説明

再標的化

本発明は予め決定した特異性を有する免疫グロブリン分子の生成方法に関する。特に本発明は、優性のエピトープ結合特異性を示す単一可変ドメインを用いた、1以上の抗体のエピトープ結合特異性を再標的化する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免疫グロブリン分子のエピトープ結合特異性のモジュレーション方法に関する。特に、本発明は規定の特異性を有する単一可変ドメインを用いた1以上の抗体のエピトープ結合特異性の再標的化に関する。
【背景技術】
【0002】
序論
抗体の抗原結合ドメインは2種類の別個の領域:重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖可変ドメイン(VL:VκもしくはVλのいずれかであり得る)を含む。抗原結合部位それ自体は6種のポリペプチドループ:VHドメインから3種(H1、H2およびH3)およびVLドメインから3種(L1、L2およびL3)によって形成されている。VHおよびVLドメインをコードするV遺伝子の多様な一次レパートリーは、遺伝子セグメントの組合せによる再編成によって生じる。VH遺伝子は3種の遺伝子セグメント、VH、DおよびJHの組換えによって生じる。ヒトでは、ハプロタイプに応じて、約51種の機能的VHセグメント(CookおよびTomlinson(1995)Immunol Today,16:237)、25種の機能的Dセグメント(Corbettら(1997)J.Mol.Biol.,268:69)および6種の機能的JHセグメント(Ravetchら(1981)Cell,27:583)が存在する。VHセグメントがVHドメインの第1および第2抗原結合ループ(H1およびH2)を形成するポリペプチド鎖の領域をコードする一方、VH、DおよびJHセグメントは組合せてVHドメインの第3抗原結合ループ(H3)を形成する。VL遺伝子はわずか2種類の遺伝子セグメント、VLおよびJLの組換えによって生じる。ヒトでは、ハプロタイプに応じて、約40種の機能的Vκセグメント(SchableおよびZachau(1993)Biol.Chem.Hoppe-Seyler,374:1001)、31種の機能的VLセグメント(Williamsら(1996)J.Mol.Biol.,264:220;Kawasakiら(1997)Genome Res.,7:250)、5種の機能的Jκセグメント(Hieterら(1982)J.Biol.Chem.,257:1516)および4種の機能的Jλセグメント(VasicekおよびLeder(1990)J.Exp.Med.,172:609)が存在する。VLセグメントがVLドメインの第1および第2抗原結合ループ(L1およびL2)を形成するポリペプチド鎖の領域をコードする一方、VLおよびJLセグメントは組合わせてVLドメインの第3抗原結合ループ(L3)を形成する。この一次レパートリーから選択される抗体は、少なくとも適度な親和性を有するほとんど全ての抗原と結合するのに十分多様であると考えられる。高親和性抗体は、再編成した遺伝子の「親和性成熟」(その際、点突然変異が生成され、改善した結合に基づく免疫系によって選択される)により生じる。
【0003】
抗体は相補性結合部位を含む相補的VH/VL対を介してそれらの抗原と結合する。特定の条件において2つの異なる抗体結合特異性を同一の結合部位内に組込み得るいくつかの証拠が存在する。例えば、メンドリ卵白リゾチームとシチメンチョウリゾチーム(McCaffertyら, WO 92/01047)もしくは遊離ハプテンと担体と結合したハプテン(Griffiths ADら, EMBO J 1994 13:14 3245-60)など、通常、2つの抗原が配列および構造において関連ある場合における交差反応性抗体が記載されている。さらに天然の自己抗体が多反応性であり(Casali & Notkins, Ann. Rev. Immunol. 7, 515-531)、構造的に関連しない少なくとも2つ(通常2つ以上)の異なる抗原と反応することが記載されている。またファージディスプレイ技術を用いたモノクローナル抗体上のランダムなペプチドレパートリーの選択が、抗原結合部位に適合するペプチド配列の範囲を同定するだろうことも示されている。一部の配列は高度に関連し、コンセンサス配列に適合するが、他の配列は非常に異なり、ミモトープ(mimotopes)と呼ばれている(Lane & Stephen, Current Opinion in Immunology, 1993, 5, 268-271)。したがって、関連のおよび相補的なVHおよびVLドメインを含む抗体の抗原結合部位が、既知の抗原の巨大な母集団由来の多くの異なる抗原と結合する可能性を有することは明らかである。どのように2つの(特に必ずしも構造的に関連していない)所与の抗原に対する結合部位を作製するかはそれほど明らかではない。近年、「二重特異性(dual-specific)」免疫グロブリン分子が記載されている。詳細は本発明者らの名前でWO03/002609中に提供されている。
【0004】
一般的に軽鎖を伴う天然の抗体に由来する(モノクローナル抗体もしくはドメインのレパートリーに由来する;EP-A-0368684を参照)単一の重鎖可変ドメインが記載されている。これらのドメインはこれらの抗原と特異的に結合することが示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本発明の出願日において、単一軽鎖ドメインがこれらの抗原と特異的に結合することができることは報告されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
驚くべきことに、本発明者らは、規定のエピトープ特異性を備える単一の軽鎖可変ドメインを選択し、抗体分子中に導入して、該分子に単一軽鎖可変ドメインのエピトープ特異性を付与することができることを示した。
【0007】
さらに驚くべきことに、本発明者らは、所望のエピトープ特異性を有する抗体分子を、再標的化抗体を作製すべく1以上の軽鎖可変ドメインを選択し、無傷の抗体分子の1以上の軽鎖可変ドメインを、選択した1以上のドメインで置換することにより生成し得ることを見出した。従って、本発明者らは、驚くべきことに一部の場合で再標的化抗体の抗原結合部位内に重鎖可変ドメインが存在しているにも関わらず、選択した軽鎖ドメインによって付与されるエピトープ結合特異性が優性であることを示した。
【0008】
重要なことは、本発明者らが、本明細書に記載されるように、本発明の方法を用いて抗体分子のエピトープ結合特異性を再標的化することにより、生じる再標的化抗体分子が、再標的化工程前の同一の抗体分子の特異的エピトープに構造的に関連しないエピトープとエピトープ結合ができることを示したことである。
【0009】
本発明者らは、特定の条件において軽鎖のエピトープ結合特異性が優性であるという知見に基づいて、この方法が「構造的に関連しないエピトープ結合特異性」へ抗体を再標的化することに使用することができ、これらの条件において、エピトープ結合部位の軽鎖可変ドメインが異なる優性エピトープ結合特異性を示す第2可変ドメインで置換される場合に、その後、第2「優性エピトープ結合特異性」の結合特異性が優性となると考える。
【0010】
このような抗体の生成のためのこの発見および方法は、McCaffertyら;WO92/01047に記載されるような交差反応性抗体の生成のために記載される方法のものとは対照的である。McCaffertyらにおいて記載される方法を用いて生成されるこのような抗体は、2以上のエピトープと結合し(すなわち交差反応性である)、これらのエピトープ結合特異性は生成された抗体が第1エピトープに結合できかつ第2の構造的に関連したエピトープにも結合できる程度でのみ再標的化される(したがって1つのエピトープから別のエピトープへエピトープ結合特異性が切り替わることはなく、エピトープ結合特異性の単なる付加である)。さらにこのような方法は、構造的に関連しない第1及び第2エピトープと結合するために再標的化することができる抗体を生成することに使用することができない。本発明者らは、この重要な相違が軽鎖及び重鎖可変ドメインの双方がエピトープ結合特異性に関わるという、これらの交差反応性抗体におけるエピトープ結合の性質から生じていると考えている。すなわち、本発明の一態様における方法と異なり、軽鎖可変ドメインの結合特異性は優性ではない。
【0011】
したがって、第一態様では、本発明は以下の工程:
(a)エピトープ結合特異性を備える抗体軽鎖可変ドメインを選択すること;および
(b)該抗体単一軽鎖可変ドメインを免疫グロブリン骨格と機能的に連結すること、
を含む予め決定したエピトープ結合特異性を有する免疫グロブリン分子を生成する方法を提供する。
【0012】
本発明の上記態様によれば、2以上の軽鎖可変ドメインを工程(a)に従って選択し、工程(b)に従って免疫グロブリン骨格と連結し、その際、各ドメインがエピトープ結合特異性を備えることが好ましい。
【0013】
本発明によれば、「免疫グロブリン分子」とは、2つのβシートを含み、通常、保存されたジスルフィド結合を含む、抗体分子に特徴的な免疫グロブリン折り畳みを保持するポリペプチドのファミリーをいう。免疫グロブリンスーパーファミリーの構成メンバーは、in vivoにおける細胞および非細胞相互作用の多くの局面に関与し、これには免疫系における広範な役割(例えば、抗体、T細胞レセプター分子など)、細胞接着(例えば、ICAM分子)および細胞内シグナル伝達(例えば、PDGFレセプターなどのレセプター分子)における関与が含まれる。
【0014】
本発明の上記態様によれば、免疫グロブリン分子が本明細書に定義されるような抗体分子であることが好ましい。この抗体分子がscFv、Fab’もしくはIgGであるのがより好都合である。この抗体が本明細書に定義されるような「二重特異性」であり得ることが最も好都合である。
【0015】
本発明によれば、「エピトープ」は免疫グロブリンのVH/VL対と一般的に結合する構造の単位である。エピトープは抗体の最小結合部位を規定し、したがって抗体の特異性の標的を表す。単一ドメイン抗体の場合は、エピトープは独立した可変ドメインと結合する構造の単位を表す。
【0016】
本明細書で使用される「予め決定したエピトープ結合特異性」という用語は、規定のもしくは既知のエピトープ結合特異性を意味する。同様に、「エピトープ結合特異性」という用語は、エピトープが本発明による単一の軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメインと特異的に結合することを示す。抗原は1以上のエピトープを含んでもよい。本明細書の実施例において、特異的抗原はBSA(ウシ血清アルブミン)である。
【0017】
本発明によれば、「選択する」という用語は、異なる多くの選択肢から選択することを意味する。当業者は本発明による抗体可変ドメインの1以上を選択する方法に気付くであろう。この方法がライブラリーから選択することを含むことが有利である。このライブラリーがファージディスプレイライブラリーであるのが有利である。
【0018】
本明細書で言及される抗原「単一軽鎖可変ドメイン」は、その自然環境において、抗体軽鎖の一部であり、かつ重鎖可変ドメインを伴って、免疫グロブリン分子並びに出所が合成であり得る構造的に類似した分子の抗原結合部位を形成する単一のポリペプチドドメインをいう。特に、この結合部位は本明細書に定義されるエピトープと特異的に相互作用する可変ドメインの超可変ループによって形成される部位である。
【0019】
あらゆる疑いを避けるため、「単一」(軽鎖可変ドメイン)という用語は、該軽鎖可変ドメインが少なくともあらゆる重鎖可変ドメインから遊離していることを意味する。
【0020】
本発明者らは、可変ドメインが優性エピトープ結合特異性もしくは共優性エピトープ結合特異性であり得ることを見出した。「優性軽鎖エピトープ結合特異性」という用語は、相補的VH/VLエピトープ結合部位を含む抗体の軽鎖可変ドメインが「優性エピトープ結合特異性」を備える軽鎖可変ドメインで置換される場合に、その結果生じる相補的VH/VLエピトープ結合部位がVLドメインのエピトープ結合特異性を採ることを意味する。本発明者らは、優性が本明細書に記載されるVL/VLの組合せおよび特定のVH/VHの組合せでも示され得ることを示している。
【0021】
本発明の上記態様によれば、好都合には、可変軽鎖可変ドメインが「優性エピトープ結合特異性」であるのが有利である。
【0022】
本発明によれば、「免疫グロブリン骨格」という用語は、本明細書に規定されるように、少なくとも1つの免疫グロブリン折り畳みを含み、かつ1以上の抗体単一軽鎖可変ドメインと連結するための足場(scaffold)として作用するタンパク質を指す。本明細書で定義される「免疫グロブリン骨格」は、工程(a)で言及される1以上の選択された抗体単一軽鎖可変ドメインと共に抗原結合部位を形成するように1以上の抗体重鎖可変ドメインを含むことが好ましい。
【0023】
本発明の上記態様における好適な実施形態では、「免疫グロブリン骨格」は、少なくとも1つの軽鎖可変ドメインを欠くIgGサブクラスの完全な抗体分子である。
【0024】
本明細書で定義される別の好適な免疫グロブリン骨格は、以下:(i)抗体のCL(κもしくはλサブクラス)ドメイン;(ii)少なくとも抗体重鎖のCH1ドメイン;抗体重鎖のCH1およびCH2ドメインを含む免疫グロブリン分子;抗体重鎖のCH1、CH2およびCH3ドメインを含む免疫グロブリン分子;もしくは抗体のCL(κもしくはλサブクラス)ドメインと結合した上述のサブセット(ii)のいずれか、を含む免疫グロブリン分子から選択されるもののいずれか1以上を含む。当業者はこのリストが網羅的であることを意図するものではないことに気付くであろうし、また他の適切な免疫グロブリン骨格に気付くであろう。
【0025】
本明細書で言及される「未処理の(virgin)抗体重鎖ドメイン」は、1以上の抗原に特異的に結合することができる抗体重鎖ドメインを選択するための1以上の抗原を用いたin vitro選択の処理を介してない抗体重鎖ドメインをいう。
【0026】
本明細書で言及される(1以上の抗体単一軽鎖可変ドメインと免疫グロブリン骨格とを)「機能的に連結する」という用語は、1以上の抗体軽鎖可変ドメインが1以上の抗原と特異的に結合することができるように本明細書で定義される免疫グロブリン骨格と連結されることを意味する。すなわち、「機能的に連結する」という用語は、記載の成分が、それらの意図される仕方でそれらが機能することを可能にする関係で存在する並列状態(juxtaposition)をいう。本明細書で言及される「連結する」という用語は、その範囲内にリンカー配列の使用を含む。1以上の抗体単一軽鎖可変ドメインと免疫グロブリン骨格とを連結する方法として「連結配列」の使用が含まれ、これはポリペプチドリンカーもしくは合成リンカーであり得る。またその範囲内に免疫グロブリン足場と1以上の抗体軽鎖可変ドメインとの直接的な連結も含まれる。
【0027】
本明細書で定義される骨格と1以上の単一軽鎖可変ドメインとの連結は、ポリペプチドレベルで、すなわち骨格および/または単一軽鎖ドメインをコードする核酸の発現後に成すこともできる。あるいは、連結工程は核酸レベルで成すこともできる。本発明による免疫グロブリン骨格を1以上の軽鎖可変ドメインと連結する方法として、当業者によく知られ、本明細書に記載されるタンパク質化学技術および/または分子生物学的技術の使用が含まれる。
【0028】
疑いを避けるため、本明細書で言及される「エピトープ結合部位」は、共に結合部位を形成し、1以上のエピトープと免疫グロブリン分子との特異的結合を可能にする、1以上の重鎖可変ドメインと1以上の相補性軽鎖可変ドメインとの組合せをいう。
【0029】
上で詳述した本発明の態様によれば、生成される免疫グロブリン分子は抗体単一軽鎖可変ドメインのエピトープ結合特異性を採る。
【0030】
別の態様では、本発明は、生じる抗体分子が再標的化前の該抗体分子に特異的に結合することが可能なエピトープと交差反応しないように該抗体分子のエピトープ結合特異性を再標的化する方法であって、以下:
(a)エピトープ結合特異性を備える抗体可変ドメインを選択する工程、および
