説明

刃先交換型切削チップおよびその製造方法

【課題】本発明の目的は、被削材の外観や表面平滑性を害することなく注意喚起機能を有効に示すことができる刃先交換型切削チップを提供することにある。
【解決手段】本発明の刃先交換型切削チップ(1)は、少なくとも1つのすくい面(2)と、少なくとも2つの逃げ面(3)と、少なくとも1つの刃先稜線(4)と、少なくとも1つのコーナー(9)とを有し、基層は使用状態表示層と異なった色を呈し、使用状態表示層は、少なくとも1つの上記逃げ面(3)上に形成され、この使用状態表示層が形成された逃げ面(3)は、上記コーナー(9)を少なくとも1つ含む少なくとも2mm2の一箇所以上の領域A1を除く領域A2の全面または部分の基層上に使用状態表示層が形成されていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は切削加工用の切削工具に使用される刃先交換型切削チップおよびその製造方法に関する。より詳細には、ドリル加工用、エンドミル加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップ加工用およびクランクシャフトのピンミーリング加工用等として特に有用な刃先交換型切削チップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
旋削加工用工具やフライス加工用工具は、単数または複数の刃先交換型切削チップを備えている。図1に示したように、このような刃先交換型切削チップ1は、切削加工時において被削材5の切り屑6を持ち上げる側に存在するすくい面2と、被削材自体に対面する側に存在する逃げ面3とを有し、このすくい面2と逃げ面3とは刃先稜線4を挟んで繋がり、この刃先稜線4は被削材5を切削する中心的作用点となっている。
【0003】
このような刃先交換型切削チップは、工具寿命に達すると刃先を交換しなければならない。この場合、刃先稜線が1個のみのチップでは、そのチップ自体を交換しなければならない。しかし、複数の刃先稜線を持つ刃先交換型切削チップは同じ座面で何回も向きを変え、すなわち、未使用の刃先稜線を切削位置に設置するようにして、既使用の切削位置とは別の切削位置で使用することができる。場合によっては、刃先稜線を別の座面に付け直してここで未使用の刃先稜線を利用することもできる。
【0004】
ところが切削作業現場では、刃先稜線をまだ使用していないのに刃先交換型切削チップが取り替えられたり向きを変えられたりする場合がある。これは刃先交換または刃先稜線の方向転換の際に使用済の刃先稜線か未使用の刃先稜線かが認識されないのが原因である。したがって、この操作は刃先稜線が未使用であるか使用済であるかを十分に確認した上で行なう必要がある。
【0005】
使用済の刃先稜線を容易に識別する方法として、逃げ面とすくい面とにおいて色を変えた刃先交換型切削チップが提案されている(特開2002−144108号公報(特許文献1))。具体的には、この刃先交換型切削チップは、本体上に減摩被膜と呼ばれる耐摩耗性の基層を形成し、逃げ面上に摩耗し易い材料からなる使用状態表示層を形成した構成を有している。
【0006】
しかしながら、このような構成を有する刃先交換型切削チップにおいては、刃先稜線が使用済か否かの注意を喚起する作用は有するものの、逃げ面上に形成された使用状態表示層が被削材と溶着しやすく、このため被削材表面に使用状態表示層が溶着したり、使用状態表示層に被削材が溶着して凹凸状態となった刃先で切削加工が施されるため、切削後の被削材の外観および表面平滑性を害するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−144108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述のような問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、被削材の外観や表面平滑性を害することなく注意喚起機能を有効に示すことができる刃先交換型切削チップおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を鋭意研究したところ、図1に示したように刃先交換型切削チップ1の刃先稜線4が被削材5に接し、そのすくい面2が切り屑6側に位置するのに対し、逃げ面3が被削材5と対面し、その逃げ面3上の特定部位において被削材5の溶着が顕著に生じるとの知見を得、この知見に基づきさらに研究を重ねることによりついに本発明を完成させるに至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、本体と、該本体上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有する刃先交換型切削チップであって、この本体は、少なくとも1つのすくい面と、少なくとも2つの逃げ面と、少なくとも1つの刃先稜線と、少なくとも1つのコーナーとを有し、該逃げ面と該すくい面とは、該刃先稜線を挟んで繋がり、該コーナーは、2つの上記逃げ面と1つの上記すくい面とが交差する交点であり、該基層は、上記使用状態表示層と異なった色を呈し、この使用状態表示層は、少なくとも1つの上記逃げ面上に形成され、この使用状態表示層が形成された逃げ面は、上記コーナーを少なくとも1つ含む少なくとも2mm2の一箇所以上の領域A1を除く領域A2の全面または部分の上記基層上にこの使用状態表示層が形成されていることを特徴とする刃先交換型切削チップに係る。
【0011】
ここで、上記領域A1および上記すくい面は、上記基層が表面に露出しており、かつその露出している基層を構成する少なくとも一層は、上記領域A1または上記すくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において圧縮残留応力を有していることが好ましく、その圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましい。
【0012】
ここで、上記領域A1の面粗度RaをAμm、上記領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bとなることが好ましい。また、上記刃先交換型切削チップは、複数の刃先稜線を有することができる。
【0013】
また、上記使用状態表示層は、上記基層に比し、摩耗し易い層とすることができ、上記基層は、その最外層がAl23層またはAl23を含む層で構成されることが好ましい。
【0014】
また、上記使用状態表示層は、その最外層が元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、Al、Si、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Fe、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(元素)またはその金属を含む合金によって形成されるか、または元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される層で構成されることが好ましい。
【0015】
また、上記本体は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体のいずれかにより構成することができる。
【0016】
また、上記刃先交換型切削チップは、ドリル加工用、エンドミル加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップ加工用、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用のいずれかのものとすることができる。
【0017】
また、本発明は、本体と、該本体上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有する刃先交換型切削チップの製造方法であって、上記本体上に基層を形成するステップと、上記基層上に上記基層と異なる色の使用状態表示層を形成するステップと、上記本体の逃げ面上であって、かつコーナーを少なくとも1つ含む少なくとも2mm2の一箇所以上の領域A1を少なくとも含む領域とすくい面とに対して、そこに形成されている上記使用状態表示層を除去するステップと、を含むものとすることができる。
【0018】
このような本発明に係る刃先交換型切削チップは、上述のように少なくとも1つの面がすくい面となり、別の少なくとも1つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線を挟んで繋がり、基層とは異なった色を呈する使用状態表示層は、逃げ面の特定部位に形成されている。
【0019】
この場合、使用状態表示層は上記基層となるべく大きな色コントラストが生じるようにされることが望ましい。上記のように逃げ面の特定部位に形成されたこの使用状態表示層は、刃先交換型切削チップをなるべく短い時間たとえば数秒〜数分間切削作業した後に明瞭な加工痕を示し、少なくとも部分的に摩滅して、色の異なる下地(すなわち基層)が見えるようになる性質を有するようにすることが好ましい。可能な実施形態では使用状態表示層は耐摩耗性に乏しく、基層と比べて摩滅し易く、また基層への付着力が弱くなっているものが好ましい。
【0020】
一方、この使用状態表示層は、刃先交換型切削チップが使用されると直ちに変色するようになっているものでも良い。さらに、この使用状態表示層は、切屑が付着したり、切削油等が付着することにより、変色(あたかも変色したかのような外観を与える場合を含む)するものであっても良い。
【0021】
さらにまたはその代わりに、当該使用状態表示層に隣接する刃先稜線がすでに使用されたことを表示するために、該使用状態表示層は別様に色変化するものであっても良い。たとえば、使用状態表示層は、200℃を超える温度で刃先稜線の近傍だけが変色する感熱性のものであってもよい。そして、変色は酸化その他の変化に基づくもので、不可逆的であることが望ましい。隣接する刃先稜線が短時間だけ使用された時でも、この刃先稜線に隣接する部位が少なくとも短時間所定の温度を超えると、その部位の使用状態表示層が変色し、それが持続的にはっきり認識される。熱の作用による変色は、使用中に被削材と直接接触する部位のみではなく高温となった切り屑と接触する広い区域でも変色するので使用済の刃先稜線を容易に識別できるという利点がある。
【0022】
上記の使用状態表示層に加工痕または変色が生じているか否かによって、刃先交換型切削チップがすでに使用されたか、どの刃先稜線が未使用であるかを簡単かつ容易に識別することができる。すなわち、上記使用状態表示層は注意喚起機能を持つものである。これにより、刃先交換型切削チップを適宜に交換しまたはその向きを適宜に変えることができる。特にすでに使用済の刃先交換型切削チップを交換しなければいけないのにそれに気が付かなかったり、未使用の刃先交換型切削チップを使用せずに新しいものに交換してしまったり、刃先交換型切削チップの向きを変えるときにすでに使用済の刃先稜線を切削位置に設定してしまったり、または未使用の刃先稜線を使用せずに未使用のままにしてしまったりすることが回避される。従って、本発明に係る刃先交換型切削チップによって当該切削工具の保守が大幅に簡素化される。
【0023】
そして本発明の刃先交換型切削チップは、このような注意喚起機能を発揮するだけではなく、使用状態表示層が逃げ面の特定部位のみに限って形成されていることから、従来技術が有していたような切削加工後の被削材の外観および表面平滑性を害するという問題を一掃したという顕著な作用効果を備えたものである。従来の注意喚起機能を備えた刃先交換型切削チップは、使用状態表示層が刃先稜線およびその近傍に形成されていたため、これが被削材に溶着し、切削加工後の被削材の外観を害し、またその表面面粗度をも劣化させる。加えて切削抵抗が増加することで刃先が欠損する場合もある。このため、被削材の種類や用途が限定されるのみならず、このような刃先交換型切削チップを用いて切削できない場合もあった。本発明は、このような問題点を悉く解決したものであり、その産業上の利用性は極めて大きいものである。
【0024】
ここで、このような使用状態表示層は淡色に、たとえば、黄色または黄色味がかった光沢(たとえば金色)を有するように形成し、基層は黒ずんだ色に形成することが望ましい。たとえば、このような基層は酸化アルミニウム(Al23)またはこれを含んだ被膜とすることが望ましい。また、このAl23層の上にも下にも別の層を設けても良い。
【0025】
こうして本発明の刃先交換型切削チップは、各層を積層して形成することができ、その際基層であるAl23層は耐摩耗層となる。本発明でいう耐摩耗層とは、切削加工使用時において刃先の耐摩耗性を高め、これにより工具寿命の延長や切削速度を高める機能を持った被膜をいう。
【0026】
一方、このような耐摩耗層は、さらに補助表面層を保持してもよい。また、Al23層の代わりに、同じまたは更によりよい性質を有する耐摩耗層を設けることもできる。
【0027】
本発明に係る刃先交換型切削チップを製造するために、まず、本体の全面に対して、耐摩耗層としてAl23層を含む被膜を基層として形成する。そして、一番上の層としてたとえば窒化物層(たとえばTiN)を使用状態表示層として形成することができる。この窒化物層は基層の全面を覆うように形成してからすくい面および逃げ面の特定部位から除去するようにするとよい。
【0028】
特に使用状態表示層として使用する窒化物層は、逃げ面上であって、かつ上記コーナーを少なくとも1つ含む少なくとも2mm2の一箇所以上の領域A1から取り除かれている必要がある。これはいかなる方法で実施してもよいが、たとえば機械的除去、より具体的には、ブラシ操作、バレル操作またはブラスト加工(サンドブラスト)等で行なうことができる。
【0029】
ブラシまたはブラスト加工操作は同時に刃先稜線の後処理をも行なうことになって、それによって刃先稜線が平滑化される。このことは被削材に対する溶着を減少させ、刃先交換型切削チップの寿命の向上にも寄与する。なお、使用状態表示層を残存させる部位には、マスキングを行なうことにより、使用状態表示層が除去されることなく残存させることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の刃先交換型切削チップは、上述の通りの構成を有することにより、被削材の外観や表面平滑性を害することなく注意喚起機能を有効に示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を模式的に示した概略図である。
【図2】本発明の刃先交換型切削チップの一実施形態の概略斜視図である。
【図3】1つの刃先稜線(コーナーを含む)を使用した後の本発明の刃先交換型切削チップの概略斜視図である。
【図4】2つの刃先稜線(コーナーを含む)を使用した後の本発明の刃先交換型切削チップの概略斜視図である。
【図5】刃先交換型切削チップの刃先稜線部(コーナーを含む)の拡大断面図である。
【図6】使用状態表示層が逃げ面の全面に形成された刃先交換型切削チップの断面図である。
【図7】使用状態表示層がすくい面の全面に形成された刃先交換型切削チップの断面図である。
【図8】領域A1が本体を1周するように形成された本発明の刃先交換型切削チップの概略斜視図である。
【図9】領域A1が2つの逃げ面に連続するように形成された本発明の刃先交換型切削チップの概略斜視図である。
【図10】本発明の刃先交換型切削チップの一実施形態の概略側面図である。
【図11】本発明の刃先交換型切削チップの別の実施形態の概略側面図である。
【図12】本発明の刃先交換型切削チップの鋭角コーナー部の1つを示す概略平面図である。
【図13】本発明の刃先交換型切削チップのコーナー部の1つを示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。また、各図面はあくまでも説明用の模式的なものであって、コーティングの膜厚と本体とのサイズ比やコーナーのアール(R)のサイズ比は実際のものとは異なっている。
【0033】
<刃先交換型切削チップおよび本体>
本発明の刃先交換型切削チップは、本体と、該本体上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有するものである。図2に上面が正方形の形状として形成された刃先交換型切削チップ1が示されている。刃先交換型切削チップ1はこのように本体8を有するものであるが、この本体8はたとえば超硬合金製のものが好ましい。たとえば、焼結炭化タングステンまたはその他の超硬合金材料により構成することができる。また、本体8をセラミック材料で形成することも可能である。
【0034】
このように、本体を構成する材料としては、このような刃先交換型切削チップの本体(基材)として知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができ、たとえば超硬合金(たとえばWC基超硬合金、WCの他、Coを含み、あるいはさらにTi、Ta、Nb等の炭化物、窒化物、炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体等を挙げることができる。また、これらの本体(基材)は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていても良く、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
【0035】
また、本体8の形状は、たとえば多面体とすることができる。この多面体は、たとえば図2に示したように少なくとも底面、複数の側面および上面を有する形状を含むことができるが、このような形状のみに限られるものではなく、あらゆる形状の多面体が含まれる。そして、この本体8の上記各面の少なくとも1つの面が後述のすくい面2となり、別の少なくとも2つの面が逃げ面3となるとともに、このすくい面2と逃げ面3とは刃先稜線4(図2においてはすくい面と逃げ面とが交差する稜として表される)を挟んで繋がることになる。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点がコーナー9となる。
【0036】
すなわち、本発明の本体は、少なくとも1つのすくい面と、少なくとも2つの逃げ面と、少なくとも1つの刃先稜線と、少なくとも1つのコーナーとを有したものとなる。
【0037】
なお、本発明の刃先交換型切削チップには、チップブレーカが形成されているものと、チップブレーカが形成されていないものとの両者が含まれる。また、本発明の刃先交換型切削チップにおいては、刃先交換型切削チップ1を工具に取り付ける固定孔として使用される貫通孔7が、上面と底面を貫通するように形成されていても良い。必要に応じ、この固定孔の他にまたはその代わりに、別の固定手段を設けることもできる。
【0038】
このような本発明の刃先交換型切削チップは、ドリル加工用、エンドミル加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップ加工用およびクランクシャフトのピンミーリング加工用のものとして特に有用である。なお、本発明は、ネガティブタイプまたはポジティブタイプのいずれの刃先交換型切削チップに対しても有効である。
【0039】
<すくい面、逃げ面、刃先稜線およびコーナー>
