説明

凍結保存液および凍結保存方法

【課題】従来のガラス化溶液よりも毒性が低く、結果として保存による細胞等の生存性を上昇させる凍結保存液、およびその使用による凍結保存方法を提供する。
【解決手段】99〜30%希釈したガラス化溶液に、0.001〜0.1重量%の下記の式I;


(式中、X〜Xのうち、少なくとも1つは単糖又はオリゴ糖の還元末端部分のヘミアセタール水酸基を除いた糖残基であり、その他は水酸基又は水素原子であり、R〜Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、水酸基又はメトキシ基である)で表されるフラボノイド配糖体を含んで成る凍結保存液、および凍結保存方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞、組織、器官および個体の保存のための凍結保存液およびそれを使用した凍結保存方法に関し、より詳細には過冷却促進物質であるフラボノイド配糖体を含む凍結保存液およびそれを使用した凍結保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、細胞や組織の保存は、多くの場合、それらを低温にすることによって行われている。低温の環境では細胞中の化学反応の進行や酵素活性が低下するため、細胞の損傷や老化が抑えられる。特に0℃以下の温度で凍結させて保存する方法は、化学反応の進行や酵素活性を抑えるという点で優れている。しかしながら、このような凍結保存方法を用いる場合、氷晶の形成による細胞の損傷を考慮する必要が生じる。
【0003】
現在、細胞や組織を保存する方法としてガラス化保存法(非特許文献1)が広く用いられている。この方法は、以前に使用されていた緩慢凍結法における欠点を克服するものとして普及した。緩慢凍結法では、緩慢な速度で長時間かけて冷却することで、細胞外液のみに氷晶を形成させる。それによって、細胞内が脱水され、細胞内での氷晶の形成が抑えられる。そのため緩慢凍結法は、長時間にわたる煩雑な操作を要し、また特殊なフリーザー等の高価な機器を用意する必要があった。
【0004】
一方、ガラス化保存法は、ガラス化溶液で処理した細胞等を液体窒素で素早く凍結させることで、細胞内外に氷晶を形成させずに凍結する方法である。これは、ガラス化と呼ばれる現象、即ち、溶液を急速に冷却させると、本来の凝固点を素早く通過して過冷却が生じ、氷晶が形成されずに水分子の動きが止まるという現象を利用したものである。この方法は、氷晶の形成による細胞の損傷が生じない点、処理にかかる時間がわずかな点、および特別な機器が不要な点において、緩慢凍結法より優れている。
【0005】
ガラス化保存の具体的な方法は多数開発されている。例えば、特許文献1には、バイアルに試料を入れ、バイアルごと冷却する方法、特許文献2には、ストローに試料に入れ、ストローごと冷却する方法、特許文献3には、試料を含む溶液を液体窒素中に直接滴下する方法、および、特許文献4には、液体窒素を含むバイアルに試料を入れて冷却する方法が記載されている。
【0006】
このようないずれのガラス化保存法においても、細胞の損傷に関しての問題がなお残っている。ガラス化保存法で用いるガラス化溶液には、凍結保存用の化合物が高濃度で含まれている。例えば、PVS2溶液(非特許文献2)は、一般に、30%のグリセリン、15%のエチレングリコール、15%のDMSOおよび0.4Mのスクロースを含む。このような高濃度の化合物の化学的毒性によって、細胞に損傷がもたらされている。
【特許文献1】特開平7−322784
【特許文献2】特開2000−189155
【特許文献3】特開2000−197481
【特許文献4】特開2007−126471
【非特許文献1】Rall WF and Fahy GM, Nature, 1985; 313:573−575
【非特許文献2】Sakai A. et al., Plant Cell Reports, 1990; 9:30−33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、従来のガラス化溶液よりも毒性が低く、結果として保存による細胞等の生存性を上昇させる凍結保存液、およびその使用による凍結保存方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、99〜30%希釈したガラス化溶液に、0.001〜0.1重量%の下記の式Iで表されるフラボノイド配糖体を含んで成る凍結保存液、およびそのような凍結保存液を用いた凍結保存方法が提供される。
【化2】

【0009】
(式中、X〜Xのうち、少なくとも1つは単糖又はオリゴ糖の還元末端部分のヘミアセタール水酸基を除いた糖残基であり、その他は水酸基又は水素原子であり、R〜Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、水酸基又はメトキシ基である)
【発明の効果】
【0010】
