説明

内部局所放射線治療用生物分解可能な複合体

本発明は、ポリママトリックスと、放射性同位元素を結合した疎水性有機化合物を具える複合体を開示している。この複合体は、内部局所放射線治療での使用に適した生体適合性及び生体分解性ヒドロゲルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、内部局所放射線治療用複合体に関する。
【0002】
発明の背景
放射線治療は、様々な疾病の治療用に放射線をイオン化する医学的用途であり、その中でも癌の治療が最も広く行われている。放射線治療は、癌の治効処置あるいはアジュバント処置に用いられる。しかし、これはしばしば、転位拡散を局所的にコントロールするために症状緩和の目的で行われており、最も一般的なものは、外科手術、化学療法、ホルモン療法、及びこれらの組み合わせと放射線療法をあわせた治療である。
【0003】
放射線治療は、肉眼的腫瘍及び辺縁性標準腫瘍(及び、しばしば隣接する流入領域リンパ節)に行われるため、使用する外部ビーム(外部ビーム治療)によってときに健康な組織がダメージを受ける。この損傷を低減する一つの方法は、腫瘍に交差する様々な角度(50cmから数メートルの距離で)から、周辺の健康な組織よりも大きな放射線用量で整形放射線ビームを提供するやり方で用いることである。
【0004】
代替的なアプローチは、近接照射療法の使用である。近接照射療法(近接治療)では、対象の組織内(組織内インプラント)あるいは対象の組織の最近位(腔内インプラント)のいずれか、あるいは、危険な状態で組織に接触させて、放射線源(金属性シードまたはリボン)をインプラントする。腫瘍のタイプに応じて、近接照射法は、(a)表在性腫瘍(皮膚)に対するモールド近接照射法;(b)小さなアプリケータ(中空上の薄い銀製キャスティングで、放射線源を含んでいる)を疾患のある器官に配置する表面近接照射法;(c)放射線源(金属性針)を組織(例えば前立腺)に挿入する間質放射線治療;(d)放射線源を既存の身体キャビティ内にインプラントする腔内放射線治療、及び、(e)装填カテーテルを脈間構造(ステント内狭窄)内に配置する脈間内放射線治療、に分類される。
【0005】
125Iなどの様々な放射線源を含む放射性「シード」を用いる永久的インプラントが用いられてきた。137Cs、192Ir、及び103Pd源は、一時的インプラントに使用されてきた。133Xeと131Xeも提言されてきた。
【0006】
ヨーロッパ特許第0979656号は、放射線源を腫瘍組織に直接接触させるか腫瘍組織内に入れて適用する腫瘍性疾患及び非腫瘍性疾患の治療用、及び無線誘導外科手術の補助器具として使用するための放射性組成物を開示している。この組成物は、生体適合性あるいは生体吸収性固体粒子に固定した放射性同位元素を含み、2乃至30%w/wのポリビニルピロリドンと、0.01乃至2%w/wの寒天または水中アガロースを含む低張性ゲルとからなる、生体適合性で生体吸収性のマトリックスに含有されている。
【0007】
国際特許公開第WO 97/19706号は、近接照射療法の実行に使用する治療源を開示している。これらの治療源は、生体適合性高分子マトリックスに分散させた、103Pd、192Ir、90Yt、32Pあるいは198Agの放射性粉体でできている。この高分子マトリックスは、例えば、ロッド状、中空ロッド状、縫合糸状、フィルム状、シート状、または微小球状といった形の、使用意図に適したあらかじめ選択されたフレキシビリティを持って製造するのが好ましい。この放射性組成物は、全方向に実質的に均一な放射線場を生成する。この放射線当量は、医療手順の間における放射線組成物から所望量の治療用放射線を発するように組み合わされている。選択的に、ポリマは、放射線源に用いられた放射線同位元素の半減期に依存して、所望の速度で身体中で溶けるあるいは分解するように選択される。
【0008】
国際特許公開第WO 95/16463号は、セルロースエーテルに吸収させた166Ho、153Sm、105Rh、177Lu、192In、165Dy、90Y、140La、159Gd、175Yb、186Re、及び47Scあるいはこれらの派生物などの放射性元素を具える治療用放射性組成物の使用を開示している。
【0009】
発明の概要
近接照射療法は、隣接する健康な組織により安全であることが証明されているが、その適用に関連する複雑な位置決めと除去手順が、この治療手順の実行を厳しく制限していた。従って治療後の摘出の必要性をなくす放射性同位元素をあらかじめ装填した生体分解性デバイスの使用が、近接照射療法に伴う多大な複雑性と不快性を取り除く手段であると本発明の発明者らは考えた。
【0010】
本発明の発明者らは、近接照射療法などの内部局所放射線治療に適する新規な放射性で生体分解性複合体を開発した。この複合体は、少なくとも一のベータ−またはガンマ−放出放射線同位元素を結合した、脂質などの疎水性有機化合物と共に埋め込まれた高分子マトリックスを具える。
【0011】
発明者らは、このような複合体の二つの一般的なサブグループが内部放射線治療に好適であることを見出した。
(i) 高分子マトリックスと、ハロゲン放射性同位元素に共有結合した脂質などの疎水性有機化合物でできた複合体;及び
(ii)高分子マトリックスと、例えば、好ましくは、124I、125I、131I、90Y、166Ho、186Re、188Re、90Sr、226Ra、137Cs、60Co、192Ir、103Pd、198Au及び106Ruなどの、少なくとも一つのベータ−またはガンマ−放出放射線同位元素との等位結合(coordinative association)を介して(共有結合を介することなく)化学的に結合したコレステロールである、脂質などの疎水性有機化合物でできた複合体。
【0012】
本発明の複合体は、以下の特徴を有する:
(i)完全に生体適合性である;
(ii)完全に生体分解性であり、従って、後処理取出の必要がない;
(iii)実質的にマトリックスの生体適合性及び/又は生体分解性に影響することなく、治療線量の放射性成分を装填可能である;
(iv)この組成物の分解速度と体内への残留時間を、治療上の必要性に応じて制御可能、設計可能である;
(v)腫瘍などの疾病または疾患の治療に、近隣組織及び/又は器官への影響を最小にして使用できる;
(vi)組み合わせ治療に使用しても良い;
(vii)放射性化合物とは別に、この組成物を抗腫瘍性作用物質としてその他の作用物質と共に装填しても良い;
(viii)近隣の健康な組織への放射性化合物の放出を実質的に検出できない。
【0013】
従って、本発明の第1の態様においては、少なくとも一の放射性原子に結合する少なくとも一の疎水性有機化合物と共に埋め込んだ高分子マトリックスの複合体を提供しており、ここで前記少なくとも一の放射性原子に関連する疎水性有機化合物が前記マトリックスから実質的に浸出不可能である。
【0014】
ここで用いられているように、「複合体」の用語は、本発明で用いる高分子マトリックスと有機化合物を組み合わせることによって生じる生成物を意味する。疎水性有機化合物をマトリックスへの埋め込みは、連続的でかつ均一であることが好ましい。ここで用いられているように、「埋め込まれた」という用語、あるいはこの用語の言語変形は、放射性化合物が高分子化合物に組み込まれる方法を意味しており、例えば、ポリマのモノマであって、放射性化合物を有するモノマを重合の一部に付加すること、高分子マトリックス全体に放射性化合物を分散させること;前記マトリックス内のボイドに放射性化合物を封入すること;高分子マトリックス内に放射性化合物をランダムに分散させること;高分子マトリックスの内側にカプセル化すること、その他を含む。埋め込みの度合いと均一性も、マトリックスと放射性化合物との間の化学的及び/又は物理的相互作用の結果である。このような相互作用は、酸塩基、疎水性−親水性、イオン相互作用、錯体形成、キレート化、その他であってもよい。
【0015】
「高分子マトリックス」の用語は、生体適合性及び生体分解性ポリマ、好ましくは有機ポリマであって、その中に放射性有機化合物が埋め込まれているものをいう。このようなポリマの非限定的な例には、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポロプロピレンテレフタレート、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、フェニルエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、シリコーン、及び液晶ポリマがある。生体適合性及び生体分解性ポリマの非限定的な例には、ポリグリカプロン(polyglycaprone)、ポリグラクチン(polyglactin)、及びポリジオアノン(polydioanone)がある。
【0016】
使用されている高分子マトリックスは、以下に説明するように、ポリマのモノマ(重合による)、所望のマトリックスを形成するために必要な適宜条件下(ヒドロゲル化に導く条件など)、または、硬化剤あるいは架橋剤などのその他の作用物質の存在下でポリマ自体から、形成することができる。
【0017】
いくつかの実施例では、ポリマは硬化性あるいは架橋性である。「架橋」の用語は、当業者には知られているように、ポリマが反応する別のポリマまたは化合物である第2の化学物質との間の反応を意味する。架橋は、例えば、当業者に知られており、例示されている適宜の化学的条件を用いて行うことができる。例えば、架橋は、構成単位を繰り返すポリマであって、構成単位ごとに少なくとも一のアミノ基(キトサンの場合など)において露出しており、ジアルデヒド含有化合物と架橋することができるポリマであってもよい。架橋は、また、例えば、カルシウムなどの多価カチオンを加えることによってできるものであっても良い。
【0018】
マトリックスからなるポリマは、本発明の最も好ましい実施例では、ポリサッカリドである。ポリサッカリドは、同じモノサッカリド構成単位の繰り返し(セルロースの場合のように)、あるいは異なる構成単位の繰り返し(アルギン酸の場合のように)を有するものであり、天然、合成、あるいは半合成(修飾)、分枝、または直鎖状であっても良い。
【0019】
ポリサッカリドは、塩の形態、いわゆる荷電した状態で使用することができる。典型的には、この塩は、ポリサッカリドとカルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウム、第一鉄及び第二鉄、及びその他のカオチンである。
【0020】
ポリサッカリドの非限定的な例は、アルギン酸、アミロペクチン、アミロース、アラビノキシラン、セルロース、キチン、キトサン、コンドロイチン、ガラクトグルコマンナン(galactoglucomannan)、グルコマンナン(glucomannan)、グリコーゲン、グアーガム、ヘパリン、ヒアルロン酸、イノリン、ペクチン、及びキシログルカンである。
