説明

冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物

【課題】不飽和フッ化炭化水素冷媒と相溶性、安定性の良い冷凍機用作動流体組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるポリアルキレングリコールと、不飽和フッ化炭化水素冷媒を含有する。R−(OR−OR(1)[式中、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、アルキル基、アシル基、芳香族基または脂環式炭化水素基を表し、RおよびRの少なくとも一方は芳香族基または脂環式炭化水素基であり、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の繰り返し数を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のオゾン層破壊の問題から、従来冷凍機器の冷媒として使用されてきたCFC(クロロフルオロカーボン)およびHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)が規制の対象となり、これらに代わってHFC(ハイドロフルオロカーボン)が冷媒として使用されつつある。
【0003】
CFCやHCFCを冷媒とする場合は、冷凍機油として鉱油やアルキルベンゼンなどの炭化水素油が好適に使用されてきたが、冷媒が替わると共存下で使用される冷凍機油は、冷媒との相溶性、潤滑性、冷媒との溶解粘度、熱・化学的安定性など予想し得ない挙動を示すため、冷媒ごとに冷凍機油の開発が必要となる。そこで、HFC冷媒用冷凍機油として、例えば、ポリアルキレングリコール(特許文献1を参照)、エステル(特許文献2を参照)、炭酸エステル(特許文献3を参照)、ポリビニルエーテル(特許文献4を参照)などが開発されている。
【0004】
HFC冷媒のうち、カーエアコン用冷媒として標準的に用いられているHFC−134aはオゾン破壊係数(ODP)がゼロであるものの地球温暖化係数(GWP)が高いため、欧州では規制の対象となっている。そこで、HFC−134aに替わる冷媒の開発が急務となっている。
【0005】
このような背景の下、HFC−134aに代わる冷媒として、ODPおよびGWPの双方が非常に小さく、不燃性であり、かつ、冷媒性能の尺度である熱力学的特性がHFC−134aとほぼ同等かそれ以上である、不飽和フッ化炭化水素類の冷媒の使用が提案されている。さらに、不飽和フッ化炭化水素と飽和ハイドロフルオロカーボン、炭素数3〜5の飽和炭化水素、ジメチルエーテル、二酸化炭素、ビス(トリフルオロメチル)サルファイドあるいは3フッ化ヨウ化メタンとの混合冷媒の使用も提案されている(特許文献5を参照)。
【0006】
また、不飽和フッ化炭化水素冷媒あるいは不飽和フッ化炭化水素と飽和ハイドロフルオロカーボン、炭素数3〜5の飽和炭化水素、ジメチルエーテル、二酸化炭素、ビス(トリフルオロメチル)サルファイドあるいは3フッ化ヨウ化メタンとの混合冷媒と共に使用可能な冷凍機油としては、鉱油、アルキルベンゼン類、ポリアルファオレフィン類、ポリアルキレングリコール類、モノエステル類、ジエステル類、ポリオールエステル類、フタル酸エステル類、アルキルエーテル類、ケトン類、炭酸エステル類、ポリビニルエーテル類などを用いた冷凍機油が提案されている(特許文献5〜7を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平02−242888号公報
【特許文献2】特開平03−200895号公報
【特許文献3】特開平03−217495号公報
【特許文献4】特開平06−128578号公報
【特許文献5】国際公開WO2006/094303号パンフレット
【特許文献6】特表2006−512426号公報
【特許文献7】国際公開WO2005/103190号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献5、6、7に記載されているように、不飽和フッ化炭化水素冷媒を用いる冷凍システムにおいては、CFCやHCFCに使用されている鉱油やアルキルベンゼン等の炭化水素類、HFCに使用されているポリアルキレングリコール、ポリオールエステル、ポリビニルエーテルなどの冷凍機油のいずれも適用可能であると考えられている。特に、カーエアコンにおいてはR134a用として使用されているポリアルキレングリコールをそのまま転用できれば好都合である。しかし、本発明者らの検討によれば、これら従来のポリアルキレングリコール系冷凍機油を当該システムにそのまま転用しただけでは、冷媒相溶性・冷媒安定性を高水準で達成することができない。
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、不飽和フッ化炭化水素冷媒を用いる冷凍システムにおいて、冷媒相溶性・冷媒安定性を高水準で達成することが可能な冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のポリアルキレングリコールを用いることによって、不飽和フッ化炭化水素冷媒の共存下で冷媒との十分な相溶性および安定性を有する冷凍機油を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、 下記一般式(1):
−(OR−OR (1)
[式中、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、アルキル基、アシル基、芳香族基または脂環式炭化水素基を表し、RおよびRの少なくとも一方は芳香族基または脂環式炭化水素基であり、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の繰り返し数を表す。]
で示されるポリアルキレングリコールと、不飽和フッ化炭化水素冷媒を含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールを含有し、不飽和フッ化炭化水素冷媒と共に用いられることを特徴とする冷凍機油を提供する。
【0013】
本発明の冷凍機用作動流体組成物は、不飽和フッ化炭化水素冷媒として、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC1234ye)および3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0014】
また、本発明の冷凍機用作動流体組成物は、不飽和フッ化炭化水素冷媒の少なくとも1種(以下、「冷媒(A)」という。)を単独で用いてもよく、飽和ハイドロフルオロカーボン、炭素数3〜5の炭化水素、ジメチルエーテル、二酸化炭素、ビス(トリフルオロメチル)サルファイドおよび3フッ化ヨウ化メタン冷媒から選ばれる少なくとも1種(以下、「冷媒(B)」という。)をさらに含有していてもよい。
