説明

冷間圧延における圧延油循環供給方法および冷間圧延設備

【課題】冷間圧延において潤滑使用される大容量のエマルションから、鉄粉やスカムを効率的かつ高精度に除去することが可能であり、しかもコスト面においても有利な圧延油循環供給方法および冷間圧延設備を提供する。
【解決手段】圧延油エマルションを循環する循環系統を設けた冷間圧延設備において、前記循環系統における圧延油エマルションを、繊維フィルタを用いて油分と低濃度エマルションに分離する工程と、分離した前記油分から、遠心分離法によりスカム(鉄粉・水分を含む)を分離する工程とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯の冷間圧延方法に係り、循環使用する圧延油エマルションに混入する鉄粉、スカム等を効率的に除去する方法および冷間圧延設備に関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延では、圧延ロールと鋼帯の潤滑および冷却の2つの性能が重要である。潤滑は、ワークロールと鋼帯との間(ロールバイト)の摩擦係数を下げて、圧延荷重を低減し、また、ワークロールと鋼帯との焼付きを防止する性能である。また、冷却は、ロールバイトでの摩擦発熱や加工発熱による圧延ロールや鋼帯の過度な温度上昇を防止するために必要な性能である。
【0003】
これらの潤滑性能、冷却性能を発揮させるために、鋼帯の冷間圧延においては、鋼帯やロールバイトに圧延油を供給しながら圧延が行われるが、圧延油としては、鉱物油、天然油脂、合成エステル等の不水溶性油剤基油を、界面活性剤で水に希釈したエマルション(以下、「圧延油エマルション」ともいう)が広く用いられている。このエマルションは、O/W型(水中油滴型)のエマルションとして使用され、例えば、上記の不水溶性油剤基油と水とを予め混合・攪拌することにより、不水溶性油剤基油を平均粒径が2〜30μm程度の油滴として1〜2質量%程度含有するエマルションとし、鋼帯やロールバイトに供給される。エマルションを、鋼帯やロールバイトにスプレー等により供給すると、鋼帯表面やロールバイト入口において水が排除され且つ油膜が形成される(このような現象をプレートアウトという)。この油膜の形成によって、ロールバイトにおける潤滑性能、すなわち摩擦係数低減効果や耐焼付き性などの潤滑性能は向上し、たとえ硬質な鋼帯であっても高圧下の圧延が可能となる。
【0004】
ところで、エマルションの使用量ならびに廃液量の低減化を図るため、冷間圧延設備においてはエマルションの循環系統を設け、鋼帯やロールバイトに供給されたエマルションを循環使用するのが一般的である。ここで、エマルションを循環使用する上で問題となるのが、エマルションへの異物混入である。冷間圧延の際には、鋼帯と圧延ロールとの摩擦接触により、鉄粉が発生する。また、この鉄粉は、エマルション中の油分に取り込まれ易く、更にエマルションと反応して変性物となり、鉄粉とこの変性物との混合物であるスカムが発生する。そのため、鋼帯やロールバイトに供給された後のエマルションには、鉄粉やスカム等の異物が混入するが、これらの異物が混入したままの状態でエマルションを循環使用すると、異物が冷間圧延設備の圧延ロール等に付着・堆積し、作業環境が悪化する。また、異物がロールバイトに噛み込まれ、鋼帯に表面疵が発生する。
【0005】
そこで、エマルションを循環使用する場合においては、エマルションから鉄粉、スカム等の異物を除去し、エマルションを清浄化する工程を循環系統に設けることが必須となる。
エマルションから異物を除去する技術としては、例えば特許文献1に開示されているような磁気フィルタや、磁気分離機を用いて鉄粉を除去する技術が知られている。また、濾紙や濾布を用いて鉄粉を除去するホフマンフィルタ、フラットベッドフィルタおよびノッチワイヤフィルタや、濾過助剤により精密濾過が可能なシュナイダーフィルタ等も広く使用されており、例えば特許文献2には、ホフマンフィルタとシュナイダーフィルタを併用する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、濾過フィルタと磁気フィルタを併用した技術が開示されている。係る技術によると、エマルション中の鉱油粒子よりも大きな粒子を濾過フィルタによって除去するとともに、濾過フィルタで除去できない平均粒径0.5〜1.0μmの鉄粉類を磁気フィルタによって除去できるものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−192618号公報
【特許文献2】特開2000−279706号公報
