説明

冷却方法及び冷却装置

【課題】被冷却物の急速に冷却し、冷却時間を短縮することができる冷却方法を提供する。
【解決手段】被冷却物50の少なくとも一部を多数の金属球26が充填された容器24内で金属球26によって包囲された状態で配置し、隣接する金属球同士の間に形成される間隙を通して容器24に冷却した空気を通過させることで、被冷却物50の冷却を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等の被冷却物の急速冷却を行う冷却方法及び冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の被冷却物を冷却する方法としては、ブラストチラー方式やブライン方式が知られている。
【0003】
ブラストチラー方式は、庫内に、熱源として伝熱面積の大きなエバポレータと、強風ファンを設け、エバポレータのフィンの間に強制的に空気を通過させて、循環量を多くし、冷気を作り出して、庫内の被冷却物へ直接吹き付けることで熱交換の効率を高めた方式である。
【0004】
また、ブライン方式では、特許文献1に記載されたように、タンク内で不凍液の不凍液を循環させ、不凍液に被冷却物を浸漬して冷却を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−173075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブラストチラー方式では、被冷却物の表面は強冷風に晒されているために、被冷却物の表面と中心部との間には温度差が発生し、中心部の方が温度が高いために、熱は中心側から表面側へと移動し、同時に水分も熱と同じ方向に移動するので、中心部から水分が奪われていき、被冷却物の乾燥・脱気が生じるという問題がある。
【0007】
また、空気と被冷却物との間での熱交換により冷却を行っているために、空気の熱伝導率の低さから、冷却時間がかかるという問題がある。
【0008】
一方、ブライン方式では、ブラストチラー方式に比較して、冷却時間は短縮することができるものの低温(例えば−50℃〜−60℃)の不凍液を循環させるためのポンプが高価となり、コストがかかるという問題がある。
【0009】
また、不凍液にアルコール類が含有される場合、その発火性の性質上その管理・取扱が複雑になるという問題がある。
【0010】
さらには、被冷却物を不凍液に浸漬した後に、被冷却物に付着した液体を除去するための工程が必要になる、という問題がある。
【0011】
本発明は、かかる従来の問題に鑑みなされたもので、低コストで簡単に構成することができ、急速に冷却することができる冷却方法及び冷却装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述した目的を達成するために、請求項1記載の発明は、被冷却物の冷却を行う冷却方法において、
被冷却物の少なくとも一部を多数の金属球が充填された容器内で金属球によって包囲された状態で配置し、または、被冷却物を多数の金属球の上に載置して、隣接する金属球同士の間に形成される間隙に冷却した空気を通過させることで、金属球を介して被冷却物の冷却を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、冷却器と、冷却器によって冷却した空気が流通可能な空間と、空間内に配置されて多数の金属球が充填された容器と、隣接する金属球同士の間に形成される間隙を通して容器に冷却した空気を通過させるガイド手段と、を備え、被冷却物の少なくとも一部を容器内で金属球によって包囲された状態で配置し、または、被冷却物を多数の金属球の上に載置して、隣接する金属球同士の間に形成される間隙を通して容器に冷却した空気を通過させることで、金属球を介して被冷却物の冷却を行う冷却装置を特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、隣接する金属球同士の間に形成される間隙に冷却した空気を通過させることで、熱伝導性の良い金属球が冷却され、該金属球を介して被冷却物を冷却することができる。これによって、急速冷却を行うことができて、冷却時間を短縮することができる。
【0015】
被冷却物は液体に浸漬されないので濡れることもなく、液体除去のための工程は不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明による冷却方法を実施する冷却装置の実施形態の内部構造を表す側方から見た断面図である。
