説明

出銑孔閉塞材

【課題】 本発明は、耐溶銑性及び耐スラグ性に優れると共に、高温押し出し抵抗が低く充填性に優れる出銑孔閉塞材の提供を課題とする。
【解決手段】 本発明の出銑孔閉塞材は、粒度が2μm以下の超微粉原料としてDBP吸油量が10ml/100g〜80ml/100gのカーボンブラックを3質量%〜10質量%とシリカ超微粉を3質量%〜10質量%の割合で共に含む耐火骨材に対して、有機バインダーを外掛けで10質量%〜17質量%の割合で配合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出銑孔閉塞材に関し、特に高炉、電気炉の出銑孔に充填され閉塞するために用いられる出銑孔閉塞材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の各種高炉は一炉で1〜4箇所の出湯口が設けられ、通常の出湯作業はこれらの出湯口を交互に使用して行われ、また、出湯口の開孔、閉塞の間隔は同一出湯口で通常数時間かけられているが、近年、高炉の大型化と高圧操業による出銑量の増大、微粉炭等の吹き込みによるコークス比の大幅な低減、稼働年数の大幅な延長等の状況の中で、出銑孔閉塞材に対する要求品質はますます厳しいものとなっている。
【0003】
このような出銑孔用閉塞材に要求される技術としては、圧入機による充填性が良好なことと高温下での結合強度が強く、耐溶銑滓に優れることが一般的に挙げられる。特に、充填性に関しては、実炉では閉塞材はマッドガンと呼ばれる圧入機によって高温の出銑孔に充填される。従って、マッドガン内はかなりの高温(60〜100℃)になっており、実際は、閉塞材の充填性の中でも高温でのスベリ性が重要となる。一般には、閉塞材に使用されているバインダーのコールタール、石油タール、レジンはその粘性に温度依存性があるため、バインダーが揮発しない温度範囲、例えば60〜100℃においては高温であるほど粘性が低下し、閉塞材も100℃以下の範囲内では高温ほどスベリ性が良く、押し出し抵抗値が60℃よりも小さくなるのが一般的である。
【0004】
特許文献1には、1μm以下のアルミナ、珪酸および炭化珪素から選ばれる少なくとも1種の超微粉を2〜30質量%含む高炉出銑口のマッド材が開示されているが、後述する比較例で説明するように、一般に、20μm以下の超微粉を10質量%以上含有する出銑孔閉塞材は、タール添加量が増大し、タール添加量が外掛けで20質量%を越えるものがあるのが現状であり、加熱後の気孔率が増大し、耐用性が低下するという問題がある。特に、1μm以下のヒュームドシリカを含むものにあっては、高温で滑り難い閉塞材となり、出銑孔充填時に充填不良となり、規定量のマッド材を出銑孔内に充填することができないために、深度低下や出銑時間の低下を招く恐れがある。
【0005】
また、カーボンブラック原料を除く炭素質原料5〜25質量%、炭化珪素5〜50質量%、窒化珪素系原料10〜45質量%、フタル酸ジブチル(DBP)吸油量が100ml/100g以下のカーボンブラック原料2〜15質量%及び耐火原料15〜75質量%よりなる粉末部100質量部に外掛けで10〜25質量部の炭素含有結合材を含む高炉出銑口閉塞材が知られている(特許文献2)が、後述する比較例で説明するように、フタル酸ジブチル(DBP)吸油量の低いカーボンブラックを含有させるにあたっても、溶損指数で示される耐食性が悪化する場合がある。
【0006】
また、3質量%以下の粘土成分と2〜20質量%のカーボンブラックよりなる高炉出銑口閉塞材が知られている(特許文献3)が、後述する比較例で説明するように、溶損指数で示される耐食性が悪化する場合がある。
【0007】
出銑孔閉塞材における粒度構成としては、1mm以上が20質量%前後、45μm未満が30質量%〜40質量%とするのが一般的であるが、2μm以下の粒度のものに関しては、特に適性値は一般化されていないのが現状である。
【特許文献1】特公昭60−9984号公報
【特許文献2】特開平10−36177号公報
