説明

内視鏡用補助具

【課題】患者の体表や体腔表面に設けられた切開部を介して内視鏡を体内で使用する際に、処置部の周囲の気圧の調整や手技により発生する煙の除去を行うことができる内視鏡用補助具を提供する。
【解決手段】内視鏡用補助具1は、EMRや、ESD、或いはNOTES等の各種手技で使用することができる補助具であり、体内に挿入されるオーバーチューブ20と、その内部に挿入される内筒30と、ホルダユニット40と、脱気防止ユニット50とを備える。オーバーチューブ20には給気及び排気が可能な補助チューブ23,24を有し、脱気防止ユニット50には単数又は複数の通気用バルブ57を備え、適宜自動送気装置や排気装置に接続して体内の気圧の保持と、手技により発生する煙の除去を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡を体内で使用するために用いられる補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、手術時における患者への負担を軽減するため、内視鏡を用いて体表の切開を最小限にとどめる手技を行うことが広く行われている。その際、処置部における視野を確保する等の理由のため、処置部のある体腔内に外部から二酸化炭素等の気体を送り込み、体腔内の圧力を上昇させて手技を行うことが行われている。通常、このような手技は、内視鏡に設けられたチャンネルを通じて送気が行われる。
【0003】
一方で、内視鏡を体腔内に導入するために、オーバーチューブ等の補助具が用いられている。例えば、オーバーチューブでは、内視鏡とオーバーチューブの間の隙間から体腔内の気体が漏れないように、脱気防止弁を設けることが行われている。
【0004】
しかしながら、手技中に内視鏡を動かしたとき等に内視鏡と脱気防止弁との隙間から気体が漏れ、体腔内の圧力が低下することがある。従来は、このように体腔内の圧力が低下したときは、内視鏡を通じて導入される気体の量を増やすと共に、内部の圧力が上がりすぎないように内視鏡側で調整することが必要であった。
【0005】
このような調整は、内視鏡を持って手技を行う術者や助手が行わなければならず、術者が当該調整を行う場合には、術者が本来の手技に集中できないおそれがある。
【0006】
また、手技において電気メス等の焼灼装置を用いる場合、処置部を電気メスで焼き切る際に煙が発生し、処置部の周囲の視界が悪化することがある。この場合、術者は当該煙が収まるまで待つか、内視鏡のチャンネルを介して体腔内から当該煙を吸引する等の作業が必要であった。
【0007】
しかしながら、内視鏡のチャンネルを介して体腔内から煙を吸引すると、体腔内の気圧が低下するので、内視鏡の視野が狭くなるという不都合がある。従って、煙を吸引した後に、再度内視鏡のチャンネルを介して体腔内に気体を供給し、体腔内の気圧を上昇させる必要があった。
【0008】
このように、従来の電気メスを用いた手技においては、煙が発生するたびに本来の手技が中断するため、結果として手技の時間が長くなり、術者や患者に負担となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−301364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明者等は、内視鏡手術における患者への負担を軽減するため、上記特許文献1に開示された胃壁に穴を開ける手段による不都合を解消する発明を行い、特願2009−195605号として出願している。
【0011】
当該先願においては、いわゆるNOTES(Natural Orifice Translumenal Endoscopic Surgery)手技(経管腔的内視鏡手術)において用いられる補助具として、内視鏡を挿通可能なオーバーチューブと、このオーバーチューブ内に挿入される硬質の内筒と、患者の体表に固定されてオーバーチューブや内視鏡を保持する保持具等の発明を提案している。
【0012】
本願発明者等は、上記先願で提案されたオーバーチューブや保持具が、上記不都合を解消するために有効であることを知見した。さらに、これらの補助具は、NOTES手技のみならず、広くEMR(Endoscopic Mucosal Resection/内視鏡的粘膜切除)や、ESD(Endoscopic Submucosal Dssection/内視鏡的粘膜下層剥離)等の手技に用いることができることを知見した。
【0013】
