャンネル内の圧力を直接受ける弾力性のある材料からなる内側閉鎖膜に、常態では閉じていて処置具挿通チャンネルに挿脱される処置具の通過により押し広げられる第1のスリットが形成されると共に、蓋体に形成された弾力性のある材料からなる外側閉鎖膜に、常態では閉じていて処置具挿通チャンネルに挿脱される処置具の通過により押し広げられる第2のスリットが形成された内視鏡の鉗子栓において、鉗子栓本体内に形成された内側閉鎖膜が、第1のスリットが形成された細長い長方形状の底壁部と、第1のスリットに対して垂直な断面において底壁部を頂点として突端側開口部側へ次第に広がる二等辺三角形の二等辺状のV状壁部と、V状壁部の二つの壁部の側縁どうしを気密に連結する側壁部とにより形成されている。
【実施例】
【0012】
図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図3において、1は内視鏡の挿入部、2は、挿入部1の基端に連結された操作部である。
【0013】
挿入部1内には、処置具50を挿通するための処置具挿通チャンネル3が全長にわたって挿通配置されていて、操作部2の下端部に配置された処置具挿通チャンネル3の入口開口部には、処置具挿通チャンネル3内を通って逆流する体内汚液等が外方に吹き出さないようにするための鉗子栓10が着脱自在に取り付けられている。
【0014】
図1と図2は、鉗子栓10の正面断面図と側面断面図であり、鉗子栓10は、処置具挿通チャンネル3の入口口金4に取り付けられる樽形の筒状に形成された鉗子栓本体11と、鉗子栓本体11の突端側開口部に着脱自在な蓋体12とを有していて、全体が弾力性のあるゴム材等によって構成されている。
【0015】
鉗子栓本体11の内面の基端寄りの部分には、処置具挿通チャンネル3の入口口金4に対して係脱自在な小径部13が形成されており、小径部13を弾性変形させて、入口口金4を締め付ける状態に取り付け或いは取り外すことができる。なお、図1及び図2には、小径部13の弾性変形していない形状が入口口金4と重ねて図示されている。
【0016】
蓋体12は、弾力性のあるゴム材で蓋体12と一体に形成された連結紐状部材14により鉗子栓本体11の基部と連結されていて、鉗子栓本体11から取り外されてもその近くにぶら下げられた状態になるようになっている。
【0017】
また、鉗子栓本体11の突端側開口部近くの外面には円周溝15が形成されていて、それに係合する周状の内方突起部16が蓋体12側に形成されている。したがって、蓋体12の内方突起部16を弾性変形させて円周溝15に対し係脱させることにより、蓋体12を鉗子栓本体11に対して取り付け及び取り外しすることができる。
【0018】
そのように構成された鉗子栓本体11内と蓋体12とには各々、常態では閉じていて処置具挿通チャンネル3に挿脱される処置具50の通過により押し広げられるスリット18,20を有する閉鎖膜17(17a,17b,17c),19が形成されている。
【0019】
鉗子栓本体11内の内側閉鎖膜17に形成された第1のスリット18は、処置具挿通チャンネル3の入口口金4の開口に対向する位置に配置されていて処置具挿通チャンネル3内の圧力を直接受け、蓋体12の外側閉鎖膜19に形成された第2のスリット20は、第1のスリット18に対して直交する状態、即ち入口口金4の軸線方向から第1のスリット18と第2のスリット20とを重ねて見ると+状になる位置関係に形成されている。
【0020】
図4と図5は、蓋体12が取り外された状態の鉗子栓本体11の正面断面図と側面断面図であり、図6、図7、図8、図9及び図10は、鉗子栓本体11に形成された内側閉鎖膜17の形状を示すために、図11及び図12における矢視VI、VII−VII断面、VIII−VIII断面、IX−IX断面及び矢視Xを図示したものである。
【0021】
内側閉鎖膜17(17a,17b,17c)は、第1のスリット18が中心部分に真っ直ぐに形成された細長い長方形状の底壁部17aと、第1のスリット18に対して垂直な断面において底壁部17aを頂点として鉗子栓本体11の突端側開口部側へ次第に広がる二等辺三角形の二等辺状のV状壁部17bと、V状壁部17bの二つの壁部の側縁どうしを気密に連結する側壁部17cとにより形成されている。
【0022】
なお、側壁部17cは円筒壁状又は突端側開口部側へ次第に広がる円錐壁状に形成されており、V状壁部17bは、この実施例では図4に示されるように挟角が60°の正三角形の二辺状に形成されており、処置具50の挿脱を非常にスムーズに行うことができる。
【0023】
