凝固をモニタするための側方流動分析装置及びその方法
本発明は、凝固のモニタ及び測定のための側方流動分析装置及び方法に関する。理想的には、本発明は、液体サンプル中の凝固をモニタ及び/又は測定のための側方毛細管流動装置に関し、当該装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、液体サンプルの凝固を加速するように、また、画成された流路ゾーンに沿った一様に分布した凝血塊の形成を可能にし、且つその画成された流路ゾーンに沿って、液体サンプルの流速の変化又は流動停止を生じるように、画成された流路ゾーンの少なくとも一部に凝固剤が付着されている画成された流路ゾーンと、を具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固をモニタ及び測定するための側方流動分析装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多種多様の側方流動(lateral flow)又は毛細管流動アッセイ及び装置が市場に出回っている。例えば、ストリップベースの検査は、簡易在宅検査やポイントオブケア検査ならびに様々な環境分析物の検出にとって理想的である。側方流動装置は、検査流体の側方動が、試薬相互作用の優先順位付け及びタイミングの制御を可能にする検査チャンネルに沿って配置することのできる様々な試薬との制御された相互作用を可能にする際に、幅広く用いられている。市場で利用可能な最も一般的な側方流動検査は、妊娠、クラミジア、連鎖球菌性咽頭炎及びHIVの検査、及び病原菌に対する食品の日常的スクリーニングのための検査(すなわち、DuPont(商標))である。側方流動技術には、いくつかの例を挙げると、US Patent No.4,861,711、US Patent No.4,632,901、US Patent No.5,656,448、US Patent No.4,943,522及びUS Patent No.4,094,647で取り上げられている技術等、他に多くの用途がある。
【0003】
(流体ポンプによって支援されない)流体動という受動的手段を採用する側方流動装置において、流体動は、毛細管力によって誘導される。毛細管力は、固体と液体の間の境界で生じ、及び滑らかな面を有する狭い毛細管内で、又は、そのような毛細管力を誘導する可能性のある構造の存在による幅広の断面領域にわたって発生する可能性がある。典型的には、このような従来の側方流動アッセイは、ニトロセルロース、及び例えば、US5,601,995に示されているように毛細管力を誘導する高多孔質構造を有する濾紙等の側方流動材料を用いる。しかし、そのような材料には、その装置に沿った液体サンプルの動きの正確な制御においてさらなる問題につながる、主にニトロセルロースの製造時の固有の変動性による精密さの著しい不足という欠点がある。従って、そのような従来の側方流動分析技術に対してバリエーションや改良を与える必要性がある。
【0004】
例えば、多くの公知の側方流動分析装置は、フローを案内するための毛細管又はチャネルを利用する。例えば、US2002/0187071及びUS5,039,617(どちらも凝固分析)において、凝固剤は、その流路とは別の反応チャンバ内で、サンプルと混合される。これは、正に従来の手順であり、また、他の従来のアッセイについては、以下に概要が述べられている。しかし、それらは、様々な問題を呈しており、例えば、その凝血塊は、その血清から分離する可能性がある。この分離は、流体フローを停止又は遅らせて、その分析の有効性を低下させる。その結果として、そのような公知の毛細管装置は、多くの場合、そのフローのこのような遅延を引き起こすような長くて蛇行した流路を必要とする。
【0005】
さらに、これらの毛細管チャネルベースの装置は、一般に、表面積対容積比が不十分であり、このことは、毛細管の壁との試料接触を低減して、この問題を悪化させる。
【0006】
また、このような毛細管の面への様々な試薬の付着は、サンプルを介した血塊形成の結果として生じる不均質を伴う凝固反応の均質な活性化のために、そのサンプルによって溶解されて再分布される際に、あまり有効ではない。
【0007】
従って、このような公知の毛細管ベースの側方流動分析装置は、使用中に問題を呈する可能性がある。
【0008】
他の直面する問題は、側方流動分析装置を形成するために用いられる材料に関することである。最近では、側方流動分析装置の製造に、環状ポリオレフィンが使用されている。側方流動検査システムには、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ガラス、ガラス繊維、セラミック等を含む他の材料も良好に用いることができる。
【0009】
環状ポリオレフィン(cyclic polyolefin:COP)は、光学特性と電子物性の優れた組合せを備えた熱可塑性樹脂である。1983年、ノルボルネンポリマーについて研究している際に、環状ポリオレフィンは、開環重合によって合成された。ポリマーの二重結合の水素化の後、無色明澄のプラスチックが生成された。この材料の高透明度、低比重、低吸水性、高耐熱性、低自己蛍光性及び高紫外線透過度が、生物医学的応用を優れたものにしている。(Yamazaki,M.(2004).Industrialization and application development of cyclo-olefin polymer,Journal of Molecular Catalysis a-Chemical, 213(1):81; Bhattacharyya, A., Klapperich,C.M.(2006).Thermoplastic microfluidic device for on-chip purification of nucleic acids for disposable diagnostics, Analytical Chemistry, 78(3):788)このような材料は、追加的な流体制御特性を与えるための射出成形及び熱エンボス加工等の多くの方法を用いて、さらに構造化及び微細パターン化することができる。有利には、この種のポリマーは、化学的に無害であり、このことは、非特異的な生物学的相互作用を最小限にする。
【0010】
このような環状ポリオレフィンの表面改質は、表面張力等の高分子材料特性を変えることになる可能性があることが分かっている。表面湿潤性の向上を目的とする多くの表面改質方法が、これまでに記述されてきている。例えば、いくつかの処理は、ポリマー表面への新たな官能基の形成による表面張力の増強を目的としている。(Chan,C.M., Ko,T.M., Hiraoka,H.(1996)、Polymer surface modification by plasma and photons, Surface Science Reports,24(1-2):3;Nakano,A., Kaibara,M., Iwaki,M., Suzuki,Y., Kusakabe,M.(1996)、Surface characterization of cell adhesion controlled polymer modified by ion bombardment, Applied Surface Science, 101 112) しかし、多くの場合、このような処理方法は、その表面への損傷を誘発し、それによって、その優れたバルク特性が低下する。また、表面湿潤性に関する恩恵は、空気又は水との接触によって、時間と共に小さくなる可能性がある。(XPS and water contact angle measurements on aged and corona-treated PP, Journal of Applied Polymer Science, 74(7): 1846; Kohler, L., Scaglione,S., Flori, D., Riga,J., Caudano,R.(2001)、Ability of a gridless ion source to functionalize polypropylene surfaces by low-energy(60-100eV) nitrogen ion bombardment. Effects of ageing in air and in water, Nuclear Instruments & Methods in Physics Research Section B-Beam interactions with Materials and Atom, 185 267)
【0011】
これらの問題を考慮すると、耐水性及び生体適合性があって、長期間にわたって劣化しないコーティングを開発することが好ましかった。一つの表面改質方法は、UV/オゾン処理である。オゾン酸化は、遊離基を有する水酸化物及びヒドロペルオキシドを生成する可能性があり、また、以下の機能分子の固定化を、熱又は開始剤誘導で実行することができる。オゾン及び空気中でのUV曝露は、通常は疎水性の高分子面に高い親水性を与えることが分かっている。(Bhurke, A.S., Askeland, P.A., Drzal, L.T.(2007)、Surface modification of polycarbonate by ultraviolet radiation and ozone, Journal of Adhesion,83(1-3):43; Ho, M.H., Lee, J.J., Fan, S.C., Wang, D.M., Hou, L.T., Hsieh, H.J.,Lai, J.Y.(2007)、Efficient modification on PLLA by ozone treatment for biomedical applications, Macromolecular Bioscience, 7(4):467; Suh,H., Hwang,Y.S., Lee,J.E., Han,C.D., Park,J.C.(2001)、Behavior of osteoblasts on a type 1 atelocollagen grafted ozone oxidized poly L-lactic acid membrane, Biomaterials, 22(3):219) 炎及びコロナ放電は、その有効性のために産業界で幅広く用いられている他の方法である。(Martinez-Garcia,A., Sanchez-Reche,A., Gisbert-Soler,S., Cepeda-Jimenez,C.M., Torregrosa-Macia,R., Martin-Martinez,J.M.(2003)、Treatment of EVA with corona discharge to improve its adhesion to polychloroprene adhesive, Journal of Adhesion Science and Technology, 17(1)47; Strobel,M., Lyons,C.S.(2003)、The role of low-molecular-weight oxidized materials in the adhesion properties of corona-treated polypropylene film, Journal of Adhesion Science and Technology, 17(1):15)しかし、これらの方法に問題がないわけではない。とりわけ、それらの方法はコストが高く、また、オペレータは、危険な状態に曝される。機能層の形成に対する別の良く研究された解決策は、安定した親水性層をプラスチック表面に与える、グラフト重合又はプラズマ重合によるポリマー粒子の付着である。(Long term water adsorption ratio improvement of polypropylene fabric by plasma pretreatment and graft polymerization, Polymer Journal, 38(9):905; Yasuda,H. Plasma Polymerization, Academic Press, New York, 1985, 344)グラフト重合体は、基材ポリマーを貫通して、又は部分的に貫通して、薄い表面層を生じさせることが分かっている。(Loh,F.C., Tan,K.L., Kang,E.T., Neoh,K.G., Pun, M.Y. (1995)、Near-UV Radiation-Induced Surface Graft Copolymerization of Some O-3-pretreated Conventional Polymer Film, European Polymer Journal, 31(5): 481; Johansson,B.L., Larsson,A., Ocklind,A., Ohrlund,A. (2002)、Characterization of air plasma-treated polymer surfaces by ESCA and contact angle measurements for optimization of surface stability and cell growth, Journal of Applied Polymer Science, 86(10):2618)数種類のプラズマ処理が記載されている。(Pappas,D., Bujanda,A., Demaree,J.D., Hirvonen,J.K., Kosik,W., Jensen,R., Mcknight,S.(2006)、Surface modification of polyamide fibers and films using atmospheric plasma, Surface & Coatings Technology, 201(7):4384; Morra,A., Occhiello,E., Garbassi,F.(1990)、Wettability and Surface Chemistry of Irradiated PTFE, Angewandte Makromolekulare Chemie, 180 191; Greenwood,O.D., Hopkins,J., Badyal,J.P.S.(1997)、Non-isothermal O-2 plasma treatment of phenyl-containing polymers, Macromolecules, 30(4):1091)プラズマ処理は、処理済の面に、高分子ラジカルを形成することが分かっている。しかし、酸素プラズマだけを用いた改質は、時間が経つにつれて安定的でなくなることが証明されている。このことは、このプロセスで生成された官能基の劣化をもたらす。
【0012】
血液接触材料からなるコーティングには、例えば、「シリコン様の」膜が幅広く用いられてきている。シリコンを単独で、又は、O2等の他のガスからなる混合物中に含有する有機モノマー蒸気は、そのような膜を形成するのに用いられる。(Favia,P., d'Agostino, R.(1998)、Plasma treatments and plasma deposition of polymer for biomedical applications, Surface & Coatings Technology, 98(1-3):1102)PECVDによって堆積されたSiOx薄膜は、無色透明であるだけではなく、不溶性で、機械的に堅固であり、化学的に無害であり、及び熱的に安定しているといういくつかの利点を呈している。(Leterrier,Y.(2003)、Durability of nanosized oxygen-barrier coatings on polymers-internal stresses, Progress in Materials Science, 48(1):1)これらの特性は、生体材料、マイクロエレクトロニクス、食品、及び医療産業において、SiOxに広範な用途を見出すことを可能にした。(Inagaki,N., Tasaka,S., Nakajima,T.(2000)、Preparation of oxygen gas barrier polypropylene films by deposition of SiOx films plasma-polymerized from mixture of tetramethoxysilane and oxygen, Journal of Applied Polymer Science, 78(13):2389; Bellel,A., Sahli,S., Ziari,Z.,Raynaud,P., Segui,Y., Escaich,D.(2006)、Wettability of polypropylene films coated with SiOx plasma deposited layers, Surface & Coatings Technology, 201(1-2):129; Bieder,A., Gruniger,A., von Rohr,P.R.(2005)、Deposition of SiOx diffusion barriers on flexible packaging materials by PECVD, Surface & Coatings Technology, 200(1-4):928)SiOxのPECVD堆積の場合、最も単純で最も一般的に用いられているガスの混合物は、O2/SiH4、N2O/SiH4である。異なる用途に対して、O2/SiH4ヘリコンプラズマ中で良好な品質のSiO2膜形成を報告しているいくつかの論文がある。(Giroultmatlakowski,G., Charles,C., Durandet,A., Boswell,R.W., Armand,S., Persing,H.M., Perry,A.J., Lloyd,P.D., Hyde,S.R., Bogsanyi,D.(1994)、Deposition of Silicon Dioxide Films Using the Helicon Diffusion Reactor for Integrated Optics Applications, Journal of Vacuum Science & Technology a-Vacuum Surfaces and Films, 12(5):2754; Kitayama,D., Nagasawa,H., Kitajima,H., Okamoto,Y., Ikoma,H.(1995)、Helicon-Wave-Excited Plasma Treatment of SiOx Films Evaporated on Si Substrate, Japanese Journal of Applied Physics Part 1- Regular Papers Short Notes & Review Paper, 34(9A):4747)O2ガス供給で高度に希釈されたSiH4は、SiO2のプラズマ蒸着の初期の研究において、幅広く使用されていた。(Adams,A.C., Alexander,F.B., Capio,C.D., Smith,T.E.(1981)、Characterization of Plasma-Deposition Silicon Dioxide, Journal of the Electrochemical Society, 128(7): 1545)しかし、シランは、室温で爆発性の気体であるため、産業環境での使用は、厳格な安全規制を要する。室温で比較的不活性な液体である有機シリコーンは、シランよりも好ましい可能性がある。(Granier,A., Nicolazo,F., Vallee,C., Goullet,A., Turban,G., Grolleau,B.(1997)、Diagnostics in O-2 helicon plasma for SiO2 deposition, Plasma Sources Science & Technology, 6(2):147)ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ヘキサメチルジシラザン(HMDSN)及びテトラエトキシシラン(TEOS)は、SiO2の堆積における前駆物質として先行している。
【0013】
ニトロセルロース以外の材料を用いたこれらのシステムに対するいくつかの改良・変更について、以下に概説する。例えば、表面パターン形成技術によって毛細管力を誘起するための他の微細構造の制御された形成は、同じ毛細管力効果をもたらす可能性があるが、ニトロセルロース等の材料固有の変動性を低下させる可能性がある。例えば、様々な製造技術(熱エンボス加工、射出成形、マイクロマシニング等)による、マイクロピラー等の表面から突出する周期構造の導入は、制御されかつ再現可能な毛細管力を誘起するであろう。このような画成された表面構造は、高温で液体であり、また、ある程度の低温で凝固する熱可塑性物質等のポリマープラスチックの製造を介して容易に実施することができる。
【0014】
改良された側方流動アッセイの一つの実施例は、Amic BVによって製造された装置、すなわち、図1に示すような4キャスト「チップ」である。この装置は、環状ポリオレフィンを含む様々な材料から製造された低コストで、大量生産が可能なポリマープラットフォームに基づいており、及び密集したマイクロピラーからなるアレイを形成するように、熱エンボス加工又は射出成形を含む様々な技術を用いて、マイクロメータスケールで構造化されている。この装置は、例えば、ニトロセルロースを用いた他の従来の側方流動材料に優る優れた特性を有していることが明らかになっている。その装置上のマイクロピラーからなる画成された一様構造により、流体フローは、マイクロピラーのサイズ、及びマイクロピラー間の距離を選定することによって、その装置内で精密かつ再現可能に制御することができる。その結果、流体は、その装置を介した毛細管現象によって引き込まれる。AMIC AB社のWO2003/103835、WO2005/089082及びWO2006/137785は、一つのこのような分析方法及び分析装置に関する。このような装置は、免疫測定、タンパク質マイクロアレイ及びDNAマイクロアレイ等の多くの異なる種類の分析で用いられている。Åmic社の4−キャストチップ技術に基づく検査の実例は、蛍光検出されるヒト心筋トロポニンI抗原、血漿中の総IgG抗体及びC反応性タンパク(CRP)を含む。
【0015】
流体の制御された動きは、大抵の場合、多くの生物学的分析装置の必要条件であり、多くの場合に、典型的には、サンプルと他の測定成分とを組合わせることにより、及び/又はいくつかの分析又は測定をある箇所で実行することにより、生体サンプルを、そこで分析を実行できる適切な位置に移動させることが必要であることが分かっている。ある場合には、流体の分析装置に沿った実際の動きが、それ自体の測定の要素となる。このことは、特に、血液凝固モニタの分野で重要である。
【0016】
血管損傷に付随する血流を止める人体の能力は非常に重要である。このことがそれによって起きるプロセスは、血塊の形成又は血栓形成につながる血液凝固を伴う止血と呼ばれている。本質的には、血塊は、不溶性フィブリン粒子からなる網状組織内の血小板血栓からなる。凝血塊の形成は本質的ではあるが、そのような凝血塊の持続は、好ましくなく、また危険である。
【0017】
心臓病や血管疾患を患う人、及び外科手術を受けた患者には、命にかかわる病態をもたらす可能性のある血塊を成長させる危険性がある。そのような人達は、多くの場合、高凝結剤又は抗凝固剤で治療される。しかし、血流中に大量の抗凝固剤を適切なレベルで維持しなければならない。少なすぎると、好ましくない凝固をもたらし、多すぎると、出血をもたらす可能性がある。そのため、血液又は血漿の凝固状態を診断するために、定期的な凝固スクリーニング検査が開発されている。血液凝固の場合には、血塊の測定は、凝固過程中の装置内で、血液サンプルがどのように動くかによって測定される。典型的には、凝固カスケードは、適切な生化学用試薬の添加によって誘導され、血液が凝固するにつれて、その動きに対する抵抗は大幅に強まり、そのことは、様々な方法で検知することができる。既知の凝固分析方法及び装置のうちのいくつかの実例を以下に示す。
【0018】
US Patent Number5,372,946は、血液サンプルに対する凝固時間検査を実行するための装置及び方法に関する。この場合、血液は、流体容器及び使い捨てのキュベットに入れられる。使用時には、血液サンプルは、ポンプ作用によって毛細管流路内に引込まれ、非常に狭い開口内を往復させられる。凝血塊が形成されると、その開口を通るこの動きは停止し、凝固が起きたと考えることができる。検査機械は、血液が制限領域を横切るたびに所要時間を測定する。しかし、この装置では、ポンピングというかたちでの機械的補助が利用されており、このことは、その装置の複雑さ及びコストを増大させる場合には好ましくない。
【0019】
US Patent Number5,601,995は、血液サンプル中の凝固を検知するための装置及び方法に関する。使用時には、検査血液サンプルは、多孔質膜材料(ニトロセルロース)を通って移動できるようになっており、また、その移動距離は、血塊形成の速度に依存する。これは、従来、凝固をモニタするのに用いられている標準的な側方流動アッセイである。
【0020】
US Patent Application Number 2004/0072357は、微小流路内での流体中、典型的には、血液中での凝固時間を測定するための装置及び方法であって、それにより、凝固の発現が、変化の速度、又は容量の値、あるいはその微小流路の両端に位置する2つの電極間のインピーダンスの測定によって判断される。使用時には、サンプルは、ポリマー微小流路に引き込まれ、凝固する前のその流路内での移動距離は、その凝固時間を測定する手段として与えられていた。しかし、オープン形の毛細管ベースのシステムを用い、能動的な流体動を利用するUS Patent Application Number 2004/0072357等の装置は、極端に遅い充填時間に見舞われ、それによって分析に必要な時間を長くする。また、これらの装置は、表面積対容積比の特性が不十分であるため、装置効率を低下させる、流路の中央内腔での試薬とサンプルとの混合という付随する問題がある。
【0021】
従って、上記で概説したように、公知の側方流動分析装置に関する主な課題のうちの1つは、そのような装置に沿って、液体サンプルの動きを正確に制御できるようにすることである。多くの異なる解決策が提案されているにもかかわらず、特に、血液凝固分析の分野における従来の側方流動分析方法を改良する必要性がいまだにある。従って、本発明は、改良された凝固分析装置及びその方法に関する。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、凝固型の分析を実行するための改良された方法及び装置を提供する。
【0023】
本発明の第1の全般的な観点によれば、液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定のための側方毛細管流動装置であって、当該装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、画成された流路ゾーンの少なくとも一部に、凝固剤、理想的にはフィブリノゲン又はトロンビン、あるいはそれらの誘導体が付着されている画成された流路ゾーンとを具備するオープン型の側方流動(lateral flow)装置である側方毛細管流動装置が提供される。
【0024】
画成された流路ゾーンは、液体サンプルの凝固を再現可能に加速させ、液体サンプルの全体にわたって、より一様に分布した凝血塊を形成し、及びその画成された流路ゾーンに沿った液体サンプルの流速の制御された変化及び/又は流動停止を確実にできるように改質されていることは理解されるであろう。このようにして、当該装置は、画成された流路に沿った液体サンプルの毛細管作用を誘導する。
【0025】
本発明の第2の全般的な観点によれば、液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定に用いるための側方毛細管流動分析装置であって、当該装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、その基材の表面が、好ましくは、その基材の表面にSiOxのコーティングを付着することにより、及び/又は高分子電解質を用いた表面改質によって、液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている画成された流路ゾーンとを具備するオープン型の側方流動装置である分析装置が提供される。
【0026】
基材の表面は、その装置を流れる改良された液体流動を容易にするために、表面活性及び親水性を向上させるように改質されていることは理解されるであろう。
【0027】
理想的には、血液凝固がモニタ及び/又は測定される。
【0028】
本発明のさらなる観点によれば、本発明の側方毛細管流動装置を用いて、液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定のための方法であって、液体サンプルは、基材上の受容ゾーンに添加されて、液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるように、毛細管現象によって、その受容ゾーンから流路を通って輸送される方法が提供される。
【0029】
本発明のさらに追加的な観点によれば、側方毛細管流動装置の表面を改質するための方法であって、その装置が、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、当該基材の表面が、液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている画成された流路ゾーンとを具備する方法であって、
酸素プラズマ及びアルゴンを用いて、基材を事前に処理することと、
プラズマ化学気相成長法(PECVD)によって、基材にSiOxを付着させることと、
を具備する方法が提供される。
【0030】
本発明のさらに追加的な観点によれば、分析を実行するための必要な試薬と共に、本発明の側方毛細管流動装置を具備する分析キットが提供される。
【0031】
本発明のさらに追加的な観点によれば、本発明の側方毛細管流動装置を具備する分析又は診断検査装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1a】Amic(登録商標)プラットホームに注目し(左側)、マイクロピラーの分解立体図(右側)が示されている図である。この側方流動プラットホームは、制御された側方流動アッセイのための明確な毛細管力特性を備えたマイクロピラーアレイを形成するように射出成形された環状ポリオレフィンで構成されている。
【図1b】非構造化領域(1)、エンドゾーン(2)、検査チャネル(3)及びサンプルゾーン(4)を備えた典型的な側方流動アッセイを示す図である。
【図1c】実施例で採用されたAmic(登録商標)B 2.2マイクロピラー側方流動装置のさらなるグラフィック描写を示す図である。寸法は、mmで示されている。そのチャネルは、長さが約27mmで、幅が約5mmであった。その検査チャネルは、拡大差込図に示すような熱エンボス加工されたマイクロピラー構造を呈していた。
【図2】改質されていないチップの同じ位置でのCAと比較した、改質されたCOP基材上の3つの異なる位置、すなわち、サンプルゾーン(微細構造)、エンドゾーン(微細構造)及びマイクロピラーのない円滑領域での改質後の24時間測定したCA値に対するSiOxの影響を示す図である。
【図3】改質されていないCOP基材と、異なる2つの条件(n=3)でSiOxを用いたPECVDによって改質されたCOP基材の場合のCA値の経時的な変化を示す図である。
【図4】未処理のCOP面(50μm×50μm)(図4の(a)、(b))、O2/Arプラズマ前処理済みCOP(1μm×1μm)(図4の(c)、(d))及びPECVDプロセスによってSiOxで改質したCOP(1μm×1μm)(図4の(e)、(f))のタッピングモードのAFMイメージである。図4の(a)、(c)、(e)は、それぞれ、3次元高さのイメージであり、Zスケールはそれぞれ、100、25及び20nmである。図4の(b)、(d)、(f)は、2次元の大きさのイメージであり、Zスケールは、0.1Vである。図4の(a)のAFMイメージのサイズは、50×50μmである。図4の(c)のAFMイメージのサイズは、1×1μmである。図4の(e)のAFMイメージのサイズは、1×1μmである。
【図5】無地のステンレス鋼面(1μm×1μm)(図5の(a)、(b))、O2/Arプラズマ前処理済みステンレス鋼(1μm×1μm)(図5の(c)、(d))及びPECVDプロセスによってSiOxをコーティングしたステンレス鋼(1μm×1μm)(図5の(e)、(f))のタッピングモードのAFMイメージである。図5の(a)、(c)、(e)は、それぞれ、3次元高さのイメージである。図5の(b)、(d)、(f)は、2次元の大きさのイメージであり、Zスケールは、0.1Vである。図5の(a)のAFMイメージのサイズは、1×1μmであり、図5の(c)のAFMイメージのサイズは、1×1μmであり、図5の(e)のAFMイメージのサイズは、1×1μmである。
【図6】非改質基材(A)、O2/Ar前処理済み基材(B)、及びSiOxをコーティングしたCOP(黒)及びステンレス鋼(灰色)(C)(n>12)のrms値の図である。
【図7】COP基材(6μm×6μm)のSiOxをコーティングした領域と非コーティング領域との間の境界のタッピングモードのAFMイメージの図である。図7の(a)は、3次元の高さイメージであり、Zスケールは、140nmである。図7の(b)は、2次元の大きさのイメージであり、Zスケールは、0.1Vである。図7の(a)のAFMイメージのサイズは、7×7μmである。
【図8】シリコンウェーハ上にPECVDで付着されたSiOxコーティングの吸収度FT−IRスペクトルの図である。
【図9】SiOxをコーティングしたCOP(点線)と処理していないブランクのCOP(実線)の比較の吸収度ATRスペクトルの図である。
【図10】SiOx1(黒丸)及びSiOx2(白丸)(n=3)に従って改質した、SiOxでコーティングされた基材上での水溶液の移動した時間と距離の相関関係の図である。
【図11】SiOxをコーティングしたCOP(a)、無地のCOP(b)及びポリスチレン対照(c)の血漿凝固時間に対する基材の影響を示す発色性トロンビン分析の図である。A−Abs対t、B−dZAbs/dZt対t、ただし、(a)はSiOxをコーティングしたCOP、(b)は処理していないブランクのCOP、(c)はブランクのポリスチレンである。
【図12】ガラス陽性対照と比較するSiOx改質後の3日後、1週間後、2週間後、3週間後及び8週間後のSiOxをコーティングしたCOP基材の表面及び裏面によって導入されたCTの縮小を示す図である。
【図13a】PT(Dade Innovin 40μl)側方流動凝固分析検査の結果を示す図である。
【図13b】aPTT(aPTT−SP 40μl)側方流動凝固分析検査の結果を示す図である。
【図14】側方流動アッセイに対するフィブリノゲンの影響を示す図である。
【図15】側方流動免疫測定法におけるフィブリノゲン及び/又は塩化カルシウムの組合せの影響を示す図である。
【図16】側方流動免疫測定法における塩化カルシウムの組合せの影響を示す図である。
【図17】剥き出しの環状ポリオレフィン(COP)チップ上への外部で混合した凝固試薬の影響を示す図である。
【図18】フィブリノゲンの量を変化させた充填プロファイルを示す図である。
【図19】様々な試薬の場合の充填プロファイルの比較を示す図である。
【図20】フィブリノゲンの量を変化させた充填プロファイルを示す図である。
【図21a】充填プロファイルに対するCaの影響を示す図である。
【図21b】充填プロファイルに対するCaの影響を示す図である。
【図22】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。酸素プラズマ処理単独、PACコーティング単独、高分子電解質処理、SiOx付着単独、及び高分子電解質を用いて処理したSiOxをコーティングしたポリマーによる環状ポリオレフィンの表面改質に関する図である。表面改質の有効性は、接触角測定によって分析した。最も低い接触角及び経時的に最も安定しているものは、高い高周波電力設定値で改質されたSiOx層に起因すると考えられる。
【図23】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。酸素プラズマ処理単独、PACコーティング単独、高分子電解質処理、SiOx付着単独、及び高分子電解質を用いて処理されたSiOxをコーティングしたポリマーの改質表面での(図の左から右への)流体フローの品質を示す流体速度測定のビデオ画像を示す図である。
【図24】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。SiOxで改質した表面が、迅速で再現可能な側方流動を実現する場合に最も有効であることを示す、酸素プラズマ処理単独、PACコーティング単独、高分子電解質処理、SiOx付着単独、及び高分子電解質で処理されたSiOxをコーティングしたポリマーの場合の速度プロファイルを示す図である。
【図25】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。SiOx表面及びPEで処理した表面と比較した無地のCOPのトポグラフィー(左から右)を示す実施例のタッピングモードのAFM3次元高さイメージである。
【図26】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。(左から右へ)無地の表面、非処理表面及び改質表面、すなわち、無地の表面、酸素プラズマ処理した表面、PACコーティングした表面、高分子電解質で処理した表面、SiOxをコーティングした表面、及び高分子電解質でも処理されたSiOxをコーティングしたポリマーのAFM分析から得られたRms粗度の比較を示す図である。
【図27】トロンビンをコーティングしたチップ(n=3)内での血漿フィブリノゲン含有量と移動距離の相関関係を示す図である。y=1.0236+(43.5151/x)、R2=0.9966
【図28】血漿及び全血に対してそれぞれ、1.03〜7.55g/L及び1.56〜8.86g/Lの様々なフィブリノゲン濃度を含む血漿サンプル(三角形)及び全血サンプル(正方形)を用いて生成された検量線(n=3)を示す図である。サンプルのフィブリノゲン含有量と、トロンビンをコーティングした分析チップ上で横切った距離との間の線形相関は、血漿の場合にはR2=0.965を用いて、全血の場合にはR2=0.797を用いて、それぞれ、y=−3.8674x+28.967及びy=−0.9402x+13.971であることが分かった。黒い記号は、通常の検量サンプルを示し、一方、白い記号は、フィブリノゲンが激減した又は補充されているサンプルであった。ボックスは、人の通常のフィブリノゲン範囲2〜4g/Lを示す。
【図29】側方流動分析装置を用いた、患者の血漿サンプル中のフィブリノゲン含有量の測定の結果を示す図である。横切った距離は、日常の検査測定から得られたフィブリノゲンの濃度に対してプロットした。患者のサンプル(黒い記号)(n=3)は、較正サンプルのトレンドをフォローすることが分かった。
【図30】開発した側方流動方法によるフィブリノゲン測定と、標準的方法によるフィブリノゲン測定の相関関係を示す図である(n=3)。その相関関係は、相関係数が0.89で、y=0.7387x+0.8271であった。
【図31】フィブリノゲンレベルが増加した際の、開発した分析法で得られたフィブリノゲン濃度と、常法の差異の拡大を示すBland-Altman プロット(Ref. Bland,J.M.; Altman,D.G. Lancet 1986、1、307-310)(標準的方法からの現場方法の偏差)。ゼロに近い値は、基準値と一致した。トレンドラインは、より高濃度のフィブリノゲンを用いると、測定の精度が低下することを示している。その傾きの値は、−0.2613であった。
【図32】1.4g/Lの低いフィブリノゲン濃度(十字形)、3.1g/Lの通常のフィブリノゲン濃度(正方形)、3.8g/Lの高いフィブリノゲン濃度(三角形)及び6.0g/Lの著しく高いフィブリノゲン濃度(円形)を有する血漿サンプルの反復を示す図である。全ての反復に対する移動距離が図示されている。水平ラインは、平均移動距離を示す。
【図33】トロンビンをコーティングしたチップの貯蔵安定性の研究と、それらのフィブリノゲン分析装置における応答の結果を示す図であり、1.41g/L(菱形)、通常レベル:3.04g/L(十字形)、高いフィブリノゲンレベル:4.66(円形)、5.39(三角形)及び6.97g/L(正方形)である(n=3)。
【図34】0〜10U/mLの精製されたトロンビンでコーティングされたチャネルを通って移動する血漿サンプルに対して、0、5、10、15、20、23及び27mmで記録した充填時間を示す図である。
【図35】表面に固定化された100U/mLのトロンビン(10μL)によって誘導された血漿血栓形成の結果として起きるフロー停止状態のイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の説明において、「側方流動(lateral flow)分析装置」という用語と、「毛細管流動分析装置」という用語は、互いに置換え可能であることを理解されたい。
【0034】
本願明細書で用いる「サンプル」という用語は、ある成分の有無、ある成分の濃度等のその特性のうちのいずれかの定性的又は定量的な測定を受けることを意図されたある容量の液体、溶液又は懸濁液を意味する。そのサンプルは、哺乳動物等の生物、好ましくは人間から、又は、水試料等の生活圏又は廃水から、あるいは、製造の過程、例えば、薬剤、食品、飼料の生産、飲料水の浄化又は廃水の処理等の技術的、化学的又は生物学的プロセスから採取されたサンプルとすることができる。そのサンプルは、それ自体で、又は、均質化、超音波処理、フィルタリング、沈殿、遠心分離、熱処理等の前処理の後に、定性的又は定量的な測定を受けることができる。
【0035】
本発明に関連する典型的なサンプルは、血液、血漿、血清、リンパ液、尿、唾液、精液、羊水、胃液、痰、喀痰、粘液、涙等の体液、地表水、地下水、汚泥等の環境流体、及び乳、乳清、肉汁、栄養溶液、細胞培地等のプロセス流体である。本発明の実施形態は、全てのサンプルに適用可能であるが、好ましくは、体液のサンプルに、及び最も好ましくは、全血検体を含む血液サンプルに適用可能である。
【0036】
定性的又は定量的な、サンプルの側方流動に基づく測定、そのサンプル中に存在する成分と、その装置内に存在する試薬との相互作用、及びそのような相互作用の検出は、診断目的、環境目的、品質管理目的、規制目的、法医学目的又は研究目的等のどのような目的にも使うことができる。
【0037】
「検体」という用語は、「マーカー」という用語の同義語として用いられており、また、定量的又は定性的に測定される何らかの物質を包含するように意図されている。
【0038】
「ゾーン」、「領域」及び「箇所」という用語は、この説明、実施例及びクレームの文脈においては、従来技術による装置、又は本発明の実施形態による装置における基材上の流体通路の一部を定義するのに用いられている。
【0039】
