説明

再生フィブロインの促進されたゲル化

本発明は、微生物の増殖がない多孔質構造を形成するため、ゲル化剤、好ましくは、シリカを用いて再生絹フィブロインのゲル化時間を短縮する方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、再生フィブロインのゲル化を促進する方法に関する。本発明は、さらに、再生フィブロインの多孔質構造を形成するために、シリカ等の薬品を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生絹フィブロイン(RSF)ゲルは、制御可能な機械的特性を得るように変化させることが可能な多孔質微細構造を有することが知られている。フィブロインゲルの高い強度、その多孔度やその生物学的適合性により、フィブロインゲルは、組織工学用の3D多孔質足場等に利用される、潜在的に興味深い生体適合材料となっている。
【0003】
RSFのゲル化時間は、溶液中におけるフィブロインのpHおよび濃度によって決まる。フィブロインゲルの潜在的な重要性は、生物医学研究にあり、細胞を増殖させるための所望のpHは、7.2〜7.4である。1〜10g/Lの範囲の濃度を有するRSFは、pH7でのゲル化に30〜60日もかかる一方、10〜100g/Lの範囲の高いタンパク質濃度を有するRSFは、ゲル化するまでにpH7で10〜20日かかることが認められる(図1参照)。高タンパク質濃度の溶液から調製されたRSFゲルは、細胞の進入と成長に十分な多孔度を有していない。したがって、pH7で低いタンパク質濃度のRSFから微孔性ゲルを作り出すことが望ましい。高温度範囲に長時間さらされるとタンパク質の沈殿と微孔構造の損失につながり、これは、RSFの当初想定した利用を考慮すると望ましくない。このような溶液のゲル化にはかなり長い時間を要し、この間に無菌環境が保たれないと、絹溶液/ゲル内にかびの生育が観測される。組織工学での潜在用途を考慮すると、細胞系が有毒環境の影響下におかれないように、抗カビ剤の使用は避ける必要がある。したがって、pH7および室温でのRSFのゲル化時間を減少する必要がある。レオロジー国際会議(International Congress on Rheology, 3-8 August 2008)のポスターと、学会誌Phys. Chem. Chem. Phys.(2010, 12, 3834-3844)で、A. Leleらが再生フィブロイン溶液のゲル化のメカニズムを研究している。彼らは、形成された絹ヒドロゲルの構造および特徴についても研究している。
【0004】
Dr. David L. Kaplanによる「改良された発現と処理のための絹ポリマーの設計(Silk Polymer Designs for Improved Expression and Processing)」と題された論文を参照すると、絹のゲル化を制御すること、そして、絹フィブロインのゲル化が、絹フィブロイン濃度、ゲル生成時の温度とpH、およびフィブロインタンパク質の分子組織内における一次配列−固有の特徴に関連付けることができるタンパク質構造に依存することが開示されている。さらに、前記論文は、絹−無機ナノ複合材料−シリカ系についても記載しており、シリカナノ複合材料を形成するためのクローニング、発現、および絹−R5融合の機能が研究されている。
【0005】
Wongらによる「クモの糸−シリカ融合(キメラ)タンパク質由来の新規なナノ複合材料(Novel nanocomposites from spider silk-silica fusion (chimeric) proteins)と題された2006年の論文を参照すると、融合(キメラ)タンパク質を用いたシリカ複合材料を合成するための新規な生体模倣ナノ複合材料のアプローチが開示されている。融合タンパク質は、生物医学分野[免疫学、癌研究、および薬物送達(17−20)を含む]や材料科学[自己組織化材料(例えば、ゲル)、量子ドット複合体(quantum dot bioconjugates)、センサー、および無機物質合成(21-27)」]等の広範囲な領域での用途が見つかっている。
【0006】
