説明

凝固第VIII因子の精製方法

【解決手段】凝固因子FVIIIを含有するフラクションを、高イオン強度の水溶液中に供給する工程;FVIIIを含有するフラクションを、マルチモーダル樹脂と接触させる工程;任意に、吸着されたFVIIIを有するマルチモーダル樹脂を、水性洗浄緩衝液で洗浄する工程;pH6〜8で正に荷電する、少なくとも一つのアミノ酸を含む水性溶出緩衝液で、FVIII含有フラクションを溶出する工程;および、任意に、FVIII含有フラクションを精製または濃縮形態で回収する工程を含む、クロマトグラフィーを使用する凝固因子FVIIIの精製または濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固第VIII因子(FVIIIと略記)の精製方法、および本発明の方法で得られ
るFVIIIを含有するフラクションに関する。
【背景技術】
【0002】
血友病は、体の血液凝固または凝集を制御する能力を損なう、遺伝性の遺伝子疾患の一
群である。最も多い病型である血友病Aでは、血液凝固のFVIIIが欠損し、血友病Aは、男
児出生5,000〜10,000人に約一人が発症する。FVIIIタンパク質は、多機能の特性を有する
血液凝集において、必須の補因子である。FVIIIの欠損は、血漿由来のFVIII濃縮物または
組み換え技術で作られたFVIIIによって治療し得る。FVIII濃縮物による治療により、血友
病患者の生活は正常化された。歴史的には、血友病Aは、ヒト血漿由来のFVIIIによって治
療されてきた。血漿中、通常の条件下では、FVIII分子は、その補因子であるフォンヴィ
レブランド因子(vWf)と常に関係し、この補因子はFVIII分子を種々の形態の変性から安
定化する。
【0003】
血漿由来のFVIII製品は、種々の純度、およびvWfの存在量が前後するものが販売されて
いる。通常、vWf量が少ない製品は、添加ヒトアルブミンおよび/または高濃度の塩を含
む他の安定剤を含有し、FVIII分子を安定化する。FVIIIの精製に使用した方法は、一般的
には、低温沈殿、水酸化アルミニウム沈殿等の種々の沈殿法と、主にイオン交換、アフィ
ニティーおよびゲル濾過工程等のクロマトグラフィー工程との組み合わせであった。
【0004】
FVIII製品を向上させるため、アフィニティークロマトグラフィーが使用されたが、こ
の方法は混入物を効果的に除いて高度のFVIII純度とするが、vWfも減少させる可能性があ
る(ファルージア(Farrugia)ら、バイオテクノロジーおよび血漿分画化産業;凝固FVIII
の製造における進歩の衝撃(Biotechnology and plasma fractionation industry; The i
mpact of advances in the production of coagulation FVIII)、Biotechnology、3巻、
No.1、1993年2月)。免疫アフィニティークロマトグラフィーの欠点は、相対的に高価で
あり、アフィニティーリガンドとして動物由来のモノクローナル抗体が使用されることで
あった。
【0005】
80年代の中頃、血漿由来のFVIII製品に関連したウイルス感染が若干あった。特定のウ
イルス減少工程を実施することでこの問題が解決したとしても、これは組み換えFVIII製
品(rFVIII)の開発の出発点であった。90年代には最初のrFVIII製品が上市され、現在ま
でに、高純度の(全てvWfを含まず)3種のrFVIII製品がある(2つは全長の分子で、1つは
、FVIII分子の不活性部分を除去して宿主細胞の生産性を高めた、B-ドメイン欠失分子(
エリクソン(Eriksson)ら、B-ドメイン欠失組み換えFVIIIの製造方法(The manufacturing
process for B-domain deleted recombinant FVIII)。Seminars in Hematology、38巻、
No2、補遺4、2001年4月、22〜31頁))。
【0006】
rFVIIIの精製に使用した精製方法は、全て、種々のクロマトグラフィー技術の組み合わ
せであった(参照:バッタチャリャ(Bhattacharyya)ら、総説;血友病のための組み換え
FVIII「製造技術の概観」(Review article; Recombinant FVIII for Haemophilia "An
overview of production technologies")。CRIPS 4巻、No.3、2003年7〜9月)。一つは
、知られている免疫アフィニティー技術であった(血漿FVIIIに使用される様に、例えば
、ペプチドアフィニティー(ケリー(Kelly)ら、FVIIIのcGMP製造のためのペプチドリガン
ドを用いるアフィニティークロマトグラフィーの開発および検証(Development and vali
dation of an affinity chromatography step using a peptide ligand for cGMP produ
ction of FVIII))またはイースト由来の抗体断片(VIIISelect FVIII親和性樹脂−GEヘ
ルスケア(Health care)、カタログNo.17-5450、現在上市中)を用いて、これを解決する
製品があるとしても)。
【0007】
全てのrFVIII製品にはvWFがないので、失活(凝集、プロテアーゼ、表面吸着等)に対
してFVIIIを安定化するために、しかるべき措置を取らなければならない。製品の一つで
は、キレート剤(EDTA等)を添加して、金属プロテアーゼの変性に対してFVIIIを保護す
る(米国特許US-A-5,831,026号)。アルブミン、アプロチニン、インスリンを添加するか
、rFVIIIをvWfと共発現させる(そして精製サイクルの下流に除去する)ことは、rFVIII
分子の安定性を高めるために実施されてきた方策である(参照:バッタチャリャ(Bhatta
charyya)ら、総説;血友病のための組み換えFVIII「製造技術の概観」(Review article;
Recombinant FVIII for Haemophilia "An overview of production technologies")。
CRIPS 4巻、No.3、2003年7〜9月)。
【0008】
(哺乳類添加剤およびキレート剤を用いない方法を維持するための)もう一つの方策は
、欧州特許EP-A-1 707 634号に記載されており、ここでは、増量した塩の組み合わせがr
FVIII製品の安定性および高回収率に寄与する(ワン(Wang)ら、凝固FVIII、構造および安
定性(Coagulation FVIII, structure and stability)、International Journal of Phar
maceuticals、259巻(2003年)1〜15頁)。しかし、この技術はある不利点を有する。例え
ば、塩の含有量が比較的高いことで、希釈(および不安定化がありうる、パルティ(Part
i)ら、組み換えFVIIIのインビトロ安定性(In vitro stability of recombinant FVIII)、
Haemophilia (2000年)、6巻513〜522頁。Biotechnology and Bioengineering、87巻、No
.3、2004年8月5日))をせずに、イオン交換体に直接処理することが好適でなくなる。
【0009】
国際公開WO-A-2009/007451号には、混合方式またはマルチモーダル樹脂を用いた、FVI
IIの精製方法が開示されている。この精製方法は、疎水性部分および負に荷電した部分を
含むリガンドを含有する、マルチモーダルまたは混合方式の樹脂と、FVIIIタンパク質を
接触させ、少なくとも1.5Mの塩および少なくとも40%(w/v)のエチレングリコール、プ
ロピレングリコールまたはそれらの混合物、およびカルシウムイオンを含有する溶出緩衝
液で、前記FVIIIを溶出することに基づく。
【0010】
欧州特許EP-A-1707634号には、組み換え技術によって製造されたタンパク質の単離方法
であって、とりわけ、免疫アフィニティークロマトグラフィー、アフィニティークロマト
グラフィー、タンパク質沈殿、緩衝液交換、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互
作用クロマトグラフィー、混合方式疎水性/イオン交換クロマトグラフィー媒体、キレー
トクロマトグラフィー、レクチンまたはヘパリンアフィニティクロマトグラフィー等の糖
質アフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、電気泳動、透析
、ポリエチレングリコール、硫酸アンモニウム、エタノール等の種々の沈降剤、ハイドロ
キシアパタイト吸着、濾過膜吸着、磁性粒子に結合するリガンドなどの様々な方法による
ものが開示されている。しかし、この公報は、特にクロマトグラフィーによる精製工程を
特定している。
【0011】
国際公開WO-A-2005-082483号には、液体中、一つ以上の不純物からの抗体の精製方法が
開示されており、この方法は、前記液体を、マルチモーダルリガンドが固定されて抗体を
樹脂に吸着する支持体よりなる、第一のクロマトグラフィー樹脂と接触させることを含み
、ここで各マルチモーダルリガンドは、少なくとも一つのカチオン交換基および少なくと
も一つの芳香族またはヘテロ芳香環系を含む。溶出剤を添加して、樹脂から抗体を放出さ
せ、溶出液は、第二のクロマトグラフィー樹脂と接触させる。
【0012】
国際公開WO-A-2005/121163号には、タンパク質溶液から一つ以上のタンパク質を単離す
る方法が開示されている。この方法は、一つ以上の特定のタンパク質を含み、予め設定さ
れたpHおよびイオン強度または導電率を有するタンパク質溶液を提供する工程、適用する
工程を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の一つの目的は、新規な方法を提供することによって、従来技術の精製方法の欠
点を回避することであった。本発明のもう一つの目的は、特に塩含量の高い材料から、特
にそれら材料が組み換えFVIIIの製造に使用される際の、FVIIIの精製方法を提供すること
である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これは、クロマトグラフィーを用いる精製手順における凝固第VIII因子の精製方法であ
って、少なくとも一つのクロマトグラフィーがマルチモーダル樹脂を用いて実施されるも
のによって達成される。本書で用いられる「マルチモーダル樹脂(multimodal resin)」と
いう用語は、支持体、および、支持体に結合し、分離される物質の化学基と相互作用する
部分を有する、クロマトグラフィー材料を意味する。本発明の特別な態様において、マル
チモーダル樹脂は、マトリックスに結合する部分を含み、この部分は混合物中で、イオン
相互作用および、水素結合および/または疎水性相互作用等の他の種類の相互作用によっ
て、FVIIIと相互作用する能力がある。
【0015】
本発明では、高イオン強度の水溶液中にFVIIIを含有するフラクションを提供する工程;FVIIIを含有するフラクションをマルチモーダル樹脂と接触させる工程;任意に、吸着されたFVIIIを有するマルチモーダル樹脂を水性洗浄緩衝液で洗浄する工程;pH 6〜8で正に荷電する少なくとも一つのアミノ酸を含む水性溶出緩衝液で、FVIII含有フラクションを溶出する工程;および、任意に、FVIII含有フラクションを精製または濃縮形態で回収する工程を含む、クロマトグラフィーを使用する凝固FVIII の精製または濃縮方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例7のアフィニティークロマトグラフィー工程後の、出発物質およびVIIISelect溶出液についての純度プロファイルを示す、銀染色SDS-PAGEである。
【図2】表12に記載されたサンプルのSDS Page銀染色を示し;VIIISelect精製スキームとカプト・アドヘア(Capto Adhere)精製スキームを比較する。
【図3】実施例9に従って精製された、最終製品の製剤前および製剤後のSDS-PAGE銀染色パターンを示す。
【図4】ポリクローナル抗ヒトFVIII抗体を使用する、FVIIIのウェスタンブロッティングを示す。
【図5】実施例9に従って精製された、バッチBPP079およびBPP083の最終製剤化製品、バッチBPP079 GF溶出液およびBPP083 GF溶出液の最終製品(GF溶出液)の、銀染色およびウェスタンブロッティング後の2-D-PAGEを示す。
【図6】実施例10に従って精製したパイロットバッチBPP071からのサンプルのSDS-PAGE銀染色ゲルを示す。
【図7】実施例10に従って精製したパイロットバッチBPP071からのサンプルのウェスタンブロットゲルを示す。
【図8】付録1を示す。
【図9】付録2を示す。
【図10】付録3を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
マルチモーダル(多様式)(または混合方式)クロマトグラフィーは、タンパク質を精製するツールである。例えば、製造者データシートGEヘルスケア(GE Health Care)(11-0035-45AA)のカプト・アドヘア(Capto Adhere)、製造者データシートGEヘルスケア(28-9078-88AA)のカプトMMC、および、欧州特許出願EP 07114856.3号「プリオンタンパク質を含まない、目的タンパク質の単離および精製の方法(A process for the isolation and purification of a target protein, free of prion proteins)」に記載されている。
【0018】
この技術は、ある利点および不利点を有する。一つの利点は、より頻繁に使用されるイオン交換クロマトグラフィーと比較して、より高い塩濃度の範囲内でタンパク質に結合する可能性である。不利点は、溶出が、多くの場合、単独または他の溶出パラメータとの組み合わせにおいて、例えばpHが中性pH未満か中性pHを超えるような、相対的に厳しい条件を含むことである。FVIIIは、例えば、中性値pH 6〜8外のpH値について、相対的に不安定なタンパク質である(ワン(Wang)ら、凝固FVIII、構造および安定性(Coagulation FVIII, structure and stability)、International Journal of Pharmaceuticals、259巻(2003年)1〜15頁)。本発明は、およそ中性のpH範囲での穏やかな溶出条件によってこの問題を解決するが、このpH範囲は、FVIII分子の活性を保持し、高められた塩濃度の安定化効果と組み合わせて、マルチモーダルクロマトグラフィーの使用を容易にし、このことは、例えば、欧州特許EP-A-1 707 634号に記載されている。
【0019】
