説明

再剥離型粘着剤の製造方法及び製造装置

【課題】要求性能が極めて多種多様化している再剥離型粘着剤の製造が、生産工程を単純化し、その品質管理、在庫管理、輸送等における負荷を低減した状態で行え、使用者も、より性能の高い粘着剤を自在に利用できる製造方法の提供。
【解決手段】塗工機で再剥離型粘着剤を塗布する塗布工程の開始に合わせて、塗布工程で使用する粘着剤に所望の性能付与を行う製造方法であって、Tgが−80℃〜−50℃で、かつ、硬化剤を含まないベース粘着剤の100質量部を定量ポンプによって混合機に送り、さらに、少なくとも硬化剤を0.1〜2質量部の範囲で外添されるように混合機に送り、必要に応じて、可塑剤及び/又はタッキファイヤーを1〜10質量部の範囲で外添されるように混合機に送り、上記ベース粘着剤に所望する成分を添加混合して性能調整する再剥離型粘着剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が求める各種の被着体に最適な粘着性能を有し、かつ、粘着剤の切換え作業が容易となる状態で再剥離型粘着剤を提供し得る再剥離型粘着剤の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種容器に使用される粘着ラベルや、包装等の際に用いられるマスキングテープ及びシート、表面保護フィルム等に使用できる再剥離型粘着剤の進展は著しく、各種の基材や被着体(金属板、ガラス、プラスチック板、紙等)に貼り付け、長期間放置した後でも再剥離性に優れた粘着剤が開発されている。また、近年、環境保護等の立場からリサイクルの重要性が高まっており、各種の被着体から貼り付けたラベル等を、簡単に、よりきれいに剥がすことが要求されており、より良好な基材密着性と再剥離性とを有する粘着剤が求められている。このような状況下、多用な機能を有する多種類の再剥離型粘着剤が提供されており、再剥離型粘着剤の種類は、極めて多くなっている。なお、「再剥離性」とは、基材や被着体を破壊せず、粘着剤を被接着体表面に残さないで剥がすことができることをいう。
【0003】
上記の状況に対し、粘着剤の製造メーカーでは、上記のような種々の要望に応えるため、使用者からのそれぞれの要望に合わせた各種性能を有する再剥離型粘着剤組成物を製造し、納品している。また、その際、長期保存中に接着剤の硬化が進んでしまうことを避けるため、粘着剤の製造メーカーからは、粘着剤を構成する硬化剤を混合しない状態の主剤と、これに添加混合させる硬化剤とを納品し、使用者の工場等で、使用前に硬化剤を添加混合し、再剥離型粘着剤(以下、単に粘着剤と呼ぶ)として使用することがあるが、この硬化剤の主剤への添加混合は、通常、使用の都度、使用者側が手作業で行われている。
【0004】
これに対し、硬化剤と主剤とを効率的に混合することについての提案がなされている。例えば、常温硬化型の接着剤において、硬化剤と主剤とを所定の量ずつ別々に塗布機に近接して設けた混合機に供給し、該混合機で混合撹拌して得た接着剤を塗布機に供給できるようにして、硬化剤と主剤との混合撹拌を効率化した装置についての開示がある(特許文献1参照)。また、複数から選ばれる主剤と、架橋剤とを各々混合器に送液し、得られた接着剤を塗布機に供給する接着剤混合供給方法が提案されている(特許文献2参照)。さらに、被着体の種類や用途に応じた接着能を発揮する接着剤組成物とするため、接着強度の異なる2種類の重合体組成物を任意の比率で混合装置に供給することについての提案もある(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平04−91770号公報
【特許文献2】特開平6−240211号公報