本発明は、内視鏡の挿入補助具の改良を目的とし、さらに詳しくは、上記不都合を解消するために、体内の気圧を容易に調整することができると共に、電気メス等の焼灼装置を用いる際に体内の気圧を保持しつつ体内の換気を行うことができる内視鏡用補助具を提供することを目的とする。また、本発明は、NOTES手技のみならず、EMRやESD等の手技においても用いることができる内視鏡用補助具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明の内視鏡用補助具は、体腔を通じて内視鏡を体内で使用する際に用いられる補助具であって、先端に対物レンズを備えた内視鏡を挿通可能な内部通路を有する内筒と、前記内筒を内部に挿通可能なオーバーチューブとを備え、前記オーバーチューブ及び内筒は、可撓性を有する合成樹脂により形成され、前記内筒の先端には、先端形状が先細り形状に形成され、少なくとも前記対物レンズの前方部分が透明に形成され、前記対物レンズによって外部を目視可能に形成されたチップ部が設けられ、前記内筒を前記オーバーチューブに挿入した際に、前記チップ部が前記オーバーチューブの先端から突出すると共に前記内筒の後端部が前記オーバーチューブの後端部から突出するよう形成され、前記オーバーチューブは、その軸方向に沿って、体内に少なくとも気体を供給可能な補助通路が設けられていることを特徴とする。
【0015】
内視鏡を用いた手技においては、まず、オーバーチューブを体表や体腔表面に設けられた切開部を介して体内に挿入する必要があるが、前記内筒の先端形状が先細り形状であり、さらに対物レンズによって外部を目視可能としているため、前記オーバーチューブに前記内筒及び内視鏡を装着し、切開部を介してオーバーチューブを体内に挿入する際に、内視鏡により状況を確認しながら処置を行うことができる。
【0016】
ここで、従来の内視鏡とオーバーチューブとを用いた手技においては、まず内視鏡の周囲にオーバーチューブを装着し、内視鏡のみを体腔内に挿入し、その後オーバーチューブを内視鏡に沿って体腔内に向けて挿入するという手順となっていた。その際、先に挿入した内視鏡の外周面をオーバーチューブが摺動しながら体腔内に挿入されていくが、内視鏡は既に体腔内に挿入されているため、オーバーチューブの先端部を目視しながらオーバーチューブを挿入することはできない。従って、従来の手技においては、内視鏡とオーバーチューブとの間に咽頭や食道等の表面が巻き込まれてしまい、患者に負担を生じさせるおそれがあった。
【0017】
本発明においては、前記内筒内に内視鏡が装着された状態で、内筒及びオーバーチューブを体腔内に挿入することができる。また、本発明においては、前記内筒の先端にあるチップ部が透明であり、内部に装着した内視鏡で前方を目視可能となっている。従って、本発明によれば、内視鏡でオーバーチューブの挿入状態を確認しながら手技を進めることができるため、咽頭や食道等の巻き込みを防止し、円滑な手技を行うことができる。
【0018】
また、前記オーバーチューブに前記補助通路が設けられていることにより、当該補助通路から体内に気体を供給することができる。内視鏡により手技が行われる場合は、前記内筒はオーバーチューブより取り外され、内視鏡が直接オーバーチューブを介して体内に挿入された状態となる。この状態で、前記補助通路より体内に気体を供給することができ、体内からの気体の排出はオーバーチューブと内視鏡との隙間から行うことができるため、体内における気圧の調整を容易に行うことができる。
【0019】
また、本発明の内視鏡用補助具を用いて前記補助通路から体内に気体を供給することにより、電気メス等を用いた手技が行われている際にも処置部近傍の体内の気体が換気されるため、処置部近傍の視界の悪化を防止することができる。
【0020】
また、本発明の内視鏡用補助具においては、前記補助通路が複数設けられ、体内に気体を供給すると共に、体内から気体を吸引可能とすることが好ましい。当該構成により、気体の供給及び吸引を自在に制御できるため、体内の気圧の制御を容易に行うことができる。
【0021】
また、本発明の内視鏡用補助具においては、前記補助通路の体表側に露出する箇所に、補助通路の開閉を行う活栓が設けられていることが好ましい。当該構成により、前記活栓の開閉を適宜行うことにより、体内の気圧の制御を術者や助手の手元において容易に行うことができる。
【0022】