【特許文献3】特開平8−243605号公報
【特許文献4】特開2000−288303号公報
【特許文献5】特公平7−34879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、磁気フィルタや磁気分離機を用いる技術では、エマルションから鉄粉を分離・除去する過程において、鉄粉とともに、エマルションから分離して鉄粉に付着した油分をも除去してしまうため、エマルションの原単位の低下を招く。また、通常、エマルション中の油分濃度は1〜2質量%程度であるところ、エマルションに混入する鉄粉は、エマルション中の油分に対する鉄分濃度に換算すると1000〜3000質量ppm程度であり、従って、エマルションに対する鉄分濃度は10〜60質量ppm程度と非常に少ない。すなわち、鋼帯やロールバイトに供給された後のエマルションは150〜200m3程度の大容量タンクに回収・貯蔵されるが、このような大容量タンク中のエマルションから10〜60質量ppm程度の鉄粉を直接除去するのは極めて非効率的である。このため、上記のような大容量タンク中のエマルションから、磁気フィルタや磁気分離機を用いて鉄粉を除去するには限界があり、鉄粉が油分に対して1000〜2000質量ppm程度混入したままの状態でエマルションが循環使用されている場合が多い。
【0009】
一方、ホフマンフィルタやノッチワイヤフィルタは、目開き:数10μmの濾紙や濾布を用いて異物を除去するものであり、巨大化したスカム等を除去する上では有効である。しかしながら、エマルション中の油分に混入した鉄粉の大きさは数μm以下である場合が多く、これらの鉄粉を十分に除去することはできない。また、これらの鉄粉を除去するために目開きを更に小さくすると、大きなスカム等によって目開きがすぐに閉塞してしまうため、効率よくスカム等を除去することが困難となる。
【0010】
また、シュナイダーフィルタは、ストレート油の濾過に用いられるものであり、目開き1μm以下の精密濾過も可能である。しかしながら、このように目開きの小さいフィルタを用いると、2〜30μmの大きさに調整されたエマルション中の油滴が凝集して目開きがすぐに閉塞してしまう。
また、濾過フィルタと磁気フィルタを併用してもなお、大容量のエマルションから、鉄粉を効率的かつ高精度に除去することは困難であった。そのため、上記した従来技術では、冷延後の鋼帯表面に鉄粉を含んだ油分が付着し、脱脂・めっき等の下工程での表面清浄化のための負荷が大きくなっているのが現状であった。
【0011】
なお、比重差を利用して遠心分離によって鉄粉を除去する技術は、エマルション中の油分に混入した鉄粉を除去する上で有効であることが知られている。しかしながら、上記の如く150〜200m3程度の大容量タンクに回収・貯蔵された大量のエマルションに遠心分離処理を施すには、大規模な遠心分離設備と電力とを要し、設備コスト・電力コストが嵩むため現実的ではない。
【0012】
本発明は、上記した従来技術に見られる問題を有利に解決するものであり、冷間圧延において循環使用される大容量のエマルションから、エマルションに混入した鉄粉やスカム等を効率的かつ高精度に除去することが可能であり、しかもコスト面においても有利な圧延油循環供給方法および冷間圧延設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、循環使用するエマルションから鉄粉を除去する上で有利な遠心分離処理を、設備コストや電力コストの高騰を招くことなく冷間圧延設備に適用する手段について鋭意検討した。その結果、循環使用するエマルションを遠心分離装置に送る前に、繊維フィルタを用いた油水分離装置によってエマルションを油分と低濃度エマルションとに分離することが有効であることを知見した。すなわち、循環使用する全エマルションに対して遠心分離処理を直接施すのではなく、エマルションを油分と低濃度エマルションとに分離し、分離した油分にのみ遠心分離処理を施すことにより、遠心分離装置の負荷が軽減され、且つ、循環使用するエマルションから鉄粉を有効に除去することが可能であることを知見した。
【0014】
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
(1)冷間圧延設備に圧延油エマルションを循環する循環系統を設け、圧延油エマルションを循環使用する冷間圧延の圧延油循環供給方法において、
前記循環系統における圧延油エマルションを、繊維フィルタを用いて油分と低濃度エマルションに分離する工程と、