(b)工程(a)に従って選択される抗体可変ドメインで、再標的化されるべき抗体分子に含まれるエピトープ結合部位の軽鎖可変ドメインもしくは重鎖可変ドメインを置換する工程であって、選択される可変ドメインが少なくとも1つの優性エピトープ結合特異性を備える上記工程、を含む上記方法を提供する。
【0031】
本発明の上記態様によれば、上記工程(b)に従って置換される可変ドメインが軽鎖可変ドメインであることが好ましい。軽鎖可変ドメインが上記工程(a)に従って選択され、上記工程(b)に従って軽鎖可変ドメインを置換することに使用されることがより有利である。
【0032】
本発明の上記態様の代替的な実施形態では、上記工程(b)に従って置換される可変ドメインは重鎖可変ドメインである。重鎖可変ドメインが上記工程(a)に従って選択され、上記工程(b)に従って重鎖可変ドメインを置換することに使用されることがより有利である。
【0033】
本発明の上記態様によれば、有利には、工程(a)に従って選択される抗体可変ドメインが、エピトープ結合特異性を含み、その際、該エピトープは本発明の上記態様の方法に従って再標的化する前の抗体と特異的に結合するエピトープと構造的に関連しない。
【0034】
本発明の方法によれば、「構造的に関連しないエピトープ」は、同一の抗原もしくは非構造的に異なる抗原上に存在し得る。これらが異なる/構造的に関連しない抗原上に存在することが有利であろう。
【0035】
本明細書で言及される「構造的に関連した」(エピトープ)という用語は、その最も広範な意味において、「構造的に関連した」第1および第2エピトープが存在する場合に、その後生成され得るモノクローナル抗体が第1もしくは第2エピトープに対して生じるにも関わらず、いずれのエピトープとも特異的に結合することができることを意味する。この現象はこの2種類のエピトープが、モノクローナル抗体が2種類のエピトープ間で(特異的結合に関して)区別することができないほど十分構造的に類似するために生じる。したがって本明細書に記載されるように、2種類のエピトープが構造的に関連しない場合は、このエピトープの1つに対して生じるモノクローナル抗体は交差反応性の現象を示さない。
【0036】
構造的に関連しないエピトープおよび/または抗原も同様にあるいは選択的に、各エピトープおよび/または抗原間におけるアミノ酸レベルでの配列同一性に基づいて同定することもできる。このような情報は、2種類の各エピトープおよび/または抗原間でアミノ酸配列の同一性%として提供され得る。したがって、本明細書で言及される「構造的に関連しないエピトープ」および「構造的に関連しない抗原」という用語は、その範囲内に、2種類の各エピトープもしくは抗原間における、それぞれ30%以下、好ましくは29%、28%、27%、26%以下のアミノ酸配列の同一性を含む。「構造的に関連しないエピトープ」および/または「構造的に関連しない抗原」が25%以下のアミノ酸配列の同一性を共有することが最も有利である。
【0037】
2以上の各アミノ酸配列間における同一性%の決定方法は当業者によく知られており、本明細書に記載されている。
【0038】
本発明の上記態様における別の好適な実施形態では、この方法は生成された抗体から夾雑交差反応性抗体(contaminant cross-reactive antibody)を除去する更なる工程を含んでもよく、その際、工程(c)が、工程(a)および工程(b)の方法を用いて生成された再標的化抗体を、再標的化前の該抗体分子と特異的に結合することができるエピトープもしくは抗原と交差反応するこれらの能力について試験すること、および上記工程(a)および工程(b)に従って再標的化される抗体からその特性を示す抗体を除去することを含む。
【0039】
あらゆる疑いを避けるため、本発明の上記態様によれば、「構造的に関連しないエピトープ」は同一の抗原上もしくは異なる抗原上に存在し得る。これらが異なる(構造的に関連しない)抗原上に存在することが有利であろう。
【0040】
本発明の上記態様によれば、2以上のエピトープ結合特異性が再標的化されることが好ましい。
【0041】
選択される可変ドメインが重鎖可変ドメインであることが好ましい。あるいは選択される可変ドメインは軽鎖可変ドメインである。
【0042】
本発明によれば、「優性エピトープ結合特異性」という用語は、相補的VH/VLエピトープ結合部位を含む抗体の軽鎖可変ドメインが「優性エピトープ結合特異性」を備える軽鎖可変ドメインで置換される場合に、生じる相補的VH/VLエピトープ結合部位がVLドメインのエピトープ結合特異性を採るだろうことを意味する。
【0043】
したがって、相補的VH/VLエピトープ結合部位を含む抗体の重鎖可変ドメインが、「優性エピトープ結合特異性」を備える重鎖可変ドメインで置換される場合に、生じる相補的VH/VLエピトープ結合部位はVHドメインのエピトープ結合特異性を採るだろう。
【0044】
したがって、「共優性軽鎖エピトープ結合特異性」は、相補的VH/VLエピトープ結合部位を含む抗体の軽鎖可変ドメインが、「共優性軽鎖エピトープ結合特異性」を備える軽鎖可変ドメインで置換される場合に、生じる相補的VH/VLエピトープが、一方がVHドメインから提供され、一方がVLドメインから提供される2種類のエピトープ結合特異性を含むだろうことを意味する。すなわちVLドメインおよびVHドメインのエピトープ結合特異性のいずれもが優性でない。このような抗体は「二重特異性抗体」と称されている。このような分子はWO03/002609に本発明者らの名前で詳細に記載されており、参照により本明細書に組み入れる。当業者は、共優性エピトープの使用がVL/VL二重特異性を生成すること、およびVH/VH二重特異性を生成することにも使用し得ることを理解するであろう。共優性エピトープの使用を、本明細書に記載される「二重特異性」抗体の生成のために使用してもよく、その際、二重特異性抗体と特異的に結合することが可能な2つのエピトープが構造的に関連する必要がないことに注目することが重要である。本発明の方法によれば、この2つのエピトープが構造的に関連しないことが好ましい。
【0045】
本発明者らは、本発明の方法を使用して2以上のエピトープ結合特異性を有する抗体を生成することができるということを実現させた。
【0046】
したがって、別の態様では、本発明は2以上のエピトープ結合特異性を有する抗体の生成方法であって、以下:
(a)1以上のエピトープ結合特異性を備える抗体可変ドメインを選択する工程、および
(b)工程(a)に従って選択される抗体可変ドメインで、抗体分子に含まれるエピトープ結合部位の全てではないが、少なくとも1つのエピトープ結合部位を有する軽鎖もしくは重鎖可変ドメインを置換する工程、
を含む上記方法を提供する。
【0047】
本発明の上記態様によれば、軽鎖可変ドメインが上記工程(b)に従って置換されることが有利である。
【0048】
2以上のエピトープ結合部位が再標的化されるのが有利である。
【0049】
選択される可変ドメインが重鎖可変ドメインであるのが好ましく、あるいはこれは軽鎖可変ドメインである。
【0050】
本発明の上記態様によれば、軽鎖可変ドメインはκもしくはλであってもよい。軽鎖可変ドメインが軽鎖のκファミリーから選択されることが有利である。
【0051】
本発明によれば、「抗体」もしくは「抗体分子」という用語は、その範囲内にIgG、IgM、IgA、IgDもしくはIgE、およびFab、F(ab')2、Fv、ジスルフィド結合したFv、scFv、ジアボディ(diabody)、抗体を天然に産生する種のいずれかに由来するか、もしくは組換えDNA技術によって作製される二重特異性抗体などのフラグメントを含み、血清、B細胞、ハイブリドーマ、トランスフェクト細胞(transfectomas)、酵母もしくは細菌のいずれかから単離される。
【0052】
さらに、「抗体」もしくは「抗体分子」という用語は、少なくとも1つの軽鎖可変ドメインおよび少なくとも1つの重鎖可変ドメインを含む少なくとも1つの抗原結合部位を含み、その際、該抗原結合部位が1以上の抗原と本発明の1以上の抗体との特異的な結合を可能にする限りは、本明細書に定義される抗体分子のいずれかのフラグメントをその範囲内に含む。
【0053】
本明細書で定義されるように、「エピトープ結合特異性を再標的化する」という用語は、その範囲内に、(少なくとも1つのエピトープ結合部位を含み、かつ上記の)天然/未標的化抗体において示されるものから本発明に従って選択される可変ドメインによって示されるものへ、抗体分子のエピトープ結合特異性を改変すること/変更することを含む。これがエピトープ結合特異性を軽鎖可変ドメインによって示されるものへと改変すること/変更することを含むことが有利である。あるいは、特定の条件において、これは選択したVHを用いて、VH/VH多重特異的リガンドを再標的化することを含み得る。当業者は所与の抗体分子のいずれかが2以上のエピトープ結合特異性を有し得ることを理解するであろう。したがって本発明の方法に従って抗体分子のエピトープ結合特異性を1つだけ「再標的化」することもでき、またはこの特異性の2以上を「再標的化」することもできる。さらに、当業者は、抗体分子が同一もしくは異なるエピトープ特異性を有し得る2以上の抗原結合部位を含み得ることを理解するであろう。共通のエピトープ結合特異性を共有している2以上の抗原結合部位が存在する場合に、その後、本明細書に記載される方法に従ってエピトープ結合部位の1つだけをまたは2以上を再標的化することもできる。抗体分子の抗原結合部位および/またはエピトープ結合特異性の全てが本明細書に規定されるように再標的化されることが有利である。
【0054】
本明細書で言及される「エピトープ結合部位」は、互いに相補的でありかつ一緒に結合部位を形成する1以上の重鎖可変ドメインと1以上の軽鎖可変ドメインとの組合せをいい、結合部位は抗原がそれを含む抗体分子へ特異的に結合することを可能にする。
【0055】
本発明の上記態様によれば、(少なくとも1つの抗体軽鎖可変ドメインで、少なくとも1つのエピトープ結合部位を有する軽鎖可変ドメインを)「置換する」という用語は、本発明による少なくとも1つの軽鎖可変ドメインで(エピトープ結合部位を含む可変軽鎖を)置換することを意味する。
【0056】
別の態様では、本発明は、本発明の方法を用いて取得可能な、予め決定したエピトープ結合特異性を有する免疫グロブリン分子を提供する。
【0057】
免疫グロブリン分子が抗体分子であることが有利である。この抗体分子が完全なIgG、scFvもしくはFabであることが最も有利である。
【0058】
更なる態様において、また本発明は本発明の方法を用いて取得可能な再標的化抗体分子を提供する。
【0059】
本発明の上記態様によれば、軽鎖可変ドメインは軽鎖のκもしくはλファミリーから選択される。本発明に従って免疫グロブリンを再標的化することに用いられる軽鎖可変ドメインが「優性」エピトープ結合特異性を備えているのが有利である。
【0060】
本発明によれば、「優性軽鎖エピトープ結合特異性」という用語は、相補的VH/VLエピトープ結合部位を含む抗体の軽鎖可変ドメインが、「優性エピトープ結合特異性」を備える軽鎖可変ドメインで置換される場合に、生じる相補的VH/VLエピトープ結合部位がVLドメインのエピトープ結合特異性を採るだろうことをいう。すなわち、軽鎖可変ドメインのエピトープ結合特異性は優性である。
【0061】
さらに別の態様では、本発明は、予め決定したエピトープ結合特異性を有する免疫グロブリン分子をコードする核酸構築物、もしくは本明細書に記載される再標的化抗体分子をコードする核酸構築物を提供する。
【0062】
さらに別の態様では、本発明は本発明による核酸構築物を含むベクターを提供する。
【0063】
このベクターが予め決定した抗原結合特異性を有する免疫グロブリン分子もしくは本発明による再標的化抗体分子の発現に必要な成分をさらに含むことが有利である。
【0064】
さらに別の態様では、本発明は本発明による核酸構築物もしくはベクターでトランスフェクトした宿主細胞を提供する。
【0065】
さらに別の態様では、本発明は少なくとも本発明による免疫グロブリン分子もしくは抗体分子を含む診断キットおよび/またはアッセイキットを提供する。
【0066】
上記で報告した知見に加えて、本発明者らは、再標的化するために使用されるVLもしくはVHドメインが常に優性であるとは限らないことも見出した。例えば、軽鎖可変ドメインが相補的VH/VLエピトープ結合部位を含む抗体を再標的化することに用いられ、VLドメインが優性ではない場合に、生じる抗体分子が、一方がVHドメインから提供され、他方がVLドメインから提供される2つのエピトープ結合特異性を有する相補性エピトープ結合部位を一緒に形成するVLドメインおよびVHドメインを含むだろう。このような抗体は「二重特異性抗体」として知られ、本発明者らによって出願されかつ参照により本明細書に組み入れるWO03/002609に記載されている。
【0067】
したがって別の態様では、本発明は以下の工程:
(a)可変ドメインのエピトープ結合特異性の少なくとも1つが共優性であるエピトープ結合特異性を備えた抗体単一可変鎖ドメインを選択すること、および
(b)工程(a)に従って選択される抗体可変鎖ドメインで、抗体分子に含まれるエピトープ結合部位の軽鎖可変ドメインもしくは重鎖可変ドメインを、エピトープ結合部位の各可変ドメインが、各エピトープが互いに同一でない各エピトープと結合するように置換すること、を含む二重特異性抗体の生成方法を提供する。
【0068】
本発明の上記態様によれば、工程(b)による各エピトープ結合部位の各可変ドメインに結合するそれぞれのエピトープは同一ではなく、これにより2以上のエピトープ結合特異性を備える抗体分子が作製される。
【0069】
本明細書で言及されるように、「二重特異性抗体」という用語は、1つの軽鎖可変ドメインと1つの重鎖ドメインとを含んでなる(ここで各可変ドメインは独立の結合特異性を所持する)、少なくとも1つの相補的エピトープ結合部位を含む抗体分子を意味する。すなわち、二重特異性抗体が二重エピトープ特異性を所持し得るように、重鎖可変ドメインが1つのエピトープ結合特異性を備え、軽鎖可変ドメインが更なるエピトープ結合特異性を備える。さらに、二重特異性抗体は、その範囲内に二重特異性のVH/VHの組合せおよびVL/VLの組合せも含む。
【0070】
本発明の方法に従って生成される「二重特異性抗体」の相補的エピトープ結合部位を含むVHおよびVLドメインが、McCaffertyら、WO 92/01047に記載される方法を用いて生成される交差反応性抗体と異なり、特異的エピトープとの結合に協力しないことが本発明の上記態様の重要な特徴である。
【0071】
したがって、本発明の上記態様によれば、二重特異性抗体に特異的に結合することが可能な2種類のエピトープが構造的に関連することは本発明の必要条件ではない。本発明の方法に従って生成される二重特異性抗体に結合することが可能なエピトープに結合する2つのエピトープが構造的に関連しないことが有利である。
【0072】
本発明の上記態様によれば、「構造的に関連しないエピトープ」は同一の抗原上もしくは異なる抗原上に存在し得る。これらが異なる抗原上に存在することが有利であろう。
【0073】
本発明の上記態様によれば、可変ドメインは軽鎖可変ドメインもしくは重鎖可変ドメインであってもよい。これらが軽鎖可変ドメインであることが有利である。
【0074】
本明細書に記載される「共優性エピトープ結合特異性」は、相補的VH/VLエピトープ結合部位を含む抗体の軽鎖可変ドメインが、「共優性エピトープ結合特異性」を備えた軽鎖可変ドメインによって置換される場合に、生じる相補的VH/VLエピトープが、1つがVHドメインから提供され、1つがVLドメインから提供される2つのエピトープ結合特異性を備えるだろうことを意味する。すなわちVLドメイン及びVHドメインのエピトープ結合特異性のいずれもが優性ではない。このような抗体を「二重特異性抗体」と称する。
【0075】
本発明の上記態様によれば、二重特異性抗体が、上記で言及される工程(b)で軽鎖可変ドメインを置換することにより生成されることが好ましい。IgG分子の軽鎖可変ドメインが本発明の上記態様における工程(b)に従って置換されることが有利である。上記で言及される方法の工程(b)による軽鎖可変ドメインが、第2の異なるエピトープ結合特異性を備える第2軽鎖可変ドメインで置換されることがより好都合である。
【0076】
本発明の上記態様によれば、生成される二重特異性抗体分子がIgG分子型を有することが好ましい。
