説明

凹凸パターンの凹部充填方法及び磁気記録媒体の製造方法

効率良く、凹凸パターンの凹部を充填し表面を確実に平坦化することができる凹凸パターンの凹部充填方法及び凹凸パターンの磁気記録層を有し、表面が充分に平坦な磁気記録媒体を効率良く製造することができる磁気記録媒体の製造方法を提供する。凹凸パターンが形成された被加工体10の表面に凹部34を充填するための充填材36を成膜し、更に充填材36上に被覆材42を成膜してから、充填材36に対するエッチングレートよりも被覆材42に対するエッチングレートが低いドライエッチング法により磁気記録層32上の余剰の充填材36及び被覆材42を除去して平坦化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体、情報記録媒体等の製造分野で用いられる凹凸パターンの凹部充填方法及び凹凸パターンの記録層を有する磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、凹凸パターンが形成された被加工体の表面に凹部を充填するための充填材を成膜してから、表面上の余剰の充填材を除去して平坦化する凹凸パターンの凹部充填方法が広く利用されている(例えば、特表2002−515647号公報参照)。
【0003】
一例を示すと、半導体製品の製造分野において、表面に形成された所定のパターンの溝(凹部)に絶縁材を埋め込むためにこのような凹部充填方法が用いられている。
【0004】
又、ハードディスク等の磁気記録媒体の製造分野においても、以下のような事情によりこのような凹部充填方法の利用が期待されている。磁気記録媒体は、記録層を構成する磁性粒子の微細化、材料の変更、ヘッド加工の微細化等の改良により著しい面記録密度の向上が図られており、今後も一層の面記録密度の向上が期待されているが、ヘッドの加工限界、記録磁界の広がりに起因する記録対象のトラックに隣りあう他のトラックへの誤った情報の記録や、クロストーク等の問題が顕在化し、従来の改良手法による面記録密度の向上は限界にきている。
【0005】
これに対し、一層の面記録密度の向上を実現可能である磁気記録媒体の候補として、磁気記録層を凹凸パターンで形成し、記録要素を径方向に分割したディスクリートトラックメディアや、記録要素を径方向及び周方向に分割したパターンドメディアが提案されている(例えば、特開平9−97419号公報参照)。ハードディスク等の磁気記録媒体ではヘッド浮上高さを安定させるために、表面の平坦性が重視されるため、上記のような凹部充填方法を利用して記録要素の間の凹部に非磁性の充填材を充填し、磁気記録層の表面を平坦化することが期待されている。
【0006】
充填材を成膜する手法としては、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、IBD(Ion Beam Deposition)法等の成膜手法を利用できる。
【0007】
又、平坦化の手法としては、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等の加工手法を利用しうる。
【0008】
しかしながら、CMP法は、スラリーの除去のために洗浄等に多大な時間、コストを要するという問題があった。更に、CMP法はウェットプロセスであるため、凹凸パターンの加工工程等のドライプロセスと組合わせると、被加工物の搬送等が煩雑となり、製造工程全体の効率が低下するという問題があった。即ち、平坦化工程にCMP法を用いると、生産効率が低いという問題があった。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであって、効率良く、凹凸パターンの凹部を充填し表面を確実に平坦化することができる凹凸パターンの凹部充填方法及び凹凸パターンの磁気記録層を有し、表面が充分に平坦な磁気記録媒体を効率良く製造することができる磁気記録媒体の製造方法を提供することをその課題とする。
【0010】
本発明は、凹凸パターンが形成された被加工体の表面に凹部を充填するための充填材を成膜し、更に充填材上に被覆材を成膜してから、充填材に対するエッチングレートよりも被覆材に対するエッチングレートが低いドライエッチング法により被加工体の表面上の余剰の充填材及び被覆材を除去して平坦化することにより、上記課題の解決を図るものである。
【0011】
凹凸パターンが形成された被加工体の表面に充填材を成膜すると、被加工体の表面の凹凸パターンに倣って充填材の表面も凹凸形状となる。平坦化は、充填材の表面を除去しながら凹凸を除々に均していくため、成膜された充填材の表面の凹凸が大きいと平坦化を行っても表面の凹凸を充分に均すことができないことがある。
【0012】
そこで、発明者は当初、イオンビームエッチング等のドライエッチングを用いて充填材の表面を平坦化することを試みた。CMP法のようなウェットプロセスによらず、ドライエッチングを用いることで、スラリーの洗浄等が不要となると共に他のドライプロセスと組合わせることで製造工程全体の効率を向上させることができる。又、ドライエッチングは一般的に凸部を凹部よりも選択的に速く除去する傾向があるので、表面を平坦化する効果が高いと考えたためである。
【0013】
しかしながら、ドライエッチングを用いることで生産効率の向上を図ることができたものの、所望のレベルまで充分に表面の段差を低減することは困難であった。その理由は必ずしも明らかではないが、概ね以下のように考えられる。
【0014】
ドライエッチングは、表面の凸部を凹部よりも選択的に速く除去する傾向があるが、凸部でもその幅に差があるとエッチングレートに差が生じる。ここで、凸部の幅とは、凸部の上部近傍における高さ方向と略直角な方向の幅のうち、最小の幅という意義で用いる。例えば、図16Aに示されるように、充填材の凸部のうち、幅が比較的広い凸部102の場合、端部近傍だけが速く除去され、その内側部分は端部よりも遅れて除去されるのでエッチングレートが低い傾向がある。一方、充填材の凸部のうち、同図に示される、幅が比較的狭い凸部104は、その内側部分も含めて比較的速く除去されるのでエッチングレートが高い傾向がある。
【0015】
又、幅が比較的広くエッチングレートが低い凸部102が多く存在する領域106は、凸部102周辺の凹部も含めた領域全体の平均的なエッチングレートも低い傾向がある。一方、幅が比較的狭くエッチングレートが高い凸部104が多く存在する領域108は、凸部104周辺の凹部も含めた領域全体の平均的なエッチングレートも高い傾向がある。従って、1つの領域に加工条件を合わせると、図16B〜Dに示されるようにエッチングが進行するにつれて領域間の表面粗さに差が生じたり、領域間で段差が生じると考えられる。
【0016】
又、領域内に存在する(充填材の下の)被加工体表面の凸部の幅が概ね等しくても、領域全体に占める凸部の占有面積比が大きい程、凸部同士の間隔が狭いので、この上に成膜される充填材の凸部が尖鋭となり、領域全体の平均的なエッチングレートが高くなる傾向がある。
【0017】
