説明

凹版印刷用インキ組成物及びそれを用いた印刷物

【課題】紫外線硬化酸化重合併用型凹版インキ組成物を、プラスチック等のインキ組成物の浸透が期待できない基材に対して、密着性を向上させる。
【解決手段】紫外線硬化性組成物、酸化重合性組成物、光重合開始剤、酸化重合触媒及び重合禁止剤を少なくとも含んでなる凹版印刷用インキ組成物であって、紫外線硬化成分と酸化重合成分の配合割合が75:25〜65:35であって、前述の酸化重合性組成物があまに油又は大豆油の中から選択される少なくとも一つ以上を含んでいることを特徴とする凹版印刷用インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹版印刷用インキ組成物及びその使用に関する。特に、銀行券、パスポート、証券類及び郵便切手等の偽造防止や変造防止が要求されるセキュリティ印刷物及び美術印刷物等の製造に利用されるものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、証券類及び切手類等は、その性質上、偽造や変造がされにくいことが要求され、また、美的な要素も求められる。このような要求のために、銀行券等の印刷には、印刷物の仕上りが非常に優れ、製版工程が複雑で、かつ、容易には偽造がされにくい凹版彫刻印刷が用いられている。
【0003】
また、この彫刻凹版印刷方式で作製される彫刻凹版印刷物の特徴として、独特の手触り感、細かくシャープな画線の形成が可能なこと、さらに、特殊な印刷機を用いなければ製造ができないことが挙げられ、このような理由からも、上記セキュリティ印刷物に彫刻凹版印刷が多用されている。
【0004】
凹版印刷とは、金属製の版面に凹状の画線を作製し、その中にインキを着肉し、画線凹部にインキを詰め込み、凹版版面上の余剰のインキをふき取り、強い圧力で用紙にインキを転移させる印刷方法である。
【0005】
通常、凹版画線の凹部の深さは、最大100μ m にも達するが、用紙に転移するインキは、着肉されたインキの一部であり、転移後の用紙上のインキ皮膜の厚さは、概ね10μ m 〜40μ m 程度である。しかし、この用紙上のインキの皮膜の厚さは、他の印刷方式に比べて著しく厚いため、印刷後に印刷物を積載すると、重なった印刷物の裏面にインキが移る、いわゆる裏移り等の問題が発生する。
【0006】
裏移りを防止するために、インキの乾燥を早くすると、用紙へのインキ転移時には、ある程度、インキの乾燥反応が進行しているため、インキの転移不良が生じる場合がある。
【0007】
また、凹版印刷用のインキでは、インキを固着するために用いられるビヒクル成分の割合が、他の印刷方法で用いられるインキより相対的に少なく、ビヒクル中に高分子量の樹脂分を高配合率で含ませることはできない。そのため、印刷物の画線を紙等でこすると、こすった紙に未乾燥のインキ表面が付着する、いわゆるチョーキングの問題が発生する。これは、例えば、銀行券自動支払機等の高速に銀行券を処理する機械では、銀行券を送り出すローラ等の接触部分が汚れてくるという問題を生じさせる
【0008】
用紙上のインキ皮膜の厚さが1μm 程度のオフセット印刷においては、印刷物の裏移り防止とインキ硬化皮膜の耐チョーキング性向上のために、ビヒクルとして紫外線硬化性組成物を用いることにより、紫外線を照射して、ビヒクルを硬化させる紫外線乾燥方式が広く実施されている。しかし、凹版印刷に紫外線乾燥方式を適用すると、用紙上のインキ皮膜の厚さが20μm 以上にもなる凹版印刷では、着色濃度の高いインキを使用すると、顔料が紫外線を吸収することでインキの皮膜内部まで紫外線が透過せず、インキの乾燥不良が生じる。
【0009】
そこで、本願出願人は、紫外線が透過しないような厚いインキ皮膜を硬化させることを目的として、紫外線硬化及び酸化重合機能を併せ持つインキ及びそれを使用した印刷物について既に出願している。ここには、凹版印刷用インキ組成物として、紫外線硬化性組成物、酸化重合性組成物、光重合開始剤、酸化重合触媒を混合したビヒクルを用いることにより、印刷後のインキの皮膜表面は紫外線で硬化させ、裏移りを防止するとともに、未硬化のインキの皮膜内部は、酸化重合性材料と酸化重合触媒から生成するラジカルによって紫外線硬化性材料が重合していき、完全硬化に至ることが示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0010】
