説明

冷凍機油組成物

【課題】粘度が低くて省エネルギー性の向上を図ることができる上、シール性が良好で、かつ耐荷重性に優れ、各種冷凍分野において、特に密閉型冷凍機に好適に用いられる冷凍機油組成物を提供する。
【解決手段】モノエーテル化合物、アルキレングリコールジエーテル及びオキシアルキレン基の平均繰り返し数が2以下のポリオキシアルキレングリコールジエーテルの中から選らばれる少なくとも1種を主成分として含み、40℃における動粘度が1〜8mm2/sである基油を含有する冷凍機油組成物、好ましくは摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、又は有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有する冷凍機に適用される冷凍機油組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷凍機油組成物、さらに詳しくは粘度が低くて省エネルギー性の向上を図ることができる上、シール性が良好で、かつ耐荷重性に優れ、各種冷凍分野において、特に密閉型冷凍機に好適に用いられる冷凍機油組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、圧縮型冷凍機は少なくとも圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁など)、蒸発器、あるいは更に乾燥器から構成され、冷媒と潤滑油(冷凍機油)の混合液体がこの密閉された系内を循環する構造となっている。このような圧縮型冷凍機においては、装置の種類にもよるが、一般に、圧縮機内では高温、冷却器内では低温となるので、冷媒と潤滑油は低温から高温まで幅広い温度範囲内で相分離することなく、この系内を循環することが必要である。一般に、冷媒と潤滑油とは低温側と高温側に相分離する領域を有し、そして、低温側の分離領域の最高温度としては−10℃以下が好ましく、特に−20℃以下が好ましい。一方、高温側の分離領域の最低温度としては30℃以上が好ましく、特に40℃以上が好ましい。もし、冷凍機の運転中に相分離が生じると、装置の寿命や効率に著しい悪影響を及ぼす。例えば、圧縮機部分で冷媒と潤滑油の相分離が生じると、可動部が潤滑不良となって、焼付きなどを起こして装置の寿命を著しく短くし、一方蒸発器内で相分離が生じると、粘度の高い潤滑油が存在するため熱交換の効率低下をもたらす。
【0003】
従来、冷凍機用冷媒としてクロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)などが主に使用されてきたが、環境問題の原因となる塩素を含む化合物であったことから、ハイドロフルオロカーボン(HFC)などの塩素を含有しない代替冷媒が検討されるに至った。しかしながらHFCも
地球温暖化の面で影響が懸念されることから、更に環境保護に適した冷媒として炭化水素、アンモニア、二酸化炭素などのいわゆる自然冷媒が注目されている。
また、冷凍機用潤滑油は、冷凍機の可動部分を潤滑する目的で用いられることから、潤滑性能も当然重要となる。特に、圧縮機内は高温となるため、潤滑に必要な油膜を保持できる粘度が重要となる。必要とされる粘度は使用する圧縮機の種類、使用条件により異なるが、通常、冷媒と混合する前の潤滑油の粘度(動粘度)は、40℃で10〜200mm2/sが好ましいとされ、これより粘度が低いと油膜が薄くなり潤滑不良を起こしやすく、高いと熱交換の効率が低下するといわれていた。
【0004】
例えば冷媒として炭酸ガスを用いる蒸気圧縮式冷凍装置用潤滑油であって、ガスクロマトグラフ蒸留法による10%留出点が400℃以上かつ80%留出点が600℃以下、100℃における動粘度が2〜30mm2/s、粘度指数が100以上である潤滑油基油を主成分とする潤滑油組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
この潤滑油組成物に用いられる基油の40℃における動粘度は、実施例では17〜70mm2/sの範囲である。
このような粘度が高い冷凍機油を用いると、冷凍機におけるエネルギー消費量が多くなるのを免れない。したがって、冷凍機の省エネルギーを目的として、冷凍機油の低粘度化や潤滑における摩擦特性の改善が検討されてきた。
冷蔵庫用冷凍機を例にとると、粘度をVG32、22、15、10と低くすることで省エネルギー性を改善してきた。しかしながら、さらに低粘度化すると、シール性や潤滑性が低下するなどの問題が生じていた。
【0005】