「反応」という用語は、サンプルの成分と、基材上又は基材中の少なくとも1つの試薬との間、あるいは、サンプル中に存在する2つ以上の成分の間で起きる何らかの反応を定義するのに用いられている。「反応」という用語は、特に、検体の定性的又は定量的な測定の一部として、検体と試薬との間で起きる反応を定義するのに用いられている。
【0040】
「基材」という用語は、それにサンプルが添加される、及びその上で又はその中で測定が実行される、あるいは、そこで検体と試薬の間の反応が起きる、担体又は母材を意味する。
【0041】
以下の説明において、「凝血(clotting)」と「凝固(coagulation)」は、互いに置換え可能であることを理解されたい。血液又は他の物質を含有する液体中の凝固又は凝血は、本発明を用いてモニタ及び/又は測定できることは、理解されるであろう。フィブリノゲン又はトロンビンを用いた凝固カスケードを介して生じた何らかの液体サンプルの凝固を考慮できることは、理解されるであろう。その中で凝固をモニタ及び/又は測定できる他の液体は、タンパク性溶液(例えば、乳)、及び凝集水及び廃水等の他の凝固液体を含む。
【0042】
以下の説明において、「マイクロピラー」又は「微小突起部」あるいは「突出する微細構造」という用語は、基材を流れるフローを規定する、基材の表面から突出する複数の垂直方向突起部又は柱状部を対象にしている。理想的には、このようなマイクロピラーは、表面に対して略垂直であり、前記フローゾーン内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔(t1、t2)を有する突起部からなる領域で構成される。
【0043】
以下の説明において、「コーティング」という用語は、「層」又は「膜」という用語と互いに置換え可能であることは理解されるであろう。
【0044】
本発明は、改良された凝固分析方法及び装置を提供する。
【0045】
理想的には、血液凝固は、本発明の分析装置及び方法でモニタ及び/又は測定される。
【0046】
本発明の第1の全般的な観点によれば、液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定のための側方毛細管流動装置であって、当該装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、凝固剤フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体が、画成された流路ゾーンの少なくとも一部に付着されているその画成された流路ゾーンとを具備するオープン型の側方流動装置である側方毛細管流動装置が提供される。
【0047】
一つの実施形態において、凝固剤は、その画成された流路ゾーンの表面全体に付着されている。
【0048】
理想的には、側方流動分析装置は、オープン型の側方流動装置であって、毛細管又はチャネルタイプの装置ではない。本質的な観点は、その装置が、その画成された流路に沿った液体サンプル中の毛細管現象を含むということである。
【0049】
このように、本発明の側方毛細管流動装置は、公知の毛細管流管、毛細管又はチャネル装置と区別される。
【0050】
例えば、このようなオープン型の側方流動装置は、液体サンプルと装置表面の表面積対容積比を向上又は増加させながらも、秩序がある、制御され、適切で予測可能な毛細管力を維持する構造を具備することが可能である。このことは、基材に沿って、好ましくは、その流路に沿って、突出部又はくぼみを具備する規則的に離間した構造を備えた平坦面を有するオープン型の側方流動分析装置によって実現することができる。
【0051】
本発明の好適な実施形態によれば、基材の流路ゾーンは、基材に沿ってフローを規定する、基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部又はマイクロピラーを具備する。
【0052】
必要に応じて、その垂直方向の突起部は、表面に対して略垂直であり、その流路ゾーン内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような突起部からなる領域で構成される。
【0053】
本発明者等は、基材の流路の表面に、凝固剤、好ましくは、フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体からなる層を付着することが、
i)その液体サンプルの凝固を加速させ、
ii)血液サンプル全体にわたって、より一様に分布した凝血塊を形成し、及び
iii)流量の制御された変化及び/又はその画成された流路ゾーンに沿った、液体サンプルの流動停止を確実にする改良された側方流動分析装置をもたらすことに気付いた。
【0054】
この種のコーティングと、側方流動装置の構造的な特徴との組合せは、血清からの凝血塊の分離を防ぐ。
【0055】
分散したフィブリンの網状組織の形成は、2つの方法で容易に行えることは理解されるであろう。第1の方法は、付着されたトロンビンを用いて、内因性フィブリノゲンからのフィブリン形成を活性化させることである。第2の方法は、凝固カスケードの活性化から生じるトロンビン形成に応答して、分散されたフィブリンを形成する付着された外因性フィブリノゲンを用いることである。本発明者等は、トロンビンが凝固カスケード中に生成される場合には、凝固剤のコーティング又は層が、フィブリン網状組織の一様に分布した形成を著しく強化することに気付いた。従って、流体フローの遅延をより顕著に実行できる。
【0056】
本発明の方法において、その凝固分析は、流速及び/又は凝血塊形成までの時間の測定を伴う。具体的には、それらの分析を実行し、及び凝固/凝血時間を算定するために、サンプルの液体からゲル(凝血塊)状態への変換が、時間及び/又は移動距離で測定される。すなわち、均一で再現可能な凝血塊の形成を迅速に誘導し、及びサンプルのフィブリンメッシュ及び血清中への分離を防ぐことが重要である。本発明の装置は、このことを確実に実現する。
【0057】
具体的には、この装置は、US2002/0187071及びUS5039617及びその他多数に記載されている毛細管ベースの流動装置等の公知の側方流動アッセイに付随する、凝血塊の血清からの分離、流体フローを停止又は遅延させる分析の有効性の低下、拡張された流路に関する複雑なデザイン、サンプルを介した凝血塊形成の不均一性等の問題を克服している。
【0058】
好適には、本発明の側方流動分析装置は、好ましくは、上記のように定義したマイクロピラー又は他の突起部/くぼみを備えた「開けた」表面である。上記のように定義した柱状部又は他の突起部/くぼみの存在によってもたらされる力は、上記で展開された毛細管表面積/サンプル容積比の問題を伴うことなく、毛細管現象の恩恵をもたらす。このことは、溶解速度、均一性等の改善を伴って、付着された試薬とサンプルとのさらに有効な相互作用をもたらす。
【0059】
凝固剤は、限定するものではないが、ピペット操作、スプレー被覆、浸漬被覆、光指向性パターニング、インクジェット印刷、スクリーン印刷、リソグラフィー技術(すなわち、マイクロコンタクト印刷)、エレクトロスプレー、化学気相成長法、原子間力顕微鏡ベースの分子蒸着及びその他を含むいくつかの手作業による及び/又は自動化された方法を用いて改質された基材表面に施すことができる。
【0060】
凝固剤は、理想的には、フィブリノゲン、トロンビン又はそれらの誘導体である。しかし、他の凝固因子及び誘導体も考慮することができる。例えば、(バター、クリーム、チーズ、ヨーグルトの製造における、又は、粘性の変化につながるタンパク質、炭水化物、核酸等の生体高分子の形成又は変質をもたらす他のプロセスにおける)カゼインの作用を介した機械的作用、熱、バクテリア、酵素、アルコール、又は酸味による乳又は乳成分の凝固。
【0061】
このようにして、凝固剤は、基材表面に固定化される。凝固剤の安定性は、限定するものではないが、他のタンパク質、ポリマー、糖類、界面活性剤、保湿剤を含む支持剤の混入によってさらに高めることができる。さらに、安定性は、温度制御、通気乾燥速度等の方法を用いた適切な乾燥方法、例えば、凍結乾燥を用いることによって向上させることができる。さらなる安定性は、袋詰め、密封及び規定された保管条件等の様々な方法によって遂行される、湿度に対する制御された雰囲気、温度、不活性ガス、真空等の様々な保存及びパッケージング手段を用いて実現することができる。
【0062】
凝固剤は、サンプルを受け入れるためのゾーンと、その画成された流路ゾーンとを含む基材表面全体にあってもよいことは、理解されるであろう。
【0063】
本発明の好適な実施形態によれば、その凝固剤は、フィブリノゲンである。
【0064】
本発明の別の実施形態によれば、その凝固剤は、トロンビンである。理想的には、5〜10U/mlの乾燥トロンビンを用いることができる。必要に応じて、使用する界面活性剤は、非イオン界面活性剤(例えば、Triton X−100)とすることができる。一実施形態においては、約10μlのトロンビンが使用される。
【0065】
他の試薬物質も凝固剤と一緒に付着させることができる。そのような追加的な試薬物質は、次のうちの1つ以上に限定するものではないが、組織因子、リン脂質、トロンビン又はフィブリノゲン及び/又は凝血促進剤以外の凝固因子を含む凝固を誘導及び/又は加速させることのできる追加的な物質、ガラス繊維、すりガラス及びガラス微小粒子を含有する微粒シリカ物質、及び/又はカオリン、セライト及び/又はエラグ酸を含有する凝固表面活性剤から選択することができる。
【0066】
また、TT試薬、aPTT試薬、ACT試薬及びPT試薬等の特定の凝固分析のための試薬製剤を用いることができる。それらは実施例で概説されている。例えば、ACT分析は、典型的には、接触活性化因子(微粒シリカ、ガラス、カオリン、セライト、エラグ酸等)を単独で添加して実行される。また、aPTTは、部分トロンボプラスチンと呼ばれる追加的なリン脂質混合物と共に、そのような接触活性化因子を含む。PT分析は、その主要活性成分として、第III因子とも呼ばれる組織因子を有する。トロンビン凝固時間(TCT)とも呼ばれるトロンビン時間(TT)は、トロンビン試薬の添加によって活性化される。分析前の凝固を防ぐために、血液サンプルが既にクエン酸塩試験管内に取込まれている場合には、塩化カルシウムを添加することもできる。
【0067】
凝固剤は、支持試薬物質、又は支持試薬物質の混合物と共に付着させることができる。それらの支持試薬物質は、ポリエチレングリコール(PEG)、糖類(すなわち、デキストラン、マルトデキストロース)、及び非イオン界面活性剤(すなわち、ポリソルベート20又は80、Triton X-100)等の界面活性剤を含有している。このような支持試薬は、検査サンプルと基材との間の非特異的相互作用を低減するため、所望の流速を得るため、試薬物質の安定性、粘性及び除去を制御するため等の様々な目的のために添加される。
【0068】
本発明の好適な実施形態によれば、支持試薬物質は、非イオン界面活性剤である。界面活性剤は、溶液/表面界面での表面張力を低下させて、流体動の制御を補助するその能力のため、幅広く用いられている。しかし、その両親媒性という性質により、界面活性剤は、膜組織及びリン脂質構造等の多くの生体系を破壊する可能性がある。そのような構造は、凝固プロセスにおいて非常に重要なものである。そのため、使用する界面活性剤の種類及び濃度は、流体動の補助及び制御すると同時に、凝固を阻害しないというバランスを実現する際に非常に重要である。イオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB))は、それぞれ、既知の例示的な陰イオン性及び陽イオン性界面活性剤である。しかし、そのような界面活性剤は、上述したような破壊効果により、凝固分析には適していない。
【0069】
従って、本発明は、理想的には、共重合型界面活性剤(例えば、イオン性頭部基を有していないが、ほとんどがエトキシ官能基のサブユニットから成る高度に分岐した、又は線形の極性基を有する、Triton X-100及びポリソルベート(例えば、Tween 20))等の非イオン界面活性剤を用いる。これらの非イオン界面活性剤は、そのような構造に対してあまり破壊的ではない。しかし、高度に分岐したポリソルベートは、特に凝固分析での用途に適しているこの種の非イオン界面活性剤を構成する、それほど高度には分岐していない共重合型界面活性剤よりも破壊的であることが分かっている。適切な濃度の選択によって、非イオン界面活性剤の使用は、界面張力を有効に低下させることができ、均一で再現可能な側方流動を補助することができ、及び凝固プロセスを干渉しない。
【0070】
凝固剤、追加的な試薬物質及び/又は支持試薬物質は、多くの異なる構成において、基材表面の検査チャネルに添加することができる。そのような構成は、限定するものではないが、以下のことを含む。
・異なる材料を、単一の基材表面のいくつかの領域に付着させることができる。例えば、検査チャネル全体、又は初期段階だけは、パターン化して、(必要な試薬物質が付着されて乾燥される)複数の領域に分けることができる。それらの異なる領域は、一旦、乾燥工程が完了すると、あるいは、試薬物質の混合を防ぐための高度の疎水性サブ領域を形成することにより除去される、テープ(例えば、片面粘着性感圧接着剤であるPSA等)からなる層によって互いに分離することができる。
・材料の混合物の傾斜付着、又は、その検査チャネルの始点及び終点からの傾斜付着。
・予混合なしに、材料が付着された後に乾燥される箇所への層の付着も可能である。
【0071】
本発明の第2の全般的な観点によれば、液体サンプル内での凝固のモニタ及び/又は測定のための側方毛細管流動装置であって、当該装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、基材の表面にSiOxからなるコーティングを付着することによって、基材の表面が、液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている、画成された流路ゾーンと、を具備するオープン型の側方流動装置である側方毛細管流動装置が提供される。
【0072】
必要に応じて、基材の表面は、SiOxを組合わせて高分子電解質によって、又は高分子電解質単独で改質することができる。
【0073】
理想的には、基材の表面は、上述したように、表面活性及び親水性を高めて、当該装置を流れる改良された液体流動を容易にするように改質される。
【0074】
理想的には、液体サンプルと接触する基材の表面のみが改質される。
【0075】
本発明の第1及び第2の両観点の装置は、基材に沿ったフローを規定する、基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部又はマイクロピラーを具備する、基材の流路ゾーンを具備することができることは理解されるであろう。理想的には、それらの垂直方向の突起部は、前記表面に対して略垂直であり、その流路ゾーン内での液体の側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔を有する突起部からなる領域で構成される。
【0076】
以下の説明は、そのような血液凝固分析に言及しているが、他の液体サンプルの凝固も本発明に従って考慮することができることは理解されるであろう。従って、血液又は血漿、あるいはトロンビン又はフィブリノゲンを含有する他の何らかの液体を含有する、トロンビン又はフィブリノゲンを含有する液体サンプルを検査することができる。
【0077】
以下の説明及び実施例は、血液凝固分析について言及しているが、他の液体サンプルの凝固も、本発明に従って考慮することができる。さらに、以下の論考は、本発明の第1及び第2の両観点に適用可能であることは理解されるであろう。
【0078】
(基材材料)
側方流動装置の特性は、表面多孔性及び粗面性等を含むいくつかの要因によって大きく影響を受ける可能性がある。そのため、当該装置に対する適切なプラットホーム又は基材の選択が極めて重要である。このようなベース/基材材料は、非特異的相互作用及び好ましくないタンパク質吸着を最小限にするために、化学的に不活性でかつ生体適合性がなければならない。低粗面性及び低多孔性も必要である。良好な光学特性、高耐熱性及び低い製造コストも有益である。
【0079】
側方流動アッセイ基材は、プラスチック材料、好ましくは、熱可塑性材料とすることができる。
【0080】
理想的には、側方流動アッセイは、環状ポリオレフィン(COP)で形成される。
【0081】
環状オレフィン重合体(COP)は、高透過性、低比重、低吸水性、及び生物医学用途に対して優れた材料にする低自己蛍光性及び高紫外線透過性を備えた好適なガラス質材料である。COPは、血液凝固モニタ装置用の基材にとって好ましい光学特性及び電気特性の優れた組合せを備えた熱可塑性樹脂である。COPは、低吸収速度と共に、純粋なポリマーに対する高防湿層を有する。それは、診断装置及び医療機器において有用になる抽出物が全くかほとんどないハロゲンフリー製品及び高純度製品として分かっている。ある種の滅菌、すなわち、ガンマ線照射が必要な場合には、蒸気及びエチレンオキシドを実施することができる。粘性及び剛性は、モノマー含有量により変化する可能性がある。それらのポリマーのガラス転移温度は、150℃を超える可能性がある。(IUPAC Technical Report)高耐熱性は、このポリマーを、何らかの熱変形、すなわち、熱エンボス加工に適した材料にする。様々な構造的デザインの創造が可能である。COPは、様々な成形、例えば、射出成形によって、所望の形状及び寸法のプラットホームに変形させることができる。
【0082】
このようなCOPの1つは、Zeon Corp.によりZeonor(登録商標)の商品名で販売されている。この材料は、側方流動アッセイ技術の基礎として使用されている。Åmic Br.(スウェーデン)は、液体サンプルが基材に施される際に、毛細管充填力を盛り込んで制御するように、マイクロピラーからなる規則的配列を形成した。Zeonor(登録商標)は、疎水性が非常に高い(〜100度の接触角)。従って、そのような疎水性を有するCOPは、凝固分析に用いるための改質を要する。
【0083】
その他のCOPは、TOPAS(登録商標)(Ticona)、APEL(登録商標)(Mitsui Chemical)、ARTON(登録商標)(Japan Synthetic Rubber)及びZeonex(登録商標)(Zeon Chemical)を含む。
【0084】
別法として、他のプラスチック材料を、その側方流動アッセイ基材として用いることができる。他の適切なプラスチック材料は、ポリスチレン、ポリエステル・ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル、天然高分子樹脂及び/又はポリメチルメタクリレート(PMMA)を含む。
【0085】
また、側方流動アッセイ基材は、シリコン又はガラス質/セラミック材料であってもよい。
【0086】
(コーティング材料/表面改質)
本発明において、側方流動アッセイ基材材料は、血液又は血漿の凝固を加速させる表面改質材又は界面化学剤(すなわち、いわゆる「コーティング材料」)の付着によって改質することができる。このようにして、基材表面の化学的性質を変えるように、添加材料からなる膜、層又はコーティングが基材表面に付着される。
【0087】
変質後、凝固プロセスは、充填時間の変化及び/又は装置に沿った凝固血液又は血漿サンプルが移動した距離の変化をもたらす。このことは、例えば、凝血塊を形成するサンプルの能力に対する抗凝固薬の影響をモニタするのに利用することができる。
【0088】
理想的には、表面改質は、基材の表面活性/親水性を向上させて、側方流動分析装置を流れる改善された流動を可能にする。また、表面エネルギの増加を伴う親水性表面の形成は、非特異的相互作用及びタンパク質吸着の低減にも有益である可能性がある。表面改質は、電荷密度、表面化学組成、表面鎖運動性、湿潤性、表面張力、及びその表面と相互に作用する分子の配座、吸収速度及び動態等の生物学的反応に著しく影響を及ぼす他の多くのパラメータ等のポリマー材料特性に変化をもたらす。表面張力の増加は、そのポリマー表面への新たな官能基の生成によって説明することができる。しかし、表面湿潤性に関する得られた効果は、空気又は水との接触により、時間と共に減少する可能性がある。
【0089】
理想的には、そのコーティング材料は、水安定性があり、かつ均一であり、その場合、改質/親水性の効果は、長期間にわたって低下しないであろう。表面特性の変化は、接触角測定によって容易にモニタして定量的に確認することができる。また、そのコーティング材料は、原子間力顕微鏡法(AFM)によって測定することのできる低粗度及び低多孔性によって特徴付けられる。さらに、コーティングプロセスは、コスト効率が良くなければならず、また、オペレータが危険な状態に曝されてはならない。
【0090】
様々な表面改質を、以下に挙げるように考慮することができ、及び本発明の第1及び第2の観点で明確にすることができる。
i.本発明の第1の観点において明確にしたように、表面改質された基材は、血液凝固過程を増進又は促進する様々な材料、このましくは、凝固剤フィブリノゲン又はトロンビン、いわゆる以下に挙げる「試薬物質」を用いて、さらに改質してもよい。従って、表面改質それ自体が、血液凝固過程を増進又は促進することができる。このような改質は、表面親水性を向上させ、及び側方流動分析装置内でのフローを容易にすることを目的としている。その結果、そのような試薬は、上記の(i)及び(ii)による改質が行われた後に、その基材表面に付着させることができる。
ii.本発明の第2の観点で明確にしたように、金属酸化物、好ましくは、SiOxからなるコーティングが、側方流動分析装置の表面に付着される。理想的には、金属酸化物、好ましくは、SiOxは、PECVD(プラズマ化学気相成長法)を用いて付着される。
【0091】
本発明のこの観点の好適な実施形態は、ポリマーZeonor(登録商標)(COP)からなる表面に付着されたSiOxからなる層を具備する。有利には、本発明者等は、ポリマーZeonor(登録商標)(COP)からなる表面に付着されたSiOxからなる層は、表面活性/親水性を高めて、改善された流動を可能にすると共に、凝固カスケードも誘導できるようにすることにより、側方流動血液凝固分析のパフォーマンスを高めることを見出した。
【0092】
このようにして、SiOxコーティング物質は、ガラスに対して、あるいは、損傷した血管系での露出したコラーゲンに似ている他の強く帯電した生体模倣ケイ酸塩表面に対して同様に作用し、そのことは、血液凝固の増進につながる。
【0093】
血漿凝固時間を縮小する、SiOxで改質したCOPの能力は研究されている。驚いたことに、本発明者等は、凝固促進活性と、SiOxをコーティングしたCOPの寿命との間の正相関に気付いた。本発明者等は、SiOxの表面は、付着後の最初の数日間は、CT(凝固時間)の縮小割合が低く(約1%)、1週間後でも同様であった(約2%)ことに気付いた。しかし、その表面は、2週間後には、著しい改善を見せた(38%のCT縮小)。これらの変化は、さらに増して、約3〜8週間後には、51〜54%程度のCT縮小値に達し、ガラスのCT縮小に近づいた(図23)。
【0094】
iii.本発明の第2の観点で明確にしたように、改質した基材表面は、SiOxコーティングに加えて、あるいは単独で、高分子電解質(PE)による改質を受けることも可能である。このようにして、PEからなる層は、その基材の表面に吸着される。このような高分子電解質は、中性ポリカチオンポリアニオン混合物である。
【0095】
適切な高分子電解質は、ポリオキシエチレン、ポリエチレンイミン(PAI)又はポリアクリル酸(PAC)を含む。その他の高分子電解質も考慮することができる。本発明者等は、これらの高分子電解質が、非特異的なタンパク質吸着を劇的に低減し、及び基材表面の親水性を向上させることに気付いた。
【0096】
高分子電解質による改質は、それ自体の上で行うことができ、その場合、基材は、酸素プラズマ処理後に、高分子電解質を用いて浸漬被覆される。
【0097】
別法として、高分子電解質による改質は、SiOxの付着後に行うことができ、及び2つのステップを具備し、酸素プラズマ処理の後に、高分子電解質を用いた浸漬被覆が行われる。
【0098】
本発明のこの観点の好適な実施形態によれば、基材の酸素プラズマ処理は、高周波(RF)PECVD炉内で実行される。PE処理は、酸素プラズマ処理の直後に実行される。PE処理は、基材をPEIに浸漬した後にPACに浸漬することを数回することを具備してもよい。
【0099】
これらの両コーティング材料種、すなわち、金属酸化物及び高分子電解質は、基材/プラットホームの表面に付着させることができる。本発明者等は、有利には、これらのコーティング材料による表面改質が、高度に規定された側方流動特性を備えた分析装置をもたらすことを発見した。このことは、サンプルと分析試薬の良好な混合、不活性で潜在的に低コストのシステムと共に、装置充填速度の良好な制御をもたらす。
【0100】
金属酸化物の付着は、例えば、基材/プラットホームの化学的及び機械的特性の向上をもたらすと共に、低い付着温度が、熱的に敏感である可能性のあるガラス又はプラスチック基材/プラットホーム材料のコーティングを可能にする。加えて、プラズマ化学気相成長法(PECVD)によって生成された膜又は層を具備するコーティング材料は、従来の重合によって作られた膜に優るいくつかの利点を呈する。それらの薄い層又は膜は、様々な基材膜に対して高度にコヒーレントであり、かつ付着し、及び従来の方法により重合可能ではないモノマーから作成することができる。
【0101】
有利には、本発明の表面が改質された装置は、ニトロセルロース等の従来の側方流動材料の使用から生じる精度の不足を含む、他の側方流動装置又は毛細管流動装置によって生じるいくつかの問題に対処する。
【0102】
その基材表面が、線形流速、均一に画成された流体領域による充填、及び良好な装置の再現性及び安定性に関して、その装置を介した改良された液体流動を容易にする優れた表面均一性によって表面活性/親水性を向上させるように改質されていることは理解されるであろう。
【0103】
(分析の種類)
本発明の側方流動分析装置が、活性凝固時間[ACT]、活性化部分トロンボプラスチン時間[aPTT]等の内因性の凝固経路を用いた分析、又はプロトンビン分析[PT]等の外因経路を用いた分析の誘導に適していることは理解されるであろう。
【0104】
内因経路及び外因経路として知られている2つの経路又は凝固カスケードは、凝血塊の形成につながる。これら2つの経路は、個別のメカニズムによって起動されるが、共通の経路に沿って合流する。組織損傷のない異常な血管壁に対応する血栓形成は、その内因経路の結果であり、また、組織損傷に対応する血栓形成は、その外因経路の結果である。凝固カスケードは、非常に複雑であり、凝固因子として知られている多くの異なるタンパク質と関わる。
【0105】
以下の分析は、本発明の分析装置及び方法を用いて実行することができる。
【0106】
・プロトロンビン時間(PT)検査
凝固の有用な測定法は、プロトロンビン時間(PT)検査である。PT検査は、血液又は血漿の組織因子誘導性の凝固を測定する。これは、外因性凝固経路の評価を与えることができ、また、因子I、II、V、VII及びXに反応する。この検査は、トロンボプラスチン及びCa2+等の凝固剤を患者のサンプルに添加して、血栓形成の時間を測定することによって行われる。
【0107】
しかし、従来のPT検査結果の表現は、その値が、使用したトロンボプラスチンの性質に依存するため、国際的比較に適していない。このことが、プロトロンビン時間を表す方法としての国際標準比又はINRの採用につながっている。ISI(国際感度指標)は、トロンボプラスチン(ヒト由来、67/40)の場合の世界保健機関(WHO)国際標準品に対する特定のトロンボプラスチンを用いて得られた多数のサンプルに対するPTの値の検量線から導出される。使用されるトロンボプラスチンの具体的な方法及び種類を考慮するISIの具体的な値は、各PTシステムに割当てられ、それにより、各PT比を標準化比に変換することができる。INRを利用することにより、患者は、使用されるPTシステムに依存しない満足のいくレベルの凝固を維持できるはずである。
【0108】
・活性化部分トロンボプラスチン時間検査(APTT)
血液又は血漿の凝固の測定の別の方法は、活性化部分トロンボプラスチン時間検査(APTT)である。この検査は、内因経路が活性化されたときに起きる凝固の時間の測定である。これは、カルシウムイオン及びリン脂質(部分トロンボプラスチン)がある場合のサンプルへの活性化因子(カオリン)の添加によって実現される。APTTは、因子I、II、V、VIII、IX、X、XI及びXIIを含む内因性凝固経路を評価するのに用いられる。リン脂質からなる表面での複雑さの生成は、プロトロンビンをトロンビンに変換できるようにし、そしてそのことが血栓形成をもたらす。
【0109】
APTTは、外科手術中にヘパリン療法をモニタするためのルーチン検査として、すなわち、術前の出血傾向のスクリーニング検査として、及び患者の凝固系の全体的能力を評価するのに用いられる。
【0110】
・活性凝固時間検査(ACT)
この検査は、APTTに似ており、経皮経管冠動脈形成術(PCTA)及び心肺バイパス手術等の、大量のヘパリンの投薬を伴う手術中に患者の凝固状態をモニタするのに用いられる。ACT検査は、血栓塞栓症の治療を受ける患者にとっての、及び体外循環中の患者にとっての、ヘパリン治療の制御のための最良の臨床検査の1つと考えられている。ヘパリンを摂取している患者の場合、ACTの延長は、血中のヘパリン濃度に直接比例する。モニタは重要であり、ヘパリンの過少摂取又は過剰摂取はそれぞれ、病的血栓形成状態又は重篤な出血状況をもたらす可能性がある。この検査は、セライト、カオリン又はガラス等の凝固活性化因子の添加後に凝固時間を測定する。
【0111】
・トロンビン時間検査(TT)
この検査は、通常の血漿対照と比較した、フィブリノゲンに対するトロンビンの作用による血漿中のフィブリン血栓形成の速度を測定する。その検査は、血小板が除かれている患者の血漿に、標準的な量のトロンビンを添加して、凝血塊が形成される時間を測定することによって実行される。その検査は、播種性血管内凝固症候群や肝疾患の診断に利用されてきており、また、一般的には、中央検査室で行われる。これは、フィブリノゲンの定性的な測定である。以下に記載されているクラウス法は、フィブリノゲンの存在量の定量的測定である。
【0112】
・その他の検査
凝固分析は、第IX因子欠乏を示す因子Villa等の特定の因子を対象とする凝固分析が開発されている。別の実例は、血友病の検査の構成要素となる因子VIIIの分析である。他の検査は、活性化ペプチド因子IXa、抗トロンビン、プロテインC及びプロテインSのレベル、フィブリノゲン欠損、ループス抗体、又は血液粘性に関連する何らかの病態、病状を測定するための分析を含む。
【0113】
例えば、血液粘性は、心血管有害事象に対する良好な決定因子であることが分かっている。(Lowe et al Br J Haematol.(1997) Jan 96(1):168-73)さらに、本発明の装置及び方法は、特に、フィブリノゲンのレベル変動のモニタに有用である。"Guidelines on Fibrinogen Assays" British J of Haematology (2003) 121:396-404に記載されているように、フィブリノゲン分析は、有利には、様々な動脈心血管事象の予測因子として、又は、PT及びaPTTと一緒のスクリーニング検査として個別に用いることができる。そのような一つの分析は、クラウス分析(1957)であり、この場合、被検血漿を希釈するために、(35〜200U/ml、典型的には、100U/mlの)高濃度のトロンビンが添加されて、その凝固時間が測定される。その検査結果は、既知のフィブリノゲン濃度からなる参照血漿サンプルの一連の希釈を凝固することによって用意された検量線と比較され、結果がg/lで得られる。また、最近では、プロトロンビン時間から導出されるPT導出(PT−fg)検査が幅広く用いられている。これは、フィブリノゲンの間接的な測定である。他の適切な分析は、"Guidelines on Fibrinogen Assays" British J of Haematology 2003、121、396-404に記載されている。
【0114】
また、本発明の装置及び方法は、Love Jason E. et al "Monitoring direct thrombin inhibitors with a plasma diluted thrombin time" Thrombosis and haemostasis (2007) vol.98,n°1:234-242 に記載されているような直接トロンビン阻害剤のモニタにも用いることができる。この論文では、血漿希釈トロンビン時間は、特に、ループス阻害剤又は低レベルのビタミンK依存性因子を伴う患者の直接トロンビン阻害剤(DTI)レベルをモニタするためのaPTTの実行可能な代替になることが発見されている。このようにして、トロンビンは、上記のTT分析に関連して説明したように、単独で、又はaPTT/PT試薬と組合わせて、本発明の装置に付着させて乾燥させることができる。
【0115】
(マイクロピラー観点)
全般的な文脈において、本発明の装置は、液体サンプルを所望の手順で処理することのできる少なくとも1つの流路及び機能的手段を備えた基材を具備し、この場合、少なくとも1つの流路は、機能的手段への、その手段を通る、及びその手段からの液体サンプルの輸送のためのパターンを形成するように配置されている。このようにして、流路は、基材から上方へ突出する複数の微小ポストで構成され、それらの微小ポスト間の間隔は、液体サンプルが付けられた箇所から液体サンプルを移動させるために、流路のどこかに付けられた液体サンプル中での毛細管現象を誘導するような間隔になっている。
【0116】
本発明の好適な実施形態によれば、基材の流路ゾーンは、基材を通るフローを規定する、基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部を具備する。それらの突起部は、「マイクロピラー」又は「微小突起部」あるいは「突出微小構造」として知られている。そのようなマイクロピラーを備えた装置は、「微細パターン化装置」と呼ぶこともできる。
【0117】
理想的には、その垂直方向の突起部は、表面に対して略垂直であり、流路ゾーン内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔を有する突起部からなる領域で構成されている。そのような装置は、WO03/103835、WO2005/089082、WO2006/137785及び関連する特許に開示されており、これらの明細書の内容を、参照により本願明細書に組込む。
【0118】
一実施形態によれば、そのような分析装置は、基材表面と、基材表面に対して略垂直な突起部を備えた少なくとも1つの流体通路又は画成された流路とを有する非多孔質基材を理想的には具備し、突起部は、基材表面に対して横方向の、流体通路を通るサンプル流体の毛細管流動を生じることが可能な高さ、直径、及び突起部間の距離を有している。
【0119】
流体通路が、その流路を画成して、毛細管流動を後押しすることは、理解されるであろう。
【0120】
一実施形態において、それらのマイクロピラー又は突起部は、約15〜約150μm、好ましくは、約30〜約100μmの距離の高さと、約10〜約160μm、好ましくは、20〜約80μmの直径と、互いに、約5〜約200μm、好ましくは、10〜約100μmの突起部間の距離とを有する。流路は、約5〜約500mm、好ましくは、約10〜約100mmの長さと、約1〜約30mm、好ましくは、約2〜約10mmの幅とを有することができる。この文脈においては本発明による装置は、マイクロピラーからなる均一な領域を有しなければならない必要はないが、それらのマイクロピラーの寸法、形状、及びそれらのマイクロピラーの突起部間の距離は、その装置内で変化してもよいことに留意すべきである。同様に、その流体通路の形状及び寸法は、変化してもよい。
【0121】
理想的には、少なくとも1つの流体通路は、毛細管流動を後押しする通路である。
【0122】
マイクロピラー突起部を備えた分析装置の使用は、分析装置に沿った緻密な流動をもたらし、他の従来のシステムに優るパフォーマンスを行える。
【0123】
装置は、使い捨て分析装置、又はそのような分析装置の一部とすることができる。
【0124】
本発明のこの観点の好適な実施形態によれば、好ましくは、PECVDを用いて、SiOxが付着された微細パターン化基材が提供される。理想的には、その微細パターン化基材は、環状ポリオレフィンである。本発明者等は、この装置が、良好な表面湿潤性をもたらし、その側方流動装置に再現可能な流体特性を与えることを見出した。
【0125】
別法として、凝固剤、すなわち、フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体からなる層は、理想的には、その画成された流路に沿って、そのマイクロピラー面に施すことができる。
【0126】
本発明のこの観点の他の実施形態は、血液凝固をモニタするための装置の能力を向上させるように改質又はパターン化されている微細パターン化基材を用いて考慮することができる。例えば、最も有効に実行する、流路の長さ及び幅を選択することができる。従って、マイクロピラーの高さ、サイズ及びマイクロピラー間の距離は、具体的な最終用途により選定することができる。
【0127】
また、マイクロピラーの2次元・3次元構成は変更することができる。このようにして、それらのマイクロピラーは特に、理想的には、凝固中にそのストリップを流れる血流の遅延を強める予め画成された構造内に存在させることができる。例えば、1つの狭小部又は複数の狭小部を、その側方流路内に形成することができる。
【0128】
他の実施形態も考慮することができる。例えば、サンプル適用ゾーン内での(凝固試薬を収容できる)「培養チャンバ」の形成は、検査チャネル内へのサンプルの進入前に凝固を生じさせることを可能にするであろう。このことは、凝固中のサンプルの流動停止が、そのチャネル内でより早くに起きることを可能にして、抗凝固処理されたサンプルが横切るより長い距離を与え、このようにして、通常のサンプルと異常なサンプルとのさらにはっきりとした違いを与えるであろう。
【0129】
また、可溶性膜でできた溶解性バリアを用いることもできる。一旦、液体を接触すると、その凝固過程が開始されている間に、その可溶性膜は分解し始める(具体的な用途により、約10〜180秒かかる)。理想的には、その溶解性バリアが一旦、通り越されると、通常の凝固サンプルの液体(サンプル成分)のほとんどは、凝血塊内に捉えられ、ほんの一部のみがその検査チャネル内へ進入して短い距離を移動すると共に、(抗凝固処理された)異常な凝固サンプルは、(抗凝固剤濃度に)比例したより長い距離を移動することになる。
【0130】
本発明のさらなる観点によれば、本発明の第1及び第2の観点で明確にしたような本発明による側方毛細管流動装置を用いた、液体サンプル中の凝固のモニタ及び測定のための方法が提供され、この場合、液体サンプルは、その基材上の受容ゾーンに添加されて、液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるように、毛細管現象によりその受容ゾーンから流路を通って輸送される。
【0131】
理想的には、その方法は、内因性凝固経路を用いた分析の誘導、好ましくは、活性凝固時間[ACT]、活性化部分トロンボプラスチン時間[aPTT]及び/又は外因性経路、好ましくは、プロトロンビン分析[PT]に適している。
【0132】
本発明の側方流動装置は、SiOxをコーティングした基材表面又はPEで改質した基材表面を具備する。別法として、そのSiOxをコーティングした基材表面は、PEによってさらに改質してもよい。理想的には、その改質された基材表面は、約35〜45%のCT低下値をもたらす。
【0133】
別法として、本発明の側方流動分析装置は、凝固剤、好ましくは、フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体からなるコーティングを具備する。
【0134】
それらの分析を実行して、凝血/凝固時間を評価するために、サンプルの液体からゲル(凝血塊)状態への変換時間及び/又は移動した距離が測定される。そのため、強固で濃い凝血塊の形成を迅速に誘導し、及びサンプルのフィブリンメッシュ及び血清への分離を防ぐことが重要である。
【0135】
理想的には、その液体のほとんどを捉えて、それによってそのチャネルに沿ったある段階でのフローを遅延又は抑止する強固で濃い凝血塊の形成を迅速に誘導するために、強い凝固因子を用いるべきである。そのチャネルに沿って均一に又は傾斜的に付着された強くて急速に作用する活性化因子は、液体の高密度のフィブリンメッシュへの変換を引き起こして流動停止を引き起こし、それによって、時間及び/又は移動距離に基づく、凝固サンプルと非凝固サンプルの区別を可能にするであろう。
【0136】
理想的には、PT/aPTT活性化因子をこの目的のために用いることができる。PT試薬が特に有用であることが分かっている。それらの試薬は、組織因子と、外因経路を介して凝固カスケードを迅速に(約10〜12秒)活性化させるリン脂質の組合せとを含有する。
【0137】
本発明のさらに別の観点によれば、側方毛細管流動装置の表面へのSiOxの付着のための方法が提供され、当該装置は、液体サンプルを受け容れるためのゾーンと、液体サンプルの凝固を加速させるように、その基材の表面が改質されている、画成された流路ゾーンとを備える非多孔質基材を具備し、その方法は、
a.酸素プラズマ及びアルゴンによってその基材を処理することと、
b.プラズマ化学気相成長法(PEVCD)を用いて、その基材にSiOxを付着させることと、を具備する。
【0138】
この凝固物質が多くの方法で付着させることができることは、理解されるであろう。付着の好適な実施形態は、後にプラズマ化学気相成長法(PECVD)等が続く酸素プラズマ処理を利用する。このことは、その基材の湿潤性、剛性、化学的不活性及び生体適合性の改善を可能にする。その結果、PECVDによって生成された膜は、従来の重合によって作られた膜に優るいくつかの利点を呈する。それらの薄い層は、高度にコヒーレントであり、及び様々な基材膜に付着し、また、従来の方法では重合可能ではないモノマーから作成することができる。
【0139】
実施例で概説されている高周波電力、前処理工程でのアルゴンの使用、使用したガス及び液体前駆物質の供給、HMDSO、アルゴンと酸素の比、及び処理時間を含む様々なパラメータは、この方法のために最適化されている。理想的には、SiOx付着プロセスは、2つのステップ、すなわち、アルゴンの添加を伴う又は伴わない酸素プラズマを用いる前処理ステップと、前駆物質、すなわち、HMDSOが、与えられた高周波電源の下で酸素と反応して、その基材表面に付着されたSiOx活性種を生成するSiOxコーティングステップとで実行した。
【0140】
理想的には、約35〜55nm、好ましくは、40〜50nm、より好ましくは、44〜46nmのSiOxからなる均一なコーティングが望ましい。
【0141】
別法として、又は追加的に、その基材表面には、高分子電解質による改質を施すことができ、この場合、その基材は、酸素プラズマ処理後に、高分子電解質で浸漬コーティングされる。
【0142】
理想的には、その基材は、熱可塑性材料、好ましくは、環状ポリオレフィン等のプラスチック材料である。しかし、前述したように、他の基材を用いることもできる。
