説明

冷間加工性に優れる肌焼鋼および高疲労強度浸炭材

【課題】冷間加工性に優れるのみならず、浸炭の熱処理条件によることなく過剰な浸炭が抑制され、浸炭処理後に高い耐疲労特性を有する肌焼鋼を提供する。
【解決手段】C:0.10〜0.35質量%、Si:0.01〜0.50質量%、Mn:0.40〜1.50質量%、P:0.02質量%以下、S:0.03質量%以下、Al:0.04〜0.10質量%、Cr:0.5〜2.5質量%、Sb:0.002〜0.035質量%、B:0.0005〜0.0050質量%、Ti:0.003質量%以下およびN:0.0080質量%未満を含有し、残部はFe及び不可避不純物の成分組成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に産業機器や自動車の分野にて機械構造用材料に供する、冷間加工性に優れかつ浸炭により高い耐疲労特性を付与し得る肌焼鋼および優れた耐疲労特性を有する浸炭材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の部品素材は、棒鋼を冷間成形して製造される場合が多く、従って、高い冷間成形性が要求される。そのため、球状化熱処理を施して炭化物を球状化し、冷間加工性、とりわけ冷間鍛造性を高めることが行われている。
【0003】
また、鋼の成分組成の観点からは、変形抵抗に大きく影響するSiを低減するなどの提案もなされている。更に、Bの焼入れ性を有効活用した鋼の提案もある。
例えば、特許文献1には、Bの焼入れ性向上の効果分だけ他の合金元素を減量することによって、焼ならし工程から硬さを低くし、従来鋼に対して歯切り性を飛躍的に向上させた、浸炭歯車用鋼が提案されている。
【0004】
さらに、特許文献2では、固溶強化元素であるSiおよびMnを低減して焼入れ性をBで確保する成分系と、製造条件との組み合わせにより、冷間加工性を確保する肌焼鋼が提案されている。
【0005】
一方、近年、自動車等に用いられる歯車等には、省エネルギー化による車体の軽量化に伴って、サイズの小型化が要求され、また、エンジンの高出力化に伴って歯車にかかる負荷も増大している。歯車の耐久性は、主に歯元曲げ疲労破壊並びに歯面の面圧疲労破壊によってきまる。歯元曲げ疲労破壊強度については、浸炭時に表層に生じる不完全焼入れ層の低減や、旧オーステナイト粒径の微細化が有効とされている。また、面圧疲労強度の向上については、焼戻し軟化抵抗性との関連が指摘され、Si量を高めた成分や、Moを添加した成分、または浸炭表層に微細な炭化物を分散させた鋼が、それぞれ提案されている。
【0006】
例えば、特許文献3には、旧オーステナイト粒径を7μm以下にすることによって、疲労強度と靭性を改善した浸炭用鋼が提案されている。また、特許文献4には、表面の浸炭層に炭化物を分散させた鋼が、それぞれ提案されている。
【0007】
また、浸炭熱処理では、鋼材表面の炭素濃度が非処理材の形状の影響を大きく受ける。すなわち、処理材の平坦部では、狙い通りの硬さや組織が得られても、角部では浸炭が過剰となり、粗大炭化物の生成に伴う耐疲労特性の低下が懸念されている。特に、近年、用いられるようになってきた真空浸炭では、この傾向が顕著になっている。そこで、炭素の侵入拡散や炭化物の生成挙動に与える影響を考慮した成分組成の提案がなされている。
【0008】
例えば、特許文献5には、炭化物の生成抑制効果のある、Si、CuおよびNiを増加させ、逆に炭化物を増大させやすいCr量を減らすことによって、過剰浸炭による耐疲労特性の低下を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3551573号公報
【特許文献2】特許第3764586号公報
【特許文献3】特許第3063399号公報
【特許文献4】特許第4056709号公報
【特許文献5】特許第4254816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献1および2に記載の技術では、冷間加工性や衝撃特性の向上は認められるが、疲労特性は従来鋼と同等である。
特許文献3および4に記載の技術では、Nb、TiおよびVなどの炭化物生成元素を多量に使用し、微細析出した場合に加工時の変形抵抗を著しく上昇させる等の問題があった。
特許文献5に記載された技術では、Siを多量に添加しているため、冷間加工性の低下が懸念され、またガス浸炭の場合には粒界酸化の問題が生じる。さらに、Crの低減に伴って強度を確保するためのCuおよびNiを添加せざるを得ず、合金コストが高くなることも問題である。
