説明

凍上防止構造

【課題】凍着凍上現象による縦管接合部の外れや縦管および縦管接合部の破損を防止する凍上防止構造を提供する。
【解決手段】本発明の凍上防止構造は、寒冷時に凍結膨張する凍結土壌Ga中に埋設された縦管3の凍着凍上現象による上昇を防止するものであって、縦管3に上下方向にスライド自在に外嵌される筒状の凍上防止部材5が設けられ、凍上防止部材5が縦管3に外嵌された状態で凍結土壌Ga中に埋設されて、凍結土壌Gaが凍結膨張したときに凍上防止部材5が凍結土壌Gaに凍着されて縦管3に対してスライドしつつ上昇する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
寒冷時に凍結膨張する凍結土壌中に埋設された縦管の凍着凍上現象による上昇を防止する凍上防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、寒冷時に凍結膨張する凍結土壌中に埋設された縦管の凍着凍上現象による上昇を防止する凍上防止構造が知られている(特許文献1等参照)。
【0003】
寒冷地では気温が低くなると、地中の水分が地中で凍って水平に広がるレンズ形状の氷、いわゆるアイスレンズとなり、このアイスレンズの形成に伴って土壌全体が上下方向に膨張して地表面が上昇する凍上現象が生じることがある。
【0004】
凍上現象により上昇した地表面は、気温が上昇して地中の氷が融けるのに伴って元の高さに戻る。
【0005】
水分を含んだ土壌の凍結は地表面側から生じるので、凍上現象が生じる土壌の深さは、その土地の気温などに依存し、地域ごとに異なる。
【0006】
日本国内の寒冷地では、このような凍上現象が生じる土壌の深さ、いわゆる凍結深度は、おおよそ50cm〜100cmの範囲であることが知られている。
【0007】
ところで、凍上現象が生じる地域では気温が低くなると、地中の埋設物が凍結した土壌に凍着して上昇する凍着凍上現象が生じる。
【0008】
このような凍着凍上現象は、地中に垂直に埋設された下水道用の縦管などにも生じることがある。
【0009】
図1(a)において、符号1は合成樹脂製の小型マンホール、符号2a,2bはそれぞれ小型マンホール1に接続された下水本管、符号3は小型マンホール1の上部に接続され地表付近まで伸びる縦管である。
【0010】
図1(b)に示すように、小型マンホール1は、縦管3を受け容れる略円筒状の接合部1aを有しており、接合部1aの内周部にはリング状のゴムパッキン1bが設けられている。この接合部1aには縦管3の下端部が挿入されており、接合部1aと縦管3とは嵌合接続されている。
【0011】
小型マンホール1は通常凍結深度より深い約2m〜2.5mの深さ位置に埋設されており、縦管3は長さが約2mで地表面付近まで伸び、縦管3の上部には蓋体4が設置されている。
【0012】
図1(a)において、L1は凍結深度を示しており、符号Gaは地表から凍結深度L1の深さまでの土壌であり、寒冷時に凍結膨張する凍結土壌である。
【0013】
また、符号Gbは凍結土壌Gaの下側の土壌であり、凍結土壌Gaが凍結しても凍結しない非凍結土壌である。
【0014】
本従来例の凍上防止構造では、凍着凍上現象による縦管3の上下動に対応するために、縦管3と小型マンホール1とを敢えて接合せずに、リング状のゴムパッキン1bを介して嵌合しており、図1(b)に示す許容範囲L2の移動範囲内で上下動可能としている。
【0015】
したがって、凍結土壌Gaの凍結・解凍に伴う縦管3の上下動の範囲が接合部1aの許容範囲L2の移動範囲内にある場合には、縦管3は小型マンホール1から外れることがなく、凍着凍上力による小型マンホール1や縦管3への負荷を低減することができる。
【0016】
この他に、縦管自体の下端部にフランジ部を設けて、このフランジ部を凍結深度より深い位置に埋設することにより、凍着凍上現象による縦管の上昇を防止する凍上防止構造が特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開平10−325156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、寒冷時に縦管3が凍着凍上現象により許容範囲L2を超えて上昇すると、図2(a)に示すように、縦管3の下端部は接合部1aから外れてしまう。