【0021】
架橋剤の非限定的な例は、グルタルアルデヒド、ジアミノドデカン、ジビニルグリコールである。架橋は、二つの異なるポリサッカリド間でも生じることがある。
【0022】
一の実施例では、ポリサッカリドは、硬化性または架橋性ポリサッカリドであり、少なくとも一のアミノ基(キトサンの場合のように)を有するモノサッカリドを有する。これは、ジアルデヒド含有架橋化合物(グルタルアルデヒドなど)と架橋することができる。
【0023】
「疎水性有機化合物」は、いわゆる炭素ベースを有する有機化合物であり、実質的に水溶性で、完全合成、部分合成、あるいは天然のものであっても良い。有機化合物は、更に、生体適合性があり、放射線によって受ける影響とは別に、合成物を移植する組織又は器官になんら追加の毒性影響を与えない。本発明のコンテキストでは、実質的に、有機化合物と放射性原子の間の関係のタイプに関係なく有機化合物の疎水性が残っていなければ成らない。有機化合物と放射性原子の間の関係は、各パートナの性質に依存している。
【0024】
いくつかの実施例では、この関係は少なくとも一の化学的結合を介するものであり、すなわち、この二つは共有結合、イオン結合、水素結合、ファンデルワールス結合、配位結合、その他の結合を介して互いに保持されるものである。好ましくは、このような実施例では、この関係は、共有あるいは配位特性がある。
【0025】
その他の実施例では、疎水性有機化合物と放射性原子との間の関係が物理的なものである。すなわち、例えば、リポソームやデンドリマなど、ミセル系で包接錯体の場合などでは、放射性化合物が封入またはカプセル化されていてもよい。
【0026】
好ましくは、本発明の複合体に用いられる疎水性有機化合物は、コレステロールや、ノルコレステロールなどの脂質、トリグリセリド、様々な鎖長のハイドロカーボンなどの脂肪、その他から選択される。
【0027】
「放射性化合物」の用語は、ここでは、少なくとも一の放射性原子を結合した疎水性有機化合物を意味する。「放射性原子」は、好ましくは、(a)ガンマ線を放射する放射性同位元素;(b)ベータ線を放射する放射線同位元素;(c)ガンマ線を放射する放射性同位元素とベータ線を放射する放射線同位元素との組み合わせ;から選択される。
【0028】
一の実施例では、放射性原子は、放射性ハロゲンから選択される。この場合、放射性ハロゲン(すなわち、Br、Cl、I、およびF)は、共有結合によって有機化合物に化学的に結合している。
【0029】
放射性原子に結合した疎水性有機化合物は、「マトリックスから実質的に浸出不可」であると言われている。これは、有機化合物と放射性原子間の結合型(例えば、共有結合、イオン結合、その他)にかかわりなく、放射性原子が疎水性有機化合物から解離しないことを意味する。マトリックスが十分に分解することによってこのような解離ができるようになるまで、放射性化合物(上記に定義した)全体が放射性化合物が封入されているマトリックスから解離しないことが好ましい。上述したとおり、放射性化合物は、マトリックスから実質的に浸出しない。しかしながら、マトリックスの分解に伴なって、いくらかの浸出が生じることがある。この分解したマトリックスからの解離は、放射線が減衰した後に生じることが好ましい。
【0030】
本発明の好ましい実施例では、少なくとも一の疎水性有機化合物に埋め込まれ、少なくとも一の放射性ハロゲンに共有結合された、ポリママトリックス複合体、好ましくは、ポリサッカリド複合体、より好ましくはそのヒドロゲルが提供される。ここで、この放射性ハロゲンに共有結合した有機化合物は、前記マトリックスから実質的に浸出不可である。好ましくは、少なくとも一の放射性ハロゲンは、ヨウ素放射性同位元素(124I、125I、131Iなど)及びフッ素放射性同位元素(18Fなど)から選択される。好ましくは、この放射性ハロゲンは、最も好ましくは131Iの同位元素を持つヨウ素である。
【0031】
本発明の別の実施例では、放射性原子は、124I、125I、127I、131I、18F、90Y、166Ho、186Re、188Re、90Sr、226Ra、137Cs、60Co、192Ir、103Pd、198Au、99Tc、201Th、67Ga、111In及び106Ruなどのベータ線及び/又はガンマ線を放射する放射性同位元素であり、この放射性元素が結合する有機化合物は、脂質、脂肪、及び炭化水素の中から選択される。
【0032】
好ましくは、この脂質は、コレステロールとノルコレステロールのうちの一つである。
【0033】
従って、本発明のもう一つの好ましい実施例では、ベータ線及び/又はガンマ線を放射する放射性同位元素から選択された少なくとも一の放射性原子と結合した少なくとも一の脂質に埋め込まれた、ポリママトリックス複合体、好ましくは、ポリサッカリド複合体、より好ましくはそのヒドロゲルを提供している。ここで、少なくとも一の放射性原子と少なくとも一の有機化合物間の結合は、イオン結合、結合配位、及び分子間結合から選択された結合を介するものである。好ましくは、この結合は結合配位を介するものである。ベータ線及び/又はガンマ線を放射する放射性同位元素は、例えば、124I、125I、131I、90Y、166Ho、186Re、188Re、90Sr、226Ra、137Cs、60Co、192Ir、103Pd、198Au、99T及び106Ruから選択される。
【0034】
ここで用いられているように、「結合」の用語またはその変化形は、「有機化合物と放射性原子間の結合」などの表現のコンテキストでは、二つの物質を互いに保持する化学的あるいは物理的力を意味する。このような力は、当業者に公知のあらゆるタイプの化学的あるいは物理的結合相互作用であっても良い。このような結合の相互作用の非限定的な例には、イオン結合、共有結合、結合配位、錯体、水素結合、ファンデルワールス結合、疎水性−親水性相互作用、その他がある。好ましい実施例では、この結合が共有結合による。別の好ましい実施例では、この結合は、結合配位である。
【0035】
いくつかのケースでは、二個の原子あるいは二つの化学物質間の結合性相互作用が、一以上のタイプの化学的及び/又は物理的相互作用を含むことは、当業者には自明である。
【0036】
本発明は、したがって、好ましくはヒドロゲルである少なくとも一のポリサッカリドマトリックスと、少なくとも一の放射性ハロゲンに共有結合した有機化合物との複合体;あるいは、ベータ線及び/又はガンマ線を放射する放射性原子と結合した脂質を伴う複合体を提供する。
【0037】
一の実施例では、ポリママトリックスは、単一の放射性化合物に埋め込まれている。別の実施例では、このマトリックスは、異なる放射性原子または同位元素に結合した同じ有機骨格、あるいは、同じ有機構造でできている、2またはそれ以上の異なる放射性化合物に埋め込まれている。例えば、一のケースでは、マトリックスはベータ線を放射するコレステロールとガンマ線を放射するコレステロールに埋め込まれており、別のケースでは、ベータ線を放射するコレステロールとベータ線を放射するノルコレステロールに埋め込まれている。
【0038】
本発明の複合体は、患者の身体の特定限局部分(局所領域)を治療するのに用いることができる。この複合体は、放射性化合物が実質的に漏出することなく、あるいは、放射性化合物が埋め込まれているポリママトリックスから解離することなく、予め規定した時間、放射性有機化合物を維持するように製造される。
【0039】
放射性有機化合物を埋め込んでいるポリママトリックスは生体適合性である。「生体適合性」、「生体分解性」の用語あるいはこれらの変形は、ポリマに関連して使用する場合は、技術的に認められている。例えば、生体適合性ポリマには、自体がホスト(例えば動物またはヒト)に対して有毒でないばかりか、ホスト中の毒性濃度でモノマあるいはオリゴマサブユニット、あるいはその他の副産物を生成する速度で分解しない(ポリマが分解する場合)ポリマが含まれる。
【0040】
本発明のある実施例では、生体分解は、一般的に、組織あるいは体液中でのポリマの分解、例えば、事実上無毒であることが知られているそのモノマサブユニットへの分解を含む。このような分解から生じる中間オリゴマ生成物は、異なる毒性を有することがあり、あるいは生体分解が、このポリマのモノマサブユニット以外の分子を生成する酸化またはそのほかの生化学的反応を含むことがある。従って、患者へのインプラントや注入など、生体内使用を意図した生体分解性ポリマの毒性は、一又はそれ以上の毒性分析を行った後に決定することができる。
【0041】
主題の複合体は、純粋に100%生体適合性でなくとも良い。実際は、主題の複合体が上述したような生体適合性があることが必要なだけである。従って、本発明の複合体は、99%、98%、97%、96%、95%、90%、85%、80%、75%あるいはそれ以下の生体適合性があるポリマ、すなわち、ポリマと、その他の材料と、ここに述べる賦形剤を含むポリマであっても、なお生体適合性がある。
【0042】
ポリマあるいはその他の材料が生体適合性であるかどうかを決定するためには、毒性分析を行う必要がある。このような分析はこの分野では公知であり、以下に例示する。更に、本発明のポリマと複合体は、ラットの皮下インプランテーションなどの公知の生体内試験によって評価することができる。これは、皮下インプランテーション部位に有意レベルの刺激や炎症を引きおこさないことを確認するためのものである。
【0043】
好ましい実施例では、ポリママトリックスは、分解し、及び/又は、身体に吸収されるように構成されている。このような場合、ポリマは、時間が経過すると身体によって排除され、分解時間は、放射性物質の放射半減期より十分に長くなるように選択されるようにして、残りの放射活性が治療容積あるいは部位から移動するときに、身体組織に危険を引きおこさないようにすることが好ましい。このように、ポリママトリックスは、上述したポリサッカリドなどの、身体に放出されたときに生体分解され、毒性反応を起こさない、生体適応性材料に基づいている。
【0044】
「生体分解性」の用語は、技術的に認められており、以下に述べるような、ポリマ、複合体、及びこれらを具える製剤を具える。これは、インプランテーションなど、生体内で使用する間に分解することを意図している。一般的に、生体分解性に起因する分解には、生体分解性ポリマをその構成成分サブユニットへの分解すること、あるいは、例えば酵素によって行われる生化学的プロセスによりポリマをより小さい非ポリマサブユニットへ消化することが含まれる。
【0045】
二つのタイプが異なる生体分解は、一般的には同一視されている。例えば、一のタイプの生体分解には、ポリママトリックスの結合の開裂が含まれる。このようは生体分解では、典型的にはモノマとオリゴマが生じ、より典型的には、ポリマの一又はそれ以上のサブユニットをつなぐ結合の開裂によってこのような生体分解が生じる。対照的に、もう一つのタイプの生体分解には、側鎖内部への結合、あるいは、側鎖をポリマ骨格への結合の開裂が含まれる。ここで用いられている生体分解は、両方の一般的なタイプの生体分解に及ぶ。
