説明

分割型複合繊維

【課題】緻密性、嵩高性、発色性に富んだ繊維構造物を得るための分割型複合繊維を提供する。
【解決手段】一方が、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドのポリアミド樹脂組成物1、もう一方が、該ポリアミド樹脂組成物と親和性のない繊維形成性ポリマー2からなる分割型複合繊維。好ましい態様として、上記芳香族ポリアミドが、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを主要な構造単位とするポリアミドであることが挙げられる。また、ポリアミド樹脂組成物がナイロンMXD6とナイロン6からなること、その重量比率がそれぞれ35:65〜70:30であること、繊維形成性ポリマーがポリエステル、ポリオレフィンであることが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドを含む複数の分割された成分よりなる、柔軟で、嵩高性に富み、良好な色相を有する繊維構造物の製造に有用な分割型複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドとポリエステルからなる分割型複合繊維は、物理的、化学的処理により両成分に分割することが出来、得られる繊維構造物は、嵩高性、柔軟性、良好な色相を有することは知られている。又、分割によって得られる成分が極細のものであればその効果は一層顕著であり、加えて高密度の繊維構造物を得ることも知られている。
【0003】
分割型複合繊維の分割の方法は、例えば特公昭53−35633号公報、特公昭61−37383号公報、特開平4−272223公報にポリアミドの膨潤・収縮によるものが開示されている。特に、特公昭61−37383号の発明には、ポリアミドの膨潤・収縮を大きくすることにより繊維構造物を高密度化させる。更に収縮後のポリアミドが繊維構造物の表面に露出しないので、染色した場合に色相が鮮明であることが記載されている。
【0004】
しかしながら、これらは用いるポリアミドが通常のものであれば、ポリアミドを膨潤・収縮させる特殊な処理剤を用いなければ、ポリアミドの膨潤・収縮には限界があり、割繊性は十分なものではなかった。また、得られる繊維構造物の緻密さや嵩高性、染色性等は不満足なものであった。
【0005】
また、ポリアミドの膨潤・収縮による分割方法では、主にベンジルアルコールが用いられるが、処理後の編織物中にベンジルアルコールが残留し、染め斑が発生してしまう。また、ベンジルアルコールは高価であり、排液処理が必要である為、多大なコストがかかる。
【0006】
【特許文献1】特公昭53−35633号公報
【特許文献2】特公昭61−37383号公報
【特許文献3】特開平4−272223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような従来技術の欠点を解決するためになされたもので、本発明繊維を繊維構造物とし割繊処理をする際、用いる処理剤が低濃度のベンジルアルコール、或いはベンジルアルコールを使用しなくても、柔軟で、嵩高性に富み、良好な色相を有する繊維構造物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するため、本発明は一方が芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドのポリアミド樹脂組成物、もう一方が、該ポリアミド樹脂組成物と親和性のない繊維形成性ポリマーからなることを特徴とする分割型複合繊維を第1の要旨とする。
【0009】
本発明の好ましい態様として、上記芳香族ポリアミドが、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを主要な構造単位とするポリアミドであるものが挙げられる。
【0010】
本発明の好ましい態様として、上記分割型複合繊維のポリアミド成分が芳香族ポリアミドにナイロンMXD6を、脂肪族ポリアミドにナイロン6を用いたポリアミド樹脂組成物であるものが挙げられる。
【0011】
本発明のより好ましい態様として、上記ポリアミド成分のナイロンMXD6とナイロン6の重量混合比率がそれぞれ35:65〜70:30であるものが挙げられる。特に好ましい態様として、上記ポリアミド成分のナイロンMXD6とナイロン6の重量混合比率がそれぞれ14:44〜44:45であるものが挙げられる。
【0012】
本発明の好ましい態様として、該ポリアミドと親和性のない繊維形成性ポリマーがポリエステルであるものが挙げられる。ポリエステルであれば、アルカリ溶解加工を施した際にポリエステルの一部が溶解し、加熱されたアルカリ溶液がポリアミド成分を包み込むことによって、十分な収縮性能を得ることが出来る。