本発明の態様では、マルチモーダルクロマトグラフィーは、クロマトグラフィーカラムにおいて実施し得る。これは、第一の捕捉工程と考え得る。本発明の方法は、バッチ方式でも実施し得る。また、本発明は、ヒトまたは動物由来の安定化添加剤の添加や、それらのない全体の方法(モノクローナル抗体に基づく免疫アフィニティー樹脂)を使用せずに、精製方法を容易にする。また、特に捕捉工程として、マルチモーダル樹脂の使用は、従来のイオン交換体と比較して、より高い結合能力を促し、それにより、工程からより濃縮した製品溶出液が得られ、これは製品安定性に有利である。
【0020】
本発明の方法は、代表的には、組み換えFVIII(FVIII)の精製に関し、特にB-ドメイン欠失組み換えFVIIIに関する。
【0021】
代表的には、溶液は、25℃で約25〜約200 mS/cmの導電率に対応する高塩濃度溶液中に、FVIIIを含む。
【0022】
本発明の別の態様では、FVIIIをマルチモーダル樹脂に適用し、マルチモーダル樹脂に結合した後に、好適な緩衝液で溶出する。
【0023】
FVIIIを含む混合物を適用し、マルチモーダル樹脂にFVIIIを結合した後、pH6〜8で正に荷電する少なくとも一つのアミノ酸を含む溶出緩衝液を用いて、マルチモーダル樹脂からFVIII分子を溶出するが、特に、pH 6〜8で正に荷電するアミノ酸は、リシン、アルギニンおよび/またはヒスチジンである。
【0024】
加えて、緩衝液は、アルコール等の少なくとも一つの水酸基を含有する有機化合物、アミノ酸等の少なくとも一つのアミノ基含有有機化合物、Ca2+イオン供給源、例えば特に≦1Mの濃度のNaClのような、無機塩等の緩衝液のイオン強度を調節する少なくとも一つの化合物、非イオン性洗浄剤、および、pHを約6〜約8、特におよそ中性値に調節する緩衝物質を含んでいてもよい。
【0025】
本発明の方法のさらなる態様では、アルコールは、メタノール、プロパノールおよびエチレングリコールの群から選択することができ;アミノ酸は、アルギニン、リシンおよびヒスチジンの群から選択することができ;Ca2+供給源は、CaCl2であってもよく;無機塩は、KClおよびNaClの群から選択することができ;非イオン性洗浄剤は、ツイーン(Tween)20、ツイーン80およびプルロニック(Pluronic)F68の群から選択することができ;緩衝物質は、pH 6〜8で、クエン酸ナトリウム、ヒスチジン、HEPES、MESおよび酢酸ナトリウムの群から選択することができる。
【0026】
特に、pH 6〜8で正に荷電するアミノ酸の濃度は、少なくとも>0.4M、特に>0.5Mの量で存在する。特定のアミノ酸を1Mより大きい濃度で使用した場合、このことはさらなる利点にはつながらない。代表的には、アルギニンの量は、約0.4M〜約1.0Mの範囲内であり、特に約0.7M〜約0.9Mの範囲内である。例えばエチレングリコールである、アルコール等の水酸基を含有する有機化合物は、特に0%(v/v)〜30%(v/v)の量、特に約5%〜15%の量で存在する。カルシウムイオン濃度は、0.0001M〜約0.1M、特に約0.001〜約0.03Mの範囲内であるべきである。緩衝液のイオン強度を調整する化合物の濃度は、25℃での導電率を約15〜約200 mS/cmにする範囲内であるべきである。非イオン性洗浄剤の量は、代表的には、約0.001%〜1%の範囲内である。
【0027】
本発明の方法の態様では、洗浄緩衝液をマルチモーダル樹脂に適用する。これは、FVIIIを放出する前に、混入物質を洗い流し、FVIIIを保持するために使用し得る。
【0028】
本発明の方法のさらなる態様では、「マルチモーダル」クロマトグラフィー樹脂は、少なくとも一つの以下の部分を含有する:
i) 正に荷電したN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンド、
ii) 負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンド、
iii) フェニルプロピルリガンド、
iv) N-ヘキシルリガンド、
v) 4-メルカプト-エチル-ピリジンリガンド、
vi) 3-((3-メチル-5-((テトラヒドロフラン-2-イルメチル)-アミノ)-フェニル)-アミノ)-安息香酸リガンドまたはそれらの組み合わせ。
【0029】
特に、本発明の方法では、「マルチモーダル」クロマトグラフィー樹脂は、以下の市販の樹脂、HEPハイパーセル(Hypercel)(商標);PPAハイパーセル(商標);カプト・アドヘア(Capto Adhere) (商標);カプトMMC(商標); MEPハイパーセル(商標)から選択される。
【0030】
本発明の方法の別の態様では、マルチモーダルクロマトグラフィー工程は、FVIIIアフィニティークロマトグラフィー工程と組み合わされるが、ここでアフィニティー(親和性)は、イーストにおいて発現される抗体断片等のタンパク質リガンドによって与えられる。
【0031】
本発明の方法では、精製手順は、化学的不活化工程、サイズに基づく除去工程、クロマトグラフィー工程またはそれらの組み合わせであって、工程が病原体の除去を目的とする種々の生理学的特性に基づくものを含む、病原体の除去/不活化工程を、さらに含む。
【0032】
本発明の方法の特別な態様では、精製手順は以下の工程をさらに含む:
i. 特にDNA低減のための、サルトバインド(Sartobind)Q等のアニオン性膜の使用;
ii. カプト(Capto)MMC等の、カチオンマルチモーダル樹脂;
iii. SPセファロース(Sepharose)FF等のカチオン交換樹脂;
iv. 特にさらなるDNA低減のため、サルトバインドQ等の第二のアニオン性膜の使用;
v. 欧州特許EP-A-131 740号に開示された通り、特に、トリ-n-ブチルホスフェートおよびトリトン(Triton)X-100を用いる溶媒/洗浄剤不活化である、脂質エンベロープウイルスの化学的不活化工程;
vi. イーストにおいて発現されるタンパク質リガンドに基づく、VIIISelect等のアフィニティー樹脂、またはカプト・アドヘア(Capto Adhere)等のアニオンマルチモーダルクロマトグラフィー樹脂;
vii. プラノバ(Planova)20N等の、平均孔径約20 nmでの病原体濾別工程;
viii. QセファロースFF等の、アニオン交換樹脂;
xi. スーパーデックス(Superdex)200pg等のサイズ排除クロマトグラフィー樹脂。
【0033】
特に、本発明の方法において、カチオン交換工程の溶出条件はCa2+-イオンに基づき、濃度は0.15〜0.25Mの範囲であり、溶出緩衝液の総導電率は25℃で25 mS/cmを超えない。
【0034】
本発明の方法が使用される場合、最終精製工程後、得られる製品の純度は>4000 IU/mgタンパク質であり、好ましくは>9000 IU/mgタンパク質であり、より好ましくは>10000 IU/mgタンパク質であり、DNA混入に関しては、<1000 pg/1000 IU FVIIIであり、好ましくは<100 pg/1000 IU FVIIIであり、より好ましくは<10 pg/1000 IU FVIIIである。
【0035】
従って、物質の組成物もまた、本発明の主題であり、物質の組成物は、(アルブミンのようなヒトまたは動物添加剤、またはモノクローナル抗体に基づく免疫アフィニティーリガンドを全く添加または使用せずに)本発明の方法によって得られる精製組み換えFVIIIを含んでいる。
【0036】
付録1は、本発明による方法のフローシートを示し、ここで捕捉工程はマルチモーダル樹脂上で実施される。細胞懸濁液に塩を加えて処理し、細胞を分離した後、好ましくはQ膜でDNA低減工程を行う。Q膜(例えば、サルトリオス(Sartorious)社のサルトバインド(Sartobind)Q)は、アニオン交換部分として、第4級アンモニア基を有する強塩基性アニオン交換体である。pHおよび導電率の特定の範囲内において、Q膜はDNAに特異的に結合し、一方、製品(および宿主細胞タンパク質)は、通過液中に残る。従来のイオン交換カラムクロマトグラフィーとは反対に、荷電したリガンドは膜支持体に結合し、ハイスループットおよび簡便性を促進する。捕捉工程は、マルチモーダル樹脂を用いる本発明の方法を含む。捕捉工程の後、カチオン交換体、SPセファロース(Sepharose)FF(商標)(GEヘルスケア(HealtCare))で分離し、その後、Q膜でさらにDNAを減少させる。例えば欧州特許EP-A-131740号に開示された通りの、溶媒洗剤法(S/D法)によるウイルス不活化処理を実施し、例えばVIII Select(商標)アフィニティー樹脂でさらなる精製工程を実施する。アニオン交換カラム、例えばQセファロースFF(商標)(GEヘルスケア)で、さらなる濃縮/最終精製工程を実施する。濃縮した製品は、その後、ゲル濾過カラム(例えば、スーパーデックス(Superdex)200 p.g. (商標) (GEヘルスケア))で処理して、緩衝液を交換し、ありうる凝集体および断片を除去する。得られる製品であるGF溶出液を回収する。各工程は実施例で詳細に説明する。
【0037】
付録2および3は、付録1に記載した特異的アフィニティー工程(VIIISelect(商標)(GEヘルスケア(HealtCare)))をマルチモーダルクロマトグラフィーであるカプト・アドヘア(Capto Adhere)(商標)(GEヘルスケア)に置き換えた、別の態様を示す。驚くべきことに、付録2に記載した通りの精製手順により、付録1に記載した精製順序(特異的抗体に基づくアフィニティー工程を含む)と同等の純度が得られた。付録3に記載した通り、同一の出発物質からこの結果は繰り返された。このことは、本発明による、FVIIIの特異的溶出条件を使用して、一回より多く(付録2および3に記載した通り、カプトMMC(商標)(GEヘルスケア)を用いる捕捉工程、および、カプト・アドヘア(商標)(GEヘルスケア)を用いるさらなる下流の精製工程の両者)、マルチモーダル精製技術を用いる、十分な可能性を示す。
【0038】
本発明を、以下の非限定的な例によって詳述する。
【実施例】
【0039】
全ての実施例において、M(モル)の実際の値はmol/Kgである(即ち、10グラムの塩を1000グラムの水に添加する−10グラムの塩に水を加えて1000mLにするのではない)。
【0040】
実施例1:FVIII含有細胞懸濁液の製造
細胞
使用した細胞系は、ヒト胎児腎細胞293(HEK 293)の誘導体であり、無血清増殖に適応させた。この宿主であるHEK 293Fは、強力なプロモーターの制御下で、B-ドメイン欠失ヒトFVIIIの遺伝子を持つ発現カセットで、安定にトランスフェクトされた(欧州特許EP-A-1 739 179号)。
【0041】
培養方法
細胞は、血清を含まない培地で、当技術分野でよく知られた一般的な装置および一般的な方法で培養した。例えば、t-フラスコ、振とうフラスコまたはバイオリアクター(使い捨て方式および慣用の撹拌タンク)中の振とうまたは撹拌した培養物が、回分、流加、かん流または連続ケモスタット培養物となる(フレッシュニー(Freshney)R I (2000年)、動物細胞培養:基本技術マニュアル(Culture of animal cells: a manual of basic technique)、第4編、ウィリー−リス(Wiley- Liss);スパイヤー(Spier), R E編(2000年)、細胞技術事典(Encyclopedia of cell technology)、ウィリー(Wiley)、ニューヨーク;エンフォース(Enfors), S-Oおよびヘッグストローム(Haggstrom), L (2000年)、バイオプロセス技術:基礎および応用(Bioprocess technology: fundamentals and applications)、Hogskoletryckeriet、Royal Institute of Technology、ストックホルム;ビンチ(Vinci), V Aおよびパレク(Parekh), S R (2003年)、工業的細胞培養ハンドブック:哺乳類、微生物および植物細胞(Handbook of industrial cell culture: mammalian, microbial, and plant cells)、フマナ・プレス(Humana Press)、米国)。代表的には、培地のかん流を行って、標準的バッチ培養の値を超える細胞数および製品力価に上昇させる。製品収率および宿主細胞タンパク質の量は、培養方式によって異なる:
【0042】
− 製品力価は、典型的には、細胞数に伴って上昇する。
− 総タンパク質含量およびDNA含量は、典型的には、細胞数に伴って上昇する。
− 総タンパク質含量およびDNA含量は、培養寿命(longetivity)に伴っても上昇し得る。
− バッチ培養物は、タンパク質およびDNAを蓄積する;何も外部から加えず、何も除去しない。
− かん流法では、細胞培養物をすすぎ、代謝産物、タンパク質、DNAおよび他の不純物を除き;濾過または細胞遠心分離は、典型的には、細胞保持に使用した。
【0043】
組み換え製品は細胞と関係するので、細胞懸濁液は採取物である。この採取物の特性(製品力価および上記した通りの不純物)は、使用した培養方式によって異なる。
【0044】
実施例2:細胞を含まないFVIIIの出発物質の製造
クロマトグラフィー精製のための、細胞を含まないFVIIIの出発物質を、以下の通り得た。塩化ナトリウムおよび塩化カルシウムの貯蔵液を、実施例1に従って製造した細胞懸濁液に加え、最終濃度をそれぞれ0.3Mおよび30mMとし、25℃での導電率を30〜40 mS/cmとした。溶液を約30分間混合した後、細胞を遠心分離で除去し、その後濾過工程で全ての残留細胞残屑を除去した(以下のカラム工程の目詰まりを抑制するため)。
【0045】
実施例3:マルチモーダルカチオン樹脂カプト(Capto)MMCの溶出条件
実験の以下のシリーズを実施して、マルチモーダルカチオン樹脂カプトMMCの種々の溶出条件を比較した。
【0046】
実施例3a、カプト(Capto)MMC樹脂からFVIIIを溶出する、種々の塩濃度およびpHの評価(参考例)
カラムおよび樹脂
C10/20カラム(1カラム容量(CV)=8 mL)に、カプトMMC樹脂を層高10 cmまで詰めた。カプトMMC樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare)より入手した(カタログNo.17-5317)。
出発物質
使用した出発物質は、実施例2に記載した通りに得た、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であった。
平衡緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 7.0、25℃での導電率31±3 mS/cm。
【0047】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、出発物質を流速5 mL/分で負荷した。これらの緩衝液条件の間に、FVIIIは樹脂に結合した(通過液中にFVIIIが検出され得なかった)。その後、樹脂を、表1に記載した通りの種々の溶出条件に付し、カラムより出るFVIII量をFVIII:C法で分析し、FVIIIの適用量に対する%で計算した。
【0048】
【表1】

