説明

刃先交換式ドリル

【課題】切屑の排出性を向上させると共に、加工精度を向上させることができる掘削工具を提供する。
【解決手段】刃先交換式ドリルは、軸線を中心に回転するドリル本体を備えている。このドリル本体には、当該ドリル本体の一方の端部で切削した切屑を他方側へ排出する2つの切屑排出溝が形成されている。2つの切屑排出溝のうちの一方の切屑排出溝の端部には、軸線を含む位置第1のチップが着脱可能に装着される。また、他方の切屑排出溝の端部には、軸線から離れた位置に第2のチップが着脱可能に装着される。第1のチップは、軸線の方向と直交する直交方向において、相互に離れた少なくとも2箇所で切削対象物を切削して、発生する切屑を一方の切屑排出溝に排出する。第2のチップは、直交方向において、相互に離れた少なくとも2箇所で切削対象物を切削して、発生する切屑を他方の切屑排出溝に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先交換式ドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
軸線を中心に回転するドリル本体の一方の先端部に切削用チップを装着した刃先交換式ドリルが知られている。このような刃先交換式のドリルは刃先が交換できることから作業性と経済性に優れている。こうした刃先交換式ドリルとしては、一方のチップを軸線側に偏って配置し、他方のチップを回転の外周側に偏って配置したタイプが存在する。かかるタイプの刃先交換式ドリルでは、軸線側のチップ(以下、内周刃ともいう)が加工穴の内周側を切削し、外周側のチップ(以下、外周刃ともいう)が加工穴の外周側を切削する。各々のチップが切削した切屑は、各チップに対応して設けられた2つの切屑排出溝から排出される。かかる刃先交換式ドリルでは、切屑が2分割されて排出されるので、切屑の幅は加工穴の半径の半分程度となる。かかる構成によって、切屑の排出性が向上する。さらに、切刃にブレーカを付与することで切屑を細かくすることで排出性を向上させることもできる。
【0003】
さらに、かかる技術を改良して、4分割された切屑を排出する刃先交換式ドリルが知られている(例えば、下記特許文献1)。特許文献1では、チップに段差を設けた切刃を形成することで、1つのチップが切屑を2分割する。つまり、切屑は、2つのチップによって4分割されて排出されるので、切屑が細くなり、切屑の排出性がさらに向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−170308号公報
【特許文献2】特開2005−532175号公報
【特許文献3】WO94/2772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの技術では、加工精度の面で改良の余地を残していた。具体的には、上述の技術では、内周刃が加工穴の内側を切削し、外周刃がその外周を切削することとなる。ここで、ドリルの特性上、加工穴の外周から穴の中心に向けて、切削速度が線形的にゼロに向かう。このため、内周刃に作用する力は、外周刃に作用する力よりも大きくなる。このように作用力が内周と外周との間で偏ることによって、回転ぶれが生じやすくなる。かかる問題は、ドリルの高速回転加工時に顕著となる。すなわち、高速回転加工時には、回転ぶれによって、加工穴が所望のサイズよりも大きくなってしまうおそれがあった。上述の問題の少なくとも一部を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、切屑の排出性を向上させると共に、加工精度を向上させることができる刃先交換式ドリルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決することを目的とし、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]軸線を中心に回転するドリル本体であって、該ドリル本体の一方の端部である切削端で切削した切屑を他方側の端部である取付端の側へ排出する2つの切屑排出溝が形成されたドリル本体と、前記切削端において、前記2つの切屑排出溝のうちの一方の切屑排出溝の前記軸線を含む位置に着脱可能に装着される第1のチップと、前記切削端において、前記2つの切屑排出溝のうちの他方の切屑排出溝の前記軸線から離れた位置に着脱可能に装着される第2のチップとを備えた刃先交換式ドリルであって、
前記第1のチップは、前記軸線の方向と直交する直交方向において、相互に離れた少なくとも2箇所で切削対象物を切削して、発生する切屑を前記一方の切屑排出溝に排出し、