上記本体8は、その少なくとも1つの面がすくい面2となり、別の少なくとも2つの面が逃げ面3となるとともに、そのすくい面2と逃げ面3とは刃先稜線4(すくい面と逃げ面とが交差する稜に相当する)を挟んで繋がることになる。また、2つの上記逃げ面と1つの上記すくい面とが交差する交点がコーナー9となる。
【0040】
このような刃先交換型切削チップ1は、図2に示したように刃先稜線4を複数有していることが好ましい。1つの刃先稜線の使用後において、別の刃先稜線を使用することにより刃先交換型切削チップ自体を交換する手間を低減することができるからである。なお、本願で用いるすくい面、逃げ面、刃先稜線およびコーナーという表現は、刃先交換型切削チップの最表面部に位置する部分や面だけではなく、本体の表面部や基層、使用状態表示層等の各層の表面部や内部等に位置する相当部分をも含む概念である。
【0041】
上記刃先稜線4およびコーナー9は、被削材を切削する中心的作用点を構成する。図2等では刃先稜線4は直線状に形成されているが、これのみに限られるものではなくたとえば円周状のもの、波打ち状のもの、湾曲状のもの、または屈折状のものも含まれる。なお、このような刃先稜線やコーナーに対しては、面取り加工および/またはコーナーのアール(R)付与加工等の刃先処理加工を施すことができる(たとえば図5参照)が、このような刃先処理加工等により刃先稜線が明瞭な稜を構成しなくなったり、コーナーが明瞭な交点を形成しなくなった場合には、そのような刃先処理加工等がされたすくい面および逃げ面に対して刃先処理加工等がされる前の状態を想定してそれぞれの面を幾何学的に延長させることにより双方の面が交差する稜や交点を仮定的な稜や交点と定め、その仮定的に定められた稜を刃先稜線とし、仮定的に定められた交点をコーナーとするものとする。なお、すくい面と逃げ面とが刃先稜線を挟んで繋がるという表現および刃先稜線を有するという表現は、いずれも刃先稜線に対して上記のような刃先処理加工が施された場合も含むものとする。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点という表現およびその交点がコーナーとなるという表現は、いずれもそのコーナーに対して上記のような刃先処理加工が施された場合も含むものとする。
【0042】
また図2においては、すくい面2は平坦な面として示されているが、必要に応じすくい面は他の構造、たとえばチップブレーカ等を有していてもよい。同じことが逃げ面3にも当てはまる。また、逃げ面3は図2において平坦な面として示されているが、必要に応じ、(複数の面区域に区分する)面取りをしまたは別の仕方で平坦な面と異なる形状や曲面にしたり、チップブレーカを設けた形状にすることもできる。
【0043】
<基層>
上記本体8上に形成される基層12は、後述の使用状態表示層13とは異なった色を呈するものである。以下、刃先交換型切削チップ1に施したコーティング14の構造を示す図5に基いて説明する。すくい面2と逃げ面3とに延びる基層12がコーティング14に含まれる。このように本体8は、その表面に基層12が形成されており、このような基層12は少なくとも上記すくい面2に形成することができ、さらに上記すくい面2および上記逃げ面3に形成することもできる。すなわち、基層12は本体8の全面に形成することが特に好ましい。
【0044】
より具体的には、このような基層12は、後述の使用状態表示層13との関係で領域A1およびすくい面2において表面に露出したものとなる。換言すれば、使用状態表示層13が形成されていない部位においては基層12が表面となるものである。
【0045】
そして、このような基層12は、その露出している領域において基層12を構成する少なくとも一層が、上記領域A1またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において圧縮残留応力を有していることが好ましい。このような構成とすることにより、靭性が付与され刃先の欠損を極めて有効に防止することができる。なお、すくい面の切削に関与する領域とは、刃先交換型切削チップの形状、被削材の種類や大きさ、切削加工の態様等により異なるものであるが、通常被削材が接触する(または最接近する)刃先稜線からすくい面側に3mmの幅を有して広がった領域を意味するものとする。
【0046】
また、上記領域A1またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部と規定したのは、そのような領域の全域において圧縮残留応力が付与されていることが好ましいが、種々の事情により、そのような領域の一部において圧縮残留応力が付与されていないという態様をも含む趣旨である。
【0047】
ここで、圧縮残留応力とは、コーティング(被覆層)に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「−」(マイナス)の数値(単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう。このため、圧縮残留応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを示し、また、圧縮残留応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを示す。因みに、引張残留応力とは、被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、「+」(プラス)の数値で表される応力をいう。なお、単に残留応力という場合は、圧縮残留応力と引張残留応力との両者を含むものとする。
【0048】
そして、基層12が有する上記圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。その絶対値が0.1GPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が8GPaを越えると被覆層自体が剥離することがあり好ましくない。
【0049】
また、そのような圧縮残留応力は、その領域における基層を構成する少なくとも一層によって有されていれば良いが、より好ましくは少なくとも基層の最外層を構成する層によって有されていることが好適である。耐欠損性の向上に最も寄与すると考えられるからである。
【0050】
なお、上記残留応力は、いかなる方法を用いて測定しても良いが、たとえばX線応力測定装置を用いたsin2ψ法により測定することができる。そしてこのような残留応力は基層中の上記圧縮残留応力が付与される領域に含まれる任意の点10点(これらの各点は当該層の該領域の応力を代表できるように互いに0.1mm以上の距離を離して選択することが好ましい)の応力を該sin2ψ法により測定し、その平均値を求めることにより測定することができる。
【0051】
このようなX線を用いたsin2ψ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く用いられているものであり、たとえば「X線応力測定法」(日本材料学会、1981年株式会社養賢堂発行)の54〜67頁に詳細に説明されている方法を用いれば良い。
【0052】
また、上記残留応力は、ラマン分光法を用いた方法を利用することにより測定することも可能である。このようなラマン分光法は、狭い範囲、たとえばスポット径1μmといった局所的な測定ができるというメリットを有している。このようなラマン分光法を用いた残留応力の測定は、一般的なものであるがたとえば「薄膜の力学的特性評価技術」(サイぺック(現在リアライズ理工センターに社名変更)、1992年発行)の264〜271頁に記載の方法を採用することができる。
【0053】
さらに、上記残留応力は、放射光を用いて測定することもできる。この場合、基層(被覆層)の厚み方向で残留応力の分布を求めることができるというメリットがある。
【0054】
このような基層12は、公知の化学的蒸着法(CVD法)、物理的蒸着法(PVD法、スパッタリング法等を含む)により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。たとえば、刃先交換型切削チップ1がドリル加工用やエンドミル加工用として用いられる場合、基層は抗折力を低下させることなく形成できるPVD法により形成するのが好ましい。また、基層の膜厚の制御は、成膜時間により調整を行なうと良い。
【0055】
また、公知のCVD法を用いて基層を形成する場合には、MT−CVD(medium temperature CVD)法により形成された層を備えることが好ましい。特にその方法により形成した耐摩耗性に優れる炭窒化チタン(TiCN)層を備えることが最適である。従来のCVD法は、約1020〜1030℃で成膜を行なうのに対して、MT−CVD法は約850〜950℃という比較的低温で行なうことができるため、成膜の際加熱による本体のダメージを低減することができる。したがって、MT−CVD法により形成した層は、本体に近接させて備えることがより好ましい。また、成膜の際に使用するガスは、ニトリル系のガス、特にアセトニトリル(CH3CN)を用いると量産性に優れて好ましい。なお、上記のようなMT−CVD法により形成される層と、HT−CVD(high temperature CVD、上記でいう従来のCVD)法により形成される層とを積層させた複層構造のものとすることにより、これらの被覆層の層間の密着力が向上する場合があり、好ましい場合がある。
【0056】
一方、基層12に対して上記のような圧縮残留応力を付与する方法は、特に限定されるものではなく、たとえば基層12がCVD法により形成される場合には、その形成後においてその基層の圧縮残留応力を付与する領域に対してブラスト法による処理を施すことにより圧縮残留応力を付与することができる。なお、このブラスト法により処理する領域は、上記領域(上記領域A1またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域)を越えてより広い領域に対して処理することもできる。一方、基層12がPVD法により形成される場合には、形成時において既に圧縮残留応力が付与された状態となるのであえて上記のような処理を施す必要はない。
【0057】
このように、基層12に圧縮残留応力を付与する方法は、基層12自体をPVD法により形成する方法も挙げられるが、基層12と本体8との密着性を考慮すると基層12自体をCVD法で形成し、ブラスト法による処理により圧縮残留応力を付与することが特に好ましい。
【0058】
なお、このようなブラスト法による処理は、基層12を形成した後に行なうことができるが、基層12上に後述の使用状態表示層13を形成し、上記領域A1またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域からこの使用状態表示層13を除去する操作を兼ねて行なうこともできる。このような処理方法を採用することにより、刃先交換型切削チップの生産効率が向上するため好ましい。なお、この場合、使用状態表示層13を残存させる部位には、治具等によりマスキングすることが好ましい。
【0059】
ここで、上記ブラスト法とは、以下の(1)〜(3)等の方法により、被処理物表面の被膜、錆、汚れ等の除去を行なう表面処理方法の一種であり、多くの産業分野で利用されているものである。
(1)各種研磨材の粒子を、圧縮空気で被処理物の表面に吹き付ける。
(2)各種研磨材の粒子を、回転翼により被処理物の表面に連続して投射する。
(3)各種研磨材の粒子を含有する液体(水)を、高圧で被処理物の表面に吹き付ける。
【0060】
上記各種研磨材の粒子の種類としては、たとえばスチールグリッド、スチールショット、カットワイヤー、アルミナ、ガラスビーズ、珪砂等が一般的であり、これらの粒子の種類によりサンドブラスト、ショットブラスト、アルミナブラスト、ガラスビーズブラストなどと呼び分けられることもある。
【0061】
たとえば、サンドブラストとは、珪砂(粉)等の研磨材粒子を圧縮空気等により被処理物の表面に吹き付ける方法を示し、ショットブラストとは、スチールショット(通常は球状)を用いる方法を示す。また、ウェットブラストとは、研磨材の粒子を含有する液体(水)を、高圧で被処理物の表面に吹き付ける方法を示す。
【0062】
このようなブラスト法の具体的条件は、用いる研磨材粒子(砥粒)の種類や適用方法により異なり、たとえばブラスト処理用金属系研磨材はJIS Z0311:1996に規定されており、ブラスト処理用非金属系研磨材はJIS Z0312:1996に規定されている。また、ショットブラストについては、JIS B6614:1998にその詳細が規定されている。本発明のブラスト法による処理方法としては、これらの条件をいずれも採用することができる。
【0063】
なお、基層12に圧縮残留応力を付与する方法は、上記のようなブラスト法を採用することができる他、ブラシ法、ショットピーニング法、バレル法、イオン注入法等を採用することもできる。
【0064】
一方、このような基層12は、1層または複数の層を積層して構成することができ、また耐摩耗層としての作用を示すものとすることが好ましい。基層12としては、元素周期律表のIVa族元素(Ti、Zr、Hf等)、Va族元素(V、Nb、Ta等)、VIa族元素(Cr、Mo、W等)、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物により形成することができ、優れた性能が示される。
【0065】
たとえば、基層12は、そのような化合物としてAl23層であるかこれを含むことができる。本体8の上にまずTiN層を形成し、その上にTiCN層を形成し、この上にAl23層を形成することもできる。この3層系は全体として基層12を構成し、耐摩耗層としての作用を示す。
【0066】
このように、基層12が複数の層を積層して構成される場合は、その最外層がAl23層またはAl23を含む層で構成されることが特に好ましい。Al23層またはAl23を含む層は、耐摩耗層として優れるとともに黒ずんだ色(正確にはそれ自身が黒色を呈するものではなく下地の色の影響を受けやすいものであるが、本願では単に黒色と表現することもある)を呈するため、その上に形成される使用状態表示層との間で特に顕著なコントラストを形成することができるからである。
【0067】
そして、このAl23層またはAl23を含む層は、上記領域A1またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域において表面に露出し、その領域の少なくとも一部において圧縮残留応力を有していることが特に好ましい。これにより、耐欠損性に最も関与する部位において耐摩耗性と靭性とを高度に両立させることができるからである。この点、上記領域A1およびすくい面の切削に関与する領域の全域において圧縮残留応力を有していることがより好ましい。なお、上記圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が8GPaを越えると該層自体が剥離することがあり好ましくない。なお、上記でいうAl23層またはAl23を含む層を構成するAl23は、その結晶構造は特に限定されず、α−Al23、κ−Al23、γ−Al23またはアモルファス状態のAl23が含まれるとともに、これらが混在した状態も含まれる。またAl23を含む層とは、その層の一部として少なくともAl23を含んでいること(50質量%以上含まれていればAl23を含むものとみなす)を意味し、その残部は基層を構成する他の化合物や、ZrO2、Y23(アルミナにZrやYが添加されたとみることもできる)等によって構成することができ、また塩素、炭素、ホウ素、窒素等を含んでいても良い。
【0068】
また、このような基層12を構成する化合物としては、上記のAl23以外に(あるいはAl23とともに)使用できるものとして、たとえばTiC、TiN、TiCN、TiCNO、TiB2、TiBN、TiBNO、TiCBN、ZrC、ZrO2、HfC、HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、AlN、AlCN、ZrN、TiAlC等を挙げることができる。たとえば、基層12として、本体8の全面にまず厚み数μmのTiN層を形成し、その上に厚み数μmのTiCN層を形成し、さらにその上に厚み数μmのAl23層(またはAl23を含む層)を形成したものを好適な例としてあげることができ、耐摩耗層としての作用を示す。
【0069】
そしてさらに好適な例としては、Al23層またはAl23を含む層の下層として、Tiと、窒素、酸素、またはホウ素のいずれか1種以上の元素とからなる化合物で構成される層を形成させる態様である。このような構成とすることにより、Al23層またはAl23を含む層とその下層との間で特に優れた密着性を得ることができ、さらに優れた耐摩耗性を得ることが可能となる。このような化合物のより具体的な例としては、TiN、TiBN、TiBNO、TiCNO等を挙げることができる。また、これら以外の好適な化合物として、AlONやAlCNO等の化合物を挙げることもできる。
【0070】
このように基層12として耐摩耗層を採用することにより、当該刃先交換型切削チップの工具寿命は飛躍的に延長される。加えて、切削速度を高める等のより過酷な使用環境にも耐え得る機能を発揮するという利点を有し、これを好ましくは本体の全面に形成することにより、この利点をより有効に享受することができる。
【0071】
このような基層12の厚み(2以上の層として形成される場合は全体の厚み)は、0.05μm以上20μm以下であることが好ましい。厚みが0.05μm未満では耐摩耗性の向上が見られず、逆に20μmを超えても大きな耐摩耗性の改善が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限りその厚みは20μm以上としても何等差し支えなく、本発明の効果は示される。このような厚みの測定方法としては、たとえば刃先交換型切削チップを切断し、その断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
【0072】
<使用状態表示層>
本発明の使用状態表示層13は、たとえば図2や図5に示したように、少なくとも1つの逃げ面3上に形成され、この使用状態表示層13が形成された逃げ面3は、上記コーナー9を少なくとも1つ含む少なくとも2mm2の一箇所以上の領域A1を除く領域A2の全面または部分の上記基層12上にこの使用状態表示層13が形成されていることを特徴としている。なお、ここでコーナー9は、幾何学的には2つの逃げ面上に形成された各々の基層(の表面)と1つのすくい面上の基層(の表面)とが交差する交点(上述のように刃先処理加工がされている場合は仮定的な交点)である。しかし、基層の厚みは、刃先交換型切削チップ全体の厚みに比べて非常に小さくなるため、実質的にこの刃先稜線の位置を特定するに際してこの基層の厚みを考慮するか否かは問題となるものではなく、刃先交換型切削チップの外郭を基準として特定すれば通常は十分である。
【0073】
本発明者の研究によれば、上記の領域A1において被削材の溶着が顕著に生じることが判明した。本発明は、この領域A1を除く領域A2の全面または部分に使用状態表示層を形成することにより被削材の溶着を有効に防止し、以って切削加工後の被削材の外観および表面平滑性が阻害されることを防止しつつ注意喚起機能を付与せしめたという優れた効果を発揮するものである。
【0074】