* 溶出緩衝液は、0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2および0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80を含有していた。
** 溶出緩衝液は、0.05 M L-ヒスチジン、0.05 M CaCl2および0.02% w/wポリソルベート80を含有していた。
【0049】
参考例3aの結果
表1に見られる通り、FVIIIのカプト(Capto)MMCカラムへの結合は、イオン相互作用ではない。
【0050】
参考例3b、カプト(Capto)MMCについて、50%エチレングリコール一定量を有する、種々のNaCl濃度の溶出条件の評価
カラムおよび樹脂
XK16/20 カラム(1カラム容量(CV)=4 mL)に、カプトMMC樹脂を層高2 cmまで詰めた。カプトMMC樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare) より入手した(カタログNo.17-5317)。
出発物質
使用した出発物質は、実施例2に記載した通りに得た、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であった。
平衡緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 7.0、25℃での導電率31±3 mS/cm。
【0051】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、出発物質を流速1 mL/分で負荷した。これらの緩衝条件の間に、FVIIIは樹脂に結合した(通過液中にFVIIIが検出され得なかった)。その後、樹脂を、表2に記載した通りの種々の溶出条件に付し、カラムより出るFVIII量をFVIII:C法で分析し、FVIIIの適用量に対する%で計算した。
【0052】
【表2】

