説明

冷却装置の腐蝕防止構造

【課題】 燃料電池1を冷却する冷却装置10の腐蝕を防止する。
【解決手段】 電気絶縁性を有する循環配管8を介して燃料電池1に冷却装置10が接続される。冷却装置10の流入部位20と流出部位22の間を金属製の管体21,23と導体24により構成した短絡手段25で電気的に短絡するとともに、前記短絡手段25と接地された燃料電池1の基準電極5側の間を導体31で電気的に短絡する。燃料電池1のスタック2の電位差に起因して循環配管8に循環電流が流れるが、その循環電流による冷却装置10の腐蝕は、短絡手段25による電気的なバイパス作用及び導体31による接地電位の維持により確実に防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は循環配管を介して燃料電池に接続された冷却装置の腐蝕防止構造に関し、特に燃料電池の発電効率を低下させることなく、冷却装置の腐蝕を効果的に防止する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池を継続して運転するとその内部温度が上昇するため、燃料電池のスタックに形成した冷却液の流路に純水、プロピレングリコール液、エチレングリコール液などの冷却液を循環して内部を冷却している。図4は一般的な燃料電池の冷却方式を説明するプロセスフロー図である。
【0003】
燃料電池1はスタック2を有し、スタック2は例えば多数のセル3を直列に配置して構成され、その両側にプラス側電極4と基準電極5が設けられる。プラス側電極4には、例えば100Vの電圧が発生し、導体6を介して負荷設備のプラス側に接続され、基準電極5は通常接地されて0Vになっており、導体7を介して負荷設備のマイナス側に接続される。
【0004】
スタック2の内部には図示しない冷却液の流路が形成され、その流路の両端はプラス側電極4付近に設けた流出口2aと、基準電極5付近の流入口2bに突設した出入口パイプとが一対のゴムホース8a等の電気絶縁性の循環配管8に連通する。循環配管8の途中に循環用のポンプ9が設けられ、循環配管8の両端は冷却装置10に接続される。図示の冷却装置10はアルミニューム製の空冷式ラジエータであり、2つのヘッダ11,12とそれらの間を連通する多数のフィン付きのチューブ13を有し、前記循環配管8は、そのゴムホース8aがヘッダ11の流入口14に突設された入口パイプと、ヘッダ12の流出口15に突設された出口パイプとに接続される。
【0005】
ポンプ9を運転すると冷却装置10からの冷却液がスタック2内を循環し、スタック2で熱交換により温度上昇した冷却液が冷却装置10に戻され、そこで再び冷却される。一方、燃料電池の運転中はスタック2のプラス側電極4と基準電極5の間に電位差が発生するが、この電位差に起因してスタック2における冷却液の流入口2bと流出口2a間にも電位差が生じる。そしてこの電位差は冷却水を介して循環配管8および冷却装置10に循環電流を発生させる。即ち、冷却水循環路における、冷却水の電気抵抗で前記電位差を除した値の循環電流が流れる(なお、冷却水の導電率は燃料電池の稼働に伴い次第に上昇する)。
【0006】
図5は循環電流経路の電気的な等価回路である。スタック2のプラス側電極4と基準電極5の間が電位発生源であり、循環配管8の2つの流路の電気抵抗をそれぞれR1、冷却装置10内の流路の電気抵抗をR2、冷却装置10の金属部分(アルミニューム部分)の電気抵抗をR3とすると、回路の電気抵抗は、2R1+(R2・R3)/(R2+R3)で表されるが、通常R2》R3であるから循環電流は殆どアルミニューム製金属部分を流れる。
【0007】
アルミニューム部分に電流が流れると、次いでそのアルミニューム部分から冷却水に電流が流れ、その流通部は電蝕作用により該部分が溶解して腐蝕が発生する。この問題を解決するため、循環配管8に電流が流れないようにする技術が特許文献1に開示されている。図6は特許文献1に開示された循環電流防止方法を説明するプロセスフロー図である。なお図6が前述した図4と同じ部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0008】
図6において、スタック2の流出口2a部分と流入口2b部分に導電性の網目部材16,16が配置され、それら網目部材16,16間が導体17で短絡される。すなわち前記流入口2aと流出口2b間の電位差による循環電流を導体17で短絡し、循環配管8には流れないようにしている。参考までに上記のように短絡した状態を図5の等価回路に点線で示す。なお図6に示すように導体17は所望により基準電極5と導通される。
