説明

再構成サーファクタントの調製用の改善された合成脂質混合物

本発明は、空気−液体表面張力を下げることができる人工リン脂質およびペプチドからなる再構成サーファクタントに関し、より詳細には呼吸窮迫症候群(RDS)および肺サーファクタント機能不全に関する他の疾患を処置するための特別なリン脂質混合物および天然SP−Cタンパク質の類似体である人工ペプチドを含んでなる再構成サーファクタントに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気−液体界面で表面張力を下げることができるリン脂質および人工ペプチドからなる再構成サーファクタント(reconstituted surfactant)に関する。特に本発明は、呼吸窮迫症候群(RDS)および肺サーファクタント機能不全に関連する他の疾患を処置するための、特定のリン脂質混合物および天然のサーファクタントSP−Cタンパク質の人工ペプチド類似体を含んでなる再構成サーファクタントに関する。
【背景技術】
【0002】
肺サーファクタントは、内肺胞壁の空気−液体界面で表面張力を下げ、これにより肺が呼気作用の終わりに潰れることを防いでいる。サーファクタント欠損症は、通常、早期児に影響を及ぼし、そして動物の肺から抽出された天然のサーファクタントで効果的に処置できる疾患であるRDSを引き起こす機能不全である。これらサーファクタント調製物の主な成分は、ジ−パルミトイル−ホスファチジル−コリン(DPPC)として通常知られている1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、ホスファチジルグリセロール(PG)のようなリン脂質およびサーファクタントである疎水性のタンパク質BおよびC(SP−BおよびSP−C)である。C型(Ca2+依存的)コラーゲン状レクチンであり、そして宿主防御系で主に作用すると考えられている親水性サーファクタントタンパク質SP−AおよびSP−Dは、使用する有機溶媒抽出手法によりサーファクタント調製物に通常は含まれない。動物組織から得られる修飾された天然のサーファクタント調製物が、現在の治療的プラクティスで使用されている。これらの調製物は通常、有機溶媒での抽出で除去される親水性タンパク質を除いた前記成分からなる。
【0003】
製造および滅菌工程の複雑さ、および免疫反応を誘導する可能性のような動物組織に由来するサーファクタント調製物の欠点から、人工サーファクタントを調製するための試みがなされてきた。
【0004】
言葉の厳密な意味において、人工サーファクタントはリン脂質のみの混合物またはリン脂質と他の合成脂質との混合物である。再構成サーファクタントは、動物組織から単離されたか、または組換え技術もしくは疎水性タンパク質の合成ペプチド誘導体を介して得られたいずれかの疎水性タンパク質が加えられた人工サーファクタントである。
【0005】
再構成サーファクタントの特性および活性は、タンパク質/ペプチド成分に大きく依存するだけでなく、リン脂質混合物の組成にも依存する。
【発明の開示】
【0006】
発明の説明
今、特別なパルミトイルオレイルリン脂質との混合物中のジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)が、天然のサーファクタントタンパク質SP−Cおよび/またはSP−Bの類似体として再構成サーファクタントに通常使用する人工ペプチドの理想的な賦形剤となることが分かった。特に国際公開第00/47623号パンフレットに開示されているSP−C類似体を、80:20〜60:40の重量比の範囲のDPPCおよびパルミトイルオレイルリン脂質(好ましくはパルミトイルオレイルホスファチジルグリセロール(POPG)、またはPOPGとパルミトイルオレイルホスファチジルコリン(POPC)との混合物から選択される)と組み合わせて含んでなる再構成サーファクタントは、それらから得られる調製物の表面張力および粘度を下げることが分かった。技術文献に報告された事柄とは対照的に、驚くべきことにパルミチン酸(PA)の添加は役に立たず、さらに場合によってはインビボでサーファクタントの活性を下げ得ることも分かった。
【0007】
したがって本発明は、80:20〜60:40の重量比の範囲のジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびパルミトイルオレイルホスファチジルグリセロール(POPG)、またはそれらの混合物とパルミトイルオレイルホスファチジルコリン(POPC)から本質的になる混合物、ならびに天然サーファクタントタンパク質SP−Cおよび/またはSP−Bの人工ペプチド類似体を含んでなる再構成サーファクタントに関する。本発明のサーファクタントはパルミチン酸を欠いている。
【0008】
DPPCおよびPOPGの間の重量比が好ましくは75:25〜65:35の範囲であり、そしてより好ましくは68:31である。DPPC:POPG:POPC混合物の場合、リン脂質は好ましくは60:20:20または68:15:16の重量比で使用される。
【0009】
国際公開第89/06657号、同第92/22315号および同第95/32992号パンフレットに記載されているような、天然サーファクタントタンパク質SP−Cおよび/またはSP−Bの人工ペプチド類似体を有利に使用することができる。好適であるのは、アミノ酸が1文字暗号で表されている以下の一般式(I)
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、
Xは、I、L,nL(ノルロイシン)からなる群から選択されるアミノ酸であり;
Bは、K、W、F、Y、オルニチンからなる群から選択されるアミノ酸であり、
Zは、エステルまたはチオエステル結合をそれぞれ介して側鎖に連結された12〜22個の炭素原子を含むアシル基で場合により置換されたSであり;
Ωは、M、I、L、nLからなる群から選択されるアミノ酸であり;
aは、1〜19の整数であり;
bは、1〜19の整数であり;
cは、1〜21の整数であり;
dは、0〜20の整数であり;
eは、0または1であり;
fは、0または1であり;
nは、0または1であり;
mは、0または1であるが、
ただし以下の
−n+m>0;
−fe、
−(XB)(XB)(XB)は最大22個のアミノ酸、好ましくは10〜22個を有する配列である、
ことを条件とする]
を有するSP−C類似体の使用である。
【0012】
さらに一層好適であるのは、式(II):
【0013】
【化2】