* 溶出緩衝液は全て、0.02M L-ヒスチジン、0.02M CaCl2および0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80を含有していた。
【0053】
参考例3bの結果
表2に見られる通り、FVIIIのカプト(Capto)MMCカラムへの結合は、エチレングリコールとNaClとの組み合わせによって阻害され得る。慣用のタンパク質に基づくアフィニティー樹脂のための溶出緩衝液としては、通常、50%エチレングリコールが使用される。エチレングリコールを、1.5Mまで濃度を上げた塩化ナトリウムと組み合わせた場合、FVIIIの溶出は向上する。試験した二つの異なるpH(pH 6.5および7.5)では、FVIIIの回収率は変化せず、pHは、タンパク質の安定限界内(およそ6〜8)では、FVIIIの溶出パラメータとして使用し得ないことを示す。NaClの濃度を2.5Mまで上げたが、溶出液中のFVIII:Cの回収率は向上しなかった。
【0054】
実施例3c、カプト(Capto)MMCの溶出成分としてのアルギニンの変化
カラムおよび樹脂
トリコーン(Tricorn)5/100 カラム(1カラム容量(CV)=1.6 mL)に、カプトMMC樹脂を層高8 cmまで詰めた。カプトMMC樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare) より入手した(カタログNo.17-5317-10)。
出発物質
使用した出発物質は、実施例2に記載した通りに得た、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であった。
平衡緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 7.0、25℃での導電率31±3 mS/cm。
【0055】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、出発物質を流速0.6 mL/分で負荷した。これらの緩衝条件の間に、FVIIIは樹脂に結合する(通過液中にFVIIIが検出され得なかった)。その後、樹脂を、表3に記載した通りの種々の連続的溶出条件(それぞれ、およそ10カラム容量(CV))に付し、カラムより出るFVIII量をFVIII:C法で分析し、FVIIIの適用量に対する%で計算した。
【0056】
【表3】

* 溶出緩衝液は全て、0.01M L-ヒスチジン、0.3M NaCl、0.01M CaCl2および0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80を含有していた。pH6.5。
【0057】
実施例3c(本発明による)の結果
表3に見られる通り、驚くべきことに、FVIIIのカプト(Capto)MMCカラムへの結合は、エチレングリコールとアルギニンとの組み合わせによって阻害され得る。20%(w/w)のエチレングリコールと組み合わせた0.9Mまでのアルギニンを含有する溶出液中に、FVIIIの溶出が見られる。
【0058】
実施例3d(本発明による)、カプト(Capto)MMCの溶出成分としてのアルギニンとリシンの比較
カラムおよび樹脂
トリコーン(Tricorn)50/10またはC10/20 カラム(1カラム容量(CV)=1.6〜3 mL)に、カプトMMC樹脂を層高4〜8 cmまで詰めた。カプトMMC樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare) より入手した(カタログNo.17-5317)。
出発物質
使用した出発物質は、実施例2に記載した通りに得た、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であった。
平衡緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 7.0、25℃での導電率31±3 mS/cm。
【0059】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、接触時間1〜2分に対応する流速で出発物質を負荷した。これらの緩衝条件の間に、FVIIIは樹脂に結合した(通過液中にFVIIIが検出され得なかった)。その後、樹脂を、表4に記載した通りの種々の溶出条件に付し、カラムより出るFVIII量をFVIII:C法で分析し、FVIIIの適用量に対する%で計算した。
【0060】
【表4】

* 溶出緩衝液は全て、0.01M L-ヒスチジン、0.3M NaCl、0.01M CaCl2および0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80を含有していた。pH6.5。
【0061】
実施例3d(本発明による)の結果
表4に見られる通り、FVIIIのカプト(Capto)MMCカラムへの結合を、種々の濃度のリシンおよびアルギニンと組み合わせた20%エチレングリコールを使用して研究した。アルギニンは、リシンよりも良好にFVIIIを溶出したが、0.75Mの濃度でおよそ90%の回収率を上げるようである。例えば0.75MのアルギニンでFVIIIを溶出する前に、FVIII分子から不純物を除去する洗浄工程として、エチレングリコールとの組み合わせたいずれかのアミノ酸のより少量を使用することは可能であると思われる。
【0062】
実施例3e、カプト(Capto)MMCの種々の洗浄および溶出条件を使用する、純度および回収率の評価
カラムおよび樹脂
カプトMMC樹脂を種々のカラムサイズ(層高2〜9 cm、容量1.6〜48 mL)に詰めた。カプトMMC樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare) より入手した(カタログNo.17-5317)。
出発物質
使用した出発物質は、実施例2に記載した通りに得た、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であり、典型的な純度は、およそ100 IU FVIII/mgタンパク質であった(実施例9、表18に示される通り)。
平衡緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 7.0、25℃での導電率31±3 mS/cm。
【0063】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、適当な流速(カラムサイズによる、およそ13〜300 cm/時間)で出発物質を負荷した。これらの緩衝条件の間に、FVIIIは樹脂に結合した(通過液中にFVIIIが検出され得なかった)。その後、樹脂を、表5に記載した通りの種々の洗浄および溶出条件に付し、カラムより出るFVIII量をFVIII:C法で分析し、FVIIIの適用量に対する%で計算した。
【0064】
【表5】

* 溶出緩衝液は全て、0.01M L-ヒスチジン、0.3M NaCl、0.01M CaCl2および0.02%(w/w)ポリソルベート(Polysorbate)80を含有した。pH6.5。
** ブラッドフォードで測定
【0065】
実施例3eの結果
表5に見られる通り、溶出緩衝液でより高濃度のアルギニンを適用する前の洗浄工程において、20%エチレングリコールと0.4Mアルギニンの組み合わせにより、高収率および高純度の製品が得られるが、洗浄緩衝液中のアルギニンの濃度は、FVIII回収率が相対的に低くなるため、0.4Mを超えるべきではない。
【0066】
実施例3の結果
カチオンマルチモーダル樹脂(カプト(Capto)MMC)は、従来のイオン交換体の溶出条件(高塩)または疎水性相互作用樹脂(低塩)を使用して、溶出され得ないことが明らかになる。増量した、荷電したアミノ酸は、驚くべきことに、単独またはエチレングリコールと組み合わせて、カプトMMC樹脂から、結合したFVIIIを放出することができた。加えて、カプトMMC溶出液の回収率および純度を最適化するため、NaCl、アルギニン、リシンおよびエチレングリコール濃度は、樹脂の洗浄および溶出の間、変動させることができた。
【0067】
実施例4:マルチモーダルアニオン樹脂カプト・アドヘア(Capto Adhere)の溶出条件(比較)
マルチモーダルアニオン樹脂カプト・アドヘアに対する種々の溶出条件を評価するため、以下の実験系列を実施した。
カラムおよび樹脂
C10/20 カラムに、カプト・アドヘア樹脂を層高13.5 cmまで詰めた。カプト・アドヘア樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare) より入手した(カタログNo.17-5444)。
出発物質
使用した出発物質は、実施例6Cに記載した通りに得た、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であった。
平衡緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 6.5、25℃での導電率30±3 mS/cm。
【0068】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、出発物質を負荷した。その後、樹脂を、表6に記載した通りの種々の溶出条件に付し、カラムより出るFVIII量を分析した。
【0069】
【表6】

【0070】
溶出条件A
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 6.5、25℃での導電率30±3 mS/cm。
溶出条件B(高塩)
0.05M L-ヒスチジン、0.05M CaCl2、2.0M NaCl、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率140±5 mS/cm。
溶出条件C(低塩)
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.1M NaCl、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率13±3 mS/cm。
溶出条件D(低アミノ酸+低エチレングリコール)
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.3M塩酸アルギニン、20% w/wエチレングリコール、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率28±3 mS/cm。
溶出条件E(アミノ酸)
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.8M塩酸アルギニン、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率53±2 mS/cm。
【0071】
実施例4の結果
アニオンマルチモーダル樹脂(カプト・アドヘア(Capto Adhere))は、従来のイオン交換体の溶出条件(高塩)または疎水性相互作用樹脂の溶出条件(低塩)を使用して溶出され得ないことが明らかになる。増量した、荷電したアミノ酸は、驚くべきことに、単独またはエチレングリコールと組み合わせて、結合したFVIII分子を放出することができた。
【0072】
実施例5、精製工程(捕捉工程)としての、従来のカチオン交換工程(SPセファロース(Sepharose)FF)と、カチオンマルチモーダル樹脂(カプト(Capto)MMC)との比較
カラムおよび樹脂
C10/20 カラム(1カラム容量(CV)=8.5 mL)に、カプトMMC樹脂を層高11 cmまで詰めた。カプトMMC樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare)より入手した(カタログNo.17-5317)。
XK26/20カラム(1カラム容量(CV)=100 mL)に、SPセファロースFF樹脂を層高18 cmまで詰めた。SPセファロースFF樹脂は、GEヘルスケアより入手した(カタログNo.17-0729)。
【0073】
出発物質
使用した出発物質は、実施例2に記載した通りに得た、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であった(同一の出発物質を両実験に使用した)。SPセファロース(Sepharose)FF樹脂については、出発物質は、FVIIIが結合可能な樹脂に適用する前に、希釈緩衝液で希釈して導電率を12 mSとした。
希釈緩衝液SP
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.07M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 6.5。
【0074】
平衡緩衝液MMC
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.3M NaCl、0.02% w/wポリソルベート80、pH 7.0、25℃での導電率31±3 mS/cm。
平衡緩衝液SP
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.1M NaCl、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率12±2 mS/cm。
【0075】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、それぞれ流速5 mL/分および40 mL/分で出発物質を負荷した。これらの緩衝条件の間に、FVIIIは樹脂に結合した(通過液中にFVIIIが検出され得なかった)。その後、樹脂を種々の洗浄および溶出条件に付したが、原則は、カプト(Capto)MMC工程には実施例3d(洗浄0.75Mリシン+20%エチレングリコール)および実施例3b(溶出1.5M NaCl+50%エチレングリコール)に記載されたものであり、SPセファロース(Sepharose)FF工程には実施例6b(洗浄0.15M NaClおよび溶出0.36M NaCl)に記載されたものである。表7において、二つの精製工程の差を検討することができる。
【0076】
【表7】