【特許文献1】特開2001−294886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、粘度が低くて省エネルギー性の向上を図ることができる上、シール性が良好で、かつ耐荷重性に優れ、各種冷凍分野において、特に密閉型冷凍機に好適に用いられる冷凍機油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の好ましい性質を有する冷凍機油組成物を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、基油として、特定の低い粘度を有するエーテル化合物を主成分とするものを用いることにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
(1)モノエーテル化合物、アルキレングリコールジエーテル及びオキシアルキレン基の平均繰り返し数が2以下のポリオキシアルキレングリコールジエーテルの中から選ばれる少なくとも1種を主成分として含み、40℃における動粘度が1〜8mm2/sである基油を含有することを特徴とする冷凍機油組成物、
(2)基油の分子量が140〜660である上記(1)項に記載の冷凍機油組成物、
(3)基油の引火点が100℃以上である上記(1)又は(2)項に記載の冷凍機油組成物、
(4)モノエーテル化合物が、一般式(I)
1−O−R2 (I)
(式中、R1は炭素数7〜25の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜20の一価の炭化水素基を示し、それらの合計炭素数が10〜45である。)
で表される化合物である上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の冷凍機油組成物、
(5)アルキレングリコールジエーテル及びオキシアルキレン基の平均繰り返し数が2以下のポリオキシアルキレングリコールジエーテルが
一般式(II)
3−(OR4n−OR5 (II)
(式中、R3及びR5は、それぞれ独立に炭素数1〜20の一価の炭化水素基、R4は炭素数2〜10のアルキレン基、nは平均値が1〜2の数を示し,それらの合計炭素数が9〜44である。)
で表される化合物である上記(1)〜(3)項のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
(6)極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む上記(1)〜(5)項のいずれかに記載の冷凍機油組成物、
(7)ハイドロカーボン系、二酸化炭素系、ハイドロフルオロカーボン系又はアンモニア系冷媒を用いた冷凍機に適用される上記(1)〜(6)項のいずれかに記載の冷凍機油組成物、
【0008】
(8)ハイドロカーボン系冷媒を用いた冷凍機に適用される上記(7)項に記載の冷凍機油組成物、
(9)冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、又は有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものである上記(7)又は(8)項に記載の冷凍機油組成物、
(10)有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜又はポリアミドイミドコーティング膜である上記(9)項に記載の冷凍機油組成物、
(11)無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜又はモリブデン膜である上記(9)項に記載の冷凍機油組成物、
(12)カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース又は各種給湯システム、あるいは冷凍・暖房システムに用いられる上記(1)〜(11)項のいずれかに記載の冷凍機油組成物、及び
(13)システム内の水分含有量が60質量ppm以下で、残存空気量が8kPa以下である上記(12)項に記載の冷凍機油組成物、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粘度が低くて省エネルギー性の向上を図ることができる上、
シール性が良好で、かつ耐荷重性に優れ、各種冷凍分野において、特に密閉型冷凍機に好適に用いられる冷凍機油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の冷凍機油組成物には、基油として、エーテル化合物を主成分として含むものが用いられる。ここで、主成分として含むとは、エーテル化合物を50質量%以上の割合で含むことを指す。基油中の該エーテル化合物の好ましい含有量は70質量%以上、より好ましい含有量は90質量%以上、さらに好ましい含有量は100質量%である。
本発明においては、基油の40℃における動粘度は1〜8mm2/sである。該動粘度が1mm2/s以上であれば耐荷重性が良好に発揮されると共に、シール性もよく、また8mm2/s以下であれば省エネルギー性の向上効果が十分に発揮される。40℃における動粘度の好ましい値は1〜6mm2/sであり、2mm2/s以上、5mm2/s未満がさらに好ましい。