本発明による凍結保存液によって、従来の凍結保存液を用いた保存よりも細胞等の損傷が抑えられ、高い生存率で保存することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者は、ガラス化保存法が抱えるガラス化溶液の毒性の問題に対して、ガラス化溶液に含まれる化合物の濃度を希釈することで、細胞等の損傷を抑えることが可能であると考えた。そして、希釈することで失われるガラス化促進効果は、自身が発見した過冷却活性を有するフラボノイド配糖体を添加することで補うことができると考え、そのようなガラス化溶液の開発に着手し本発明に至った。本発明によるガラス化溶液は、細胞等の損傷を抑えることができた結果、従来のガラス化溶液よりも飛躍的に高い細胞等の生存率を実現できることがわかった。
【0012】
本発明に使用されるフラボノイド配糖体について説明する。
フラボノイド配糖体は植物の二次代謝物として、非常に多くの種類が植物や樹木中に存在することがよく知られている。しかし、配糖体ではないフェノール物質(フラボノイド)が過冷却活性を有するらしいことは知られていたものの(特表2000−500327、WO2004/074397)、フラボノイド配糖体が水の過冷却活性を促進するということは知られていなかった。
【0013】
本発明に使用するフラボノイド配糖体は、樹木から抽出されるものを使用することができる。しかしながら、後述するように、蚕の繭といった昆虫を由来とするものであってもよく、さらには、当該物質の構造は特定されているため、合成されたものでもよい。
【0014】
フラボノイド配糖体が抽出される樹木としては、寒冷地に育成し、過冷却促進物質を多量に含有する樹木が適していると考えられる。このような樹木の例には、針葉樹として、カラマツ、ニオイヒバ、イチイ、スギ、ウラジロモミ、トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ、キタゴヨウ、ストローブマツ、アカマツ、クロマツなど、広葉樹としてシラカンバ、ヤマナラシ、クリ、ナナカマド、ハクウンボク、ミズナラ、ハルニレ、カツラなどが挙げられる。また抽出されるフラボノイド配糖体の量の多少を問わなければ、寒冷地以外の地域に育成する樹木を抽出の原料とすることもできる。
【0015】
本発明に使用するフラボノイド配糖体は、これらの樹種の辺材、心材を含む木部のみならず、樹皮、冬芽、葉などからも抽出することができる。また、これらの物質は、柔細胞といった、生きている細胞中にあるものと考えられるが、細胞外に存在している可能性もある。また、これらの物質は安定的であるため、生立木のみならず、枯死木や長期貯蔵された木材からも抽出することが可能である。
【0016】
そのような樹木組織および木材を含む植物から、抽出によって式Iによるフラボノイド配糖体を得ることができる。例えば、植物組織を有機溶媒に浸漬し、フラボノイド配糖体を有機溶媒中に溶かし出し、精製することで得られる。このとき用いる有機溶媒は80〜100%のメタノールまたはエタノールが好ましい。また、有機溶媒中のフラボノイド配糖体の精製は、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって複数の画分に分けたあと、後述する過冷却活性の測定方法によって、より過冷却活性が高い画分を特定していくことで行うことができる。さらに、画分ごとにHPLC分析を行い、特定のフラボノイド配糖体を取得することが可能である。また、このような方法に限らず、本発明の効果をもたらすフラボノイド配糖体が得られる限り、それ自体公知の何れかの方法を用いて抽出することが可能である。
【0017】
本発明者は、これらの樹木から過冷却活性のある成分を抽出した結果、下記のフラボノイド配糖体が過冷却促進物質であることを見出した。即ち、本発明に使用する、過冷却促進能力のあるフラボノイド配糖体は下式で表される。
【化3】

【0018】
式中、X〜Xのうち、いずれか1つ、好ましくはX又はXは単糖又はオリゴ糖の還元末端部分のヘミアセタール水酸基を除いた糖残基である。
【0019】
天然にはXとXあるいはXとXに糖残基がグルコシド結合したもののみが知られているが、これらを含めて、合成が可能な複数箇所の水酸基(Xなど)がグルコシル化されたものを除外するものではない。
【0020】
なお、本願におけるヘミアセタール水酸基とは、ヘミアセタール基を構成する水酸基のことを指し、例えば、下式の単糖や二糖の基本骨格において、1位の炭素原子に結合する水酸基のことをいう。
【化4】

【0021】
本発明に使用するフラボノイド配糖体を構成する糖の例は、単糖としてグルコース、マンノースおよびガラクトース、オリゴ糖としてルチノース、シュークロースおよびラフィノースが挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、糖残基は、単糖であるグルコース、マンノースおよびガラクトースである。
【0022】
式I中のX〜Xのうち、糖残基とならないものは、水酸基又は水素原子を表す。また、式中のR〜Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、水酸基又はメトキシ基を表す。好ましくは、Rは水素原子または水酸基であり、Rは水素原子またはメトキシ基であり、R、R、RおよびRは水素原子である。