前記第2のチップは、前記直交方向において、相互に離れた少なくとも2箇所で前記切削対象物を切削して、発生する前記切屑を前記他方の切屑排出溝に排出することを特徴とする刃先交換式ドリル。
【0008】
かかる構成の刃先交換式ドリルによれば、第1のチップで切屑を2分割して切屑排出溝に排出することができる。同様に、第2のチップで切屑を2分割して切屑排出溝に排出することができる。したがって、切屑の排出性を高めることができる。しかも、第1のチップおよび第2のチップは、それぞれ、直交方向において、相互に離れた少なくとも2箇所で切削対象物を切削する。第1のチップと第2のチップとによって、加工穴の全てが形成されるので、第1のチップで切削する2箇所の間は、必ず第2のチップで切削することとなる。同様に、第2のチップで切削する2箇所の間は、必ず第1のチップで切削することとなる。このため、直交方向に沿って見れば、刃先交換式ドリルは、第1のチップで切削する箇所と、第2のチップで切削する領域とが交互に現れる部分が生じるように、切削対象物を切削することとなる。したがって、第1のチップと第2のチップとに作用する作用力の偏りが緩和される。その結果、刃先交換式ドリルの回転ぶれの発生を抑制し、加工精度を向上させることができる。
【0009】
[適用例2]適用例1記載の刃先交換式ドリルであって、前記第1のチップおよび前記第2のチップのうちの一方のチップの前記回転の方向を向く面であるすくい面は、前記直交方向から見て、2つの頂部の間に形成された凹部を備え、前記一方のチップは、前記2箇所としての、前記2つの頂部を個別に含む2つの部位で、前記切削対象物を切削し、前記第1のチップおよび前記第2のチップのうちの他方のチップは、前記2箇所としての、前記凹部に対応する位置の部位と、前記2つの頂部の外側に対応する位置の部位とで、前記切削対象物を切削することを特徴とする刃先交換式ドリル。
【0010】
かかる構成の刃先交換式ドリルによれば、第1のチップおよび第2のチップは、それぞれ、直交方向において、相互に離れた少なくとも2箇所で切削対象物を好適に切削することができる。
【0011】
[適用例3]前記凹部は、前記一方のチップの前記切削端の側の面であって、前記すくい面と連なる逃げ面の一部である2つの面が、該逃げ面の内部側において180度以上の交差角度となるように交わって形成されたことを特徴とする適用例2記載の刃先交換式ドリル。
【0012】
かかる構成の刃先交換式ドリルによれば、簡素かつコンパクトな形状で凹部を形成することができる。したがって、製造が容易である。また、ドリル本体にチップを装着する際に、すくい面におけるクランプの拘束面積を大きく確保することができるので、クランプの強度を十分に確保することができる。
【0013】
[適用例4]前記一方のチップは、略4n角形(nは3以上の整数)の平板形状を有し、該略4n角形を形成する任意の辺から該任意の辺を含めて数えて、1番目の辺と、n+1番目の辺とが垂直な位置関係であり、かつ、同一の長さを有することを特徴とする適用例2または適用例3のいずれか記載の刃先交換式ドリル。
【0014】
かかる構成の刃先交換式ドリルによれば、一方のチップは、n個の辺からなる同一形状の部位を4つ備える。このため、一方のチップを4回使い回すことができる。したがって、経済的であり、省資源化に資する。
【0015】
[適用例5]適用例4記載の刃先交換式ドリルであって、前記一方のチップを装着する前記切屑排出溝には、該一方のチップを保持するチップ座が形成され、前記取付端側に形成されたn個の辺のうちの最も長い辺が、前記チップ座の側面である第1の拘束面と当接し、前記軸線側に形成されたn個の辺のうちの最も長い辺が前記チップ座の側面である第2の拘束面と当接することを特徴とする刃先交換式ドリル。
【0016】
[適用例6]前記他方のチップは、正四角形の平板形状を有することを特徴とする適用例1ないし適用例5のいずれか記載の刃先交換式ドリル。
【0017】
かかる構成の刃先交換式ドリルによれば、他方のチップは、90度、180度、または、270度回転させても、同一の形状を備える。このため、一方のチップを4回使い回すことができる。したがって、経済的であり、省資源化に資する。
【0018】
また、本発明は、上述した刃先交換式ドリルのほか、刃先交換式ドリル用のチップ、第1のチップと第2のチップとを備えたチップセット、切削方法等としても実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の刃先交換式ドリルの実施例としての刃先交換式ドリル20の外観を示す説明図である。
