説明

冷凍及び加熱耐性を持つゼリー状食品

【課題】 食品を冷凍することは容易に保存性を向上させることが出来る手段であるが、これらのゲル状食品を冷凍するとゲル構造が破壊され、解凍時に多量の離水を生じたり、食感がぼそぼそになるといったいわゆる「す」が入った状態となる。一方、近年の電磁調理器の発達に伴い家庭で容易に食品を温める事が可能となったためいわゆる惣菜をゲル状にし加熱して食するといったニーズも現れている。本発明は、冷凍保存後解凍しても「す」が入ったり離水を生じることなくまた電磁調理器等によって加熱されても溶解および離水を生じることの無いゼリー状食品を提供することを目的とする。
【解決手段】 カードランと、セルロース及び/又はセルロース誘導体を含有することにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍及び加熱耐性を持つゼリー状食品用ゲル化剤に関する。本発明はまた、かかるゲル化剤を含む冷凍及び加熱耐性を持つゼリー状食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、食品をゲル状にして食用に供するものが数多くある。近年、平均寿命が延び高齢者が増加していくにつれ、咀嚼及び嚥下に支障をきたす人の割合も増加しており、咀嚼しやすく誤嚥下を起こしにくいこれらゲル状食品の需要が急激に増加しつつある。食品を冷凍することは容易に保存性を向上させることが出来る手段であるが、これらのゲル状食品を冷凍するとゲル構造が破壊され、解凍時に多量の離水を生じたり、食感がぼそぼそになるといったいわゆる「す」が入った状態となる。一方、近年の電磁調理器の発達に伴い家庭で容易に食品を温める事が可能となったためいわゆる惣菜をゲル状にし加熱して食するといったニーズも現れている。このような問題に対してジェランガムにカラギーナンやローカストビーンガム等の高分子多糖類を併用する方法(例えば、特許文献1参照。)や天然ガムとヒドロキシプロピル化した澱粉を併用する方法(例えば、特許文献2参照。)などが開発されているがこれらの方法では加熱をすることよって溶解してしまうという問題点があった。一方加熱に耐性をもつゲルとして蛋白質ゲルやコンニャクマンナンゲル、カードランゲルのような熱不可逆性ゲルがあるがこういったゲルでは冷解凍に対する耐性がなくなってしまうという問題点があった。したがって冷解凍時に「す」が入ったり離水を起こすことなくまた加熱時に溶解することの無いゲル状食品が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開平1−257434号公報(第1頁−4頁)
【特許文献2】第3448622号公報(第1頁−6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は冷凍保存後解凍しても「す」が入ったり離水を生じることなくまた電磁調理器等によって加熱されても溶解および離水を生じることの無いゼリー状食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、
〔1〕 カードランと、セルロース及び/又はセルロース誘導体を含有することを特徴とする冷凍及び加熱耐性を持つゼリー状食品用ゲル化剤。
〔2〕 セルロースが微小繊維状セルロース及び/又は微結晶セルロースであることを特徴とする〔1〕記載の冷凍及び加熱耐性を持つゼリー状食品用ゲル化剤。
〔3〕 セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロース及び/又はメチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする〔1〕記載の冷凍及び加熱耐性を持つゼリー状食品用ゲル化剤。
〔4〕 前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載のゲル化剤を0.5〜3%含有することを特徴とする冷凍及び加熱耐性を持つゼリー状食品。
に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明により冷凍保存後解凍しても「す」が入ったり離水を生じることなくまた電磁調理器等によって加熱されても溶解および実質的に離水を生じることの無いゼリー状食品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のゼリー状食品はカードランと、セルロース及び/又はセルロース誘導体を含有することを一つの大きな特徴とする。
【0008】
かかる特徴を有することで上記ゲル化剤によりゲル化したゼリー状食品は従来のゼリー状食品と比べて冷解凍時に「す」が入ることなく、それゆえ実質的に離水が生じることがないため冷凍耐性を有し、また加熱時にゲルが溶解することなくそれゆえ実質的に離水を生じることがないため加熱耐性を有するという優れた効果を発揮する。
【0009】
本発明におけるカードランとはアグロバクテリウム属又はアルカリゲネス属菌株の培養液から得られたβ−1,3−グルカンを主成分とするものをいう。