【0023】
本発明に使用するフラボノイド配糖体は、好ましくはケンフェロール−7−O−グルコシドである。また、本発明に使用するフラボノイド配糖体は、好ましくはアピゲニン−7−O−グルコピラノシドである。
【0024】
本発明に使用するフラボノイド配糖体は2.8〜9.0℃の過冷却活性を示す。なお、本願における過冷却活性(又は氷核形成阻害活性ともいう)とは、以下の方法で測定したもので表す。すなわち、氷核活性細菌(Erwinia ananas)の死滅菌体を含む緩衝液に被測定物0.5mg/mlを混合した溶液を用い、温度コントロールができる銅板上に2μLの液滴を載せ、銅板を0.2℃/minで冷却して凍結する液滴数を肉眼で観察し、50%の液滴が凍結した温度を凍結温度とする。被測定物と氷核活性細菌とを含む溶液の凍結温度と、氷核活性細菌のみを含む溶液の凍結温度との差を氷核形成阻害活性(過冷却活性)とする。そして本願では、このような過冷却活性の増大に有効な物質を、過冷却促進物質と表す。
【0025】
本発明に使用するフラボノイド配糖体の過冷却活性は、以下に示す通り、その他の公知の過冷却物質といわれるものに比べて優れている。
1)桃といった種子植物の種子から抽出した未同定の粗抽出物は2.6〜8.1℃の水の過冷却活性を示す(Caple et al., (1983) Cryoletters, 4, 59−64.)。しかし、この値は、氷核形成物質としては能力の低いヨウ化銀のみを用い、用いた冷却速度も1℃/minと、我々の用いる冷却速度より遙かに速く、一時的な過冷却をし易い条件で測定された。
2)丁子から抽出したオイゲノールとその類似物質は0.2〜2.5℃の水の過冷却活性を示す(Kawahara and Obata (1996) J. Antibact. Antifung. Agents, 24, 95−100.)。添加濃度は1mg/mlであり、氷核形成物質としては氷核形成細菌のみを使用し、冷却速度も1℃/minと我々の用いる冷却速度より遙かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
3)ヒノキチオールとその類似物質は0.4〜2.1℃の水の過冷却活性を示す(Kawahara et al., (2000) Biosci. Biotechnol. Biochem.Duman, 64, 2651−2656.)。添加濃度は10mMであり、氷核形成物質として氷核形成細菌のみを使用し、冷却速度も1℃/minと我々の用いる冷却速度より遙かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
4)細菌から抽出した130kDaのキチン多糖は0〜4.2℃の水の過冷却活性を示す(Yamashita et al., (2002) Biosci. Biotechnol. Biochem., 66,948−954)。添加濃度は50μg/mlと高く、氷核形成物質として氷核形成細菌など幅広く使用しているが、水自体の核化を防止する効果はない。用いた冷却速度も1℃/minと我々の用いる冷却速度より遙かに速く、一時的な過冷却をし易い条件である。
5)様々な不凍蛋白質が最大7.8℃の水の過冷却活性を示す(Duman (2002) J. Comp. Physiol., 172, 163−168.)。しかしこの最大の値が得られる添加不凍蛋白質濃度が不明であるとともに、0.5Mという高濃度のクエン酸を添加した時に得られた値である。不凍蛋白質のみでは1.2℃の過冷却を促進するのみである。
【0026】
本発明に使用するフラボノイド配糖体は、樹木といった植物から抽出されたものに限られない。例えば、人工的に合成したフラボノイド配糖体を本発明に使用することが可能である。また、昆虫の繭を有機溶媒等で抽出することで、本発明に使用するフラボノイド配糖体を得ることが可能である。特に、蚕の繭から抽出して得ることが好ましい。このように繭から抽出することで、樹木などの植物からの抽出または人工的な合成よりも、コストを抑えて高い収量でフラボノイド配糖体を得ることができる。
【0027】
また本発明による凍結保存液は、式Iによるフラボノイド配糖体の代わりに、式Iによるフラボノイド配糖体を含む植物または昆虫の繭由来の粗抽出物を使用して得ることができる。昆虫の繭から、式Iのフラボノイド配糖体を含む粗抽出物を得る方法は、例えば、80〜100%メタノールまたはエタノールなどの有機溶媒で蚕の繭を数日処理して抽出した抽出物を14,000Gで遠心分離した上澄み液を蒸留水に溶解し、さらに遠心分離した上澄み液を凍結乾燥して、粗抽出物を得るという方法などが使用できる。粗抽出物を得た後、粗抽出物中のフラボノイド配糖体を定量することが好ましい。その定量値を用いて粗抽出物の添加量を調節し、凍結保存液中のフラボノイド配糖体の終濃度を0.001〜0.1重量%とすることができる。この粗抽出物は、式Iによるフラボノイド配糖体の代わりに凍結保存液に添加すると、−10℃程度までの過冷却能力を示す。