【特許文献3】特開平8−119754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐溶銑性及び耐スラグ性に優れると共に、高温押し出し抵抗が低く充填性に優れる出銑孔閉塞材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の出銑孔閉塞材は、粒度が2μm以下の超微粉原料としてDBP吸油量が10ml/100g〜80ml/100gのカーボンブラックを3質量%〜10質量%とシリカ超微粉を3質量%〜10質量%の割合で共に含む耐火骨材に対して、有機バインダーを外掛けで10質量%〜17質量%の割合で配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の出銑孔閉塞材は、耐溶銑性及び耐スラグ性が共に高温押し出し抵抗が低く充填性に優れ、かつ、安定した出銑時間の延長が可能てある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
出銑孔閉塞材における耐火骨材としては、アルミナ、ロー石、炭化珪素、窒化珪素類、炭素質原料、粘土質原料、粒度が2μm以下のシリカ超微粉、及び粒度が2μm以下のDBP吸油量が10ml/100g〜80ml/100gのカーボンブラックからなる。
【0012】
アルミナ質原料としては、Al2 3 含有量が80質量%以上のボーキサイト、バン土頁岩、或いはAl2 3 含有量が95質量%以上の電融アルミナ、焼結アルミナ等を使用するとよく、耐火骨材中20質量%〜30質量%の割合で含有されるとよい。20質量%未満であると耐溶銑性が劣るという問題があり、30質量%を越えると耐スラグ性が劣るという問題がある。
【0013】
ロー石としては、耐火骨材中3質量%〜20質量%の割合で含有されるとよい。3質量%未満であると開孔難の問題があり、20質量%を越えると強度が低下するという問題がある。
【0014】
炭化珪素としては、耐火骨材中15質量%〜30質量%の割合で含有されるとよい。15質量%未満であると耐スラグ性が劣るという問題があり、30質量%を越えると耐溶銑性が劣るという問題がある。
【0015】
窒化珪素類としては、窒化珪素、窒化珪素鉄等が挙げられ、耐火骨材中20質量%〜35質量%の割合で含有されるとよい。20質量%未満であると出銑時間が低下するという問題があり、35質量%を越えると強度低下や出銑時間が低下するという問題がある。
【0016】
炭素質原料としては、炭素含有量が80質量%以上の石油コークス、石炭コークス、無煙炭等の一種又は二種以上をカーボン源として耐火骨材中10質量%〜15質量%の割合で含有されるとよい。10質量%未満であると耐スラグ性が劣るという問題があり、15質量%を越えると耐溶銑性が劣るという問題がある。
【0017】
粘土質原料としては、ボールクレー、水ひ蛙目粘土、木節粘土、セリサイトクレー等が例示される。粘土鉱物はカオリン族鉱物(主にカオリンナイト{Al2 Si2 5 (OH)4 }、ナクラナイト、ディッカイト、ハロイサイト)を含むもので、これらの鉱物構造(層構造の層間に水やタール成分を取り込むことができる)に起因する特性を有するところに重要性が存在し、単なる化学成分としてのAl2 3 やSiO2 では目的とする有機バインダーを保持する緩衝作用を発揮することができない。粘土質原料は、耐火骨材中3質量%〜10質量%、好ましくは3質量%〜6質量%の割合で含有されることにより、タールの添加量を安定化させることができる。含有量が10質量%を越えると、タール等のバインダー添加量が増大し、揮発成分の増加による気孔率の増大により長時間の出銑が困難となる。また、3質量%より少ないと、耐火骨材の粒度のバラツキによりタール添加量が変動し、均一な充填性を保持することが困難となる。
【0018】
シリカ超微粉は、粒度が2μm以下、好ましくは1μm以下のシリカフラワー等のヒュームドシリカであり、耐火骨材中3質量%〜10質量%の割合で含有されるとよい。3質量%未満であると閉塞材の保形性、および充填スベリ性を確保するために、粘土質材料を多量に添加することになり、バインダー添加量が増大することになり、高気孔率、低強度となり好ましくない。10質量%を越えると高温での充填スベリ性が著しく悪化するという問題がある。
【0019】
また、カーボンブラックとしては、粒度が2μm以下、好ましくは1μm以下であって、DBP吸油量が10ml/100g〜80ml/100gのものが好ましい。なお、DBP吸油量は、JIS K 6221で測定されるものである。DBP吸油量が80ml/100gを越えると、タール等の結合材添加量が増大し、それによって耐スラグ性が悪化するので好ましくない。
【0020】