* 非希釈出発物質から計算
** ブラッドフォードで測定
【0077】
実施例5の結果(比較)
表7の結果より、FVIIIの捕捉/精製工程としてのカプト(Capto)MMC工程の使用により、以下のいくつかの利点が得られることが示される:
・ FVIII回収率がより高い
・ 宿主細胞タンパク質に関し純度がより高い
・ DNAに関し純度がより高い
・ 結合能力FVIII/mL樹脂がより高い
・ 希釈がより少ないため、工程時間がより短い(MMC樹脂はより高い導電率で処理し得る)
【0078】
実施例6、カチオン交換樹脂(SPセファロース(Sepharose)FF)での、FVIIIについての特異的溶出(Ca)および洗浄成分(比較)
以下の実験系列を実施して、SPセファロースFF樹脂での種々の溶出条件を評価した。
【0079】
実施例6a、カチオン交換樹脂(SPセファロース(Sepharose)FF)で使用される、特異的溶出および洗浄成分としての塩化ナトリウムおよびアルギニン
カラムおよび樹脂
XK16カラムに、SPセファロースFF樹脂を層高15 cmまで詰めた。SPセファロースFF樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare) より入手した(カタログNo.17-0729)。
出発物質
使用した出発物質は、実施例2に記載した通りに得て、実施例9に記載した通りにカプト(Capto)MMC樹脂でさらに処理した、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であった。カプトMMCカラムからの溶出液を希釈緩衝液で12倍に希釈して導電率をおよそ12 mS/cmに低下させたが、このことにより標的タンパク質のSPセファロースFF樹脂への結合が可能になる。
希釈緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.07M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 6.5。
平衡緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.1M NaCl、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率12±2 mS/cm。
【0080】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、出発物質を負荷した。その後、樹脂を、表8に記載した通りの種々の溶出条件に付し、カラムより出るFVIII量を分析した。
【0081】
【表8】

na- 分析されず
** ブラッドフォードで測定
【0082】
洗浄A
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.15M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 6.5、25℃での導電率16.5〜18.0 mS/cm。
溶出緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.035M CaCl2、0.34M NaCl、0.2M D-ソルビトール、0.045M塩酸アルギニン、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率36±2 mS/cm。
【0083】
実施例6aの結果(比較)
結合したFVIIIは、導電率が36 mS/cmの溶出緩衝液を使用した場合に、SPセファロース(Sepharose)FFカラムより効果的に溶出された。この導電率は、NaCl濃度の効果であり、一部はCaCl2およびアルギニン濃度の効果であった。ソルビトールおよびアルギニンは緩衝液中に含まれ、処理、冷凍および解凍の間に、FVIII分子を安定化した。
【0084】
実施例6b、カチオン交換樹脂(SPセファロース(Sepharose)FF)上で使用される、特異的溶出および洗浄成分としての塩化ナトリウム
カラムおよび樹脂
C10/20カラムに、SPセファロースFF樹脂を層高15 cmまで詰めた。SPセファロースFF樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare) より入手した。(カタログNo.17-0729)
出発物質
使用した出発物質は、実施例2および実施例9に記載した通りに得た、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であった。カプト(Capto)MMCカラムからの溶出液を希釈緩衝液で12倍に希釈して導電率を低下させたが、このことにより標的タンパク質のSPセファロースFF樹脂への結合が可能になる。
希釈緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.01M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH6.5。
平衡緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.1M NaCl、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率12±2 mS/cm。
【0085】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、出発物質を負荷した。その後、樹脂を、表9に記載した通りの種々の溶出条件に付し、カラムより出るFVIII量を分析した。
【0086】
【表9】

** ブラッドフォードで測定
【0087】
洗浄B
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.15M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 6.5、25℃での導電率16.5〜18.0 mS/cm。
溶出緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.035M CaCl2、0.36M NaCl、0.2M D-ソルビトール、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率36±2 mS/cm。
【0088】
実施例6bの結果
導電率が36 mS/cmの溶出緩衝液を使用した。実験5aで使用したものと比較して、アルギニンが除かれ、わずかにより高いNaCl濃度を用いることにより、導電率を36 mS/cmに調節した。溶出したFVIIIの割合は、実験5aよりわずかに低かったが、このことはアルギニンが処理中に積極的機能を有することを示唆する。
【0089】
実施例6c、カチオン交換樹脂上で使用される、特異的溶出および洗浄成分としての塩化カルシウム
カラムおよび樹脂
XK26カラムに、SPセファロース(Sepharose)FF樹脂を層高15.5 cmまで詰めた。SPセファロースFF樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare) より入手した(カタログNo.17-0729)。
出発物質
使用した出発物質は、実施例2および実施例9に記載した通りに得た、rFVIIIを含有するタンパク質溶液であった。カプト(Capto)MMCカラムからの溶出液を希釈緩衝液で12倍に希釈して導電率を低下させたが、このことにより標的タンパク質のSPセファロースFF樹脂への結合が可能になる。
希釈緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.05M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 6.5。
平衡緩衝液
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.1M NaCl、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率12±2 mS/cm。
【0090】
カラムを平衡緩衝液で平衡にした後、出発物質を負荷した。その後、樹脂を、表10に記載した通りの種々の溶出条件に付し、カラムより出るFVIII量を分析した。
【0091】
【表10】

** ブラッドフォードで測定
【0092】
洗浄B
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.15M NaCl、0.02% w/wポリソルベート(Polysorbate)80、pH 6.5、25℃での導電率16.5〜18.0 mS/cm。
洗浄C(ソルビトール)
0.01M L-ヒスチジン、0.01M CaCl2、0.1M NaCl、0.2M D-ソルビトール、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率12±2 mS/cm。
溶出緩衝液(塩化カルシウム)
0.02M L-ヒスチジン、0.2M CaCl2、0.1M NaCl、0.2M D-ソルビトール、0.02% w/wポリソルベート80、pH 6.5、25℃での導電率18.7(18.0〜19.0)mS/cm。
【0093】
実施例6c(6a、6b)の結果
この実験(6c)では、溶出緩衝液中、NaCl濃度は低くし、より高いCaCl2濃度を使用した。この変化により、導電率は18.7 mS/cmとなった。SPセファロース(Sepharose)FFからのFVIIIの溶出能力は、実験5aと同様に良好であり、溶出緩衝液の導電率は36 mS/cmであった。FVIIIの回収率が、導電率がほぼ半分の溶出緩衝液と同等またはそれ以上であったことは、予想外の発見であった。イオン交換クロマトグラフィーにおいて、通常は、タンパク質の溶出は、導電性(イオン強度)または/およびpHに強く依存する。この例において、Ca2+イオンは、FVIII分子に対して、単なるイオン強度からの影響の他に、特定の効果を奏すると思われる。このことは、純度からも実証され、導電性がより低いCa系溶出を用いた場合、純度はより高い(6aおよび6bでそれぞれ362および948であるのと比較して、2811)。
【0094】
実施例7、イースト由来FVIIIアフィニティーリガンドでの精製
以下の実験を実施して、アフィニティー樹脂VIIISelectでの溶出条件を評価した。
カラムおよび樹脂
C10/20カラムに、VIIISelect樹脂を層高7 cmまで詰めた。VIIISelect樹脂は、GEヘルスケア(Healthcare) より入手した(カタログNo.17-5450)。
出発物質
使用した出発物質は、本質的に、SPセファロース(Sepharose)FF工程(洗浄0.15M NaClおよび溶出0.36M NaCl)について実施例6bに記載した通りに得た、rFVIIIを含有するSPセファロース溶出液であった。
【0095】
緩衝液組成:
緩衝液A(S/D化学物質を添加した平衡緩衝液)
0.3モル/kg NaCl、0.02モル/kg CaCl2(2xH2O)、0.02モル/kg L-ヒスチジン、1% w/w トリトン(Triton)X-100、0.3% w/w TNBP、pH:6.5±0.1、導電率:+25℃で31±3 mS/cm。
洗浄B(S/D化学物質を含まない平衡緩衝液)
0.3 mol/kg NaCl、0.02 mol/kg CaCl2、0.02 mol/kg L-ヒスチジン、0.02% (w/w)ポリソルベート(Polysorbate)80、pH:6.5±0.1、導電率:+25℃で31±3 mS/cm。
洗浄C(高塩濃度洗浄緩衝液)
1.0 mol/kg NaCl、0.02 mol/kg CaCl2、0.02 mol/kg L-ヒスチジン、0.02% (w/w)ポリソルベート80、pH:6.5±0.1、導電率:+25℃で85±3 mS/cm。
緩衝液D(溶出緩衝液)
1.5 mol/kg NaCl、0.02 mol/kg CaCl2、0.02 mol/kg L-ヒスチジン、0.02% (w/w)ポリソルベート80、50%(w/w)エチレングリコール(EG)、pH:6.5±0.1、導電率:+25℃で39±3 mS/cm。
【0096】
平衡、洗浄および溶出緩衝液は、上述のpH、濃度、および緩衝液、塩または洗浄剤の種類に限定されない。
カラムを平衡緩衝液Aで平衡にした後、出発物質を負荷した。その後、樹脂を、表11に記載した通りの種々の洗浄および溶出条件に付し、カラムより出るFVIII量を分析した。
【0097】
【表11】

