説明

冷却システム及び冷却方法

【課題】超臨界状態の二酸化炭素を冷媒とした圧縮工程及び膨張工程を含む冷凍サイクルを採用し、パッケージ化した冷却対象機器の内部に不活性な二酸化炭素を流通させて前記冷却対象機器を直接冷却するようにして、冷却効率が高く、動作部分におけるロスが少なく、絶縁の問題がなく、安全性が高くなるようにする。
【解決手段】冷媒を圧縮する圧縮機11と、圧縮された冷媒の放熱を行う熱交換器12と、放熱した冷媒を膨張させる膨張弁13と、膨張した冷媒によって冷却対象機器を冷却する冷却ユニット14とを有する冷却システムであって、前記冷却対象機器は、電気モータを駆動源として備える車両の電気系の機器であって、前記冷却ユニット14内に配設され、前記冷媒は、超臨界状態の二酸化炭素であって、前記冷却対象機器の内部を流通して該冷却対象機器を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却システム及び冷却方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の動力源として、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の原動機に代わるものとして、燃料電池やバッテリから供給される電力によって回転する電気モータを使用した電気自動車の開発が進められている。電気自動車は、ガソリン、軽油等の燃料を燃焼させないので、排気、騒音等の公害を発生しない等の利点を備えている。
【0003】
近年、電気自動車の進歩に伴い、電気モータ、バッテリ、インバータ等の機器が大型化し、その発熱量が増大しているので、前記機器を冷却する冷却システムが重要視されている(例えば、特許文献1参照。)。そこで、電気モータ、バッテリ、インバータ等の冷却対象機器を冷却するために、水冷システムや油冷システムが広く採用されている。また、バッテリは高温になると安全上の問題が生じる可能性があるので、電解液の不燃化、バッテリ全体の固体化等の対策が考慮されている。
【特許文献1】特開2005−90862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の冷却システムにおいては、冷却対象機器を効率的に冷却することができなかった。例えば、水冷システムの場合、絶縁の問題があるので、筐(きょう)体の外側に冷却水が流通する水冷ジャケットを配設し、筐体内に収容された冷却対象機器を間接的に冷却せざるを得ないため、冷却効率を高めることが困難である。また、油冷システムの場合、冷却対象機器内に油を直接流通させて直接冷却を行うことができるが、油の粘性が高いので、電気モータの備える回転部に流通させるとロスが発生する。また、電解液の不燃化、バッテリ全体の固体化等は、現時点での実用化は技術的に困難である。
【0005】
本発明は、前記従来の冷却システムの問題点を解決して、超臨界状態の二酸化炭素を冷媒とした圧縮工程及び膨張工程を含む冷凍サイクルを採用し、パッケージ化した冷却対象機器の内部に不活性な二酸化炭素を流通させて前記冷却対象機器を直接冷却するようにして、冷却効率が高く、動作部分におけるロスが少なく、絶縁の問題がなく、安全性の高い冷却システム及び冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そのために、本発明の冷却システムにおいては、冷媒を圧縮する圧縮機と、圧縮された冷媒の放熱を行う熱交換器と、放熱した冷媒を膨張させる膨張弁と、膨張した冷媒によって冷却対象機器を冷却する冷却ユニットとを有する冷却システムであって、前記冷却対象機器は、電気モータを駆動源として備える車両の電気系の機器であって、前記冷却ユニット内に配設され、前記冷媒は、超臨界状態の二酸化炭素であって、前記冷却対象機器の内部を流通して該冷却対象機器を冷却する。
【0007】
本発明の他の冷却システムにおいては、さらに、前記冷却対象機器は、前記電気モータ、該電気モータを制御するインバータ、及び、バッテリを含み、前記電気モータ、インバータ及びバッテリは、パッケージ内に密封され、前記冷媒は、前記パッケージ内を流通する。
【0008】
本発明の更に他の冷却システムにおいては、さらに、前記電気モータ、インバータ及びバッテリは、前記冷却ユニット内において冷媒の流れの上流からバッテリ、インバータ及び電気モータの順に並べられる。
【0009】
本発明の更に他の冷却システムにおいては、さらに、前記冷媒は、圧縮、放熱、膨張及び冷却のすべての工程において超臨界状態に維持される。