このようなカーボンブラックは、耐火骨材中3質量%〜10質量%の割合で含有されるとよく、3質量%未満であるとシリカ微粉と同様に閉塞材のスベリ性を確保するために粘土質材料を多量に添加することとなり、好ましくない。また、10質量%を越えるとカーボンブラックが溶銑に溶けやすいために耐食性が劣り、出銑時間が低下するという問題がある。
【0021】
耐火骨材における粒度分布としては1mm〜3mmが20〜30質量%、1mm〜45μmが10〜42質量%、2μm〜45μmが30質量%〜40質量%、2μm以下が8〜20質量%とするとよい。
【0022】
本発明は、その2μm以下の粒度の微粉として、シリカ超微粉とDBP吸油量が10ml/100g〜80ml/100gのカーボンブラックの併用により、耐溶銑性及び耐スラグ性と共に高温押し出し抵抗が低く充填性に優れる出銑孔閉塞材とできることを見いだしたものである。
【0023】
本発明の出銑孔閉塞材においては、バインダーとして無水コールタールやフェノール樹脂やピッチを使用するとよく、その配合量は、耐火骨材に対して外掛けで17質量%以下とでき、好ましくは10質量%〜17質量%の割合とできる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例、比較例により、本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
下記の表1(実施例)、表2(比較例)の配合原料をその配合比で約5分間混練し、それに60℃に加熱した無水コールタールを添加し、約1時間混練を行った。
【0025】
なお、本発明における粒度は、3mm〜20μm超まではJIS Z8801で規定の3mm、1mm、20μmのふるいで分別して測定し、20μm以下は(株)島津製作所製「レーザー回折式粒度分布測定装置」を使用しで測定したものである。また、各実施例、各比較例における無水コールタールの添加量は、図1、図2に示す押し出し抵抗測定装置(マーシャル試験)により総荷重が約350kgfになるように調整した添加量である。すなわち、60℃で保温した練り土を、図1に示す形状のステンレス製試料ホルダー(L1 =9cm、L2 =6cm、L3 =26cm、L4 =12cm、L5 =2cm)に充填し、図2に示す測定装置(図中、Aは試料押し出し用面板、Bは試料ホルダー、Cは台座、Dはシリンダーヘッド)を用い、シリンダーヘッドDの押し出し速度を10mm/secとしたときの押し出し抵抗を、試料押し出し用面板Aに懸かる総荷重として測定するもので、上述したように、総荷重が約350kgfになるように、練り土中における無水コールタールの添加量を調整したものである。
【0026】
曲げ強さ及び見掛け気孔率は、約5MPaの成形圧で40mm×40mm×160mmに成形した後、1350℃で3時間還元加熱して測定用試料とし、曲げ強さはJIS R 2213により測定したものであり、また、見掛け気孔率はアルキメデス法により測定したものである。
【0027】
耐食性試験は、回転アーク炉浸食試験法により、銑鉄と高炉スラグを浸食剤として使用し、還元雰囲気下、1550℃で10時間にわたり試験した後、供試体を切断して、浸食された寸法を測定するもので、比較例1の浸食寸法を100とした時の各例の浸食寸法を指数化して溶損指数としたものである。溶損指数は小さい程、耐食性に優れることを意味する。
【0028】
また、図1、図2に示す押し出し抵抗測定装置を使用し、高温でのスベリ性の評価をした。各試料の60℃での押し出し抵抗値を100とした時の100℃での押し出し抵抗値を指数化して評価した。押し出し抵抗指数が小さいほど高温でのスベリ性が良いことを示している。
【0029】
見掛け気孔率、曲げ強さ、溶損指数、高温押し出し抵抗指数(100℃)の測定結果を同じく、表1、表2に示す。表中における組成の単位は質量%、見掛け気孔率は%、曲げ強さはMPaてある。また、使用したアルミナは、電融アルミナを使用し、コークスは石炭コークスを使用し、無水コールタールは1号を使用した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
実施例1の出銑孔閉塞材は、ヒュームドシリカを5質量%、カーボンブラック(DBP吸油量30ml/100g)を5質量%含有することにより、粒度が2μm以下の超微粉が10質量%で構成されているが、タール添加量は外掛けで16質量%と添加量の削減が可能であり、低気孔率、高強度であり優れた耐食性を示し、また、2μm以下の超微粉が多いにも係わらず、高温押し出し抵抗指数の上昇を抑えることができた。また、実施例2は、実施例1の組成において、ヒュームドシリカを3質量%としカーボンブラック(DBP吸油量30ml/100g)を7質量%に増量したが、実施例1と同程度の特性を有する出銑孔閉塞材とできた。