【0077】
本発明の上記態様における別の好適な実施形態では、二重特異性抗体は上記工程(b)で言及される重鎖可変ドメインを、第2/代替的エピトープ結合特異性を備えた第2可変ドメインで置換することにより生成される。第2可変ドメインが重鎖可変ドメインであることが有利である。本発明の上記態様によれば、IgG分子がそのIgG分子のエピトープ結合部位の重鎖可変ドメインを置換することによって作製されることがより好ましい。IgG分子の重鎖可変ドメインが、第2/代替的エピトープ結合特異性を備える重鎖可変ドメインで置換されることが最も好ましい。
【0078】
本発明者らは、本発明の方法をポリクローナル抗体の再標的化に使用し得ることも実現した。注目に値すべきは、ポリクローナル抗血清がしばしば1以上のヒト「自己エピトープ」と反応するエピトープ特異性を備えることである。これによりこのような抗血清の治療上の可能性が制限されている。「自己エピトープ」の大部分、または有利には全てを再標的化することにより、その後のポリクローナル抗血清は治療上優れた使用であり得る。例えば、再標的化ポリクローナル抗血清は癌細胞および/または他の疾患細胞を標的化する際に使用され得る。
【0079】
したがって、別の態様において、本発明は以下の工程:
(a)エピトープ結合特異性を備える抗体可変ドメインであって、優性エピトープ結合特異性を備える上記可変ドメインを選択すること、および
(b)工程(a)に従って選択される抗体可変鎖ドメインで、抗血清に含まれる少なくとも一部の抗体の軽鎖可変ドメインもしくは重鎖可変ドメインを置換すること、を含むポリクローナル抗血清のエピトープ結合特異性を再標的化する方法を提供する。
【0080】
本発明の上記態様によれば、1以上の可変鎖ドメインが軽鎖可変ドメインもしくは重鎖可変ドメインであってもよい。これらが軽鎖可変ドメインであることが有利である。
【0081】
本発明の上記態様によれば、抗血清内に含まれる全てのエピトープ結合特異性の少なくとも1%が本明細書に規定されるように再標的化されることが好ましい。抗体結合部位を含むエピトープ結合特異性の全ての少なくとも2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%が本明細書に規定されるように再標的化されることがより好ましい。抗血清に含まれる全てのエピトープ結合特異性の少なくとも11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%が本明細書に規定されるように再標的化されることがより一層好ましい。ポリクローナル抗血清内に含まれる本明細書で規定される全てのエピトープ結合特異性の30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%が再標的化されることが最も好ましい。抗血清内に含まれるエピトープ結合特異性の100%もしくはほぼ100%が再標的化されることが最も好都合である。
【0082】
本発明の上記態様によれば、標的化されるエピトープ結合特異性が「自己エピトープ結合特異性」であることが有利である。(抗体分子の)「自己エピトープ結合特異性」という用語により、抗体の結合特異性は自己エピトープ、すなわちヒトもしくは動物の体内、有利にはヒトの体内で共通して見られるエピトープの結合特異性を指す。
【0083】
本発明者らは、事実上、(患者から単離されるか、または細胞培養でin vitroで生成される)モノクローナルもしくはポリクローナル抗体の集団を再標的化するのに特に有効な方法は、内因性VL-CLフラグメントを置換して1以上の抗体をVHが所与の結合特異性Xを有するように再標的化し、所与の結合特異性Xを有する抗体の新しい集団を新たに産生することであることを示した。あるいは1以上の抗体を、内因性VH-CLフラグメントを置換することによりVHが所与の結合特異性Xを有するように再標的化して、所与の結合特異性Xを有する抗体の新規集団を産生することもできる。別の実施形態において、VL-CLもしくはVH-CLを適当なIgG発現ベクターそれ自体中に導入して同一の産物を作製し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0084】
発明の詳細な説明
定義
免疫グロブリン これは抗体分子に特徴的な免疫グロブリン折りたたみを保持するポリペプチドのファミリーを指し、2つのβシート、および通常保存されたジスルフィド結合を含む。免疫グロブリンスーパーファミリーの構成メンバーはin vivoで細胞および非細胞相互作用の多くの局面に関与し、これには免疫系における広範囲にわたる役割(例えば、抗体、T細胞レセプター分子など)、細胞接着(例えばICAM分子)および細胞内シグナル伝達(例えば、PDGFレセプターなどのレセプター分子)における関与が含まれる。本発明が抗体に関連することが好ましい。
【0085】
ドメイン ドメインはタンパク質の残りとは無関係にその三次構造を保持する折り畳みタンパク質構造である。一般的に、ドメインはタンパク質の個別的な性状に関与し、多くの場合で機能を損なうことなく付加、除去もしくは他のタンパク質に転換し得る。単一抗体可変ドメインによって、本発明者らは抗体可変ドメインに特徴的な配列を含む折り畳みポリペプチドドメインを意図している。したがって、単一抗体可変ドメインには、例えば1以上のループが抗体可変ドメインに特徴的ではない配列で置換されているか、あるいはN−もしくはC−末端伸長部(extention)を末端切断した抗体可変ドメインまたはN−もしくはC−末端伸長部を含む抗体可変ドメインなどの抗体可変ドメインが含まれる。
【0086】
レパートリー 多様な変異体、例えばこれらの一次配列において異なるポリペプチド変異体の集合。本発明に用いられるライブラリーは少なくとも1000の構成メンバーを含むポリペプチドのレパートリーを含むだろう。
【0087】
ライブラリー ライブラリーという用語は、異種ポリペプチドもしくは異種核酸の混合物を指す。ライブラリーは単一のポリペプチドもしくは核酸配列を有する構成メンバーから成る。この範囲でライブラリーはレパートリーと同義である。ライブラリー構成メンバー間での配列の相違は、ライブラリー中に存在する多様性の原因となる。ライブラリーはポリペプチドもしくは核酸の単なる混合物の形態を採ってもよく、あるいは、例えば核酸のライブラリーで形質転換した細菌、ウイルス、動物もしくは植物細胞などの、生物または細胞の形態であってもよい。個々の生物もしくは細胞は各々唯一のまたは限定数のライブラリー構成メンバーを含むことが好ましい。核酸を発現ベクター中に組込み、この核酸によってコードされるポリペプチドの発現を可能にすることが有利である。したがって、好適な態様では、ライブラリーは宿主生物の集団の形態を採ることもでき、各生物は核酸形態中に、発現してその対応するポリペプチド構成メンバーを産生することが可能なライブラリーの単一構成メンバーを含む発現ベクターの1以上のコピーを含有する。したがって、宿主生物の集団は、膨大な遺伝学的に多様なポリペプチド変異体のレパートリーをコードする可能性を有する。
【0088】
抗体 あらゆる種が本来産生する抗体に由来するか、または組換えDNA技術によって作製される(血清、B細胞、ハイブリドーマ、トランスフェクト細胞(transfectomas)、酵母もしくは細菌から単離される)抗体(例えばIgG、IgM、IgA、IgDもしくはIgE)あるいはフラグメント(Fab、F(Ab’)2、Fv、ジスルフィド結合したFv、scFv、ジアボディ(diabody)、二重特異性抗体など)。
【0089】
本明細書で言及されるように、「二重特異性抗体」という用語は、1つの軽鎖可変ドメインおよび1つの重鎖ドメインを含む少なくとも1つの相補的エピトープ結合部位を含む抗体分子であって、各可変ドメインが独立した結合特異性を有する、上記抗体分子を意味する。すなわち、二重特異性抗体が二重のエピトープ特異性を保持することもでき、かつその際、軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインがエピトープ結合に協力しないように、重鎖可変ドメインが1つのエピトープ結合特異性を備え、軽鎖可変ドメインが別のエピトープ結合特異性を備える。さらに、二重特異性抗体は、その範囲内に二重特異的なVH/VHの組合せおよびVL/VLの組合せも含まれる。本発明の方法に従って生成される二重特異的リガンドが2つの構造的に関連しないエピトープに結合可能であることが有利である。
【0090】
エピトープ 免疫グロブリンVH/VL対と一般的に結合する構造単位。エピトープは抗体の最小結合部位を規定するため、抗体の特異性の標的を表す。単一ドメイン抗体の場合は、エピトープは独立した可変ドメインと結合する構造単位を表す。
【0091】
エピトープ結合特異性」は、エピトープが、本発明による単一軽鎖可変ドメインおよび/または重鎖可変ドメインと特異的に結合することを表す。抗原は1以上のエピトープを含んでもよい。本明細書の実施例では、特異的抗原はBSA(ウシ血清アルブミン)である。
【0092】
エピトープ結合特異性を再標的化するという用語は、その範囲内に、(少なくとも1つのエピトープ結合部位を含み、かつ上記の)天然/未標的化抗体において示されるものから本発明に従って選択される単一可変鎖ドメインによって示されるものへと改変すること/変更することを含む。このエピトープ結合特異性が単一軽鎖可変ドメインによって示されるものへと改変されることが有利である。当業者は所与の抗体分子のいずれかが2以上のエピトープ結合特異性を有し得ることを理解するであろう。抗体分子のこのような抗原結合特異性の1つだけが「再標的化」されてもよく、またはこの特異性の2以上が本発明の方法に従って再標的化されてもよい。さらに当業者は抗体分子が同一のもしくは異なるエピトープ結合特異性を有し得る2以上のエピトープ結合部位を含み得ることを理解するであろう。共通のエピトープ結合特異性を共有する2以上のエピトープ結合部位が存在する場合は、本明細書に記載される方法に従って、このエピトープ結合部位のうちの1つだけを再標的化することもでき、または2以上を再標的化することもできる。抗体分子のエピトープ結合部位および/またはエピトープ結合特異性の全てが本明細書に規定されるように再標的化されることが有利である。
【0093】
抗原 本明細書に定義されるレパートリーの構成メンバーの小分画と結合するリガンド。抗原がレパートリーの1以上の構成メンバーと特異的に結合し、かつ特異的抗原として既知であることが有利である。特異的抗原は1以上のエピトープを含む。これはポリペプチド、タンパク質、核酸もしくは他の分子であり得る。
【0094】
選択という用語は、多くの異なる選択肢からの選択を意味する。当業者は1以上の抗体単一軽鎖可変ドメインを選択する方法に気付くであろう。この方法がライブラリーからの選択を含むことが有利である。このライブラリーがファージディスプレイライブラリーであるのが有利である。
【0095】
普遍的なフレームワーク Kabatにより定義される配列中(「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、US Department of Health and Human Services)もしくはChothiaおよびLesk(1987)(J.Mol.Biol. 196:910-917)によって定義される構造中に保存されている抗体領域に対応する単一抗体フレームワーク配列。本発明は、超可変領域中の変異のみであるにも関わらず実質的に全ての結合特異性の誘導を可能にすることが見出された単一フレームワークもしくは一組のそのようなフレームワークの使用を提供する。
【0096】
一般的技術
他に定義されていない限り、本明細書で使用される(例えば細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術および生化学における)全ての技術および科学用語は当業者に共通して理解されるものと同一の意味を有する。標準技術は分子法、遺伝子法および生化学法(一般的にSambrookらMolecular Cloning:A Laboratory Manual, 第2版(1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.およびAusubelらShort Protocols in Molecular Biology(1999)第4版,John Wiley & Sons,Inc.を参照し、これらは参照により本明細書に組み入れる)ならびに化学法について用いられる。
【0097】
抗体の調製
本発明による抗体は既に確立された技術に従って調製でき、このような技術は抗体工学の分野で、scFv、「ファージ」抗体および他の人工抗体分子の調製のために使用される。抗体の調製技術は、例えば以下の総説およびこれらの中に記載される参考文献中に記載されている:Winter & Milstein(1991) Nature 349:293-299; Plueckthun(1992)Immunological Reviews 130:151-188;Wrightら(1992) Crti.Rev.Immunol.12:125-168;Holliger,P. & Winter,G. (1993) Curr. Op.Biotechn.4, 446-449; Carterら(1995)J.Hematother. 4, 463-470; Chester,K.A. & Hawkins,R.E.(1995)Trends Biotechn.13, 294-300; Hoogenboom,H.R.(1997) Nature Biotechnol.15, 125-126; Fearon,D.(1997)Nature Biotechnol.15, 618-619; Pluckthun,A. & Pack,P.(1997)Immunotechnology 3, 83-105; Carter,P. & Merchant,A.M. (1997) Curr.Opin.Biotechnol.8, 449-454; Holliger,P. & Winter,G.(1997) Cancer Immunol. Immunother. 45, 128-130。
【0098】
可変ドメインの選択に使用される技術は当業界で公知のライブラリーおよび選択手順を使用する。ヒトB細胞から回収した再編成したV遺伝子を使用する天然ライブラリー(Marksら(1991) J.Mol.Biol., 222:581; Vaughanら(1996) Nature Biotech., 14:309)が当業者に周知である。合成ライブラリー(Hoogenboom & Winter(1992) J.Mol.Biol., 227:381; Barbasら.(1992) Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 89:4457; Nissimら.(1994) EMBO J.,13:692; Griffithsら.(1994) EMBO J.,13:3245;De Kruifら.(1995) J.Mol.Biol.,248: 97)は、一般的にはPCRを用いて、免疫グロブリンV遺伝子をクローニングすることにより調製される。PCR工程における誤りは高度な無作為化を生じさせることができる。Vライブラリーは標的抗原に対して選択されてもよく、その場合、単一ドメイン結合は直接的に選択される。
【0099】
A.ライブラリーベクター系
多様な選択システムが当業界で公知であり、これらは本発明における使用に適している。そのようなシステムの例を以下に記載する。
【0100】
バクテリオファージλ発現系を、バクテリオファージのプラークもしくは溶原ファージのコロニーとして直接スクリーニングしてもよく(いずれもすでにHuseら(1989) Science, 246:1275; CatonおよびKoprowski(1990) Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A., 87; Mullinaxら(1990) Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A., 87:8095; Perssonら(1991) Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A., 88:2432に記載されている)、本発明に使用される。このような発現系は最大106の異なるライブラリーの構成メンバーをスクリーニングするのに使用することができるが、これらは本来より膨大な数(106構成メンバー以上)のスクリーニングには適していない。