【0028】
次に、本発明に使用されるガラス化溶液について説明する。本発明による凍結保存液は、以下に説明するガラス化溶液に、前述した式Iによるフラボノイド配糖体を添加することによって得られる。
【0029】
本発明に使用されるガラス化溶液は、ガラス化保存の分野において既知のあらゆるガラス化溶液を使用することができる。ガラス化溶液とは、ガラス化を促進する特定の成分を含む溶液のことを意味し、この特定の成分によってガラス化溶液の種類が決定される。ガラス化溶液の例として具体的には、30%グリセリン、15%エチレングリコール、15%DMSOおよび4Mスクロースを含むPVS2ガラス化溶液、7Mエチレングリコール、0.8Mソルビトールおよび6%ウシ血清アルブミンを含む動物胚保存のためのガラス化溶液、並びに15%エチレングリコール、15%DMSO、0.6Mスクロースおよび20%ウシ血清アルブミンを含むVS30溶液等が挙げられ、これらを含む全てのガラス化溶液が本発明の凍結保存液のために使用できる。これらのガラス化溶液は、一般に、上述したようなガラス化を促進する成分を、溶媒として水または培地成分を含むその他の溶液に溶解することで得られる。
【0030】
本発明における凍結保存液では、凍結保存に用いる既存のガラス化溶液の濃度を、99%から30%まで希釈したガラス化溶液が用いられる。即ち本発明では、上述のようなガラス化を促進する成分を99〜30%希釈された状態で含むガラス化溶液が使用される。本願で使用する「99〜30%希釈したガラス化溶液」及び「99〜30%濃度のガラス化溶液」といった用語は、ガラス化を促進する特定の成分がその濃度に希釈された溶液のことを意味し、溶媒として用いる溶液がその濃度に希釈されていることを意味しない。例えば、「75%希釈したPVS2ガラス化溶液」および「75%濃度のPVS2ガラス化溶液」とは、ガラス化を促進する成分が従来の75%濃度となるように希釈されたPVS2溶液のことであり、22.5容積%グリセリン、11.25容積%エチレングリコール、11.25容積%DMSO及び0.4Mスクロースを含む、通常濃度の溶液または培地成分を含んだ溶液を意味する。本発明に用いられる希釈したガラス化溶液としては、22.5容積%グリセリン、11.25容積%エチレングリコール、11.25容積%DMSO及び0.4Mスクロースを含む溶液が好ましい。また、好ましくは、22.5容積%グリセリン、11.25容積%エチレングリコール、11.25容積%DMSO及び0.4Mスクロースを含む、通常濃度のMS(Murashige & Skoog)培地成分が、本発明の凍結保存液を作製するために用いられる。
【0031】
本発明における凍結保存液には、99〜30%希釈したガラス化溶液が用いられる。好ましくは、99〜50%希釈したガラス化溶液が用いられる。また好ましくは、75%〜50%希釈したガラス化溶液が用いられる。さらに好ましくは、75%希釈したガラス化溶液が用いられる。特に、液体窒素へ投入することで試料をガラス化する場合には、99〜50%希釈したガラス化溶液を用いることが好ましい。
【0032】
このような、99〜30%希釈したガラス化溶液を作製する方法としては、当該分野において一般に行われる方法を用いることができる。例えば、水、溶液または培地組成を含む溶液に、ガラス化を促進する各成分を所望の濃度となるように溶解することで作製できる。または、100%濃度のガラス化溶液を作製した後、溶媒として用いた水、溶液または培地組成を含む溶液によって、ガラス化を促進する各成分が所望の濃度となるように希釈することで作製できる。
【0033】
本発明による凍結保存液は、上述のような99〜30%希釈したガラス化溶液に、式Iによるフラボノイド配糖体を0.01〜0.1重量%で含むものである。好ましくは、本発明による凍結保存液は、式Iによるフラボノイド配糖体を0.05重量%で含む。特に、フラボノイド配糖体は、ケンフェロール−7−O−グルコシドであることが好ましく、ケンフェロール−7−O−グルコシドを0.05重量%で含むことがより好ましい。また、フラボノイド配糖体は、アピゲニン−7−O−グルコピラノシドであることが好ましく、アピゲニン−7−O−グルコピラノシドを0.01重量%で含むことがより好ましい。
【0034】
本発明による凍結保存液は、99〜30%希釈した既存のガラス化溶液に、上述のフラボノイド配糖体を所望の濃度となるように添加することで得られる。フラボノイド配糖体を含む粗抽出物を用いる場合は、所望のフラボノイド配糖体濃度が達成されるように、粗抽出物の量を調節して添加することで、本発明による凍結保存液が得られる。
【0035】