Cheng Chengらによる「再生絹フィブロインおよびシリカゾルから構成された複合材料(Composite Material Made of Regenerated Silk Fibroin and Silica Sol)」と題された2008年10月に発行の論文を参照すると、再生絹フィブロイン溶液とシリカゾルを混合して、絹フィブロイン/シリカ複合材料を製造することが開示されている。絹タンパク室とシリカとの間に相互作用があるかどうか、さらには、その相互作用によって複合材料の機械的特性を改良できるかどうかを調べるため、絹フィブロイン/シリカ複合材料の構造および特性が、走査電子顕微鏡法(SEM)とラマン分光法と共に、動的機械分析(DMA)によって詳しく調べられた。SEMの結果は、複合材料中で絹フィブロインとシリカとの相溶性がよいことを明らかにした。ナノサイズシリカ粒子は、絹フィブロインの連続するマトリックス中に均等に分散した。複合材料のラマンスペクトルは、絹フィブロインがβシート構造によって支配されたことを示した。純粋な絹フィブロイン材料と比較して、複合材料は優れた動的機械特性を示した。
【0007】
国際特許出願公開第WO200512606号を参照すると、当該出願では、水生絹フィブロイン溶液および水生絹フィブロイン溶液の製法、繊維、シルクフォーム(silk foam)、フィルムおよび絹ヒドロゲルを製造する方法の権利を主張している。前記PCT出願の30ページには、絹フィブロイン溶液のゲル化に対する、イオン、pH、温度およびPEOの影響の調査について考察されている。
【0008】
先行技術の調査は、ゲル化を促進することで、ゲル化時間を短縮する方法を教示した文献が存在しないことを明らかにしている。特に、促進剤を使用して絹フィブロインのゲル化時間を短縮する方法を教示する先行技術文献は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
[発明の目的]
本発明の主要な目的は、RSFのゲル化時間を短縮して、先行技術の溝を埋めることである。
【0010】
本発明の別の目的は、ゲル媒体中で微生物を増殖させることがない製法を用いて、RSFのゲル化時間を短縮することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、細胞系に有毒でないような製法により、ゲル化時間を短縮することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[発明の概要]
したがって、本発明は、多孔質構造を有する再生絹フィブロイン(RSF)のゲル化を促進する方法であって、
a)再生絹フィブロイン溶液のpHをpH5〜7.5に調整し、その濃度を0.1〜40%の範囲に調整するステップと、
b)所望の濃度のゲル化剤を添加し、温度条件を維持するステップと、
c)RSFゲルを得るため、管反転法(tube inversion method)によりゲル化を確認するステップと、を含むことを特徴とする方法を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態では、前記ゲル化剤は、シリカ、TiO、FeOSiN、ヒドロキシアパタイト、および他の生体適合性無機化合物からなるグループ、好ましくは、シリカから選択される。
【0014】
本発明の別の実施形態では、前記ゲル化は、任意選択的に、アルカリ性条件下でタンパク質、好ましくは、フィブロインタンパク質のβシートを用いてセルフシーディング(self seeding)を行うことで行われる。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態では、前記方法が、20〜70℃の範囲の温度で実施される。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態では、前記ゲル化剤は、1g/l〜25g/l、好ましくは、1〜5g/lの濃度範囲で使用される。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態では、前記ゲル化剤の粒径は、1nm〜1μ、好ましくは、1nm〜400nmの範囲である。
【0018】
本発明のさらに別の実施形態では、多孔質構造を有する再生絹フィブロインゲルは、前記ゲルの細孔径が1〜10ミクロンの範囲である。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態では、多孔質構造を有する再生絹フィブロインゲルは、前記ゲルが1〜500nmの範囲の多孔度のナノ多孔質壁を含む。
【0020】
本発明のさらに別の実施形態では、多孔質構造を有する再生絹フィブロインゲルは、前記ゲルで微生物が増殖しない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】様々なpHにおけるRSFのゲル化時間(D. Kaplan, JPCB, 110, 2006, 21630-21638)を示す。
