説明

冷房用放射パネル、及び冷房装置

【課題】広範囲に亘る空間を冷却することができ、従来のエアコンに代わるような十分な冷却効率を有する冷房用放射パネル、及びこの冷房用放射パネルを用いた冷房装置を提供する。
【解決手段】板状の部材と、前記部材の少なくとも一方の主面上に形成された又は前記部材内に塗布又は埋設した遠赤外線放射部材とを具えるようにして冷房用放射パネルを構成し、この冷房用放射パネルを用いて冷房装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷房用放射パネル及び冷房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化により、省エネ・CO削減に関する多くの取り組みが行われている。東京都における温熱効果ガスの排出量の部門別調査によると、家庭部門が全体の25%を占めていることから、各家庭レベルでの対策が急務である。家庭における消費電力の大半を占めるのはエアコンであるので、エアコンに代わるような冷房効率に優れた新規な冷房装置の開発が急務となっている。
【0003】
このような観点から、近年においては、冷房用放射パネルなる新規な冷房装置(部材)が開発されている。このような冷房装置は、例えば、アルミニウム基板などの均熱板の裏面に冷媒流路を設け、この冷媒流路中に冷媒を流すことによって前記冷媒に起因した冷熱を、均熱板の主面から放射して、前記冷房装置の周辺雰囲気の冷房を行うものである(例えば、特許文献1)。
【0004】
なお、上記特許文献1においては、均熱板の主面上に吸放湿性材料層を形成して、冷媒流路に冷媒を流した際の初期に生成するような結露の発生を防止するようにしている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の冷房装置、すなわち冷房用パネルでは、パネルのごく近傍の領域は冷却することができるが、パネルから数十cm程度離れると冷房の効率が減少し、その効果を発揮することができない。したがって、上述したエアコンを代替するのに十分な特性を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−132312号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、広範囲に亘る空間を冷却することができ、従来のエアコンに代わるような十分な冷却効率を有する冷房用放射パネル、及びこの冷房用放射パネルを用いた冷房装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、本発明は、
板状の部材と、
前記部材の少なくとも一方の主面上に形成された又は前記部材中に埋設した遠赤外線放射部材と、
を具えることを特徴とする、冷房用放射パネルに関する。
【0009】
また、本発明は、
上記冷房用放射パネルと、
冷却材を収納し、一面が開放されたケース部材とを具え、
前記冷房用放射パネルは、前記ケース部材の解放した前記一面を塞ぐようにして配置されていることを特徴とする、冷房装置に関する。
【0010】
本発明の冷房用放射パネルによれば、板状部材の主面上に遠赤外線放射部材を形成する、又は前記板状部材内に遠赤外線放射部材を塗布又は埋設するようにしている。したがって、前記冷房用放射パネルの裏面側又は内部に冷媒流路を形成し、この冷媒流路内に冷媒を流した場合においても、前記冷媒の冷熱が、前記遠赤外線放射部材が発する遠赤外線によって遠方にまで伝達されるようになるので、前記冷媒による冷却は、前記冷房用放射パネルの近傍のみでなく、前記冷房用放射パネルから離隔した空間にまで達するようになる。
【0011】
結果として、上記冷房用放射パネルを、例えば家屋の壁面及び/又は天井に設置し、その背面に設けた冷媒流路に冷媒を流すようにすれば、上記遠赤外線放射部材の遠赤外線の放射効果によって、前記家屋内に前記冷媒の冷熱が伝達されるようになるので、前記家屋内の冷却、すなわち冷房を十分に行うことができる。
【0012】
なお、一般には遠赤外線により熱放射伝達が行われているが、この温熱効果は、前記遠赤外線が所定の物質に照射された場合において、前記遠赤外線と前記物質中の分子とが共鳴することによって前記分子の運動を引き起こすためになされるものである。熱放射と熱吸収とは密接に関係し、熱放射し易い物体は、それと同程度に熱吸収し易くなる(キルヒホフの法則)。従って、熱放射と熱吸収の割合である放射率と吸収率は、放射率=吸収率の関係となる。本発明の冷房用放射パネルでの冷房時の熱吸収は極めて大きくなるので、暖かい対象物をより効果的に早く冷やすこととなる。
