説明

冷陰極

【課題】カップ型の電極先端部とリード部の接合を強固に行い、隙間なく電極先端部とリード部を強固に接合することを目的とする。
【解決手段】カップ型の電極先端部とリード部の接合をNiを1〜10質量%含有し、残部がAgからなるAg−Ni系合金でろう付けすることにより課題を解決できる。Niを1〜10質量%含有し、残部がAgからなるAg−Ni系合金のろう材は、MoやWと濡れ性の良い合金を生成し、ろう付け温度でMoやWとの濡れがよく、強固に隙間なく電極先端部とリード部を強固に接合することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイや液晶パネル用のバックライトなどに使用する冷陰極に関する。
【背景技術】
【0002】
MoやWからなるカップ型の電極先端部とリード部が接合された冷陰極は、カップ型の電極部リード部の接合は、一般的に特許文献1に示されるように両者を抵抗溶接やレーザービーム溶接することによって行われている。
【0003】
また、特許文献2には先端電極部とリード部の接合をろう付けにより行う例が示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−25962号公報
【特許文献2】特開平11−213944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カップ型の電極先端部とリード部の溶接による接合にはいくつかの難点がある。
【0006】
まず、溶接の温度制御が難しいことである。溶接は開放された気体中で行われるために、常に同じ溶接温度とすることは極めて困難である。溶接の温度が低すぎれば、溶接不良が起こるために接合ができず不良となる。溶接温度が逆に高ければ、カップ型の電極先端部とリード部のいずれか、または両方の組織が再結晶を起こすために大幅な強度の低下を招く。
【0007】
また、装置にもよるが、電極先端部に対するリード部の位置決めを正確に行うのが難しく、図6に示すような溶接の芯ズレや、いわゆる直角に接合できない「たおれ」という問題が起こりやすい。
【0008】
さらに、リード部やカップ型の電極先端部の大きさが変化した場合に、比較的高価であるヒーターの種類、出力、設定や、チャッキング、位置決め用の治具などに関する費用が大きい。
【0009】
いずれにしても、溶接による接合は費用や歩留まり、品質の点で劣るものであり、充分な技術とは言えない。
【0010】
その点、特許文献2に示すろう付けによる接合は、治具なども作りやすく、炉中で一定の温度を保ちながら接合できるために、より安定して製造することができる。
【0011】
ところうが、一般的なろう材(たとえば銀ろう、銅ろう)を用いてろう付けを行っても、ろう付け温度でのMoやWとの濡れが悪いために、実際には図7に示すようにろう付けによりろう材がリード部中心に寄るとは限らずに、電極先端部とリード部を密接に接合するのが難しい。
【0012】
本発明は、これらの溶接による接合の問題点を解決するために行ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のカップ型の電極先端部とリード部の接合は、ろう付けによって行う。ろう付けであれば、前記溶接の問題点である温度制御は炉中で行うために確実に行うことができる。また図3に示すように、複数の電極先端部およびリード部を保持する治具をカーボンなどの安価な材料にて製作すればよいために装置の製造費用が著しく安価となる。また、製造する電極の寸法が変更になる際にも、この方法に用いる製造装置は、製作する電極のカーボンの寸法さえ変えれば、すぐに安価に対応できる。
【0014】
ろう材として使うのはNiを1〜10質量%含有し、残部がAgからなるAg−Ni系合金とする必要がある。
【0015】
通常ろう材として用いられる銀ろうや銅ろうは、MoやWとのろう付け温度での濡れが悪く、ろう付け部に適当にろうが回りにくい。
【0016】
これに対して、本発明のろう材であるNiを1〜10質量%含有し、残部がAgからなるAg−Ni系合金のろう材は、Agとは性質の異なるMoやWと濡れ性の良い合金を生成し、ろう付け温度でMoやWとの濡れがよく、図1に示すように強固に隙間なく電極先端部とリード部を強固に接合することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は下記に示す一つ以上の効果を有する。
【0018】
電極先端部とリード部が強固に接合されているために、衝撃に強く、電気的な損失が少ない。
【0019】
電極先端部やリード部の形状や大きさの変化に対する装置の変更時に発生する費用が少ない。
【0020】
溶接による接合や、一般的なろう材でのろう付けと比較して、少ない費用で接合が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下実施例により、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の実施の一例を示す。
【0023】
まず、直径が1.5mmで長さが6mmのMoからなるカップ型の電極先端部、ろう材としてAg−1.5質量%Ni合金からなる板状のろう材、および直径が0.8mmでMoからなるリード部を図3に示すような挿入穴の空いたカーボン治具に順番に挿入した。カーボン治具の下には、同じくカーボンの板を敷いて、冷陰極の落下を防いだ。
【0024】
次に治具を電気炉、水素ガス雰囲気中にて1050℃まで加熱し、ろう付けを行った。ろう付けはろう材の組成にあわせて800〜1200℃で行えば良い。
【0025】
冷却後に電気炉から取り出し、治具から一体化した電極を取り出すことで、本発明の電極が得られた。
【0026】
得られた電極は、リード部の接合のずれや、ろう付けの不良がなく、良好であった。この模式図を図1に示す。
【0027】
また、図2に示すようにガラスビーズを付けたものも、筒状のガラスを用い、カーボン治具の変更を用いることにより同様の方法で容易に作ることができた。
【0028】
以上のように得られた本発明の電極の強度について、図4に示すような2点式曲げ強さ測定装置を用い、リード部に向かって側面から垂直の力を掛けることにより、ろう付けによる接合部の曲げに対する強さを測定した。また、同様に比較例として同様の材料、形状で電極先端部とリード部をレーザー溶接にて接合した試料、およびAgろうにて両者をろう付けした試料も同様に実験を行った。その結果を表1に示す。