実際の被加工体の表面も凹凸パターンが一定でないことが多いため、領域間のエッチングレートに差が生じ、領域間の表面粗さに差が生じたり、領域間で段差が生じると考えられる。例えば、ディスクリートトラックメディアやパターンドメディア等の凹凸パターンの磁気記録層を有する磁気記録媒体は、データ領域とサーボ領域とに区分けして使用され、磁気記録層の凹凸パターンはデータ領域では概ね一定であっても、データ領域の凹凸パターンとサーボ領域の凹凸パターンは著しく異なる。又、サーボ領域内では、磁気記録層の凹凸パターンはサーボ情報パターンに対応した複雑なパターンになることが多い。このため、例えば、データ領域とサーボ領域とで表面粗さに差が生じたり、領域間の段差が生じると考えられる。
【0018】
そこで、発明者は更に鋭意検討を重ね、本発明を完成するに至った。即ち、凹凸パターンが形成された被加工体の表面に充填材を成膜し、更に充填材上に被覆層を積層してから、充填材に対するエッチングレートよりも被覆材に対するエッチングレートが低いドライエッチング法を用い、表面上の余剰の充填材及び被覆材を除去して表面を平坦化すると、凸部のうち、幅が比較的狭くエッチングレートが高い凸部が多く存在する領域では、凸部を構成する被覆材が比較的速く除去されることに加え、被覆材よりもエッチングレートが高い充填材が露出することで凸部は凹部のレベルまで急速に除去されるので、図17中に符号Aを付した曲線で示されるように、平坦化開始直後は領域全体の平均的なエッチングレートが高いが、凸部が比較的早期に消滅または著しく小さくなり、エッチングレートが高い凸部が消滅または著しく小さくなることで、平坦化を開始してから比較的早期に領域全体の平均的なエッチングレートが低くなる。
【0019】
一方、凸部のうち、幅が比較的広くエッチングレートが低い凸部が多く存在する領域では、図17中に符号Bを付した曲線で示されるように、平坦化開始直後の領域全体の平均的なエッチングレートが低く、凸部が比較的長く残存するので、領域全体の平均的なエッチングレートの変化が小さい。凸部の端部近傍において被覆材が除去されて充填材が露出すると、露出したエッチングレートの高い充填材がエッチングされることで端部近傍では充填材と共に充填材上の被覆材も除去され、凸部は次第に細くなり面積が小さくなる。即ち、凸部は残存しつつ面積が小さくなることで平坦化を開始してから比較的遅れて領域全体の平均的なエッチングレートが高くなる。尚、凸部を構成する被覆材が概ね除去されると、凸部は凹部のレベルまで急速に除去されて、凹凸が消滅または著しく小さくなり、領域全体のエッチングレートが低くなる。
【0020】
図17の符号A、Bを付した曲線内の面積(各曲線と、グラフの縦軸、横軸で囲まれた面積)が各領域の平均的な加工量に相当し、両者面積の差が経時的に縮小することで、領域間の表面粗さの差、領域間の表面の段差が抑制されると考えられる。
【0021】
又、領域内に存在する凸部の幅が概ね等しく、領域全体に占める凸部の占有面積が異なる2つの領域についても領域間の表面粗さの差、領域間の表面の段差が抑制される。
【0022】
領域全体に占める凸部の占有面積比が比較的大きい領域では、図18中に符号Cを付した曲線のように、平坦化開始直後は領域全体の平均的なエッチングレートが比較的高いが、凸部が比較的早期に消滅または著しく小さくなり、エッチングレートが高い凸部が消滅または著しく小さくなることで、平坦化を開始してから比較的早期に領域全体の平均的なエッチングレートが低くなる。又、凹部には充填材よりもエッチングレートが低い被覆材が残存し、エッチングレートの変化を抑制する要因となるが、凹部の占有面積比が小さいので、エッチングレートの低下の度合いはそれだけ大きい。
【0023】
一方、領域全体に占める凸部の占有面積比が比較的小さい領域では、図18中に符号Dを付した曲線のように、平坦化開始直後は領域全体の平均的なエッチングレートが比較的低く、平坦化を開始してから比較的遅れて凸部が消滅または著しく小さくなり、領域全体の平均的なエッチングレートが更に低くなるが、エッチングレートが低い被覆材が残存する凹部の占有面積比が大きいので、エッチングレートの低下の度合いはそれだけ小さい。図18の符号C、Dを付した曲線内の面積(各曲線と、グラフの縦軸、横軸で囲まれた面積)が各領域の平均的な加工量に相当し、両者面積の差が経時的に縮小することで、領域間の表面粗さの差、領域間の表面の段差が抑制されると考えられる。
【0024】
尚、図17、図18の曲線は、代表的な凹凸パターンの領域の平均的なエッチングレートの変化を推測して例示したものである。実際には、凸部の幅及び凸部の占有面積比双方が異なる様々な領域が存在しうるが、各領域の平均的なエッチングレートは上記の例を合成したような経時的な変化を示し、領域間の平均的な加工量の差は経時的に縮小すると考えられる。
【0025】
即ち、次のような本発明により、上記課題の解決を図ることができる。
【0026】
(1)所定の凹凸パターンが形成された被加工体の表面に凹部を充填するための充填材を成膜する充填材成膜工程と、前記充填材上に被覆材を成膜する被覆材成膜工程と、前記充填材に対するエッチングレートよりも前記被覆材に対するエッチングレートが低いドライエッチング法により前記被加工体の表面上の余剰の前記充填材及び被覆材を除去して平坦化する平坦化工程と、を含むことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【0027】
(2)前記充填材成膜工程の前に、前記平坦化工程のドライエッチング法に対するエッチングレートが前記充填材よりも低いストップ膜を前記被加工体の表面上に成膜するストップ膜成膜工程を設けたことを特徴とする前記(1)の凹凸パターンの凹部充填方法。
【0028】
(3)所定の凹凸パターンが形成された被加工体の表面に凹部を充填するための充填材を成膜する充填材成膜工程と、前記充填材上に被覆材を成膜する被覆材成膜工程と、ドライエッチング法により前記被加工体の表面を平坦化しつつ前記充填材を部分的に露出させる第1の平坦化工程と、前記充填材に対するエッチングレートよりも前記被覆材に対するエッチングレートが低いドライエッチング法により前記被加工体の表面上の余剰の前記充填材及び被覆材を除去して平坦化する第2の平坦化工程と、を含むことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【0029】
(4)前記第1の平坦化工程は、前記第2の平坦化工程よりも前記被覆材に対するエッチングレートが高いドライエッチング法を用いるようにしたことを特徴とする前記(3)の凹凸パターンの凹部充填方法。
【0030】
(5)前記第1の平坦化工程及び第2の平坦化工程は、前記被加工体の表面に加工用ガスを照射して平坦化するドライエッチング法を用いるようにし、且つ、前記被加工体の表面に対する前記加工用ガスの照射角を調節することにより、前記充填材及び被覆材に対するエッチングレートを調節するようにしたことを特徴とする前記(3)又は(4)の凹凸パターンの凹部充填方法。
【0031】
(6)前記第1の平坦化工程と、前記第2の平坦化工程と、で異なる種類の加工用ガスを用いることにより、前記充填材及び被覆材に対するエッチングレートを調節するようにしたことを特徴とする前記(3)乃至(5)のいずれかの凹凸パターンの凹部充填方法。
【0032】