【0101】
ライブラリー構築物において特に有用な使用は選択ディスプレイシステム(selection display system)であり、これはポリペプチドに連結すべき核酸の発現を可能にする。本明細書で使用されるように、選択ディスプレイシステムは、一般的なリガンドおよび/または標的リガンドを結合して、適切なディスプレイ手段によりライブラリーの個々の構成メンバーの選択を可能にするシステムである。
【0102】
大きなライブラリーにおいて所望の構成メンバーを単離するための選択プロトコルはファージディスプレイ技術に代表されるように当業界で公知である。多様なペプチド配列が糸状バクテリオファージの表面に呈示されるこのようなシステム(ScottおよびSmith(1990) Science, 249:386)は、in vitro選択のための抗体フラグメント(およびこれらをコードするヌクレオチド配列)ライブラリーの作製、および標的抗原に結合する特定の抗体フラグメントの増幅(McCaffertyら, WO 92/01047)に有用であることを証明している。VおよびV領域をコードするヌクレオチド配列がこれらを大腸菌の細胞周辺腔へ導くリーダーシグナルをコードする遺伝子断片と連結され、その結果生じる抗体フラグメントが、典型的にはバクテリオファージコートタンパク質(例えばpIIIもしくはpVIII)との融合体としてバクテリオファージの表面に呈示される。あるいは、抗体フラグメントがλファージキャプシド外部に提示される(ファージ抗体)。ファージを基礎とするディスプレイシステムの利点は、これらが生物系であるため、選択されるライブラリー構成メンバーを、細菌細胞中で選択したライブラリー構成メンバーを含むファージを生育することによって簡単に増幅することができる点である。さらに、ポリペプチドライブラリー構成メンバーをコードするヌクレオチド配列がファージもしくはファジミドベクターに含まれるため、配列決定、発現およびこれに続く遺伝子操作が比較的簡単である。
【0103】
バクテリオファージ抗体ディスプレイライブラリーおよびλファージ発現ライブラリーの構築方法は当業界で周知である(McCaffertyら(1990) Nature, 348:552; Kangら(1991) Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A., 88:4363; Clacksonら(1991) Nature, 352: 624; Lowmanら(1991) Biochemistry, 30:10832; Burtonら(1991) Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.,88:10134; Hoogenboomら(1991) Nucleic Acids Res.,19:4133; Changら(1991) J.Immunol.,147:3610; Breitlingら(1991) Gene,104:147; Marksら(1991)前掲; Barbasら(1992)前掲; HawkinsおよびWinter(1992) J.Immunol.,22:867; Marksら,1992, J.Biol.Chem., 267:16007; Lernerら(1992) Science,258:1313,参照により本明細書に組み入れる)。
【0104】
1つの特に有利な手法はscFvファージライブラリー(Hustonら, 1988, Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.,85:5879-5883; Chaudharyら(1990) Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A.,87:1066-1070; McCaffertyら(1990)前掲; Clacksonら(1991) Nature,352:624; Marksら(1991) J.Mol.Biol.,222:581; Chiswellら(1992) Trends Biotech., 10:80; Marksら(1992) J.Biol.Chem.,267)の使用である。バクテリオファージコートタンパク質に呈示されるscFvライブラリーの様々な実施形態が記載されている。また、ファージディスプレイ法の改善は、例えばWO96/06213およびWO92/01047(Medical Research Councilら)ならびにWO97/08320(Morphosys)に記載されているように公知であり、これらは参照により本明細書に組み入れる。
【0105】
ポリペプチドライブラリーを作製する別のシステムは、ライブラリー構成メンバーのin vitro合成のための無細胞酵素機構(cell-free enzymatic machinery)の使用に関する。ある方法では、RNA分子は標的リガンドに対する選択とPCR増幅の交互ラウンドにより選択される(TuerkおよびGold(1990) Science, 249:505; EllingtonおよびSzostak(1990) Nature, 346:818)。同様の技術を使用して予め決定したヒト転写因子と結合するDNA配列を同定することもできる(ThiesenおよびBach(1990) Nucleic Acids Res.,18:3203; BeaudryおよびJoyce(1992) Science,257:635; WO92/05258およびWO92/14843)。同様の方法において、in vitro翻訳を大きなライブラリーを作製する方法として使用してポリペプチドを合成することができる。一般的に安定化ポリソーム複合体を含むこれらの方法は、さらにWO88/08453、WO90/05785、WO90/07003、WO91/02076、WO91/05058およびWO92/02536に記載されている。WO95/22625およびWO95/11922(Affymax)に開示されるようなファージを基礎としない代替的なディスプレイシステムはポリソームを使用して選択用のポリペプチドを呈示させる。
【0106】
さらに別のカテゴリーの技術は、ある遺伝子とその遺伝子産物との関連性を可能にする人工区画中のレパートリーの選択に関する。例えば、所望の遺伝子産物をコードする核酸を油中水型エマルジョンにより形成されるマイクロカプセル中で選択することができる選択システムがWO99/02671、WO00/40712およびTawfik & Griffiths(1998) Nature Biotechnol 16(7),652-6に記載されている。所望の活性を有する遺伝子産物をコードする遺伝的要素がマイクロカプセル中に区画化され、続いてマイクロカプセル内で転写および/または翻訳されて、これらのそれぞれの遺伝子産物(RNAもしくはタンパク質)を産生する。所望の活性を有する遺伝子産物を産生する遺伝的要素が順に分類される。この方法は、多様な手段で所望の活性を検出することにより、目的の遺伝子産物を選択する。
【0107】
B.ライブラリー構築
選択に使用するためのライブラリーは、例えば上記のような当業界で公知の技術を用いることにより構築してもよく、もしくは商業的に購入してもよい。本発明に有用なライブラリーは、例えばWO99/20749に記載されている。いったんベクター系が選択され、かつ目的のポリペプチドをコードする1以上の核酸配列がライブラリーベクター中にクローニングされれば、発現前に突然変異誘発を行うことによってクローン分子内で多様性を生じさせることもでき、あるいは、突然変異誘発と選択の追加ラウンドを実施する前に、コードされるタンパク質を上述されるように発現および選択してもよい。構造的に最適化されたポリペプチドをコードする核酸配列の突然変異誘発は標準的な分子法によって実施される。特に有用な方法はポリメラーゼ連鎖反応、もしくはPCRである(MullisおよびFaloona(1987) Methods Enzymol.,155:335、参照により本明細書に組み入れる)。耐熱性DNA依存性DNAポリメラーゼにより触媒される複数サイクルのDNA複製を使用して、目的の標的配列を増幅するPCRは当業界で周知である。様々な抗体ライブラリーの構築がWinterら(1994) Ann.Rev.Immunology 12, 433-55およびその中に記載される参考文献中で議論されている。
【0108】
PCRは鋳型DNA(少なくとも1fg;より有効には、1〜1000ng)および少なくとも25pmolのオリゴヌクレオチドプライマーを用いて実施する;プライマープールが非常に不均質である場合、各配列はこのプール中の分子の小さな分画のみによって表され、かつ量は後半の増幅サイクルにおいて制限的になるため、より大量のプライマーを用いることが有利であり得る。典型的な反応混合液は2μlのDNA、25pmolのオリゴヌクレオチドプライマー、2.5μlの10X PCRバッファー1(Perkin-Elmer、Foster City、CA)、0.4μlの1.25μM dNTP、0.15μl(もしくは2.5ユニット)のTaq DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer、Foster City、CA)および脱イオン水を含み、25μlの全量とする。鉱油が重層され、PCRはプログラム式のサーマルサイクラーを用いて実施される。PCRサイクルの各工程の長さと温度、およびサイクル数は実質的にストリンジェントな必要条件に従って調整される。アニーリングの温度とタイミングは、プライマーが鋳型にアニールすることが予想される効率と、許容されるべきミスマッチの程度の両方から決定される;明らかではあるが、核酸分子が同時に増幅および突然変異される場合は、少なくとも合成の第1ラウンドでミスマッチが要求される。プライマーのアニーリング条件のストリンジェンシーを最適化する能力は、通常の当業者の知識の範囲内である。30℃〜72℃のアニーリング温度が用いられる。鋳型分子の最初の変性は、通常は92℃〜99℃、4分間で生じ、変性(94〜99℃、15秒〜1分)、アニーリング(先に述べた通りに温度は決定される;1〜2分)、伸長(72℃、増幅産物の長さに応じて1〜5分)から構成される20〜40サイクルが続く。最後の伸長は一般的に4分間、72℃であり、4℃での不定の(0〜24時間)工程が続いてもよい。
【0109】
C.1以上の単一軽鎖ドメインと免疫グロブリン足場との機能的連結
好適な方法として、例えばscFv分子との関連で記載されているように、ポリペプチドリンカーの使用が含まれる(Birdら(1988) Science 242:423-426)。リンカーは2つの単一ドメインが相互作用することができるようフレキシブル(flexible)であることが好ましい。ジアボディに使用されるフレキシブルの少ないリンカーも採用し得る(Holligerら(1993) PNAS (USA) 90:6444-6448)。
【0110】
リンカー以外の方法を用いてドメインを結合してもよい。例えば、天然のもしくは操作されたシステイン残基を介して提供されるジスルフィド架橋の使用が利用されてもよい(Reiterら, (1994) Protein Eng. 7:697-704)。
【0111】
必要に応じて、免疫グロブリンのドメインを連結するための別の技術が使用されてもよい。
【0112】
抗体単一可変ドメインおよびそのライブラリーを構築する際に使用するためのタンパク質足場
i.主鎖コンホメーションの選択
免疫グロブリンスーパーファミリーの構成メンバーは全てこれらのポリペプチド鎖について類似した折り畳み(fold)を共有する。例えば、抗体はこれらの一次配列については高多様性であるが、配列および結晶構造の比較は予想に反して抗体の6種の抗原結合ループのうち5種(H1、H2、L1、L2、L3)が限られた数の主鎖コンホメーションもしくは標準構造をとることを明らかにしている(ChothiaおよびLesk(1987) J.Mol.Biol.,196:901; Chothiaら(1989) Nature、342:877)。したがって、ループ長および鍵となる残基の分析は、大部分のヒト抗体でみられるH1、H2、L1、L2およびL3の主鎖コンホメーションの予測を可能にしている(Chothiaら(1992) J.Mol.Biol.,227:799; Tomlinsonら(1995) EMBO J.,14:4628; Williamsら(1996) J.Mol.Biol.,264:220)。H3領域は(Dセグメントの使用に起因して)配列、長さおよび構造に関して遥かに多様であるが、また短いループ長について限られた数の主鎖コンホメーションを形成し、これは長さおよびループと抗体フレームワーク中の鍵となる位置に存在する特定の残基もしくは残基のタイプに依存する(Martinら(1996) J.Mol.Biol.,263:800; Shiraiら(1996) FEBS Letters, 399:1)。
【0113】
本発明の免疫グロブリンは、有利にはVHドメインのライブラリーおよびVLドメインのライブラリーなどのドメインのライブラリーから組み立てられる。さらに、本発明の単一ドメインリガンドは、それ自体ライブラリーの形態で提供され得る。本発明における使用のため、抗体ポリペプチドのライブラリーは、特定のループ長および鍵となる残基を選択して構成メンバーの主鎖コンホメーションが既知であることを保障されるよう設計される。上述されるように、これらが天然にみられる免疫グロブリンスーパーファミリー分子の現実のコンホメーションであり、これらが非機能的である可能性を最小にすることが有利である。生殖細胞系列V遺伝子セグメントは、抗体もしくはT細胞レセプターライブラリーを構築するのに適切な1つの基本的フレームワークとして役立つ(他の配列も使用される)。変異は、機能的構成メンバーの少数がその機能に影響しない改変型の主鎖コンホメーションを所持し得るよう低頻度で生じ得る。
【0114】
標準構造理論も、本発明において、抗体によりコードされる多くの異なる主鎖コンホメーション数を評価し、抗体配列に基づいて主鎖コンホメーションを予測し、多様化のために標準構造に影響しない残基を選択することに使用される。ヒトVκドメインにおいて、L1ループは4種の標準構造のうちの1種を採ることができ、L2ループは単一の標準構造を有し、かつL3ループについては90%のヒトVκドメインが4種または5種の標準構造のうちの1種を採ることが知られている(Tomlinsonら(1995)前掲)。したがってVκドメイン単独の場合、異なる標準構造を組合せて異なる主鎖コンホメーションの領域を作製することができる。VλドメインがL1、L2およびL3ループについて異なる標準構造の範囲をコードし、かつVκおよびVλドメインがH1およびH2ループについて数種の標準構造をコードすることができるVHドメインのいずれかと一対にすることができることを考えれば、これらの5種類のループについて観察される標準構造の組合せ数は非常に豊富である。これは主鎖コンホメーションにおける多様性の発生が広範囲の結合特異性の生産に不可欠であり得ることを意味する。しかし、予想に反して、既知の単一主鎖コンホメーションに基づく抗体ライブラリーの構築によって、主鎖コンホメーションにおける多様性が実質的に全ての抗原を標的とする十分な多様性を生じるために必要ないことが見出された。さらに驚くべきことは、単一主鎖コンホメーションはコンセンサス構造であることを必要とせず、天然単一コンホメーションは全体ライブラリーを基準として使用することができる。したがって、好ましい態様では、本発明の二重特異性リガンドは既知の単一主鎖コンホメーションを所持する。
【0115】
