説明

分子状分析物を分離する方法およびデバイス

異なる等電点(pI)を有する複数の分子状分析物の混合物を分離する方法。この方法は、複数の分子状分析物の混合物を含有する溶液を分離体積部に入れること、複数のpH帯域を有するpHプロフィルを前記分離体積部の軸に沿って生じさせること、および、前記pHプロフィルのプロフィルを、前記複数の分子状分析物のうちの第1の分子状分析物が前記複数の分子状分析物のうちの第2の分子状分析物から離れて前記軸に沿って移動することを誘導するために調節すること、ただし、前記第1および第2の分子状分析物は異なるpIを有することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年8月26日に出願されたPCT/IL2008/001159(2009年3月5日に公開されたPCT公開No.WO2009/027970)、米国仮特許出願No.61/272,110(2009年8月18日出願)、及び米国仮特許出願No.61/349,919(2010年5月31日出願)を参考として組み入れる。
【0002】
本願は、2009年8月18日に出願した米国仮特許出願No.61/272,110及び2010年5月31日に出願した米国仮特許出願No.61/349,919の利益を主張する。
【0003】
技術分野
本発明は、そのいくつかの実施形態において、分子の分析および分離に関連し、より具体的には、しかし、限定ではないが、エレクトロフォーカシングを使用する分子の分析および分離のための方法に関連する。
【背景技術】
【0004】
等電点フォーカシングは、分析物サンプルにおける分子を、分子の異なるイオン的性質を利用することによって分離するための分析技術である。
【0005】
等電点フォーカシングは通常、固定化されたプロトン濃度勾配、一般には、所与の方向でより高いpHからより低いpHにまで変化するプロトン濃度勾配を有する電解質溶液(場合によっては、例えば、ポリアクリルアミド、デンプンおよび/またはアガロースに基づくゲル形態での電解質溶液)において行われる。一部の実施では、溶液は、電場のもとでpHプロフィルを生じさせる両性電解質を含有する。等電点フォーカシングでは、分離が、分離距離全体を占め、かつ、勾配におけるpHが陽極から陰極に向かって増大するpHプロフィルにおいて生じる。使用時において、分析物が電解質溶液におけるある場所に負荷される。それぞれの異なる分子の電荷が、分子の様々な官能基の酸性度(pKa)に従って周囲のプロトン濃度に応答して変化する。
【0006】
電位が、等電点フォーカシング陽極と、等電点フォーカシング陰極との間でプロトン濃度勾配と平行に加えられる。正味の正電荷を有する分子が電解質溶液を通って陰極に向かって移動し、一方、正味の負電荷を有する分子が電解質溶液を通って陽極に向かって移動する。
【0007】
これらの分子が移動するにつれ、周囲のpHが変化して、分子における正味の電荷を減少させ、ついには、分子が、周囲のpHのためではあるが、分子における正味の電荷がゼロとなる等電点(pI)に達する。pIは、特定の分子または表面が正味の電荷を持たないpHである。この地点で、移動中の分子は、ゼロの電荷を有するので停止する。そのような様式において、等電点フォーカシングは、特定のpIを有する分子を電解質溶液の比較的狭い体積に集中させる。等電点フォーカシングは、タンパク質をその酸性度に従って特徴づけることによってタンパク質の分析のために有用である。より重要なことであるが、等電点フォーカシングは、タンパク質の混合物を分離するために有用である。
【0008】
国際特許出願公開番号WO2009/027970(2009年3月5日発行、これは参照によって本明細書中に組み込まれる)は、プロトンの局所的濃度、プロトン濃度勾配および所望されるプロトン濃度トポグラフィーを、電解質を含む環境(例えば、電解質溶液またはゲルなど)において生じさせる際に有用な方法およびデバイスを記載する。この特許出願はまた、等電点フォーカシングのための方法およびデバイスを開示する。
【0009】
本発明のいくつかの実施形態によれば、異なる等電点(pI)を有する複数の分子状分析物の混合物を分離する方法が提供される。本方法は、複数の分子状分析物の混合物を含有する溶液を分離体積部に入れること、複数のpH帯域を有するpHプロフィルを前記分離体積部の軸に沿って生じさせること、および、pHプロフィルのプロフィルを、前記複数の分子状分析物のうちの第1の分子状分析物が前記複数の分子状分析物のうちの第2の分子状分析物から離れて前記軸に沿って移動することを誘導するために調節すること(ただし、前記第1および第2の分子状分析物は異なるpIを有する)を含む。
【0010】
場合によっては、前記pHプロフィルは、異なるpHレベルを有する少なくとも2つのpH段差帯域を有し、前記複数の分子状分析物が、前記調節することの前に、実質的に均一なpHを有する前記少なくとも2つのpH段差帯域の間に閉じ込められ、前記調節することが、前記少なくとも2つのpH段差帯域のうちの1つにおけるpHを変化させることを含む。
【0011】
場合によっては、前記調節することが、時間において徐々に行われる。
【0012】
場合によっては、前記pHプロフィルは少なくとも1つの傾斜部によって定義され、前記複数の分子状分析物が前記少なくとも1つの傾斜部に蓄積する。
【0013】
場合によっては、前記生じさせることは、電場を前記軸に沿って前記溶液において加えること、および、複数のイオン流を前記軸に沿った複数の地点において注入して、前記pHプロフィルを確立することを含む。
【0014】
場合によっては、前記方法は、前記pHプロフィルを安定化させるように少なくとも1つの緩衝剤要素を前記溶液に加えることを含む。
【0015】
場合によっては、前記方法は、前記第1の分子状分析物を、前記第2の分子状分析物が前記分離体積部に留まっている間に回収することを含む。
【0016】
場合によっては、前記方法は、前記プロフィルを、前記第2の分子状分析物が前記複数の分子状分析物のうちの第3の分子状分析物から離れて前記軸に沿って移動することを誘導するために調節すること(ただし、前記第2および第3の分子状分析物は異なるpIを有する)を含む。
【0017】
場合によっては、前記調節することは、前記プロフィルを、前記第1および第2の分子状分析物が前記軸に沿って反対方向に移動することを誘導するために調節することを含む。
【0018】
場合によっては、前記調節することは、前記プロフィルを、前記軸に沿った前記移動の方向を変化させて、その結果、前記第1の分子状分析物が2つの向かい合う方向で連続してドリフト移動するようにするために調節することを含む。
【0019】
場合によっては、前記複数のpH帯域は、実質的に均一な第2のpHを有する中間段差帯域によって区分けられる実質的に均一な第1のpHを有する2つの段差帯域を有し、前記混合物が、前記2つの段差帯域のうちの1つと、前記中間段差帯域との間に閉じ込められ、前記調節することが、前記中間段差帯域におけるpHを変化させることを含む。
【0020】
場合によっては、前記複数のpH帯域は、少なくとも3つの異なるpH帯域を含み、前記調節することが、前記第1の分子状分析物が前記複数のpH帯域の第1の対の間における第1の傾斜帯域に移動し、かつ、前記第2の分子状分析物が前記複数のpH帯域の第2の対の間における第2の傾斜帯域に移動することを誘導するように徐々に行われる。
【0021】
場合によっては、前記溶液は緩衝化される。
【0022】
場合によっては、前記方法は、前記混合物における1つまたは複数の分子状分析物の等電点を提供し、前記溶液を等電点に従って設定し、これにより、前記溶液の緩衝剤濃度を前記等電点に従って決定すること、および、前記溶液を前記決定することに従って設定することを含む。
【0023】
場合によっては、前記調節することは、前記第1および第2の分子状分析物を前記軸に沿って互いに離れて集束させることを含む。
【0024】
さらなる場合によっては、さらに、前記第1および第2の集束させた分子状分析物を前記軸に沿った異なる場所から別々に回収することを含む。
【0025】
場合によっては、前記生じさせることは、前記pHプロフィルを一組の代数式に従って計算することを含む。
【0026】
場合によっては、前記調節することは、前記pHプロフィルについての少なくとも1つの調節を一組の代数式に従って計算し、前記調節することを前記少なくとも1つの調節に従って行うことを含む。
【0027】
本発明のいくつかの実施形態によれば、異なる等電点(pI)を有する複数の分子状分析物の混合物を分離する方法が提供される。本方法は、複数の分子状分析物の混合物を含有する溶液を分離体積部に入れること、前記複数の分子状分析物を、前記溶液を含有する分離体積部において2つのpH段差帯域の間に閉じ込めること(ただし、それぞれの前記pH段差帯域が、異なる実質的に均一なpHを有する)、および、前記2つのpH段差帯域のうちの1つにおけるpHを、前記複数の分子状分析物が複数の別個の群で連続して移動することを誘導するために徐々に変化させること(ただし、それぞれの前記群が異なるpIを有する)を含む。
【0028】
場合によっては、前記閉じ込めることは、前記2つのpH段差帯域を確立するために、電場を前記溶液において加えること、および、複数のイオン流を少なくとも1つの地点において注入することを含む。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態によれば、分子状分析物をそれらの等電点に基づいて分離する方法が提供される。本方法は、複数のpH帯域を有するpHプロフィルを、複数の分子状分析物を有する溶液において生じさせること、および、前記pHプロフィルのプロフィルを、前記複数の分子状分析物がそれらのそれぞれの等電点に従って空間的に分離されることを誘導するために一定の期間にわたって徐々に変化させることを含む。
【0030】
本発明のいくつかの実施形態によれば、異なる等電点(pI)を有する複数の分子状分析物の混合物を分離するデバイスが提供される。本デバイスは、複数の分子状分析物を有する溶液を含有するためのサイズおよび形状を有する、軸に沿う容器と、電場を前記溶液において軸に沿って加える電源と、複数のイオン流を注入して、前記溶液の複数の帯域をプロトン化することおよび脱プロトン化することの少なくとも一方に至ることによって、pHプロフィルを前記溶液において前記軸に沿って確立するための複数のイオン源と、前記pHプロフィルを徐々に調節して、その結果、それぞれの前記分子状分析物が前記軸に沿って別々に移動することを誘導するようにするために前記複数のイオン源を操作するコントローラとを含む。
【0031】
場合によっては、前記デバイスはさらに、コンピュータユニットおよび使用者のうちの少なくとも1つからの複数の指示を受け取るためのインターフェースを含み、ただし、前記コントローラにより、前記複数のイオン源が前記複数の指示に従って操作される。
【0032】
場合によっては、前記容器は1ミリメートル未満の少なくとも1つの大きさを有する。
【0033】
場合によっては、前記溶液は非ゲル溶液である。
【0034】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術的用語および/または科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等である方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、例示的な方法および/または材料が下記に記載される。矛盾する場合には、定義を含めて、本特許明細書が優先する。加えて、材料、方法および実施例は例示にすぎず、限定であることは意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本明細書では本発明のいくつかの実施形態を単に例示し添付の図面を参照して説明する。特に詳細に図面を参照して、示されている詳細が例示として本発明の実施形態を例示考察することだけを目的としていることを強調するものである。この点について、図面について行う説明によって、本発明の実施形態を実施する方法は当業者には明らかになるであろう。
【0036】
【図1】図1は、本発明のいくつかの実施形態による、分子状分析物をそれらの等電点に基づいて分離する方法のフローチャートである。
【0037】
【図2A−2E】図2A−2Eは、本発明のいくつかの実施形態による動的pHプロフィル、および、一定の期間にわたって容器における溶液に存在する分子状分析物に対するその影響を概略的に例示するグラフィック図である。
【0038】
【図3A】図3Aは、本発明のいくつかの実施形態による、分子状分析物をそれらの等電点に基づいて分離体積部において分離する例示的な分離デバイスの側面図の概略図である。
【0039】
【図3B】図3Bは、本発明のいくつかの実施形態による、その流路に沿って存在するpHセンサーのアレイを有する図3Aに示されるような例示的な分離デバイスの側面図の概略図である。
【0040】
【図4A−4E】図4A−4Bは、本発明のいくつかの実施形態に従って、図2A−図2Eに示される移動とは逆である方向への分子状分析物の移動を誘導するために調節されるpHプロフィルの概略図である。図4C−図4Eは、本発明のいくつかの実施形態に従って、分子状分析物の二方向の動きを誘導するために調節されるpHプロフィルの概略図である。
【0041】
【図4G−4K】図4G−4Kは、本発明のいくつかの実施形態による動的な多段階pHプロフィル、および、一定の期間にわたって容器における溶液に存在する分子状分析物に対するその影響を概略的に例示するグラフィック図である。
【0042】
【図5A−5G】図5A−5Gは、本発明のいくつかの実施形態に従って、分子状分析物がどのように、pHプロフィルの端部の近くに位置するpH傾斜帯域に向かって連続的にドリフト移動させられるかを図示する概略図である。
【0043】
【図6】図6は、本発明のいくつかの実施形態による、異なるpIを有する分子状分析物をpHプロフィルに沿って比較的大きい速度で別々にドリフト移動させる方法である。
【0044】
【図7A−7E】図7A−7Eは、本発明のいくつかの実施形態に従って、分子状分析物がどのように、動的pHプロフィルに沿って比較的大きい速度でドリフト移動させられるかを図示する概略図である。
【0045】
【図8A−8E】図8A−8Eは、本発明のいくつかの実施形態に従って、分子状分析物がどのように、動的pHプロフィルに沿って比較的大きい速度でドリフト移動させられるかを図示するさらなる概略図である。
【0046】
【図9A−9D】図9Aは、本発明のいくつかの実施形態による、分子状分析物をそれらのpIに基づいて分離する例示的なデバイスの概略図である。図9B−9Dは、本発明のいくつかの実施形態による図9Aの例示的なデバイスにおいて使用され得る例示的なイオン源の概略図である。
【0047】
【図10A−10H】図10Aおよび10Eは、本発明のいくつかの実施形態によるプロトン注入およびヒドロキシル注入の場合において、非緩衝化溶液を有する容器(例えば、図3に示される容器など)を関連した電流密度と一緒に示す。図10B−10Dおよび図10F−10Hは、本発明のいくつかの実施形態による、軸に沿った動的pHプロフィル(例えば、図10Aおよび図10Eに示される動的pHプロフィルなど)をそれぞれ示す。
【0048】
【図11A−11D】図11Aおよび11Cは、本発明のいくつかの実施形態によるプロトン注入およびヒドロキシル注入の場合において、緩衝化溶液を有する容器(例えば、図3に示される容器など)を関連した電流密度と一緒に示す。図11Bおよび図11Dは、本発明のいくつかの実施形態による、軸に沿ったpHプロフィル(例えば、図11Aおよび図11Cに示されるpHプロフィルなど)を示す。
【0049】
【図12】図12は、本発明のいくつかの実施形態による、電気電流における変化と、緩衝化溶液および非緩衝化溶液のpHとの間の相関を示すグラフである。
【0050】
【図13】図13は、本発明のいくつかの実施形態による、電気電流における変化と、3つの緩衝剤(それらのうちの2つが2つのプロトン化状態を有し、1つが3つのプロトン化状態を有する)を有する溶液におけるpHとの間の相関を示すグラフである。
【0051】