上記領域A1の面積が2mm2未満では、被削材の溶着が生じるため上記のような優れた効果が示されなくなる。一方、この面積は大きくなればなる程被削材の溶着防止という観点からは好ましいものでありその上限を規定する必要はあえて存さないが、この領域A1の面積が広くなりすぎると使用状態表示層による注意喚起機能が十分に示されなくなる場合があるので、その機能が示されるように使用状態表示層を形成する必要がある。したがって、好ましくは上記面積の下限は、刃先交換型切削チップの厚みが2mm〜8mmの場合、2mm2以上であり、より好ましくは5mm2以上である。また、その上限は、刃先交換型切削チップの厚みが2mm〜8mmの場合、好ましくは100mm2未満であり、より好ましくは70mm2未満である。これらの面積は、このような範囲内において、適宜刃先交換型切削チップの大きさに応じて選択することが好ましい。
【0075】
このようにして、少なくとも上記領域A2の20%以上の領域に使用状態表示層を形成させるようにすることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上の領域に使用状態表示層を形成させることが好適である。これにより、被削材の溶着を防止しつつ、十分な注意喚起機能を提供することができる。
【0076】
このような使用状態表示層13は、公知の化学的蒸着法、物理的蒸着法(スパッタリング法を含む)、真空蒸着法またはめっき法等により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。
【0077】
なお、上記において「一箇所以上の領域A1」と規定したのは、刃先交換型切削チップの形状や用途において切削に関与するコーナーの個数が異なるため、該領域A1は少なくとも切削に関与するコーナーを含むということを意味し、そのような切削に関与するコーナーが複数ある場合には領域A1も複数形成される場合があることを意味するものである。また、このような領域A1は少なくとも2mm2の面積を有する限り2以上の逃げ面上に連続して形成されていても良く、また複数のコーナーを含んでいても良い。このように領域A1が2以上の逃げ面上に連続して形成される場合は、1つの逃げ面当りの面積ではなく連続した領域の合計面積が少なくとも2mm2となる。
【0078】
また、「少なくとも2mm2」というように面積のみで規定し、あえてその領域の形状を特定していないのは、刃先交換型切削チップの形状や用途は多種多様であり、それぞれに応じた領域形状にて使用状態表示層を除去するのが適切だからである。
【0079】
また、上記において「領域A2の全面または部分」と規定したのは、特定のコーナーのみが切削に関与するような場合においては、その切削に関与する部分に近接した部分にのみ使用状態表示層を配置させるだけで注意喚起機能は達成され、必ずしも上記領域A2の全面を覆うように、あえて大面積を占める使用状態表示層を形成させる必要はないためである。したがって、このような使用状態表示層13は、上記領域A2の全面に対して形成される場合だけではなく、その領域の一部分のみに形成される場合が含まれる。
【0080】
また、当該使用状態表示層が形成されている部分(該領域A2)と形成されていない部分(該領域A1)との境界は、当該境界の近傍部を電子顕微鏡および/または金属顕微鏡で観察することにより、単位面積(100μm×100μm)に占める使用状態表示層の面積が80%以上となる場合に使用状態表示層が形成されているものとみなすものとする。したがって、領域A1を表す少なくとも2mm2という面積は電子顕微鏡および/または金属顕微鏡で観察することにより測定することが好ましい。
【0081】
本実施の形態では、使用状態表示層13は黄色または黄銅色(金色)の外観を呈する窒化チタン層である。これに対して、その下層の基層12はAl3(基層中の最外層)による黒色または黒ずんだ色である。なお、このような使用状態表示層13は、上記基層12に比し摩耗し易い層であることが好ましい。切削加工時に削除されやすく、下層の基層12が露出することにより、その部分が使用されていることを容易に表示することができるからである。また、上記の領域A2以外に形成された使用状態表示層を除去することにより刃先交換型切削チップ自体を製造することを容易化することにもつながる。
【0082】
このように使用状態表示層13は、上記基層12と異なる色を呈するものであり、上記のような特定部位に形成することにより、結果的にコーナー周辺部とそれ以外の領域との間で大きな色コントラストが生じるようにされる。なぜならコーナー周辺部の表面には、上述の通り、耐摩耗層としての基層12が形成されるからである。
【0083】
そして、このように使用状態表示層13が上記領域A1を除く領域A2の全面または部分の上記基層12上に形成されることにより、切削加工時においてこの使用状態表示層13が被削材に溶着し、被削材の外観および表面平滑性を害することがなく、以ってこのようなデメリットを伴うことなく注意喚起機能を示すことができる。なお、このような使用状態表示層13は、単層で形成することができるとともに複数の層を積層して形成することもできる。
【0084】
ここで、このような使用状態表示層13は、元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Fe、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(元素)またはその金属を含む合金によって形成されるか、または元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される1または2以上の層である。これらはいずれも鮮やかな色彩を有し、工業的にも容易に製造することができるため好ましい。特に、2以上の層が積層される場合は、最外層として上記のような構成のものが形成されていることが好ましい。
【0085】
そして、このような使用状態表示層は、その最外層が元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Fe、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属、または元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される層で構成されることが特に好ましい。当該化合物は、黄色、ピンク色、黄銅色、金色等特に鮮やかな色を呈し、意匠性に優れるとともに基層との間で明瞭なコントラストを形成することができるからである。なお、使用状態表示層が一層のみで形成される場合にはその層が最外層となる。
【0086】
このような使用状態表示層は、より具体的には上記のようなTiNの他、たとえばTiC、TiCN、TiCNO、TiB2、TiBN、TiBNO、TiCBN、ZrC、ZrO2、HfC、HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN、TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、Al23、ZrCN、ZrCNO、AlN、AlCN、ZrN、TiAlC、Cr、Al等の元素(金属)または化合物により形成することができる。
【0087】
また使用状態表示層13は、強力な耐摩耗性の改善の機能を持つものでなく(すなわち摩耗し易い層であることが好ましく、耐摩耗性は基層より劣る)、かつ比較的薄い厚みを有する。好ましい厚み(使用状態表示層が2層以上で形成される場合は全体の厚み)は0.05μm以上2μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以上0.5μm以下である。0.05μm未満では、所定部位に均一に被覆することが工業的に困難となり、このためその外観に色ムラが発生し外観を害することがある。また、2μmを超えても使用状態表示層としての機能に大差なく、却って経済的に不利となる。この厚みの測定方法としては、上記基層と同様の測定方法を採用することができる。
【0088】
なお、使用状態表示層13は、圧縮残留応力を有するものとすることができる。これにより、刃先交換型切削チップの靭性向上に寄与することができる。上記圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることが好ましく、より好ましくは0.2GPa以上、さらに好ましくは0.5GPa以上の応力である。その絶対値が0.1GPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、一方、その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対値が8GPaを越えると使用状態表示層自体が剥離することがあり好ましくない。なお、使用状態表示層13に対して圧縮残留応力を付与する方法は、基層に対して圧縮残留応力を付与する方法と同様の方法を採用することができる。
【0089】
<面粗度Ra>
本発明の上記領域A1は、被削材の溶着を阻止するために平滑なものとすることが特に好ましい。このような表面平滑性は、上記領域A1の表面を機械的処理、たとえば、ブラシ操作またはブラスト加工(サンドブラスト)を行なうことにより得ることができる。このような機械的処理は、通常基層上に形成された使用状態表示層を除去する場合に行なわれるが、上記領域A1の表面に対して独立した処理操作として行なうことも可能である。なお、上記平滑性は、このような機械的処理だけではなく、たとえば化学的処理や物理的処理によっても得ることができる。
【0090】
そして本発明者の研究によれば、上記領域A1の面粗度RaをAμm、上記領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bという関係が成立する場合に特に良好な耐被削材溶着性が得られることが認められている。より好ましくは、0.8>A/B、さらに好ましくは0.6>A/Bである。
【0091】
ここで上記面粗度Raは、表面粗さを表す数値の一種であり、算術平均高さと呼ばれるものである(JIS B0601:2001)。その測定方法は特に限定されるものではなく、公知の測定方法がいずれも採用できる。たとえば、接触法(たとえば触針法等)であっても、非接触法(たとえばレーザー顕微鏡法等)であってもよく、またあるいは刃先交換型切削チップの断面を顕微鏡で直接観察する方法であってもよい。
【0092】
<刃先交換型切削チップの製造方法>
本発明の刃先交換型切削チップの製造方法は、本体と、該本体上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有する刃先交換型切削チップの製造方法であって、該本体上に基層を形成するステップと、該基層上に該基層と異なる色の使用状態表示層を形成するステップと、該本体の逃げ面上であって、かつコーナーを少なくとも1つ含む少なくとも2mm2の一箇所以上の領域A1を少なくとも含む領域とすくい面とに対して、そこに形成されている上記使用状態表示層を除去するステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0093】
このような製造方法を採用することにより、本体と、該本体上に形成された基層と、該基層上の部分に形成された使用状態表示層とを有する刃先交換型切削チップであって、この使用状態表示層は、少なくとも1つの上記逃げ面上に形成され、この使用状態表示層が形成された逃げ面は前記コーナーを少なくとも1つ含む少なくとも2mm2の一箇所以上の領域A1を除く領域A2の全面または部分の上記基層上にこの使用状態表示層が形成されている刃先交換型切削チップを極めて生産効率良く製造することができる。
【0094】
このように使用状態表示層13は、刃先交換型切削チップ1の製造の際に一旦基層12の上に形成されるが、その後領域A1を少なくとも含む領域から取り除かれる。これにより、上記領域A1と、それら以外の領域(使用状態表示層が除去されていない領域)との間で、上記のような大きな色コントラストを持った刃先交換型切削チップを製造することができる。
【0095】
上記のように使用状態表示層13を除去する方法としては、ブラスト法を採用することができる。ブラスト法を採用することにより、基層12に対して圧縮残留応力を同時に付与することができるとともに、露出した基層12の表面を平滑にする効果を得ることができる。なお、使用状態表示層13を除去する方法として上記のようなブラスト法を採用せずブラシ法を採用することもできる。
【0096】
さらに本発明の刃先交換型切削チップの製造方法は、上記領域A1に対して、平滑性処理を施すステップ(上記使用状態表示層を除去するステップと同時に行なわれる場合を含む)を含むことができる。上記領域A1の面粗度RaをAμm、上記領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bという関係が成立するように、このような平滑性処理を施すことが好ましい。これにより、切削加工後の被削材の外観および表面平滑性を担保することが可能となるからである。
【0097】
このような平滑性処理としては、上記のブラスト法の他、各種の化学的方法、物理的方法または機械的方法を採用することができる。たとえば、ブラスト法とともにブラシ法を併用することができる。
【0098】
<作用等>
以上述べた刃先交換型切削チップ1は、図2に示すように未使用状態では無傷のままであるすくい面2および逃げ面3を有する。特に上記領域A1を除く領域A2の全面または部分はなお元の使用状態表示層13の色を有し、それによって刃先稜線4(コーナー9を含む)が未使用であることを示す。たとえば、その領域A2の全面または部分がTiNでコーティングされている場合は、この領域A2の使用状態表示層13の部分は、未使用状態では輝く黄銅色(金色)になっている。これに対して上記領域A1は基層12であるAl23が表面に露出し、刃先交換型切削チップの代表的な色である比較的黒ずんだ色またはほぼ黒色の外観を呈する。
【0099】
以下の説明のために、刃先交換型切削チップ1は切削工具の工具本体に取付けられており、複数のコーナー9のうちのいずれか一のコーナーが最初に使用されるコーナーを成す場合を考える。切削工具が使用されると直ちにその一のコーナー9が被削材5に接触し、被削材5を切削加工し始める。特に、そのコーナー9の周辺部である領域A1では基層12により刃先交換型切削チップ1の摩耗は少ない。
【0100】
ところが、そのコーナー9による切削が開始すると、このコーナー9に隣接する区域(領域A1を除く領域A2)の使用状態表示層13が変色して比較的大きな初期変化を生じる。変色した区域では使用状態表示層13とは別の色になり、場合によってはこれより遙かに黒ずんだ基層12が見えるようになる。
【0101】
このため、図3に示すようにコーナー9に隣接して黒ずんで変色した変色区域10が上記領域A2の各々に生じる。この変色区域10は直ちにかつ容易に識別され、注意喚起機能を示す。この変色は、上記のように基層12が露出することにより生じるものの他、熱に原因する変化、たとえば、酸化現象の結果起こるものであっても良い。
【0102】
たとえば、図3に示したようにこのコーナー9に隣接する区域の使用状態表示層13が、焼もどし色を呈することによって、ここに変色区域10が形成される。これはコーナー9による被削材の切削加工の結果起こるコーナー近傍の温度上昇に由来するものである。
【0103】
刃先交換型切削チップ1を長時間の使用の後(切削位置を変更させた後)においては、図4に示す外観を呈するようになるが、最初の数分の切削作業の後に早くも図3に示す外観に達するから、たとえば一のコーナー9は既に使用されたが、別のコーナー9はまだ全く未使用であることを取扱者は一見して確認することができる。この別のコーナー9が初めて使用されると、図4に示す外観を呈する。この場合、この別のコーナー9に隣接する区域の使用状態表示層13が変色し、変色区域11を生じることによりこの別のコーナー9が使用されたことを示す。
【0104】
なお、図2〜4に示されている刃先交換型切削チップ1は、4個の使用可能なコーナー9を有するスローアウェイ刃先交換型切削チップである。この複数のコーナー9の内のどれが既に使用され、どれがまだ使用されていないかが使用状態表示層13の色によって一目で分かる。従って、このような刃先交換型切削チップを装備した切削工具の保守は特に簡単に行なうことができる。
【0105】
上述のように、刃先交換型切削チップ1には、基層12と使用状態表示層13から成る複合のコーティング14が施されている(図5)。なお、使用状態表示層は上記領域A2に形成されるが、たとえばISO規格SNGN120408等のような一般的な刃先交換型切削チップでは上面または底面がすくい面となり、「縦使い」等と呼ばれる前者以外の例外的な刃先交換型切削チップでは側面がすくい面となる。
【0106】
使用状態表示層13は、隣接するコーナー9を短時間でも使用するとこの使用状態表示層13に明瞭な痕跡が残って、この使用状態表示層13が変色乃至は変質する。このように使用状態表示層13は非常に敏感であるから、その下にある別色の層または材料(すなわち基層)が見えるようになることがある。このようにして使用状態表示層13の作用により、明瞭な色コントラストまたは明るさコントラストが生じ、使用したコーナーを直ちに簡単に識別することができる。上記領域A2の全面または部分にこのように摩擦的に不利かもしれないコーティングを施すことにより、これを上記領域A1に施す場合よりも、被削材の外観および表面平滑性を害することがないため、この領域A2の全面または部分を使用状態表示面として利用することが特に有利であることが判明した。
【実施例】
【0107】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0108】
<実施例1>
87.1質量%のWC、1.8質量%のTiC、2.0質量%のTaC、1.0質量%のNbCおよび8.1質量%のCoからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1400℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、切削チップCNMG120408N−UX(住友電工ハードメタル(株)製)の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを本体とした。この本体は、表面に脱β層が16μm形成されており、2つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計8つ存在した。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナーは計8つ存在した。
【0109】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.5μmのTiN、4.6μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、2.2μmのαアルミナ(α−Al23)そして最外層として0.5μmのTiNをコーティングした(総膜厚7.8μm)。このコーティング(コーティングNo.1とする)において、0.5μmのTiN(本体表面側のもの)と4.6μmのTiCNと2.2μmのαアルミナ(α−Al23)が基層であり、最外層の0.5μmのTiNが使用状態表示層である。
【0110】
以下同様にして、このコーティングNo.1に代えて下記の表1に記載したコーティングNo.2〜6をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0111】
【表1】