選択される単一主鎖コンホメーションは、問題とする免疫グロブリンスーパーファミリー型の分子間で一般的であるのが好ましい。あるコンホメーションを採る有意数の天然分子が観察される場合、このコンホメーションが一般的である。したがって、本発明の好適な態様では、免疫グロブリンスーパーファミリー分子の各結合ループで異なる天然の主鎖コンホメーションが個々に考慮され、その後、異なるループで所望の主鎖コンホメーションの組合せを所持する天然の免疫グロブリンスーパーファミリー分子が選択される。取得可能なものがない場合、最も近い同等物を選択してもよい。異なるループにおける所望の主鎖コンホメーションの組合せが所望の主鎖コンホメーションをコードする生殖細胞系列遺伝子セグメントを選択することによって作製されることが好ましい。選択された生殖細胞系列遺伝子セグメントが現実に頻繁に発現されていることがより好ましく、これらが全ての天然生殖細胞系列遺伝子セグメントを最高頻度で発現していることが最も好ましい。
【0116】
単一ドメインリガンドもしくはそのライブラリーを設計する際、6種の抗原結合ループのそれぞれにおいて異なる主鎖コンホメーションの発生率を個別に考慮してもよい。H1、H2、L1、L2およびL3については、採用される所与のコンホメーションは天然分子の抗原結合ループの20%〜100%で選択される。典型的には、その観察される発生率が35%を超え(すなわち35%〜100%)、50%もしくはさらに65%を超えるのが理想的である。圧倒的多数のH3ループは標準構造を有さないので、標準構造を示すループ間で一般的な主鎖コンホメーションを選択することが好ましい。したがって、このループのそれぞれについては、天然レパートリー中で最も頻繁に観察されるコンホメーションが選択される。ヒト抗体では、各ループについて最も一般的な標準構造(CS)は下記の通りである:H1-CS1(発現したレパートリーの79%)、H2-CS3(46%)、VのL1-CS2(39%)、L2-CS1(100%)、VκのL3-CS1(36%)(計算は70:30のκ:λ比と仮定する、Hoodら(1967) Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol.,48:133)。標準構造を有するH3ループについては、残基94〜残基101由来の塩橋を有する7残基長のCDR3(Kabatら(1991) Sequences of proteins of immunological interest, U.S. Department of Health and Human Services)が最も共通しているようである。EMBLデータライブリーにこのコンホメーションを形成するのに必要なH3の長さおよび鍵となる残基と共に少なくとも16種のヒト抗体配列が存在し、タンパク質データーバンクに抗体モデリングの基準として使用することができる少なくとも2種類の結晶構造(2cgrおよび1tet)が存在する。最高頻度で発現される生殖細胞系列遺伝子セグメントにおいて、この標準構造の組合せはVHセグメント3〜23(DP-47)、JHセグメントJH4b、VκセグメントO2/O12(DPK9)およびJκセグメントJκ1である。したがって、これらのセグメントを基礎として組合せで用いて、所望の単一主鎖コンホメーションを含むライブラリーを構築することができる。
【0117】
あるいは、個々の各結合ループで異なる主鎖コンホメーションの自然発生に基づく単一主鎖コンホメーションを選択する代わりに、主鎖コンホメーションの組合せの自然発生が単一主鎖コンホメーションを選択する基準として用いられる。抗体の場合、例えば抗原結合ループのいずれか2、3、4、5もしくは6種全てにおける標準構造の組合せの自然発生を決定することができる。ここで、選択されるコンホメーションが天然の抗体において一般的であるのが好ましく、これが天然のレパートリーにおいて最高頻度で観察されるのが最も好ましい。したがってヒト抗体では、例えば5種類の抗原結合ループであるH1、H2、L1、L2およびL3の天然の組合せが考慮される際、単一主鎖コンホメーション選択の基礎として、標準構造の最高頻度の組合せが決定され、その後H3ループについて最も一般的なコンホメーションと組合される。
【0118】
b.標準配列の多様化
所望の多様性は典型的には1以上の位置で選択される分子を改変することによって生成される。変化されるべき位置は無作為に選択することができ、または選択されることが好ましい。次いで、変異は、常在アミノ酸が任意のアミノ酸または天然もしくは合成のその類似体と交換される間の無作為化によって非常に多数の変異体を産生することにより、または常住アミノ酸を規定のアミノ酸の部分集合の1以上で置換して、より限定数の変異体を産生することにより達成することができる。
【0119】
このような多様性を導入するための様々な方法が報告されている。変異性(Error-prone)PCR(Hawkinsら(1992) J. Mol. Biol.,226:889)、化学的突然変異誘発(Dengら(1994) J. Biol. Chem.,269:9533)もしくは細菌性突然変異誘発株(Lowら(1996) J. Mol. Biol.,260:359)を用いてこの分子をコードする遺伝子に無作為な突然変異を導入することができる。選択された位置で突然変異させる方法も当業界でよく知られており、これにはPCRを使用しながらもしくは使用せずに、不一致のオリゴヌクレオチドもしくは縮重したオリゴヌクレオチドを使用することが含まれる。例えば、いくつかの合成抗体ライブラリーは抗原結合ループに対する突然変異を標的とすることにより作製される。ヒト破傷風トキソイド結合性FabのH3領域を無作為化することにより新規な結合特異性の範囲が作製されている(Barbasら(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:4457)。無作為なもしくは半無作為なH3およびL3領域を生殖細胞系列V遺伝子セグメントに加えて、非突然変異フレームワーク領域を有する大きなライブラリーが作製されている(Hoogenboom & Winter(1992) J. Mol. Biol.、227:381; Barbasら(1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:4457; Nissimら(1994) EMBO J.、13:692; Griffithsら(1994) EMBO J.、13:3245;De Kruifら(1995) J. Mol. Biol.、248:97)。このような多様化は別の抗原結合ループの一部もしくは全てを含むよう拡大されている(Crameriら(1996) Nature Med.、2:100; Riechmannら(1995) Bio/Technology、13:475;Morphosys、WO97/08320)。
【0120】
ループの無作為化はH3のみについて約1015以上の構造を作製する可能性を有し、かつ他の5種のループについても同程度大多数の変異体を作成する可能性を有するので、現在の形質転換技術を用いること、もしくはさらに無細胞システムを用いて見込まれる全ての組合せを表すライブラリーを作製することは適当でない。例えば、現在までに構築された最も巨大なライブラリーの1つにおいて、6x1010種の異なる抗体(これはこの設計のライブラリーについて見込まれる多様性のわずか一部である)が生成された(Griffithsら(1994)前掲)。
【0121】
非機能的構成メンバーの除去および既知の単一主鎖コンホメーションの使用に加えて、分子の所望の機能を作製もしくは改変することに直接的に関わる残基のみを多様化することが有利である。多くの分子については、この機能は標的と結合することであり、したがって多様性は標的結合部位に集中すべきであるが、この分子全体のパッキング(packing)もしくは選択した主鎖コンホメーションを維持することに極めて重要な残基の変化は避けるべきである。
【0122】
抗体に適用する標準配列の多様化
抗体の場合は、標的の結合部位がエピトープ結合部位であることが最も一般的である。したがって、非常に好適な態様では、本発明は、エピトープ結合部位中の残基のみが改変されている抗体もしくは抗体のアセンブリー用のライブラリーを提供する。これらの残基はヒト抗体レパートリーにおいて非常に多様であり、高分解能抗体/抗原複合体において接点を構成することが知られている。例えば、L2において、50位と53位の位置は天然抗体において多様であり、かつ抗原と接触することが観察されていることが知られている。一方、従来の手法は、Kabatらにより定義される対応の相補性決定部(CDR1)(1991、前掲)中の全ての残基を多様化しており、一部の7残基が本発明における使用のためのライブラリーにおいて多様化された2残基と比較される。これはエピトープ結合特異性の範囲を作製するために要求される機能的多様性に関して有意な改善を示す。
【0123】
事実上、抗体の多様性は2つの工程:ナイーブな一次レパートリーを作製するための生殖細胞系列V、DおよびJ遺伝子セグメントの体細胞遺伝子組換え(生殖細胞系列多様性および結合部多様性と称する)および生じた再編成化V遺伝子の体細胞高頻度突然変異の結果である。ヒト抗体配列の分析は、一次レパートリーにおける多様性が抗原結合部位の中心に集中する一方、体細胞高頻度突然変異は一次レパートリー中に高度に保存されている抗原結合部位の周囲の領域へ多様性を拡張する(Tomlinsonら(1996) J. Mol. Biol., 256: 813参照のこと)ことを示している。この相補性はおそらく配列空間を調査するための効率的な戦略として発展しており、抗体に特有であることは明らかであるが、本発明による他のポリペプチドレパートリーに容易に適用することができる。本発明によれば、改変される残基は、標的の結合部位を形成する残基の部分集合である。標的の結合部位における残基の異なる(重複を含む)部分集合は、必要に応じて選択の間異なる段階で多様化される。
【0124】
抗体レパートリーの場合は、最初の「ナイーブ」レパートリーが作製され、抗原結合部位における残基の一部(全てではない)が多様化される。これに関して、本明細書で使用される「ナイーブ」という用語は、予め決定した標的を有さない抗体分子をいう。これらの分子は、免疫系が広く多様な抗原刺激で未だチャレンジ(challenge)されていない胎児及び新生児の場合と同様に、免疫多様化を経ていない個体の免疫グロブリン遺伝子によってコードされる分子に似ている。続いて、このレパートリーは抗原の範囲に対して選択される。その後、必要に応じて、別の多様性を最初のレパートリーにおいて多様化した領域の外側に導入することができる。この成熟したレパートリーを改変した機能、特異性もしくは親和性について選択することができる。
【0125】
本発明において、抗原結合部位における残基の一部もしくは全てが改変されている抗体の2種類の異なるナイーブレパートリーが有用である。「一次」ライブラリーは、生殖細胞系列V遺伝子セグメントにおいて多様である(生殖細胞系列多様性)抗原結合部位の中心の残基に制限された多様性、もしくは組換え工程の間に多様化された多様性(結合部多様性)を有する天然の一次レパートリーに似せている。多様化される残基は、これに限定されるものではないが、H50、H52、H52a、H53、H55、H56、H58、H95、H96、H97、H98、L50、L53、L91、L92、L93、L94およびL96を含む。「体細胞」ライブラリーにおいて、多様性は組換え工程の間に多様化される(結合部多様性)か、もしくは高度に体細胞突然変異される残基に制限される。多様化される残基は、これに限定されるものではないが、H31、H33、H35、H95、H96、H97、H98、L30、L31、L32、L34およびL96が含まれる。これらのライブラリーにおける多様化に適切であるとして上に列挙した全ての残基は、1以上の抗体−抗原複合体において接点を構成することが知られている。双方のライブラリーにおいても抗原結合部位における残基の全てが改変されるものではないため、所望であれば、選択の間に追加の多様性が残存する残基を改変することにより組み込まれる。これらの任意の残基(もしくは抗原結合部位を構成する追加の残基)のあらゆる部分集合を、抗原結合部位の最初のおよび/またはこれに続く多様化に用いることができることは当業者に明らかであろう。
【0126】
本発明において使用するためのライブラリーの構築において、選択した位置における多様化は、多くの可能なアミノ酸(20種全てもしくはその部分集合)がその位置に組み込まれ得るようにポリペプチド配列を指定するコード配列を改変することによって、典型的には核酸レベルでなされる。IUPAC命名法を用いると、最も汎用的なコドンはNNKであり、これはTAG終止コドンのみならず全てのアミノ酸をコードする。NNKコドンは必要な多様性を導入することに使用されることが好ましい。同一の末端をなす別のコドンも使用され、これには追加の終止コドンTGAおよびTAAの産生をもたらすNNNコドンが含まれる。
【0127】
ヒト抗体の抗原結合部位における側鎖多様性の特徴は、特定のアミノ酸残基を好む顕著な偏りである。VH、VκおよびVλの各領域において最も多様な10ヵ所の位置におけるアミノ酸組成が総計される場合、76%以上の側鎖多様性がわずか7つの異なる残基に由来し、これらはセリン(24%)、チロシン(14%)、アスパラギン(11%)、グリシン(9%)、アラニン(7%)、アスパラギン酸(6%)およびトレオニン(6%)である。主鎖の適応性(flexibility)を提供することができる親水性残基および小残基へのこの偏りは、おそらく広範囲の抗原に結合する傾向が与えられる表面の進化を反映し、一次レパートリーにおける抗体の必須の雑多状態(promiscuity)を説明する手助けになり得る。
【0128】
このアミノ酸の分布を真似ることが好ましいため、本発明は、改変されるべき位置にあるアミノ酸の分布が抗体の抗原結合部位に見られるものを真似ているライブラリーを提供する。標的抗原の範囲に対する(抗体ポリペプチドだけでなく)特定のポリペプチドの選択を可能にするアミノ酸の置換におけるこのような偏りが、本発明によるポリペプチドレパートリーに容易に適用される。改変されるべき位置でアミノ酸の分布を偏らせるための様々な方法(トリヌクレオチド突然変異誘発の使用を含む、WO97/08320を参照のこと)が存在し、好適な方法は、合成の容易さに起因して、慣用の縮重コドンの使用である。(各位置で同等の比率で一重、二重、三重および四重縮重を有する)縮重コドンと天然アミノ酸との全ての組合せによってコードされるアミノ酸プロフィールを比較することにより、最も代表的なコドンを算出することが可能である。コドン(AGT)(AGC)T、(AGT)(AGC)Cおよび(AGT)(AGC)(CT)、すなわちDVT、DVCおよびDVY(それぞれIUPAC命名法を用いる)が所望のアミノ酸プロフィールに最も近似するものである。これらは22%のセリン、11%のチロシン、アスパラギン、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、トレオニンおよびシステインをコードする。したがって、ライブラリーがDVT、DVCもしくはDVYコドンのいずれかを用いて、多様化する各位置で構築されることが好ましい。
【0129】
配列比較
相同性も類似性(すなわち類似の化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)の観点から考慮することができるが、本発明に照らせば配列同一性の関連から相同性を説明することが好ましい。
【0130】
相同性比較は視覚で、もしくはより一般的には容易に利用可能な配列比較プログラムを用いて行うことができる。これらの市販のコンピュータープログラムは2以上の配列間の相同性%を算出することができる。
【0131】
相同性%は連続する配列にわたって算出してもよい。すなわち1つの配列が他の配列とアライメントされ、1つの配列における各アミノ酸を他の配列における対応アミノ酸と1残基ずつ直接比較する。これは「非ギャップ化(ungapped)」アライメントと呼ばれる。典型的に、このような非ギャップ化アライメントは比較的短い数の残基(例えば50未満の連続アミノ酸)にわたってのみ実施される。
【0132】
これは非常に単純かつ一貫した方法であるが、例えば配列の同一な別ペアにおいて、1つの挿入もしくは欠失がアライメントから除かれるべきその後のアミノ酸残基をもたらし、その結果、大域アライメントがなされた場合に相同性%のかなりの減少を引き起こすことを考慮し損なうだろう。したがって、大部分の配列比較法は、全体相同性スコアを過度に害する(penalising)ことなく、可能性のある挿入および欠失を考慮する最適なアライメントを作製するよう設計される。これは配列アライメントに「ギャップ」を挿入して局所的相同性を最大になるようにすることで達成される。