(7)前記充填材成膜工程の前に、前記第2の平坦化工程のドライエッチング法に対するエッチングレートが前記充填材よりも低いストップ膜を前記被加工体の表面上に成膜するストップ膜成膜工程を設けたことを特徴とする前記(3)乃至(6)のいずれかの凹凸パターンの凹部充填方法。
【0033】
(8)前記第1の平坦化工程は、反応性イオンエッチングを用いるようにしたことを特徴とする前記(3)乃至(7)のいずれかの凹凸パターンの凹部充填方法。
【0034】
(9)前記(1)乃至(8)のいずれかに記載の凹凸パターンの凹部充填方法を用いて、凹凸パターンの磁気記録層上に非磁性の充填材を成膜し、表面を平坦化して前記凹凸パターンの凹部に前記非磁性の充填材を充填する工程を含むことを特徴とする凹凸パターンの磁気記録層を有する磁気記録媒体の製造方法。
【0035】
尚、本出願において、「凹凸パターンの磁気記録層」とは、連続記録層が所定のパターンで分割された多数の記録要素で構成される磁気記録層の他、連続記録層が所定のパターンで部分的に分割して形成され、一部が連続する記録要素で構成される磁気記録層、又、例えば螺旋状の渦巻き形状の磁気記録層のように、基板上の一部に連続して形成される磁気記録層、連続した磁気記録層に凸部及び凹部双方が形成される場合も含む意義で用いることとする。
【0036】
又、本出願において「磁気記録媒体」という用語は、情報の記録、読み取りに磁気のみを用いるハードディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気テープ等に限定されず、磁気と光を併用するMO(Magneto Optical)等の光磁気記録媒体、磁気と熱を併用する熱アシスト型の記録媒体も含む意義で用いることとする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
[図1]本発明の第1実施形態に係る被加工体の加工出発体の構造を模式的に示す側断面図
[図2]同被加工体を加工して得られる磁気記録媒体の構造を模式的に示す側断面図
[図3]同磁気記録媒体の製造工程の概要を示すフローチャート
[図4]レジスト層に凹凸パターンが転写された前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図5]連続記録層が分割された前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図6]磁気記録層上にストップ膜が形成された前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図7]前記ストップ膜上に充填材が成膜された前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図8]前記充填材上に被覆材が成膜された前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図9]平坦化により充填材が部分的に露出した前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図10]平坦化により一部の領域が平坦化された前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図11]更に平坦化が進行した前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図12]全面が平坦化された前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図13]平坦化工程が完了した前記被加工体の形状を模式的に示す側断面図
[図14]本発明の第2実施形態に係る磁気記録媒体の形状を模式的に示す側断面図
[図15]本発明の第3実施形態に係る磁気記録媒体の製造工程の概要を示すフローチャート
[図16A]従来の凹部充填方法の平坦化工程における充填材の初期形状を模式的に示す側断面図
[図16B]同平坦化工程において加工が進行した同充填材の形状を模式的に示す側断面図
[図16C]同平坦化工程において加工が更に進行した同充填材の形状を模式的に示す側断面図
[図16D]同平坦化工程における充填材の終期形状を模式的に示す側断面図
[図17]本発明の凹部充填方法の平坦化工程における充填材及び被覆材のエッチングレートの経時的な変化の例を示すグラフ
[図18]本発明の凹部充填方法の平坦化工程における充填材及び被覆材のエッチングレートの経時的な変化の他の例を示すグラフ
[図19]本発明の他の実施形態の例に係る被加工体の形状を模式的に示す側断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0039】
本発明の第1実施形態は、ガラス基板12上に連続記録層20等を形成してなる図1に示されるような被加工体10の加工出発体に加工を施すことにより、図2に示されるように連続記録層20を多数の記録要素32Aに分割して所定の凹凸パターンの磁気記録層32を形成すると共に記録要素32Aの間の凹部(凹凸パターンの凹部)34に非磁性の充填材36を充填し、磁気記録媒体30を製造する磁気記録媒体の製造方法に関するものであり、充填材36を充填し、余剰の充填材36を除去して表面を平坦化する工程に特徴を有している。他の工程については本実施形態の理解のために重要とは思われないため説明を適宜省略することとする。
【0040】
被加工体10の加工出発体は、図1に示されるように、ガラス基板12に、下地層14、軟磁性層16、配向層18、連続記録層20、第1のマスク層22、第2のマスク層24、レジスト層26がこの順で形成された構成とされている。
【0041】
下地層14は、厚さが30〜200nmで、材料はCr(クロム)又はCr合金である。軟磁性層16は、厚さが50〜300nmで、材料はFe(鉄)合金又はCo(コバルト)合金である。配向層18は、厚さが330nmで、材料はCoO、MgO、NiO等である。
【0042】
連続記録層20は、厚さが5〜30nmで、材料はCoCr(コバルト−クロム)合金である。
【0043】
第1のマスク層22は、厚さが3〜50nmで、材料はTiN(窒化チタン)である。第2のマスク層24は、厚さが3〜30nmで、材料はNi(ニッケル)である。レジスト層26は、厚さが30〜300nmで、材料はネガ型レジスト(NBE22A住友化学工業株式会社製)である。
【0044】
磁気記録媒体30は、垂直記録型のディスクリートトラックタイプの磁気ディスクで、図2に示されるように、磁気記録層32は、前記連続記録層20が径方向に微細な間隔で多数の同心円弧状の記録要素32Aに分割された凹凸パターン形状とされている。又、記録要素32Aの間の凹部34にはストップ膜35が成膜され、ストップ膜35上には充填材36が充填されている。又、記録要素32A及び充填材36上には保護層38、潤滑層40がこの順で形成されている。尚、磁気記録媒体30はサーボ領域において、磁気記録層32が所定のサーボパターンで形成されている。
【0045】