【0046】
生体分解性ポリマの分解速度は、しばしば、様々な要因に部分的に依存している。この要因には、分解の原因であるリンケージの化学的同一性、分子量、結晶化度、バイオ安定性(biostability)、このようなポリマの架橋度、インプラントの物理的特性(例えば、多孔率)、形状及びサイズ、及びインプラントのモード及び位置、が含まれる。例えば、分子量が多いほど、結晶化度が高く、及び/又は、バイオ安定性が高いほど、生体分解が遅くなる。
【0047】
ここに述べるように、本発明の複合体は、好ましくは、ポリサッカリドのヒドロゲルである。「ヒドロゲル」の用語は技術的に認められており、典型的には、分散相(この場合、ポリマまたはポリサッカライド)が連続相(典型的には水)と共存して、一般的に粘性でゼリー状をした連続3次元ネットワークを形成する少なくとも二つの相を持つコロイド状の系を意味する。
【0048】
ヒドロゲルは、この技術分野で公知のいろいろな方法で調整することができる。例示的な方法の一つは、好適なポリマあるいはポリサッカリドと、放射性疎水性有機化合物を純水、あるいは、例えば酸を含む水溶液に混合することである。このヒドロゲル化は、自然発生的なものであっても良く、あるいは、この溶液を特定の温度に加熱する、あるいは、pHを調節することによって行うこともできる。
【0049】
更に、特別なあるいは改善された物理的マトリックスを達成するために、架橋剤を加えても良い。
【0050】
制御されたあるいは予め決められた生体分解性を達成するために、ヒドロゲルに、更に、例えば、洗浄あるいはインキュベーションなどの処理を、以下に述べる適宜の条件下で行っても良い。
【0051】
本発明の複合体は、治療源として製造することもできる。ここで用いられているように、「治療源」は、本発明の複合体から製造できるデバイスを意味する。この源は、医療従事者によって適当であると決められたものであれば、どのような構造あるいは形状であってもよい。この源は、複合体のなんらかの構成要素であっても良く、あるいは、円筒状ロッド、中空状ロッド、縫合糸、メッシュ、フィルム、シート、あるいは回転楕円体、といった構造化された源であってもよい。本発明の複合体は、生体分解性であることが好ましく、治療後に取り出す必要がない一方、この治療源は、ここに規定するように、取り出し可能な一時インプラント、あるいは永久インプラントとして設計することができる。
【0052】
好ましくは、それから製造した複合体または源、あるいはそれを具える組成物は、近接照射療法などの内部局所放射治療用、また、腔内、間質性、管腔内、及び血管内の放射線治療用及び/又は腫瘍への直接注入用に好適である。
【0053】
本発明の複合体は、ポリマ材料の第2層内に含有されていても良い。この第2のポリマ材料のタイプは、典型的には、放射性ではない。第2のポリマ材料は、その他の場合は、周囲に本発明の複合体を加工するコアである。
【0054】
ある実施例では、その他の材料がポリママトリックス中に分散されている。このような材料は、例えば、同じ腫瘍または異なる腫瘍の組み合わせ療法に用いて、例えば、結果物ポリママトリックスの放出プロファイルなど、結果物であるポリマの物理的及び化学的特性を変える抗腫瘍剤であってもよい。このような材料の例には、活性成分、生体適合性可塑剤、送達剤、充填剤、などがある。
【0055】
この複合体は、手術部位または体腔、すなわち、身体内のスペースまたはボイド、または、正常なあるいは病気の器官の一つに配置する、放射性医療インプラントの製造あるいは使用に好適でもある。医療インプラントは、組織の破壊を防止し、組織の変形を低減する支持構造としても機能する。
【0056】
本発明のもう一つの態様には本発明の複合体の調整方法が提供されており、この方法は:
(a)少なくとも一のポリマと、少なくとも一の放射性原子を結合する少なくとも一の疎水性有機化合物を水中または水溶液中で混合するステップと;及び
(b)ゲル化またはヒドロゲル化して、これによって、少なくとも一の放射性原子を結合する少なくとも一の疎水性有機化合物に埋め込んだポリママトリックスでできた複合体を得、前記少なくとも一の放射性原子を結合する前記少なくとも一の有機化合物が実質的に前記マトリックスから浸出不可であるステップと;
を具える。
【0057】
いくつかの実施例では、この方法は、予成形ポリマまたはポリサッカリドを使用している。その他の実施例では、この方法は更に、重合ステップを具える。これらの場合、この方法には、モノマまたは単オリゴマ、またはプレポリマを放射性疎水性有機化合物とを、インサイチュウで重合、ゲル化、ヒドロゲル化ができる好適な媒体内で混合して、これによって本発明の複合体とするステップが含まれる。
【0058】
別の実施例では、使用されるポリマまたはポリサッカリドは、硬化又は架橋が必要である。このような硬化または架橋は、例えば、架橋剤の存在が必要な化学的なものであってもよく、あるいは、例えば放射線硬化などの物理的なものであっても良い。このような架橋可能なポリサッカリドの例はキトサンであり、これは、ジアルデヒド含有剤の存在下で架橋される。
【0059】
この方法は、更に、このようにして得たヒドロゲルを好適な媒体中で洗浄するあるいはインキュベートするステップを具える。ゲルの重合(架橋)の度合いと、様々な媒体中での洗浄とインキュベーションなどの後の硬化処理を用いて、得たヒドロゲルの粘度、弾性/塑性特性、及びインビボでの分解プロファイルを制御することができる。特に、バッファ容量、pH、イオン強度とオスモル濃度から選択され、各々がポリマの生体分解特性を変えることができる様々な特性を持つ媒体中で本発明の複合体をインキュベートすることによって、予め決められた(制御可能な)分解特性を有する複合体を調整することができる。
【0060】
例えば、本発明の複合体を燐酸バッファ液ですすぐと、遅い分解複合体(SDC:slow degrading composite)が得られる。一方、すすぎ媒体として水を使用すると、早い分解複合体(FDC:fast degrading composite)が得られる。
【0061】
従って、本発明はさらに、本発明の複合体の生体分解性を制御する方法を提供するものであり、この方法は、好適な媒体を用いて、ここに述べた複合体を洗浄またはインキュベートするステップを具える。一のケースでは、この好適な媒体が水であり、これによって早い分解複合体(FDC)を得る。もう一つのケースでは、この媒体が燐酸バッファ溶液であり、これによって、遅い分解複合体(SDC)を得る。好ましくは、本発明のFDCsは、適用時から約1週間ないし1ヶ月の間に生体分解するように調整し、一方、SDCsは、適用時から最大約3ヶ月の期間生体分解するように調整する。
【0062】
本発明の更に別の態様では、対象中の疾病を治療する方法が提供されており、この方法は、当該疾病(術前または術後)によって影響を受けている生体構造領域に、治療上有効量の少なくとも一の放射性原子を結合する少なくとも一の疎水性有機化合物に埋め込まれたポリママトリックスの複合体を注入するステップを具え、前記少なくとも一の放射性原子を結合する疎水性有機化合物が、前記マトリックスから実質的に浸出不可である。
【0063】
本発明は更に、腫瘍切除後の局所領域の疾病の治療方法を提供するものであり、この方法は、当該腫瘍によって影響を受けた生体構造領域に、少なくとも一の放射性原子を結合する少なくとも一の疎水性有機化合物に埋め込んだ治療上有効量のポリママトリックス複合体を注入するステップを具え、前記少なくとも一の放射性原子と関連する少なくとも一の疎水性有機化合物が前記マトリックスから実質的に浸出不可である。
【0064】
一の実施例では、この注入は、治療源の形をしていてもよい。注入した複合体あるいは治療源は、例えば、外科的切除した腫瘍部位内へ、あるいは身体器官内または周囲においてもよい。
【0065】
ここで用いられているように、「処置」の用語またはその変形は、この注入、すなわち、疾病、疾患、あるいは、疾病の発生、抑制、高速、あるいは進行を遅らせる、その疾病に伴う症状の緩和、及び、その疾病の少なくとも一の症状の改善に関連する、ある状態の防止を意図した本発明の複合体の投与、を意味する。
【0066】
ここで使用されているとおり、「生体構造領域」の用語は、組織、身体の器官、あるいは体腔である、身体のいずれかの部分を意味する。「組織」の用語は、形態学的に同じ細胞の凝集又は集合、関連するアクセサリ、細胞外マトリックス物質と脈間サプライと液体を含む、支持細胞と細胞間物質が含まれる。この組織は、血液を含む身体のどの組織であっても良い。「器官」の用語は、いくつかの特別な生理的機能を実行することができる動物またはヒトの身体のいずれかの部分を意味する。この用語には、このような器官の部分、あるいは、一又はそれ以上のこのような器官の集合が含まれる。器官の非限定的な例には、心臓、肺、腎臓、尿管、膀胱、副腎、下垂体、皮膚、前立腺、至急、生殖器(例えば、性器と関連器官)、肝臓、胆嚢、脳、脊髄、胃、腸、盲腸、すい臓、リンパ節、胸部、唾液腺、涙腺、眼、脾臓、胸腺、骨髄、が含まれる。
【0067】
一の実施例では、前記疾病が腫瘍であり、良性または悪性腫瘍である。一般的に、この腫瘍疾患には、前立腺癌、肺がん、子宮頸癌、直腸癌、膵臓癌、乳癌、頭頚部癌、メラノーマまたは柔組織の充実性腫瘍が含まれる。
【0068】
腫瘍性疾患の非限定的な例は、副腎皮質上皮性悪性腫瘍、肛門癌、膀胱癌、脳腫瘍、脳幹グリオーマ、小脳星細胞種、大脳星細胞種、上衣腫、髄芽腫、テント上原子神経外胚葉腫瘍及び松果体腫瘍、視覚伝導路及び視床下部膠腫、乳癌、胃腸のカルシノイド腫瘍、子宮頸癌、結腸癌、子宮内膜癌、食道癌、肝外胆管癌、ユーイング腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍、眼癌、眼内黒色腫、胆嚢癌、胃癌、胚細胞腫瘍、妊娠性絨毛性腫瘍、頭頚部癌、下咽頭癌、島細胞上皮性悪性腫瘍、喉頭癌、口唇及び口腔癌、肝臓癌、肺癌、悪性中皮腫、メラノーマ、メルケル細胞癌、転移性頚部扁平上皮癌、形質細胞腫、真菌症、骨髄異形成症候群、骨髄増殖性疾患、上咽頭癌、神経芽細胞腫、口腔咽頭癌、骨肉腫、上皮性卵巣癌、卵巣胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、膵臓癌、副鼻腔癌、副甲状腺癌、陰茎癌、褐色細胞腫癌、下垂体癌、前立腺癌、横門筋肉腫、直腸癌、尿管癌、唾液腺癌、セザリー症候群、小腸癌、軟部組織肉腫、胃癌、精巣癌、胸腺腫、甲状腺癌、尿道癌、子宮癌、膣癌、外陰癌、ウィルムス腫瘍、及び、これらの転移、である。
【0069】