【0143】
理想的には、改質されるその基材の流路ゾーンは、その基材を通るフローを規定する、その基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部を具備する。好適な実施形態によれば、その垂直方向の突起部は、前記表面に対して実質的に垂直であり、及び前記流路ゾーン内でのその液体サンプル中の側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔(t1、t2)を有する突起部からなる領域で構成され、また、その領域では、液体サンプルを受け容れるためのゾーンに隣接して、又はそのゾーン内に、分離のための手段が設けられている。このようにして、使用した側方流動分析装置は、WO2006/137785又はWO2005/089082に従っていてもよく、それらの明細書の内容は、参照によって本願明細書に組込む。
【0144】
本願明細書において、「具備する、具備した及び具備している」又はそれらの変形という用語と、「含む、含んだ及び含んでいる」又はそれらの変形は、完全に互いに置換え可能であると考えられ、また、それらには、全面的に、可能な限り最も広範な解釈を与えるべきである。
【0145】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、クレームの範囲内で、構造及び詳細を変えることができる。
【0146】
本発明は、単に例示的に示された以下の説明及び以下の非限定的な図面及び実施例を参照すれば、より明確に理解されるであろう。
【実施例】
【0147】
実施例1
(二酸化ケイ素を有する環状ポリオレフィン基材の改質及び特性化のための方法)
(材料)
B2.2 COP Amic(登録商標)チップ(Åmic BV(スウェーデン)により供給されている)
・高さ:65〜70μm、上部直径:ca 50μm、底部直径:ca 70μm、及びcc:185×85μm(列状のピラーの中心間の距離:85μm、行状のピラーの中心間の距離:185μm)。
18.3MΩcm以上の比抵抗を有する、Millipore Milli-Q water purification system(Millipore、米国)からの水;
98%以上のグレードのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)(Sigma-Aldrich);
高純度のアルゴン/酸素(Premier、99.9%)(Air Products Ireland Ltd.);
水性食用色素溶液(Goodall's(商標));
96ウェルの黒い側部で、透明ベースの微量測定用プレート(Greiner Bio-One);
トロンビン比色分析試薬S-2238(Chromogenix);
正常なクエン酸ヒト血漿(Hemosil);
粘着剤(PSA)(AR8890)(Adhesives Research)。
【0148】
(方法)
(SiOx付着)
付着プロセスは、Prasad[22,34]によって記載されたPECVDによるステンレス鋼へのSiOx付着のためのプロセス条件下で、13.56MHzの高周波PECVD炉内で行った。しかし、付着プロセス条件は、COP基材上に所望の膜特性を実現できるように変更した。付着プロセスに必要なガス(アルゴン、酸素及びSiOx前駆物質のHMDSO)は、付着チャンバに接続されたマスフローコントローラを介してそのチャンバに供給した。ソースからマニホールド及びチャンバまでつながるHMDSOの供給ラインは、ステンレス鋼で形成し、その前駆物質の凝縮を防ぐように、温度制御された加熱テープを用いて、55℃まで加熱した。サンプルは、SiOx付着の前に、酸素プラズマを用いて処理した。
【0149】
まず、真空状態を生成した。ターゲットチャンバ圧力は、30mTorr以下にした。一旦、このレベルを達成すると、表面を、150〜500Wの高周波電力の下で、異なる比率の酸素とアルゴンの供給混合物を用いて3分間、処理した。供給した酸素の量は、0〜150立方センチメートル毎分(SCCM)であり、アルゴンは、0〜134SCCMであった。その後のSiOx改質は、この処理の効果は経時的に不安定であり、すなわち、生成される官能基が劣化しやすいため、酸素プラズマプロセスが終了した直後に行った。アルゴンの供給は(使用した場合)、前処理工程後に停止し、酸素:HMDSO(50〜500SCCM:10〜15SCCM)の混合物を、3〜30分間、加えた。また、付着工程でのアルゴン(0〜100SCCM)の希釈の影響もテストした。プロセスの最適化に続いて、サンプルを、250Wの高周波電力、50SCCMのアルゴン及び50SCCMの酸素に3分間さらし、300Wの高周波電力、500SCCMの酸素及び15SCCMのHMDSOで10分間、コーティングしたときに、SiOx膜形成のための最良の条件が得られた。改質したサンプルは、周囲条件下で保存した。また、偏光解析法、FT−IR及びATRを用いた膜の物理的特性化のためにシリコン基板上に膜を形成するのにも、同じ付着条件を用いた。
【0150】
(原子間力顕微鏡法)
原子間力顕微鏡法(AFM)イメージングは、10nm以下の曲率半径、40N/mのバネ定数及び300kHzの共振周波数(いずれも公称値)を有する標準的なシリコンカンチレバー(BudgetSensors、Tap300Al)を利用して、(Nanoscope IIIa electronicsを備えた)Dimension 3100を用いて、Tapping Mode(商標)で大気中で行った。トポグラフィーイメージは、1〜2Hzの走査速度で記録した。表面粗度は、AFMの製造会社のソフトウェア(NanoscopeIII,V5.12)を用いて評価した。ナノメートルで計算した二乗平均平方根(Rms)イメージを、平均水準からの高さ偏差の平均として定義した。2〜3個のサンプル上の4〜5箇所を走査して、粗さの値を得た。Rms値(nm)を平均した。また、サンプルは、膜厚に関しても分析した。スライドの一部は、コーティング後に除去できるテープで被覆した。4つのサンプルの走査から得られた値を平均した。
【0151】
(接触角測定)
基材の表面エネルギは、ビデオベースの接触角アナライザ(First Ten Angstroms, FTA200)によって測定した。各サンプルに対して、3〜6つのデータ点を採用し、接触角(CA)を、同じサンプルの数箇所で測定した。その表面の経時的な安定性を確認するために、CAは、数週間にわたって定期的に測定した。
【0152】
(フーリエ変換赤外分光法及び赤外減衰全反射)
PECVDによりシリコンウェーハ上に付着したSiOx膜は、COP基材上に付着させた本発明者等のSiOx膜における化学的結合構造を解明するために適用した減衰全反射(ATR)モードで、窒素雰囲気中でZnSe結晶を用いて、フーリエ変換赤外(FT−IR)分光計(Perkin Elmer Spectrum GX、FT-IR System)を用いた赤外吸収分光法によって分析した。走査は、4cm−1の解像度で実行した。32回の走査を行った。
【0153】
(フロー時間実験)
水性染料溶液又は検量血漿の一定分量15〜20μlを、装置上のマイクロピラーチャネル内の基材サンプルゾーン内に添加した。その液体が流れて、そのチャネルの終端に到達するのに必要な時間を、ビデオ撮影により測定した。また、そのビデオは、フローの品質も記録した。
【0154】
(発色性トロンビン分析)
発色性トロンビン分析は、通常の血漿凝固時間(CT)に対するSiOxコーティングの影響を判断するために行った。その分析は、96ウェルの微量測定用プレートで準備した。そのプレートのベースは、両面PSAからなる層で改質し、各ウェルのベースは、メスで切除した。そして、改質した基材及び改質していない基材、及びガラス対照を、そのプレートの接着ベースに取り付けた。追加的な対照は、標準的なポリスチレンベースに対して行った分析であった。50μlの正常なクエン酸ヒト血漿を、ウェル内に配置した。それらのサンプルを、室温で15分間、培養した。50μlの比色分析試薬(S-2238)をウェルに添加し、最後に、血漿サンプル中のクエン酸の影響に勝る反応を開始する50μlの25mM CaCl2を添加した。吸収度は、Tecan、Infinite M200分光光度計を用いて、37℃で70分間、30秒毎に405nmで測定した。凝固時間は、最大信号の半分における吸収度に対応する時間として採用した。
【0155】
(結果及び論考)
(SiOxのプラズマ化学気相成長法)
高いO2/モノマー比及び高電力は、SiO2状膜の良好な付着のための方策における主要なポイントである。しかし、そのようなプラズマ相の複雑さのため、そのプラズマ相における活性種密度と、付着した膜の化学的組成との相関関係を測定して、そのプロセスを最適化することは非常に困難である。(Creatore,M., Palumbo,F., d'Agostino,R., Fayet,P.(2001)。RF plasma deposition of SiO2-like films: plasma phase diagnostics and gas barrier film properties optimisation, Surface & Coatings Technology, 142 163)ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)は、PECVDによるCOP基材へのSiOx付着のための前駆物質に関する本発明者等の選択である。通常は液剤であり、PECVDで分解されるHMDSOは、コーティングプロセスで必要な活性種のソースとして作用する。
【0156】
SiOx付着プロセスは、2つの工程、すなわち、アルゴンの添加を伴って、又は伴わないで酸素を用いた前処理工程と、所定の高周波電力の下で、前駆物質であるHMDSOが酸素を反応して、基材表面に付着したSiOx活性種を生成するSiOxコーティング工程とで実行した。PECVDによって付着した膜の物理化学的特性に対するアルゴン希釈の影響を評価するために研究を行った。ある場合には、アルゴンの添加が有益である可能性があることが分かり、付着速度の向上に気付いた。このことは、接触面積の増加をもたらして、ポリマー表面へのコーティングの良好な接着を生じるだけではなく、良好なクリーニング方法ももたらした。しかし、この好ましい効果にもかかわらず、付着混合物中のアルゴンの希釈は、付着した層の品質に好ましくない影響を及ぼす可能性があるために推奨できない。他の研究グループによって既に主張されているように、このことは、アルゴンイオン衝撃による可能性がある。(Kushner,M.J.(1988). A Model for the Discharge Kinetics and Plasma Chemistry during Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition of Amorphous Silicon, Journal of Applied Physics, 63(8):2532; Keppner,H., Kroll,U., Torres,P., Meler,J., Fischer,D., Goetz,M., Tscharner,R., Shah,A.,(1996). Scope of VHF plasma deposition for thin-film silicon solar cells, Conference Record of the Twenty Fifth Ieee Photovoltaic Specialists Conference - 1996, 669)しかし、基材のプラズマ前処理が、ポリマー及び金属表面の両方に対するHMDSO膜付着を著しく改善できることも分かっていた。(Hegemann,D., Vohrer,U., Oehr,C., Riedel,R.(1999). Deposition of SiOx films from O-2/HMDSO plasmas, Surface & Coatings Technology, 119 1033; Domingues,L., Oliveira,C., Fernandes,J.C.S., Ferreira,M.G.S.(2002). EIS on plasma-polymerised coatings used as pre-treatment for aluminium alloys, Electrochimica Acta, 47(13-14): 2253)これらの理由のため、酸素とアルゴンの混合物を、ならびに酸素希釈をそのままでテストした。
【0157】
付着プロセスに適用した高周波電力及び酸素とHMDSOの比は共に、コーティングの付着強度に対して明確な影響を有することが分かっている。(Prasad,G.R., Daniels,S., Cameron,D.C., McNamara,B.P., Tully,E., O'Kennedy,R.(2005). PECVD of biocompatible coatings on 316L stainless steel, Surface & Coatings Technology, 200(1-4): 1031)高周波電力及び酸素とHMDSOの比の影響を評価する、それぞれ、500W、100:15のSCCM(SiOx1)を10分間及び150W、50:10のSCCMを3分間(SiOx2)という2つの条件セットを適用した。(この場合、前処理条件は、SiOx1は、500Wの高周波電力で、100SCCMの酸素を3分間、SiOx2は、150Wの高周波電力で、50SCCMの酸素を3分間)
【0158】
高い高周波電力にさらされた2つのチップは、ポリマーの化学的構造が、明確に高電力の影響を受けるように、その両面が融解して焼成された。しかし、見た目が変わらず、清浄で透明なサンプルをテストした。図2は、特定の領域のCA値(湿潤性)に対する処理の影響を示す。それらのCA値は、制御された非改質COP表面で検査した。その処理は、100度及び140度の未処理の表面値から、50度をかなり下回る改質済み表面値までのCAの低下に著しく影響を及ぼすことが図を見て分かる。また、微細構造化されたマイクロピラーゾーンが、10度以下の極端な親水性表面を生じる表面パターニングによって導入された本質的な毛細管現象による、明らかにかなり低いCAを有していることも観察されている。CA測定は、改質された表面の高い湿潤性により、そのエンドゾーンでは不可能である。また、SiOx1は、CAの全体的な低下において、わずかに優れているように思われる。
【0159】
表面改質の安定性は、その基材の非構造化面を分析することにより、数週間にわたってモニタした。(図3)時間の経過と共に、CAは、そこで安定し始める約12週間後まで増加していた。SiOx1の高電力付着は、親水性がSiOx2よりもかなり高いままであり、実現された初期値を反映している。後に続く表面特性の経時的な変化は、それぞれ60度及び70度で安定している。
【0160】
前述のデータから、高すぎる高周波電力(450W以上)は、COPサンプルの過熱及び損傷につながる可能性があることが分かった。しかし、高周波電力の低下は、前駆物質の分解速度が、印加される電力に大きく依存するため、膜の親水性の低下を生じる可能性がある。前処理工程における250Wの高周波電力、及びコーティングプロセスにおける300Wが、良好な品質を得るのに、及びサンプル損傷のリスクをなくすのに最適であることが分かった。膜付着は、O2/HMDSO比、O2及びArの希釈及び付着時間等の付着条件を変えることによって、さらに改善された。O2は、HMDSO前駆物質が存在する場合にSiOxを生成するのに必要であるため、コーティング工程における酸素の添加は本質的であった。膜の特性化は、次のような最適な条件下で、SiOxでコーティングされた面で行った。サンプルは、250Wの高周波電力で、50SCCMのアルゴン及び50SCCMの酸素に3分間さらし、300Wの高周波電力、500SCCMの酸素及び15SCCMのHMDSOで10分間、コーティングした。最適化されたコーティングは、水中で安定的であり、十分な親水性(約61度〜64度のCA)を呈し、そのことは、経時的に著しく悪化しなかった。これらの条件下で、SiOxでコーティングされたチップは、特別な改質後処理を要せず、また、大気保存条件は、膜特性に著しく影響を及ぼさず、そのことがチップの使い勝手を良くしている。全てのさらなる研究は、特に明記しない限り、これらの付着条件に基づいている。
【0161】
(原子間力顕微鏡法分析)
非改質COP表面、酸素/アルゴン前処理済みサンプル及びSiOxで改質された表面のAFM分析の結果を図4に示す。対照のため、高度に研磨したステンレス鋼を、COP(図5)と同じ方法で改質した。また、表面粗度値(Rms)は、図6に示されている。改質していない表面は、粗度値が0.7±0.21nmで、ミクロン長さスケールで極度に円滑であった。このことは、後に続く酸素/アルゴンプラズマ処理を劇的に変化させ、表面構造のレベルは、1.54±0.81nmまでの粗どの増加を伴って、大幅に増加した。SiOx付着後、その表面は、粗度が0.96±0.51nmで、わずかに円滑で、より明確な表面構造に戻り、明白な表面改質の存在を明確に示していた。
【0162】
比較すると、ステンレス鋼は、COPと比較して、非改質基材に関してより大きな表面粗度を呈していた。これは、酸素/アルゴンプラズマ処理の後の改質の同様のパターンになり、この場合、粗度は、2.48±1.92nmから7.02±4.12nmになる。SiOx改質は、改質されたCOP基材と非常に似た表面形態をもたらし、3.69±2.91nmの粗度値を生じさせた。AFMデータは、PECVDプロセスにおけるアルゴンの使用が、膜の粗度の増加をもたらしたことを裏付けている。上記で強調したように、SiOxコーティングは、アルゴン前処理後の表面の粗度を低下させる傾向があった。
【0163】
オープン型の側方流動プラットホームアッセイ用基材としてのCOPの使用に関する別の利点も明らかになっている。無地のポリマー表面は、ステンレス鋼と比較して、比較的滑らかであった。アルゴン/酸素前処理の後、粗度は、テストした両基材の場合、増加した。この理由は、おそらく、上述したようなアルゴンイオン衝撃によるものである。アルゴンは、その希釈が良好な清浄をもたらすため、混合物から除外されず、そのことは、後に付着される膜の品質に影響を及ぼす。アルゴン希釈は、膜付着を改善し、より均質で均一なコーティングを形成することを可能にする。膜均質性は、結果として生じる表面の流体特性の再現性に著しく影響を及ぼす可能性がある。アルゴンは、表面粗度を低下させるために、付着工程から除外した。アルゴン/酸素プラズマ処理した表面のSiOxコーティングは、表面の平滑化をもたらした。その粗度は、改質前ほどには低くなかった。しかし、粗度は、両基材の場合には、著しく低下した。
【0164】
(膜厚)
AFMは、膜厚を評価するのにも利用した。コーティングの厚さは、その付着時間に大きく依存する。(Sobrinho,A.S.D., Latreche,M., Czeremuszkin,G., Klemberg-Sapieha,J.E., Wertheimer,M.R. (1998). Transparent barrier coatings on polyethylene terephthalate by single- and dual-frequency plasma-enhanced chemical vapor deposition, Journal of Vacuum Science & Technology A, 16(6): 3190; Yang,M.R., Chen,K.S., Hsu,S.T., Wu,T.Z.(2000). Fabrication and characteristics of SiOx films by plasma chemical vapor deposition of tetramethylorthosilicate, Surface & Coatings Technology, 123(2-3): 204)図7は、改質表面と非改質表面との間の境界のAFMイメージを示す。2つの表面の間のステップは、その3次元画像を見てはっきりと分かる。その段差は、44.4nmであると推定された。(0.05%RSD、n=5)
【0165】
(減衰全反射モードにおけるフーリエ変換赤外分光法)
SiOxコーティングをさらに特徴付けるために、非改質基材及びSiOxをコーティングしたCOP基材に対してATR−FTIRを用いて、定性的研究を行った。この方法は、高度に敏感であり、選択的であり、非破壊的であり、また、周囲条件下で実行できる。そのことは、シリコンベースのコーティングを特性化するのにさらに適している。(Weldon 1999, Niwano 1994, Watanabe 1998, Nagai 2001, Mink 1997)
【0166】
図9に示すように、ATR−FTIRスペクトルは、2つの異なる領域、すなわち、3500〜2800cm−1及び1500〜750cm−1で様々な変動を示している。それらのピークは、G.Socrates(Soctrates 2004)のハンドブックに基づく結果と考えられる。第1の領域においては、分離し、及び付随するSiOH伸縮振動(Theil 1990)に対応する、3565及び3292cm−1に集中する2つの貢献を備えることのできる、3750〜3000cm−1の広い帯域。2941cm−1のピークは、CH3基の非対称伸縮モード振動に関連している。2914及び2855cm−1のピークは、それぞれ、CH2の非対称及び対称伸縮に貢献することができる。これらのピークは、両グラフ上に現れているように、その基材から生じている。
【0167】
第2の領域(1500〜750cm−1)においては、1455cm−1に現れているその基材によるピークは、CH2のC=Hの曲げ振動に関連している。1278cm−1に現れているピークは、メチルシリルSi−(CH3)x振動に相当する。1250〜980cm−1の広い帯域は、それぞれ、Si−R鎖の伸縮振動、Si−O−Siの対称伸縮、Si−O−Cの非対称伸縮振動、及びSi−O−Siの伸縮振動の結果と考えられる1218、1180、1131及び1058cm−1での4つの貢献を備えることができる。Si−OH伸縮振動に相当するピークは、920cm−1で生じる。801cm−1でのピークは、Si−O−C伸縮モードに相当する。これらのデータは、CA及びAFMデータと共に、その表面が、SiOx層によって有効に改質されていることを示す。
【0168】
図8は、シリコンウェーハ上に付着されたSiOxの赤外線スペクトルを示す。450、800及び1070cm−1近辺に見える3つの主なピークは、Si−O−Si振動モード、すなわち、それぞれ、ロッキングモード、曲げモード及び伸縮モードに相当する。(Benissad,N., Aumaille,K., Granier,A., Goullet,A.(2001). Structure and properties of Silicon oxide films deposited in a dual microwave-rf plasma reactor, Thin Solid Films, 384(2): 230)シリコンウェーハ上に結合しているSi−O−の存在は、それらの活性種が、コーティングされたCOP上に存在していることの100%の確かさを与える訳ではない。
【0169】
(充填時間研究)
側方流動バイオアッセイに適用できるようにするためには、結果として生じる表面改質は、その装置へのマイクロピラー構造の再現可能で均一な充填を可能にする必要があるであろう。水性染料溶液が、そのストリップの狭い検査チャネル領域(図1を参照)と移動するのにかかる時間を、ビデオキャプチャを利用して測定する充填時間実験を行った。SiOx1及びSiOx2の改質の充填時間を図10に示す。両プロトコルによる改質が、かなり上昇した表面活性からなる基材改質をもたらしたように思われるが、充填時間実験におけるパフォーマンスには、以前として大きな差がある。少ない高周波電力改質方法の場合(SiOx2)、その水性サンプルは、不十分な親水性により、その微小流路を横切ることができなかった。しかし、SiOx1は、その流路を1366±27sで横切るという均一で再現可能な充填特性をもたらした。SiOx1の条件に従って改質され、サンプルの損傷を防ぐために、より多くの酸素によって、及び少ない高周波電力を印加することによって改質された表面は、適切な流体パフォーマンス特性を可能にする十分な湿潤性及び安定性を生じさせるため、側方流動アッセイのさらなる進歩に利用することができるであろう。
【0170】
最適化したSiOx層方法を用いた付着に続いて、検量血漿(Hemosil)中の0.4%のTriton X-100の一定分量15μlを、側方流動試験液として使用した。流体フロー時間は、平均フロー時間78s(9% RSD)に対して十分に再現可能であり、このことは、凝固モニタアッセイ又は他の生物学的診断プラットホームとして、オープン型の側方流動実験に潜在的に有用であるSiOxをコーティングしたプラットホームを形成しようとする際に最も重要である。
【0171】
(SiOxで改質した基材の血漿凝固に対する影響)
SiOxで改質した表面は、本質的にガラスと似た材料物質であるため、原理上、ガラスと同様に作用するはずである。ガラス製表面及びガラス材料は、化学的不活性、機械的強度及び加工性という多くの有益な特性により、長年にわたって幅広く用いられてきた。しかし、ガラスにも、処理する手段及びその脆さを含む多くの欠点がある。ポリマーと、ガラスのような表面特性を組合わせることは、それらの両方の有益な特性を備えたハイブリッド材料を生み出す優れた方法である。確認されているガラスの一つの特性は、血液凝固過程を速める能力を有しているということであった。(Rapaport,S.I., Aas,K., Owren,P.A.(1955). Effect on Glass upon the Activity of the Various Plasma Clotting Factors, Journal of Clinical Investigation, 34(1): 9; Sharma,C.P., Szycher,M. Blood Compatible Materials and Devices: Perspectives Towards the 21st Century, CRC Press, 1991)実際には、ガラス容器内への採血は、クエン酸塩等のカルシウムキレート剤、又は、ヘパリン等のトロンビン阻害剤の添加によって凝固を防がなければならない。大きく負に帯電した二酸化ケイ素表面は、血管損傷の後の露出した血管系(コラーゲン)に似ており、内因性経路を介した凝固カスケードを開始すると思われている。この現象は、多くの血液凝固分析において幅広く活用されており、この場合、凝固を速めるために、ガラス、又は、セライト及びカオリン等の他の同様のケイ酸塩が、血液サンプルに加えられる。従って、ガラス状表面で改質された表面は、内因性経路を介した血液凝固の導入を要するバイオアッセイ、例えば、活性化部分トロンボプラスチン(aPTT)や活性凝固時間(ACT)を含む凝固時間(CT)タイプの分析を実行するのに用いることができるであろう。
【0172】
SiOxで改質された表面の凝固過程を速める能力を評価するために、中にクエン酸ヒト血漿及び比色分析トロンビン基質を配置したマイクロタイタープレートウェルのベースとして、その基材を導入した。それらは、凝固を開始できるようにするためのCaCl2の添加前に培養できるようになった。生じたトロンビン曲線を図10及び図11に示す。生データ及び微分データの両方において、ポリスチレンマイクロプレート基材上での凝固の発現が約2000sであったことが図を見て分かる。改質していないCOPは、それ自体がCTにある程度の影響を及ぼし、凝固の発現を1500s程度まで低減することが分かった。SiOxで改質した基材は、これをさらに1000s程度まで低減し、又は、CTを約50%低減し、すなわち、顕著な影響を及ぼした。
【0173】
血漿CTを低減する改質していない基材及びSiOxで改質した基材の両方の安定性を、数週間にわたって調べて、ガラスと比較した(図12)。ガラスは、43.1±3.6%のCT低減値を示した。SiOxで改質した面の裏面は、当初は、多少のCT短縮をもたらした。しかし、この効果は、一週間後には、ごくわずかになるか、又は、実質的に増加した。SiOxで改質した表面は、数週間にわたって徐々に改良するように見え、3〜8週間後に、35〜37%程度のCT低減値に達し、凝固過程を増進させたように思われる、まだ明らかになっていない表面変化としての付加を示唆している。
【0174】
(結論)
この実施例は、酸素/アルゴンプラズマ処理後のプラズマ化学気相成長法を用いた、SiOxからなる層を備えた環状ポリオレフィン製のZeonor(登録商標)の改質のための方法を示している。本発明者等は、付着中のガス含有量の制御が、SiOx膜の品質及び安定性を高めることに気付いた。
【0175】
そのSiOx層は、原子間力顕微鏡法、フーリエ変換赤外分光法及び減衰全内部反射分光法を用いて、広範囲にわたって特性化し、この場合、44nmの均一なSiOx膜(0.05%RSD)の存在が明確に確認された。
【0176】
本発明者等は、SiOxによる改質は、特に、熱エンボス加工したマイクロピラー毛細管充填ベースの基材と組合わせた場合に、湿潤性が向上し、かつ優れた流体特性を備えた表面をもたらすことを発見した。また、本発明者等は、そのSiOx表面は、ヒト血漿の凝固を速める能力も持っていることを発見した。
【0177】
具体的には、本発明者等は、原子間力顕微鏡法、分光法及び接触角測定によって広範囲に特性化されている、SiOxのプラズマ化学気相成長を伴う新規の環状ポリオレフィンポリマー製のZeonor(登録商標)の最適化された改質について説明した。本発明者等は、そのSiOx膜をマイクロピラー基材上に付着させて、均一で予測可能な充填特性を備えた高度に湿潤可能な表面を実現した。均一で、再現可能でかつ安定した膜が得られている。また、本発明者等は、SiOxは、ガラスのような特性を共有し、及びガラスの特性を利用するが、ポリマー微小流体装置の高い加工性から恩恵を受けるバイオアッセイの開発に適用できることも説明した。
【0178】
実施例2
(側方流動分析装置の試験)
(フィブリノゲンコーティング)
(材料及び方法)
・B2.2 COP Amic(登録商標)チップ
・実施例1のような血液凝固製剤、すなわち、塩化カルシウム(BioData)、フィブリノゲン(Sigma)
・PT試薬(Dade Innovin)
・aPTT試薬(aPTT−SP)
・サンプル
【0179】
(側方流動実験及び血液凝固プロトコル)
凝固を引き起こすために、血液凝固製剤を乾燥試薬として、その装置の表面に添加すると、検査されるサンプルが、その試薬上を流れるようになる。血液の凝固する能力により、サンプルは、その装置に沿って異なる速度で移動し、凝固がすぐに起きて、急速に凝固し、又は、早い時点で停止してしまう場合には、さらにゆっくりと進む。
【0180】
i)側方流動試験
テストした溶液は、特に明記しない限り、20μlの容量で適用した。流体の先頭が、B2.2 COP Amicチップのマイクロピラーチャネルに沿って、0、5、10、15、20、23、27mmの7つの段階に達する時間を測定した。使用した凝固剤の種類、塩化カルシウム(BioData)の付着、及びフィブリノゲン(Sigma)の添加を含むいくつかのパラメータを測定した。
【0181】
40μlのPT試薬(Dade Innovin)又はaPTT試薬(aPTT‐SP)を、その装置の表面で乾燥させた。テスト及び対照は、凝固を可能にし、又は防ぐために、以下のように行った。
テスト:(37℃で3分間、予熱した)血漿+25mM CaCl2(1:1)
対照:(37℃で3分間、予熱した)血漿+NH4Cl(1:1)
【0182】
ii)フィブリノゲンの効果
フィブリノゲンの効果は、最初に、20μlの50mg/mLフィブリノゲンを付着させて、その表面で乾燥させることによって調べた。以下のテストサンプル及び対照サンプルを用いた。
テスト20μl:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mM CaCl2(1:1)
テスト30μl:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mM CaCl2(1:1)
対照20μl:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mM NH4Cl(1:1)
対照30μl:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mM NH4Cl(1:1)
【0183】
iii)フィブリノゲン及び/又は塩化カルシウムの複合効果
追加的な試験は、予め凝固剤と混合したサンプルを、PT及びaPTTのかたちで添加した状態で、フィブリノゲン及び塩化カルシウムの付着、あるいは塩化カルシウム単独の付着の複合効果を示すために行った。この場合、20μlの50mg/mLフィブリノゲン+25mMのCaCl2(1:1)を付着させて、一晩、乾燥させた。対照の表面は、10μlの25mMのCaCl2を一晩、乾燥させることによって準備した。
【0184】
テスト溶液は、以下のとおりである。
・(混合した直後に適用した)血漿+PT(Dade Innovin)(1:1)
・(37℃で5分間、予熱した)血漿+aPTT(aPTT‐SP)(1:1)
・(37℃まで温めた)血漿+PBS(1:1)(血漿粘度制御)
・(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mMのCaCl2(1:1)(凝固の非加速制御)
【0185】
iv)露出したCOPチップ上の外部混合された凝固剤
そのチャネル内に化学的物質が付着されていない、露出したCOPチップに対する外部混合された凝固剤の影響を調べるより詳しい実験を行った。以下のサンプルを使用した。
テスト:Triton X-100の添加を伴う、血漿+(CaCl2を含有する)PT試薬(Dade Innovin)(1:1)
対照:Triton X-100の添加を伴う、血漿+aPTT試薬(CaCl2を含まず)(aPTT‐SP)(1:1)
【0186】
混合した直後に、20μlの一定分量を、前培養工程を伴わずに、サンプル領域に加えた。
【0187】
v)フィブリノゲン濃度及び充填特性
フィブリノゲン濃度の影響に関するより詳しい研究も行った。何種類かの濃度のフィブリノゲンを用意した。それぞれ20μlを、そのチャネルに加えて、蒸発させるために、室温で一晩、そのままにした。
【0188】
表1は、用いた濃度と、その表面に乾燥させたフィブリノゲンの対応する量
【表1】
(チャネル内に付着したフィブリノゲンの濃度及び質量)
【0189】
テスト:血漿+PT試薬(凝固)(Dade Innovin)(1:1)
対照:血漿+aPTT試薬(非凝固)(aPTT‐SP)(1:1)
【0190】
濃度が50mg/mLのフィブリノゲンを、2倍の濃度のPT試薬(リコンビプラスチン)と1:1で混合した。1:1という比は、メーカーが推奨する標準的な濃度での2倍希釈したフィブリノゲン及びリコンビプラスチンを生じた。Triton X-100は、0.125%の濃度で添加し、この溶液の20μl又は40μlを、その表面に加えて、室温で一晩、乾燥させた。
【0191】
Dade Innovinは、流動性に影響を及ぼす乾燥形態の「結晶」を形成するので、リコンビプラスチンが選択されている。
【0192】
40μlの付着溶液は、1mgのフィブリノゲンを含有し、また、20μlの付着溶液は、0.5mgのフィブリノゲンを含有する。
テスト1:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mMのCaCl2(1:1)
テスト2:(37℃の)血漿+25mMのNH4Cl(1:1)
対照:(37℃の)25mMのCaCl2+トリス塩酸(1:1)
【0193】
テスト2においては、血漿中のクエン酸塩の影響に打ち克つためのCaがないが、一旦、サンプルが、Caを含有する乾燥したPT試薬を有する表面と接触すると、ある程度の凝固が起きる可能性がある。
【0194】
(結果)
以下の結果は、血液凝固分析用のプラットホームとして使用される側方流動分析システムの効用を示す。
【0195】
i)(側方流動試験)
PT及びaPTTの場合の図13a及び図13bに示すように、凝固テストサンプルが、その装置を横切るのに要する時間は、非凝固サンプルよりも長くかかった。
【0196】
ii)(フィブリノゲンの影響)
図14は、検査チャネル上に付着したフィブリノゲンの利用の影響と、サンプル容量の影響を示す。20μlでは、テストサンプルと対照サンプルとの間に、移動時間の著しい差があった。この移動時間の差は、30μlの場合には、あまり顕著ではない。しかし、両テストサンプルのフローは、15mmで停止した。適用したサンプル容量の差は、より素早く移動するための制御を引き起こす、サンプル容器からの「プッシュ」効果をもたらす。しかし、この影響は、適用したサンプル容量の低減の影響を弱めることができる。
【0197】
iii)(フィブリノゲン及び/又は塩化カルシウムの複合効果)
図15及び図16は、フィブリノゲンをコーティングした装置上の流動速度は、塩化カルシウムだけをコーティングした装置上の流動速度よりもかなり遅いことを示している。しかし、粘性制御に対して起きたこのことは、恐らく、付着したフィブリノゲンの粘性及び界面特性にも関係している。両面で、血漿PTは、減速したか(CaCl2上)、あるいは、早々に停止した(フィブリノゲン及びCaCl2)。血漿aPTTの速度も、フィブリノゲン及び塩化カルシウムに関する対照と比較して低下した。
【0198】
iii)(露出したCOPチップ上の外部混合された凝固剤)
チャネル内に化学的物質が付着されていない露出したCOPチップに対する外部混合された凝固剤の影響を調べるためのより詳しい実験を行った。Dade Innovinを伴う血漿は、そのPT試薬がカルシウムを含有しているため、すぐに凝固し始めた。aPTT‐SP試薬中には、血漿中のクエン酸塩の影響に打ち克つためのカルシウムがないため、対照は凝固しなかった。aPTT試薬は、活性化因子と混合された血漿の粘性及び挙動を模倣する対照として使用した。テストサンプル及び対照サンプルは共に、チャネルの終端部(27mm)に到達した。しかし、テストサンプルは、特に、そのチャネルの終端部に向かってかなり遅くなり、また、形成された凝血塊は、図17に示すように、サンプルゾーン内に見ることができた。(n=6)
【0199】
iv)(フィブリノゲン濃度及び充填特性)
フィブリノゲン濃度の影響に関しても、より詳しい研究を行った。いくつかの濃度のフィブリノゲンを用意した。各濃度の20μlを、そのチャネルに加えて、蒸発させるために室温で一晩、放置した。
【0200】
図18は、異なる量のフィブリノゲンに対する、その表面のテスト溶液及び対照溶液(n=2)の充填特性を示す。50mg/mL(1mgのフィブリノゲン)の場合、そのテスト溶液は、対照溶液よりもゆっくりと移動し、対照溶液及びテスト溶液は共に、そのチャネルの終端部に到達する前に停止し、すなわち、テスト溶液は13mmで停止し、一方、対照溶液は、23〜27mm(異なる構造のマイクロピラーを備えた領域)で停止した。より低い濃度のフィブリノゲンの場合、対照溶液は、より速くなるが、そのチャネルの終端部に到達した。20mg/mLの表面(0.4mgのフィブリノゲン)では、テスト溶液は、対照溶液よりもゆっくりと移動し、23〜27mmの領域で停止した。10mg/mL(0.2mgのフィブリノゲン)の表面では、そのテスト溶液は、ここでもまた、対照溶液よりもゆっくりと移動し、及び薄くてほとんど不可視の血清層のみが、まだゆっくりと動いている状態で、23〜27mmで停止したが、その終端部には到達しなかった。5mg/mL(0.1mgのフィブリノゲン)に対する充填は、10mg/mLと同様であったが、テストと対照の充填時間はかなり異なり、液体血清からなる薄い層はその終端部に到達した。2.5mg/mL及び1.25mg/mL(0.05mg及び0.025mgのフィブリノゲン)の場合、テストと対照の移動時間の差は、そのチャネルの最後の段階でのみ顕著であった。要約すると、より多くのフィブリノゲンが、そのチャネルに付着すると、テスト及び対照の両溶液の場合のフローは、より遅くなる。
【0201】
テスト溶液の場合の充填特性を、図19で比較する。
【0202】
明確な充填時間値を得るため、対照の場合の充填時間は、表面張力、親水性等の違い(すなわち、乾燥したフィブリノゲンの量による違い)のフロー時間に対する影響を排除するために、テスト充填時間から減算した。(図20)
【0203】
図に示すように、その表面は、充填時間を決める要因だけではなく、充填特性にも大きな影響を及ぼした。明確な充填時間値を用いたグラフを見て分かるように、付着させたフィブリノゲンの量と、時間/移動距離との間には相関関係がある。フィブリノゲン濃度が低くなればなるほど、凝固/フィブリン形成プロセスが遅くなり、及びフローが速くなる。
【0204】
(時間/移動距離の概要)
50mg/mL‐13mmで停止
20mg/mL‐23〜27mmで停止
10mg/mL‐液体からなる薄い層のみが23〜27mmを移動;終端部には到達せず
5mg/mL‐液体血清からなる薄い層のみが23〜27mmを移動;終端部に到達
2.5mg/mL‐終端部に到達
1.25mg/mL‐終端部に到達
【0205】
図21a及び図21bは、充填特性に対する塩化カルシウムの影響を示す。
【0206】
実施例3
(高分子電解質改質)
(材料及び方法)
COPベースの微小流体プラットホーム基材である、4castchip(登録商標)(Åmic AB、スウェーデン)を基材として使用した。
【0207】
この実施例で用いた高分子電解質(PE)改質法は、2つの工程、すなわち、酸素プラズマ処理と、高分子電解質を用いた浸漬コーティングと、で構成される。
【0208】
酸素プラズマ処理は、付着チャンバのベース圧力が30mTorr以下の状態で、高周波(RF)PECVD炉内で行った。50立方センチメートル毎分(SCCM)の酸素を250Wの高周波電力で3分間加えた。
【0209】
PE処理は、その効果が経時的に安定せず、また、生成される官能基が劣化しやすいため、酸素プラズマプロセスが終了した直後に行った。サンプルは、2mg/mLのPEI(ポリエチレンイミン)のMillipore水溶液に10分間浸し、水で洗浄した後、2mg/mLのPAC(ポリアクリル酸)水溶液に10分間浸し、その後再び、水で洗浄した。PEIに浸した後、PACに浸すことを再び繰り返した。そして、全てのサンプルを水で洗浄した後、乾燥空気流で乾燥させた。そのプロセスは、室温(RT)で実行した。
【0210】
(結果及び結論)
図22〜図26は、PE処理の場合の結果を示す。
【0211】
実施例4
(比較データ‐シクロオレフィンポリマー微小流体装置上での側方流動分析能力の向上のための様々な表面改質の評価)
(材料及び方法)
COPベースの微小流体プラットホーム基材である、4castchip(登録商標)(Åmic AB、スウェーデン)を、以下の処理によって改質した。
・酸素プラズマ処理単独
・PACコーティング単独
・(実施例3で説明したような)高分子電解質処理
・(実施例1で説明したような)SiOx付着単独
・高分子電解質で処理したSiOxコーティングポリマー
【0212】
(結果)
異なる表面コーティングは、いくつかの方法によって特性化され、それらの結果を実施例22〜実施例26に示す。
【0213】
表面改質は、その基材の流体力学に影響を及ぼした。SiOxコーティングは、特に、親水性の向上、表面粗度及び均一性の変化を引き起こし、水性緩衝液及びヒト血漿の両方の素早くかつ再現可能なフローをもたらした。