【0014】
[式中、
Ωが、M、I、L、nLからなる群から選択され、そしてセリンは場合により、例えばパルミトイルによりアシル化され得る]
のペプチドの使用である。
【0015】
これから報告する非アシル化形態のペプチド(SP−C33)は、本発明の最も好適なペプチドである。
【0016】
【化3】

【0017】
式(I)のペプチドは通常のペプチド合成または国際公開第00/47623号パンフレットに開示された組換え技術により調製することができる。
【0018】
アシル化ペプチドは、好ましくはペプチドをアシルクロライドと純粋なトリフルオロ酢酸中で室温にて10時間反応させ、続いて80%水性エタノールで止めることにより合成される。
【0019】
表面張力を下げることにおける本発明の再構成サーファクタントの活性は、インビトロおよびインビボの両方で評価した。特にインビボの結果は本発明の再構成サーファクタントが一回呼吸量(tidal volume)(これは次いで肺拡張能(pulmonary expansion cpacity)の指数となる)を、従来技術で通常使用されているDPPC、PGおよびPAの混合物で得られるサーファクタントよりも有意に高度に上昇できることを明らかに示す。
【0020】
本発明の再構成サーファクタントは、SP−Bまたはポリミキシン(polymixin)、特にSP−B類似体としてポリミキシンBを含んでなることができる。
【0021】
サーファクタントはペプチドおよびリン脂質の溶液または懸濁液を混合することにより、そして続いて混合物を乾燥することにより調製することができる。必要ならば、乾燥した混合物を再懸濁し、分散させ、またはそのままサーファクタント欠乏症の処置が必要な個体に投与することができる。
【0022】
エーロゾル投与の場合、小サーファクタント粒子を適当な不活性推進薬と合わせることが必要である。安定なサーファクタント溶液/懸濁液の気化または霧状化のような他の投与形も本発明の範囲内である。
【0023】
以下の実施例は本発明をさらに詳細に具体的に説明する。
[実施例]
実験の章
材料
1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DPPC)、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(POPC)、1−パルミトイル−2−オレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(POPG)、卵のホスファチジルグリセロール(PG)、パルミチン酸(PA)、およびポリミキシンB(PxB)硫酸を使用して以下の脂質混合物および重量比を調製した:DPPC/PG/PA、68:22:9;DPPC/POPG/PA、68:22:9;DPPC/POPC/POPG、60:20:20;DPPC/POPG/POPC/PA、57:19:19:5;DPPC/POPC/POPG、68:16:15およびDPPC/POPG,68:31。
【0024】
SP−C33は国際公開第00/47623号パンフレットに記載されているように合成し、そして精製した。
合成サーファクタントの調製
ペプチド/脂質中、0.02:1の重量比のSP−C33および脂質を、クロロホルム/メタノール 98:2(容量/容量)に混合し、溶媒を蒸発させ、そして生成したペプチド/脂質フィルムを続いて80または35mg/mlの脂質濃度で反復超音波処理により150mM NaCl中で水和した。脈動気泡サーファクトメーター(pulsating bubble surfactometer)での分析に使用するサーファクタントサンプルは塩水で作業濃度(10mg/mlサーファクタント)に希釈した。幾つかの実験では、PxBを加えて脂質濃度2(重量/重量)%の最終濃度とした。DPPC/PG/PA(68:22:9)中にSP−C33を含むサーファクタントは、80mg/mlで大変粘稠な懸濁液を提供し、そして実験動物に投与することは難しかった。
【0025】
2種の周知な修飾された天然サーファクタントであるCurosurf(チェシー製薬:Chiesi Farmaceutici)およびSurvanta(アボット;Abbott)を、製造元の使用説明に従い投与した。Curosurfは80mg/mlに懸濁し、そして2.5ml/kg体重を投与した;Survantaは25mg/mlに懸濁し、そして4ml/kg体重を投与した。