【図2】pH7、25℃で、RSFゾルおよび本発明の様々なシリカナノ粒子を含むRSFゲルに対して行った円偏光二色性調査を示す。
【図3】ナノ粒子を含む場合と含まない場合における、本発明のRSFゲルに対する体積弾性係数の測定を示す。
【図4】様々な濃度のナノ粒子の存在下で、5g/LのRSFゲルに対する体積弾性係数とゲル時間の調査を示す。
【図5】濃度5g/L、pH2、50℃でのRSFゲルのCSLM画像(画像の幅は160μmを表す)で、多孔質構造を形成するタンパク質が観測される。
【図6】ゲルが形成されたことを示す、反転した管を示す。第1の管は、RSFのゾルを示す。第2の管は、ゲルの形成を確認する管反転法(tube inversion method)により試験を行った、形成されたゲルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[発明の詳細な説明]
本発明は、RSFのゲル化時間を減少する方法を開示する。RSFとゲル化剤の組成物は、pH7〜8で2〜24時間でゲル化すると、ナノ多孔質壁を有する微孔性ゲルが得られる。組成物は、細胞の培養と活性剤の送達のため、粉末、フィルム、加工体、成形品等である。
【0023】
「再生絹フィブロイン」および「再生タンパク質フィブロイン」という表現は、本明細書中では区別なく使用され、当業者にもそのように理解される。「絹」と「タンパク質」という表現は、本明細書中では区別なく使用され、当業者にもそのように理解される。
【0024】
本発明の目的に従って、RSFゲルのゲル化時間を減少させるために様々な方法が試された。RSFゲルは、室温、pH7.0で、タンパク質(絹)の濃度に応じて約2週間〜3ヶ月で形成される(図1参照)。ゲル化時間を減少させるため、1つの選択肢としてpHを減少させることが考えられるが、酸性pHでは細胞が増殖しない。驚いたことに、実験結果の1つに、シリカナノ粒子を添加することで、ゲル化時間が数か月から数日または数時間にまで減少したことが発見された。ゲル化時間は、処理温度、タンパク質の濃度、およびシリカナノ粒子の粒径の変化に伴って変化する。得られた組成物は、再生絹フィブロインゲル、水、およびゲル化時間を減少させる薬品からなり、再生フィブロインの多孔質構造を形成する。
【0025】
したがって、本発明は、多孔質構造を有する再生絹フィブロインのゲル化を促進する方法であって、
a. 再生絹フィブロイン溶液のpHをpH7に調整し、その濃度を調整するステップと、
b. ゲル化剤を添加し、温度条件を維持するステップと、
c. 管反転法(tube inversion method)によりゲル化を確認するステップと、
を含むことを特徴とする方法を開示する。
【0026】
ゲルの形成は、図6に示すような管反転法によって確認する。
【0027】
ゲル化剤を使用することで、ゲル化時間を短縮できるだけでなく、微生物増殖の問題も解消することができる。ゲル化剤を使用しない場合、pH7〜8、5〜70℃の範囲の温度で、ゲル化に3週間を超える時間を要し、この間に微生物の増殖が確認された。しかしながら、シリカナノ粒子の存在下では、ゲル化の前に微生物の増殖は確認されなかった。
【0028】
さらに、このような薬剤は、生体適合性を有し、RSFゲルのこのような微孔性ネットワーク上で成長する細胞系に対して毒性を示さない。
【0029】
本発明で使用するゲル化剤は、シリカ、TiO、FeOSiN、ヒドロキシアパタイト(hydroxyapetite)、および他の生体適合性無機化合物から選択される。
【0030】
ゲル化時間は、ゲル化剤の濃度が増加(1g/L〜25g/Lまたはそれ以上変化する)するのに応じて減少する。薬剤の粒径は、1nm〜400nmで変化し、ゲル化剤を使用しない場合の時間に比べて、少なくとも半分は減少する。場合によっては、ゲル化時間が少なくとも1桁分減少する。さらに、ゲル化を促進する方法は、20℃〜70℃の範囲の温度で実施される。
【0031】
異なる温度範囲と異なるゲル化剤の濃度で様々な試験を行った結果は、下記の表1、2、および3に記入した通りである。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