【図2】刃先交換式ドリル20の外観を示す説明図である。
【図3】第1のチップ40と第2のチップ60との形状を示す説明図である。
【図4】第1のチップ40と第2のチップ60との回転軌跡を示す説明図である。
【図5】第1の比較例としての第1のチップ400aと第2のチップ600aとの回転軌跡を示す説明図である。
【図6】第2の比較例としての第1のチップ400aと第2のチップ600aとの回転軌跡を示す説明図である。
【図7】変形例としての第1のチップ140と第2のチップ160との回転軌跡を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
A.実施例:
A−1.刃先交換式ドリル20の概略構成:
本発明の実施形態について説明する。本発明の刃先交換式ドリルの実施例としての刃先交換式ドリル20の外観を図1,図2に示す。図2は、図1に示した刃先交換式ドリル20を反対側から見た図である。刃先交換式ドリル20は、軸線OLを中心に回転するスローアウェイチップ式のドリルである。図1,図2に示すように、刃先交換式ドリル20は、ドリル本体30と第1のチップ40と第2のチップ60とを備えている。なお、以下の説明において、軸線OLと直交する方向を直交方向ODともいう。
【0021】
ドリル本体30には、ドリル本体30の切削端CEから取付端AEに向かって略中央部に至るまで、2つの切屑排出溝31,32が形成されている。切削端CEは、ドリル本体30が切削対象物を切削する側の端部である。取付端AEは、切削端CEと反対側の端部である。この切屑排出溝31,32は、ドリル本体30の切削端CE側で切削した切屑を取付端AE側に排出する。本実施例では、切屑排出溝31,32は、軸線OLに沿って螺旋形状に形成されている。ただし、切屑排出溝31,32の形状は特に限定するものではない。例えば、切屑排出溝31,32は、軸線OLに沿った直線形状で形成されてもよい。
【0022】
切屑排出溝31,32の切削端CE側の端部には、第1のチップ40と第2のチップ60とが着脱可能に装着されている。第1のチップ40および第2のチップ60は、切削対象物と接触し、刃先交換式ドリル20の軸線OLを中心とする回転によって切削対象物を切削する。
【0023】
図2に示すように、第1のチップ40は、略12角形の平板形状を有している。また、図1に示すように、第2のチップ60は略正四角形の平板形状を有している。第1のチップ40と第2のチップ60とは、切削端CE側から見ると、軸線OLを挟んで直交方向OD方向に略一直線上に並んで配置されている。この第1のチップ40と第2のチップ60とが並ぶ方向を第1の直交方向OD1ともいう。第1のチップ40は、第2のチップ60よりも軸線OL側に配置されている。第2のチップ60は、第1のチップ40よりも軸線OLから離れて配置されている。つまり、第1のチップ40は、加工穴の内周側を切削し、第2のチップ60は、加工穴の外周側を切削する。このため、第1のチップ40を内周刃ともいう。また、第2のチップ60を外周刃ともいう。
【0024】
図2に示すように、第1のチップ40の軸線OLを中心とした回転方向の前方側には、すくい面41が形成されている。また、第1のチップ40の切削端CE側には、すくい面41と連なる逃げ面42が形成されている。同様に、図1に示すように、第2のチップ60の回転方向の前方側には、すくい面61が形成されている。また、第2のチップ60の切削端CE側には、逃げ面62が形成されている。なお、直交方向ODのうちの、すくい面41を正面視する方向を第2の直交方向OD2ともいう。
【0025】
A−2.第1のチップ40および第2のチップ60の形状:
上述した第1のチップ40および第2のチップ60の形状を図3に示す。図3では、刃先交換式ドリル20の切削端CEを直交方向ODから、具体的には、すくい面41を正面視する方向である第2の直交方向OD2(図2参照)から見た状態を示している。第2のチップ60については、一部分を透視図として表している。図示するように、内周刃である第1のチップ40は、軸線OLを含む位置で切屑排出溝31に装着されている。また、外周刃である第2のチップ60は、軸線OLから離れた位置で切屑排出溝32(図示省略)に装着されている。
【0026】