【0112】
上記表1において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。また各層は、コーティングNo.6のCrN層を除き、全て公知の熱CVD法により形成した(MT−CVDの表示のあるものはMT−CVD法(成膜温度900℃)により形成し、HT−CVDの表示のあるものはHT−CVD法(成膜温度1000℃)により形成した)。該CrN層はイオンプレーティング法により形成した。
【0113】
そしてこれらのコーティングを施した本体に対して、公知のブラスト法(研磨材粒子:アルミナサンド120番(平均粒径100μm)、圧力:0.3MPa)を用いて次の11種類の処理方法A〜Kを各々実施した。なお、各処理方法において使用状態表示層を残したい部位には、治具を用いてマスキングを行なった。
【0114】
(処理方法A)
コーティングに対してブラスト法による処理を行なわなかった。したがって、本体の表面は、全面において使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈した。
【0115】
(処理方法B)
コーティングに対して、すくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、逃げ面の全面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、すくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図6参照。なお、図6では使用状態表示層13がすくい面2の平坦部まで回り込むようにして形成されているが、そこまで回り込むことなく刃先処理面の手前で止まるようにして形成される場合も本処理方法の態様に含まれる。すなわち、本処理方法は刃先稜線の刃先処理面において使用状態表示層が形成される場合と形成されない場合の両者を含み、いずれの場合であっても同様の結果を示すものである)。
【0116】
(処理方法C)
コーティングに対して、逃げ面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、すくい面の全面は使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図7参照。なお、図7では使用状態表示層13が逃げ面3の平坦部まで回り込むようにして形成されているが、そこまで回り込むことなく刃先処理面の手前で止まるようにして形成される場合も本処理方法の態様に含まれる。すなわち、本処理方法は刃先稜線の刃先処理面において使用状態表示層が形成される場合と形成されない場合の両者を含み、いずれの場合であっても同様の結果を示すものである)。
【0117】
(処理方法D)
図8に示したようにコーティングに対して、逃げ面上であって刃先稜線から垂直方向に1.38〜2.05mmの距離cをもってほぼ平行に広がった領域A1およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。この領域A1は、本体の周囲を1周するように4つの逃げ面上に連続して形成され、コーナーを4つ含むものであり、その面積は64.1mm2であった。したがって、逃げ面上であって、上記A1を除く領域A2は基層上に使用状態表示層が形成された構成となるため使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の上記領域A1およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。
【0118】
なお、上記刃先稜線からの距離cを1.38〜2.05mmというように範囲をもって表示したのは、マスキングはできる限り高精度に行なったがブラストの回り込み等によりその距離を一定に保つことは困難であり誤差を排除できなかったためである。因みに、一般にノーズR2等分断面とよばれる、コーナーの角度を2等分した場合のその中心位置(以下R/2部位という)における上記距離cは1.45mmであった。なお、このようなR/2部位は複数存在するが、その全てのR/2部位において上記距離が完全に同一となるものではなく、上記の数値はそのうちの一つのR/2部位の数値を示すものである(以下の処理方法E〜Jおよび表面粗度の測定において同様の意味を示す)。
【0119】
また、面積は電子顕微鏡を用いた600倍の観察により測定した(以下同じ)。
(処理方法E)
処理方法Dにおいて、刃先稜線からの垂直方向の距離cを0.68〜1.34mmに代えることを除き他は全て処理方法Dと同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは0.72mmであり、領域A1の面積は30.32mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法Dと同じ理由による。
【0120】
(処理方法F)
処理方法Dにおいて、刃先稜線からの垂直方向の距離cを0.35〜0.58mmに代えることを除き他は全て処理方法Dと同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは0.50mmであり、領域A1の面積は4.18mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法Dと同じ理由による。
【0121】
(処理方法G)
処理方法Dにおいて、刃先稜線からの垂直方向の距離cを0.01〜0.25mmに代えることを除き他は全て処理方法Dと同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは0.14mmであり、領域A1の面積は1.52mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法Dと同じ理由による。
【0122】
(処理方法H)
図9に示したようにコーティングに対して、逃げ面上であって刃先稜線から垂直方向の距離c(0.4〜1.02mm)を有し、かつ1つのコーナーから刃先稜線に沿って各々距離a(2.7mm)、距離b(2.8mm)をもって広がった領域A1およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。この領域A1は、2つの逃げ面上に連続して形成され1つのコーナーを含むものであり、その面積は4.8mm2であった。したがって、逃げ面上であって、上記A1を除く領域A2は基層上に使用状態表示層が形成された構成となるため使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の上記領域A1およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した。
【0123】
なお、上記刃先稜線からの距離cを0.4〜1.02mmというように範囲をもって表示したのは、マスキングはできる限り高精度に行なったがブラストの回り込み等によりその距離cを一定に保つことは困難であり誤差を排除できなかったためである。因みに、R/2部位における上記距離cは0.58mmであった。
【0124】
(処理方法I)
処理方法Hにおいて、距離a、bおよびcをそれぞれ5.3mm、1.0mmおよび1.01〜1.43mmに代えることを除き他は全て処理方法Hと同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは1.21mmであり、領域A1の面積は10.2mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法Hと同じ理由による。
【0125】
(処理方法J)
処理方法Hにおいて、距離a、bおよびcをそれぞれ0.9mm、1.0mmおよび0.1〜0.44mmに代えることを除き他は全て処理方法Hと同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは0.21mmであり、領域A1の面積は1.9mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法Hと同じ理由による。
【0126】
(処理方法K)
コーティングに対して、本体表面全面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。したがって、本体表面の全面(すくい面および逃げ面の両面)は基層の色(たとえばコーティングNo.1の場合はAl23の色である黒色)を呈した。
【0127】
このようにして、以下の表2〜表4に記載した66種類の刃先交換型切削チップNo.1〜No.66を製造した。No.4、5、6、8、9、15、16、17、19、20、26、27、28、30、31、37、38、39、41、42、48、49、50、52、53、59、60、61、63および64が本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。
【0128】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.1〜66について、下記条件で旋削切削試験を行ない、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。また、30分切削後の刃先への被削材の溶着状態、被削材加工面の状態、および刃先稜線(コーナーを含む、以下同じ)の使用状態の識別性をそれぞれ観察した。その結果を以下の表2〜表4に示す。なお、被削材の面粗度(Rz;JIS B0601:2001)は、小さい数値のもの程、平滑性が良好であることを示し、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。また、刃先への被削材の溶着量が多い程、被削材の面粗度が悪化することを示し、被削材加工面の状態は鏡面に近い程、良好であることを示している。
【0129】
(旋削切削試験の条件)
被削材:SCM415
切削速度:120m/min
送り:0.13mm/rev.
切込み:1.5mm
切削油:無し
切削時間:30分
【0130】
【表2】