【0013】
すなわち、本発明は、遠赤外線の上述した特性に着目し、この特性を利用して冷熱を被対象物へより早く伝達させるようにすることによって、広範囲に亘る空間を冷却できることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。
【0014】
なお、本発明の冷房装置は、ケース部材の内部に冷却材を入れ、このケース部材の開放した一面を上記冷房用放射パネルで塞ぐようにしたので、前記冷却材による冷熱が前記冷房用放射パネルの遠赤外線放射部材によって遠方にまで伝達されるようになる。したがって、簡易な構成の冷房装置を提供することができるようになる。
【0015】
また、上記ケース部材の大きさを携帯できるような大きさに設定すれば、持ち運び可能な小型の冷房装置を提供することができるようになる。
【0016】
本発明の一態様において、前記ケース部材は引き出し部を有し、前記冷却材を出し入れ自由に構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上、本発明によれば、広範囲に亘る空間を冷却することができ、従来のエアコンに代わるような十分な冷却効率を有する冷房用放射パネル、及びこの冷房用放射パネルを用いた冷房装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の冷房用放射パネルの一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す本実施形態の冷房用放射パネルによる冷熱放射効果を検証するための実験装置を示す図である。
【図3】冷房用放射パネルの表面温度と、50cmの位置での放射温度との関係を示すグラフである。
【図4】冷房用放射パネルの表面温度を20℃とした場合の50cm及び100cmの位置における放射温度を測定値を示す図である。
【図5】本発明の冷房装置の一例を示す概略構成図である。
【図6】図5に示す本実施形態の冷房装置による冷熱放射効果を検証するための実験装置を示す図である。
【図7】図5に示す冷房装置内への冷却材設置後の、装置内温度の変化を示すグラフである。
【図8】図5に示す冷房装置内への冷却材設置から60分経過後の、50cmの位置における放射温度の平均値である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
(冷房用放射パネル)
図1は、本発明の冷房用放射パネルの一例を示す概略構成図である。図1に示すように、本実施形態の冷房用放射パネル10は、板状の部材11と、この部材11の主面上に形成された遠赤外線放射部材12とを有している。
【0021】
板状部材11は、任意の部材から構成することができる。例えば、従来のように、熱伝導性に優れるアルミニウムやその合金、さらには銅及び銅合金、ステンレス等から構成することができる。また、特に家屋に用いるような場合は、家屋材として近年良く用いられているガルバニウム材などを用いることもできる。
【0022】
なお、本実施形態では、遠赤外線放射部材12を板状の部材11の主面上に設けるようにしているが、部材11内に塗布又は埋設するようにすることもできる。この場合は、部材11として上述の金属材料を用いる場合、この金属材料から部材11を鋳造等して形成する際に、溶融状態の金属中に遠赤外線放射部材12を混ぜ込む等することによって、上述した構成、すなわち遠赤外線放射部材12が塗布又は埋設してなる部材11を得ることができる。
【0023】
また、部材11を金属材料から構成する代わりに、不織布等の多孔性の部材から構成する場合は、遠赤外線放射部材12を粉末状とし、得られた粒子を前記部材の開口部に担持させることによって得ることができる。さらには、不織布中に織り交ぜてもよい。
【0024】
遠赤外線放射部材12は、遠赤外線を放射できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ネフライトのような放射率の高い天然の鉱物であり、且つ近年騒がれているアスベスト成分を全く含有しないものが好ましい。
【0025】
