説明

刃先交換型切削チップおよびその製造方法

【課題】本発明の目的は、被削材の外観や表面平滑性を害することなく注意喚起機能を有効に示すことができる刃先交換型切削チップを提供することにある。
【解決手段】本発明は、本体(8)と、該本体(8)上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有する刃先交換型切削チップ(1)であって、この本体(8)は、その少なくとも1つの面がすくい面(2)となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面(3)となるとともに、そのすくい面(2)と逃げ面(3)とが交差する稜が刃先稜線(4)となり、該基層は、上記使用状態表示層と異なった色を呈し、この使用状態表示層は、上記逃げ面(3)上であって、かつ上記刃先稜線(4)に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)の全面または部分の上記基層上に形成されていることを特徴とする刃先交換型切削チップ(1)に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削加工用の切削工具に使用される刃先交換型切削チップに関する。より詳細には、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップおよびクランクシャフトのピンミーリング加工用チップ等として特に有用な刃先交換型切削チップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
旋削加工用工具やフライス加工用工具は、単数または複数の刃先交換型切削チップを備えている。図1に示したように、このような刃先交換型切削チップ1は、切削加工時において被削材5の切り屑6を持ち上げる側に存在するすくい面2と、被削材自体に対面する側に存在する逃げ面3とを有し、このすくい面2と逃げ面3とが交差する稜に相当する部分が刃先稜線4と呼ばれ、被削材を切削する中心的作用点となっている。
【0003】
このような刃先交換型切削チップは、工具寿命に達すると刃先を交換しなければならない。この場合、刃先稜線が1個のみのチップでは、そのチップ自体を交換しなければならない。しかし、複数個の刃先稜線を持つ刃先交換型切削チップは同じ座面で何回も向きを変え、すなわち、未使用の刃先稜線を切削位置に設置するようにして、別の切削位置で使用することができる。場合によっては、刃先稜線を別の座面に付け直してここで未使用の刃先稜線を利用することもできる。
【0004】
ところが切削作業現場では、刃先稜線をまだ使用していないのに刃先交換型切削チップが取り替えられたり向きを変えられたりする場合がある。これは刃先交換または刃先稜線の方向転換の際に使用済の刃先稜線か未使用の刃先稜線かが認識されないのが原因である。したがって、前述の操作は刃先稜線が未使用であるか使用済であるかを十分に確認した上で行なう必要がある。
【0005】
使用済の刃先稜線を容易に識別する方法として、逃げ面とすくい面とにおいて色を変えた刃先交換型切削チップが提案されている(特開2002−144108号公報(特許文献1))。具体的には、この刃先交換型切削チップは、本体上に減摩被膜と呼ばれる耐摩耗性の基層を形成し、逃げ面上に摩耗し易い材料からなる使用状態表示層を形成した構成を有している。
【0006】
しかしながら、このような構成を有する刃先交換型切削チップにおいては、刃先稜線が使用済か否かの注意を喚起する作用は有するものの、逃げ面上に形成された使用状態表示層が被削材と溶着しやすく、このため被削材表面に使用状態表示層が溶着したり、使用状態表示層に被削材が溶着して凹凸状態となった刃先で切削加工が施されるため、切削後の被削材の外観および表面平滑性を害するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−144108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、被削材の外観や表面平滑性を害することなく注意喚起機能を有効に示すことができる刃先交換型切削チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を鋭意研究したところ、図1に示したように刃先交換型切削チップ1の刃先稜線4が被削材5に接し、そのすくい面2が切り屑6側に位置するのに対し、逃げ面3が被削材5と対面し、その逃げ面3上の特定部位において被削材5の溶着が顕著に生じるとの知見を得、この知見に基づきさらに研究を重ねることによりついに本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、本体と、該本体上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有する刃先交換型切削チップであって、この本体は、その少なくとも1つの面がすくい面となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とが交差する稜が刃先稜線となり、該基層は、上記使用状態表示層と異なった色を呈し、この使用状態表示層は、上記逃げ面上であって、かつ上記刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)の全面または部分の上記基層上に形成されていることを特徴とする刃先交換型切削チップに係る。
【0011】
ここで、上記領域(A1)および上記すくい面は、上記基層が表面に露出しており、かつその露出している基層を構成する少なくとも一層は、上記領域(A1)または上記すくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において圧縮残留応力を有していることが好ましく、その圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることがこのましい。
【0012】
また、上記領域(A1)の面粗度RaをAμm、上記領域(A2)の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bとすることが好ましい。また、上記刃先交換型切削チップは、複数の刃先稜線を有することができる。
【0013】
また、上記使用状態表示層は、前記基層に比し、摩耗し易い層とすることができ、上記基層は、その最外層がAl23層またはAl23を含む層で構成されることが好ましい。
【0014】
また、上記使用状態表示層は、その最外層が元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Fe、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(元素)またはその金属を含む合金によって形成されるか、または元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される層で構成されることが好ましい。
【0015】
また、上記本体は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化硅素焼結体、または酸化アルミニウムと炭化チタンとからなる混合体のいずれかにより構成することができる。
【0016】
また、上記刃先交換型切削チップは、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップのいずれかとすることができる。
【0017】
また、本発明は、本体と、該本体上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有する刃先交換型切削チップの製造方法であって、上記本体上に基層を形成するステップと、上記基層上に上記基層と異なる色の使用状態表示層を形成するステップと、上記本体の逃げ面上であって、かつ刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を少なくとも含む領域とすくい面とに対して、そこに形成されている上記使用状態表示層を除去するステップと、を含むものとすることができる。
【0018】
このような本発明に係る刃先交換型切削チップは、上述のように単数個または複数個の逃げ面と、単数個または複数個のすくい面とを有し、すくい面に形成された層の色(すなわち基層の色)と異なる色の使用状態表示層を逃げ面の特定部位に備えている。
【0019】
この場合、使用状態表示層は上記基層となるべく大きな色コントラストが生じるようにされる。逃げ面の特定部位に形成されたこの使用状態表示層は、刃先交換型切削チップをなるべく短い時間たとえば数秒〜数分間切削作業した後に明瞭な加工痕を示し、少なくとも部分的に摩滅して、色の異なる下地(基層)が見えるようになる性質を有するようにする。可能な実施形態では使用状態表示層は耐摩耗性に乏しく、それどころか比較的摩滅し易く、たとえば、下地(基層)への付着力が弱くなっているものが好ましい。
【0020】
一方、この使用状態表示層は、刃先交換型切削チップが使用されると直ちに変色するようになっているものでもよい。さらに、この使用状態表示層は、切屑が付着したり、切削油等が付着することにより、変色(あたかも変色したかのような外観を与える場合を含む)するものであっても良い。
【0021】
さらにまたはその代わりに、当該隣接する刃先稜線がすでに使用されたことを表示するために、使用状態表示層は別様に色変化するものとすることもできる。たとえば、使用状態表示層は、200℃を超える温度で刃先稜線の近傍だけが変色する感熱性のものであってもよい。そして、変色は酸化その他の変化に基づくもので、不可逆的であることが望ましい。隣接する刃先稜線が短時間だけ使用された時でも、この刃先稜線に隣接する逃げ面の上記特定部位が少なくとも短時間所定の温度を超えると、使用状態表示層が変色し、それが持続的にはっきり認識される。熱の作用による変色は、使用中に被削材と直接接触する部位のみではなく使用された刃先稜線に隣接している逃げ面でも変色するので使用済の刃先稜線を容易に識別できるという利点がある。
【0022】
上記の使用状態表示層に加工痕または変色が生じているか否かによって、刃先交換型切削チップがすでに使用されたか、どの刃先稜線が未使用であるかを簡単かつ容易に識別することができる。すなわち、上記使用状態表示層は注意喚起機能を持つものである。これにより、刃先交換型切削チップを適宜に交換しまたはその向きを適宜に変えることができる。特にすでに使用済の刃先交換型切削チップを交換しなければいけないのにそれに気が付かなかったり、未使用の刃先交換型切削チップを使用せずに新しいものに交換してしまったり、刃先交換型切削チップの向きを変えるときにすでに使用済の刃先稜線を切削位置に設定してしまったり、または未使用の刃先稜線を使用せずに未使用のままにしてしまったりすることが回避される。従って、本発明に係る刃先交換型切削チップによって当該切削工具の保守が大幅に簡素化される。
【0023】
そして本発明の刃先交換型切削チップは、このような注意喚起機能を発揮するだけではなく、使用状態表示層が逃げ面の特定部位のみに限って形成されていることから、従来技術が有していたような切削加工後の被削材の外観および表面平滑性を害するという問題を一掃したという顕著な作用効果を備えたものである。従来の注意喚起機能を備えた刃先交換型切削チップは、使用状態表示層が刃先稜線およびその近傍に形成されていたため、これが被削材に溶着し、切削加工後の被削材の外観を害し、またその表面面粗度をも劣化させる。加えて切削抵抗が増加することで刃先が欠損する場合もある。このため、被削材の種類や用途が限定されるのみならず、このような刃先交換型切削チップを用いて切削できない場合もあった。本発明は、このような問題点を悉く解決したものであり、その産業上の利用性は極めて大きいものである。
【0024】
ここで、このような使用状態表示層は淡色に、たとえば、黄色または黄色味がかった光沢(たとえば金色)を有するように形成し、すくい面(基層)は黒ずんだ色に形成することが望ましい。たとえば、すくい面(基層)は酸化アルミニウム(Al23)またはこれを含んだ被膜にすることが望ましい。また、このAl23層の上にも下にも別の層を設けても良い。
【0025】
こうして本発明の刃先交換型切削チップを多重に形成することができ、その際Al23層は耐摩耗層となる。本発明でいう耐摩耗層とは、切削加工使用時において刃先の耐摩耗性を高め、これにより工具寿命の延長や切削速度を高める機能を持った被膜をいう。
【0026】
一方、このような耐摩耗層は、さらに補助表面層を保持してもよい。また、Al23層の代わりに、同じまたは更によりよい性質を有する耐摩耗層を設けることもできる。
【0027】
本発明に係る刃先交換型切削チップを製造するために、まず、本体の全面に対して、耐摩耗層としてAl23層を含む被膜を基層として形成する。そして、一番上の層としてたとえば窒化物層(たとえばTiN)を使用状態表示層として形成することができる。この窒化物層は基層の全面を覆うように形成してからすくい面および逃げ面の特定部位から除去するようにするとよい。
【0028】
特に使用状態表示層として使用する窒化物層は、逃げ面上であって、かつ上記刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)から取り除かれている必要がある。これはいかなる方法で実施しても良いが、たとえば機械的除去、より具体的には、ブラシ操作、バレル操作、またはブラスト加工(サンドブラスト)等で行なうことができる。
【0029】
ブラシまたはブラスト加工操作は同時に刃先稜線の後処理をも行なうことになって、それによって刃先稜線が平滑化される。このことは被削材に対する溶着を減少させ、刃先交換型切削チップの寿命の向上にも寄与する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の刃先交換型切削チップは、上述の通りの構成を有することにより、被削材の外観や表面平滑性を害することなく注意喚起機能を有効に示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を模式的に示した概略図である。
【図2】使用前の本発明の刃先交換型切削チップの一実施形態の概略斜視図である。
【図3】1つの刃先稜線を使用した後の本発明の刃先交換型切削チップの概略斜視図である。
【図4】2つの刃先稜線を使用した後の本発明の刃先交換型切削チップの概略斜視図である。
【図5】刃先交換型切削チップの刃先稜線部の拡大断面図である。
【図6】使用状態表示層が逃げ面の全面に形成された刃先交換型切削チップの断面図である。
【図7】使用状態表示層がすくい面の全面に形成された刃先交換型切削チップの断面図である。
【図8】刃先交換型切削チップの鋭角コーナー部の1つを示す概略平面図である。
【図9】図8のIX−IX線の概略断面図である。
【図10】刃先交換型切削チップのコーナー部の1つを示す概略平面図である。
【図11】図10のXI−XI線の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。また、各図面はあくまでも説明用の模式的なものであって、コーティングの膜厚と本体とのサイズ比やコーナーのアール(R)のサイズ比は実際のものとは異なっている。
【0033】
<刃先交換型切削チップおよび本体>
本発明の刃先交換型切削チップは、本体と、該本体上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有するものである。図2に上面が正方形の形状として形成された刃先交換型切削チップ1が示されている。刃先交換型切削チップ1はこのように本体8を有するものであるが、この本体8はたとえば超硬合金製のものが好ましい。たとえば、焼結炭化タングステンまたはその他の超硬合金材料により構成することができる。また、本体8をセラミック材料で形成することも可能である。
【0034】
このように、本体を構成する材料としては、このような刃先交換型切削チップの本体(基材)として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができ、たとえば超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭窒化物を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウムなど)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化硅素焼結体、または酸化アルミニウムと炭化チタンとからなる混合体等を挙げることができる。また、これらの本体(基材)は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていても良く、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
【0035】
また、本体8の形状は、たとえば多面体とすることができる。この多面体は、たとえば図2に示したように少なくとも底面、複数の側面および上面を有する形状を含むことができるが、このような形状のみに限られるものではなく、あらゆる形状の多面体が含まれる。そして、この本体8の上記各面の少なくとも1つの面が後述のすくい面となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とが交差する稜が刃先稜線となる。
【0036】
なお、本発明の刃先交換型切削チップには、チップブレーカが形成されているものと、チップブレーカが形成されていないものとの両者が含まれる。また、本発明の刃先交換型切削チップにおいては、刃先交換型切削チップ1を工具に取り付ける固定孔として使用される貫通孔7が、上面と底面を貫通するように形成されていても良い。必要に応じ、この固定孔の他にまたはその代わりに、別の固定手段を設けることもできる。
【0037】