【0011】
本発明は、上記の実情に鑑み開発されたものであり、冷間加工性に優れるのみならず、浸炭の熱処理条件によることなく過剰な浸炭が抑制され、浸炭処理後に高い耐疲労特性を有する肌焼鋼およびこれを用いた浸炭材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下に述べる知見を得た。
まず、耐疲労特性を向上するために、肌焼鋼の浸炭表層において、粗大な炭化物の生成を抑制して炭化物を微細に分散させるための方途を鋭意究明した。
ここで、図1に、肌焼鋼の浸炭表層における、炭化物の最大粒径に及ぼすAl、BおよびTi量の関係を示す。同図からわかるように、粗大な炭化物の生成を抑制して炭化物を微細に分散させるためには、AlおよびB量の制御とTi添加量の抑制とが重要である。図1には、一部の鋼に関して面疲労強度を測定した結果についても示したが、粗大な炭化物の生成の抑制により、高い面疲労強度が得られることもわかる。
【0013】
なお、図1に結果を示す実験は、0.2質量%C−0.1質量%Si−0.6質量%Mn−1.5質量%Cr−0.02質量%Nb鋼を基本として、この基本組成に種々の含有量のAlおよびBを添加した鋼素材を準備し、これら鋼素材に以下の条件の処理を施した後の、炭化物の最大粒子径(μm)および面疲労強度(MPa)を評価したものである。
すなわち、鋼素材より、25mm径の丸棒を加工し、カーボンポテンシャル2%、950℃で5時間の高濃度浸炭を行い、一旦600℃に冷却した後、再度850℃で30分間保持し、次いで60℃にて油冷後170℃で2時間の焼戻し処理を行った。この処理を行ったサンプルを切断した後、切断面をピラクール液で腐食し、表面から30μm深さまでの領域を走査型電子顕微鏡で6000μmにわたって観察し、画像解析により炭化物の最大粒子径を求めた。また、上記丸棒よりローラーピッチング試験片を採取し、これに上述の高濃度浸炭から焼戻し処理までの各処理を施したサンプルに対し、すべり率40%および油温80℃の条件でローラーピッチング試験を行い、10回強度(試験片表面にピッチングが発生する限界強度)を、面疲労強度として評価した。
【0014】
さらに、鋼材表面からの過剰な炭素の侵入そして拡散を抑制する作用を有する元素として、Sbに着目した。すなわち、鋼中にSbを添加することによって、角部での過剰浸炭を防止し、平坦部と角部での炭素量の差を軽減することができるとの知見を得た。また、Sbを0.035質量%まで添加した場合においても、図1に示した結果と同様の結果が得られることを確認した。
【0015】
本願発明は、以上の知見に基づいて成されたものであり、その要旨構成は次のとおりである。
(1)C:0.10〜0.35質量%、
Si:0.01〜0.50質量%、
Mn:0.40〜1.50質量%、
P:0.02質量%以下、
S:0.03質量%以下、
Al:0.04〜0.10質量%、
Cr:0.5〜2.5質量%、
Sb:0.002〜0.035質量%、
B:0.0005〜0.0050質量%、
Ti:0.003質量%以下および
N:0.0080質量%未満
を含有し、残部はFe及び不可避不純物の成分組成になる冷間加工性に優れた肌焼鋼。
【0016】
(2)前記成分組成に加えて、更に、
Nb:0.06質量%以下、
Cu:1.0質量%以下、
Ni:0.5質量%以下、
Mo:0.5質量%以下および
V:0.5質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する前記(1)に記載の冷間加工性に優れた肌焼鋼。
【0017】
(3)前記成分組成に加えて、更に、
Ca:0.0005〜0.0050質量%および
Mg:0.0002〜0.0020質量%
のうちから選ばれる1種または2種を含有する前記(1)または(2)に記載の冷間加工性に優れた肌焼鋼。
【0018】
(4)前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の肌焼鋼に対して浸炭を施して成る、浸炭材であって、その表面から0.4mmまでの表層域における炭化物の最大径が10μm以下かつ平均粒子径が4μm以下である高疲労強度浸炭材。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷間加工性に優れるだけでなく、浸炭の熱処理条件によらずに過剰な浸炭は抑制され、浸炭処理後に優れた耐疲労特性を有する肌焼鋼および、これを用いた浸炭材を提供できるため、工業上非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】炭化物の析出状態に及ぼすAl、BおよびTi量の影響を示すグラフである。
