説明

凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物及びその製造方法

本発明は、生分解性ジカルボキシル結合にて共有結合された、2つ以上のABA−タイプの三重ブロックを含む多重ブロック共重合体を含む薬剤学的組成物であって、上記Aは、ポリエチレンオキサイドブロックであり、上記Bは、ポリプロピレンオキサイドブロック、ポリブチレンオキサイドブロック、またはプロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドの共重合体ブロックであり、上記薬剤学的組成物は、多重ブロック共重合体の濃度が凍結乾燥前の溶液の全重量を基準に1ないし7重量%含有した凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物に関する。上記組成物は、凍結乾燥された持続放出剤形の溶解時間を短縮させることができるという長所がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロゲル(hydrogel)は、それらの生体適合性のため薬物送達システムとして応用されてきている。すなわち、薬物を架橋ヒドロゲルマトリクスに内包させた後、マトリクス内のポアから放出されるようにする。
【0003】
初期のゲルを利用した薬物送達システムは、熱可塑性または熱硬化性を有していた。熱可塑性システムは、液状で体内に注射すると、体温への露出により速やかにゲルを形成することから、薬物送達システムとして関心を集めていたが、有機溶媒を使用した初期のゲル基盤の薬物送達システムは、毒性や刺激性において問題がある。
【0004】
近年、水溶液において製造することができるゲル薬物送達システムが開発されてきた。KR 2007−042159 Aには、相転移を示す多重ブロックポロキサマー(Multiblockpoloxamer)をタンパク質、ペプチドあるいはその類似体の溶液に溶かして投与すると、体温によって固状のゲルへの相変異を起こすことが公知されている。ゲルへ相変異した多重ブロックポロキサマー水溶液は、ペプチドの放出時間を遅延させることができるが、これを用いると、徐放型放出剤形を製造することができる。
【0005】
上記方法によってミクロスフェアを製造すると、有機溶媒が使用されていないためペプチドの安定性が低下せず、且つ製造過程も簡単である。また、多重ブロックポロキサマーは、生分解性重合体であることから、投与後1週以内に大半の重合体が分解され、体外へ排出されるという長所がある。
【0006】
しかしながら、生体重合体の特性上、多重ブロックポロキサマーを長期間保存しておくためには、それを水分が存在しない乾燥状態に保持しておく必要がある。最も容易に適用できる乾燥方法が凍結乾燥である。しかし、多重ブロックポロキサマーに関する公知の技術では、凍結乾燥後に体内に投与するための再構成を行うとき、組成によっては最大6時間がかかり、実用化が困難であるという不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006−014067A
【特許文献2】US2003−0187148A
【特許文献3】US2005−0129731A
【特許文献4】US2008−0299205A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一実施例の目的は、溶解時間を顕著に短縮させることができる凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物を提供することである。
【0009】
本発明の他の一実施例の目的は、上記凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物は、生分解性ジカルボキシル結合にて共有結合された、2つ以上のABA−タイプの三重ブロックを含む多重ブロック共重合体を含む薬剤学的組成物であって、
上記Aは、ポリエチレンオキサイドブロックであり、上記Bは、ポリプロピレンオキサイドブロック、ポリブチレンオキサイドブロック、またはこれらの混合であり、