【0131】
【表3】

【0132】
【表4】

【0133】
表2〜表4中、「*」の印を付したものが本発明の実施例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNが金色であり、ZrNが白金色であり、TiCNはピンク色であり、CrNは銀色である。
【0134】
表2〜表4より明らかなように、本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、刃先稜線の使用状態の識別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり被削材の面粗度にも優れるものであった。なお、上記領域A1の面粗度RaをAμm、上記領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、これらの本発明の実施例の刃先交換型切削チップではすべて0.8>A/Bであった(測定方法は後述のNo.5についてのものと同様とした)。
【0135】
これに対して、処理方法Aおよび処理方法Bを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、刃先稜線の使用状態の識別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁し、被削材の面粗度も劣っていた。また、処理方法Cを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、処理方法Aおよび処理方法Bを採用した比較例の上記刃先交換型切削チップと比較すれば相当程度被削材の溶着量は低減されていたが、すくい面において若干の溶着があった。処理方法Kを採用した刃先交換型切削チップは、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先稜線の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。処理方法Gおよび処理方法Jを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、使用状態表示層を除去した領域A1の大きさが十分ではないために、被削材の刃先への溶着が確認され、被削材の加工面の状態(面光沢)が本発明の実施例の刃先交換型切削チップにより加工した被削材の面光沢に比し劣っていた。
【0136】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。なお、本実施例は、チップブレーカが形成されている刃先交換型切削チップの場合について示したが、チップブレーカが形成されていない刃先交換型切削チップに対しても有効である。
【0137】
一方さらに、上記で製造した刃先交換型切削チップNo.5と同様の製造方法において、上記領域A1に対してブラストの程度(処理時間およびワーク(刃先交換型切削チップ)とノズルとの距離)を変えてブラスト法による処理を実施し、上記領域A1および領域A2の面粗度Raを表5のものとする本発明の刃先交換型切削チップNo.5−2、No.5−3、No.5−4およびNo.5−5を製造した。なお、面粗度Raはレーザー顕微鏡(VK−8510、(株)キーエンス製)により測定した。測定箇所は上記R/2部位とし、上記領域A1については刃先稜線からの垂直方向の距離cの1/2となる地点(すなわち領域A1の中央部)とし、上記領域A2については領域A1と領域A2の境界線から領域A2側に垂直方向に上記距離cの1/2に等しくなる距離だけ入った地点とした。また、測定距離は100μmとした。
【0138】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.5、No.5−2、No.5−3、No.5−4およびNo.5−5について上記と同条件による旋削切削試験を行ない、被削材の面粗度Rzを上記と同様にして測定した。その結果を表5に示す。
【0139】
【表5】

【0140】
表5より明らかなように、上記領域A1および領域A2の面粗度RaをそれぞれAμmおよびBμmとした場合、A/Bの値が小さくなる程被削材の面粗度Rzはより良好なものとなった。
【0141】
これらの結果より、刃先交換型切削チップにおいて被削材との間で溶着現象を抑制し、被削材の外観が阻害されることを防止するためには、上記領域A1の面粗度RaをAμmおよび領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bとすることが有効であり、このA/Bの値をさらに小さくして、0.8>A/B、さらに0.6>A/Bとすることがより有効となる。
【0142】
なお、コーティングNo.6において、使用状態表示層としてCrNに代えて公知のスパッタリング法を用いて金属Crまたは金属Alを同膜厚でコーティングすることを除き他は全て同様にして刃先交換型切削チップを製造し、上記と同様の処理を行なうとともに同様の旋削切削試験を行なったところ、上記刃先交換型切削チップNo.56〜66と同様の結果が得られることを確認した。なお、金属Crまたは金属Alからなる使用状態表示層の色はいずれも銀色である。
【0143】
<実施例2>
88.3質量%のWC、1.7質量%のTaCおよび10.0質量%のCoからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1400℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、切削チップISO型番SPGN120408の形状の超硬合金製チップを作製し、これを本体とした。この本体は、表面に脱β層が形成されておらず、1つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計4つ存在した。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナーは計4つ存在した。なお、この本体の厚みは3.18mmであった。
【0144】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.4μmのTiN、2.1μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、2.1μmのαアルミナ(α−Al23)そして最外層として0.5μmのTiNをコーティングした(総膜厚5.1μm)。このコーティング(コーティングNo.7とする)において、0.4μmのTiN(本体表面側のもの)と2.1μmのTiCNと2.1μmのαアルミナ(α−Al23)が基層(黒色)であり、最外層の0.5μmのTiNが使用状態表示層(金色)である。
【0145】
以下同様にして、このコーティングNo.7に代えて下記の表6に記載したコーティングNo.8〜12をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0146】
【表6】