【0214】
(結論)
4castchip(登録商標)(Åmic AB、スウェーデン)等のシクロオレフィンポリマー(COP)は、いくつかの方法で改質することができる。しかし、表面湿潤性、粗度及び液体フロー特性の著しい違いが指摘されている。SiOxコーティングは特に、親水性を与える最も安定的な表面改質であり、比較的滑らかな表面での素早くかつ再現可能なフローをもたらすと思われた。また、高分子電解質処理も良好な結果を示すことを発見した。(図24)
【0215】
実施例5
(トロンビンコーティング)
(一般的な材料及び方法)
4Castchip(登録商標)、model B2.2は、フィブリノゲンレベル測定用のオープン型の側方流動装置の開発のためのプラットホームとして使用した。これらのチップは、熱エンボス加工されたマイクロピラー構造によって改質されており、Åmic BV(Uppsala、スウェーデン)によって提供された。(図1c)マイクロピラーの高さは、65〜70μmであり、上部直径は、ca50μmであり、底部直径は、ca70μmであり、列状のピラーの中心間の距離は、85μmであり、行状のピラーの中心間の距離は、185μmであった。
【0216】
特に明記しない限り、ウシトロンビン(Sigma 又は、Hyphen Biomed)とTriton X-100(Sigma)の混合物を、検査プラットホーム内のチャネル上に流入させて、大気条件下で約1時間、乾燥させた(様々な濃度のトロンビン及びTriton X-100をテストし、トロンビン酵素活性は、1mLあたりのNIHユニット、すなわち、水ベースの溶液の(U/mL)で与えられる)。すぐに使えるテストチップは、4℃で保管した。テストは、(37℃まで予熱した)約15μlの血漿又は全血を適用/サンプルゾーン上に加えて行い、その検査チャネルに沿って移動した距離をモニタした。全ての測定は、37℃で行った。
【0217】
様々な分析を以下のように行った。
【0218】
i)ヘパリン濃度測定のためのTCT分析
血栓形成及びその後の粘性変化を直接誘導する精製トロンビンの使用は、以下の凝固モニタ分析の開発に利用した。精製トロンビンの供給は、凝固因子活性化のカスケードの迂回及びトロンビン生成の正のフィードバックを可能にするものと考えられた。
【0219】
精製ウシトロンビン(1U/mL)とカルシウムの最適化された混合物から成るトロンビン凝固時間(TCT)試薬(Hyphen BioMed)は、ヘパリン等の血漿中の抗凝固剤の影響の判断に用いられてきている。TCT試薬は、メーカー推奨の15〜25sの通常のTCTを有するUFHの0.05〜0.1U/mLの血漿中の低濃度のヘパリンに敏感である。0.1%(v/v)のTriton X-100を追加した10μlのTCTをテストプラットホーム上に滴下コーティングして乾燥させた。一定分量15μlの正常な血漿と、0.2、0.4及び2U/mLのヘパリンを混ぜた血漿とをそのテストストリップに加えて、サンプルの移動時間及び距離を測定した。全てのサンプルは、ヘパリン濃度に関係なく、約30秒で、9〜12mm移動した(n=4)。移動した距離、又は、通常のサンプル又はヘパリンを添加したサンプルの場合にかかった時間には、著しい差はなく、このことは、この形態のシステムが、ヘパリンのモニタに適していないことを意味する。正常な凝固及びヘパリン添加血漿の場合に得られた同様の重点時間及び移動距離は、フローパターンが、凝固能力によってではなく、表面特性(表面均一性の不足、高密度の固定化されたタンパク質等)によって決まることを示している可能性がある。しかし、代替的な最適化された表面コーティングは、恐らく、TCTとして測定される異なる凝固状態のサンプルの区別を可能にするであろう。
【0220】
0〜10mU/mLの様々なトロンビン濃度でコーティングされたチャネル内での血漿流動速度をモニタする、より詳細な研究を行った。対照チャネルは、25mMのCaCl2(10μl)を含んでいた。15μlのクエン酸血漿サンプルが、そのチャネルに沿った7つの段階の各々、すなわち、0、5、10、15、20、23及び27mmに到達するのにかかった時間を記録した。(図34)
【0221】
クエン酸血漿サンプルによる時間と移動距離の相関関係は、表面に固定化されたトロンビンに依存する著しい差を呈した。1.25U/mL以下のトロンビンでコーティングしたチャネルを、34〜38sで迅速に充填すると、時間又は移動距離に差は観察されなかった。複数のチャネル、すなわち、0、5、10、15、20及び23mmに沿った特定の段階には、それぞれ、約1、3、6、12、19、25sで達した。トロンビン濃度が2.5U/mL以上に増やした場合に、充填時間の増加が観察された。2.5、5及び10U/mLのトロンビンを有するチャネルを血漿サンプルが充填するのに、それぞれ、151、216及び270sかかった。また、サンプルが、そのチャネルに沿った特定の段階に達するのに要した時間も、2.5U/mL以上の濃度の場合に増加した。高濃度のトロンビンは、急速な凝固を可能にし、そのため、サンプル全体の粘性の著しい変化を引き起こし、それにより、重点時間の延長をもたらした。凝固の経過が、トロンビン濃度の増加によって異なるだけではなく、フィブリンメッシュの構造及び強度も異なり、そのことが、血漿サンプルのフロー特性に大きな影響を及ぼしたことが推測できる。また、フィブリン組織も、トロンビンの場合の直接のターゲットである、その前駆物質、すなわちフィブリノゲンの有用性に依存する。
【0222】
ii)フィブリノゲン測定のためのTCT分析
TCTは、フィブリノゲン濃度の測定にも用いることができる。フィブリノゲンは、濃度が2〜4g/Lであり、血漿及び全血の粘性の主な決定因子であり、フィブリンメッシュを形成する不溶性フィブリンモノマーの直接前駆体である主要な血漿タンパクとして知られている。高濃度で存在するトロンビンは、急速に作用して、利用可能なフィブリノゲンを開裂し、及び薄いフィブリン線維から成る濃くて堅い凝血塊の形成を可能にする。このような血塊形成は、粘性、及びこのフロー時間及び移動距離の全体の変化をもたらすのに適しているであろう。従って、以下の研究は、血漿及び全血中のフィブリノゲン含有量の測定のためのトロンビンで改質したプラットホームの利用に関する。従来、フィブリノゲン測定に用いられている方法は、Clauss分析である。それは、医療活動において、最も信頼性があり、かつ一般的に用いられているので、臨床的に推奨されている。このテストは、正常な血漿対照と比較して、トロンビンのフィブリノゲンに対する作用により、血漿中でのフィブリン血栓形成の速度を測定する。そのテストは、標準的な量の外因性トロンビンを、乏血小板血漿に添加して、凝血塊が形成される時間を測定することによって行われる。これは、播種性血管内凝固症候群及び肝疾患の診断に用いられており、一般的には、中央検査室で行われる。
【0223】
そのテストプラットホームは、0.1%(v/v)のTriton X-100を25U/mL添加した、10μlの精製ウシトロンビン(Biofact)でコーティングした。対照の血漿は、3g/Lのフィブリノゲンを含有すると仮定して、対照の血漿に精製トロンビン(Sigma)を加えて、終末濃度が約5、7、9及び11g/Lのフィブリノゲンを得ることにより、高いフィブリノゲン濃度を有する血漿サンプルを準備した。高いフィブリノゲン濃度を有する15μlの正常なサンプル及び血漿サンプルをテストチップに加えて、フィブリノゲン濃度と移動距離の関係をモニタした。(図27)
【0224】
図27は、血漿フィブリノゲン含有量と、トロンビンをコーティングしたチップ(n=3)の相関関係を示す。y=1.0236+(43.5151/x)、R2=0.9966である。
【0225】
フィブリノゲン濃度は、トロンビンをコーティングしたチップ上での移動距離に反比例した。トロンビンの量及びその活性は、常に一定のままであり、そのため、フィブリノゲン含有量は、移動距離の決定因子となった。サンプル中のフィブリノゲン濃度の上昇は、急速な血栓形成を生じ、このことは、チャネルの早い段階で捉えられた濁ったゲル状形成として観察することができた。この強力なフィブリンメッシュは、サンプルの内容物を捕らえ、そのフローを停止させた。通常の及びフィブリノゲン含有量がわずかに多いサンプルは、フローを急速に停止させるのに十分に強固ではない(データは図示せず)脆く貧弱で可視的なフィブリンメッシュを形成した。そのフローは、正常な対照血漿の場合には、15.7mmで停止し、5g/mLの場合には、9.7mmで停止した。これら2つのサンプルは、移動距離の違いに基づいて、容易に区別することができた。しかし、より高いフィブリノゲン濃度(7〜11g/mL)のサンプルによる移動距離の違いは、それほど顕著ではなく、すなわち、それらは、5.3〜6.7mmに到達した。メーカーによれば、トロンビンは、高濃度でその表面に存在するにもかかわらず、その完全な活性を発揮するのに、少なくとも6秒を要する。この期間内では、高いフィブリノゲン濃度を含むサンプルは、液状のままであり、そのため、凝血塊に変換されて、さらなる移動を阻止される前に、ある程度の距離を移動できることになる。このような要因は、非常に高いフィブリノゲンレベルにおいて、サンプルを識別する難しさをもたらす可能性がある。それにもかかわらず、異常なレベル(4g/L)のフィブリノゲンを容易に識別することができる。その分析は、検出可能な変動が最高で±1mm(±3.7%)である良好な精度を呈した。通常のフィブリノゲンレベルを有する血漿サンプルは、見込まれる27mmから離れた、約16mmだけ移動した。そのため、フィブリノゲンが不十分なサンプルの検出にはまだ余地があり、このことは、いくつかの病的状態の臨床診断にとっても重要である。
【0226】
血栓形成及びその後の粘性変化を直接的に誘導する精製トロンビンの使用を、以下の凝固モニタ分析の開発に利用した。
【0227】
iii)フィブリノゲン測定のための側方流動アッセイの開発
外因性トロンビンベースの試薬の、急速な血栓形成及びその結果として生じる、サンプルのフローに対する抵抗性の変化を誘導する原理を、混合血漿サンプル中のフィブリノゲンの高いレベルを測定するのに適するように実証した。フィブリノゲン測定のための側方流動アッセイのさらなる進展は、好ましくは、全血及び血漿に関する検査室基準に対して適切なレベルの正確さ、精度及び相関を有する様々な臨床関連のフィブリノゲン濃度に対応するチップによって決まる距離範囲内でのサンプルフローの停止をもたらす分析の確立を要するであろう。
【0228】
(試薬化学製剤の最適化)
一般論として、フィブリノゲン測定分析は、クラウス法と同じ原理に基づいており、この場合、内因性トロンビン濃度によって凝固時間(CT)が制限されないこと、及び凝血が現れるのに必要な時間(CT)にフィブリノゲンレベルが反比例することを確実にするために、血漿は、余分なトロンビンによって凝固する。クラウス法は、試薬のソース及び組成によって大幅に変わる。テストプラットホーム上で乾燥させた適切な濃度のトロンビンを、血漿及び全血の両方に対して確立しなければならない。タンパク質表面コーティングの特性によるフロー特性に対する阻害を伴わない急速な凝固を確実にするトロンビン濃度を決めなければならない。赤血球の存在、及びその結果としての、血漿と比較して増加した全血の粘性により、サンプルの動きは、一般的に全血の方が遅く、そのため、より多くのサンプルの動きに対応するために、より低いトロンビン濃度を用いた。一定分量15μlの正常なクエン酸血漿のサンプル、5g/Lのフィブリノゲンを添加したクエン酸血漿サンプル及び正常な全血を、それぞれ血漿テスト及び全血テストに対して、10μlの25〜100U/mL又は0〜25U/mLのトロンビンでコーティングしたチャネル内でテストした。それらのフロー特性は、サンプル希釈によっても操ることができ、このことは、サンプル粘性の変化及び利用可能なフィブリノゲンの濃度の変化をもたらした。このアプローチも研究した(表2)。血漿の場合、最も高い濃度の付着トロンビン(100U/mL、これは、ストリップ当たり1Uに等しい)は、サンプル適用ゾーン内で即時の血栓形成を生じた(図35A)。高密度のフィブリンメッシュは、凝血塊内の全サンプルを急速に捕らえ、流体動を阻止した。これは、正常の及び高いフィブリノゲンレベルの両方のサンプルの場合であった。水で倍数希釈したサンプルは、正常なサンプルと、(5g/Lのフィブリノゲンを添加した)高濃度のサンプルとで移動距離の違いが7.4mmある、100U/mLでコーティングしたチャネルの充填を可能にした。急速な流動停止は、希釈していないサンプルの場合に起きるため、希釈したサンプルから形成されたフィブリン線維メッシュは、急速な流動停止を可能にせず、その結果として、希釈したサンプルは、より長い距離を移動した。サンプル希釈は、追加的な事前分析工程となるであろう。しかし、トロンビン濃度の低下は、血栓形成の遅延を引き起こし、サンプルが停止する前にさらに移動することを可能にした。理想的には、正常なサンプルは、フローがその場合に、そのチャネルの最初の数mm以内(0〜11mmの予想横断距離)で停止するであろう高いフィブリノゲンレベルのサンプル、及び低いフィブリノゲンレベル(21〜27mm)のサンプルの検出を可能にするために、約12〜20mmの距離を移動すべきである。正常な血漿及びフィブリノゲンを添加した血漿が移動した距離の差は、25及び50U/mLの乾燥トロンビンに対して、約7mmであった。
【0229】
しかし、正常なサンプルが移動した距離は、50U/mLで10mm、及び25U/mLで15mmであった。この後者の構成は、高いフィブリノゲンレベルの測定のためのより大きなウィンドウを残す。また、25U/mLのトロンビンのチップ表面への固定化は、より良好な品質のフローをもたらした。これらの研究から、最適な分析条件は、血漿サンプル中のフィブリノゲンの測定に対して、25U/mLの乾燥トロンビンを10μlでコーティングしたチップであった。
【0230】
以下の表2は、正常な血漿及びフィブリノゲンを添加した(5g/L)血漿及び正常な全血が移動した距離に対するフィブリノゲン濃度の影響を示す。25〜100U/mL又は0〜25U/mLのトロンビン溶液を、それぞれ血漿及び全血をテストするのに用いた(n=3)。血漿は、希釈していないものと、水で1:1で希釈したものをテストした。
【0231】
【表2】
【0232】
図35は、表面に固定化された100U/mLのトロンビン(10μl)によって誘導された血漿血栓形成の結果として起きる流動停止のイメージを示す。
【0233】
血漿用に最適化された製剤でコーティングされたチャネル内で全血が移動した距離は、血漿の場合よりもかなり短いことが明らかになった。25U/mLのトロンビンを含有するチャネル内では、正常な全血サンプルは、正常な血漿サンプルの場合の約15mmと比較して、たった4.7mmしか移動しなかった。これを補正するため、全血対照サンプルの場合に、より長い移動距離を実現するように、トロンビンの濃度を下げた。表2は、0、5、10及び25U/mLのトロンビンでコーティングしたプラットホーム上での正常な全血の測定から得られた値を示す。血漿と比較して増加した全血の粘性により、正常なクエン酸全血が、トロンビンのない(凝血塊なし)チャネル内で移動した距離は、たったの16.3mmであった。従って、5U/mLの濃度(正常な全血サンプルの場合、9mm)が、全血テストの場合に最適であるので採用した。
【0234】
(トロンビン活性の標準化)
トロンビンの酵素活性は、ソース、バッチによって、あるいは同じロット内でも変化する可能性がある。また、それは、保管時間及び状態を含むいくつかの要因に影響を受ける可能性もある。一定のトロンビン活性の付着は、十分な再現性を得るために、及びフィブリノゲン含有量を確実に測定できるようにするために維持されなければならない。そのため、トロンビン活性の迅速な測定を可能にするであろう方法を開発する必要があった。分析検量に使用したトロンビン(Hyphen BioMed)の活性は、再構成後に100U/mLであり、メーカーが主張するように、これを標準として採用した。未使用の試薬という理想的な条件下で、傾斜管テストを用いて測定した、正常な対照血漿のCTは、10及び20U/mLのトロンビンに対してそれぞれ、35±1s及び19±1sであった。そして、活性テストは、未知の活性の何らかのトロンビン溶液を用いて実行できる。一旦、それらのCT値が得られると、それに応じて、(それぞれ、血漿及び全血のフィブリノゲン測定に最適な)25及び5U/mLの溶液を調製して、テストチップ上に付着させることができる。(注記:それらのCT値及びトロンビン活性値は、分析化学標準化のためだけに用いた。上述したトロンビン濃度は、必ずしも文献のトロンビン活性値又は対応する血漿のCTに相関する必要はない。)正確な酵素活性は分からなかったため、35s又は19sというCTの実現は、トロンビン溶液を標準化する1つの方法であり、そのためここでは、10及び20U/mLに一致すると仮定した。代替的な方法は、未知の活性のトロンビンでコーティングしたチャネル内での正常な血漿の移動距離を測定して、既知の活性と比較することであった。(検量曲線に示す)正常なサンプルの移動距離と同じ移動距離を生じるトロンビン濃度を用いることができる。トロンビン活性の標準化のどちらの方法も、実行可能であることが分かった。第1の「優れた標準的な」傾斜管トロンビン時間測定は、特に、正常な対照血漿の容量に制限がない(測定当たり、少なくとも300μlの血漿)場合に有用である。その方法は、迅速であり、トロンビン濃度を数分以内に見つけることができた。第2の方法は、実際のフィブリノゲン測定分析システムを使用した。この方法は、テスト当たり、たったの15μlの血漿サンプルを要した。しかし、乾燥した化学テストストリップの準備に、検量曲線を参照して、少なくとも数時間必要であった。以下の研究においては、トロンビン活性は、傾斜管テストを用いて測定し、その後、一定のトロンビン濃度でコーティングしたチャネル内での正常な対照血漿の移動距離の概算値と照合した。
【0235】
(血漿及び全血分析検量)
分析検量は、幅広いフィブリノゲンレベルを含有する血漿サンプル及び全血サンプルを用いて行った。高濃度のフィブリノゲンサンプルを得るために、健常者から採った対照血漿及び正常な全血に、凍結乾燥フィブリノゲンを加えた。低いフィブリノゲン含有量の対照血漿は、Hemosilから購入し、一方、低いフィブリノゲン含有量の全血は、遠心分離、及びHemosilからの同容量の低フィブリノゲン含有量の対照血漿との部分又は全置換によって調製した。正確なフィブリノゲン含有量は、クラウスアッセイ、ACLtop(登録商標)凝固システム(Instrumentation Laboratory)及びFibrinogen-C 試薬(Hemosil)に基づく臨床検査法を利用して測定した。表3及び表4は、それぞれ、低レベル、正常レベル及び高レベルのフィブリノゲンを有する血漿サンプル及び全血サンプルが移動した距離を示す。それぞれ、25及び5U/mLのトロンビンの10μlで改質したプラットホーム上でテストした19の血漿サンプル及び13の全血サンプルに基づいて、別々の検量曲線が生成された。
【0236】
以下の表3は、25U/mLのトロンビン試薬でコーティングしたチップ上で、様々なフィブリノゲン濃度を有する血漿サンプルが移動した距離を示す(n=3)。フィブリノゲン濃度は、Hemosil Fibrinogen-C試薬を用いた臨床検査法(ACLtop(登録商標)、Instrumentation Laboratory)によって測定した。
【0237】
【表3】
【0238】
以下の表4は、5U/mLのトロンビン試薬でコーティングしたチップ上で、様々なフィブリノゲン濃度を有する全血サンプルが移動した距離を示す(n=3)。フィブリノゲン濃度は、Hemosil Fibrinogen-C試薬を用いた臨床検査法(ACLtop(登録商標)、Instrumentation Laboratory)によって測定した。
【0239】
【表4】
【0240】
図28は、それぞれ、血漿及び全血に対して、1.03〜7.55g/L及び1.56〜8.86g/Lの様々なフィブリノゲン濃度を含有する血漿サンプル(三角形)及び全血サンプル(正方形)を用いて生成された検量曲線である(n=3)。サンプルのフィブリノゲン濃度と、トロンビンをコーティングしたアッセイチップ上での移動距離との線形相関関係は、それぞれ血漿及び全血の場合に、y=−3.8674x+28.967及びy=−0.9402x+13.971であることが分かり、ただし、血漿の場合は、R2=0.965、全血の場合は、R2=0.797である。黒い記号は、正常な検量サンプルを示し、白い記号は、フィブリノゲンを減少させた又は添加したサンプルである。囲みは、2〜4g/Lのヒトの正常なフィブリノゲン範囲を示す。
【0241】
得られた検量曲線から、血漿及び全血中のフィブリノゲン濃度は、トロンビンをコーティングしたチップ上でサンプルが移動した距離を規定する主要因であることが明らかになったことが示唆されている。0.97の血漿サンプルの場合の相関関係は、0.80である全血の場合の相関関係よりもかなり良好であった。しかし、混合され及び減少された対照血漿は、自然個体群にはない均質性を有しており、その方法の有効性を確実にするためには、テストは、様々な実際の患者の血漿サンプルで要求されるであろう。また、分析感度、及びフィブリノゲン濃度の識別も、全血の場合よりも血漿の場合のほうが良好であった。それにもかかわらず、その分析は、血漿及び全血の両分析として素晴らしい可能性を示しており、後者は、考えられる何らかの臨床検査を著しく単純化するであろう。この分析は、それ自体が、約1〜7g/Lの血漿フィブリノゲン含有量の測定のための有効な方法であることを実証した。2g/L以下及び4g/L以上のフィブリノゲン濃度は、異常と見なす。そのため、21.2mm以上及び13.5mm以下の移動距離は、それぞれ、フィブリノゲンレベルの減少又は上昇を示すものと考えるべきである。
【0242】
(患者サンプルの分析)
上記のことは、乾燥させたトロンビンベースの薬剤を備えたチップが、対照血漿サンプル及び全血サンプルにおけるフィブリノゲン濃度の測定のための実行可能な方法であることを示している。その分析をさらに有効にするために、様々なフィブリノゲン濃度を含む患者のサンプルを、上述した臨床検査法と並行して、最適化したアッセイプラットホーム上でテストした。表5は、ACLtop(登録商標)によって測定した31の患者サンプルの場合のフィブリノゲン濃度、開発したシステムにおける移動距離、及び上記で確立された検量曲線に基づく導出フィブリノゲン値をまとめたものである。それらのサンプルの正確なフィブリノゲン含有量は分かっているので、移動距離と直接関連付けること、及び開発した方法を用いて、フィブリノゲン測定の精度を評価することが可能であった(図29)。以下の表5は、トロンビンでコーティングしたチップ内での移動距離を、確認されているフィブリノゲン含有量(ACLtop(登録商標))を有する31の患者サンプルの場合に測定したことを示している。検量曲線方程式及び移動距離を用いて、フィブリノゲン濃度を再計算した(n=3)。斜字体の値を有するサンプル(9.3g/Lのフィブリノゲン)は、間違った結果を示している。
【0243】
【表5】
【0244】
図29は、側方流動分析装置を用いた、患者の血漿サンプル中のフィブリノゲン含有量の測定の結果を示す(黒い丸)(n=3)。移動処理は、臨床検査法(ACLtop(登録商標))から得られたフィブリノゲン濃度に対してプロットした。図示した結果を、上記の図28で生成された検量データ(白い丸)と組合わせた。(y=−3.8674x+28.967)患者サンプルは、方程式:y=−2.8569x+25.768によって、その検量サンプルのトレンドをフォローしていることを示している。
【0245】
患者サンプル(y=−2.8569x+25.768)は、比較的低い変動性(R2=0.89)を有する検量曲線(y=−3.8674x+28.967)のトレンドと同様のトレンドをフォローしていた。実際の患者サンプルのテストは、良好な相関関係(R2=0.97)が得られた均一な対照検量サンプルと比較して、わずかな変動性を導入した。ほとんどのテストサンプルの場合に、移動距離の偏差は、容認できる低さ(±1mm)であった。最大CVは、14.8%であったが、大部分のテストの場合で、5%以下であった。その移動距離を規定する、フィブリノゲンに対するトロンビン作用の速度から、フィブリノゲン濃度は、容易に推定できた。フィブリノゲン含有量は、次の検量曲線方程式、すなわち、y=−3.8674x+28.967を用いて、その移動距離に基づいて計算し、及びACLtop(登録商標)での臨床検査法から得られた値に関係していた。両方法によって測定されたフィブリノゲン濃度を、図30及び図31で相互に関連付けした。
【0246】
図30は、開発した側方流動法によるフィブリノゲン測定と、標準的な方法(ACLtop(登録商標))によるフィブリノゲン測定の相関関係を示す(n=3)。その相関関係は、相関係数が0.89で、y=0.7387x+0.8271であった。
【0247】
図31は、フィブリノゲンレベルが増加した場合の、開発した分析を用いて得られたフィブリノゲン濃度と、臨床検査法(ACLtop(登録商標))の間の差異を示すBland-Altman plot(Bland 1986)(標準的な方法からの現地測定偏差)。ゼロに近い値は、基準値と一致した。そのトレンドラインは、より高いフィブリノゲン濃度に伴って、測定の精度が低下したことを示している。その勾配の値は、−0.2613であった。
【0248】
開発した方法によって導出したフィブリノゲン値と、標準的な方法(ACLtop(登録商標))によって導出した値の相関係数は、0.89であることが分かった(図30)。しかし、その勾配は0.74であり、そのオフセットは、0.82であり、開発した方法は、約3g/L以下の基準値の場合には、フィブリノゲン濃度を過大に推定し、より高い値では、標準的な方法と比較して、フィブリノゲン濃度を過小に推定していることを示している。さらに、Bland-Altman plot(図31)を用いた分析も、標準的な方法からの偏差が、より高いフィブリノゲンレベルで増加したことを示している。上昇したフィブリノゲン濃度は、最短の移動距離をもたらした。それらのレベルの検出における追加的な変動性は、非常に短い反応時間(メーカー推奨では、トロンビンとサンプルの間には、少なくとも6sの反応時間が許容されていることが示唆されている)と、約±0.25mmの関連誤差を伴う短い距離の測定とによって導入される固有の変動性によって引き起こされる可能性がある。チップデザインのさらなる最適化は、高いフィブリノゲンレベルの検出のためのテスト精度を向上させることができるであろう。現在の臨床検査は、典型的には、0.035〜10g/Lの範囲で検査している。
【0249】
分析精度の研究は、低い(1.4)、正常な(3.1)、高い(3.8)及びかなり高い(6.0g/L)フィブリノゲン含有量を有する血漿サンプルの繰返し試験(n=20)によって実施した(図32)。その変動は、10%以下のCVを有する、正常な、低い及び高いフィブリノゲン含有量のサンプルの場合には、比較的小さかった。より高いレベルのサンプルの場合のCVはより高く(24.4%)、このことは、増加したフィブリノゲン濃度に伴う分析精度のわずかな低下を示している。しかし、このサンプルの特定の繰返しの間の変動性は、劇的ではなかった。その移動距離は、3〜7mmであった。患者サンプル中の血漿成分又は血液成分の検出は、血液希釈の変動及び他の多くの要因による著しい変動性と常に関連していた。そのため、ここで示された変動性は、許容可能であった。ある程度の変動性を有する、大幅に上昇したフィブリノゲンレベルも測定することができる。臨床用途の場合、本願のような低濃度の場合の精度に対する要求は高く、0.5g/Lの低下が、手術室での輸血又は集中治療の要求を引き起こす可能性があるであろう。しかし、上限での2g/Lの変化でさえ、恐らく治療を変化させないであろうし、及び長期管理のより大きな関心事である。従って、その分析は、高低両方のフィブリノゲンレベルの検出に適している見なすことができる。その速度、簡潔さ及びパフォーマンスにより、その分析のフォーマットは、救急車から救急処置手術室又は外科手術までのポイントオブケア環境に適している。
【0250】
図32は、低い1.4g/L(十字)、正常な3.1g/L(正方形)、高い3.8g/L(三角形)及びかなり高い6.0g/L(丸印)のフィブリノゲン濃度の血漿サンプルの繰返しを示す。全ての繰返しの場合の移動距離が図示されている。水平ラインは、平均移動距離を示す。
【0251】
(装置安定性)
最適化したトロンビンベースの試薬でコーティングしたプラットホームを、4℃で、最長で21日間、保管した。異なるフィブリノゲン濃度を有する血漿サンプルが移動した距離を、1日、3日、7日、14日及び21日目に測定した(図33)。異常に低いフィブリノゲン濃度(1.41g/L)のサンプルが移動した距離(25〜27mm)には、著しい差はなく、そのことは、検量曲線方程式:y=−3.8674x+28.967を用いて算出した予想移動距離23.5mmよりもわずかに大きかった。得られた移動距離は、フィブリノゲンレベルの減少の認識を可能にした。正常なフィブリノゲン含有量のサンプル(3.04g/L)は、最初の2週間で、15.7〜16.7mm移動し、3週間後の古くなったプラットホームでは18.7mm移動した。その検量曲線方程式を用いることで、15.7〜16.7mm移動したサンプルが、正常な血漿対照に対して予測した正常な範囲内である3.2〜3.4g/Lのフィブリノゲンを含有することを推測することができ、一方、18.7mmは、(その検量曲線に基づいて算出した)低下したフィブリノゲンレベルの2.6g/Lの指標となるであろう。このことは、21日後の古くなったプラットホームは、間違った結果を取込む可能性があるため、使用できないことを意味している。わずかに及びかなり高いフィブリノゲン含有量、すなわち、4.66、5.39及び6.97g/Lの3つのサンプルもテストした。これらの3つのサンプルに対して、1〜14日の古くなったプラットホーム上で、それぞれ次の移動距離、すなわち、10.0〜10.3mm、7.7〜9.7mm及び3.0〜3.7mmが得られ、また、21日後のプラットホームでは、11.3mm、11.0mm及び6.0mmの延びた移動距離が得られた。この結果は、14日間の保管中にサンプルが移動した距離には、統計的差異はほとんどないため、固定化されたトロンビンを含む装置は、特別な扱いを要することなく、4℃で14日間まで容易に保管することができることを示唆している。トロンビン酵素活性は、3週間の保管の後には、わずかに低下したように思われる。その結果、その移動距離は、全てのテストサンプルの場合でわずかに増加した。2週間以上保管したチップの使用は、フィブリノゲンレベルの過小な推定をもたらす可能性がある。そのため、2週間以上経ったチップは、テストに使用しなかった。特別な保管条件、すなわち、低下されかつ制御された湿度、真空状態、又は防腐剤の添加及び/又はチップに固定化されたトロンビンの凍結乾燥を、装置安定性を向上させるために容易に利用することができるであろう。
【0252】
図33は、1.41g/L(菱形)、正常な3.04g/L(十字)及び高い4.66(丸印)、5.39(三角形)及び6.97g/L(正方形)のフィブリノゲンレベルの場合の、トロンビンをコーティングしたチップと、フィブリノゲン分析装置におけるそれらの反応とに関する保管安定性の研究結果を示す。(n=3)
【0253】
(実施例5の結論)
生理学的に意味のあるレベルで、全血及び血漿中のフィブリノゲンを測定することが可能な分析装置を開発した。その装置は、単純であるが信頼性の高い側方流動原理に基づいており、この場合、フィブリノゲンは、凝固の結果としての流動停止の前に移動した距離によって測定される。その分析装置は、少ない所要サンプル容量(15μl)、希釈又は分離を含む何らかの事前分析工程がないこと、及び結果が5分以内に得られるという測定の速度を含む、従来の方法に優るいくつかの利点を有していた。そのアッセイは、検査業務で日常的に用いられ、凝固可能な活性フィブリノゲン含有量測定のための最も信頼性の高い方法と称されているクラウス法の改良である。高いレベル及び低いレベルの両方のフィブリノゲンを、同じテストプラットホームを用いて検出することができた。そのアッセイは、1〜7g/Lの範囲でのフィブリノゲン測定が可能であった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固をモニタ及び測定するための側方流動分析装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多種多様の側方流動(lateral flow)又は毛細管流動アッセイ及び装置が市場に出回っている。例えば、ストリップベースの検査は、簡易在宅検査やポイントオブケア検査ならびに様々な環境分析物の検出にとって理想的である。側方流動装置は、検査流体の側方動が、試薬相互作用の優先順位付け及びタイミングの制御を可能にする検査チャンネルに沿って配置することのできる様々な試薬との制御された相互作用を可能にする際に、幅広く用いられている。市場で利用可能な最も一般的な側方流動検査は、妊娠、クラミジア、連鎖球菌性咽頭炎及びHIVの検査、及び病原菌に対する食品の日常的スクリーニングのための検査(すなわち、DuPont(商標))である。側方流動技術には、いくつかの例を挙げると、US Patent No.4,861,711、US Patent No.4,632,901、US Patent No.5,656,448、US Patent No.4,943,522及びUS Patent No.4,094,647で取り上げられている技術等、他に多くの用途がある。
【0003】
(流体ポンプによって支援されない)流体動という受動的手段を採用する側方流動装置において、流体動は、毛細管力によって誘導される。毛細管力は、固体と液体の間の境界で生じ、及び滑らかな面を有する狭い毛細管内で、又は、そのような毛細管力を誘導する可能性のある構造の存在による幅広の断面領域にわたって発生する可能性がある。典型的には、このような従来の側方流動アッセイは、ニトロセルロース、及び例えば、US5,601,995に示されているように毛細管力を誘導する高多孔質構造を有する濾紙等の側方流動材料を用いる。しかし、そのような材料には、その装置に沿った液体サンプルの動きの正確な制御においてさらなる問題につながる、主にニトロセルロースの製造時の固有の変動性による精密さの著しい不足という欠点がある。従って、そのような従来の側方流動分析技術に対してバリエーションや改良を与える必要性がある。
【0004】
例えば、多くの公知の側方流動分析装置は、フローを案内するための毛細管又はチャネルを利用する。例えば、US2002/0187071及びUS5,039,617(どちらも凝固分析)において、凝固剤は、その流路とは別の反応チャンバ内で、サンプルと混合される。これは、正に従来の手順であり、また、他の従来のアッセイについては、以下に概要が述べられている。しかし、それらは、様々な問題を呈しており、例えば、その凝血塊は、その血清から分離する可能性がある。この分離は、流体フローを停止又は遅らせて、その分析の有効性を低下させる。その結果として、そのような公知の毛細管装置は、多くの場合、そのフローのこのような遅延を引き起こすような長くて蛇行した流路を必要とする。
【0005】
さらに、これらの毛細管チャネルベースの装置は、一般に、表面積対容積比が不十分であり、このことは、毛細管の壁との試料接触を低減して、この問題を悪化させる。
【0006】
また、このような毛細管の面への様々な試薬の付着は、サンプルを介した血塊形成の結果として生じる不均質を伴う凝固反応の均質な活性化のために、そのサンプルによって溶解されて再分布される際に、あまり有効ではない。
【0007】
従って、このような公知の毛細管ベースの側方流動分析装置は、使用中に問題を呈する可能性がある。
【0008】
他の直面する問題は、側方流動分析装置を形成するために用いられる材料に関することである。最近では、側方流動分析装置の製造に、環状ポリオレフィンが使用されている。側方流動検査システムには、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)(PET)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ガラス、ガラス繊維、セラミック等を含む他の材料も良好に用いることができる。
【0009】
環状ポリオレフィン(cyclic polyolefin:COP)は、光学特性と電子物性の優れた組合せを備えた熱可塑性樹脂である。1983年、ノルボルネンポリマーについて研究している際に、環状ポリオレフィンは、開環重合によって合成された。ポリマーの二重結合の水素化の後、無色明澄のプラスチックが生成された。この材料の高透明度、低比重、低吸水性、高耐熱性、低自己蛍光性及び高紫外線透過度が、生物医学的応用を優れたものにしている。(Yamazaki,M.(2004).Industrialization and application development of cyclo-olefin polymer,Journal of Molecular Catalysis a-Chemical, 213(1):81; Bhattacharyya, A., Klapperich,C.M.(2006).Thermoplastic microfluidic device for on-chip purification of nucleic acids for disposable diagnostics, Analytical Chemistry, 78(3):788)このような材料は、追加的な流体制御特性を与えるための射出成形及び熱エンボス加工等の多くの方法を用いて、さらに構造化及び微細パターン化することができる。有利には、この種のポリマーは、化学的に無害であり、このことは、非特異的な生物学的相互作用を最小限にする。
【0010】
このような環状ポリオレフィンの表面改質は、表面張力等の高分子材料特性を変えることになる可能性があることが分かっている。表面湿潤性の向上を目的とする多くの表面改質方法が、これまでに記述されてきている。例えば、いくつかの処理は、ポリマー表面への新たな官能基の形成による表面張力の増強を目的としている。(Chan,C.M., Ko,T.M., Hiraoka,H.(1996)、Polymer surface modification by plasma and photons, Surface Science Reports,24(1-2):3;Nakano,A., Kaibara,M., Iwaki,M., Suzuki,Y., Kusakabe,M.(1996)、Surface characterization of cell adhesion controlled polymer modified by ion bombardment, Applied Surface Science, 101 112) しかし、多くの場合、このような処理方法は、その表面への損傷を誘発し、それによって、その優れたバルク特性が低下する。また、表面湿潤性に関する恩恵は、空気又は水との接触によって、時間と共に小さくなる可能性がある。(XPS and water contact angle measurements on aged and corona-treated PP, Journal of Applied Polymer Science, 74(7): 1846; Kohler, L., Scaglione,S., Flori, D., Riga,J., Caudano,R.(2001)、Ability of a gridless ion source to functionalize polypropylene surfaces by low-energy(60-100eV) nitrogen ion bombardment. Effects of ageing in air and in water, Nuclear Instruments & Methods in Physics Research Section B-Beam interactions with Materials and Atom, 185 267)
【0011】
これらの問題を考慮すると、耐水性及び生体適合性があって、長期間にわたって劣化しないコーティングを開発することが好ましかった。一つの表面改質方法は、UV/オゾン処理である。オゾン酸化は、遊離基を有する水酸化物及びヒドロペルオキシドを生成する可能性があり、また、以下の機能分子の固定化を、熱又は開始剤誘導で実行することができる。オゾン及び空気中でのUV曝露は、通常は疎水性の高分子面に高い親水性を与えることが分かっている。(Bhurke, A.S., Askeland, P.A., Drzal, L.T.(2007)、Surface modification of polycarbonate by ultraviolet radiation and ozone, Journal of Adhesion,83(1-3):43; Ho, M.H., Lee, J.J., Fan, S.C., Wang, D.M., Hou, L.T., Hsieh, H.J.,Lai, J.Y.(2007)、Efficient modification on PLLA by ozone treatment for biomedical applications, Macromolecular Bioscience, 7(4):467; Suh,H., Hwang,Y.S., Lee,J.E., Han,C.D., Park,J.C.(2001)、Behavior of osteoblasts on a type 1 atelocollagen grafted ozone oxidized poly L-lactic acid membrane, Biomaterials, 22(3):219) 炎及びコロナ放電は、その有効性のために産業界で幅広く用いられている他の方法である。(Martinez-Garcia,A., Sanchez-Reche,A., Gisbert-Soler,S., Cepeda-Jimenez,C.M., Torregrosa-Macia,R., Martin-Martinez,J.M.(2003)、Treatment of EVA with corona discharge to improve its adhesion to polychloroprene adhesive, Journal of Adhesion Science and Technology, 17(1)47; Strobel,M., Lyons,C.S.(2003)、The role of low-molecular-weight oxidized materials in the adhesion properties of corona-treated polypropylene film, Journal of Adhesion Science and Technology, 17(1):15)しかし、これらの方法に問題がないわけではない。とりわけ、それらの方法はコストが高く、また、オペレータは、危険な状態に曝される。機能層の形成に対する別の良く研究された解決策は、安定した親水性層をプラスチック表面に与える、グラフト重合又はプラズマ重合によるポリマー粒子の付着である。(Long term water adsorption ratio improvement of polypropylene fabric by plasma pretreatment and graft polymerization, Polymer Journal, 38(9):905; Yasuda,H. Plasma Polymerization, Academic Press, New York, 1985, 344)グラフト重合体は、基材ポリマーを貫通して、又は部分的に貫通して、薄い表面層を生じさせることが分かっている。(Loh,F.C., Tan,K.L., Kang,E.T., Neoh,K.G., Pun, M.Y. (1995)、Near-UV Radiation-Induced Surface Graft Copolymerization of Some O-3-pretreated Conventional Polymer Film, European Polymer Journal, 31(5): 481; Johansson,B.L., Larsson,A., Ocklind,A., Ohrlund,A. (2002)、Characterization of air plasma-treated polymer surfaces by ESCA and contact angle measurements for optimization of surface stability and cell growth, Journal of Applied Polymer Science, 86(10):2618)数種類のプラズマ処理が記載されている。(Pappas,D., Bujanda,A., Demaree,J.D., Hirvonen,J.K., Kosik,W., Jensen,R., Mcknight,S.(2006)、Surface modification of polyamide fibers and films using atmospheric plasma, Surface & Coatings Technology, 201(7):4384; Morra,A., Occhiello,E., Garbassi,F.(1990)、Wettability and Surface Chemistry of Irradiated PTFE, Angewandte Makromolekulare Chemie, 180 191; Greenwood,O.D., Hopkins,J., Badyal,J.P.S.(1997)、Non-isothermal O-2 plasma treatment of phenyl-containing polymers, Macromolecules, 30(4):1091)プラズマ処理は、処理済の面に、高分子ラジカルを形成することが分かっている。しかし、酸素プラズマだけを用いた改質は、時間が経つにつれて安定的でなくなることが証明されている。このことは、このプロセスで生成された官能基の劣化をもたらす。