本発明はまた、本発明による凍結保存液を用いて動物、植物および微生物の細胞ならびに動物および植物の組織を凍結保存、特にガラス化保存する方法を提供する。ガラス化保存の方法としては、本発明による凍結保存液を用いて、凍結保存の分野にて行われる既知の方法にて行うことができる。例えば、ストロー、バイアル及びチューブといった容器中で、本発明による凍結保存液中に試料を浸漬させ、その後容器ごと液体窒素といった冷却剤に接触させて急速冷却させることで行うことができる。また、特許文献1から4の記載の方法によっても行うことが可能であり、それ自体公知の何れの保存方法であっても、本発明による凍結保存液を適用して行うことが可能である。本発明による凍結保存方法は、従来のガラス化溶液の代わりに本発明による凍結保存液を用いること以外に、特別な操作や処理を必要としない。
【0036】
本発明による凍結保存方法において、保存の対象となる試料は、細胞ならびに動植物の組織、器官および個体など様々なものとすることができる。より具体的には、動物細胞、植物細胞、微生物細胞、動物の組織、器官、臓器および個体、並びに植物の組織、器官および個体を保存の対象とすることができる。ここで動物とは、ヒトを含んだ動物であってよく、またヒトを含まない動物であってよい。例えば、哺乳類動物の胚や受精卵、植物の組織および微生物の菌株の凍結保存のために本発明による凍結保存方法を使用することができる。上述のように、本発明による凍結保存方法は、従来のガラス化溶液の代わりに本発明による凍結保存液を用いるものであるため、従来のガラス化保存方法で保存の対象としてきたものは何れも、本発明による凍結保存方法においても保存の対象となり得る。また、クランベリーの茎頂といった、従来の方法では保存が不可能であった生物材料をも保存の対象とすることができる。
【0037】
本発明による凍結保存液では、式Iによるフラボノイド配糖体以外のガラス化を促進する成分の濃度が、従来のガラス化溶液よりも低い。そのため、従来のガラス化溶液よりも、細胞が受ける化学的毒性の影響が低い。一方で、本発明による凍結保存液は、式Iによるフラボノイド配糖体を含み、それによって過冷却促進の効果が補われる。これらのことから、本発明による凍結保存液を用いた凍結保存では、従来のガラス化溶液を用いた保存と比較して、非常に高い試料の生存率を実現できる。
【0038】
[例]
[例1]
樹木から、過冷却促進物質を抽出し、その構造を特定した。
【0039】
北海道札幌地区に自生するカツラから枝を採集した。このカツラの枝の木部組織を鉛筆削りで小片化した後、液体窒素で凍結し、乳鉢と乳棒で可能な限り小片に粉砕した。得られた木部組織の粉砕物3.7kgをメタノール20Lに2週間浸漬した。得られた抽出液を14,000Gで遠心分離し(Hitachi: HIMC CF15R)、上清を回収した。これらを乾燥して、乾燥物93.8gを300mLの水に溶かした。
【0040】
この粗抽出物の水懸濁液を20℃で14,000Gで遠心分離し、上清を回収した。この上清300mLと酢酸エチル600mLを混合し、分液ロートにて、水可溶部と酢酸エチル可溶部に分け乾燥した。
【0041】
これらの過冷却活性は以下の方法で測定した。氷核活性細菌(Erwinia ananas)の死滅菌体(和光純薬)を含む緩衝液(50mMリン酸カリウム緩衝液、pH7.0)に被測定物0.5mg/mLを混合し、温度コントロールされた銅板上に2μLの液滴として載せ、銅板を0.2℃/minで冷却して凍結する液滴数を肉眼的に観察し、50%の液滴が凍結した温度を凍結温度とした。この凍結温度と上記緩衝液の凍結温度の差(℃)を測定した。水可溶部では2℃程度の、酢酸エチル可溶部では4℃程度の過冷却活性が得られた。
【0042】
より高い過冷却活性を示した乾燥した酢酸エチル可溶画分を「ヘキサン・2−プロパノール・水」、「クロロホルム・メタノール・水」を用いて自作のシリカゲルカラムクロマトグラフィーで30程のフラクションに分けた。このシリカゲルカラムクロマトグラフを図1に示す。次に、各フラクションの物質について、過冷却活性を上記と同様の方法で測定した。その結果、図2に示すように、画分9と10が最大過冷却値を示した。
【0043】
この画分9と10を、高速液体クロマトグラフィー(カラム:Wakosil 5C18HG、溶媒:メタノール:水=1:1、流速1 mL/min)で分析した結果、図3に示すように7つの物質の存在を示すピーク(1〜7)が得られた。
【0044】
これらのピークのうち、過冷却活性を示したのは4,5,6,7のピークのみであり(以下、それぞれCj4〜7と呼ぶ。)、その活性はそれぞれ2.8℃(Cj4)、9.0℃(Cj5)、3.4℃(Cj6)、4.0℃(Cj7)であった。
【0045】
これら4種の物質について、質量分析装置(JMS−SX102A:JEOL)にてnegative−HRFAB−MS分析を行った。これら物質のそれぞれの質量は463.0893(Cj4)、447.0942(Cj5)、477.1038(Cj6)、447.0958(Cj7)であり、分子式はC212012(Cj4)、C212011(Cj5)、C222212(Cj6)、C212011(Cj7)と予想された。
【0046】
更に、これらの物質をアセチル化し、高分解能核磁気共鳴装置(BRUKER:AMX−50)により反応生成物の各種1次元及び2次元NMRスペクトル分析を行った。アセチル化反応は、約10mgの乾燥試料を200μLのメタノールで溶解し、そこに2mLの無水酢酸と1mLのピリジンを加え、70℃で1.5時間処理することで行った。得られたアセチル化物は分取TLCで精製した後、重クロロホルムに溶解し、1H−NMR、13C−COM、DEPT、1H−1H COSY、HMBC、HSQCのNMRスペクトル分析を行った。