また、基油の分子量は、140〜660が好ましく、140〜340がより好ましく、200〜320がさらに好ましい。この分子量が上記範囲にあれば、所望の動粘度を得ることができる。引火点は100℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。また、基油の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、1.5以下が好ましく、1.2以下がより好ましい。
本発明においては、基油として、前記の性状を有していれば、エーテル化合物と共に、50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で、他の基油を含むものを用いることができるが、他の基油を含まないものがさらに好ましい。
エーテル化合物と併用できる基油としては、例えばポリビニルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール誘導体、α−オレフィンオリゴマーの水素化物、さらには鉱油、脂環式炭化水素化合物、アルキル化芳香族炭化水素化合物などを挙げることができる。
【0011】
本発明においては、基油の主成分としてモノエーテル化合物、アルキレングリコールジエーテル及びオキシアルキレン基の平均繰り返し数が2以下のポリオキシアルキレングリコールジエーテルの中から選ばれる少なくとも1種が用いられる。前記モノエーテル化合物は、例えば一般式(I)
1−O−R2 (I)
(式中、R1は炭素数7〜25の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜20の一価の炭化水素基を示し、それらの合計炭素数が10〜45である。)
で表される化合物を用いることができる。
前記一般式(I)において、R1で示される炭素数7〜25の一価の炭化水素基としては、直鎖状もしくは分岐状のアルキル基又はアルケニル基を挙げることができる。このR1の例としては、各種オクチル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種イコシル基などが挙げられる。
一方、R2で示される炭素数1〜20の一価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基もしくはアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基を挙げることができる。
このR2の具体例としては、メチル基、エチル基、各種プロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アリル基、プロペニル基、各種ブテニル基、各種へキセニル基、各種オクテニル基、各種デセニル基、シクロペンテニル基、シクロへキセニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基、ベンジル基、フェネチル基などを挙げることができる。
【0012】
前記一般式(I)で表されるモノエーテル化合物としては、全炭素数10〜23のものが好ましい。具体的には、デシルメチルエーテル、デシルエチルエーテル、デシルプロピルエーテル、デシルブチルエーテル、デシルペンチルエーテル、デシルへキシルエーテル、デシルオクチルエーテル、ジデシルエーテル、ドデシルメチルエーテル、ドデシルエチルエーテル、ドデシルプロピルエーテル、ドデシルブチルエーテル、ドデシルペンチルエーテル、ドデシルへキシルエーテル、ドデシルオクチルエーテル、ドデシルデシルエーテル、テトラデシルメチルエーテル、テトラデシルエチルエーテル、テトラデシルプロピルエーテル、テトラデシルブチルエーテル、テトラデシルペンチルエーテル、テトラデシルへキシルエーテル、テトラデシルオクチルエーテル、ヘキサデシルメチルエーテル、ヘキサデシルエチルエーテル、ヘキサデシルプロピルエーテル、ヘキサデシルブチルエーテル、ヘキサデシルペンチルエーテル、ヘキサデシルへキシルエーテル、オクタデシルメチルエーテル、オクタデシルエチルエーテル、オクタデシルプロピルエーテル、オクタデシルブチルエーテルなどが挙げられる。
【0013】
一方、前記アルキレングリコールジエーテル及びオキシアルキレン基の平均繰り返し数が2以下のポリオキシアルキレングリコールジエーテルとしては、例えば一般式(II)
3−(OR4n−OR5 (II)
(式中、R3及びR5は、それぞれ独立に炭素数1〜20の一価の炭化水素基、R4は炭素数2〜10のアルキレン基、nは平均値が1〜2の数を示し、それらの合計炭素数が9〜44である。)
で表される化合物を用いることができる。
前記R3、R5で示される炭素数1〜20の一価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基もしくはアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数7〜20のアラルキル基を挙げることができる。R3、R5の具体例としては、前記一般式(I)におけるR2の具体例として示したものと同じものを挙げることができる。このR3及びR5はたがいに同一でも異なっていてもよい。