上記の結果から、タンパク質濃度が1g/Lであった場合、400nmのシリカ粒子の25℃におけるゲル化時間はたったの5日となり、70℃でpH5〜7の条件で処理する場合には、10時間まで減少する。5g/Lの高いタンパク質濃度では、400nmの粒径のシリカで温度が70℃、pH7.2の場合、ゲル化時間が3時間である。したがって、ゲル化剤の濃度を増加する一方、温度を維持しつつ希塩酸を使用してpHを維持することによって、RSFのゲル化プロセスを促進することができる。
【0036】
本発明では、タンパク質濃度が0.1〜40%まで変化する。組成物は、1〜10ミクロンの範囲にわたる細孔径を有し、1〜500nmの範囲にわたる壁の多孔度を有するナノ多孔質壁を有する微孔性ゲルのネットワークを形成する。
【0037】
本発明のさらにもう一つの特徴では、タンパク質のβシートを用いたセルフシーディング(self seeding)を行うことが、ゲル時間の短縮につながったことである。
【0038】
好ましい特徴では、アルカリ性条件下でゲルを用いてRSF溶液のセルフシーディングを行うことで、RSFのゲル化時間が短縮される。このRSF中にシリカは存在しない。
【0039】
【表4】

【0040】
組成物はフィルムとしてキャストされるか、組成物が粉末または加工体または成形品である。組成物は、フィルムをキャストする際または対象物として成形する際に役立つ添加剤を含む。
【0041】
各ゲルは、本明細書中で例示するように、その機械的特性と3D多孔度により特徴づけられる。このような組成物は、薬物送達剤等として、細胞の培養に利用を見出せる。
【0042】
[実施例]
以下の実施例は例証としてのみ示すものであり、本発明の範囲を限定するように解釈すべきではない
【0043】
[実施例1]
RSFの組成物の調製
RSF溶液を、Nagarkarらによる論文(Ind. Eng. Chem. Res. 2009, 0-11)に開示された方法を用いて調製した。透析したRSF溶液のpHは、0.1NHCLを常に攪拌しながら添加することで7に調整した。タンパク質の濃度は、pH7の脱イオン水を用いて1g/Lに調整した。既知重量の40nmのシリカナノ粒子をRSF溶液に添加した。これらの溶液を一定温度の水浴中で25℃、50℃、70℃に保ち、3時間毎に試料の状態を監視した。ゲル状態とゲル化時間は、バイアル傾斜法(vial tilting method)を用いて記した。
【0044】
[実施例2]
RSFの組成物の調製
RSF溶液を、Nagarkarらによる論文(Ind. Eng. Chem. Res. 2009, 0-11)に開示された方法を用いて調製した。透析したRSF溶液のpHは、0.1NHCLを常に攪拌しながら添加することで7に調整した。タンパク質の濃度は、pH7の脱イオン水を用いて1g/Lに調整した。既知重量の150nmのシリカナノ粒子をRSF溶液に添加した。これらの溶液を一定温度の水浴中で25℃、50℃、70℃に保ち、3時間毎に試料の状態を監視した。ゲル状態とゲル化時間は、バイアル傾斜法(vial tilting method)を用いて記した。
【0045】
[実施例3]
RSFの組成物の調製
RSF溶液を、Nagarkarらによる論文(Ind. Eng. Chem. Res. 2009, 0-11)に開示された方法を用いて調製した。透析したRSF溶液のpHは、0.1NHCLを常に攪拌しながら添加することで7に調整した。タンパク質の濃度は、pH7の脱イオン水を用いて1g/Lに調整した。既知重量の400nmのシリカナノ粒子をRSF溶液に添加した。これらの溶液を一定温度の水浴中で25℃、50℃、70℃に保ち、3時間毎に試料の状態を監視した。ゲル状態とゲル化時間は、バイアル傾斜法(vial tilting method)を用いて記した。
【0046】
[実施例4]
RSFの組成物の調製
RSF溶液を、Nagarkarらによる論文(Ind. Eng. Chem. Res. 2009, 0-11)に開示された方法を用いて調製した。透析したRSF溶液のpHは、0.1NHCLを常に攪拌しながら添加することで7に調整した。タンパク質の濃度は、pH7の脱イオン水を用いて5g/Lに調整した。既知重量の40nmのシリカナノ粒子をRSF溶液に添加した。これらの溶液を一定温度の水浴中で25℃、50℃、70℃に保ち、3時間毎に試料の状態を監視した。ゲル状態とゲル化時間は、バイアル傾斜法(vial tilting method)を用いて記した。
【0047】
[実施例5]
RSFの組成物の調製