第1のチップ40は、第2の直交方向OD2から見ると、頂点V1〜V12を備えた略12角形の形状を有している。ここで「角」とは、凹部の頂点も含む。また、「略」とは、各頂点が面取りされた形状を含む意味である。なお、図3において、頂点V1を含めて頂点V1から数えて右回りにj(jは1〜12の整数)番目の頂点をVjとしている。かかる形状の第1のチップ40のすくい面41の外縁部には、切刃49が形成されている。第1のチップ40は、この切刃49がドリル本体30の切削端CE側の端部から突出するように切屑排出溝31に装着されている。なお、すくい面41や逃げ面42には、適宜、ブレーカが形成されていてもよい。
【0027】
第1のチップ40のすくい面41は、第2の直交方向OD2から見ると、第1の直交方向OD1に対して所定の角度で傾いて切屑排出溝31に装着されている。具体的には、頂点V1は、頂点V2よりも切削端CE側に位置している。また、頂点V2は、頂点V3よりも取付端AE側に位置している。また、頂点V3は、頂点V4よりも切削端CE側に位置している。かかる形状によって、頂点V1と頂点V3とは頂部を形成している、以下、頂点V1を頂部43ともいい、頂点V3を頂部44ともいう。
【0028】
頂部43と頂部44との間には、略V字形状の凹部45が形成されている。凹部の底部、すなわち、頂点V2を底部46ともいう。また、第1のチップ40の逃げ面42のうちの頂点V1と頂点V2との間に形成された面を面42aともいう。第1のチップ40のすくい面41のうちの頂点V2と頂点V3との間に形成された面を面42bともいう。本実施例では、面42aと面42bとは平坦形状である。凹部45は、第1のチップ40の逃げ面42のうちの面42aと面42bとが180度以上の交差角θで交わって形成されている。交差角θは、逃げ面42の内部側の交差角である。別の言い方をすれば、第2の直交方向OD2から見て、すくい面41の頂点V1〜V2間の辺稜部と、頂点V2〜V3間の辺稜部とが180度以上の交差角θで交わって、凹部45が形成されている。
【0029】
第1のチップ40において、頂点V1〜V4によって形成される形状は、頂点V4〜V7によって形成される形状、頂点V7〜V10によって形成される形状、頂点V10〜V1によって形成される形状と、それぞれ同一形状である。つまり、頂点V1〜V4によって形成される形状を右に90度回転させると、頂点V4〜V7によって形成される形状となる、同様に、頂点V1〜V4の形状を右に180度回転させると、頂点V7〜V10によって形成される形状になる。頂点V1〜V4の形状を右に270度回転させると、頂点V10〜V1によって形成される形状となる。換言すれば、第1のチップ40の略12角形は、当該略12角形を形成する任意の辺から当該任意の辺を含めて数えて、1番目の辺と、4番目の辺とが垂直な位置関係であり、かつ、同一の長さとなっている。
【0030】
このような形状の第1のチップ40は、頂点V1〜V4の切刃49が摩耗または損傷した場合、90度ずつ回転させて切屑排出溝31に装着し直すことによって、合計4回使い回すことができる。したがって、経済的であり、省資源化に資する。
【0031】
かかる形状の第1のチップ40のすくい面41の中央部には、貫通孔48が形成されている。貫通孔48は、クランプネジ(図示省略)を挿入するための孔である。つまり、第1のチップ40は、貫通孔48に挿入されたクランプネジによって、切屑排出溝31に着脱可能に装着される。
【0032】
かかる第1のチップ40は、切屑排出溝31に形成されたチップ座33に収容されている。チップ座33は、第1のチップ40を収容し、保持するために切屑排出溝31の内部側を切り欠いた形状を有している。チップ座33の側面のうち、取付端AE側の側面である第1の拘束面34と、軸線OL側の側面である第2の拘束面35とは、第1のチップ40の傾きに合わせた傾きで形成されている。
【0033】
第1のチップ40をチップ座33に収容し、クランプネジによって切屑排出溝31に取り付けた状態では、第1のチップ40の頂点V7〜V10によって形成される取付端AE側の3つの辺のうち、最も長い辺、すなわち、頂点V9〜V10によって形成される辺は、第1の拘束面34と当接する。同様に、第1のチップ40の頂点V4〜V7によって形成される軸線OL側の3つの辺のうち、最も長い辺、すなわち、頂点V6〜V7によって形成される辺は、第2の拘束面35と当接する。つまり、チップ座33は、第1の拘束面34および第2の拘束面35で第1のチップ40と当接することによって、第1のチップ40を強固に拘束する。
【0034】
このように第1のチップ40は、取付端AE側の辺のうち、最も長い辺で第1の拘束面34と当接し、軸線OL側の辺のうち、最も長い辺で第2の拘束面35と当接するので、高い拘束力で切屑排出溝31に装着される。このため、第1のチップ40を含めたチップ座33の高い剛性が得られ、加工精度を高めることができる。