また、柔軟性に優れ、かつ、紫外線硬化性に優れるポリグリセリンポリアクリレートを、紫外線硬化性組成物として用いることにより、凹版印刷物の積載時に凹版印刷物同士が固着する、いわゆるブロッキング現象を低減させた、凹版インキ用樹脂組成物、それを用いたインキ組成物及びその印刷物について出願している(例えば、特許文献2参照)。
【0011】
さらに、特許文献の1、2の凹版インキ用インキ組成物中の酸化重合性材料として、多塩基酸と多価アルコールとの縮合物を乾性油や乾性油脂肪酸で変性したアルキド樹脂に変わり、酸無水物の無水フタル酸や供沸溶媒のキシレンなどを使用しない酸化重合性材料を使用した、凹版インキ用インキ組成物及び凹版印刷物の製造方法について出願している(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特公平8−892号公報
【特許文献2】特開2002−38065号公報
【特許文献3】特開2007−145962公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前述の凹版印刷用インキ組成物の被印刷体は、紙やプラスチックシート等を基材として用いることができるが、プラスチックシート等のような凹版印刷用インキ組成物の浸透が期待できない基材の場合、インキのセット性が低下するという課題が残されていた。
【0013】
また、凹版印刷用インキ組成物は紫外線硬化による硬化時の体積収縮により、基材との接着面でひずみが生じることから、基材に対する密着性が劣ることが考えられ、実際に基材との密着性が劣ることも確認されているため、課題が残されていた。
【0014】
本発明は、裏移りの発生防止、耐チョーキング性、印刷品質の向上が可能な凹版印刷用インキ組成物において、印刷機の連続稼働時も安定的な印刷物が得られ、かつ、プラスチックシートのような浸透性が期待できない基材に対する密着性が得られる凹版印刷用インキ組成物及びその印刷物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の課題を解決するため、本発明による凹版印刷用インキ組成物は、紫外線硬化性組成物、酸化重合性組成物、光重合開始剤、酸化重合触媒及び重合禁止剤を少なくとも含んで成る凹版印刷用インキ組成物であって、酸化重合性組成物があまに油又は大豆油中から選択される少なくとも一つ以上を含んでいることを特徴とする凹版印刷用インキ組成物である。
【0016】
また、前述の水溶性紫外線硬化性組成物が、光重合性二重結合を有する水溶性化合物を主成分とし、酸化重合性組成物は、アルコール性水酸基と反応しエステル化する酸無水物と多価アルコールとから成り、ヨウ素化100以上の油脂類あるいはヨウ素化100以上の油脂類から変性された液状材料である凹版印刷用インキ組成物であることを特徴としている。
【0017】
また、紫外線硬化性材料と酸化重合性材料の構成比が75:25〜65:35(重量%:重量%)の範囲にある凹版インキ用樹脂組成物であることを特徴としている。
【0018】
また、凹版印刷用インキ組成物の浸透性が期待できない基材であるプラスチック、金属、木材、セラミックス又はガラス等に対して印刷された印刷物であることを特徴としている。
【0019】
また、本発明の凹版印刷用インキ組成物を用いて印刷した印刷物であることを特徴としている。
【0020】
また、本発明の凹版印刷用インキ組成物を用いた印刷物を、偽造防止印刷物及び/又は真偽判別印刷物として使用することを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の凹版印刷用インキ組成物は、酸化重合性組成物の割合を増やすことで、プラスチックシート等凹版印刷用インキ組成物の浸透が期待できないような基材に対して、確実に密着するため、上記基材に対する凹版印刷が可能となるという効果を奏する。
【0022】