【特許文献3】特開平10−30078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した技術は、いずれも、接着剤を使用する側における改善であり、近年において生じた粘着剤を製造する側における下記の課題を解決し得るものではなかった。すなわち、近年における被着体の種類や材質の多様化に加え、先に述べた被着体のリサイクルを促進する社会事情、さらには資源保護の問題も加わって、使用者からの要求性能は、従来では考えられなかった程に多様化しており、再剥離型粘着剤の多品種化は著しいものがある。このため、粘着剤を製造する側では、多品種少量生産の傾向が増大しており、生産工程の煩雑さは勿論、品質管理、在庫管理、包装及び輸送等において多大な負荷がかかり、深刻な問題になってきている。さらに、少量多品種製造の場合には、どうしても製造コストが高くなるといった問題もあり、品質維持が可能で、製造コストや製品コストの低減をも達成できる経済性に優れる再剥離型粘着剤の製造方法の開発が待望される。また、本発明者らの検討によれば、粘着剤の諸機能を決定している成分の中には、硬化剤以外にも、使用する間際に添加混合した方が、製品の品質がより高いものとなる場合もある。一方、使用者側においては、製造する製品に応じて粘着剤を、汎用、弱粘着性、強粘着性と使い分けているが、多品種少量生産の傾向は使用者側でも同様であり、製造ラインを別に設けることは難しく、その都度、適合性能を有する粘着剤に切換えることが行われており、前記した硬化剤の混合作業に加えて、粘着剤を切換える煩雑な作業が必要となっている。また、使用に先だって所望性能に適した粘着剤を製造メーカーから事前に調達しておく必要があり、そのための各種業務や管理が必要であり、急な使用に対しては調達が間に合わず、最適な粘着剤での対応ができないことが生じるおそれもある。さらに、必要以上に粘着剤を調達してしまった場合には、材料ロスを生じるといった問題もある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、近年、使用者の要求性能が極めて多種多様化している再剥離型粘着剤の製造において、生産工程を単純化でき、その品質管理、在庫管理、包装及び輸送等における負荷を低減でき、製品や材料ロスも少ない、経済性に優れる再剥離型粘着剤の製造方法及び製造装置を提供することにある。さらに、本発明の別の目的は、使用者側において、粘着剤の切換え作業が容易にでき、所望性能に応じた最適な粘着剤の利用を、自在に、しかも従来よりも作業時間を短縮した、材料ロスの少ない状態で行うことができる再剥離型粘着剤の製造方法及び製造装置を提供することにある。本発明の目的は、社会情勢に合致した資源の有効利用にも資する再剥離型粘着剤の製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、以下の本発明によって上記目的が達成されることを見いだした。すなわち、本発明は、塗工機で再剥離型粘着剤を塗布する塗布工程の開始に合わせて、塗布工程で使用する粘着剤に所望の性能付与を行う再剥離型粘着剤の製造方法であって、ガラス転移点温度(Tg)が−80℃〜−50℃で、かつ、硬化剤を含まないベースとなる粘着剤の100質量部を定量ポンプによって混合機に送り、該混合機に、それぞれが、定量ポンプによって一定量送ることができるように構成されている可塑剤、タッキファイヤー及び硬化剤から、少なくとも硬化剤を0.1〜2質量部の範囲で外添されるように混合機に送り、さらに、必要に応じて、可塑剤及び/又はタッキファイヤーをそれぞれ1〜10質量部の範囲で外添されるように混合機に送り、上記ベースとなる粘着剤に所望する成分を添加混合して性能調整することを特徴とする再剥離型粘着剤の製造方法である。
【0009】