このような本発明の刃先交換型切削チップは、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップおよびクランクシャフトのピンミーリング加工用チップとして特に有用である。
【0038】
<すくい面、逃げ面および刃先稜線>
上記本体8は、その少なくとも1つの面がすくい面2となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面3となるとともに、そのすくい面2と逃げ面3とが交差する稜が刃先稜線4となる。本発明の刃先交換型切削チップ1は、このような刃先稜線4を複数有していることが好ましい。1つの刃先稜線の使用後において、刃先交換型切削チップ自体を交換する手間を低減することができるからである。なお、本願でいうすくい面および逃げ面とは、刃先交換型切削チップの表面に位置する面だけではなく、本体の表面や基層、使用状態表示層等の各層の表面や内部等に位置する相当の面をも含む概念である。
【0039】
上記刃先稜線4は、被削材を切削する中心的作用点を構成する。図2等では刃先稜線4は直線状に形成されているが、これのみに限られるものではなくたとえば円周状のものや波打ち状のものも含まれる。なお、このような刃先稜線は、面取り加工および/またはコーナーのアール(R)付与加工等の刃先処理加工を施すことができるが、このような刃先処理加工等により刃先稜線が明瞭な稜を構成しなくなった場合には、そのような刃先処理加工等がされたすくい面および逃げ面に対して刃先処理加工等がされる前の状態を想定してそれぞれの面を幾何学的に延長させることにより双方の面が交差する稜を仮定的な稜と定め、その仮定的に定められた稜を刃先稜線とするものとする。
【0040】
また図2においては、すくい面2は平坦な面として示されている。必要に応じ、すくい面は他の構造、たとえばチップブレーカ等を有していてもよい。同じことが逃げ面3にも当てはまる。また、逃げ面3は図2において平坦な面として示されているが、必要に応じ、(複数の面区域に区分する)面取りをしまたは別の仕方で平坦な面と異なる形状や曲面にしたり、チップブレーカを設けた形状にすることもできる。
【0041】
必要に応じ、刃先稜線4は、直線形状と異なる湾曲または屈折した形状に形成することができる。また、図5より明らかなように、たとえば刃先稜線は上述のように面取り加工および/またはコーナーのアール(R)付与加工等の刃先処理加工が施されていても良い。
【0042】
<基層>
上記の本体8上に形成される基層12は、後述の使用状態表示層13とは異なった色を呈するものである。刃先交換型切削チップ1に施したコーティング11の構造を図5に示す。すくい面2と逃げ面3とに延びる基層12がコーティング11に含まれる。このように本体8は、その表面に基層12が形成されており、このような基層12は、少なくとも上記すくい面2に形成することができ、さらに上記すくい面2および上記逃げ面3に形成することもできる。すなわち、基層12は本体8の全面に形成することが特に好ましい。
【0043】
より具体的には、このような基層12は、後述の使用状態表示層13との関係で領域(A1)およびすくい面2において表面に露出したものとなる。すなわち、使用状態表示層13が形成されていない部位においては基層12が表面となるものである。
【0044】
そして、このような基層12は、その露出している領域において基層12を構成する少なくとも一層が、上記領域(A1)またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において圧縮残留応力を有していることが好ましい。このような構成とすることにより、靭性が付与され刃先の欠損を極めて有効に防止することができる。なお、すくい面の切削に関与する領域とは、刃先交換型切削チップの形状、被削材の種類や大きさ、切削加工の態様等により異なるものであるが、通常被削材が接触する(または最接近する)刃先稜線からすくい面側に3mmの幅を有して広がった領域を意味するものとする。
【0045】
また、上記領域(A1)またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部と規定したのは、そのような領域の全域において圧縮残留応力が付与されていることが好ましいが、種々の事情により、そのような領域の一部において圧縮残留応力が付与されていないという態様をも含む趣旨である。
【0046】
ここで、圧縮残留応力とは、コーティング(被覆層)に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「−」(マイナス)の数値(単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう。このため、圧縮残留応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを示し、また、圧縮残留応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを示す。因みに、引張残留応力とは、被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「+」(プラス)の数値で表される応力をいう。なお、単に残留応力という場合は、圧縮残留応力と引張残留応力との両者を含むものとする。
【0047】
そして、基層12が有する上記圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。その絶対値が0.1GPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が8GPaを越えると被覆層自体が剥離することがあり好ましくない。
【0048】
また、そのような圧縮残留応力は、その領域における基層を構成する少なくとも一層によって有されていれば良いが、より好ましくは少なくとも基層の最外層を構成する層によって有されていることが好適である。耐欠損性の向上に最も寄与すると考えられるからである。
【0049】
なお、上記残留応力は、いかなる方法を用いて測定しても良いが、たとえばX線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。そしてこのような残留応力は基層中の上記圧縮残留応力が付与される領域に含まれる任意の点10点(これらの各点は当該層の該領域の応力を代表できるように互いに0.1mm以上の距離を離して選択することが好ましい)の応力を該sin2ψ法により測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0050】
このようなX線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられているものであり、たとえば「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜66頁に詳細に説明されている方法を用いれば良い。
【0051】
また、上記残留応力は、ラマン分光法を用いた方法を利用することにより測定することも可能である。このようなラマン分光法は、狭い範囲、たとえばスポット径1μmといった局所的な測定ができるというメリットを有している。このようなラマン分光法を用いた残留応力の測定は、一般的なものであるがたとえば「薄膜の力学的特性評価技術」(サイぺック、1992年発行)の264〜271頁に記載の方法を採用することができる。
【0052】
さらに、上記残留応力は、放射光を用いて測定することもできる。この場合、基層(被覆層)の厚み方向で残留応力の分布を求めることができるというメリットがある。
【0053】
なお、このような基層12は、公知の化学的蒸着法(CVD法)、物理的蒸着法(PVD法)、またはスパッタリング法等により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。たとえば、刃先交換型切削チップ1がドリルやエンドミルとして用いられる場合、基層は抗折力を低下させることなく形成できるPVD法により形成するのが好ましい。また、基層の膜厚の制御は、成膜時間により調整を行なうと良い。
【0054】
また、公知のCVD法を用いて基層を形成する場合には、MT−CVD(medium temperature CVD)法により形成された層を備えることが好ましい。特にその方法により形成した耐摩耗性に優れる炭窒化チタン(TiCN)層を備えることが最適である。従来のCVD法は、約1020〜1030℃で成膜を行なうのに対して、MT−CVD法は約850〜950℃という比較的低温で行なうことができるため、成膜の際加熱による本体のダメージを低減することができる。したがって、MT−CVD法により形成した層は、本体に近接させて備えることがより好ましい。また、成膜の際に使用するガスは、ニトリル系のガス、特にアセトニトリル(CH3CN)を用いると量産性に優れて好ましい。なお、上記のようなMT−CVD法により形成される層と、HT−CVD(high temperature CVD、上記でいう従来のCVD)法により形成される層とを積層させた複層構造のものとすることにより、これらの被覆層の層間の密着力が向上する場合があり、好ましい場合がある。
【0055】
一方、基層12に対して上記のような圧縮残留応力を付与する方法は、特に限定されるものではなく、たとえば基層12がCVD法により形成される場合には、その形成後においてその基層の圧縮残留応力を付与する領域に対してブラスト法による処理を施すことにより圧縮残留応力を付与することができる。なお、このブラスト法により処理する領域は、上記領域(上記領域(A1)またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域)を越えてより広い領域に対して処理することもできる。一方、基層12がPVD法により形成される場合には、形成時において既に圧縮残留応力が付与された状態となるのであえて上記のような処理を施す必要はない。
【0056】
このように、基層12に圧縮残留応力を付与する方法は、基層12自体をPVD法により形成する方法も挙げられるが、基層12と本体8との密着性を考慮すると基層12自体をCVD法で形成し、ブラスト法による処理により圧縮残留応力を付与することが特に好ましい。
【0057】
なお、このようなブラスト法による処理は、基層12を形成した後に行なうことができるが、基層12上に後述の使用状態表示層13を形成し、上記領域(A1)またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域からこの使用状態表示層13を除去する操作を兼ねて行なうこともできる。このような処理方法を採用することにより、刃先交換型切削チップの生産効率が向上するため好ましい。なお、この場合、使用状態表示層13を残存させる部位には、治具等によりマスキングすることが好ましい。
【0058】
ここで、上記ブラスト法とは、以下の(1)〜(3)等の方法により、被処理物表面の被膜、錆、汚れ等の除去を行なう表面処理方法の一種であり、多くの産業分野で利用されているものである。
(1)各種研磨材の粒子を、圧縮空気で被処理物の表面に吹き付ける。
(2)各種研磨材の粒子を、回転翼により被処理物の表面に連続して投射する。
(3)各種研磨材の粒子を含有する液体(水)を、高圧で被処理物の表面に吹き付ける。
【0059】
上記各種研磨材の粒子の種類としては、たとえばスチールグリッド、スチールショット、カットワイヤー、アルミナ、ガラスビーズ、珪砂等が一般的であり、これらの粒子の種類によりサンドブラスト、ショットブラスト、アルミナブラスト、ガラスビーズブラストなどと呼び分けられることもある。
【0060】
たとえば、サンドブラストとは、珪砂(粉)等の研磨材粒子を圧縮空気等により被処理物の表面に吹き付ける方法を示し、ショットブラストとは、スチールショット(通常は球状)を用いる方法を示す。また、ウェットブラストとは、研磨材の粒子を含有する液体(水)を、高圧で被処理物の表面に吹き付ける方法を示す。
【0061】
このようなブラスト法の具体的条件は、用いる研磨材粒子(砥粒)の種類や適用方法により異なり、たとえばブラスト処理用金属系研磨材はJIS Z0311:1996に規定されており、ブラスト処理用非金属系研磨材はJIS Z0312:1996に規定されている。また、ショットブラストについては、JIS B6614:1998にその詳細が規定されている。本発明のブラスト法による処理方法としては、これらの条件をいずれも採用することができる。
【0062】
なお、基層12に圧縮残留応力を付与する方法は、上記のようなブラスト法を採用することができる他、ブラシ法、ショットピーニング法、バレル法、イオン注入法等を採用することもできる。
【0063】
一方、このような基層12は複数の層を積層して構成することもでき、また耐摩耗層としての作用を示すものとすることが好ましい。基層12としては、元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物により形成することができ、優れた性能が示される。
【0064】
たとえば、基層12は、そのような化合物としてAl3層であるかこれを含むことができる。本体8の上にまずTiN層を形成し、その上にTiCN層を形成し、この上にAl23層を形成することもできる。この3層系は全体として基層12を構成し、耐摩耗層としての作用を示す。
【0065】
このように、基層12が複数の層を積層して構成される場合は、その最外層がAl23層またはAl23を含む層で構成されることが特に好ましい。Al23層またはAl23を含む層は、耐摩耗層として優れるとともに黒ずんだ色(正確にはそれ自身が黒色を呈するものではなく下地の色の影響を受けやすいものであるが、本願では単に黒色と表現することもある)を呈するため、その上に形成される使用状態表示層との間で特に顕著なコントラストを形成することができるからである。
【0066】
そして、このAl23層またはAl23を含む層は、上記領域(A1)またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域において表面に露出し、その領域の少なくとも一部において圧縮残留応力を有していることが特に好ましい。これにより、耐欠損性に最も関与する部位において耐摩耗性と靭性とを高度に両立させることができるからである。この点、上記領域(A1)およびすくい面の切削に関与する領域の全域において圧縮残留応力を有していることがより好ましい。なお、上記圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が8GPaを越えると該層自体が剥離することがあり好ましくない。なお、上記でいうAl23層またはAl23を含む層を構成するAl23は、その結晶構造は特に限定されず、α−Al23、κ−Al23、γ−Al23またはアモルファス状態のAl23が含まれるとともに、これらが混在した状態も含まれる。またAl23を含む層とは、その層の一部として少なくともAl23を含んでいること(50質量%以上含まれていればAl23を含むものとみなす)を意味し、その残部は基層を構成する他の化合物や、ZrO2、Y23(アルミナにZrやYが添加されたとみることもできる)等によって構成することができ、また塩素、炭素、ホウ素、窒素等を含んでいても良い。
【0067】
また、このような基層12を構成する化合物の具体例としては、上記のAl3以外に(あるいはAl3とともに)使用できるものとして、たとえばTiCN、TiN、TiCNO、TiBN、ZrO2、AlN等を挙げることができる。たとえば、基層12として、本体8の全面にまず厚み数μmのTiN層を形成し、その上に厚み数μmのTiCN層を形成し、さらにその上に厚み数μmのAl3層(またはAl3を含む層)を形成したものを好適な例としてあげることができ、耐摩耗層としての作用を示す。
【0068】
そしてさらに好適な例としては、Al23層またはAl23を含む層の下層として、Tiと、窒素、酸素、またはホウ素のいずれか1種以上の元素とからなる化合物で構成される層を形成させる態様である。このような構成とすることにより、Al23層またはAl23を含む層とその下層との間で特に優れた密着性を得ることができ、さらに優れた耐摩耗性を得ることが可能となる。このような化合物のより具体的な例としては、TiN、TiBN、TiBNO、TiCNO等を挙げることができる。また、これら以外の好適な化合物として、AlONやAlCNO等の化合物を挙げることもできる。
【0069】
このように基層12として耐摩耗層を採用することにより、当該刃先交換型切削チップの工具寿命は飛躍的に延長される。加えて、切削速度を高める等のより過酷な使用環境にも耐えうる機能を発揮するという利点を有し、これを少なくともすくい面、または逃げ面およびすくい面の両者に形成することにより、この利点をより有効に享受することができる。
【0070】
このような基層12の厚みは、0.05μm以上20μm以下であることが好ましい。厚みが0.05μm未満では耐摩耗性の向上が見られず、逆に20μmを超えても大きな耐摩耗性の改善が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは20μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、たとえば刃先交換型切削チップを切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
【0071】
<使用状態表示層>
本発明の使用状態表示層は、たとえば図2や図5に示したように、上記逃げ面上であって、かつ上記刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)の全面または部分の上記基層上に形成されていることを特徴としている。本発明者の研究によれば、刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)において被削材の溶着が顕著に生じることが判明した。本発明は、この領域(A1)以外の領域(A2)の全面または部分に使用状態表示層を選択的に形成することにより被削材の溶着を有効に防止し、以って切削加工後の被削材の外観および表面平滑性が阻害されることを防止しつつ注意喚起機能を付与せしめたという優れた効果を発揮するものである。