【0015】
さらに、冷媒(A)と冷媒(B)との混合冷媒において、不飽和フッ化炭化水素冷媒としては、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ye)および3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)から選ばれる少なくとも1種が好ましく;
飽和ハイドロフルオロカーボンとしては、ジフルオロメタン(HFC−32)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)および1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)から選ばれる少なくとも1種が好ましく;
炭素数3〜5の炭化水素としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2−メチルブタンおよびノルマルペンタンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上の通り、本発明によれば、冷媒相溶性を高水準で達成することが可能な冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明の冷凍機油は、下記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコール(以下、場合により「本発明にかかるポリアルキレングリコール」という。)を含有し、不飽和フッ化炭化水素冷媒と共に用いられることを特徴とする。また、本発明の冷凍機用作動流体組成物は、下記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールと不飽和フッ化炭化水素冷媒とを含有することを特徴とする。ここで、本発明の冷凍機用作動流体組成物には、本発明の冷凍機油と、不飽和フッ化炭化水素冷媒を含有する態様が包含される。
−(OR−OR (1)
[式中、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、アルキル基、アシル基、芳香族基または脂環式炭化水素基を表し、RおよびRの少なくとも一方は芳香族基または脂環式炭化水素基であり、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の繰り返し数を表す。]
【0019】
上記式(1)中、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、アルキル基、芳香族基または脂環式炭化水素基を表す。RおよびRの少なくとも一方は芳香族基または脂環式炭化水素基である。アルキル基としては炭素数1〜5のものが好ましく用いられ、メチル基、エチル基、直鎖状または分枝状のプロピル基、直鎖状または分枝状のブチル基、直鎖状または分枝状のペンチル基などが挙げられる。アシル基としては炭素数2〜5のものが好ましく用いられ、具体的には、アセチル基、直鎖状または分枝状のプロパノイル基、直鎖状または分枝状のブタノイル基、直鎖状または分枝状のペンタノイル基などが挙げられる。
芳香族基としては、フェニル基、炭素数1〜6のアルキル基を1〜3個有するフェニル基、アルキルフェニル基、ナフチル基および炭素数1〜6のアルキル基を1〜6個有するアルキルナフチル基が挙げられる。具体的には、フェニル基、クレジル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、i−プロピルフェニル基、n−ブチルフェニル基、i−ブチルフェニル基、t−ブチルフェニル基、n−ペンチルフェニル基、i−ペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、i−ヘキシルフェニル基;キシレニル基、メチルエチルフェニル基、メチルプロピルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルプロピルフェニル基;トリメチルフェニル基;ナフチル基、メチルナフチル基、ジメチルナフチル基、メチルエチルナフチル基などが挙げられる。
脂環式炭化水素基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、炭素数1〜6のアルキル基を1〜3個有する5員環および6員環のものが好ましく用いられ、具体的には、シクロペンチル基、アルキルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、アルキルシクロヘキシル基が挙げられる。さらに具体的には、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、メチルエチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基;メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基、メチルエチルシクロヘキシル基、ジエチルシクロヘキシル基などが例示される。
これらの基の中でも、冷媒との相溶性の点から水素、メチル基、エチル基、直鎖状または分枝状のプロピル基、直鎖状または分枝状のブチル基、アセチル基、直鎖状または分枝状のプロパノイル基、直鎖状または分枝状のブタノイル基、フェニル基、C1〜C4アルキル置換フェニル基がより好ましく、水素、メチル基、エチル基、またはアセチル基、フェニル基、C1〜C4アルキル置換フェニル基がさらに好ましく、水素、メチル基またはアセチル基、フェニル基、C1〜C4アルキル置換フェニル基が最も好ましい。少なくともRとRの一方が芳香族基または脂環式炭化水素基でないと冷媒安定性に劣るため好ましくない。なお、アルキル基およびアシル基の炭素数が5を越えると、冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が狭くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害が起こりやすくなる。また、水酸基価は特に限定されないが、冷媒安定性の面からは200〜100mgKOH/gであるのが好ましく、冷媒相溶性の面からは100mgKOH/g以下、好ましくは50mgKOH/g以下、さらに好ましくは30mgKOH/g以下、最も好ましくは10mgKOH/g以下であるのが望ましい。
【0020】
