説明

凝集体決定法

高分子を含有する流体中の高分子モノマーの凝集体を決定する方法は、流体の試料を相互作用解析センサーの検知表面に接触させる段階段階と、検知表面との流体試料の相互作用について1以上の速度論的パラメーターを決定する段階と、決定した1以上の速度論的パラメーターを、高分子の凝集体を1以上の既知の分率で含む1以上の流体試料で決定した1以上の速度論的パラメーターと比較する段階と、それから、1以上の凝集体の形態にある試料中の高分子の分率を決定する段階とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中の高分子のダイマー又はトリマーなどの凝集体の含有量を決定する方法に関する。本発明はまた、高分子の精製における本方法の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク、核酸及び多糖などの生体高分子はしばしば、ダイマー、トリマー又はより高次のオリゴマー若しくは凝集体などの、凝集体即ちマルチマーの形で部分的に生じることもある。例えば、所望のポリペプチド又はタンパクが、宿主生物中で生成され、それらの自然環境でのそれらと全く異なる条件下で且つ濃度で細胞抽出物から分離される、組み換えDNA技術では、その条件は、分子間ジスルフィド結合若しくは他の共有結合を通じて、又は非共有相互作用を通じてのそのような凝集体の形成に有利に働くこともある。
【0003】
標的高分子のそのような凝集体の存在は、しばしば望ましくない。タンパク凝集は、バイオ治療薬のバイオプロセス開発及び製造の間に出会う共通の課題である。高分子のマルチマー形は、より低い生物活性を有する若しくは生物活性を欠くこともある、又は望ましくない副作用を引き起こすことさえあるので、治療用タンパクがモノマー状態にあること及び分子の凝集体が存在しないことは、治療の安全性にとって不可欠である。その結果、細胞培養及び精製プロセスの間に生成される凝集体の量が、適切な措置を実施することによって制御できることは、重要である。
【0004】
この文脈での凝集体の解析は現在主に、サイズ排除クロマトグラフィーによって行われ、時には光散乱検出と併用される。この方法は、比較的遅く、行うのに複雑であり、より大きな試料体積を要求するスクリーニング目的には容易に対応できない。
【0005】
WO2004/040317A1は、流体例えば体液中のβアミロイドなどのタンパクの凝集の程度を決定するためのセンサーデバイス及び方法を開示する。センサーデバイスは、タンパクへの結合相手を提供される検知層を有し、流体の導入によって引き起こされる検知層の局所環境の変化に敏感である。応答は典型的には、体積及び質量の変化に関係しており、その変化から分子密度の変化が、計算される。タンパクの凝集の程度は、分子密度の変化に直接関係しており、低凝集タンパクは、分子密度のかなりの増加を生じさせ、高凝集タンパクの特異的結合は、分子密度のあまり大きくない増加又は減少を生じさせる。センサーデバイスは、特に干渉計型導波構造(TEモード及びTMモードの電磁放射によって問い合わせる)であるが、しかしまた圧電検知システム、又は偏光解析との組合せの表面プラズモン共鳴デバイスも、センサーデバイスとして提案される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】KNOWLES, TUOMAS P J et al, "Label-free detection of amyloid growth with microcantilever sensors", Nanotechnology, 2008, Vol. 19, 384007, sid 1-5; whole document
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特に抗体調製において、高分子を含有する流体中の凝集体の含有量を評価するための改善され、簡略化された方法を提供することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、抗体などの高分子のモノマー及び凝集体が、その上に固定化される高分子への結合相手を有するセンサー表面に結合するとき、結合における挙動が、モノマーと凝集体との間で異なる反応速度論を反映することを見いだしたことに基づいている。既知の分率の凝集体を含む試料についての反応速度論とともに高分子を含有する試料の相互作用についての反応速度論を調べる又は監視することによって、試料中の凝集体の含有量又は分率を評価でき又は決定できる。
【0009】
一態様では、本発明は、高分子を含有する流体中の高分子モノマーの凝集体を決定する方法であって、
(i)流体試料を、高分子と特異的結合相互作用することのできる相互作用解析センサーの検知表面と接触させる段階段階と、
