説明

分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロール含有油脂の製造方法

【課題】 構成脂肪酸として分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロールを高濃度で含有する油脂を効率的に製造する。
【解決手段】 分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールと、直鎖脂肪酸又はその低級アルコールエステルとを、リパーゼの存在下、0.01〜10kPaの減圧下で反応させることを特徴とする分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロール含有油脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構成脂肪酸として分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロールを高濃度で含有する油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアシルグリセロールは、トリアシルグリセロールに比べて親水性が高い等の性質を示し、産業上有用な油脂である。ジアシルグリセロールは、モノアシルグリセロールと脂肪酸、若しくはグリセリンと脂肪酸を原料とし、エステル化反応を行うか、又はトリアシルグリセロール(通常の油脂)とグリセリンを原料とし、グリセロリシスを行うことにより製造される。これらの反応は、用いる触媒により化学法又は酵素法に分けられる(特許文献1〜3参照)。また、エステル化反応は水を生ずるため、エステル化反応を進行させるためには反応系内を減圧にする等により脱水するという手段が採られている(特許文献4、5参照)。
【0003】
構成脂肪酸として分岐脂肪酸を含有する油脂は融点が低い。例えば、炭素数が18であるステアリン酸で比較した場合、直鎖型の脂肪酸の場合の融点は70℃(油脂化学便覧)であるのに対し、分岐型の脂肪酸の場合の融点は−20℃である。また、構成脂肪酸として分岐脂肪酸を含有するジアシルグリセロールは、伸展性、結晶性に著しい特徴を発現することが知られている(特許文献6)。更に、構成脂肪酸として分岐脂肪酸を含有するジアシルグリセロールは、持続性のある高い保湿効果を有することが知られている(特許文献7)。文献7の方法では、13kPa(100mmHg)という真空条件でエステル化反応が行われているが、通常このような低真空下では脱水され難く反応に時間がかかるため、酵素濃度を高くするという手段を採用している。
【0004】
直鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールと、直鎖脂肪酸を原料として、低真空下でエステル化反応を行うと、ジアシルグリセロールがトリアシルグリセロールに転移し、高純度のジアシルグリセロールは得られない。この場合の対処法としては、高真空下でエステル化反応を行い、速やかに反応させ、ある程度の反応率のところで反応を停止し、ジアシルグリセロール純度の低下を抑制している。
【特許文献1】特開平1−71495号公報
【特許文献2】国際公開第03/29392号パンフレット
【特許文献3】特開昭63−133992号公報
【特許文献4】特開平10−234391号公報
【特許文献5】特開2001−169795号公報
【特許文献6】特開平1−101890号公報
【特許文献7】特開平2−270811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の高真空条件によるエステル化反応では、高真空設備を必要とするため設備負荷が大きくなり、高いエネルギーを必要とする。また、反応率がある程度高い80質量%以上で、急激にジアシルグリセロール純度が低下するため、高反応率、且つ高純度のジアシルグリセロールを得るのは難しい。
【0006】
そこで、本発明は、構成脂肪酸として分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロールを高濃度で含有する油脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について検討した結果、次の事実を見出した。モノアシルグリセロールと脂肪酸とのエステル化反応によりジアシルグリセロールを製造する際に、1,2−ジアシルグリセロールとなったもの、及び、1,3−ジアシルグリセロールの1位又は3位に結合した脂肪酸が2位に転移したものは、更に脂肪酸が結合してトリアシルグリセロールが生成してしまうという現象が生じ、ジアシルグリセロール純度が低下する。一方、炭素数が同じである直鎖型と分岐型の脂肪酸を比較した場合、両者の分子量は同じであるにも拘わらず、分岐脂肪酸の方が立体的に嵩高くなり、分子の運動性が悪くなるという特異性があることを見出した。