底壁部17a、V状壁部17b及び側壁部17cの各壁の壁厚は各々1mm以下であり、V状壁部17bと側壁部17cは、全体に一定の壁厚であるか、或いは第1のスリット18が形成されている底壁部17a側へ次第に薄く形成されている。底壁部17aは第1のスリット18を中心にして幅(A)が1.5mm以下であり、その表裏両面において第1のスリット18が側壁部17cと干渉しないように形成されている。
【0024】
即ち、内側閉鎖膜17の寸法形状に関しては、図4及び図5において、A≦1.5mm、t≦1mm、t′≦1mm、E≦D≦F、角度B<角度C≦90°、角度B≦角度G、角度C≦角度Hである。
【0025】
このように構成された鉗子栓10においては、図13に示されるように、使用時に処置具50が挿入されると処置具50の外形形状や横振れの動作等に追従して内側閉鎖膜17全体が容易に変形するので、第1のスリット18の摩耗や亀裂が発生し難く、その結果、患者がゲップ等をして処置具挿通チャンネル3内の圧力が急上昇しても、体内からの逆流汚液等が内側閉鎖膜17と外側閉鎖膜19との間の空間に吹き出さない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の正面断面図である。
【図2】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の側面断面図である。
【図3】本発明の実施例の内視鏡の外観図である。
【図4】本発明の実施例の鉗子栓本体の正面断面図である。
【図5】本発明の実施例の鉗子栓本体の側面断面図である。
【図6】本発明の実施例の図11における矢視VI図である。
【図7】本発明の実施例の図11におけるVII−VII断面図である。
【図8】本発明の実施例の図12におけるVIII−VIII断面図である。
【図9】本発明の実施例の図11におけるIX−IX断面図である。
【図10】本発明の実施例の図11における矢視X図である。
【図11】本発明の実施例の鉗子栓本体の正面断面図である。
【図12】本発明の実施例の鉗子栓本体の側面断面図である。
【図13】本発明の実施例の内視鏡の鉗子栓の使用状態の正面断面図である。
【符号の説明】
【0027】
3 処置具挿通チャンネル
4 入口口金
10 鉗子栓
11 鉗子栓本体
12 蓋体
17 内側閉鎖膜
17a 底壁部
17b V状壁部
17c 側壁部
18 第1のスリット
19 外側閉鎖膜
20 第2のスリット
50 処置具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡の処置具挿通チャンネルに連通する状態に基端側が上記処置具挿通チャンネルの入口に取り付けられる筒状の鉗子栓本体と、上記鉗子栓本体の突端側開口部に着脱自在な蓋体とを有し、上記鉗子栓本体内に形成されて上記処置具挿通チャンネル内の圧力を直接受ける弾力性のある材料からなる内側閉鎖膜に、常態では閉じていて上記処置具挿通チャンネルに挿脱される処置具の通過により押し広げられる第1のスリットが形成されると共に、上記蓋体に形成された弾力性のある材料からなる外側閉鎖膜に、常態では閉じていて上記処置具挿通チャンネルに挿脱される処置具の通過により押し広げられる第2のスリットが形成された内視鏡の鉗子栓において、
上記鉗子栓本体内に形成された上記内側閉鎖膜が、上記第1のスリットが形成された細長い長方形状の底壁部と、上記第1のスリットに対して垂直な断面において上記底壁部を頂点として上記突端側開口部側へ次第に広がる二等辺三角形の二等辺状のV状壁部と、上記V状壁部の二つの壁部の側縁どうしを気密に連結する側壁部とにより形成されていることを特徴とする内視鏡の鉗子栓。
【請求項2】
上記内側閉鎖膜の上記V状壁部が、上記第1のスリットに対して垂直な断面において上記底壁部を頂点として上記突端側開口部側へ次第に広がる正三角形の二辺状に形成されている請求項1記載の内視鏡の鉗子栓。
【請求項3】
上記V状壁部と上記側壁部の壁厚が各々、一定の壁厚であるか或いは上記底壁部側へ次第に薄く形成されている請求項1又は2記載の内視鏡の鉗子栓。
【請求項4】
上記V状壁部と上記側壁部の壁厚が各々1mm以下である請求項1、2又は3記載の内視鏡の鉗子栓。
【請求項5】
上記第1のスリットと上記第2のスリットとが、直交する方向に形成されている請求項1ないし4のいずれかの項に記載の内視鏡の鉗子栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−288780(P2006−288780A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114172(P2005−114172)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】