また、上記一般式(1)中、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表す。このようなアルキレン基としては、具体的には、エチレン基(−CHCH−)、プロピレン基(−CH(CH)CH−)、トリメチレン基(−CHCHCH−)、ブチレン基(−CH(CHCH)CH−)、テトラメチレン基(−CHCHCHCH−)などが挙げられる。これらのアルキレン基の中でも、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、テトラメチレン基がより好ましい。また、R3全体に占める炭素数2のアルキレン基の割合は、冷媒相溶性の面から、30重量%以下、好ましくは25重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下であることが好ましい。
【0021】
さらに、上記一般式(1)中、nはORで表されるオキシアルキレン基の繰り返し数(重合度)を表し、n個のRに占める炭素数2のアルキレン基の割合は30モル%以下である。また、式(1)で表されるポリアルキレングリコールの数平均分子量は好ましくは500〜3000、さらに好ましくは600〜2000、より好ましくは600〜1500であり、nは当該ポリアルキレングリコールの数平均分子量が上記の条件を満たすような数であることが好ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量が低すぎる場合には不飽和フッ化炭化水素冷媒共存下での潤滑性が不十分となる。他方、数平均分子量が高すぎる場合には、低温条件下で不飽和フッ化炭化水素冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が狭くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害が起こりやすくなる。また、上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールにおいては、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.00〜1.20であることが好ましい。Mw/Mnが1.20を越えると、不飽和フッ化炭化水素冷媒と冷凍機油との相溶性が不十分となる傾向にある。
【0022】
本発明にかかるポリアルキレングリコールは、従来より公知の方法を用いて合成することができる(「アルキレンオキシド重合体」、柴田満太他、海文堂、平成2年11月20日発行)。例えば、アルコール(ROH;Rは上記一般式(1)中のRと同一の定義内容を表す)に所定のアルキレンオキサイドの1種以上を付加重合させ、さらに末端水酸基をエーテル化もしくはエステル化することによって、上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールが得られる。なお、上記の製造工程において異なる2種以上のアルキレンオキサイドを使用する場合、得られるポリアルキレングリコールはランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよいが、より酸化安定性に優れる傾向にあることからブロック共重合体であることが好ましく、より低温流動性に優れる傾向にあることからランダム共重合体であることが好ましい。
【0023】
本発明にかかるポリアルキレングリコールの100℃における動粘度は5〜20mm/sであることが好ましく、好ましくは6〜18mm/s、より好ましくは7〜16mm/s、さらに好ましくは8〜15mm/s、最も好ましくは9〜14mm/sである。100℃における動粘度が前記下限値未満であると冷媒共存下での潤滑性が不十分となり、他方、前記上限値を超えると、冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が狭くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害が起こりやすくなる。また、当該ポリアルキレングリコールの40℃における動粘度は、10〜200mm/sであることが好ましく、20〜150mm/sであることがより好ましい。40℃における動粘度が10mm/s未満であると潤滑性や圧縮機の密閉性が低下するという傾向にあり、また、200mm/sを越えると、低温条件下で冷媒に対して相溶性を示す組成範囲が狭くなり、冷媒圧縮機の潤滑不良や蒸発器における熱交換の阻害が起こりやすくなる傾向にある。
【0024】
また、上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの流動点は−10℃以下であることが好ましく、−20〜−50℃であることがより好ましい。流動点が−10℃以上のポリアルキレングリコールを用いると、低温時に冷媒循環システム内で冷凍機油が固化しやすくなる傾向にある。
【0025】
また、上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの製造工程において、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドが副反応を起こして分子中にアリル基などの不飽和基が形成される場合がある。ポリアルキレングリコール分子中に不飽和基が形成されると、ポリアルキレングリコール自体の熱安定性が低下する、重合物を生成してスラッジを生成する、あるいは抗酸化性(酸化防止性)が低下して過酸化物を生成するといった現象が起こりやすくなる。特に、過酸化物が生成すると、分解してカルボニル基を有する化合物を生成し、さらにカルボニル基を有する化合物がスラッジを生成してキャピラリー詰まりが起こりやすくなる。
【0026】
したがって、本発明にかかるポリアルキレングリコールとしては、不飽和基等に由来する不飽和度が低いものが好ましく、具体的には0.04meq/g以下であることが好ましく、0.03meq/g以下であることがより好ましく、0.02meq/g以下であることが最も好ましい。また、過酸化物価は10.0meq/kg以下であることが好ましく、5.0meq/kg以下であることがより好ましく、1.0meq/kgであることが最も好ましい。さらに、カルボニル価は、100重量ppm以下であることが好ましく、50重量ppm以下であることがより好ましく、20重量ppm以下であることが最も好ましい。
【0027】