【0029】
【表1】

【0030】
結果は、本発明の冷陰極は、強度が従来の技術で製造されたものよりも、大きく向上していた。また、個体ごとの数値のばらつきも小さく、最小値が極端に小さくならないために、より信頼性が高い冷陰極が得られた。
【0031】
次に、同様に本発明の冷陰極の試料、および比較例について図5中の電極中の接合部を挟み、電気抵抗を測定した。接合が良好なほど、該当部分の電気抵抗が下がる。
【0032】
この結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】

表2の結果から本発明の冷陰極は、ろう付け部の密着度が高いために電気抵抗が低く、また、個体ごとに安定していることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のNiを1〜10質量%含有し、残部がAgからなるAg−Ni系合金のろう材でろう付けを行った、電極先端部とリード部からなる電極を示す。
【図2】本発明の電極に、ガラスビーズを付与した模式図を示す。
【図3】本発明の実施にあたり、最も適したろう付け装置を示す。
【図4】2点曲げ強さ試験機の模式図を示す。
【図5】電気抵抗測定模式図を示す。
【図6】電極先端部とリード部の接合を溶接にて行った場合の比較例。
【図7】電極先端部とリード部の接合をAgろうにて行った場合の比較例。
【符号の説明】
【0036】
2 カップ状の電極先端部
4 電極と外部を電気的につなぐリード部
6 Ag−1.5質量%Ni合金のろう材
8 ガラスビーズ
10 カーボン治具
12 カーボン皿
14 ろう材(ろう付け前)
16 加圧装置
18 加圧子
20 試料支持台
22 電気抵抗測定用端子
24 Agろう

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MoまたはWまたはMo、Wを主体とする合金からなるカップ型の電極先端部とリード部との接合がNiを1〜10質量%含有し、残部がAgからなるAg−Ni系合金でろう付け接合がなされたことを特徴とする冷陰極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−35595(P2007−35595A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221439(P2005−221439)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(000229173)日本タングステン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】