(ii)検知表面との流体試料の相互作用について1以上の速度論的パラメーター又は特性を決定する段階と、
(iii)決定した1以上の速度論的パラメーターを、高分子の凝集体を1以上の既知の分率で含む1以上の流体試料で決定した1以上の速度論的パラメーターと比較する段階と、
(iv)それから、1以上の凝集体の形態にある試料中の高分子の分率を決定する段階とを含む方法を提供する。
【0010】
速度論的パラメーター又は特性は、好ましくはオン速度及びオフ速度の一方又は適宜両方或いはそれらの関連変数である。オン速度は、好ましくは初期オン速度である。
【0011】
凝集体を1以上の既知の分率で含む流体試料は、例えばモノマー形の高分子だけを含有する流体試料、又は凝集体を様々な分率で含む2以上の流体試料であってもよい。好ましくは、凝集体の分率を速度論的挙動に関係づける較正曲線などが提供される。
【0012】
高分子は、好ましくはタンパク又はポリペプチド、特に抗体である。
【0013】
現在好ましい実施形態では、1以上の速度論的パラメーターは、センサー表面からの結合高分子の解離に関するものである。
【0014】
相互作用解析センサーは、好ましくはバイオセンサー、特に質量検知バイオセンサーである。
【0015】
一実施形態では、本方法は、物質移動制限なしに行われる。
【0016】
別の実施形態では、本方法は、物質移動制限がある状態で行われる。
【0017】
本発明のこの態様のさらに好ましい実施形態は、添付の特許請求の範囲で説明される。
【0018】
別の態様では、本発明は、高分子の精製を最適化する際に本発明の使用を提供する。
【0019】
本発明並びにその追加の特徴及び利点のより完全な理解は、次の詳細な説明及び付随する図を参照して得られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】プロテインAが固定化されたセンサーチップに注入されたIgGモノマー及びIgG凝集体それぞれについて得られた2つのセンサーグラムの重ね合わせプロットである。上の曲線は、100%凝集体であり、下の曲線は、100%モノマーである。
【図2】プロテインAが固定化されたセンサーチップに注入されたIgGモノマー及び凝集体の異なる混合物についての10のセンサーグラムの重ね合わせプロットである。曲線は、モノマーの減少率を表し、最も上の曲線については0%モノマー及び最も下の曲線については100%モノマーを表す。
【図3】結合レベル(y軸:応答、RU)とダイマー/モノマー割合(x軸:%)との間の関係を示す棒グラフである。
【図4】解離が始まった後の所定時間における図2のセンサーグラムの解離フェーズについての応答(y軸:RU)対モノマー割合(x軸:%)の図である。
【図5】図2のセンサーグラムの会合フェーズについての初期傾き(y軸:RU/s)対モノマー割合(x軸:%)の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
他に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的術語は、この発明に関する当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。また、単数形で記載したものであっても、別途記載しない限り、複数の場合も含む。
【0022】
上で述べたように、本発明は、流体試料中の高分子、典型的には抗体などのタンパクのマルチマー形即ち凝集体の検出及び解析に関する。つまり、本方法は、生体分子相互作用解析センサーの検知表面に固定化した特異的結合相手(リガンド)とのそれらの結合相互作用における高分子のモノマーと凝集体との間の反応速度論の差を利用することに基づいている。
【0023】
相互作用解析センサーは、典型的にはバイオセンサーである。周知の通り、バイオセンサーは典型的には、固定化層の質量、屈折率又は厚さなどのセンサー表面の性質の変化を検出する、無標識の技術に基づいている。本発明の目的のための典型的なバイオセンサーは、センサー表面での質量検出に基づいており、特に光学的方法及び圧電又は音響波方法を含む。光学的検出方法に基づく代表的なセンサーは、例えば表面プラズモン共鳴(SPR)センサーなどのエバネセント波に基づくセンサーを含む、反射光学的方法に基づくセンサー、漏れ全反射(FTR)センサー、及び例えば反射干渉分光法(RIfS)センサーを含む導波路センサーなどの、質量表面濃度を検出するそれらを含む。圧電及び音響波センサーは、表面音響波(SAW)及び水晶微量でんびん(QCM)センサーを含む。
【0024】