【0010】
本発明の冷却方法においては、冷媒を圧縮する圧縮工程と、圧縮された冷媒の放熱を行う放熱工程と、放熱した冷媒を膨張させる膨張工程と、膨張した冷媒によって冷却対象機器を冷却する冷却工程とを有する冷却方法であって、前記冷却対象機器は、電気モータを含む駆動系を備える車両の電気系の機器であり、前記冷媒は、超臨界状態の二酸化炭素であって、前記冷却対象機器の内部を流通して該冷却対象機器を冷却する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1及び5の構成によれば、冷却対象機器を内部から直接冷却することができ、高い効率で冷却することができる。
【0012】
請求項2の構成によれば、電気モータの駆動ロスが発生することがなく、インバータ、バッテリや電気モータの不必要な発熱が確実に防止される。
【0013】
請求項3の構成によれば、最大許容温度が低い順に上流から並べられているので、各冷却対象機器の冷却効率が向上する。
【0014】
請求項4の構成によれば、冷却システムの効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の実施の形態における冷却システムの構成を示す図である。
【0017】
図において、10は本実施の形態における冷却システムであり、主として環境対策車に使用される。なお、本実施の形態において、環境対策車とは、例えば、駆動源としてエンジンと電気モータとを併用するハイブリッドカー、駆動源として電気モータのみを使用する電気自動車(EV:Electric Vehicle)、電気モータに供給する電力を燃料電池によって発電する燃料電池車等のように、電気モータとしての交流モータである車両駆動モータ21を含む駆動系を有する車両である。
【0018】
そして、前記環境対策車は、車両の車輪を回転させる駆動源である前記車両駆動モータ21に加えて、蓄電手段としての蓄電池、すなわち、バッテリ23、及び、該バッテリ23から車両駆動モータ21に供給される電流を制御する駆動制御装置としてのインバータ22も有する。該インバータ22は、バッテリ23からの直流電流を交流電流に変換して、前記車両駆動モータ21に供給する。
【0019】
また、前記冷却システム10は、前記環境対策車が有する車両駆動モータ21、インバータ22、バッテリ23等の電気系の機器を冷却対象機器とする。なお、前記環境対策車が有するその他の機器も必要に応じて、冷却システム10の冷却対象機器とすることができるが、ここでは、説明の都合上、環境対策車の主要な電気系の機器である車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23のみが冷却システム10の冷却対象機器である場合について説明する。
【0020】
ここで、前記冷却システム10は、超臨界状態の二酸化炭素、すなわち、CO2 を冷媒とする圧縮工程及び膨張工程を含む冷凍サイクル又はヒートポンプサイクルを採用した密閉されたシステムであり、内部を冷媒が流通するパイプとしての冷媒管路15に配設された圧縮機11、熱交換器12、膨張弁13及び冷却ユニット14を有する。前記圧縮機11、熱交換器12、膨張弁13及び冷却ユニット14は、それぞれ密閉された状態で、冷媒管路15を介して接続されている。なお、CO2 は、温度が31.1〔℃〕以上、及び、圧力が7.4〔MPa〕以上の条件下で超臨界状態となる。超臨界状態のCO2 は、液体と気体の中間の性質、すなわち、液体に近い密度と溶解性及び気体に近い粘性、表面張力、拡散性を有し、さらに、空気等の気体と比較して、極めて高い冷却性能(熱伝達率及び熱輸送力)を有する。そして、前記冷却システム10においては、すべての箇所で、かつ、すべての工程でCO2 が超臨界状態となるように温度及び圧力が維持されている。また、CO2 は、絶縁性であり、かつ、不活性である。
【0021】
そして、前記圧縮機11は、車両駆動モータ21、その他の電気モータ、エンジン等の駆動源によって駆動され、冷媒であるCO2 を圧縮して高温及び高圧にする装置である。前記圧縮機11における圧縮工程によって、CO2 の温度及び圧力は、圧縮機11の上流側のA点における温度TA 及び圧力PA から、圧縮機11の下流側のB点における温度TB 及び圧力PB に変化する。
【0022】