【0047】
これらの物質はいずれも250〜270nmと300〜380nmに吸収ピークを持つ特徴的なUVスペクトルを示したことからフラボノール骨格を持つことが予想された。それぞれのアセチル化物の1H−NMRスペクトルを図4〜7に示す。
【0048】
Cj7のアセチル化物の1H−NMRスペクトルは、7つのアセチル基によるシグナル(δ 1.92〜2.45)、B環の2’、3’、5’、6’位の水素によるシグナル(δ 7.23、8.04)、芳香環に結合した2つの水素によるシグナルを示した(δ 6.84、7.30)。また、β−グルコース残基の存在も確認された(δ 3.60、3.92、4.00、5.04、5.17、5.28、5.53)。グルコースのアノメリック炭素に結合した水素とアグリコンの3位の炭素との間にHMBC相関が見られた。以上の結果からCj7はケンフェロール−3−O−β−グルコシドであった(図7)。
【0049】
Cj4のアセチル化物の1H−NMRスペクトルをCj7のものと比較すると、Cj4ではアセチル基によるシグナル(δ 1.92〜2.45)は8つであり、B環の2’、5’、6’に結合した水素によるシグナル(δ 7.33、7.93、7.96)が見られた。この結果とHMBC相関からCj4はケルセチン−3−O−β−グルコシドであった(図4)。
【0050】
Cj6のアセチル化物の1H−NMRスペクトルをCj7のものと比較すると、Cj6では芳香環に結合した水素は1つであり(δ 6.79)、メトキシル基によるシグナル(δ 3.97)が現れていた。この結果とHMBC相関からCj6は8−メトキシケンフェロール−3−O−β−グルコシドであった(図6)。
【0051】
Cj5のアセチル化物の1H−NMRスペクトルは、Cj7のものと同様に7つのアセチル基によるシグナル(δ 1.92〜2.45)、B環の2’、3’、5’、6’位の水素によるシグナル(δ 7.27、7.84)、芳香環に結合した2つの水素によるシグナルを示した(δ 6.73、7.01)。また、Cj5の酸加水分解をアセチル化して得られた構成糖のアセチル化物の1H−NMRスペクトルは、アセチル化したグルコースの1H−NMRスペクトルと一致した。構成糖の1位の水素とアグリコンの7位の炭素との間にHMBC相関が見られたことからCj5はケンフェロール−7−O−β−グルコシドであった(図5)。
【0052】
これら質量分析及びNMRスペクトル分析の結果から、これらの物質はいずれもフラボノイド配糖体であり、アグリコンは、ケルセチン、ケンフェロール、8−メトキシケンフェロールのいずれかであり、これらアグリコンにグルコースが1個ついた配糖体であると結論された。
【0053】
即ち、抽出された過冷却促進物質は、下式で表されるフラボノイド配糖体であった。
【化5】

【0054】
[例2]
本発明による凍結保存液の効果を、クランベリーの茎頂(芽)の凍結保存にて調べた。
【0055】
MS培地(Murashige & Skoogの培地、DUCHEFA BIOCHEMIE BV製)成分を溶かした水溶液に、22.5溶液%グリセリン、11.25容積%エチレングリコール、11.25容積%DMSOおよび0.4Mスクロースを加えた溶液(以降、75%ガラス化溶液と呼ぶ)を作製した。この溶液は、PVS2ガラス化溶液を75%に希釈したものである。さらに、この75%ガラス化溶液に0.05重量%となるようにケンフェロール−7−O−グルコシド(Extrasynthese社製)を添加した溶液を作製した。
【0056】
まず、ケンフェロール−7−O−グルコシドを添加した75%ガラス化溶液(本発明による凍結保存液)および添加しない75%ガラス化溶液について、それぞれの溶液にクランベリーの茎頂を室温で浸漬させ、浸漬時間(loading time)に対する茎頂の生存率を調べた(これを対照区とする)。
【0057】
従来、クランベリーの茎頂は、PVS2溶液を用いた凍結保存の適用が非常に困難であった。それは、PVS2溶液の化学毒性により、凍結前の浸漬時間を延ばすほど組織が損傷し、生存率が著しく低下するためであった(図8A、対照区生存率参照)。しかし、本発明による凍結保存液に浸漬させた場合、その生存率は浸漬時間が進行しても高く維持された(図8C、対照区生存率参照)。同様に、ケンフェロール−7−O−グルコシドを添加しない75%ガラス化溶液においても、従来のPVS2溶液を用いた場合と比べて、生存率は高く維持された(図8B、対照区生存率参照)。このことから、PVS2溶液の濃度が希釈されたことで、細胞や組織の損傷が抑えられたことがわかる。
【0058】