分離した前記油分から、遠心分離法によりスカム(鉄粉・水分を含む)を分離する工程と、
を有することを特徴とする、冷間圧延における圧延油循環供給方法。
(2)圧延油エマルションを循環する循環系統を設けた冷間圧延設備において、前記循環系統が、
圧延油エマルションを、油分と低濃度エマルションに分離する繊維フィルタを有する油水分離装置と、
分離した前記油分から、スカム(鉄粉・水分を含む)を分離する遠心分離装置と
を具備することを特徴とする、冷間圧延設備。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、冷間圧延において圧延油エマルションを循環使用するに際し、設備コストや電力コストの高騰を招くことなく、循環使用する圧延油エマルションから鉄粉やスカムを効率的かつ高精度に除去することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の、圧延油エマルションを循環する循環系統を設けた冷間圧延設備の一例を示す図である。
【図2】従来の、圧延油エマルションを循環する循環系統を設けた冷間圧延設備の一例を示す図である。
【図3】冷間圧延時間(hr.)と、循環使用する圧延油エマルション中の油分に対する鉄分濃度(質量ppm)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、タンデム圧延機、リバース圧延機等、通常公知の冷間圧延をはじめ、あらゆる冷間圧延を対象とし、圧延油としてエマルションを使用するものを対象とする。また、本発明において冷間圧延の対象となる被圧延材は、主として普通鋼、高炭素鋼、ステンレス鋼等の鉄系材料からなる薄鋼帯などである。
【0018】
先ず、本発明に係る冷間圧延設備について説明する。
圧延油であるエマルションを循環する循環系統を設けた冷間圧延設備の一例を図2に示す。冷間圧延設備1は、圧延ロール(ワークロール3a,バックアップロール3b)を有する冷間圧延機2と、エマルションをロールバイトに供給するエマルション供給手段4と、エマルションを循環する循環系統10Aとを具え、鋼帯Sは、ペイオフリール(図示せず)から払い出されて図中の矢印方向に送られ、圧延ロール(ワークロール3a,バックアップロール3b)を有する冷間圧延機2によって圧延された後、テンションリール(図示せず)によって巻き取られる。
【0019】
循環系統10Aは、例えば、回収用オイルパン12と、循環系統タンク13とを具え、エマルション供給手段4からロールバイトに供給した後のエマルションを回収用オイルパン12で回収し、回収したエマルションが循環系統タンク13を経由し、ポンプP1にてエマルション供給手段4に供給され、戻される循環経路11が設けられている。なお、冷間圧延においては、圧延後の被圧延材にエマルションの油分が選択的に付着することや、ヒュームアウト現象等により、循環系統タンク13中のエマルションの油分濃度は低下する。そのため、循環系統タンク13には補給タンク14が付設されており、新しい圧延油を補給タンク14から循環系統タンク13に適宜補給することにより、循環系統タンク13中のエマルションの油分濃度を適切な値に維持している。
【0020】
また、図2に示すように、回収用オイルパン12と循環系統タンク13との間の循環経路11に、公知のホフマンフィルタ16を設けることが好ましい。ホフマンフィルタ16を設けることにより、回収用オイルパン12により回収されたエマルションから、巨大化したスカムや、被圧延材の溶接部の破片などの異物を有効に除去することができる。また、回収用オイルパン12により回収されたエマルションの全量をホフマンフィルタ16に通し、異物を除去することが好ましい。
【0021】
また、上記ホフマンフィルタ16では、エマルションから鉄粉を除去する効果があまり期待できないため、図2に示すように、循環系統タンク13、ポンプP2、磁気フィルタ15によって形成される循環経路17を設けることが好ましい。磁気フィルタ15を具えた循環経路17を設けることにより、循環系統タンク13中のエマルションから鉄粉を除去することができる。なお、先述のとおり、大容量タンク中のエマルションから10〜60質量ppm程度の鉄粉を直接除去するのは極めて非効率的である。そのため、磁気フィルタ15は、循環経路11に設けず、図2に示すように循環経路17を別途設け、循環系統タンク13中の一部のエマルションを循環経路17に送出し、磁気フィルタ15で処理することが好ましい。
【0022】