ストップ膜35の材料はダイヤモンドライクカーボンと呼称される硬質炭素膜である。尚、本明細において「ダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」という)」という用語は、炭素を主成分とし、アモルファス構造であって、ビッカース硬度測定で200〜8000kgf/mm程度の硬さを示す材料という意義で用いることとする。
【0046】
充填材36は材料が非磁性のSiO(二酸化ケイ素)である。
【0047】
保護層38の材料はストップ膜35と同様にDLCであり、潤滑層40の材料はPFPE(パーフロロポリエーテル)である。
【0048】
次に、被加工体10の加工方法について、図3に示すフローチャートに沿って説明する。
【0049】
まず、図1に示される被加工体10の加工出発体を用意する(S102)。被加工体10の加工出発体はガラス基板12に、下地層14、軟磁性層16、配向層18、連続記録層20、第1のマスク層22、第2のマスク層24をこの順でスパッタリング法により形成し、更にレジスト層26をディッピング法で塗布することにより得られる。尚、スピンコート法によりレジスト層26を塗布してもよい。
【0050】
この被加工体10の加工出発体のレジスト層26に転写装置(図示省略)を用いて、コンタクトホールを含む所定のサーボパターン及びトラックパターンに相当する図4に示されるような凹凸パターンをナノ・インプリント法により転写する(S104)。尚、レジスト層26を露光・現像して、凹凸パターンを形成してもよい。
【0051】
次に、アッシングにより、凹部底部のレジスト層26を除去してから、Ar(アルゴン)ガスを用いたイオンビームエッチングにより、凹部底部の第2のマスク層24を除去し、更に、SF(6フッ化硫黄)ガスを用いた反応性イオンエッチングにより、凹部底部の第1のマスク層22を除去し、COガス及びNHガスを反応ガスとする反応性イオンエッチングにより、凹部底部の連続記録層20を除去する(S106)。これにより、図5に示されるように連続記録層20が多数の記録要素32Aに分割され、凹凸パターンの磁気記録層32が形成される。尚、第1のマスク層22が記録要素32Aの上面に残存することがあるので、SFガスを反応ガスとする反応性イオンエッチングにより、記録要素32A上に残存する第1のマスク層22を完全に除去し、NHガス等の還元性のガスを供給して被加工体10の表面のSFガス等を除去する。
【0052】
次に、CVD法により、図6に示されるように、記録要素32Aの上面及び側面にDLCのストップ膜35を1〜20nmの厚さで成膜する(S108)。尚、ストップ膜35は記録要素32Aの間の凹部34の底面にも成膜される。
【0053】
次に、バイアススパッタリング法により被加工体10の表面に充填材36を成膜する(S110)。SiOの粒子は被加工体10の表面に一様に堆積しようとするので、表面が凹凸形状となるが、被加工体10にバイアス電圧を印加することにより、スパッタリングガスは被加工体10の方向に付勢されて堆積済みのSiOに衝突し、堆積済みのSiOの一部をエッチングする。このエッチング作用は、堆積済みのSiOのうち、突出した部分を他部よりも早く選択的に除去する傾向があるので、表面の凹凸がある程度均される。成膜作用がエッチング作用を上回ることで表面の凹凸が抑制されつつ成膜が進行する。
【0054】
これにより、図7に示されるように、表面の凹凸がある程度抑制された形状で充填材36が記録要素32Aを覆うように成膜され、凹部34に充填材36が充填される。尚、図7は本実施形態の理解のため、凹凸形状を実際よりも強調して描いている。
【0055】
次に、バイアススパッタリング法により、図8に示されるように、充填材36上に被覆材42を成膜する(S112)。被覆材42は材料がC(炭素)であり、イオンビームエッチングに対するエッチングレートが、充填材36のイオンビームエッチングに対するエッチングレートよりも低い。Cの粒子は充填材36上に表面の凹凸が抑制されつつ成膜される。
【0056】
次に、イオンビームエッチングにより被加工体10の表面に加工用ガスとしてArガスを照射して磁気記録層32上の余剰の被覆材42及び充填材36を除去し、被加工体10の表面を平坦化する(S114)。ここで、「余剰の被覆材42及び充填材36」とは、磁気記録層32の上面よりも上側(ガラス基板12と反対側)の、記録要素32A上に存在する被覆材42及び充填材36という意義で用いることとする。尚、高精度な平坦化を行うためにはArガスの入射角は表面に対して−10〜15°の範囲とすることが好ましい。一方、成膜により表面の良好な平坦性が得られていれば、Arガスの入射角は15〜90°の範囲とするとよい。このようにすることで、加工速度が速くなり、生産効率を高めることができる。
【0057】
ここで「入射角」とは、被加工体の表面に対する入射角度であって、被加工体の表面とイオンビームの中心軸とが形成する角度という意義で用いることとする。例えば、イオンビームの中心軸が被加工体の表面と平行である場合、入射角は0°である。
【0058】
これにより、まず、被覆材42だけが除去される。イオンビームエッチングは凸部を凹部よりも選択的に速く除去する傾向があるので、被覆材42は膜厚が減少しつつ表面の凹凸が若干均される。
【0059】
一方、凸部のうち、幅が比較的広い凸部はエッチングレートが低い傾向があり、幅が比較的狭い凸部はエッチングレートが高い傾向があり、幅が広くエッチングレートが低い凸部が多く存在する領域は、その凸部周辺の凹部も含めた領域全体の平均的なエッチングレートも低い傾向があり、幅が狭くエッチングレートが高い凸部が多く存在する領域は、その凸部周辺の凹部も含めた領域全体の平均的なエッチングレートも高い傾向がある。
【0060】
このため、平坦化開始直後は領域間で表面粗さに差が生じ、又、領域間で段差が生じるが、本実施形態では領域間の表面粗さの差、段差が縮小する。その理由は以下のように推測される。
【0061】
幅が狭くエッチングレートが高い凸部が多く存在する領域は、図17中に符号Aを付した曲線のように、平坦化開始直後は領域全体の平均的なエッチングレートが高く、凸部を構成する被覆材42が比較的速く除去され、図9に示されるように、被覆材42よりもエッチングレートが高い充填材36が平坦化開始後早期に凸部で露出する。これにより凸部は凹部のレベルまで急速に除去されて、図10に示されるように、凹凸が消滅または著しく小さくなり、平坦化を開始してから比較的早期に領域全体の平均的なエッチングレートが低くなる。
【0062】
一方、領域全体に占める凸部の占有面積比が比較的小さい程、図18中に符号Dを付した曲線のように、平坦化開始直後は領域全体の平均的なエッチングレートが比較的低く、平坦化を開始してから遅れて凸部が消滅または著しく小さくなり、領域全体の平均的なエッチングレートが更に低くなるが、充填材36よりもエッチングレートが低い被覆材42が残存する凹部の占有面積比が大きいので、エッチングレートの低下の度合いはそれだけ小さい。
【0063】