次に、凍結保存液にクランベリーの茎頂を浸漬後、凍結保存し、解凍させた組織について生存率を調べた。ケンフェロール−7−O−グルコシドを添加した75%ガラス化溶液(本発明による凍結保存液)および添加しない75%ガラス化溶液について、それぞれの溶液にクランベリーの茎頂を室温で一定の時間浸漬させ、液体窒素中に投入して急速に冷却し、凍結状態のまま一晩保存した。翌日、室温で溶解させ、浸漬時間に対する生存率を調べた(これを凍結区とする)。
【0059】
その結果、PVS2ガラス化溶液では凍結後の生存は全く見られなかった(図8A、凍結区生存率参照)。ケンフェロール−7−O−グルコシドを含まない75%ガラス化溶液を用いた場合、浸漬時間を変化させても、生存率が10%を超えることはなかった(図8B凍結区生存率参照)。一方、本発明による凍結保存液では、浸漬時間が長くなるほど、凍結後の生存率が上昇した(図8C凍結区生存率参照)。120分浸漬した場合には、生存率は50%程度まで上昇し、本発明による凍結保存液を用いることで、クランベリーの茎頂の凍結保存が可能となることがわかった。
【0060】
[例3]
フラボノイド配糖体として、アピゲニン−7−O−グルコピラノシドを用いた凍結保存液の効果について調べた。
【0061】
MS培地組成を含む溶液に、30溶液%グリセリン、30容積%エチレングリコール、30容積%DMSO及び0.4Mスクロースを含む100%ガラス化溶液、例2にて作製した75%ガラス化溶液、および75%ガラス化溶液にアピゲニン−7−O−グルコピラノシド(合成方法は後述する)を0.01%となるように添加した凍結保存液を用意した。それぞれの溶液に、クランベリーの茎頂を一定時間浸漬させて生存率を調べた(対照区)。また、例2と同様に、それぞれの溶液に、クランベリーの茎頂を一定時間浸漬させ、液体窒素を用いて凍結させ保存し、解凍させた後に生存率を調べた(凍結区)。
【0062】
アピゲニン−7−O−グルコピラノシドを含む75%ガラス化溶液を用いた場合に、その他の溶液に比べて(図8A、B参照)生存率の有意な上昇が見られた(図9)。アピゲニン−7−O−グルコピラノシドを添加することで、凍結による傷害が減少することがわかった。
【0063】
なお、アピゲニン−7−O−グルコピラノシドは、以下の通りに合成した。
(1)アピゲニン−7−O−β−D−テトラ−O−アセチルグルコピラノシドの合成
既報(J.Chin.Chem.Soc.,48,201−206(2001))の方法に従い、ナリンゲニン(Naringin、東京化成工業(株)製)をヨウ素酸化してアピゲニン(Apigenin)を調製した。アピゲニン1.66g(6.1mmo1)、テトラ−O−アセチル−α−D−グルコピラノシルブロミド(関東化学(株)製)3.59g(9.2mmo1)及びAgC0 2.54g(9.2mmo1)をキノリン−ピリジン(1:1)30m1に加え、室温で1時間撹枠した。さらに、上記の臭化物1.21g(3.1mmo1)及びAgC0 0.83g(3.0mmo1)を追加し8時間反応を続けた。反応混合物にアセトン50m1に希釈、撹拌後セライト濾過を行った。濾液を減圧濃縮して得られた残渣を酢酸エチル100m1に再溶解し2N塩酸30m1ついで飽和食塩水と振盪した後、有機層を分離し乾燥(MgSO)した。減圧濃縮して得られた残部を二回シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=40:1及びクロロホルム:酢酸エチル=1:1)に供し、アピゲニン−7−O−β−D−テトラ−O−アセチルグルコピラノシド 1.00g(収率27%)を得た。生成物の分析値を以下に示す。
【0064】
FAB−MS:m/z601(M+H,30%),331(41),271(91),169(100).FAB−HR−MS:m/z601.1541(calc.for C292814+H,601.1558)
HNMR(DMSO−d)δ1.97(3H,s),2.02(9H,s),4.11(1,br d,J=12.5),4.19(1H,dd,J=5.3,12.5),4.33(1H,m),5.01(1H,tlike,J=9.7),5.09(2H,dd,J=6.9,9.7),5.39(1H,9.7),5.74(1H,d,J=7.9),6.44(1H,d,J=2.1),6.79(1H,d,J=2.1),6.89(1H,s),6.92(2H,d,J=8.7),7.95(2H,d,J=8.7),13.02(1H,s,OH).
(2) アピゲニン−7−O−β−D−グルコピラノシドの合成
上記で得たアピゲニン−7−O−β−D−テトラ−O−アセチルグルコピラノシド0.21g(0.35mmo1)をCHOH−EtN(2:1)10m1に加え12時間加熱還流した後、濃縮乾固した。得られた粗結晶をメタノールから結晶化し、アピゲニン−7−O−β−D−グルコピラノシド0.11g(収率73%)を得た。生成物の分析値を以下に示す。
【0065】
FAB−MS:m/z433(M+H,9%),241(96),185(100).
m/z431(M−H,7%),279(20),269(24),148(100).
FAB−HR−MS:m/z431.0993(calc.for C212010−H,431.0978)
MS(FAB):m/z433(M+H),185,150,93,75,57,45.