【図14】図14は、本発明のいくつかの実施形態による、緩衝化溶液を1つまたは複数の分子状分析物のために設定する方法のフローチャート1400である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本発明は、そのいくつかの実施形態において、分子の分析および分離に関連し、より具体的には、しかし、限定ではないが、エレクトロフォーカシングを使用する分子の分析および分離のための方法に関連する。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態によれば、異なる等電点(pI)を有する分子状分析物の混合物を時間的に分離する方法およびデバイスが提供される。本方法は、異なるpH帯域を有するpHプロフィルを、分子状分析物(例えば、タンパク質など)の混合物を伴う溶液を含む分離体積部において生じさせることに基づく。pHプロフィル(これは場合によっては段階的である)が形成された後で、そのプロフィルが、分子状分析物がそれらのそれぞれのpIに従って空間的に分離されることを誘導するために、一定の期間、徐々に変化させられる。場合によっては、プロフィルは、異なるpIを有する別個の動きを共通の軸(例えば、pHプロフィル軸など)に沿って誘導するように変化させられる。異なるpIを有する分子状分析物が、向かい合う方向で同時または連続して、および/あるいは、共通の方向で連続してドリフト移動し得る。場合によっては、プロフィルは、pHプロフィルの実質的に安定したpHを有する1つまたは複数の段差帯域においてpHを徐々に増減することによって変化させられる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態によれば、異なるpIを有する複数の分子状分析物の混合物を分離するデバイスが開示される。本デバイスは、複数の分子状分析物を有する溶液を含有するために所定のサイズおよび形状を有する、軸に沿う容器、例えば、約1ミリメートル以下の平均直径を有する流路、例えば、100×3×0.3mmの切断断面を有する流路を含む。本デバイスはさらに、電場を溶液において軸に沿って、例えば、流路の軸に沿って加える高電圧電源装置を含む。本デバイスはさらに、pHを分離体積部のいくつかの帯域において上げ下げするイオン流を注入することによってpHプロフィルを溶液において軸に沿って確立するために設定されるイオン源を含み、例えば、イオン源は、米国仮特許出願第61/272110号(2009年8月18日出願)において定義されるようなものであり得る。イオン源は、それぞれの分子状分析物のそれぞれ1つが、場合によっては連続するが、軸に沿って別々に移動することを誘導するようにpHプロフィルを徐々に調節するために複数のイオン源を操作するコントローラに接続される。場合によっては、コントローラは、使用者が、pHプロフィルを生じさせるための指示を与え、また、pHプロフィルを、分子状分析物の移動を誘導するために動的に変化させることを可能にするコンピュータユニットおよび/またはインターフェース(例えば、マニュアルインターフェースなど)に接続される。
【0055】
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳しく説明する前に、本発明は、その適用において、下記の説明に示されるか、および/または図面および/または実施例において例示される構成要素および/または方法の組み立ておよび構成の細部に必ずしも限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施形態が可能であり、または様々な方法で実施または実行されることが可能である。
【0056】
次に、図1が参照される。図1は、本発明のいくつかの実施形態による、分子状分析物をそれらの等電点(pI)に基づいて分離する方法50のフローチャートである。本明細書中で使用される場合、分子状分析物は、プロトン化/脱プロトン化を受け得る分子、生体分子(例えば、タンパク質、ペプチド、ペプチドに基づく医薬化合物および生体分子に基づく医薬化合物など)、および、pHに依存する物体(例えば、コロイドなど)または何らかの他の荷電分子を意味する。分離が、場合によっては、分子状分析物を含む溶液(例えば、電解質溶液など)において、分離体積部に沿って行われる。
【0057】
最初に、51において示されるように、異なるpH段差帯域を有するpHプロフィルが、分子状分析物の混合物を伴う溶液において生じさせられる。pHプロフィルが特定の軸の端から端まで形成される(この軸は本明細書中ではpHプロフィル軸として示されることがある)。電気的電位が、例えば、下記で記載されるように、イオン流を誘導するためにpHプロフィル軸に沿って加えられる。pHプロフィルが、混合物の分子を異なるpH段差帯域の間におけるpH傾斜帯域に閉じ込められるように形成される。例えば、図2Aは、3つの分子状分析物(これらは、丸で囲まれた数字(1、2および3)により表される)が、高pH段差帯域と、低pH段差帯域との間の傾斜部に存在するpHプロフィルを示す。場合によっては、pHプロフィルが、図3Aおよび図3Bに関連して下記で記載されるようなデバイスを使用して生じさせられる。分子状分析物(例えば、タンパク質など)は、プロトン濃度が高い低pH値では正の電荷を有し、プロトン濃度が低い高pH値では負の電荷を有すると推測される。pHプロフィルは、pHレベルを、例えば、図3Aおよび図3Bの数字102などにおいて示されるように、上記溶液を含有する容器の異なる帯域に沿って制御することによって確立することができる。この制御を、pH段差帯域におけるプロトン濃度を調節することによって達成することができる。
【0058】
次に、52において示されるように、pHプロフィルのプロフィルが、分子状分析物の1つまたは複数が、例えば、pHプロフィル軸に沿って、それらの等電点に基づいて移動することを誘導するために調節される。pHプロフィルの調節により、分子状分析物のそれらのpIに基づく可動化がもたらされる。それぞれの分子状分析物がpHプロフィル軸に沿ってドリフト移動し、ついには、それぞれの分子状分析物が、そのpHが正味の電気的電荷を携行させないpH帯域に達する。この帯域において、その局所的pHはそのpIに等しく、その結果、分子状分析物のドリフト移動速度がほぼゼロに低下し、分子状分析物は停止する。下記でさらに記載されるように、そのような移動は、異なるpIを有する複数の別個の分子状分析物群をpHプロフィル軸の端から端まで形成する。場合によっては、分離は、外部電場の存在下における荷電分子状分析物の移動度特性(例えば、そのドリフト移動速度)に基づく。これらの特性はそれらの電荷に比例しており、したがって、pHプロフィル軸に沿った帯域における変化するpHに沿って変化する。
【0059】
場合によっては、pHプロフィルが時間的に制御される。例えば、pHプロフィルが、ある期間に沿ったモニターされている間隔で徐々に調節される。異なるpIを有する異なる分子状分析物は異なるドリフト移動速度を有するので、pHプロフィルに沿ったそれらの移動の速さが異なる。そのようなものとして、分子状分析物が特定のプロフィルにおけるpHプロフィルに沿って特定の距離を移動するために要する時間により、そのpIが示される。そのようなものとして、異なる分子状分析物が、特定のプロフィルを有するpHプロフィルに沿った特定の目標場所に到達する順番により、その相対的pI値が示される。そのうえ、ドリフト移動速度が分子状分析物毎に異なるので、分子状分析物の群を、分子状分析物の群を分離体積部においてpHプロフィル軸に沿って異なる速度で可動化することによって分離することができる。
【0060】
本明細書中で使用される場合、一定の期間中に制御可能に調節されるpHプロフィルは動的pHプロフィルとして示される。動的pHプロフィルを分離体積部において確立することによって、分子状分析物は、空間的に分離されるのではなく、すなわち、異なるpH帯域に対して分離されるのではなく、時間的に分離され、すなわち、異なる時間枠で分離体積部における共通の場所に到達するように分離される。例えば、pHプロフィルを上記のように変化させることにより、分離体積部における特定の帯域への分子状分析物の到達を時間的に分離することが可能となる。このことは、下記でさらに記載されるように、その前方で可動化される分子状分析物をプローブ探査するためのプローブ探査ユニット、または、その前方で可動化される分子状分析物を診断するための診断ユニットを設置することを可能にする。pHプロフィルが特定の静的プロフィルで設定されるとき、分子状分析物はそれに沿って特定の場所に停止させられる。pHプロフィルのプロフィルが動的に徐々に変化させられるとき、特定の帯域における時間依存的pH変化が、異なる分子の間における時間での分離をもたらすので、分子状分析物が連続して放出される。pHプロフィルのゆっくりした変化によって、接近したpI値を有する2つの分子の、特定のpH傾斜帯域(タンパク質が分離前にこの傾斜帯域に濃縮される)からの放出時間における分離を任意に大きくすることができ、このことは、任意に小さいpI差によって特徴づけられるタンパク質の分離をもたらす。そのような分離が空間的に達成される。
【0061】
次に、図3Aが参照される。図3Aは、本発明のいくつかの実施形態による、分子状分析物をそれらの等電点(pI)に基づいて分離体積部において分離する例示的な分離デバイス100の側面図の概略図である。この分離は、分子状分析物を別々に診断および/または回収することを可能にする。分離デバイス100は、時間依存的なpH閉じ込めを溶液において有する時空的pHプロフィル、すなわち、動的pHプロフィルをもたらす。pHプロフィルが、pHをpH段差帯域の1つに対して変化させることによって調節されるとき、一部の分子状分析物が閉じ込めから放出され、一方、一部は閉じ込められたままである。そのような様式で、異なる分子状分析物を互いに分離させることができる。分離デバイス100は、分離体積部を規定し、かつ、溶液(例えば、電解質溶液など)を含有する容器102のごく近くにアレイとして場合によっては配置される複数のイオン源101を含む。容器102は本明細書中では流路および/またはフォーカシング用流路として示されることがある。下記でさらに記載されるように、イオン源101は、容器102の複数の異なる帯域において複数のイオン流を容器102に供給することによってpHプロフィルを溶液において確立するために設置される(ただし、それぞれのイオン流により、異なる帯域のpHレベルが変化させられる)。それぞれのイオン源101が、pHプロフィルが確立される容器102内の分離体積部におけるそれぞれのpH帯域においてpHを変化させる。場合によっては、イオン源101は、イオン流を生じさせ、そのイオン流をフォーカシング用流路102に注入することによって、pHレベルを、容器102の長さ軸99と平行するpHプロフィル軸、または、それと平行する任意の他の軸に沿った異なる帯域において制御する。場合によっては、例えば、米国仮特許出願第61/272110号(2009年8月18日出願、これは参照によって本明細書中に組み込まれる)に記載されるように、イオン源101はpH発生器であり、容器はフォーカシング用流路である。
【0062】
図3Aに示されるように、容器102の左側面および右側面のそれぞれ1つが、供給リザーバーとして示されることがある溶液受器(103、104)に接続される。電解質溶液受器の一方103が陰極105に接続され、他方104が陽極106に接続され、陰極105および陽極106は高電圧電源装置108に接続され、高電圧(HV)を分離体積部に沿って容器102において加えるために設定される。場合によっては、システム100はさらに、主電流源108および/またはイオン源101を場合によっては別々に制御するコントローラ110を含む。コントローラ110は、pHをそれぞれの帯域において変化させることをイオン源101の一部またはすべてに指示することによってpHプロフィルを変化させることができる。
【0063】
3つだけのイオン源101が示されるが、分離デバイス100は任意の数のイオン源101(例えば、4個、8個、12個、16個、20個、100個、あるいは、任意の中間の数またはより多くの数)を有し得ることには留意しなければならない。
【0064】
場合によっては、図3Bにおいて示されるように、また、米国仮特許出願第61/272110号(2009年8月18日出願、これは参照によって本明細書中に組み込まれる)に記載されるように、pHセンサー313のアレイが、コントローラ110およびプロトン/ヒドロキシル源101と一緒にフィードバックループを閉じるために、流路に沿って置かれる。使用時において、流路102は、場合によって下記のように選択される溶液により満たされる。その後、コントローラには、溶液に加えられる特定の混合物を分離するために適する所望される動的pHプロフィルを形成するための指示が与えられる。場合によっては、コントローラ110は、動的pHプロフィルを手動で提供することを可能にするユーザーインターフェースに接続される。別の実施形態において、コントローラ110に接続されるコンピュータユニット(示されず)により、動的pHプロフィルが、例えば、プローブ探査された分子状分析物のpIに基づいて、場合によっては下記の式を使用して、自動的に計算される。次に、HV電源装置108が、分離体積部において、例えば、300Vの電位差を維持するために始動させられる。その後、コントローラ110はイオン源101を使用者の入力および/またはコンピュータユニットに従って操作し、そして、pHセンサー313が存在するならば、フィードバックループを作動させて、所望されるpHプロフィルを時間とともに維持する。後者が確立されるとき、混合物が、場合によっては容器102の面の1つに位置するローダーを介して流路102に挿入される。その後、分子状分析物が流路102の内部のpHおよび電場に従って移動する。後者が移動し、集束するにつれ、使用者はpHプロフィルを所望される動的pHプロフィルに従って再設定する。その後、コントローラ110は、受け取った指示に従ってイオン源101をリアルタイムで操作する。本明細書中で使用される場合、リアルタイムは、pHプロフィルを、数秒を超えるコンピュータ遅延を伴うことなく調節することを意味する。最後に、下記でさらに記載されるように、移動している分子状分析物が収集ユニットにより別々に回収されるか、または、流路に沿った位置でプローブ探査される。この分離デバイス100は、既存の等電点フォーカシングデバイスと比較した場合、数多くの好都合な特徴を有する。例えば、本デバイスは、ゲルおよび/または両性電解質非含有溶液を使用することを可能にし、このことは、より大きい精製収率およびより短い精製時間を容易にする。そのうえ、本分離デバイス100は、それぞれの流出している分子が、その分子が精製されるまで約1ミリメートル(mm)のほんの短い距離を移動し、これにより、精製時間を比較的短くするように設計することができる。加えて、分離戦略のいくつかにおいては、分子が共通の軌跡に沿って移動し、このことにより、収集ユニットおよび/または診断ユニットの設計および/または操作が簡略化される。これらのユニットは、分子のすべてが取り出され得るか、またはプローブ探査され得る規定された地点に配置することができる。最後に、pHプロフィルは、最適な精製プロセスをどの生体分子混合物に対しても行うために時間的および/または空間的に適し得る。
【0065】
そのような分離デンバイス100は、分子状分析物の一部が容器102における分離体積部に形成されるpHプロフィルに沿って移動することを誘導することによって分子状分析物を分離するために使用することができる。
【0066】
例えば、次に図2A〜図2Eが参照される。図2A〜図2Eは、本発明のいくつかの実施形態による動的pHプロフィル、および、一定の期間にわたって容器102における溶液に存在する分子状分析物に対するその影響を概略的に例示するグラフィック図である。2つのイオン源101が、図2Aに示されるpHプロフィルを確立するために設定される。上記で概略されるように、図2Aは、3つの異なる分子状分析物を、pHプロフィルの高pH段差帯域と、低pH段差帯域との間のpH傾斜帯域において示す。これら3つの帯域の空間的大きさは、10マイクロメートルから何センチメートル(cm)(例えば、10cm、20cm、50cm、あるいは、任意の中間の数字またはより大きい数字)までであるように選択することができ、一方、pH傾斜帯域の典型的な大きさは数十マイクロメートルである。電場が、陰極105および陽極106によって、数字201によって示される方向で加えられる。pHプロフィルにおけるpH傾斜帯域202が、pHを容器の様々な帯域において変化させて、その結果、pHレベルが下記のように規定されることによって規定される:

上記において、pH(I)〜pH(III)は、高pH段差帯域、pH傾斜帯域および低pH段差帯域におけるpHレベルをそれぞれ示し、pI1〜pI3は、第1、第2および第3の分子状分析物のpIをそれぞれ示す。図2Aにおいて、3つの分子状分析物(例えば、3つのタンパク質)の混合物が、段差帯域Iまたは段差帯域IIIのどちらかに注入された後でpH傾斜帯域IIにおいて濃縮される。分子状分析物は、これらが高pH段差帯域(例えば、帯域Iなど)に挿入されるならば、負の電気的電荷を有することが推測され、したがって、低pH段差帯域に向かって電場の方向とは反対にドリフト移動する。分子状分析物が低pH段差帯域(例えば、帯域IIIなど)に注入されるならば、分子状分析物は、正の電荷を有するとして推測され、したがって、高pH側のpH段差帯域に向かって電場の方向でドリフト移動する。どちらの場合にせよ、分子状分析物は、溶液に形成される電場においてドリフト移動して、pH傾斜IIとして表されるpH傾斜帯域に向かい、このpH傾斜帯域において、それらのpIがそのpHレベルにあり、したがって、分子状分析物は電気的な正味の電荷を携行しないので、分子状分析物が閉じ込められる。低pH段差帯域は、分子状分析物が正の電荷を獲得することを誘導し、高pHプラトー部は、分子状分析物が負の電荷を獲得することを誘導するので、分子状分析物の分子が閉じ込められる。
【0067】
次に、図2Bにおいて示されように、pHプロフィルが、分子状分析物のうちの1つが移動することを誘導するために調節される。示された例では、pHプロフィルが変化させられ、その結果、帯域IIIにおけるpHが、pI3と、pI2との間における中間の値に、すなわち、pH(I)>pI1>pI2>pH(III)>pI3である点にまで上げられる。このプロフィルのもとでは、第3の分子状分析物は負に荷電し、その結果、電場の流れ方向に逆らって、例えば、図2Cにおいて示されるように、pHプロフィルのpH傾斜帯域から低pH段差帯域の右端に向かってドリフト移動するようになる。明確化のために、図2A〜図2Eにおけるドリフト移動方向が黒塗り矢印により表され、電場が、記号Eを伴う矢印によって表される。同時に、第1および第2の分子状分析物はpH傾斜帯域に留まる。このとき、第3の分子状分析物を、例えば、容器102の分離体積部の右手側で回収および/またはプローブ探査することができる。第2の分子状分析物を第1の分子状分析物から分離するために、低pH段差帯域におけるpHがさらに、例えば、図2Dにおいて示されるように、pH1と、pH2との間における中間の値に、すなわち、pH(I)>pI1>pH(III)>pI2>pI3である点にまで上げられる。今回は、第2の分子状分析物が負に荷電し、その結果、第2の分子状分析物が第1および第3の分子状分析物とは別に回収および/または診断され得るpHプロフィルの右端に向かってドリフト移動するようになる。最後に、図2Eにおいて示されるように、高pH段差帯域におけるpH値が、pI1を超える値に上げられ、第1の分子状分析物が負に荷電し、その結果、第1の分子状分析物が第3および第2の分子状分析物とは別に回収および/または診断され得るpHプロフィルの右端に向かってドリフト移動するようになる。明らかなことではあるが、どのような数の分子状分析物も、回収時間および/または診断時間が、回収および/または診断された分子状分析物のpIと時間的に同期され得るこの様式で別々に回収および/または診断することができる。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態によれば、分離デバイス100はpHプロフィルを徐々に変化させる。例えば、分離デバイス100は、pHを帯域の1つにおいて、例えば、高pH段差帯域において、時間とともに単調に、例えば、直線的に増加させる。そのような様式では、分子状分析物が、図2Eにおいて示されるように、別個のドリフト移動するバンド(これは群として示されることがある)を形成した状態で、連続して放出される。これらのバンドの間における空間的分離が、特定の帯域(例えば、低pH段差帯域など)のpHにおける任意にゆっくりした増大によって任意に大きくすることができ、したがって、バンド間のpI分離における任意に大きい分解能を得ることができる。場合によっては、これら3つのバンドを、従来のフラクションコレクターによって、および/または、他のタンパク質収集技術によって、pHプロフィルの右端と一致する領域の右端で別個の群として回収することができる。加えて、または、代替において、これら3つのバンドを、従来の分子プローブによって、および/または、他の分子プロービング技術によって、pHプロフィルの右端と一致する領域の右端で別個に診断することができる。
【0069】
pHプロフィルは、反対方向への分子状分析物の移動を、例えば、図4Aおよび図4Bにおいて示されるように、帯域の1つまたは複数のpHを下げることによって誘導するために、場合によっては徐々にではあるが、調節され得ることには留意しなければならない。例えば、pHプロフィルが、帯域IのpHを低下させることによって分子状分析物(例えば、上記分子状分析物の第1および第2の分子状分析物)の移動を誘導するために調節される。示された例では、pHプロフィルが変化させられ、その結果、帯域IにおけるpHが、pI1と、pI2との間において、その後、pI2と、pI3との間において中間の値に、すなわち、pI1>pH(I)>pI2>pI3>pH(III)であり、その後、pI1>pI2>pH(I)>pI3>pH(III)である点にまで下げられる。
【0070】
場合によっては、図4Cにおいて示されるように、pHプロフィルが、2つの向かい合う方向への分子状分析物の移動を誘導するために変化させられる。例えば、図1Aに示される上記pHプロフィルは、同時的および/または徐々にであれ、帯域IのpHを低下させ、帯域IIIのpHを上げることによって、向かい合う方向への分子状分析物(例えば、上記分子状分析物の第1および第2の分子状分析物)の移動を誘導するために調節される。
【0071】
分子状分析物が、特定の帯域に濃縮されることなく分離され得ることには留意しなければならない。例えば、図4Dに示されるように、分離が、あるpH段差帯域において生じ得るが、このとき、この帯域におけるpHはその中における分子状分析物のpIと異なる。分子状分析物Iが正であり、分子状分析物IIおよび分子状分析物IIIが負であり、したがって、異なる方向に移動するので、分離が、分子状分析物Iと、分子状分析物IIおよび分子状分析物IIIとの間で形成される。
【0072】
同じ戦略を、例えば、図4Eにおいて示されるように、第2の分子状分析物を中間のpH傾斜帯域に保持しながら、第1の分子状分析物を左側に、第3の分子状分析物を右側に放出させ、これにより、それらを異なるpH傾斜部において捕獲するために適用することができる。
【0073】
次に、図4G〜図4Kが参照される。図4G〜図4Kは、本発明のいくつかの実施形態による動的な多段階pHプロフィル、および、一定の期間にわたって容器における溶液に存在する分子状分析物に対するそれらの影響を概略的に例示するグラフィック図である。示された実施形態において、いくつかのpH傾斜帯域が、それらのpHに基づいて連続して配置される異なるpH段差帯域の間に形成される。これは、異なるpIを有する分子状分析物を、pHプロフィル軸に沿った異なる場所から、および/または、pHプロフィル軸に沿った異なる場所において収集および/または診断することを可能にする。そのような多段階pHプロフィルは、従来のタンパク質バンド収集方法によって収集することが容易である十分に規定されたタンパク質バンドを形成することを可能にする。図4Gは、pH(I)>pI1>pI2>pI3>pH(III)を満たす図2Aと同一である。図4Hにおいて、低pH段差(これは帯域IIIとして表される)が、pI3と、pI2との間において中間の値に、すなわち、pH(I)>pI1>pI2>pH(III)>pI3である点にまで上げられる。さらなるpH傾斜帯域(これはIVとして示される)および別のpH段差帯域(これはVとして示される)が、図4Hにおいて示されるように、帯域IIIの右側に形成され、その結果、pI3>pH(V)であるようにされる。そのようなpHパターン、すなわち、pH(I)>pI1>pI2>pH(III)>pI3>pH(V)のもとでは、第3の分子状分析物が負に荷電し、その結果、右端に向かってドリフト移動して、図4Iにおいて示されるように、pH傾斜部IVに閉じ込められる。第1および第2の分子状分析物はpH傾斜帯域IIに閉じ込められたままである。pHが、pH(I)>pI1>pH(III)>pI2>pI3である点へpH段差帯域IIIにおいてさらに上げられると、第3のpH傾斜帯域および第3のpH段差帯域(これらはそれぞれ、図4JではVIおよびVIIとして表される)が形成され、その結果、pH(I)>pI1>pH(III)>pI2>pH(VII)>pI3>pH(V)であるようにされる。第2の分子状分析物が閉じ込めから放出され、pH傾斜帯域VIにおいて捕獲されるまで右端に向かってドリフト移動する。今回は、これら3つの分子状分析物のそれぞれ1つが、図4Kにおいて示されるように、異なるpH傾斜帯域において捕獲され、また、これら3つの分子状分析物のそれぞれ1つを直接に診断および/または収集することができ、ならびに/あるいは、右端で回収されるために、場合によっては異なった時間で別々に放出させることができる。
【0074】
そのような実施形態において、分離が、イオンを特定のパターンに従って流路に単に注入することによって行われる。これは、分子状分析物(例えば、タンパク質など)を流路に沿ったいくつかの所(それぞれがpH傾斜帯域にある)に集束させることを可能にする。集束させることが、分子状分析物を別々に回収および/または診断する前に行われる。そのような様式で、収率を増大させることができ、また、異なるタンパク質を、異なる事前設定された場所に何度も集束させることができ、その結果、収集ユニットが、固定された場所で収集することができる。
【0075】
pHプロフィルの左端に向かう分子状分析物の移動を誘導することが、1つまたは複数の帯域のpHが低下させられるときに同様に行われ得ることには留意しなければならない。例えば、図5A〜図5Gは、分子状分析物(例えば、種々のタンパク質など)がどのように、pHプロフィルの左端の近くに位置する傾斜部に向かって連続してドリフト移動させられるかを示す。これらの図において示される徐々に進むドリフト移動が、pH段差帯域VにおけるpHを下げることによって行われる。これは、分子状分析物を連続的かつ別々に回収および/または診断することを可能にする。
【0076】