また、上記凹版印刷用インキ組成物は、用紙とプラスチックシート等の凹版印刷用インキ組成物の浸透が期待できないような素材が混在するような基材に対しても、インキ被膜の厚い凹版印刷が可能となるため、セキュリティレベルの高い偽造防止印刷物を作製できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態における凹版印刷用インキ組成物は、必須成分である紫外線硬化性組成物、酸化重合性組成物、光重合開始剤、酸化重合触媒及び重合禁止剤と顔料とを、一般的なロールミルやビーズミル等の装置を用いて、一般的に公知の方法で練合することにより製造するものである。
【0024】
本実施の形態の凹版印刷用インキ組成物に使用される顔料としては、紫外線硬化性組成物や酸化重合性組成物がカルボキシル基を有する酸性物質の場合には、炭酸カルシウム等の塩基性顔料は使用できないが、それ以外の一般的に公知の紫外線硬化型のインキ組成物に用いられる中性又は酸性の顔料は使用できる。紫外線硬化性組成物や酸化重合性組成物がカルボキシル基を有しない中性物質の場合は、顔料に制限はなく、一般的に公知の紫外線硬化型のインキ組成物に用いられる顔料の全てが使用できる。また、一般的に公知の紫外線硬化型のインキ組成物は、紫外線を吸収し易い顔料の多量配合は困難であるが、本実施の形態の凹版印刷用インキ組成物では、酸化重合性物質の存在により未硬化のインキ皮膜内部が乾燥していくため、紫外線を吸収し易い顔料でも多量配合が可能である。
【0025】
本実施の形態の凹版印刷用インキ組成物は、紫外線硬化性組成物と酸化重合性組成物の割合で、紫外線硬化性組成物に対して酸化重合性組成物の割合を増加させることにより、紫外線硬化成分の硬化時における硬化収縮を抑制することができるため、プラスチック等の凹版印刷用インキ組成物の浸透が期待できない基材に対する密着性が向上する。
【0026】
本実施の形態の凹版印刷用インキ組成物は、光重合性二重結合を有する化合物成分を含むことにより、紫外線照射により用紙上のインキ組成物の皮膜表面が硬化し、未硬化のインキ組成物の皮膜内部は、徐々に酸化重合性組成物と酸化重合触媒によって生成するラジカルによって、光重合性二重結合を有する化合物が重合するため、インキを自然に完全乾燥することができるものである。
【0027】
さらに、本実施の形態の凹版印刷用インキ組成物は、分子間相互作用の大きいアクリレートがビヒクルの主成分を構成するため、従来の乾性油を主成分とするビヒクルからなる酸化重合型の凹版印刷用インキ組成物に比べ、インキが分離しにくく、それに伴い、印刷画線が著しくシャープになり、画線品質を向上させることができる。また、このような理由から、同じ凹版版面を用いても、従来の酸化重合型の凹版印刷用インキ組成物を使用した場合に比べ、インキの皮膜をより厚くすることが可能となる。
【0028】
また、紫外線硬化性組成物は、光重合性二重結合を有する水溶性化合物を主成分とするものであることが好ましいが、より好ましい具体例として、水性ワイピング方式の場合は、光重合性二重結合を有する水溶性化合物として、水溶性のアクリレートを使用することができる。
【0029】
さらに、より具体的には、ビスフェノールA型エポキシアクリレートの酸無水物付加アクリレート、フェノールノボラックエポキシアクリレートの酸無水物付加アクリレート又はジペンタエリスリトールペンタアクリレートの酸無水物付加アクリレート等の水酸基を有するアクリレートに酸無水物を付加させたカルボキシル基を有するアクリレートもしくは水酸基を有するウレタンアクリレートに酸無水物を付加させたカルボキシル基を有するアクリレート、更には、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリグリセリンエポキシアクリレート又はポリグリセリンポリアクリレート等の水溶性アクリレートもしくはアクリロイルモルホリンを用いることができる。前述した従来技術の特許文献2(特開2002−38065号)に記載したポリグリセリンポリアクリレートの使用は、ブロッキング防止のため、より好ましい。
【0030】