【0133】
しかし、これらのより複雑な方法は、「ギャップペナルティ(gap penalty)」をアライメント中に生じる各ギャップに与えることにより、同数の同一アミノ酸について、可能な限り少ないギャップを有する配列アライメント(比較される2つの配列間のより高度な相関性を反映する)が多くのギャップを有するものより高いスコアを獲得するだろう。ギャップの存在について比較的高いコストを課し、ギャップ中のこれに続く各残基についてより小さなペナルティーを課す「アフィンギャップコスト」が典型的に使用される。これは最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティはもちろんより少ないギャップと共に最適化アライメントを作製するだろう。ほとんどのアライメントプログラムはギャップペナルティを修正することが可能である。しかし、配列比較のためにこのようなソフトウェアを使用する場合は、デフォルト値を使用することが好ましい。例えばGCG Wisconsin Bestfitパッケージ(下記を参照のこと)を使用する場合は、アミノ酸配列についてのデフォルトギャップペナルティは、ギャップについて−12であり、各伸張については−4である。
【0134】
したがって最大相同性%の算出は、最初にギャップペナルティを考慮する最適アライメントの作出が必要である。このようなアライメントを実施するために適切なコンピュータープログラムはGCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereuxら, 1984, Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を実行することができる他のソフトウェアの例として、これに限定されるものではないが、BLASTパッケージ(Ausubelら, 1999同書中−18章)、FASTA(Atschulら, 1990, J. Mol. Biol., 403-410)および比較ツールのGENEWORKSセットがある。BLASTおよびFASTAのいずれもオフライン検索およびオンライン検索で利用可能である(Ausubelら, 1999同書中, 頁7-58〜7-60)。しかしGCG Bestfitプログラムを用いることが好ましい。
【0135】
最終的な相同性%は同一性の観点で測定することができるが、アライメント工程それ自体は、典型的に全か無かのペア比較(all-or-nothing pair comparison)を基礎としない。代わりに、化学的類似性もしくは進化的距離に基づいて各ペアワイズ比較にスコアを与える基準化した類似性スコアマトリックス(a scaled similarity score matrix)が一般的に用いられる。共通して使用されるこのようなマトリックスの一例はBLOSUM62マトリックス(BLASTセットのプログラム用のデフォルトマトリックス)である。GCG Wisconsinプログラムは、与えられる場合には、公然のデフォルト値もしくはカスタムシンボル比較表のいずれかを一般的に用いる(更なる詳細についてはユーザーマニュアルを参照のこと)。GCGパッケージについては公然のデフォルト値を使用するのが好ましく、または別のソフトウェアの場合は、BLOSUM62などのデフォルトマトリックスを使用することが好ましい。
【0136】
いったんソフトウェアが最適アライメントを作出すれば、相同性%、好ましくは配列同一性%を算出することが可能である。このソフトウェアは典型的には配列比較の一部としてこれを行い、数値結果を生じる。
【0137】
本発明の免疫グロブリン分子の特徴づけ
本発明の免疫グロブリン分子の特異的エピトープへの結合は、ELISAを含む当業者によく知られた方法で試験することができる。本発明の好適な実施形態では、結合はモノクローナルファージELISAを用いて試験される。
【0138】
ファージELISAは任意の適切な手段により実施してもよく、例示のプロトコルを以下に述べる。
【0139】
各ラウンドの選択で作製されるファージの集団は、ELISAにより、選択されたエピトープに対する結合についてスクリーニングし、「ポリクローナル」ファージ抗体を同定することができる。これらの集団からの単一の感染型細菌コロニーに由来するファージはその後、ELISAによりスクリーニングして「モノクローナル」ファージ抗体を同定することができる。抗原に結合するために可溶性抗体フラグメントをスクリーニングすることも望ましく、これは例えばC−もしくはN−末端タグに対する試薬を用いたELISAによって着手することができる(例えばWinterら(1994) Ann. Rev. Immunology 12、433-55およびその中に記載の参考文献を参照のこと)。
【0140】
選択されるファージモノクローナル抗体の多様性は、PCR産物のゲル電気泳動(Marksら1991、前掲; Nissimら 1994 前掲)、プロービング(Tomlinsonら1992 J. Mol. Biol. 227、776)もしくはベクターDNAの配列決定によって評価してもよい。
【0141】
E.本発明による免疫グロブリン分子の構造
可変ドメインが例えば本明細書に記載のファージディスプレイ技術を用いて選択されたV-遺伝子レパートリーから選択される場合には、これらの可変ドメインは普遍的なフレームワーク領域を含むため、これらは本明細書に定義される特定の一般的リガンドによって認識され得る。普遍的なフレームワーク、一般的リガンドなどの使用はWO99/20749に記載されている。
【0142】
V-遺伝子レパートリーが使用される場合、ポリペプチド配列中の多様性が可変ドメインの構造ループ内に位置することが好ましい。いずれの可変ドメインのポリペプチド配列は、各可変ドメインと(存在している場合には)その相補的ペアとの相互作用を高めるために、DNAシャッフリングもしくは突然変異のいずれかにより改変され得る。
【0143】
F.(1)予め決定したエピトープ結合特異性を有する免疫グロブリン分子
本発明の一態様によれば、1以上のエピトープ結合特異性を備え、免疫グロブリン骨格と機能的に連結される1以上の単一抗体軽鎖ドメインを含んでなる予め決定したエピトープ結合特異性を有する免疫グロブリン分子が提供される。
【0144】
本発明の上記態様の好適な実施形態では、「免疫グロブリン骨格」は少なくとも1つの軽鎖可変ドメインを欠くIgGサブクラスの完全な抗体分子である。
【0145】
本明細書に規定の別の好適な免疫グロブリン骨格として、以下:(I)抗体のCL(κもしくはλサブクラス)ドメイン、(ii)少なくとも抗体重鎖のCH1ドメイン、抗体重鎖のCH1およびCH2を含む免疫グロブリン分子、抗体重鎖のCH1、CH2およびCH3を含む免疫グロブリン分子、もしくは抗体のCLドメインと結合した上記サブセット(ii)のいずれか、を含む免疫グロブリン分子から選択されるもののいずれか1以上を含む。当業者はこのリストが網羅的であることを意図するものではないことに気付くであろうし、また他の適切な免疫グロブリン骨格に気付くであろう。
【0146】
「免疫グロブリン足場」が軽鎖可変ドメイン以外の完全な抗体分子を含むことが有利である。抗体分子がIgGサブクラスであるのが有利である。
【0147】
(2)再標的化抗体分子
本発明によれば、「抗体」という用語は、その範囲内にIgG、IgM、IgA、IgDもしくはIgE、およびFAb、F(Ab’)2、Fv、ジスルフィド結合したFv、scFv、ジアボディ、抗体を天然に産生するいずれかの種に由来するか、または組換えDNA技術により作製される二重特異性抗体などのフラグメントを含み、血清、B細胞、ハイブリドーマ、トランスフェクト細胞、酵母もしくは細菌のいずれかから単離される。
【0148】
さらに、「抗体」という用語はその範囲内に、少なくとも1つの軽鎖可変ドメインと少なくとも1つの重鎖可変ドメインとを含む少なくとも1つの抗原結合部位を含み、該抗原結合部位が1以上の抗原と1以上の本発明の抗体との特異的結合を可能にする限り、本明細書に定義される抗体分子のあらゆるフラグメントを含む。
【0149】
(G)本発明による核酸構築物
一般的に、本発明の実行に要求される核酸分子およびベクター構築物は、Sambrookら(1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、USAなどの標準的な実験室マニュアルに示されるように構築および操作することもできる。
【0150】
本発明において使用するための核酸の操作は典型的には組換えベクター中で実施される。
【0151】
本明細書で用いられるように、ベクターは異種DNAの発現および/または複製のためにそのDNAを細胞内に導入することに用いられる独立した要素をいう。このようなベクターを選択もしくは構築する方法、およびそれに続く使用方法は通常の当業者によく知られている。膨大なベクターが公然利用可能であり、細菌プラスミド、バクテリオファージ、人工染色体およびエピソーマルベクターが含まれる。このようなベクターを単にクローニングおよび突然変異誘発に使用してもよい。あるいは遺伝子発現ベクターが使用される。本発明に使用されるベクターは所望のサイズ、典型的には0.25キロベース(kb)〜40kb以上の長さのポリペプチドコード配列に適合するよう選択し得る。適当な宿主細胞はin vitroクローニング操作の後、このベクターで形質転換される。各ベクターは様々な機能的構成要素を含み、一般的にはクローニング(もしくは「ポリリンカー」)部位、複製起点および少なくとも1種の選択可能なマーカー遺伝子を含む。当該ベクターが発現ベクターである場合、さらに以下:エンハンサーエレメント、プロモーター、転写終結配列およびシグナル配列の1以上を、それぞれがクローニング部位に近接した位置で、これらが本発明によるポリペプチドレパートリー構成メンバーをコードする遺伝子と機能的に連結されるように所持する。
【0152】
クローニングベクターおよび発現ベクターのいずれも一般的に、1以上の選択された宿主細胞中でベクターが複製することを可能にする核酸配列を含む。典型的にクローニングベクターにおいて、この配列は宿主染色体DNAとは独立してベクターが複製することを可能とし、かつ複製起点もしくは自立複製配列を含む配列である。このような配列は種々の細菌、酵母およびウイルスについてよく知られている。プラスミドpBR322由来の複製起点はほとんどのグラム陰性細菌に適切であり、2ミクロンプラスミドの起点は酵母に適切であり、様々なウイルスの起点(例えばSV40、アデノウイルス)が哺乳動物細胞中でのベクターのクローニングに有用である。一般的に複製起点は、これらがCOS細胞などの哺乳動物細胞中で高レベルのDNA複製を可能にすることに用いられる場合を除いて哺乳動物発現ベクターには必要ではない。
【0153】
クローニングベクターもしくは発現ベクターが選択可能なマーカーとも称される選択遺伝子を含み得ることが有利である。この遺伝子は選択培養培地中で生育する形質転換宿主細胞の生存もしくは生育に必要なタンパク質をコードする。従って、選択遺伝子を含むベクターで形質転換されていない宿主細胞はこの培養培地中で生存しないだろう。典型的な選択遺伝子は抗生物質および他の毒素、例えばアンピシリン、ネオマイシン、メトトレキセートもしくはテトラサイクリンに対する耐性を与え、栄養要求性欠損を補足し、または生育培地中で利用可能でない重大な栄養源を供給するタンパク質をコードする。
【0154】
本発明における使用のためのベクターの複製は大腸菌中で最も都合よく行われ、大腸菌選択可能なマーカー、例えば抗生物質アンピシリンに対する耐性を与えるβ−ラクタマーゼ遺伝子が使用される。これらはpBR322などの大腸菌プラスミド、pUC18もしくはpUC19などのpUCプラスミドから取得することができる。
【0155】
発現ベクターは通常、宿主生物によって認識されるプロモーターを含み、このプロモーターは目的のコード配列と機能的に連結されている。そのようなプロモーターは誘導性もしくは構成性であってもよい。「機能的に連結される」という用語は、記載される成分がこれらの意図される仕方で機能することを可能にする関係で存在する並列状態をいう。コード配列と「機能的に連結される」制御配列は、コード配列の発現が制御配列と適合する条件下で達成されるように連結される。
【0156】
原核宿主と使用するのに適したプロモーターとして、例えばβ−ラクタマーゼとラクトースプロモーター系、アルカリホスファターゼ、トリプトファン(trp)プロモーター系およびtacプロモーターなどのハイブリッドプロモーターがある。細菌系で使用するためのプロモーターも一般的にコード配列と機能的に連結されたShine-Delgarno配列を含むだろう。
【0157】
好適なベクターは、ポリペプチドライブラリー構成メンバーに対応するヌクレオチド配列の発現を可能にする発現ベクターである。したがって、第1および/または第2抗原を用いた選択は別々の伝播およびポリペプチドライブラリー構成メンバーを発現する単一クローンの発現あるいはあらゆる選択ディスプレイシステムの使用によって行うことができる。上述されるように、好適な選択ディスプレイシステムはバクテリオファージディスプレイである。したがって、ファージもしくはファジミドベクターを用いてもよい。好適なベクターは、大腸菌の(二重鎖複製のための)複製起点およびファージの(一本鎖DNA産生のための)複製起点も有するファジミドベクターである。このようなベクターの操作および発現は当業界でよく知られている(HoogenboomおよびWinter(1992)前掲; Nissimら(1994)前掲)。簡潔に言うと、ベクターはファジミドに選択性を与えるβ−ラクタマーゼと、(N末端からC末端に)(発現したポリペプチドを細胞周辺腔へ導く)pelBリーダー配列、(ライブラリー構成メンバーのヌクレオチドバージョンをクローニングするための)多重クローニング部位、場合により(検出用の)1以上のペプチドタグ、場合により1以上のTAG終止コドンおよびファージタンパク質pIIIからなる発現カセット上流のlacプロモーターとを含む。したがって、大腸菌の様々なサプレッサー株および非サプレッサー株を使用し、かつグルコース、イソ−プロピル チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG)もしくはヘルパーファージ(VCS M13など)を加えることで、ベクターは発現することなくプラスミドとして複製し、ポリペプチドライブラリー構成メンバーのみを大量に産生し、または一部はそれらの表面にポリペプチド−pIII融合体のコピーを少なくとも1つ含むファージを産生することができる。
【0158】
本発明によるベクターの構築は慣用の連結技術を使用する。単離されたベクターもしくはDNA断片を切断し、調整し、かつ所望の形態で再連結して必要なベクターを生成する。必要に応じて、正しい配列が構築したベクター中に存在していることを確認するための分析を公知の様式で行うことができる。発現ベクターを構築するための、in vitroで転写産物を調製するための、DNAを宿主細胞に導入するための、および発現および機能を評価する分析を行うための好適な方法は当業者に公知である。サザンもしくはノーザン分析、ウエスタンブロッティング、DNA、RNAもしくはタンパク質のドットブロッティング、in situハイブリダイゼーション、免疫細胞化学または核酸もしくはタンパク質分子の配列分析といった慣用方法でサンプル中の遺伝子配列の存在は検出され、あるいはその増幅および/または発現が定量される。当業者は必要に応じてこれらの方法をいかに改変し得るかを容易に予見するだろう。
【0159】
H:本発明による免疫グロブリン分子の使用
本発明の方法に従って生成される再標的化抗体および/または予め決定したエピトープ結合特異性を有する抗体はin vivo治療および予防用途、in vitroおよびin vivo診断用途、in vitroアッセイおよび試薬用途などに使用してもよい。例えば抗体分子をELISA技術など当業者に公知の方法に従って抗体に基づくアッセイ技術において使用してもよい。
【0160】