また、本発明の内視鏡用補助具においては、患者の体腔表面又は体表切開部に保持されて前記オーバーチューブを保持する保持手段をさらに備え、前記保持手段は、前記オーバーチューブが挿通される筒状部と、患者に装着されて前記筒状部を保持する装着部とを有し、前記筒状部の内周面に前記オーバーチューブを前記通路の内周面に押し付けて保持可能な膨張収縮自在のバルーンが設けられていることが好ましい。
【0023】
当該構成によれば、前記保持手段の筒状部内に前記オーバーチューブを挿入した状態で前記バルーンを膨張させることにより、前記オーバーチューブが前記保持手段に保持される。このため、オーバーチューブ内に挿入された内視鏡の位置も安定する。従って、助手等によってオーバーチューブや内視鏡を保持することなく、術者は内視鏡等が安定した状態で手技を行うことができる。
【0024】
また、前記内視鏡用補助具が膣又は肛門を経由して手技が行われる補助具であるときは、前記装着部は、布製でパンツ状に形成され、前記筒状部は前記装着部が患者に装着された際に膣又は肛門の前方位置に配置されるように前記装着部に取り付けられているものとすることができる。
【0025】
このように前記筒状部をパンツ状の装着部に取り付けたときは、NOTES手技において前記筒状部の患者への装着も容易であり、装着時においても前記筒状部の位置が安定する。前記パンツ状の装着部は、布製であれば種々の素材を用いることができるが、ニット製、或いは不織布等、伸縮自在のものが好ましい。このような素材で前記装着部を形成したときは、多くの患者に合わせることができ、前記筒状部の固定の面からも好ましい。
【0026】
また、本発明の内視鏡用補助具においては、前記オーバーチューブの後端部に着脱自在に装着される脱気防止弁ユニットをさらに備え、前記脱気防止弁ユニットは、内視鏡の進行方向に向けて先細り形状であり、先端部に稜線を備えた一対の傾斜面を有し、前記稜線に沿って設けられたスリットを有する弁体と、前記弁体の内部に設けられ前記スリットの両端側の弁体側壁の変形を抑止する抑止部材とを備えていることが好ましい。
【0027】
当該構成によれば、前記弁体により前記オーバーチューブと内視鏡との間の気密が保たれる。また、先細り形状となっている一対の傾斜面を有する弁体は、内視鏡を抜き取る際に前記傾斜面が内視鏡表面との摩擦により後方にめくれて内視鏡を抜く際の抵抗になることが多いが、本発明においては、前記抑止部材により前記弁体のめくれが防止されるので、内視鏡をオーバーチューブから抜く際の抵抗が従来のものに比べて小さくなる。
【0028】
また、本発明の内視鏡用補助具においては、前記脱気防止弁ユニットは、前記弁体の前方位置の内周面に開口し、内部と外部とを連通する1又は2以上の通気用バルブを備えていることが好ましい。当該構成により、前記通気用バルブを介して体内の気圧を調整することができる。このため、前記オーバーチューブに設けられた補助通路は、送気又は吸入以外に、薬液や生理食塩水等の液体、或いは内視鏡用の処置具等を挿通することができる。これにより、本発明の内視鏡用補助具は、多様な手技に対応して術者の所望する液体や処置具等を処置部に導入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の内視鏡用補助具の実施形態の一例を示す説明図。
【図2】本実施形態における内筒内に内視鏡を挿入した状態を示す説明的断面図。
【図3】本実施形態におけるオーバーチューブに内筒及び内視鏡を装着した際の先端部分の状態を示す説明的断面図。
【図4】本実施形態のホルダユニットの一例を示す説明図。
【図5】(a)は本実施形態の脱気防止ユニットを示す説明的断面図、(b)は脱気防止ユニット内に設けられたサポートリングを示す説明図。
【図6】本実施形態の他の例のチップ部を示す説明図。
【図7】本実施形態の他のオーバーチューブの先端部分を示す説明図。
【図8】本実施形態の他の例のホルダユニットを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の内視鏡用補助具の実施形態の一例について、図1乃至図8を参照して説明する。
【0031】
本実施形態の内視鏡用補助具1は、膣等の体腔や、腹部に設けられた切開部から内視鏡を体内に挿入して手技を行うために用いられるものであり、図1に示すように、体腔或いは切開部から体内に挿入されるオーバーチューブ20と、オーバーチューブ20内に挿入される内筒30と、後述するホルダ40(図4参照)及び脱気防止ユニット50(図5参照)とを備えている。
【0032】