また、酸化重合性組成物は、乾性油又は乾性油から変性される液状材料が好ましいが、より好ましい具体例として、大豆油やなたね油などの半乾性油や半乾性油から変性される液状材料を用いることができる。
【0031】
また、光重合性二重結合を有する化合物を主成分とする紫外線硬化性組成物が、酸化重合性組成物に対し、三倍以下の重量部で配合されて成るものであることが好ましく、これより紫外線硬化性組成物の配合量が多くなると、印刷後のインキの硬化速度が速くなり、基材との密着性不良を引き起こす。また、一倍未満の重量部での配合した場合には、皮膜表面の紫外線硬化性が低下し裏移りを引き起こす。
【0032】
本実施の形態の凹版印刷用インキ組成物に用いられる光重合開始剤は、市販の各種光重合開始剤を利用することが可能であり、これらは単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。その使用量は、光重合開始剤の種類によって異なる。また、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル又は4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル等の光重合開始助剤を添加してもよい。
【0033】
本実施の形態の凹版印刷用インキ組成物に用いられる酸化重合触媒は、コバルト、マンガン、鉛及び鉄等の金属化合物や、ホウ酸コバルト、オクチル酸コバルト、ナフテン酸コバルト及び一酸化鉛等を使用することができる。
【0034】
重合禁止剤としては、公知の重合禁止剤を用いることができ、その添加量は、概ね100〜1500ppmであり、重合禁止剤の種類によって異なる。
【0035】
本実施の形態で得られた凹版印刷用インキ組成物を用いて、印刷物を製造する方法は、被印刷体に凹版印刷用インキ組成物を転移させることにより印刷するものであり、被印刷体としては、紙又はプラスチックシートを用いることができる。
【0036】
次に、本発明の基材に対して密着性が良い凹版インキ組成物に使用する酸化重合性組成物の製造例について、半乾性油として大豆油又は乾性油としてあまに油を用いた製造例及び比較例を示す。
【0037】
ガラス製四つ口フラスコに、大豆油880部、グリセリン174.8部、水酸化リチウム0.32部を仕込み、窒素を流しながら250℃ に昇温し、0.5時間250℃ を保持した。80 ℃ 以下に放冷後、無水フタル酸 295.26部と供沸溶媒としてキシレン200mlを加え、窒素を流しながら230℃ で5時間加熱し、流出してくる水とキシレンの供沸混合物から水だけを除去し、キシレンを反応系内に戻すようにして縮合させた。その後、230℃に加熱し、反応系内のキシレンをできるだけ除き、アルキド樹脂を得た。得られたアルキド樹脂の全酸価、半酸価は、それぞれ46.9mgKOH/gと44.1mgKOH/gであった。
【0038】
全酸価とは、未反応の酸無水物基を加水分解し生成したカルボキシル基と、縮合物中のカルボキシル基を合わせて測定した数値である。半酸価とは、未反応の酸無水物基にエタノールを反応させ生成したカルボキシル基と、縮合物中のカルボキシル基を合わせて測定した数値である。すなわち全酸価と半酸価の差が、生成物中の未反応の酸無水物基の量を示す。
【0039】
ガラス製四つ口フラスコに、あまに油880部、グリセリン174.8部、水酸化リチウム0.32部を仕込み、窒素を流しながら250℃ に昇温し、0.5時間250℃ を保持した。80 ℃ 以下に放冷後、無水フタル酸 168.7部と供沸溶媒としてキシレン200mlを加え、窒素を流しながら230℃ で5時間加熱し、流出してくる水とキシレンの供沸混合物から水だけを除去し、キシレンを反応系内に戻すようにして縮合させた。その後、230℃に加熱し、反応系内のキシレンをできるだけ除き、アルキド樹脂を得た。得られたアルキド樹脂の全酸価、半酸価は、それぞれ45.3mgKOH/gと42.7mgKOH/gであった。
【0040】
次に、前述の二種類の酸化重合成分を用いた凹版印刷用インキ組成物を下記配合例で三本ロールミルを用いて作製した。
【0041】
( 紫外線硬化性組成物)