* ブラッドフォードで測定
【0098】
図1は、アフィニティークロマトグラフィー工程後の、出発物質(レーン1)およびVIIISelect溶出液(レーン2)についての純度プロファイルを示す、銀染色SDS-PAGEである。
【0099】
実施例7の結果
VIIISelect工程は、純粋な溶出液を得る、効果的な精製工程である。
【0100】
実施例8、VIIISelectアフィニティー樹脂または、代わりにマルチモーダル樹脂(カプト・アドヘア(Capto Adhere))を用いた精製手順の比較(付録3)
二つの異なる精製スキームを、実施例7(VIIISelect)および実施例10(カプト・アドヘア)に従って、小規模で実施した。
【0101】
【表12】

n.a. = 分析されず
* ブラッドフォードで測定
** アミノ酸分析で測定
【0102】
図2は、表12に記載されたサンプルのSDS Page銀染色を示し;VIIISelect精製スキームとカプト・アドヘア(Capto Adhere)精製スキームを比較する。
レーン1は、VIIISelectカラムにFVIIIを濃度483 IU/mlで負荷する前の、出発物質(SP-濾液)の純度を示す。
レーン2は、FVIIIを濃度500 IU/mlで負荷した、VIIISelect溶出液の純度を示す。
レーン3は、FVIIIを濃度500 IU/mlで負荷した、精製手順SP-VIIISelec-Q Sephの後の純度を示す。
レーン4は、FVIIIを濃度385 IU/mlで負荷した、精製手順SP-VIIISelec-Q Seph-ゲル濾過の後の純度を示す。
【0103】
レーン5は、FVIIIを濃度493 IU/mlで負荷した、カプト・アドヘア(Capto Adhere)カラムの前の、出発物質(SP-濾液)の純度を示す。
レーン6は、FVIIIを濃度500 IU/mlで負荷した、カプト・アドヘア溶出液の純度を示す。
レーン7は、FVIIIを濃度500 IU/mlで負荷した、精製手順SP-Capto Adhere-Q Sephの後の純度を示す。
レーン8は、FVIIIを濃度493 IU/mlで負荷した、精製手順SP-Capto Adhere-Q Seph-ゲル濾過の後の純度を示す。
レーン9は、分子マーカーを示す。
【0104】
実施例8の結果
最終製品(GF-溶出液)の純度を比較すると、VIIISelectアフィニティー工程またはカプト・アドヘア(Capto Adhere)クロマトグラフィー工程のいずれかを使用して、同等の純度を達成し得る。VIIISelect工程後の純度は、カプト・アドヘア工程後よりも高いが、残る精製工程(QおよびGF)の後は、使用した分析法では、純度の差は発見され得ない。カプト・アドヘア工程を使用した回収率は、VIIISelectを使用する手順と比べて、わずかに高い。
【0105】
実施例9:VIIISelectアフィニティー樹脂を含む、工業規模の精製手順
回収率および純度の再現性を検討するため、以下に記載した精製工程1〜9を、パイロット規模で3〜4バッチ実施した。各バッチは、実施例1〜2に記載した通り、40〜100Lの細胞懸濁液から始めた。
【0106】
工程1 DNA低減工程−1(アニオンクロマトグラフィー)
最初のDNA低減を、Q膜(サルトバインド(Sartobind)Q、サルトリオス(Sartorious))を通す濾過により行う。Q膜は、濾過に先立ち、緩衝液で平衡化する(表13)。
【0107】
【表13】

【0108】
細胞濾液(実施例2より)をQ膜を通す処理をし、製品含有通過液を収集する。膜を平衡緩衝液で洗浄して、膜内に残るFVIIIを全て回収する。
【0109】
工程2 捕捉工程(マルチモーダルクロマトグラフィー、カプト(Capto)MMC)
製品の最初の精製および濃縮(捕捉)は、マルチモーダルカチオン交換クロマトグラフィー(カプトMMC)ゲル1 ml当たり、500〜10,000 IUのFVIIIで実施する。ゲルは、製品を適用する前に、カプトMMC平衡緩衝液で緩衝化する。工程1からの濾液をカプトMMCカラムに負荷し、その後、表14に記載した通り、カプトMMC平衡緩衝液でリンスし、続いて洗浄緩衝液1〜3で洗浄し、その後、FVIIIを溶出する。
【0110】
【表14】

【0111】
工程3 カチオン交換クロマトグラフィー、SPセファロース(Sepharose)FF
工程2からのFVIII含有溶液(カプト(Capto)MMC溶出液)を、SP-セファロースFFゲル(GEヘルスケア(Healthcare)、カタログNo.17-0729)を用いてさらに精製する。製品を適用する前に、カラムをSP-セファロース平衡緩衝液で緩衝化し、タンパク質溶液を希釈して、平衡緩衝液のイオン強度およびpHを、FVIIIがゲルに結合することができるように合わせる。希釈したタンパク質溶液をSPセファロースカラムに適用し、その後、表15に記載したように、平衡緩衝液でリンスした後、洗浄緩衝液で洗浄し、次にFVIIIを溶出する。
【0112】
【表15】

【0113】
工程4 DNA低減工程−2(アニオンクロマトグラフィー)
第二のDNA低減を、Q膜(サルトバインド(Sartobind)Q、サルトリオス(Sartorious))を通す濾過により行う。Q膜は、濾過に先立ち、緩衝液で平衡化する(表16)。
【0114】
【表16】

【0115】
工程3からのSP-溶出液を、Q-膜で濾過し、製品含有通過液を収集し、さらに処理する。膜を平衡緩衝液で洗浄し、膜内に残るFVIIIを全て回収する。
【0116】
工程5 ウイルス不活化(溶媒/洗浄剤(S/D)処理)
工程4からの濾液を、1%トリトン(Triton)X-100および0.3%トリ-(N-ブチル)-ホスフェート(TNBP)でのS/D(溶媒/洗浄剤)処理によって、ウイルス不活化する。ウイルス不活化は、約1時間、室温での撹拌下で実施する。
【0117】
工程6 イースト由来アフィニティークロマトグラフィー樹脂での精製
工程5からのウイルス不活化したFVIII溶液を、実施例7の記載に従って、VIIISelectアフィニティーカラムで処理する。樹脂1 mL当たり約5〜20,000 IUのFVIIIを負荷する。
【0118】
工程7 ナノ濾過
工程6からのVIIISelect溶出液を、プラノヴァ(Planova)20Nナノフィルター(旭化成メディカル)を使用してナノ濾過して、非エンベロープウイルス等の、可能な偶発的な病原体を除去する。通過液含有製品を回収する。
【0119】
工程8 アニオン交換クロマトグラフィー工程(Q-セファロース(Sepharose)FF)
Q-セファロースFF樹脂を、GEヘルスケア(Healthcare)より入手した(カタログNo.17-0510)。使用した出発物質は、工程7より得たナノ濾液であり、一方、塩およびpHは、表17の平衡緩衝液と同等に調整した。希釈したタンパク質溶液を、ゲル1 mL当たり5,000〜25,000 IUの負荷量で、QセファロースFFカラムに適用した後、表17に記載した通り、平衡緩衝液でリンスし、その後、洗浄緩衝液で洗浄し、続いてFVIIIを溶出する。
【0120】
【表17】

【0121】
工程9 ゲル濾過クロマトグラフィー工程
ゲル濾過樹脂(スーパーデックス(Superdex)200pg、GEヘルスケア(Healthcare)カタログNo.17-1043)を、層高60〜75cmに詰めた。使用した出発物質は、工程8から得たQ-溶出液である。製品を表面吸着から保護し、冷凍、貯蔵、凍結乾燥等の間に安定化する、生理学的に許容される組成物で、カラムを平衡化する。Q-溶出液を、総カラム容量の2〜8%の容量のゲル濾過カラムに適用する。カラムの後、断片や凝集体のない、製剤化したFVIII含有溶出液を収集する(GF-溶出液)。
【0122】
【表18】

* ブラッドフォードでの測定
【0123】
捕捉集菌バッチであるBPP077およびBPP078は、下流の精製バッチBPP079にプールし、一方、バッチBPP080は、BPP083と表され、BPP081はBPP084と表された。
【0124】
【表19】