上で示唆したように、本発明に従って選択される分子は診断、予防および治療方法に使用される。本発明に従って選択される再標的化抗体および予め決定したエピトープ結合特異性を有する抗体は、標準的な免疫組織化学的方法によるウエスタン分析およびin situタンパク質検出において診断的に使用される(これらの用途における使用のために選択されたレパートリーの抗体を当業界で公知の技術に基づいて標識し得る)。さらに、樹脂などのクロマトグラフ支持体に複合体化される場合、このような抗体ポリペプチドをアフィニティークロマトグラフィー法において準備的に使用することもできる。このような技術は全て当業者に周知である。
【0161】
本発明に従って調製される抗体の治療上および予防上の使用には、本発明に従って生成されるこのような抗体をヒトなどの受容動物へ投与することを含む。本発明の方法の特定の利点は、複数の選択ラウンドもしくは複雑な操作計画を必要とせずに、必要なエピトープ結合特異性を有する抗体を単純かつ効率的に生成することにこれらを使用することができる点である。
【0162】
少なくとも90〜95%の均一性である実質的に純粋な抗体が哺乳動物への投与に好適であり、特に哺乳動物がヒトである場合に、98〜99%以上の均一性が医薬の使用に最も好適である。いったん要望通りに部分的にもしくは均一に精製されれば、選択されたポリペプチドは診断または治療(体外を含む)に使用してもよく、あるいはアッセイ方法、免疫蛍光染色などの開発および実行に用いてもよい(LefkoviteおよびPernis(1979および1981) Immunological Methods、IおよびII巻、Academic Press、NY)。
【0163】
本発明の再標的化抗体は典型的には炎症状態、アレルギー性過敏症、癌、細菌もしくはウイルス感染、および自己免疫疾患(これに限定されるものではないがI型糖尿病、多発性硬化症、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、クローン病および重症筋無力症を含む)の予防、抑制もしくは治療における使用を見出し得る。
【0164】
即時的用途において、「予防」という用語は疾患の誘導前の防御組成物の投与に関する。「抑制」とは誘導事象後であるが、疾患の臨床的出現前の組成物の投与をいう。「治療」とは疾患の症状が明らかになった後の防御組成物の投与に関する。
【0165】
疾患に対して防御するもしくは疾患を治療する際に、抗体もしくはその結合タンパク質の有効性をスクリーニングに使用することができる動物モデルシステムが利用可能である。感受性マウスにおいて全身性エリテマトーデス(SLE)を試験するための方法が当業界で公知である(Knightら(1978) J. Exp. Med.、147:1653; Reinerstenら(1978) New Eng. J. Med.、299:515)。雌のSJL/Jマウスにおいて重症筋無力症(MG)が別種由来の可溶性AchRタンパク質によって疾患を誘導することにより試験される(Lindstromら(1988) Adv. Immunol.、42: 233)。マウスの感受性系統において、II型コラーゲンの注射により関節炎が誘導される(Stuartら(1984) Ann. Rev. Immunol.、42:233)。感受性ラットにおいて、関節炎がミコバクテリウムの熱ショックタンパク質の注入により誘導されるアジュバントによるモデルが記載されている(Van Edenら(1988) Nature、331:171)。Maronら(1980)J.Exp.Med.、152:1115に記載されるようにマウスにおいてチログロブリンの投与により甲状腺炎が誘導される。Kanasawaら(1984)Diabetologia、27:113に記載されるようなマウスの特定の系統において、インシュリン依存性糖尿病(IDDM)は自然に生じるかもしくは誘導することができる。マウスおよびラットのEAEはヒトにおけるMSのモデルとして役立つ。このモデルにおいて、脱髄疾患はミエリン塩基性タンパク質の投与によって誘導される(Paterson (1986) Textbook of Immunopathology、Mischerら編、GruneおよびStratton、New York、pp.179-213; McFarlinら(1973) Science、179:478:ならびにSatohら(1987) J. Immunol.、138:179を参照)。
【0166】
一般的に、本発明の再標的化抗体は薬理学的に適切な担体と一緒に精製された形態で利用されるだろう。典型的にこれらの担体として、生理食塩水および/または緩衝化媒体をいくらか含む水性もしくはアルコール性/水性の溶液、乳液もしくは懸濁液がある。非経口ビヒクルには塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウムならびに乳酸リンゲルが含まれる。懸濁液中でポリペプチド複合体を維持することが必要な場合、適切な生理学的に許容されるアジュバントをカルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチンおよびアルギナートなどの増粘剤から選択し得る。
【0167】
静脈内ビヒクルには、例えばリンゲルデキストロースを主成分とする液体および栄養補液ならびに電解質補液が含まれる。抗菌物質、酸化防止剤、キレート剤および不活性ガスなどの防腐剤および他の添加物が存在してもよい(Mack(1982) Remington's Pharmaceutical Sciences、第16版)。
【0168】
本発明の再標的化抗体は別々に投与される組成物として使用してもよく、もしくは他の薬剤と共に使用してもよい。これらはシクロスポリン、メトトレキセート、アドリアマイシンもしくはシスプラチナムなどの様々な免疫療法薬および免疫毒素を含むことができる。医薬組成物は本発明の再標的化抗体と共に様々な細胞毒性薬剤もしくは他の薬剤の「カクテル」、または異なる標的抗原を用いて選択されるポリペプチドなど異なる特異性を有する本発明の抗体の組合せを、これらが投与前にプールされるかどうかに関わらずに含むことができる。
【0169】
本発明による医薬組成物もしくは抗体の投与経路は当業者に共通して知られる経路のいずれかであってもよい。治療(限定されるものではないが、免疫療法を含む)のために、本発明の抗体、レセプターもしくはその結合タンパク質は標準的な技術に従ってあらゆる患者に投与することができる。投与は非経口的経路、静脈内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、経皮的経路、肺経路を介することを含むいかなる適切な様式によることもでき、または適切にはカーテルを用いた直接的な注入も可能である。投与の用量および頻度は患者の年齢、性別および状況、別の薬剤の同時投与、誘導刺激および臨床医によって考慮されるべき他のパラメーターに依存するであろう。
【0170】
この発明の抗体は貯蔵のために凍結乾燥し、使用前に適切な担体中で再構成することができる。この技術は通常の免疫グロブリンで有効であることが示されており、当業界で公知の凍結乾燥および再構成技術を使用することができる。凍結乾燥および再構成が、抗体活性の欠失の度合いを(例えば通常の免疫グロブリンでは、IgM抗体はIgG抗体よりも大きな活性の欠失を有する傾向にある)変化させることに導き得ること、および使用レベルを調節して上向きに補正する必要があり得ることは当業者に理解されるであろう。
【0171】
本発明の再標的化抗体もしくはそのカクテルを含む組成物は予防および/または治療処置として投与することができる。特定の治療用途では、選択された細胞集団の少なくとも一部の阻害、抑制、調節、死滅もしくはまた別の測定可能なパラメーターを達成するのに十分な量を「治療上有効量」と定義する。この用量を達成するのに必要な量は疾患の重篤度および患者自身の免疫系の全般的な状態に依存するが、一般的に抗体は体重1キログラム当たり0.005〜5.0mgの範囲であり、0.05〜2.0mg/kg/用量の用量がより一般的に用いられる。予防の用途については、本発明の再標的化抗体もしくはそのカクテルを含む組成物は同様のもしくはわずかに低い投与量で投与することもできる。
【0172】
本発明による抗体を含む組成物は、哺乳動物における選択標的細胞集団の改変、不活性化、死滅もしくは除去に役立つ予防および治療設定に利用することもできる。さらに、本明細書に記載されるポリペプチドは体外もしくはin vitroで選択的に使用して、異種の細胞集合から標的細胞集団を死滅、枯渇またその他には効率的に除去することもできる。哺乳動物由来の血液を再標的化抗体と体外で組合せて、標準技術に従って哺乳動物に戻す目的で望まれていない細胞を死滅させるか、もしくはその他、血液から除去することもできる。
【0173】
本発明を、以下の実施例において実例のみを目的としてさらに説明する。
【実施例1】
【0174】
実施例1.ベクターの構築
a.CκベクターおよびCk/gIIIベクターの構築
5’(バック)プライマーとしてCkBACKNOTを、3’(フォワード)プライマーとしてCKSACFORFLを用いて(表1)、Fabライブラリー(Griffithら, 1994)から選択された個々のクローンA4からCκ遺伝子をPCR増幅した。30サイクルのPCR増幅を、Pfuポリメラーゼを酵素として用いたこと以外は、Ignatovichら(1997)によって記載される通りに実施した。PCR産物をNotI/EcoRIで消化し、NotI/EcoRIで消化したベクターpHEN14Vκ(図1)に連結してCκベクター(図2)を作製した。
【0175】
続いて5’(バック)プライマーとしてG3BACKSACを、3’(フォワード)プライマーとしてLMB2を用いて(表1)、pIT2ベクター(図3)からGeneIIIをPCR増幅した。30サイクルのPCR増幅を上記の通りに実施した。PCR産物をSacI/EcoRIで消化し、SacI/EcoRIで消化したCκベクター(図2)に連結してCk/gIIIファジミド(図4)を作製した。
【0176】
b.CHベクターの構築
5’(バック)プライマーとしてCHBACKNOTを、3’(フォワード)プライマーとしてCHSACFORを用いて(表1)、Fabライブラリー(Griffithら, 1994)から選択された個々のクローンA4からCH遺伝子をPCR増幅した。30サイクルのPCR増幅を上記の通りに実施した。PCR産物をNotI/BglIIで消化し、NotI/BglIIで消化したベクターPACYC4VH(図5)に連結してCHベクター(図6)を作製した。
【表1】

【0177】
【表2】

【0178】
【表3】

【実施例2】
【0179】
実施例2.糸状バクテリオファージの表面上に呈示された単一のVκ/Cκ抗体ドメインのレパートリーからの、BSAに対して指向される単一ドメインVκ/Cκ抗体(C3)の選択
この実施例は、BSAに対して指向されるVκ/Cκ単一ドメイン抗体C3を、糸状バクテリオファージの表面上に呈示された未処理のVκ/Cκ単一抗体可変ドメインのレパートリーを相補性可変ドメインの不在下でこの抗原への結合について選択することによって作製する方法を記載する。
【0180】
Vκ可変ドメインのレパートリーをライブラリー4のSalI/NotI消化物から切り出し、SalI/NotIで消化したCk/g3ファジミド(実施例1、図4)に連結して糸状バクテリオファージの表面上に呈示されるVκ/Cκライブラリー(3.6x107)を作製した。
【0181】
2ラウンドの選択をこのライブラリーを用いてBSAで実施した。ファージの力価は第1ラウンドにおける1.2x103から第2ラウンドにおける6.0x107まで上昇した。この選択は既に記載されているように100μg/ml濃度のBSAでコーティングしたイムノチューブを用いて実施した。
【0182】
第2ラウンド後に、可溶性Vκ/Cκ単一ドメインELISAにおいて48クローンをBSAへの結合について試験した。96ウェルプレートを100μlの10μg/ml BSAでコーティングした。可溶性Vκ/Cκ単一ドメインフラグメントの産生をHarrisonら, (1996)に記載されるようにIPTGで誘導し、Vκ/Cκ単一ドメインを含む上清(50μl)を直接アッセイした。可溶性Vκ/Cκ単一ドメインELISAを既に記載された可溶性ScFv ELISAと同様に実施し、結合したVκ/Cκ単一ドメインをプロテインL-HRPを用いて検出した。92%のクローンが1.0を超えるELISAシグナルを生じた(データは示されない)。
【0183】
選択のクローンを実施例1に記載されるように配列決定し、1つのクローン(C3)を更なる分析のために選択した(図7)。最初に、可溶性Vκ/Cκ単一ドメインELISAにおいて他の抗原との交差反応性について試験した。96ウェルプレートを100μlの10μg/mlのBSA、APSおよびコテニン(cotenine)でコーティングし、ELISAを上に記載されるように実施した。Cκ/CκクローンC3はBSAに対してのみ特異的結合を示した(図8)。C3 Vκ/Cκは他種(ヒト、ヒツジ、ニワトリ、ラット、ロバおよびハムスター)由来の血清アルブミンへの結合についても試験した。交差反応性は検出されなかった(図9)。
【0184】
その後、C3 Vκ/Cκクローンを修飾して発現レベルを増大させ、かつVκ/Cκ可変ドメインの精製を容易にした。最初に、6-HisタグをC3 Vκ/Cκ鎖の3’末端に加えた。これは5’(バック)プライマーとしてLMB3を、3’(フォワード)プライマーとしてCKSacHisを用いて(表1)、C3 Vκ/CκクローンからDNAのPCR増幅により実行した。30サイクルのPCR増幅を実施例1に記載されるように実施した。その後、PCR産物をSalI/EcoRIで消化し、SalI/EcoRIで消化したCκベクターに連結して(図2、実施例1)C3Hisクローンを作製した。次に、C3 Vκ鎖のCDR2におけるTAG終止コドン(図3)をQuickChange Site Directed Mutagenesis Kit (Stratagene)のプロトコルに従ってGAG(E)に変更した。2種類のプライマーC3MUTFORとC3MUTBCKをこの目的のために使用した(表1)。続いて、DNAをコンピテントHB2151大腸菌細胞中にエレクトロポレートし、形質転換体(C3HisMut)を1%グルコースおよび100μg/mlのアンピシリンを含むTYEプレート上で選択した。その後、C3HisMutクローン由来の可溶性Vκ/CκフラグメントをプロテインL-アガロースカラム、これに続いてNi-NTAカラムを用いてHarrisonら(1996)に記載されるようにペリプラズム調製物から精製した。140μgのVκ/Cκ C3HisMut鎖を11の培養物から取得した(データは示されない)。
【0185】
変性非還元のタンパク質ゲル上でのVκ/Cκ C3HisMut鎖の分析は、それぞれこのタンパク質の二量体および単量体形態に相当する50kDaと25kDaの分子量を有する2つのバンドの存在を明らかにした(データは示されない)。単量体と二量体をSuperdex TM 75 FPLCカラムを用いたゲル濾過により分離し、ELISAにおいてBSAへの結合について試験した。このタンパク質の二量体形態のみがBSAに結合することができた(データは示されない)。Vκ/Cκ C3HisMut二量体の結合親和性はNiebaら(1996)によるBIAcore 2000バイオセンサーにおいて溶液ファージ競合(Friguetら, 1985)によって判定した。Vκ/Cκ C3HisMut二量体が200nMの溶液親和性でBSAに結合することがわかった。
【実施例3】
【0186】
実施例3.C3 Vκ/Cκ C3HisMut軽鎖を含むFab抗体フラグメントの作製とそれらの結合特性の特徴づけ
この実施例は、相補性可変ドメイン(実施例2)の不在下でBSAに結合することができるVκ/Cκ C3HisMut単一ドメインが、未処理の相補性VH/CH可変ドメインのレパートリーと組み合わさることで、BSAに特異的なFab抗体フラグメントを作製することができることを例証する。
【0187】
a.ライブラリー2(実施例1、二重特異性の適用)に由来するVH可変ドメインを用いたFab抗体フラグメントの作製