本発明の別の実施形態は、塗工機で再剥離型粘着剤を塗布する塗布工程の開始に合わせて、塗布工程で使用する粘着剤に所望の性能付与を行うための再剥離型粘着剤の製造装置であって、ガラス転移点温度(Tg)が−80℃〜−50℃で、かつ、硬化剤を含まないベースとなる粘着剤を収容するためのタンクと、該ベースとなる粘着剤の所望する量を混合機へと送るための定量ポンプと、可塑剤、タッキファイヤー及び硬化剤をそれぞれに収容するための各タンクと、該各タンクから、それぞれに所望する量を上記混合機へと送るための定量ポンプと、混合機から塗工機への混合物の移送手段とを有することを特徴とする再剥離型粘着剤の製造装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、近年、極めて多種多様化している再剥離型粘着剤の製造において、生産工程を単純化でき、その品質管理、在庫管理、包装及び輸送等における負荷を低減でき、製品や材料ロスも少ない、経済性に優れ、極めて実用価値の高い再剥離型粘着剤の製造方法及び製造装置が提供される。また、本発明によれば、使用する場合に必要となる粘着剤の切換え作業が容易にでき、所望性能に応じた最適な粘着剤の利用を、自在に、しかも従来よりも作業時間を短縮した材料ロスの少ない状態で行うことができる、極めて実用価値の高い経済性に優れる再剥離型粘着剤の製造方法及び製造装置が提供される。さらに、本発明によれば、資源の有効利用、省エネにも資する、地球環境保護に寄与し得る再剥離型粘着剤の製造方法及び製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。図1に、本発明の再剥離型粘着剤の製造方法及び製造装置を説明するための模式図を示した。図1に示したように、本発明では、再剥離型粘着剤を塗工機で塗布する塗布工程の開始に合わせて、ベースの粘着剤に所望性能を付与して、該塗布工程で使用する粘着剤を所望性能を満たす再剥離型粘着剤が得られるようにしたことを特徴とする。
【0013】
図1の1は、ベースの粘着剤を収容するためのタンクであり、2は混合機、3は塗工機である。また、4は可塑剤を収容するためのタンク、5はタッキファイヤーを収容するためのタンク、6は硬化剤(架橋剤)を収容するためのタンクである。7は、必要に応じて設けられる混合物を収納するためのタンクである。Pで表したのは、定量ポンプであり、稼動状態を制御することで、タンク内に収容したものの所望量を混合機2へと送ることができる構成のものを使用する。勿論、定量ポンプを稼動させない場合は、混合機2にタンク内に収容したものが送られることはない。混合機2としては、従来の粘着剤の製造に使用されているものをいずれも使用することができる。
【0014】
上記したように、構成は簡単であるが、本発明によれば、塗工機で再剥離型粘着剤を塗布する塗布工程の開始に先立って、ベースの粘着剤の性能調整を、適宜にしかも簡易に行えるようになる。本発明は、再剥離型粘着剤の、被着体に対する粘着力や再剥離性、保持力や安定性、基材へのしみ込みといった諸性能が、主に、ベースとなる粘着剤に添加させる、硬化剤(架橋剤)、可塑剤、タッキファイヤーによって決定されており、これらの添加剤の添加を使用直前に行うように構成することが、作業的にも、性能が高い状態で粘着剤を使用するためにも有効であるとの知見を得て、達成したものである。下記に挙げるような種々の効果を得ることができる。
【0015】
まず、得られる粘着剤は、下記に挙げるような優れた性能を有する多様なものとなる。
(1)被着体が、金属、プラスチック及び紙のいずれの場合も、塗工した場合に、優れた再剥離性を示す粘着剤が得られる。
(2)金属、プラスチック及び紙といった種々の被着体に対して、初期及び経時における粘着力を所望の状態に自在にコントロールした再剥離性粘着剤とできるので、製品の用途や使用状態に応じて最適な粘着力を示す粘着剤の塗工ができる。
(3)良好な再剥離性及び最適な粘着力を示しても、経時安定性に劣る粘着剤となる場合があるが、粘着剤の使用(塗工)に直結して、直ちに使用する状態で所望性能の粘着剤を得る構成としたので、経時安定性が問題となることがなく、常に良好な状態での粘着剤の塗布ができる。
(4)良好な再剥離性及び最適な粘着力を示し、さらに、保持力を所望の状態に自在にコントロールした再剥離性粘着剤とできるので、製品の用途や使用状態に応じて最適な粘着力を示す粘着剤の塗工ができる。