冷房用放射パネル10の大きさ(幅及び長さ)は、その使用目的に応じて任意の大きさに形成することができる。例えば、以下に説明する携帯型の冷房装置に用いるような場合は、数cm〜数十cm程度の大きさとすることができ、室内に設置するエアコンの代わりに用いるような場合は、冷房用放射パネル10を家屋の壁面や天井に埋め込むようにするので、例えば数mのオーダとなる。一方、厚さは、長時間の使用においても破損しないような強度を有するように、部材11や遠赤外線放射部材12の材料等を考慮して決定する。
【0026】
一方、遠赤外線放射部材12の大きさ(幅及び厚さ)は、上述した冷房用放射パネル10の大きさに合わせて設定する。遠赤外線放射部材12として例示した遠赤外線放射性材料の内、ゲルマニウム及びチタンは高価であり、一般に数cmの大きさとした場合においてもかなり高額になってしまう。一方、ネフライトは天然の鉱物であって、比較豊富な埋蔵量を有するので、遠赤外線放射部材12を大型化した場合においても比較的安価である。したがって、遠赤外線放射部材12としては特にネフライトのような放射率の高い天然の鉱物を用いることが好ましい。
【0027】
なお、ゲルマニウムやチタンを用いる場合は、これらを粉末状とし、部材11内に埋設させて用いる場合が多い。
【0028】
また、遠赤外線放射部材12の厚さは、図1に示すように、板状の部材11の主面上に形成するような場合においては、例えば0.1cm以上とすることができる。また、不織布等に担持させるような場合においては、不織布の厚さを上述のような厚さに設定する。
【0029】
また、図1に示すように、部材11の内部には、例えば塩化ビニル製のパイプ15を埋め込み、このパイプ15内にポンプ16によって冷媒を循環させる。この時、前記冷媒に起因した冷熱が、遠赤外線放射部材12を介して被対象物へより早く放射される。すなわち、遠赤外線放射部材12が発する遠赤外線によって遠方にまで伝達される。したがって、図1に示す本実施形態の冷房用放射パネル10においては、その近傍のみではなく、被対象物へより早く効果的に冷却することができる。
【0030】
図2は、図1に示す本実施形態の冷房用放射パネル10による冷熱放射効果を検証するための実験装置である。図2に示すように、本実験装置は、図1に示す冷房用放射パネル10(遠赤外線放射部材12)の表面に表面温度センサ21を配置し、さらに冷房用放射パネル10から50cm及び100cm離隔した位置に放射温度計22、23(INOVA社、NM−0036)を配置するようにしている。
【0031】
なお、冷房用放射パネル10の部材11はガルバニウム材とし、遠赤外線放射部材12はネフライトとし、厚さを2.0cmとした。また、冷房用放射パネル10の大きさは、長さ(高さ)850.0cm、幅850.0cmとした。
【0032】
また、図2に示す実験系は、恒温恒室シールドルーム内で実施し、温度30℃、湿度50%に設定した。
【0033】
図3は、冷房用放射パネル10の表面温度と、50cmの位置での放射温度との関係を示すグラフである。図3に示すように、本実施形態の冷房用放射パネル10においては、その表面温度が減少するにつれて、50cmの位置における放射温度が低下していることが分かる。すなわち、冷房用放射パネル10からの遠赤外線の放射によって、冷熱が被対象物へより早く伝達されていることが分かる。
【0034】
一方、特許文献1に示すような従来の冷房用放射パネルにおいては、その表面温度が低下しても50cmの位置における放射温度に変化がないことが判明した。
【0035】
次に、冷房用放射パネル10の表面温度を20℃とした場合の50cm及び100cmの位置における放射温度を測定し、図4に掲載した。なお、掲載値は、放射温度を20回測定した場合の平均値である。
【0036】
図4から明らかなように、本実施形態の冷房用放射パネル10においては、50cm及び100cmのいずれの位置においても、特許文献1に示すような従来の冷房用放射パネルに比較して放射温度の低下が確認された。したがって、本実施形態の冷房用放射パネル10は、冷熱を遠方まで伝達し、当該箇所を冷却できることが確認された。
【0037】
(冷房装置)
図5は、本発明の冷房装置の一例を示す概略構成図である。図5に示すように、本実施形態の冷房装置50は、図1に示す冷房用放射パネル10と、ケース部材51とを有している。なお、冷房用放射パネル10は、ケース部材51の開放した一面を塞ぐようして設けられている。また、ケース部材52には、引き出し53が装着され、この引き出し53に保冷材等の冷却材53を配置し、出し入れ自由に構成されている。
【0038】
冷房用放射パネル10は、上述した実施形態に即して形成することができる。但し、その大きさは、所望する冷房装置50の大きさに併せて適宜に設定することができる。