【0013】
本発明のより好ましい態様として、該ポリアミドと親和性のない繊維形成性ポリマーがポリオレフィンであるものが挙げられる。ポリオレフィンはポリアミドとの接着性が小さいため、熱水によって割繊することが出来る。
【発明の効果】
【0014】
本発明の分割型複合繊維は、ポリアミド成分として芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドとのポリアミド樹脂組成物を用いているため、ポリアミド成分の収縮性能が大きい。従来のベンジルアルコール処理は、ポリアミドを膨潤・収縮させることによって複数成分に分割させるが、本発明の分割型複合繊維は収縮性能の大きいポリアミド成分を用いる為、ベンジルアルコール処理での膨潤後の収縮性能が高く、割繊されやすくなる。従って、低濃度のベンジルアルコール、またはアルコール以外の膨潤作用のない処理剤でも、良好な割繊性を示す。そして得られる繊維構造物は、緻密性、嵩高性に富み、風合い良好なものとなる。更に、分割後の繊維が超極細繊維であれば、繊維製造物はより柔軟で緻密なものとなる。
【0015】
また、本発明の分割型複合繊維を用いた繊維構造物は良好な色相を有する。通常の2成分以上からなる分割型複合繊維を用いた繊維構造物を染色した場合、各成分の色相を完全に一致させることは困難であり、くすんだ色相になってしまう。一方、本発明の繊維を用いた繊維構造物は、ポリアミド成分が大きく収縮して表層に露出しない。従って繊維構造物の表層からはポリアミド成分が見えず、表層は他成分のみによって覆われているので、鮮明な色相の繊維構造物を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるポリアミド樹脂組成物は、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドのポリアミド樹脂組成物であることが必要である。上記ポリアミド樹脂組成物は収縮性能が大きいため、低濃度のベンジルアルコール、或いは膨潤作用のないアルコール以外の処理剤(例えば、アルカリ溶解処理、熱水処理)でも良好な割繊性を示す。そして処理後の繊維構造物は、緻密性、嵩高性に富み、風合い良好なものとなる。一方、ポリアミド成分が芳香族ポリアミドのみ、或いは脂肪族ポリアミドのみの場合、収縮性能が小さいため風合い良好な繊維構造物を得ることが出来ない。
【0017】
脂肪族ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン4などがあり、単独、或いはこれらを主成分とする共重合ポリアミドなど公知の繊維形成性の分子量をもつポリアミドである。中でもナイロン6は大量に製造されてコスト的に有利であり本発明に好ましく用いられる。
【0018】
ポリアミド樹脂組成物に用いられるポリアミドは、溶融紡糸の安定操業性の観点から、相対粘度が1.8以上であることが好ましい。より好ましくは相対粘度が2.2以上、特に好ましくは相対粘度が2.5以上である。また、相対粘度の上限は特に限定されないが、溶融紡糸の安定操業性の観点から、3.5までで十分である。
【0019】
本発明繊維は、芳香族ポリアミドが、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを主要な構造単位とするポリアミドであることが好ましい。上記の芳香族ポリアミドを用いれば収縮性能はより大きくなるため、割繊処理後に得られる繊維構造物は、緻密性、嵩高性に富み、風合い良好なものとなる。
【0020】
本発明に用いられるポリアミド樹脂組成物は、芳香族ポリアミドがナイロンMXD6、脂肪族ポリアミドがナイロン6であることが好ましい。上記のポリアミド樹脂組成物は収縮性能が特に大きいため、割繊処理後に得られる繊維構造物は、緻密性、嵩高性に富み、風合い良好なものとなる。
【0021】
上記ナイロンMXD6とナイロン6を用いる場合は、ナイロンMXD6とナイロン6の重量混合比率がそれぞれ35:65〜70:30であることがより好ましく、45:55〜55:45であることが特に好ましい。上記の重量比率で混合されたポリアミド樹脂組成物は収縮性能が特に大きいため、割繊処理後に得られる繊維構造物は、緻密性、嵩高性に富み、風合い良好なものとなる。
【0022】
ポリアミド樹脂組成物と親和性のない繊維形成性ポリマーに好ましく用いられるポリマーとしてはポリエステルとポリオレフィンが挙げられる。
【0023】
ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンオキシベンゾエート、ポリ1,4−ジメチルシクロヘキサンテレフタレート、及びそれらを主成分とするコポリエステル等が知られている。一方、ポリオレフィンでは、ポリエチレン、ポリプロピレン及びそれらを主成分とするコポリオレフィンなどがある。この他のポリマーも適宜用いることが出来る。