VH可変ドメインのレパートリーをSfiI/XhoI消化によってライブラリー2(実施例1、二重特異性の適用)から切り出し、SfiI/XhoIで消化したCHベクター(図6)に連結して2.2x107クローンのVH/CHライブラリーを作製した。続いてこのライブラリーからDNAプレップ(prep)を作製し、Chungら, (1989)に記載されるようにVκ/Cκ C3HisMutクローンを形質転換することに用いた。形質転換体を1%グルコース、100μg/mlのアンピシリンおよび10μg/mlのクロラムフェニコールを含むTYEプレート上で生育した。別個の10コロニーを選び、IPTGで誘導して可溶性Fabフラグメントを産生させた。誘導は実施例8に記載されるように実施し、Fabを含む上清(50μl)をELISAにおいて直接アッセイした。96ウェルプレートを100μlの10μg/ml BSAでコーティングした。可溶性Fab ELISAを既に記載されたScFv ELISAと同様に実施し(実施例1、二重特異性の適用を参照のこと)、結合したFabをプロテインL-HRPとプロテインA-HRPとを用いて(軽鎖および重鎖の存在についてそれぞれ検査して)検出した。これらの各クローンからのVHおよびVκ可変ドメインも、VκについてはプライマーLMB3とCk.Forを、VH可変ドメインについてはLMB3とCH.seqを用いて(表1)、Ignatovichら(1999)によって記載されるようにPCR増幅および配列決定した。配列決定結果およびELISA結果を表2に要約する。機能的な重鎖および軽鎖を産生したクローンのうち、67%がFabフラグメントとしてBSAと結合することができた。配列決定により、これらのクローン中のVH可変ドメインがCDR2およびCDR3の多様な配列を含むことを明らかにした(図10)。
【0188】
b.Griffin ScFvライブラリー由来のVH可変ドメインを用いたFab抗体フラグメントの作製
異なるVHファミリーの相補性可変ドメインと組合される際に、Vκ/Cκ C3HisMut単一ドメイン(実施例2)がその特異性を保持することができるかどうかを調べるために、VH可変ドメインのレパートリーをSfiI/XhoI消化によりGriffinライブラリーから切り出し、SfiI/XhoIで消化したCHベクター(図6)に連結した。GriffinライブラリーはHuman Synthetic Fab 2loxライブラリー(Griffithsら, 1994)と同一の合成ヒトV遺伝子を含むが、Fab型の代わりにScFv型をとる。Griffinライブラリーの全体の多様性は1.2x109クローンである。
【0189】
その後、DNAプレップを、作製したVH/CHライブラリーから作製し、Chungら(1989)に記載されるようにVκ/Cκ C3HisMutクローンを形質転換することに用いた。形質転換体を1%グルコース、100μg/mlのアンピシリンおよび10μg/mlのクロラムフェニコールを含むTYEプレート上で生育した。別個の10コロニーを選び、IPTGで誘導して可溶性Fabフラグメントを産生させた。誘導は実施例8に記載されるように実施し、Fabを含む上清(50μl)をELISAにおいて直接アッセイした。96ウェルプレートを100μlの10μg/ml BSAでコーティングした。可溶性Fab ELISAを実施例1に記載される可溶性ScFV ELISAと同様に実施し、結合したFabをプロテインL-HRPと抗-c-mycクローン9E10/抗マウスIgG-HRPとを用いて(軽鎖および重鎖の存在についてそれぞれ検査するために)検出した。これらの各クローンからのVHおよびVκ可変ドメインも上に記載されるようにPCR増幅および配列決定した。配列決定結果およびELISA結果を表3に要約する。機能的な重鎖および軽鎖を産生したクローンのうち、71%がFabフラグメントとしてBSAに結合することができた。これらのクローンの配列決定により、異なるVHファミリーに属するVH可変ドメインの存在を明らかにした(表3)。
【0190】
したがって、上の結果は、Vκ/Cκ C3HisMut鎖をBSAに結合するその能力を失うことなく多様な未処理の相補性可変ドメインと組合せることができることを示している。
【実施例4】
【0191】
実施例4.Vκ/Cκ C3HisMut鎖の、哺乳動物細胞中で産生されたヒトモノクローナルIgG抗体へのin vitro導入
この実施例は、in vitroでBSA特異的Vκ/CκC3HisMutドメイン(実施例2)と完全な抗体鎖の相補性ドメインとを組合せることによって、BSA結合性IgG抗体分子を作製する方法を説明する。
【0192】
ヒトのミエローマ細胞系(Karpasら、出版準備中)で産生される未知の特異性を有するモノクローナルIgG抗体94をこの実験に使用した。この抗体の重鎖は生殖細胞系列VH遺伝子DP-33とJH5aの再編成化対応物(counterpart)を含み、軽鎖は生殖細胞系列Vκ遺伝子DPK9とJK2の再編成化対応物を含む(データは示されない)。
【0193】
125pmolのIgG94を690pmolのVκ/Cκ C3HisMut(1:5.5比率)と混合し、10mM DDTと一緒に室温で30分間インキュベートして鎖間ジスルフィド結合を低減した。その後、この混合液を変性試薬として作用し、かつ免疫グロブリンの重鎖と軽鎖とを離した状態に維持する1M 酢酸に対して4℃で一晩透析した。続いて透析緩衝液をPBSに変え、この混合液を3回緩衝液を変えながら4℃で3日間透析することにより、重鎖と軽鎖の穏やかな再会合を可能にした。過剰のVκ/Cκ C3HisMutドメインが存在していたため、一部のVκ/Cκ C3HisMut鎖は内因的軽鎖の代わりに免疫グロブリン重鎖と結合したはずである。IgG94に加えられるVκ/Cκ C3HisMutのない対照実験も設定し、全段階を上記のように実施した。
【0194】
透析後に、混合液をBSAへの結合についてELISAにより分析した。96ウェルプレートを100μlの10μg/ml BSAでコーティングした。組み込んだVκ/Cκ C3HisMutドメインを有し、これによりBSAに結合することができるIgG分子の検出は、A-HRPおよび抗IgG-HRP(Fc特異的)を用いて実施した。ELISAはVκ/Cκ C3HisMut鎖を相補性重鎖と組合せることによりBSAに特異的なIgG分子が作製されることを明確に例証した(図11)。IgG94とVκ/Cκ C3HisMut鎖とを処理していない実験および対照実験はこのアッセイにおいて陰性の結果を生じた(図11)。さらに、遊離のVκ/Cκ C3HisMut鎖を除去するために透析混合液をプロテインA-セファロースカラム中を通過させることは、ELISA結果に影響しなかった(データは示されない)。
【実施例5】
【0195】
実施例5.Vκ/Cκ C3HisMut鎖の、ヒト血清由来のポリクローナルIgG分画へのin vitro導入
この実施例は、Vκ/Cκ C3HisMutドメイン(実施例2)を完全な抗体鎖の相補性可変ドメインのレパートリーと組合せることにより、BSA特異的IgG分子を作製することができることを例証する。
【0196】
ヒト血清由来のポリクローナルIgG分画(Sigma)をこの実験に用いて重鎖のレパートリーを用意した。ポリクローナルIgGおよびVκ/Cκ C3HisMut鎖を実施例4に記載されるように処理した。続いて、新規にアセンブルしたIgG分子をBSAへの結合についてELISAによって試験した(実施例4)。ELISAはBSAに結合することができるIgG分子の存在を例証した(図12)。
【0197】
上記の明細書中で言及される全ての刊行物、および該刊行物中に記載される参考文献は、参照により本明細書に組み入れる。記載される本発明の方法およびシステムの様々な改変ならびに変形は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者に明らかであろう。本発明は特定の好適な実施形態との関連で記載されているが、特許請求の範囲に記載の発明をそのような特定の実施形態に不当に制限すべきでないことを理解すべきである。実際、分子生物学もしくは関連分野における当業者に明らかである本発明を実施するために記載される様式の様々な改変は添付の特許請求の範囲の範囲内であることを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0198】
【図1】図1はpHEN14Vκベクターを示す。
【図2】図2は本明細書で記載されるCκベクターを示す。
【図3】図3はベクターpIT2を示す。
【図4】図4はCκ/gIIIファジミドを示す。
【図5】図5はPACYCVHベクターを示す。
【図6】図6はCHベクターを示す。
【図7】図7は更なる分析用に選択したC3クローンを示す。
【図8】図8はCκ/CκクローンC3とBSAとの特異的結合を示す。
【図9】図9は、Cκ/CκクローンC3結合の結合に交差反応性が存在しないことを示す。
【図10】図10は単離されたクローンの個々のVH鎖配列を示す。
【図11】図11はBSAに特異的なIgG分子を示す。
【図12】図12はBSAに特異的に結合することができるIgG分子の存在を例証するELISA実験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)エピトープ結合特異性を備える抗体軽鎖可変ドメインを選択すること;および
(b)該抗体単一軽鎖可変ドメインを免疫グロブリン骨格と機能的に連結すること、
を含む予め決定したエピトープ結合特異性を有する免疫グロブリン分子を生成する方法。
【請求項2】
2以上の軽鎖可変ドメインを工程(a)に従って選択し、工程(b)に従って免疫グロブリン骨格と連結し、各ドメインがエピトープ結合特異性を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫グロブリン骨格が、上記工程(a)で言及される抗体軽鎖ドメインの1以上と共に特異的エピトープ結合部位を構成する1以上の重鎖可変ドメインを含む、請求項1または2に記載の免疫グロブリン分子。
【請求項4】
生じる抗体分子が再標的化前の該抗体分子と特異的に結合することが可能なエピトープと交差反応性でないように該抗体分子のエピトープ結合特異性を再標的化する方法であって、以下:
(a)エピトープ結合特異性を備える抗体可変ドメインを選択する工程、および
(b)工程(a)に従って選択される抗体可変ドメインで、再標的化されるべき抗体分子に含まれるエピトープ結合部位の軽鎖可変ドメインもしくは重鎖可変ドメインを置換する工程であって、選択される可変ドメインが少なくとも1つの優性エピトープ結合特異性を備える上記工程、
を含む上記方法。
【請求項5】
工程(a)に従って選択される抗体可変ドメインがエピトープ結合特異性を備え、該エピトープが再標的化前の抗体と特異的に結合するエピトープと構造的に関連しない、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
選択される可変ドメインが重鎖可変ドメインである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)に従って置換される可変ドメインが重鎖可変ドメインである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
選択される可変ドメインが軽鎖可変ドメインである、請求項4または5に記載の方法。
【請求項9】
工程(b)に従って置換される可変ドメインが軽鎖可変ドメインである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
選択される抗体軽鎖可変ドメインが軽鎖可変ドメインのκサブグループから選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法を用いて取得可能な予め決定したエピトープ結合特異性を有する免疫グロブリン分子。
【請求項12】
請求項4〜10のいずれか1項に記載の方法を用いて取得可能な再標的化抗体分子。
【請求項13】
以下:
(a)1以上のエピトープ結合特異性を備える抗体可変ドメインを選択する工程、および
(b)工程(a)に従って選択される抗体可変ドメインで、抗体分子に含まれるエピトープ結合特異性の全てではないが、少なくとも1つのエピトープ結合特異性を有する軽鎖もしくは重鎖可変ドメインを置換する工程、
を含む2以上のエピトープ結合特異性を有する抗体の生成方法。
【請求項14】
2以上のエピトープ結合部位を再標的化する請求項4に記載の方法。
【請求項15】
選択される可変ドメインが重鎖可変ドメインである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
選択される可変ドメインが軽鎖可変ドメインである、請求項13または14に記載の方法。
【請求項17】
選択される抗体軽鎖可変ドメインが軽鎖可変ドメインのκサブグループから選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれか1項に記載の方法により取得可能な抗体。
【請求項19】
請求項18に記載の抗体をコードする核酸構築物。
【請求項20】
請求項19に記載の核酸構築物を含むベクター。
【請求項21】
請求項19に記載の核酸構築物もしくは請求項20に記載のベクターでトランスフェクトした宿主細胞。
【請求項22】
以下の工程:
(a)エピトープ結合特異性を備える抗体単一可変鎖ドメインであって、該可変ドメインのエピトープ結合特異性の少なくとも1つが共優性である上記可変ドメインを選択すること、および
(b)工程(a)に従って選択される抗体可変鎖ドメインで、該抗体分子に含まれるエピトープ結合部位の軽鎖可変ドメインもしくは重鎖可変ドメインを、エピトープ結合部位の各可変ドメインが互いに同一ではないそれぞれのエピトープに結合するように置換すること、
を含む二重特異性抗体の生成方法。
【請求項23】
2以上のエピトープ結合部位を二重特異性結合部位として再形式化する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
各エピトープ結合部位に結合する2つの各エピトープが構造的に関連しない、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記二重特異性抗体がIgG型を有する、請求項21〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
工程(b)に従ってエピトープ結合部位の軽鎖可変ドメインを置換する、請求項22〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
工程(b)に従ってエピトープ結合部位の重鎖可変ドメインを置換する、請求項22〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
工程(b)に従ってエピトープ結合部位の可変ドメインを第2/代替的エピトープ結合特異性を備える軽鎖可変ドメインで置換する、請求項26もしくは27に記載の方法。
【請求項29】
工程(b)に従ってエピトープ結合部位の可変ドメインを第2/代替的エピトープ結合特異性を備える重鎖可変ドメインで置換する、請求項26もしくは27に記載の方法。
【請求項30】
以下:
(a)エピトープ結合特異性を備える抗体可変ドメインを選択する工程、および
(b)工程(a)に従って選択される抗体可変鎖ドメインで、抗血清に含まれる少なくとも一部の抗体の軽鎖可変ドメインもしくは重鎖可変ドメインを置換する工程であって、該可変ドメインが優性エピトープ結合特異性を備えることにより、該一部の抗体のエピトープ結合特異性が再標的化される上記工程、
を含むポリクローナル抗血清のエピトープ結合特異性を再標的化する方法。
【請求項31】
2以上の可変ドメインを請求項30の工程(a)に従って選択し、請求項30の工程(b)に従って使用する、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−521784(P2006−521784A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563366(P2004−563366)
【出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【国際出願番号】PCT/GB2003/005657
【国際公開番号】WO2004/058822
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(502197046)ドマンティス リミテッド (47)
【Fターム(参考)】