【0018】
そして、気温が上昇して凍結土壌Gaが解凍し収縮するのに伴い縦管3が降下する際に、縦管3の下端部が接合部1aの外周部などに引っ掛かり、縦管3が小型マンホール1から外れたまま凍上すると、小型マンホール1と縦管3との隙間から水漏れが生じるという問題があった。
【0019】
一方、このような縦管3下端部の接合部1aからの外れを防止するために、施工時に接合部1aと縦管3の下端部とを接着することもあるが、接合部1aを接着すると、寒冷時に小型マンホール1と縦管3とに凍着凍上現象による引張力が生じて、凍結土壌Gaが膨張収縮を繰り返すうちに、接合部1aや縦管3が破損するおそれがあった。
【0020】
そこで、本発明では、凍着凍上現象による縦管接合部の外れや縦管および縦管接合部の破損を防止する凍上防止構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、寒冷時に凍結膨張する凍結土壌中に埋設された縦管の凍着凍上現象による上昇を防止する凍上防止構造であって、前記縦管に上下方向にスライド自在に外嵌される筒状の凍上防止部材が設けられ、該凍上防止部材が前記縦管に外嵌された状態で前記凍結土壌中に埋設されて、前記凍結土壌が凍結膨張したときに前記凍上防止部材が前記凍結土壌に凍着されて前記縦管に対してスライドしつつ上昇する凍上防止構造を特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の請求項1に記載の凍上防止構造では、凍結土壌が凍結膨張したときに凍上防止部材が凍結土壌に凍着されて縦管に対してスライドしつつ上昇するので、縦管は上昇することがなく、縦管の凍上を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0024】
〈構成〉
図3(a)において、符号1は合成樹脂製の小型マンホール、符号2a,2bはそれぞれ小型マンホール1に接続された下水本管、符号3は小型マンホール1の上部に接続され地表付近まで伸びる縦管である。
【0025】
図3(b)に示すように、小型マンホール1は、縦管3を受け容れる略円筒状の接合部1aを有しており、接合部1aの内周部にはリング状のゴムパッキン1bが設けられている。この接合部1aには縦管3の下端部が挿入されており、接合部1aと縦管3とは嵌合接続されている。
【0026】
小型マンホール1は通常凍結深度より深い約2m〜2.5mの深さ位置に埋設されており、縦管3は長さが約2mで地表面付近まで伸び、縦管3の上部には蓋体4が設置されている。
【0027】
図3(a)において、L1は凍結深度を示しており、符号Gaは地表から凍結深度L1の深さまでの土壌であり、寒冷時に凍結膨張する凍結土壌である。
【0028】
また、符号Gbは凍結土壌Gaの下側の土壌であり、凍結土壌Gaが凍結しても凍結しない非凍結土壌である。
【0029】
本実施例の凍上防止構造では、筒状の凍上防止部材5が設けられ、縦管3に上下方向にスライド自在に外嵌されている。
【0030】
図4に示すように、凍上防止部材5は、管本体部5aと、フランジ部5bとを有しており、フランジ部5bは管本体部5aの一端の外周部に形成されている。
【0031】
管本体部5aの内径は縦管3の外径より僅かに大きくなっており、縦管3にスライド自在に外嵌可能となっている。
【0032】
〈作用〉
図5(a)は、本実施例の凍上防止構造において、凍結土壌Gaが凍結膨張していない状態を示している。
【0033】
そして、寒冷時に凍結土壌Gaが凍結膨張すると、凍上防止部材5は周囲の土壌に凍着されて、図5(b)に示すように、凍結土壌Gaの膨張に伴い縦管3に対してスライドしつつ上昇する。
【0034】
このとき、縦管3の凍上防止部材5によって包囲されている部分には凍着凍上力が直接作用せず、しかも凍上防止部材5は縦管3に対してスライド自在となっているので、縦管3は上昇しない。