*Q工程で計算した収率、**GF工程で計算した収率、***ブラッドフォードで測定、
****アミノ酸分析で測定
【0125】
図3は、実施例9(表18〜19)に従って精製された、最終製品の製剤前(レーン3 - BPP083、レーン7 - BPP084)および製剤後(レーン6 - C810A139、レーン8 - C811A139)のSDS-PAGE銀染色パターンを示す。レーン2は分子マーカーを示し、レーン3はFVIII対照サンプルを示し、レーン4は市販のFVIII製品(リファクト(ReFacto)(登録商標) - ロットC66202)を示す。
【0126】
図4は、ポリクローナル抗ヒトFVIII抗体を使用する、FVIIIのウェスタンブロッティングを示す。レーン1および10はブランクであり、レーン2は分子量スタンダード(バイオラド(Bio-rad)のPrecision Plus Protein Western C)を示し、レーン3は市販のFVIII製品であるリファクト(ReFacto) (登録商標) ロットC66202を示し、レーン4〜6はFVIII対照サンプルを示し、レーン7〜9は実施例9(表17〜18)に従って精製された、バッチBPP079、BPP083およびBPP084の最終製剤化製品を示す。サンプルは、ウェスタンブロットに適用する前に、5 IU FVIII:C/mlに対応するFVIII濃度に希釈した。
【0127】
図5は、実施例9(表17〜18)に従って精製された、バッチBPP079およびBPP083の最終製剤化製品、バッチBPP079 GF溶出液およびBPP083 GF溶出液の最終製品(GF溶出液)の、銀染色およびウェスタンブロッティング後の2-D-PAGEを示す。市販のFVIII製品(リファクト(ReFacto) (登録商標)、ロット70591)を参照物質として使用した。左のペイン:BP079およびBPP083 GF-溶出液およびリファクト(登録商標)を有するゲルの銀染色画像。右のペイン:BPP083 GF-溶出液およびリファクト(登録商標)のウェスタンブロット画像。
【0128】
実施例9の結論
記載した精製工程は、回収率、純度および製品品質について再現可能な方法で、工業規模で実施し得る。加えて、製品がヒトの治療に使用できる純度であるという、高い要求を満たす。
【0129】
実施例10:特定のアフィニティーリガンド(アニオンマルチモーダル樹脂)を使用しない、工業規模の精製手順(代わりにカプト・アドヘア(Capto Adhere)を使用)
回収率および純度の再現性を検討するため、精製工程2〜3(カプトMMCおよびSPセファロース(Sepharose)FF)および工程5(ウイルス不活化)を、実施例9に記載された通り、パイロット規模で2バッチ(BPP068〜069)実施した。その後、これらの2バッチを下流の1つのバッチ(BPP071)にプールし、実施例9の工程6(VIIISelectゲル)をアニオン交換マルチモーダルクロマトグラフィー工程(カプト・アドヘア)に交換した以外は、実施例9の工程6〜9に従って処理した。全体の精製手順は、付録2において検討し得る。実施例1〜2に記載された通り、各バッチ(BPP068〜069)は、約50Lの細胞懸濁液に由来する。
【0130】
カプト・アドヘア(Capto Adhere)工程
アニオン交換マルチモーダルカラム(カプト・アドヘア、GEヘルスケア(Healthcare)、カタログNo.17-5444)に、樹脂1mL当たり、FVIIIを5,000〜10,000 IUの範囲で負荷した。製品を適用する前に、ゲルを平衡緩衝液で緩衝化する。ウイルス不活化した溶液(実施例9、工程5に記載された通り)をカプト・アドヘアカラムに負荷し、その後、表20に記載した通り、平衡緩衝液でリンスし、続いて、洗浄緩衝液1〜3で洗浄した後、FVIIIを溶出する。
【0131】
【表20】