【0016】
粘着剤の製造メーカーにおいては、下記のメリットがある。
(1)ベースの粘着剤と硬化剤(架橋剤)、必要に応じて加える可塑剤とタッキファイヤーの4種類のみによって、使用者が所望する種々の性能を有する粘着剤を提供することができるため、粘着剤の生産工程を格段に簡略化できる。
(2)上記した4種類の成分の提供だけで済むので、従来の少量多品種製造の場合における品質管理及び在庫管理、さらには包装及び輸送にかかる負荷が格段に低減される。このため、製品に対するコストの削減も可能になる。
(3)従来の少量多品種製造の場合、使用者からの発注量と製造量とが完全に一致するわけではなく、当然に多めの製造が行われるので、個々に製造ロスを生じていたが、本発明によれば、この問題が解消され、資源の有効利用、省エネという点からも多大なメリットがある。
(4)製造された粘着剤は、粘着性能の異なる場合には、少量であっても個々に別の容器に収容されて出荷されているため、容器にかかる材料や各種費用の問題、使用後に容器に残留する粘着剤の問題等があり、製品及び材料ロス、製品のコスト高、資源の無駄を生じる可能性があったが、本発明によれば、このような問題を全て解消できる。
【0017】
一方、粘着剤を使用する側においては、下記のメリットがある。
(1)ベースの粘着剤と、可塑剤、タッキファイヤー、硬化剤(架橋剤)の4種類を調達するだけで、例えば、汎用の粘着剤は勿論、弱粘着性のものや強粘着性のものまで、所望性能を有する粘着剤の使用が自在にできるようになるので、発注にかかる作業等や管理作業等が格段に簡単になる。
(2)定量ポンプの稼動状態を制御して、ベースの粘着剤に、少なくとも硬化剤(架橋剤)、必要に応じて可塑剤やタッキファイヤーを適宜な量で添加する、という極めて簡単な操作で、所望性能の再剥離型粘着剤を容易に得られるとともに、該粘着剤が塗工機へと送られるので、塗工機への粘着剤の供給作業が格段に簡略化される。
(3)さらに、性能の異なる粘着剤への切換えも、ベースの粘着剤が共通し、ベースの粘着剤の量に比べて添加剤の量は少ないため、特に混合機等の洗浄をしなくても、添加剤の種類と添加量の変更をするだけで行うことができる。また、混合機と塗布機との間に、混合物を収容するためのタンクを配置しておき、一旦、混合物を該タンク内に収容してから塗工に利用するようにすれば、添加剤の種類と添加量を変更したとしても、タンク内で混合物が均一化するので、より好ましい。
【0018】
本発明で使用する、ベースとなる粘着剤、硬化剤(架橋剤)、必要に応じて添加する可塑剤及びタッキファイヤーとしては、下記のようなものを用いる。
【0019】
(ベース粘着剤)
本発明では、ベースとなる粘着剤として、ガラス転移点温度(Tg)が−80℃〜−50℃で、かつ、硬化剤を含まないものを用いる。ガラス転移点温度(Tg)が−70℃〜−55℃のものがより好ましい。具体的には、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)の重合体、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)とアクリル酸(AAc)との共重合物等を好ましく用いることができる。
【0020】
(硬化剤)
上記のようにして得たベースとなる粘着剤は、塗工する直前に、少なくとも硬化剤(架橋剤)を添加することで、再剥離性を有するものとなる。硬化剤の添加量は、ベースとなる粘着剤100質量部に、0.1〜2質量部の範囲で外添させるようにする。より好ましくは、0.5〜1質量部の範囲で外添すればよい。すなわち、外添量が0.1質量部よりも少ないと、十分な再剥離性が得られない。一方、外添量が2質量部よりも多いと、被着体の種類によっては、基材表面から粘着剤が容易に脱落してしまい、十分な再剥離性能が得られない。硬化剤としては、エポキシ系、カルボジイミド系、オキサゾリン系、アジリジン系、イソシアネート系、金属系等のものを用いることができる。より具体的には、水溶性エポキシ樹脂系のデナコールEX−313(商品名、ナガセケムテックス(株)製)、水分散型イソシアネート化合物であるタケネートWD−730(商品名、三井化学(株)製)などを用いることが好ましい。