【0147】
上記表6において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。またコーティングNo.8〜9は、コーティングNo.7と同様、全て公知の熱CVD法により形成した。コーティングNo.10〜12については、公知のPVD法により形成した。
【0148】
そして、このコーティングを施した本体のそれぞれに対して、実施例1と同じ処理方法A〜CおよびKを各々実施するとともに、下記の処理方法L〜Oを各々実施することにより、以下の表7および表8に記載した48種類の刃先交換型切削チップNo.101〜No.148を製造した。No.104、105、107、112、113、115、120、121、123、128、129、131、136、137、139、144、145および147が本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。
【0149】
(処理方法L)
図10に示したようにコーティングに対して、逃げ面上であって刃先稜線から垂直方向に0.29〜0.94mmの距離xをもってほぼ平行に広がった領域A1およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法(実施例1と同じ条件)により除去した。この領域A1は、本体の周囲を1周するように4つの逃げ面上に連続して形成され、コーナーを4つ含むものであり、その面積は33.4mm2であった(測定方法は実施例1に同じ、以下同様)。したがって、逃げ面上であって、上記A1を除く領域A2は基層上に使用状態表示層が形成された構成となるため使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.7の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の上記領域A1およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.7の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。
【0150】
なお、上記刃先稜線からの距離xを0.29〜0.94mmというように範囲をもって表示したのは、上記実施例1の処理方法Dと同じ理由による。因みに、R/2部位(実施例1に同じ)における上記距離xは0.40mmであった。なお、このようなR/2部位は複数存在するが、その全てのR/2部位において上記距離が完全に同一となるものではなく、上記の数値はそのうちの一つのR/2部位の数値を示すものであることは、実施例1と同じである(以下の処理方法M〜Oおよび表面粗度の測定において同様の意味を示す)。
【0151】
(処理方法M)
処理方法Lにおいて、刃先稜線からの垂直方向の距離xを0.06〜0.4mmに代えることを除き他は全て処理方法Lと同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離xは0.28mmであり、領域A1の面積は8.16mm2であった。なお、上記距離xを範囲をもって表示したのは、上記処理方法Lと同じ理由による。
【0152】
(処理方法N)
処理方法Lにおいて、刃先稜線からの垂直方向の距離xを0.01〜0.16mmに代えることを除き他は全て処理方法Lと同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離xは0.09mmであり、領域A1の面積は1.9mm2であった。なお、上記距離xを範囲をもって表示したのは、上記処理方法Lと同じ理由による。
【0153】
(処理方法O)
図11に示したようにコーティングに対して、逃げ面上であって刃先稜線から垂直方向に0.2〜1.2mmの距離xをもってほぼ平行に広がるとともに、R/2部位において2つの逃げ面が交差する稜に沿いかつ距離y、zがそれぞれ0.2〜1.2mmとなるようにして広がった領域A1およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法(処理方法Lと同じ条件)により除去した。この領域A1は、刃先稜線に沿って本体の周囲を1周するように4つの逃げ面上に連続して形成され、コーナーを4つ含むとともに、各コーナーにおいては2つの逃げ面が交差する稜に沿って一定の広がりを有するようにして形成されるものであり、その面積は38.2mm2であった。したがって、逃げ面上であって、上記A1を除く領域A2は基層上に使用状態表示層が形成された構成となるため使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.7の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の上記領域A1およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.7の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。なお、上記の距離x、距離yおよび距離zをそれぞれ0.2〜1.2mmというように範囲をもって表示したのは、処理方法Lと同じ理由による。
【0154】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.101〜148について、下記条件でフライス切削試験を行ない、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。その結果を以下の表7および表8に示す。被削材の面粗度(Rz;JIS B0601:2001)は、小さい数値のもの程、平滑性が良好であることを示し、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。
【0155】
(フライス切削試験の条件)
被削材:FCD450
切削速度:145m/min
送り:0.28mm/rev.
切込み:1.0mm
切削油:無し
切削距離:10m
カッター:DPG4160R(住友電工ハードメタル(株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取付け数は1枚とした。このため、カッター1回転当りの送りと、一刃当りの送りは一致するものであった。
【0156】
【表7】

【0157】
【表8】

【0158】
表7および表8中、「*」の印を付したものが本発明の実施例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNが金色であり、TiCNはピンク色である。
【0159】
表7および表8より明らかなように、本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、刃先稜線(コーナーを含む、以下同じ)の使用状態の判別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり被削材の面粗度にも優れるものであった。なお、上記領域A1の面粗度RaをAμm、上記領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、これらの本発明の実施例の刃先交換型切削チップではすべて0.8>A/Bであった(測定方法は実施例1と同様とした。ただし、処理方法Oを実施したものについての測定箇所は、上記領域A1については上記R/2部位において垂直方向の距離xがコーナーから1.5mmとなる地点とし、上記領域A2については上記領域A1の測定箇所から水平方向に領域A1と領域A2の境界線から領域A2側に0.7mmの距離だけ入った地点とした)。
【0160】
これに対して、処理方法Aおよび処理方法Bを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、刃先稜線の使用状態の識別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁し、被削材の面粗度も劣っていた。また、処理方法Cを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、処理方法Aおよび処理方法Bを採用した比較例の上記刃先交換型切削チップと比較すれば相当程度被削材の溶着量は低減されていたが、すくい面において若干の溶着があった。処理方法Kを採用した刃先交換型切削チップは、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先稜線の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。処理方法Nを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、使用状態表示層を除去した領域A1の大きさが十分ではないために、被削材の刃先への溶着が確認され、被削材の加工面の状態(面光沢)が本発明の実施例の刃先交換型切削チップにより加工した被削材の面光沢に比し劣っていた。
【0161】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。
【0162】
一方、上記で製造した刃先交換型切削チップNo.104と同様の製造方法において、上記領域A1に対してブラストの処理条件(処理時間およびワーク(刃先交換型切削チップ)とノズルとの距離)を変えることにより異なったブラスト法による処理を実施することにより、上記領域A1および領域A2の面粗度Raを表9のものとする本発明の刃先交換型切削チップNo.104−2、No.104−3、No.104−4およびNo.104−5を製造した。なお、面粗度Raは実施例1と同様にして測定した。
【0163】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.104、No.104−2、No.104−3、No.104−4およびNo.104−5について下記の条件によるフライス切削試験を行ない、被削材の面粗度Rzを上記と同様にして測定した。その結果を表9に示す。
【0164】
(フライス切削試験の条件)
被削材:SCM415
切削速度:220m/min
送り:0.28mm/rev.
切込み:1.0mm
切削油:無し
切削距離:0.1m
【0165】
【表9】

【0166】
表9より明らかなように、上記領域A1および領域A2の面粗度RaをそれぞれAμmおよびBμmとした場合、A/Bの値が小さくなる程被削材の面粗度Rzはより良好なものとなった。
【0167】
これらの結果より、刃先交換型切削チップにおいて被削材との間で溶着現象を抑制し、被削材の外観が阻害されることを防止するためには、上記領域A1の面粗度RaをAμmおよび領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bとすることが有効であり、このA/Bの値をさらに小さくして、0.8>A/B、さらに0.6>A/Bとすることがより有効となる。
【0168】
<実施例3>
2.5質量%のTiC、1.0質量%のTaC、1.0質量%のNbC、7.5質量%のCo、およびその残部がWCからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1400℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、切削チップCNMG120408N−UX(住友電工ハードメタル(株)製)の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを本体とした。この本体は、表面に脱β層が12μm形成されており、2つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計8つ存在した。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナーは計8つ存在した。
【0169】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.2μmのTiN、3.9μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、2.5μmのκアルミナ(κ−Al23)そして最外層として0.3μmのTiNをコーティングした。このコーティング(コーティングNo.13とする)において、0.2μmのTiN(本体表面側のもの)と3.9μmのTiCNと2.5μmのκアルミナ(κ−Al23)が基層であり、最外層の0.3μmのTiNが使用状態表示層である。
【0170】
以下同様にして、このコーティングNo.13に代えて下記の表10に記載したコーティングNo.14〜17をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0171】
【表10】

【0172】
上記表10において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。また各層は、全て公知の熱CVD法により形成した(MT−CVDの表示のあるものはMT−CVD法(成膜温度900℃)により形成し、HT−CVDの表示のあるものはHT−CVD法(成膜温度1000℃)により形成した)。
【0173】
そしてこれらのコーティングを施した本体に対して、公知の湿式ブラスト法(研磨材粒子:アルミナサンド120番(平均粒径100μm)、圧力:0.2MPa)を用いて次の11種類の処理方法A〜Kを各々実施した。なお、各処理方法において使用状態表示層を残したい部位には、治具を用いてマスキングを行なった。
【0174】
(処理方法A)、(処理方法B)、(処理方法C)、(処理方法K)はそれぞれ実施例1と同じ処理方法を実施し、それ以外の処理方法は以下の通りである。
【0175】
(処理方法D2)
図8に示したようにコーティングに対して、逃げ面上であって刃先稜線から垂直方向に1.35〜2.07mmの距離cをもって刃先稜線に対してほぼ平行に広がった領域A1およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。この領域A1は、本体の周囲を1周するように4つの逃げ面上に連続して形成され、コーナーを4つ含むものであり、その面積は63.5mm2であった。したがって、逃げ面上であって、上記A1を除く領域A2は基層上に使用状態表示層が形成された構成となるため使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の上記領域A1およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。
【0176】
なお、上記刃先稜線からの距離cを1.35〜2.07mmというように範囲をもって表示したのは、マスキングはできる限り高精度に行なったがブラストの回り込み等によりその距離を一定に保つことは困難であり誤差を排除できなかったためである。因みに、R/2部位における上記距離cは1.43mmであった。なお、このようなR/2部位は複数存在するが、その全てのR/2部位において上記距離が完全に同一となるものではなく、上記の数値はそのうちの一つのR/2部位の数値を示すものである(以下の処理方法E2〜J2および表面粗度の測定において同様の意味を示す)。
【0177】
また、面積は電子顕微鏡を用いた600倍の観察により測定した(以下同じ)。
(処理方法E2)
処理方法D2において、刃先稜線からの垂直方向の距離cを0.69〜1.35mmに代えることを除き他は全て処理方法D2と同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは0.75mmであり、領域A1の面積は30.68mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法D2と同じ理由による。
【0178】
(処理方法F2)
処理方法D2において、刃先稜線からの垂直方向の距離cを0.36〜0.57mmに代えることを除き他は全て処理方法D2と同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは0.51mmであり、領域A1の面積は4.13mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法D2と同じ理由による。
【0179】
(処理方法G2)
処理方法D2において、刃先稜線からの垂直方向の距離cを0.01〜0.24mmに代えることを除き他は全て処理方法D2と同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは0.13mmであり、領域A1の面積は1.54mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法D2と同じ理由による。
【0180】
(処理方法H2)
図9に示したようにコーティングに対して、逃げ面上であって刃先稜線から垂直方向の距離c(0.2〜1.04mm)を有し、かつ1つのコーナーから刃先稜線に沿って各々距離a(2.6mm)、距離b(2.9mm)をもって広がった領域A1およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法により除去した。この領域A1は、2つの逃げ面上に連続して形成され1つのコーナーを含むものであり、その面積は4.7mm2であった。したがって、逃げ面上であって、上記A1を除く領域A2は基層上に使用状態表示層が形成された構成となるため使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の上記領域A1およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.13の場合はAl23の色である黒色)を呈した。
【0181】
なお、上記刃先稜線からの距離cを0.2〜1.04mmというように範囲をもって表示したのは、マスキングはできる限り高精度に行なったがブラストの回り込み等によりその距離cを一定に保つことは困難であり誤差を排除できなかったためである。因みに、R/2部位における上記距離cは0.57mmであった。
【0182】
(処理方法I2)
処理方法H2において、距離a、bおよびcをそれぞれ5.2mm、1.1mmおよび1.02〜1.35mmに代えることを除き他は全て処理方法H2と同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは1.22mmであり、領域A1の面積は9.8mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法H2と同じ理由による。
【0183】
(処理方法J2)
処理方法H2において、距離a、bおよびcをそれぞれ0.8mm、1.0mmおよび0.1〜0.35mmに代えることを除き他は全て処理方法H2と同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離cは0.18mmであり、領域A1の面積は1.7mm2であった。なお、上記距離cを範囲をもって表示したのは、上記処理方法H2と同じ理由による。
【0184】
このようにして、以下の表11〜表13に記載した55種類の刃先交換型切削チップNo.201〜No.255を製造した。各表の左欄に「*」を付したものが本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNが金色であり、ZrNが白金色であり、TiCNはピンク色である。
【0185】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.201〜255について、下記条件で連続旋削切削試験を行ない、刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。また、15分切削後の刃先への被削材の溶着状態、被削材加工面の状態、および刃先稜線(コーナーを含む、以下同じ)の使用状態の識別性をそれぞれ観察した。その結果を以下の表11〜表13に示す。なお、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。また、刃先への被削材の溶着量が多い程、被削材の面粗度が悪化することを示し、被削材加工面の状態は鏡面に近い程、良好であることを示している。
【0186】
(連続旋削切削試験の条件)
被削材:S35C丸棒
切削速度:240m/min
送り:0.35mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:水溶性油
切削時間:15分
【0187】
【表11】