【0072】
刃先稜線に対して垂直方向の距離が0.2mm未満では、被削材の溶着が生じるため上記のような優れた効果が示されなくなる。またその距離が3.0mmを超えると、切削条件等にもよるが切削による使用状態表示層の変色効果が十分に示されなくなることがある。好ましくは、前記距離の下限は、刃先交換型切削チップの厚みが2mm〜8mmの場合、0.3mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上である。また、その上限は、刃先交換型切削チップの厚みが2mm〜8mmの場合、好ましくは2.5mm未満であり、より好ましくは2.0mm未満である。これらの距離は、このような範囲内において、適宜刃先交換型切削チップの大きさに応じて選択することが好ましい。
【0073】
たとえば図5に示したようにコーティング11は、逃げ面3上であって、かつ上記刃先稜線4に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)の全面または部分の上記基層12上に形成された使用状態表示層13を有している。このような使用状態表示層は、公知の化学的蒸着法、物理的蒸着法、真空蒸着法、めっき法またはスパッタリング法等により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。
【0074】
なお、上記において「領域(A2)の全面または部分」と規定したのは、刃先稜線の一部のみが切削に関与するような場合においては、その切削に関与する部分に近接した部分にのみ使用状態表示層を配置させるだけで注意喚起機能は達成され、必ずしも上記領域(A2)の全面を覆うように、あえて大面積を占める使用状態表示層を形成させる必要はないためである。したがって、このような使用状態表示層は、上記領域(A2)の全面に対して形成される場合だけではなく、その一部分のみに形成される場合が含まれる。
【0075】
また、上記0.2mm以上3.0mm未満という距離は、平均値を示すものとする。なぜなら、工業的に製造する場合、この距離を一定に保つこと(すなわち、領域(A1)のどの部分においても正確に同一の数値とすること)は困難だからである。ここで該平均値は、該領域(A1)に含まれる任意の領域を選択し、その領域の単位長さ(刃先稜線に対して平行方向に1mmとする)あたりの面積をその単位長さで除した値とする。
【0076】
また、当該使用状態表示層が形成されている部分(該領域(A2))と形成されていない部分(該領域(A1))との境界は、当該境界の近傍部を電子顕微鏡で観察することにより、単位面積(100μm×100μm)に占める使用状態表示層の面積が80%以上となる場合に使用状態表示層が形成されているものとみなすものとする。
【0077】
本実施の形態では、使用状態表示層13は黄色または黄銅色(金色)の外観を呈する窒化チタン層である。これに対して、その下層の基層12はAl23(基層中の最上層)による黒色または黒ずんだ色である。なお、このような使用状態表示層13は、上記基層12に比し摩耗し易い層であることが好ましい。切削加工時に削除されやすく、下層の基層13が露出することにより、その部分が使用されていることを容易に表示することができるからである。また、上記の領域(A2)以外に形成された使用状態表示層を除去することにより刃先交換型切削チップ自体を製造することを容易化することにもつながる。
【0078】
このように使用状態表示層13は、上記基層と異なる色を呈するものであり、上記のような特定部位に形成することにより、結果的に逃げ面の一部はすくい面との間で大きな色コントラストが生じるようにされる。なぜならすくい面の表面には、上述の通り、通常、耐摩耗層としての基層12が形成されるからである。
【0079】
そして、このように使用状態表示層13が逃げ面3上であって、かつ上記刃先稜線4に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)の全面または部分の上記基層12上に形成されることにより、切削加工時においてこの使用状態表示層13が被削材に溶着し、被削材の外観および表面平滑性を害することがなく、以ってこのようなデメリットを伴うことなく注意喚起機能を示すことができる。
【0080】
ここで、このような使用状態表示層13は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Fe、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(元素)またはその金属を含む合金によって形成されるか、または元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される1または2以上の層である。これらはいずれも鮮やかな色彩を有し、工業的にも容易に製造することができるため好ましい。
【0081】
そして、このような使用状態表示層は、その最外層が元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Fe、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、または元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される層で構成されることが特に好ましい。当該化合物は、黄色、ピンク色、黄銅色、金色等特に鮮やかな色を呈し、意匠性に優れるとともに基層との間で明瞭なコントラストを形成することができるからである。なお、使用状態表示層が一層のみで形成される場合にはその層が最外層となる。
【0082】
このような使用状態表示層は、より具体的には本実施の形態で用いられているTiNの他、たとえばZrN、TiCN、TiSiCN、TiCNO、VN、Cr等の元素または化合物により形成することができる。
【0083】
また使用状態表示層13は、強力な耐摩耗性の改善の機能を持つものでなく(すなわち摩耗し易い層であることが好ましく)、かつ比較的薄い厚みを有する。好ましい厚みは0.05μm以上2μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。0.05μm未満では、所定部位に均一に被覆することが工業的に困難となり、このためその外観に色ムラが発生し外観を害することがある。また、2μmを超えても使用状態表示層としての機能に大差なく、却って経済的に不利となる。この厚みの測定方法としては、上記基層と同様の測定方法を採用することができる。
【0084】
なお、使用状態表示層13は、圧縮残留応力を有するものとすることができる。これにより、刃先交換型切削チップの靭性向上に寄与することができる。上記圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。その絶対値が0.1GPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が8GPaを越えると使用状態表示層自体が剥離することがあり好ましくない。
【0085】
<逃げ面およびすくい面の面粗度Ra>
本発明の上記領域(A1)は、被削材の溶着を阻止するために平滑なものとすることが特に好ましい。このような表面平滑性は、上記領域(A1)の表面を機械的処理、たとえば、ブラシ操作またはブラスト加工(サンドブラスト)を行なうことにより得ることができる。このような機械的処理は、通常基層上に形成された使用状態表示層を除去する場合に行なわれるが、上記領域(A1)の表面に対して独立した処理操作として行なうことも可能である。なお、上記平滑性は、このような機械的処理だけではなく、たとえば化学的処理や物理的処理によっても得ることができる。
【0086】
そして本発明者の研究によれば、上記領域(A1)の面粗度RaをAμm、上記領域(A2)の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bという関係が成立する場合に特に良好な耐被削材溶着性が得られることが認められている。より好ましくは、0.8>A/B、さらに好ましくは0.6>A/Bである。
【0087】
ここで上記面粗度Raは、表面粗さを表す数値の一種であり、中心線平均値と呼ばれるものである。その測定方法は特に限定されるものではなく、公知の測定方法がいずれも採用できる。たとえば、接触法(たとえば触針法等)であっても、非接触法(たとえばレーザー顕微鏡法等)であってもよく、またあるいは刃先交換型切削チップの断面を顕微鏡で直接観察する方法であってもよい。
【0088】
<刃先交換型切削チップの製造方法>
本発明の刃先交換型切削チップの製造方法は、本体と、該本体上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有する刃先交換型切削チップの製造方法であって、該本体上に基層を形成するステップと、該基層上に該基層と異なる色の使用状態表示層を形成するステップと、該本体の逃げ面上であって、かつ刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を少なくとも含む領域とすくい面とに対して、そこに形成されている上記使用状態表示層を除去するステップと、を含むことを特徴とするものである。これにより、極めて生産効率良く刃先交換型切削チップを製造することができる。
【0089】
このように使用状態表示層13は、刃先交換型切削チップ1の製造の際に一旦基層12の上に形成されるが、その後該逃げ面上の刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)とすくい面とから取り除かれる。これにより、逃げ面の一部とすくい面との間で、上記のような大きな色コントラストを持った刃先交換型切削チップを製造することができる。
【0090】
上記のように使用状態表示層13を除去する方法としては、化学的方法、物理的方法および機械的方法のいずれをも採用することができる。好ましくは、ブラシ掛けまたはその他の摩滅による除去、たとえばサンドブラストによる除去(ブラスト加工)などの物理的または機械的方法を採用することができる。
【0091】
さらに本発明の刃先交換型切削チップの製造方法は、上記領域(A1)に対して、平滑性処理を施すステップ(上記使用状態表示層を除去するステップと同時に行なわれる場合を含む)を含むことができる。上記領域(A1)の面粗度RaをAμm、上記領域(A2)の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bという関係が成立するように、このような平滑性処理を施すことが好ましい。これにより、切削加工後の被削材の外観および表面平滑性を担保することが可能となるからである。
【0092】
このような平滑性処理としては、化学的方法、物理的方法および機械的方法のいずれをも採用することができる。好ましくは、ブラシ掛けまたはその他の摩滅による方法、たとえばサンドブラストによる研磨(ブラスト加工)などの物理的または機械的方法を採用することができる。
【0093】
<作用等>
以上述べた刃先交換型切削チップ1は、図2に示すように未使用状態では無傷のままである逃げ面3を有する。特に逃げ面3上の刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)の全面または部分はなお元の使用状態表示層13の色を有し、それによって刃先稜線4が未使用であることを示す。たとえば、その領域(A2)の全面または部分がTiNでコーティングされている場合は、この領域(A2)の使用状態表示層13の部分は、未使用状態では輝く黄銅色(金色)になっている。これに対して上記領域(A1)とすくい面2とは基層12であるAl23からなり刃先交換型切削チップの代表的な比較的黒ずんだ色またはほぼ黒色の外観を呈する。
【0094】
以下の説明のために、刃先交換型切削チップ1は切削工具の工具本体に取付けられており、複数の刃先稜線4のうちのいずれか一の刃先稜線が有効刃先稜線を成す場合を考える。切削工具が使用されると直ちにその一の刃先稜線4が被削材5に接触し、被削材5を切削加工し始める。特に、その刃先稜線4とすくい面2の区域では基層12により刃先交換型切削チップ1の摩耗は少ない。
【0095】
ところが、刃先稜線4による切削が開始すると、この刃先稜線4に隣接する区域(逃げ面3上の刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2))の使用状態表示層13が変色して、逃げ面3のうちこの領域(A2)に比較的大きな初期変化を生じる。変色した区域では使用状態表示層13とは別の色になり、場合によってはこれより遙かに黒ずんだ基層12が見えるようになる。
【0096】
このため、図3に示すように刃先稜線4に続いて黒ずんで変色した変色区域9が生じる。この変色区域9は直ちにかつ容易に識別され、注意喚起機能を示す。この変色は、上記のように基層12が露出することにより生じるものの他、熱に原因する変化、たとえば、酸化現象の結果起こるものであっても良い。
【0097】
たとえば、図3に示したようにこの刃先稜線4に隣接する区域(逃げ面3上の刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2))の使用状態表示層13が、焼もどし色を呈することによって、ここに変色区域9が形成される。これは刃先稜線4による被削材の切削加工の結果起こる刃先稜線近傍の温度上昇に由来する場合もある。
【0098】
刃先交換型切削チップ1を長時間の使用の後(切削位置を変更させた後)においては、逃げ面3は図4に示す外観を呈するようになるが、最初の数分の切削作業の後に早くも図3に示す外観に達するから、たとえば一の刃先稜線4は既に使用されたが、別の刃先稜線4はまだ全く未使用であることを取扱者は一見して確認することができる。この別の刃先稜線4が初めて使用されると、図4に示す外観を呈する。この場合、この別の刃先稜線4に隣接する区域(逃げ面3上の刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2))の使用状態表示層13が変色し、変色区域10を生じることによりこの別の刃先稜線4が使用されたことを示す。
【0099】
なお、図2〜4に示されている刃先交換型切削チップ1は、4個の使用可能な刃先稜線4を有するスローアウェイ刃先交換型切削チップである。この複数の刃先稜線4の内のどれが既に使用され、どれがまだ使用されていないかが使用状態表示層13の色によって一目で分かる。従って、このような刃先交換型切削チップを装備した切削工具の保守は特に簡単に行なうことができる。
【0100】
上述のように、刃先交換型切削チップ1には、基層12と使用状態表示層13から成る複合のコーティング11が施されている(図5)。なお、使用状態表示層は単数個または複数個の逃げ面の特定部位に形成されるが、たとえばISO規格SNGN120408等のような一般的な刃先交換型切削チップでは側面が逃げ面となり、「縦使い」等と呼ばれる前者以外の例外的な刃先交換型切削チップでは上面または底面が逃げ面となる。
【0101】
使用状態表示層13は、隣接する刃先稜線4を短時間でも使用するとこの使用状態表示層13に明瞭な痕跡が残って、この使用状態表示層13が変色乃至は変質する。このように使用状態表示層13は非常に敏感であるから、その下にある別色の層または材料が見えるようになることがある。このようにして使用状態表示層13の作用により、明瞭な色コントラストまたは明るさコントラストが生じ、使用した刃先稜線を直ちに簡単に識別することができる。逃げ面の特定部位(刃先稜線に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2))にこのように摩擦的に不利かもしれないコーティングを施すことにより、被削材の外観および表面平滑性を害することがないため、この領域(A2)を使用状態表示面として利用することが特に有利であることが判明した。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0103】
<実施例1>
87質量%のWC、2.5質量%のTaC、1.0質量%のNbC、2.0質量%のTiCおよび7.5質量%のCoからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1400℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先処理を行なうことにより、ISO型番CNMG120408の形状の超硬合金製チップを作製し、これを本体とした。この本体は、その少なくとも1つの面がすくい面となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とが交差する稜(ただし刃先処理加工がされているので仮定的な稜)が刃先稜線となるものであった。なお、この本体の表面には、脱β層は形成されていなかった。
【0104】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.4μmのTiN、4.8μmのTiCN(MT−CVD)、1.3μmのαアルミナ(Al23)そして最外層として0.4μmのTiNをコーティングした(総膜厚6.9μm)。このコーティング(コーティングNo.1とする)において、0.4μmのTiN(本体表面側のもの)と4.8μmのTiCNと1.3μmのαアルミナ(Al23)が基層であり、最外層の0.4μmのTiNが使用状態表示層である。
【0105】
以下同様にして、このコーティングNo.1に代えて下記の表1に記載したコーティングNo.2〜6をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0106】
【表1】