【0010】
本発明におけるセルロースとは特に限定されるものではなく、繊維性植物からパルプとして得たものであり、多数のβ−グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合しているものであればよい。特に限定されるものではないが、効果の観点より微小繊維状セルロースあるいは微結晶セルロースであることが好ましい。
【0011】
本発明における微小繊維状セルロースとはパルプあるいは綿より得られるセルロース繊維を機械的な処理のみにより均質化し、繊維形状を保ったままその太さを数μm程度まで微小化したものであり、食品添加物便覧にて「微小繊維状セルロース」と記載されているものをいう。特に限定されるものではないが効果の観点より、繊維の太さが1μm以下であることが好ましく、繊維の太さが0.5μm以下であることがより好ましい。水中における分散性、懸濁安定性を向上させるためにグアガムやキサンタンガム等の水溶性高分子でコーティングを施してあってもかまわない。
【0012】
本発明における微結晶セルロースとはパルプを鉱酸等で加水分解し、非結晶領域を除いて得られたものをであり、食品添加物便覧にて「(微)結晶セルロース」と記載されているものをいう。特に限定されるものではないが効果の観点より粒経が100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。水中における分散性、懸濁安定性を向上させるためにグアガムやキサンタンガム等の水溶性高分子でコーティングを施してあってもかまわない。
【0013】
本発明におけるセルロース誘導体とは特に限定されることはなくセルロースの一部を化学的に修飾したものであればよい。特に限定されるものではないが、効果の観点よりカルボキシメチルセルロースあるいはメチルセルロースあるいはヒドロキシプロピルセルロースであることが好ましい。
【0014】
本発明におけるカルボキシメチルセルロースとはセルロースの水酸基を部分的にカルボキシメチル基でエーテル化して得られるものをいう。
【0015】
本発明におけるメチルセルロースとは、セルロースの水酸基を部分的にメチル基でエーテル化して得られるものをいう。
【0016】
本発明におけるヒドロキシプロピルセルロースとは、セルロースの水酸基を部分的にヒドロキシプロピル基でエーテル化して得られるものをいう。
【0017】
本発明におけるカードランとセルロース、及び/又はセルロース誘導体の固形分含有量の比は、効果の観点から1:9〜8:2の範囲にあることが好ましく、2:8〜7:3の範囲にあることがさらに好ましく、3:7〜7:3の範囲にあることがさらに好ましい。
【0018】
本発明のゼリー状食品に含まれるゲル化剤の量は、効果及び経済性の観点から0.5〜3重量%、好ましくは0.7〜3重量%、より好ましくは1〜2.5重量%である。
【0019】
本発明における冷凍耐性とは、−18℃以下の温度で冷凍した後、0℃以上の温度で解凍した際に食感の変化がなく、また実質的に離水を生じないことをいう。
【0020】
本発明における加熱耐性とは、ゲル状食品の中心温度が80℃以上になった状態で5分以上加熱を続けた場合にゲル状食品が溶解することなく形状を維持しており、また実質的に離水を生じないことをいう。
【0021】
本発明において「実質的に離水を生じない」とは上記解凍後及び/又は加熱後に生じる離水の量が、ゼリー状食品全体の重量の5重量%以下であることをいう。
【0022】
ゼリー状食品には任意に、糖類、乳成分、酸味料、着色料、香料、食品添加物、機能性食品等を添加しても良い。
【0023】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。なお、実施例中の%は特記しない限り重量%を示す。
【実施例】
【0024】
実施例1
カードランとして武田キリン社製の製品名:カードランを、微小繊維状セルロースとしてダイセル化学工業社製の製品名:セリッシュ(繊維の太さ0.1μm)を、微結晶セルロースとして旭化成ケミカルズ社製の製品名:セオラス(粒経20μm)を、カルボキシメチルセルロースとして日本製紙ケミカル社製の製品名:サンローズをメチルセルロースとして信越化学工業社製の製品名:メトローズを、ヒドロキシプロピルセルロースとして三晶社製の製品名:クルーセルを用い表1に従いゲル化剤1〜9を調製した。なお重量は固形分換算したものを記した。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例2
にんじんをジューサーミキサーを用いてペースト状に加工しにんじんペーストを得た。水に表2の配合でゲル化剤及びにんじんペーストを添加しホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、商品名:T.K.ロボミックス)を用いて8000rpmで均質化しながら55℃まで昇温したのちカップに充填し真空状態にてシールを施したものを蒸し器にて15分間加熱後、冷水にて冷却し−50℃にて急速凍結を施しゼリー状食品1〜9を得た。
【0027】
【表2】