【0188】
【表12】

【0189】
【表13】

【0190】
なお、表11〜13の残留応力は、図12(本実施例の刃先交換型切削チップのすくい面のコーナー付近の概略拡大平面図である)のスポットS(平坦面に位置しその平坦面の垂直方向から見て直径0.5mmのもの)に対して測定したものであり、1つのすくい面に対して4つ存在するコーナーの各コーナー毎にこのスポットSは同様に存在するため、残留応力はそれら4箇所の平均値とした。具体的測定方法は、上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法を採用し、コーティングNo.13を被覆したものについてはκ−Al23層を測定し、コーティングNo.14〜17を被覆したものについてはα−Al23層を測定した(実施例/比較例共通)。
【0191】
なお、この測定領域(図12のスポットS)は、すくい面の切削に関与する領域であり、実施例のものはいずれもその領域において基層が表面に露出しており、その基層の最上層の残留応力を測定したものである。
【0192】
表11〜表13より明らかなように、本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、刃先稜線の使用状態の識別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであった。
【0193】
これに対して、処理方法Aおよび処理方法Bを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、刃先稜線の使用状態の識別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁した。また、処理方法Cを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、処理方法Aおよび処理方法Bを採用した比較例の上記刃先交換型切削チップと比較すれば相当程度被削材の溶着量は低減されていたが、すくい面において若干の溶着があった。処理方法Kを採用した刃先交換型切削チップは、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先稜線の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。処理方法G2および処理方法J2を採用した比較例の刃先交換型切削チップは、使用状態表示層を除去した領域A1の大きさが十分ではないために、被削材の刃先への溶着が確認され、被削材の加工面の状態(面光沢)が本発明の実施例の刃先交換型切削チップにより加工した被削材の面光沢に比し劣っていた。
【0194】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。
【0195】
一方、上記で製造した刃先交換型切削チップNo.215と同様の製造方法において、上記領域A1およびすくい面に対してブラストの処理条件(処理時間およびワーク(刃先交換型切削チップ)とノズルとの距離)を変えることにより異なったブラスト法による処理を実施したり、あるいはブラスト法に代えてブラシ法(#800のSiCブラシ使用)による処理を実施することにより、No.215−2〜No.215−5の刃先交換型切削チップを得た。すなわち、これらの刃先交換型切削チップNo.215およびNo.215−2〜No.215−5は、上記領域A1およびすくい面において異なった残留応力を有している。なお、この残留応力は、上記と同様(すなわち図12のスポットSを測定領域とするもの)にして測定した。その結果を表14に示す。
【0196】
また同様にして、刃先交換型切削チップNo.219、No.249、No.253についても、上記領域A1およびすくい面において異なった残留応力を付与した、以下の表14に示す刃先交換型切削チップ(No.219−2、No.249−2〜No.249−5、No.253−2)を得た。
【0197】
そして、これらの刃先交換型切削チップ(No.215、219、249、253を含む)および比較用として刃先交換型切削チップNo.212、No.245について(これらのNo.212、215、219、245、249、253についても上記と同様にして残留応力を測定した)、上記と同条件による連続旋削切削試験を行ない逃げ面摩耗量を測定するとともに、以下の条件による断続旋削切削試験を行ない刃先欠損率を測定した(刃先欠損率は20切れ刃(コーナー)について試験を実施し、刃先欠損を生じているコーナー数を20切れ刃に対する百分率で示したものである)。それらの結果を以下の表14に示す。この刃先欠損率が低いもの程、靭性(耐欠損性)に優れていることを示している。
【0198】
(断続旋削切削試験の条件)
被削材:SCM440(4本溝入り丸棒)
切削速度:95m/min
切込み:2.0mm
送り:0.42mm/rev.
湿式/乾式:乾式
切削時間:1分
【0199】
【表14】

【0200】
表14より明らかなように、上記領域A1またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において、基層を構成する少なくとも一層が圧縮残留応力を有すると優れた靭性が示されることが分かる。しかも、この圧縮残留応力が大きくなる程より優れた靭性が示される。
【0201】
なお、表14中「*」の印を付したものが実施例であるが、各実施例のものは刃先に被削材が溶着することもなく、また被削材表面も良好な光沢を示すものであったのに対して、各比較例は刃先への被削材の溶着が顕著であり、被削材加工面も全く光沢を有しなかった。
【0202】
また、刃先交換型切削チップNo.215−2、249−2は、逃げ面摩耗量の低減、被削材の溶着防止あるいは被削材加工面の光沢向上には効果を有したが、靭性を大幅に改善することはできなかった。すなわち、刃先交換型切削チップの刃先靭性の向上は、被削材の溶着を防止することによってもある程度の効果を得ることは可能であるが、上記のような刃先の特定部位に圧縮残留応力を付与することにより刃先の靭性を飛躍的に向上できることが明らかとなった。
【0203】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。
【0204】
一方さらに、上記で製造した刃先交換型切削チップNo.249と同様の製造方法において、上記領域A1に対してブラストの程度(処理時間およびワーク(刃先交換型切削チップ)とノズルとの距離)を変えてブラスト法による処理を実施し、上記領域A1および領域A2の面粗度Raを表15のものとする本発明の刃先交換型切削チップNo.249−6、No.249−7、No.249−8およびNo.249−9を製造した(いずれの刃先交換型切削チップも本発明の実施例である)。なお、面粗度Raはレーザー顕微鏡(VK−8510、(株)キーエンス製)により測定した。測定箇所は上記R/2部位とし、上記領域A1については刃先稜線からの垂直方向の距離cの1/2となる地点(すなわち領域A1の中央部)とし、上記領域A2については領域A1と領域A2の境界線から領域A2側に垂直方向に上記距離cの1/2に等しくなる距離だけ入った地点とした。また、測定距離は100μmとした。なお、残留応力は、上記と同様(すなわち図12のスポットSを測定領域とするもの)にして測定した。
【0205】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.249、No.249−6、No.249−7、No.249−8およびNo.249−9について上記と同条件による連続旋削切削試験を行ない、試験開始1分後の被削材の面粗度Rz(JIS B0601:2001)を上記実施例1と同様にして測定するとともに、上記と同様にして逃げ面摩耗量および刃先欠損率(断続旋削切削試験による)を測定した。それらの結果を表15に示す。
【0206】
【表15】

【0207】
表15より明らかなように、上記領域A1および領域A2の面粗度RaをそれぞれAμmおよびBμmとした場合、A/Bの値が小さくなる程被削材の面粗度Rzはより良好なものとなった。
【0208】
これらの結果より、刃先交換型切削チップにおいて被削材との間で溶着現象を抑制し、被削材の外観が阻害されることを防止するためには、上記領域A1の面粗度RaをAμmおよび領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bとすることが有効であり、このA/Bの値をさらに小さくして、0.8>A/B、さらに0.6>A/Bとすることがより有効となる。
【0209】
また、付与された圧縮残留応力が大きくなる程、良好な刃先欠損率を示した。
なお、本実施例は、チップブレーカが形成されている刃先交換型切削チップの場合について示したが、チップブレーカが形成されていない刃先交換型切削チップに対しても有効である。
【0210】
<実施例4>
0.5質量%のTaC、10.0質量%のCo、およびその残部がWCからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で1400℃、1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理(すくい面側から見て0.05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、切削チップSEMT13T3AGSN−G(住友電工ハードメタル(株)製)の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを本体とした。この本体は、表面に脱β層が形成されておらず、1つの面がすくい面となり、4つの面が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計4つ存在した。また、2つの逃げ面と1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナーは計4つ存在した。
【0211】
この本体の全面に対して、下層から順に下記の層を公知の熱CVD法により形成した。すなわち、本体の表面側から順に、0.3μmのTiN、3.1μmのTiCN(MT−CVD法により形成)、1.4μmのκアルミナ(κ−Al23)そして最外層として0.3μmのTiNをコーティングした。このコーティング(コーティングNo.18とする)において、0.3μmのTiN(本体表面側のもの)と3.1μmのTiCNと1.4μmのκアルミナ(κ−Al23)が基層であり、最外層の0.3μmのTiNが使用状態表示層である。
【0212】
以下同様にして、このコーティングNo.18に代えて下記の表16に記載したコーティングNo.19〜22をそれぞれ本体の全面に対して被覆した。
【0213】
【表16】

【0214】
上記表16において、基層は左側のものから順に本体の表面上に積層させた。また各層は、全て公知の熱CVD法により形成した(MT−CVDの表示のあるものはMT−CVD法(成膜温度900℃)により形成し、HT−CVDの表示のあるものはHT−CVD法(成膜温度1000℃)により形成した)。
【0215】
そしてこれらのコーティングを施した本体に対して、公知の湿式ブラスト法(研磨材粒子:アルミナサンド120番(平均粒径100μm)、圧力:0.2MPa)を用いて次の8種類の処理方法を各々実施した。なお、各処理方法において使用状態表示層を残したい部位には、治具を用いてマスキングを行なった。
【0216】
(処理方法A)、(処理方法B)、(処理方法C)、(処理方法K)はそれぞれ実施例1と同じ処理方法を実施し、それ以外の処理方法は以下の通りである。
【0217】
(処理方法L2)
図10に示したようにコーティングに対して、逃げ面上であって刃先稜線から垂直方向に0.28〜0.93mmの距離xをもって刃先稜線に対してほぼ平行に広がった領域A1およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法(実施例1と同じ条件)により除去した。この領域A1は、本体の周囲を1周するように4つの逃げ面上に連続して形成され、コーナーを4つ含むものであり、その面積は33.1mm2であった(測定方法は実施例1に同じ、以下同様)。したがって、逃げ面上であって、上記A1を除く領域A2は基層上に使用状態表示層が形成された構成となるため使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の上記領域A1およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。
【0218】
なお、上記刃先稜線からの距離xを0.28〜0.93mmというように範囲をもって表示したのは、上記実施例1の処理方法Dと同じ理由による。因みに、R/2部位(実施例1に同じ)における上記距離xは0.39mmであった。なお、このようなR/2部位は複数存在するが、その全てのR/2部位において上記距離が完全に同一となるものではなく、上記の数値はそのうちの一つのR/2部位の数値を示すものであることは、実施例1と同じである(以下の処理方法M2〜O2において同様の意味を示す)。
【0219】
(処理方法M2)
処理方法L2において、刃先稜線からの垂直方向の距離xを0.05〜0.41mmに代えることを除き他は全て処理方法L2と同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離xは0.27mmであり、領域A1の面積は8.15mm2であった。なお、上記距離xを範囲をもって表示したのは、上記処理方法L2と同じ理由による。
【0220】
(処理方法N2)
処理方法L2において、刃先稜線からの垂直方向の距離xを0.01〜0.17mmに代えることを除き他は全て処理方法L2と同様にして処理を行なった。R/2部位における上記距離xは0.09mmであり、領域A1の面積は1.8mm2であった。なお、上記距離xを範囲をもって表示したのは、上記処理方法L2と同じ理由による。
【0221】
(処理方法O2)
図11に示したようにコーティングに対して、逃げ面上であって刃先稜線から垂直方向に0.2〜1.3mmの距離xをもって刃先稜線に対してほぼ平行に広がるとともに、R/2部位において2つの逃げ面が交差する稜に沿いかつ距離y、zがそれぞれ0.2〜1.3mmとなるようにして広がった領域A1およびすくい面の使用状態表示層をブラスト法(処理方法L2と同じ条件)により除去した。この領域A1は、刃先稜線に沿って本体の周囲を1周するように4つの逃げ面上に連続して形成され、コーナーを4つ含むとともに、各コーナーにおいては2つの逃げ面が交差する稜に沿って一定の広がりを有するようにして形成されるものであり、その面積は38.1mm2であった。したがって、逃げ面上であって、上記A1を除く領域A2は基層上に使用状態表示層が形成された構成となるため使用状態表示層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はTiNの色である金色)を呈し、逃げ面上の上記領域A1およびすくい面は基層の色(たとえばコーティングNo.18の場合はAl23の色である黒色)を呈した(図5)。なお、上記の距離x、距離yおよび距離zをそれぞれ0.2〜1.3mmというように範囲をもって表示したのは、処理方法L2と同じ理由による。
【0222】
このようにして、以下の表17〜表18に記載した40種類の刃先交換型切削チップNo.301〜No.340を製造した。各表の左欄に「*」を付したものが本発明の実施例であり、それ以外のものは比較例である。なお、基層の最外層はコーティングの種類に拘わらず全て黒色であり、使用状態表示層はTiNが金色であり、ZrNが白金色であり、TiCNはピンク色である。
【0223】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.301〜340について、下記条件でフライス切削試験を行ない、刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。また、1m切削後の刃先への被削材の溶着状態、被削材加工面の状態、および刃先稜線(コーナーを含む、以下同じ)の使用状態の識別性をそれぞれ観察した。その結果を以下の表17〜表18に示す。なお、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している。また、刃先への被削材の溶着量が多い程、被削材の面粗度が悪化することを示し、被削材加工面の状態は鏡面に近い程、良好であることを示している。
【0224】
(フライス切削試験の条件)
被削材:SKD11ブロック材
切削速度:172m/min
送り:0.16mm/rev.
切込み:2.0mm
切削油:水溶性油
切削長:1m
カッター:WGC4160R(住友電工ハードメタル(株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取付け数は1枚とした。このため、カッター1回転当りの送りと、一刃当りの送りは一致するものであった。
【0225】
【表17】