SPR及び他の検出技術に基づくバイオセンサーシステムは、現在市販されている。例となるそのようなSPRバイオセンサーは、試料中の分子と検知表面に固定化した分子構造体(リガンド又は捕獲分子)との間の相互作用を検出するために表面プラズモン共鳴を使用する、フロースルーセルに基づくBiacore(登録商標)システム(GE Healthcare Bio−Sciences AB、Uppsala、Sweden)及びProteOn(商標)XPRシステム(Bio−Rad Laboratories、Hercules、CA、USA)を含む。
【0025】
試料が、センサー表面の上に送られると、結合の進行は、相互作用が生じる速度を直接反映する。試料の注入の後には通常バッファー流が続き、その間に検出器応答は、表面での錯体の解離速度を反映する。システムからの典型的な出力は、解離フェーズ部分及び会合フェーズ部分を含む、時間の経過に伴う分子相互作用の進行を記述するグラフ又は曲線である。通常コンピュータ画面上に表示される、この結合曲線は、しばしば「センサーグラム」と呼ばれる。
【0026】
Biacore(登録商標)システムを使うと、標識化技術を使用することなく、しばしば含まれる基板を浄化することなく、試料中の特定の分子即ち検体の存在及び濃度だけでなく、分子相互作用における会合(結合)及び解離についての速度論的速度定数並びに表面相互作用についての親和性を含む、追加の相互作用パラメーターもまた、実時間で決定することが可能である。
【0027】
下記では、本発明は、Biacore(登録商標)システム型のSPRセンサーに関して、大体において例示だけのために且つ制限なく述べられることになる。
【0028】
今から本発明に再び向かうと、上述の異なる速度論的挙動は、いくつかの要因に起因することもある。2つの主要なものは、(i)モノマーと比較して凝集体のより大きな質量/体積、及び(ii)モノマーへの結合相手(又はモノマーのためのリガンド若しくは捕獲分子)のための凝集体の多重結合部位(結合活性)に存在し、可逆的表面結合相互作用の会合フェーズ並びに解離フェーズで現れる。
【0029】
会合フェーズに関しては、モノマー及び凝集体は、センサー表面上の固定化結合相手への異なる結合速度、即ち「オン速度」を示す。オン速度は、結合曲線の初期傾きによって表される初期結合速度として決定されてもよい。傾きは、典型的には会合が始まったすぐ(数秒)後の小さな時間窓の間に決定され、通常は1秒当たりの応答単位(RU/s)として表される。
【0030】
検知表面での反応律速相互作用の場合には(即ちどんな物質移動制限もない場合には)、凝集体は、質量検知表面においてモノマーよりも大きな応答、即ちより速いオン速度を与えることになる。モノマー/凝集体試料中の凝集体の割合が大きいほど、初期傾きは、より大きいことになり、初期傾きは、モノマーだけを含有する試料について決定したそれとはより大きく異なることになる。もしオン速度が、凝集体を様々な分率で含む多数の試料についてこのようにして決定すれば、未知の試料中の凝集体の分率を決定できる。
【0031】
他方で拡散律速表面相互作用の場合には、凝集体は、物質移動制限によってモノマーよりも大きく影響を受けて、より遅いオン速度をもたらす。従って、モノマー/凝集体試料中の凝集体の割合が大きいほど、初期傾きは、より小さいことになり、初期傾きは、モノマーだけを含有する試料について決定したそれとはより大きく異なることになるが、しかしながら今度は減少するように異なる。
【0032】
解離フェーズでは(即ち表面が、もはや試料にさらされず、表面からの解離が、生じてもよいときは)、より多くの結合部位を有する凝集体(結合活性効果)に起因する、モノマーと比較して表面への凝集体の上述のより強い結合は、凝集体についてより遅い「オフ速度」を引き起こす。もちろん、これは、凝集体形成が(少なくとも実質的に)固定化結合相手のための結合部位を遮断しないならばである。従って、モノマー/凝集体試料中の凝集体の割合が大きいほど、オフ速度は、より遅く、オフ速度は、モノマーだけを含有する試料について決定したそれとはより大きく異なることになる。
【0033】
オフ速度は、例えば解離が始まった後の所定時間における残留結合レベル(応答)によって表されてもよい。上記の初期傾きと同じように、オフ速度が、凝集体を様々な分率で含む多数の試料について決定すれば、未知の試料中の凝集体の分率を決定できる。
【0034】
上で述べたように、二量化などの凝集体形成がより遅いオフ速度を引き起こすためには、凝集体は、未変化の検知表面上の結合相手即ちリガンドのために結合部位を残さなければならない、即ち結合活性効果は、完全に明白でなければならない。しかしながら、これは好ましいが、反対の状況を使用すること、即ち高分子上の表面結合部位が凝集によって遮断されることもまた、本発明の範囲内である。これは対照的に、モノマーよりも速い解離(オフ速度)、及びモノマーよりも遅い会合(オン速度)を有する凝集体をもたらすことになる。凝集機構及び表面上の結合リガンドの適切な選択についての知識を使うと、高分子上の影響を受けない(結合活性)結合部位が得られることになるか又は遮断された結合部位が得られることになるかを制御することができる。