【0107】
上記表1において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。また各層は、コーティングNo.6のCr層を除き、全て公知の熱CVD法により形成した。該Cr層はスパッタリング法により形成した。
【0108】
そしてこれらのコーティングを施した本体に対して、公知のブラスト法を用いて次の7種類の処理方法A〜Gを各々実施した。なお、各処理方法において使用状態表示層を残したい部位には、治具を用いてマスキングを行なった。
【0109】
(処理方法A)
コーティングに対してブラスト法による処理を行なわなかった。したがって、本体の表面は、全面において使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈した。
【0110】
(処理方法B)
コーティングに対して、すくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、刃先稜線を含む逃げ面の全面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、すくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図6参照。なお、図6では使用状態表示層3がすくい面に回り込むことなくその手前で止まっているが、すくい面まで回り込むように形成される場合も本処理方法の態様に含まれる)。
【0111】
(処理方法C)
コーティングに対して、刃先稜線を含む逃げ面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、すくい面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、刃先稜線を含む逃げ面全面は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図7参照。なお、図7では使用状態表示層3が逃げ面に回り込むことなくその手前で止まっているが、逃げ面まで回り込むように形成される場合も本処理方法の態様に含まれる)。
【0112】
(処理方法D)
コーティングに対して、逃げ面上の刃先稜線に対して垂直方向に0.5〜0.8mmの距離をもって広がった領域(A1)とすくい面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、逃げ面上であって、かつ刃先稜線に対して垂直方向に0.5〜0.8mmの距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の刃先稜線に対して垂直方向に0.5〜0.8mmの距離をもって広がった領域(A1)とすくい面(刃先稜線を含む)とは基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。なお、上記距離0.5〜0.8mmは平均値を示すものであるが、この平均値をこのように範囲をもって表示したのは、マスキングはできる限り高精度に行なったがブラストの回り込み等によりその距離を一定に保つことは困難であり誤差を排除できなかったためである。
【0113】
(処理方法E)
コーティングに対して、逃げ面上の刃先稜線に対して垂直方向に0.2〜0.5mmの距離をもって広がった領域(A1)とすくい面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、逃げ面上であって、かつ刃先稜線に対して垂直方向に0.2〜0.5mmの距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の刃先稜線に対して垂直方向に0.2〜0.5mmの距離をもって広がった領域(A1)とすくい面(刃先稜線を含む)とは基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した。なお、上記距離に対して0.2〜0.5mmと範囲をもって表示したのは、上記処理方法Dと同じ理由による。
【0114】
(処理方法F)
コーティングに対して、逃げ面上の刃先稜線に対して垂直方向に0.4〜2.8mmの距離をもって広がった領域(A1)とすくい面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、逃げ面上であって、かつ刃先稜線に対して垂直方向に0.4〜2.8mmの距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の刃先稜線に対して垂直方向に0.4〜2.8mmの距離をもって広がった領域(A1)とすくい面(刃先稜線を含む)とは基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した。なお、上記距離に対して0.4〜2.8mmと範囲をもって表示したのは、上記処理方法Dと同じ理由による。
【0115】
(処理方法G)
コーティングに対して、本体表面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、本体表面の全面(すくい面および逃げ面の両面)は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した。
【0116】
このようにして、以下の表2および表3に記載した42種類の刃先交換型切削チップNo.1〜No.42を製造した。No.4、5、6、11、12、13、18、19、20、25、26、27、32、33、34、39、40および41が本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。
【0117】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.1〜42について、下記条件で旋削切削試験を行ない、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。その結果を以下の表2および表3に示す。被削材の面粗度(Rz)は、小さい数値のもの程、平滑性が良好であることを示し、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。
【0118】
(旋削切削試験の条件)
被削材:SCM415
切削速度:110m/min
送り:0.14mm/rev.
切込み:1.0mm
切削油:無し
切削時間:40分
【0119】
【表2】