上記した構成は、従来の循環系統を具えた冷間圧延機であるが、本発明において特記すべき点は、従来の循環系統10Aに加えて、エマルションを油分と低濃度エマルションに分離する繊維フィルタを有する油水分離装置22と、続いて分離した前記油分から、スカム(鉄粉・水分を含む)を分離する遠心分離装置24とを設けた点である。
図1に示すように、本発明の循環系統10においては、循環経路11、或いは更に循環経路17に加え、例えば循環系統タンク13中のエマルションが、油水分離処理され、更に遠心分離処理され、循環系統タンク13に戻される循環経路21a,21b,21c、油水分離装置22および遠心分離装置24が設けられている。更に、循環系統タンク13と油水分離装置22との間には、油水分離装置22によってエマルションを油分と低濃度エマルションに分離した後、低濃度エマルションを油水分離装置22から循環系統タンク13へ戻す連通経路25も設けられている。
【0023】
次に、図1に基づき、本発明の圧延油循環供給方法について説明する。
本発明の循環系統10において、循環経路11(および循環経路17)における処理工程は、先述の従来技術と同様である。本発明において特記すべき点は、従来技術に加え、循環系統10におけるエマルションを、油水分離装置22に具えた繊維フィルタを用いて油分と低濃度エマルションに分離する工程と、分離した油分から、更に遠心分離装置24を用いて遠心分離法によりスカム(鉄分・水分を含む)を分離する工程を設けた点である。
【0024】
本発明において、回収用オイルパン12で回収したエマルションは、ホフマンフィルタ16によって巨大化したスカム等の異物が除去され、循環系統タンク13へ送り込まれる。循環系統タンク13へ送り込まれたエマルションのうち、その一部は循環経路21aへ送出され、残りのエマルションは、従来どおり、循環経路11を経て、エマルション供給手段4に供給される。
【0025】
循環系統タンク13から循環経路21aに送出されたエマルションは、先ずは、繊維フィルタによってエマルションを油分と低濃度エマルションとに分離する工程を経る。すなわち、循環経路21aに送出したエマルションは、油水分離装置22に送り込まれ、油水分離装置22の繊維フィルタによって油分と低濃度エマルションに分離される。
この工程においては、エマルションを油分と水分とに完全に分離することが理想的であるものの、完全に分離することは困難である。そこで、本発明においては、繊維フィルタによってエマルション中の油分を30〜50%程度回収するものとする。すなわち、この工程ではエマルションを、エマルション中に含まれる油分のうちの30〜50%の油分と、該30〜50%の油分が抽出された後の油分が低濃度化した低濃度エマルションとに分離する。油水分離装置22の繊維フィルタによって分離された低濃度エマルションは、連通経路25によって循環系統タンク13へ戻される。
【0026】
上記工程において分離された油分(エマルション中に含まれる油分のうちの30〜50%の油分)は、循環経路21bによって遠心分離装置24に送り込まれ、遠心分離装置24によって油分から鉄粉を多く含むスカムを除去する工程を経る。そして、スカムが除去された油分は、循環経路21cによって循環系統タンク13へ戻される。遠心分離装置24によって油分から除去されたスカム等は、循環系統外配管23によって系統外へ排出される。
【0027】
遠心分離によって鉄粉を除去する技術が、エマルション中の油分に混入した鉄粉を除去する上で有効であることは先述のとおりである。すなわち、この工程を経ることにより、循環使用するエマルション中の油分に混入した鉄粉を、より一層効果的に除去することが可能となる。
また、大量のエマルションに遠心分離処理を施すことが、設備コスト等の面で不利となることは先述のとおりである。そのため、循環系統タンク13から送出される大量のエマルションを、そのまま遠心分離処理に供すると、コストの高騰は避けられない。
【0028】
しかしながら、本発明は、遠心分離処理を施す前に、エマルションを、エマルション中に含まれる油分のうちの一部(30〜50%程度)の油分と低濃度エマルションとに分離している。すなわち、低濃度エマルションには遠心分離処理を施すことなく、エマルション中に含まれる油分のうちの一部(30〜50%程度)の油分にのみ遠心分離処理を施すことにより、遠心分離装置の負荷が軽減される。
【0029】