【0024】
ポリエステルであれば、アルカリ溶解加工を施した際にポリエステルの一部が溶解し、加熱されたアルカリ溶液がポリアミド成分を包み込むことによって、十分な収縮性能、割繊性能を得ることが出来るので好ましい。中でも、ポリエチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0025】
ポリオレフィンはポリアミドとの接着性が小さいため、熱水によって容易に割繊されるので好ましい。中でも、ポリプロピレンが好ましく用いられる。
【0026】
ポリアミド樹脂組成物と親和性のない繊維形成性ポリマーとしてポリエステルを用いる場合は、溶融紡糸の安定操業性の観点から、極限粘度が0.4以上であることが好ましい。より好ましくは0.5以上、特に好ましくは0.6以上である。また、極限粘度の上限は特に限定されないが、溶融紡糸の安定操業性の観点から、1.0までで十分である。
また、ポリオレフィンを用いる場合、メルトマスフローレート(JIS−K7210:99試験法)が5g/10min〜50g/10minであることが好ましい。より好ましくは10g/10min〜30g/10minである。
【0027】
ポリアミド樹脂組成物に用いられるポリアミド、ポリアミド樹脂組成物と親和性のない繊維形成性ポリマーの水分率(ppm)は特に限定されず、適宜決定することが出来る。
紡糸操業性の観点から、ポリアミドは紡糸時の水分率が500ppm以下のものを用いるのが好ましい。より好ましくは300ppm以下、特に好ましくは200ppm以下である。また、ポリエステルなら紡糸時の水分率が200ppm以下のものが好ましく、より好ましくは100ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。
【0028】
ポリマーには、紡糸操業性を良好にするために無機粒子を含有することが好ましい。そのための無機粒子は数多く存在し、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、アルミナなどが挙げられる。紡糸操業性に支障がなければ、添加する無機粒子は特に限定されないが、分散性やコストパフォーマンスの観点より酸化チタンが好ましく用いられる。無機粒子を糸重量に対し0.1重量%〜3.0重量%添加することが好ましく、0.3重量%〜1.0重量%が特に好ましい。
【0029】
上記無機粒子を用いる場合、粉末あるいは粒子の平均粒子径は、0.01μm〜10μmが好ましく、0.05μm〜2μmが特に好ましい。この範囲であると、粒子の凝集が起こりにくくなるため、糸ムラが生じにくくなり、安定した強度を得ることができる。
【0030】
また、必要に応じてポリアミド成分及び/又は他の成分に、艶消剤、顔料、帯電防止剤、抗菌剤、遠赤外線放射粒子など公知の添加剤が配合されてもよい。
【0031】
ポリアミド樹脂組成物を製造する際の混合方法は特に限定されない。例えば、容器でナイロンMXD6ポリマーとナイロン6ポリマーのチップをかき混ぜたり、或いは混練したりすればよい。
【0032】
本発明繊維を得るための紡糸方法、延撚方法は特に限定されない。コンベンショナル方式での紡糸後に延撚や、紡糸直接延伸法などを適宜決定することが出来る。また延伸方法も特に限定されず、一段延伸や多段延伸など適宜決定することが出来る。
【0033】
紡糸条件は、ポリマーの相対粘度や操業性の観点から適宜決定することが出来る。一例として、次のような例を紹介する。ポリアミド成分として、相対粘度が3.0のナイロン6ポリマーと、相対粘度2.7のナイロンMXD6ポリマーを混合して、ポリマー樹脂組成物を製造する。また、ポリアミドと親和性のない繊維形成性ポリマーとして極限粘度0.60のポリエチレンテレフタレートを用いて、コンベンショナル法にて溶融紡糸して未延伸糸を得る。この場合、押出し温度(℃)は280℃〜295℃が好ましく、283℃〜292℃が特に好ましい。また、紡糸巻取り速度(m/min)は500m/min〜2000m/minが好ましく、800m/min〜1700m/minが特に好ましい。
【0034】
コンベンショナル法によって巻き取られた後の延撚条件は特に限定されない。一段延伸、多段延伸や、ローラーヒーター/ローラーヒーターの延伸、ローラーヒーター/プレートヒーターの延伸など、適宜決定することが出来る。
【0035】
一例として、上記のコンベンショナル法での溶融紡糸によって得た未延伸糸を延撚する場合、ローラーヒーターとプレートヒーターを用いるなら、ローラーヒーターは60℃〜90℃が好ましく、70℃〜85℃が特に好ましい。そしてプレートヒーターは130℃〜170℃が好ましく、145℃〜160℃が特に好ましい。