また、前記熱交換器12は、空気等の外部の媒体と熱交換することによって放熱を行い、内部を流通するCO2 を冷却する装置である。なお、外部の媒体は、図示されないファン等によって送風された空気であってもよいし、前記環境対策車が走行することによって受ける走行風であってもよいし、ノズル等から散布される水であってもよい。前記熱交換器12における放熱工程によって、CO2 の温度及び圧力は、熱交換器12の上流側のB点における温度TB 及び圧力PB から、熱交換器12の下流側のC点における温度TC 及び圧力PC に変化する。
【0023】
さらに、前記膨張弁13は、熱交換器12から流出した高圧のCO2 を膨張させて低温及び低圧にする装置であり、CO2 を冷媒管路15の内径よりも小径の減圧孔(こう)を通過させることによって減圧する。なお、前記膨張弁13は、ソレノイド等のアクチュエータを備え、減圧孔の大きさ、すなわち、バルブの開度を制御可能なものであることが望ましい。前記膨張弁13における膨張工程によって、CO2 の温度及び圧力は、膨張弁13の上流側のC点における温度TC 及び圧力PC から、膨張弁13の下流側のD点における温度TD 及び圧力PD に変化する。
【0024】
さらに、前記冷却ユニット14は、膨張弁13から流出した低温のCO2 によって、冷却対象機器である車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23を冷却する装置である。ここで、前記車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23は、冷却ユニット14内において、各々個別にパッケージ化され、各パッケージ内に密封された状態となっている。
【0025】
そして、冷却ユニット14に流入したCO2 は、各パッケージ内を流通することによって、各パッケージ内に密封された車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23の内部をも流通し、車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23をその内部から直接冷却する。つまり、車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23の中にはCO2 が充満し、該CO2 によって車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23は内部から冷却される。例えば、車両駆動モータ21の場合、ケーシングの内部にもCO2 が流入し、ケーシングの内壁に取り付けられた固定子、該固定子によって囲まれた回転子、該回転子が取り付けられた回転軸、該回転軸を回転可能に保持する軸受等のケーシング内に配設された各部材も、ケーシングの内部に流入したCO2 に接触することによって直接冷却される。
【0026】
なお、図に示される例においては、各冷却対象機器が、冷却ユニット14内における上流側からバッテリ23、インバータ22及び車両駆動モータ21の順番で直列に並べられているが、各冷却対象機器の並ぶ順番は、必要に応じて適宜変更することができる。また、各冷却対象機器は、必ずしも直列に並べる必要もなく、並列に並べてもよい。もっとも、通常の冷却対象機器の場合、最大許容温度がバッテリ23<インバータ22<車両駆動モータ21の順番で高くなっているので、冷却効率の観点からは、上流側からバッテリ23、インバータ22及び車両駆動モータ21の順番で直列に並べることが望ましい。なお、ここでは、車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23が各々個別にパッケージ化された例について説明したが、必要に応じて、車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23を一括してパッケージ化することもできる。
【0027】
前記冷却ユニット14における冷却工程によって、CO2 の温度及び圧力は、冷却ユニット14の上流側のD点における温度TD 及び圧力PD から、冷却ユニット14の下流側のA点における温度TA 及び圧力PA に変化する。
【0028】
次に、前記構成の冷却システム10の動作について説明する。
【0029】
図2は本発明の実施の形態における冷却システムの動作を説明する図、図3は本発明の実施の形態における比較例の動作を説明する図、図4は本発明の実施の形態における超臨界状態のCO2 の物性値を他の物質との比較で示す図である。
【0030】