なお、本発明にかかる不飽和度、過酸化物価およびカルボニル価とは、それぞれ日本油化学会制定の基準油脂分析試験法により測定した値をいう。すなわち、本発明にかかる不飽和度とは、試料にウィス液(ICl−酢酸溶液)を反応させ、暗所に放置し、その後、過剰のIClをヨウ素に還元し、ヨウ素分をチオ硫酸ナトリウムで滴定してヨウ素価を算出し、このヨウ素価をビニル当量に換算した値(meq/g)をいい;本発明にかかる過酸化物価とは、試料にヨウ化カリウムを加え、生じた遊離のヨウ素をチオ硫酸ナトリウムで滴定し、この遊離のヨウ素を試料1kgに対するミリ当量数に換算した値(meq/kg)をいい;本発明にかかるカルボニル価とは、試料に2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを作用させ、発色性あるキノイドイオンを生ぜしめ、この試料の480nmにおける吸光度を測定し、予めシンナムアルデヒドを標準物質として求めた検量線を基に、カルボニル量に換算した値(重量ppm)をいう。
【0028】
本発明において、不飽和度、過酸化物価およびカルボニル価の低いポリアルキレングリコールを得るためには、プロピレンオキサイドを反応させる際の反応温度を120℃以下(より好ましくは110℃以下)とすることが好ましい。また、製造に際してアルカリ触媒を使用することがあれば、これを除去するために無機系の吸着剤、例えば、活性炭、活性白土、ベントナイト、ドロマイト、アルミノシリケート等を使用すると、不飽和度を減ずることができる。また、当該ポリアルキレングリコールを製造または使用する際に酸素との接触を極力避けたり、酸化防止剤を添加することによっても過酸化物価またはカルボニル価の上昇を防ぐことができる。
【0029】
本発明の冷凍機油は上記の構成を有するポリアルキレングリコールを含有するものであり、当該ポリアルキレングリコールのみを単独で用いた場合であっても、低温流動性、潤滑性および安定性が十分に高く、且つ不飽和フッ化炭化水素冷媒に対する十分に広い相溶領域を有するといった優れた特性を示すものであるが、必要に応じて後述する他の基油や添加剤を添加してもよい。なお、本発明の冷凍機油中の当該ポリアルキレングリコールの含有量については、上記の優れた特性を損なわない限りにおいて特に制限されないが、冷凍機油全量基準で50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上含有することが特に好ましい。上記一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの含有量が50質量%未満であると、冷凍機油の潤滑性、冷媒相溶性、熱・化学安定性などの各種性能のうちのいずれかが不十分となる傾向にある。
【0030】
本発明の冷凍機油は、本発明にかかるポリアルキレングリコールのみからなるものであってもよいが、当該ポリオールエステル以外の基油および各種添加剤をさらに含有してもよい。また、本発明の冷凍機用作動流体組成物においても、本発明にかかるポリアルキレングリコール以外の基油および各種添加剤をさらに含有してもよい。なお、以下の説明において、本発明に係るポリアルキレングリコール以外の基油および添加剤の含有量については、冷凍機油全量を基準として示すが、冷凍機用流体組成物におけるこれらの成分の含有量は、冷凍機油全量を基準とした場合に後述する好ましい範囲内となるように選定することが望ましい。
【0031】
本発明にかかるポリアルキレングリコール以外の基油としては、鉱油、オレフィン重合体、ナフタレン化合物、アルキルベンゼン等の炭化水素系油、並びにエステル系基油(モノエステル、ジエステル、ポリオールエステル等)、本発明以外のポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテルなどの酸素を含有する合成油を併用して用いても良い。酸素を含有する合成油としては、上記の中でもポリオールエステル、ポリビニルエーテルが好ましく用いられる。
【0032】
また、本発明の冷凍機油は、必要に応じてさらに各種添加剤を配合した形で使用することもできる。なお、以下の説明において、添加剤の含有量については、冷凍機油組成物全量を基準として示すが、冷凍機用流体組成物におけるこれらの成分の含有量は、冷凍機油組成物全量を基準とした場合に後述する好ましい範囲内となるように選定することが望ましい。
【0033】
本発明の冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物の耐摩耗性、耐荷重性をさらに改良するために、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、チオリン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステルおよび亜リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも1種のリン化合物を配合することができる。これらのリン化合物は、リン酸または亜リン酸とアルカノール、ポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体である。
【0034】
具体的には例えば、リン酸エステルとしては、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0035】
酸性リン酸エステルとしては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、ジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0036】
チオリン酸エステルとしては、トリブチルホスフォロチオネート、トリペンチルホスフォロチオネート、トリヘキシルホスフォロチオネート、トリヘプチルホスフォロチオネート、トリオクチルホスフォロチオネート、トリノニルホスフォロチオネート、トリデシルホスフォロチオネート、トリウンデシルホスフォロチオネート、トリドデシルホスフォロチオネート、トリトリデシルホスフォロチオネート、トリテトラデシルホスフォロチオネート、トリペンタデシルホスフォロチオネート、トリヘキサデシルホスフォロチオネート、トリヘプタデシルホスフォロチオネート、トリオクタデシルホスフォロチオネート、トリオレイルホスフォロチオネート、トリフェニルホスフォロチオネート、トリクレジルホスフォロチオネート、トリキシレニルホスフォロチオネート、クレジルジフェニルホスフォロチオネート、キシレニルジフェニルホスフォロチオネートなどが挙げられる。
【0037】
酸性リン酸エステルのアミン塩としては、酸性リン酸エステルと、炭素数1〜24、好ましくは5〜18の1〜3級の直鎖または分岐アルキル基のアミンとのアミン塩が挙げられる。