【0009】
【特許文献1】特開2001−155761号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1の技術はスタック2の流出口2a部分と流入口2b部分を短絡しているが、形成される短絡回路の電気抵抗はスタック2の内部における流路の電気抵抗のみになる。そして、その循環配管8側はその短絡線と並列されているため、循環配管8側への循環電流は防止できるが、短絡線のない場合にくらべて、全体の電気抵抗が減少し、短絡電流が増加して燃料電池の発電効率が低下するという別の問題が発生する。
【0011】
また短絡電流の増加に伴い各セル3を構成するセパレータの耐久性が低下するという問題もある。そこで本発明はこれら問題を解決した冷却装置の腐蝕防止構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するための第1の本発明は、電気絶縁性を有する循環配管を介して燃料電池に接続された冷却装置の腐蝕防止構造であり、前記冷却装置の金属部分と接地された電池の基準電極側を導体で短絡したことを特徴とする(請求項1)。
【0013】
前記課題を解決するための第2の本発明は、電気絶縁性を有する循環配管を介して燃料電池に接続された冷却装置の腐蝕防止構造であり、前記循環配管における冷却装置の流入部位と流出部位の間を短絡手段により電気的に短絡したことを特徴とする(請求項2)。
【0014】
上記第2の発明において、前記短絡手段と接地された燃料電池の基準電極側を導体で電気的に短絡したことを特徴とする(請求項3)。
【0015】
上記短絡手段を有する腐蝕防止構造において、前記流入部位または流出部位に導電性の管体を挿入し、その管体は前記短絡手段の一部を構成することができる(請求項4)。
【0016】
上記管体を有する腐蝕防止構造において、前記導電性の管体の内部に棒状の電極または格子状の電極を配置することができる(請求項5)。
【発明の効果】
【0017】
第1の本発明に係る腐蝕防止構造では、冷却装置の金属部分と接地された燃料電池の基準電極側の間を導体により電気的に短絡しているので、冷却装置の金属部分を接地状態に維持できる。そのため循環配管を流れる冷却液に電流が流れたとしても、冷却装置の金属部分には腐蝕を起こす電流が流れないので、該部分が電触作用により腐蝕することを防止できる。
【0018】
第2の本発明の腐蝕防止構造では、冷却装置の流入部位と流出部位の間を短絡手段で電気的に短絡しているので、その流入部位と流出部位の間に電位差が発生しない。そして循環配管を流れる冷却液に電流が流れたとしても、その電流は実質的に冷却装置の金属部分をバイパスする。そのため冷却装置の金属部分が電触作用により腐蝕することを防止できる。
【0019】
上記第2の発明において、さらに前記短絡手段と接地された燃料電池の基準電極側の間を導体で短絡する場合には、冷却装置の流入部位と流出部位が接地電位に維持されるとともに、その金属部分には実質的に循環電流が流れない。そのため冷却装置の金属部分が電触作用により腐蝕することをより確実に防止できる。
【0020】
上記第2の発明において、前記流入部位または流出部位に導電性の管体を挿入し、その管体で前記短絡手段の一部を構成した場合は、簡単な構造で前記短絡手段の電気抵抗を低減できる。
【0021】
上記導電性の管体の内部に棒状の電極または格子状の電極を配置した場合は、口径の小さい循環配管であっても、流動抵抗をあまり増加させることなく前記短絡手段の電気抵抗を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に図面により本発明の最良の形態を説明する。図1(A)(B)は夫々本発明に係る冷却装置の腐蝕防止構造のプロセスフロー図である。なお図4に示す例と本実施形態の同じ部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する(以下の実施形態も同じ)。本実施形態では、金属製(具体的にはアルミニューム製)の空冷式ラジエータからなる冷却装置10で燃料電池1のスタック2を循環する冷却液が冷却される。すなわち、冷却装置10のヘッダ11に連結した流入口14のパイプとヘッダ12に連結した流出口15のパイプが、一対のゴムホース8a等の電気絶縁性を有する循環配管8を介して、スタック2の流出口2aと流入口2bにそれぞれ接続され、循環配管8の途中に循環用のポンプ9が設けられる。