オーバーチューブ20は、本体21は可撓性を有する合成樹脂製のチューブで形成され、ある程度の剛性を持たせるために、内部にステンレス製の補強芯材22が一体に成形されている。本体21の先端部近傍は、補強芯材22がない状態であり、補強芯材22がある部分と比べて柔らかくなっている。
【0033】
オーバーチューブ20の形状は、側面視でなだらかにカーブする円弧形状となっている。また、オーバーチューブ20の外径は、各種の手技に適した太さに形成している。本実施形態では、直径が約2cm〜6cmのものを適用箇所や患者によって適宜選択して用いている。
【0034】
このオーバーチューブ20の曲率半径の小さい側の表面には、一対の補助チューブ23,24が固着されている。この補助チューブ23,24は、可撓性を有する合成樹脂製のチューブであり、先端部はオーバーチューブ20の先端形状に沿って斜めに傾斜しており、後端部にはコネクタ25,26が設けられている。このコネクタ25,26は、一方のコネクタ25がオスコネクタであり、他方のコネクタ26がメスコネクタとなっている。
【0035】
この補助チューブ23,24は、図1〜図3に示すように、先端部がオーバーチューブ20の先端部から若干後方に位置するように固定されており、オーバーチューブ20の表面に沿って後方に延設され、オーバーチューブ20の後端部に設けられたコネクタ部27の先端位置近傍まで延設されている。また、コネクタ部27の先端位置近傍から周方向に分かれてオーバーチューブ20の反対側まで延び、オーバーチューブ20から離反してコネクタ25,26に接続されている。
【0036】
また、コネクタ部27には、内筒30のコネクタ部33に設けられた係合突起34と係合する係合溝28が設けられている。また、コネクタ部27には、オーバーチューブ20の湾曲方向が手元で確認できるように、オーバーチューブ20の曲率半径の小さい側の表面に表示マーク29が設けられている。
【0037】
内筒30は、筒状の本体31と、本体31の先端部に設けられたチップ部32と、本体31の後端部に設けられたコネクタ部33とを備えている。本体31及びチップ部32は、透明な合成樹脂で形成されており、本実施形態では可撓性のある合成樹脂が用いられている。また、本体31の内部は、内視鏡60が挿通される内部通路31aとなっている(図3参照)。
【0038】
また、チップ部32の形状は略円錐形状であり、先端部は小さくアールが設けられている。また、チップ部32の後端部は本体31の外径とほぼ同寸法となるように形成されている。
【0039】
また、図3に示すように、内筒30の外径は、オーバーチューブ20の本体21の内径より若干小径に形成されており、内筒30がオーバーチューブ20の本体21の内部を容易に移動可能となっている。一方で、内筒30の表面とオーバーチューブ20の本体21の内周面との隙間を僅かなものとしており、内筒30とオーバーチューブ20とを患者の口及び食道を介して胃内に挿入する場合等に、咽喉や食道等の表面が挟みこまれないように形成されている。
【0040】
内筒30のコネクタ部33には係合突起34が設けられており、オーバーチューブ20のコネクタ部27に装着し、係合突起34を係合溝28に係合させ、オーバーチューブ20と内筒30とを連結することができるように形成されている。
【0041】
また、内筒30は、図3に示すように、内視鏡60が先端部近傍まで内部に挿入されるため、内部通路31aは一般に多く用いられている直径を有する内視鏡60が挿入可能な内径を有している。内筒30の外径は、オーバーチューブ20の内径に合わせて複数種類の太さのものがあり、適用箇所や患者によって適宜選択して用いる。
【0042】
本実施形態の内視鏡用補助具1は、上記構成の他に、図4に示すホルダユニット40と、図5に示す脱気防止ユニット50とを備えている。
【0043】
図4を参照して、ホルダユニット40は、手術時にオーバーチューブ20や内視鏡60を所定位置に保持するものである。図4に示すように、ホルダユニット40は、患者の体腔の開口近傍、或いは切開部が設けられた体表に配置されるフランジ部41と、フランジ部41から一方側に突出する筒状部42と、フランジ部41に設けられたベルト固定部43と、ポリウレタン製の固定ベルト44(装着部)とを備えている。
【0044】
筒状部42には、一対の補助チューブ23,24が収納される形状に形成された溝42aと、溝42aの反対側に位置するバルーン45が設けられている。バルーン45の内部は、接続チューブ46に連通しており、接続チューブ46の先端部にはコネクタ47が取り付けられている。