【0012】
血液接触材料からなるコーティングには、例えば、「シリコン様の」膜が幅広く用いられてきている。シリコンを単独で、又は、O2等の他のガスからなる混合物中に含有する有機モノマー蒸気は、そのような膜を形成するのに用いられる。(Favia,P., d'Agostino, R.(1998)、Plasma treatments and plasma deposition of polymer for biomedical applications, Surface & Coatings Technology, 98(1-3):1102)PECVDによって堆積されたSiOx薄膜は、無色透明であるだけではなく、不溶性で、機械的に堅固であり、化学的に無害であり、及び熱的に安定しているといういくつかの利点を呈している。(Leterrier,Y.(2003)、Durability of nanosized oxygen-barrier coatings on polymers-internal stresses, Progress in Materials Science, 48(1):1)これらの特性は、生体材料、マイクロエレクトロニクス、食品、及び医療産業において、SiOxに広範な用途を見出すことを可能にした。(Inagaki,N., Tasaka,S., Nakajima,T.(2000)、Preparation of oxygen gas barrier polypropylene films by deposition of SiOx films plasma-polymerized from mixture of tetramethoxysilane and oxygen, Journal of Applied Polymer Science, 78(13):2389; Bellel,A., Sahli,S., Ziari,Z.,Raynaud,P., Segui,Y., Escaich,D.(2006)、Wettability of polypropylene films coated with SiOx plasma deposited layers, Surface & Coatings Technology, 201(1-2):129; Bieder,A., Gruniger,A., von Rohr,P.R.(2005)、Deposition of SiOx diffusion barriers on flexible packaging materials by PECVD, Surface & Coatings Technology, 200(1-4):928)SiOxのPECVD堆積の場合、最も単純で最も一般的に用いられているガスの混合物は、O2/SiH4、N2O/SiH4である。異なる用途に対して、O2/SiH4ヘリコンプラズマ中で良好な品質のSiO2膜形成を報告しているいくつかの論文がある。(Giroultmatlakowski,G., Charles,C., Durandet,A., Boswell,R.W., Armand,S., Persing,H.M., Perry,A.J., Lloyd,P.D., Hyde,S.R., Bogsanyi,D.(1994)、Deposition of Silicon Dioxide Films Using the Helicon Diffusion Reactor for Integrated Optics Applications, Journal of Vacuum Science & Technology a-Vacuum Surfaces and Films, 12(5):2754; Kitayama,D., Nagasawa,H., Kitajima,H., Okamoto,Y., Ikoma,H.(1995)、Helicon-Wave-Excited Plasma Treatment of SiOx Films Evaporated on Si Substrate, Japanese Journal of Applied Physics Part 1- Regular Papers Short Notes & Review Paper, 34(9A):4747)O2ガス供給で高度に希釈されたSiH4は、SiO2のプラズマ蒸着の初期の研究において、幅広く使用されていた。(Adams,A.C., Alexander,F.B., Capio,C.D., Smith,T.E.(1981)、Characterization of Plasma-Deposition Silicon Dioxide, Journal of the Electrochemical Society, 128(7): 1545)しかし、シランは、室温で爆発性の気体であるため、産業環境での使用は、厳格な安全規制を要する。室温で比較的不活性な液体である有機シリコーンは、シランよりも好ましい可能性がある。(Granier,A., Nicolazo,F., Vallee,C., Goullet,A., Turban,G., Grolleau,B.(1997)、Diagnostics in O-2 helicon plasma for SiO2 deposition, Plasma Sources Science & Technology, 6(2):147)ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ヘキサメチルジシラザン(HMDSN)及びテトラエトキシシラン(TEOS)は、SiO2の堆積における前駆物質として先行している。
【0013】
ニトロセルロース以外の材料を用いたこれらのシステムに対するいくつかの改良・変更について、以下に概説する。例えば、表面パターン形成技術によって毛細管力を誘起するための他の微細構造の制御された形成は、同じ毛細管力効果をもたらす可能性があるが、ニトロセルロース等の材料固有の変動性を低下させる可能性がある。例えば、様々な製造技術(熱エンボス加工、射出成形、マイクロマシニング等)による、マイクロピラー等の表面から突出する周期構造の導入は、制御されかつ再現可能な毛細管力を誘起するであろう。このような画成された表面構造は、高温で液体であり、また、ある程度の低温で凝固する熱可塑性物質等のポリマープラスチックの製造を介して容易に実施することができる。
【0014】
改良された側方流動アッセイの一つの実施例は、Amic BVによって製造された装置、すなわち、図1に示すような4キャスト「チップ」である。この装置は、環状ポリオレフィンを含む様々な材料から製造された低コストで、大量生産が可能なポリマープラットフォームに基づいており、及び密集したマイクロピラーからなるアレイを形成するように、熱エンボス加工又は射出成形を含む様々な技術を用いて、マイクロメータスケールで構造化されている。この装置は、例えば、ニトロセルロースを用いた他の従来の側方流動材料に優る優れた特性を有していることが明らかになっている。その装置上のマイクロピラーからなる画成された一様構造により、流体フローは、マイクロピラーのサイズ、及びマイクロピラー間の距離を選定することによって、その装置内で精密かつ再現可能に制御することができる。その結果、流体は、その装置を介した毛細管現象によって引き込まれる。AMIC AB社のWO2003/103835、WO2005/089082及びWO2006/137785は、一つのこのような分析方法及び分析装置に関する。このような装置は、免疫測定、タンパク質マイクロアレイ及びDNAマイクロアレイ等の多くの異なる種類の分析で用いられている。Åmic社の4−キャストチップ技術に基づく検査の実例は、蛍光検出されるヒト心筋トロポニンI抗原、血漿中の総IgG抗体及びC反応性タンパク(CRP)を含む。
【0015】
流体の制御された動きは、大抵の場合、多くの生物学的分析装置の必要条件であり、多くの場合に、典型的には、サンプルと他の測定成分とを組合わせることにより、及び/又はいくつかの分析又は測定をある箇所で実行することにより、生体サンプルを、そこで分析を実行できる適切な位置に移動させることが必要であることが分かっている。ある場合には、流体の分析装置に沿った実際の動きが、それ自体の測定の要素となる。このことは、特に、血液凝固モニタの分野で重要である。
【0016】
血管損傷に付随する血流を止める人体の能力は非常に重要である。このことがそれによって起きるプロセスは、血塊の形成又は血栓形成につながる血液凝固を伴う止血と呼ばれている。本質的には、血塊は、不溶性フィブリン粒子からなる網状組織内の血小板血栓からなる。凝血塊の形成は本質的ではあるが、そのような凝血塊の持続は、好ましくなく、また危険である。
【0017】
心臓病や血管疾患を患う人、及び外科手術を受けた患者には、命にかかわる病態をもたらす可能性のある血塊を成長させる危険性がある。そのような人達は、多くの場合、高凝結剤又は抗凝固剤で治療される。しかし、血流中に大量の抗凝固剤を適切なレベルで維持しなければならない。少なすぎると、好ましくない凝固をもたらし、多すぎると、出血をもたらす可能性がある。そのため、血液又は血漿の凝固状態を診断するために、定期的な凝固スクリーニング検査が開発されている。血液凝固の場合には、血塊の測定は、凝固過程中の装置内で、血液サンプルがどのように動くかによって測定される。典型的には、凝固カスケードは、適切な生化学用試薬の添加によって誘導され、血液が凝固するにつれて、その動きに対する抵抗は大幅に強まり、そのことは、様々な方法で検知することができる。既知の凝固分析方法及び装置のうちのいくつかの実例を以下に示す。
【0018】
US Patent Number5,372,946は、血液サンプルに対する凝固時間検査を実行するための装置及び方法に関する。この場合、血液は、流体容器及び使い捨てのキュベットに入れられる。使用時には、血液サンプルは、ポンプ作用によって毛細管流路内に引込まれ、非常に狭い開口内を往復させられる。凝血塊が形成されると、その開口を通るこの動きは停止し、凝固が起きたと考えることができる。検査機械は、血液が制限領域を横切るたびに所要時間を測定する。しかし、この装置では、ポンピングというかたちでの機械的補助が利用されており、このことは、その装置の複雑さ及びコストを増大させる場合には好ましくない。
【0019】
US Patent Number5,601,995は、血液サンプル中の凝固を検知するための装置及び方法に関する。使用時には、検査血液サンプルは、多孔質膜材料(ニトロセルロース)を通って移動できるようになっており、また、その移動距離は、血塊形成の速度に依存する。これは、従来、凝固をモニタするのに用いられている標準的な側方流動アッセイである。
【0020】
US Patent Application Number 2004/0072357は、微小流路内での流体中、典型的には、血液中での凝固時間を測定するための装置及び方法であって、それにより、凝固の発現が、変化の速度、又は容量の値、あるいはその微小流路の両端に位置する2つの電極間のインピーダンスの測定によって判断される。使用時には、サンプルは、ポリマー微小流路に引き込まれ、凝固する前のその流路内での移動距離は、その凝固時間を測定する手段として与えられていた。しかし、オープン形の毛細管ベースのシステムを用い、能動的な流体動を利用するUS Patent Application Number 2004/0072357等の装置は、極端に遅い充填時間に見舞われ、それによって分析に必要な時間を長くする。また、これらの装置は、表面積対容積比の特性が不十分であるため、装置効率を低下させる、流路の中央内腔での試薬とサンプルとの混合という付随する問題がある。
【0021】
従って、上記で概説したように、公知の側方流動分析装置に関する主な課題のうちの1つは、そのような装置に沿って、液体サンプルの動きを正確に制御できるようにすることである。多くの異なる解決策が提案されているにもかかわらず、特に、血液凝固分析の分野における従来の側方流動分析方法を改良する必要性がいまだにある。従って、本発明は、改良された凝固分析装置及びその方法に関する。
【発明の概要】
【0022】
本発明は、凝固型の分析を実行するための改良された方法及び装置を提供する。
【0023】
本発明の第1の全般的な観点によれば、液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定のための側方毛細管流動装置であって、当該装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、画成された流路ゾーンの少なくとも一部に、凝固剤、理想的にはフィブリノゲン又はトロンビン、あるいはそれらの誘導体が付着されている画成された流路ゾーンとを具備するオープン型の側方流動(lateral flow)装置である側方毛細管流動装置が提供される。
【0024】
画成された流路ゾーンは、液体サンプルの凝固を再現可能に加速させ、液体サンプルの全体にわたって、より一様に分布した凝血塊を形成し、及びその画成された流路ゾーンに沿った液体サンプルの流速の制御された変化及び/又は流動停止を確実にできるように改質されていることは理解されるであろう。このようにして、当該装置は、画成された流路に沿った液体サンプルの毛細管作用を誘導する。
【0025】
本発明の第2の全般的な観点によれば、液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定に用いるための側方毛細管流動分析装置であって、当該装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、その基材の表面が、好ましくは、その基材の表面にSiOxのコーティングを付着することにより、及び/又は高分子電解質を用いた表面改質によって、液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている画成された流路ゾーンとを具備するオープン型の側方流動装置である分析装置が提供される。
【0026】
基材の表面は、その装置を流れる改良された液体流動を容易にするために、表面活性及び親水性を向上させるように改質されていることは理解されるであろう。
【0027】
理想的には、血液凝固がモニタ及び/又は測定される。
【0028】
本発明のさらなる観点によれば、本発明の側方毛細管流動装置を用いて、液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定のための方法であって、液体サンプルは、基材上の受容ゾーンに添加されて、液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるように、毛細管現象によって、その受容ゾーンから流路を通って輸送される方法が提供される。
【0029】
本発明のさらに追加的な観点によれば、側方毛細管流動装置の表面を改質するための方法であって、その装置が、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、当該基材の表面が、液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている画成された流路ゾーンとを具備する方法であって、
酸素プラズマ及びアルゴンを用いて、基材を事前に処理することと、
プラズマ化学気相成長法(PECVD)によって、基材にSiOxを付着させることと、
を具備する方法が提供される。
【0030】
本発明のさらに追加的な観点によれば、分析を実行するための必要な試薬と共に、本発明の側方毛細管流動装置を具備する分析キットが提供される。
【0031】
本発明のさらに追加的な観点によれば、本発明の側方毛細管流動装置を具備する分析又は診断検査装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1a】Amic(登録商標)プラットホームに注目し(左側)、マイクロピラーの分解立体図(右側)が示されている図である。この側方流動プラットホームは、制御された側方流動アッセイのための明確な毛細管力特性を備えたマイクロピラーアレイを形成するように射出成形された環状ポリオレフィンで構成されている。
【図1b】非構造化領域(1)、エンドゾーン(2)、検査チャネル(3)及びサンプルゾーン(4)を備えた典型的な側方流動アッセイを示す図である。
【図1c】実施例で採用されたAmic(登録商標)B 2.2マイクロピラー側方流動装置のさらなるグラフィック描写を示す図である。寸法は、mmで示されている。そのチャネルは、長さが約27mmで、幅が約5mmであった。その検査チャネルは、拡大差込図に示すような熱エンボス加工されたマイクロピラー構造を呈していた。
【図2】改質されていないチップの同じ位置でのCAと比較した、改質されたCOP基材上の3つの異なる位置、すなわち、サンプルゾーン(微細構造)、エンドゾーン(微細構造)及びマイクロピラーのない円滑領域での改質後の24時間測定したCA値に対するSiOxの影響を示す図である。
【図3】改質されていないCOP基材と、異なる2つの条件(n=3)でSiOxを用いたPECVDによって改質されたCOP基材の場合のCA値の経時的な変化を示す図である。
【図4】未処理のCOP面(50μm×50μm)(図4の(a)、(b))、O2/Arプラズマ前処理済みCOP(1μm×1μm)(図4の(c)、(d))及びPECVDプロセスによってSiOxで改質したCOP(1μm×1μm)(図4の(e)、(f))のタッピングモードのAFMイメージである。図4の(a)、(c)、(e)は、それぞれ、3次元高さのイメージであり、Zスケールはそれぞれ、100、25及び20nmである。図4の(b)、(d)、(f)は、2次元の大きさのイメージであり、Zスケールは、0.1Vである。図4の(a)のAFMイメージのサイズは、50×50μmである。図4の(c)のAFMイメージのサイズは、1×1μmである。図4の(e)のAFMイメージのサイズは、1×1μmである。
【図5】無地のステンレス鋼面(1μm×1μm)(図5の(a)、(b))、O2/Arプラズマ前処理済みステンレス鋼(1μm×1μm)(図5の(c)、(d))及びPECVDプロセスによってSiOxをコーティングしたステンレス鋼(1μm×1μm)(図5の(e)、(f))のタッピングモードのAFMイメージである。図5の(a)、(c)、(e)は、それぞれ、3次元高さのイメージである。図5の(b)、(d)、(f)は、2次元の大きさのイメージであり、Zスケールは、0.1Vである。図5の(a)のAFMイメージのサイズは、1×1μmであり、図5の(c)のAFMイメージのサイズは、1×1μmであり、図5の(e)のAFMイメージのサイズは、1×1μmである。
【図6】非改質基材(A)、O2/Ar前処理済み基材(B)、及びSiOxをコーティングしたCOP(黒)及びステンレス鋼(灰色)(C)(n>12)のrms値の図である。
【図7】COP基材(6μm×6μm)のSiOxをコーティングした領域と非コーティング領域との間の境界のタッピングモードのAFMイメージの図である。図7の(a)は、3次元の高さイメージであり、Zスケールは、140nmである。図7の(b)は、2次元の大きさのイメージであり、Zスケールは、0.1Vである。図7の(a)のAFMイメージのサイズは、7×7μmである。
【図8】シリコンウェーハ上にPECVDで付着されたSiOxコーティングの吸収度FT−IRスペクトルの図である。
【図9】SiOxをコーティングしたCOP(点線)と処理していないブランクのCOP(実線)の比較の吸収度ATRスペクトルの図である。
【図10】SiOx1(黒丸)及びSiOx2(白丸)(n=3)に従って改質した、SiOxでコーティングされた基材上での水溶液の移動した時間と距離の相関関係の図である。
【図11】SiOxをコーティングしたCOP(a)、無地のCOP(b)及びポリスチレン対照(c)の血漿凝固時間に対する基材の影響を示す発色性トロンビン分析の図である。A−Abs対t、B−dZAbs/dZt対t、ただし、(a)はSiOxをコーティングしたCOP、(b)は処理していないブランクのCOP、(c)はブランクのポリスチレンである。
【図12】ガラス陽性対照と比較するSiOx改質後の3日後、1週間後、2週間後、3週間後及び8週間後のSiOxをコーティングしたCOP基材の表面及び裏面によって導入されたCTの縮小を示す図である。
【図13a】PT(Dade Innovin 40μl)側方流動凝固分析検査の結果を示す図である。
【図13b】aPTT(aPTT−SP 40μl)側方流動凝固分析検査の結果を示す図である。
【図14】側方流動アッセイに対するフィブリノゲンの影響を示す図である。
【図15】側方流動免疫測定法におけるフィブリノゲン及び/又は塩化カルシウムの組合せの影響を示す図である。
【図16】側方流動免疫測定法における塩化カルシウムの組合せの影響を示す図である。
【図17】剥き出しの環状ポリオレフィン(COP)チップ上への外部で混合した凝固試薬の影響を示す図である。
【図18】フィブリノゲンの量を変化させた充填プロファイルを示す図である。
【図19】様々な試薬の場合の充填プロファイルの比較を示す図である。
【図20】フィブリノゲンの量を変化させた充填プロファイルを示す図である。
【図21a】充填プロファイルに対するCaの影響を示す図である。
【図21b】充填プロファイルに対するCaの影響を示す図である。
【図22】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。酸素プラズマ処理単独、PACコーティング単独、高分子電解質処理、SiOx付着単独、及び高分子電解質を用いて処理したSiOxをコーティングしたポリマーによる環状ポリオレフィンの表面改質に関する図である。表面改質の有効性は、接触角測定によって分析した。最も低い接触角及び経時的に最も安定しているものは、高い高周波電力設定値で改質されたSiOx層に起因すると考えられる。
【図23】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。酸素プラズマ処理単独、PACコーティング単独、高分子電解質処理、SiOx付着単独、及び高分子電解質を用いて処理されたSiOxをコーティングしたポリマーの改質表面での(図の左から右への)流体フローの品質を示す流体速度測定のビデオ画像を示す図である。
【図24】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。SiOxで改質した表面が、迅速で再現可能な側方流動を実現する場合に最も有効であることを示す、酸素プラズマ処理単独、PACコーティング単独、高分子電解質処理、SiOx付着単独、及び高分子電解質で処理されたSiOxをコーティングしたポリマーの場合の速度プロファイルを示す図である。
【図25】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。SiOx表面及びPEで処理した表面と比較した無地のCOPのトポグラフィー(左から右)を示す実施例のタッピングモードのAFM3次元高さイメージである。
【図26】COPベースの微小流体プラットホーム上への異なるコーティング材料の使用を比較する。(左から右へ)無地の表面、非処理表面及び改質表面、すなわち、無地の表面、酸素プラズマ処理した表面、PACコーティングした表面、高分子電解質で処理した表面、SiOxをコーティングした表面、及び高分子電解質でも処理されたSiOxをコーティングしたポリマーのAFM分析から得られたRms粗度の比較を示す図である。
【図27】トロンビンをコーティングしたチップ(n=3)内での血漿フィブリノゲン含有量と移動距離の相関関係を示す図である。y=1.0236+(43.5151/x)、R2=0.9966
【図28】血漿及び全血に対してそれぞれ、1.03〜7.55g/L及び1.56〜8.86g/Lの様々なフィブリノゲン濃度を含む血漿サンプル(三角形)及び全血サンプル(正方形)を用いて生成された検量線(n=3)を示す図である。サンプルのフィブリノゲン含有量と、トロンビンをコーティングした分析チップ上で横切った距離との間の線形相関は、血漿の場合にはR2=0.965を用いて、全血の場合にはR2=0.797を用いて、それぞれ、y=−3.8674x+28.967及びy=−0.9402x+13.971であることが分かった。黒い記号は、通常の検量サンプルを示し、一方、白い記号は、フィブリノゲンが激減した又は補充されているサンプルであった。ボックスは、人の通常のフィブリノゲン範囲2〜4g/Lを示す。
【図29】側方流動分析装置を用いた、患者の血漿サンプル中のフィブリノゲン含有量の測定の結果を示す図である。横切った距離は、日常の検査測定から得られたフィブリノゲンの濃度に対してプロットした。患者のサンプル(黒い記号)(n=3)は、較正サンプルのトレンドをフォローすることが分かった。
【図30】開発した側方流動方法によるフィブリノゲン測定と、標準的方法によるフィブリノゲン測定の相関関係を示す図である(n=3)。その相関関係は、相関係数が0.89で、y=0.7387x+0.8271であった。
【図31】フィブリノゲンレベルが増加した際の、開発した分析法で得られたフィブリノゲン濃度と、常法の差異の拡大を示すBland-Altman プロット(Ref. Bland,J.M.; Altman,D.G. Lancet 1986、1、307-310)(標準的方法からの現場方法の偏差)。ゼロに近い値は、基準値と一致した。トレンドラインは、より高濃度のフィブリノゲンを用いると、測定の精度が低下することを示している。その傾きの値は、−0.2613であった。
【図32】1.4g/Lの低いフィブリノゲン濃度(十字形)、3.1g/Lの通常のフィブリノゲン濃度(正方形)、3.8g/Lの高いフィブリノゲン濃度(三角形)及び6.0g/Lの著しく高いフィブリノゲン濃度(円形)を有する血漿サンプルの反復を示す図である。全ての反復に対する移動距離が図示されている。水平ラインは、平均移動距離を示す。
【図33】トロンビンをコーティングしたチップの貯蔵安定性の研究と、それらのフィブリノゲン分析装置における応答の結果を示す図であり、1.41g/L(菱形)、通常レベル:3.04g/L(十字形)、高いフィブリノゲンレベル:4.66(円形)、5.39(三角形)及び6.97g/L(正方形)である(n=3)。
【図34】0〜10U/mLの精製されたトロンビンでコーティングされたチャネルを通って移動する血漿サンプルに対して、0、5、10、15、20、23及び27mmで記録した充填時間を示す図である。
【図35】表面に固定化された100U/mLのトロンビン(10μL)によって誘導された血漿血栓形成の結果として起きるフロー停止状態のイメージを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の説明において、「側方流動(lateral flow)分析装置」という用語と、「毛細管流動分析装置」という用語は、互いに置換え可能であることを理解されたい。
【0034】
本願明細書で用いる「サンプル」という用語は、ある成分の有無、ある成分の濃度等のその特性のうちのいずれかの定性的又は定量的な測定を受けることを意図されたある容量の液体、溶液又は懸濁液を意味する。そのサンプルは、哺乳動物等の生物、好ましくは人間から、又は、水試料等の生活圏又は廃水から、あるいは、製造の過程、例えば、薬剤、食品、飼料の生産、飲料水の浄化又は廃水の処理等の技術的、化学的又は生物学的プロセスから採取されたサンプルとすることができる。そのサンプルは、それ自体で、又は、均質化、超音波処理、フィルタリング、沈殿、遠心分離、熱処理等の前処理の後に、定性的又は定量的な測定を受けることができる。
【0035】
本発明に関連する典型的なサンプルは、血液、血漿、血清、リンパ液、尿、唾液、精液、羊水、胃液、痰、喀痰、粘液、涙等の体液、地表水、地下水、汚泥等の環境流体、及び乳、乳清、肉汁、栄養溶液、細胞培地等のプロセス流体である。本発明の実施形態は、全てのサンプルに適用可能であるが、好ましくは、体液のサンプルに、及び最も好ましくは、全血検体を含む血液サンプルに適用可能である。
【0036】
定性的又は定量的な、サンプルの側方流動に基づく測定、そのサンプル中に存在する成分と、その装置内に存在する試薬との相互作用、及びそのような相互作用の検出は、診断目的、環境目的、品質管理目的、規制目的、法医学目的又は研究目的等のどのような目的にも使うことができる。
【0037】
「検体」という用語は、「マーカー」という用語の同義語として用いられており、また、定量的又は定性的に測定される何らかの物質を包含するように意図されている。
【0038】
「ゾーン」、「領域」及び「箇所」という用語は、この説明、実施例及びクレームの文脈においては、従来技術による装置、又は本発明の実施形態による装置における基材上の流体通路の一部を定義するのに用いられている。
【0039】
「反応」という用語は、サンプルの成分と、基材上又は基材中の少なくとも1つの試薬との間、あるいは、サンプル中に存在する2つ以上の成分の間で起きる何らかの反応を定義するのに用いられている。「反応」という用語は、特に、検体の定性的又は定量的な測定の一部として、検体と試薬との間で起きる反応を定義するのに用いられている。
【0040】
「基材」という用語は、それにサンプルが添加される、及びその上で又はその中で測定が実行される、あるいは、そこで検体と試薬の間の反応が起きる、担体又は母材を意味する。
【0041】
以下の説明において、「凝血(clotting)」と「凝固(coagulation)」は、互いに置換え可能であることを理解されたい。血液又は他の物質を含有する液体中の凝固又は凝血は、本発明を用いてモニタ及び/又は測定できることは、理解されるであろう。フィブリノゲン又はトロンビンを用いた凝固カスケードを介して生じた何らかの液体サンプルの凝固を考慮できることは、理解されるであろう。その中で凝固をモニタ及び/又は測定できる他の液体は、タンパク性溶液(例えば、乳)、及び凝集水及び廃水等の他の凝固液体を含む。
【0042】
以下の説明において、「マイクロピラー」又は「微小突起部」あるいは「突出する微細構造」という用語は、基材を流れるフローを規定する、基材の表面から突出する複数の垂直方向突起部又は柱状部を対象にしている。理想的には、このようなマイクロピラーは、表面に対して略垂直であり、前記フローゾーン内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔(t1、t2)を有する突起部からなる領域で構成される。
【0043】
以下の説明において、「コーティング」という用語は、「層」又は「膜」という用語と互いに置換え可能であることは理解されるであろう。
【0044】
本発明は、改良された凝固分析方法及び装置を提供する。
【0045】
理想的には、血液凝固は、本発明の分析装置及び方法でモニタ及び/又は測定される。
【0046】
本発明の第1の全般的な観点によれば、液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定のための側方毛細管流動装置であって、当該装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、凝固剤フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体が、画成された流路ゾーンの少なくとも一部に付着されているその画成された流路ゾーンとを具備するオープン型の側方流動装置である側方毛細管流動装置が提供される。
【0047】
一つの実施形態において、凝固剤は、その画成された流路ゾーンの表面全体に付着されている。
【0048】
理想的には、側方流動分析装置は、オープン型の側方流動装置であって、毛細管又はチャネルタイプの装置ではない。本質的な観点は、その装置が、その画成された流路に沿った液体サンプル中の毛細管現象を含むということである。
【0049】
このように、本発明の側方毛細管流動装置は、公知の毛細管流管、毛細管又はチャネル装置と区別される。
【0050】
例えば、このようなオープン型の側方流動装置は、液体サンプルと装置表面の表面積対容積比を向上又は増加させながらも、秩序がある、制御され、適切で予測可能な毛細管力を維持する構造を具備することが可能である。このことは、基材に沿って、好ましくは、その流路に沿って、突出部又はくぼみを具備する規則的に離間した構造を備えた平坦面を有するオープン型の側方流動分析装置によって実現することができる。
【0051】
本発明の好適な実施形態によれば、基材の流路ゾーンは、基材に沿ってフローを規定する、基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部又はマイクロピラーを具備する。
【0052】
必要に応じて、その垂直方向の突起部は、表面に対して略垂直であり、その流路ゾーン内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような突起部からなる領域で構成される。
【0053】
本発明者等は、基材の流路の表面に、凝固剤、好ましくは、フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体からなる層を付着することが、
i)その液体サンプルの凝固を加速させ、
ii)血液サンプル全体にわたって、より一様に分布した凝血塊を形成し、及び
iii)流量の制御された変化及び/又はその画成された流路ゾーンに沿った、液体サンプルの流動停止を確実にする改良された側方流動分析装置をもたらすことに気付いた。
【0054】
この種のコーティングと、側方流動装置の構造的な特徴との組合せは、血清からの凝血塊の分離を防ぐ。
【0055】
分散したフィブリンの網状組織の形成は、2つの方法で容易に行えることは理解されるであろう。第1の方法は、付着されたトロンビンを用いて、内因性フィブリノゲンからのフィブリン形成を活性化させることである。第2の方法は、凝固カスケードの活性化から生じるトロンビン形成に応答して、分散されたフィブリンを形成する付着された外因性フィブリノゲンを用いることである。本発明者等は、トロンビンが凝固カスケード中に生成される場合には、凝固剤のコーティング又は層が、フィブリン網状組織の一様に分布した形成を著しく強化することに気付いた。従って、流体フローの遅延をより顕著に実行できる。
【0056】
本発明の方法において、その凝固分析は、流速及び/又は凝血塊形成までの時間の測定を伴う。具体的には、それらの分析を実行し、及び凝固/凝血時間を算定するために、サンプルの液体からゲル(凝血塊)状態への変換が、時間及び/又は移動距離で測定される。すなわち、均一で再現可能な凝血塊の形成を迅速に誘導し、及びサンプルのフィブリンメッシュ及び血清中への分離を防ぐことが重要である。本発明の装置は、このことを確実に実現する。
【0057】
具体的には、この装置は、US2002/0187071及びUS5039617及びその他多数に記載されている毛細管ベースの流動装置等の公知の側方流動アッセイに付随する、凝血塊の血清からの分離、流体フローを停止又は遅延させる分析の有効性の低下、拡張された流路に関する複雑なデザイン、サンプルを介した凝血塊形成の不均一性等の問題を克服している。
【0058】
好適には、本発明の側方流動分析装置は、好ましくは、上記のように定義したマイクロピラー又は他の突起部/くぼみを備えた「開けた」表面である。上記のように定義した柱状部又は他の突起部/くぼみの存在によってもたらされる力は、上記で展開された毛細管表面積/サンプル容積比の問題を伴うことなく、毛細管現象の恩恵をもたらす。このことは、溶解速度、均一性等の改善を伴って、付着された試薬とサンプルとのさらに有効な相互作用をもたらす。
【0059】
凝固剤は、限定するものではないが、ピペット操作、スプレー被覆、浸漬被覆、光指向性パターニング、インクジェット印刷、スクリーン印刷、リソグラフィー技術(すなわち、マイクロコンタクト印刷)、エレクトロスプレー、化学気相成長法、原子間力顕微鏡ベースの分子蒸着及びその他を含むいくつかの手作業による及び/又は自動化された方法を用いて改質された基材表面に施すことができる。
【0060】
凝固剤は、理想的には、フィブリノゲン、トロンビン又はそれらの誘導体である。しかし、他の凝固因子及び誘導体も考慮することができる。例えば、(バター、クリーム、チーズ、ヨーグルトの製造における、又は、粘性の変化につながるタンパク質、炭水化物、核酸等の生体高分子の形成又は変質をもたらす他のプロセスにおける)カゼインの作用を介した機械的作用、熱、バクテリア、酵素、アルコール、又は酸味による乳又は乳成分の凝固。
【0061】
このようにして、凝固剤は、基材表面に固定化される。凝固剤の安定性は、限定するものではないが、他のタンパク質、ポリマー、糖類、界面活性剤、保湿剤を含む支持剤の混入によってさらに高めることができる。さらに、安定性は、温度制御、通気乾燥速度等の方法を用いた適切な乾燥方法、例えば、凍結乾燥を用いることによって向上させることができる。さらなる安定性は、袋詰め、密封及び規定された保管条件等の様々な方法によって遂行される、湿度に対する制御された雰囲気、温度、不活性ガス、真空等の様々な保存及びパッケージング手段を用いて実現することができる。
【0062】
凝固剤は、サンプルを受け入れるためのゾーンと、その画成された流路ゾーンとを含む基材表面全体にあってもよいことは、理解されるであろう。
【0063】
本発明の好適な実施形態によれば、その凝固剤は、フィブリノゲンである。
【0064】
本発明の別の実施形態によれば、その凝固剤は、トロンビンである。理想的には、5〜10U/mlの乾燥トロンビンを用いることができる。必要に応じて、使用する界面活性剤は、非イオン界面活性剤(例えば、Triton X−100)とすることができる。一実施形態においては、約10μlのトロンビンが使用される。
【0065】
他の試薬物質も凝固剤と一緒に付着させることができる。そのような追加的な試薬物質は、次のうちの1つ以上に限定するものではないが、組織因子、リン脂質、トロンビン又はフィブリノゲン及び/又は凝血促進剤以外の凝固因子を含む凝固を誘導及び/又は加速させることのできる追加的な物質、ガラス繊維、すりガラス及びガラス微小粒子を含有する微粒シリカ物質、及び/又はカオリン、セライト及び/又はエラグ酸を含有する凝固表面活性剤から選択することができる。
【0066】
また、TT試薬、aPTT試薬、ACT試薬及びPT試薬等の特定の凝固分析のための試薬製剤を用いることができる。それらは実施例で概説されている。例えば、ACT分析は、典型的には、接触活性化因子(微粒シリカ、ガラス、カオリン、セライト、エラグ酸等)を単独で添加して実行される。また、aPTTは、部分トロンボプラスチンと呼ばれる追加的なリン脂質混合物と共に、そのような接触活性化因子を含む。PT分析は、その主要活性成分として、第III因子とも呼ばれる組織因子を有する。トロンビン凝固時間(TCT)とも呼ばれるトロンビン時間(TT)は、トロンビン試薬の添加によって活性化される。分析前の凝固を防ぐために、血液サンプルが既にクエン酸塩試験管内に取込まれている場合には、塩化カルシウムを添加することもできる。
【0067】
凝固剤は、支持試薬物質、又は支持試薬物質の混合物と共に付着させることができる。それらの支持試薬物質は、ポリエチレングリコール(PEG)、糖類(すなわち、デキストラン、マルトデキストロース)、及び非イオン界面活性剤(すなわち、ポリソルベート20又は80、Triton X-100)等の界面活性剤を含有している。このような支持試薬は、検査サンプルと基材との間の非特異的相互作用を低減するため、所望の流速を得るため、試薬物質の安定性、粘性及び除去を制御するため等の様々な目的のために添加される。
【0068】
本発明の好適な実施形態によれば、支持試薬物質は、非イオン界面活性剤である。界面活性剤は、溶液/表面界面での表面張力を低下させて、流体動の制御を補助するその能力のため、幅広く用いられている。しかし、その両親媒性という性質により、界面活性剤は、膜組織及びリン脂質構造等の多くの生体系を破壊する可能性がある。そのような構造は、凝固プロセスにおいて非常に重要なものである。そのため、使用する界面活性剤の種類及び濃度は、流体動の補助及び制御すると同時に、凝固を阻害しないというバランスを実現する際に非常に重要である。イオン性界面活性剤(例えば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB))は、それぞれ、既知の例示的な陰イオン性及び陽イオン性界面活性剤である。しかし、そのような界面活性剤は、上述したような破壊効果により、凝固分析には適していない。
【0069】