【図2】角部の過剰浸炭有無の調査に用いた試験片形状を示す図である。
【図3】浸炭熱処理条件を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の肌焼鋼を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼の成分組成を上記の範囲に限定した理由について、成分元素毎に詳しく説明する。なお、各元素の含有量に関する「%」表示は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
【0022】
C:0.10〜0.35%
Cは、浸炭熱処理後の焼入れにより被処理材芯部(中心部)の硬度を高めるために、0.10%以上の含有量が必要になるが、含有量が0.35%を超えると芯部の靭性が低下するため、C量は0.10〜0.35%の範囲に限定した。好ましくは、0.3%以下の範囲である。
【0023】
Si:0.01〜0.50%
Siは、脱酸剤として必要であり、少なくとも0.01%の添加が必要である。しかしながら、Siは浸炭表層で優先的に酸化し、粒界酸化を促進する元素である。また、フェライトを固溶強化して変形抵抗を高めて冷間加工性を劣化させるため、上限を0.50%とする。好ましくは、0.03〜0.35%である。
【0024】
Mn:0.40〜1.50%
Mnは、焼入性に有効な元素で有り、少なくとも0.40%の添加を必要とする。しかし、Mnは粒界酸化を引き起こしやすく、また過剰な添加は残留オーステナイトを増加させ、表面硬さの低下を招くことから、上限を1.50%とする。好ましくは、0.45〜1.40%の範囲である。
【0025】
P:0.02%以下
Pは、結晶粒界に偏析し、靱性を低下させるため、その混入は低いほど望ましいが、0.02%までは許容される。好ましくは、0.018%以下である。
【0026】
S:0.03%以下
Sは、硫化物系介在物として存在し、被削性の向上に有効な元素である。しかしながら、過剰な添加は耐疲労特性の低下を招くため、上限を0.03%とした。
【0027】
Al:0.04〜0.10%
Alは、鋼中のNをAlNとして固定することによって、Bの焼入れ効果を得るための重要な元素である。この効果を得るためには、少なくとも0.04%の添加が必要である。しかしながら、含有量が0.10%を超えると、耐疲労特性に対して有害なAl介在物の生成を助長するため、0.04〜0.10%の範囲に限定した。
【0028】
Cr:0.5〜2.5%
Crは、焼入れ性のみならず、焼戻し軟化抵抗の向上に寄与し、さらには炭化物の球状化促進にも有用な元素であるが、含有量が0.5%に満たないとその添加効果に乏しく、一方、2.5%を超えると浸炭部での残留オーステナイトの生成を促進し、耐疲労特性に悪影響を与える場合がある。よってCr量は0.5〜2.5%の範囲に限定した。好ましくは、0.6〜2.0%の範囲である。
【0029】
Sb:0.002〜0.035%
Sbは、本発明において特に重要な元素である。Sbは、鋼材表面から過剰な炭素の侵入並びに拡散を抑制し、平坦部と角部での炭素量の差を軽減することが可能である。この効果を発揮するためには、0.002%以上の添加が必要である。一方、過剰な添加は、鍛造性などの低下を招くことから上限を0.035%とした。さらに、好ましくは、0.003〜0.025%である。
【0030】
B:0.0005〜0.0050%
Bは、本発明において最も重要な元素である。Bは、焼入れ熱処理時にオーステナイト粒界に偏析することにより焼入れ性を高め、素材の硬度上昇に寄与する。この効果により、他の強化元素を削減でき、その結果、変形抵抗の低下による冷間加工性の向上が得られる。この効果を発揮するためには、少なくとも0.0005%以上の添加が必要である。一方、過剰な添加は、靭性や加工性(鍛造性)などの低下を招くことから、上限を0.0050%とした。さらに、好ましくは、0.0007〜0.0040%である。
【0031】
Ti:0.003%以下
Tiは、鋼中への混入を極力回避することが好ましい成分である。Tiは、Nと結合して粗大なTiNを形成しやすい。かように、浸炭表層の炭化物の粗大化や耐疲労特性の低下を招くため、上限を0.003%とする。
【0032】