酸性リン酸エステルのアミン塩を構成するアミンとしては、直鎖またば分岐のメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、テトラコシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、ジトリデシルアミン、ジテトラデシルアミン、ジペンタデシルアミン、ジヘキサデシルアミン、ジヘプタデシルアミン、ジオクタデシルアミン、ジオレイルアミン、ジテトラコシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミン、トリトリデシルアミン、トリテトラデシルアミン、トリペンタデシルアミン、トリヘキサデシルアミン、トリヘプタデシルアミン、トリオクタデシルアミン、トリオレイルアミントリテトラコシルアミン、などのアミンとの塩が挙げられる。アミンは単独の化合物であっても、2種以上の化合物の混合物であっても良い。
【0038】
塩素化リン酸エステルとしては、トリス・ジクロロプロピルホスフェート、トリス・クロロエチルホスフェート、トリス・クロロフェニルホスフェート、ポリオキシアルキレン・ビス[ジ(クロロアルキル)]ホスフェートなどが挙げられる。亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイトなどが挙げられる。また、これらの混合物も使用できる。
【0039】
本発明の冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物が上記リン化合物を含有する場合、リン化合物の含有量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準(基油と全配合添加剤の合計量基準)で、0.01〜5.0質量%であることが好ましく、0.02〜3.0質量%であることがより好ましい。なお、上記リン化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
また、本発明の冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物は、その熱・化学的安定性をさらに改良するために、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、アリルオキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油から選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を含有することができる。
【0041】
フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、フェニルグリシジルエーテルまたはアルキルフェニルグリシジルエーテルが例示できる。ここでいうアルキルフェニルグリシジルエーテルとは、炭素数1〜13のアルキル基を1〜3個有するものが挙げられ、中でも炭素数4〜10のアルキル基を1個有するもの、例えばn−ブチルフェニルグリシジルエーテル、i−ブチルフェニルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ペンチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルフェニルグリシジルエーテル、ヘプチルフェニルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、デシルフェニルグリシジルエーテルなどが好ましいものとして例示できる。
【0042】
アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、デシルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルなどが例示できる。
【0043】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、具体的には、フェニルグリシジルエステル、アルキルグリシジルエステル、アルケニルグリシジルエステルなどが挙げられ、好ましいものとしては、グリシジル−2,2−ジメチルオクタノエート、グリシジルベンゾエート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどが例示できる。
【0044】
アリルオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシスチレン、アルキル−1,2−エポキシスチレンなどが例示できる。
【0045】
アルキルオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシトリデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,1,2−エポキシオクタデカン、2−エポキシノナデカン、1,2−エポキシイコサンなどが例示できる。
【0046】
脂環式エポキシ化合物としては、具体的には、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロペンタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エキソ−2,3−エポキシノルボルナン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)−スピロ(1,3−ジオキサン−5,3’−[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4−(1’−メチルエポキシエチル)−1,2−エポキシ−2−メチルシクロヘキサン、4−エポキシエチル−1,2−エポキシシクロヘキサンなどが例示できる。
【0047】
エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、具体的には、エポキシ化された炭素数12〜20の脂肪酸と炭素数1〜8のアルコールまたはフェノール、アルキルフェノールとのエステルなどが例示できる。特にエポキシステアリン酸のブチル、ヘキシル、ベンジル、シクロヘキシル、メトキシエチル、オクチル、フェニルおよびブチルフェニルエステルが好ましく用いられる。
【0048】
エポキシ化植物油としては、具体的には、大豆油、アマニ油、綿実油等の植物油のエポキシ化合物などが例示できる。
【0049】
これらのエポキシ化合物の中でも好ましいものは、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物およびエポキシ化脂肪酸モノエステルである。中でもフェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物およびグリシジルエステル型エポキシ化合物がより好ましく、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエステルもしくはこれらの混合物が特に好ましい。