【0120】
【表3】

【0121】
表2および表3中、「*」の印を付したものが本発明の実施例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNとZrNが金色であり、TiCNはピンク色であり、Crは銀色である。
【0122】
表2および表3より明らかなように、本発明の実施例である刃先交換型切削チップNo.4、5、6、11、12、13、18、19、20、25、26、27、32、33、34、39、40および41は、刃先稜線の使用状態の判別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり被削材の面粗度にも優れるものであった。なお、上記領域(A1)の面粗度RaをAμm、上記領域(A2)の面粗度RaをBμmとした場合、これらの本発明の実施例の刃先交換型切削チップではすべて0.8>A/Bであった(測定方法は後述のNo.4についてのものと同様とした)。
【0123】
これに対して、刃先交換型切削チップNo.1、2、8、9、15、16、22、23、29、30、36および37は、刃先稜線の使用状態の判別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁し、被削材の面粗度も劣っていた。また、刃先交換型切削チップNo.3、10、17、24、31および38は、上記刃先交換型切削チップNo.1、2、8、9、15、16、22、23、29、30、36および37と比較すれば相当程度被削材の溶着量は低減されていたが、すくい面において若干の溶着があった。刃先交換型切削チップNo.7、14、21、28、35および42は、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先稜線の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。
【0124】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。なお、本実施例は、チップブレーカが形成されていない刃先交換型切削チップの場合について示したが、チップブレーカが形成されている刃先交換型切削チップに対しても有効である。
【0125】
一方、上記で製造した刃先交換型切削チップNo.4と同様の製造方法において、上記領域(A1)に対してブラストの程度を変えてブラスト法による処理を実施し、上記領域(A1)の面粗度Raと上記領域(A2)の面粗度Raとを表4のものとする本発明の刃先交換型切削チップNo.4−2、No.4−3およびNo.4−4を製造した。なお、面粗度Raはレーザー顕微鏡により測定した。測定箇所は、上記領域(A1)については刃先稜線からの距離が領域(A1)の幅の1/2となる地点(すなわち領域(A1)の中央部)とし、上記領域(A2)については刃先稜線からの距離が逃げ面の幅の1/2となる地点(すなわち領域(A2)の中央部)とし、測定距離は100μmとした。
【0126】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.4、No.4−2、No.4−3およびNo.4−4について上記と同条件による旋削切削試験を行ない、被削材の面粗度Rzを上記と同様にして測定した。その結果を表4に示す。
【0127】
【表4】