そこで、脂肪酸と反応させる対象を、分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールとすることにより、1,2−ジアシルグリセロールからトリアシルグリセロールになり難いこと、及び1,3−ジアシルグリセロールにおける2位への脂肪酸の転移反応が起こり難くなることを発見した。更に、特定の真空条件下で反応させることにより、設備負荷をかけず、反応率を高く、構成脂肪酸として分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロール含有油脂を、従来の製造方法よりも効率良く製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールと、直鎖脂肪酸又はその低級アルコールエステルとを、リパーゼの存在下、0.01〜10kPaの減圧下で反応させる分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロール含有油脂の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、構成脂肪酸として分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロールを高濃度で含有する油脂を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、基質の一つとして、グリセリン骨格の1位又は2位に分岐脂肪酸が結合したモノアシルグリセロールを使用するのが好ましい。分岐脂肪酸は、更にグリセリン骨格の1位に結合していることが好ましい。分岐脂肪酸の炭素数は4〜24が好ましく、更に16〜22が好ましい(以下、グリセリン骨格に結合した脂肪酸を「構成脂肪酸」と表記する)。構成脂肪酸である分岐脂肪酸は、イソデカン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸等があげられるが、イソパルミチン酸、イソステアリン酸が好ましい。特に、イソステアリン酸モノアシルグリセロールを基質として使用するのが、高純度ジアシルグリセロールを高収率で得る点から好ましく、また反応装置を設備負荷の小さい、コンパクトなものとする点からも好ましい。
また、もう一方の基質である直鎖脂肪酸又はその低級アルコールエステルは、炭素鎖8〜24の直鎖脂肪酸が好ましい。特に、炭素鎖が10〜14の直鎖脂肪酸であることが、高純度ジアシルグリセロールを高収率で得る点から好ましい。低級アルコールエステルの場合には、アルコールは炭素数が1〜3であることが好ましい。
【0011】
本発明に使用される直鎖脂肪酸の起源としては、植物性、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、カツオ油、イワシ油、マグロ油等の魚油、アマニ油、シソ油、大豆油、ナタネ油、ひまわり油等の植物油等を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できる。
【0012】
本発明に使用される直鎖脂肪酸又はその低級アルコールエステルのモノアシルグリセロールに対するモル倍率は、好ましくは0.1〜10mol倍、更に0.5〜5mol倍、特に1〜1.5mol倍とするのが、経済的に高純度のジアシルグリセロールを得る点から好ましい。
【0013】
本発明においては、分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールと、直鎖脂肪酸又はその低級アルコールエステルとを反応させる際にリパーゼを用いる。リパーゼは、特にRhizopus属、Aspergillus属、Mucor属、Geotrichum属、Pseudomonas属、Penicillium属、Chromobacterium属、Candida属、Achromobacter属、又はAlcaligenes属の微生物由来のものを挙げることができる。これらのリパーゼの中でもモノアシルグリセロールの1位又は3位に選択的に作用するものであることが、特に有用なジアシルグリセロールを合成することができる点から好ましい。分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールは、1−(又は3−)モノアシルグリセロールが安定であり、この場合、3位(又は1位)にのみ作用するリパーゼを使用することによって、分岐脂肪酸と直鎖脂肪酸を含むジアシルグリセロールを高純度で非常に容易に得ることができる。
【0014】
本発明において用いるリパーゼは、前記の菌体から単離精製された粗酵素をそのまま使用しても良いが、反応後に回収、再利用できるという経済性の点から、各種担体に保持させて固定化したリパーゼを使用することが好ましい。
【0015】
リパーゼを固定化する担体としては、セライト、ケイソウ土、カオリナイト、シリカゲル、モレキュラーシーブス、多孔質ガラス、活性炭、炭酸カルシウム、セラミックス等の無機担体、セラミックスパウダー、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、キトサン、イオン交換樹脂、疎水吸着樹脂、キレート樹脂、合成吸着樹脂等の有機高分子等が挙げられるが、特に保水力の点からイオン交換樹脂が好ましい。また、イオン交換樹脂の中でも、大きな表面積を有することにより酵素のより大きな吸着量を得ることができるという点から、多孔質であることが好ましい。
