説明

分子認識蛍光標識シリカナノ粒子

【課題】 特定分子を選択的に認識する分子認識蛍光標識シリカナノ粒子の調製法、および、その分子認識能評価方法。
【解決手段】 蛍光物質を内包させたシリカナノ粒子表面を、特定分子を認識する高分子(分子認識高分子、Molecularly Imprinted Polymers、MIPs)でコーティングすることにより、分子認識能をもった蛍光標識シリカナノ粒子を調製した。その特定分子認識能の評価を、分子認識蛍光標識シリカナノ粒子を固体表面上に固定した特定分子と擬似免疫反応させることによって行った。この方法がMIPsの分子認識能の評価法として有効であることを示した。

【発明の詳細な説明】
【詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は、微量抗菌性物質、環境汚染物質あるいは生体関連物質等の特定分子を、高選択、高感度に検知・分析するための分子認識蛍光標識シリカナノ粒子の調製、評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特定微量物質を高選択、高感度に検知・分析するため、生物学的抗原抗体反応が汎用されている。しかし、上記抗体を用いる方法では、抗体が不安定である、あるいは、抗体を用いる反応操作が煩雑である等のため、使用に熟練を要することが多い。また、抗体が高価で、測定あたりのコストが高すぎる等の欠点もある。これらの欠点を補うため、特定分子を鋳型とする分子認識高分子(Molecularly Imprinted Polymers、MIPs)の使用が公知である(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】 特開2005−533146
【0003】
さらに、抗原抗体反応においては、測定感度増加のため、抗体を蛍光分子あるいは酵素で標識化することが行われている。標識分子としてAlexa Fluor▲R▼ タンパク質標識キット(Molecular Probes社製)、HiLyteFluor天然抗体標識化シリーズ(コスモ・バイオ株式会社製)、あるいは、QuantaBluTM Fluorogenic Peroxidase Substrate(タカラバイオ株式会社製)ペルオキシダーゼ蛍光標識キット等が市販されている。しかし、上記標識分子はいずれも不安定であり、価格も高価である等の欠点を持つ。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような諸事情に対処する為に提案されたもので、従来の抗原抗体反応で使用されている、不安定で高価な蛍光標識化抗体に代わる、安定、且つ、安価な分子認識蛍光標識シリカナノ粒子を調製すること、および、その分子認識能の評価法を確立することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1の発明では、蛍光標識シリカナノ粒子の表面を、特定分子を認識するMIPsでコーティングすることにより、特定分子を認識する蛍光標識シリカナノ粒子を調製した。
【0006】
請求項2記載の分子認識能評価は、上記分子認識蛍光標識シリカナノ粒子を、他の固体表面(例えばシリカゲル、φ=約100μm)上に固定した特定分子と擬似免疫反応させることによって行った。
【発明の効果】
【0007】
上述のように、請求項1の発明により、蛍光標識シリカナノ粒子表面上に、安定、且つ、安価な特定分子を認識する吸着サイトを形成し、従って、試料中の特定分子を擬似免疫反応によって捕捉可能な人工抗体の調製が可能である。
【0008】
請求項2記載の評価法により、多種多様な特定分子を対象とするMIPsの分子認識能を容易に評価することが可能となる。
【0009】
また、希薄溶液に含まれる微量特定分子を固体に抽出・濃縮した後、特許文献2の方法により特定分子の定量測定を可能とする。
【特許文献2】 特願2007−41414
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図を用いて本発明の、特に、ペニシリンG(PG)を認識する分子認識蛍光標識シリカナノ粒子の調製とその認識能の評価に係わる実施の形態について説明する。
【0011】