フェノールノボラックエポキシアクリレートとテトラヒドロ無水フタル酸とポリエチレングリコール400ジアクリレートとジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートと4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を混合したもの。 配合量40.5%
( 酸化重合性組成物)
酸化重合性組成物 配合量17.5%
( 光重合開始剤)
イルガキュア369とイルガキュア907の混合物
( チバスペシャリティケミカル製) 配合量3.0%
( 酸化重合触媒)
オクチル酸コバルト 配合量1.0%
( 重合禁止剤)
メチルハイドロキノン 配合量0.04%
( 顔料)
パーマネントカーミンFB 配合量7.0%
ハンザイエローG 配合量5.0%
カーボンブラック 配合量6.0%
硫酸バリウム 配合量20.0%
【0042】
前述の酸化重合組成物を用いて作製した凹版印刷用インキ組成物で、印刷インキ組成物の浸透が期待できないプラスチックシート等の基材に対して印刷を行った。
【0043】
基材に対する密着性の評価として、紫外線硬化型組成物と酸化重合性組成物をそれぞれ80:20、75:25、70:30、65:35、60:40の割合にした凹版印刷用インキ組成物を用いて印刷物を作製し、碁盤目試験(JIS K−5600)で密着性の評価を行い、凹版印刷用インキ組成物の脱落度合いを評価した。評価結果は、図1に示す。また、印刷物のブロッキングにおいても評価も行った。評価結果は、図2に示す。
【0044】
図1の評価結果からは、酸化重合組成物の割合が増えると密着性が向上することが分かり、図2の評価結果からは紫外線硬化組成物が増えると耐ブロッキング性が向上することがわかる。
【0045】
さらに、前述の結果から、プラスチック等のインキの浸透が期待できない基材に対する密着性を向上させる酸化重合組成物としては、半乾性油に大豆油及び乾性油のあまに油の使用が可能であり、好ましくは大豆油であることがわかる。
【0046】
また、紫外線硬化成分と酸化重合成分の配合割合としては、密着性及びブロッキング試験の結果から、75:25から65:35の配合割合としたインキが良好な結果を示しており、好ましくは70:30のインキであることがわかる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内であれば適宜実施をすることができる。
【0048】
(実施例1)凹版印刷用インキ組成物の酸化重合性組成物として、半乾性油の大豆油を用いてアルキド樹脂を作製し、紫外線硬化性組成物は、フェノールノボラックエポキシアクリレートとテトラヒドロ無水フタル酸とポリエチレングリコール400ジアクリレートとジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートと4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を混合したものを、凹版印刷用インキ組成物のビヒクルとした。
【0049】
また、光重合開始剤はイルガキュア369と907、酸化重合触媒にはオクチル酸コバルトを使用し、顔料としてパーマネントカーミンFBとハンザイエローGとカーボンブラックA、体質顔料として硫酸バリウムを下記の配合表例で混ぜ合わせて、三本ロールミルを使用してインキとした。
【0050】
(凹版印刷用インキ組成物配合例)
紫外線硬化性組成物 配合量40.5%
酸化重合性組成物 配合量17.5%
光重合開始剤 配合量3.0%
酸化重合触媒 配合量1.0%
着色顔料 配合量18.0%
体質顔料 配合量20.0%
【0051】
次に、凹版印刷を行うことができる印刷機を用いて、印刷物を作製した。この時の基材は、インキの浸透が期待できないプラスチックシートのようなものでも、インキが浸透する、例えば、紙とプラスチックシートが混在しているものでもかまわない。ここでは、プラスチックシート(ポリプロピレン製)を基材に選定して印刷を施した。
【0052】