【0045】
このコネクタ47には、注射針のついていないシリンジ(図示省略)を接続することができ、当該シリンジで空気を送り込み、バルーン45を膨らませることができる。また、コネクタ47の内部にはチェックバルブ(図示省略)が設けられており、シリンジを取り外した場合でも、バルーン45の内部の空気が外部に漏れないようになっている。また、バルーン45内の空気を抜く際には、コネクタ47にシリンジを差し込んでシリンジのプランジャを引くことにより行う。
【0046】
図5(a)を参照して、脱気防止ユニット50は、本体51の内部に内視鏡60が挿通可能なように中央部に内視鏡の直径よりも小径の穴を有するゴム製の第1脱気防止弁52と、内視鏡の進行方向(図5(a)では左側)に向けて先細り形状に形成されたゴム製の第2脱気防止弁53(弁体)と、第2脱気防止弁53の内部に装着されるサポートリング54(抑止部材)と、これらの部材を本体51内に位置決め保持するスペーサ55とを備えている。
【0047】
また、脱気防止ユニット50には、その内部と外部とを連通する通気用バルブ57を備えている。この通気用バルブ57は、内部に通路57aが形成され、脱気防止ユニット50において第2脱気防止弁53の前方(図5(a)において左側)に開口57bと、通路57aの連通と遮断とを切り替える切替え弁57cとを有している。
【0048】
第1脱気防止弁52は、内視鏡60の進行方向に向けて先細りするリング状に形成され、その表面には内視鏡60が挿入される際の抵抗を減らすため、放射状の突起52aが設けられている。
【0049】
第2脱気防止弁53は、側面視で山形に形成された弁であり、先端部に稜線53aを備えた一対の傾斜面53bを有し、稜線53aに沿って設けられたスリット53cを有している。この第2脱気防止弁53は、図5(a)において左側の気圧が高くなった際には、傾斜面53bに加わる圧力によりスリット53cが密着して閉じられるため、スリット53cからの脱気が防止される。
【0050】
図5(b)を参照して、サポートリング54は、剛性のある合成樹脂により形成され、第2脱気防止弁53のスリット53cの両端側の側壁の形状に合わせて側面視で山形に形成されている。また、サポートリング54には、脱気防止ユニット50の本体51内に装着されるスペーサ55に保持されるように、係合突起54aが設けられている。
【0051】
また、脱気防止ユニット50には、オーバーチューブ20のコネクタ部27に着脱自在に装着可能なコネクタ部56が設けられている。このコネクタ部56にも、オーバーチューブ20のコネクタ部27の係合溝28に係合可能な係合突起56aが設けられている。
【0052】
次に、本実施形態の内視鏡用補助具1の使用例について説明する。以下の説明では、患者の腹部表面に設けられた切開部から、オーバーチューブ20及び内筒30を用いて胃内に内視鏡を挿入して手技を行う場合の使用方法について説明する。なお、手技に用いられる内視鏡60は、通常広く用いられている内視鏡であり、先端部に対物レンズ61を備えている。
【0053】
切開部を内筒30によって押し広げる際には、内筒30内に内視鏡60を挿入し、図3に示すように、内視鏡60の先端部をチップ部32の後端部近傍位置まで挿入する。内視鏡60には対物レンズ61が設けられており、この対物レンズ61によってチップ部32の前方にあるものを視認可能となっている。このとき、オーバーチューブ20、内筒30、及び内視鏡60の表面に潤滑剤を塗布しておく。
【0054】
内筒30内に内視鏡60をセットした後、内筒30及び内視鏡60をオーバーチューブ20内に挿入し、オーバーチューブ20のコネクタ部27と内筒30のコネクタ部33とを接続させる。このときコネクタ部27の係合溝28にコネクタ部33の係合突起34を係合させる。本実施形態では、この状態で、図2に示すように、内筒30のチップ部32がオーバーチューブ20の先端部から突出するようになっている。
【0055】
一方、患者側にはホルダユニット40の固定を行う。ホルダユニット40の固定は、フランジ部41を患者側に向けて筒状部42が患者の外側に位置するようにし、固定ベルト44を患者の腰に巻き付け、ホルダユニット40を患者の体表に固定する。このとき、バルーン45は収縮させておく。
【0056】
次に、内視鏡用補助具1と内視鏡60とをセットした状態で、これらをホルダユニット40の筒状部42を通して患者の切開部から胃内に挿入する。このとき、内視鏡60の対物レンズ61によって体腔内を視認しながら体腔内にオーバーチューブ20及び内筒30を挿入する。