従って、本発明は、理想的には、共重合型界面活性剤(例えば、イオン性頭部基を有していないが、ほとんどがエトキシ官能基のサブユニットから成る高度に分岐した、又は線形の極性基を有する、Triton X-100及びポリソルベート(例えば、Tween 20))等の非イオン界面活性剤を用いる。これらの非イオン界面活性剤は、そのような構造に対してあまり破壊的ではない。しかし、高度に分岐したポリソルベートは、特に凝固分析での用途に適しているこの種の非イオン界面活性剤を構成する、それほど高度には分岐していない共重合型界面活性剤よりも破壊的であることが分かっている。適切な濃度の選択によって、非イオン界面活性剤の使用は、界面張力を有効に低下させることができ、均一で再現可能な側方流動を補助することができ、及び凝固プロセスを干渉しない。
【0070】
凝固剤、追加的な試薬物質及び/又は支持試薬物質は、多くの異なる構成において、基材表面の検査チャネルに添加することができる。そのような構成は、限定するものではないが、以下のことを含む。
・異なる材料を、単一の基材表面のいくつかの領域に付着させることができる。例えば、検査チャネル全体、又は初期段階だけは、パターン化して、(必要な試薬物質が付着されて乾燥される)複数の領域に分けることができる。それらの異なる領域は、一旦、乾燥工程が完了すると、あるいは、試薬物質の混合を防ぐための高度の疎水性サブ領域を形成することにより除去される、テープ(例えば、片面粘着性感圧接着剤であるPSA等)からなる層によって互いに分離することができる。
・材料の混合物の傾斜付着、又は、その検査チャネルの始点及び終点からの傾斜付着。
・予混合なしに、材料が付着された後に乾燥される箇所への層の付着も可能である。
【0071】
本発明の第2の全般的な観点によれば、液体サンプル内での凝固のモニタ及び/又は測定のための側方毛細管流動装置であって、当該装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、基材の表面にSiOxからなるコーティングを付着することによって、基材の表面が、液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている、画成された流路ゾーンと、を具備するオープン型の側方流動装置である側方毛細管流動装置が提供される。
【0072】
必要に応じて、基材の表面は、SiOxを組合わせて高分子電解質によって、又は高分子電解質単独で改質することができる。
【0073】
理想的には、基材の表面は、上述したように、表面活性及び親水性を高めて、当該装置を流れる改良された液体流動を容易にするように改質される。
【0074】
理想的には、液体サンプルと接触する基材の表面のみが改質される。
【0075】
本発明の第1及び第2の両観点の装置は、基材に沿ったフローを規定する、基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部又はマイクロピラーを具備する、基材の流路ゾーンを具備することができることは理解されるであろう。理想的には、それらの垂直方向の突起部は、前記表面に対して略垂直であり、その流路ゾーン内での液体の側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔を有する突起部からなる領域で構成される。
【0076】
以下の説明は、そのような血液凝固分析に言及しているが、他の液体サンプルの凝固も本発明に従って考慮することができることは理解されるであろう。従って、血液又は血漿、あるいはトロンビン又はフィブリノゲンを含有する他の何らかの液体を含有する、トロンビン又はフィブリノゲンを含有する液体サンプルを検査することができる。
【0077】
以下の説明及び実施例は、血液凝固分析について言及しているが、他の液体サンプルの凝固も、本発明に従って考慮することができる。さらに、以下の論考は、本発明の第1及び第2の両観点に適用可能であることは理解されるであろう。
【0078】
(基材材料)
側方流動装置の特性は、表面多孔性及び粗面性等を含むいくつかの要因によって大きく影響を受ける可能性がある。そのため、当該装置に対する適切なプラットホーム又は基材の選択が極めて重要である。このようなベース/基材材料は、非特異的相互作用及び好ましくないタンパク質吸着を最小限にするために、化学的に不活性でかつ生体適合性がなければならない。低粗面性及び低多孔性も必要である。良好な光学特性、高耐熱性及び低い製造コストも有益である。
【0079】
側方流動アッセイ基材は、プラスチック材料、好ましくは、熱可塑性材料とすることができる。
【0080】
理想的には、側方流動アッセイは、環状ポリオレフィン(COP)で形成される。
【0081】
環状オレフィン重合体(COP)は、高透過性、低比重、低吸水性、及び生物医学用途に対して優れた材料にする低自己蛍光性及び高紫外線透過性を備えた好適なガラス質材料である。COPは、血液凝固モニタ装置用の基材にとって好ましい光学特性及び電気特性の優れた組合せを備えた熱可塑性樹脂である。COPは、低吸収速度と共に、純粋なポリマーに対する高防湿層を有する。それは、診断装置及び医療機器において有用になる抽出物が全くかほとんどないハロゲンフリー製品及び高純度製品として分かっている。ある種の滅菌、すなわち、ガンマ線照射が必要な場合には、蒸気及びエチレンオキシドを実施することができる。粘性及び剛性は、モノマー含有量により変化する可能性がある。それらのポリマーのガラス転移温度は、150℃を超える可能性がある。(IUPAC Technical Report)高耐熱性は、このポリマーを、何らかの熱変形、すなわち、熱エンボス加工に適した材料にする。様々な構造的デザインの創造が可能である。COPは、様々な成形、例えば、射出成形によって、所望の形状及び寸法のプラットホームに変形させることができる。
【0082】
このようなCOPの1つは、Zeon Corp.によりZeonor(登録商標)の商品名で販売されている。この材料は、側方流動アッセイ技術の基礎として使用されている。Åmic Br.(スウェーデン)は、液体サンプルが基材に施される際に、毛細管充填力を盛り込んで制御するように、マイクロピラーからなる規則的配列を形成した。Zeonor(登録商標)は、疎水性が非常に高い(〜100度の接触角)。従って、そのような疎水性を有するCOPは、凝固分析に用いるための改質を要する。
【0083】
その他のCOPは、TOPAS(登録商標)(Ticona)、APEL(登録商標)(Mitsui Chemical)、ARTON(登録商標)(Japan Synthetic Rubber)及びZeonex(登録商標)(Zeon Chemical)を含む。
【0084】
別法として、他のプラスチック材料を、その側方流動アッセイ基材として用いることができる。他の適切なプラスチック材料は、ポリスチレン、ポリエステル・ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル、天然高分子樹脂及び/又はポリメチルメタクリレート(PMMA)を含む。
【0085】
また、側方流動アッセイ基材は、シリコン又はガラス質/セラミック材料であってもよい。
【0086】
(コーティング材料/表面改質)
本発明において、側方流動アッセイ基材材料は、血液又は血漿の凝固を加速させる表面改質材又は界面化学剤(すなわち、いわゆる「コーティング材料」)の付着によって改質することができる。このようにして、基材表面の化学的性質を変えるように、添加材料からなる膜、層又はコーティングが基材表面に付着される。
【0087】
変質後、凝固プロセスは、充填時間の変化及び/又は装置に沿った凝固血液又は血漿サンプルが移動した距離の変化をもたらす。このことは、例えば、凝血塊を形成するサンプルの能力に対する抗凝固薬の影響をモニタするのに利用することができる。
【0088】
理想的には、表面改質は、基材の表面活性/親水性を向上させて、側方流動分析装置を流れる改善された流動を可能にする。また、表面エネルギの増加を伴う親水性表面の形成は、非特異的相互作用及びタンパク質吸着の低減にも有益である可能性がある。表面改質は、電荷密度、表面化学組成、表面鎖運動性、湿潤性、表面張力、及びその表面と相互に作用する分子の配座、吸収速度及び動態等の生物学的反応に著しく影響を及ぼす他の多くのパラメータ等のポリマー材料特性に変化をもたらす。表面張力の増加は、そのポリマー表面への新たな官能基の生成によって説明することができる。しかし、表面湿潤性に関する得られた効果は、空気又は水との接触により、時間と共に減少する可能性がある。
【0089】
理想的には、そのコーティング材料は、水安定性があり、かつ均一であり、その場合、改質/親水性の効果は、長期間にわたって低下しないであろう。表面特性の変化は、接触角測定によって容易にモニタして定量的に確認することができる。また、そのコーティング材料は、原子間力顕微鏡法(AFM)によって測定することのできる低粗度及び低多孔性によって特徴付けられる。さらに、コーティングプロセスは、コスト効率が良くなければならず、また、オペレータが危険な状態に曝されてはならない。
【0090】
様々な表面改質を、以下に挙げるように考慮することができ、及び本発明の第1及び第2の観点で明確にすることができる。
i.本発明の第1の観点において明確にしたように、表面改質された基材は、血液凝固過程を増進又は促進する様々な材料、このましくは、凝固剤フィブリノゲン又はトロンビン、いわゆる以下に挙げる「試薬物質」を用いて、さらに改質してもよい。従って、表面改質それ自体が、血液凝固過程を増進又は促進することができる。このような改質は、表面親水性を向上させ、及び側方流動分析装置内でのフローを容易にすることを目的としている。その結果、そのような試薬は、上記の(i)及び(ii)による改質が行われた後に、その基材表面に付着させることができる。
ii.本発明の第2の観点で明確にしたように、金属酸化物、好ましくは、SiOxからなるコーティングが、側方流動分析装置の表面に付着される。理想的には、金属酸化物、好ましくは、SiOxは、PECVD(プラズマ化学気相成長法)を用いて付着される。
【0091】
本発明のこの観点の好適な実施形態は、ポリマーZeonor(登録商標)(COP)からなる表面に付着されたSiOxからなる層を具備する。有利には、本発明者等は、ポリマーZeonor(登録商標)(COP)からなる表面に付着されたSiOxからなる層は、表面活性/親水性を高めて、改善された流動を可能にすると共に、凝固カスケードも誘導できるようにすることにより、側方流動血液凝固分析のパフォーマンスを高めることを見出した。
【0092】
このようにして、SiOxコーティング物質は、ガラスに対して、あるいは、損傷した血管系での露出したコラーゲンに似ている他の強く帯電した生体模倣ケイ酸塩表面に対して同様に作用し、そのことは、血液凝固の増進につながる。
【0093】
血漿凝固時間を縮小する、SiOxで改質したCOPの能力は研究されている。驚いたことに、本発明者等は、凝固促進活性と、SiOxをコーティングしたCOPの寿命との間の正相関に気付いた。本発明者等は、SiOxの表面は、付着後の最初の数日間は、CT(凝固時間)の縮小割合が低く(約1%)、1週間後でも同様であった(約2%)ことに気付いた。しかし、その表面は、2週間後には、著しい改善を見せた(38%のCT縮小)。これらの変化は、さらに増して、約3〜8週間後には、51〜54%程度のCT縮小値に達し、ガラスのCT縮小に近づいた(図23)。
【0094】
iii.本発明の第2の観点で明確にしたように、改質した基材表面は、SiOxコーティングに加えて、あるいは単独で、高分子電解質(PE)による改質を受けることも可能である。このようにして、PEからなる層は、その基材の表面に吸着される。このような高分子電解質は、中性ポリカチオンポリアニオン混合物である。
【0095】
適切な高分子電解質は、ポリオキシエチレン、ポリエチレンイミン(PAI)又はポリアクリル酸(PAC)を含む。その他の高分子電解質も考慮することができる。本発明者等は、これらの高分子電解質が、非特異的なタンパク質吸着を劇的に低減し、及び基材表面の親水性を向上させることに気付いた。
【0096】
高分子電解質による改質は、それ自体の上で行うことができ、その場合、基材は、酸素プラズマ処理後に、高分子電解質を用いて浸漬被覆される。
【0097】
別法として、高分子電解質による改質は、SiOxの付着後に行うことができ、及び2つのステップを具備し、酸素プラズマ処理の後に、高分子電解質を用いた浸漬被覆が行われる。
【0098】
本発明のこの観点の好適な実施形態によれば、基材の酸素プラズマ処理は、高周波(RF)PECVD炉内で実行される。PE処理は、酸素プラズマ処理の直後に実行される。PE処理は、基材をPEIに浸漬した後にPACに浸漬することを数回することを具備してもよい。
【0099】
これらの両コーティング材料種、すなわち、金属酸化物及び高分子電解質は、基材/プラットホームの表面に付着させることができる。本発明者等は、有利には、これらのコーティング材料による表面改質が、高度に規定された側方流動特性を備えた分析装置をもたらすことを発見した。このことは、サンプルと分析試薬の良好な混合、不活性で潜在的に低コストのシステムと共に、装置充填速度の良好な制御をもたらす。
【0100】
金属酸化物の付着は、例えば、基材/プラットホームの化学的及び機械的特性の向上をもたらすと共に、低い付着温度が、熱的に敏感である可能性のあるガラス又はプラスチック基材/プラットホーム材料のコーティングを可能にする。加えて、プラズマ化学気相成長法(PECVD)によって生成された膜又は層を具備するコーティング材料は、従来の重合によって作られた膜に優るいくつかの利点を呈する。それらの薄い層又は膜は、様々な基材膜に対して高度にコヒーレントであり、かつ付着し、及び従来の方法により重合可能ではないモノマーから作成することができる。
【0101】
有利には、本発明の表面が改質された装置は、ニトロセルロース等の従来の側方流動材料の使用から生じる精度の不足を含む、他の側方流動装置又は毛細管流動装置によって生じるいくつかの問題に対処する。
【0102】
その基材表面が、線形流速、均一に画成された流体領域による充填、及び良好な装置の再現性及び安定性に関して、その装置を介した改良された液体流動を容易にする優れた表面均一性によって表面活性/親水性を向上させるように改質されていることは理解されるであろう。
【0103】
(分析の種類)
本発明の側方流動分析装置が、活性凝固時間[ACT]、活性化部分トロンボプラスチン時間[aPTT]等の内因性の凝固経路を用いた分析、又はプロトンビン分析[PT]等の外因経路を用いた分析の誘導に適していることは理解されるであろう。
【0104】
内因経路及び外因経路として知られている2つの経路又は凝固カスケードは、凝血塊の形成につながる。これら2つの経路は、個別のメカニズムによって起動されるが、共通の経路に沿って合流する。組織損傷のない異常な血管壁に対応する血栓形成は、その内因経路の結果であり、また、組織損傷に対応する血栓形成は、その外因経路の結果である。凝固カスケードは、非常に複雑であり、凝固因子として知られている多くの異なるタンパク質と関わる。
【0105】
以下の分析は、本発明の分析装置及び方法を用いて実行することができる。
【0106】
・プロトロンビン時間(PT)検査
凝固の有用な測定法は、プロトロンビン時間(PT)検査である。PT検査は、血液又は血漿の組織因子誘導性の凝固を測定する。これは、外因性凝固経路の評価を与えることができ、また、因子I、II、V、VII及びXに反応する。この検査は、トロンボプラスチン及びCa2+等の凝固剤を患者のサンプルに添加して、血栓形成の時間を測定することによって行われる。
【0107】
しかし、従来のPT検査結果の表現は、その値が、使用したトロンボプラスチンの性質に依存するため、国際的比較に適していない。このことが、プロトロンビン時間を表す方法としての国際標準比又はINRの採用につながっている。ISI(国際感度指標)は、トロンボプラスチン(ヒト由来、67/40)の場合の世界保健機関(WHO)国際標準品に対する特定のトロンボプラスチンを用いて得られた多数のサンプルに対するPTの値の検量線から導出される。使用されるトロンボプラスチンの具体的な方法及び種類を考慮するISIの具体的な値は、各PTシステムに割当てられ、それにより、各PT比を標準化比に変換することができる。INRを利用することにより、患者は、使用されるPTシステムに依存しない満足のいくレベルの凝固を維持できるはずである。
【0108】
・活性化部分トロンボプラスチン時間検査(APTT)
血液又は血漿の凝固の測定の別の方法は、活性化部分トロンボプラスチン時間検査(APTT)である。この検査は、内因経路が活性化されたときに起きる凝固の時間の測定である。これは、カルシウムイオン及びリン脂質(部分トロンボプラスチン)がある場合のサンプルへの活性化因子(カオリン)の添加によって実現される。APTTは、因子I、II、V、VIII、IX、X、XI及びXIIを含む内因性凝固経路を評価するのに用いられる。リン脂質からなる表面での複雑さの生成は、プロトロンビンをトロンビンに変換できるようにし、そしてそのことが血栓形成をもたらす。
【0109】
APTTは、外科手術中にヘパリン療法をモニタするためのルーチン検査として、すなわち、術前の出血傾向のスクリーニング検査として、及び患者の凝固系の全体的能力を評価するのに用いられる。
【0110】
・活性凝固時間検査(ACT)
この検査は、APTTに似ており、経皮経管冠動脈形成術(PCTA)及び心肺バイパス手術等の、大量のヘパリンの投薬を伴う手術中に患者の凝固状態をモニタするのに用いられる。ACT検査は、血栓塞栓症の治療を受ける患者にとっての、及び体外循環中の患者にとっての、ヘパリン治療の制御のための最良の臨床検査の1つと考えられている。ヘパリンを摂取している患者の場合、ACTの延長は、血中のヘパリン濃度に直接比例する。モニタは重要であり、ヘパリンの過少摂取又は過剰摂取はそれぞれ、病的血栓形成状態又は重篤な出血状況をもたらす可能性がある。この検査は、セライト、カオリン又はガラス等の凝固活性化因子の添加後に凝固時間を測定する。
【0111】
・トロンビン時間検査(TT)
この検査は、通常の血漿対照と比較した、フィブリノゲンに対するトロンビンの作用による血漿中のフィブリン血栓形成の速度を測定する。その検査は、血小板が除かれている患者の血漿に、標準的な量のトロンビンを添加して、凝血塊が形成される時間を測定することによって実行される。その検査は、播種性血管内凝固症候群や肝疾患の診断に利用されてきており、また、一般的には、中央検査室で行われる。これは、フィブリノゲンの定性的な測定である。以下に記載されているクラウス法は、フィブリノゲンの存在量の定量的測定である。
【0112】
・その他の検査
凝固分析は、第IX因子欠乏を示す因子Villa等の特定の因子を対象とする凝固分析が開発されている。別の実例は、血友病の検査の構成要素となる因子VIIIの分析である。他の検査は、活性化ペプチド因子IXa、抗トロンビン、プロテインC及びプロテインSのレベル、フィブリノゲン欠損、ループス抗体、又は血液粘性に関連する何らかの病態、病状を測定するための分析を含む。
【0113】
例えば、血液粘性は、心血管有害事象に対する良好な決定因子であることが分かっている。(Lowe et al Br J Haematol.(1997) Jan 96(1):168-73)さらに、本発明の装置及び方法は、特に、フィブリノゲンのレベル変動のモニタに有用である。"Guidelines on Fibrinogen Assays" British J of Haematology (2003) 121:396-404に記載されているように、フィブリノゲン分析は、有利には、様々な動脈心血管事象の予測因子として、又は、PT及びaPTTと一緒のスクリーニング検査として個別に用いることができる。そのような一つの分析は、クラウス分析(1957)であり、この場合、被検血漿を希釈するために、(35〜200U/ml、典型的には、100U/mlの)高濃度のトロンビンが添加されて、その凝固時間が測定される。その検査結果は、既知のフィブリノゲン濃度からなる参照血漿サンプルの一連の希釈を凝固することによって用意された検量線と比較され、結果がg/lで得られる。また、最近では、プロトロンビン時間から導出されるPT導出(PT−fg)検査が幅広く用いられている。これは、フィブリノゲンの間接的な測定である。他の適切な分析は、"Guidelines on Fibrinogen Assays" British J of Haematology 2003、121、396-404に記載されている。
【0114】
また、本発明の装置及び方法は、Love Jason E. et al "Monitoring direct thrombin inhibitors with a plasma diluted thrombin time" Thrombosis and haemostasis (2007) vol.98,n°1:234-242 に記載されているような直接トロンビン阻害剤のモニタにも用いることができる。この論文では、血漿希釈トロンビン時間は、特に、ループス阻害剤又は低レベルのビタミンK依存性因子を伴う患者の直接トロンビン阻害剤(DTI)レベルをモニタするためのaPTTの実行可能な代替になることが発見されている。このようにして、トロンビンは、上記のTT分析に関連して説明したように、単独で、又はaPTT/PT試薬と組合わせて、本発明の装置に付着させて乾燥させることができる。
【0115】
(マイクロピラー観点)
全般的な文脈において、本発明の装置は、液体サンプルを所望の手順で処理することのできる少なくとも1つの流路及び機能的手段を備えた基材を具備し、この場合、少なくとも1つの流路は、機能的手段への、その手段を通る、及びその手段からの液体サンプルの輸送のためのパターンを形成するように配置されている。このようにして、流路は、基材から上方へ突出する複数の微小ポストで構成され、それらの微小ポスト間の間隔は、液体サンプルが付けられた箇所から液体サンプルを移動させるために、流路のどこかに付けられた液体サンプル中での毛細管現象を誘導するような間隔になっている。
【0116】
本発明の好適な実施形態によれば、基材の流路ゾーンは、基材を通るフローを規定する、基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部を具備する。それらの突起部は、「マイクロピラー」又は「微小突起部」あるいは「突出微小構造」として知られている。そのようなマイクロピラーを備えた装置は、「微細パターン化装置」と呼ぶこともできる。
【0117】
理想的には、その垂直方向の突起部は、表面に対して略垂直であり、流路ゾーン内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔を有する突起部からなる領域で構成されている。そのような装置は、WO03/103835、WO2005/089082、WO2006/137785及び関連する特許に開示されており、これらの明細書の内容を、参照により本願明細書に組込む。
【0118】
一実施形態によれば、そのような分析装置は、基材表面と、基材表面に対して略垂直な突起部を備えた少なくとも1つの流体通路又は画成された流路とを有する非多孔質基材を理想的には具備し、突起部は、基材表面に対して横方向の、流体通路を通るサンプル流体の毛細管流動を生じることが可能な高さ、直径、及び突起部間の距離を有している。
【0119】
流体通路が、その流路を画成して、毛細管流動を後押しすることは、理解されるであろう。
【0120】
一実施形態において、それらのマイクロピラー又は突起部は、約15〜約150μm、好ましくは、約30〜約100μmの距離の高さと、約10〜約160μm、好ましくは、20〜約80μmの直径と、互いに、約5〜約200μm、好ましくは、10〜約100μmの突起部間の距離とを有する。流路は、約5〜約500mm、好ましくは、約10〜約100mmの長さと、約1〜約30mm、好ましくは、約2〜約10mmの幅とを有することができる。この文脈においては本発明による装置は、マイクロピラーからなる均一な領域を有しなければならない必要はないが、それらのマイクロピラーの寸法、形状、及びそれらのマイクロピラーの突起部間の距離は、その装置内で変化してもよいことに留意すべきである。同様に、その流体通路の形状及び寸法は、変化してもよい。
【0121】
理想的には、少なくとも1つの流体通路は、毛細管流動を後押しする通路である。
【0122】
マイクロピラー突起部を備えた分析装置の使用は、分析装置に沿った緻密な流動をもたらし、他の従来のシステムに優るパフォーマンスを行える。
【0123】
装置は、使い捨て分析装置、又はそのような分析装置の一部とすることができる。
【0124】
本発明のこの観点の好適な実施形態によれば、好ましくは、PECVDを用いて、SiOxが付着された微細パターン化基材が提供される。理想的には、その微細パターン化基材は、環状ポリオレフィンである。本発明者等は、この装置が、良好な表面湿潤性をもたらし、その側方流動装置に再現可能な流体特性を与えることを見出した。
【0125】
別法として、凝固剤、すなわち、フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体からなる層は、理想的には、その画成された流路に沿って、そのマイクロピラー面に施すことができる。
【0126】
本発明のこの観点の他の実施形態は、血液凝固をモニタするための装置の能力を向上させるように改質又はパターン化されている微細パターン化基材を用いて考慮することができる。例えば、最も有効に実行する、流路の長さ及び幅を選択することができる。従って、マイクロピラーの高さ、サイズ及びマイクロピラー間の距離は、具体的な最終用途により選定することができる。
【0127】
また、マイクロピラーの2次元・3次元構成は変更することができる。このようにして、それらのマイクロピラーは特に、理想的には、凝固中にそのストリップを流れる血流の遅延を強める予め画成された構造内に存在させることができる。例えば、1つの狭小部又は複数の狭小部を、その側方流路内に形成することができる。
【0128】
他の実施形態も考慮することができる。例えば、サンプル適用ゾーン内での(凝固試薬を収容できる)「培養チャンバ」の形成は、検査チャネル内へのサンプルの進入前に凝固を生じさせることを可能にするであろう。このことは、凝固中のサンプルの流動停止が、そのチャネル内でより早くに起きることを可能にして、抗凝固処理されたサンプルが横切るより長い距離を与え、このようにして、通常のサンプルと異常なサンプルとのさらにはっきりとした違いを与えるであろう。
【0129】
また、可溶性膜でできた溶解性バリアを用いることもできる。一旦、液体を接触すると、その凝固過程が開始されている間に、その可溶性膜は分解し始める(具体的な用途により、約10〜180秒かかる)。理想的には、その溶解性バリアが一旦、通り越されると、通常の凝固サンプルの液体(サンプル成分)のほとんどは、凝血塊内に捉えられ、ほんの一部のみがその検査チャネル内へ進入して短い距離を移動すると共に、(抗凝固処理された)異常な凝固サンプルは、(抗凝固剤濃度に)比例したより長い距離を移動することになる。
【0130】
本発明のさらなる観点によれば、本発明の第1及び第2の観点で明確にしたような本発明による側方毛細管流動装置を用いた、液体サンプル中の凝固のモニタ及び測定のための方法が提供され、この場合、液体サンプルは、その基材上の受容ゾーンに添加されて、液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるように、毛細管現象によりその受容ゾーンから流路を通って輸送される。
【0131】
理想的には、その方法は、内因性凝固経路を用いた分析の誘導、好ましくは、活性凝固時間[ACT]、活性化部分トロンボプラスチン時間[aPTT]及び/又は外因性経路、好ましくは、プロトロンビン分析[PT]に適している。
【0132】
本発明の側方流動装置は、SiOxをコーティングした基材表面又はPEで改質した基材表面を具備する。別法として、そのSiOxをコーティングした基材表面は、PEによってさらに改質してもよい。理想的には、その改質された基材表面は、約35〜45%のCT低下値をもたらす。
【0133】
別法として、本発明の側方流動分析装置は、凝固剤、好ましくは、フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体からなるコーティングを具備する。
【0134】
それらの分析を実行して、凝血/凝固時間を評価するために、サンプルの液体からゲル(凝血塊)状態への変換時間及び/又は移動した距離が測定される。そのため、強固で濃い凝血塊の形成を迅速に誘導し、及びサンプルのフィブリンメッシュ及び血清への分離を防ぐことが重要である。
【0135】
理想的には、その液体のほとんどを捉えて、それによってそのチャネルに沿ったある段階でのフローを遅延又は抑止する強固で濃い凝血塊の形成を迅速に誘導するために、強い凝固因子を用いるべきである。そのチャネルに沿って均一に又は傾斜的に付着された強くて急速に作用する活性化因子は、液体の高密度のフィブリンメッシュへの変換を引き起こして流動停止を引き起こし、それによって、時間及び/又は移動距離に基づく、凝固サンプルと非凝固サンプルの区別を可能にするであろう。
【0136】
理想的には、PT/aPTT活性化因子をこの目的のために用いることができる。PT試薬が特に有用であることが分かっている。それらの試薬は、組織因子と、外因経路を介して凝固カスケードを迅速に(約10〜12秒)活性化させるリン脂質の組合せとを含有する。
【0137】
本発明のさらに別の観点によれば、側方毛細管流動装置の表面へのSiOxの付着のための方法が提供され、当該装置は、液体サンプルを受け容れるためのゾーンと、液体サンプルの凝固を加速させるように、その基材の表面が改質されている、画成された流路ゾーンとを備える非多孔質基材を具備し、その方法は、
a.酸素プラズマ及びアルゴンによってその基材を処理することと、
b.プラズマ化学気相成長法(PEVCD)を用いて、その基材にSiOxを付着させることと、を具備する。
【0138】
この凝固物質が多くの方法で付着させることができることは、理解されるであろう。付着の好適な実施形態は、後にプラズマ化学気相成長法(PECVD)等が続く酸素プラズマ処理を利用する。このことは、その基材の湿潤性、剛性、化学的不活性及び生体適合性の改善を可能にする。その結果、PECVDによって生成された膜は、従来の重合によって作られた膜に優るいくつかの利点を呈する。それらの薄い層は、高度にコヒーレントであり、及び様々な基材膜に付着し、また、従来の方法では重合可能ではないモノマーから作成することができる。
【0139】
実施例で概説されている高周波電力、前処理工程でのアルゴンの使用、使用したガス及び液体前駆物質の供給、HMDSO、アルゴンと酸素の比、及び処理時間を含む様々なパラメータは、この方法のために最適化されている。理想的には、SiOx付着プロセスは、2つのステップ、すなわち、アルゴンの添加を伴う又は伴わない酸素プラズマを用いる前処理ステップと、前駆物質、すなわち、HMDSOが、与えられた高周波電源の下で酸素と反応して、その基材表面に付着されたSiOx活性種を生成するSiOxコーティングステップとで実行した。
【0140】
理想的には、約35〜55nm、好ましくは、40〜50nm、より好ましくは、44〜46nmのSiOxからなる均一なコーティングが望ましい。
【0141】
別法として、又は追加的に、その基材表面には、高分子電解質による改質を施すことができ、この場合、その基材は、酸素プラズマ処理後に、高分子電解質で浸漬コーティングされる。
【0142】
理想的には、その基材は、熱可塑性材料、好ましくは、環状ポリオレフィン等のプラスチック材料である。しかし、前述したように、他の基材を用いることもできる。
【0143】
理想的には、改質されるその基材の流路ゾーンは、その基材を通るフローを規定する、その基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部を具備する。好適な実施形態によれば、その垂直方向の突起部は、前記表面に対して実質的に垂直であり、及び前記流路ゾーン内でのその液体サンプル中の側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔(t1、t2)を有する突起部からなる領域で構成され、また、その領域では、液体サンプルを受け容れるためのゾーンに隣接して、又はそのゾーン内に、分離のための手段が設けられている。このようにして、使用した側方流動分析装置は、WO2006/137785又はWO2005/089082に従っていてもよく、それらの明細書の内容は、参照によって本願明細書に組込む。
【0144】
本願明細書において、「具備する、具備した及び具備している」又はそれらの変形という用語と、「含む、含んだ及び含んでいる」又はそれらの変形は、完全に互いに置換え可能であると考えられ、また、それらには、全面的に、可能な限り最も広範な解釈を与えるべきである。
【0145】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、クレームの範囲内で、構造及び詳細を変えることができる。
【0146】
本発明は、単に例示的に示された以下の説明及び以下の非限定的な図面及び実施例を参照すれば、より明確に理解されるであろう。
【実施例】
【0147】
実施例1
(二酸化ケイ素を有する環状ポリオレフィン基材の改質及び特性化のための方法)
(材料)
B2.2 COP Amic(登録商標)チップ(Åmic BV(スウェーデン)により供給されている)
・高さ:65〜70μm、上部直径:ca 50μm、底部直径:ca 70μm、及びcc:185×85μm(列状のピラーの中心間の距離:85μm、行状のピラーの中心間の距離:185μm)。
18.3MΩcm以上の比抵抗を有する、Millipore Milli-Q water purification system(Millipore、米国)からの水;
98%以上のグレードのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)(Sigma-Aldrich);
高純度のアルゴン/酸素(Premier、99.9%)(Air Products Ireland Ltd.);
水性食用色素溶液(Goodall's(商標));
96ウェルの黒い側部で、透明ベースの微量測定用プレート(Greiner Bio-One);
トロンビン比色分析試薬S-2238(Chromogenix);
正常なクエン酸ヒト血漿(Hemosil);
粘着剤(PSA)(AR8890)(Adhesives Research)。
【0148】
(方法)
(SiOx付着)
付着プロセスは、Prasad[22,34]によって記載されたPECVDによるステンレス鋼へのSiOx付着のためのプロセス条件下で、13.56MHzの高周波PECVD炉内で行った。しかし、付着プロセス条件は、COP基材上に所望の膜特性を実現できるように変更した。付着プロセスに必要なガス(アルゴン、酸素及びSiOx前駆物質のHMDSO)は、付着チャンバに接続されたマスフローコントローラを介してそのチャンバに供給した。ソースからマニホールド及びチャンバまでつながるHMDSOの供給ラインは、ステンレス鋼で形成し、その前駆物質の凝縮を防ぐように、温度制御された加熱テープを用いて、55℃まで加熱した。サンプルは、SiOx付着の前に、酸素プラズマを用いて処理した。
【0149】
まず、真空状態を生成した。ターゲットチャンバ圧力は、30mTorr以下にした。一旦、このレベルを達成すると、表面を、150〜500Wの高周波電力の下で、異なる比率の酸素とアルゴンの供給混合物を用いて3分間、処理した。供給した酸素の量は、0〜150立方センチメートル毎分(SCCM)であり、アルゴンは、0〜134SCCMであった。その後のSiOx改質は、この処理の効果は経時的に不安定であり、すなわち、生成される官能基が劣化しやすいため、酸素プラズマプロセスが終了した直後に行った。アルゴンの供給は(使用した場合)、前処理工程後に停止し、酸素:HMDSO(50〜500SCCM:10〜15SCCM)の混合物を、3〜30分間、加えた。また、付着工程でのアルゴン(0〜100SCCM)の希釈の影響もテストした。プロセスの最適化に続いて、サンプルを、250Wの高周波電力、50SCCMのアルゴン及び50SCCMの酸素に3分間さらし、300Wの高周波電力、500SCCMの酸素及び15SCCMのHMDSOで10分間、コーティングしたときに、SiOx膜形成のための最良の条件が得られた。改質したサンプルは、周囲条件下で保存した。また、偏光解析法、FT−IR及びATRを用いた膜の物理的特性化のためにシリコン基板上に膜を形成するのにも、同じ付着条件を用いた。
【0150】
(原子間力顕微鏡法)
原子間力顕微鏡法(AFM)イメージングは、10nm以下の曲率半径、40N/mのバネ定数及び300kHzの共振周波数(いずれも公称値)を有する標準的なシリコンカンチレバー(BudgetSensors、Tap300Al)を利用して、(Nanoscope IIIa electronicsを備えた)Dimension 3100を用いて、Tapping Mode(商標)で大気中で行った。トポグラフィーイメージは、1〜2Hzの走査速度で記録した。表面粗度は、AFMの製造会社のソフトウェア(NanoscopeIII,V5.12)を用いて評価した。ナノメートルで計算した二乗平均平方根(Rms)イメージを、平均水準からの高さ偏差の平均として定義した。2〜3個のサンプル上の4〜5箇所を走査して、粗さの値を得た。Rms値(nm)を平均した。また、サンプルは、膜厚に関しても分析した。スライドの一部は、コーティング後に除去できるテープで被覆した。4つのサンプルの走査から得られた値を平均した。
【0151】
(接触角測定)
基材の表面エネルギは、ビデオベースの接触角アナライザ(First Ten Angstroms, FTA200)によって測定した。各サンプルに対して、3〜6つのデータ点を採用し、接触角(CA)を、同じサンプルの数箇所で測定した。その表面の経時的な安定性を確認するために、CAは、数週間にわたって定期的に測定した。
【0152】
(フーリエ変換赤外分光法及び赤外減衰全反射)
PECVDによりシリコンウェーハ上に付着したSiOx膜は、COP基材上に付着させた本発明者等のSiOx膜における化学的結合構造を解明するために適用した減衰全反射(ATR)モードで、窒素雰囲気中でZnSe結晶を用いて、フーリエ変換赤外(FT−IR)分光計(Perkin Elmer Spectrum GX、FT-IR System)を用いた赤外吸収分光法によって分析した。走査は、4cm−1の解像度で実行した。32回の走査を行った。
【0153】
(フロー時間実験)
水性染料溶液又は検量血漿の一定分量15〜20μlを、装置上のマイクロピラーチャネル内の基材サンプルゾーン内に添加した。その液体が流れて、そのチャネルの終端に到達するのに必要な時間を、ビデオ撮影により測定した。また、そのビデオは、フローの品質も記録した。
【0154】
(発色性トロンビン分析)
発色性トロンビン分析は、通常の血漿凝固時間(CT)に対するSiOxコーティングの影響を判断するために行った。その分析は、96ウェルの微量測定用プレートで準備した。そのプレートのベースは、両面PSAからなる層で改質し、各ウェルのベースは、メスで切除した。そして、改質した基材及び改質していない基材、及びガラス対照を、そのプレートの接着ベースに取り付けた。追加的な対照は、標準的なポリスチレンベースに対して行った分析であった。50μlの正常なクエン酸ヒト血漿を、ウェル内に配置した。それらのサンプルを、室温で15分間、培養した。50μlの比色分析試薬(S-2238)をウェルに添加し、最後に、血漿サンプル中のクエン酸の影響に勝る反応を開始する50μlの25mM CaCl2を添加した。吸収度は、Tecan、Infinite M200分光光度計を用いて、37℃で70分間、30秒毎に405nmで測定した。凝固時間は、最大信号の半分における吸収度に対応する時間として採用した。
【0155】
(結果及び論考)
(SiOxのプラズマ化学気相成長法)
高いO2/モノマー比及び高電力は、SiO2状膜の良好な付着のための方策における主要なポイントである。しかし、そのようなプラズマ相の複雑さのため、そのプラズマ相における活性種密度と、付着した膜の化学的組成との相関関係を測定して、そのプロセスを最適化することは非常に困難である。(Creatore,M., Palumbo,F., d'Agostino,R., Fayet,P.(2001)。RF plasma deposition of SiO2-like films: plasma phase diagnostics and gas barrier film properties optimisation, Surface & Coatings Technology, 142 163)ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)は、PECVDによるCOP基材へのSiOx付着のための前駆物質に関する本発明者等の選択である。通常は液剤であり、PECVDで分解されるHMDSOは、コーティングプロセスで必要な活性種のソースとして作用する。
【0156】
SiOx付着プロセスは、2つの工程、すなわち、アルゴンの添加を伴って、又は伴わないで酸素を用いた前処理工程と、所定の高周波電力の下で、前駆物質であるHMDSOが酸素を反応して、基材表面に付着したSiOx活性種を生成するSiOxコーティング工程とで実行した。PECVDによって付着した膜の物理化学的特性に対するアルゴン希釈の影響を評価するために研究を行った。ある場合には、アルゴンの添加が有益である可能性があることが分かり、付着速度の向上に気付いた。このことは、接触面積の増加をもたらして、ポリマー表面へのコーティングの良好な接着を生じるだけではなく、良好なクリーニング方法ももたらした。しかし、この好ましい効果にもかかわらず、付着混合物中のアルゴンの希釈は、付着した層の品質に好ましくない影響を及ぼす可能性があるために推奨できない。他の研究グループによって既に主張されているように、このことは、アルゴンイオン衝撃による可能性がある。(Kushner,M.J.(1988). A Model for the Discharge Kinetics and Plasma Chemistry during Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition of Amorphous Silicon, Journal of Applied Physics, 63(8):2532; Keppner,H., Kroll,U., Torres,P., Meler,J., Fischer,D., Goetz,M., Tscharner,R., Shah,A.,(1996). Scope of VHF plasma deposition for thin-film silicon solar cells, Conference Record of the Twenty Fifth Ieee Photovoltaic Specialists Conference - 1996, 669)しかし、基材のプラズマ前処理が、ポリマー及び金属表面の両方に対するHMDSO膜付着を著しく改善できることも分かっていた。(Hegemann,D., Vohrer,U., Oehr,C., Riedel,R.(1999). Deposition of SiOx films from O-2/HMDSO plasmas, Surface & Coatings Technology, 119 1033; Domingues,L., Oliveira,C., Fernandes,J.C.S., Ferreira,M.G.S.(2002). EIS on plasma-polymerised coatings used as pre-treatment for aluminium alloys, Electrochimica Acta, 47(13-14): 2253)これらの理由のため、酸素とアルゴンの混合物を、ならびに酸素希釈をそのままでテストした。