また、R4示される炭素数2〜10のアルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、例えばエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基、各種ペンチレン基、各種へキシレン基、各種オクチレン基、各種デシレン基、シクロペンチレン基、シクロへキシレン基などが挙げられる。
【0014】
前記一般式(II)で表されるアルキレングリコールジエーテル及びオキシアルキレン基の平均繰り返し数が2以下のポリオキシアルキレングリコールジエーテルとしては、全炭素数9〜22のものが好ましい。具体的にはエチレングリコールジペンチルエーテル、エチレングリコールジヘキシルエーテル、エチレングリコールジオクチルエーテル、エチレングリコールオクチルデシルエーテル、エチレングリコールジデシルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジペンチルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジオクチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジペンチルエーテル、プロピレングリコールジヘキシルエーテル、プロピレングリコールジオクチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジプロピルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジペンチルエーテル、ジプロピレングリコールジヘキシルエーテルなどが挙げられる。
本発明においては、このエーテル化合物として、基油の40℃における動粘度が1〜8mm2/s、好ましくは1〜6mm2/s、より好ましくは2〜5mm2/sになるように、前記化合物の中から1種又は2種以上選択して用いられる。
【0015】
本発明の冷凍機油組成物には、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤及び消泡剤などの中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含有させることができる。
前記、極圧剤としては、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、亜リン酸エステル、酸性亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩などのリン系極圧剤を挙げることができる。
これらのリン系極圧剤の中で、極圧性、摩擦特性などの点からトリクレジルホスフェート、トリチオフェニルホスフェート、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト、2−エチルヘキシルジフェニルホスファイトなどが特に好ましい。
また、極圧剤としては、カルボン酸の金属塩も挙げることができる。ここでいうカルボン酸の金属塩は、好ましくは炭素数3〜60のカルボン酸、さらには炭素数3〜30、特に12〜30の脂肪酸の金属塩である。また、前記脂肪酸のダイマー酸やトリマー酸並びに炭素数3〜30のカルボン酸の金属塩を挙げることができる。これらのうち炭素数12〜30の脂肪酸及び炭素数3〜30のジカルボン酸の金属塩が特に好ましい。
一方、金属塩を構成する金属としてはアルカリ金属又はアルカリ土類金属が好ましく、特に、アルカリ金属が最適である。
【0016】
また、極圧剤としては、さらに、上記以外の極圧剤として、例えば硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チオカーバメート類、チオテルペン類、ジアルキルチオジプロピオネート類などの硫黄系極圧剤を挙げることができる。
上記極圧剤の配合量は、潤滑性及び安定性の点から、組成物全量に基づき、通常0.001〜5質量%、特に0.005〜3質量%の範囲が好ましい。
前記の極圧剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0017】
前記油性剤の例としては、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などの重合脂肪酸、リシノレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸などのヒドロキシ脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族飽和及び不飽和モノアルコール、ステアリルアミン、オレイルアミンなどの脂肪族飽和および不飽和モノアミン、ラウリン酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪族飽和及び不飽和モノカルボン酸アミド、グリセリン、ソルビトールなどの多価アルコールと脂肪族飽和又は不飽和モノカルボン酸との部分エステル等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、組成物全量に基づき、通常0.01〜10質量%、好ましくは0.1〜5質量%の範囲で選定される。