【0057】
そして、内筒30のチップ部32によって切開部を押し広げ、切開部を通過した際には、透明なチップ部32を介して対物レンズ61によってそれぞれの状態が視認可能となる。従って、術者は、内筒30の先端部が切開部を通過したことを容易に把握することができる。また、内筒30の外周面とオーバーチューブ20の内周面との隙間が僅かしかないため、切開部等を挟み込むことなく、円滑に手技を行うことができる。
【0058】
上記手技の際、処置部から出血等があり、内視鏡60の視界が不良となったときは、補助チューブ23,24によって処置部の洗浄を行うことができる。具体的には、一方の補助チューブ23から生理食塩水等の洗浄液を注入して処置部を洗浄し、他方の補助チューブ24から洗浄後の洗浄液等を吸い出すことにより、処置部を洗浄することができる。本実施形態では、補助チューブ23,24の後端部に設けられたコネクタ25,26が、オスコネクタとメスコネクタに区別されているので、洗浄液の注入と吸引の区別も容易となる。
【0059】
上記手技を行い、体表にオーバーチューブ20を挿通可能な穴が形成された後、内筒30をオーバーチューブ20から抜き、オーバーチューブ20のコネクタ部27に脱気防止ユニット50を取り付ける。そして、脱気防止ユニット50を介して内視鏡60をオーバーチューブ20内に進入させる。そして、内視鏡60で体内の状況を観察しながら内視鏡60の先端を患部近傍まで進入させる。
【0060】
上記手技の際、胃内を大気圧よりも高い気圧に保つことにより、手技が容易になる。本実施形態においては、脱気防止ユニット50に通気用バルブ57が設けられており、この通気用バルブ57に自動送気装置を接続することにより、自動的に体腔内が所定の気圧に保たれる。これにより、従来、内視鏡の送気チャンネルからマニュアル操作で行っていた送気を、オーバーチューブ20を介して自動的に行うことができ、術者の労力が大幅に低減された。
【0061】
また、オーバーチューブ20が円弧状に湾曲しているため、術者がコネクタ部27を回転させることにより、オーバーチューブ20の先端の方向を任意の方向に操作することができる。これにより、内視鏡60を進入させることができる範囲が広がるので、広い範囲の臓器の治療を行うことができる。また、オーバーチューブ20の湾曲方向は、表示マーク29により術者が手元で確認できるため、手技が容易となる。
【0062】
次に、オーバーチューブ20を所定位置まで進入させたときは、ホルダユニット40のバルーン45を膨張させてホルダユニット40にオーバーチューブ20を保持させる。その際、一対の補助チューブ23,24を筒状部42の溝42aに位置させてからバルーン45の膨張を行う。これにより、補助チューブ23,24がバルーン45の膨張によっても圧迫されないので、補助チューブ23,24がつぶれて内部通路が不通となることがない。
【0063】
その後、術者は内視鏡及び電気メス等の処置具を用いて所望の手技を行う。例えば、内視鏡60が処置具チャンネルと通気チャンネルと(図示省略)を有するものである場合、電気メスを用いて患部の切除を行い、その際発生する煙を通気チャンネルを通じて外部に排出することができる。
【0064】
このとき、脱気防止ユニット50の通気用バルブ57に接続された自動送気装置からオーバーチューブ20を介して胃内に送気することにより、胃内の気圧を一定に保つことができる。
【0065】
一方、内視鏡60に通気チャンネルがない場合は、例えば脱気防止ユニット50の通気用バルブ57に接続された自動送気装置からオーバーチューブ20を通じて送気を行い、補助チューブ23,24のいずれか一方或いは双方から気体を吸引することにより、胃内の煙を外部に排出することができる。逆に、自動送気装置を補助チューブ23,24に接続し、通気バルブ57から外部に煙を吸引しても良い。
【0066】
また、手技の途中で、オーバーチューブ20から内視鏡60を抜き取る必要が生じた場合であっても、本実施形態の脱気防止ユニット50は、第2脱気防止弁53の内部にサポートリング54が設けられているため、内視鏡60を引き抜く際に第2脱気防止弁53がめくれて内視鏡60の表面を押さえつけることがないので、内視鏡60の引き抜きも容易となる。
【0067】