【0033】
比較例1は、実施例1の組成において、ヒュームドシリカを削除し、カーボンブラック(DBP吸油量30ml/100g)を10質量%とした例である。タール量は削減でき、高温押し出し抵抗指数の上昇を抑えることができるが、実施例に比して強度が低下し、また、耐食性が低下する結果となった。カーボンブラックが酸化物系原料の結合を阻害し、且つ、カーボンブラックが溶銑に溶けやすいためと考えられる。
【0034】
また、比較例6は、比較例1においてカーボンブラックを削減してヒュームドシリカを10質量%とした例である。タール量は削減できるが、耐食性が低下し、また、高温押し出し抵抗指数の上昇により出銑孔充填時に充填不良となる恐れのある出銑孔閉塞材であった。
【0035】
比較例1、比較例6から、本発明の出銑孔閉塞材においては、カーボンブラックと共にそのカーボンブラックによる酸化物系原料の結合を阻害する作用をヒュームドシリカの如く焼結助剤としても機能する超微粉を複合して添加して抑制することにより、強度と共に耐食性に優れ、また、高温押し出し抵抗指数の上昇を抑えることのできる出銑孔閉塞材となるものと考えられる。
【0036】
また、比較例2は、実施例2の組成において、カーボンブラック(DBP吸油量30ml/100g)をDBP吸油量の高いカーボンブラック(DBP吸油量110ml/100g)に変更した例である。カーボンブラックの吸油量が大きいと、タール添加量が26質量%と増大し、強度、耐食性ともに大きく低下する結果となった。カーボンブラックの使用にあたっては、DBP吸油量が10〜80ml/100g、好ましくは25〜50ml/100gのものを使用することが必要である。
【0037】
比較例3は、実施例2の組成において、カーボンブラック(DBP吸油量30ml/100g)をアルミナ系超微粉(粒度20μm以下)に変更した例である。この場合、実施例1に比較して曲げ強度は同程度とできるが、同等の充填性(押し出し性)を得るためにはタール添加量が20質量%と多く、それに伴い気孔率が高く、耐食性が低下するものとなった。
【0038】
比較例4は、実施例2の組成において、カーボンブラック(DBP吸油量30ml/100g)を炭化珪素系超微粉(粒度20μm以下)に変更した例である。この場合、実施例に比較して、同等の充填性(押し出し性)を得るためにはタール添加量が21質量%と多く、耐食性が低下した。これは炭化珪素系超微粉が溶銑に浸食されやすい為と考えられる。
【0039】
比較例5は、粒度が20μm以下の超微粉原料を含有しない場合の例である。他の比較例に比してタール添加量は少なくできるものの、実施例に比して気孔率が高く、耐食性も低下する結果となった。
【0040】
上記の実施例においては、大粒径の骨材としてアルミナ、ロー石、炭化珪素、窒化珪素類、炭素質原料等を使用したが、これに限定されるものではない。また、結合材としてコールタールを使用した例を説明したが、石油系タール、レジン系バインダー等を使用することも可能であり、上記実施例と同様の結果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】出銑孔閉塞材の押し出し抵抗圧力を測定するために使用したステンレス製試料ホルダーの形状を説明するための図である。
【図2】出銑孔閉塞材の押し出し抵抗圧力を測定するために使用した測定装置を説明するための図である。
【符号の説明】
【0042】
Aは試料押し出し用面板、Bは試料ホルダー、Cは台座、Dはシリンダーヘッドである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度が2μm以下の超微粉原料としてDBP吸油量が10ml/100g〜80ml/100gのカーボンブラックを3質量%〜10質量%とシリカ超微粉を3質量%〜10質量%の割合で共に含む耐火骨材に対して、有機バインダーを外掛けで10質量%〜17質量%の割合で配合したことを特徴とする出銑孔閉塞材。

【図1】
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【図2】
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