【0016】
固定化担体として用いる樹脂の粒子径は100〜1000μmが好ましく、特に250〜750μmが好ましい。細孔径は10〜150nmが好ましい。材質としては、フェノールホルムアルデヒド系、ポリスチレン系、アクリルアミド系、ジビニルベンゼン系等が挙げられ、特にフェノールホルムアルデヒド系樹脂(例えば、Rohm and Hass社製Duolite A-568)が好ましい。
【0017】
本発明において、リパーゼを前記担体に固定化する場合には、固定化を行う温度は、酵素の特性によって決定することができるが、酵素の失活が起きない0〜60℃、特に5〜40℃が好ましい。また固定化時に使用する酵素溶液のpHは、酵素の変性が起きない範囲であればよく、温度同様酵素の特性によって決定することができるが、pH3〜9が好ましい。このpHを維持するためには緩衝液を使用するが、緩衝液としては、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液等が挙げられる。上記酵素溶液中の酵素濃度は、固定化効率の点から酵素の飽和溶解度以下で、かつ十分な濃度であることが好ましい。また酵素溶液は、必要に応じて不溶部を遠心分離で除去した上澄や、限外濾過等によって精製したものを使用することもできる。また用いる酵素質量はその酵素活性によっても異なるが、担体100質量部(以下、単に「部」と記載する)に対して5〜1000部、特に10〜500部が好ましい。
【0018】
酵素を固定化する場合、担体と酵素を直接吸着してもよいが、高活性を発現するような吸着状態にするため、酵素吸着前に予め担体を脂溶性脂肪酸又はその誘導体で処理することが好ましい。脂溶性脂肪酸又はその誘導体と担体の接触法としては、水又は有機溶剤中にこれらを直接加えてもよいが、分散性を良くするため、有機溶剤に脂溶性脂肪酸又はその誘導体を一旦分散、溶解させた後、水に分散させた担体に加えてもよい。この有機溶剤としては、クロロホルム、ヘキサン、エタノール等が挙げられる。脂溶性脂肪酸又はその誘導体の使用質量は、担体100部に対して1〜500部、特に10〜200部が好ましい。接触温度は0〜100℃、特に20〜60℃が好ましく、接触時間は5分〜5時間程度が好ましい。この処理を終えた担体は、ろ過して回収するが、乾燥してもよい。乾燥温度は室温〜100℃が好ましく、減圧乾燥を行ってもよい。
【0019】
予め担体を処理する脂溶性脂肪酸又はその誘導体のうち、脂溶性脂肪酸としては、炭素数4〜24、好ましくは炭素数8〜18の飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐鎖の、水酸基を有していてもよい脂肪酸が挙げられる。具体的には、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、α-リノレン酸、リシノール酸、イソステアリン酸等が挙げられる。また前記脂溶性脂肪酸の誘導体としては、これらの脂溶性脂肪酸と一価若しくは多価アルコール又は糖類とのエステル、リン脂質、及びこれらのエステルにエチレンオキサイドを付加したもの等が挙げられる。具体的には、上記脂肪酸のメチルエステル、エチルエステル、モノグリセライド、ジグリセライド、それらのエチレンオキサイド付加体、ポリグリセリンエステル、ソルビタンエステル、ショ糖エステル等が挙げられる。これら脂溶性脂肪酸及びその誘導体はいずれも常温で液状であることが酵素を担体に固定化する工程上好ましい。これら脂溶性脂肪酸又はその誘導体としては、上記2種以上を併用してもよく、菜種脂肪酸、大豆脂肪酸等の天然由来の脂肪酸を用いることもできる。
固定化リパーゼの量は、反応に供する分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールと直鎖脂肪酸又はその低級アルコールエステルとの合計量100部に対して、0.5〜50部、好ましくは1〜20部、より好ましくは2〜10部、更に3〜6部であることが反応時間と酵素コストの点から好ましい。
【0020】
反応の形態としては、攪拌槽で酵素または固定化酵素を基質中に懸濁させる方法、固定化酵素を充填した固定床と脱水槽の間で基質を循環させる方法等が挙げられる。攪拌槽を用いる方法は、ジアシルグリセロールの純度を向上する点から好ましい。固定化酵素を充填した固定床と脱水槽を用いる方法は、反応後のジアシルグリセロールを固定化酵素と分離する工程が不要でハンドリング性が向上できる点から好ましい。
【0021】
本発明の方法における反応の圧力は0.1〜10kPaであるが、好ましくは0.2〜9kPa、更に0.5〜8kPa、特に1.5〜7kPa、殊更5〜7kPaであることが、反応率、ジアシルグリセロールの高純度化、工業化の点から好ましい。ここで圧力は、絶対圧力をいう。圧力は、真空設備の設備コスト及び運転コストの点からは大きい方が好ましく、ジアシルグリセロールの高純度化の点及び反応時間を短縮できる点からは小さい方が好ましく、これらを総合的に考慮すると、0.2〜9kPa、更に0.5〜8kPa、特に1.5〜7kPa、殊更5〜7kPaであることが、好ましい。