【0035】
第2のチップ60のすくい面61は、第2の直交方向OD2と反対の方向から見ると、略正四角形の形状を備えている。かかる形状の第2のチップ60のすくい面61の外縁部には、切刃69が形成されている。第2のチップ60は、この切刃69がドリル本体30の切削端CE側の端部から突出するように切屑排出溝32(図示省略)に装着されている。また、第2のチップ60は、すくい面61が、略正四角形のうちの対向する2辺が軸線OLに対して垂直になるように切屑排出溝32に装着されている。なお、すくい面61や逃げ面62には、適宜ブレーカが形成されていてもよい。
【0036】
このような形状の第2のチップ60は、略正四角形の1つの辺の切刃69が摩耗または損傷した場合、90度ずつ回転させて切屑排出溝32に装着し直すことによって、合計4回使い回すことができる。したがって、経済的であり、省資源化に資する。
【0037】
かかる形状の第2のチップ60のすくい面61の中央部には、貫通孔68が形成されている。貫通孔68は、クランプネジ(図示省略)を挿入するための孔である。つまり、第2のチップ60は、貫通孔68に挿入されたクランプネジによって、切屑排出溝32に着脱可能に装着される。
【0038】
かかる第2のチップ60は、切屑排出溝32に形成されたチップ座36に収容されている。チップ座36は、第2のチップ60を収容し、保持するために切屑排出溝32の切削端CE側の一部を切り欠いた形状を有している。チップ座36の側面のうち、取付端AE側の側面は、第2のチップ60に収容時に、第2のチップ60のすくい面61の取付端AE側の辺と当接する角度、すなわち、軸線OLに対して直交する角度で形成されている。同様に、チップ座36の側面のうち、軸線OL側の側面は、第2のチップ60に収容時に、第2のチップ60のすくい面61の軸線OL側の辺と当接する角度、すなわち、軸線OLに平行に形成されている。
【0039】
かかる第2のチップ60は、すくい面61の切削端CE側の辺を直交方向OD1に伸ばした延長線が、軸線OL方向において、第1のチップ40の頂部43,44と底部46との間に位置するように切屑排出溝32に装着される。
【0040】
A−3.第1のチップ40および第2のチップ60の回転軌跡:
上述した第1のチップ40の逃げ面42と、第2のチップ60の逃げ面62との回転軌跡を図4に示す。図4は、第2の直交方向OD2、すなわち、すくい面41を正面視する方向から見た軌跡図である。図中では、第1のチップ40および第2のチップ60の軸線OLを中心とした回転半径r分の軌跡を示している。図示するように、軸線OL方向における第2のチップ60の切削端CE側の端部の位置は、第1のチップ40の頂部43,44と底部46との間に位置する。
【0041】
このため、刃先交換式ドリル20による切削は、以下のように行われる。まず、第2のチップ60よりも切削端CE側に位置する第1のチップ40が、切削対象物と接触して、頂部43を含む部位と、頂部44を含む部位とによって、直交方向ODにおいて相互に離れた内周刃切削領域IA1,IA2の切削対象物を切削する。
【0042】
その後、切削対象物の削り面が、第2のチップ60の位置まで来ると、第1のチップ40よりも取付端AE側に位置する第2のチップ60が切削対象物の残りの部分を切削する。具体的には、第2のチップ60の軌跡のうち、内周刃切削領域IA1と領域A3とは、既に第1のチップ40が切削しているので、第2のチップ60は、この領域で切削対象物を切削することはない。つまり、第2のチップ60は、内周刃切削領域IA1と領域A3とを空振りすることとなる。このため、第2のチップ60は、結果的に、第1のチップ40よりも外周側(軸線OLと反対側)の部位と、第1のチップ40の頂部43と頂部44との間に位置する底部46を含む部位に対応する部位とによって、直交方向ODにおいて相互に離れた外周刃切削領域OA1,OA2の切削対象物を切削する。
【0043】
このように、第1のチップ40は、直交方向ODにおいて、相互に離れた2箇所の内周刃切削領域IA1,IA2で、切削対象物を切削する。内周刃切削領域IA1,IA2で切削された切屑、つまり、2分割された切屑は、切屑排出溝31に排出される。同様に、第2のチップ60は、直交方向ODにおいて、相互に離れた2箇所の外周刃切削領域OA1,OA2で、切削対象物を切削する。外周刃切削領域OA1,OA2で切削された切屑、つまり、2分割された切屑は、切屑排出溝32に排出される。
【0044】
A−4.効果:
上述した刃先交換式ドリル20は、第1のチップ40で切屑を2分割して切屑排出溝31に排出することができる。同様に、第2のチップ60で切屑を2分割して切屑排出溝32に排出することができる。したがって、切屑が細くなり、その排出性を高めることができる。しかも、内周刃である第1のチップ40は、直交方向ODにおいて、相互に離れた内周刃切削領域IA1,IA2の2箇所で切削対象物を切削する。同様に、外周刃である第2のチップ60は、相互に離れた外周刃切削領域OA1,OA2の2箇所で切削対象物を切削する。このため、外周側から軸線OL側へ向かって、直交方向ODに沿って見れば、刃先交換式ドリル20は、外周刃、内周刃、外周刃、内周刃の並びで切削対象物を切削することとなる。したがって、内周刃と外周刃とに作用する作用力の偏りが緩和される。その結果、刃先交換式ドリル20の回転ぶれの発生を抑制し、加工精度を向上させることができる。例えば、刃先交換式ドリル20を高速回転で使用しても、回転ぶれを抑制して、精度良く切削加工を行うことができる。
【0045】
一方、比較例としての刃先交換式ドリルでは、このような効果を得ることはできない。第1の比較例としての刃先交換式ドリルの第1のチップ400aと第2のチップ600aの軌跡を図6に示す。この例では、内周刃である第1のチップ400aは、相対的に内周側の内周刃切削領域IA11を切削する。また、外周刃である第2のチップ600aは、相対的に外周側の外周刃切削領域OA11を切削する。つまり、第1のチップ400a、600bは、それぞれ1つの切屑を発生させるので、本願の刃先交換式ドリル20に比べて、切屑の排出性が悪い。
【0046】
また、第2の比較例としての刃先交換式ドリルの第1のチップ400bと第2のチップ600bの軌跡を図6に示す。この例では、内周刃である第1のチップ400bは、S字形状に湾曲した湾曲部410bを備えている。このため、第1のチップ400bで切削された切屑は、湾曲部410bよりも外周側の内周刃切削領域IA21と、湾曲部410bよりも軸線OL側の内周刃切削領域IA22とで2分割されて排出される。
【0047】
同様に、外周刃である第2のチップ600bは、S字形状に湾曲した湾曲部610bを備えている。このため、第2のチップ600bで切削された切屑は、湾曲部610bよりも外周側の外周刃切削領域OA21と、湾曲部610bよりも軸線OL側の外周刃切削領域OA22とで2分割されて排出される。
【0048】
このように、第2の比較例では、切屑が4分割されて排出されることとなる。このため、第2の比較例では、第1の比較例と比べて、切屑の排出性が向上している。しかしながら、外周側から軸線OL側へ向かって、直交方向ODに沿って見れば、この例では、第1のチップ400aおよび第2のチップ600bは、外周刃、外周刃、内周刃、内周刃の並びで切削対象物を切削することとなる。かかる構成によれば、切削時において、外周刃と比べて内周刃に大きな力が偏って作用するので、回転ぶれが生じやすくなる。このため、加工中に発生する回転ぶれによって、加工穴が所望のサイズよりも大きくなってしまうおそれがある。本願の刃先交換式ドリル20によれば、かかる問題の発生を効果的に抑制することができる。
【0049】
また、上述した刃先交換式ドリル20において、第1のチップ40では、一般的な四角形のチップに対し、逃げ面42の面42aと面42bとを180度以上の交差角θで交差させて、凹部45が形成される形状が付与されているのみである。このため、すくい面41の形状を簡素化することができる。したがって、第1のチップ40の製造が容易である。かかる効果は、他の形状のチップ、例えば、一般的な菱形のチップに対して、上述の凹部が形成される形状を付与する場合にも奏する。また、第1のチップ40を第1の拘束面34および第2の拘束面35に装着するための拘束面を大きく確保することができ、クランプの強度を十分に確保することができる。一方、チップ形状が複雑化すると、拘束する2面の面積を小さくせざるを得なくなり、クランプ強度が得られないおそれがある。
【0050】
また、刃先交換式ドリル20は、分離した2つのチップ、すなわち、内周刃である第1のチップ40と、外周刃である第2のチップ60とを備えている。このため、内周刃と外周刃とで、異なる材質を用いることができる。具体的には、外周刃に高速加工に耐えられる材質を用い、内周刃に低速・高負荷に耐えられる材質を用いることができる。このように、ドリルの内周側と外周側との特性に違いに応じた材質を用いれば、刃先交換式ドリル20の高機能化および高寿命化を図ることができる。
【0051】
B.変形例:
B−1:変形例1:
上述の実施形態においては、第1のチップ40の逃げ面42のうちの面42aと面42bとが180度以上の交差角θで交わって凹部45が形成される構成について示したが、凹部の形状は適宜設定すればよい。凹部は、すくい面41が正面視される方向から見て、切刃49として作用する部位のうちの一部分が取付端AE側に凹んだ形状であればよい。
【0052】
凹部の変形例を図7に示す。図7は、変形例としての第1のチップ140と第2のチップ160との回転軌跡を示している。この例では、第1のチップ140は、第1のチップ140の逃げ面142が、第2のチップ160の逃げ面162と平行な位置関係となるように配置されている。つまり、逃げ面142が直交方向ODと平行となるように、第1のチップ140は設置されている。この第1のチップ140には、頂部143,144の間に略U字形状の凹部145が形成されている。
【0053】
第2のチップ160の逃げ面162の軸線OL方向の高さは、取付端AE側を基準とすると、凹部145の底部146よりも高く、頂部143,145よりも低い位置に設定されている。かかる第1のチップ140は、実施例と同様に、直交方向ODにおいて、相互に離れた2箇所の内周刃切削領域IA1,IA2で、切削対象物を切削する。同様に、第2のチップ160は、直交方向ODにおいて、相互に離れた2箇所の外周刃切削領域OA1,OA2で、切削対象物を切削する。こうしても、実施例と同様に、切屑を4分割して、切屑の排出性を高めることができる。また、内周刃と外周刃とに作用する作用力の偏りを緩和することができる。
【0054】
B−2:変形例2:
上述の実施形態においては、第1のチップ40の1つの装着位置において、第1のチップ40の切刃49として作用する箇所に形成される凹部は1つであった。ただし、第1のチップ40に形成される凹部は2つ以上であってもよい。こうすれば、切屑をさらに細かく分割することができ、切屑の排出性をより高めることができる。例えば、凹部を2つ形成した場合には、第1のチップ40は、切屑を3分割することとなる。
【0055】
B−3:変形例3:
変形例1のように凹部を略U字形状に形成する場合や、変形例2のように凹部を2以上に形成する場合には、第1のチップのすくい面の形状は、略4n角形(nは4以上の任意の整数)とするとよい。ここで、略4n角形を形成する任意の辺から該任意の辺を含めて数えて、1番目の辺と、n+1番目の辺とが垂直な位置関係であり、かつ、同一の長さを有するように、すくい面の形状を形成するとよい。こうすれば、上述の実施例と同様に、第1のチップを4回使い回すことができる。なお、上述した実施例は、n=3のケースである。ただし、第1のチップの使い回し回数は、適宜設定すればよい。例えば、第1のチップのすくい面の形状を略3n角形として、3回使い回す構成としてもよい。
【0056】
また、この場合、略4n角形のうちの取付端AE側に形成されたn個の辺のうちの最も長い辺が、切屑排出溝31に形成されたチップ座33の第1の拘束面34と当接し、軸線OL側に形成されたn個の辺のうちの最も長い辺がチップ座33の第2の拘束面35と当接するようにしてもよい。こうすれば、実施例と同様に、チップ座33は、第1のチップを強固に拘束することができる。
【0057】
B−4:変形例4:
上述の実施形態においては、内周刃(例えば、第1のチップ40)が凹部を備える構成としたが、2つの頂部の間に凹部が形成されるチップは、外周刃であってもよい。この場合、内周刃の逃げ面の軸線OL方向の高さは、取付端AE側を基準として、外周刃に形成される凹部の底部よりも高く、2つの頂部よりも低い位置に設定すればよい。こうしても、内周刃と外周刃とは、それぞれが、直交方向ODにおいて、相互に離れた2箇所で切削対象物を切削することができる。
【0058】
もとより、内周刃と外周刃とが、直交方向ODにおいて、相互に離れた2箇所で切削対象物を切削する構成は、凹部以外の形状でも実現することができる。例えば、内周刃が凹部を備える代わりに、外周刃が、切削端CE側に突出した凸部を備えていてもよい。この場合、内周刃が切削する領域の間を外周刃の凸部が切削する構成とすればよい。あるいは、内周刃が切削端CE側に突出した凸部を備えていてもよい。この場合、この場合、外周刃が切削する領域の間を内周刃の凸部が切削する構成とすればよい。勿論、内周刃と外周刃との軸線OL方向の高さ関係によっては、内周刃および外周刃のいずれか一方が凹部を備え、他方が凸部を備える構成としてもよい。この場合、凹部と凸部とは入れ違いに配置されることが望ましい。あるいは、内周刃および/または外周刃が、凹部と凸部との両方を備える構成としてもよい。