好ましくは、腫瘍疾患が乳癌、肝臓癌、または肺癌、その亜類型、及びその転移である。
【0070】
例えば、乳房の腫瘍が外科的に切除されると、最も再発しやすい部位は、切除した腫瘍のすぐ周辺の領域であることがわかっている。このような理由で、外科医は、通常、この領域に放射線治療を拡張して行い、健康な組織が放射線によってダメージを受ける機会が増える。このように、本発明の複合体を放射性縫合糸、放射性メッシュ、その他などの形に構成することによって、より簡単で安全な照射法となる。
【0071】
本発明による癌の治療方法には、癌の治療を行うまたはその進行を防ぐべき生体構造部位へのアクセスを増やすステップと、本発明の複合体、この複合体を含む組成物、または、この複合体から作られる源を、その中に注入するステップを含む。「注入」の用語、またはその変化形は、最も広い範囲において、対象の生体構造部位に本発明の複合体を投与するまたは配置するあらゆるタイプを言う。このような注入は、医療従事者に公知のいずれの方法を用いても良い。典型的には、生体構造部位へのアクセスは、例えば、腹腔鏡などの、外科的あるいはその他の侵襲的手順によって増える。この複合体の注入に非外科的方法を用いることもできる。一つのこのような方法は、例えば結腸癌の治療のための本発明の複合体の結腸への送達に結腸内視術を使用している。例えば、皮膚癌、または皮膚に関係する疾病の場合、本発明の複合体は、皮膚に直接接触させて、典型的には、侵襲的手順を用いる必要なく、配置することができる。
【0072】
一般的に、本発明の複合体においては、当該複合体を具える組成、あるいは当該複合体から製造した源が、生体構造部位にアクセスして本発明の複合体をそこに配置することによって身体(ヒトまたは動物)の生体構造部位に注入される。生体構造部位にアクセスするのに使用する方法、例えば、外科的方法、非侵襲的方法、あるいは、非外科的方法に応じて、更なる術後法を用いることができる。
【0073】
この注入は、疾患が進む危険のある患者の癌の発症または再発を防止する、最小化する、遅らせる、まるいは阻むことができる。この複合体、組成、あるいは源は、生体構造部位に永久に残るように、あるいは時が経つと分解して、組織に再吸収され、代謝されるように注入することができる。この複合体、組成、または源を繰り返して注入することは、特別な調整に基づいて行うことができる。
【0074】
進行性の癌患者用の組み合わせ療法も想定されており、従って、本発明の範囲内に入る。いくつかの組み合わせ療法には、全身化学療法、ロコレジナル(locoreginal)放射線治療、凍結療法、腫瘍の切除、及びその他といった、別の治療の投与と同時に、本発明の複合体を生体構造部位へ注入することができる。
【0075】
本発明の複合体は、また、再狭窄などの非腫瘍性疾病及び症状に用いることもできる。再狭窄は、以前に狭窄した血管を除去したり、小さくしたりした(血管形成術)後に、血管(通常は冠動脈)が狭窄することである。すべての血管形成術後手順の40%以上に生じる細胞増殖及び/又はプラーク形成のため、外科医は、心臓冠動脈バイパス手術など、複雑で命に関わる手順を行うことを強いられている。このようなケースに、本発明の複合体を、例えば、動脈壁への放射線投与送達のためのステント状放射線源と同様に用いることができる。この直接的で局部的な放射は、再狭窄の機会を低減し、より複雑で危険な後血管形成術手順の可能性を低減するのに役立つ。
【0076】
発明の詳細な説明
当業者は、ここに提供されている例が本発明の非限定的な実施例であることを認識するであろう。したがって、例えば、当業者は、必要な変形を行うにあたり、一のポリサッカリドを置き換える知識を有している。
【0077】
増量したグルタルアルデヒド(GA)を用いて、エオシン吸収度によって特徴付けられる、架橋密度が異なる一連のキトサン(Ct)ヒドロゲルを用意した。典型的には、この吸収プロセスは約3時間で終了し(図1A)、ゲルに吸収されたエオシンの量は、架橋に使用したGAの相対量に反比例し;GA対Ctの比率が高いほど、吸収されるエオシンの量は少なくなった。最小吸収は、GA:Ct比、10−12.5:1で見られ(図1B)、反応が、このGAの量で最終点に達したことを示した。
【0078】
示差走査熱量測定(DSC)分析が、ヒドロゲルの熱的変化についての情報を提供しており、この情報から発熱エンタルピィとTを計算した。図2Aは、反応混合物におけるGAに比率と発熱エンタルピィ間の直接相関を示すグラフであり、10:1の比(以下、製品G10という)が架橋反応に対する上限であった。同じ相関が、Tg測定によって示された(図2B)。弾性を測定してヤング計数を計算し(図3)、GA比12.5:1が架橋反応の上限であることを示した。
【0079】
イオン強度を上げた状態でのG10ゲルの膨張、オスモル濃度、及びpHが図4に示されている。イオン強度の変化による最も大きな計り知れない影響を受けて、ゲルの膨張とイオン強度、オスモル濃度(図4A)、及びpH(図4B)の間に、反比例特性が観察された。
【0080】
G10を用いて、更に、生体内分解速度が互いに異なる、遅い分解複合体(SDC)と、早い分解複合体(FDC)の二つのタイプのインプラントを作った。前者はPBSに対して透析を行って、また、後者は水に対して透析を行って得、その結果、異なる膨張特性となった。ラットへのSC及びIPインプランテーションの後、二つのゲルの分解特性を試験した。SC及びIPインプランテーションの双方について、28日経過後もSDCの重量ロスは検出できなかった。これに対して、SC及びIPインプランテーションのそれぞれ14日後に、FDCの19.8±9.5%及び9.2±6.5%が残った(図5)。この分解結果を証明し、疎水性プローブに対するプラットフォームとして作用するゲルの能力を詳しく調べるために、両タイプのインプラントにスダンブラック(Suddan Black:SB)を装填した。SB放出生体内反応速度を調べると、SC及びIPインプランテーションの28日後に、13.6±8.3%及び18.7±1.4%のみのSBがSDCから放出されることがわかった。しかし、FDCのSC及びIPインプランテーションの最初の1週間に、ほぼ完全なSB放出が生じ、これは、染料の加速された放出が原因で分解が起こることを示している(図6)。
【0081】
図7Aは、131I−NCを含むSDCのインプランテーション後、様々な時点で撮影した、ラットのシンチグラフィ画像の代表的な例を示す図である。図7Bは、これらの時点におけるインプランテーション後の131I−NCの分布を示す。インプランテーション後、30日から131I−NCの80%が放出され、4日目と13日目には、4%の放出が腋窩部リンパ節に見られた。
【0082】
図8に示す組織学的観察は、FDCとSDC、それぞれについてのインプランテーション後14日と28日に、インプラントが、最小炎症性細胞質と、繊維性組織を切断する偶発性毛細血管を伴って、繊維性皮膜内に封入されたことを示している。インプラント周囲のカプセルの平均厚さは、両方のケースで80−100μmであった(図8、パネルA及びB)。サンプリングを行うときに、FDCとSDCの両方の部分的分解が、FDCインプラントによって発現したより広範囲に及ぶ分解を伴って観察された(データは示さず)。興味深いことに、生体分解性外科的縫合糸が、多数の多形核球、マクロファージ、及び異物巨細胞を伴う典型的な慢性異物反応(炎症)を発現した(図8のパネルC)。これは、以下の例に示すように、FDC及びSDCインプラントのインプラント領域から採取した試料の組織学的所見(図9乃至14)と対照的である。
【0083】
図15に示すように、固形腫瘍の進行を遅らせるための131I−NC装填インプラントのインプランテーションが示された。131I−NC装填インプラントで処置を行った群と、非処置群、及び空インプラント処置群の間には、ヒドロゲルのインプランテーション後、最初の2週間で、腫瘍の成長速度に有意な差が見られた。最も有意な差異は、二週間の終わりに、131I−NC装填インプラントで処置を行った群の腫瘍体積が、その他の群の体積のほぼ72%になったときに見られた(図16A−C)。更に、肺の複数の転移節に有意な顕微鏡的差異が見られた。これらの所見は、特に、外部ビーム放射の効果がないことと比較したときに関連しており、放射と、4T1異種移植モデルにおける電離放射線の強化ファクタとの組み合わせによっては、50%の成長阻害が見られるのみであった。
【0084】
異なる群のマウス生存に関するカプラン−マイヤ分析は、対照群(42日と35日)に比べて、処置群が120%の生存増加を示した(図17)。これらの結果は、131I−NCを装填したヒドロゲルインプラントでの処置が、外部ビーム放射による処置に比較できることを示唆しており、4T1異種移植モデルのマウス生存増加が、対照群に比べて112%である(それぞれ、45日と40日)であった。
【0085】
乳房温存手術を行った女性の長期生存率は、根治的乳房切除術を行った女性の長期生存率と同じである。更に、胸部における局所領域での腫瘍再発の累積発現率は、放射線治療を行うことなく腫瘍摘出手術を行った女性に比べて、腫瘍摘出手術と乳房放射線治療を行った女性で有意に減少した。
【0086】
この背景において、異種移植乳癌モデルの局所領域での再発防止における131I−NCを装填した本発明の複合体の効果を評価した。本発明の複合体をインプラントする手術の間に、4T1細胞(原発腫瘍を誘発するのに必要な10%の量)が外科的空洞内の皮下に広がり、局所領域での再発を起こす腫瘍床での癌細胞の漏出に似た症状を呈した。カプラン−マイヤ分析は、131I−NCを装填したヒドロゲルで処置を行った群の生存が、空ゲルで処置した群と、処置を行わなかった群の全マウスの死亡に比較して、69.2%であったことを示した(図18)。巨視的には、空ゲルで処置した群と、処置を行わなかった群に発現した大きな腫瘍に比較して、131I−NCを装填したヒドロゲルで処置した群には77日後、腫瘍の兆候が見られなかった(図19)。これらの群からの腫瘍床と遠隔臓器から採取した試料の病理組織学的分析は、腫瘍床にも遠隔臓器にも、腫瘍または転移性進行の兆候を示さなかった(図20A−E)。これに対して、処置を行わなかった群(図20F−J)及び空ヒドロゲルで処置を行った群(図20F−J)では、肺、心臓、肝臓、及び脾臓に腫瘍及び転移が発現した。
【0087】