【0021】
(可塑剤)
上記のようにして得たベースとなる粘着剤は、塗工する直前に少なくとも硬化剤(架橋剤)が添加されるが、必要に応じて、さらに、ベースとなる粘着剤100質量部に、1〜10質量部の範囲で可塑剤を外添してもよい。このような範囲で可塑剤を添加することで、種々の被着体に対する再剥離性を維持した状態で、粘着力及び保持力の弱い粘着剤を提供できる。可塑剤の添加量は、より好ましくは、1〜5質量部の範囲で外添すればよい。可塑剤としては、アジピン酸誘導体、フマル酸誘導体、トリメリット酸誘導体、脂肪酸誘導体、リン酸誘導体、グリコール誘導体、グリセリン誘導体等が使用できる。より具体的には、DOF(フマル酸誘導体、大八化学工業(株)製)や、PEG−600(グリコール誘導体、(株)ADEKA製)などが挙げられる。
【0022】
(タッキファイヤー)
上記のようにして得たベースとなる粘着剤は、塗工する直前に少なくとも硬化剤(架橋剤)が添加されるが、必要に応じて、さらに、ベースとなる粘着剤100質量部に、1〜10質量部の範囲でタッキファイヤーを外添してもよい。このような範囲でタッキファイヤーを添加することで、種々の被着体に対する再剥離性および保持力を維持した状態で、粘着力の強い粘着剤を提供できる。可塑剤の添加量は、より好ましくは、1〜5質量部の範囲で外添すればよい。タッキファイヤーとしては、軟化点が100℃以上のロジン系またはテルペン系のエマルションを用いることができる。より具体的には、スーパーエステルE−865NT(重合ロジンエステルエマルション、荒川化学工業(株)製)、スーパーエステルE−200NT(重合ロジンエステルエマルション、荒川化学工業(株)製)などが挙げられる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」、「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。また、図1に示したようにして粘着剤を得た。
【0024】
(ベースとなる粘着剤の調製)
下記のようにしてベースとなるアクリル系の粘着剤を得た。温度計、攪拌機、滴下装置、還流冷却管及び窒素導入管を備えた反応装置に、イオン交換水28部を秤量し、窒素を封入して内温を80℃まで昇温させ、その温度に保ちながら、10%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液2部を添加した。その後、直ちに、別に準備した2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)98部と、アクリル酸(AAc)2部との単量体混合物に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(商品名:レベノールWX、花王(株)製)4部とイオン交換水56部を混合し、乳化した単量体乳化物を、連続的に4時間滴下して乳化重合を行った。重合に並行して5%濃度の過硫酸アンモニウム水溶液4部を滴下した。滴下終了後、80℃で4時間熟成し、その後室温まで冷却した。アンモニア水で中和し、固形分を水で調整して固形分50%、粘度50mPa・s、pH8.0なる水分散液を得た。該水分散液に、ポリアクリル酸系増粘剤(ローム アンドハース社製 商品名ASE−60)を添加して粘度10,000mPa・s(B型粘度計)に増粘させ、ベースとする再剥離用の水分散型感圧性粘着剤を調製した。得られた粘着剤の(Tg)は、−67℃であった。
【0025】
(ベースとなる粘着剤を用いた比較例1のラベルの作成)