N:0.008%未満
Nは、鋼中への混入を極力回避することが好ましい成分である。従って、Nは、Bの焼入れ性を確保することと、TiNの形成を抑制するために、0.008%未満とした。
【0033】
本発明では、焼入れ性を高めるために上記の基本成分に、更にNb:0.06%以下、Cu:1.0%以下、Ni:0.5%以下、Mo:0.50%以下およびV:0.5%以下から選ばれる1種または2種以上を含有することができる。
Nb:0.06%以下
Nbは、焼入れ性向上に加えて、鋼中でNbCを形成し、浸炭熱処理時のオーステナイト粒径の粗粒化をピン止め効果により抑制する。そのためには、0.010%以上で添加することが好ましい。一方、0.06%を超えて添加すると、粗大なNbCの析出による粗粒化抑制能の低下や耐疲労特性の劣化をまねく、おそれがあるため、0.06%以下とする。より好ましくは、0.045%以下である。
【0034】
Cu:1.0%以下
Cuは、焼入れ性の向上に有効な元素であり、0.1%以上で添加することが好ましいが、多量の添加は鋼材の表面性状の劣化や合金コストの増加を招くため、上限を1.0%とした。
【0035】
Ni:0.5%以下
Mo:0.5%以下
V:0.5%以下
Ni、MoおよびVは、焼入れ性や靭性の向上に有効な元素であり、それぞれ0.1%以上、0.05%以上および0.02%以上で添加することが好ましいが、高価であるため、上限をそれぞれ0.5%とした。
【0036】
また、本発明は、硫化物の形態を制御し、被削性や冷間加工性を高めるために上記成分に、更にCa:0.0005〜0.0050%およびMg:0.0002〜0.0020%から選ばれる1種または2種を添加することができる。CaおよびMgによる上記効果を得るには、各々、少なくとも0.0005%の添加を行うことが好ましい。一方、過剰に添加した場合には、粗大な介在物を形成し、耐疲労特性に悪影響を与えるため、CaおよびMgについてそれぞれ上限を0.0050%および0.0020%とした。
【0037】
以上に説明した成分組成に従う肌焼鋼に対して、冷間加工を施して部品形状とした後、浸炭処理を施すことによって、浸炭材を得ることができる。この浸炭処理を経た浸炭材は、その表面下0.4mmまでの表層域において、炭素量は0.80質量%以上であり、ここに形成される炭化物の最大径は10μm以下かつ平均粒子径は4μm以下であることが、特に好ましい。この範囲内であれば、特に面疲労強度の向上に効果がある。逆に、炭化物の最大径または平均粒子径が、この範囲を超えると、面疲労強度の向上は期待できない。
【0038】
すなわち、前記表層域での炭素量が0.80%未満では、十分な量の炭化物が得られず面疲労強度の向上が図れない。また、炭化物の最大径が10μmを超えると、粗大な炭化物が疲労亀裂の起点になる等により、疲労寿命が低下する。平均粒子径が4μmを超える場合においても同様に、疲労寿命の低下をまねく。
ちなみに、表層域での炭素量の上限は、過剰な残留オーステナイトの生成を抑制する観点から、1.8%以下であることが好ましい。
【0039】
なお、上記した規定に従う炭化物を得るには、浸炭熱処理を、次の条件下に行うことが好ましい。
すなわち、カーボンポテンシャル1.5%以上、900〜1050℃で2〜10時間程度保持し、一旦700℃以下に冷却した後に、再度800〜900℃で30分間以上保持してから油冷する。その後、焼戻しを施すことが好ましく、その際の焼戻し温度は170〜200℃の範囲が好ましい。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の実施例について説明する。
まず、供試鋼として表1に示す成分組成の鋼を溶製し、一旦1150℃以上に加熱した後、170mm×170mm角断面の中間素材とし、更に(Ar+100℃)以上に加熱した後、熱間圧延により直径60mmの丸棒に成形した。得られた丸棒について、冷間加工性および耐疲労特性の評価を行った。
【0041】
【表1】

【0042】
ここに、冷間加工性は、限界据え込み率および変形抵抗の2項目で評価した。
すなわち、変形抵抗は、圧延ままの棒鋼の直径の1/4深さ位置から、直径10mmおよび高さ15mmの試験片を採取し、300tプレス機を用いて、60%据え込み時の圧縮荷重を測定し、日本塑性加工学会が提唱している端面拘束圧縮により、変形抵抗測定方法を用いて求めた。また、限界据え込み率は、変形抵抗を測定した方法で圧縮加工を行い、端部に割れが入ったときの据え込み率を限界据え込み率とした。