【0128】
表4より明らかなように、上記領域(A1)の面粗度RaをAμm、上記領域(A2)の面粗度RaをBμmとした場合、A/Bの値が小さくなる程被削材の面粗度Rzはより良好なものとなった。
【0129】
これらの結果より、刃先交換型切削チップにおいて被削材との間で溶着現象を抑制し、被削材の外観が阻害されることを防止するためには、上記領域(A1)の面粗度RaをAμm、上記領域(A2)の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bとすることが有効であり、このA/B値をさらに小さくして、0.8>A/B、さらに0.6>A/Bとすることがより有効となる。
【0130】
<実施例2>
刃先交換型切削チップの本体の形状をISO型番SPGN120408とすることを除き、他は実施例1と同様にして本体を得た。
【0131】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.4μmのTiN、2.9μmのTiCN(MT−CVD)、1.2μmのαアルミナ(Al23)そして最外層として0.5μmのTiNをコーティングした(総膜厚5.0μm)。このコーティング(コーティングNo.7とする)において、0.4μmのTiN(本体表面側のもの)と2.9μmのTiCNと1.2μmのαアルミナ(Al23)が基層(黒色)であり、最外層の0.5μmのTiNが使用状態表示層(金色)である。
【0132】
以下同様にして、このコーティングNo.7に代えて下記の表5に記載したコーティングNo.8〜12をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0133】
【表5】

【0134】
上記表5において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。またコーティングNo.8〜9は、コーティングNo.7と同様、全て公知の熱CVD法により形成した。コーティングNo.10〜12については、公知のPVD法により形成した。
【0135】
そして、このコーティングを施した本体のそれぞれに対して、実施例1と同じ処理方法A〜Gを各々実施することにより、以下の表6および表7に記載した42種類の刃先交換型切削チップNo.43〜No.84を製造した。No.46、47、48、53、54、55、60、61、62、67、68、69、74、75、76、81、82および83が本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。
【0136】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.43〜84について、下記条件でフライス切削試験を行ない、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。その結果を以下の表6および表7に示す。被削材の面粗度(Rz)は、小さい数値のもの程、平滑性が良好であることを示し、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。なお、このフライス切削試験は、カッターとしてDPG4160R(住友電工ハードメタル(株)製)を用い、このカッターに刃先交換型切削チップを1枚だけ取り付けて行なった。このため、カッター1回転当りの送りと、一刃当りの送りは一致するものであった。
【0137】
(フライス切削試験の条件)
被削材:FC250
切削速度:160m/min
送り:0.28mm/rev.
切込み:1.0mm
切削油:無し
切削距離:12m
【0138】
【表6】

【0139】
【表7】

【0140】
表6および表7中、「*」の印を付したものが本発明の実施例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNが金色であり、TiCNはピンク色である。
【0141】
表6および表7より明らかなように、本発明の実施例である刃先交換型切削チップNo.46、47、48、53、54、55、60、61、62、67、68、69、74、75、76、81、82および83は、刃先稜線の使用状態の判別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり被削材の面粗度にも優れるものであった。なお、上記領域(A1)の面粗度RaをAμm、上記領域(A2)の面粗度RaをBμmとした場合、これらの本発明の実施例の刃先交換型切削チップではすべて0.8>A/Bであった(測定方法は実施例1と同様とした)。
【0142】
これに対して、刃先交換型切削チップNo.43、44、50、51、57、58、64、65、71、72、78および79は、刃先稜線の使用状態の判別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁し、被削材の面粗度も劣っていた。また、刃先交換型切削チップNo.45、52、59、66、73および80は、上記刃先交換型切削チップNo.43、44、50、51、57、58、64、65、71、72、78および79と比較すれば相当程度被削材の溶着量は低減されていたが、すくい面において若干の溶着があった。刃先交換型切削チップNo.49、56、63、70、77および84は、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先稜線の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。
【0143】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。
【0144】
<実施例3>
89.5質量%のWC、2.0質量%のTiC、1.5質量%のTaCおよび7.0質量%のCoからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1400℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、切削チップCNMG120408N−UX(住友電工ハードメタル(株)製)の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを本体とした。この本体は、表面に脱β層が13μm形成されており、2つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計8つ存在した。
【0145】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.3μmのTiN、4.0μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、2.4μmのαアルミナ(α−Al23)そして最外層として0.3μmのTiNをコーティングした。このコーティング(コーティングNo.13とする)において、0.3μmのTiN(本体表面側のもの)と4.0μmのTiCNと2.4μmのαアルミナ(α−Al23)が基層であり、最外層の0.3μmのTiNが使用状態表示層である。
【0146】
以下同様にして、このコーティングNo.13に代えて下記の表8に記載したコーティングNo.14〜17をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0147】
【表8】

【0148】
上記表8において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。また各層は、全て公知の熱CVD法により形成した(MT−CVDの表示のあるものはMT−CVD法(成膜温度900℃)により形成し、HT−CVDの表示のあるものはHT−CVD法(成膜温度1000℃)により形成した)。
【0149】
そしてこれらのコーティングを施した本体に対して、公知のブラスト法(研磨材粒子:アルミナサンド120番(平均粒径100μm)、圧力:0.3MPa)を用いて次の6種類の処理方法H〜Mを各々実施した。なお、各処理方法において使用状態表示層を残したい部位には、治具を用いてマスキングを行なった。
【0150】
(処理方法H)
コーティングに対してブラスト法による処理を行なわなかった。したがって、本体の表面は、全面において使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はTiNの色である金色)を呈した。
【0151】
(処理方法I)
コーティングに対して、刃先稜線を含むすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、刃先稜線を含む逃げ面の全面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はTiNの色である金色)を呈し、すくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図6参照。なお、図6では使用状態表示層13がすくい面2に回り込むことなくその手前で止まっているが、すくい面2まで回り込むように形成される場合も本処理方法の態様に含まれる)。
【0152】
(処理方法J)
コーティングに対して、刃先稜線を含む逃げ面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、すくい面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はTiNの色である金色)を呈し、刃先稜線を含む逃げ面全面は基層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図7参照。なお、図7では使用状態表示層13が逃げ面3に回り込むことなくその手前で止まっているが、逃げ面3まで回り込むように形成される場合も本処理方法の態様に含まれる)。
【0153】
(処理方法K)
コーティングに対して、逃げ面上であって、刃先稜線から0.4〜0.9mmの距離をもって広がった領域(A1)、およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、逃げ面上であって、かつ刃先稜線から0.4〜0.9mmの距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上であって、刃先稜線から0.4〜0.9mmの距離をもって広がった領域(A1)およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。なお、上記距離0.4〜0.9mmは平均値を示すものであるが、この平均値をこのように範囲をもって表示したのは、マスキングはできる限り高精度に行なったがブラストの回り込み等によりその距離を一定に保つことは困難であり誤差を排除できなかったためである。因みに、図8は本実施例の刃先交換型切削チップの鋭角コーナー部の1つを示す概略平面図であるが、この図8の矢印xで示した部位の紙面の裏側鉛直方向に延びる部位(すなわち鋭角コーナー部を2等分した逃げ面側の中央部位、以下R/2部位という)における上記領域(A1)の距離は0.6mmであった。なお、このようなR/2部位はコーナー毎に複数存在するが、その全てのR/2部位において上記領域(A1)の距離が各々完全に同一となるものではなく、上記の数値はそのうちの一つのR/2部位の数値を示すものである(以下の処理方法L、Q、Rにおいて同様の意味を示す)。
【0154】
(処理方法L)
コーティングに対して、逃げ面上であって、刃先稜線から0.3〜1.0mmの距離をもって広がった領域(A1)、およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、逃げ面上であって、かつ刃先稜線から0.3〜1.0mmの距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上であって、刃先稜線から0.3〜1.0mmの距離をもって広がった領域(A1)およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。なお、上記距離0.3〜1.0mmは平均値を示すものであるが、この平均値をこのように範囲をもって表示したのは、上記処理方法Kと同じ理由による。因みに、R/2部位における上記領域(A1)の距離は0.5mmであった。
【0155】
(処理方法M)
コーティングに対して、本体表面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、本体表面の全面(すくい面および逃げ面の両面)は基層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はAl23の色である黒色)を呈した。
【0156】
このようにして、以下の表9〜表10に記載した30種類の刃先交換型切削チップNo.101〜No.130を製造した。No.104、105、110、111、116、117、122、123、128および129が本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。
【0157】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.101〜130について、下記条件で連続旋削切削試験を行ない、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。また、1分切削後(実施例1および2においては切削試験終了後の状態を観察乃至測定したが本実施例では切削開始1分後の状態を観察した)の刃先への被削材の溶着状態、被削材加工面の状態、および刃先稜線の使用状態の識別性をそれぞれ観察した。その結果を以下の表9〜表10に示す。なお、被削材の面粗度(Rz;JIS B0601:2001)は、小さい数値のもの程、平滑性が良好であることを示し、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。また、刃先への被削材の溶着量が多い程、被削材の面粗度が悪化することを示し、被削材加工面の状態は鏡面に近い程、良好であることを示している。
【0158】
(連続旋削切削試験の条件)
被削材:SCM435丸棒
切削速度:200m/min
送り:0.21mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:有り(水溶性油)
切削時間:20分
【0159】
【表9】