【図2】図1の冷却装置の要部断面図である。
【図3】図1の冷却装置の要部断面図である。
【図4】図1の冷却装置の要部断面図である。
【図5】本発明による冷却装置の変形例である。
【図6】本発明による冷却装置の変形例である。
【図7】本発明による冷却装置の変形例である。
【図8】本発明による冷却装置の変形例である。
【図9】本発明による冷却装置の容器の変形例である。
【図10】本発明による冷却装置の変形例である。
【図11】図10の装置に適用可能なガイドを表す断面図である。
【図12】実施例と比較例との温度変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。尚、以下の実施形態は本発明を限定するものではない。
【0018】
図1は、本発明による冷却方法を実施する冷却装置の実施形態の内部構造を表す断面図である。冷却装置10は、断熱壁体12によって包囲されて外部と断熱的に隔離された空間16を有しており、その空間16の一側面(前面)には、被冷却物を搬入出するための扉14が開閉自在に備えられている。
【0019】
空間16内には、冷気発生源(エバポレータ等で構成される)である冷却器18が設置される。
【0020】
また、空間16内には、一対の開口20a、20aを有するガイド体20が設置され、ガイド体20内には、トレー22が支持され、トレー22上には容器24が載置される。
【0021】
ガイド体20は好ましくは熱伝導性の低い材料で構成され、トレー22及び容器24は熱伝導性の高い材料で構成されるとよい。トレー22及び容器24の底面は、金網や多数の穿孔の設けられたパンチングシートで構成することができ、気体が通過可能に構成される。トレー22及び容器24は一体品として構成することも可能である。
【0022】
容器24内には、アルミニウム、銅、真鍮等の熱伝導性の高い金属製の多数の金属球26が充填される。金属球26の形状は、必ずしも真球である必要はなく、楕円体や多少の歪みがあっても良い。
【0023】
金属球26は容器24内で複数層に重なるものの、その形状から、隣接する金属球26同士の間に、空気が流通可能な間隙が形成されている。金属球26の直径(または差し渡し最大寸法)は、小さすぎると空気が流通可能な間隙が形成されにくくなり、大きすぎると被冷却物との間の接触面積が小さくなるために、好適な範囲としては、2mm〜10mm程度、好ましくは3〜8mm程度とするとよい。また、金属球26は、空間16内を平均的な流速(流速:数m/s〜15m/s、好ましくは5〜6m/sの程度)によって流れる空気によって流動することはない非流動状の固体である。また、多数の金属球26は好ましくは拘束されずに、自由度を持たせているとよい。これによって、各金属球26が自由な配置をとることができるため、被冷却物との接触面積を大きくとることができる。
【0024】
ガイド体20の開放された一対の開口20aの両方または一方には、ガイド体20に着脱可能となったカバー28を介してファン30が配置される。ガイド体20及びファン30によって空間16内の空気がガイド体20内を通過するように誘導される。
【0025】
冷却器18を通過する冷媒の循環回路40は、室外に配置される凝縮器42、冷媒タンク44、圧縮機46及び膨張弁48を有する。制御器50は、インバータ51を制御して、圧縮機46の回転を制御するようになっており、被冷却物の種類に応じて、圧縮機46の運転を制御して冷媒の温度を変化させるようにしてもよい。
【0026】
以上のように構成される冷却装置において、被冷却物50は、その全部または一部が金属球26の充填された容器24内で金属球26によって包囲された状態で配置される。被冷却物50は無包装のままでよく、または硬質合成樹脂製カップ、軟質合成樹脂製フィルム若しくは軟質合成樹脂製袋等により包装されていてもよい。
【0027】
冷却器18によって生成された空間16内の冷却された空気は、ファン30によって発生される負圧によりガイド体20内に誘引され、ガイド体20内を流通し、容器24、トレー22及び金属球26の層を通過して流れる。金属球26は、熱伝導性の良い金属から成っているために、金属球26と空気との間での熱交換が行われ金属球26が冷却され空気に放熱され、さらには、金属球26と金属球26に接触した被冷却物50との間での熱交換が行われることで、被冷却物50の急速冷却が行われる。