なお、上記実施形態では、オーバーチューブ20に設けられている補助チューブ23,24を2本としているが、1本のみとしてもよく、3本以上の複数本としてもよい。また、補助チューブ23,24は、洗浄液の注入及び吸引を行う他、鉗子等の処置具を挿入するようにしてもよい。
【0068】
また、上記実施形態においては、オーバーチューブ20の外周面に補助チューブ23,24を設けているが、図7(a)に示すように、オーバーチューブ20の壁面を貫通する補助通路23aとしてもよい。また、図7(b)に示すように、オーバーチューブ20の内面に補助チューブ23bを設けても良い。また、オーバーチューブ20については、補強芯材22を有するものに限られず、材質によっては補強芯材22がないものとしてもよい。
【0069】
また、ホルダユニット40の固定ベルト44は、上記実施形態のようにポリウレタン製のベルト以外に、シリコーンゴムや面ファスナー等、任意の素材を用いることができる。
【0070】
また、本実施形態においては、ホルダユニット40のバルーン45、接続チューブ46及びコネクタ47の各構成を、従来より用いられているマウスピースに適用し、オーバーチューブ20及び内筒30を患者の口から胃内に挿入する手技に用いてもよい。
【0071】
当該手技においては、オーバーチューブ20及び内筒30を患者の口から挿入する際に、内視鏡により状況を確認しながら処置を行うことができる。また、内筒30のチップ部32が略円錐形で先端部が球面状となっている。さらに、内筒30とオーバーチューブ20との隙間が狭くなっている。このため、咽喉や食道、或いは梨状窩を通過する際に、これらの箇所や粘膜等を傷めることなくオーバーチューブ20等を挿入することができる。
【0072】
上記実施形態においては、内筒30のチップ部32の形状が略円錐形のものについて説明したが、図6(a)に示すように、チップ部32aのような構成としてもよい。このチップ部32aの表面には、螺旋状の突起35が設けられている。当該突起35により、チップ部32aを体表に設けられた切開部を押し広げることが容易となる。
【0073】
また、図6(b)に示すように、チップ部32bのような構成としてもよい。このチップ部32bは、棒状の部材36で四角錐形状に形成し、内筒の内部通路31aと連通する開口部37を設けている。また、図示は省略するが、棒状の部材36で三角錐形状、或いは他の多角錐形状に形成してもよい。
【0074】
当該構成とすることにより、チップ部32で体表に設けられた切開部を押し広げて進入する際に、切開部を開口部37を介して直接内視鏡60の対物レンズ61で視認することができる。また、内視鏡60に処置具チャンネルが設けられているときは、開口部37を介して前方に処置具を延ばして処置することも可能となる。
【0075】
また、上記実施形態においては、脱気防止ユニット50の通気用バルブ57が1個のものについて説明したが、これに限らず、必要に応じて通気用バルブ57を複数設けてもよい。通気用バルブ57を複数設けることにより、脱気防止ユニット50のみで体内の気圧の調節を行うことができるため、オーバーチューブ20に設けられた補助チューブ23,24を、処置部の煙の排除に用いることができる。また、補助チューブの一方のみを煙の排除に用いて、他の補助チューブに処置具等を挿通することもでき、種々の手技に応じて使い勝手のよい補助具を提供することができる。
【0076】
また、上記実施形態においては、ホルダユニット40について、固定ベルト44により患者に固定するものについて説明したが、膣又は肛門を経由して手技が行われるNOTES手技に用いるものとして、図8に示すようなホルダユニット40aのような構成としてもよい。このホルダユニット40aは、装着部としてパンツ状の装着部48を用いている。当該装着部48は、通常の衣服に用いられるニット素材のものを用いて形成されている。
【0077】
図8において、ホルダユニット40aは、筒状部42が上記実施形態と同様の構成を備えており、フランジ部41aの形状が上記実施形態のフランジ部41と異なっている。具体的には、フランジ部41aは装着部48の形状に沿って湾曲しており、上記実施形態のようなベルト固定部43は設けられていない。ホルダユニット40aの他の構成は、上記実施形態のホルダユニット40と同様であるので、同一の構成には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0078】
当該構成のホルダユニット40aは、装着部48がパンツ状であるため、患者に装着しやすく、フランジ部41a及び筒状部42の患者に対する位置決めを確実に行うことができる。