【0132】
【表21】

1) SP工程で計算した収率
* ブラッドフォードで測定
【0133】
【表22】

2) カプト・アドヘア工程で計算した収率
3) Qセファロース(Sepharose)工程で計算した収率
4) ゲル濾過工程で計算した収率
* ブラッドフォードで測定
【0134】
図6は、実施例10に従って精製したパイロットバッチBPP071からのサンプルのSDS-PAGE銀染色ゲルを示す。レーン1は市販のFVIII製品(リファクト(ReFacto) (登録商標))を示す。レーン2は、カプト・アドヘア(Capto Adhere)工程前の、出発物質(SP-濾液)を示す。レーン3は、カプト・アドヘア溶出液の純度プロファイルを示す。レーン4はSP-濾液-カプト・アドヘア-Qセファロースの精製手順の後の純度を示す。レーン5は、SP-濾液-カプト・アドヘア-Qセファロース-ゲル濾過の精製手順の後の純度を示す。
【0135】
図7は、実施例10に従って精製したパイロットバッチBPP071からのサンプルのウェスタンブロットゲルを示す。レーン1は市販のFVIII製品(リファクト(ReFacto) (登録商標))を示す。レーン2は、カプト・アドヘア(Capto Adhere)溶出液を示す。レーン3は、SP濾液-カプト・アドヘア-Qセファロースの精製手順の結果を示す。レーン4は、SP濾液-カプト・アドヘア-Qセファロース-ゲル濾過の精製手順の後の結果を示す。
【0136】
実施例10の結果
VIIISelectアフィニティーリガンドの代わりにマルチモーダルクロマトグラフィー工程(カプト・アドヘア(Capto Adhere))を含むパイロット規模の精製方法は、最終GF-溶出液において同等の回収率、純度および製品品質であることが明らかになる。
【0137】
分析の説明
FVIII:C、コアテスト(Coatest)に基づくスクリーニング
この方法は、二段階方式に基づき、マイクロプレート技術を用いて実施した。第一段階では、FVIII:Cが補因子として作用する場合に、活性化第X因子(Xa)が内因性の経路を通して産生される。第二段階では、次に、トロンビンによる基質の加水分解を防ぐためトロンビン阻害剤I-2581の存在下で、第Xa因子を合成発色性基質S-2222を用いて定量する。酸で反応を停止し、pNA(p-ニトロアニリン)の放出に比例するVIII:C活性を、試薬ブランクに対し405nmで測光的に定量する。
【0138】
この方法は、ヨーロッパ薬局方の要件に適合する。FVIII:Cのユニットは、世界保健機構(WHO)が定めた現在の国際濃度基準(IS)に規定された通りの、国際単位(IU)で表される。予備希釈に重症血友病血漿の代わりに1%BSAを含有する緩衝液を使用した、所定の方法の正当性を実証した。参考文献も参照されたい(ヨーロッパ薬局方補遺2000、一般法、2.7.4. 血液凝固第VIII因子のアッセイ(Assay of Blood Coagulation FVIII)、ロゼン(Rosen) S (1984年);発色性基質によるFVIII:Cのアッセイ(Assay of FVIII: C with a Chromogenic Subsrate)、J, Haematol、補遺40、33巻139-145頁、1984年;カールブリョーク(Carlebjork) G、オズバルドソン(Oswaldsson) U、ロゼン(Rosen) S (1987年)、FVIII活性の定量のための、簡単で正確なマイクロプレートアッセイ(A simple and accurate micro plate assay for the determination of FVIII activity)、Thrombosis Research 47巻5〜14頁、1987年;ミレ-スルイス(Mire-Sluis) AR、ゲラルド(Gerrard) T、ガイネス・ダス(Gaines das) R、パディッラ(Padilla) Aおよびトルペ(Thorpe) R、生物学的アッセイ:組換え生物医薬製品の開発および品質管理におけるそれらの役割(Biological assays: Their Role in the development and quality Control of Recombinant Biological Medicinal Products)、Biological、24巻351-362頁 (1996年))。
【0139】
ブラッドフォードによる総タンパク質の定量
ブラッドフォードによるタンパク質定量は、クマシーブリリアントブルーG-250の酸性溶液の最大吸収が、タンパク質への結合が起こった際に、465 nmから595 nmにシフトするという観察結果に基づく。疎水性およびイオン性相互作用の両者は、染料のアニオン性形態を安定化し、可視的な色の変化を引き起こす。このアッセイは、染料−アルブミン複合溶液の吸光係数が10倍の濃度範囲に渡って一定であることから、有用である。詳細については、ブラッドフォード(Bradford)、MM、タンパク質−染料結合の原理を利用する、マイクログラム量のタンパク質の迅速で高感度な量子化方法(A rapid and sensitive method for the quantisation of microgram quantities of protein utilizing the principle of protein-dye binding)、Analytical Biochemistry 72巻248-254頁、1976年も参照のこと。
【0140】
アミノ酸分析(AAA)による総タンパク質の定量
AAAの前に、全てのタンパク質を6M HCIにより110℃で24時間、加水分解する。アミノ酸は、スルホン化ポリスチレン樹脂によるカチオン交換クロマトグラフィーで分離し、溶出液中、連続的に検出する。検出は、プロリンとヒドロキシプロリンについての440 nmと全ての他のアミノ酸についての570 nmとの同時測定のためのデュアルフォトメーターを用いる、ポストカラムニンヒドリン誘導体化に基づく。アミノ酸のアスパラギンおよびグルタミンは、両者ともAAAの間に脱アミド化され、それぞれアスパラギン酸およびグルタミン酸として定量される。従って、アスパラギン酸およびグルタミン酸の結果は、それぞれ、元のサンプル中の、アスパラギン酸/アスパラギン(Asx)およびグルタミン酸/グルタミン(Glx)の合計を表す。トリプトファンは、この方法で明確な反応を起こさないので、AAAによって定量化されない。システインは、加水分解の間に破壊され、定量化されない。AAAは、以下の参考文献において詳述される:総タンパク質AAA分析法(Total protein AAA analytical method)、スパックマン(Spackman), D.H.、ステイン(Stein), W.H.、およびム−ア(Moore), S、(1958年) Anal. Biochem. 30巻 1190-1206頁。
【0141】
純度または比活性度(FVIII:C/総タンパク質)
サンプルの純度(または比活性度とも呼ばれる)は、FVIII:C分析から得られる値を、総タンパク質の分析から得られる値で割って計算する。
【0142】
SDS-PAGE(分子量分布)
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)は、それらのサイズに基づくタンパク質の分離を含む。この方法は、還元条件下で行われる、タンパク質のSDS-PAGEを表す。変性および還元条件下でサンプルを加熱することによって、タンパク質は鎖がほどかれ、アニオン性洗浄剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)でコートされて、ポリペプチド鎖の長さに比例する、高い正味の負電荷を獲得する。ポリアクリルアミドゲルマトリックスに負荷され、電場に置かれた場合、負に荷電したタンパク質分子は、正に荷電した電極に向かって移動し、分子ふるい効果によって、即ち、分子量によって分離される。ポリアクリルアミドゲルは、より大きい分子が、より小さい分子と同じ速さで移動するのを抑制する。電荷対質量比がSDS変性ポリペプチドの間ではほぼ同等であるので、タンパク質の最終的分離は、ポリペプチドの相対的分子量の差にほぼ完全に依存する。一様な密度のゲルにおいて、タンパク質の相対移動距離(Rf)は、その質量の対数に逆比例する。質量が判っているタンパク質を未知のものと同時に実行する場合、Rfと質量の関係がプロットでき、未知のタンパク質の質量を推定できる。電気泳動で分離されたタンパク質のバンドは、銀染色で可視化される。標準物質、参照物質(対照サンプル)および分析されるサンプルの外観を判断することによって、可視的に評価が行われる。
【0143】
DNA分析方法(定量的ポリメラーゼ連鎖反応、qPCR)
このアッセイは、SYBR Green 1の化学的性質に基づく、リアルタイム定量的PCR(qPCR)である。これは、多少の改良を加えたウメタニ(Umetani)らの発表に基づく(ウメタニ N、キム(Kim) J、ヒラマツ(Hiramatzu) S、レバー(Reber) HA、ハインズ(Hines) OJ、ビルチク(Bilchik) AJ およびホーン(Hoon) DSB、結腸直腸癌または乳頭部周囲癌患者の血清中の、遊離循環DNAの高められた完全性:ALU繰り返し体の直接定量的PCR(Increased Integrity of Free Circulating DNA in Sera of Patients with Colorectal or Periampullary Cancer: Direct Quantitative PCR for ALU Repeats)、Clin Chem 2006年、52巻1062〜1069頁)。各PCRサイクルの間、ALU配列族からの115塩基対断片を、プライマーALU115-FおよびALU115-Rにより増幅する。非常に豊富なALU配列族は、ヒト科(チンパンジー、ゴリラ、ヒトおよびオラウータン)のゲノムに限定されるが、このアッセイは、ヒト起源のDNAのみを増幅する。この方法により、細胞を含まない組織培養培地における、残存するHEK293F DNAの高スループット分析、およびその下流の精製方法が可能になる。
【0144】
ウェスタンブロット、FVIII分子量分布
FVIII調製において、タンパク質およびペプチドは、還元条件下、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によって、分子量に従って分離される。その後、タンパク質を、ゲルマトリックスからニトロセルロース膜に電気泳動的に移動し、次に、ブロック剤と共にインキュベートする。次に、FVIII分子全体を対象とする羊ポリクローナル抗体を加えた後、山羊/羊抗体のFc部分に特異的な、第二の抗体を加える。第三の工程として、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に対する羊抗体とHRPとの可溶性複合体を加える。次に、FVIIIポリペプチドを、基質4-クロロ-1-ナフトールと共にインキュベーションした後、青色のバンドの発現として検出する。
【0145】
二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2-D PAGE)
ヒトcl rhFVIIIのタンパク鎖の電気泳動バンドパターンを研究するため、2-D-PAGEを実施した。pH 3〜10の線状のpH勾配を使用して第一の次元を行いながら、等電点電気泳動法を実施した。第二の次元のSDS-PAGEを、ポリアクリルアミド勾配(3〜8%)ゲルを使用して行った。ゲルは、第二の次元の実施後に銀染色で染色するか、ウェスタンブロッティングに従った(オファレル(O'Farrell) PH (1975年)、タンパク質の高分解能二次元電気泳動、J Biol Chem 250巻4007〜4021頁)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程
−高イオン強度の水溶液中にFVIIIを含有するフラクションを提供する工程;
−FVIIIを含有するフラクションをマルチモーダル樹脂と接触させる工程;
−任意に、吸着されたFVIIIを有するマルチモーダル樹脂を水性洗浄緩衝液で洗浄する工程;
−pH 6〜8で正に荷電する少なくとも一つのアミノ酸を含む水性溶出緩衝液で、FVIII含有フラクションを溶出する工程;および
−任意に、FVIII含有フラクションを精製または濃縮形態で回収する工程
を含む、クロマトグラフィーを使用する凝固FVIII の精製または濃縮方法。
【請求項2】
前記マルチモーダル樹脂がマトリックスに結合する部分を含み、前記部分が、水性環境において、イオン相互作用および、水素結合および疎水性相互作用等の他の種類の相互作用によって、FVIIIと相互作用することができる、請求項1の方法。
【請求項3】
FVIIIが組み替えFVIII、特にB-ドメイン欠失FVIIIであることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項の方法。
【請求項4】
前記水溶液が、25℃で約25〜約200 mS/cmの導電率に対応する高塩溶液中にFVIIIを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの方法。
【請求項5】
pH 6〜8で正に荷電する少なくとも一つの前記アミノ酸が、リシン、アルギニン、ヒスチジンおよびそれらの組み合わせ等のアミノ酸を含有するアミノ基の群から選択され、特に濃度が>0.4M、特に>0.5Mであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項の方法。
【請求項6】
前記溶出緩衝液が、アルコール等の少なくとも一つの水酸基を含有する有機化合物、アミノ酸等の少なくとも一つのアミノ基を含有する有機化合物、少なくとも一つのCa2+イオンの供給源、無機塩等の緩衝液のイオン強度を調節する少なくとも一つの化合物、少なくとも一つの非イオン性洗浄剤、および、pHを約6〜約8、特におよそ中性値に調節する少なくとも一つの緩衝物質をさらに含んでいることを特徴とする、請求項5の方法。
【請求項7】
前記アルコールが、メタノール、プロパノール、エチレングリコールおよびプロピレングリコールよりなる群から選択され;前記のCa2+の供給源がCaCl2であり;前記無機塩が、KClおよびNaClよりなる群から選択され;前記非イオン性洗浄剤が、ツイーン20、ツイーン80およびプルロニックF68よりなる群から選択され;前記緩衝物質が、pH 6〜8の間で、クエン酸ナトリウム、ヒスチジン、HEPES、MESおよび酢酸ナトリウムよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項6の方法。
【請求項8】
前記洗浄緩衝液を前記マルチモーダル樹脂に適用して、FVIIIを放出する前に、混入物質を洗い流し、FVIIIを保持することを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項の方法。
【請求項9】
前記「マルチモーダル」クロマトグラフィー樹脂が少なくとも一つの以下の部分を含有することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項の方法:
a. 正に荷電したN-ベンジル-N-メチルエタノールアミンリガンド、
b. 負に荷電した2-(ベンゾイルアミノ)ブタン酸リガンド、
c. フェニルプロピルリガンド、
d. N-ヘキシルリガンド、
e. 4-メルカプト-エチル-ピリジンリガンド、
f. 3-((3-メチル-5-((テトラヒドロフラン-2-イルメチル)-アミノ)-フェニル)-アミノ)-安息香酸リガンドまたはそれらの組み合わせ。
【請求項10】
前記「マルチモーダル」クロマトグラフィー樹脂が、以下の市販の樹脂;HEPハイパーセル(商標);PPAハイパーセル(商標);カプト・アドヘア(商標);カプトMMC(商標); MEPハイパーセル(商標)から選択されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項の方法。
【請求項11】
前記マルチモーダルクロマトグラフィー工程が、FVIIIアフィニティークロマトグラフィー工程と組み合わさり、ここで、前記アフィニティーがイーストで発現するタンパク質に基づくリガンドによって与えられることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項の方法。
【請求項12】
前記精製手順が、化学的不活化工程、サイズに基づく除去工程、クロマトグラフィー工程またはそれらの組み合わせであって、工程が病原体の除去を目的とする種々の生理学的特性に基づく工程を含む、病原体の除去/不活化工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項の方法。
【請求項13】
前記精製手順が以下の工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項の方法:
i. 特にDNA低減のための、サルトバインドQ等のアニオン性膜;
ii. カプトMMC等の、カチオンマルチモーダル樹脂;
iii. SPセファロースFF等のカチオン交換樹脂;
iv. 特にさらなるDNA低減のための、サルトバインドQ等のアニオン性膜;
v. 特に、トリ-n-ブチルホスフェートおよびトリトンX-100を用いる溶媒/洗浄剤不活化である、脂質エンベロープウイルスの化学的不活化工程;
vi. VIIISelect等のタンパク質リガンドに基づくアフィニティー樹脂、イーストにおいて発現される抗体断片よりなるVIIISelectリガンド、またはカプト・アドヘア等のアニオンマルチモーダルクロマトグラフィー樹脂;
vii. プラノバ20N等の、平均孔径約20 nmでの病原体濾別工程;
viii. セファロースFF等の、アニオン交換樹脂;
xi. スーパーデックス200pg等のサイズ排除クロマトグラフィー樹脂。
【請求項14】
前記カチオン交換工程のFVIIIの溶出条件がCaに基づき、濃度が0.15〜0.25Mの範囲であり、前記溶出緩衝液の総導電率が25℃で25mS/cmを超えないことを特徴とする、請求項13の方法。
【請求項15】
最終精製工程後の純度が>4000 IU/mgであり、好ましくは>9000 IU/mgであり、より好ましくは>10 000 IU/mgタンパク質であり、DNA含量が、<1000 pg/1000 IU FVIIIであり、好ましくは<100 pg/1000 IU FVIIIであり、より好ましくは<10 pg/1000 IU FVIIIであることを特徴とする、請求項13および/または14の方法。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法によって得られる、精製組み換えFVIIIを含む物質の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−525523(P2011−525523A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515372(P2011−515372)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057883
【国際公開番号】WO2009/156430
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(500050402)オクタファルマ アクチェン ゲゼルシャフト (9)
【Fターム(参考)】