RSF溶液を、Nagarkarらによる論文(Ind. Eng. Chem. Res. 2009, 0-11)に開示された方法を用いて調製した。透析したRSF溶液のpHは、0.1NHCLを常に攪拌しながら添加することで7に調整した。タンパク質の濃度は、pH7の脱イオン水を用いて5g/Lに調整した。既知重量の150nmのシリカナノ粒子をRSF溶液に添加した。これらの溶液を一定温度の水浴中で25℃、50℃、70℃に保ち、3時間毎に試料の状態を監視した。ゲル状態とゲル化時間は、バイアル傾斜法(vial tilting method)を用いて記した。
【0048】
[実施例6]
RSFの組成物の調製
RSF溶液を、Nagarkarらによる論文(Ind. Eng. Chem. Res. 2009, 0-11)に開示された方法を用いて調製した。透析したRSF溶液のpHは、0.1NHCLを常に攪拌しながら添加することで7に調整した。タンパク質の濃度は、pH7の脱イオン水を用いて5g/Lに調整した。既知重量の400nmのシリカナノ粒子をRSF溶液に添加した。これらの溶液を一定温度の水浴中で25℃、50℃、70℃に保ち、3時間毎に試料の状態を監視した。ゲル状態とゲル化時間は、バイアル傾斜法(vial tilting method)を用いて記した。
【0049】
異なる濃度のシリカ−RSF溶液で実施例1〜6について、RSFのゲル化時間の短縮結果を上述した表1、2、および3に示した。
【0050】
[実施例7]
機械的特性
本発明のRSFゲルの体積弾性係数(E′)は、アメリカ合衆国デラウェア州ニューキャッスルのティー・エイ・インスツルメント−ウォーターズ社(TA instrument-Waters LLC, New Castle DE 1970)製の測定機器、レオメトリックシリーズRSA-IIIテストステーション(Rheometric Series RSA-III test station)によって測定した。試料ホルダとして機能する、直径15mmの上部プレートと内径27mm×高さ4mmのシリンダ、および下部プレートとを含む自社製アクセサリを使用して試料の試験を行った。15mlの培養バイアル中に形成したRSFゲルを試料ホルダに載置した。約30分の待機時間の後、RSFゲルからの水分損失を防ぐために、GE Bayer Silicones社(インド)のシリコン油(SF-1000)を試料の端部に塗布した。すべての試料に対して、周波数1Hz、0.01%のインクリメントで0.01%から3%までひずみを増加させて、動的ひずみ掃引試験(dynamic strain sweep test)を行った。表5および6は、ナノ粒子を含むRSFゲル、ナノ粒子を含まないRSFゲルそれぞれについて、測定した体積弾性係数を示す。
【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
[実施例8]
CLSMによる多孔度の測定値
RSFゲルの多孔度は、共焦点レーザ顕微鏡(Confocal Laser Scanning Microscope: CLSM)によって定量的に算出した。図5に示すRSFゲルの顕微鏡画像は、カール・ツァイス社製の、共焦点顕微鏡を使用して得た。RSFゲルの多孔度は、対物レンズの既知の倍率から算出した。RSFゲルの多孔度は、1g/L〜5g/LのRSF濃度に対して、100ミクロン〜10ミクロンまでの幅があった。図5は、濃度5g/L、pH2、温度50℃の条件下でのRSFゲルのCSLM画像を示す。
【0054】
[実施例9]
シーディング時間に応じたRSFのゲル化分析
下記の方法を用いてRSFを調製した。繭糸を0.5wt-%の重炭酸ナトリウム(NaHCO)中で1時間煮沸してセリシンを取り除いた。煮沸したフィブロイン繊維を過剰量の水で十分に洗浄して、NaHCOを取り除いた。このようにして得られた絹フィブロインを9.3MLiBr溶液に溶解して、10wt%の溶液を得た。この溶液を脱イオン水に対して48時間透析した(シグマアルドリッチ社製の酢酸セルロース透析袋、MWC=10,000)。脱イオン水の最初のバッチを3時間後に、そしてその後は9時間毎に交換した。透析したRSF溶液を15000RPMで20分間遠心分離し、その後、モル吸光係数を11.8とした紫外−可視分光法(UV visible spectroscopy)(1968年、飯塚ら)を用いて、タンパク質濃度を測定した。透析した溶液は常に冷蔵庫内で5〜7℃で保存した。透析した溶液のpHは、計測した結果8.7であった。
【0055】