図1は本発明に係わる分子認識蛍光標識シリカナノ粒子の推定される模式図である。それは、PGを認識するMIPsのコーティング膜(PG−MIPs)2と蛍光性ルテニウム錯体を内包させた約100nmの粒系をもつシリカナノ粒子1(RuBpy−SiO)からなる。以下にPG認識蛍光標識ルテニウム・シリカナノ粒子3(PG−MIPs/RuBpy−SiO)の調製工程について説明する。
【0012】
ゾルゲル法により蛍光性ルテニウム錯体(Tris(2,2′−bipyridine)dichlororuthenium(II)hexahydrate,Rubpy dye)をシリカナノ粒子に内包した蛍光性RuBpy−SiO(φ=約100nm)を調製する。
【0013】
この蛍光性RuBpy−SiOをPG−MIPsのアセトニトリル飽和溶液中に添加し、室温で1時間反応させた後、吸引ろ過によりアセトニトリル溶媒から分離、および、空気中で乾燥する。
【実施例】
【0014】
以下に本発明の実施の形態について、実施例によってさらに詳しく説明する。
【実施例1】
蛍光性標識シリカナノ粒子RuBpy−SiOの調製
【0015】
蛍光性RuBpy−SiOの調製は、Tanらの方法(参照文献1 W.Tan他、J.Biomed.Opt.,6巻(2001年),160頁)に従った。
【0016】
即ち、cyclohexane(7.5ml)、n−hexanol(1.8ml)、Triton X−100(1.77ml)、1.2mM Rubpy dye(Tris(2,2’−bipyridyl)dichlororuthenium(II)−6HO)/water(0.48ml)、TEOS(Tetraethoxysilane)(0.1ml)を混合し、室温で20分間振とうした。
【0017】
その後、NHOH(60μl)を加え、室温で24時間振とうを続けた。
【0018】
24時間の反応の後、(CHCO 11mlを加えvortexする。
【0019】
これを遠心分離(3000rpm、10min)し、沈殿したものを95%エタノールで3回洗浄した後、室温、空気中で乾燥させ、蛍光性RuBpy−SiOを得た。
【0020】
こうして調製された蛍光性RuBpy−SiOは、その直径がおよそ100nmの球体であり、層状のシリカ内に蛍光物質であるRubpy dyeが内包された構造になっていると考えられている(図1、3)。
【0021】
ここでは、蛍光標識化のための蛍光物質としてRubpy dyeを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例2】
PG分子認識蛍光標識シリカナノ粒子PG−MIPs/RuBpy−SiOの調製
【0022】
実施例1のように調製したRuBpy−SiO表面上に、PGを鋳型として調製し、PGに分子認識能を持つMIPs(PG−MIPs)をコーティングし、PGに分子認識能を持つ蛍光標識化MIPsを調製する。
【0023】
ここでは、抗菌性物質であるペニシリンGを鋳型として作製したMIPsを用いた例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
PGを鋳型とするMIPs(PG−MIPs)はUrracaらの方法に従って調製した(参照文献2 JL.Urraca他,Anal.Chem.,79巻(2007年),695頁)。PG−MIPs10mgを、アセトニトリル10ml中に加えて60℃で温めながらその飽和溶液を調製する。
【0025】
得られた飽和溶液1ml中に、実施例1で調製したRuBpy−SiO10mgを加え、室温で一時間、放置する。
【0026】
その後、吸引ろ過によりアセトニトリル溶媒を除去し、空気中で乾燥した試料をPG−MIPs/RuBpy−SiO6とした(図1)。
【実施例3】
PG−MIPs/RuBpy−SiOの分子認識能評価
【0027】
実施例2において調製したPG−MIPs/RuBpy−SiOの分子認識能評価を、粒径、約100μmのシリカゲル表面上に固定したPG7(図1)と擬似免疫反応させることによって行った。
【0028】
即ち、実施例2で調製したPG−MIPs/RuBpy−SiO(図2 11)を加えた緩衝溶液中に、表面にPGを固定化したシリカゲル(図2 13)を加えて、室温で10分反応させる。
【0029】
PG−MIPs/RuBpy−SiO表面上のPG吸着サイト5(図1)にPG固定化シリカゲル表面のPG7が結合(擬似免疫反応)する。
【0030】