上記で得られた再剥離用の水分散型感圧性粘着剤を、剥離紙に乾燥後膜厚が25μmになるように塗布し、100℃で1分間乾燥後、上質紙(64g/m2)に転写して、23℃、65%RHの雰囲気で7日間放置後、ベースの再剥離用粘着ラベルを得た。これを比較例1のラベルとし、後述する各性能試験に用いた。他の実施例および比較例の粘着剤についても、上記と同様の方法で塗布してそれぞれラベルを作成し、後述する各性能試験に用いた。
【0026】
(実施例及び比較例の粘着剤の作成)
先に得た再剥離用の水分散型感圧性粘着剤をベースとして用い、図1に示したようにして、表1〜3中に示した、添加剤の種類或いは外添量がそれぞれに異なる粘着剤を得た。具体的には、定量ポンプによって混合機に送られるベースの粘着剤に、硬化剤(架橋剤)と、必要に応じて可塑剤又はタッキファイヤーを所望量、混合機に送り、該混合機において極めて短時間に均一に混合され、該混合物を、これを収納するためのタンクに蓄積させた。通常、上記の操作は、使用直前に行われ、得られた粘着剤がタンク7に蓄積される。図1に図示した例では、混合物はタンク7から塗工機3に供給されるが、タンク7は、塗工の状況に応じて、設置してもよいし、設置しないで混合機2から塗工機3に直送するようにしてもよい。
【0027】
表1に示した例では、実施例1では硬化剤を0.5部外添し、実施例2では硬化剤を1部外添し、実施例3では硬化剤を2部外添し、比較例2では硬化剤を3部外添した。上記において、硬化剤には、デナコールEX−313(商品名:水溶性エポキシ樹脂、ナガセケムテックス(株)製)を用いた。実施例4では、実施例2の場合と同様に硬化剤を1部外添したが、実施例2の場合とは異なるタケネートWD−730(商品名:水分散型イソシアネート化合物、三井化学(株)製)を硬化剤として用いた。該硬化剤は、先に用いた硬化剤よりも硬化時間が早いことが知られている。それぞれに得られた粘着剤についての組成と特性、さらに、各被着体に対する粘着力や再剥離性等を示した。評価方法等については後述するが、表1から、硬化剤を添加することで粘着力が低下する傾向があるが、明らかに再剥離性および保持力が付与されること、比較例2のように硬化剤の添加量が多すぎると、被着体の種類によっては、十分な再剥離性が達成できないこと、保持力も低下することが分かった。一方、硬化剤の添加によって経時安定性が劣る粘着剤になる傾向があるが、本発明では、粘着剤の塗布工程の稼動に合わせて粘着剤を製造するので、粘着剤の製造とほぼ同時に粘着剤の使用がされるので、問題はない。
【0028】

【0029】
表2には、それぞれ硬化剤を1部外添し、さらに可塑剤を外添した例を示した。比較のために、表2中に、表1で説明した硬化剤を1部外添したのみの実施例2の結果を併せて示した。実施例5では可塑剤を1部外添し、実施例6では可塑剤を5部外添し、実施例7では可塑剤を10部外添した。また、比較例3では、可塑剤を15部外添した。上記において、可塑剤には、DOF(フマル酸誘導体、大八化学工業(株)製)を用いた。実施例8では、実施例6の場合と同様に可塑剤を5部外添したが、実施例6の場合とは異なるPEG−600(グリコール誘導体、(株)ADEKA製)を可塑剤として用いた。それぞれに得られた粘着剤についての組成と特性、さらに、各被着体に対する粘着力や再剥離性等を示した。評価方法等については後述するが、表2から、可塑剤を添加することで、実施例2の粘着剤に比べて、粘着力および保持力が低下する傾向があるが、再剥離性については問題ないこと、比較例3のように可塑剤の添加量が多すぎると、被着体の種類によっては、十分な再剥離性が達成できないことが分かった。一方、可塑剤の添加によって経時安定性に劣る粘着剤になるが、本発明では、粘着剤の塗布工程の稼動に合わせて粘着剤を製造するので、粘着剤の製造とほぼ同時に粘着剤の使用がされるので、問題はない。
【0030】

【0031】