【0050】
本発明の冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物が上記エポキシ化合物を含有する場合、エポキシ化合物の含有量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準で、0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.2〜2.0質量%であることがより好ましい。なお、上記エポキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
また、本発明の冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物は、その性能をさらに高めるため、必要に応じて従来公知の冷凍機油用添加剤を含有することができる。かかる添加剤としては、例えばジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ビスフェノールA等のフェノール系の酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、N,N−ジ(2−ナフチル)−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛などの摩耗防止剤、塩素化パラフィン、硫黄化合物等の極圧剤、脂肪酸等の油性剤、シリコーン系等の消泡剤、ベンゾトリアゾール等の金属不活性化剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、清浄分散剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの添加剤の含有量は特に制限されないが、冷凍機油全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0052】
本発明の冷凍機油の動粘度は特に限定されないが、40℃における動粘度は、好ましくは3〜1000mm/s、より好ましくは4〜500mm/s、最も好ましくは5〜400mm/sとすることができる。また、100℃における動粘度は好ましくは1〜100mm/s、より好ましくは2〜50mm/sとすることができる。
【0053】
また、本発明の冷凍機油の水分含有量は特に限定されないが、冷凍機油全量基準で好ましくは500ppm以下、より好ましくは300ppm以下、最も好ましくは200ppm以下とすることができる。特に密閉型の冷凍機用に用いる場合には、冷凍機油の熱・化学的安定性や電気絶縁性への影響の観点から、水分含有量が少ないことが求められる。
【0054】
また、本発明の冷凍機油の酸価は特に限定されないが、冷凍機または配管に用いられている金属への腐食を防止するため、および本発明の冷凍機油に含有されるエステルの分解を防止するため、好ましくは0.1mgKOH/g以下、より好ましくは0.05mgKOH/g以下とすることができる。なお、本発明において、酸価とは、JISK2501「石油製品および潤滑油−中和価試験方法」に準拠して測定した酸価を意味する。
【0055】
また、本発明の冷凍機油の灰分は特に限定されないが、本発明の冷凍機油の熱・化学的安定性を高めスラッジ等の発生を抑制するため、好ましくは100ppm以下、より好ましくは50ppm以下とすることができる。なお、本発明において、灰分とは、JISK2272「原油および石油製品の灰分並びに硫酸灰分試験方法」に準拠して測定した灰分の値を意味する。
【0056】
本発明の冷凍機油は不飽和フッ化炭化水素冷媒と共に用いられるものであり、また、本発明の冷凍機用作動流体組成物は不飽和フッ化炭化水素冷媒を含有するものである。
【0057】
不飽和フッ化炭化水素冷媒としては、フッ素数が3〜5の不飽和フッ化炭化水素が好ましく、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye)、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze)、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、1,2,3,3−テトラフルオロプロペン(HFC1234ye)、および3,3,3−トリフルオロプロペン(HFO−1243zf)のいずれかの1種または2種以上の混合物であることが好ましい。冷媒物性の観点からは、HFO−1225ye、HFO−1234zeおよびHFO−1234yfから選ばれる1種又は2種以上であることが好ましい。
【0058】
また、本発明において使用される冷媒は、不飽和フッ化炭化水素冷媒と他の冷媒との混合冷媒であってもよい。他の冷媒としては、HFC冷媒、バーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、ジメチルエーテル、アンモニアおよび炭化水素等の自然系冷媒が挙げられる。
【0059】
HFC冷媒としては、炭素数1〜3、好ましくは1〜2のハイドロフルオロカーボンが挙げられる。具体的には例えば、ジフルオロメタン(HFC−32)、トリフルオロメタン(HFC−23)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1−トリフルオロエタン(HFC−143a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、および1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)、またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらの冷媒は用途や要求性能に応じて適宜選択されるが、例えばHFC−32単独;HFC−23単独;HFC−134a単独;HFC−125単独;HFC−134a/HFC−32=60〜80質量%/40〜20質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/60〜30質量%の混合物;HFC−125/HFC−143a=40〜60質量%/60〜40質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=60質量%/30質量%/10質量%の混合物;HFC−134a/HFC−32/HFC−125=40〜70質量%/15〜35質量%/5〜40質量%の混合物;HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=35〜55質量%/1〜15質量%/40〜60質量%の混合物などが好ましい例として挙げられる。さらに具体的には、HFC−134a/HFC−32=70/30質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=60/40質量%の混合物;HFC−32/HFC−125=50/50質量%の混合物(R410A);HFC−32/HFC−125=45/55質量%の混合物(R410B);HFC−125/HFC−143a=50/50質量%の混合物(R507C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=30/10/60質量%の混合物;HFC−32/HFC−125/HFC−134a=23/25/52質量%の混合物(R407C);HFC−32/HFC−125/HFC−134a=25/15/60質量%の混合物(R407E);HFC−125/HFC−134a/HFC−143a=44/4/52質量%の混合物(R404A)などが挙げられる。