【0028】
金属球26の熱伝導率を、空気、ブライン、水と比較すると以下のようになる。
【0029】
【表1】

【0030】
このように、アルミニウム、銅といった金属は、空気の104倍、水、エタノールといった液体の300倍以上の高い伝導率を持つ。よって、この高い熱伝導率を持った金属球26を介して被冷却物を冷却することにより、急速冷却が行われる。
【0031】
冷却中には、金属球26または容器24を任意の駆動手段を用いて機械的に動かすことにより、容器24内の金属球26を攪拌することもでき、これにより、熱伝導を促進して、冷却時間をより短縮させることも可能である。
【0032】
この冷却装置10を用いて20℃から−20℃まで被冷却物を冷却するのに要する冷却時間を、金属球26を全く用いない場合とで比較すると、金属球26を全く用いない場合よりもかなり短い時間で冷却を完成させることができる。また、この冷却装置10を用いて冷却を行うと、氷結晶帯の通過時間を非常に短くすることができる。液相から固相へと変わる凝固点の温度帯である氷結晶帯は、通常、被冷却物が物性上最も劣化し易い温度領域であることが知られている。この劣化し易い温度領域を迅速に通過することで、細胞膜の破壊を防ぎ、被冷却物の物性の変化を抑えることができる。
【0033】
また、この冷却装置10によれば、ブライン方式で行った場合よりも冷却時間を短縮することができる。ブライン方式と異なり、不凍液循環のためのポンプが不要であり、被冷却物が濡れないために、低コストで実現することができる。
【0034】
被冷却物50は、金属球が充填された容器24内でその少なくとも一部を多数の金属球26の中に埋設させるほかに、図3に示すように、金属球26の層の上に載置することとしてもよい。また、図4に示すように被冷却物50を容器24内の多数の金属球26の中で斜めに配置するようにしてもよい。
【0035】
図5または図6は、本発明による冷却装置の変形例である。図5及び図6に例示したように、冷却器18、ガイド体20及びファン30の配置は任意に変更可能である。図7は、ガイド体20に複数の容器24を配置した例である。図8は、冷却器18としての冷媒の通過管18aが容器24の周囲に配設された例である。
【0036】
図9は、本発明の金属球26を充填する容器24としての変形例である。容器24の底面は2重の底プレート24a、24cから構成されており、底プレート24cは底プレート24aに対して所定の範囲でスライド可能となっている。各底プレート24a、24cには多数の孔24b、24dが形成されており、各孔24b、24dの大きさは、金属球26が通過可能な大きさとなっているが、使用時には、その底プレート24aと24cとの重なり合いにより、孔24b、24dが重なり合うことによって形成される開口の大きさが金属球26が通過不能な大きさとなっており、これによって、金属球26は容器24内で充填された状態を保持することができる。冷却が終了すると、底プレート24cを底プレート24aに対して相対的にスライドすることで、孔24b及び24dの重なり合いを大きくして、金属球26が通過することができるようにする。これによって、金属球26が容器24から自動的に落下するので、被冷却物50だけを容器24から簡単に取り出すことができる。
【0037】
また、図10は、被冷却物50の冷却を連続式に行うようにしたものである。この場合、空間16は外部と完全に断熱的に隔離される必要はなく、金属球26が充填された容器24内で包囲された状態を維持した状態で被冷却物50を搬送するようにしたものである。容器24内での被冷却物50の搬送は牽引またはコンベアにより行うことができる。図11は、容器24内で被冷却物50が容易に移動できるように、熱伝導性の高いガイド52を容器24内に設けた例であり、ガイド52を介して金属球26と被冷却物50とが間接的に接触するようにしてもよい。ガイド52には熱伝導率を高め空気の通過を許容する多孔性フィン52aを設けることができる。
【0038】
冷却は、常温以上の温度から0℃前後の温度までの被冷却物の冷却、及び所定の開始温度から被冷却物が凍結する−20℃以下の温度までの冷却を含む。
【0039】
また、本発明の冷却装置は、冷却のみならず、加熱装置として、同様の原理により、金属球26同士の間に形成される間隙を通して加熱した空気を通過させることにより被加熱物(被処理物)を加熱することも可能である。