これに対し、幅が広くエッチングレートが低い凸部が多く存在する領域は、図17中に符号Bを付した曲線のように、平坦化開始直後は領域全体の平均的なエッチングレートが低く、凸部が比較的長く残存するので、領域全体の平均的なエッチングレートが変化しにくいが、図10に示されるように凸部の端部近傍において充填材36が露出すると、露出したエッチングレートの高い充填材36がエッチングされることで充填材36と共に充填材36上の被覆材42も除去され、図11に示されるように凸部は次第に細くなり幅が狭くなる。即ち、凸部が残存しつつ凸部のエッチングレートは次第に高くなるので、平坦化を開始してから比較的遅れて領域全体の平均的なエッチングレートが高くなる。
【0064】
又、領域全体に占める凸部の占有面積比が大きい程、図18中に符号Cを付した曲線のように平坦化開始直後は領域全体の平均的なエッチングレートが比較的高いが、凸部が比較的早期に消滅または著しく小さくなり、エッチングレートが高い凸部が消滅または著しく小さくなることで、平坦化を開始してから比較的早期に領域全体の平均的なエッチングレートが低くなる。又、充填材36よりもエッチングレートが低い被覆材42が残存する凹部の占有面積比が小さいので、エッチングレートの低下の度合いはそれだけ大きい。
【0065】
更にエッチングが進行し、幅が広くエッチングレートが低い凸部が多く存在する領域においても、凸部を構成する被覆材42が概ね除去されると凸部の幅が狭くなり、凸部は凹部のレベルまで急速に除去されて、図12に示されるように凹凸が消滅または著しく小さくなり、領域全体のエッチングレートが更に低くなる。
【0066】
図17の符号Aを付した曲線及び図18の符号Dを付した曲線を合成した曲線内の面積が、図7〜12に示す左側の領域の平均的な加工量に相当し、図17の符号Bを付した曲線及び図18の符号Cを付した曲線を合成した曲線内の面積が、図7〜12に示す右側の領域の平均的な加工量に相当し、両者面積の差が経時的に縮小すると考えられる。尚、実際には、凸部の幅、凸部の占有面積比が異なる様々な領域が存在しうるが、各領域の平均的なエッチングレートは上記曲線を合成したような経時的な変化を示し、領域間の平均的な加工量の差は経時的に縮小する。従って、いずれの領域においても表面の凹凸が消滅または著しく小さくなると共に領域間の表面粗さの差や領域間の段差が縮小する。又、領域間のエッチングレートの差も縮小する。従って、以後、被覆材42及び充填材36は表面が略平坦な形状を維持したまま除去されて膜厚が低減し、図13に示されるように被覆材42及び充填材36が記録要素32Aの上面まで除去されたところでイオンビームエッチングを停止する。尚、記録要素32A上のストップ膜35は残してもよいし、除去してもよい。
【0067】
ここで、充填材36は被覆材42よりもイオンビームエッチングに対するエッチングレートが高いので、被覆材42の間に露出した充填材36の部分が凹部となりうるが、凹部になると凸部よりもエッチングレートが低くなるので、凹部が過度に深くなることはない。
【0068】
尚、仮に、記録要素32A上に露出した充填材36の部分が凹部となり、凹部が深くなっても直下の記録要素32A上にはイオンビームエッチングに対するエッチングレートが充填材36よりも低いストップ膜35が形成されているので、記録要素32Aは保護されると共にストップ膜35が露出することで記録要素32A上の凹部のエッチングレートは著しく低下し、最終的には平坦な面を得ることができる。
【0069】
次に、CVD法により記録要素32A及び充填材36の上面に1〜5nmの厚さでDLCの保護層38を形成し、更に、ディッピング法により保護層38の上に1〜2nmの厚さでPFPEの潤滑層40を塗布する(S116)。これにより、前記図2に示される磁気記録媒体30が完成する。記録要素32A及び充填材36の表面を確実に平坦化してから保護層38、潤滑層40を形成するので、磁気記録媒体30は、表面が充分に平坦であり、良好なヘッド浮上特性が確実に得られる。
【0070】
又、記録要素32A上に材料がDLCでイオンビームエッチングに対するエッチングレートが充填材36よりも低いストップ膜35を形成しているので、平坦化工程(S114)において記録要素32Aがエッチングされることがなく、磁気特性が悪化することがない。即ち、磁気記録媒体30は記録・再生精度が良い。
【0071】
更に、記録要素32A上にストップ膜35を形成しているので、平坦化工程(S114)において記録要素32Aをエッチングすることなく記録要素32A上の充填材36を確実に除去することができ、この点でも磁気記録媒体30は記録・再生精度が良い。
【0072】
尚、平坦化工程(S114)において記録要素32A上のストップ膜35も除去することで、記録・再生精度を更に高めることができる。一方、ストップ膜35を残すことで記録要素32Aをイオンビームエッチングから確実に保護することができる。ストップ膜35はイオンビームエッチングに対するエッチングレートが比較的低いので、それだけ膜厚を薄くすることができ、仮に記録要素32A上にストップ膜35が残存しても記録・再生精度に及ぼす影響は小さい。
【0073】
尚、本第1実施形態において、充填材36の材料はSiO、被覆材42の材料はCであり、又、平坦化工程(S114)は、充填材36に対するエッチングレートよりも被覆材42に対するエッチングレートが低く、加工用ガスとしてArガスを用いたイオンビームエッチングを採用しているが、充填材36に対するエッチングレートよりも被覆材42に対するエッチングレートが低い組合わせを選択すれば、充填材36、被覆材42の材料として、例えば、他の酸化物、TiN(酸化チタン)等の窒化物、Ta(タンタル)、TaSi、Si等の他の非磁性材料を用いてもよい。又、被覆材42の材料としては磁性材料や、フォトレジスト材料のような流動性を有する材料を用いてもよい。尚、結晶材料は、ドライエッチングにより結晶粒界単位でエッチングされやすく、表面に結晶粒界単位の凹凸が形成されやすいので、平坦性の向上のためには、充填材36、被覆材42の材料がアモルファス材料であることが好ましい。
【0074】
又、平坦化工程(S114)は、Kr(クリプトン)、Xe(キセノン)等の他の希ガスを用いたイオンビームエッチングを採用してもよく、更に、例えばSF、CF(4フッ化炭素)、C(6フッ化エタン)等のハロゲン系の反応ガスを用いた反応性イオンビームエッチング、反応性イオンエッチング等の他のドライエッチングを採用してもよい。充填材36、被覆材42の材料、平坦化工程(S114)のドライエッチング方法として好ましい組合わせの例を表1に示す。
【0075】


【0076】
又、本第1実施形態において、ストップ膜35の材料はDLCであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、平坦化工程(S114)におけるエッチングレートが低い材料であれば、他の非磁性材を用いてもよい。
【0077】
又、本第1実施形態において、平坦化工程(S114)において、被覆材42を完全に除去しているが、図14に示される本発明の第2実施形態のように、成膜時に凹部34内に充填材36と共に被覆材42も充填し、被覆材42が記録要素32Aの間の凹部に残存するようにしても良い。尚、この場合、被覆材42の材料は非磁性材とすることが好ましい。
【0078】