反応温度は、反応速度を向上する点、酵素の失活を抑制する点から0〜100℃、更に20〜80℃、特に30〜60℃とすることが好ましい。
【0022】
反応率は、50質量%(以下、単に「%」と記載する)以上とするのが好ましく、更に60%以上、特に70〜100%、殊更80〜95%とするのが工業的生産性、収率の点から好ましい。ジアシルグリセロール純度は、70〜100%であることが好ましく、更に75〜97%、特に80〜96%、殊更85〜95%であるのが、工業的生産性、ジアシルグリセロール含有油脂の保湿性、加工特性の点で好ましい。
ここで、本発明においては、反応液(エステル反応油)中のジアシルグリセロールとトリアシルグリセロールの合計の含量を「反応率(%)」と称する。また、ジアシルグリセロールとトリアシルグリセロールの合計中のジアシルグリセロール含量を「ジアシルグリセロール純度(%)」と称する。
【0023】
エステル化反応により得られたエステル反応油は、後処理を行うことによりジアシルグリセロール含有油脂の製品とすることができる。後処理は、脱酸、酸処理、水洗、脱色、脱臭等の工程を行うことが好ましい。
【0024】
脱酸は、減圧蒸留により、未反応や副生物の脂肪酸やモノグリセライドを除去する工程である。酸処理は、クエン酸などのキレート剤を添加して混合し減圧脱水し、さらに水洗を行って微量の金属等の成分を除去する工程である。水洗は、水を添加して混合し、油水分離を行う工程である。脱色工程は、吸着剤との接触を行って色相、風味を改善する工程である。脱臭は、加熱下で減圧水蒸気蒸留を行い有臭物質や低沸成分を除去すると同時に熱で分解する色素成分を熱分解し、風味、色相を改善する工程である。
これらの後処理は、原料の精製度合いやエステル反応油の組成、製品の要求品質に応じて、各工程の実施と不実施の選択や順序、各工程の条件を適時選択して行うことができる。
【0025】
後処理後のジアシルグリセロール含有油脂のジアシルグリセロール含量は、エステル反応油のジアシルグリセロール純度から推定できるので、エステル反応油のジアシルグリセロール純度を調整することで、ジアシルグリセロール含有油脂のジアシルグリセロール含量を所望の範囲に調整することができる。
【実施例】
【0026】
〔モノアシルグリセロールの調製〕
反応の基質の一つである、分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールを次に示す方法により調製した。
イソステアリン酸(日産化学工業(株))36gと、グリセリン10gを200mL容の四つ口フラスコに仕込んだ。次に、反応触媒として水酸化カルシウムを0.1g添加し、攪拌速度を400rpmとした。フラスコ内の液部の温度を、温調機で100℃まで昇温し、反応を2時間行った。75%濃度のリン酸水溶液を5g添加して、水酸化カルシウムの不触媒化を行った。反応後のフラスコ内の液部を冷却した後、濾紙(No.2)で濾過を行った。得られた濾液を300mL容の四つ口フラスコに仕込んだ。濾液100部に対して水を100部添加して、70℃下で400rpmで攪拌した。その後、70℃下で静置分離し、油と水を分けて、水相側にグリセリンを移行させて、油中からグリセリンを除去した。グリセリン除去後の油脂を、薄膜式蒸留装置(55φ×200H、有効伝熱面積0.035m)を用いて、温度180℃、圧力0.4kPaにて、油脂を150mL/Hの流量で供給し、冷却管を温調機で40℃に調整し、モノアシルグリセロールを蒸留、回収した。回収された油脂は、イソステアリン酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールの含量が92%であり、酸価は9.8(mg-KOH/g)であった。なお、酸価は、基準油脂分析試験法(2.3.1-1996)に基づき測定した。
【0027】
〔固定化酵素の調製〕
Duolite A−568(Rohm and Hass社)54gをN/10のNaOH溶液5L中で1時間攪拌した。濾過後、1Lの蒸留水で洗浄し、500mMの酢酸緩衝液(pH5)5LでpHを平衡化した。その後50mMの酢酸緩衝液(pH5)5Lで2時間ずつ2回、pH平衡化を行った。濾過して担体を回収した後、2.5Lのエタノールでエタノール置換を30分間行った。濾過後、リシノール酸を100g含むエタノール溶液5Lと担体を30分間接触させた。濾過後、50mMの酢酸緩衝液(pH5)5Lで0.5時間ずつ4回緩衝液置換を行った。濾過後、10%濃度のリ・リパーゼ(長瀬産業(株))溶液1Lと室温で4時間接触させ、酵素の吸着を行った。吸着後、濾過を行い、50mMのリン酸緩衝液(pH5)5Lで0.5時間洗浄した。洗浄後濾過し、固定化酵素を回収した。この時の固定化酵素の残存水分量は1.5%であった。
【0028】
〔グリセリド組成の分析〕