図2は、説明のために簡略化したCO2 のモリエル線図の上に冷却システム10の模式図を重ね合わせたものである。なお、モリエル線図においては、縦軸が圧力(単位:MPa)であり、横軸はエンタルピー(単位:kJ/kg)である。そして、図2において、31は本実施の形態における冷却システム10のサイクルを示し、32はCO2 の飽和液線及び飽和蒸気線を示している。なお、線32は、臨界点より左側が飽和液線となり、臨界点より右側が飽和蒸気線となる。
【0031】
線31で示されるように、圧縮機11の上流側のA点におけるCO2 の温度TA 及び圧力PA は、臨界点における温度及び圧力、すなわち、臨界温度及び臨界圧力よりも高くなっている。なお、図2において、圧力PA の値はPlow である。このことから、圧縮機11の上流側のA点において、CO2 が超臨界状態となっていることが分かる。一例として、A点における温度TA =72.5〔℃〕、圧力PA =8〔MPa〕であり、また、エンタルピーhA =480〔kJ/kg〕である。
【0032】
そして、圧縮機11における圧縮工程によって、CO2 は、断熱圧縮されて温度及び圧力が上昇し、圧縮機11の下流側であって熱交換器12の上流側であるB点における温度TB 及び圧力PB に変化する。なお、図2において、圧力PB の値はPhiである。B点における温度TB 及び圧力PB も、臨界温度及び臨界圧力よりも高くなっているので、B点においても、CO2 が超臨界状態となっていることが分かる。一例として、B点における温度TB =90.0〔℃〕、圧力PB =10〔MPa〕であり、また、エンタルピーhB =490〔kJ/kg〕である。
【0033】
また、図2において、PhiとPlow との差が小さいことが分かる。このように、PhiとPlow との差が小さいので、圧縮機11の仕事量が小さくなり、冷却システム10の効率が向上する。
【0034】
続いて、熱交換器12における放熱工程によって、CO2 は、等圧で放熱して温度が下降し、熱交換器12の下流側であって膨張弁13の上流側であるC点における温度TC 及び圧力PC に変化する。なお、図2において、圧力PC の値はPhiである。C点における温度TC 及び圧力PC も、臨界温度及び臨界圧力よりも高くなっているので、C点においても、CO2 が超臨界状態となっていることが分かる。一例として、C点における温度TC =43.0〔℃〕、圧力PC =10〔MPa〕であり、また、エンタルピーhC =340〔kJ/kg〕である。
【0035】
続いて、膨張弁13における膨張工程によって、CO2 の温度及び圧力が下降し、膨張弁13の下流側であって冷却ユニット14の上流側であるD点における温度TD 及び圧力PD に変化する。なお、図2において、圧力PD の値はPlow である。D点における温度TD 及び圧力PD も、臨界温度及び臨界圧力よりも高くなっているので、D点においても、CO2 が超臨界状態となっていることが分かる。一例として、D点における温度TD =35.0〔℃〕、圧力PD =8〔MPa〕であり、また、エンタルピーhD =340〔kJ/kg〕である。
【0036】
続いて、冷却ユニット14における冷却工程によって、CO2 は、等圧で吸熱して温度が上昇し、冷却ユニット14の下流側であって圧縮機11の上流側であるA点における温度TA 及び圧力PA に変化する。冷却ユニット14の上流側であるD点においても、冷却ユニット14の下流側であるA点においてもCO2 が超臨界状態となっているのであるから、冷却ユニット14においてもCO2 が超臨界状態であり、車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23は、超臨界状態のCO2 によって冷却されることが分かる。
【0037】
また、冷却システム10の効率を示すCOP(成績係数:Coefficient of Performance)は、一例として示したエンタルピーの値を使用して計算すると、
高温側:COPHeat=(hB −hC )/(hB −hA )=15
低温側:COPCool=(hA −hD )/(hB −hA )=14
となり、非常に高い値であることが分かる。
【0038】