【0036】
延伸倍率は紡糸速度(m/min)に合わせて設定するのが好ましい。紡糸速度と延伸倍率をバランス良く決定することによって、得られる繊維の強度、伸度を調整することが出来、製織性に優れた繊維を得ることが出来る。例えば、紡糸速度を1500m/minとしたとき、延伸倍率は2.0倍〜2.4倍にすることが好ましく、2.1倍〜2.3倍とすることが特に好ましい。
【0037】
延伸速度(m/min)は操業性の観点から500m/min〜1000m/minが好ましく、600m/min〜900m/minが特に好ましい。また、スピンドル回転数(rpm)は、延伸速度に対応した値にすることが好ましい。延伸速度に見合うスピンドル回転数を適宜決定することによって、適当な撚り数となり、良好な操業性、良好な収縮性能を得ることが出来る。スピンドル回転数(rpm)は延伸速度(m/min)の8倍〜12倍の回転数(rpm)とすることが好ましい。
【0038】
本発明繊維の繊度(dtex)は特に限定されず、紡糸可能な範囲で適宜決定することが出来る。高密度織物の製造には、経糸および緯糸の総繊度が30dtex〜300dtexであることが好ましい。より好ましくは40dtex〜200dtex、特に好ましくは50dtex〜150dtexである。ただし、繊度が小さすぎる場合は糸としての収縮性能が小さいものとなるため、十分に収縮し得る繊度とすることが好ましい。
【0039】
本発明繊維の繊度はどのようなものでもよいが、分割後の成分の少なくとも一部、好ましくは全部が、0.5dtex以下の繊度であるような超極細繊維であれば、得られる繊維構造物はより柔軟性、緻密性に富んだものになる。より好ましくは0.3dtex以下、特に好ましくは0.2dtex以下である。
【0040】
本発明繊維の断面形状は、上記ポリアミド樹脂組成物と、ポリアミドと親和性のない繊維形成性ポリマーとが単一繊維の横断面において、一方の成分が他方の成分を完全に包含しない形状で、単一繊維の長手方向に沿って接合されている形であることが好ましい。具体的には、図1のようなサイドバイサイド型分割型複合繊維、図2のようなサイドバイサイド繰返し型分割型複合繊維、図3、図4のような放射状に接合された分割型複合繊維、図5のような中空環状型分割型複合繊維等が例として挙げられる。
【0041】
本発明繊維は、破断強度(cN/dtex)が3.50cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは4.00cN/dtex以上、特に好ましくは4.50cN/dtex以上である。繊維強度が高いことによって、織物とする際は糸切れを起こすことなく緻密性の高い織物を製織することが出来る。
【0042】
本発明繊維は、破断伸度(%)が25%〜55%であることが好ましい。より好ましくは25%〜45%、特に好ましくは30%〜40%である。上記の破断伸度であれば、製織などの操業性が良好となる。
【0043】
以下に本発明繊維を用いて繊維構造物を得る方法のひとつを紹介する。
本発明での繊維構造物とは、本発明の分割型複合繊維を少なくともその一部、好ましくは20%以上用いた織物、経編物、丸編物、不織布、植毛布等である。また、該分割型複合繊維は他の単独成分からなる合成繊維と混繊や合撚しても良く、また交織、交編しても良い。同様に綿、羊毛、絹等の天然繊維と交撚、交織、交編しても良い。
【0044】
本発明の分割型複合繊維の割繊処理方法としては公知の方法が種々あり、ベンジルアルコール或いはフェニルエチルアルコール等の乳化水溶液によりポリアミドを膨潤・収縮させることにより、ポリアミドと、ポリアミドと親和性のない繊維形成性ポリマーとを分割させる方法、或いは加撚等物理的な力によって両成分を剥離させる方法等が良く知られている。
【0045】
物理的な割繊方法としては、しごき、ねじり、衝撃等種々あり、例えば仮撚加工により繊維にねじりや熱を与え、両成分を剥離する方法がある。本発明繊維に用いられるポリアミド樹脂組成物は、熱による膨潤、収縮も大きいので仮撚加工によっても割繊処理を効率よく行うことができる。
【0046】
その他の方法として、アルカリ溶解による方法がある。この方法は、ポリエステルを用いたときに使用される。加熱したアルカリ水溶液中に本発明繊維を浸し、ポリエステルの一部を溶解させ、同時にポリアミド成分を収縮させることによって割繊させる方法である。また、ポリオレフィンを用いたときは、ポリアミドとの接着性が小さいため、熱水のみで割繊させることが出来る。
【0047】