反応後、未反応のPG−MIPs/RuBpy−SiOを洗浄し、PG固定化シリカゲルに結合したものだけを残す(図2 16)。
【0031】
洗浄後、シリカゲルをガラスプレート上に取り出し、蛍光顕微鏡により観察した写真を図3 31に示す。
【0032】
比較のため、PG−MIPs/RuBpy−SiOを加えることなく、同様な操作後(図2 18、19)に観察した結果を図3 32に示した。
【0033】
また、PG未固定のシリカゲルを用いた同様な操作後(図2 21、22)に観察した結果を図3 33に示した。
【0034】
本発明のPG−MIPs/RuBpy−SiOをPG固定化シリカゲルに結合させた結果(図3 31)では、シリカゲル上にRuBpy−SiOによる強い蛍光が観察された。一方、PG−MIPs/RuBpy−SiOを加えていないPG固定化シリカゲル上には、その様な強い蛍光は観察されず(図3 32)、図3 31で観察された蛍光がPG−MIPs/RuBpy−SiOによるものであることが確認された。
【0035】
また、PG−MIPs/RuBpy−SiOをPG未固定のシリカゲルと反応させた結果(図3 33)では、微弱な蛍光しか観察されなかった。従って、図3 31で観察された強い蛍光は、PG−MIPs/RuBpy−SiO上のPG吸着サイトにシリカゲル表面上に固定化されたPGが擬似免疫反応によって結合したことを裏付ける結果とすることが出来る。
【0036】
このよう方法によってPG−MIPs/RuBpy−SiOが持つPG吸着サイトによるPG分子認識能が評価された。
【利用方法】
【0037】
蛍光物質を内包するシリカナノ粒子表面上にコートされたMIPsは、MIPsを調製する際に用いた特定鋳型分子を認識する吸着サイトを持ち、従って特定分子を擬似免疫反応により高選択的に捕捉することができる人工抗体として利用が可能である。
【0038】
また、希薄溶液に含まれる微量特定分子を固体に抽出・濃縮した後、その特定分子を、分子認識蛍光標識シリカナノ粒子を人工抗体とする擬似免疫反応により、定量的に測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明における蛍光標識化分子認識人工抗体調製のための、蛍光物質を内包させたシリカナノ粒子、および、蛍光性シリカナノ粒子の分子認識人工抗体(MIPs)によるコーティングを示した図である。また、蛍光標識化分子認識人工抗体による特定分子の測定法についても示してある。図は全て断面図として示してある。
【図2】本発明において調製した蛍光標識化分子認識人工抗体の評価方法を示した図である。
【図3】本発明において調製した蛍光標識化分子認識人工抗体の評価結果を示す蛍光顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0039】
1 蛍光物質
2 シリカゲル層
3 蛍光性シリカゲル
4 分子認識人工抗体層
5 化合物分子認識サイト
6 蛍光標識化MIPs
7 化合物分子
8 ペニシリンG固定化シリカゲル
31 蛍光標識化MIPsとペニシリンG固定化シリカゲルとの結合物の顕微鏡写真
32 ペニシリンG固定化シリカゲルの顕微鏡写真
33 蛍光標識化MIPsとペニシリンG未固定シリカゲルとの結合物の顕微鏡写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光物質を内包させて作成したシリカナノ粒子(蛍光標識シリカナノ粒子、φ=約100nm)を、特定分子を認識する分子認識高分子(MIPs)でコーティングすることを特長とする、分子認識蛍光標識シリカナノ粒子の調製法。
【請求項2】
上記分子認識蛍光標識シリカナノ粒子を、固体表面上に固定化した特定分子と擬似免疫反応させることによる、分子認識能の評価方法。
【請求項3】
上記請求項1および2による、MIPsの分子認識能評価法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−265067(P2009−265067A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−133652(P2008−133652)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(507056553)十勝テレホンネットワーク株式会社 (4)
【Fターム(参考)】