【0035】
また、気温が上昇して凍結膨張していた凍結土壌Gaが解凍されると、図5(c)に示すように、凍結土壌Gaは収縮し、これに伴い周囲の土壌に凍着されている凍上防止部材5は下降する。
【0036】
このとき、凍上防止部材5は縦管3に対してスライド自在となっているので、縦管3は下降しない。
【0037】
〈効果〉
本実施例の凍上防止構造では、縦管3の周囲の凍結土壌に凍上防止部材5を凍着させて、凍結土壌Gaとの間に生じる凍着凍上力を凍上防止部材5に作用させることにより、縦管3に発生する凍着凍上力を軽減させる。
【0038】
この際、凍上防止部材5のフランジ5aが周囲の凍結土壌に食い込み、凍上防止部材5は、凍結土壌Gaの膨張・収縮に伴ってスムーズに上下動するので、凍着凍上力を効率よく吸収できる。
【0039】
このように、凍結土壌Gaが凍結膨張したときに凍上防止部材5が凍結土壌Gaに凍着されて縦管3に対してスライドしつつ上昇するので、縦管3は上昇することがなく、縦管3の凍上を防止することができる。
【0040】
これにより、小型マンホール1に接続された縦管3が寒冷時の凍結土壌Gaの凍結により凍上して小型マンホール1の接続部1aから離脱するのを防止することができ、寒冷地であっても縦管3および小型マンホール1の排水機能を維持することができる。
【0041】
〈変形例〉
図6において、符号6は、本変形例に係る凍上防止部材である。
【0042】
図6に示すように、凍上防止部材6は、管本体部6aと、フランジ部6bとを有しており、フランジ部6bは管本体部6aの一端の外周部に形成されている。また、管本体部6aの内径は縦管3の外径より僅かに大きくなっている。
【0043】
本変形例に係る凍上防止部材では、管本体部6aの内周部に管本体部6aの伸びる方向に延び、半径方向内側に向けて膨出する4本のリブ6cが設けられている。
【0044】
これらの4本のリブ6cにより、縦管3に対する凍上防止部材6のスライドが一層スムーズになる。
【0045】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】従来例の凍上防止構造を示す概念図であり、図(a)は地中に埋設された小型マンホールと縦管との接続状態を示す図、図(b)は小型マンホールの接続部の構造を示す部分破断図である。
【図2】従来例の凍上防止構造の問題点を示す概念図である。
【図3】実施例の凍上防止構造を示す概念図であり、図(a)は地中に埋設された小型マンホールと縦管との接続状態を示す図、図(b)は小型マンホールの接続部の構造を示す部分破断図である。
【図4】実施例に係る凍上防止部材の図であり、図(a)は斜視図、図(b)は3面図である。
【図5】実施例の凍上防止構造の作用効果を示す概念図である。
【図6】変形例に係る凍上防止部材の図であり、図(a)は斜視図、図(b)は3面図である。
【符号の説明】
【0047】
G 凍結土壌
3 縦管
5,6 凍上防止部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒冷時に凍結膨張する凍結土壌中に埋設された縦管の凍着凍上現象による上昇を防止する凍上防止構造であって、
前記縦管に上下方向にスライド自在に外嵌される筒状の凍上防止部材が設けられ、
該凍上防止部材が前記縦管に外嵌された状態で前記凍結土壌中に埋設されて、
前記凍結土壌が凍結膨張したときに前記凍上防止部材が前記凍結土壌に凍着されて前記縦管に対してスライドしつつ上昇することを特徴とする凍上防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−264039(P2009−264039A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116671(P2008−116671)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】