これに対し、通常の冷凍サイクルを採用した比較例の冷却システム110のサイクルは、図3において線131で示される。なお、図3は、図2と同様に、説明のために簡略化したCO2 のモリエル線図の上に比較例の冷却システム110の模式図を重ね合わせたものであり、132はCO2 の飽和液線及び飽和蒸気線を示している。また、111、112、113、114及び115は、比較例の冷却システム110の圧縮機、熱交換器、膨張弁、冷却ユニット及び冷媒管路である。さらに、121、122及び123は、冷却ユニット114内に配設された車両駆動モータ、インバータ及びバッテリである。
【0039】
図3から、比較例の冷却システム110では、高温側、すなわち、熱交換器112における放熱工程であるB点からC点までの間ではCO2 が超臨界状態となっているが、低温側、すなわち、冷却ユニット114における冷却工程であるD点からA点までの間ではCO2 が気相と液相とが共存する湿り蒸気の状態となっていることが分かる。また、膨張弁113における膨張工程であるC点からD点までの間では、CO2 の圧力を大きく下降させていることが分かる。そのため、膨張工程によってCO2 の温度を大きく下降させることができるものの、PhiとPlow との差が大きくなるので、圧縮機111の仕事量が大きくなってしまい、その結果、冷却システム110の効率が低下する。
【0040】
一例として、A点における温度TA =−5〔℃〕、圧力PA =3〔MPa〕、エンタルピーhA =440〔kJ/kg〕であり、B点における温度TB =90〔℃〕、圧力PB =10〔MPa〕、エンタルピーhB =490〔kJ/kg〕であり、C点における温度TC =35〔℃〕、圧力PC =10〔MPa〕、エンタルピーhC =290〔kJ/kg〕であり、D点における温度TD =−5〔℃〕、圧力PD =3〔MPa〕、エンタルピーhD =290〔kJ/kg〕である。
【0041】
この場合、冷却システム110の効率を示すCOPは、
高温側:COPHeat=(hB −hC )/(hB −hA )=4
低温側:COPCool=(hA −hD )/(hB −hA )=3
となり、本実施の形態における冷却システム10と比較して非常に低い値であることが分かる。
【0042】
さらに、冷却ユニット114における冷却工程でCO2 が超臨界状態となっておらず、湿り蒸気の状態となっているので、CO2 の熱伝達率が低く、車両駆動モータ121、インバータ122及びバッテリ123を高い効率で冷却することができない。
【0043】
図4に示されるように、超臨界状態のCO2 の熱伝達率は、気相のCO2 の熱伝達率よりも二桁(けた)も大きく、液体である油とほぼ同等である。したがって、本実施の形態における冷却システム10では、超臨界状態のCO2 によって車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23を冷却するので、極めて高い効率で冷却することができる。しかも、前述のように、超臨界状態のCO2 が車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23をも流通し、車両駆動モータ21、インバータ22及びバッテリ23をその内部から直接冷却するので、さらに、高い効率で冷却することができる。
【0044】
なお、図4に示される例において、各媒体、すなわち、空気(気相)、水(液相)、油(ATF:Automatic Transmission Fluid)、CO2 (気相)及びCO2 (超臨界状態)の熱伝達率である平均熱伝達率hm は、次の式(1)によって算出された。
【0045】
【数1】

【0046】
この場合、代表長さLは1〔m〕であると仮定し、代表流速uは1〔m/s〕であると仮定した。また、粘度ν、比重量γ、定圧比熱Cp 及び熱伝導率λの値は、空気(気相)、水(液相)及びCO2 (気相)については、圧力0.1〔MPa〕で温度340〔K〕の場合の値であり、CO2 (超臨界状態)については、圧力7.5〔MPa〕で温度340〔K〕の場合の値である。さらに、油(ATF)について、粘度ν及び比重量γの値は、Gulf ATF TypeJという製品の温度100〔℃〕の場合の値であり、定圧比熱Cp 及び熱伝導率λの値は、シェルサーミヤオイルX−Zという製品の温度100〔℃〕の場合の値である。
【0047】
さらに、図4に示されるように、超臨界状態のCO2 の粘度νは、液体の油より二桁も小さく、気相のCO2 及び空気とほぼ同等である。したがって、本実施の形態における冷却システム10では、超臨界状態のCO2 を車両駆動モータ21の内部の回転子、軸受等の回転部に流通させても、粘度、すなわち、粘性が低いので車両駆動モータ21の駆動ロスが発生することがない。
【0048】