【0059】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態における構成要素のうち、独立クレームに記載された要素に対応する要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略、または、組み合わせが可能である。また、本発明はこうした実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明は、上述した刃先交換式ドリルのほか、刃先交換式ドリル用のチップ、第1のチップと第2のチップとを備えたチップセット、切削方法等としても実現することができる。
【符号の説明】
【0060】
20…刃先交換式ドリル
30…ドリル本体
31,32…切屑排出溝
33,36…チップ座
34…第1の拘束面
35…第2の拘束面
40,140…第1のチップ
41…すくい面
42,42a,42b,142…逃げ面
43,44,143,144…頂部
45,145…凹部
60,160…第2のチップ
61…すくい面
62…逃げ面
OL…軸線
OD…直交方向
OD1…第1の直交方向
OD2…第2の直交方向
CE…切削端
AE…取付端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を中心に回転するドリル本体であって、該ドリル本体の一方の端部である切削端で切削した切屑を他方側の端部である取付端の側へ排出する2つの切屑排出溝が形成されたドリル本体と、前記切削端において、前記2つの切屑排出溝のうちの一方の切屑排出溝の前記軸線を含む位置に着脱可能に装着される第1のチップと、前記切削端において、前記2つの切屑排出溝のうちの他方の切屑排出溝の前記軸線から離れた位置に着脱可能に装着される第2のチップとを備えた刃先交換式ドリルであって、
前記第1のチップは、前記軸線の方向と直交する直交方向において、相互に離れた少なくとも2箇所で切削対象物を切削して、発生する切屑を前記一方の切屑排出溝に排出し、
前記第2のチップは、前記直交方向において、相互に離れた少なくとも2箇所で前記切削対象物を切削して、発生する前記切屑を前記他方の切屑排出溝に排出することを特徴とする刃先交換式ドリル。
【請求項2】
請求項1記載の刃先交換式ドリルであって、
前記第1のチップおよび前記第2のチップのうちの一方のチップの前記回転の方向を向く面であるすくい面は、前記直交方向から見て、2つの頂部の間に形成された凹部を備え、
前記一方のチップは、前記2箇所としての、前記2つの頂部を個別に含む2つの部位で、前記切削対象物を切削し、
前記第1のチップおよび前記第2のチップのうちの他方のチップは、前記2箇所としての、前記凹部に対応する位置の部位と、前記2つの頂部の外側に対応する位置の部位とで、前記切削対象物を切削することを特徴とする刃先交換式ドリル。
【請求項3】
前記凹部は、前記一方のチップの前記切削端の側の面であって、前記すくい面と連なる逃げ面の一部である2つの面が、該逃げ面の内部側において180度以上の交差角度となるように交わって形成されたことを特徴とする請求項2記載の刃先交換式ドリル。
【請求項4】
前記一方のチップは、略4n角形(nは3以上の整数)の平板形状を有し、該略4n角形を形成する任意の辺から該任意の辺を含めて数えて、1番目の辺と、n+1番目の辺とが垂直な位置関係であり、かつ、同一の長さを有することを特徴とする請求項2または請求項3のいずれか記載の刃先交換式ドリル。
【請求項5】
請求項4記載の刃先交換式ドリルであって、
前記一方のチップを装着する前記切屑排出溝には、該一方のチップを保持するチップ座が形成され、
前記取付端側に形成されたn個の辺のうちの最も長い辺が、前記チップ座の側面である第1の拘束面と当接し、
前記軸線側に形成されたn個の辺のうちの最も長い辺が前記チップ座の側面である第2の拘束面と当接することを特徴とする刃先交換式ドリル。
【請求項6】
前記他方のチップは、正四角形の平板形状を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか記載の刃先交換式ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−171040(P2012−171040A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34462(P2011−34462)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】