表3には、それぞれ硬化剤を1部外添し、さらにタッキファイヤーを外添した例を示した。比較のために、表3中に、表1で説明した硬化剤を1部外添したのみの実施例2の結果を併せて示した。実施例9ではタッキファイヤーを1部外添し、実施例10ではタッキファイヤーを5部外添し、実施例11ではタッキファイヤーを10部外添した。また、比較例4では、タッキファイヤーを15部外添した。上記において、タッキファイヤーには、スーパーエステルE−865NT(重合ロジンエステルエマルション、荒川化学工業(株)製)を用いた。実施例12では、実施例10の場合と同様にタッキファイヤーを5部外添したが、実施例10の場合とは異なるスーパーエステルE−200NT(ロジンフェノールエマルション、荒川化学工業(株)製)を用いた。それぞれに得られた粘着剤についての組成と特性、さらに、各被着体に対する粘着力や再剥離性等を示した。評価方法等については後述するが、表3から、タッキファイヤーを添加することで、実施例2の粘着剤に比べて、粘着力が強くなる傾向があるが、再剥離性については問題ないこと、一方、比較例4のようにタッキファイヤーの添加量が多すぎると、十分な再剥離性が達成できないことが分かった。一方、タッキファイヤーの添加によって経時安定性に劣る粘着剤になるが、本発明では、粘着剤の塗布工程の稼動に合わせて粘着剤を製造するので、粘着剤の製造とほぼ同時に粘着剤の使用がされるので、問題はない。
【0032】

【0033】
<試験方法および評価基準>
1.性状試験方法(初期、経時安定性)
添加剤を配合して得た再剥離用の水分散型感圧性粘着剤を、25℃で1時間および24時間放置後の液状態を観察して、以下の基準で評価した。
○:初期と変化なし。
△:粘度が少し高い。
×:ゲル化している。
【0034】
2.性能試験方法
先に得たそれぞれの粘着剤を塗布して作成した各再剥離用粘着ラベルについて、下記の方法により、粘着力、保持力、再剥離性、基材への投錨性および基材へのしみこみを調べた。
【0035】
(1)粘着力
各再剥離用粘着ラベルについて、JIS Z−0237の180°引き剥がし粘着力測定に準じて測定した。具体的には、再剥離用粘着ラベルを幅25mmに切断し、ステンレス板、ポリプロピレン板及び段ボールに貼り付け、2kgのローラで1往復圧着した。そして、圧着した直後に測定した初期粘着力と、23℃、50%RHで24時間放置した後に測定する経時粘着力を、その温度内でテンシロン引っ張り試験機にて、引き剥がし速度300mm/分で測定した。測定値はN/25mmである。各表中には、上記のようにして測定して得た各時点における粘着力の数値をそれぞれ示した。
【0036】
(2)保持力
各再剥離用粘着ラベルについて、JIS Z−0273に準じて保持力を測定した。具体的には、幅25mm、長さ50mmに切断した粘着ラベルの試験片を、接着面積が25mm×25mmになるように、研磨し清浄にしたSUS304板に貼り付け、2kgの圧着ロールで1往復させ圧着させた。その後、23℃、50%RH中に30分間放置した後、40℃の雰囲気中で1kgの荷重をかけ落下するまでの時間(秒数)を測定した。各表には、その秒数を表示した。
【0037】
(3)再剥離性
各再剥離用粘着ラベルについて、それぞれ幅25mmに切断した試験片を、ステンレス板、ポリプロピレン板及び段ボールに貼り合わせ、23℃、50%RHの雰囲気に30日放置した。その後、引っ張り試験機にて引き剥がし速度300mm/分で剥離して、剥離状態を、目視にて観察し、下記の基準で評価した。評価結果は、各表に示した。
○:糊残りや紙破れなくきれいに剥離できる。
△:糊残りや紙破れが部分的にある。
×:全面に糊残りや紙破れがある。
【0038】
(4)基材への投錨性
各再剥離用粘着ラベルについて、その粘着剤面を指でこすり、基材からの粘着剤の脱落度合いを観察し、下記の基準で評価した。評価結果は、各表に示した。
○:基材からの脱落なし。
△:基材から少し脱落する。
×:基材から容易に脱落する。
【0039】
(5)基材へのしみこみ
