説明

内視鏡の鉗子栓

【課題】2箇所に手動栓を設けることなく、処置具とシリンジの両方を同時に使用でき、またシリンジの挿入によってスリットの破損が生じないようにする。
【解決手段】鉗子栓12の本体14に、入口Eaにスリット15を有し、処置具挿通チャンネルに連通する挿通路14hが設けられると共に、この挿通路14hに連通するように、シリンジ口Ebを有するシリンジ用通路14sが形成される。また、上記挿通路14hに密着するように弾性チューブ体17が配置され、この弾性チューブ体17の側面でシリンジ用通路14sの本体挿通路側出口を塞ぐようにする。即ち、弾性チューブ体17上部のフランジ状の突出部17aを、挿通路14hの係合溝14cに係合させて、該弾性チューブ体17を固定する。この弾性チューブ体17は、その側面が潰れるように変形することで、シリンジ用通路14sと処置具挿通チャンネルChを結ぶ流路を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡内に配設された処置具挿通チャンネルの入口に設けられた内視鏡の鉗子栓、特に密閉性を維持すると共に、処置具の挿入及びシリンジの使用を可能にする鉗子栓の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
図8には、従来の内視鏡の構成が示されており、この内視鏡は、例えば固体撮像素子を備えた先端部1A、湾曲部1B、そして操作部1C等を有する。この操作部1Cには、鉗子栓を有する鉗子口部(処置具挿通チャンネル導入口)3が設けられ、この鉗子口部3から先端部1Aの先端面まで、処置具挿通チャンネル4が配設される。この処置具挿通チャンネル4には、被観察体内の流体物等を吸引するための吸引管5が接続されており、上記処置具挿通チャンネル4は吸引管としても機能するようになっている。また、上記操作部1Cには、湾曲操作ノブ6が設けられると共に、吸引ボタン7a、送気送水ボタン7b、カメラシャッタボタン7c等が配置される。
【0003】
図9には、上記鉗子口部3の構成の一例が示されており、上述の処置具挿通チャンネル4の入口に、ゴム材質の鉗子栓8が取り付けられる。この鉗子栓8は、下側本体8aの中心部に処置具を通すことのできる直線状の第1スリットSが形成され、蓋体8bの中心部にも同様の第2スリットSが形成されており、これらのスリットS,Sは、処置具挿通チャンネル4内の密閉性を維持すると共に、処置具挿通チャンネル4への処置具の挿入を可能にするものである。
【0004】
このような内視鏡によれば、上記吸引ボタン7aの操作により、処置具挿通チャンネル4と吸引管5を介して被観察体の内容物を吸引することができ、また鉗子栓8を有する鉗子口部3から処置具(鉗子等)を導入し、先端部1Aまで導くことにより、被観察体内の各種の処置を行うことが可能になる。このとき、上記鉗子栓8では、蓋体8bを外した状態で第1スリットSのみから処置具を挿入したり、或いは蓋体8bを着けた状態で第1スリットS及び第2スリットSの両方から処置具を挿入したりすることができる。
【特許文献1】特開平3−73127号公報
【特許文献2】特開平2−200234号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の内視鏡では、上記特許文献1又は2に開示されるように、鉗子栓8からシリンジ(注射器)を処置具挿通チャンネル入口に挿入し、生理食塩水、薬液、空気等を被観察体内へ送ることが行われているが、従来の鉗子栓8では、処置具又はシリンジのいずれか一方しか使用することができない。即ち、処置具を挿入・使用しているときは、この処置具を引き抜かなければ、シリンジを挿入することができず、不便な場合があるという問題があった。
【0006】
この問題点の解決方法として、処置具の挿入口とシリンジの挿入口の2つを形成することが考えられるが、この場合には、処置具挿通チャンネル内の密閉性を維持するために、2箇所に手動栓(蓋体8b)を設けなければならず、構成が複雑になると共に、2つの栓を手動で開閉することから、開閉操作が煩雑になるという不都合がある。
【0007】
また、上記特許文献1に開示されているように、2つのスリット(S,S)を設けた鉗子栓8の構造の場合、シリンジを通路に斜めに押し込むことにより、スリット部分(膜)が切れて脱落することが生じる。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、2箇所に手動栓を設けることなく、処置具とシリンジの両方を同時に使用することができ、またシリンジの挿入によってスリットの破損が生じることのない内視鏡の鉗子栓を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る内視鏡の鉗子栓は、内視鏡処置具挿通チャンネルに連通する挿通路及びこの挿通路の入口に形成された栓部を有する本体と、この本体の挿通路に連通するように形成され、シリンジ口を有するシリンジ用通路と、このシリンジ用通路の上記本体挿通路側出口を塞ぐように、上記本体挿通路に密着配置し、かつ処置具が挿通可能な通路を確保する弾性チューブ体とを設け、シリンジが上記シリンジ口に接続可能となるように構成したことを特徴とする。
請求項2の発明は、上記弾性チューブ体の上部に、フランジ状の突出部を形成し、上記本体挿通路には係合溝を形成し、この係合溝に上記突出部を係合させることにより、弾性チューブ体を本体挿通路に固定することを特徴とする。