【0028】
比較例
水に表3の配合でゲル化剤及びにんじんペーストを添加しホモミキサー(特殊機化工業株式会社製、商品名:T.K.ロボミックス)を用いて8000rpmで均質化しながら55℃まで昇温したのちカップに充填し真空状態にてシールを施したものを蒸し器にて15分間加熱後、冷水にて冷却し−50℃にて急速凍結を施し比較例1〜8を得た。なお、寒天として太陽化学社製の製品名:ネオソフトARを、ジェランガムとして太陽化学社製の製品名:ネオソフトJを、マンナンとして太陽化学社製の製品名:ネオソフトAを、ローカストビーンガムとして太陽化学社製の製品名:ネオソフトLをキサンタンガムとして太陽化学社製の製品名:ネオソフトXCを、澱粉として太陽化学社製の製品名:ネオソフトRBを使用した。
【0029】
【表3】

【0030】
得られたゼリー状食品1〜9及び比較例1〜8を流水中にて解凍した。カップから皿に取り出し、全体の重量[1]を測定した。さらに皿及びゼリーに付着した水をティッシュペーパーにてふき取ったのち重量[2]を測定し([1]−[2])/[1]の計算を行い、解凍後離水率を算出した。離水率が5%以下であるものを○、5%以上であるものを×とした。また食感を官能検査にて確認し「す」がはいっていないか確認した。「す」が入っていないものを○、「す」がはいっているものを×とした。
【0031】
得られたゼリー状食品1〜9及び比較例1〜8を流水中にて解凍した。カップから皿に取り出し蒸し器にて20分間加熱した後、室温にて30分間放冷し、全体の重量[3]を測定した。さらに皿及びゼリーに付着した水をティッシュペーパーにてふき取ったのち重量[4]を測定し([3]−[4])/[3]の計算を行い、加熱後離水率1を算出した。離水率が5%以下であるものを○、5%以上であるものを×とした。また加熱によってゼリーの形が崩れていないか目視確認を行い、形が崩れていないものを○、変形しているが溶解はしていないものを△、溶解したものを×とした。
【0032】
得られたゼリー状食品1〜9及び比較例1〜8を流水中にて解凍した。カップから皿に取り出し500Wの電子レンジにて2分間加熱した後、室温にて30分間放冷し、全体の重量[5]を測定した。さらに皿及びゼリーに付着した水をティッシュペーパーにてふき取ったのち重量[6]を測定し([5]−[6])/[5]の計算を行い、加熱後離水率2を算出した。離水率が5%以下であるものを○、5%以上であるものを×とした。また加熱によってゼリーの形が崩れていないか目視確認を行い、形が崩れていないものを○、変形しているが溶解はしていないものを△、溶解したものを×とした。
【0033】
【表4】

【0034】
表4より明らかなように本発明品は比較例に比べて冷凍及び加熱耐性に優れている。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のゼリー状食品用ゲル化剤又はゼリー状食品によれば、冷凍保存後解凍しても「す」が入ったり離水を生じることなくまた電磁調理器等によって加熱されても溶解および離水を生じることの無い、保存性が高く簡便なゼリー状食品を提供することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カードランと、セルロース及び/又はセルロース誘導体を含有することを特徴とするゼリー状食品用ゲル化剤。
【請求項2】
セルロースが微小繊維状セルロースであることを特徴とする請求項1記載のゼリー状食品用ゲル化剤。
【請求項3】
セルロースが微結晶セルロースであることを特徴とする請求項1記載のゼリー状食品用ゲル化剤。
【請求項4】
セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロースであることを特徴とする請求項1記載のゼリー状食品用ゲル化剤。
【請求項5】
セルロース誘導体がメチルセルロースであることを特徴とする請求項1記載のゼリー状食品用ゲル化剤。
【請求項6】
セルロース誘導体がヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする請求項1記載のゼリー状食品用ゲル化剤。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載のゲル化剤を0.5〜3%含有することを特徴とするゼリー状食品。