【0018】
前記酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のフェノール系、フェニル−α−ナフチルアミン、N.N’−ジ−フェニル−p−フェニレンジアミン等のアミン系の酸化防止剤を配合するのが好ましい。酸化防止剤は、効果及び経済性などの点から、組成物中に通常0.01〜5質量%、好ましくは0.05〜3質量%配合する。
【0019】
酸捕捉剤としては、例えばフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシド、エポキシ化大豆油などのエポキシ化合物を挙げることができる。中でも相溶性の点でフェニルグリシジルエーテル、アルキルグリシジルエーテル、アルキレングリコールグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、α−オレフィンオキシドが好ましい。
このアルキルグリシジルエーテルのアルキル基、及びアルキレングリコールグリシジルエーテルのアルキレン基は、分岐を有していてもよく、炭素数は通常3〜30、好ましくは4〜24、特に6〜16のものである。また、α−オレフィンオキシドは全炭素数が一般に4〜50、好ましくは4〜24、特に6〜16のものを使用する。本発明においては、上記酸捕捉剤は1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その配合量は、効果及びスラッジ発生の抑制の点から、組成物に対して、通常0.005〜5質量%、特に0.05〜3質量%の範囲が好ましい。
【0020】
本発明においては、この酸捕捉剤を配合することにより、冷凍機油組成物の安定性を向上させることができる。前記極圧剤及び酸化防止剤を併用することにより、さらに安定性を向上させる効果が発揮される。
前記消泡剤としては、シリコーン油やフッ素化シリコーン油などを挙げることができる。
本発明の冷凍機油組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲で、他の公知の各種添加剤、例えばN−[N,N’−ジアルキル(炭素数3〜12のアルキル基)アミノメチル]トルトリアゾールなどの銅不活性化剤などを適宣配合することができる。
【0021】
本発明の冷凍機油組成物は、ハイドロカーボン系、二酸化炭素系、ハイドロフルオロカーボン系又はアンモニア系冷媒を用いた冷凍機に適用され、特にハイドロカーボン系冷媒を用いた冷凍機に適用されるのが好ましい。
本発明の冷凍機油組成物を使用する冷凍機の潤滑方法において、前記各種冷媒と冷凍機油組成物の使用量については、冷媒/冷凍機油組成物の質量比で99/1〜10/90、更に95/5〜30/70の範囲にあることが好ましい。冷媒の量が上記範囲よりも少ない場合は冷凍能力の低下が見られ、また上記範囲よりも多い場合は潤滑性能が低下し好ましくない。本発明の冷凍機油組成物は、種々の冷凍機に使用可能であるが、特に、圧縮型冷凍機の圧縮式冷凍サイクルに好ましく適用できる。
【0022】
本発明の冷凍機油組成物が適用される冷凍機は、圧縮機、凝縮器、膨張機構(膨張弁など)及び蒸発器、あるいは圧縮機、凝縮器、膨張機構、乾燥器及び蒸発器を必須とする構成からなる冷凍サイクルを有するとともに、冷凍機油として前述した本発明の冷凍機油組成物を使用し、また冷媒として前述の各種冷媒が使用される。
ここで乾燥器中には、細孔径0.33nm以下のゼオライトからなる乾燥剤を充填することが好ましい。また、このゼオライトとしては、天然ゼオライトや合成ゼオライトを挙げることができ、さらにこのゼオライトは、25℃、CO2ガス分圧33kPaにおけるCO2ガス吸収容量が1.0%以下のものが一層好適である。このような合成ゼオライトとしては、例えばユニオン昭和(株)製の商品名XH−9、XH−600等を挙げることができる。
本発明において、このような乾燥剤を用いれば、冷凍サイクル中の冷媒を吸収することなく、水分を効率よく除去できると同時に、乾燥剤自体の劣化による粉末化が抑制され、したがって粉末化によって生じる配管の閉塞や圧縮機摺動部への進入による異常摩耗等の恐れがなくなり、冷凍機を長時間にわたって安定的に運転することができる。
【0023】
本発明の冷凍機油組成物が適用される冷凍機においては、圧縮機内に様々な摺動部分(例えば軸受など)がある。本発明においては、この摺動部分は特にシール性の点から、エンジニアリングプラスチックからなるもの、又は有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものが好ましい。