【0160】
【表10】

【0161】
表9〜表10中、「*」の印を付したものが本発明の実施例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNが金色であり、TiCNはピンク色である。また、残留応力は、図8のスポットB(スポットサイズ:直径0.5mm)で示される領域(当該領域はコーナーに近接する領域であって、図8のIX−IX断面である図9に示されているようにチップブレーカを構成する傾斜角16°の傾斜平坦面の一部である)に対して図9の矢印で示した垂直方向(傾斜平坦面に対する)から測定したものである(具体的測定方法は、上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法を採用した)。なお、この測定領域は、すくい面の切削に関与する領域であり、実施例のもの(処理方法KおよびL)はいずれもその領域において基層が表面に露出しており、その基層の最上層の残留応力を測定したものである。これに対し、各比較例のものはそれぞれ該当する最外層の残留応力を測定したものである。また、この測定領域は各コーナー毎に同等領域が存在するが、そのうちの任意の一のものを選択して測定した。
【0162】
表9〜表10より明らかなように、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、刃先稜線の使用状態の識別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり被削材の面粗度にも優れるものであった。
【0163】
これに対して、刃先交換型切削チップNo.101、102、107、108、113、114、119、120、125および126は、刃先稜線の使用状態の識別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁し、被削材の面粗度も劣っていた。また、刃先交換型切削チップNo.103、109、115、121および127は、上記刃先交換型切削チップNo.101、102、107、108、113、114、119、120、125および126と比較すれば相当程度被削材の溶着量は低減されていたが、すくい面において若干の溶着があった。刃先交換型切削チップNo.106、112、118、124および130は、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先稜線の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。
【0164】
一方、上記で製造した刃先交換型切削チップNo.104と同様の製造方法において、上記領域(A1)およびすくい面に対してブラストの処理条件(処理時間およびワーク(刃先交換型切削チップ)とノズルとの距離)を変えることにより異なったブラスト法による処理を実施したり、あるいはブラスト法に代えてブラシ法(#800のSiCブラシ使用)による処理を実施することにより、No.104−2〜No.104−7の刃先交換型切削チップを得た。すなわち、これらの刃先交換型切削チップNo.104およびNo.104−2〜No.104−7は、上記領域(A1)およびすくい面において異なった残留応力を有している。なお、この残留応力は、すくい面においては上記図8のスポットBと同領域を同様にして測定した。また、領域(A1)の残留応力については、処理幅(刃先稜線からの距離)が0.5mm以上となる地点を10箇所選択して、直径0.5mmのスポットサイズでその最外層(すなわち基層の最上層であるα−Al23層)に対して測定してその平均値を求めることにより算出した。
【0165】
また同様にして、刃先交換型切削チップNo.123についても、上記領域(A1)およびすくい面において異なった残留応力を付与した、以下の表11に示す刃先交換型切削チップ(No.123−2〜No.123−7)を得た。
【0166】
そして、これらの刃先交換型切削チップ(No.104とNo.123を含む)および比較用として刃先交換型切削チップNo.101およびNo.119について(これらのNo.101、104、119、123についても上記のNo.104−2等と同様にして残留応力を測定した)、上記と同条件による連続旋削切削試験を行ない逃げ面摩耗量を測定するとともに、以下の条件による断続旋削切削試験を行ない刃先の欠損率を測定した(この欠損率は、20切れ刃について試験を実施し、刃先欠損が生じているコーナー数を20切れ刃に対する百分率で示したものである)。それらの結果を以下の表11に示す。この欠損率が低いもの程、靭性(耐欠損性)に優れていることを示している。
【0167】
(断続旋削切削試験の条件)
被削材:SCM440(4本溝入り丸棒)
切削速度:120m/min
切込み:2.0mm
送り:0.40mm/rev.
切削油:無し
切削時間:1分
【0168】
【表11】

【0169】
表11より明らかなように、上記領域(A1)またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において、基層を構成する少なくとも一層が圧縮残留応力を有すると優れた靭性が示されることが分かる。しかも、この圧縮残留応力が大きくなる程より優れた靭性が示されるとともに、上記領域(A1)およびすくい面の切削に関与する領域の両方において圧縮残留応力が付与される場合にもより優れた靭性が示されることが分かる。
【0170】
なお、表11中「*」の印を付したものが実施例であるが、各実施例のものは刃先に被削材が溶着することもなく、また被削材表面も良好な光沢を示すものであったのに対して、各比較例は刃先への被削材の溶着が顕著であり、被削材加工面も全く光沢を有しなかった。因みに、各比較例の残留応力は、当該測定領域に存在する最外層である使用状態表示層の残留応力を示している。
【0171】
また、刃先交換型切削チップNo.104−2、104−6、123−2、123−6は、逃げ面摩耗量の低減、被削材の溶着防止あるいは被削材加工面の光沢向上には効果を有したが、靭性を大幅に改善することはできなかった。すなわち、刃先交換型切削チップの刃先靭性の向上は、被削材の溶着を防止することによってもある程度の効果を得ることは可能であるが、上記のような刃先の特定部位に圧縮残留応力を付与することにより刃先の靭性を飛躍的に向上できることが明らかとなった。
【0172】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。なお、本実施例は、チップブレーカが形成されている刃先交換型切削チップの場合について示したが、チップブレーカが形成されていない刃先交換型切削チップに対しても有効である。
【0173】
<実施例4>
91.5質量%のWC、0.3質量%のTaC、0.2質量%のCr32および8.0質量%のCoからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1400℃、1時間焼結し、その後刃先稜線部に対してSiCブラシホーニング処理により刃先処理(すくい面と逃げ面との交差部に対して半径が約0.05mmのアール(R)を付与したもの)をすることにより、切削チップSEMT13T3AGSN−G(住友電工ハードメタル(株)製)の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを本体とした。この本体は、表面に脱β層が形成されておらず、1つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計4つ存在した。
【0174】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.4μmのTiN、3.0μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、2.1μmのαアルミナ(α−Al23)そして最外層として0.3μmのTiNをコーティングした。このコーティング(コーティングNo.18とする)において、0.4μmのTiN(本体表面側のもの)と3.0μmのTiCNと2.1μmのαアルミナ(α−Al23)が基層(黒色)であり、最外層の0.3μmのTiNが使用状態表示層(金色)である。
【0175】
以下同様にして、このコーティングNo.18に代えて下記の表12に記載したコーティングNo.19〜22をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0176】
【表12】

【0177】
上記表12において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。またコーティングNo.19〜22は、コーティングNo.18と同様、全て公知の熱CVD法により形成した。
【0178】
そしてこれらのコーティングを施した本体に対して、公知のブラスト法(研磨材粒子:アルミナサンド120番(平均粒径100μm)、圧力:0.3MPa)を用いて次の6種類の処理方法N〜Sを各々実施した。なお、各処理方法において使用状態表示層を残したい部位には、治具を用いてマスキングを行なった。
【0179】
(処理方法N)
コーティングに対してブラスト法による処理を行なわなかった。したがって、本体の表面は、全面において使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はTiNの色である金色)を呈した。
【0180】
(処理方法O)
コーティングに対して、刃先稜線を含むすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、刃先稜線を含む逃げ面の全面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はTiNの色である金色)を呈し、すくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図6参照。なお、図6では使用状態表示層13がすくい面2に回り込むことなくその手前で止まっているが、すくい面2まで回り込むように形成される場合も本処理方法の態様に含まれる)。
【0181】
(処理方法P)
コーティングに対して、刃先稜線を含む逃げ面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、すくい面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はTiNの色である金色)を呈し、刃先稜線を含む逃げ面全面は基層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図7参照。なお、図7では使用状態表示層13が逃げ面3に回り込むことなくその手前で止まっているが、逃げ面3まで回り込むように形成される場合も本処理方法の態様に含まれる)。
【0182】
(処理方法Q)
コーティングに対して、逃げ面上であって、刃先稜線から0.4〜0.8mmの距離をもって広がった領域(A1)、およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、逃げ面上であって、かつ刃先稜線から0.4〜0.8mmの距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上であって、刃先稜線から0.4〜0.8mmの距離をもって広がった領域(A1)およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。なお、上記距離0.4〜0.8mmは平均値を示すものであるが、この平均値をこのように範囲をもって表示したのは、上記処理方法Kと同じ理由による。因みに、R/2部位における上記領域(A1)の距離は0.5mmであった。
【0183】
(処理方法R)
コーティングに対して、逃げ面上であって、刃先稜線から0.3〜1.2mmの距離をもって広がった領域(A1)、およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、逃げ面上であって、かつ刃先稜線から0.3〜1.2mmの距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上であって、刃先稜線から0.3〜1.2mmの距離をもって広がった領域(A1)およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。なお、上記距離0.3〜1.2mmは平均値を示すものであるが、この平均値をこのように範囲をもって表示したのは、上記処理方法Kと同じ理由による。因みに、R/2部位における上記領域(A1)の距離は0.6mmであった。
【0184】
(処理方法S)
コーティングに対して、本体表面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、本体表面の全面(すくい面および逃げ面の両面)は基層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はAl23の色である黒色)を呈した。
【0185】
このようにして、以下の表13および表14に記載した30種類の刃先交換型切削チップNo.131〜No.160を製造した。No.134、135、140、141、146、147、152、153、158および159が本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。
【0186】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.131〜160について、下記条件でフライス切削試験を行ない、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。また、0.1m切削後の刃先への被削材の溶着状態、被削材加工面の状態、および刃先稜線の使用状態の識別性をそれぞれ観察した。その結果を以下の表13および表14に示す。被削材の面粗度(Rz;JIS B0601:2001)は、小さい数値のもの程、平滑性が良好であることを示し、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。また、刃先への被削材の溶着量が多い程、被削材の面粗度が悪化することを示し、被削材加工面の状態は鏡面に近い程良好であることを示している。
【0187】
(フライス切削試験の条件)
被削材:SKD11ブロック材
切削速度:150m/min
送り:0.16mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:無し
切削長:1m
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル(株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取り付け数は1枚とした
【0188】
【表13】