脈動気泡実験
2(重量/重量)%のPxBを含むか、または含まないSP−C33サーファクタントの動力学的な表面特性は、脈動気泡サーファクトメーターにより評価した。これらの実験では、サーファクタントを塩水に10mg/mlの濃度で懸濁し、そして37℃で分析した。阻害に対する感度は、40mg/mlのアルブミンをサーファクタント懸濁液に加えることにより試験した。周辺の空気と通じる気泡が、約20μlのサンプル流体を含むプラスチック製の試験チャンバーで作成された。気泡の半径は40サイクル/分の速度で最大0.55から最小0.40mmまで振動させられ、50%の循環表面圧縮(cyclic surface compression)に相当した。最小および最大の気泡サイズ(γmin、γmax)の表面張力値を、5分の脈動にわたり記録した。
インビボ実験
サーファクタント混合物は、在胎齢27日で子宮摘出により得た未熟な新生児ウサギで評価した(出産予定日:31日)。動物は出生時に気管切開を行い、37℃で体積記録器の箱に維持し、そして40呼吸/分および50%の吸息時間の頻度で、100%酸素と同時に通気した。処置動物は2.5ml/kgまたは4ml/kgの上記サーファクタント調製物を気管カニューレを介して受けた。サーファクタント調製物を受けなかった同腹子を対照として使用した。サーファクタントを点滴注入した後、サーファクタントを肺に分布し易くするために、ピーク圧は最初に1分あたり35cmHOに上げ、次いで25cmHOに下げた。次いで動物に25cmHOのピーク圧で15分間通気し、その後、圧力を最初に20cmHOに5分間下げ、次いで15cmHOに5分間下げ、そして再度25cmHOに5分間上げた。一回呼吸量は、各体積記録器の箱に連結された呼吸気流計を用いて5分間の間隔で測定した。
【0026】
確立した通気期間の終わりに、動物を大脳内リドカイン注射により屠殺した。動物の腹を開き、そして横隔膜の位置を気胸証拠について視察した。
【実施例1】
【0027】
種々の脂質混合物中のSP−C33のインビトロ表面活性
DPPC/PG/PA(68:22:9)、DPPC/POPC/POPG(60:20:20)、DPPC/POPC/POPG(68:16:15)およびDPPC/POPG(68:31)中の2(重量/重量)%のSP−C33の動力学的な表面特性を、脈動気泡サーファクトメーターで評価し、これはすべての混合物について5分の脈動後にγmix<2mM/mを、そしてγmaxが48mN/mであったDPPC/PG/PA(68:22:9)中のSP−C33を除き、すべての混合物についてγmax<40mN/mを示した。
【実施例2】
【0028】
PA無しでのインビボの最適効果
脂質組成の関係を評価するために、混合物DPPC/PG/PA(68:22:9)、DPPC/POPG/PA(68:22:9)およびDPPC/POPG(68:31)中のSP−C33のインビボ効果を比較した。DPPC/POPG(68:31)中のSP−C33は他の2つの混合物よりも高い効果を示した。このデータにより、DPPC/POPG(68:31)中のSP−C33で処置した後の一回呼吸量に顕著な増加が示された。それらはまた、DPPCおよび酸性脂質含量が一定ならば、PAの存在が処置の効果を下げることも示した。SP−C33に基づくサーファクタントのインビボ活性に及ぼすPAの負の効果は、DPPC/POPC/POPG(60:20:20)中のSP−C33の効果よりもわずかに低いDPPC/POPC/POPG/PA(57:19:19:5)中のSP−C33の効果(15分の期間にV=12 25分の期間にeV=14)によりさらに確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
80:20〜60:40の重量比の範囲のジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)とパルミトイルオレイルホスファチジルグリセロール(POPG)、またはそれらの混合物とパルミトイルオレイルホスファチジルコリン(POPC)とからなるリン脂質混合物、ならびにSP−Cおよび/もしくはSP−Bタンパク質の人工ペプチド類似体を含んでなる再構成サーファクタント。
【請求項2】
人工ペプチドが以下の一般式(I)
【化1】