0.1MHCL溶液の滴を常に攪拌しながら添加することで、透析した溶液の一部のpHを調整した。pHを調整する間、タンパク質の一部が沈殿し、この沈殿したタンパク質の一部を15000RPMで20分間遠心分離することで取り除いた。このようにして得られ、以下では「ゾル」と称する、上澄みのタンパク質溶液は、透明であり、さらなる分析に使用する前に紫外−可視分光法によりその濃度を測定した。それぞれ5mlのゾルを含む9つの試料バイアルを調製した。27μlの3MNaOHを試料バイアル1番に添加して、透析したRSFのpHと等しい8.7までpHを増加させた。この試料を「シーディング」時間がゼロの試料と称する。その他8つのバイアル中のゾル試料は、表4に示したように、低pHで0〜24時間までの異なる「シーディング」時間維持し、その後、27μlの3MNaOHをそれぞれの試料に添加した。NaOH溶液を添加した時点での試料の状態と、NaOHの添加後のゲル化時間が表4に記載されている。
【0056】
発明の利点
1.温度およびpHの周囲条件により、ゲル化プロセスが促進される。
2.促進された結果、ゲル化時間が数日から数時間に減少する。
3.ゲル化時間の減少により、多種多様にゲルを利用することが可能となる。
4.ゲルでは微生物が増殖し難い。
5.広範囲にわたる多孔度を有する微孔性ネットワークが得られる。
6.セルフシーディングの代替的方法でも、ゲル化時間が短縮される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質構造を有する再生絹フィブロイン(RSF)のゲル化を促進する方法であって、
a)再生絹フィブロイン溶液のpHをpH5〜7.5に調整し、その濃度を0.1〜40%の範囲に調整するステップと、
b)所望の濃度のゲル化剤を添加し、温度条件を維持するステップと、
c)RSFゲルを得るため、管反転法によりゲル化を確認するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ゲル化剤は、シリカ、TiO、FeOSiN、ヒドロキシアパタイト、および他の生体適合性無機化合物からなるグループ、好ましくは、シリカから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ゲル化は、任意選択的に、アルカリ性条件下でタンパク質、好ましくは、フィブロインタンパク質のβシートを用いてセルフシーディングを行うことで行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は、20〜70℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ゲル化剤は、1g/L〜25g/L、好ましくは、1〜5g/Lの濃度範囲で使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲル化剤の粒径は、1nm〜1μ、好ましくは、1nm〜400nmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1の方法で得られた多孔質構造を有する再生絹フィブロインゲルであって、前記ゲルの細孔径は1〜10ミクロンの範囲であることを特徴とする再生絹フィブロインゲル。
【請求項8】
請求項1の方法で得られた多孔質構造を有する再生絹フィブロインゲルであって、前記ゲルは、1〜500nmの範囲の多孔度のナノ多孔質壁を含むことを特徴とする再生絹フィブロインゲル。
【請求項9】
請求項1の方法で得られた多孔質構造を有する再生絹フィブロインゲルであって、前記ゲルは微生物が増殖しないことを特徴とする再生絹フィブロインゲル。
【請求項10】
実質的に明細書に添付した実施例および図面を参照することで定義される、多孔質構造を有する再生絹フィブロイン(RSF)のゲル化を促進する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−501087(P2013−501087A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−522340(P2012−522340)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【国際出願番号】PCT/IN2010/000506
【国際公開番号】WO2011/013145
【国際公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(511295508)カウンシィル オブ サイアンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (3)
【Fターム(参考)】