【0010】
本発明の構成によれば、本体挿通路の入口(又は栓部)から処置具を挿入した状態又は挿入しない状態で、シリンジ口からシリンジを挿入すると、このシリンジの先端注入管が弾性チューブ体の側面を押すことにより、又はシリンジから供給される流体によって弾性チューブ体の側面を押すことにより、その側面部が押し潰されるように変形し、シリンジ用通路が自動的に開状態となる。この結果、シリンジ内の流体が処置具挿通チャンネルを介して被観察体へ送給される。一方、シリンジを抜いた後には、弾性チューブ体が元の円筒形状に復元してシリンジ用通路を塞ぐので、処置具も抜くことにより、処置具挿通チャンネル内を完全に密閉状態にすることができる。
【0011】
請求項2の構成によれば、フランジ状の突出部と係合溝の係合によって弾性チューブ体が本体挿通路にしっかりと固定され、これによって、弾性チューブ体の変形、復元の動作がスムーズに行われる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の内視鏡の鉗子栓によれば、シリンジ用通路の開閉が自動的に行われるので、2箇所に手動栓を設けることなく、処置具とシリンジの両方を同時に使用することが可能になる。また、シリンジの斜めの挿入等によってスリットの破損が生じることもないという利点がある。
請求項2の構成によれば、弾性チューブ体が本体挿通路に対ししっかりと固定され、弾性チューブ体の変形、復元の動作がスムーズに行われるので、シリンジ用通路の開閉動作が安定して行われるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1乃至図6には、第1実施例に係る内視鏡の鉗子栓(12)の構成が示されており、図1及び図2は内視鏡操作部(図8の1C)に設けられる鉗子口部の構成、図3は鉗子栓12の断面、図5及び図6は鉗子口部の断面である。図示されるように、鉗子口部10は操作部の外装体11の側面から分岐し、内部の処置具挿通チャンネルChの導入口となるように設けられ、この鉗子口部10に鉗子栓12が取り付けられる。
【0014】
図3等に示されるように、上記鉗子栓12は、例えばゴム材質の本体14を備え、この本体14に、その中心部を上下方向に貫くように管状挿通路14hが形成されると共に、この挿通路14hの下部へ向けて本体側面上方から斜めに貫通し、該挿通路14hに連通するシリンジ用通路14sが形成される。
【0015】
上記挿通路14hの上部の鉗子栓入口(処置具挿通チャンネルChの導入口となる)Eaには、処置具を挿入できる大きさで栓機能を果たすスリット(切込み部)15が形成されており、このスリット15は、処置具の挿入時には、挿通路14h(処置具挿通チャンネルCh)内を所期の密閉状態、処置具を抜去したときは、挿通路14h内を完全に密閉状態にすることができる。また、上記シリンジ用通路14sは、シリンジ口Ebを有し、このシリンジ口Eb及び通路14sの内径は、シリンジ(注射器)16の先端注入管(注入口)16aが挿入・嵌合可能となる大きさに設定される。
【0016】
更に、上記挿通路14hの内周に嵌合する大きさの外周を持つ円筒状の弾性チューブ体17が設けられており、この弾性チューブ体17は、シリコン、フッ素樹脂等によって、上記シリンジ用通路14sを塞ぐことができる長さに形成される。この弾性チューブ体17によれば、その側面に圧力が加えられたとき、側面部が潰れるように変形すると共に、円筒状であるため、中心から径方向へ向かう付勢力によって即座に復元することができ、密閉力も高くなる。また、この弾性チューブ体17の円筒管上方外周には、フランジ状(つば状)突出部17aが設けられる。
【0017】
一方、本体14の挿通路14hの壁面には、上記フランジ状突出部17aに嵌合(係合)する環状の係合溝14cが形成されており、この係合溝14cに突出部17aが嵌合することで、弾性チューブ体17が挿通路14hにしっかりと固定される。即ち、上記フランジ状突出部17aは、位置固定のための部材であると共に、チューブ上側を潰れ難くしており、シリンジ使用時に潰れたチューブ側面の復帰を確実かつ迅速に行う役目を担うものとなる。
【0018】
このような鉗子栓12は、図1に示されるように、本体14の挿通路14hに対し突出部17aを係合溝14cに係合しながら弾性チューブ体17を装着し、この本体14を処置具挿通チャンネルChの管部材18の先端に取り付けることで、図2及び図5に示される状態の鉗子口部10が製作される。
【0019】
第1実施例は以上の構成からなり、通常の観察状態又は吸引を行う場合は、図3(B)及び図5に示されるように、スリット15が閉じられると共に、弾性チューブ体17の外周面が本体14の挿通路14h内面に密着してシリンジ用通路14s(挿通路14h側出口)を閉塞するので、処置具挿通チャンネルCh内やこのチャンネルChに連通する吸引管内が高い密閉(気密)状態に保たれ、被観察体内の空気や流体物が内視鏡先端部から処置具挿通チャンネルChを介して漏れたり流出したりすることが防止される。
【0020】
一方、各種の処置を行う場合は、図4に示されるように、処置具20(鉗子等)を鉗子栓12の入口Eaのスリット15から挿通路14hへ向けて挿入すれば、弾性チューブ体17の内部を通り処置具挿通チャンネルChを介して処置具20を内視鏡先端部まで導くことができ、これによって被観察体の処置が可能となる。