HNMR(DMSO−d)δ3.0−3.6(5H,m),3.70(1H,dd,J:4.8,9.4),4.60(1H,m,OH),5.08(2H,d like,J=5.1,anomeric H,OH),5.13(1H,d,J=4.5,OH),5.39(1H,d,J=4.5,OH),6.43(1H,d,J=2.1),6.82(1H,d,J:2.1),6.89(1H,s),6.93(2H,d,J=8.8),7.95(2H,d,J=8.8),10.40(1H,brs,OH),12.95(1H,s,OH).
13CNMR(DMSO−d)δ60.6,69.5,73.0,76.4,77.1,94.7,99.4,99.8,103.0,105.2,115.9,120.9,128.5,156.7,160.9,161.2,162.7,164.O,181.8.。
【0066】
[例4]
フラボノイド配糖体を含む蚕の繭由来の粗抽出物を用いて凍結保存液を作製した。
【0067】
2Lの80%メタノール又はエタノールに1kgの蚕の繭を浸漬し、室温で8時間静置した。その後14,000Gで遠心分離し、上澄み液を凍結乾燥して50倍量の蒸留水を添加し、さらに同一の条件で遠心分離した。その結果得られる上澄み液を凍結乾燥し、粗抽出物を得た。
【0068】
この粗抽出物中のケンフェロール−7−O−グルコシドを、定量方法としてHPLCを用いて測定した。その結果、ケンフェロール−7−O−グルコシドの含量は、120μg/mLであった。
【0069】
この粗抽出物1gを、1Lの各濃度に希釈したガラス化溶液に添加し、本発明による凍結保存液を作製した。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】図1は、カツラの抽出物の酢酸エチル可溶画分のシリカゲルカラムクロマトグラフを示す図である。
【図2】図2は、シリカゲルカラムクロマトグラフ画分の過冷却活性を示す図である。横軸は、液滴を載せた銅板の温度を示し、縦軸は凍結した液滴の割合を示す。
【図3】図3は、画分9と10を併せた画分の高速液体クロマトグラフを示す図である。
【図4】図4は、Cj4のアセチル化物の1H−NMRスペクトルを示す。
【図5】図5は、Cj5のアセチル化物の1H−NMRスペクトルを示す。
【図6】図6は、Cj6のアセチル化物の1H−NMRスペクトルを示す。
【図7】図7は、Cj7のアセチル化物の1H−NMRスペクトルを示す。
【図8】図8は、100%ガラス化溶液(A)、75%ガラス化溶液(B)、および75%ガラス化溶液に0.05%ケンフェロール−7−O−グルコシドを添加したガラス化溶液(C)に、クランベリーの茎頂(芽)を、室温で一定時間浸漬した後の生存率(対照区)および、室温で一定時間浸漬し、更に液体窒素に浸して凍結させ、室温で解凍させた後の生存率(凍結区)を示す図である。横軸は浸漬時間(分)、縦軸は生存率(%)を示す。
【図9】図9は、0.01%アピゲニン−7−O−グルコピラノシドを添加した75%ガラス化溶液に、クランベリーの茎頂(芽)を、室温で一定時間浸漬した後の生存率(対照区)および、室温で一定時間浸漬し、更に液体窒素に浸して凍結させ、室温で解凍させた後の生存率(凍結区)を示す図である。横軸は浸漬時間(分)、縦軸は生存率(%)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
99〜30%希釈したガラス化溶液に、0.001〜0.1重量%の下記の式Iで表されるフラボノイド配糖体を含んで成る凍結保存液;
【化1】

(式中、X〜Xのうち、少なくとも1つは単糖又はオリゴ糖の還元末端部分のヘミアセタール水酸基を除いた糖残基であり、その他は水酸基又は水素原子であり、R〜Rは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、水酸基又はメトキシ基である)。
【請求項2】
前記ガラス化溶液が、PVS2ガラス化溶液である、請求項1に記載の凍結保存液。
【請求項3】
前記希釈したガラス化溶液が、22.5容積%グリセリン、11.25容積%エチレングリコール、11.25容積%DMSOおよび0.4Mスクロースを含む溶液である、請求項1に記載の凍結保存液。
【請求項4】
前記フラボノイド配糖体が植物または昆虫の繭を有機溶媒で抽出して得られる粗抽出物として添加される、請求項1から3の何れか1項に記載の凍結保存液。
【請求項5】
前記有機溶媒がエタノールまたはメタノールである、請求項4に記載の凍結保存液。
【請求項6】
前記フラボノイド配糖体が0.01〜0.1重量%のケンフェロール−7−O−グルコシドである、請求項1から5の何れか1項に記載の凍結保存液。
【請求項7】
前記フラボノイド配糖体が0.01〜0.1重量%のアピゲニン−7−O−グルコピラノシドである、請求項1から5の何れか1項に記載の凍結保存液。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1項に記載の凍結保存液を用いた、細胞、組織、器官または個体の凍結保存方法。
【請求項9】
前記細胞が、動物細胞、植物細胞および微生物細胞から成る群から選択される細胞であり、前記組織、器官または個体が、動物の組織、器官または個体、あるいは植物の組織、器官または個体である、請求項8に記載の凍結保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−219395(P2009−219395A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66013(P2008−66013)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(508079245)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】