上記薬剤学的組成物は、多重ブロック共重合体の濃度が凍結乾燥前の溶液の全重量を基準に1ないし7重量%含有された溶液を凍結乾燥させてなることを特徴とする。また、上記凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物を製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る凍結乾燥型薬剤学的組成物は、凍結乾燥された持続放出剤形の再構成時間を、顕著に、例にとると、5分ないし1時間以内と 短縮させることができるという長所がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】製造例1に係る多重ブロック共重合体のH−NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施例を示す図面を参照して該実施例について詳しく説明することとする。しかしながら、本発明は、種々の他の形態を含むことができ、本明細書に記載された実施例に限定されるものではない。実施例は当業者が請求の範囲を完成し且つ十分に伝わるようにするために提供されるものである。本明細書では、広く知られている特徴や技術の詳細事項は不要に本実施例を曖昧にさせないようにするために省略することとする。
【0014】
本明細書において用いる用語は特定の実施例を説明するためのものであり、本発明を限定するためのものではない。本明細書において用いているような単数形の「一つの」、「一つ」、及び「上記」は、文脈上明確に他のものを指示するものでない限り、複数形も含む。また、「一つの」、「一つ」などの用語の使用は量を限定するものではなく、言及したものが少なくとも一つ以上存在することを示す。また、本明細書において用いられた「含む。」及び/または「含む」、または「備える。」及び/または「備える」という用語は、特徴、領域、整数、段階、作動、要素、及び/または構成成分の存在を具体化するものであるが、一つ以上の他の特性、領域、整数、段階、作動、要素、構成成分及び/またはこれらのグループの存在または追加を不可能にするものではないという点が理解できるであろう。
【0015】
本明細書において用いられた全ての用語(技術的及び科学的用語を含む)は、特にこだわりがない限り、当業者に一般に知られている用語と同じ意味を持つ。一般的な辞書において定義されたものと同じ用語は、関連技術及び本発明の文脈において持つ意味に相応する意味を持つものと解釈されなければならない。また、本明細書において明示されていない以上、理想化または過度に形式的に解釈されてはならない。
【0016】
本発明の一実施例に係る凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物は、生分解性ジカルボキシル結合にて共有結合された、2つ以上のABA−タイプの三重ブロックを含む多重ブロック共重合体を含む薬剤学的組成物であって、
上記Aは、ポリエチレンオキサイドブロックであり、上記Bは、ポリプロピレンオキサイドブロック、ポリブチレンオキサイドブロック、またはプロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドの共重合体(PPOBO)ブロックであり、
上記薬剤学的組成物は、多重ブロック共重合体の濃度が凍結乾燥前の溶液の全重量を基準に1ないし7重量%含有された溶液を凍結乾燥させてなることを特徴とする。
【0017】
本発明の多重ブロック共重合体は生分解性であるため、水溶液において加水分解が起こることで分子量が減少し、このため、水溶液状態では長期間の保存が難しいという問題がある。この問題を解決するために、多重ブロック共重合体を凍結乾燥形態で製造することで保存期間を引き伸ばすことができる。以降の使用時には、凍結乾燥された多重ブロック共重合体に水溶液を加えて再構成(reconstitution)することとなるが、ユーザの便宜性のために短い再構成時間が要求される。
【0018】
一方、上記多重ブロック共重合体を凍結乾燥した場合、凍結乾燥方法によって凍結乾燥された共重合体の溶解時間が異なる。本発明者らは、特に凍結乾燥前の溶液中の共重合体の濃度が増加するほど再構成時間が急激に長くなり、凍結乾燥方法を変えることにより再構成時間を短縮させることができることを見出した。したがって、本発明は、温度によって相転移を示す重合体を利用して凍結乾燥された剤形の再構成時間を短縮させるためのものである。また他の一実施例において、上記多重ブロック共重合体は、凍結乾燥前の溶液の全重量を基準に1ないし7重量%、具体的には、2ないし5重量%の濃度で含有されていてよい。これにより、多重ブロック共重合体を含む凍結乾燥された剤形を、5分ないし1時間、具体的には、5分ないし30分、さらに具体的には、5分ないし15分といったように極めて短時間で4ないし25重量%の濃度の水溶液に再構成することができる。