【0023】
図1(A)の本実施形態では、スタック2のプラス側電極4に接続された導体6と接地された燃料電池1の基準電極5に接続した導体7から電力が図示しない負荷設備に供給される。そして冷却装置10の金属部分(図1におけるヘッダ12)と基準側電極5側が導体30により電気的に短絡される。
【0024】
このように燃料電池1の基準電極5側と冷却装置10の金属部分の間を導体30で電気的に短絡すると、冷却装置10の金属部分の電位が基準電極5と同じ接地電位(0V)になるので、冷却装置10の金属部分へ電流が循環することによる腐蝕を防止できる。なおヘッダ12と基準側電極5側の間を電気的に短絡する代わりに、ヘッダ11と基準側電極5側の間を電気的に短絡してもよい。
【0025】
次に上記の腐蝕防止構造の作用を説明する。ポンプ9を運転すると冷却装置10で冷却された冷却液が循環配管8中を循環し、燃料電池1のスタック2内部を冷却する。スタック2が運転状態にあるときは、そのプラス側電極4と基準電極5の間に例えば100Vの電位差が発生し、それに起因して冷却液が流れる流出口2aと流入口2bの間に電位差を生じ、循環配管8の冷却液を通して冷却装置10に循環電流が流れる。しかし、冷却装置10の金属部分は前記のように基準側電極5側と電気的に短絡されて接地電位になっているので、電蝕作用による該金属部分の腐蝕は防止される。
【0026】
図1(B)は第2の本発明に係る冷却装置の腐蝕防止構造のプロセスフロー図である。本実施形態も金属製(アルミニューム製)の空冷式ラジエータからなる冷却装置10で燃料電池1のスタック2を循環する冷却液が冷却される。すなわち、冷却装置10のヘッダ11に連結した流入口14とヘッダ12に連結した流出口15が、一対のゴムホース8a等の電気絶縁性を有する循環配管8を介して、スタック2の流出口2aと流入口2bにそれぞれ接続され、循環配管8の途中に循環用のポンプ9が設けられる。
【0027】
冷却装置10の流入口14付近における循環配管8の部分、すなわち流入部位20に導電性の管体21が挿入され、流出口15付近の循環配管8の部分、すなわち流出部位22に同じく導電性の管体23が挿入される。そして管体21と管体23を導体24で短絡している。このように管体21と管体23を短絡すると、流入部位20と流出部位22の間に電位差を発生させないので、より確実にその腐蝕を防止できる。
【0028】
そして前記管体21,22および導体24により第2の本発明における短絡手段25が構成される。さらに本実施形態では、冷却装置10の流出部位22と燃料電池1の基準電極5側の間を導体31で短絡している。なお流出部位22の代わりに流入部位20と燃料電池1の基準電極5側の間を導体31で短絡してもよい。
【0029】
次に上記の腐蝕防止構造の作用を説明する。ポンプ9を運転すると冷却装置10で冷却された冷却液が循環配管8中を循環し、燃料電池1のスタック2内部を冷却する。スタック2が運転状態にあるときは、そのプラス側電極4と基準電極5の間に例えば100Vの電位差が発生し、それに起因して冷却液が流れる流出口2aと流入口2bの間に電位差を生じ、循環配管8の冷却液を通して冷却装置10に循環電流が流れる。
【0030】
しかし冷却装置10の流入部位20と流出部位22が短絡手段25で短絡されているので、短絡手段25により管体21、管体23および導体24の総合的な電気抵抗をチューブ13等の電気抵抗より十分に低い値に設定しておくと、循環配管8を流れる電流は管体21−導体24−管体23のルートで冷却装置10をバイパスし、冷却装置10の金属部分には電流が実質的に流れないため、該金属部分の腐蝕がより確実に防止できる。
【0031】
さらに前記のように流出部位22または流入部位20と燃料電池1の基準電極5側の間を導体31で短絡したときは、冷却装置10が接地電位になるのでその金属部分の腐蝕がより確実に防止できる。
【0032】
前記短絡手段25の一部を構成する管体21および管体23の電気抵抗は出来るだけ低いほうが好ましい。電気抵抗は管材料の固有抵抗と冷却液との接触面積とにより定まるので、低い固有抵抗値の材質、例えば銅やアルミニュームを管材料として使用するとともに、前記接触面積を出来るだけ大きくする。図2,図3に接触面積を大きくした管体21(23)の例を示す。