理論にとらわれることなく、生体内インプランテーション部位からの放射能の除去は、放射能の減衰と、放射性物質の生物学的排泄の二つの平行経路の結果である。131I−NCの除去は、131I−NCの疎水的性質と、ヒドロゲルの親水的性質によるヒドロゲルの分解に依存する旨が前に述べられている。総放射能排泄定数を、時間がたつにつれての少量の残留放射能の自然対数の直線回帰勾配として計算した(図21、実線)。放射能排泄定数は、放射能減衰定数と、生物学的は移設(ヒドロゲル分解)定数とからなる。放射能減衰定数は、放射能減衰半減期から計算することができ、あるいは、代替的に、時が経つにつれて同位元素の放射能が減衰した後に残った理論的に少量の放射能の自然対数の直線回帰勾配から得られる(図21、破線)。ヒドロゲル分解定数は、総減衰定数から放射能減衰定数を減算して計算した。ヒドロゲル分解半減期は、14.0日になるヒドロゲル分解定数から計算した。生物学的分解は、一次速度式5、6及び7の式の適合性(例を参照)のため、回帰定数(R=0.999)で表される直線回帰に伴う実験データのフィットに見られる、一次速度式としてのフィットであると思われる。このヒドロゲル分解速度予測法は、従来の重量測定法より正確である。なぜなら、重量測定法では、残留ヒドロゲルが動物から取り出されるので、少量の残留ゲルを計算するには、乾燥しており、重量があるためである。従来の重量測定法には、ゲルの不完全な取り出し、ヒドロゲル内での組織の貫通、ゲルの乾燥における変動、特に乾燥ヒドロゲルの軽量(数ミリグラム)である場合のヒドロゲルの不正確な計量など、いくつかの主たる制約がある。現在の放射能減衰法は、ヒドロゲルの取り出し、乾燥あるいは計量を必要としない、動物内での実時間処理の送達によって、これらの制約を克服している。更に、この方法は、インプラントの重量の変化を起こすことなく、薬剤を放出させることができる構造的変化を考慮している。
【0088】
要約すると、腫瘍近辺に131I−NCで装填したヒドロゲルなどの本発明の複合体をインプラントすることで、対照群に比較して腫瘍の進行速度を2週間低減した。残留疾病モデルの腫瘍床に131−INCを装填したヒドロゲルをインプラントすることで、腫瘍の再発を防ぎ、対照群の完全死亡率に比較して69%生存率が上昇した。ヒドロゲルのインプランテーション後の腫瘍床と遠隔臓器の病理組織学的分析は、本発明のインプラントが安全で生体適合性であることを示した。
【0089】
A−ラットの皮下及び腹腔内インプランテーション後の架橋キトサン分解の生体適合性の評価及びモード
例1: キトサン(Ct)ゲルの調整
100mgのCtを1Mの酢酸(イスラエル、Frutarom社)に溶解させ、100℃に過熱した。次いで、グルタルアルデヒド(GA)溶液(水中25%w/v)を加え、攪拌した。直ちにゲルが形成され、攪拌を止めた。GA一分子と二つのグルコサミン反復単位間での完全反応を仮定して、様zマナ考察を行って以下のCt:GAモル比を調べた:1:5、1:7.5、1:10、1:12.5、1:15、1:17.5、及び1:20。これらの比は、ここで、それぞれ、G5、G7.5、G10、G12.5、G15、G17.5及びG20と称する。過剰GAを、GAを235nm(ポリマGA)と、280nm(モノマGA)で検出追跡できなくなるまで、すすぎ媒体中で透析によって除去した(Uvikon930、Kontron Instruments社、スイス)。
【0090】
例2: 架橋密度特性
ゲルの架橋密度を、含水アルコール溶液からの負荷電染色エオシンの吸収測定によって定量化した。様々な研究において、各ゲル約0.2gを、エタノール中の0.05mgのエオシン対水、1:1溶液2mlで、室温で、10分、30分、60分、及び180分インキュベートさせた。次いで、ゲルを除去し、インキュベーション媒体中のエオシン濃度を、6点較正曲線を用いて、分光光度法(520nm)で測定した。次いで、ゲルを水ですすいで、アセトンで乾燥させ(48時間)、計量した。エオシン吸収量は、水浴液(bathing solution)中の初期濃度及び最終濃度から計算し、各ゲルの乾燥重量に標準化した。
【0091】
ゲルの架橋密度は、示差走査熱量測定(DSC)分析によっても特徴付けた。予め乾燥させたゲルの熱容量の変化を、25−175℃の温度範囲で、10℃/分のレートで、流量1ml/分のNの下、測定した(Mettler Instruments社、スイス、TA4000、TCIITAプロセッサ付)。DSCカーブをプロットし、ガラス遷移温度(Tg)とエンタルピィ(ΔH)を装置プログラムによって計算した。
【0092】
典型的には、吸収プロセスは、約3時間で終了し(図1A)、ゲルに吸収されたエオシンの量は、架橋に使用したGAの相対量に反比例し、GA:Ctの比率が高いほど、エオシン吸収量が低くなった。GA:Ct比が12.5:1で最小吸収量が観察され(図1B)、このGA量で反応が終点に達したことを示している。
【0093】
DSC分析は、ヒドロゲルの温度変化についての情報を提供し、この分析から発熱エンタルピィと、Tgを計算した。図2Aは、反応混合液中のGA比と発熱エンタルピィとの間の直接的相関と、この比10:1(製品G10)が、架橋反応の上限であることを示した。同様の相関がTgの測定によっても示された(図2B)。
【0094】
例3: 機械的性質の特性
各ゲルから、立方(S=4mm)試料を外科用メスで切り取って、0.05mm×sec−1(圧縮)のレートで、テクスチャ解析(TAXT Plus、Texture Technologies社、米国)で試験した。弾性(E)のヤング率を、以下の式を用いて計算した。
Eq.1: E=(F/A)/(ΔL/L
ここで、Fは張力(gF)、Aは、試料の断面積(cm2)、ΔLは試料の緊張時の長さ(mm)、及びLは、ゲルの試料の初期長さ(mm)である。
【0095】
弾性を検討(図3)してヤング率を計算し、12.5:1のGA率が架橋反応の上限であることを示した。
【0096】
例4: 生体内膨張の考察
ゲルは、水和した形でインプラントするように設計されているので、その膨張特性におけるイオン強度、オスモル濃度、pHの影響を生体内で考察した。別々の考察において、G10試料をNaCl(イオン強度を上昇させる)またはグルコース(オスモル濃度を上昇させる)の濃度を上昇させて(0、10、50、100、150、200あるいは400mM)、インキュベートした。同様に、G10試料を、10mMの燐酸バッファで、pH値を変えて(3、5、6、7、8及び10)インキュベートした。このインキュベーションは12時間で終了し、その後、試料を水ですすぎ、計量して(W)乾燥させ、再度計量し(W)、W/W比を計算した。
【0097】
イオン強度、オスモル濃度、及びpHが増加する中でのG10ゲルの膨張(膨張状態の重量の乾燥重量に対する比として表現されている)が、図4に示されている。ゲルの膨張と、イオン強度、オスモル濃度(図4A)、及びpH(図4B)との間には、反比例が観察され、これは、イオン強度の変化によって最も大きな影響があった。
【0098】
例5: 生体内分解の考察
G10の二つの処方を調整して、架橋後に別のモードの透析を行った。PBSに対する透析(1mM、pH7.4)によって、分解が遅いG10(SDC)を調整し、一方、水に対する透析によって、分解が早いG10(FDC)を調整した。
【0099】
別々の考察において、SDCとFDCを、ラットに腹腔内(IP)及び皮下(SC)の両方にインプラントした。前者は、麻酔したラットに正中切開を行って、開腹によって行い、腸と腹膜の間の、正中切開の約1cm左にゲル試料を配置した。後者は、筋肉と皮膚の両方を引っ込めて、キャビティを形成し、このキャビティの中に、正中切開の約1cm左に、ゲル試料を挿入して行った。腹腔と皮膚を、3−0ビクリル縫合(Johnson & Johnson Medical社)を用いて縫合した。外科手術に続いて、ラットを完全に回復するまで管理し、次いで、正常な食餌を再開した。FDCについては、0日、1日、3日、7日、14日で、SDCについては0日、3日、7日、14日、及び28日で、各群から4匹のラットを犠牲にした。ゲルを取り出して、水ですすぎ、乾燥させて、計量した(WRem)。
【0100】
生体内分解の範囲(初期の量のパーセンテージ)を、インプランテーションの前後のゲルの乾燥重量の比率から評価した(ゲルは水和した形状でインプラントされており、ラットの進行を考察する間に水分を失っている)。インプランテーション前の水和したゲル/乾燥ゲルの重量比を測定したところ、SDCとFDCについて、それぞれ52.0±0.9と198.1±1.9であった。Wを上述の比率から計算した。ゲル分解の範囲は、初期量のパーセントで、以下の式を用いて計算した(%はそのまま)。
Eq.2: %Remained = (WRem/W)×100
ここで、WRemは、各インプランテーション考察の終わりにデブリスを取り除いたゲルの乾燥重量であり、Wは、代表的なゲルの初期乾燥重量である。
【0101】
G10を使用して、さらに、生体内分解速度が互いに異なる二つのタイプのインプラント、SDCとFDCを製作した。前者は、PBSに対して透析を行うことによって、後者は、水に対して透析を行うことによって得られ、異なる膨張特性となった(湿/乾重量比、それぞれ、52.0±0.9に比較して198.1±1.9)。二種のゲルの分解特性を、ラットにSC及びIPインプランテーションを行った後試験した。SDCには、SC及びIPインプランテーションの双方について、28日以上、重量のロスが検出されなかった。これに対して、FDCでは、SC及びIPインプランテーションの双方について、14日後に、それぞれ、19.8±9.5及び9.2±6.5%の重量ロスが残った(図5)。
【0102】
例6: スダンブラック装填及び生体内放出反応速度論
疎水性染料スダンブラック(SB)をSDCゲルとFDCゲルに装填して、この二つのタイプのインプラントの生体内分解反応速度の更なる洞察を行った。SBを酸性Ct溶液に分散させて、1:100の最終SB:CT比を得た。GAで架橋して、SB装填G10ヒドロゲルを得た後、透析によってSB装填SDC及びFDCゲルを上述のとおり調整した。計量を行った後、麻酔をかけたラットに二つの生成物をSCとIPでインプラントした。ラットが回復し、正常なラットの食餌と水への自由アクセスを維持した。FDCインプラント群については、0日、1日、3日、7日、及び14日に、SDCインプラント群については、0日、3日、7日、14日、及び28日に、各時点で4匹のラットを犠牲にした。ゲルまたはゲルデブリスを、組織から離して配置し、すすいで、密封したビーカ内でアセトンに48時間浸した。抽出したSB(SBRem)の濃度を、600nmで分光光度法で測定し、インプランテーション中に放出されたSB断片を計算した。ゲル中のSB初期量(SB)を時間0でアセトン抽出によって測定した。各時点でラットから取り出した各ゲル試料に残っているSBの量を同様に測定し、ゲル重量に標準化した。SB0は、インプラントしたゲルの重量及び計算したSB/ゲル比から計算し、ゲルから放出されたSB断片を、以下のように計算した:
Eq.3 %SBReleased =(SB−SBRem)/SB×100
【0103】