【0019】
本発明において用いられる用語は、次のように定義される。
【0020】
本発明において用いられた「多重ブロック」共重合体は、ポリエチレンオキサイドブロックがポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロック、ポリブチレンオキサイド(PBO)ブロック、またはプロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドの共重合体(PPOBO)ブロックに連結され、次にポリエチレンオキサイドブロックに連結されたPEO−PPO(またはPBO、またはPPOBO)−PEOブロックが生分解性ジカルボキシル結合にて連結された共重合体のことを意味する。上記プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドの共重合体(PPOBO)は、ブロックまたはランダム共重合体であってもよい。
【0021】
「ジカルボキシル結合(dicarboxylic linkage)」とは、PEO−PPO(またはPBO、またはPPOBO)−PEOブロックの末端OH基とシュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸などの一分子内に2個のカルボキシル基を有するジカルボン酸との反応によって形成されたエステル結合のことを意味する。上記ジカルボキシル結合は、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸(azelaic acid)、セバシン酸(sebacic acid)、及びドデカン酸からなる群より選ばれたアルキルジカルボン酸によって提供されていてよい。また、上記ジカルボキシル結合は、フマル酸またはマレイン酸などの不飽和ジカルボキシル酸、フタル酸またはテレフタル酸などのアリールジカルボキシル酸によって提供されていてよい。
【0022】
「生分解性」とは、体内への投与後に加水分解あるいは酵素によって分解され、体内へ吸収されまたは安全に排出される特性のことをいう。
【0023】
「ポロキサマー」とは、疎水性ブロックのポリプロピレンオキサイド(PPO)と2個の親水性ブロックのポリエチレンオキサイド(PEO)とがエーテル結合により結合されてなる三重ブロックPEO−PPO−PEO共重合体化合物のことを意味し、該共重合体は、重合体の重量平均分子量が1,000ダルトン〜20,000ダルトンであり、両末端基がヒドロキシル基である。特に、商用化された化合物であるポロキサマー188(Fluronic(登録商標) F−68)、ポロキサマー407(Fluronic(登録商標) F−127)を含む。
【0024】
本発明の「多重ブロックポロキサマー(Multiblockpoloxamer)」とは、上記「ポロキサマー」が「ジカルボキシル酸結合」によって2分子以上結合された重合体のことを意味し、40,000ダルトン以上の重量平均分子量を有する。
【0025】
「ゾル−ゲル相転移」は、特定の転移温度以下ではゾル状態で存在していて、温度が転移温度以上に上げると、ゲル状態に変わることを意味し、また転移温度以上のゲル状態を特定の温度以下に下げると、ゾル状態に可逆的に変わることを意味する。上記転移温度は、重合体の種類、水溶液の濃度、塩の存在有無、水素イオン濃度などによって変化し、一実施例において、上記転移温度は、5〜37℃の範囲であり、具体的には、25〜35℃の範囲である。
【0026】
また、「凍結乾燥」とは、一般的に物質を水に溶かして0℃以下に凍結させてから、真空ポンプを利用して減圧させることで溶媒として利用された水の昇華を起こして乾燥させる方式のことをいう。
【0027】
一実施例において、上記多重ブロック共重合体は、下記一般式1で示されていてよい。
【0028】
【化1】

上記式中、PEOは、ポリエチレンオキサイドブロックを表し、Yは、PPO、PBO、またはPPOBOを表し、ここで、PPOは、ポリプロピレンオキサイドブロックであり、PBOは、ポリブチレンオキサイドブロックであり、PPOBOは、ポリプロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドの共重合体ブロックであり、
Xは、Hまたは陰イオン基を表し、
nは、1ないし100の間の整数を表し、
Rは、−(CH−またはCm’を含むアリールを表し、
mは、0ないし20の間の整数を表し、
m’は、6ないし12の間の整数を表し、
Mは、Hまたは陽イオン基(ただし、MとXとが共にHではなく、XがHである場合、Mは存在しない)を表す。
【0029】
好ましくは、Xは、−SO、−PO2−、及び−C(=O)−R−C(=O)−Oからなる群より選ばれた陰イオン基を表し、Mは、Li、Na、K、Ag、Au、Ca、Mg、Zn、Fe、Cu、Co、及びNiからなる群より選ばれた陽イオン基を表す。
【0030】
また他の一実施例において、上記多重ブロック共重合体の重量平均分子量は、40,000ないし1,000,000ダルトンの範囲であり、具体的には、40,000ないし500,000ダルトンであり、より具体的には、80,000ないし130,000ダルトンの範囲である。
【0031】
本発明の一実施例において、上記多重ブロック共重合体の合成過程は、次の4段階を含む。先ず、PEO−PPO(またはPBO、またはPPOBO)−PEO末端ヒドロキシル基当量の0.5ないし1.0当量のジカルボン酸ジクロライドをPEO−PPO(またはPBO、またはPPOBO)−PEOに6時間以上ゆっくり加え、12時間以上反応させる。そして、該反応液にPEO−PPO(またはPBO、またはPPOBO)−PEO0.1当量を添加し、2時間以上反応させる。そうすると、多重ブロック共重合体が合成されるが、これをエーテル溶媒に沈殿させ、メタノールに溶解させて重合体のみを分離する。分離した重合体に対してメタノール/エーテルの体積混合比率が1/1〜1/20なるようにエーテルをゆっくり加えて重合体を沈殿させ、両末端にヒドロキシル基を有する多重ブロック重合体を得た。より詳しい合成方法は、KR2007−042159A号に開示されている。上記出願は、その全体が本明細書に参照として取り込まれる。
【0032】
本発明の多重ブロック共重合体水溶液は、低温(10℃以下)では流動性を有する液状で存在し、一定の温度以上に加熱するとゲル状態に変わって流動性を失い、固体状態になるという特性を有する。体外から一般の注射器で投与可能な液状の多重ブロック共重合体水溶液を人体に投与することができる。重合体が人体に投与されると、体温によって固相に変わる。多重ブロック共重合体水溶液に有効成分を含ませると、体内で固相の多重ブロック共重合体に閉じ込められていた有効成分が徐々に放出される効果が得られる。
【0033】
したがって、本発明の凍結乾燥剤形は、多重ブロック共重合体によって送達され得る有効成分をさらに含むことができ、その有効成分としては、特に制限されるものではないが、薬理的効能を示す生体活性成分であってよい。一実施例において、上記有効成分は、タンパク質またはペプチドであってよく、その例としては、成長ホルモン(growth hormone、GH)、インターフェロン(interferon、IFN)、顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte colony stimulation factor、G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte macrophage colony stimulation factor、GMCSF)、エリスロポエチン(erythropoietin、EPO)、インターロイキン(interleukin、IL)、線維芽細胞成長因子(fibroblast growth factor)、卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone、FSH)、神経成長因子(nerve growth factor、NGF)、オクトレオチド(octreotide)、インシュリン、インシュリン様成長因子(insulin−like growth factor、IGF)、カルシトニン(calcitonin)、腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor、TNF)、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor、VEGF)、上皮成長因子(epidermal growth factor、EGF)、血小板由来成長因子(platelet−derived growth factor、PDGF)、骨形成因子(bone morphogenetic protein、BMP)、血栓溶解剤(tissue plasminogen activator、TPA)、トロンボポエチン(thrombopoietin、TPO)、組織成長因子(tissue growth factor、TGF)、エクセナチド(exenatide)などが挙げられる。上記ペプチド及びタンパク質は、天然、加工、自然、糖化形態、またはPEG、生物学的活性を有する断片またはその類似体などの重合体を有する変形された形態であってよい。一実施例において、上記有効成分は、凍結乾燥剤形組成物の重量を基準に1〜50重量%含まれていてよい。
【0034】
上記凍結乾燥剤形の組成物は、防腐剤、安定化剤、水和剤、または浸透圧調節のための塩及び/または緩衝剤などの薬剤学的補助剤、及びその他治療的に有用な物質をさらに含有していてよい。
【0035】
一実施例において、上記組成物は、酢酸塩、クエン酸塩、グリシン酸塩、リン酸塩及び炭酸塩の緩衝液からなる群より選ばれた一種以上をさらに含んでいてよい。タンパク質またはペプチド薬物は、剤形の組成、特にpHに敏感に反応し、それによって構造が変化したり、活性が減少したりすることがある。このことから、多重ブロック共重合体溶液の調製時、純粋な水よりも緩衝液を使用すると、剤形の安定性を高めるという効果がある。
【0036】
また他の一実施例において、上記組成物は、コラーゲン、ゼラチン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸、及びキトサンからなる群より選ばれた一種以上の生分解性物質をさらに含んでいてよい。かかる生分解性物質を多重ブロック共重合体水溶液に添加してなる凍結乾燥剤形を体内に投与すると、タンパク質やペプチドの持続的な放出を可能にするという長所がある。
【0037】
一実施例において、凍結乾燥剤形の組成物は、凍結乾燥補助剤を含んでいてよく、上記凍結乾燥補助剤は、糖、糖アルコールまたはこれらの混合物であってよい。上記糖は、ラクトース、マルトース、スクロース、及びトレハロースからなる群より選ばれた一種以上であってよく、上記糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、及びラクチトールからなる群より選ばれた一種以上であってよい。一実施例において、凍結乾燥補助剤の含量は、凍結乾燥組成物の全乾燥重量を基準に、1ないし50重量%、より具体的には、1ないし30重量%である。
【0038】
また、本発明は、多重ブロック共重合体を含む凍結乾燥された剤形の薬剤学的組成物を製造する方法を提供する。一実施例において、上記組成物を製造する方法は、
(a)多重ブロック共重合体を、溶液の全重量を基準に、1ないし7重量%、具体的に、2ないし5重量%で溶媒に溶解させて重合体溶液を調製する工程;及び
(b)上記工程(a)で調製された溶液を凍結乾燥させる工程を含む。
【0039】
一実施例において、上記薬剤学的組成物を製造する方法は、工程(a)において重合体を溶解させるとき、タンパク質またはペプチドを添加する工程をさらに含んでいてよい。
【0040】
一実施例において、有効成分の体内における持続的な放出を可能にするとともに、注射器にて容易に投与可能にする多重ブロック共重合体の水溶液の濃度は4ないし25重量%程度であり、この濃度範囲の水溶液をそのまま凍結乾燥させると、再構成に相当な時間がかかる場合がある。
【0041】
すなわち、凍結乾燥前の水溶液における多重ブロック共重合体の濃度によって凍結乾燥剤形の再構成時間が相当に異なる。再構成時間を減少させるためには、凍結乾燥剤形において水が浸透できる十分な空間が確保されている必要があり、水と接触する表面において溶解された多重ブロック共重合体の粘度を減少させる必要がある。本発明は、再構成時の粘度を下げる方法として、凍結乾燥前の水溶液における多重ブロック共重合体の濃度を調節することを特徴とする。また、上記濃度の調節により、凍結乾燥されたケーキのポアも大きくすることができるという効果がある。
【0042】
本発明の凍結乾燥前の水溶液における多重ブロック共重合体の濃度は、1ないし7重量%、具体的には、2ないし5重量%である。上記濃度が7重量%を超える水溶液を凍結乾燥すると、凍結乾燥された多重ブロック共重合体に水を入れて再構成するとき、水と接触した表面において溶解し始める多重ブロック共重合体が粘性を呈する液体に変化し、この液体は、粘度が高いことから水分のケーキの下部への侵透を阻止するようになる。このため、凍結乾燥剤形の再構成時間から長くなるという問題がある。一方、1重量%未満の濃度においても再構成時間が増加することがある。1重量%未満の多重ブロック共重合体水溶液を凍結乾燥すると、乾燥した多重ブロック共重合体が多孔性のケーキに変わり、乾燥時に生成されたポアにより、一部の重合体だけが水と接触し、残りの重合体は水と接触できず溶解が不可能になったり、再構成時間が顕著に増加したりすることがある。
【0043】
本発明の一実施例において、上記凍結乾燥剤形は、注射用蒸留水、5%ブドウ糖、及び生理食塩水などで4〜25重量%、具体的に、7ないし13重量%の濃度に再構成して人体に投与すればよい。多重ブロック共重合体の再構成された濃度が25重量%を超えると、重合体を再構成しにくくなり、シリンジにより重合体溶液を注射しにくくなる。一方、再構成濃度が4重量%未満であると、ゲルが重合体を有する剤形を形成しない。
【0044】
以下、本発明を下記実施例などに基づいてより詳しく説明するが、これらは本発明を説明するためのものであるに過ぎず、これらによって本発明の範囲が何ら制限されるものではない。
【0045】
製造例1.二塩化スクシニルを使用してポロキサマー407からなる多重ブロック共重合体の合成
ポロキサマー407(Pluronic(登録商標) F−127、BASF社製、分子量:12,500ダルトン、PEO:PPO=101:56)10gを100mlの一口丸底フラスコに入れ、これを120℃で加熱したオイル・バス内において加熱し、減圧しながら上記重合体に含まれている水分を2時間にかけて除去した。減圧を解除し、窒素を流しながら、反応温度を100℃に設定した後、アセトニトリル100mlをフラスコに添加した。反応フラスコにディーン・スターク装置と冷却器を設置した。蒸留されて出てくるアセトニトリル20mlをディーン・スターク装置により除去して、反応物内の水分を完全に除去した後、ディーン・スターク装置の貯留容器に二塩化スクシニルを1当量添加して24時間反応させた。24時間後、合成されたポロキサマーオリゴマーの末端基をカルボキシル基で置換させるために、さらにディーン・スターク装置の貯留容器に塩化スクシニル96μlを添加して24時間反応させた。合成されたポロキサマーオリゴマーをジエチルエーテル1Lに沈殿させ、ろ過させて、生成物(8.2g)を得た。こうして得られた生成物をさらにメタノール16mlに溶かしてジエチルエーテルに沈殿させ、ろ過させて、精製する過程を2回実施し、真空乾燥させて、分子量の分布が狭いポロキサマーオリゴマー(5.7g)を得た。
【0046】
上記多重ブロック共重合体の重量平均分子量は90,700ダルトンであることをGPCで確認し、H−NMRで合成を確認した(図1)。
【0047】
比較例1
製造例1で得られた多重ブロック共重合体を7〜15重量%の濃度で蒸留水に溶かし、零下20℃で凍結させてから乾燥させた。乾燥が終わった後、それぞれに対して凍結前と同じ濃度になるように蒸留水を入れ、完全に溶解されるまでの所要時間を測定した。測定された結果は、下表1のとおりである。
【0048】
【表1】

上記表1を参照すると、凍結乾燥前の水溶液の多重ブロック共重合体の濃度が高くなるほど溶解時間が急増することが分かる。15%多重ブロック共重合体水溶液の場合、重合体が完全に溶解されるのに相当の時間が所要されることが分かる。
【0049】
比較例2
製造例1で得られた多重ブロック共重合体を、pH5.0の0.1Mアセテート緩衝溶液に7〜12重量%の濃度で溶解して凍結乾燥した。凍結乾燥された多重ブロック共重合体に蒸留水の量を異ならせて加え、完全に溶解するまでの時間を測定した。測定された結果は、下表2のとおりである。
【0050】
【表2】

上記表2と表1を参照すると、アセテートバッファーを利用して凍結乾燥し、再構成した場合、溶解時間がアセテートバッファーを利用していない場合より相対的に再構成時間が増加することが分かる。
【0051】
比較例3
7〜12重量%の多重ブロック共重合体水溶液に、ヒアルロン酸を製造例1で得られた重合体を基準に1重量%になるように添加して凍結乾燥した。凍結乾燥された多重ブロック共重合体に蒸留水の量を異ならせて加え、完全に溶解するまでの時間を測定した。測定された結果は、下表3のとおりである。
【0052】
【表3】

上記表3と表1を参照すると、多重ブロックポロキサマーにヒアルロン酸を添加すると、添加していない場合に比べて相対的に再構成時間が増加することが分かる。
【0053】
実施例1
製造例1で得られた多重ブロック共重合体水溶液の重合体の濃度を2重量%にして凍結乾燥した後、凍結乾燥された多重ブロック共重合体に蒸留水の量を異ならせて加え、完全に溶解するまでの時間を測定した。測定された結果は、下表4のとおりである。
【0054】
【表4】

上記表から、凍結乾燥前に重合体の濃度を2重量%に調節した場合、溶解後の重合体の濃度を高めても溶解時間には大きな増加がなく、比較例1に比べて溶解時間が非常に短くなることが分かる。凍結乾燥された重合体溶液が溶解され、重合体の濃度が12重量%とより高い濃度に到逹しても、溶解時間には大きな変化がなかった。濃度が7ないし12重量%の多重ブロック共重合体溶液を調製するための溶解時間は、比較例1と比べて顕著に減少した。
【0055】
実施例2
製造例1で得られた多重ブロック共重合体水溶液の重合体の濃度を5重量%にして凍結乾燥した後、凍結乾燥された多重ブロック共重合体に蒸留水の量を異ならせて加え、完全に溶解するまでの時間を測定した。測定された結果は、下表5のとおりである。
【0056】
【表5】

上記表から、凍結乾燥前に重合体の濃度を5重量%に調節した場合においても、溶解後の重合体の濃度を高めても溶解時間には大きな増加がなかった。凍結乾燥された重合体溶液が溶解され、重合体の濃度が12重量%とより高い濃度に到逹しても、溶解時間には大きな変化がなかった。濃度が7ないし12重量%の多重ブロック共重合体溶液を調製するための溶解時間は、比較例1と比べて大きく減少した。
【0057】
実施例3
製造例1で得られた多重ブロック共重合体を、pH5.0の0.1Mアセテート緩衝溶液に5重量%の濃度で溶解して凍結乾燥した。凍結乾燥された多重ブロック共重合体に蒸留水の量を異ならせて加え、完全に溶解するまでの時間を測定した。測定された結果は、下表6のとおりである。
【0058】
【表6】

多重ブロック共重合体水溶液に塩を混合して凍結乾燥してから溶解させると、比較例2に見られるように再構成時間が増加したが、本実施例においては、かかる塩の添加にもかかわらず、溶解時間が急激に変わらないことが分かる。
【0059】
実施例4
5重量%の多重ブロック共重合体水溶液に、ヒアルロン酸を重合体を基準に1重量%になるように添加して凍結乾燥した。凍結乾燥された多重ブロック共重合体に蒸留水の量を異ならせて加え、完全に溶解するまでの時間を測定した。測定された結果は、下表7のとおりである。
【0060】
【表7】

ヒアルロン酸を添加する場合においても、比較例3に見られるように再構成時間が増加したが、本実施例においては、ヒアルロン酸の添加にかかわらず、溶解時間には影響が少ないことと確認された。
【0061】
以上の実施例から分かるように、重合体の濃度を1ないし7重量%の範囲で調節して凍結乾燥すると、乾燥したケーキ内のポアが大きくなり且つその数が増加することで溶解のために添加する蒸留水の吸収を助け、その結果、重合体が溶解された水溶液の粘度も低くなり、且つポアに浸透する能力が向上し、溶解時間が短縮する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
ここに開示された組成物は、凍結乾燥された持続放出剤形の再構成時間を減少させることができ、薬剤分野及び他の分野において利用できる。
【0063】
上記実施例が図示及び説明されたが、当業者は請求項に開示された本質及び範囲から逸脱することなく形態及び詳細事項において多様な変化がなされ得ることが理解できるであろう。
【0064】
さらには、本発明の必須な範囲を逸脱することなく本発明の開示に特定の状況または材料を適用して多様な変形がなされ得る。そのため、本発明は、本発明を遂行する最善の形態として開示された特定の実施例に限定されるものではなく、本発明は、請求の範囲内に該当するすべての実施を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ジカルボキシル結合にて共有結合された、2つ以上のABA−タイプの三重ブロックを含む多重ブロック共重合体を含む薬剤学的組成物であって、
前記Aは、ポリエチレンオキサイドブロックであり、前記Bは、ポリプロピレンオキサイドブロック、ポリブチレンオキサイドブロック、またはプロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドの共重合体ブロックであり、
前記薬剤学的組成物は、多重ブロック共重合体の濃度が凍結乾燥前の溶液の全重量を基準に1ないし7重量%含有された溶液を凍結乾燥させてなることを特徴とする凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物。
【請求項2】
前記多重ブロック共重合体は、凍結乾燥前の溶液の全重量を基準に2ないし5重量%の濃度で含有されたことを特徴とする請求項1に記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物。
【請求項3】
前記組成物は、タンパク質またはペプチドをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物。
【請求項4】
前記多重ブロック共重合体は、下記一般式1で示されることを特徴とする請求項1に記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物。
【化1】

[前記式中、PEOは、ポリエチレンオキサイドブロックを表し、
Yは、PPO、PBO、またはPPOBOを表し、ここで、PPOは、ポリプロピレンオキサイドブロックであり、PBOは、ポリブチレンオキサイドブロックであり、PPOBOは、プロピレンオキサイド及びブチレンオキサイドの共重合体ブロックであり、
Xは、Hまたは陰イオン基を表し、
nは、1ないし100の間の整数を表し、
Rは、−(CH−またはCm’を含むアリールを表し、
mは、0ないし20の間の整数を表し、
m’は、6ないし12の間の整数を表し、
Mは、Hまたは陽イオン基(ただし、MとXとが共にHではなく、XがHである場合、Mは存在しない)を表す。]
【請求項5】
前記多重ブロック共重合体の重量平均分子量は、40,000ないし1,000,000ダルトンの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物。
【請求項6】
前記組成物は、酢酸塩、クエン酸塩、グリシン酸塩、リン酸塩、及び炭酸塩緩衝液からなる群より選ばれた一種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物。
【請求項7】
前記組成物は、コラーゲン、ゼラチン、デキストラン、デキストリン、ヒアルロン酸、及びキトサンからなる群より選ばれた一種以上の生分解性物質をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物。
【請求項8】
前記凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物は、水溶液における再構成時に水溶液の全濃度を基準に、4ないし25重量%の濃度を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物を製造する方法であって、
多重ブロック共重合体を、溶液の全重量を基準に、1ないし7重量%の濃度で溶媒に溶解させて重合体溶液を調製する工程、及び
前記溶液を凍結乾燥させる工程
を含む、凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物の製造方法。
【請求項10】
前記重合体溶液を調製する工程においては、溶液の全重量を基準に、2ないし5重量%の多重ブロック共重合体を溶媒に溶解させることを特徴とする請求項9に記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物の製造方法。
【請求項11】
タンパク質またはペプチドを、多重ブロック共重合体の溶解とともにさらに溶解させることを特徴とする請求項9に記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物の製造方法。
【請求項12】
前記多重ブロック共重合体は、総水溶液を基準に4ないし25重量%の範囲の濃度で溶解されることを特徴とする請求項9に記載の凍結乾燥剤形の薬剤学的組成物の製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−513989(P2012−513989A)
【公表日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−543438(P2011−543438)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【国際出願番号】PCT/KR2009/007844
【国際公開番号】WO2010/077045
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(511123739)サミャン コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】