この印刷を施したプラスチックシートに対して碁盤目試験(JIS K−5600)で密着性の評価を行ったところ、基材に対する密着性が良好な結果であった。このことから、印刷インキ組成物の浸透が期待できないプラスチックシート等への基材に対して、印刷画線を施すことができるため、セキュリティレベルの高い、偽造防止印刷物を作製できることがわかる。
【0053】
(実施例2)凹版印刷用インキ組成物の酸化重合性組成物として、乾性油のあまに油を用いてアルキド樹脂を作製し、紫外線硬化性組成物は、フェノールノボラックエポキシアクリレートとテトラヒドロ無水フタル酸とポリエチレングリコール400ジアクリレートとジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートと4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を混合したものを、凹版印刷用インキ組成物のビヒクルとした。
【0054】
また、光重合開始剤はイルガキュア369と907、酸化重合触媒にはオクチル酸コバルトを使用し、顔料としてパーマネントカーミンFBとハンザイエローGとカーボンブラックA、体質顔料として硫酸バリウムを下記の配合表例で混ぜ合わせて、ビーズミルを使用してインキとした。
【0055】
(凹版印刷用インキ組成物配合例)
紫外線硬化性組成物 配合量40.5%
酸化重合性組成物 配合量17.5%
光重合開始剤 配合量3.0%
酸化重合触媒 配合量1.0%
着色顔料 配合量18.0%
体質顔料 配合量20.0%
【0056】
次に、前述の凹版インキを用いて、印刷物(1)を作製した。この印刷物(1)について図3を用いて説明する。まず、基材に凹版印刷等を含む印刷を施し、印刷物の一箇所にホログラム(2)を貼付する。この印刷物(1)のホログラム(2)貼付部分に本発明の凹版インキにより印刷画線(3)を施した。
【0057】
前述の印刷により得た実施例1及び比較例の印刷物に対する剥離試験として、ホログラム上の画線部にセロハンテープを貼り、テスター産業株式会社製の学振型堅ろう度摩擦試験機により1kgの荷重を与えた後、画線の脱落度合いを評価した。
【0058】
前述の試験を行った結果について図4、図5及び図6を用いて説明する。紫外線硬化成分と酸化重合成分の配合比率を80:20とした比較例インキにより印刷した画線(3)は、図5のように、粘着テープ(6)へ完全に剥離し、ホログラム(2)上の画線はすべて脱落した(図4)。一方、紫外線硬化成分と酸化重合成分の配合比率を70:30とした実施例1のインキにより印刷した画線(3)は、図6のように、粘着テープ(6)への画線剥離がまったく見られず、密着性が良好であった。
【0059】
前述の印刷物(1)は、紙幣をイメージした印刷物(1)であるが、現在偽造防止技術の一つであるホログラム(2)に付加価値をつけることができる。現在の日本銀行券には、ホログラムの偽造防止技術が施されているが、日本銀行券を偽造しようとした場合、アルミ箔等の光沢のあるシール類を貼り付けることで代用をすることが考えられる。
【0060】
そこで、ホログラム(2)上に本発明の凹版印刷インキ組成物を印刷(3)することで、視認性や触感性が向上し、かつ、アルミ箔等の光沢のあるシールを貼り付けるだけでは、ホログラム(2)上に印刷された触感性の高い凹版印刷(3)を再現することができないため、印刷物(1)の偽造防止力の強化につながる。
【0061】
(実施例3)凹版印刷用インキ組成物の酸化重合性組成物として、乾性油のあまに油を用いてアルキド樹脂を作製し、紫外線硬化性組成物は、フェノールノボラックエポキシアクリレートとテトラヒドロ無水フタル酸とポリエチレングリコール400ジアクリレートとジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートと4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を混合したものを、凹版印刷用インキ組成物のビヒクルとした。
【0062】
また、光重合開始剤はイルガキュア369と907、酸化重合触媒にはオクチル酸コバルトを使用し、顔料としてパーマネントカーミンFBとハンザイエローGとカーボンブラックA、体質顔料として硫酸バリウムを下記の配合表例で混ぜ合わせて、三本ロールミルを使用してインキを作製した。