【0157】
付着プロセスに適用した高周波電力及び酸素とHMDSOの比は共に、コーティングの付着強度に対して明確な影響を有することが分かっている。(Prasad,G.R., Daniels,S., Cameron,D.C., McNamara,B.P., Tully,E., O'Kennedy,R.(2005). PECVD of biocompatible coatings on 316L stainless steel, Surface & Coatings Technology, 200(1-4): 1031)高周波電力及び酸素とHMDSOの比の影響を評価する、それぞれ、500W、100:15のSCCM(SiOx1)を10分間及び150W、50:10のSCCMを3分間(SiOx2)という2つの条件セットを適用した。(この場合、前処理条件は、SiOx1は、500Wの高周波電力で、100SCCMの酸素を3分間、SiOx2は、150Wの高周波電力で、50SCCMの酸素を3分間)
【0158】
高い高周波電力にさらされた2つのチップは、ポリマーの化学的構造が、明確に高電力の影響を受けるように、その両面が融解して焼成された。しかし、見た目が変わらず、清浄で透明なサンプルをテストした。図2は、特定の領域のCA値(湿潤性)に対する処理の影響を示す。それらのCA値は、制御された非改質COP表面で検査した。その処理は、100度及び140度の未処理の表面値から、50度をかなり下回る改質済み表面値までのCAの低下に著しく影響を及ぼすことが図を見て分かる。また、微細構造化されたマイクロピラーゾーンが、10度以下の極端な親水性表面を生じる表面パターニングによって導入された本質的な毛細管現象による、明らかにかなり低いCAを有していることも観察されている。CA測定は、改質された表面の高い湿潤性により、そのエンドゾーンでは不可能である。また、SiOx1は、CAの全体的な低下において、わずかに優れているように思われる。
【0159】
表面改質の安定性は、その基材の非構造化面を分析することにより、数週間にわたってモニタした。(図3)時間の経過と共に、CAは、そこで安定し始める約12週間後まで増加していた。SiOx1の高電力付着は、親水性がSiOx2よりもかなり高いままであり、実現された初期値を反映している。後に続く表面特性の経時的な変化は、それぞれ60度及び70度で安定している。
【0160】
前述のデータから、高すぎる高周波電力(450W以上)は、COPサンプルの過熱及び損傷につながる可能性があることが分かった。しかし、高周波電力の低下は、前駆物質の分解速度が、印加される電力に大きく依存するため、膜の親水性の低下を生じる可能性がある。前処理工程における250Wの高周波電力、及びコーティングプロセスにおける300Wが、良好な品質を得るのに、及びサンプル損傷のリスクをなくすのに最適であることが分かった。膜付着は、O2/HMDSO比、O2及びArの希釈及び付着時間等の付着条件を変えることによって、さらに改善された。O2は、HMDSO前駆物質が存在する場合にSiOxを生成するのに必要であるため、コーティング工程における酸素の添加は本質的であった。膜の特性化は、次のような最適な条件下で、SiOxでコーティングされた面で行った。サンプルは、250Wの高周波電力で、50SCCMのアルゴン及び50SCCMの酸素に3分間さらし、300Wの高周波電力、500SCCMの酸素及び15SCCMのHMDSOで10分間、コーティングした。最適化されたコーティングは、水中で安定的であり、十分な親水性(約61度〜64度のCA)を呈し、そのことは、経時的に著しく悪化しなかった。これらの条件下で、SiOxでコーティングされたチップは、特別な改質後処理を要せず、また、大気保存条件は、膜特性に著しく影響を及ぼさず、そのことがチップの使い勝手を良くしている。全てのさらなる研究は、特に明記しない限り、これらの付着条件に基づいている。
【0161】
(原子間力顕微鏡法分析)
非改質COP表面、酸素/アルゴン前処理済みサンプル及びSiOxで改質された表面のAFM分析の結果を図4に示す。対照のため、高度に研磨したステンレス鋼を、COP(図5)と同じ方法で改質した。また、表面粗度値(Rms)は、図6に示されている。改質していない表面は、粗度値が0.7±0.21nmで、ミクロン長さスケールで極度に円滑であった。このことは、後に続く酸素/アルゴンプラズマ処理を劇的に変化させ、表面構造のレベルは、1.54±0.81nmまでの粗どの増加を伴って、大幅に増加した。SiOx付着後、その表面は、粗度が0.96±0.51nmで、わずかに円滑で、より明確な表面構造に戻り、明白な表面改質の存在を明確に示していた。
【0162】
比較すると、ステンレス鋼は、COPと比較して、非改質基材に関してより大きな表面粗度を呈していた。これは、酸素/アルゴンプラズマ処理の後の改質の同様のパターンになり、この場合、粗度は、2.48±1.92nmから7.02±4.12nmになる。SiOx改質は、改質されたCOP基材と非常に似た表面形態をもたらし、3.69±2.91nmの粗度値を生じさせた。AFMデータは、PECVDプロセスにおけるアルゴンの使用が、膜の粗度の増加をもたらしたことを裏付けている。上記で強調したように、SiOxコーティングは、アルゴン前処理後の表面の粗度を低下させる傾向があった。
【0163】
オープン型の側方流動プラットホームアッセイ用基材としてのCOPの使用に関する別の利点も明らかになっている。無地のポリマー表面は、ステンレス鋼と比較して、比較的滑らかであった。アルゴン/酸素前処理の後、粗度は、テストした両基材の場合、増加した。この理由は、おそらく、上述したようなアルゴンイオン衝撃によるものである。アルゴンは、その希釈が良好な清浄をもたらすため、混合物から除外されず、そのことは、後に付着される膜の品質に影響を及ぼす。アルゴン希釈は、膜付着を改善し、より均質で均一なコーティングを形成することを可能にする。膜均質性は、結果として生じる表面の流体特性の再現性に著しく影響を及ぼす可能性がある。アルゴンは、表面粗度を低下させるために、付着工程から除外した。アルゴン/酸素プラズマ処理した表面のSiOxコーティングは、表面の平滑化をもたらした。その粗度は、改質前ほどには低くなかった。しかし、粗度は、両基材の場合には、著しく低下した。
【0164】
(膜厚)
AFMは、膜厚を評価するのにも利用した。コーティングの厚さは、その付着時間に大きく依存する。(Sobrinho,A.S.D., Latreche,M., Czeremuszkin,G., Klemberg-Sapieha,J.E., Wertheimer,M.R. (1998). Transparent barrier coatings on polyethylene terephthalate by single- and dual-frequency plasma-enhanced chemical vapor deposition, Journal of Vacuum Science & Technology A, 16(6): 3190; Yang,M.R., Chen,K.S., Hsu,S.T., Wu,T.Z.(2000). Fabrication and characteristics of SiOx films by plasma chemical vapor deposition of tetramethylorthosilicate, Surface & Coatings Technology, 123(2-3): 204)図7は、改質表面と非改質表面との間の境界のAFMイメージを示す。2つの表面の間のステップは、その3次元画像を見てはっきりと分かる。その段差は、44.4nmであると推定された。(0.05%RSD、n=5)
【0165】
(減衰全反射モードにおけるフーリエ変換赤外分光法)
SiOxコーティングをさらに特徴付けるために、非改質基材及びSiOxをコーティングしたCOP基材に対してATR−FTIRを用いて、定性的研究を行った。この方法は、高度に敏感であり、選択的であり、非破壊的であり、また、周囲条件下で実行できる。そのことは、シリコンベースのコーティングを特性化するのにさらに適している。(Weldon 1999, Niwano 1994, Watanabe 1998, Nagai 2001, Mink 1997)
【0166】
図9に示すように、ATR−FTIRスペクトルは、2つの異なる領域、すなわち、3500〜2800cm−1及び1500〜750cm−1で様々な変動を示している。それらのピークは、G.Socrates(Soctrates 2004)のハンドブックに基づく結果と考えられる。第1の領域においては、分離し、及び付随するSiOH伸縮振動(Theil 1990)に対応する、3565及び3292cm−1に集中する2つの貢献を備えることのできる、3750〜3000cm−1の広い帯域。2941cm−1のピークは、CH3基の非対称伸縮モード振動に関連している。2914及び2855cm−1のピークは、それぞれ、CH2の非対称及び対称伸縮に貢献することができる。これらのピークは、両グラフ上に現れているように、その基材から生じている。
【0167】
第2の領域(1500〜750cm−1)においては、1455cm−1に現れているその基材によるピークは、CH2のC=Hの曲げ振動に関連している。1278cm−1に現れているピークは、メチルシリルSi−(CH3)x振動に相当する。1250〜980cm−1の広い帯域は、それぞれ、Si−R鎖の伸縮振動、Si−O−Siの対称伸縮、Si−O−Cの非対称伸縮振動、及びSi−O−Siの伸縮振動の結果と考えられる1218、1180、1131及び1058cm−1での4つの貢献を備えることができる。Si−OH伸縮振動に相当するピークは、920cm−1で生じる。801cm−1でのピークは、Si−O−C伸縮モードに相当する。これらのデータは、CA及びAFMデータと共に、その表面が、SiOx層によって有効に改質されていることを示す。
【0168】
図8は、シリコンウェーハ上に付着されたSiOxの赤外線スペクトルを示す。450、800及び1070cm−1近辺に見える3つの主なピークは、Si−O−Si振動モード、すなわち、それぞれ、ロッキングモード、曲げモード及び伸縮モードに相当する。(Benissad,N., Aumaille,K., Granier,A., Goullet,A.(2001). Structure and properties of Silicon oxide films deposited in a dual microwave-rf plasma reactor, Thin Solid Films, 384(2): 230)シリコンウェーハ上に結合しているSi−O−の存在は、それらの活性種が、コーティングされたCOP上に存在していることの100%の確かさを与える訳ではない。
【0169】
(充填時間研究)
側方流動バイオアッセイに適用できるようにするためには、結果として生じる表面改質は、その装置へのマイクロピラー構造の再現可能で均一な充填を可能にする必要があるであろう。水性染料溶液が、そのストリップの狭い検査チャネル領域(図1を参照)と移動するのにかかる時間を、ビデオキャプチャを利用して測定する充填時間実験を行った。SiOx1及びSiOx2の改質の充填時間を図10に示す。両プロトコルによる改質が、かなり上昇した表面活性からなる基材改質をもたらしたように思われるが、充填時間実験におけるパフォーマンスには、以前として大きな差がある。少ない高周波電力改質方法の場合(SiOx2)、その水性サンプルは、不十分な親水性により、その微小流路を横切ることができなかった。しかし、SiOx1は、その流路を1366±27sで横切るという均一で再現可能な充填特性をもたらした。SiOx1の条件に従って改質され、サンプルの損傷を防ぐために、より多くの酸素によって、及び少ない高周波電力を印加することによって改質された表面は、適切な流体パフォーマンス特性を可能にする十分な湿潤性及び安定性を生じさせるため、側方流動アッセイのさらなる進歩に利用することができるであろう。
【0170】
最適化したSiOx層方法を用いた付着に続いて、検量血漿(Hemosil)中の0.4%のTriton X-100の一定分量15μlを、側方流動試験液として使用した。流体フロー時間は、平均フロー時間78s(9% RSD)に対して十分に再現可能であり、このことは、凝固モニタアッセイ又は他の生物学的診断プラットホームとして、オープン型の側方流動実験に潜在的に有用であるSiOxをコーティングしたプラットホームを形成しようとする際に最も重要である。
【0171】
(SiOxで改質した基材の血漿凝固に対する影響)
SiOxで改質した表面は、本質的にガラスと似た材料物質であるため、原理上、ガラスと同様に作用するはずである。ガラス製表面及びガラス材料は、化学的不活性、機械的強度及び加工性という多くの有益な特性により、長年にわたって幅広く用いられてきた。しかし、ガラスにも、処理する手段及びその脆さを含む多くの欠点がある。ポリマーと、ガラスのような表面特性を組合わせることは、それらの両方の有益な特性を備えたハイブリッド材料を生み出す優れた方法である。確認されているガラスの一つの特性は、血液凝固過程を速める能力を有しているということであった。(Rapaport,S.I., Aas,K., Owren,P.A.(1955). Effect on Glass upon the Activity of the Various Plasma Clotting Factors, Journal of Clinical Investigation, 34(1): 9; Sharma,C.P., Szycher,M. Blood Compatible Materials and Devices: Perspectives Towards the 21st Century, CRC Press, 1991)実際には、ガラス容器内への採血は、クエン酸塩等のカルシウムキレート剤、又は、ヘパリン等のトロンビン阻害剤の添加によって凝固を防がなければならない。大きく負に帯電した二酸化ケイ素表面は、血管損傷の後の露出した血管系(コラーゲン)に似ており、内因性経路を介した凝固カスケードを開始すると思われている。この現象は、多くの血液凝固分析において幅広く活用されており、この場合、凝固を速めるために、ガラス、又は、セライト及びカオリン等の他の同様のケイ酸塩が、血液サンプルに加えられる。従って、ガラス状表面で改質された表面は、内因性経路を介した血液凝固の導入を要するバイオアッセイ、例えば、活性化部分トロンボプラスチン(aPTT)や活性凝固時間(ACT)を含む凝固時間(CT)タイプの分析を実行するのに用いることができるであろう。
【0172】
SiOxで改質された表面の凝固過程を速める能力を評価するために、中にクエン酸ヒト血漿及び比色分析トロンビン基質を配置したマイクロタイタープレートウェルのベースとして、その基材を導入した。それらは、凝固を開始できるようにするためのCaCl2の添加前に培養できるようになった。生じたトロンビン曲線を図10及び図11に示す。生データ及び微分データの両方において、ポリスチレンマイクロプレート基材上での凝固の発現が約2000sであったことが図を見て分かる。改質していないCOPは、それ自体がCTにある程度の影響を及ぼし、凝固の発現を1500s程度まで低減することが分かった。SiOxで改質した基材は、これをさらに1000s程度まで低減し、又は、CTを約50%低減し、すなわち、顕著な影響を及ぼした。
【0173】
血漿CTを低減する改質していない基材及びSiOxで改質した基材の両方の安定性を、数週間にわたって調べて、ガラスと比較した(図12)。ガラスは、43.1±3.6%のCT低減値を示した。SiOxで改質した面の裏面は、当初は、多少のCT短縮をもたらした。しかし、この効果は、一週間後には、ごくわずかになるか、又は、実質的に増加した。SiOxで改質した表面は、数週間にわたって徐々に改良するように見え、3〜8週間後に、35〜37%程度のCT低減値に達し、凝固過程を増進させたように思われる、まだ明らかになっていない表面変化としての付加を示唆している。
【0174】
(結論)
この実施例は、酸素/アルゴンプラズマ処理後のプラズマ化学気相成長法を用いた、SiOxからなる層を備えた環状ポリオレフィン製のZeonor(登録商標)の改質のための方法を示している。本発明者等は、付着中のガス含有量の制御が、SiOx膜の品質及び安定性を高めることに気付いた。
【0175】
そのSiOx層は、原子間力顕微鏡法、フーリエ変換赤外分光法及び減衰全内部反射分光法を用いて、広範囲にわたって特性化し、この場合、44nmの均一なSiOx膜(0.05%RSD)の存在が明確に確認された。
【0176】
本発明者等は、SiOxによる改質は、特に、熱エンボス加工したマイクロピラー毛細管充填ベースの基材と組合わせた場合に、湿潤性が向上し、かつ優れた流体特性を備えた表面をもたらすことを発見した。また、本発明者等は、そのSiOx表面は、ヒト血漿の凝固を速める能力も持っていることを発見した。
【0177】
具体的には、本発明者等は、原子間力顕微鏡法、分光法及び接触角測定によって広範囲に特性化されている、SiOxのプラズマ化学気相成長を伴う新規の環状ポリオレフィンポリマー製のZeonor(登録商標)の最適化された改質について説明した。本発明者等は、そのSiOx膜をマイクロピラー基材上に付着させて、均一で予測可能な充填特性を備えた高度に湿潤可能な表面を実現した。均一で、再現可能でかつ安定した膜が得られている。また、本発明者等は、SiOxは、ガラスのような特性を共有し、及びガラスの特性を利用するが、ポリマー微小流体装置の高い加工性から恩恵を受けるバイオアッセイの開発に適用できることも説明した。
【0178】
実施例2
(側方流動分析装置の試験)
(フィブリノゲンコーティング)
(材料及び方法)
・B2.2 COP Amic(登録商標)チップ
・実施例1のような血液凝固製剤、すなわち、塩化カルシウム(BioData)、フィブリノゲン(Sigma)
・PT試薬(Dade Innovin)
・aPTT試薬(aPTT−SP)
・サンプル
【0179】
(側方流動実験及び血液凝固プロトコル)
凝固を引き起こすために、血液凝固製剤を乾燥試薬として、その装置の表面に添加すると、検査されるサンプルが、その試薬上を流れるようになる。血液の凝固する能力により、サンプルは、その装置に沿って異なる速度で移動し、凝固がすぐに起きて、急速に凝固し、又は、早い時点で停止してしまう場合には、さらにゆっくりと進む。
【0180】
i)側方流動試験
テストした溶液は、特に明記しない限り、20μlの容量で適用した。流体の先頭が、B2.2 COP Amicチップのマイクロピラーチャネルに沿って、0、5、10、15、20、23、27mmの7つの段階に達する時間を測定した。使用した凝固剤の種類、塩化カルシウム(BioData)の付着、及びフィブリノゲン(Sigma)の添加を含むいくつかのパラメータを測定した。
【0181】
40μlのPT試薬(Dade Innovin)又はaPTT試薬(aPTT‐SP)を、その装置の表面で乾燥させた。テスト及び対照は、凝固を可能にし、又は防ぐために、以下のように行った。
テスト:(37℃で3分間、予熱した)血漿+25mM CaCl2(1:1)
対照:(37℃で3分間、予熱した)血漿+NH4Cl(1:1)
【0182】
ii)フィブリノゲンの効果
フィブリノゲンの効果は、最初に、20μlの50mg/mLフィブリノゲンを付着させて、その表面で乾燥させることによって調べた。以下のテストサンプル及び対照サンプルを用いた。
テスト20μl:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mM CaCl2(1:1)
テスト30μl:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mM CaCl2(1:1)
対照20μl:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mM NH4Cl(1:1)
対照30μl:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mM NH4Cl(1:1)
【0183】
iii)フィブリノゲン及び/又は塩化カルシウムの複合効果
追加的な試験は、予め凝固剤と混合したサンプルを、PT及びaPTTのかたちで添加した状態で、フィブリノゲン及び塩化カルシウムの付着、あるいは塩化カルシウム単独の付着の複合効果を示すために行った。この場合、20μlの50mg/mLフィブリノゲン+25mMのCaCl2(1:1)を付着させて、一晩、乾燥させた。対照の表面は、10μlの25mMのCaCl2を一晩、乾燥させることによって準備した。
【0184】
テスト溶液は、以下のとおりである。
・(混合した直後に適用した)血漿+PT(Dade Innovin)(1:1)
・(37℃で5分間、予熱した)血漿+aPTT(aPTT‐SP)(1:1)
・(37℃まで温めた)血漿+PBS(1:1)(血漿粘度制御)
・(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mMのCaCl2(1:1)(凝固の非加速制御)
【0185】
iv)露出したCOPチップ上の外部混合された凝固剤
そのチャネル内に化学的物質が付着されていない、露出したCOPチップに対する外部混合された凝固剤の影響を調べるより詳しい実験を行った。以下のサンプルを使用した。
テスト:Triton X-100の添加を伴う、血漿+(CaCl2を含有する)PT試薬(Dade Innovin)(1:1)
対照:Triton X-100の添加を伴う、血漿+aPTT試薬(CaCl2を含まず)(aPTT‐SP)(1:1)
【0186】
混合した直後に、20μlの一定分量を、前培養工程を伴わずに、サンプル領域に加えた。
【0187】
v)フィブリノゲン濃度及び充填特性
フィブリノゲン濃度の影響に関するより詳しい研究も行った。何種類かの濃度のフィブリノゲンを用意した。それぞれ20μlを、そのチャネルに加えて、蒸発させるために、室温で一晩、そのままにした。
【0188】
表1は、用いた濃度と、その表面に乾燥させたフィブリノゲンの対応する量
【表1】
(チャネル内に付着したフィブリノゲンの濃度及び質量)
【0189】
テスト:血漿+PT試薬(凝固)(Dade Innovin)(1:1)
対照:血漿+aPTT試薬(非凝固)(aPTT‐SP)(1:1)
【0190】
濃度が50mg/mLのフィブリノゲンを、2倍の濃度のPT試薬(リコンビプラスチン)と1:1で混合した。1:1という比は、メーカーが推奨する標準的な濃度での2倍希釈したフィブリノゲン及びリコンビプラスチンを生じた。Triton X-100は、0.125%の濃度で添加し、この溶液の20μl又は40μlを、その表面に加えて、室温で一晩、乾燥させた。
【0191】
Dade Innovinは、流動性に影響を及ぼす乾燥形態の「結晶」を形成するので、リコンビプラスチンが選択されている。
【0192】
40μlの付着溶液は、1mgのフィブリノゲンを含有し、また、20μlの付着溶液は、0.5mgのフィブリノゲンを含有する。
テスト1:(37℃で7分間、予熱した)血漿+25mMのCaCl2(1:1)
テスト2:(37℃の)血漿+25mMのNH4Cl(1:1)
対照:(37℃の)25mMのCaCl2+トリス塩酸(1:1)
【0193】
テスト2においては、血漿中のクエン酸塩の影響に打ち克つためのCaがないが、一旦、サンプルが、Caを含有する乾燥したPT試薬を有する表面と接触すると、ある程度の凝固が起きる可能性がある。
【0194】
(結果)
以下の結果は、血液凝固分析用のプラットホームとして使用される側方流動分析システムの効用を示す。
【0195】
i)(側方流動試験)
PT及びaPTTの場合の図13a及び図13bに示すように、凝固テストサンプルが、その装置を横切るのに要する時間は、非凝固サンプルよりも長くかかった。
【0196】
ii)(フィブリノゲンの影響)
図14は、検査チャネル上に付着したフィブリノゲンの利用の影響と、サンプル容量の影響を示す。20μlでは、テストサンプルと対照サンプルとの間に、移動時間の著しい差があった。この移動時間の差は、30μlの場合には、あまり顕著ではない。しかし、両テストサンプルのフローは、15mmで停止した。適用したサンプル容量の差は、より素早く移動するための制御を引き起こす、サンプル容器からの「プッシュ」効果をもたらす。しかし、この影響は、適用したサンプル容量の低減の影響を弱めることができる。
【0197】
iii)(フィブリノゲン及び/又は塩化カルシウムの複合効果)
図15及び図16は、フィブリノゲンをコーティングした装置上の流動速度は、塩化カルシウムだけをコーティングした装置上の流動速度よりもかなり遅いことを示している。しかし、粘性制御に対して起きたこのことは、恐らく、付着したフィブリノゲンの粘性及び界面特性にも関係している。両面で、血漿PTは、減速したか(CaCl2上)、あるいは、早々に停止した(フィブリノゲン及びCaCl2)。血漿aPTTの速度も、フィブリノゲン及び塩化カルシウムに関する対照と比較して低下した。
【0198】
iii)(露出したCOPチップ上の外部混合された凝固剤)
チャネル内に化学的物質が付着されていない露出したCOPチップに対する外部混合された凝固剤の影響を調べるためのより詳しい実験を行った。Dade Innovinを伴う血漿は、そのPT試薬がカルシウムを含有しているため、すぐに凝固し始めた。aPTT‐SP試薬中には、血漿中のクエン酸塩の影響に打ち克つためのカルシウムがないため、対照は凝固しなかった。aPTT試薬は、活性化因子と混合された血漿の粘性及び挙動を模倣する対照として使用した。テストサンプル及び対照サンプルは共に、チャネルの終端部(27mm)に到達した。しかし、テストサンプルは、特に、そのチャネルの終端部に向かってかなり遅くなり、また、形成された凝血塊は、図17に示すように、サンプルゾーン内に見ることができた。(n=6)
【0199】
iv)(フィブリノゲン濃度及び充填特性)
フィブリノゲン濃度の影響に関しても、より詳しい研究を行った。いくつかの濃度のフィブリノゲンを用意した。各濃度の20μlを、そのチャネルに加えて、蒸発させるために室温で一晩、放置した。
【0200】
図18は、異なる量のフィブリノゲンに対する、その表面のテスト溶液及び対照溶液(n=2)の充填特性を示す。50mg/mL(1mgのフィブリノゲン)の場合、そのテスト溶液は、対照溶液よりもゆっくりと移動し、対照溶液及びテスト溶液は共に、そのチャネルの終端部に到達する前に停止し、すなわち、テスト溶液は13mmで停止し、一方、対照溶液は、23〜27mm(異なる構造のマイクロピラーを備えた領域)で停止した。より低い濃度のフィブリノゲンの場合、対照溶液は、より速くなるが、そのチャネルの終端部に到達した。20mg/mLの表面(0.4mgのフィブリノゲン)では、テスト溶液は、対照溶液よりもゆっくりと移動し、23〜27mmの領域で停止した。10mg/mL(0.2mgのフィブリノゲン)の表面では、そのテスト溶液は、ここでもまた、対照溶液よりもゆっくりと移動し、及び薄くてほとんど不可視の血清層のみが、まだゆっくりと動いている状態で、23〜27mmで停止したが、その終端部には到達しなかった。5mg/mL(0.1mgのフィブリノゲン)に対する充填は、10mg/mLと同様であったが、テストと対照の充填時間はかなり異なり、液体血清からなる薄い層はその終端部に到達した。2.5mg/mL及び1.25mg/mL(0.05mg及び0.025mgのフィブリノゲン)の場合、テストと対照の移動時間の差は、そのチャネルの最後の段階でのみ顕著であった。要約すると、より多くのフィブリノゲンが、そのチャネルに付着すると、テスト及び対照の両溶液の場合のフローは、より遅くなる。
【0201】
テスト溶液の場合の充填特性を、図19で比較する。
【0202】
明確な充填時間値を得るため、対照の場合の充填時間は、表面張力、親水性等の違い(すなわち、乾燥したフィブリノゲンの量による違い)のフロー時間に対する影響を排除するために、テスト充填時間から減算した。(図20)
【0203】
図に示すように、その表面は、充填時間を決める要因だけではなく、充填特性にも大きな影響を及ぼした。明確な充填時間値を用いたグラフを見て分かるように、付着させたフィブリノゲンの量と、時間/移動距離との間には相関関係がある。フィブリノゲン濃度が低くなればなるほど、凝固/フィブリン形成プロセスが遅くなり、及びフローが速くなる。
【0204】
(時間/移動距離の概要)
50mg/mL‐13mmで停止
20mg/mL‐23〜27mmで停止
10mg/mL‐液体からなる薄い層のみが23〜27mmを移動;終端部には到達せず
5mg/mL‐液体血清からなる薄い層のみが23〜27mmを移動;終端部に到達
2.5mg/mL‐終端部に到達
1.25mg/mL‐終端部に到達
【0205】
図21a及び図21bは、充填特性に対する塩化カルシウムの影響を示す。
【0206】
実施例3
(高分子電解質改質)
(材料及び方法)
COPベースの微小流体プラットホーム基材である、4castchip(登録商標)(Åmic AB、スウェーデン)を基材として使用した。
【0207】
この実施例で用いた高分子電解質(PE)改質法は、2つの工程、すなわち、酸素プラズマ処理と、高分子電解質を用いた浸漬コーティングと、で構成される。
【0208】
酸素プラズマ処理は、付着チャンバのベース圧力が30mTorr以下の状態で、高周波(RF)PECVD炉内で行った。50立方センチメートル毎分(SCCM)の酸素を250Wの高周波電力で3分間加えた。
【0209】
PE処理は、その効果が経時的に安定せず、また、生成される官能基が劣化しやすいため、酸素プラズマプロセスが終了した直後に行った。サンプルは、2mg/mLのPEI(ポリエチレンイミン)のMillipore水溶液に10分間浸し、水で洗浄した後、2mg/mLのPAC(ポリアクリル酸)水溶液に10分間浸し、その後再び、水で洗浄した。PEIに浸した後、PACに浸すことを再び繰り返した。そして、全てのサンプルを水で洗浄した後、乾燥空気流で乾燥させた。そのプロセスは、室温(RT)で実行した。
【0210】
(結果及び結論)
図22〜図26は、PE処理の場合の結果を示す。
【0211】
実施例4
(比較データ‐シクロオレフィンポリマー微小流体装置上での側方流動分析能力の向上のための様々な表面改質の評価)
(材料及び方法)
COPベースの微小流体プラットホーム基材である、4castchip(登録商標)(Åmic AB、スウェーデン)を、以下の処理によって改質した。
・酸素プラズマ処理単独
・PACコーティング単独
・(実施例3で説明したような)高分子電解質処理
・(実施例1で説明したような)SiOx付着単独
・高分子電解質で処理したSiOxコーティングポリマー
【0212】
(結果)
異なる表面コーティングは、いくつかの方法によって特性化され、それらの結果を実施例22〜実施例26に示す。
【0213】
表面改質は、その基材の流体力学に影響を及ぼした。SiOxコーティングは、特に、親水性の向上、表面粗度及び均一性の変化を引き起こし、水性緩衝液及びヒト血漿の両方の素早くかつ再現可能なフローをもたらした。
【0214】
(結論)
4castchip(登録商標)(Åmic AB、スウェーデン)等のシクロオレフィンポリマー(COP)は、いくつかの方法で改質することができる。しかし、表面湿潤性、粗度及び液体フロー特性の著しい違いが指摘されている。SiOxコーティングは特に、親水性を与える最も安定的な表面改質であり、比較的滑らかな表面での素早くかつ再現可能なフローをもたらすと思われた。また、高分子電解質処理も良好な結果を示すことを発見した。(図24)
【0215】
実施例5
(トロンビンコーティング)
(一般的な材料及び方法)
4Castchip(登録商標)、model B2.2は、フィブリノゲンレベル測定用のオープン型の側方流動装置の開発のためのプラットホームとして使用した。これらのチップは、熱エンボス加工されたマイクロピラー構造によって改質されており、Åmic BV(Uppsala、スウェーデン)によって提供された。(図1c)マイクロピラーの高さは、65〜70μmであり、上部直径は、ca50μmであり、底部直径は、ca70μmであり、列状のピラーの中心間の距離は、85μmであり、行状のピラーの中心間の距離は、185μmであった。
【0216】
特に明記しない限り、ウシトロンビン(Sigma 又は、Hyphen Biomed)とTriton X-100(Sigma)の混合物を、検査プラットホーム内のチャネル上に流入させて、大気条件下で約1時間、乾燥させた(様々な濃度のトロンビン及びTriton X-100をテストし、トロンビン酵素活性は、1mLあたりのNIHユニット、すなわち、水ベースの溶液の(U/mL)で与えられる)。すぐに使えるテストチップは、4℃で保管した。テストは、(37℃まで予熱した)約15μlの血漿又は全血を適用/サンプルゾーン上に加えて行い、その検査チャネルに沿って移動した距離をモニタした。全ての測定は、37℃で行った。
【0217】
様々な分析を以下のように行った。
【0218】
i)ヘパリン濃度測定のためのTCT分析
血栓形成及びその後の粘性変化を直接誘導する精製トロンビンの使用は、以下の凝固モニタ分析の開発に利用した。精製トロンビンの供給は、凝固因子活性化のカスケードの迂回及びトロンビン生成の正のフィードバックを可能にするものと考えられた。
【0219】
精製ウシトロンビン(1U/mL)とカルシウムの最適化された混合物から成るトロンビン凝固時間(TCT)試薬(Hyphen BioMed)は、ヘパリン等の血漿中の抗凝固剤の影響の判断に用いられてきている。TCT試薬は、メーカー推奨の15〜25sの通常のTCTを有するUFHの0.05〜0.1U/mLの血漿中の低濃度のヘパリンに敏感である。0.1%(v/v)のTriton X-100を追加した10μlのTCTをテストプラットホーム上に滴下コーティングして乾燥させた。一定分量15μlの正常な血漿と、0.2、0.4及び2U/mLのヘパリンを混ぜた血漿とをそのテストストリップに加えて、サンプルの移動時間及び距離を測定した。全てのサンプルは、ヘパリン濃度に関係なく、約30秒で、9〜12mm移動した(n=4)。移動した距離、又は、通常のサンプル又はヘパリンを添加したサンプルの場合にかかった時間には、著しい差はなく、このことは、この形態のシステムが、ヘパリンのモニタに適していないことを意味する。正常な凝固及びヘパリン添加血漿の場合に得られた同様の重点時間及び移動距離は、フローパターンが、凝固能力によってではなく、表面特性(表面均一性の不足、高密度の固定化されたタンパク質等)によって決まることを示している可能性がある。しかし、代替的な最適化された表面コーティングは、恐らく、TCTとして測定される異なる凝固状態のサンプルの区別を可能にするであろう。
【0220】
0〜10mU/mLの様々なトロンビン濃度でコーティングされたチャネル内での血漿流動速度をモニタする、より詳細な研究を行った。対照チャネルは、25mMのCaCl2(10μl)を含んでいた。15μlのクエン酸血漿サンプルが、そのチャネルに沿った7つの段階の各々、すなわち、0、5、10、15、20、23及び27mmに到達するのにかかった時間を記録した。(図34)
【0221】
クエン酸血漿サンプルによる時間と移動距離の相関関係は、表面に固定化されたトロンビンに依存する著しい差を呈した。1.25U/mL以下のトロンビンでコーティングしたチャネルを、34〜38sで迅速に充填すると、時間又は移動距離に差は観察されなかった。複数のチャネル、すなわち、0、5、10、15、20及び23mmに沿った特定の段階には、それぞれ、約1、3、6、12、19、25sで達した。トロンビン濃度が2.5U/mL以上に増やした場合に、充填時間の増加が観察された。2.5、5及び10U/mLのトロンビンを有するチャネルを血漿サンプルが充填するのに、それぞれ、151、216及び270sかかった。また、サンプルが、そのチャネルに沿った特定の段階に達するのに要した時間も、2.5U/mL以上の濃度の場合に増加した。高濃度のトロンビンは、急速な凝固を可能にし、そのため、サンプル全体の粘性の著しい変化を引き起こし、それにより、重点時間の延長をもたらした。凝固の経過が、トロンビン濃度の増加によって異なるだけではなく、フィブリンメッシュの構造及び強度も異なり、そのことが、血漿サンプルのフロー特性に大きな影響を及ぼしたことが推測できる。また、フィブリン組織も、トロンビンの場合の直接のターゲットである、その前駆物質、すなわちフィブリノゲンの有用性に依存する。
【0222】
ii)フィブリノゲン測定のためのTCT分析
TCTは、フィブリノゲン濃度の測定にも用いることができる。フィブリノゲンは、濃度が2〜4g/Lであり、血漿及び全血の粘性の主な決定因子であり、フィブリンメッシュを形成する不溶性フィブリンモノマーの直接前駆体である主要な血漿タンパクとして知られている。高濃度で存在するトロンビンは、急速に作用して、利用可能なフィブリノゲンを開裂し、及び薄いフィブリン線維から成る濃くて堅い凝血塊の形成を可能にする。このような血塊形成は、粘性、及びこのフロー時間及び移動距離の全体の変化をもたらすのに適しているであろう。従って、以下の研究は、血漿及び全血中のフィブリノゲン含有量の測定のためのトロンビンで改質したプラットホームの利用に関する。従来、フィブリノゲン測定に用いられている方法は、Clauss分析である。それは、医療活動において、最も信頼性があり、かつ一般的に用いられているので、臨床的に推奨されている。このテストは、正常な血漿対照と比較して、トロンビンのフィブリノゲンに対する作用により、血漿中でのフィブリン血栓形成の速度を測定する。そのテストは、標準的な量の外因性トロンビンを、乏血小板血漿に添加して、凝血塊が形成される時間を測定することによって行われる。これは、播種性血管内凝固症候群及び肝疾患の診断に用いられており、一般的には、中央検査室で行われる。
【0223】
そのテストプラットホームは、0.1%(v/v)のTriton X-100を25U/mL添加した、10μlの精製ウシトロンビン(Biofact)でコーティングした。対照の血漿は、3g/Lのフィブリノゲンを含有すると仮定して、対照の血漿に精製トロンビン(Sigma)を加えて、終末濃度が約5、7、9及び11g/Lのフィブリノゲンを得ることにより、高いフィブリノゲン濃度を有する血漿サンプルを準備した。高いフィブリノゲン濃度を有する15μlの正常なサンプル及び血漿サンプルをテストチップに加えて、フィブリノゲン濃度と移動距離の関係をモニタした。(図27)
【0224】
図27は、血漿フィブリノゲン含有量と、トロンビンをコーティングしたチップ(n=3)の相関関係を示す。y=1.0236+(43.5151/x)、R2=0.9966である。
【0225】
フィブリノゲン濃度は、トロンビンをコーティングしたチップ上での移動距離に反比例した。トロンビンの量及びその活性は、常に一定のままであり、そのため、フィブリノゲン含有量は、移動距離の決定因子となった。サンプル中のフィブリノゲン濃度の上昇は、急速な血栓形成を生じ、このことは、チャネルの早い段階で捉えられた濁ったゲル状形成として観察することができた。この強力なフィブリンメッシュは、サンプルの内容物を捕らえ、そのフローを停止させた。通常の及びフィブリノゲン含有量がわずかに多いサンプルは、フローを急速に停止させるのに十分に強固ではない(データは図示せず)脆く貧弱で可視的なフィブリンメッシュを形成した。そのフローは、正常な対照血漿の場合には、15.7mmで停止し、5g/mLの場合には、9.7mmで停止した。これら2つのサンプルは、移動距離の違いに基づいて、容易に区別することができた。しかし、より高いフィブリノゲン濃度(7〜11g/mL)のサンプルによる移動距離の違いは、それほど顕著ではなく、すなわち、それらは、5.3〜6.7mmに到達した。メーカーによれば、トロンビンは、高濃度でその表面に存在するにもかかわらず、その完全な活性を発揮するのに、少なくとも6秒を要する。この期間内では、高いフィブリノゲン濃度を含むサンプルは、液状のままであり、そのため、凝血塊に変換されて、さらなる移動を阻止される前に、ある程度の距離を移動できることになる。このような要因は、非常に高いフィブリノゲンレベルにおいて、サンプルを識別する難しさをもたらす可能性がある。それにもかかわらず、異常なレベル(4g/L)のフィブリノゲンを容易に識別することができる。その分析は、検出可能な変動が最高で±1mm(±3.7%)である良好な精度を呈した。通常のフィブリノゲンレベルを有する血漿サンプルは、見込まれる27mmから離れた、約16mmだけ移動した。そのため、フィブリノゲンが不十分なサンプルの検出にはまだ余地があり、このことは、いくつかの病的状態の臨床診断にとっても重要である。
【0226】
血栓形成及びその後の粘性変化を直接的に誘導する精製トロンビンの使用を、以下の凝固モニタ分析の開発に利用した。
【0227】
iii)フィブリノゲン測定のための側方流動アッセイの開発
外因性トロンビンベースの試薬の、急速な血栓形成及びその結果として生じる、サンプルのフローに対する抵抗性の変化を誘導する原理を、混合血漿サンプル中のフィブリノゲンの高いレベルを測定するのに適するように実証した。フィブリノゲン測定のための側方流動アッセイのさらなる進展は、好ましくは、全血及び血漿に関する検査室基準に対して適切なレベルの正確さ、精度及び相関を有する様々な臨床関連のフィブリノゲン濃度に対応するチップによって決まる距離範囲内でのサンプルフローの停止をもたらす分析の確立を要するであろう。
【0228】
(試薬化学製剤の最適化)