【0189】
【表14】

【0190】
表13〜表14中、「*」の印を付したものが本発明の実施例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNが金色であり、TiCNはピンク色である。また、残留応力は、図10のスポットC(スポットサイズ:直径0.5mm)で示される領域(当該領域はコーナーに近接する領域であって、図10のXI−XI断面である図11に示されているようにチップブレーカを構成する傾斜角20°の傾斜平坦面の一部である)に対して図11の矢印で示した垂直方向(傾斜平坦面に対する)から測定したものである(具体的測定方法は、上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法を採用した)。なお、この測定領域は、すくい面の切削に関与する領域であり、実施例のもの(処理方法QおよびR)はいずれもその領域において基層が表面に露出しており、その基層の最上層の残留応力を測定したものである。これに対し、各比較例のものはそれぞれ該当する最外層の残留応力を測定したものである。また、この測定領域は各コーナー毎に同等領域が存在するが、そのうちの任意の一のものを選択して測定した。
【0191】
表13〜表14より明らかなように、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、刃先稜線の使用状態の識別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり被削材の面粗度にも優れるものであった。
【0192】
これに対して、刃先交換型切削チップNo.131、132、137、138、143、144、149、150、155および156は、刃先稜線の使用状態の識別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁し、被削材の面粗度も劣っていた。また、刃先交換型切削チップNo.133、139、145、151および157は、上記刃先交換型切削チップNo.131、132、137、138、143、144、149、150、155および156と比較すれば相当程度被削材の溶着量は低減されていたが、すくい面において若干の溶着があった。刃先交換型切削チップNo.136、142、148、154および160は、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先稜線の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。
【0193】
一方、上記で製造した刃先交換型切削チップNo.152と同様の製造方法において、上記領域(A1)およびすくい面に対してブラストの処理条件(処理時間およびワーク(刃先交換型切削チップ)とノズルとの距離)を変えることにより異なったブラスト法による処理を実施したり、あるいはブラスト法に代えてブラシ法(#800のSiCブラシ使用)による処理を実施することにより、No.152−2〜No.152−7の刃先交換型切削チップを得た。すなわち、これらの刃先交換型切削チップNo.152およびNo.152−2〜No.152−7は、上記領域(A1)およびすくい面において異なった残留応力を有している。なお、この残留応力は、すくい面においては上記図10のスポットCと同領域を同様にして測定した。また、領域(A1)の残留応力については、処理幅(刃先稜線からの距離)が0.5mm以上となる地点を10箇所選択して、直径0.5mmのスポットサイズでその最外層(すなわち基層の最上層であるκ−Al23層)に対して測定してその平均値を求めることにより算出した。
【0194】
また同様にして、刃先交換型切削チップNo.159についても、上記領域(A1)およびすくい面において異なった残留応力を付与した、以下の表15に示す刃先交換型切削チップ(No.159−2〜No.159−7)を得た。
【0195】
そして、これらの刃先交換型切削チップ(No.152とNo.159を含む)および比較用として刃先交換型切削チップNo.149およびNo.155について(これらのNo.149、152、155、159についても上記のNo.152−2等と同様にして残留応力を測定した)、上記と同条件によるフライス切削試験(耐摩耗性に関するもの)を行ない逃げ面摩耗量を測定するとともに、以下の条件によるフライス切削試験(靭性に関するもの)を行ない刃先の欠損率を測定した(この欠損率は、20切れ刃について試験を実施し、刃先欠損が生じているコーナー数を20切れ刃に対する百分率で示したものである)。それらの結果を以下の表15に示す。この欠損率が低いもの程、靭性(耐欠損性)に優れていることを示している。
【0196】
(フライス切削試験の条件)・・・靭性に関するもの
被削材:SCM435(ブロック材3枚重ね)
切削速度:170m/min
切込み:2.0mm
送り:0.40mm/rev.
切削油:無し
切削距離:0.5m
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル(株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取り付け数は1枚とした
【0197】
【表15】

【0198】
表15より明らかなように、上記領域(A1)またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において、基層を構成する少なくとも一層が圧縮残留応力を有すると優れた靭性が示されることが分かる。しかも、この圧縮残留応力が大きくなる程より優れた靭性が示されるとともに、上記領域(A1)およびすくい面の切削に関与する領域の両方において圧縮残留応力が付与される場合にもより優れた靭性が示されることが分かる。
【0199】
なお、表15中「*」の印を付したものが実施例であるが、各実施例のものは刃先に被削材が溶着することもなく、また被削材表面も良好な光沢を示すものであったのに対して、各比較例は刃先への被削材の溶着が顕著であり、被削材加工面も全く光沢を有しなかった。因みに、各比較例の残留応力は、当該測定領域に存在する最外層である使用状態表示層の残留応力を示している。
【0200】
また、刃先交換型切削チップNo.152−2、152−6、159−2、159−6は、逃げ面摩耗量の低減、被削材の溶着防止あるいは被削材加工面の光沢向上には効果を有したが、靭性を大幅に改善することはできなかった。すなわち、刃先交換型切削チップの刃先靭性の向上は、被削材の溶着を防止することによってもある程度の効果を得ることは可能であるが、上記のような刃先の特定部位に圧縮残留応力を付与することにより刃先の靭性を飛躍的に向上できることが明らかとなった。
【0201】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。なお、本実施例は、チップブレーカが形成されている刃先交換型切削チップの場合について示したが、チップブレーカが形成されていない刃先交換型切削チップに対しても有効である。
【0202】
なお、上記の各実施例は、旋削加工用およびフライス加工用の刃先交換型切削チップについて示したが、ドリル加工用刃先交換型切削チップ、エンドミル加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー加工用刃先交換型切削チップ、歯切工具加工用刃先交換型切削チップ、リーマ加工用刃先交換型切削チップ、タップ加工用刃先交換型切削チップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用刃先交換型切削チップ等についても勿論適用可能であり、本発明の効果は示される。
【0203】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0204】
1 刃先交換型切削チップ、2 すくい面、3 逃げ面、4 刃先稜線、5 被削材、6 切り屑、7 貫通孔、8 本体、9,10 変色区域、11 コーティング、12 基層、13 使用状態表示層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(8)と、該本体(8)上に形成された基層(12)と、該基層(12)上の部分に形成された使用状態表示層(13)とを有する刃先交換型切削チップ(1)であって、
前記本体(8)は、その少なくとも1つの面がすくい面(2)となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面(3)となるとともに、そのすくい面(2)と逃げ面(3)とが交差する稜が刃先稜線(4)となり、
前記基層(12)は、前記使用状態表示層(13)と異なった色を呈し、
前記使用状態表示層(13)は、前記逃げ面(3)上であって、かつ前記刃先稜線(4)に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を除く領域(A2)の全面または部分の前記基層(12)上に形成されていることを特徴とする刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項2】
前記領域(A1)および前記すくい面(2)は、前記基層(12)が表面に露出しており、かつその露出している前記基層(12)を構成する少なくとも一層は、前記領域(A1)または前記すくい面(3)の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において圧縮残留応力を有していることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項3】
前記圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることを特徴とする請求項2記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項4】
前記領域(A1)の面粗度RaをAμm、前記領域(A2)の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bとなることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項5】
前記刃先交換型切削チップ(1)は、複数の刃先稜線(4)を有することを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項6】
前記使用状態表示層(13)は、前記基層(12)に比し、摩耗し易い層であることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項7】
前記基層(12)は、その最外層がAl23層またはAl23を含む層で構成されることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項8】
前記使用状態表示層(13)は、その最外層が元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Fe、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(元素)またはその金属を含む合金によって形成されるか、または元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される層で構成されることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項9】
前記本体(8)は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、窒化硅素焼結体、または酸化アルミニウムと炭化チタンとからなる混合体のいずれかにより構成されることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項10】
前記刃先交換型切削チップ(1)は、ドリル、エンドミル、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用チップのいずれかであることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項11】
本体(8)と、該本体(8)上に形成された基層(12)と、該基層(12)上の部分に形成された使用状態表示層(13)とを有する刃先交換型切削チップ(1)の製造方法であって、
前記本体(8)上に基層(12)を形成するステップと、
前記基層(12)上に前記基層(12)と異なる色の使用状態表示層(13)を形成するステップと、
前記本体(8)の逃げ面(3)上であって、かつ刃先稜線(4)に対して垂直方向に0.2mm以上3.0mm未満の距離をもって広がった領域(A1)を少なくとも含む領域とすくい面(2)とに対して、そこに形成されている前記使用状態表示層(13)を除去するステップと、を含むことを特徴とする刃先交換型切削チップ(1)の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−177890(P2011−177890A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137630(P2011−137630)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【分割の表示】特願2006−543055(P2006−543055)の分割
【原出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】