分解結果を認証し、疎水性プローブのプラットフォームとして作用するゲルの能力を調査するために、両方のタイプのインプラントにSBを装填した。生体内SB放出反応速度の考察は、SC及びIPインプランテーションの28日後に、それぞれ、SDCから13.6%±8.3%及び18.7%±1.4%のSBのみが放出された旨を明らかにした。しかしながら、FDCをSC及びIPインプランテーションした最初の一週間に、ほとんど全てのSB放出が生じており、分解が、染料の加速された放出の原因であったことを示している(図6)。
【0104】
例7: 131I−ノルコレステロール(131I−NC)装填及びラットの生体内インプランテーション
0.2mlの131I−NC(0.2mCi)(CIS Bio International社、フランス)を、10mlのCt溶液(酢酸1M中1%)中に分散させ、100℃に加熱して、1.2mlのグルタルアルデヒド溶液(25%w/w)を加えて、ゲルを形成した。このゲルを、pH7.4のPBS(1mM)に対して24時間透析して、SDCゲルを得、ゲルの0.5gの試料をラットの左胸部にインプラントした。インプランテーション後、0日、3日、13日、及び30日に、シンチグラフィを行った。麻酔をして、各ラットを15分間、へリックスデュアルヘッドカメラ(Elscint、Haifa、イスラエル)と、高エネルギィ、高解像度コリメータを用いて撮影した。データを、Xelerisプログラム(GE Healthcare社)で分析し、対象領域に各焦点を当てた。各領域における計数総数を計算し、各対象領域の活性度を以下のとおり計算した。
Eq.4: %Activity =(At/2−t/8.02)/A×100
ここで、tは時間(日)、Aは、tにおける計数、Aは、tにおける計数、および、8.02日は、131Iの半減期である。
【0105】
図7Aは、様々な時点(0日、4日、13日、及び30日)における131I−NCを含有するSDCをインプランテーションした後のラットからのシンチグラフィ画像の代表的な例を示す図である。図7Bは、これらの時点におけるインプランテーション後の131I−NCの分布を示す図である。131I−NCの80%が、インプランテーション後30日でインプラントから放出され、約4%が、4に日及び13日で腋窩部リンパ節に見られた。
【0106】
例8: 安全性の考察
二つのタイプのインプラント、FDCとSDCの周辺組織への影響を組織学的に調べた。インプランテーション部位から採取した組織試料を、FDCについては14日で、SDCについては28日で回収した。全ての試料がインプラント自体のデブリスを含有していた。
【0107】
この試料を、4%の緩衝ホルムアルデヒドに固定させ、脱水して、パラフィンブロックに埋め、4ミクロンにスライスして、ヘマトキシリンとエオシンで染色した。この切片を顕微鏡で調べて、生じ得る炎症反応を探し、インプラント周囲の繊維性皮膜の厚さを評価した。Vicryl(登録商標)生体分解性縫合糸のデブリスを含む組織試料を異物組織相互反応の対照として使用し、28日後に回収した。
【0108】
図8に示す組織学的観察は、FDC及びSDCのそれぞれのインプランテーション後14日と28日で、最小炎症細胞質と、繊維性組織を横切する偶発的血管を伴って、インプラントが繊維性皮膜に覆われたことを示した。インプラント周囲の皮膜の平均厚さは、両方のケースで80−100ミクロンであった(図8A及びB)。サンプル採取時に、FDCとSDCインプラントの部分的分解が、FDCインプラントによって発現したより大きな分解範囲で観察された(データは示さず)。調べた生体分解性外科縫合糸は、多数の多型核球、リンパ球、マクロファージ、及び異物巨大細胞を伴う、典型的な慢性異物反応(炎症)を発現させた(図8C)。
【0109】
例9: 隣接組織反応の分析
物の考察において、SDCとFDC(体重1Kg当たり1g)を、ラットに腹腔内(IP)及び皮下(SC)インプラントした。IPインプランテーションは、回復によって行われ、腹膜腔の正中線の約1cm左側に配置した。SCインプランテーションは、筋肉と皮膚を引っ込めて、正中線の約1cm左側にゲルを装着することで行った。ゲルのインプランテーション後、腹腔と皮膚を縫合して、ラットを回復させた。FDGをインプラントした群については、0日、1日、3日、7日、及び14日で、SDGをインプラントした群については、0日、1日、3日、7日、14日、及び28日で、4匹のラットを犠牲にして、インプラント周囲からの組織試料をPBSですすぎ、PBS中の4%のフォルムアルデヒドで固定し、脱水して、パラフィンブロックに埋めて、スライスして(4μm)及びヘマトキシリン−エオシンで染色し、組織反応を組織学的に調べた。
【0110】
各ブロックの最小の3つの連続部分を顕微鏡で調べて、細胞炎症反応を調べ、インプラント周囲繊維性皮膜の厚さを測定した。炎症反応の大きさを、炎症細胞(多形核球、リンパ球、マクロファージ、及び異物巨大細胞)、繊維素、浸出液、壊死、血管新生の存在を評価することで定量化した。上述の炎症マーカの存在を、(−)=欠如から(+++)=深刻な存在まで、スコアをつけた(表1)。インプラント周囲の繊維性皮膜の厚さを、インプラントに隣接する繊維性組織のボーダと、他端における繊維性皮膜に隣接する筋肉または脂肪組織間の距離として定義した。流入領域リンパ節を顕微鏡で調べて、非典型的な反応応答(リンパ球またはマクロファージ浸潤)を探した。
【0111】
ラットの異なる二箇所に二つのタイプのゲルをインプラントした後、インプラント周辺の組織に炎症が観察された。炎症成分浸潤及び繊維性皮膜形成の変化の度合いが表1にまとめられている。これは、インプラント周囲に大出血も壊死も生じていないことを示した。


表1−ラットの皮下(SC)及び腹腔内(IP)インプランテーション後、1日、3日、7日及び14日(FDC)と、3日、7日、14日、28日(SDC)における、様々なマーカによって評価した炎症重傷度スコア
【0112】
インプランテーションの一日後、組織周辺の炎症反応は、多形核球細胞(PMN)の典型的な発現によって特徴付けられた(図9A)。3日後は、インプラント周囲の反応は、リンパ球、偶発的マクロファージ、及び多数の新しくできた小さな血管の混同を伴う活性化繊維芽細胞によって占められていた(図9B)。最初の1週間後は、インプラント周囲に繊維性皮膜の形成が開始し、炎症性浸潤の中によりはっきり、占領したマクロファージを伴っていた(図9C)。14日目は、全てのインプラントが皮膜に覆われ、皮膜は、最小の炎症細胞質と繊維組織を横切する偶発的血管を伴って、より薄くなっていた。インプラント周囲の皮膜の平均厚さは、100μmであった(図9D)。
【0113】
腹腔内FDCインプラントに応答する周辺組織は、インプラント物質の分解の度合いを含めて、皮下インプラント後に観察された組織と同じパターンを示した。しかしながら、腹腔内組織反応は、平均80μmと測定したより薄い皮膜を作り、よりゆるやかでより無痛であった(図9E)。
【0114】
3日目には、インプラント周囲の組織反応が、リンパ球、マクロファージ、及び新生血管を含む混合細部反応を伴う活性化繊維芽細部で占められた(図10A)。インプランテーション後7日目には、インプラント周囲の組織が、軽い単核球炎症性浸潤と、中程度の数の繊維芽細胞と、新しく形成された血管を示した(図10B)。2週間以内に、炎症性浸潤と血管の数が減少した(図10C)。活性化繊維芽細胞は、徐々に、その成熟した対照物とインプラント周辺の繊維性皮膜に置き代わった。28日目には、皮膜がわずかなマクロファージとわずかな血管を伴う無細胞となり(図10D)、皮膜厚は平均100μmであった。
【0115】
腹腔内SDCインプラントへの周辺組織反応は、皮下インプラントのインプランテーションの後に見られた反応と同様のパターンを示した。しかしながら、腹腔内組織反応は、より軽く、より無痛であり、平均80μmのより薄い皮膜ができた(図9E)。
【0116】
図11は、皮下インプランテーションの28日後にSDCに、14日後にFDCに生じた隣接組織反応を、皮下インプランテーションの28日後の、ポリグリコール−ポリ乳酸吸収性縫合糸によって誘発された反応と比較して、示す。
生体分解性外科用縫合糸に対する典型的な慢性異物反応は、いずれのゲルによっても誘発されなかった。
【0117】
例10: 遠隔臓器における毒性分析
別の考察において、3当量(1、5、及び15g/kg)のSDCゲルと、2cmの3/0ポリグリコール−ポリ乳酸吸収性縫合糸(Vicryl(登録商標)、Ethicon社、米国、ニュージャージィ週、ピスカタウエイ所在)を4群のラットの背中に、非処置群(各群につき、n=15ラット)と病理学的な比較を行う目的で、皮下インプラントした。4日、14日、及び30日目に、各群から5匹のラットを犠牲にして、脳、肺、腎臓、肝臓、脾臓、および胸骨骨髄から試料を取り出して、可能性のある組織障害と、インプラント対象の顕微鏡的デブリスの存在を組織学的に評価した。
【0118】
試験を行ったラットの脳、心臓、肺、腎臓、肝臓、脾臓、胸骨骨髄に、これらの3当量(1、5、15g/Kg)のゲル、または、ポリグリコール−ポリ乳酸吸収性縫合糸のインプランテーション後いずれの時点(0日、4日、14日及び30日目)でも、ゲル断片の存在のみならず、組織損傷も見られなかった。
【0119】
例11: 生体内でのゲルの酸化分解
立体FDC試料(s=4mm)を、異なる濃度(0、1、5及び10mM)のKMnOで3分間インキュベートした。ゲルを取り出して、水で2回洗浄し、1mlのヘマトキシリン(0.05mg/ml溶液)またはエオシン(0.4mg/ml溶液)で、室温で4時間別々にインキュベートした。インキュベーション媒体中の残留染料の濃度を、560nm(ヘマトキシリン)と、520nm(エオシン)で測定し、ゲルに吸収された染料の断片(初期量からのパーセント)を計算した。
【0120】
ラットに腹腔内インプラントしたFDCゲルは、7日及び14日後に、それぞれ、部分的及び全体的分解の兆候を示した(図12A及びB)。分解がエオシン好性ゲルを好塩基性粒状物質に変えた。この物質はいくらか、リンパ節近傍のマクロファージによって摂取されたことがわかった(図12C)。
【0121】
図13は、KMnOによるFDCゲルの生体内酸化がエオシン染色を低下させ、ヘマトキシリン染色を増加させたことを示している。吸収された染料の量は、酸化の度合いに直接的に相関していた。
【0122】
例12: 131I−NCを装填したインプラントへの隣接組織反応
131I−Nを装填したSDCヒドロゲル(上記参照)の試料(0.5mg)を3匹の麻酔を掛けたラットの左側正中領域にインプラントし、上述したように、30日後にインプラント周囲組織の組織反応を評価した。
【0123】
非放射性SDC及びFDCインプラントへの軽い組織反応とは対照的に、131I−NCを装填したSDCは、放射性ゲル周辺の組織に著しい炎症を起こした。いくつかのケースでは、液化壊死が見られた(図14A及び14B)。全てのケースで、隣接する筋肉繊維には、壊死や組織損傷の兆候は見られなかった。