油水分離装置22の繊維フィルタとしては、例えば特許文献4に記載の繊維フィルタなどが好適に使用される。エマルション中の油滴の平均粒径は通常2〜30μm程度である。繊維フィルタでは、フィルタ孔径よりも小さい油滴はフィルタを通過し易く、フィルタ孔径よりも大きい油滴はフィルタの繊維に捕集され易い。繊維に捕集された油滴は、次第に凝集することにより粗大な油滴となり、繊維から離れて浮上するため、容易に抽出することができる。すなわち、繊維フィルタを通過したエマルションは、粒径の大きい油滴が抽出されるため、エマルション中の油分濃度を低減することができるとともに、油滴の平均粒径を小さくすることができる。また、本発明において、繊維フィルタは、エマルションの粒径、エマルション調製時に用いる界面活性剤の種類に応じてフィルタ孔径、フィルタ材質、フィルタ膜厚等を選定すればよい。
【0030】
遠心分離装置24としては、デカンタのような連続式の遠心分離装置を用いることが好ましく、例えば特許文献5などに記載のデカンタが好適に使用される。特許文献5などに記載のスクリュー型デカンタは、水平回転軸に軸支される長胴の円胴と、その内部に同軸的に装着され若干の速差をもって回転するスクリューコンベヤとからなる回転体で遠心分離するものであり、重物質は半径方向の外径側に分離され、軽物質は半径方向の内径側に分離され、回転体の端部から、それぞれの分離された物質を排出するのが一般的である。なお、油水分離装置22を経たのち送り込まれた油分は、水分を含有している場合もある。係る場合には、デカンタを2基用意し、水分・スカム(鉄粉を含む)・油分の3層に分離することが好ましい。
【0031】
なお、図1では、油水分離装置22の繊維フィルタによって分離された低濃度エマルションは、連通経路25によって循環系統タンク13へ戻す形態を示したが、上記低濃度エマルションは、油水分離装置22から別途配管(図示せず)を設け、冷間圧延機2のうち低潤滑が要求される特定スタンドの圧延機に供給してもよい。
また、図1では、遠心分離装置24によって鉄粉を多く含むスカムが除去された油分を、循環経路21cによって循環系統タンク13へ戻す形態を示したが、遠心分離装置24によって鉄粉やスカムが除去された油分を、補給タンク14に送出する経路(図示せず)を別途設けてもよい。更に、遠心分離装置24から別途配管(図示せず)を設け、冷間圧延機2のうち高潤滑が要求される特定スタンドの圧延機に、遠心分離装置24によって鉄粉を多く含むスカムを除去した油分を供給してもよい。
【0032】
本発明において、循環系統タンク13から循環経路21aに送出するエマルションの流量は、冷間圧延条件や、循環系統タンク13の容量、エマルションの種類、遠心分離装置24の処理能力等、種々の条件に基づき最適化される。一例を挙げると、ロールバイトに供給されるエマルションの流量が20〜40m3/minであり循環系統タンク13の容積が100〜200m3である場合、循環系統タンク13から循環経路21aへ送出するエマルションの流量を0.1〜10m3/min程度とし、循環系統タンク13から循環経路17へ送出するエマルションの流量を1〜5m3/min程度とすることができるが、勿論、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
以上のように、本発明では、循環使用する大容量のエマルションから、先ず、少量の油分を抽出し、次に、かかる油分から鉄粉を多く含むスカムを除去することによって、循環使用する大容量のエマルションから効率的かつ高精度に鉄粉を除去し、しかも設備コスト等の高騰を招くことなく、循環使用するエマルションを清浄化することが可能となる。
また、本発明では、繊維フィルタを用いて循環使用するエマルションから油分を抽出することができる。そのため、本発明では、例えばエマルションの原単位削減や過潤滑によるスリップ防止を目的として、潤滑使用するエマルション中の油分を一時的に低濃度とすることができる。
【0034】
更に、本発明では、上記繊維フィルタで抽出した油分に、遠心分離処理を施すことによって、エマルション中の油分に混入した鉄粉を効果的に除去することができる。そのため、鉄粉を除去した油分を別タンク(図示せず)に貯蔵しておき、例えばヒートスクラッチ抑制等を目的として、必要に応じて上記別タンクの油分を循環使用するエマルションに補給し、エマルションの油分濃度を一時的に高濃度化することができる。すなわち、本発明によれば、必要に応じて循環使用するエマルションの油分の濃度制御が可能となる。
【実施例】
【0035】
本発明の効果を確認すべく、図1に示す冷間圧延設備(本発明例)、並びに、図2に示す冷間圧延設備(比較例)を用いて1週間継続的に圧延を行い、圧延時間とエマルション中の鉄分濃度との関係について調査した。図1,2に示す冷間圧延機は何れも、エマルション循環方式、5スタンドのタンデム式冷間圧延機である。また、被圧延材Sとしては、普通鋼、ハイテン鋼、ステンレス鋼を同程度の圧延量となるように準備し、圧延を行った。