なお、変形抵抗値が899MPa以下および限界割れ率が74%以上であれば、冷間加工性(冷間鍛造性)は良好であるといえる。
【0043】
また、表1の供試鋼より、図2に示す角部(角度:120°)を持つ試験片を採取し、図3に示す熱履歴に従って平坦部における有効硬化深さ(Hv≧550となる表面からの深さ)が1.2mm狙いとした、浸炭熱処理を施し、該浸炭熱処理を施した後の試験片の角部1および平坦部2の炭素濃度および炭化物の測定を行った。
この炭化物の測定は、ピクラール液でエッチング後に、表面から30μm深さまでの領域を走査型電子顕微鏡で6000μmにわたって観察し、画像解析にて炭化物の最大径および平均径を求めた。すなわち、円相当径の最大値をもって最大径とし、また円相当径の平均値をもって平均径とした。なお、表面から0.4mmまでの他の深さ領域についても、炭化物の観察を行ったが、表面から30μm深さまでが最大径並びに平均径ともに最も大きいことを確認した。ここで、炭化物の観察では、円相当径が0.5μm以上のものが炭化物として識別可能である。
なお、炭素濃度の測定は、表面から深さ0.4μmまでをEPMAライン分析することにより行った。
【0044】
さらに、耐疲労特性は、回転曲げ疲労と面疲労の2項目にて評価した。
すなわち、上記の棒鋼の直径の1/4深さ位置から、回転曲げ試験片とローラーピッチング試験片を採取し、これらの試験片に、通常浸炭と炭化物を多く生成させるための高濃度浸炭との2種類の熱処理を行った。
通常浸炭は、930℃および7時間、カーボンポテンシャル1.1質量%の条件で浸炭を実施後、850℃に30分間保持し、60℃で油冷し、170℃、2時間の焼戻し処理を施した。
一方、高濃度浸炭は、950℃および5時間、カーボンポテンシャル2質量%の条件で保持し、一旦600℃に冷却した後、再度850℃に30分間保持し、60℃で油冷後、170℃、2時間の焼戻し処理を施した。
上記浸炭後の各試験片につき、回転曲げ疲労試験およびローラーピッチング試験を行った。まず、回転曲げ疲労試験は、回転数3500rpmにて実施し、10回の耐疲労強度にて評価した。また、ローラーピッチング試験は、すべり率40%、油温80℃の条件にて10回強度(試験片表面にピッチングが発生する限界強度)にて評価した。
【0045】
以上の各評価結果を、表2に示すように、本発明に従う発明例はいずれも、冷間加工性に優れ、部材の形状によらず安定した浸炭処理がなされ、かつ耐疲労特性にも優れていることがわかる。
【0046】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.10〜0.35質量%、
Si:0.01〜0.50質量%、
Mn:0.40〜1.50質量%、
P:0.02質量%以下、
S:0.03質量%以下、
Al:0.04〜0.10質量%、
Cr:0.5〜2.5質量%、
Sb:0.002〜0.035質量%、
B:0.0005〜0.0050質量%、
Ti:0.003質量%以下および
N:0.0080質量%未満
を含有し、残部はFe及び不可避不純物の成分組成になる冷間加工性に優れた肌焼鋼。
【請求項2】
前記成分組成に加えて、更に、
Nb:0.06質量%以下、
Cu:1.0質量%以下、
Ni:0.5質量%以下、
Mo:0.5質量%以下および
V:0.5質量%以下
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する請求項1に記載の冷間加工性に優れた肌焼鋼。
【請求項3】
前記成分組成に加えて、更に、
Ca:0.0005〜0.0050質量%および
Mg:0.0002〜0.0020質量%
のうちから選ばれる1種または2種を含有する請求項1または2に記載の冷間加工性に優れた肌焼鋼。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の肌焼鋼に対して浸炭を施して成る、浸炭材であって、その表面から0.4mmまでの表層域における炭化物の最大径が10μm以下かつ平均粒子径が4μm以下である高疲労強度浸炭材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−140675(P2012−140675A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293900(P2010−293900)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】