【0226】
【表18】

【0227】
なお、表17〜表18の残留応力は、図13(本実施例の刃先交換型切削チップのすくい面のコーナー付近の概略拡大平面図である)のスポットT(平坦面に位置しその平坦面の垂直方向から見て直径0.5mmのもの)に対して測定したものであり、すくい面に4つ存在するコーナーの各コーナー毎にこのスポットTは同様に存在するため、残留応力はそれら4箇所の平均値とした。具体的測定方法は、上述のX線応力測定装置を用いたsin2ψ法を採用し、コーティングNo.18を被覆したものについてはκ−Al23層を測定し、コーティングNo.19〜22を被覆したものについてはα−Al23層を測定した(実施例/比較例共通)。
【0228】
なお、この測定領域(図13のスポットT)は、すくい面の切削に関与する領域であり、実施例のものはいずれもその領域において基層が表面に露出しており、その基層の最上層の残留応力を測定したものである。
【0229】
表17〜表18より明らかなように、本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、刃先稜線の使用状態の識別が容易で極めて注意喚起機能に優れるものであり、且つ刃先に被削材が溶着することもなく、切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであった。
【0230】
これに対して、処理方法Aおよび処理方法Bを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、刃先稜線の使用状態の識別は可能であるものの、刃先に被削材が多量に溶着し、且つ切削後の被削材は白濁した。また、処理方法Cを採用した比較例の刃先交換型切削チップは、処理方法Aおよび処理方法Bを採用した比較例の上記刃先交換型切削チップと比較すれば相当程度被削材の溶着量は低減されていたが、すくい面において若干の溶着があった。処理方法Kを採用した刃先交換型切削チップは、切削後の被削材の状態は良好であるものの、刃先稜線の使用状態の判別が困難であり、注意喚起機能を有さないものであった。処理方法N2を採用した比較例の刃先交換型切削チップは、使用状態表示層を除去した領域A1の大きさが十分ではないために、被削材の刃先への溶着が確認され、被削材の加工面の状態(面光沢)が本発明の実施例の刃先交換型切削チップにより加工した被削材の面光沢に比し劣っていた。
【0231】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。
【0232】
一方、上記で製造した刃先交換型切削チップNo.312と同様の製造方法において、上記領域A1およびすくい面に対してブラストの処理条件(処理時間およびワーク(刃先交換型切削チップ)とノズルとの距離)を変えることにより異なったブラスト法による処理を実施したり、あるいはブラスト法に代えてブラシ法(#800のSiCブラシ使用)による処理を実施することにより、No.312−2〜No.312−5の刃先交換型切削チップを得た。すなわち、これらの刃先交換型切削チップNo.312およびNo.312−2〜No.312−5は、上記領域A1およびすくい面において異なった残留応力を有している。なお、この残留応力は、上記と同様(図13のスポットTを測定領域とするもの)にして測定した。その結果を表19に示す。
【0233】
また同様にして、刃先交換型切削チップNo.315、No.337、NO.339についても、上記領域A1およびすくい面において異なった残留応力を付与した、以下の表19に示す刃先交換型切削チップ(No.315−2、No.337−2〜No.337−5、No.339−2)を得た。
【0234】
そして、これらの刃先交換型切削チップ(No.312、315、337、339を含む)および比較用として刃先交換型切削チップNo.309、No.333について(これらのNo.309、312、315、333、337、339についても上記と同様にして残留応力を測定した)、上記と同条件によるフライス切削試験を行ない逃げ面摩耗量を測定するとともに、以下の条件による断続旋削切削試験(カッターに刃先交換型切削チップを1枚だけ取り付けて実施)を行ない刃先欠損率を測定した(刃先欠損率は20切れ刃(コーナー)について試験を実施し、刃先欠損を生じているコーナー数を20切れ刃に対する百分率で示したものである)。それらの結果を以下の表19に示す。この刃先欠損率が低いもの程、靭性(耐欠損性)に優れていることを示している。
【0235】
(断続旋削切削試験の条件)
被削材:SCM435(ブロック材3枚重ね)
切削速度:160m/min
切込み:2.0mm
送り:0.35mm/rev.
湿式/乾式:乾式
切削距離:0.5m
【0236】
【表19】

【0237】
表19より明らかなように、上記領域A1またはすくい面の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において、基層を構成する少なくとも一層が圧縮残留応力を有すると優れた靭性が示されることが分かる。しかも、この圧縮残留応力が大きくなる程より優れた靭性が示される。
【0238】
なお、表19中「*」の印を付したものが実施例であるが、各実施例のものは刃先に被削材が溶着することもなく、また被削材表面も良好な光沢を示すものであったのに対して、各比較例は刃先への被削材の溶着が顕著であり、被削材加工面も全く光沢を有しなかった。
【0239】
また、刃先交換型切削チップNo.312−2、337−2は、逃げ面摩耗量の低減、被削材の溶着防止あるいは被削材加工面の光沢向上には効果を有したが、靭性を大幅に改善することはできなかった。すなわち、刃先交換型切削チップの刃先靭性の向上は、被削材の溶着を防止することによってもある程度の効果を得ることは可能であるが、上記のような刃先の特定部位に圧縮残留応力を付与することにより刃先の靭性を飛躍的に向上できることが明らかとなった。
【0240】
以上の結果、本発明の実施例である刃先交換型切削チップが、各比較例の刃先交換型切削チップに比し、優れた効果を有していることは明らかである。
【0241】
一方さらに、上記で製造した刃先交換型切削チップNo.337と同様の製造方法において、上記領域A1に対してブラストの程度(処理時間およびワーク(刃先交換型切削チップ)とノズルとの距離)を変えてブラスト法による処理を実施し、上記領域A1および領域A2の面粗度Raを表20のものとする本発明の刃先交換型切削チップNo.337−6、No.337−7、No.337−8およびNo.337−9を製造した(いずれの刃先交換型切削チップも本発明の実施例である)。なお、面粗度Raはレーザー顕微鏡(VK−8510、(株)キーエンス製)により測定した。測定箇所は上記R/2部位とし、上記領域A1については刃先稜線からの垂直方向の距離xの1/2となる地点(すなわち領域A1の中央部)とし、上記領域A2については領域A1と領域A2の境界線から領域A2側に垂直方向に上記距離xの1/2に等しくなる距離だけ入った地点とした。また、測定距離は100μmとした。なお、残留応力は、上記と同様(すなわち図13のスポットTを測定領域とするもの)にして測定した。
【0242】
そして、これらの刃先交換型切削チップNo.337、No.337−6、No.337−7、No.337−8およびNo.337−9について上記と同条件によるフライス切削試験を行ない、試験開始0.1mの被削材の面粗度Rz(JIS B0601:2001)を上記実施例1と同様にして測定するとともに、上記と同様にして逃げ面摩耗量および刃先欠損率(断続旋削切削試験による)を測定した。それらの結果を表20に示す。
【0243】
【表20】

【0244】
表20より明らかなように、上記領域A1および領域A2の面粗度RaをそれぞれAμmおよびBμmとした場合、A/Bの値が小さくなる程被削材の面粗度Rzはより良好なものとなった。
【0245】
これらの結果より、刃先交換型切削チップにおいて被削材との間で溶着現象を抑制し、被削材の外観が阻害されることを防止するためには、上記領域A1の面粗度RaをAμmおよび領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bとすることが有効であり、このA/Bの値をさらに小さくして、0.8>A/B、さらに0.6>A/Bとすることがより有効となる。
【0246】
また、付与された圧縮残留応力が大きくなる程、良好な刃先欠損率を示した。
なお、本実施例は、チップブレーカが形成されている刃先交換型切削チップの場合について示したが、チップブレーカが形成されていない刃先交換型切削チップに対しても有効である。
【0247】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0248】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0249】
1 刃先交換型切削チップ、2 すくい面、3 逃げ面、4 刃先稜線、5 被削材、6 切り屑、7 貫通孔、8 本体、9 コーナー、10,11 変色区域、12 基層、13 使用状態表示層、14 コーティング。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体(8)と、該本体(8)上に形成された基層(12)と、該基層(12)上の部分に形成された使用状態表示層(13)とを有する刃先交換型切削チップ(1)であって、
前記本体(8)は、少なくとも1つのすくい面(2)と、少なくとも2つの逃げ面(3)と、少なくとも1つの刃先稜線(4)と、少なくとも1つのコーナー(9)とを有し、
前記逃げ面(3)と前記すくい面(2)とは、前記刃先稜線(4)を挟んで繋がり、
前記コーナー(9)は、2つの前記逃げ面(3)と1つの前記すくい面(2)とが交差する交点であり、
前記基層(12)は、前記使用状態表示層(13)と異なった色を呈し、
前記使用状態表示層(13)は、少なくとも1つの前記逃げ面(3)上に形成され、
前記使用状態表示層(13)が形成された逃げ面(3)は、前記コーナー(9)を少なくとも1つ含む少なくとも2mm2の一箇所以上の領域A1を除く領域A2の全面または部分の前記基層(12)上に前記使用状態表示層(13)が形成されていることを特徴とする刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項2】
前記領域A1および前記すくい面(2)は、前記基層(12)が表面に露出しており、かつその露出している前記基層(12)を構成する少なくとも一層は、前記領域A1または前記すくい面(2)の切削に関与する領域の少なくとも一方の領域の少なくとも一部において圧縮残留応力を有していることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項3】
前記圧縮残留応力は、その絶対値が0.1GPa以上の応力であることを特徴とする請求項2記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項4】
前記領域A1の面粗度RaをAμm、前記領域A2の面粗度RaをBμmとした場合、1.0>A/Bとなることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項5】
前記刃先交換型切削チップ(1)は、複数の刃先稜線(4)を有することを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項6】
前記使用状態表示層(13)は、前記基層(12)に比し、摩耗し易い層であることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項7】
前記基層(12)は、その最外層がAl23層またはAl23を含む層で構成されることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項8】
前記使用状態表示層(13)は、その最外層が元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、Al、Si、Cu、Pt、Au、Ag、Pd、Fe、CoおよびNiからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属(元素)またはその金属を含む合金によって形成されるか、または元素周期律表のIVa族元素、Va族元素、VIa族元素、AlおよびSiからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素とにより構成される化合物によって形成される層で構成されることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項9】
前記本体(8)は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体のいずれかにより構成されることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項10】
前記刃先交換型切削チップ(1)は、ドリル加工用、エンドミル加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップ加工用、またはクランクシャフトのピンミーリング加工用のいずれかのものであることを特徴とする請求項1記載の刃先交換型切削チップ(1)。
【請求項11】
本体(8)と、該本体(8)上に形成された基層(12)と、該基層(12)上の部分に形成された使用状態表示層(13)とを有する刃先交換型切削チップ(1)の製造方法であって、
前記本体(8)上に基層(12)を形成するステップと、
前記基層(12)上に前記基層(12)と異なる色の使用状態表示層(13)を形成するステップと、
前記本体(8)の逃げ面(3)上であって、かつコーナー(9)を少なくとも1つ含む少なくとも2mm2の一箇所以上の領域A1を少なくとも含む領域とすくい面(2)とに対して、そこに形成されている前記使用状態表示層(13)を除去するステップと、を含むことを特徴とする刃先交換型切削チップ(1)の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−206907(P2011−206907A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137627(P2011−137627)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【分割の表示】特願2006−550361(P2006−550361)の分割
【原出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】