又、前記第1実施形態において、記録要素32A上の余剰の充填材36、被覆材42を1工程で除去しているが、図15のフローチャートに示される本発明の第3実施形態のように、ドライエッチング法により被加工体10の表面を平坦化しつつ充填材36を部分的に露出させる第1の平坦化工程(S302)と、充填材36に対するエッチングレートよりも被覆材42に対するエッチングレートが低いドライエッチング法により被加工体10の表面上の余剰の充填材36及び被覆材42を除去して平坦化する第2の平坦化工程(S304)の2工程で記録要素32A上の余剰の充填材36、被覆材42を除去してもよい。
【0079】
尚、この場合、第1の平坦化工程は、充填材36に対するエッチングレートよりも被覆材42に対するエッチングレートが高いドライエッチング法を用いても良く、両者に対するエッチングレートが等しいドライエッチング法を用いてもよい。
【0080】
又、この場合、第1の平坦化工程(S302)は、第2の平坦化工程(S304)よりも被覆材42に対するエッチングレートが高いドライエッチング法を用いることが好ましい。このようにすることで、平坦化工程の生産効率を向上させることができる。例えば、第1の平坦化工程(S302)のドライエッチング法として、被覆材42と化学反応する反応ガスによる反応性イオンエッチングを用いることで、平坦化工程の生産効率を著しく向上させることができる。
【0081】
又、例えば、第1の平坦化工程(S302)及び第2の平坦化工程(S304)は、被加工体10の表面に加工用ガスを照射して平坦化するドライエッチング法を用いるようにし、且つ、被加工体10の表面に対する加工用ガスの照射角を調節することにより、充填材36及び被覆材42に対するエッチングレートを調節するとよい。又、第1の平坦化工程(S302)と、第2の平坦化工程(S304)と、で異なる種類の加工用ガスを用いることにより、充填材36及び被覆材42に対するエッチングレートを調節するようにしてもよい。このように加工用ガスの照射角や加工用ガスの種類を変えることで充填材36及び被覆材42に対するエッチングレートを調節すれば、第1及び第2の平坦化工程のドライエッチング法を共通化し、共通のドライエッチング装置を用いて、第1及び第2の平坦化工程を実行することができ、設備コストを抑制することができる。尚、異なるドライエッチング装置を用いて、第1及び第2の平坦化工程を実行する場合も、複数のドライエッチング装置の構造を共通化すれば設備コストを抑制する一定の効果が得られる。又、複数のドライエッチング装置を用いることで、各工程をそれぞれ連続して実行でき、これにより生産効率を向上させることもできる。又、第1及び第2の平坦化工程で共通の加工用ガスを用いることで複数のドライエッチング装置を用いた場合、装置間の移送が容易となり、この点でも生産効率を向上させることができる。
【0082】
又、前記第1実施形態において、充填材36を成膜後、連続して被覆材42を成膜しているが、ドライエッチングにより充填材36をある程度平坦化してから被覆材42を成膜してもよい。このようにすることで、図19に示されるように、総ての凹凸パターンの領域において充填材36の凸部の幅をある程度減少させることができる。このように、凸部の幅を予め減少させてから前記第1実施形態又は第3実施形態のような平坦化工程を行うことで、各領域間の表面の段差や凹凸形状の差異を一層小さくする効果が得られる。又、成膜された充填材36の凸部の中に、幅が著しく広い凸部が存在する場合であっても、その幅を予め減少させてから前記第1実施形態又は第3実施形態のような平坦化工程を行うことで、全領域の表面を一様に平坦化することができる。
【0083】
又、この場合、被覆材42を成膜する前に、凹部の充填材36の上面の厚さ方向の位置と凸部のストップ膜の上面の厚さ方向の位置との差が−10〜+10nm、好ましくは−5〜+5nmの範囲内、更に好ましくは0nmになるまで充填材36をドライエッチングしておくことで、被覆材42を成膜した後の平坦化により充分な平坦化効果が得られる。
【0084】
又、前記第1実施形態において、バイアススパッタリング法により充填材36、被覆材42を成膜しているが、成膜手法は特に限定されず、例えば、スパッタリング法を用いて被膜材42を成膜してもよく、CVD法、IBD法等の他の成膜手法を用いて、充填材36、被覆材42を成膜してもよい。又、被覆材42の材料としてフォトレジスト材料のような流動性を有する材料を用いる場合は、例えばスピンコート法やドクターブレード法により、被覆材42を成膜してもよい。
【0085】
同様に、前記第1実施形態において、CVD法を用いてストップ膜35を形成しているが、記録要素32Aに対するダメージが小さい成膜手法であれば、他の成膜手法を用いてストップ膜35を成膜してもよい。
【0086】
又、平坦化工程(S114)又は第3実施形態における第2の平坦化工程(S304)におけるArガスの入射角を例えば−10〜5°程度の低角度とすることにより、磁気記録層32のエッチングレートが充填材36のエッチングレートよりも低くなることが確認されており、磁気記録層32自体が実質的にストップ膜の役割を果たすのでストップ膜35を省略し、記録要素36A上に充填材36を直接成膜してもよい。
【0087】
又、前記第1実施形態において、第1のマスク層22、第2のマスク層24、レジスト層26を連続記録層20に形成し、3段階のドライエッチングで連続記録層20を分割しているが、連続記録層20を高精度で分割できれば、レジスト層、マスク層の材料、積層数、厚さ、ドライエッチングの種類等は特に限定されない。
【0088】
又、前記第1実施形態において、連続記録層20(記録要素32A)の材料はCoCr合金であるが、例えば、鉄族元素(Co、Fe、Ni)を含む他の合金、これらの積層体等の他の材料の記録要素で構成される磁気記録媒体の加工のためにも本発明を適用可能である。
【0089】
又、前記第1実施形態において、連続記録層20の下に下地層14、軟磁性層16、配向層18が形成されているが、連続記録層20の下の層の構成は、磁気記録媒体の種類に応じて適宜変更すればよい。例えば、下地層14、軟磁性層16、配向層18のうち一又は二の層を省略してもよい。又、基板上に連続記録層を直接形成してもよい。
【0090】
又、前記第1実施形態において、磁気記録媒体30は磁気記録層32がトラックの径方向に微細な間隔で分割された垂直記録型のディスクリートトラックタイプの磁気ディスクであるが、磁気記録層がトラックの周方向(セクタの方向)に微細な間隔で分割された磁気ディスク、トラックの径方向及び周方向の両方向に微細な間隔で分割された磁気ディスク、凹凸パターンの連続した磁気記録層を有するパーム(PERM)タイプの磁気ディスク、磁気記録層が螺旋形状をなす磁気ディスクの製造についても本発明は当然適用可能である。又、MO等の光磁気ディスク、磁気と熱を併用する熱アシスト型の磁気ディスク、更に、磁気テープ等ディスク形状以外の他の凹凸パターンの記録層を有する磁気記録媒体の製造に対しても本発明を適用可能である。
【0091】
又、前記第1実施形態は、磁気記録媒体の製造方法に関するものであるが、本発明はこれに限定されるものではなく、凹凸パターンの凹部の充填を要する分野であれば、例えば、光記録媒体等の他の情報記録媒体や半導体等の他の様々な分野についても本発明は適用可能である。