【0035】
試料中の凝集体(複数可)の存在を定性的に決定するためには、もちろん決定した速度論的パラメーターを100%モノマーを持つ試料のそれと比較することで十分である。
【0036】
本明細書で関係する測定の種類については、一般に検知表面での低飽和レベルは、高い試料処理能力を可能にすることになり、一方より高いレベルは、試料中の低い割合の凝集体の検出を容易にすることになると理解される。
【0037】
高分子の調製においてその凝集体の存在が本発明の方法によって決定できる高分子は、典型的にはタンパク又はポリペプチド、特に抗体などの治療用タンパク又はポリペプチドであるが、しかしまた例えば核酸であってもよい。
【0038】
本明細書で使用するような「抗体」は、天然であってもよく又は部分的に若しくは完全に合成によって生成されてもよい免疫グロブリン(IgG)を意味し、またFab抗原結合性フラグメント、一価フラグメント及び二価フラグメントを含む、活性フラグメントも含む。その術語はまた、免疫グロブリン結合領域と同種の結合領域を有する任意のタンパクにも及ぶ。そのようなタンパクは、天然源から誘導できる、又は部分的に若しくは完全に合成によって生成できる。例となる抗体は、免疫グロブリンアイソタイプ並びにFab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、dAb、及びFdフラグメントである。
【0039】
例えば治療用抗体調製において凝集体の割合を決定する又は評価するための本発明の方法は、高品質最終生成物を達成するための手順を最適化するために、プロセス開発の間に凝集体形成を監視するために使用されてもよい。上で述べたように、治療用抗体調製での凝集体の存在は一般に、患者の安全性に悪影響を有し、プロセス製造の間に効果的に制御しなければならない。
【0040】
次の実施例では、異なる割合の抗体モノマー及びその凝集体を含有する(100%モノマー及び100%凝集体をそれぞれ含む)試料の速度論的挙動を実証する実験が、述べられる。
【実施例】
【0041】
機器
Biacore(登録商標)T100機器(GE Healthcare Bio−Sciences AB、Uppsala、Sweden)が、使用された。この機器では、微小流体システムが、4つの個別に検出されるフローセルを(1つずつ又は順番に)通って試料及び泳動バッファーを送る。センサーチップとして、共有結合的にカルボキシメチル修飾されたデキストランポリマーヒドロゲルを持つ金被覆表面を有するSeries SセンサーチップCM5(GE Healthcare Bio−Sciences AB)が、使用された。計算のために、BIAevaluationソフトウェア(GE Healthcare Bio−Sciences AB、Uppsala、Sweden)専用の機器が、使用された。
【0042】
機器からの出力は、時間の関数としての検出器応答(「共鳴単位」、RUで測定される)のプロットである「センサーグラム」である。1000RUの増加は、約1ng/mm2のセンサー表面での質量の増加に対応する。
【0043】
抗体
抗体は、モノマー及びある割合の凝集体(顕著にはダイマー)を含有する治療用IgG抗体(社内源から得られた)であった。
【0044】
試料の調製
抗体のモノマー及び凝集体は、Superdex(商標)100ゲル(GE Healthcare Bio−Sciences AB)を使用するゲルろ過によって分離された。100%モノマー又は100%凝集体をそれぞれHBS−EP+バッファー、pH7.4(GE Healthcare Bio−Sciences AB)中に200μg/mlで含有する第1の組の試料が、調製された。600μg/mlの100%、80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、10%及び0%モノマーをそれぞれ含有する第2の組の試料が、次いで調製された。
【0045】
センサーチップ上へのプロテインAの固定化
プロテインA(GE Healthcare Bio−Sciences AB)が、10mM酢酸ナトリウム、pH4.5中のプロテインAの溶液をBiacore(登録商標)T100に注入することによってCM5センサーチップ上に固定化された。
【0046】
実験
実験1
抗体の100%のモノマーか又は凝集体を200μg/mlで含有する試料が、プロテインAが固定化されたセンサーチップの上に30μl/minの流量で4分間注入された。注入時間は、解離が泳動バッファーの注入によって始まったときは、約310秒(会合フェーズ)であった。得られたセンサーグラム(「結合曲線」)は、図1(重ね合わせプロット)で示され、曲線Aは、100%凝集体であり、曲線Bは、100%モノマーである。会合及び解離フェーズは、センサーグラムではっきりと見える。