次に、図6が参照される。図6は、本発明のいくつかの実施形態による、異なるpIを有する分子状分析物をpHプロフィルに沿って比較的大きい速度で別々にドリフト移動させる方法700である。上記で記載されるように、分子状分析物がpHプロフィル軸に沿ってドリフト移動し、ついには、分子状分析物は、分子状分析物が正味の電気的電荷を携行しない帯域に達する。それぞれの分子状分析物のドリフト移動速度は、溶液におけるホスト帯域におけるpHから派生したものであるその電荷に比例している。最初に、701において示されるように、中間の段差帯域を2つの高pH/低pH段差帯域の間に有するpHプロフィルが形成される。このpHプロフィルは、低い中間pH段差帯域によって区分けられる2つの高pH段差帯域を含むことができ、または、高い中間pH段差帯域によって区分けられる2つの低pH段差帯域を有するpHプロフィルを含むことができる。簡潔化のために、そのようなプロフィルを有するpHプロフィルが、本明細書中では高低高型pHプロフィルおよび低高低型pHプロフィルとしてそれぞれ示される。図7Aおよび図8Aはそのようなプロフィルを3つの例示的な分子状分析物についてそれぞれ示す。
【0077】
次に、702において示されるように、分子状分析物が、pHプロフィルのパターンに依存して、pHプロフィル軸の一方の側から、例えば、容器102の一方の側から、例えば、左側から提供される。注入することが、分子状分析物をpH傾斜帯域に閉じ込めるように行われる。プロフィルが高低高型であるならば、分子状分析物を、高電位側の高段差帯域(例えば、図7では右側)を除くどこからでも流路に注入することができる。そうでない場合、分子状分析物は集束しないかもしれない。この場合には、分子状分析物は、例えば、図7の左側に示されるように、より低い電位側に位置する傾斜部に集束する。代替において、プロフィルが低高低型であるならば、分析物を、例えば、図8の左側に示されるように、低電位側の低段差帯域を除くどこからでも流路に注入することができる。この場合には、分子状分析物は、例えば、図8の右側に示されるように、より高い電位側に位置する傾斜部に集束する。分子状分析物は、例えば、図7Aおよび図8Aにおいて示されるように、高段差帯域と、低段差帯域との間のpH傾斜帯域に閉じ込められるまでドリフト移動する。上記で記載されるように、閉じ込められた分子状分析物は、一方の側にドリフト移動させようとすることが、分子状分析物を閉じ込め帯域に押し戻す負の電荷によって染み込むようにもたらされ、別の側にドリフト移動させようとすることが、同様に分子状分析物を閉じ込め域に押し戻す正の電荷によって染み込むようにもたらされるときに閉じ込められる。
【0078】
最初は、図7Aに示されるように、プロフィルが、pH(I)=pH(V)>PI1>pI2>pI3>pH(III)であるように規定され、3つの例示的な分子状分析物(例えば、タンパク質など)がpH傾斜帯域IIにおいて捕らえられる。段差帯域IIIは、それらの電荷が比較的小さい帯域IIIにおけるタンパク質移動時間を最小限に抑えるために、可能な限り短くされ、好ましくは、約10マイクロメートル〜1000マイクロメートルの間の範囲である。
【0079】
次に、703において示されるように、pHプロフィルの中間段差帯域が、閉じ込められた分子状分析物の1つまたは複数の移動を誘導するために調節される。例えば、図7Bは、中間プラトー部のpHを、pH(I)=pH(V)>pI1>pI2>pH(III)>pI3である点にまで上げることによって、第3の分子状分析物(これはpI3として表される)の移動を誘導するためにpHプロフィルを調節することを示す。この増加は第3の分子状分析物を前記のようにpH傾斜帯域から放出させ、一方、それ以外の分子状分析物は閉じ込められたままである。わずかに負に荷電した第3の分子状分析物が、pH傾斜帯域IVにたどり着くまで右端にドリフト移動する。その地点において、pH、したがって、第3の分子状分析物の負の電荷が劇的に大きくなる。結果として、第3の分子状分析物のドリフト移動速度が、図7Cにおいて示されるように、劇的に加速され、例えば、10倍、100倍または1000倍速くなり、このことは、図1に示される方法による分離に関して分離時間を短縮する。簡潔にするために、より大きい速度が二重矢印によって表される。704において示されるように、プロフィルは、分子状分析物を連続様式で放出するように複数の段階で調節することができる。例えば、中間pH段差帯域におけるpHが、例えば、図7A〜図7Eおよび図8A〜図8Eにおいて示されるように、連続様式で増大および/または低下させられる。図8A〜図8Eでは、分離が、pIが小さくなる順で行われる。3つの例示的な分子状分析物のための開始pHプロフィルは、pH(III)>pI1>pI2>pI3>pH(I)=pH(V)であり、pH傾斜帯域IVに閉じ込められる3つの分子状分析物が図8Aに示される。使用時において、pH段差帯域IIIのpHが、pI1>pH(III)>pI2>pI3>pH(I)=pH(V)である点にまで時間の関数としてゆっくり下げられる。この形態では、第1の分子状分析物は正に荷電し、左側へドリフト移動することを開始する。pH傾斜部IIにたどり着くと、pHが低下し、第1の分子状分析物の正の電荷およびそのドリフト移動速度が、例えば、図8Cにおいて示されるように、劇的に大きくなる。同じプロセスが、図8Dおよび図8Eにおいて示されるように、第2および第3の繰り返された分子状分析に関して連続して繰り返される。
【0080】
次に、図9Aが参照される。図9Aは、本発明のいくつかの実施形態に従って、1つまたは複数の分子状分析物を有する混合物を回収および/または診断するために、分子状分析物をそれらのpIに基づいて分離する例示的なデバイス900の概略図である。図9Aはさらに、例示的デバイス900の容器102において生じるpHプロフィルのプロフィルの概略的プロットを示す。
【0081】
例示的デバイス900は、図3Aに示される通りであり、しかしながら、イオン源101が、下記でさらに記載されるように、イオン注入に基づく。適正な電解質溶液を有する容器102は、pHプロフィルが、例えば、上記で記載されるように生成および調節される限定された分離体積部を規定する。電場が、例えば、上記で記載されるように、分離体積部を横切る。イオン源101が、分離体積部に形成されるpHプロフィル軸に沿う特定の帯域に対してプロトンおよび/またはヒドロキシルイオンを制御された様式で注入するために設定される。容器は、分子状分析物(例えば、タンパク質など)の混合物を導入し、また、分離プロセスの生成物を収集するための手段を含む。
【0082】
示された実施形態において、デバイスの容器102は、2つのリザーバーによって供給される細長い流路における分離を規定する。流路102の長さは、微細加工技術によって製造されるならば、数十ミクロンから、従来の方法によって製造されるならば、数ミリメートル、数センチメートルまたは数十センチメートルにまで変化し得る。流路の平均直径および平均厚さは、例えば、幅が1マイクロメートルおよび/または1ミリメートルの間であるが、1マイクロメートル〜数センチメートルの間で変化し得る。プロトン源およびヒドロキシルイオン源101が流路に沿って分布し、イオンを流路における帯域に注入するために設定される。例えば、3つのヒドロキシル源および2つのプロトン源が、図4および図5に示されるpHプロフィルを形成するためにそれぞれ使用される。そのようなイオン源についての例が、本発明のいくつかの実施形態による例示的なデバイス900において同時または交換可能に使用され得る様々な例示的なイオン源の概略図である図9B〜図9Dに示される。図9Bは、分離流路102に開口部913および透析膜914を介して接続される小さいチャンバー912を含むプロトン/ヒドロキシル源911を示す。透析膜は、分離流路102から小さいチャンバー912へのタンパク質漏出を防止するか、または低下させ、一方、これらの体積部の間におけるイオン交換を可能にする。プロトン/ヒドロキシル源911は、酸溶液および塩基溶液をチャンバー912において混合することによって、pHを分離体積部における最も近い帯域において設定する。例えば、イオン源がプロトン源であるならば、過剰な酸溶液が、7未満の全体的pHを有する帯域を与えるために、塩基溶液と混合される。イオン源がヒドロキシル源であるならば、逆のことが維持され、7を超えるpHがその帯域において形成される。場合によっては、酸溶液および塩基溶液が、対応するプロトン/ヒドロキシル源チャンバーに所望の量で供給される別々の容器に置かれる。
【0083】
図9Cは、二極性メンブラン922、および、分離流路102と、プロトン源チャンバー924に浸けられる白金電極923との間においてメンブランの両側に加えられる電圧を使用して水を解裂させることによってプロトンを生じさせる電気分解型イオン源921を示す。場合によっては、電気分解型イオン源921は、米国仮特許出願第61/272110号(2009年8月18日出願、これは参照によって本明細書中に組み込まれる)において規定される通りである。二極性メンブラン922の極性が、プロトンがメンブラン922の流路側で生じ、一方、ヒドロキシルイオンがチャンバー側で生じるように選ばれる。メンブラン922に加えられるバイアスが、負の端子がメンブランの流路側に供給され、一方、正の端子が白金電極に供給されるように選ばれる。これらの条件のもと、水がメンブランにおいて解裂する。生じたプロトンが流路に注入され、ヒドロキシルイオンがメンブランからチャンバーに注入され、チャンバーにおいて、ヒドロキシルイオンは、白金電極923上で生じたプロトンと再結合して、水を形成する。明らかなことではあるが、また、米国仮特許出願第61/272110号に記載されるように、ヒドロキシルイオン源を同様に組み立てることができる。その目的のために、二極性メンブランが電圧源の極性と一緒に反転させられる。この形態では、メンブラン922における水の解裂によって生じるヒドロキシルイオンが分離流路に注入され、一方、プロトンがヒドロキシル源チャンバー924に注入され、ヒドロキシル源チャンバー924において、プロトンは、白金電極上で生じたヒドロキシルイオンと再結合して、水を与える。
【0084】
図9Dは、水が、供給源チャンバー936に浸けられる2つの白金電極(932、933)の間に電圧を加えることによって電気分解される別のイオン源931を示す。流路935に隣接する白金電極933は、流路へのイオン輸送を改善するために穴を開けることができる。陰極電極が分離流路のより近くにある場合、ヒドロキシルイオンが流路に注入される。プロトンを流路に注入するために、バイアス極性が反転させられ、その結果、今度は、陽極が流路に隣接する。
【0085】
次に、pHプロフィルを、pHプロフィルの軸に沿った分子状分析物の移動を誘導するために形成および調節する方法の記載が参照される。この方法は、プロトンおよび/またはヒドロキシルイオンを、pHプロフィルの生成のために利用される電場を支える流路(例えば、容器102など)に注入することによって行われる。本明細書中の記載はまた、所望されるpHプロフィルを空間において達成するための適切な電解質および注入電流の選択、ならびに、場合によってはそれらを時間において変化させることを教示する。完全なコンピュータ計算に対する単純な近似が、図9Aに関連して上記で記載されるデバイスによる分離プロセスを設計するためのデバイス操作のシミュレータのためのアルゴリズムとして本明細書中に開示される。
【0086】
流路(例えば、102など)における分離体積部に広がるpH分布を、右側境界条件および開始条件において、下記のポアソン・ボルツマンの式(式2)と一緒になった、関与するすべてのイオンについての下記の輸送式(式1)によって記述することができる:


メートル、キログラムおよび/または秒(MKS)の単位で、Cは化学種iのイオンのモル濃度を示し、Dはiの拡散係数を示し、μはiの電気移動度を示し、zはiのプロトン電荷単位での電荷を示し、Fはファラデー定数を示し、Rは化学種iの反応項を示し、ベクトルEは、例えば、容器102のフォーカシング用流路における電場を示す。本明細書中の例はプロトンに関して記載されるが、どの分子状分析物も使用され得ることには留意しなければならない。
【0087】
場合によっては、後者の式では、溶液において生じる化学反応が、数値解をコンピュータ計算することを可能にする一組のいくつかの非線形微分方程式を形成するように考慮に入れられる。
【0088】
場合によっては、下記により、動的pHプロフィルを上記分離プロセスのために生じさせるpHプロフィル発生器のプログラミングが可能になる。化学反応(例えば、プロトン−ヒドロキシル再結合など)が比較的速いという事実、および、外部電場におけるイオンのドリフト移動が、プロトン/ヒドロキシル注入のごく近傍を除いて、ある種のイオン拡散よりも優位であるという事実を利用すると、定常状態における本質的な物理的現象を取り込む解析的に扱いやすいモデルを定式化することができる。このモデルにより、分離プロセス期間中の上記デバイスの運用法が解明され、所望されるpHプロフィルを生じさせるためにパラメータを選択するためのツールが提供される。したがって、そのような単純化されたモデルは、分子状分析物の分離アッセイ(例えば、タンパク質アッセイなど)をデバイスについて計画することにおいて有用なシミュレータのためのアルゴリズムを開示する。
【0089】
簡潔化のために、2つのタイプのpH変化操作が定義される:フォーカシング用pH傾斜部および脱フォーカシング用pH傾斜部。フォーカシング用pH傾斜部は、例えば、図2Aに示されるように、pH傾斜部の低電位側でのより大きいpH値およびpH傾斜部の高電位側でのより低いpH値によって特徴づけられる。脱フォーカシング用pH傾斜部は逆であり、すなわち、pH傾斜部の低電位側でのより低いpH値およびpH傾斜部の高電位側でのより大きいpH値によって特徴づけられる(例えば、図7Aに示されるpH傾斜部IV)。フォーカシング用pH傾斜部は、pIを、pH傾斜部の高pH値と、低pH値との間に有するすべてのタンパク質を捕らえる。脱フォーカシング用pH傾斜部はタンパク質を長期間にわたって捕らえない。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態によれば、pHプロフィルが、緩衝剤分子を有しない生理的食塩水溶液において形成される。図10Aおよび図10Eは、例えば、上記のデバイス100およびデバイス900の分離流路1000へのプロトン注入およびヒドロキシル注入をそれぞれ示す。分離流路1000は、これには左側および右側のリザーバーによって供給されるが、本明細書中ではpHおよびpH(ただし、pH>pH)としてそれぞれ示される2つのpH値によって特徴づけられる。流路における関連したイオン(粒子)電流密度が、流路1000内への注入電流1001および電場1002の方向と一緒に示される。図10B〜図10Dおよび図10F〜図10Hは、様々な注入条件のもとでのpHプロフィル軸に沿った例示的なpHプロフィルを示す。pHプロフィル軸が図10Aおよび図10Eにおいて点線A−Aとして表される。図10B〜図10Dにおいて、pH=11およびpH=5。図10Bは、注入電流の非存在(J=0)下におけるpHプロフィルを示す。左側リザーバーによって供給されるヒドロキシル電流が、右側リザーバーによって供給されるプロトン電流よりも優位であり、プロトン−ヒドロキシル再結合の前線が、分離流路と、右側リザーバーとの境界で安定化する。流路全域でのpHが左側リザーバーにおけるpHと同一である。
【0091】
図10Cは、一部のプロトンが流路に注入された後のpHプロフィルを示す。pH段差帯域IIIにおける注入点の右側に対するpHが、図10Cにおいて実線によって示されるように低下して、フォーカシング用pH傾斜部を形成する。増大したプロトン注入のために、フォーカシング用pH傾斜部は、例えば、図10Cにおいて一点鎖線によって表されるが、この傾斜部がその最大値に達するまで急峻化し続ける。注入を増大して、イオン電流のこの限界値を超えると、pH傾斜部の反転が生じ、これにより、このpH傾斜部はフォーカシング用pH傾斜部から脱フォーカシング用pH傾斜部に変換されるであろう。結果が図10Dに示される。フォーカシング用pH傾斜部において、帯域IのpHは留まっており、一方、帯域IIIのpHは電流に従って変化することには言及しなければならない。逆のことが脱フォーカシング用pH傾斜部において当てはまり、すなわち、帯域IIIにおけるpHは一定のままであり、一方、帯域Iにおけるその対応する値は、加えられた電流に従って変化する。
【0092】
例えば、図2Aに示されるような動的pHプロフィルが生じるとき、図10Cの得られた一点鎖線のフォーカシング用pH傾斜部は、pIをpH11〜pH7の間に有するすべてのタンパク質を集束させる。プロトン注入電流が、図10Cの実線によって示されるpH傾斜部を生じさせるために下げられるとき、pIをpH7〜pH9の間に有するすべてのタンパク質が放出される。
【0093】
図7Aに関連して、図10Dに示される脱フォーカシング用pH傾斜部は、3未満のpIを有するタンパク質の右側への移動を加速させることができる。過度なプロトン注入において生じる脱フォーカシング用pH傾斜部を、フォーカシング用pH傾斜部および脱フォーカシング用pH傾斜部の両方が必要とされる図7A〜図7Eに示される動的pHプロフィルを実行するために利用することができる。
【0094】
図10Fは、pH=9、pH=3およびJOH=0である場合についてのpHプロフィルを示す。右側のリザーバーによって供給されるプロトン電流が、左側のリザーバーによって供給されるヒドロキシル電流よりも優位であるので、流路102におけるpHはpHに等しい。図10Gにおいて、図10Cに示されるのと同様に、ヒドロキシルイオンの少しの注入により、実線によって示されるフォーカシング用pH傾斜部がもたらされ、一方、一点鎖線は、限界電流が加えられるときに達成される最大のフォーカシング用pH傾斜部を例示する。この電流を超えると、図10Hに示されるように、pH傾斜部が反転することが引き起こされるであろう。図4A〜図4Eに示されるシーケンスを、等電点をpH3〜pH7の間に有するタンパク質についてこの形態で実現することができる。
【0095】
図10A〜図10Dの帯域Iおよび帯域IIIにおける定常状態pH値を、下記の式を使用してコンピュータ計算することができる:

また、図10E〜図10Hに示されるようなヒドロキシルイオン注入の場合については、式は下記の通りである:

式3および式5はヒドロキシルイオンの保存を表し、式4および式6はプロトン電流の保存を表す。これら2つの式では、下記の反応による水の生成および分解:

ならびに、対応する質量作用の法則:

が考慮に入れられる。
【0096】
これらの式において、JI,III、JOHI,III、JH2OI,IIIは、帯域Iおよび帯域IIIにおける、プロトン、ヒドロキシルおよび水の粒子電流密度をそれぞれ示し、[HI,III、[OHI,IIIは、それぞれの帯域におけるプロトンおよびヒドロキシルイオンのモル濃度をそれぞれ示し、K=10−14−2は水の平衡定数を示す。
【0097】
これらの例示的条件のもとでは、電場によって引き起こされたイオンのドリフト移動が、拡散によって引き起こされるドリフト移動よりも優位であり、電流密度は下記のイオン密度に単に比例するだけである:

【0098】
プロトン注入についての式3、式4、式8および式9、ならびに/または、ヒドロキシル注入についての式5、式6、式8および式9を解くことにより、分子状分析物の移動を誘導するための、また、pHプロフィルに沿って集束させるための動的pHプロフィルを生じさせるために必要とされるパラメータが与えられる。帯域Iおよび帯域IIIにおけるイオン濃度の関係を、フォーカシング用pH傾斜部または脱フォーカシング用pH傾斜部のサイズを注入イオンの関数として計算することを可能にすることによって得ることができる。加えて、モデルにより、pH傾斜部が反転する前の最大の達成可能なpHフォーカシング用傾斜部の値が、その対応する限界電流とともに予測される。解くべきこの一組の式は、偏微分方程式ではなく、むしろ、代数方程式であり、したがって、生じるpH傾斜部の迅速な計算が、比較的低い計算力を使用して短時間で容易になることには留意されたい。
【0099】
本発明のいくつかの実施形態によれば、pHプロフィルが緩衝化溶液(例えば、緩衝剤分子を有する生理的食塩水溶液など)において形成される。
【0100】
AHおよびA−2として本明細書中で示される2つの緩衝剤化学種が、下記の平衡定数Ka(式11)を有する下記の反応(式10)に関与する:


プロトン注入の場合、プロトン、ヒドロキシルイオンおよび緩衝剤分子についての質量バランスを下記のように定義することができる:

上記式において、JANI,IIIおよびJI,IIIは2つの緩衝剤形態の電流密度を示す。ヒドロキシルイオンについての質量バランス(これは式3で定義される通りである)は同じままであり、一方、プロトンの質量バランス(これは式12で定義される通りである)は、緩衝剤分子によって運ばれるプロトンを説明するために修正される。式13は、緩衝剤分子についての質量バランスを定義する。式9において定められるプロトンおよびヒドロキシルイオンの場合でのように、これらの化学種の電流はそれらの濃度に比例している:

【0101】
プロトンではなく、むしろ、ヒドロキシルイオンが注入されるならば、Jは式12から除かれなければならず、かつ、JOHが式3の左辺に加えられなければならない。
【0102】
式3、式8〜式9および式11〜式14を解くことにより、それぞれの帯域における化学種濃度の関係が与えられ、pH傾斜部の険しさ、最大のpHフォーカシング用傾斜部、および、対応する限界電流の計算が可能になる。
【0103】
図11Aおよび図11Cが参照される。図11Aおよび図11Cは、プロトン注入およびヒドロキシル注入の場合において、緩衝化溶液を有する容器(例えば、102など)を関連した電流密度と一緒にそれぞれ示す。図11Aおよび図11Bの場合でのように、リザーバーにおけるpHレベルが、プロトンが注入されるときはpH=11およびpH=5であり、ヒドロキシルイオンが注入されるときはpH=9およびpH=3である。図11Bおよび図11Dもまた参照される。図11Bおよび図11Dは、軸(例えば、図11Aおよび図11Cにおいて点線A−Aなど)に沿ったpHプロフィルを示す。前記のように、図11Bおよび図11Dにおける実線は、小さい注入電流を加えることによってもたらされるフォーカシング用pH傾斜部を示し、一方、一点鎖線は、限界電流密度が加えられるときに達成可能な最長のフォーカシング用pH傾斜部を示す。上記と同様に、電流を、その限界値を超えて上げることにより、pH傾斜部の反転が生じる。図11Bと、図10Cとを、また、図11Dと、図10Gとを比較することによって、緩衝剤分子の存在下における最大のフォーカシング用pH傾斜部が、緩衝剤分子が存在しないときのそれらの対応する最大のフォーカシング用pH傾斜部よりも長いことが明らかである。図11Bに示されるプロトン注入の具体的な例では、適量の緩衝剤が、右側リザーバーの値よりも低い値に至る酸性pHに達する最大のフォーカシング用pH傾斜部サイズを可能にするために加えられる。このことは、非緩衝化溶液における最大のフォーカシング用pH傾斜部が結局は中性pHに達することを明らかにする図11Cとは対称的である。図12は、プロトンが注入されるときの帯域IIIにおいて、電気電流における変化と、緩衝化溶液および非緩衝化溶液のpHとの間における相関を示すグラフであり、この点をさらに強調する。これは、図12が、11.5の初期pHおよびその限界電流での終了pHにおける2つのpHプロットの間における差を示すからである。一方が緩衝化溶液1201についてであり(pKa=7およびATOT=A−2+AH=10mM)、他方が非緩衝化溶液1202についてである。図12に示されるように、緩衝化溶液1201の限界電流が非緩衝化溶液1202の限界電流よりもはるかに大きい。さらに、前者における最小pHレベルが後者における最小pHレベルよりもはるかに低い。この図をより綿密に調べることにより、pH11.5と、pH9との間において、これら2つの溶液は基本的に同じ挙動を有することが明らかにされる。これは、この範囲において、プロトンと反応する唯一の化学種がヒドロキシルイオンであるからである。この点を超えると、非緩衝化系は急速に崩れ、例えば、脱フォーカシング用傾斜部に変わり、一方、緩衝化溶液は、安定したフォーカシング用pH傾斜部をA分子の消費により維持し続ける。この特徴は、図11Bでもまた明らかにされるが、緩衝化溶液では、より長いフォーカシング用pH傾斜部が生じ得ることを示している。緩衝剤の非存在下では、フォーカシング用pHは、pH≒7よりも低く下げることができず、一方、適切な緩衝剤の存在下では、範囲を、pH≒4、また、それどころか、それよりも低いpHに至る酸性状況にまで広げることができ、このことは、より大きいpH範囲でのpHプロフィルの実行を可能にする。pH段差サイズの拡大が、ヒドロキシルイオンが注入されるときの基本的状況でもまた行われ得ることには言及されなければならない。例えば、図11Cに示されるように、適切な緩衝剤の存在下におけるpH段差サイズは、pH≒10と同じ程度の塩基性pH、また、それどころか、それを超えたpHを達成することができる。図12に示されるように、電流に対する大きい抵抗性に、緩衝剤の対数での酸解離定数(pKa)に等しいpH7で達する。このことは、安定したフォーカシング用pH傾斜部が、そのpKaがpHまたはpHIIIのどちらかに近い緩衝剤を使用してもたらされ得ることを示唆する。
【0104】
場合によっては、緩衝化溶液は、系に加えられるべき電流の選択された範囲を得るために調節される。例えば、容器102は、1mmの典型的な断面を有し、かつ、pH8の非緩衝化溶液で満たされる流路である。プロトン濃度がpH7に上がる非緩衝化溶液は、およそ約4・10−8Aの電流を必要とし、そのような電流は、加えることが極めて困難である。さらに、この場合における傾斜部の安定性は非常に低いであろう。これは、このまさにその電流からのどのような小さいずれも、pHにおける強いずれを生じさせるであろうからである。しかしながら、pKa=7の、10mMの緩衝剤が加えられるならば、そのような傾斜部をもたらすための必要な電流が約5・10−5Aに増大し、これは、変動に対してはるかにより大きい安定性を伴ったはるかにより実現可能な電流である。
【0105】
本発明のいくつかの実施形態によれば、pHプロフィルが、様々な電荷(例えば、2または3)を有する複数のプロトン化状態を有する緩衝剤の混合物を含有する多重緩衝化溶液において形成される。簡潔化のために、A−2およびAHが負の荷電の化学種についての2段階緩衝剤を示し、BおよびBH+2が正荷電の化学種についての2段階緩衝剤を示し、KaおよびKbがそれぞれの平衡定数を示し(ただし、iおよびjは緩衝剤添え字を示す)、AD,k−3、A−2およびA2,kが、KaD,k、KaD,kの平衡定数を有する3段階緩衝剤を示し、BD,l、B+2およびB2,l+3が、KbD,kおよびKbD,kの平衡定数を有する3段階緩衝剤を示す(ただし、kおよびlは緩衝剤添え字を示す)。緩衝剤化学種のそれぞれ1つが、下記でさらに記載されるように、正または負のどちらかで荷電することには留意しなければならない。これらの緩衝剤のプロトン化反応は下記のように定義することができる:

この式系は、下記の質量バランス:

および、質量作用の法則:

ならびに、

から構成される。
【0106】
これらの式を、数値法を使用して解くことにより、上記と同様に、最大注入電流、最大のフォーカシング用pH傾斜部などとしての必要なパラメータが与えられる。これらの代数方程式(式16〜式18)を解くことにより、上記で記載されたように、1つまたは複数のpH傾斜部を計算することが可能になることには留意しなければならない。そのような様式で、偏微分方程式(式1および式2など)の計算を回避することができ、したがって、計算プロセスのコンピュータ計算の複雑性が削減される。
【0107】
図13は3つの緩衝剤(それらのうちの2つが2つのプロトン化状態を有し、1つが3つのプロトン化状態を有する)のシミュレーションである。様々な平衡定数が示される。3つの緩衝剤が関与するので、pHプロフィルが、様々な地点での様々なフォーカシング用pH傾斜部の生成を容易にする広い範囲で存在している。これらの種類の混合物により、様々な動的pHプロフィルを効率的に確立することができる。
【0108】
次に、本発明のいくつかの実施形態による、分離体積部のための電解質溶液を選択するプロセスが参照される。電解質は2つの大きな群に分けることができる:分離体積部(例えば、容器102)において反応を受ける緩衝剤分子、および、背景媒体として作用する支持イオン。
【0109】
分子状分析物の移動を容易にするために、緩衝化溶液のプロトン化状態は、動的pHプロフィルの帯域のすべてによって規定されるpH範囲で荷電しなければならない。そのような様式で、pH傾斜部における定常状態を達成することができ、容器102におけるイオン流束が、加えられた電場によって維持される。緩衝化溶液が荷電するとき、化学種がpHプロフィルに沿って動くが、時間とともに蓄積しない。対照的に、中性分子は場によって影響されず、両方向にゆっくり拡散し、このことは、定常状態に達する時間を相当に増大させる。
【0110】
体積分離を容易にするために、容器102における緩衝剤は、推定されるpHプロフィルのpH範囲全体を覆うように選択される。さらに、電流に対するデバイスの抵抗がpH範囲にわたって変化することが、図12および図13において以前に示された。すなわち、注入電流密度における所与の増大についての生じるΔpHがpH依存的である。
【0111】
次に、図14が参照される。図14は、本発明のいくつかの実施形態による、緩衝化溶液を1つまたは複数の分子状分析物(例えば、分子状分析物の特定の混合物)のために設定する方法のフローチャート1400である。緩衝剤要素は、ピロリン酸塩、リン酸塩、ヒスチジン、クエン酸塩、炭酸塩および/またはBIS−TRISプロパンなどであり得る。
【0112】
最初に、1401において示されるように、プローブ探査された混合物における1つまたは複数の分子状分析物のpIが提供される。その後、1402において示されるように、緩衝剤が、受け取られたpIに従って選択される。次に、1403において示されるように、緩衝剤の濃度およびタイプが選定され、例えば、受け取られたpIに従ってコンピュータ計算および選択される。緩衝剤の濃度が、高い緩衝剤濃度では、大きい電流を伴うイオン源が必要とされ、低い緩衝剤濃度では、電流変動に対して安定していない不安定なpH傾斜部が形成されるかもしれないことを考慮に入れながら計算される。
【0113】
例えば、混合物が、pIを5〜7の間に有するタンパク質を含有するならば、適切な電解質は、pKaをそれぞれの範囲に有するか、または、pKaがそれぞれの範囲に十分に近い少なくとも1つの緩衝剤を含有しなければならない。加えて、この緩衝剤の総濃度は、イオン注入における避けられない変動がpH傾斜部の安定性に対する強い影響を有しないであろうように十分に高くなければならない。上記モデルを正確に保つために、容器102に沿った電気的性質(例えば、電気伝導性)は一定に維持される。そのような様式で、容器102における溶液の電気的性質は、例えば、上記で記載されるように、分子状分析物の移動を安定的および/または予測通りに誘導する動的pHプロフィルを生じさせるために好適なままである。そのような支持イオンが存在しない場合、pH傾斜帯域の2つの側の間での電気伝導性における差が、異なるイオンプロフィルに起因して予想される。支持イオン(これは本明細書中では支持電解質として示される)を特定の濃度で加えることにより、分離溶液における電気伝導性の差が小さくなり、したがって、モデルの予測がより正確になる。しかしながら、濃度が特定の閾値を超えて大きくなるとき、容器102の望ましくない加熱が誘導されるかもしれない。適切な支持電解質を選定するときには、容器102の総イオン強度、加えられた電場の大きさ、および、容器102の大きさを考慮に入れなければならない。例えば、11.5〜4のpH範囲における実行のために好適な電解質のふさわしい処方が下記の通りである:

【0114】
次に、1404において示されるように、2つ以上の分子状分析物を分離するプロセスのために設定される緩衝剤濃度を有する緩衝化溶液が1402に従って設定される。緩衝剤濃度を設定することが、溶液をよりpH抵抗性にするように、したがって、上記イオン注入によって誘導される変動に対してより安定となるように行われる。
【0115】
本出願から成熟する特許の存続期間の期間中には、多くの関連する方法およびシステムが開発されることが予想され、コントローラ、センサーおよびコンピュータユニットの用語の範囲は、すべてのそのような新しい技術を先験的に包含することが意図される。
【0116】
本明細書中で使用される用語「約」は、±10%を示す。
【0117】
用語「含む/備える(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(having)」、およびそれらの同根語は、「含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。この用語は、「からなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」を包含する。
【0118】
表現「から本質的になる」は、さらなる成分および/または工程が、特許請求される組成物または方法の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合にだけ、組成物または方法がさらなる成分および/または工程を含み得ることを意味する。
【0119】
本明細書中で使用される場合、単数形態(「a」、「an」および「the」)は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の参照物を包含する。例えば、用語「化合物(a compound)」または用語「少なくとも1つの化合物」は、その混合物を含めて、複数の化合物を包含し得る。
【0120】
用語「例示的」は、本明細書では「例(example,instance又はillustration)として作用する」ことを意味するために使用される。「例示的」として記載されたいかなる実施形態も必ずしも他の実施形態に対して好ましいもしくは有利なものとして解釈されたりかつ/または他の実施形態からの特徴の組み入れを除外するものではない。
【0121】
用語「任意選択的」は、本明細書では、「一部の実施形態に与えられるが、他の実施形態には与えられない」ことを意味するために使用される。本発明のいかなる特定の実施形態も対立しない限り複数の「任意選択的」な特徴を含むことができる。
【0122】
本開示を通して、本発明の様々な態様が範囲形式で提示され得る。範囲形式での記載は単に便宜上および簡潔化のためであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈すべきでないことを理解しなければならない。従って、範囲の記載は、具体的に開示された可能なすべての部分範囲、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値を有すると見なさなければならない。例えば、1〜6などの範囲の記載は、具体的に開示された部分範囲(例えば、1〜3、1〜4、1〜5、2〜4、2〜6、3〜6など)、ならびに、その範囲に含まれる個々の数値(例えば、1、2、3、4、5および6)を有すると見なさなければならない。このことは、範囲の広さにかかわらず、適用される。
【0123】
数値範囲が本明細書中で示される場合には常に、示された範囲に含まれる任意の言及された数字(分数または整数)を含むことが意味される。第1の示された数字および第2の示された数字「の範囲である/の間の範囲」という表現、および、第1の示された数字「から」第2の示された数「まで及ぶ/までの範囲」という表現は、交換可能に使用され、第1の示された数字と、第2の示された数字と、その間のすべての分数および整数とを含むことが意味される。
【0124】
明確にするため別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴が、単一の実施形態に組み合わせて提供されることもできることは分かるであろう。逆に、簡潔にするため単一の実施形態で説明されている本発明の各種の特徴は別個にまたは適切なサブコンビネーションで、あるいは本発明の他の記載される実施形態において好適なように提供することもできる。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしに動作不能である場合を除いては、それらの実施形態の不可欠な特徴であると見なされるべきではない。
【0125】
本発明はその特定の実施態様によって説明してきたが、多くの別法、変更および変形があることは当業者には明らかであることは明白である。従って、本発明は、本願の請求項の精神と広い範囲の中に入るこのような別法、変更および変形すべてを包含するものである。
【0126】
本明細書で挙げた刊行物、特許および特許出願はすべて、個々の刊行物、特許および特許出願が各々あたかも具体的にかつ個々に引用提示されているのと同程度に、全体を本明細書に援用するものである。さらに、本願で引用または確認したことは本発明の先行技術として利用できるという自白とみなすべきではない。節の見出しが使用されている程度まで、それらは必ずしも限定であると解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる等電点(pI)を有する複数の分子状分析物の混合物を分離する方法であって、
複数の分子状分析物の混合物を含有する溶液を分離体積部に入れること、
複数のpH帯域を有するpHプロフィルを前記分離体積部の軸に沿って生じさせること、および、
前記pHプロフィルのプロフィルを、前記複数の分子状分析物のうちの第1の分子状分析物が前記複数の分子状分析物のうちの第2の分子状分析物から離れて前記軸に沿って移動することを誘導するために調節すること、ただし、前記第1および第2の分子状分析物は異なるpIを有する、
を含む方法。
【請求項2】
前記pHプロフィルは、異なるpHレベルを有する少なくとも2つのpH段差帯域を有し、前記複数の分子状分析物が、前記調節することの前に、実質的に均一なpHを有する前記少なくとも2つのpH段差帯域の間に閉じ込められ、前記調節することが、前記少なくとも2つのpH段差帯域のうちの1つにおけるpHを変化させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記調節することが、時間において徐々に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記pHプロフィルは少なくとも1つの傾斜部によって定義され、前記複数の分子状分析物が前記少なくとも1つの傾斜部に蓄積する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記生じさせることは、電場を前記軸に沿って前記溶液において加えること、および、複数のイオン流を前記軸に沿った複数の地点において注入して、前記pHプロフィルを確立することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記pHプロフィルを安定化させるように少なくとも1つの緩衝剤要素を前記溶液に加えることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の分子状分析物を、前記第2の分子状分析物が前記分離体積部に留まっている間に回収することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記プロフィルを、前記第2の分子状分析物が前記複数の分子状分析物のうちの第3の分子状分析物から離れて前記軸に沿って移動することを誘導するために調節することをさらに含み、ただし、前記第2および第3の分子状分析物は異なるpIを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記調節することは、前記プロフィルを、前記第1および第2の分子状分析物が前記軸に沿って反対方向に移動することを誘導するために調節することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記調節することは、前記プロフィルを、前記軸に沿った前記移動の方向を変化させて、その結果、前記第1の分子状分析物が2つの向かい合う方向で連続してドリフト移動するようにするために調節することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記複数のpH帯域は、実質的に均一な第2のpHを有する中間段差帯域によって区分けられる実質的に均一な第1のpHを有する2つの段差帯域を有し、前記混合物が、前記2つの段差帯域のうちの1つと、前記中間段差帯域との間に閉じ込められ、前記調節することが、前記中間段差帯域におけるpHを変化させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記複数のpH帯域は、少なくとも3つの異なるpH帯域を含み、前記調節することが、前記第1の分子状分析物が前記複数のpH帯域の第1の対の間における第1の傾斜帯域に移動し、かつ、前記第2の分子状分析物が前記複数のpH帯域の第2の対の間における第2の傾斜帯域に移動することを誘導するように徐々に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記溶液は緩衝化される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記混合物における1つまたは複数の分子状分析物の等電点を提供し、前記溶液を等電点に従って設定し、これにより、前記溶液の緩衝剤濃度を前記等電点に従って決定すること、および、前記溶液を前記決定することに従って設定することをさらに含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記調節することは、前記第1および第2の分子状分析物を前記軸に沿って互いに離れて集束させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第1および第2の集束させた分子状分析物を前記軸に沿った異なる場所から別々に回収することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記生じさせることは、前記pHプロフィルを一組の代数式に従って計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記調節することは、前記pHプロフィルについての少なくとも1つの調節を一組の代数式に従って計算し、前記調節することを前記少なくとも1つの調節に従って行うことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
異なる等電点(pI)を有する複数の分子状分析物の混合物を分離する方法であって、
複数の分子状分析物の混合物を含有する溶液を分離体積部に入れること、
前記複数の分子状分析物を、前記溶液を含有する分離体積部において2つのpH段差帯域の間に閉じ込めること、ただし、それぞれの前記pH段差帯域が、異なる実質的に均一なpHを有する、および、
前記2つのpH段差帯域のうちの1つにおけるpHを、前記複数の分子状分析物が複数の別個の群で連続して移動することを誘導するために徐々に変化させること、ただし、それぞれの前記群が異なるpIを有する、
を含む方法。
【請求項20】
前記閉じ込めることは、前記2つのpH段差帯域を確立するために、電場を前記溶液において加えること、および、複数のイオン流を少なくとも1つの地点において注入することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
分子状分析物をそれらの等電点に基づいて分離する方法であって、
複数のpH帯域を有するpHプロフィルを、複数の分子状分析物を有する溶液において生じさせること、および、
前記pHプロフィルのプロフィルを、前記複数の分子状分析物がそれらのそれぞれの等電点に従って空間的に分離されることを誘導するために一定の期間にわたって徐々に変化させること、
を含む方法。
【請求項22】
異なる等電点(pI)を有する複数の分子状分析物の混合物を分離するデバイスであって、
複数の分子状分析物を有する溶液を含有するためのサイズおよび形状を有する、軸に沿う容器と、
電場を前記溶液において軸に沿って加える電源と、
複数のイオン流を注入して、前記溶液の複数の帯域をプロトン化することおよび脱プロトン化することの少なくとも一方に至ることによって、pHプロフィルを前記溶液において前記軸に沿って確立するための複数のイオン源と、
前記pHプロフィルを徐々に調節して、その結果、それぞれの前記分子状分析物が前記軸に沿って別々に移動することを誘導するようにするために前記複数のイオン源を操作するコントローラと、
を含むデバイス。
【請求項23】
コンピュータユニットおよび使用者のうちの少なくとも1つからの複数の指示を受け取るためのインターフェースをさらに含み、前記コントローラにより、前記複数のイオン源が前記複数の指示に従って操作される、請求項22に記載のデバイス。
【請求項24】
前記容器は1ミリメートル未満の少なくとも1つの大きさを有する、請求項22に記載のデバイス。
【請求項25】
前記溶液は非ゲル溶液である、請求項22に記載のデバイス。

【図2A−2E】
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【図4A−4E】
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【図4G−4K】
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【図5A−5G】
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【図7A−7E】
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【図8A−8E】
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【図9A−9D】
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【図10A−10H】
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【図11A−11D】
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【図1】
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【図3A】
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【図3B】
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【図6】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2013−502573(P2013−502573A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525252(P2012−525252)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【国際出願番号】PCT/IL2010/000671
【国際公開番号】WO2011/021195
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(504127647)テクニオン リサーチ アンド ディベロップメント ファウンデーション リミテッド (20)