【0021】
そして、図4及び図6に示されるように、シリンジ16を用いる場合は、シリンジ口Ebからシリンジ用通路14sにシリンジ16の先端注入管16aを挿入すると、この注入管16aが弾性チューブ体17の側面を押し、更に生理食塩水等の流体を流すことで、この弾性チューブ体17の側面が押し潰されるように変形し(図1の17−Sにも示される)、流体が処置具挿通チャンネルChを介して被観察体へ送られる。実施例では、シリンジ用通路14sの長さを先端注入管16aの長さよりも短くし、この先端注入管16aで弾性チューブ体17の側面を押すようにしているが、この弾性チューブ体17は、注入される流体の流力によっても変形させることができるので、シリンジ用通路14sの長さは先端注入管16aよりも長くしてもよい。
【0022】
また、上記シリンジ16を抜いた後は、弾性チューブ体17の変形が即座に復元し、この弾性チューブ体17と挿通路14hの密着によって処置具挿通チャンネルCh内の密閉状態が確保される。このようにして、実施例では、シリンジ16による流体注入を、手動栓の開閉を行うことなく自動的に、また処置具20の挿入とは関係なく単独で行うことができ、従って処置具20とシリンジ16とを同時に挿入し使用することが可能となる。
【0023】
このような実施例の弾性チューブ体17は、円筒状であるため、中心から径方向全体に付勢力がかかり、密閉力、復元力が高いという利点がある。例えば、上記シリンジ用通路14sだけを塞ぐ弁を設けることも考えられるが、この場合は、使用回数が多いと、復元力がなくなり密閉力が低下する。
【0024】
上記第1実施例では、鉗子栓12の入口Eaに、1つのスリット15を設けた例を示したが、図8に示したように、2重にスリットを設けることができる。また、上記弾弾性チューブ体17は、その材質や厚さを適宜選択することで、潰れ変形に対する復元力が高くなるようにしているが、この弾性チューブ体17内にスポンジのような他の弾性部材を入れることで、復元力を高めるようにしてもよい。
【0025】
図7には、第2実施例に係る鉗子栓の構成が示されており、この第2実施例は、蓋体を設けたものである。図7に示されるように、この鉗子栓22は、ゴム材質の本体14の入口(導入口)Ea1に、処置具20の外径よりも少し小さな内径で、該処置具20を通過させる貫通孔14eが形成されると共に、本体14の上部に、図9と同様に、本体上部の凹部に嵌合する嵌合部を有する蓋体23が設けられる。そして、この蓋体23の入口Ea2に、処置具20を通すことのできるスリット25が形成される。
【0026】
また、この本体14に設けられるシリンジ用通路14s及び弾性チューブ体17、その他の構成は、第1実施例と同様となる。このような構成の鉗子栓22によっても、処置具20とシリンジ16とを同時に挿入して使用することが可能となり、蓋体23を本体上部に嵌合させて閉めることにより、処置具挿通チャンネルCh内の良好な密閉性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1実施例に係る内視鏡の鉗子栓(鉗子口部)の構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1の鉗子栓を取り付けた鉗子口部の構成を示す斜視図である。
【図3】第1実施例の内視鏡の鉗子栓の構成を示し、図(A)は分解断面図、図(B)は組立て後の断面図である。
【図4】第1実施例の鉗子栓にシリンジを挿入したときの状態を示す断面図である。
【図5】第1実施例の鉗子口部の内部の構成を示す断面図である。
【図6】第1実施例の鉗子口部で鉗子栓にシリンジを挿入したときの状態を示す断面図である。
【図7】第2実施例に係る鉗子栓の構成を示す断面図である。
【図8】従来の内視鏡の構成を示す図である。
【図9】従来における内視鏡の鉗子栓の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
3,10…鉗子口部、 4,Ch…処置具挿通チャンネル、
8,12…鉗子栓、 14…鉗子栓本体、
14h…挿通路、 14c…係合溝、
14s…シリンジ用通路、 15…スリット、
16…シリンジ、 17…弾性チューブ体、
17a…突出部、 18…管部材、
20…処置具、 Ea…入口、
Eb…シリンジ口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡処置具挿通チャンネルに連通する挿通路及びこの挿通路の入口に形成された栓部を有する本体と、
この本体の挿通路に連通するように形成され、シリンジ口を有するシリンジ用通路と、
このシリンジ用通路の上記本体挿通路側出口を塞ぐように、上記本体挿通路に密着配置し、かつ処置具が挿通可能な通路を確保する弾性チューブ体とを設け、
シリンジが上記シリンジ口に接続可能となるように構成した内視鏡の鉗子栓。
【請求項2】
上記弾性チューブ体の上部に、フランジ状の突出部を形成し、上記本体挿通路には係合溝を形成し、この係合溝に上記突出部を係合させることにより、弾性チューブ体を本体挿通路に固定することを特徴とする請求項1記載の内視鏡の鉗子栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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