【0033】
図2(a)は銅やアルミニューム等の金属で作られた棒状の電極26を内部に配置した管体21(23)の断面図であり、図2(b)はそのB−B断面図である。電極26は管体21(23)の周壁に設けた貫通孔に液密に挿入固定され、管体21(23)に電気的に接続される。そして管体21(23)の外周面から外部に突出した電極端部に前記導体24が接続される。この実施形態では、管体21(23)の内周面と電極26の表面が冷却液との接触面になり、管体21(23)のみの場合より電極26の表面積だけ接触面積が増加する。
【0034】
図3(a)は銅やアルミニューム等の金属で作られた格子状の電極27を内部に配置した管体21(23)の断面図であり、図3(b)はそのA−A断面図である。格子状の電極27は放射状に配列した6つの短冊状の電極における一方の端部を互いに連結し、他方の端部を管体21(23)の内周面に連結して構成される。しかし格子配列の形態はこれに限らず井桁状などであってもよい。そして各格子の間隙が冷却液の通過する流路28になる。なお短冊状に形成された各格子は、その表面が冷却液の流通方向に平行になるように配置すると、高い強度を維持した状態で流動抵抗の増加を大幅に低減できる。この実施形態も管体21(23)の内周面と格子状の電極27の表面が冷却液との接触面になり、管体21(23)のみの場合より格子状の電極27の表面積だけ接触面積が増加する。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る冷却装置の腐蝕防止構造は、燃料電池の冷却液を熱交換して冷却するシステムに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る冷却装置の腐蝕防止構造の第1及び第2のプロセスフロー図。
【図2】図1に示す管体21(23)の1例を示す断面図。
【図3】図1に示す管体21(23)の他の例を示す断面図。
【0037】
【図4】燃料電池の冷却方式を説明するプロセスフロー図。
【図5】図4における循環電流が流れる経路の電気的な等価回路。
【図6】従来の循環電流防止方法を説明するプロセスフロー図。
【符号の説明】
【0038】
1 燃料電池
2 スタック
2a 流出口
2b 流入口
3 セル
4 プラス側電極
5 基準電極
6,7 導体
8 循環配管
8a ゴムホース
9 ポンプ
10 冷却装置
【0039】
11,12 ヘッダ
13 チューブ
14 流入口
15 流出口
16 網目部材
17 導体
20 流入部位
【0040】
21 管体
22 流出部位
23 管体
24 導体
25 短絡手段
26 棒状の電極
27 格子状の電極
28 流路
30,31 導体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁性を有する循環配管8を介して燃料電池1に接続された冷却装置10の腐蝕防止構造において、前記冷却装置10の金属部分と接地された電池の基準電極5側を導体30で短絡したことを特徴とする冷却装置の腐蝕防止構造。
【請求項2】
電気絶縁性を有する循環配管8を介して燃料電池1に接続された冷却装置10の腐蝕防止構造において、前記循環配管8における冷却装置10の流入部位20と流出部位22の間を短絡手段25により電気的に短絡したことを特徴とする冷却装置の腐蝕防止構造。
【請求項3】
請求項2において、前記短絡手段25と接地された燃料電池1の基準電極5側を導体31で短絡したことを特徴とする冷却装置の腐蝕防止構造。
【請求項4】
請求項2または3において、前記流入部位20または流出部位22に導電性の管体21(23)が挿入され、その管体21(23)が前記短絡手段25の一部を構成することを特徴とする冷却装置の腐蝕防止構造。
【請求項5】
請求項4において、前記導電性の管体21(23)の内部に棒状の電極26または格子状の電極27が配置されていることを特徴とする冷却装置の腐蝕防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−66103(P2006−66103A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244402(P2004−244402)
【出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)
【Fターム(参考)】