【0060】
また、HFC冷媒のうち、飽和ハイドロフルオロカーボンとしては、ジフルオロメタン(HFC−32)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,2,2−テトラフルオロエタン(HFC−134)、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1−ジフルオロエタン(HFC−152a)、フルオロエタン(HFC−161)、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)のいずれかの1種または2種以上の混合物であることが好ましく、冷媒物性の観点から、さらにHFC−32、HFC−125、HFC−134a、HFC−152a、またはHFC−32とHFC−134aの混合物であることが好ましい。
【0061】
炭化水素冷媒としては、炭素数3〜5の炭化水素が好ましく、具体的には例えば、メタン、エチレン、エタン、プロピレン、プロパン、シクロプロパン、ノルマルブタン、イソブタン、シクロブタン、メチルシクロプロパン、2−メチルブタン、ノルマルペンタンまたはこれらの2種以上の混合物があげられる。これらの中でも、25℃、1気圧で気体のものが好ましく用いられ、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2−メチルブタンまたはこれらの混合物が好ましい。
【0062】
含フッ素エーテル系冷媒としては、具体的には例えば、HFE−134p、HFE−245mc、HFE−236mf、HFE−236me、HFE−338mcf、HFE−365mcf、HFE−245mf、HFE−347mmy、HFE−347mcc、HFE−125、HFE−143m、HFE−134m、HFE−227meなどが挙げられ、これらの冷媒は用途や要求性能に応じて適宜選択される。
【0063】
本発明において使用される冷媒が混合冷媒である場合、当該混合冷媒は、不飽和フッ化炭化水素冷媒から選ばれる少なくとも1種(以下、「冷媒(A)」という。)と、飽和ハイドロフルオロカーボン、炭素数3〜5の炭化水素、ジメチルエーテル、二酸化炭素、ビス(トリフルオロメチル)サルファイドおよび3フッ化ヨウ化メタン冷媒から選ばれる少なくとも1種(以下、「冷媒(B)」という。)とを含有することが好ましい。
【0064】
また、本発明において使用される冷媒が冷媒(A)と冷媒(B)とを含有する混合冷媒である場合、当該混合冷媒は共沸混合物であることが好ましいが、冷媒として必要な物性を有していれば特に共沸混合物である必要はなく、両者の混合比は1:99〜99:1が好ましく、5:95〜95:5がより好ましい。
【0065】
さらに、本発明において使用される冷媒が冷媒(A)と冷媒(B)とを含有する混合冷媒である場合、当該混合冷媒は、不飽和フッ化炭化水素冷媒又は飽和ハイドロフルオロカーボン以外のHFC冷媒、バーフルオロエーテル類等の含フッ素エーテル系冷媒、炭素数3〜5の炭化水素以外の炭化水素あるいはアンモニア等の自然系冷媒を更に含有してもよい。
【0066】
本発明の冷凍機油は、通常、冷凍空調機器において、上述したような不飽和フッ化炭化水素冷媒あるいは混合冷媒と混合された冷凍機用流体組成物の形で存在している。この組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合、並びに本発明の冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合は特に制限されないが、冷媒100質量部に対して冷凍機油が好ましくは1〜500質量部、より好ましくは2〜400質量部である。
【0067】
本発明の冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するエアコン、冷蔵庫、あるいは開放型または密閉型のカーエアコンに好ましく用いられる。また、本発明の冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物は、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等に好ましく用いられる。さらに、本発明の冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物は、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく用いられる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
[実施例1〜11、比較例1〜3]
実施例1〜11および比較例1〜3においては、それぞれ以下に示す基油1〜11及び添加剤1〜3を用いて冷凍機油を調製した。得られた冷凍機油の各種性状を表1〜3に示す。
【0070】
(基油)
基油1:一般式(1)で表され、Rがフェニル基であり、Rが水素であり、−(OR−がオキシプロピレン鎖であり、平均分子量800であるポリアルキレングリコール
基油2:一般式(1)で表され、Rがフェニル基であり、Rがメチル基であり、−(OR−がオキシプロピレン鎖であり、平均分子量1000であるポリアルキレングリコール
基油3:一般式(1)で表され、Rがp−t−ブチルフェニル基であり、Rが水素であり、−(OR−がオキシプロピレン鎖であり、平均分子量700であるポリアルキレングリコール
基油4:一般式(1)で表され、Rがp−t−ブチルフェニル基であり、Rがメチル基であり、−(OR−がオキシプロピレン鎖であり、平均分子量950であるポリアルキレングリコール
基油5:一般式(1)で表され、Rがp−t−ブチルフェニル基であり、Rが水素であり、−(OR−がオキシプロピレン・オキシブチレンランダム共重合鎖であり、平均分子量900であるポリアルキレングリコール