【実施例1】
【0092】
前記第1実施形態のとおり、被加工体10を加工した。具体的には、磁気記録層32の凹凸パターンとして表2に示される2パターンを含む凹凸パターンを形成した。更に、DLCのストップ膜35を4nmの厚さで成膜した。
【0093】

【0094】
この磁気記録層32(ストップ膜35)上にバイアススパッタリング法により、材料がSiOの充填材36を膜厚が約40nmとなるように成膜した。尚、スパッタリングガスとしてArを用い、成膜パワーを約500W、バイアスパワーを約150W、真空チャンバ内の圧力を約0.3Paに設定した。
【0095】
更に、充填材36上にバイアススパッタリング法により材料がCの被覆材42を膜厚が約20nmとなるように、成膜パワーを約500W、バイアスパワーを約150W、真空チャンバ内の圧力を約0.3Paに設定して成膜した。尚、充填材36、被覆材42の表面は凹凸が微小に抑制された形状となるため、凹凸を無視しうる略平坦な面を有する膜厚計を被加工体10の近傍に設置し、膜厚計に成膜された表面が平坦な充填材36、被覆材42の膜厚を、被加工体10の充填材36、被覆材42の膜厚として測定した。
【0096】
次に、Arガスを加工用ガスとするイオンビームエッチングにより磁気記録層32上のパターン1の領域おいて余剰の充填材36、被覆材42を除去するまで、表面を平坦化した。尚、Arガスの照射角度は被加工体の表面に対して約2°に設定した。平坦化工程(S114)は、磁気記録層32上のパターン1の領域おいて余剰の充填材36、被覆材42を完全に除去するまで約14分5秒実行した。
【0097】
平坦化工程(S114)後、表面を原子間力顕微鏡で撮像し、パターン1の領域及びパターン2の領域の表面の中心線平均粗さRaを測定した。測定結果と平坦化工程に要した時間を表3に示す。
【実施例2】
【0098】
上記第3実施形態のとおり、第1の平坦化工程(S302)及び第2の平坦化工程(S304)の2工程で磁気記録層32上の余剰の充填材36、被覆材42を除去した。他の条件は上記実施例1と同様とした。
【0099】
具体的には、第1の平坦化工程(S302)は、C(6フッ化2炭素)ガスを反応ガスとする反応性イオンビームエッチングを用いた。尚、Cガスの照射角度は被加工体の表面に対して約2°に設定した。第1の平坦化工程(S302)は、被覆材42から充填材36が部分的に露出するまで約3分2秒実行した。
【0100】
第2の平坦化工程(S304)は、Arガスを加工用ガスとするイオンビームエッチングを用いた。尚、Arガスの照射角度は被加工体の表面に対して約2°に設定した。第2の平坦化工程(S302)は、磁気記録層36上のパターン1の領域おいて余剰の充填材36、被覆材42を完全に除去するまで約4分7秒実行した。
【0101】
第2の平坦化工程後、表面を原子間力顕微鏡で撮像し、パターン1の領域及びパターン2の領域の表面の中心線平均粗さRaを測定した。測定結果と第1及び第2の平坦化工程に要した合計時間を表3に示す。
【実施例3】
【0102】
本実施例3は上記実施例1と同様に前記第1実施形態の実験例であるが上記実施例1に対し、充填材36を膜厚が約35nmとなるように成膜した。又、被覆材42の材料としてCに代えてTa(タンタル)を膜厚が約4nmとなるように成膜した。他の条件は上記実施例1と同様とした。
【0103】
実施例1と同様に、Arガスを加工用ガスとするイオンビームエッチングにより、被加工体の表面に対してArガスの照射角度を約2°に設定し、磁気記録層36上のパターン1の領域おいて余剰の充填材36、被覆材42を除去するまで約9分32秒実行した。
【0104】
平坦化工程後、表面を原子間力顕微鏡で撮像し、パターン1の領域及びパターン2の領域の表面の中心線平均粗さRaを測定した。測定結果と平坦化工程に要した時間を表3に示す。
【実施例4】
【0105】
本実施例4は前記第3実施形態の実験例であり、上記実施例3に対し、第1の平坦化工程(S302)及び第2の平坦化工程(S304)の2工程で磁気記録層32上の余剰の充填材36、被覆材42を除去した。他の条件は上記実施例3と同様とした。
【0106】
具体的には、第1の平坦化工程(S302)は、Arガスを加工用ガスとするイオンビームエッチングにより、被加工体の表面に対してArガスの照射角度を約10°に設定し、被覆材42から充填材36が部分的に露出するまで約1分18秒実行した。
【0107】
第2の平坦化工程(S304)は、実施例3と同様に、Arガスを加工用ガスとするイオンビームエッチングにより、被加工体の表面に対してArガスの照射角度を約2°に設定し、磁気記録層36上のパターン1の領域おいて余剰の充填材36、被覆材42を除去するまで約3分41秒実行した。
【0108】
第2の平坦化工程後、表面を原子間力顕微鏡で撮像し、パターン1の領域及びパターン2の領域の表面の中心線平均粗さRaを測定した。測定結果と第1及び第2の平坦化工程に要した合計時間を表3に示す。
【0109】
又、実施例1〜4の平坦化工程において用いた加工用ガス、反応ガス、これらのガスの照射角、充填材36、被覆材42の材料、エッチングレート、エッチングに対する選択比を表4に比較して示す。
【0110】

【0111】


【0112】
[比較例]
上記実施例1に対し、充填材36を膜厚が約60nmとなるように成膜し、被覆材42は成膜しなかった。他の条件は上記実施例1と同様とした。
【0113】
実施例1と同様に、Arガスを加工用ガスとするイオンビームエッチングにより、被加工体の表面に対してArガスの照射角度を約2°に設定し、磁気記録層36上のパターン1の領域おいて余剰の充填材36を除去するまで約8分27秒、平坦化を行った。
【0114】
平坦化工程後、表面を原子間力顕微鏡で撮像し、パターン1の領域及びパターン2の領域の表面の中心線平均粗さRaを測定した。測定結果と平坦化工程に要した時間を表3に示す。
【0115】
表3より、比較例は、パターン1の領域において表面の中心線平均粗さRaが1nm以下に抑制されている一方、パターン2の領域においては表面の中心線平均粗さRaが1nmを超えているのに対し、実施例1〜4はいずれもパターン1、パターン2の双方の領域において表面の中心線平均粗さRaが1nm以下に抑制され、比較例よりも良好に平坦化されていることが確認された。
【0116】
又、実施例2は、実施例1に対し、平坦化工程を2工程とすることで平坦化工程に要する時間が大幅に短縮されていることが確認された。同様に、実施例4も、実施例3に対し、平坦化工程を2工程とすることで平坦化工程に要する時間が短縮されていることが確認された。
産業上の利用の可能性
【0117】
本発明は、例えば、ディスクリートトラックタイプのハードディスク等の凹凸パターンの磁気記録層を有する磁気記録媒体の他、凹凸パターンの凹部充填を要する他の情報記録媒体や半導体製品等を製造するために利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】



【図17】

【図18】