式中、
Xは、I、L,nLからなる群から選択されるアミノ酸であり;
Bは、K、W、F、Y、オルニチンからなる群から選択されるアミノ酸であり、
Zは、エステルまたはチオエステル結合を介して側鎖にそれぞれ連結された12〜22個の炭素原子を含むアシル基で場合により置換されたSであり;
Ωは、M、I、L、nLからなる群から選択されるアミノ酸であり;
aは、1〜19の整数であり;
bは、1〜19の整数であり;
cは、1〜21の整数であり;
dは、0〜20の整数であり;
eは、0または1であり;
fは、0または1であり;
nは、0または1であり;
mは、0または1であるが、
ただし以下の
−n+m>0;
−fe、
−(XB)(XB)(XB)は最大22個のアミノ酸を有する配列である、
ことを条件とする、
を有する請求項1に記載の再構成サーファクタント。
【請求項3】
式(I)の人工ペプチドにおいて、(XB)(XB)(XB)が10〜22個のアミノ酸を有する配列である、請求項2に記載の再構成サーファクタント。
【請求項4】
人工ペプチドが以下の一般式(II):
【化2】

[式中、
Ωが、M、I、L、nLからなる群から選択されるアミノ酸であり、そしてセリンは場合によりアシル化され得る]
を有する請求項1に記載の再構成サーファクタント。
【請求項5】
式(II)の人工ペプチドにおいて、セリンがパルミトイルでアシル化される請求項4に記載の再構成サーファクタント。
【請求項6】
ペプチドがSP−C33である請求項4に記載の再構成サーファクタント。
【請求項7】
リン脂質混合物が68:31の重量比のDPPCおよびPOPGの混合物であるか、または68:15:16の重量比のDPPC、POPGおよびPOPCの混合物である、請求項1ないし6に記載の再構成サーファクタント。
【請求項8】
SP−Bまたはそれらの活性な類似体、またはポリミキシンを含んでなる請求項1ないし7に記載の再構成サーファクタント。
【請求項9】
ポリミキシンがポリミキシンBである、請求項1ないし8に記載の再構成サーファクタント。
【請求項10】
溶液、分散物、懸濁液または乾燥粉末状の請求項1ないし9に記載の再構成サーファクタント。
【請求項11】
肺サーファクタント欠損症または機能不全に関連する疾患を処置するための請求項1ないし10に記載の再構成サーファクタントの使用。

【公表番号】特表2006−504635(P2006−504635A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−506367(P2004−506367)
【出願日】平成15年5月12日(2003.5.12)
【国際出願番号】PCT/EP2003/004937
【国際公開番号】WO2003/097695
【国際公開日】平成15年11月27日(2003.11.27)
【出願人】(591095465)キエシ・フアルマチエウテイチ・ソチエタ・ペル・アチオニ (12)
【Fターム(参考)】