基油6:一般式(1)で表され、Rがp−t−ブチルフェニル基であり、Rがメチル基であり、−(OR−がオキシプロピレン・オキシブチレンランダム共重合鎖であり、平均分子量900であるポリアルキレングリコール
基油7:一般式(1)で表され、Rがp−t−ブチルフェニル基であり、Rがフェニル基であり、−(OR−がオキシプロピレン鎖であり、平均分子量900であるポリアルキレングリコール
基油8:一般式(1)で表され、Rがシクロヘキシル基であり、Rがメチル基であり、−(OR−がオキシプロピレン鎖であり、平均分子量950であるポリアルキレングリコール
基油9:ポリエチレンプロピレングリコールジメチルエーテル
基油10:ポリプロピレングリコールジメチルエーテル
基油11:ポリプロピレングリコールブチルメチルエーテル
(添加剤)
添加剤1:p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル
添加剤2:トリクレジルホスフェート
添加剤3:2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール
【0071】
次に、実施例1〜11および比較例1〜3の各冷凍機油について、以下に示す評価試験を実施した。
【0072】
(冷媒相溶性の評価)
JIS−K−2211「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン19gに対して冷凍機油を1g配合し、冷媒と冷凍機油とが0℃において相互に溶解しているかを観察した。得られた結果を表1〜3に示す。表1〜3中、「相溶」は冷媒と冷凍機油とが相互に溶解したことを意味し、「分離」は冷媒と冷凍機油とが2層に分離したことを意味する。
【0073】
(熱・化学的安定性の評価)
水分を1000ppmに調整した冷凍機油(初期色相L0.5)30gと、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン30gと、触媒(鉄、銅、アルミの各線)とをオートクレーブに封入した後、175℃に加熱して1週間保持し試験した。試験後は冷凍機油組成物の色相および酸価を評価した。色相は、ASTM D156に準拠して評価した。得られた結果を表1〜3に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
表1〜3に示した結果から明らかなように、実施例1〜11の冷凍機油は、不飽和フッ化炭化水素冷媒と共に用いた場合に、冷媒安定性・冷媒相溶性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の冷凍機油および冷凍機用作動流体組成物は、不飽和フッ化炭化水素冷媒を用いる冷凍システムにおいて、冷媒相溶性・冷媒安定性を高水準で達成することができ、冷凍空調機器の信頼性を向上させることができる点で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるポリアルキレングリコールと、不飽和フッ化炭化水素冷媒を含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物。
−(OR−OR (1)
[式中、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、アルキル基、アシル基、芳香族基または脂環式炭化水素基を表し、RおよびRの少なくとも一方は芳香族基または脂環式炭化水素基であり、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の繰り返し数を表す。]
【請求項2】
前記不飽和フッ化炭化水素冷媒として、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラフルオロプロペンおよび3,3,3−トリフルオロプロペンから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項3】
不飽和フッ化炭化水素冷媒の少なくとも1種と、飽和ハイドロフルオロカーボン、炭素数3〜5の炭化水素、ジメチルエーテル、二酸化炭素、ビス(トリフルオロメチル)サルファイドおよび3フッ化ヨウ化メタン冷媒から選ばれる少なくとも1種とを含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項4】
前記不飽和フッ化炭化水素冷媒が、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,3,3,3−テトラフルオロプロペン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン、1,2,3,3−テトラフルオロプロペンおよび3,3,3−トリフルオロプロペンから選ばれる少なくとも1種であり、前記飽和ハイドロフルオロカーボンが、ジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、1,1,2,2−テトラフルオロエタン、1,1,1,2−テトラフルオロエタン、1,1−ジフルオロエタン、フルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンから選ばれる少なくとも1種であり、前記炭素数3〜5の炭化水素が、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、2−メチルブタンおよびノルマルペンタンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、請求項3に記載の冷凍機用作動流体組成物。
【請求項5】
下記一般式(1)で示されるポリアルキレングリコールを含有し、不飽和フッ化炭化水素冷媒と共に用いられることを特徴とする冷凍機油。
−(OR−OR (1)
[式中、RおよびRは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素、アルキル基、アシル基、芳香族基または脂環式炭化水素基を表し、RおよびRの少なくとも一方は芳香族基または脂環式炭化水素基であり、Rは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の繰り返し数を表す。]

【公開番号】特開2011−195725(P2011−195725A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64727(P2010−64727)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】