【実施例】
【0040】
・被冷却物:茶碗蒸し(椎茸入り)
商品質量150g、カップ及びトップフィルム15g 合計165g
(茶碗蒸しは従来、凍結は出来ても、解凍すると元に戻らない商品とされている)
・実施例
調味液と全卵を加熱混合したものを、カップ(上部直径φ86、下部直径φ49、高さ54mm)に充填しトップシールを施行後、ボイル槽で(92℃)40分固化させた。その後に、本発明の冷却装置でカップを金属球(アルミニウム製、直径4.76mm)に包囲させた状態で冷却を行った。冷媒温度は−40℃であった。
・比較例1(凍結なし)
実施例と固化させるまでは同じに行い、次に、カップを+6℃の冷却槽に沈めて、芯温15℃まで冷却を行い、冷蔵庫に移して、12時間以上エージングを行った。エージング後の芯温は+6〜+7℃であった。
・比較例2(緩慢凍結法)
実施例と固化させるまでは同じに行い、次に、カップを+6℃の冷却槽に沈めて、芯温15℃まで冷却を行い、水きり後、家庭用冷蔵庫の冷凍庫に入れて、冷却を行った。冷凍庫の庫内温度は−23℃であった。
・比較例3(急速凍結法)
実施例と固化させるまでは同じに行い、次に、カップを+6℃の冷却槽に沈めて、芯温が庫内投入可能温度である60℃になるまで冷却を行い、水きり後、カップを冷却庫に投入してブラストチラー方式により冷却を行った。冷媒温度は−40℃であった。
・比較例4(ブライン凍結法)
実施例と固化させるまでは同じに行い、次に、カップを92℃から不凍液に投入した。不凍液温度は−40℃であった。
【0041】
・結果
実施例及び比較例2〜4は、図12に示すような温度変化を示して目的冷却温度である−20℃に到達した。実施例では、比較例と比較して冷却時間が非常に短いのに加えて、氷結晶帯温度(−1.3℃前後)の通過時間が非常に短いことが分かる。液相から固相へと変わる凝固点の温度帯である氷結晶帯は、通常、被冷却物が物性上最も劣化し易い温度領域であることが知られている。この劣化し易い温度領域を迅速に通過することで、被冷却物の物性の変化を抑制しているものと推定される。
【0042】
同じく、比較例4(ブライン凍結法)も、氷結晶帯温度(−1.3℃前後)の通過時間が他の比較例に比較すると短いが、湿式であるため、その後の洗浄、ふき取り等に手間がかかった。
【0043】
・解凍
実施例、比較例2〜4を電子レンジ540W、5分で解凍した。但し、比較例1は凍結していないので、2分とした。
・比較
ドリップ量と食感を比較した。
【0044】
【表2】

【0045】
以上のように、本発明によれば、従来不可能または困難と言われていた茶わん蒸し(カップ入り)、プリン(カップ入り)、ヨーグルト(カップ入り)、ジャガイモサラダ(袋包装)、ジャガイモ入りカレーのルー(袋包装)、刺身(フィルム包装)、生湯葉(フィルム包装)等の凍結が可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 冷却装置
16 空間
18 冷却器
20 ガイド体(ガイド手段)
24 容器
26 金属球
30 ファン(ガイド手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被冷却物の冷却を行う冷却方法において、
被冷却物の少なくとも一部を多数の金属球が充填された容器内で金属球によって包囲された状態で配置し、または、被冷却物を多数の金属球の上に載置して、隣接する金属球同士の間に形成される間隙に冷却した空気を通過させることで、金属球を介して被冷却物の冷却を行うことを特徴とする被冷却物の冷却方法。
【請求項2】
冷却器と、冷却器によって冷却した空気が流通可能な空間と、空間内に配置されて多数の金属球が充填された容器と、隣接する金属球同士の間に形成される間隙を通して容器に冷却した空気を通過させるガイド手段と、を備え、被冷却物の少なくとも一部を容器内で金属球によって包囲された状態で配置し、または、被冷却物を多数の金属球の上に載置して、隣接する金属球同士の間に形成される間隙を通して容器に冷却した空気を通過させることで、金属球を介して被冷却物の冷却を行う冷却装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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