【図19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の凹凸パターンが形成された被加工体の表面に凹部を充填するための充填材を成膜する充填材成膜工程と、前記充填材上に被覆材を成膜する被覆材成膜工程と、前記充填材に対するエッチングレートよりも前記被覆材に対するエッチングレートが低いドライエッチング法により前記被加工体の表面上の余剰の前記充填材及び被覆材を除去して平坦化する平坦化工程と、を含むことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記充填材成膜工程の前に、前記平坦化工程のドライエッチング法に対するエッチングレートが前記充填材よりも低いストップ膜を前記被加工体の表面上に成膜するストップ膜成膜工程を設けたことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【請求項3】
所定の凹凸パターンが形成された被加工体の表面に凹部を充填するための充填材を成膜する充填材成膜工程と、前記充填材上に被覆材を成膜する被覆材成膜工程と、ドライエッチング法により前記被加工体の表面を平坦化しつつ前記充填材を部分的に露出させる第1の平坦化工程と、前記充填材に対するエッチングレートよりも前記被覆材に対するエッチングレートが低いドライエッチング法により前記被加工体の表面上の余剰の前記充填材及び被覆材を除去して平坦化する第2の平坦化工程と、を含むことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記第1の平坦化工程は、前記第2の平坦化工程よりも前記被覆材に対するエッチングレートが高いドライエッチング法を用いるようにしたことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、
前記第1の平坦化工程及び第2の平坦化工程は、前記被加工体の表面に加工用ガスを照射して平坦化するドライエッチング法を用いるようにし、且つ、前記被加工体の表面に対する前記加工用ガスの照射角を調節することにより、前記充填材及び被覆材に対するエッチングレートを調節するようにしたことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【請求項6】
請求項3又は4において、
前記第1の平坦化工程と、前記第2の平坦化工程と、で異なる種類の加工用ガスを用いることにより、前記充填材及び被覆材に対するエッチングレートを調節するようにしたことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【請求項7】
請求項3又は4において、
前記充填材成膜工程の前に、前記第2の平坦化工程のドライエッチング法に対するエッチングレートが前記充填材よりも低いストップ膜を前記被加工体の表面上に成膜するストップ膜成膜工程を設けたことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【請求項8】
請求項3又は4において、
前記第1の平坦化工程は、反応性イオンエッチングを用いるようにしたことを特徴とする凹凸パターンの凹部充填方法。
【請求項9】
所定の凹凸パターンで磁気記録層が形成された被加工体の表面に凹部を充填するための充填材を成膜する充填材成膜工程と、前記充填材上に被覆材を成膜する被覆材成膜工程と、前記充填材に対するエッチングレートよりも前記被覆材に対するエッチングレートが低いドライエッチング法により前記磁気記録層上の余剰の前記充填材及び被覆材を除去して平坦化する平坦化工程と、を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項10】
請求項9において、
前記充填材成膜工程の前に、前記平坦化工程のドライエッチング法に対するエッチングレートが前記充填材よりも低いストップ膜を前記磁気記録層上に成膜するストップ膜成膜工程を設けたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項11】
所定の凹凸パターンで磁気記録層が形成された被加工体の表面に凹部を充填するための充填材を成膜する充填材成膜工程と、前記充填材上に被覆材を成膜する被覆材成膜工程と、ドライエッチング法により前記被加工体の表面を平坦化しつつ前記充填材を部分的に露出させる第1の平坦化工程と、前記充填材に対するエッチングレートよりも前記被覆材に対するエッチングレートが低いドライエッチング法により前記磁気記録層上の余剰の前記充填材及び被覆材を除去して平坦化する第2の平坦化工程と、を含むことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記第1の平坦化工程は、前記第2の平坦化工程よりも前記被覆材に対するエッチングレートが高いドライエッチング法を用いるようにしたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項13】
請求項11又は12において、
前記第1の平坦化工程及び第2の平坦化工程は、前記被加工体の表面に加工用ガスを照射して平坦化するドライエッチング法を用いるようにし、且つ、前記被加工体の表面に対する前記加工用ガスの照射角を調節することにより、前記充填材及び被覆材に対するエッチングレートを調節するようにしたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項14】
請求項11又は12において、
前記第1の平坦化工程と、前記第2の平坦化工程と、で異なる種類の加工用ガスを用いることにより、前記充填材及び被覆材に対するエッチングレートを調節するようにしたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項15】
請求項11又は12において、
前記充填材成膜工程の前に、前記第2の平坦化工程のドライエッチング法に対するエッチングレートが前記充填材よりも低いストップ膜を前記磁気記録層上に成膜するストップ膜成膜工程を設けたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項16】
請求項11又は12において、
前記第1の平坦化工程は、反応性イオンエッチングを用いるようにしたことを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【国際公開番号】WO2005/064598
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【発行日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516590(P2005−516590)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019109
【国際出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【特許番号】特許第3881370号(P3881370)
【特許公報発行日】平成19年2月14日(2007.2.14)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】