アルカリ溶解による処理の条件は、0.5%〜5.0%の水酸化ナトリウム溶液を使用することが好ましい。より好ましくは1.0%〜3.0%、特に好ましくは、1.0%〜2.0%である。処理温度は85℃〜100℃が好ましく、90℃〜98℃がより好ましく、95℃〜97℃が特に好ましい。また、処理時間は5min〜50minが好ましく、10min〜35minがより好ましく、20min〜30minが特に好ましい。高濃度アルカリ溶液であれば処理時間は短時間、低濃度アルカリ溶液であれば処理時間は長時間となる。
【0048】
更に、本発明の分割型複合繊維を用いた繊維構造物には、必要に応じて、親水加工、制電加工、撥水加工、撥油加工、防汚加工等公知の後加工を施すこともできる。
【0049】
本発明の分割型複合繊維を用いた繊維構造物は、コート、ブルゾン等の一般衣料、透湿防水衣料等ファッション性や機能性に富んだ衣料用途、眼鏡拭きを始めとする種々のワイピングクロス、濾過布、テント、自動車用のエアーバッグ等の産業資材用途等多くのものに適している。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【0051】
A.相対粘度、極限粘度の測定
粘度の測定は、柴山科学機械製作所製の自動粘度測定装置(SS−600−L1型)を用いて測定する。相対粘度は、溶媒に95.8%濃硫酸を用いて、ポリマーを1g/dlの濃度で溶解させて、恒温槽25℃にて測定する。極限粘度は、溶媒にフェノール/テトラクロロエタン(体積比率6/4)を用いて、恒温槽20℃にて測定する。
【0052】
B.破断強度、破断伸度の測定
JIS−L−1013に準じ、島津製作所製のAGS−1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重−伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とする。
【0053】

C.沸騰水収縮率の算出
沸騰水収縮率の算出方法は以下の通りである。まず繊維を折り返し、折り返した位置に0.2gの荷重を吊るす。室温で10分間放置してその繊維長を測定した後、沸騰水に20分間浸ける。沸騰水から取り出したものを室温で10分間放置した後、収縮後の繊維長を測定する。沸騰水収縮率Δwは以下の式で求められる。
Δw=[(L0−L1)/L0]×100(%)
L0:0.2gの荷重をかけた状態での収縮前の繊維長
L1:0.2gの荷重をかけた状態での収縮後の繊維長
【0054】
〔実施例1〕
相対粘度2.7のナイロンMXD6と、相対粘度3.0のナイロン6を重量比率50:50で混合したポリアミド樹脂組成物をA成分とする。一方、極限粘度0.61のポリエチレンテレフタレートをB成分とする。
【0055】
A成分:B成分が容積比1:2の割合で、紡糸温度295℃、紡糸速度1500m/minで、A成分が放射状部を構成するように溶融複合紡糸し、ほぼ図4と同様の断面の未延伸糸を得た。この際、A成分は、溶融后スタティックミキサーを介して計量ポンプに供給した。そして、得られた未延伸糸をローラーヒーター85℃、プレートヒーター150℃、延伸速度2.50倍で延伸し、110dtex/50fの分割型複合繊維を得た。
【0056】
そして、この延伸糸を用いて、28ゲージ、直径10cmの筒編機によって、筒編物を得た。得られた筒編物を、2%水酸化ナトリウム水溶液に、95℃で30分間浸漬し、水洗することによって、分割、収縮処理を施した。得られた編物は嵩高性があり、良好な風合いを示した。
【0057】
また、ポリアミド成分の沈みの程度を調べるために、ポリアミド成分のみを酸性染料によって濃色に染色した筒編物のL値(明度)を測定し、表面から見えるポリアミド繊維の量を調べた。即ちポリアミド成分の収縮率が大きければポリアミド繊維の沈みこみが大きく、表面には染っていないポリエチレンテレフタレートが多くなり、L値は大きくなる。
表1に得られた編物の収縮率とL値を示す。表から明らかなように、大きく収縮し崇高性があり、染色されたナイロン成分は表層からは殆んど見えず、L値も大きくなった。
【0058】
<ポリアミド成分の違いによる、操業性、物性、割繊性評価>
〔実施例2、3、比較例1、2〕
ポリアミド成分のナイロンMXD6とナイロン6の重量比率を変化させる以外は、実施例1記載の方法で繊維を製造し、各種評価を行った。
【0059】
【表1】

【0060】
比較例1は、ポリアミド成分が脂肪族ポリアミド(ナイロン6)のみからなるものであり、比較例2はポリアミド成分が芳香族ポリアミド(ナイロンMXD6)のみからなるものである。このようにポリアミド成分が単独成分からなる場合は、その収縮率が小さく、割繊処理後に得られる繊維構造物も嵩高性不良であった。一方、本発明に準ずる実施例1〜3を用いた編物は、表から明らかなように、大きく収縮し崇高性があり、染色されたナイロン成分は表層からは殆んど見えず、L値も大きくなった。