【0124】
B−131I−ノル−コレステロールを装填した生体分解性架橋キトサンヒドロゲルインプラントを用いた近接照射両方による腫瘍再発防止
転移性マウス乳癌から採取した4T1細胞を、10%の加熱不活性化したウシ胎仔血清、ペニシリンG(60mg/リットル)、及びストレプトマイシン(100mg/リットル)を追加したダルベッコ変法イーグル培地中で、5% CO2/airの加湿雰囲気中で、37℃で培養した。トリプシン−EDTAを用いて細胞を採取して、PBSで洗浄し、PBS中2.5×10及び2.5×10細胞/mlに濃縮し、腫瘍の進行と顕微鏡的残存疾病をそれぞれ考察した。
【0125】
雌、7−9週齢、BALB/cマウスをこの考察に用いた。考察は、Laboratory Animal Careの方針(NIH Publication#85−23、1985Revision)に従って行った。100mg/kg体重のケタミン(Ketaset(登録商標)、0.1g/ml Fort Dodge社、米国)を腹腔内に注入して麻酔を行った。麻酔をしたラットの安楽死は、胸壁穿刺によって行った。
【0126】
例13: 131I−NC装填ヒドロゲルの腫瘍進行に対する効果
4T1細胞の懸濁液(0.2ml)を、60匹の雌BALB/cマウスの背中に注入した(5×10細胞/マウス)。腫瘍の進行を観察するため、更に2週間マウスを観察した。マウスに麻酔をかけて、腫瘍近傍の背部皮膚に1cmの切り込みを入れ、腫瘍近傍にヒドロゲルをインプラントし、皮膚を縫合した。各群20匹の、3群に分けて考察を行った。
群1は、ヒドロゲルをインプラントしていない非処置対照群;
群2は、標準対象として0.5gの空ヒドロゲルをインプラントした群;
群3は、0.5gの131I−NCを装填したヒドロゲルをインプラントした群。
【0127】
2週、3週、4週に、各群から3匹のマウスを犠牲にした。腫瘍と臓器(肺、心臓、肝臓及び腎臓)を取り出して計量し、組織学的に分析した。カプラン−マイヤ生存分析を6週間にわたって行った。
【0128】
非処置群と、空ヒドロゲル処置群における腫瘍の進行速度は、処置開始後、最初の21日間で0.11g/dayであり、この時点を過ぎても有意な進行は検出されなかった(図15)。131I−NC装填ヒドロゲルで処置を行った群の腫瘍進行速度は、最初の14日間は、0.02g/dayであり、15日から28日目の間は、0.12g/dayであり、28日をすぎても有意な進行は検出されなかった(図15)。図16は、腫瘍の進行が低減していることを示し(A−C)、131I−NC装填ヒドロゲルで処置を行った群(D−F)では、ヒドロゲルインプランテーション後14日で、その他の二つの群に比較して転移節の数が減っていることを示した。
【0129】
非処置群と空ヒドロゲル処置群では、ヒドロゲルインプランテーション後17日目で死亡が始まり、35日で完全に死亡した(図17)。一方、131I−NC装填ヒドロゲルで処置した群では、ヒドロゲルインプランテーション後26日で死亡が始まり、42日で完全に死亡した(図17)。
【0130】
例14: 腫瘍再発防止における131I−NC装填ヒドロゲルの効果
健康なマウスにヒドロゲルをインプランテーションをしている間に、腫瘍細胞(原発腫瘍インプランテーションに用いた量の10%)が広がり、外科的に腫瘍を除去した後、腫瘍床に顕微鏡的遺残病変に似た症状を呈し、腫瘍細胞が外科的手順の間に流出した。60匹のマウスに麻酔をかけて、マウスの背中の皮膚を1cm切開して、ヒドロゲルをインプラントし、0.2mlの細胞懸濁液(5×10細胞/マウス)をインプランテーション部位に液状に広げて、皮膚を縫合した。この考察は、上述したとおり3群に分けて行った。臓器(肺、心臓、肝臓、腎臓及び細胞インプランテーション部位における組織)の組織学的分析を、細胞注入後11週で行い、カプラン−マイヤ生存分析を20週にわたって行った。
【0131】
非処置群と、空ヒドロゲル処置群の全ての動物が腫瘍が進行して、ヒドロゲルインプランテーション後、77日目と、84日目に、それぞれ死亡した。131I−NC装填ヒドロゲルで処置した群の31%だけが腫瘍が進行して、ヒドロゲルインプランテーション後77日で死亡した。しかし、この群の69%は、腫瘍が進行せず、160日後に考察をやめるまで生き続けた(図18)。顕微鏡的遺残病変実験の6週間及び7週間目に、全ての群で腫瘍が進行した(図18)。図19は、非処置群と空ヒドロゲル処置群における腫瘍の進行と10週目における、131I−NC装填ヒドロゲルで処置をした群の腫瘍再発防止を示す。
【0132】
例15: 近隣組織と遠隔臓器の組織学的分析
腫瘍床と遠隔臓器(肺、心臓、肝臓、脾臓)を、マウスから、腫瘍が進行したモデルについては14日で、腫瘍が再発したモデルについては80日で、切り取った。試料をPBSですすいで、PBS中の4%のフォルムアルデヒドで固定化し、脱水して、パラフィンブロックに埋めて、切り取って(4μm)、ヘマトキシリン−エオシンで染色し、腫瘍の進行又は再発と、遠隔臓器の転移を組織学的に調べた(図20)。
【0133】
例16: ヒドロゲルの生物学的排泄の画像及び評価
131I−NC装填ヒドロゲルの試料(0.5g)を4匹のマウスの背中に皮下インプラントした。インプランテーション後、0日、4日、14日、及び30日にシンチグラフィを行った。各マウスに麻酔をして、へリックスデュアルヘッドカメラ(Elscint、Haifa、イスラエル)を用いて、高エネルギィ、高解像度のコリメータで10分間撮像した。データを、Xelerisプログラム(GE Healthcare)で分析し、対象の領域にそれぞれ焦点をあてて、各領域のカウント総数を得た。
【0134】
撮像実験から得たデータを、インプランテーション後時間がたって残留している放射活性留分の自然対数として表し、図21に白丸で示した。初期量(Q0)のインプランテーション後、任意の時間(t)の放射活性量(Q)は、(λ)が排泄定数の時に、式5で与えられる。
Eq.5: Q = Q−λt
この式は、Eq.6: −Ln(Q/Q)=λtに展開される。
【0135】
これらの結果に線形回帰を行って、排泄定数(λ=0.136Day−1)を得た。排泄定数(λ)は、式7に示すように、放射性崩壊定数(λ)と同位元素の生物学的排泄定数(λ)とからなる。図21の破線は、生物学的排泄を考慮していない同位元素の理論的放射性崩壊を示しており、従って、放射性崩壊定数、λ=0.0865Day−1であった。生物学的は移設定数は、Eq.7: λ=λ+λ(ここで、λ=0.0495Day−1である)から得られ、生物学的排泄半減期は、Eq.8:TB1/2=Ln(2)/λ(TB1/2=14.0Days)から得られる。
【図面の簡単な説明】
【0136】
本発明の理解し、実際にどのようにして実行するのかを理解する為に、非限定的な例示の方法で、添付の図面を参照して好ましい実施例を記載する。
【図1】図1は、キトサン(Ct)ゲルG12.5へのエオシン吸収の反応速度(A)と、エオシン吸収によって表現した架橋強度におけるグルタルアルデヒド(GA)濃度(GA:Ct比によって表わされる)の増加の効果(B)を示す図である。4回の測定±SDの平均値が示されている。
【図2】図2は、DSC曲線から計算して、GA:Ct比の上昇に伴うCtゲルのエンタルピィ(A)とTg(B)を示す図である。
【図3】図3は、GA:Ct比の上昇に伴う変化Ctゲルの弾性を示す図である。6回の異なる測定±SD平均値が示されている。
【図4】図4は、イオン強度の影響(塩化ナトリウムのmM−黒丸で表わす)、オスモル濃度(グルコースのmM−白丸で表わす)(A)、及び、G10の膨張時の外部媒体のpH(B)を示す図である。4回の異なる測定±SD平均値が示されている。
【図5】図5は、SDCの生体内分解(白丸)とSC後のFDC(黒丸)(A)、及びラットにおけるIPインプランテーション(B)を示す図である。4回の異なる測定±SD平均値が示されている。
【図6】図6は、SDCからのSB生体内放出(白丸)とSC後のFDC(黒丸)(A)、及び、ラットにおけるIPインプランテーション(B)を示す図である。
【図7】図7は、インプランテーション後0日、4日、13日、30日の131I−NCを装填したSDCのインプランテーションの後の代表的なガンマカメラを示す図である。インプランテーション部位における初期活性の割合(黒丸)と、ラットの左胸部に131I−NCを装填したSDCをインプラントした後の腋窩部リンパ節における初期活性の割合(白丸)を示す。3回の異なる測定±SD平均値が示されている。
【図8】図8は、SDCインプラント周辺の組織の最小組織反応を100倍の倍率で(A)、FDCインプラントを100倍の倍率で(B)、及び、外科的組織周辺結合糸の慢性異物反応を200倍の倍率で(C)示す、代表的な組織学的部位を示す図である。
【図9】図9は、皮下インプランテーション後1日(A)、3日(B)、7日(C)及び14日(D)、及び腹腔内インプランテーション後14日(E)のFDCインプラント周辺の組織の代表的な組織学的部位を示す図である。PMNは多形核球、AFは活性化した繊維芽細胞、Lはリンパ球、BVは新生血管、Mはマクロファージ、FCは繊維性皮膜、である。倍率は、(A)と(B)は200倍、(C)、(D)及び(E)は100倍である。
【図10】図10は、皮下インプランテーション後3日(A)、7日(B)、14日(C)及び28日(D)、及び腹腔内インプランテーション後28日(E)のSDCインプラント周辺の組織の代表的な組織学的部位を示す図である。FCは繊維性皮膜である。倍率は、(A)、(B)及び(E)は200倍、(C)と(D)は100倍である。
【図11】図11は、(A)皮下インプランテーションから28日後のポリグリコリック−ポリラクティック吸収可能な縫合糸、(B)皮下インプランテーションから28日後のSDC、(C)皮下インプランテーションから14日後FDC、に反応した組織の比較を示す図である。Sは、縫合用繊維、PRは、粒子応答である。倍率は、(A)が200倍、(B)と(C)が100倍である。
【図12】図12は、腹腔内インプランテーション後7日のFDCゲルの粒子分解(A);腹腔内インプランテーション後14日のFDCゲルの完全分解(B);及び、リンパ節の門におけるマクロファージ中のFDCデブリス(C)を示す図である。NDは、非分解ゲル、PDは、部分的な分解ゲル、MDはほとんど分解したゲル、Mは、FDGデブリスを装填したマクロファージである。倍率は(A)が200倍、(B)と(C)が100倍である。
【図13】図13は、高濃度KMnO4で生体内酸化が生じた後のFDCインプラントへのヘマトキシリンの吸収(白丸)と、エオシンの吸収(黒丸)を示す図である。5回の測定±SD平均値が示されている。