【0036】
圧延油には、エステル基油とし、ノニオン系の界面活性剤を添加したエマルション(油滴の平均粒径:10μm,油分濃度:1.0〜1.2質量%)を用いた。
循環系統タンク13の容量は200m3であり、循環系統タンク13中のエマルションの油分濃度は0.8〜1.2%となるように調整した。エマルションは、流量:35m3/minで各スタンドのロールバイトに供給した後、回収用オイルパン12にて回収し、回収したエマルションの全量をホフマンフィルタ16で処理した。また、循環系統タンク13中のエマルションから流量:4m3/minのエマルションを磁気フィルタ15に送出し、鉄粉除去処理を行った。
【0037】
以上の条件に関しては、図1に示す冷間圧延設備(本発明例)、並びに、図2に示す冷間圧延設備(比較例)ともに同じ条件で圧延を行った。
更に、図1に示す冷間圧延設備(本発明例)においては、上記に加え、循環系統タンク13から流量:1m3/minのエマルションを、孔径:7μmのポリエチレン製フィルタを用いた油水分離装置22に送出し、エマルションを油分と低濃度エマルションとに分離した。係る処理により、平均0.005m3/minの油分を抽出することができ、抽出した油分は、デカンタ(遠心分離装置24)にて、1000G(重力加速度)×30sの条件で遠心分離処理し、鉄粉を含むスカムを循環系統系外に排出した。なお、分離した低濃度エマルションは循環系統タンク13に戻した。
【0038】
以上の各条件下で、図1に示す冷間圧延設備(本発明例)、並びに、図2に示す冷間圧延設備(比較例)により冷間圧延を1週間継続的に行い、8時間毎に循環系統タンク13中のエマルションを採取し、エマルションの油分に含まれる鉄分濃度を測定した。なお、継続圧延期間中、図1に示す冷間圧延設備(本発明例)、図2に示す冷間圧延設備(比較例)は共に、圧延中のトラブル等を起こすことなく、圧延を終了した。測定された鉄分濃度の結果を図3に示す。
【0039】
図3に示すように、従来例(図中○)では圧延開始から40時間以降、鉄分濃度が1400〜1800ppmで推移しているのに対し、本発明例(図中◆)では圧延開始から40時間以降、鉄分濃度が500〜900ppmと極めて低濃度で推移している。
以上のように、本発明によると、循環使用するエマルションの鉄分濃度を従来の1/2程度まで低減することができ、これにより鋼帯の汚れ低減、冷間圧延に続く鋼帯の脱脂工程の負荷低減、圧延油原単位の改善等を達成することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 … 冷間圧延設備
2 … 冷間圧延機
3a … ワークロール
3b … バックアップロール
S … 被圧延材(鋼帯)
10 … 循環系統(本発明)
10A … 循環系統(従来)
11 … 循環経路
12 … 回収用オイルパン
13 … 循環系統タンク
14 … 補給タンク
15 … 磁気フィルタ
16 … ホフマンフィルタ
17 … 循環経路
21a, 21b, 21c … 循環経路
22 … 油水分離装置
23 … 循環系統外配管
24 … 遠心分離装置
25 … 連通経路




【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延設備に圧延油エマルションを循環する循環系統を設け、圧延油エマルションを循環使用する冷間圧延の圧延油循環供給方法において、
前記循環系統における圧延油エマルションを、繊維フィルタを用いて油分と低濃度エマルションに分離する工程と、
分離した前記油分から、遠心分離法によりスカム(鉄粉・水分を含む)を分離する工程と、
を有することを特徴とする、冷間圧延における圧延油循環供給方法。
【請求項2】
圧延油エマルションを循環する循環系統を設けた冷間圧延設備において、前記循環系統が、
圧延油エマルションを、油分と低濃度エマルションに分離する繊維フィルタを有する油水分離装置と、
分離した前記油分から、スカム(鉄粉・水分を含む)を分離する遠心分離装置と
を具備することを特徴とする、冷間圧延設備。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−200879(P2011−200879A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68454(P2010−68454)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)