【0047】
センサーグラムから明らかなように、モノマーと凝集体との間には結合挙動の明瞭な差があり、それは、異なる反応速度論を反映する。凝集体は、物質移動制限(ここでは選択された抗体濃度に起因する)によってより大きく影響を受け、結合曲線の会合フェーズの最初の部分において結合曲線のより緩やかな傾きによって反映されるより遅いオン速度を有する。凝集体はまた、凝集抗体分子によるプロテインAへのいくつかの結合部位によって得られる結合活性効果に起因してプロテインA表面により強く結合もする。これは、凝集体についてより緩やかな傾きの解離フェーズによってセンサーグラムで反映される。凝集体の結合レベルは、凝集分子のより大きな質量に起因してモノマーよりも高いと予想されるが、しかしそれは、この実験でははっきりと実証されず、凝集体注入は、センサーチップ上の固定化プロテインAを飽和させることからは程遠い。
【0048】
実験2
0から100%の範囲の異なる割合の凝集分子を600μg/mlで含有する試料が、プロテインA結合センサーチップの上に注入された。注入時間は、4分間であり、流量は、30μl/minであった。得られたセンサーグラムは、図2(重ね合わせプロット)で示される。最上部の曲線Aは、0%モノマーであり、最下部の曲線Bは100%モノマーであり、中間の曲線は、下から上への順番で80%、70%、60%、50%、40%、30%、20%、及び10%モノマーである。
【0049】
センサーグラムから明らかなように、モノマー(100%モノマー試料)についての約2400RUでのモノマーの飽和レベルを凝集体(0%モノマー試料)についての約3500RUと比較して、試料間には明瞭な差がある。異なる割合のモノマーを含有する試料間の差は、図3で棒グラフの形で実証され、その棒は、増加する高さ(結合レベル)の順番で10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%及び100%凝集体(ダイマー)を表している。
【0050】
抗体モノマー及び凝集体の異なる混合物を持つ試料間の会合及び解離フェーズでの速度論的挙動の差をさらに例示するために、上記のセンサーグラムからの値は、(i)解離が始まった後の所定時間(94秒)における解離フェーズでの「オフ速度」、及び会合フェーズでの「オン速度」又は「初期傾き」を決定するために使用された。
【0051】
「オフ速度」は、所定時間(94秒)における異なる試料についての「残留レベル」値によって表され、「オン速度」は、「初期傾き」(又は初期結合速度)によって表され、それは次にここでは、注入が始まった数秒後に測定される応答レベルによって表される。それぞれの値は、以下の表1で提示される。
【0052】
【表1】

%モノマー対残留レベルの変化は、図4で図表の形で示され、%モノマー対初期傾きの変化は、図5で図表の形で示される。それらから明らかなように、一方では%モノマーと「オフ速度」との間、及び他方では%モノマーと「オン速度」との間には実質的に直線関係がある。
【0053】
実証された凝集体の割合の増加に伴うオフ速度の減少は、上記の実験1での結果と一致しており、ダイマーがプロテインAのための多重結合部位を有し、モノマーよりもより強くセンサーチップに結合するという事実に起因している。
【0054】
他方ではオン速度は、実験1での場合と対照的に、凝集体の割合の増加とともに増加する。これは、抗体濃度の増加とともに、表面相互作用が、もはや物質移動制限されず、その結果モノマーと比較してより大きな凝集体が、より高い応答を与えるという事実に起因している。
【0055】
プロテインA以外の、より低い親和性を持つ捕獲分子がセンサーチップ上に固定化される場合は、速度論的パラメーターの解析に基づく上述の評価は、改善されることになると理解される。
【0056】
要約すると、上記の実験1及び2で実証されたように、抗体含有試料中の凝集体の割合は、センサーチップ表面との試料の相互作用について反応速度論を決定することによって評価できる。具体的には、センサーグラムの会合フェーズから決定されるようなオン速度は、表面相互作用が反応律速であるときは凝集体の分率に比例し、表面相互作用が拡散律速である、即ち物質移動制限にあるときは凝集体の分率に逆比例する。他方では、センサーグラムの解離フェーズから決定されるようなオフ速度は、試料中の凝集体の割合に逆比例する。
【0057】
本発明は、上述の好ましい実施形態に限定されない。様々な代替形態、変更形態及び等価形態が、使用されてもよい。従って、上記の実施形態は、本発明の範囲を限定すると受け取るべきではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子を含有する流体中の高分子モノマーの凝集体を決定する方法であって、