【0063】
(凹版印刷用インキ組成物配合例)
紫外線硬化性組成物 配合量53.0%
酸化重合性組成物 配合量5.0%
光重合開始剤 配合量3.0%
酸化重合触媒 配合量1.0%
着色顔料 配合量18.0%
体質顔料 配合量20.0%
【0064】
次に、上記配合で作製した紫外線硬化成分と酸化重合成分の配合割合が80:20の密着性の悪い凹版印刷用インキ組成物と紫外線硬化成分と酸化重合成分の配合割合が70:30の密着性の良い凹版印刷用インキ組成物を用いた印刷物について、図7及び図8を用いて説明する。この印刷物は、前述の実施例1の密着性が良い凹版印刷用インキ組成物と、上記作製の密着性が悪い凹版印刷用インキ組成物とを、同時に用いてペアインキとし、紙とプラスチックシートが混在している梱包用の箱を印刷基材として印刷を施した。
【0065】
この梱包用の箱をガムテープ等のテープ類(6)で封をする。一度封を切ると、密着性の悪いインキ(4)はテープ側にはがれるが、密着性の良好なインキ(5)は箱側に残ることで一度開封したことがわかり、封かん紙のような開封済みを知らせる印刷物を提供することができるため、中身のすり替え等の犯罪に対して抑制効果がある。
【0066】
本発明のインキはプラスチック等の基材によって紫外線硬化成分と酸化重合成分の配合割合が異なり、基材に合わせて配合割合を変更することは容易に想定できるため、特許請求の範囲に記載されている範囲内であれば適宜実施することができ、前述の実施例になんら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】紫外線硬化性組成物と酸化重合性組成物の割合と、酸化重合性組成物の変性油二種を比較し、プラスチックシートに対する密着性を評価した図
【図2】紫外線硬化性組成物と酸化重合性組成物の割合と、酸化重合性組成物の変性油二種の印刷物におけるブロッキングの評価をした
【図3】実施例2における印刷物の概略図
【図4】比較例の印刷物におけるテープ剥離後の印刷物を示す図
【図5】比較例のインキにより印刷した印刷物のテープ剥離結果を示す図
【図6】実施例2のインキにより印刷した印刷物のテープ剥離結果を示す図
【図7】実施例3における印刷物の概略図
【図8】実施例3における剥離後の粘着テープを示す図
【符号の説明】
【0068】
1 印刷物
2 ホログラム
3 凹版印刷画線
4 密着性の悪い印刷画線
5 本発明のインキによる印刷画線
6 粘着テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線硬化性組成物、酸化重合性組成物、光重合開始剤、酸化重合触媒及び重合禁止剤を少なくとも含んで成る凹版印刷用インキ組成物であって、前記酸化重合性組成物がアルコール性水酸基と反応しエステル化する酸無水物と多価アルコールとから成り、ヨウ素化100以上の油脂類あるいはヨウ素化100以上の油脂類から変性された液状材料であり、前記紫外線硬化性組成物及び前記酸化重合性組成物の構成比が75:25〜65:35(重量%:重量%)の範囲にあることを特徴とする凹版印刷用インキ組成物。
【請求項2】
基材に、請求項1記載の前記凹版インキ組成物を用いて印刷したことを特徴とする印刷物。
【請求項3】
前記基材は、前記凹版印刷用インキ組成物の浸透性が期待できないものであることを特徴とする請求項2記載の印刷物。
【請求項4】
前記基材が、プラスチック、金属、木材、セラミックス、ガラスであるを特徴とする請求項2又は3記載の印刷物。
【請求項5】
請求項2乃至4記載の印刷物の、偽造防止印刷物及び/又は真偽判別印刷物としての使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−227702(P2009−227702A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71130(P2008−71130)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】