各再剥離用粘着ラベルについて、それぞれを40℃の恒温槽に30日間放置後、上質紙表面への感圧性粘着剤のしみこみ状態を観察し、下記の基準で評価した。評価結果は、各表に示した。
○:しみこみなし。
△:上質紙の表面に少ししみこみがある。
×:上質紙の表面にかなりしみこみがある。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、使用者の要求性能が極めて多種多様化している再剥離型粘着剤の製造において、生産工程を単純化でき、その品質管理、在庫管理、包装及び輸送等における負荷を低減でき、製品や材料ロスも少ない、経済性に優れる再剥離型粘着剤の提供ができる。また、使用者側においても、多種多様な再剥離型粘着剤の切換え作業が容易にでき、所望性能に応じた最適な粘着剤の利用を、自在に、しかも従来よりも作業時間を短縮した、材料ロスの少ない状態で行うことができる。本発明の活用例としては、上記したように、再剥離型粘着剤の製造を効率化するだけでなく、より性能の高い状態の粘着剤を要望通りに提供でき、しかも、社会情勢に合致した基材や被着体のリサイクルがし易く、資源の有効利用にも資する再剥離型粘着剤の提供が可能となる。
【符号の説明】
【0041】
1:ベース粘着剤収容タンク
2:混合機
3:塗工機
4:可塑剤収容タンク
5:タッキファイヤー収容タンク
6:硬化剤(架橋剤)収容タンク
7:混合物収納タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗工機で再剥離型粘着剤を塗布する塗布工程の開始に合わせて、塗布工程で使用する粘着剤に所望の性能付与を行う再剥離型粘着剤の製造方法であって、ガラス転移点温度(Tg)が−80℃〜−50℃で、かつ、硬化剤を含まないベースとなる粘着剤の100質量部を定量ポンプによって混合機に送り、該混合機に、それぞれが、定量ポンプによって一定量送ることができるように構成されている可塑剤、タッキファイヤー及び硬化剤から、少なくとも硬化剤を0.1〜2質量部の範囲で外添されるように混合機に送り、さらに、必要に応じて、可塑剤及び/又はタッキファイヤーをそれぞれ1〜10質量部の範囲で外添されるように混合機に送り、上記ベースとなる粘着剤に所望する成分を添加混合して性能調整することを特徴とする再剥離型粘着剤の製造方法。
【請求項2】
可塑剤を外添することで弱粘性の再剥離型粘着剤を得る請求項1に記載の再剥離型粘着剤の製造方法。
【請求項3】
タッキファイヤーを外添することで強粘性の再剥離型粘着剤を得る請求項1に記載の再剥離型粘着剤の製造方法。
【請求項4】
前記ベースとなる粘着剤が、2−エチルヘキシルアクリレートと、アクリル酸との共重合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の再剥離型粘着剤の製造方法。
【請求項5】
塗工機で再剥離型粘着剤を塗布する塗布工程の開始に合わせて、塗布工程で使用する粘着剤に所望の性能付与を行うための再剥離型粘着剤の製造装置であって、ガラス転移点温度(Tg)が−80℃〜−50℃で、かつ、硬化剤を含まないベースとなる粘着剤を収容するためのタンクと、該ベースとなる粘着剤の所望する量を混合機へと送るための定量ポンプと、可塑剤、タッキファイヤー及び硬化剤をそれぞれに収容するための各タンクと、該各タンクから、それぞれに所望する量を上記混合機へと送るための定量ポンプと、混合機から塗工機への混合物の移送手段とを有することを特徴とする再剥離型粘着剤の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−32337(P2011−32337A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178550(P2009−178550)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000105877)サイデン化学株式会社 (39)
【Fターム(参考)】