【図14】図14は、131I−NCを装填したSDCインプラントの断片(A)と、炎症細胞の大量浸潤と組織の完全性の欠如によって検出した、皮下インプランテーション後28日の周辺組織に生じたダメージ(B)を示す代表的な組織学的部位を示す図である。PRは、粒子応答、MFは、筋肉繊維である。倍率は、(A)が50倍、(B)が100倍である。
【図15】図15は、非処置対照群(白角);空ヒドロゲル群のインプランテーション(白丸);及び131I−NC装填ヒドロゲル群のインプランテーション(黒丸);における腫瘍重量で表わした腫瘍進行を示す図である。3回の異なる実験±SEM平均値が示されている。
【図16】図16は、インプランテーション後2週間で除去した様々な腫瘍の代表的な画像(A−C)を示す図である。
【図17】図17は、腫瘍進行モデルの死に至る時間を示す。非処置対照群(破線)、空ヒドロゲル群のインプランテーション(実線)、131I−NC装填ヒドロゲル群(太線)についてのカプラン−マイヤ生存曲線である。
【図18】図18は、微小残存疾患モデルの死に至る時間を示す。非処置対照群(破線)、空ヒドロゲル群のインプランテーション(実線)、131I−NC装填ヒドロゲル群(太線)についてのカプラン−マイヤ生存曲線である。
【図19】図19は、微小残存疾患モデルの処置開始後10週間における、代表的なマウスの画像(A、B、C)であり:非処置対照群A、空ヒドロゲル群のインプランテーションB、131I−NC装填ヒドロゲル群Cである。
【図20】図20は、腫瘍床と遠隔臓器から採取した試料の組織学的分析を示す図であり、肺と肝臓などの遠隔臓器を例示している。
【図21】図21は、マウスの背中に皮下インプランテーションした後の131I−NC装填ヒドロゲルの活性を示す図である。マウスの背中に皮下インプランテーション下の値の131I−NC装填ヒドロゲルの計算上の肉体的減退(破線)と、実際の生物物理学的減退(実線)である。4回の異なる実験±SEM平均値が示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一の放射性元素を結合した少なくとも一の疎水性有機化合物に埋め込んだポリママトリックスの複合体において、前記少なくとも一の放射活性元素を結合した少なくとも一の疎水性有機化合物が、前記マトリックスから実質的に浸出不可であることを特徴とする複合体。
【請求項2】
請求項1に記載の複合体において、前記少なくとも一の放射活性原子が:(a)ガンマ線放射放射性同位元素;(b)ベータ線放射放射性同位元素;または(c)ガンマ線放射放射性同位元素とベータ線放射放射性同位元素の組み合わせ;から選択されることを特徴とする複合体。
【請求項3】
請求項1に記載の複合体において、前記少なくとも一の放射活性原子が、放射活性ハロゲンから選択されることを特徴とする複合体。
【請求項4】
請求項4に記載の複合体において、前記少なくとも一の放射活性ハロゲンが、前記少なくとも一の疎水性有機化合物に二重結合によって化学的に結合していることを特徴とする複合体。
【請求項5】
請求項4に記載の複合体において、前記少なくとも一の放射活性ハロゲンが、ヨウ素またはフッ素のうちの一つであることを特徴とする複合体。
【請求項6】
請求項5に記載の複合体において、前記放射活性ヨウ素とフッ素が、124I、125I、127I、131I及び18Fから選択されることを特徴とする複合体。
【請求項7】
請求項1に記載の複合体において、前記少なくとも一の疎水性有機化合物が、脂質、脂肪、及び炭化水素から選択されることを特徴とする複合体。
【請求項8】
請求項7に記載の複合体において、前記少なくとも一の疎水性有機化合物が脂質であることを特徴とする複合体。
【請求項9】
請求項1に記載の複合体において、少なくとも一の放射活性原子を結合した少なくとも一の疎水性有機化合物が、ヨード−ノルコレステロールまたはヨード−コレステロールであることを特徴とする複合体。
【請求項10】
請求項9に記載の複合体において、前記ヨード−ノルコレステロール又はヨード−コレステロールが131I−ノルコレステロールと131I−コレステロールであることを特徴とする複合体。
【請求項11】
請求項1に記載の複合体において、前記少なくとも一の放射活性原子が:124I、125I、127I、131I、18F、90Y、166Ho、186Re、188Re、90Sr、226Ra、137Cs、60Co、192Ir、103Pd、198Au、99Tc、201Th、67Ga、111Inおよび106Ruから選択され、前記放射活性原子を結合する前記少なくとも一の疎水性有機化合物が、脂質、脂肪、及び炭化水素から選択され、前記結合が、イオン結合、配位結合、及び分子間結合によるものであることを特徴とする複合体。
【請求項12】
請求項11に記載の複合体において、前記結合が配位結合であることを特徴とする複合体。
【請求項13】
請求項1に記載の複合体において、前記ポリママトリックスが生体適合性ポリマであることを特徴とする複合体。
【請求項14】
請求項1に記載の複合体において、前記ポリママトリックスが生体分解性ポリマであることを特徴とする複合体。
【請求項15】
請求項1に記載の複合体において、前記ポリマがヒドロゲルであることを特徴とする複合体。
【請求項16】
請求項1に記載の複合体において、前記ポリママトリックスが、ポリサッカリドであることを特徴とする複合体。
【請求項17】
請求項16に記載の複合体において、前記ポリサッカリドが、天然ポリサッカリド、合成ポリサッカリド、または、半合成ポリサッカリドから選択されることを特徴とする複合体。
【請求項18】
請求項16に記載の複合体において、前記ポリサッカリドが、アルギン酸、アミロペクチン、アミロース、アラビノキシラン、セルロース、キチン、キトサン、コンドロイチン、ガラクトグルコマンナン(galactoglucomannan)、グルコマンナン(glucomannan)、グリコーゲン、グアーガム、ヘパリン、ヒアルロン酸、イノリン、ペクチン、及びキシログルカンから選択されることを特徴とする複合体。
【請求項19】
請求項1に記載の複合体が、放射線治療を必要とする対象の身体中または皮膚の上にインプランテーションあるいは滴下するのに好適であることを特徴とする複合体。
【請求項20】
キトサンと少なくとも一の放射活性脂質からなる複合体。
【請求項21】
請求項20に記載の複合体において、前記放射活性脂質が、コレステロールとノルコレステロールの内の一つであることを特徴とする複合体。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の複合体が、生体適合性及び生体分解性のヒドロゲルであることを特徴とする複合体。
【請求項23】
請求項1に記載の複合体を調整する方法において、当該方法が:
(a)少なくとも一のポリマと少なくとも一の放射活性原子を結合した少なくとも一の疎水性有機化合物を水中または水溶液中で混合するステップと;
(b)ステップ(a)の混合物のゲル化又はヒドロゲル化を行って、これによって、少なくとも一の放射活性元素を結合した少なくとも一の疎水性有機化合物に埋め込んだポリママトリックスの複合体を得、前記少なくとも一の放射活性元素を結合した少なくとも一の疎水性有機化合物が実質的に前記マトリックスから浸出不可であるステップと;
を具えることを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、前記ポリマがポリサッカリドであることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項23に記載の方法が更に、前記複合体を適宜の媒体中で洗浄あるいはインキュベートするステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項23乃至25のいずれか1項に記載の方法によって得られる複合体。
【請求項27】
請求項23乃至25のいずれか1項に記載の方法によって取得可能な複合体。
【請求項28】
請求項1乃至22のいずれか1項に記載の複合体の、治療源調整用の使用。
【請求項29】
請求項28に記載の使用において、前記治療源が放射活性医療インプラントとして好適であることを特徴とする使用。
【請求項30】
請求項28に記載の使用において、前記治療源が、内部局所放射線治療(近接照射療法)に好適であることを特徴とする使用。
【請求項31】
請求項28に記載の方法において、前記治療源が腫瘍への直接注入に好適であることを特徴とする使用。
【請求項32】
請求項1乃至22、25、又は26のいずれか1項に記載の複合体を具えることを特徴とする治療源。
【請求項33】
請求項1乃至22、25、または26のいずれか1項に記載の複合体を具えることを特徴とする、外科的部位あるいは体腔に配置する放射活性医療インプラント。
【請求項34】
対象の疾病を治療する方法において、前記疾病の影響を受けている生体構造領域に、治療的に有効量の請求項1乃至22、25、または26のいずれか1項に記載の複合体を注入するステップを具えることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法において、前記疾病が腫瘍であることを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項34に記載の方法において、前記複合体が、外科的に除去した腫瘍部位に注入されることを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項34に記載の方法において、前記複合体が、前記対象の組織、器官、あるいは体腔内または周辺に注入されることを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項34乃至37のいずれか1項に記載の方法において、前記疾病が、乳癌、肝臓癌、及び肺癌から選択されることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2009−513696(P2009−513696A)
【公表日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−538494(P2008−538494)
【出願日】平成18年11月1日(2006.11.1)
【国際出願番号】PCT/IL2006/001259
【国際公開番号】WO2007/052267
【国際公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(508132609)イッサム リサーチ ディベロップメント カンパニー オブ ザ ヘブライ ユニバーシティー オブ エルサレム (3)
【出願人】(508133411)ハダシット メディカルリサーチサービセス アンド ディベロップメント リミテッド (3)
【Fターム(参考)】