【0039】
引き出し53を含むケース部材51は、任意の材料から構成することができるが、例えば、冷房用放射パネル10の部材11と類似の金属材料から構成することができる。
【0040】
冷却材53は、例えばドライアイスや氷とすることができる。
【0041】
本実施形態における冷房装置50は、冷却材53に起因した冷熱が、冷房用放射パネル10、具体的には遠赤外線放射部材を介して被対象物へより早く放射される。すなわち、前記遠赤外線放射部材が発する遠赤外線によって被対象物へより早く伝達される。したがって、図5に示す本実施形態の冷房用放射パネル50においては、その近傍のみではなく、比較的遠方の領域までの効果的に冷却することができる。この結果、極めて簡易な構成の冷房装置を提供することができる。
【0042】
この場合、冷房装置50の大きさを数cm程度の大きさとすれば、携帯可能ないわゆるカイロ型の冷房装置を提供することができる。
【0043】
図6は、図5に示す本実施形態の冷房装置50による冷熱放射効果を検証するための実験装置である。図6に示すように、本実験装置は、図5に示す冷房装置50(冷房用放射パネル10)の表面に温度センサ55を配置し、さらに冷房装置50の、冷房用放射パネル10から50cm離隔した位置に放射温度計56(INOVA社、NM−0036)を配置するようにしている。
【0044】
なお、冷房用放射パネル10は、不織布中にネフライトを織り交ぜたものを用い、ネフライトを織り交ぜずに図5に示すような装置を構成した場合との特性を比較した。なお、ネフライトは不織布に対して20.0体積%で含有させるようにし、冷房用放射パネル10の大きさは、長さ(高さ)5.0cm、幅10.0cmとした。また、冷却材としては保冷材を用いた。また、実験は、温度24.2℃の条件で実施した。
【0045】
図7は、冷却材設置後の、装置内温度の変化を示すグラフである。図から明らかなように、本実施形態の冷房装置、すなわち冷房用放射パネル10を不織布とネフライトから構成した場合は、不織布のみの場合と比較して、装置内の冷却温度の低下が早く、冷却効率が高いことが分かる。
【0046】
図8は、60分経過後の、50cmの位置における放射温度の平均値である。なお、この平均値は、60分経過した時点から30秒間(測定の時間分解能:1秒)の放射温度の平均である。図8から明らかなように、不織布のみの場合は、環境温度とほぼ同じ24.35℃であるのに対し、不織布とネフライトとからなる冷房用放射パネル10を使用した本実施形態の冷房装置においては、放射温度が20.33℃となっており、両者において約4.0℃の温度差のあることが判明した。
【0047】
すなわち、冷房用放射パネル10からの遠赤外線の放射によって、冷熱が遠方にまで伝達されていることが分かる。
【0048】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 冷房用放射パネル
11 板状の部材
12 遠赤外線放射部材
15 配管
16 ポンプ
21 表面温度センサ
22,23 放射温度計
50 冷房装置
51 ケース部材
52 引き出し
53 冷却材
50 温度センサ
56 放射温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の部材と、
前記部材の少なくとも一方の主面上に形成された又は前記部材内に埋設した遠赤外線放射部材と、
を具えることを特徴とする、冷房用放射パネル。
【請求項2】
前記部材中に冷媒を流すための流路が形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の冷房用放射パネル。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の冷房用放射パネルと、
冷却材を収納し、一面が開放されたケース部材とを具え、
前記冷房用放射パネルは、前記ケース部材の開放した前記一面を塞ぐようにして配置されていることを特徴とする、冷房装置。
【請求項4】
前記ケース部材は引き出し部を有し、前記冷却材を出し入れ自由に構成したことを特徴とする、請求項3に記載の冷房装置。
【請求項5】
前記遠赤外線放射部材は、ネフライトであることを特徴とする、請求項3又は4に記載の冷房装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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