【0061】
<ポリアミド成分の違いによる、処理後風合い評価>
実施例1〜3、比較例1、2のフィラメントを筒編み加工し、実施例1と同様の方法でアルカリ溶解処理を施した。処理後サンプルの風合い評価結果を表2に示す。なお、風合いは官能評価で、柔らかく、嵩高感のあるものを風合い良好とし、○(良好)、×(不良)の評価とした。
【0062】
【表2】

【0063】
アルカリ溶解処理後のサンプルの風合い評価を行った結果、比較例1、2では、アルカリ溶解処理では、十分に収縮されず、風合い不良であった。一方、本発明に準ずる実施例1〜3は、アルカリ溶解加工で十分収縮、割繊し、嵩高性のある良好な風合いを示した。
【0064】
次に、ベンジルアルコール5%処理を行った。処理条件は、ベンジルアルコール5重量%、サンモールBK−Conc(活性剤、日華化学(株)製)0.5重量%からなる乳化水溶液に25℃で3分間浸漬し、次いでピックアップ80%に絞って、5分間放置した後、102℃の飽和水蒸気にて5分間の湿熱処理を行い、次いで水洗する、という工程で行った。その結果、比較例1、2では十分に割繊、収縮されず、風合いが不良であった。一方、本発明に準ずる実施例1〜3は、5%という低濃度ベンジルアルコールでも十分な収縮性能を示し、良好な風合いであった。
【0065】
<B成分の違いによる、処理後風合い評価>
〔実施例4〕
B成分をポリプロピレンとし、処理方法を98℃の熱水に10分間浸漬とする以外は、実施例1記載の方法で繊維を製造し、各種評価を行った。結果を表2に示す。
【0066】
ポリオレフィンはポリアミドとの接着性が小さいため、熱水によって容易に割繊、収縮された。そして風合いも柔らかく嵩高性のある良好なものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の分割型複合繊維を用いた繊維構造物は、コート、ブルゾン等の一般衣料、透湿防水衣料等ファッション性や機能性に富んだ衣料用途、眼鏡拭きを始めとする種々のワイピングクロス、濾過布、テント、自動車用のエアーバッグ等の産業資材用途等、多くのものに適している。さらに、低濃度のアルコール、或いはアルコール以外の割繊方法を施しても良好な風合いを得ることが出来るため、低コスト、低環境負荷の製品の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】分割型複合繊維の横断面の形状(サイドバイサイド型)。
【図2】分割型複合繊維の横断面の形状(サイドバイサイド繰返し型)。
【図3】分割型複合繊維の横断面の形状(放射型)。
【図4】分割型複合繊維の横断面の形状(放射型)。
【図5】分割型複合繊維の横断面の形状(中空環状型)。
【符号の説明】
【0069】
1:ポリアミド成分
2:ポリアミドと親和性のない繊維形成性ポリマー成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方が、芳香族ポリアミドと脂肪族ポリアミドのポリアミド樹脂組成物、もう一方が、該ポリアミド樹脂組成物と親和性のない繊維形成性ポリマーからなることを特徴とする分割型複合繊維。
【請求項2】
芳香族ポリアミドが、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを主要な構造単位とするポリアミドである請求項1記載の分割型複合繊維。
【請求項3】
ポリアミド樹脂組成物がナイロンMXD6ポリマーとナイロン6ポリマーからなる、請求項1記載の分割型複合繊維。
【請求項4】
ナイロンMXD6ポリマーとナイロン6ポリマーの重量比率がそれぞれ35:65〜70:30である、請求項3記載の分割型複合繊維。
【請求項5】
ポリアミド樹脂組成物と親和性のない繊維形成性ポリマーがポリエステルである請求項1〜4いずれかに記載の分割型複合繊維。
【請求項6】
ポリアミド樹脂組成物と親和性のない繊維形成性ポリマーがポリオレフィンである請求項1〜4いずれかに記載の分割型複合繊維。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−202210(P2008−202210A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58747(P2008−58747)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【分割の表示】特願2005−313536(P2005−313536)の分割
【原出願日】平成17年10月27日(2005.10.27)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】