【0079】
なお、ホルダユニット40,40aにおいて、オーバーチューブ20が図7a或いは図7bに示すようなタイプの場合、図4に示す溝42aを省略することができる。
【0080】
以上のように、本発明の内視鏡用補助具は、EMRや、ESD、或いはNOTES等の各種手技で使用することができる補助具となっている。上記実施形態においては、NOTES手技においては、経膣NOTES手技を例にして説明したが、体腔表面に設けられた切開部を広げたり、体腔表面に切開部を設けたりする手技であって、全体として直線状に形成された器具により手技を行うものであれば、体腔として食道、直腸、尿道等の手技に用いてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…内視鏡用補助具、20…オーバーチューブ、30…内筒、31a…内部通路、32…チップ部、50…脱気防止ユニット、60…内視鏡、61…対物レンズ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔を通じて内視鏡を体内で使用する際に用いられる補助具であって、
先端に対物レンズを備えた内視鏡を挿通可能な内部通路を有する内筒と、前記内筒を内部に挿通可能なオーバーチューブとを備え、
前記オーバーチューブ及び内筒は、可撓性を有する合成樹脂により形成され、
前記内筒の先端には、先端形状が先細り形状に形成され、少なくとも前記対物レンズの前方部分が透明に形成され、前記対物レンズによって外部を目視可能に形成されたチップ部が設けられ、
前記内筒を前記オーバーチューブに挿入した際に、前記チップ部が前記オーバーチューブの先端から突出すると共に前記内筒の後端部が前記オーバーチューブの後端部から突出するよう形成され、
前記オーバーチューブは、その軸方向に沿って、体内に少なくとも気体を供給可能な補助通路が設けられていることを特徴とする内視鏡用補助具。
【請求項2】
前記補助通路が複数設けられ、体内に気体を供給すると共に、体内から気体を吸引可能としたことを特徴とする請求項1に記載の内視鏡用補助具。
【請求項3】
前記補助通路の体表側に露出する箇所に、補助通路の開閉を行う活栓が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内視鏡用補助具。
【請求項4】
患者の体腔表面又は体表切開部に保持されて前記オーバーチューブを保持する保持手段をさらに備え、
前記保持手段は、前記オーバーチューブが挿通される筒状部と、患者に装着されて前記筒状部を保持する装着部とを有し、
前記筒状部の内周面に前記オーバーチューブを前記通路の内周面に押し付けて保持可能な膨張収縮自在のバルーンが設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の内視鏡用補助具。
【請求項5】
前記内視鏡用補助具は膣又は肛門を経由して手技が行われる補助具であり、
前記装着部は、布製でパンツ状に形成され、前記筒状部は前記装着部が患者に装着された際に膣又は肛門の前方位置に配置されるように前記装着部に取り付けられていることを特徴とする請求項4に記載の内視鏡用補助具。
【請求項6】
前記オーバーチューブの後端部に着脱自在に装着される脱気防止弁ユニットをさらに備え、
前記脱気防止弁ユニットは、内視鏡の進行方向に向けて先細り形状であり、先端部に稜線を備えた一対の傾斜面を有し、前記稜線に沿って設けられたスリットを有する弁体と、
前記弁体の内部に設けられ前記スリットの両端側の弁体側壁の変形を抑止する抑止部材とを備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の内視鏡用補助具。
【請求項7】
前記脱気防止弁ユニットは、前記弁体の前方位置の内周面に開口し、内部と外部とを連通する1又は2以上の通気用バルブを備えていることを特徴とする請求項6に記載の内視鏡用補助具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−67597(P2011−67597A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96377(P2010−96377)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(390029676)株式会社トップ (106)
【Fターム(参考)】