このように、本実施の形態において、冷却システム10は、超臨界状態のCO2 を冷媒として使用し、車両駆動モータ21を含む駆動系を有する環境対策車の車両駆動モータ21、インバータ22、バッテリ23等の電気系の機器を冷却する。そして、車両駆動モータ21、インバータ22、バッテリ23等の冷却対象機器は、すべてパッケージ内に密封された状態で接続されている。また、前記冷却対象機器の内部は、絶縁性を備え、不活性な冷媒であるCO2 で満たされている。
【0049】
これにより、前記冷却対象機器を内部から直接冷却することができ、高い効率で冷却することができる。超臨界状態のCO2 を車両駆動モータ21の内部の回転子、軸受等の回転部に流通させても、粘性が低いので車両駆動モータ21の駆動ロスが発生することがない。
【0050】
また、各冷却対象機器は、冷却ユニット14内における上流側からバッテリ23、インバータ22及び車両駆動モータ21の順番で直列に並べられている。このように、最大許容温度が低い順に上流から並べられているので、冷却ユニット14内における各冷却対象機器の冷却効率が向上する。
【0051】
さらに、冷却システム10は、冷媒であるCO2 の圧縮工程及び膨張工程を含む冷凍サイクル又はヒートポンプサイクルを採用したシステムであり、冷却システム10におけるすべての箇所で、かつ、すべての工程でCO2 が超臨界状態となるように温度及び圧力を維持するようになっている。そのため、冷却システム10のCOPの値が高く、高い効率で冷却対象機器を冷却することができる。
【0052】
また、冷媒であるCO2 は臨界条件が比較的温和であるので、容易に超臨界状態を維持することができる。
【0053】
さらに、バッテリ23が絶縁性を備え、不活性な冷媒であるCO2 で満たされているので、バッテリ23の発熱による電極間のショート等が確実に防止される。
【0054】
なお、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態における冷却システムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における冷却システムの動作を説明する図である。
【図3】本発明の実施の形態における比較例の動作を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態における超臨界状態のCO2 の物性値を他の物質との比較で示す図である。
【符号の説明】
【0056】
10 冷却システム
11 圧縮機
12 熱交換器
13 膨張弁
14 冷却ユニット
21 車両駆動モータ
22 インバータ
23 バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機と、
圧縮された冷媒の放熱を行う熱交換器と、
放熱した冷媒を膨張させる膨張弁と、
膨張した冷媒によって冷却対象機器を冷却する冷却ユニットとを有する冷却システムであって、
前記冷却対象機器は、電気モータを駆動源として備える車両の電気系の機器であって、前記冷却ユニット内に配設され、
前記冷媒は、超臨界状態の二酸化炭素であって、前記冷却対象機器の内部を流通して該冷却対象機器を冷却することを特徴とする冷却システム。
【請求項2】
前記冷却対象機器は、前記電気モータ、該電気モータを制御するインバータ、及び、バッテリを含み、
前記電気モータ、インバータ及びバッテリは、パッケージ内に密封され、
前記冷媒は、前記パッケージ内を流通する請求項1に記載の冷却システム。
【請求項3】
前記電気モータ、インバータ及びバッテリは、前記冷却ユニット内において冷媒の流れの上流からバッテリ、インバータ及び電気モータの順に並べられる請求項2に記載の冷却システム。
【請求項4】
前記冷媒は、圧縮、放熱、膨張及び冷却のすべての工程において超臨界状態に維持される請求項1〜3のいずれか1項に記載の冷却システム。
【請求項5】
冷媒を圧縮する圧縮工程と、
圧縮された冷媒の放熱を行う放熱工程と、
放熱した冷媒を膨張させる膨張工程と、
膨張した冷媒によって冷却対象機器を冷却する冷却工程とを有する冷却方法であって、
前記冷却対象機器は、電気モータを含む駆動系を備える車両の電気系の機器であり、
前記冷媒は、超臨界状態の二酸化炭素であって、前記冷却対象機器の内部を流通して該冷却対象機器を冷却することを特徴とする冷却方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate