説明

凍結乾燥菌体の製造方法

【課題】37℃の室内に未包装の状態で長期間放置しておいても微生物の生存率が高く維持される凍結乾燥菌体の製造方法を提供する。
【解決手段】トレハロースとトレハロース以外の糖とを含有する水溶液またはスクロースとスクロース以外の糖とを含有する水溶液に微生物を懸濁させ、次いで該懸濁液を凍結乾燥させることによって、37℃の室内に未包装の状態で長期間放置しておいても微生物の生存率が高く維持される凍結乾燥菌体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凍結乾燥菌体の製造方法に関する。より詳細に、本発明は、37℃の室内に未包装の状態で長期間放置しておいても微生物の生存率が高く維持される凍結乾燥菌体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物農薬は、生きた状態のウイルス、細菌、糸状菌、線虫などの微生物を有効成分として含有する農薬である。したがって、微生物の生存数が十分になければ、農薬としての効果が小さい。そのために微生物を長期生存保存する技術が要望されている。
微生物の保存法としては、凍結法、乾燥法、及び継代培養法が知られている。これらのうち、凍結乾燥法が微生物の長期安定保存の観点から優れている。ところが、凍結乾燥法でも、少なからず微生物が損傷または死滅することがある。このため、凍結乾燥時の菌体保護を目的としてさまざまな保護物質を添加することが提案されている。
【0003】
凍結乾燥時の菌体の損傷または死滅を軽減させる保護物質としては、例えば、トレハロースが知られている(特許文献1)。また、塩化ナトリウムとトレハロース、塩化ナトリウムとスクロース、または塩化カリウムとスクロースとの混合物が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−325077号公報
【特許文献2】特開2009−196920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載されているように、トレハロースと塩化ナトリウムとを添加してなる凍結乾燥菌体は、37℃の室内に未包装の状態で放置していると、2週間後の生存率が数%程度になってしまう。
本発明は、37℃の室内に未包装の状態で長期間放置しておいても微生物の生存率が高く維持される凍結乾燥菌体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、トレハロースとトレハロース以外の糖とを含有する水溶液またはスクロースとスクロース以外の糖とを含有する水溶液に微生物を懸濁させ、次いで該懸濁液を凍結乾燥させることによって、37℃の室内に未包装の状態で長期間放置しておいても微生物の生存率が高く維持される凍結乾燥菌体が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づいて、さらに検討を重ねた結果、完成するに至ったものである。
【0007】
すなわち、本発明は以下のものを含む。
〔1〕 トレハロースとトレハロース以外の糖と微生物とを含有する懸濁液またはスクロースとスクロース以外の糖と微生物とを含有する懸濁液を調製し、
次いで該懸濁液を凍結乾燥させることを含む、凍結乾燥菌体の製造方法。
〔2〕 前記懸濁液は、トレハロース10〜50重量%とトレハロース以外の糖0.1〜10重量%とを含有するもの、またはスクロース10〜50重量%とスクロース以外の糖0.1〜10重量%とを含有するものである、前記〔1〕に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
〔3〕 トレハロース以外の糖が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、マルトシルトレハロース、デキストリン、デンプン、プルランおよびアガロースからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
スクロース以外の糖が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、ラクトース、トレハロース、マルトシルトレハロース、デキストリン、デンプン、プルランおよびアガロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕または〔2〕に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
〔4〕 前記懸濁液が、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムをさらに含有するものである、前記〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
〔5〕 微生物が芽胞非形成細菌である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
〔6〕 微生物がシュードモナス属細菌である、前記〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
〔7〕 シュードモナス属細菌がシュードモナス ロデシアである、前記〔6〕に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
〔8〕 シュードモナス ロデシアが、シュードモナス ロデシア 050572I9株(受託番号FERM BP−10912)である、前記〔7〕に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
〔9〕 前記〔1〕〜〔8〕のいずれか1項に記載の方法で製造された凍結乾燥菌体を含有する微生物農薬組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によって得られる凍結乾燥菌体は、37℃の室内に未包装の状態で長期間放置しておいても、微生物の生存率が高く維持される。該凍結乾燥菌体を含有する微生物農薬組成物は、農薬の生産、流通および使用の過程においても、十分な生菌数を維持できるので、長期保管後でも農薬としての効果が高く維持される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る凍結乾燥菌体の製造方法は、トレハロースとトレハロース以外の糖と微生物とを含有する懸濁液またはスクロースとスクロース以外の糖と微生物とを含有する懸濁液を調製し、 次いで該懸濁液を凍結乾燥させることを含むものである。
【0010】
本発明に用いられるトレハロースまたはスクロースは、凍結乾燥時の微生物保護のための物質として公知のものである。
トレハロース以外の糖またはスクロース以外の糖は、水可溶性であれば特に限定されない。公知の、単糖類、二糖類、オリゴ糖類および多糖類の中から適宜選択できる。
トレハロース以外の糖としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、マルトシルトレハロース、デキストリン、デンプン、プルランおよびアガロースからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、
スクロース以外の糖としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、ラクトース、トレハロース、マルトシルトレハロース、デキストリン、デンプン、プルランおよびアガロースからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
これらのうち、トレハロースとトレハロース以外の糖との組み合わせが好ましく;トレハロースとスクロースとの組み合わせ、トレハロースとマルトースとの組み合わせ、トレハロースとグルコースとの組み合わせのごときトレハロースと単糖または二糖との組み合わせがより好ましく;トレハロースとグルコースとの組み合わせ、トレハロースとフルクトースとの組み合わせのごときトレハロースと単糖との組み合わせがさらに好ましい。
【0011】
懸濁液中における、トレハロースとトレハロース以外の糖またはスクロースとスクロース以外の糖のそれぞれの含量は、特に制限されない。
トレハロースとトレハロース以外の糖との組み合わせの場合には、トレハロースの含量が、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%であり、トレハロース以外の糖の総含量が、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。
スクロースとスクロース以外の糖との組み合わせの場合には、スクロースの含量が、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは10〜30重量%であり、スクロース以外の糖の総含量が、好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%である。
【0012】
懸濁液には、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムがさらに添加されていることが好ましい。懸濁液中における、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムの含量は、好ましくは0.1〜2重量%である。さらに、懸濁液には、クエン酸カリウム、クエン酸ナトリウムなどの塩類が添加されていてもよい。懸濁液中における塩類の含量は、好ましくは0.1〜2重量%である。懸濁液には、その他に、界面活性剤若しくは分散剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、防腐剤などが添加されていてもよい。
【0013】
本発明に用いられる微生物は、微生物農薬の主成分となりうるもので且つ凍結乾燥に耐性を有する微生物であれば特に制限はなく、細菌類、放線菌類、真菌類、粘菌類、非病原性菌類などが挙げられる。該微生物としては、バチルス属、シュードモナス属、フザリウム属、ゲオトリクム属、グリオクラディウム属、トリコデルマ属、タラロマイセス属、ペニシリウム属等が挙げられる。
【0014】
本発明の製造方法は、上記のような様々な微生物に対して適用できるが、一般に保存安定性が低いと言われている芽胞非形成細菌に対して適用することが好ましい。芽胞とは、複製された細菌遺伝子を包摂した極めて耐久性の高い細胞構造である。芽胞は、通常の細菌が死滅する状況に陥っても生き残ることが可能である。生き残った芽胞が再びその細菌の増殖に適した環境に置かれると、芽胞は発芽して、通常の増殖・代謝能を有する菌体が作られる。一方、芽胞非形成細菌は、環境が悪化したときでも芽胞を形成しないので、栄養や温度の状態が悪化したときに生菌率が大きく低下し、再生困難になりやすい。
【0015】
また、本発明では、微生物として、グラム陰性細菌を用いることが好ましい。グラム陰性細菌(Gram-negative bacteria)とはグラム染色においてクリスタルバイオレットによる染色が脱色される細菌である。グラム陽性菌ではクリスタルバイオレットは脱色されない。グラム染色試験では対比染色として通常はサフラニンがクリスタルバイオレットの後に加えられ、全てのグラム陰性菌は赤あるいは桃色に染色される。グラム陰性細菌としては、プロテオバクテリア、シアノバクテリア、スピロヘータ、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌などが挙げられる。
【0016】
本発明の製造方法の適用が最も好ましい微生物としては、シュードモナス属細菌が挙げられる。シュードモナス属細菌は、芽胞を形成する能力がなく、保存安定化技術の確立が望まれている細菌の一つである。このシュードモナス属細菌のうち、シュードモナス ロデシアが好ましい。シュードモナス ロデシアの中でも、シュードモナス ロデシア 050572I9株(受託番号FERM BP−10912)、シュードモナス ロデシア JCM11940株、シュードモナス ロデシア CB2−4株(受託番号FERM P−21748)及びこれらの株の変異株が好ましいものとして挙げられ、これらの中でもシュードモナス ロデシア 050572I9株およびそれの変異株がより好ましいものとして挙げられる。これらのシュードモナス ロデシア株は、かいよう病、穿孔細菌病、軟腐病、斑点細菌病、黒斑細菌病、青枯病、褐斑細菌病、茎えそ細菌病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、白葉枯病、腐敗病、および黒腐病等の植物の病害に対して効果を有する微生物である。
【0017】
これらの微生物は、懸濁液調製の準備のために、通常の固体培養法または液体培養法により培養することができる。固体培養法により培養した場合は、固体培地に生育した菌体を固体培地とともにそのまま用いてもよいし、固体培地から掻き取るなどの方法で集菌して得られる菌体を用いてもよい。液体培養法により培養した場合は、培養液をそのまま用いてもよいし、培養液から濾過または遠心分離等の方法で菌体を分離して得られる湿菌体として用いてもよい。さらに、該微生物を緩衝液等の水性媒体に懸濁して用いてもよい。水性媒体としては、水や、リン酸緩衝液、HEPES(N-2ヒドロキシエチルピペラジン-N-エタンスルホン酸)緩衝液、またはトリス[トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン]塩酸緩衝液等の緩衝液などがあげられる。緩衝液のpHは微生物の生残に適した値であればいずれでもよいが、通常はpH4〜10、好ましくはpH7〜9である。例えば、微生物がシュードモナス ロデシア 050572I9株(受託番号FERM BP−10912)である場合は、液体標準培地(酵母エキス0.25%,ペプトン0.5%,グルコース0.1%,pH7.0)で当該微生物を培養し回収したものを用いることができる。
【0018】
懸濁液の調製方法は特に限定されない。例えば、水に、トレハロースとトレハロース以外の糖またはスクロースとスクロース以外の糖、必要に応じて、塩化ナトリウムや塩化カリウム、および/または塩類を溶解させ、この溶液に微生物を分散させることによって、または微生物の培養液に、トレハロースとトレハロース以外の糖またはスクロースとスクロース以外の糖、必要に応じて、塩化ナトリウムや塩化カリウム、および/または塩類を溶解させることによって得ることができる。トレハロースとトレハロース以外の糖またはスクロースとスクロース以外の糖とを水等の水性媒体に効率的に溶解させるために、それら糖として微粉状のものを用い、それを徐々に添加することが好ましい。また当該糖の溶解を促進するために撹拌または振盪を行うのが好ましい。糖に変性を来さない範囲で加温や超音波処理を行ってもよい。微生物を分散させる際には発泡等が起きない程度で撹拌することが好ましい。
【0019】
懸濁液を凍結乾燥させるために、凍結乾燥機を用いる方法などの従来公知の手法を採用することができる。例えば、懸濁液をアンプルに入れ、ドライアイス・アセトン液又は−80℃の超低温槽で予備凍結させ、次いで、低温且つ高真空条件に予めしておいた凍結乾燥機の分岐管にアンプルをセットし、6時間〜一晩凍結乾燥を行う。
凍結乾燥後、得られた凍結乾燥菌体は、容器や包材等に封入することが好ましい。封入の際に凍結乾燥菌体の吸湿性を低減させる物質、例えば、乾燥剤、吸湿剤、調湿剤等を同封してもよい。また、封入は、真空下でまたは常圧下で行うことができる。
凍結乾燥菌体は、遮光された場所に静置して保存することが好ましい。保存する温度は通常の範囲内であれば特に制限されないが、50℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましく、4℃以下であることがさらに好ましい。
凍結乾燥菌体は、市販粉砕機で粉砕して粉末にすることができる。粉末は、篩別し、粉粒の大きさを、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下にすることができる。
【0020】
本発明に係る微生物農薬組成物は、前記の方法で製造された凍結乾燥菌体を含有するものである。また、本発明に係る微生物農薬組成物は、担体、乾燥剤、補助剤、界面活性剤若しくは分散剤、酸化防止剤、着色剤、滑剤、紫外線防止剤、帯電防止剤、防腐剤などの農薬製剤において一般的に使用される任意成分を含有していてもよい。
【0021】
担体としては、炭酸カルシウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸アンモニウム等の無機塩類;クエン酸、リンゴ酸、ステアリン酸等の有機酸及びそれらの塩;グルコース、ラクトース、スクロース等の糖類;アルミナ粉、シリカゲル、ゼオライト、ヒドロキシアパタイト、リン酸ジルコニウム、リン酸チタン、酸化チタン、酸化亜鉛、ハイドロタルサイト、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、クレー、珪藻土、ベントナイト、ホワイトカーボン、カオリン、バーミキュライト等の固体担体を挙げることができる。
【0022】
乾燥剤としては、生石灰、III型無水石膏、塩化カルシウム、五酸化二リン、水酸化ナトリウム・水酸化カリウム、硫酸ナトリウム無水塩、硫酸銅無水塩、過塩素酸マグネシウムなどの化学的乾燥剤;シリカゲル、酸化アルミニウム、モレキュラーシーブ、アロフェン、ゼオライトなどの物理的乾燥剤などが挙げられる。
補助剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、アラビアゴム、澱粉等を挙げることができる。
【0023】
界面活性剤若しくは分散剤としては、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
【0024】
ノニオン性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル(C12〜18)、POEソルビタン脂肪酸エステル(C12〜18)、スクロース脂肪酸エステルなどの糖エステル型界面活性剤;POE脂肪酸エステル(C12〜18)、POE樹脂酸エステル、POE脂肪酸ジエステル(C12〜18)などの脂肪酸エステル型界面活性剤;POEアルキルエーテル(C12〜18)等のアルコール型界面活性剤;POEアルキル(C8〜12)フェニルエーテル、POEジアルキル(C8〜12)フェニルエーテル、POEアルキル(C8〜12)フェニルエーテルホルマリン縮合物などのアルキルフェノール型界面活性剤;ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー;アルキル(C12〜18)ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマーエーテルなどのポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー型界面活性剤;POEアルキルアミン(C12〜18)、POE脂肪酸アミド(C12〜18)などのアルキルアミン型界面活性剤;POE脂肪酸ビスフェニルエーテルなどのビスフェノール型界面活性剤;POAベンジルフェニル(又はフェニルフェニル)エーテル、POAスチリルフェニル(又はフェニルフェニル)エーテルなどの多芳香環型界面活性剤;POEエーテル及びエステル型シリコン及びフッ素系界面活性剤などのシリコン系、フッ素系界面活性剤;POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油などの植物油型界面活性剤;等を挙げることができる。
【0025】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルサルフェート(C12〜18、Na、NH4、アルカノールアミン)、POEアルキルエーテルサルフェート(C12〜18、Na、NH4、アルカノールアミン)、POEアルキルフェニルエーテルサルフェート(C12〜18、NH4、アルカノールアミン)、POEベンジル(又はスチリル)フェニル(又はフェニルフェニル)エーテルサルフェート(Na、NH4、アルカノールアミン)、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレンブロックポリマーサルフェート(Na、NH4、アルカノールアミン)などのサルフェート型界面活性剤;パラフィン(アルカン)スルホネート(C12〜22、Na、Ca、アルカノールアミン)、AOS(C14〜16、Na、アルカノールアミン)、ジアルキルスルホサクシネート(C8〜12、Na、Ca、Mg)、アルキルベンゼンスルホネート(C12、Na、Ca、Mg、NH4、アルキルアミン、アルカノール、アミン、シクロヘキシルアミン)、モノ又はジアルキル(C3〜6)ナフタレンスルホネート(Na、NH4、アルカノールアミン、Ca、Mg)、ナフタレンスルホネート・ホルマリン縮合物(Na、NH4)、アルキル(C8〜12)ジフェニルエーテルジスルホネート(Na、NH4)、リグニンスルホネート(Na、Ca)、POEアルキル(C8〜12)フェニルエーテルスルホネート(Na)、POEアルキル(C12〜18)エーテルスルホコハク酸ハーフエステル(Na)などのスルホネート型界面活性剤;カルボン酸型脂肪酸塩(C12〜18、Na、K、NH4、アルカノールアミン)、N-メチル-脂肪酸サルコシネート(C12〜18、Na)、樹脂酸塩(Na、K)などPOEアルキル(C12〜18)エーテルホスフェート(Na、アルカノールアミン)、POEモノ又はジアルキル(C8〜12)フェニルエーテルホスフェート(Na、アルカノールアミン)、POEベンジル(又はスチリル)化フェニル(又はフェニルフェニル)エーテルホスフェート(Na、アルカノールアミン)、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマー(Na、アルカノールアミン)、ホスファチジルコリン・ホスファチジルエタノールイミン(レシチン)、アルキル(C8〜12)ホスフェートなどのホスフェート型界面活性剤;等を挙げることができる。
【0026】
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド(C12〜18)、メチル・ポリオキシエチレン・アルキルアンモニウムクロライド(C12〜18)、アルキル・N-メチルピリジウムブロマイド(C12〜18)、モノ又はジアルキル(C12〜18)メチル化アンモニウムクロライド、アルキル(C12〜18)ペンタメチルプロピレンジアミンジクロライドなどのアンモニウム型界面活性剤;アルキルジメチルベンザルコニウムクロライド(C12〜18)、ベンゼトニウムクロライド(オクチルフェノキシエトキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド)などのベンザルコニウム型界面活性剤;等を挙げることができる。
【0027】
両性界面活性剤としては、ジアルキル(C8〜12)ジアミノエチルベタイン、アルキル(C12〜18)ジメチルベンジルベタイン等のベタイン型界面活性剤;ジアルキル(C8〜12)ジアミノエチルグリシン、アルキル(C12〜18)ジメチルベンジルグリシンなどのグリシン型界面活性剤;等を挙げることができる。
【0028】
これらの界面活性剤は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。界面活性剤の組み合わせとしては、アルキルサルフェートとナフタレンスルホネート・ホルマリン縮合物との組み合わせ、またはナフタレンスルホネート・ホルマリン縮合物とPOEアルキルフェニルエーテルスルホネートとの組み合わせが好ましく、ラウリル硫酸ナトリウムとナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩との組み合わせまたはPOEアリルフェニルエーテル硫酸アンモニウムとPOEアリルフェニルエーテルとの組み合わせがより好ましい。
【0029】
本発明に係る微生物農薬組成物は、本発明に係る凍結乾燥菌体と前記の任意成分とを混合することによって得られる。混合の方法は特に限定されない。例えば、乾式混合、湿式混合などが挙げられる。
【0030】
本発明に係る微生物農薬組成物が採り得る剤形は特に制限されない。例えば、粉剤、水和剤、粒剤、乳剤、フロアブル剤等が挙げられる。これらのうち、水和剤であることが好ましい。
【0031】
本発明の微生物農薬組成物は、通常の農薬の施用方法と同様の手法で施用できる。例えば、本発明の微生物農薬組成物を植物に直接塗布又は散布等することができる。また、本発明の微生物農薬組成物を、植物を植え付ける前の土壌または植物を植え付けた後の土壌に、混和、散布又は潅注等することができる。さらに、送風装置の送風口付近に本発明の微生物農薬組成物を設置し、送風された空気に同伴させて、農園芸作物の栽培施設内に散布することができる。本発明に係る微生物農薬組成物は、剤形に応じて、水等で希釈して用いることができる。
【0032】
本発明の微生物農薬組成物の施用量は、植物病害の種類、適用植物の種類等によって異なるため一概には規定できないが、土壌に散布処理する場合は、シュードモナス ロデシアの菌体濃度に換算して、好ましくは1×102〜1×1011cfu/ml、より好ましくは1×104〜1×109cfu/mlである。また、施用回数や施用時期は、植物の病害の種類や適用植物の種類、病害の程度等によって適宜選択することができる。
【0033】
本発明に係る微生物農薬組成物による病害防除の適用対象となる植物としては、本発明の凍結乾燥菌体が防除能を発揮し得る植物である限り特に制限されない。例えば、アブラナ科、ナス科、ウリ科ユリ科、マメ科、キク科、アカザ科、イネ科、バラ科、ナデシコ科、サクラソウ科、ミカン科、ブドウ科、マタタビ科、カキ科、セリ科、ヒルガオ科、又はサトイモ科に属する植物を挙げることができ、中でも、ハクサイ等のアブラナ科に属する植物、レタス等のキク科に属する植物、ジャガイモ等のナス科に属する植物、レモン、ネーブル等のミカン科に属する植物、モモ等のバラ科に属する植物などを好ましく挙げることができる。
【0034】
本発明の微生物農薬組成物が適用される病害としては、効果を有する限り特に制限されない。例えば、微生物が、植物病害を防除するシュードモナス ロデシアである場合、シュードモナス ロデシアが防除能を示す病原菌が植物に感染することによって引き起こされる植物の病害であれば特に制限はない。例えば、かいよう病、穿孔細菌病、軟腐病、斑点細菌病、黒斑細菌病、青枯病、褐斑細菌病、茎えそ細菌病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病、白葉枯病、腐敗病、及び黒腐病等が挙げられる。これらのうち、軟腐病、腐敗病、黒腐病、かいよう病、穿孔細菌病に好適である。
【実施例】
【0035】
次に、本発明の実施例を若干示すが、添加物、添加割合および操作手順は、これら実施例に限定されるものではなく、広範囲に変化させることが可能である。
【0036】
実施例1
シュードモナス ロデシア 050572I9株(受託番号FERM BP−10912)を、120g/LのBacterio−N KN(登録商標、マルハニチロ食品社製)および20g/Lのグルコース(和光純薬工業社製)を含む培地で培養して、生菌数3.1×1010cfu/mLの培養液を得た。その培養液4Lを遠心分離し、220gの菌体濃縮物を得た。
水275gに塩化ナトリウム(ナカライテスク社製)2.75g、トレハロース二水和物(林原商事社製)125gおよびグルコース12.5gを溶解して水溶液を調製した。この水溶液を前記菌体濃縮物と混合して懸濁液を得た。該懸濁液を一晩放置した後、凍結乾燥させて、凍結乾燥菌体187gを得た。
【0037】
実施例2
グルコースの代わりにスクロース(和光純薬工業社製)を用いた以外は実施例1と同じ手法によって凍結乾燥菌体188gを得た。
【0038】
実施例3
グルコースの代わりにマルトース(和光純薬工業社製)を用いた以外は実施例1と同じ手法によって凍結乾燥菌体186gを得た。
【0039】
比較例1
グルコースを用いなかった以外は実施例1と同じ手法によって凍結乾燥菌体177gを得た。
【0040】
実施例4
シュードモナス ロデシア 050572I9株(受託番号FERM BP−10912)を、60g/LのBacterio−N KN(マルハニチロ食品社製)、30g/LのBacterio−N SS(マルハニチロ食品社製)および15g/Lのグルコースを含む培地で培養して、生菌数4.2×1010cfu/mLの培養液を得た。その培養液4Lを遠心分離し、195gの菌体濃縮物を得た。
水200gに塩化ナトリウム2.00g、トレハロース二水和物100gおよびグルコース8.17gを溶解して水溶液を調製した。この水溶液を前記菌体濃縮物と混合して懸濁液を得た。該懸濁液を一晩放置した後、凍結乾燥させて、凍結乾燥菌体148gを得た。
【0041】
実施例5
水溶液の調製に用いたグルコースの量を12.3gに変えた以外は実施例4と同じ手法によって凍結乾燥菌体150gを得た。
【0042】
実施例6
水溶液の調製に用いたグルコースの量を16.3gに変えた以外は実施例4と同じ手法によって凍結乾燥菌体155gを得た。
【0043】
実施例7
水溶液の調製に用いたトレハロース二水和物の量を120gに変えた以外は実施例4と同じ手法によって凍結乾燥菌体164gを得た。
【0044】
実施例8
水溶液の調製に用いたグルコースの量を12.3gに変えた以外は実施例7と同じ手法によって凍結乾燥菌体173gを得た。
【0045】
実施例9
水溶液の調製に用いたグルコースの量を16.3gに変えた以外は実施例7と同じ手法によって凍結乾燥菌体175gを得た。
【0046】
実施例10
グルコースの代わりにフルクトース(和光純薬工業社製)を用いた以外は実施例1と同じ手法によって凍結乾燥菌体192gを得た。
【0047】
実施例11
グルコースの代わりにガラクトース(ナカライテスク社製)を用いた以外は実施例1と同じ手法によって凍結乾燥菌体184gを得た。
【0048】
実施例12
グルコースの代わりにマンノース(和光純薬工業社製)を用いた以外は実施例1と同じ手法によって凍結乾燥菌体191gの乾燥物を得た。
【0049】
実施例13
グルコースの代わりにラクトース一水和物(ナカライテスク社製)を用いた以外は実施例1と同じ手法によって凍結乾燥菌体182gを得た。
【0050】
実施例14
グルコースの代わりにプルラン(林原商事製)を用いた以外は実施例1と同じ手法によって凍結乾燥菌体174gを得た。
【0051】
試験例
実施例1〜14および比較例1で得られた凍結乾燥菌体を調製した直後に生菌数を測定した。次に、該凍結乾燥菌体を37℃の室内に14日間保存し、それの生菌数を測定した。
なお、生菌数の測定は、混釈平板培養法によって行った。
具体的には、試料1gを秤量し、滅菌水を加えて体積を10mLに調整し、菌液を得た。菌液と標準寒天培地(日水製薬社製)とをシャーレ中にて混和凝固させ、寒天平板を作成した。この寒天平板を25℃で一昼夜培養した。発生したコロニー数をカウントし、生菌数を求めた。結果を表1に示す。表1中の「生存率」は、調整直後の生菌数に対する37℃14日間保存後の生菌数の割合である。
【0052】
【表1】

【0053】
以上の結果から、トレハロースとトレハロース以外の糖とを含有する水溶液またはスクロースとスクロース以外の糖とを含有する水溶液に微生物を懸濁させ、次いで該懸濁液を凍結乾燥させることによって得られる凍結乾燥菌体は、37℃の室内に未包装の状態で長期間放置しておいても微生物の生存率が高く維持されることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレハロースとトレハロース以外の糖と微生物とを含有する懸濁液またはスクロースとスクロース以外の糖と微生物とを含有する懸濁液を調製し、
次いで該懸濁液を凍結乾燥させることを含む、凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項2】
前記懸濁液は、トレハロース10〜50重量%とトレハロース以外の糖0.1〜10重量%とを含有するもの、またはスクロース10〜50重量%とスクロース以外の糖0.1〜10重量%とを含有するものである、請求項1に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項3】
トレハロース以外の糖が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、マルトシルトレハロース、デキストリン、デンプン、プルランおよびアガロースからなる群から選ばれる少なくとも1種であり;
スクロース以外の糖が、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、ラクトース、トレハロース、マルトシルトレハロース、デキストリン、デンプン、プルランおよびアガロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1または2に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項4】
前記懸濁液が、塩化ナトリウムおよび/または塩化カリウムをさらに含有するものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項5】
微生物が芽胞非形成細菌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項6】
微生物がシュードモナス属細菌である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項7】
シュードモナス属細菌がシュードモナス ロデシアである、請求項6に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項8】
シュードモナス ロデシアが、シュードモナス ロデシア 050572I9株(受託番号FERM BP−10912)である、請求項7に記載の凍結乾燥菌体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法で製造された凍結乾燥菌体を含有する微生物農薬組成物。

【公開番号】特開2011−223990(P2011−223990A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60996(P2011−60996)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】