上記流体の試料を、高分子と特異的結合相互作用することのできる相互作用解析センサーの検知表面と接触させる段階と、
前記検知表面との前記流体試料の相互作用について1以上の速度論的パラメーターを決定する段階と、
前記決定した1以上の速度論的パラメーターを、高分子の凝集体を1以上の既知の分率で含む1以上の流体試料で決定した1以上の速度論的パラメーターと比較する段階と、
それから、1以上の凝集体の形態にある試料中の高分子の分率を決定する段階と
を含む方法。
【請求項2】
前記検知表面への高分子の会合及び解離の1以上を監視する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記決定した1以上の速度論的パラメーターを、前記高分子の凝集体を異なる分率で含有する複数の試料で決定した対応する1以上の速度論的パラメーターと比較する、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記1以上の速度論的パラメーターが、前記センサー表面からの結合高分子の会合に関する速度論的パラメーターを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記1以上の速度論的パラメーターが、前記センサー表面からの結合高分子の解離に関する速度論的パラメーターを含む、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記1以上の速度論的パラメーターが、オン速度及びオフ速度の少なくとも一方又はそれらの関連パラメーターを含む、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記オン速度が初期オン速度である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記速度論的パラメーターがオフ速度である、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記オフ速度が、結合高分子の解離が始まった後の所定時間における前記表面での残留結合レベルによって表される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記流体を前記検知表面と接触させる前記段階は、物質移動制限の下で行われる、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記高分子が検知表面に特異的に結合する能力が、高分子の凝集によって少なくとも実質的に影響を受けない、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記高分子がタンパク又はポリペプチド、好ましくは抗体である、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記相互作用解析センサーがバイオセンサーである、請求項1乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記バイオセンサーが、質量検知バイオセンサー、好ましくはエバネセント波検知、特に表面プラズモン共鳴(SPR)に基づくバイオセンサーである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記検知表面が、抗体に結合できるリガンドを担持する、請求項1乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記リガンドは、抗体のFc部分に特異的に結合する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記リガンドがプロテインA又はその誘導体である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
高分子、好ましくは抗体などのタンパクの精製における請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法の使用。
【請求項19】
高分子の精製を最適化するための、請求項18記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−518280(P2013−518280A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551128(P2012−551128)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際出願番号】PCT/SE2011/050087
【国際公開番号】WO2011/093782
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】