グリセリド組成は、日本油化学会「基準油脂分析試験法」(2.4.2.2.−1996)に従って分析した。
【0029】
実施例1
前記調製した固定化酵素5.2gを200mL容の四つ口フラスコに仕込んだ。次に、前記調製したモノアシルグリセロール80gを添加し、温度コントローラーにて、反応液の温度を52℃に調整し、200rpmで攪拌しながら、さらにミリスチン酸49.3gを添加した。次に、攪拌回転数を500rpmに調整し、フラスコ内の圧力を0.2〜0.4kPaに調整し、反応水を系外に除去しながら、反応を行った。反応中、経時的に反応液をサンプリングし、反応液中の反応油の酸価が25mg-KOH/g-反応油以下まで低下したところで反応を停止した。反応油のグリセリド組成を表1に示す。
【0030】
実施例2〜4
実施例1における反応時の圧力を0.7〜1.2kPa、2〜3kPa、又は6〜7kPaとした以外は、実施例1と同様の操作により反応を行った。結果を表1に示す。
【0031】
比較例1
実施例1における反応時の圧力を12〜14kPaとした以外は、実施例1と同様の操作により反応を行った。結果を表1に示す。
【0032】
比較例2
前記調製した固定化酵素5.1gを200mL容の四つ口フラスコに仕込んだ。次に、オレイン酸モノアシルグリセロール(直鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロール)を主成分とするO−95R(花王(株))72.8gを添加し、温度コントローラーにて、液温度は52℃に調整し、200rpmで攪拌しながら、さらにミリスチン酸49.3gを添加した。次に、攪拌回転数を500rpmに調整し、フラスコ内の圧力を0.2〜0.4kPaに減圧し、反応水を系外に除去しながら、反応を行った。反応中、経時的に反応液をサンプリングし、反応液中の反応油の酸価が25mg-KOH/g-反応油以下まで低下したところで反応を停止した。結果を表1に示す。
【0033】
比較例3及び4
比較例2におけるモノアシルグリセロールとミリスチン酸の反応時の真空度を0.7〜1.2、6〜7kPaとした以外は、比較例2と同様の操作により反応を行った。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1から明らかなように、分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールと直鎖脂肪酸とを、リパーゼの存在下、0.01〜10kPaの減圧下で反応させることにより、反応率が高く、ジアシルグリセロール純度が高いエステル反応油が得られ、分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロール含有油脂を効率的に製造できることがわかった(実施例1〜4)。
真空設備の負荷を低減するためには、真空度をなるべく低く(圧力を高く)するほうが好ましいが、圧力が10kPaを超える場合(比較例1)は、反応が遅く、反応時間を長くしても反応率及びジアシルグリセロール純度が低く、工業的生産性が悪いことがわかった。
また、直鎖脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールと直鎖脂肪酸とを反応させた場合(比較例2〜4)は、真空度が低く(圧力が高く)なるにつれて、反応率を高くした場合にジアシルグリセロール純度が低下してしまい、反応率とジアシルグリセロール純度が両立しない傾向となった。これに対して、分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールと直鎖脂肪酸を反応させる場合(実施例1〜4)は、真空度が低く(圧力が高く)なるにつれて、反応率を高くした場合のジアシルグリセロール純度の低下が小さく、反応率とジアシルグリセロール純度が両立できるという特徴を有していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐脂肪酸を構成脂肪酸とするモノアシルグリセロールと、直鎖脂肪酸又はその低級アルコールエステルとを、リパーゼの存在下、0.01〜10kPaの減圧下で反応させることを特徴とする分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロール含有油脂の製造方法。
【請求項2】
リパーゼがモノアシルグリセロールの1,3位に特異的に作用するものである、請求項1に記載の分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロール含有油脂の製造方法。
【請求項3】
リパーゼが固定化されたものである請求項1又は2に記載の分岐脂肪酸を有するジアシルグリセロール含有油脂の製造方法。

【公開番号】特開2008−263784(P2008−263784A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−106693(P2007−106693)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】