前記エンジニアリングプラスチックとしては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばポリアミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアセタール樹脂などを好ましく挙げることができる。
また、有機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、例えばフッ素含有樹脂コーティング膜(ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜など)、ポリイミドコーティング膜、ポリアミドイミドコーティング膜などを挙げることができる。
一方、無機コーティング膜としては、シール性、摺動性、耐摩耗性などの点で、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、ニッケル膜、モリブデン膜、スズ膜、クロム膜などが挙げられる。この無機コーティング膜は、メッキ処理で形成してもよいし、PVD法(物理的気相蒸着法)で形成してもよい。
また、当該摺動部分として、従来の合金系、例えばFe基合金、Al基合金、Cu基合金などからなるものを用いることもできる。
【0024】
本発明の冷凍機油組成物は、例えばカーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース、又は各種給湯システム、あるいは冷凍・暖房システムに用いることができる。
本発明においては、前記システム内の水分含有量は、60質量ppm以下が好ましく、50質量ppm以下がより好ましい。また該システム内の残存空気量は、8kPa以下が好ましく、7kPa以下がより好ましい。
本発明の冷凍機油組成物は、基油として、エーテル化合物を主成分として含むものであって、粘度が低くて省エネルギー性の向上を図ることができ、しかも耐荷重性に優れている。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を、実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、基油の性状及び冷凍機油組成物の諸特性は、以下に示す要領に従って求めた。
<基油の性状>
(1)40℃動粘度
JIS K2283−1983に準じ、ガラス製毛管式粘度計を用いて測定した。
(2)引火点
JIS K2265に準じ、C.O.C法により測定した。
<冷凍機油組成物の諸特性>
(3)焼付荷重
ファレックス焼付試験機を用い、ASTM D 3233に準拠して測定した。測定条件は、回転数290rpm、ピンの材質AISIC1137,ブロックの材質SAE3135、冷媒(イソブタン)吹込み量5L/hである。
(4)シールドチューブ試験
ガラス管に触媒Fe/Cu/Alを入れ、試料の油/冷媒(イソブタン)=4mL/1gの割合で充填して封管し、175℃で30日間保持したのち、油外観、触媒外観、スラッジの有無及び酸価を求めた。
(5)ショートサーキット試験
ショートサーキット試験機(レシプロ冷凍機、キャピラリ長さ1m)を用いて、Pd(吐出圧力)/Ps(吸入圧力)=3.3/0.4MPa、Td(吐出温度)/Ts(吸入温度)=110/30℃、試験油/R600a(イソブタン)=400/400gの条件で、1000時間の耐久試験を行い、試験後のキャピラリ流量低下率を測定した。
(6)シール性比較試験
ピストンに各種摺動材を用い、ピストン/シリンダ間の隙間からの吹抜け量を比較した。吹抜け量は、参考例1を12として相対比較値を示した。
【0026】
実施例1〜9及び比較例1〜3
第1表に示す組成の冷凍機油組成物を調製し、その焼付荷重を測定すると共に、シールドチューブ試験を行った。結果を第1表に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
[注]
A1:ジデシルエーテル、40℃動粘度=4.9mm2/s、引火点=183℃、分子量=298、分子量分布=1
A2:ヘキサデシルメチルエーテル、40℃動粘度=3.6mm2/s、引火点=162℃、分子量=256、分子量分布=1
A3:エチレングリコールジオクチルエーテル、40℃動粘度=5.3mm2/s、引火点=175℃、分子量=286、分子量分布=1
B1:シリコーン油、40℃動粘度=10mm2/s
B2:n−ヘキサデカン
C1:トリクレジルホスフェート
C2:トリチオフェニルホスフェート
C3:C14α−オレフィンオキシド
C4:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール
C5:シリコーン系消泡剤
第1表から、本発明の冷凍機油組成物(実施例1〜9)は、いずれも比較例1、2のものに比べて焼付荷重が高く、かつシールドチューブ試験結果も良好である。比較例3は、焼付荷重は比較的高いものの−10℃において固体である。
【0029】