一般論として、フィブリノゲン測定分析は、クラウス法と同じ原理に基づいており、この場合、内因性トロンビン濃度によって凝固時間(CT)が制限されないこと、及び凝血が現れるのに必要な時間(CT)にフィブリノゲンレベルが反比例することを確実にするために、血漿は、余分なトロンビンによって凝固する。クラウス法は、試薬のソース及び組成によって大幅に変わる。テストプラットホーム上で乾燥させた適切な濃度のトロンビンを、血漿及び全血の両方に対して確立しなければならない。タンパク質表面コーティングの特性によるフロー特性に対する阻害を伴わない急速な凝固を確実にするトロンビン濃度を決めなければならない。赤血球の存在、及びその結果としての、血漿と比較して増加した全血の粘性により、サンプルの動きは、一般的に全血の方が遅く、そのため、より多くのサンプルの動きに対応するために、より低いトロンビン濃度を用いた。一定分量15μlの正常なクエン酸血漿のサンプル、5g/Lのフィブリノゲンを添加したクエン酸血漿サンプル及び正常な全血を、それぞれ血漿テスト及び全血テストに対して、10μlの25〜100U/mL又は0〜25U/mLのトロンビンでコーティングしたチャネル内でテストした。それらのフロー特性は、サンプル希釈によっても操ることができ、このことは、サンプル粘性の変化及び利用可能なフィブリノゲンの濃度の変化をもたらした。このアプローチも研究した(表2)。血漿の場合、最も高い濃度の付着トロンビン(100U/mL、これは、ストリップ当たり1Uに等しい)は、サンプル適用ゾーン内で即時の血栓形成を生じた(図35A)。高密度のフィブリンメッシュは、凝血塊内の全サンプルを急速に捕らえ、流体動を阻止した。これは、正常の及び高いフィブリノゲンレベルの両方のサンプルの場合であった。水で倍数希釈したサンプルは、正常なサンプルと、(5g/Lのフィブリノゲンを添加した)高濃度のサンプルとで移動距離の違いが7.4mmある、100U/mLでコーティングしたチャネルの充填を可能にした。急速な流動停止は、希釈していないサンプルの場合に起きるため、希釈したサンプルから形成されたフィブリン線維メッシュは、急速な流動停止を可能にせず、その結果として、希釈したサンプルは、より長い距離を移動した。サンプル希釈は、追加的な事前分析工程となるであろう。しかし、トロンビン濃度の低下は、血栓形成の遅延を引き起こし、サンプルが停止する前にさらに移動することを可能にした。理想的には、正常なサンプルは、フローがその場合に、そのチャネルの最初の数mm以内(0〜11mmの予想横断距離)で停止するであろう高いフィブリノゲンレベルのサンプル、及び低いフィブリノゲンレベル(21〜27mm)のサンプルの検出を可能にするために、約12〜20mmの距離を移動すべきである。正常な血漿及びフィブリノゲンを添加した血漿が移動した距離の差は、25及び50U/mLの乾燥トロンビンに対して、約7mmであった。
【0229】
しかし、正常なサンプルが移動した距離は、50U/mLで10mm、及び25U/mLで15mmであった。この後者の構成は、高いフィブリノゲンレベルの測定のためのより大きなウィンドウを残す。また、25U/mLのトロンビンのチップ表面への固定化は、より良好な品質のフローをもたらした。これらの研究から、最適な分析条件は、血漿サンプル中のフィブリノゲンの測定に対して、25U/mLの乾燥トロンビンを10μlでコーティングしたチップであった。
【0230】
以下の表2は、正常な血漿及びフィブリノゲンを添加した(5g/L)血漿及び正常な全血が移動した距離に対するフィブリノゲン濃度の影響を示す。25〜100U/mL又は0〜25U/mLのトロンビン溶液を、それぞれ血漿及び全血をテストするのに用いた(n=3)。血漿は、希釈していないものと、水で1:1で希釈したものをテストした。
【0231】
【表2】
【0232】
図35は、表面に固定化された100U/mLのトロンビン(10μl)によって誘導された血漿血栓形成の結果として起きる流動停止のイメージを示す。
【0233】
血漿用に最適化された製剤でコーティングされたチャネル内で全血が移動した距離は、血漿の場合よりもかなり短いことが明らかになった。25U/mLのトロンビンを含有するチャネル内では、正常な全血サンプルは、正常な血漿サンプルの場合の約15mmと比較して、たった4.7mmしか移動しなかった。これを補正するため、全血対照サンプルの場合に、より長い移動距離を実現するように、トロンビンの濃度を下げた。表2は、0、5、10及び25U/mLのトロンビンでコーティングしたプラットホーム上での正常な全血の測定から得られた値を示す。血漿と比較して増加した全血の粘性により、正常なクエン酸全血が、トロンビンのない(凝血塊なし)チャネル内で移動した距離は、たったの16.3mmであった。従って、5U/mLの濃度(正常な全血サンプルの場合、9mm)が、全血テストの場合に最適であるので採用した。
【0234】
(トロンビン活性の標準化)
トロンビンの酵素活性は、ソース、バッチによって、あるいは同じロット内でも変化する可能性がある。また、それは、保管時間及び状態を含むいくつかの要因に影響を受ける可能性もある。一定のトロンビン活性の付着は、十分な再現性を得るために、及びフィブリノゲン含有量を確実に測定できるようにするために維持されなければならない。そのため、トロンビン活性の迅速な測定を可能にするであろう方法を開発する必要があった。分析検量に使用したトロンビン(Hyphen BioMed)の活性は、再構成後に100U/mLであり、メーカーが主張するように、これを標準として採用した。未使用の試薬という理想的な条件下で、傾斜管テストを用いて測定した、正常な対照血漿のCTは、10及び20U/mLのトロンビンに対してそれぞれ、35±1s及び19±1sであった。そして、活性テストは、未知の活性の何らかのトロンビン溶液を用いて実行できる。一旦、それらのCT値が得られると、それに応じて、(それぞれ、血漿及び全血のフィブリノゲン測定に最適な)25及び5U/mLの溶液を調製して、テストチップ上に付着させることができる。(注記:それらのCT値及びトロンビン活性値は、分析化学標準化のためだけに用いた。上述したトロンビン濃度は、必ずしも文献のトロンビン活性値又は対応する血漿のCTに相関する必要はない。)正確な酵素活性は分からなかったため、35s又は19sというCTの実現は、トロンビン溶液を標準化する1つの方法であり、そのためここでは、10及び20U/mLに一致すると仮定した。代替的な方法は、未知の活性のトロンビンでコーティングしたチャネル内での正常な血漿の移動距離を測定して、既知の活性と比較することであった。(検量曲線に示す)正常なサンプルの移動距離と同じ移動距離を生じるトロンビン濃度を用いることができる。トロンビン活性の標準化のどちらの方法も、実行可能であることが分かった。第1の「優れた標準的な」傾斜管トロンビン時間測定は、特に、正常な対照血漿の容量に制限がない(測定当たり、少なくとも300μlの血漿)場合に有用である。その方法は、迅速であり、トロンビン濃度を数分以内に見つけることができた。第2の方法は、実際のフィブリノゲン測定分析システムを使用した。この方法は、テスト当たり、たったの15μlの血漿サンプルを要した。しかし、乾燥した化学テストストリップの準備に、検量曲線を参照して、少なくとも数時間必要であった。以下の研究においては、トロンビン活性は、傾斜管テストを用いて測定し、その後、一定のトロンビン濃度でコーティングしたチャネル内での正常な対照血漿の移動距離の概算値と照合した。
【0235】
(血漿及び全血分析検量)
分析検量は、幅広いフィブリノゲンレベルを含有する血漿サンプル及び全血サンプルを用いて行った。高濃度のフィブリノゲンサンプルを得るために、健常者から採った対照血漿及び正常な全血に、凍結乾燥フィブリノゲンを加えた。低いフィブリノゲン含有量の対照血漿は、Hemosilから購入し、一方、低いフィブリノゲン含有量の全血は、遠心分離、及びHemosilからの同容量の低フィブリノゲン含有量の対照血漿との部分又は全置換によって調製した。正確なフィブリノゲン含有量は、クラウスアッセイ、ACLtop(登録商標)凝固システム(Instrumentation Laboratory)及びFibrinogen-C 試薬(Hemosil)に基づく臨床検査法を利用して測定した。表3及び表4は、それぞれ、低レベル、正常レベル及び高レベルのフィブリノゲンを有する血漿サンプル及び全血サンプルが移動した距離を示す。それぞれ、25及び5U/mLのトロンビンの10μlで改質したプラットホーム上でテストした19の血漿サンプル及び13の全血サンプルに基づいて、別々の検量曲線が生成された。
【0236】
以下の表3は、25U/mLのトロンビン試薬でコーティングしたチップ上で、様々なフィブリノゲン濃度を有する血漿サンプルが移動した距離を示す(n=3)。フィブリノゲン濃度は、Hemosil Fibrinogen-C試薬を用いた臨床検査法(ACLtop(登録商標)、Instrumentation Laboratory)によって測定した。
【0237】
【表3】
【0238】
以下の表4は、5U/mLのトロンビン試薬でコーティングしたチップ上で、様々なフィブリノゲン濃度を有する全血サンプルが移動した距離を示す(n=3)。フィブリノゲン濃度は、Hemosil Fibrinogen-C試薬を用いた臨床検査法(ACLtop(登録商標)、Instrumentation Laboratory)によって測定した。
【0239】
【表4】
【0240】
図28は、それぞれ、血漿及び全血に対して、1.03〜7.55g/L及び1.56〜8.86g/Lの様々なフィブリノゲン濃度を含有する血漿サンプル(三角形)及び全血サンプル(正方形)を用いて生成された検量曲線である(n=3)。サンプルのフィブリノゲン濃度と、トロンビンをコーティングしたアッセイチップ上での移動距離との線形相関関係は、それぞれ血漿及び全血の場合に、y=−3.8674x+28.967及びy=−0.9402x+13.971であることが分かり、ただし、血漿の場合は、R2=0.965、全血の場合は、R2=0.797である。黒い記号は、正常な検量サンプルを示し、白い記号は、フィブリノゲンを減少させた又は添加したサンプルである。囲みは、2〜4g/Lのヒトの正常なフィブリノゲン範囲を示す。
【0241】
得られた検量曲線から、血漿及び全血中のフィブリノゲン濃度は、トロンビンをコーティングしたチップ上でサンプルが移動した距離を規定する主要因であることが明らかになったことが示唆されている。0.97の血漿サンプルの場合の相関関係は、0.80である全血の場合の相関関係よりもかなり良好であった。しかし、混合され及び減少された対照血漿は、自然個体群にはない均質性を有しており、その方法の有効性を確実にするためには、テストは、様々な実際の患者の血漿サンプルで要求されるであろう。また、分析感度、及びフィブリノゲン濃度の識別も、全血の場合よりも血漿の場合のほうが良好であった。それにもかかわらず、その分析は、血漿及び全血の両分析として素晴らしい可能性を示しており、後者は、考えられる何らかの臨床検査を著しく単純化するであろう。この分析は、それ自体が、約1〜7g/Lの血漿フィブリノゲン含有量の測定のための有効な方法であることを実証した。2g/L以下及び4g/L以上のフィブリノゲン濃度は、異常と見なす。そのため、21.2mm以上及び13.5mm以下の移動距離は、それぞれ、フィブリノゲンレベルの減少又は上昇を示すものと考えるべきである。
【0242】
(患者サンプルの分析)
上記のことは、乾燥させたトロンビンベースの薬剤を備えたチップが、対照血漿サンプル及び全血サンプルにおけるフィブリノゲン濃度の測定のための実行可能な方法であることを示している。その分析をさらに有効にするために、様々なフィブリノゲン濃度を含む患者のサンプルを、上述した臨床検査法と並行して、最適化したアッセイプラットホーム上でテストした。表5は、ACLtop(登録商標)によって測定した31の患者サンプルの場合のフィブリノゲン濃度、開発したシステムにおける移動距離、及び上記で確立された検量曲線に基づく導出フィブリノゲン値をまとめたものである。それらのサンプルの正確なフィブリノゲン含有量は分かっているので、移動距離と直接関連付けること、及び開発した方法を用いて、フィブリノゲン測定の精度を評価することが可能であった(図29)。以下の表5は、トロンビンでコーティングしたチップ内での移動距離を、確認されているフィブリノゲン含有量(ACLtop(登録商標))を有する31の患者サンプルの場合に測定したことを示している。検量曲線方程式及び移動距離を用いて、フィブリノゲン濃度を再計算した(n=3)。斜字体の値を有するサンプル(9.3g/Lのフィブリノゲン)は、間違った結果を示している。
【0243】
【表5】
【0244】
図29は、側方流動分析装置を用いた、患者の血漿サンプル中のフィブリノゲン含有量の測定の結果を示す(黒い丸)(n=3)。移動処理は、臨床検査法(ACLtop(登録商標))から得られたフィブリノゲン濃度に対してプロットした。図示した結果を、上記の図28で生成された検量データ(白い丸)と組合わせた。(y=−3.8674x+28.967)患者サンプルは、方程式:y=−2.8569x+25.768によって、その検量サンプルのトレンドをフォローしていることを示している。
【0245】
患者サンプル(y=−2.8569x+25.768)は、比較的低い変動性(R2=0.89)を有する検量曲線(y=−3.8674x+28.967)のトレンドと同様のトレンドをフォローしていた。実際の患者サンプルのテストは、良好な相関関係(R2=0.97)が得られた均一な対照検量サンプルと比較して、わずかな変動性を導入した。ほとんどのテストサンプルの場合に、移動距離の偏差は、容認できる低さ(±1mm)であった。最大CVは、14.8%であったが、大部分のテストの場合で、5%以下であった。その移動距離を規定する、フィブリノゲンに対するトロンビン作用の速度から、フィブリノゲン濃度は、容易に推定できた。フィブリノゲン含有量は、次の検量曲線方程式、すなわち、y=−3.8674x+28.967を用いて、その移動距離に基づいて計算し、及びACLtop(登録商標)での臨床検査法から得られた値に関係していた。両方法によって測定されたフィブリノゲン濃度を、図30及び図31で相互に関連付けした。
【0246】
図30は、開発した側方流動法によるフィブリノゲン測定と、標準的な方法(ACLtop(登録商標))によるフィブリノゲン測定の相関関係を示す(n=3)。その相関関係は、相関係数が0.89で、y=0.7387x+0.8271であった。
【0247】
図31は、フィブリノゲンレベルが増加した場合の、開発した分析を用いて得られたフィブリノゲン濃度と、臨床検査法(ACLtop(登録商標))の間の差異を示すBland-Altman plot(Bland 1986)(標準的な方法からの現地測定偏差)。ゼロに近い値は、基準値と一致した。そのトレンドラインは、より高いフィブリノゲン濃度に伴って、測定の精度が低下したことを示している。その勾配の値は、−0.2613であった。
【0248】
開発した方法によって導出したフィブリノゲン値と、標準的な方法(ACLtop(登録商標))によって導出した値の相関係数は、0.89であることが分かった(図30)。しかし、その勾配は0.74であり、そのオフセットは、0.82であり、開発した方法は、約3g/L以下の基準値の場合には、フィブリノゲン濃度を過大に推定し、より高い値では、標準的な方法と比較して、フィブリノゲン濃度を過小に推定していることを示している。さらに、Bland-Altman plot(図31)を用いた分析も、標準的な方法からの偏差が、より高いフィブリノゲンレベルで増加したことを示している。上昇したフィブリノゲン濃度は、最短の移動距離をもたらした。それらのレベルの検出における追加的な変動性は、非常に短い反応時間(メーカー推奨では、トロンビンとサンプルの間には、少なくとも6sの反応時間が許容されていることが示唆されている)と、約±0.25mmの関連誤差を伴う短い距離の測定とによって導入される固有の変動性によって引き起こされる可能性がある。チップデザインのさらなる最適化は、高いフィブリノゲンレベルの検出のためのテスト精度を向上させることができるであろう。現在の臨床検査は、典型的には、0.035〜10g/Lの範囲で検査している。
【0249】
分析精度の研究は、低い(1.4)、正常な(3.1)、高い(3.8)及びかなり高い(6.0g/L)フィブリノゲン含有量を有する血漿サンプルの繰返し試験(n=20)によって実施した(図32)。その変動は、10%以下のCVを有する、正常な、低い及び高いフィブリノゲン含有量のサンプルの場合には、比較的小さかった。より高いレベルのサンプルの場合のCVはより高く(24.4%)、このことは、増加したフィブリノゲン濃度に伴う分析精度のわずかな低下を示している。しかし、このサンプルの特定の繰返しの間の変動性は、劇的ではなかった。その移動距離は、3〜7mmであった。患者サンプル中の血漿成分又は血液成分の検出は、血液希釈の変動及び他の多くの要因による著しい変動性と常に関連していた。そのため、ここで示された変動性は、許容可能であった。ある程度の変動性を有する、大幅に上昇したフィブリノゲンレベルも測定することができる。臨床用途の場合、本願のような低濃度の場合の精度に対する要求は高く、0.5g/Lの低下が、手術室での輸血又は集中治療の要求を引き起こす可能性があるであろう。しかし、上限での2g/Lの変化でさえ、恐らく治療を変化させないであろうし、及び長期管理のより大きな関心事である。従って、その分析は、高低両方のフィブリノゲンレベルの検出に適している見なすことができる。その速度、簡潔さ及びパフォーマンスにより、その分析のフォーマットは、救急車から救急処置手術室又は外科手術までのポイントオブケア環境に適している。
【0250】
図32は、低い1.4g/L(十字)、正常な3.1g/L(正方形)、高い3.8g/L(三角形)及びかなり高い6.0g/L(丸印)のフィブリノゲン濃度の血漿サンプルの繰返しを示す。全ての繰返しの場合の移動距離が図示されている。水平ラインは、平均移動距離を示す。
【0251】
(装置安定性)
最適化したトロンビンベースの試薬でコーティングしたプラットホームを、4℃で、最長で21日間、保管した。異なるフィブリノゲン濃度を有する血漿サンプルが移動した距離を、1日、3日、7日、14日及び21日目に測定した(図33)。異常に低いフィブリノゲン濃度(1.41g/L)のサンプルが移動した距離(25〜27mm)には、著しい差はなく、そのことは、検量曲線方程式:y=−3.8674x+28.967を用いて算出した予想移動距離23.5mmよりもわずかに大きかった。得られた移動距離は、フィブリノゲンレベルの減少の認識を可能にした。正常なフィブリノゲン含有量のサンプル(3.04g/L)は、最初の2週間で、15.7〜16.7mm移動し、3週間後の古くなったプラットホームでは18.7mm移動した。その検量曲線方程式を用いることで、15.7〜16.7mm移動したサンプルが、正常な血漿対照に対して予測した正常な範囲内である3.2〜3.4g/Lのフィブリノゲンを含有することを推測することができ、一方、18.7mmは、(その検量曲線に基づいて算出した)低下したフィブリノゲンレベルの2.6g/Lの指標となるであろう。このことは、21日後の古くなったプラットホームは、間違った結果を取込む可能性があるため、使用できないことを意味している。わずかに及びかなり高いフィブリノゲン含有量、すなわち、4.66、5.39及び6.97g/Lの3つのサンプルもテストした。これらの3つのサンプルに対して、1〜14日の古くなったプラットホーム上で、それぞれ次の移動距離、すなわち、10.0〜10.3mm、7.7〜9.7mm及び3.0〜3.7mmが得られ、また、21日後のプラットホームでは、11.3mm、11.0mm及び6.0mmの延びた移動距離が得られた。この結果は、14日間の保管中にサンプルが移動した距離には、統計的差異はほとんどないため、固定化されたトロンビンを含む装置は、特別な扱いを要することなく、4℃で14日間まで容易に保管することができることを示唆している。トロンビン酵素活性は、3週間の保管の後には、わずかに低下したように思われる。その結果、その移動距離は、全てのテストサンプルの場合でわずかに増加した。2週間以上保管したチップの使用は、フィブリノゲンレベルの過小な推定をもたらす可能性がある。そのため、2週間以上経ったチップは、テストに使用しなかった。特別な保管条件、すなわち、低下されかつ制御された湿度、真空状態、又は防腐剤の添加及び/又はチップに固定化されたトロンビンの凍結乾燥を、装置安定性を向上させるために容易に利用することができるであろう。
【0252】
図33は、1.41g/L(菱形)、正常な3.04g/L(十字)及び高い4.66(丸印)、5.39(三角形)及び6.97g/L(正方形)のフィブリノゲンレベルの場合の、トロンビンをコーティングしたチップと、フィブリノゲン分析装置におけるそれらの反応とに関する保管安定性の研究結果を示す。(n=3)
【0253】
(実施例5の結論)
生理学的に意味のあるレベルで、全血及び血漿中のフィブリノゲンを測定することが可能な分析装置を開発した。その装置は、単純であるが信頼性の高い側方流動原理に基づいており、この場合、フィブリノゲンは、凝固の結果としての流動停止の前に移動した距離によって測定される。その分析装置は、少ない所要サンプル容量(15μl)、希釈又は分離を含む何らかの事前分析工程がないこと、及び結果が5分以内に得られるという測定の速度を含む、従来の方法に優るいくつかの利点を有していた。そのアッセイは、検査業務で日常的に用いられ、凝固可能な活性フィブリノゲン含有量測定のための最も信頼性の高い方法と称されているクラウス法の改良である。高いレベル及び低いレベルの両方のフィブリノゲンを、同じテストプラットホームを用いて検出することができた。そのアッセイは、1〜7g/Lの範囲でのフィブリノゲン測定が可能であった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体サンプル中の凝固をモニタ及び/又は測定するための側方毛細管流動装置であって、当該装置が、
前記液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、
前記液体サンプルの凝固を加速させ、画成された流路ゾーンに沿った一様に分布した凝血塊の形成を可能にし、及び前記画成された流路ゾーンに沿って、前記液体サンプルの流速の変化又は流動停止を生じるように、前記画成された流路ゾーンの少なくとも一部に、凝固剤フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体が付着されている前記画成された流路ゾーンと、を具備するオープン型の側方流動装置である、側方毛細管流動装置。
【請求項2】
前記オープン型の側方流動装置は、前記液体サンプルを前記流路ゾーンに沿って案内する毛細管力に依存し、且つ、前記液体サンプルと、前記装置の画成された流路との表面積対容積比が改善又は増加される、請求項1に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項3】
前記流路ゾーンは、前記画成された流路に沿って、前記液体サンプル中で毛細管現象を誘導する複数の規則的に離間した突起部又はくぼみを備えた平坦面を具備する、請求項2に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項4】
前記非多孔質基材の流路ゾーンは、前記非多孔質基材に沿って前記流路ゾーンを画成する、前記基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部又はマイクロピラーを具備する、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項5】
前記垂直方向の突起部は、前記表面に対して略垂直であり、及び前記流路内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔を有する突起部からなる領域で構成される、請求項4に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項6】
前記凝固剤は、前記画成された流路ゾーンの表面全体に付着される、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項7】
前記凝固剤は、ポリエチレングリコール(PEG)、糖類及び/又は非イオン界面活性剤を含有する支持試薬物質も具備する、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項8】
血液凝固が、モニタ及び/又は測定される、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項9】
前記非多孔質基材は、プラスチック材料であり、好ましくは、熱可塑性材料であり、より好ましくは、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)(PET)又はポリメチルメタクリレート(PMMA)である、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項10】
前記非多孔質基材は、シリコン又はガラス基材である、請求項1乃至9のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項11】
前記非多孔質基材の表面に付着されたSiOxからなるコーティングを具備する、請求項1乃至10のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項12】
前記非多孔質基材の表面は、高分子電解質を用いて改質される、請求項1乃至11のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項13】
1つ以上の試薬物質からなる追加的な層を具備する、請求項1乃至12のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項14】
前記試薬物質は、次のうちの1つ以上、すなわち、組織因子、リン脂質、凝固因子及び/又は凝血促進剤を含む、凝固を誘導及び/又は加速させることのできる追加的な物質、ガラス繊維、すりガラス及びガラス微小粒子を含有する微粒シリカ物質、及び/又はカオリン、セライト、エラグ酸及び/又は塩化カルシウムを含有する凝固表面活性剤から選択される、請求項13に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項15】
前記非多孔質基材の一方の表面から垂直方向に延在するマイクロピラー突起部を具備する環状ポリオレフィンであって、当該環状ポリオレフィン基材が、SiOxからなる層を具備する、請求項1乃至14のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか一つに記載された側方毛細管流動装置を用いて、液体サンプル中の凝固をモニタ及び/又は測定するための方法であって、前記液体サンプルは、前記非多孔質基材上の受容ゾーンに添加されて、前記液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるように、毛細管現象によって、前記受容ゾーンから流路を通って輸送される方法であって、
前記液体サンプルの凝固を加速させるように、前記流路ゾーンに沿って、均一に分布した凝血塊を形成するように、及び流速を変更するように又は前記画成された流路ゾーンに沿った前記液体サンプルの流動を止めるように、前記液体サンプルを添加する前に、前記凝固剤フィブリノゲン又はトロンビンが、前記画成された流路ゾーンの表面の少なくとも一部に付着されることを特徴とする方法。
【請求項17】
前記凝固剤は、前記画成された流路ゾーンの表面全体に付着される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記凝固剤は、ポリエチレングリコール(PEG)、糖類及び/又は非イオン界面活性剤を含有する支持試薬物質も具備する、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
血液凝固が、モニタ及び/又は測定される、請求項16乃至18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
前記液体サンプルが、血液又は血漿である、請求項16乃至19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
次の凝固分析、すなわち、活性凝固時間[ACT]、活性化部分トロンボプラスチン時間[aPTT]、プロトロンビン分析[PT]、トロンビン凝固時間[TCT]及び/又はフィブリノゲン分析のうちの1つを実行するのに適している、請求項16乃至20のいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
使用する前に、前記非多孔質基材の表面が、前記側方毛細管流動装置を流れる改良された液体流動を容易にするために、表面活性及び親水性が向上するように改質されている請求項16乃至21のいずれか一つに記載の方法であって、
前記非多孔質基材の表面に、SiOxからなるコーティングを付着させるステップ、及び/又は、
前記非多孔質基材の表面を、高分子電解質を用いて改質するステップを具備する方法。
【請求項23】
液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定のための側方毛細管流動装置であって、前記液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、前記非多孔質基材の表面が、前記非多孔質基材の表面にSiOxからなるコーティングを付着することにより、前記液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている画成された流路ゾーンとを具備する、側方毛細管流動装置。
【請求項24】
前記非多孔質基材の表面は、高分子電解質を用いて改質される、請求項23に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項25】
前記非多孔質基材の流路ゾーンは、前記非多孔質基材に沿った流動を規定する、前記非多孔質基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部又はマイクロピラーを具備する、請求項23又は24に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項26】
前記垂直方向の突起部は、前記表面に対して略垂直であり、及び前記流路内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔を有する突起部からなる領域で構成される、請求項23乃至25のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項27】
側方毛細管流動装置の表面にSiOxを付着させるための方法であって、前記側方毛細管流動装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、前記非多孔質基材の表面が、前記液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている画成された流路ゾーンと、を具備する方法であって、
酸素プラズマ及びアルゴンを用いて前記非多孔質基材を事前に処理することと、
プラズマ化学気相成長法(PECVD)を用いて、前記非多孔質基材にSiOxを付着させることと、を具備する方法。
【請求項28】
前記非多孔質基材は、熱可塑性材料、好ましくは、環状ポリオレフィンである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記非多孔質基材は、高分子電解質による改質を受ける、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
前記高分子電解質による改質は、高分子電解質を用いた浸漬被覆の前に、酸素プラズマ処理を具備する、請求項29に記載の方法。
【請求項1】
液体サンプル中の凝固をモニタ及び/又は測定するための側方毛細管流動装置であって、当該装置が、
前記液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、
前記液体サンプルの凝固を加速させ、画成された流路ゾーンに沿った一様に分布した凝血塊の形成を可能にし、及び前記画成された流路ゾーンに沿って、前記液体サンプルの流速の変化又は流動停止を生じるように、前記画成された流路ゾーンの少なくとも一部に、凝固剤フィブリノゲン又はトロンビンあるいはそれらの誘導体が付着されている前記画成された流路ゾーンと、を具備するオープン型の側方流動装置である、側方毛細管流動装置。
【請求項2】
前記オープン型の側方流動装置は、前記液体サンプルを前記流路ゾーンに沿って案内する毛細管力に依存し、且つ、前記液体サンプルと、前記装置の画成された流路との表面積対容積比が改善又は増加される、請求項1に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項3】
前記流路ゾーンは、前記画成された流路に沿って、前記液体サンプル中で毛細管現象を誘導する複数の規則的に離間した突起部又はくぼみを備えた平坦面を具備する、請求項2に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項4】
前記非多孔質基材の流路ゾーンは、前記非多孔質基材に沿って前記流路ゾーンを画成する、前記基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部又はマイクロピラーを具備する、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項5】
前記垂直方向の突起部は、前記表面に対して略垂直であり、及び前記流路内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔を有する突起部からなる領域で構成される、請求項4に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項6】
前記凝固剤は、前記画成された流路ゾーンの表面全体に付着される、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項7】
前記凝固剤は、ポリエチレングリコール(PEG)、糖類及び/又は非イオン界面活性剤を含有する支持試薬物質も具備する、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項8】
血液凝固が、モニタ及び/又は測定される、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項9】
前記非多孔質基材は、プラスチック材料であり、好ましくは、熱可塑性材料であり、より好ましくは、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)(PET)又はポリメチルメタクリレート(PMMA)である、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項10】
前記非多孔質基材は、シリコン又はガラス基材である、請求項1乃至9のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項11】
前記非多孔質基材の表面に付着されたSiOxからなるコーティングを具備する、請求項1乃至10のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項12】
前記非多孔質基材の表面は、高分子電解質を用いて改質される、請求項1乃至11のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項13】
1つ以上の試薬物質からなる追加的な層を具備する、請求項1乃至12のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項14】
前記試薬物質は、次のうちの1つ以上、すなわち、組織因子、リン脂質、凝固因子及び/又は凝血促進剤を含む、凝固を誘導及び/又は加速させることのできる追加的な物質、ガラス繊維、すりガラス及びガラス微小粒子を含有する微粒シリカ物質、及び/又はカオリン、セライト、エラグ酸及び/又は塩化カルシウムを含有する凝固表面活性剤から選択される、請求項13に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項15】
前記非多孔質基材の一方の表面から垂直方向に延在するマイクロピラー突起部を具備する環状ポリオレフィンであって、当該環状ポリオレフィン基材が、SiOxからなる層を具備する、請求項1乃至14のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項16】
請求項1乃至15のいずれか一つに記載された側方毛細管流動装置を用いて、液体サンプル中の凝固をモニタ及び/又は測定するための方法であって、前記液体サンプルは、前記非多孔質基材上の受容ゾーンに添加されて、前記液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるように、毛細管現象によって、前記受容ゾーンから流路を通って輸送される方法であって、
前記液体サンプルの凝固を加速させるように、前記流路ゾーンに沿って、均一に分布した凝血塊を形成するように、及び流速を変更するように又は前記画成された流路ゾーンに沿った前記液体サンプルの流動を止めるように、前記液体サンプルを添加する前に、前記凝固剤フィブリノゲン又はトロンビンが、前記画成された流路ゾーンの表面の少なくとも一部に付着されることを特徴とする方法。
【請求項17】
前記凝固剤は、前記画成された流路ゾーンの表面全体に付着される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記凝固剤は、ポリエチレングリコール(PEG)、糖類及び/又は非イオン界面活性剤を含有する支持試薬物質も具備する、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
血液凝固が、モニタ及び/又は測定される、請求項16乃至18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
前記液体サンプルが、血液又は血漿である、請求項16乃至19のいずれか一つに記載の方法。
【請求項21】
次の凝固分析、すなわち、活性凝固時間[ACT]、活性化部分トロンボプラスチン時間[aPTT]、プロトロンビン分析[PT]、トロンビン凝固時間[TCT]及び/又はフィブリノゲン分析のうちの1つを実行するのに適している、請求項16乃至20のいずれか一つに記載の方法。
【請求項22】
使用する前に、前記非多孔質基材の表面が、前記側方毛細管流動装置を流れる改良された液体流動を容易にするために、表面活性及び親水性が向上するように改質されている請求項16乃至21のいずれか一つに記載の方法であって、
前記非多孔質基材の表面に、SiOxからなるコーティングを付着させるステップ、及び/又は、
前記非多孔質基材の表面を、高分子電解質を用いて改質するステップを具備する方法。
【請求項23】
液体サンプル中の凝固のモニタ及び/又は測定のための側方毛細管流動装置であって、前記液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、前記非多孔質基材の表面が、前記非多孔質基材の表面にSiOxからなるコーティングを付着することにより、前記液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている画成された流路ゾーンとを具備する、側方毛細管流動装置。
【請求項24】
前記非多孔質基材の表面は、高分子電解質を用いて改質される、請求項23に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項25】
前記非多孔質基材の流路ゾーンは、前記非多孔質基材に沿った流動を規定する、前記非多孔質基材の表面から突出する複数の垂直方向の突起部又はマイクロピラーを具備する、請求項23又は24に記載の側方毛細管流動装置。
【請求項26】
前記垂直方向の突起部は、前記表面に対して略垂直であり、及び前記流路内での液体サンプルの側方毛細管流動が実現されるような高さ(H)、直径(D)及び相互間隔を有する突起部からなる領域で構成される、請求項23乃至25のいずれか一つに記載の側方毛細管流動装置。
【請求項27】
側方毛細管流動装置の表面にSiOxを付着させるための方法であって、前記側方毛細管流動装置は、液体サンプルを受け入れるためのゾーンを備えた非多孔質基材と、前記非多孔質基材の表面が、前記液体サンプルの凝固を加速させるように改質されている画成された流路ゾーンと、を具備する方法であって、
酸素プラズマ及びアルゴンを用いて前記非多孔質基材を事前に処理することと、
プラズマ化学気相成長法(PECVD)を用いて、前記非多孔質基材にSiOxを付着させることと、を具備する方法。
【請求項28】
前記非多孔質基材は、熱可塑性材料、好ましくは、環状ポリオレフィンである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記非多孔質基材は、高分子電解質による改質を受ける、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
前記高分子電解質による改質は、高分子電解質を用いた浸漬被覆の前に、酸素プラズマ処理を具備する、請求項29に記載の方法。
【図1a】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図4(e)】
【図4(f)】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図5(d)】
【図5(e)】
【図5(f)】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13a】
【図13b】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21a】
【図21b】
【図22】
【図23(a)】
【図23(b)】
【図23(c)】
【図23(d)】
【図23(e)】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図1b】
【図1c】
【図2】
【図3】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図4(e)】
【図4(f)】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図5(d)】
【図5(e)】
【図5(f)】
【図6】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13a】
【図13b】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21a】
【図21b】
【図22】
【図23(a)】
【図23(b)】
【図23(c)】
【図23(d)】
【図23(e)】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公表番号】特表2012−524894(P2012−524894A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506526(P2012−506526)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055470
【国際公開番号】WO2010/122158
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(504094693)ダブリン シティ ユニバーシティ (11)
【出願人】(501154297)オーミック・アクチボラゲット (13)
【氏名又は名称原語表記】Åmic AB
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/055470
【国際公開番号】WO2010/122158
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(504094693)ダブリン シティ ユニバーシティ (11)
【出願人】(501154297)オーミック・アクチボラゲット (13)
【氏名又は名称原語表記】Åmic AB
【Fターム(参考)】
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