実施例10〜15及び比較例4〜6
第2表に示す供試油について、ショートサーキット試験を行った。結果を第2表に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
第2表から分かるように、実施例10〜15の冷凍機油組成物は、システム内の水分が60質量ppm未満で、かつ残存空気量が8kPa未満であることから、ショートサーキット試験結果は良好である。
比較例4〜6は、ショートサーキット試験において、圧縮機の焼付やキャピラリの閉塞が生じた。
【0032】
実施例16〜19及び参考例1
第3表に示す供試油について、第3表に示す摺動材を用いてシール性比較試験を行った。結果を第3表に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
[注]
D1:ポリフェニレンスルフィド
D2:フッ素含有ポリマーコーティング膜
D3:ポリイミド含有コーティング膜
D4:スズメッキ膜
D5:アルミニウム合金
第3表から、実施例16〜19は、参考例1に比べて、いずれも吹抜け量が少なく、シール性が良好である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の冷凍機油組成物は、粘度が低くて省エネルギー性の向上を図ることができる上、シール性が良好で、かつ耐荷重性に優れ、各種冷凍分野において、特に密閉型冷凍機に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノエーテル化合物、アルキレングリコールジエーテル及びオキシアルキレン基の平均繰り返し数が2以下のポリオキシアルキレングリコールジエーテルの中から選ばれる少なくとも1種を主成分として含み、40℃における動粘度が1〜8mm2/sである基油を含有することを特徴とする冷凍機油組成物。
【請求項2】
基油の分子量が140〜660である請求項1に記載の冷凍機油組成物。
【請求項3】
基油の引火点が100℃以上である請求項1又は2に記載の冷凍機油組成物。
【請求項4】
モノエーテル化合物が、一般式(I)
1−O−R2 (I)
(式中、R1は炭素数7〜25の一価の炭化水素基、R2は炭素数1〜20の一価の炭化水素基を示し、それらの合計炭素数が10〜45である。)
で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項5】
アルキレングリコールジエーテル及びオキシアルキレン基の平均繰り返し数が2以下のポリオキシアルキレングリコールジエーテルが
一般式(II)
3−(OR4n−OR5 (II)
(式中、R3及びR5は、それぞれ独立に炭素数1〜20の一価の炭化水素基、R4は炭素数2〜10のアルキレン基、nは平均値が1〜2の数を示し、それらの合計炭素数が9〜44である。)
で表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項6】
極圧剤、油性剤、酸化防止剤、酸捕捉剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種の添加剤を含む請求項1〜5のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項7】
ハイドロカーボン系、二酸化炭素系、ハイドロフルオロカーボン系又はアンモニア系冷媒を用いた冷凍機に適用される請求項1〜6のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項8】
ハイドロカーボン系冷媒を用いた冷凍機に適用される請求項7に記載の冷凍機油組成物。
【請求項9】
冷凍機の摺動部分がエンジニアリングプラスチックからなるもの、又は有機コーティング膜もしくは無機コーティング膜を有するものである請求項7又は8に記載の冷凍機油組成物。
【請求項10】
有機コーティング膜が、ポリテトラフルオロエチレンコーティング膜、ポリイミドコーティング膜又はポリアミドイミドコーティング膜である請求項9に記載の冷凍機油組成物。
【請求項11】
無機コーティング膜が、黒鉛膜、ダイヤモンドライクカーボン膜、スズ膜、クロム膜、ニッケル膜又はモリブデン膜である請求項9に記載の冷凍機油組成物。
【請求項12】
カーエアコン、ガスヒートポンプ、空調、冷蔵庫、自動販売機、ショーケース又は各種給湯システム、あるいは冷凍・暖房システムに用いられる請求項1〜11のいずれかに記載の冷凍機油組成物。
【請求項13】
システム内の水分含有量が60質量ppm以下で、残存空気量が8kPa以下である請求項12に記載の冷凍機油組成物。

【公開番号】特開2007−137953(P2007−137953A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330834(P2005−330834)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】