説明

分岐部を有する編地の編成方法およびその編地

【課題】本発明は、編地の途中で左右に分岐する分岐部で、左右の編目を交差させることで分岐部を強化する場合に、容易に分岐部での交差を編成でき、且つ外観を損なうことのない分岐部の編成方法とその編地を提供することを目的とする。
【解決手段】横編機を用いて、交差部の形成に先立って、分岐部を境界として編地を左右に分離して編成を行なう際に、分離して編む編地の分岐部を挟む左右の編目のそれぞれに対して、編地の裏側で増し目を形成し、続いて増し目とそれに対峙する表側の編目に続く新たな編目を袋編みで形成した後、分岐部を挟む左右の編目を交差して交差部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編み幅の途中で編地を左右に分岐させる分岐部を有する編地において、分岐部を強化した編地の編成方法およびその編地に関する。
【背景技術】
【0002】
編み幅の途中で左右に分岐させた編地には、Vネックのベストやセーターなどがある。例えばVネックのベストの前身頃の編成を行なう場合、まず1つの給糸口を使用して衿首の分岐部が形成される編目コースまでの全幅部の編成を行なう。そして分岐部から左肩部と右肩部に左右に分岐させて編成を行い、衿首を形成する。一方の肩部の編成には、全幅部の編成で使用してきた給糸口をそのまま使用して編成を行い、他方の肩部の編成にはそれまで使用してきた給糸口に換えて他の給糸口を使用する。このようなVネックのニットウエアでは、着用時に分岐部には横方向に張力がかかる。そして分岐部の編糸にその編糸の伸度を越えるような大きな張力がかかった時には、その編糸が切れる虞がある。本願出願人は分岐部の強化について提案している。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3967922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記特許文献1の改良であって、分岐部を強化し、且つ外観を損なうことのない分岐部の編成方法とその編地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、編地を分岐部で左右に分岐して編成する際に、分岐部を挟んで位置する少なくとも左右一対の編目を交差させることで分岐部に交差部を形成して分岐部を強化した分岐部を有する編地の編成方法において、前記交差部の形成に先立って、分岐部を境界として編地を左右に分離して編成を行なう際に、分離して編む編地の分岐部を挟む左右の編目のそれぞれに対して、編地の裏側で増し目を形成し、続いて増し目とそれに対峙する表側の編目に続く新たな編目を袋編みで形成した後、分岐部を挟む左右の編目を交差して交差部を形成することを特徴とする分岐部を有する編地の編成方法である。
【0006】
また本発明で、前記分岐部を挟む左右の編目の交差は、前記袋編みされた表側の編目と裏側の編目を目移しにより重ねた後に行なうことを特徴とする。
【0007】
また本発明で、分岐部で交差部を形成した後、これに続いて編成される左右の編地部分の編成では、前記分岐部に続く側端部の編成を、編地の裏側で増し目を形成し、続いて増し目とそれに対峙する表側の編目に続く新たな編目を袋編みで形成した後、袋編みで形成した表側と裏側の編目を重ねることを繰り返し行なうことを特徴とする。
【0008】
さらに本発明は、横編機を用いて編成され、編み幅の途中で左右に分岐される分岐部を有する編地において、分離して編む編地の分岐部を挟む左右の編目のそれぞれに対して、編地の裏側に増し目が形成され、該増し目と該増し目に対峙する表側の編目に続く新たな編目が袋編みで形成されており、左右の袋編み部分の編目が交差し、且つ重ねられていることを特徴とする分岐部を有する編地である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、分岐部を境界として左右でそれぞれ編地の裏側で増し目を形成し、増し目とそれに対峙する表側の編目に続く新たな編目を袋編みで形成した後、袋編みされた編目をそれぞれ分岐部の境界を越えて交差させる。増し目を形成することで、分岐部での交差に用いる編糸の本数が増加して強度を上げることができる。また、袋編みすることで、編糸にゆとりができ、交差に用いる編目が突っ張ることなく目移しが容易になり、交差部および分岐部直近の編地も突っ張ることなく、綺麗に仕上げることができる。
【0010】
また、分岐部を挟んで左右でそれぞれ袋編みされた表側の編目と裏側の編目を目移しにより重ねた後に交差のための目移しを行なうため、少ない目移し工程で、効率良く編目の重ねと交差を実現できる。
【0011】
また、分岐部に続く左右の編地部分の側端部は、編地の裏側で増し目を形成し、増し目とそれに対峙する表側の編目に続く新たな編目を袋編みで形成し、袋編みで形成された表側と裏側の編目を重ねる。このため、分岐後に延びる左右の編地部分の各側端部が厚みを増して強化することができる。また、側端部がしっかりしての側端部が延びるラインを綺麗に仕上げることができる。また、交差に用いる編目の形成時と同様に増し目と袋編みを行なっているため、分岐部と側端部における編地の外観も同様にできる。
【0012】
また、本発明による編地は、編地が突っ張るなどの外観を損なうことがなく、分岐部が強化された編地である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例であるVネックのベストの前身頃1を示す図である。
【図2】本発明の実施例である前身頃1の分岐部2の編成図である。
【図3】本発明の実施例である前身頃1の分岐部2に続く部分の編成図である。
【図4】本発明の実施例である前身頃1の分岐部2に続く部分の編成図である。
【図5】図2で編成される分岐部近傍の編目を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例として、ベストのVネック部の編成について説明する。以下の説明で編成に使用する横編機は、前後一対の針床を備えた2枚ベッド横編機であり、後針床が前針床に対してラッキング可能で、針床の上方に複数の給糸口を有するものである。編成図において、説明の便宜のため、針数を実際の編成より少なくしている。
【実施例】
【0015】
図1は、Vネックのベストの前身頃1を示す図である。本実施例で編成されるベストの前身頃1はすべて天竺で編成される。図で示すように矢印Wの方向に向かって分岐部2まで編成される全幅部4と、分岐部2から左右に分岐して編成される右肩部6と左肩部7とから成る。符号8は開口、符号9は側端部である。全幅部4および右肩部6は給糸口10を使用して編成し、左肩部7は給糸口12を使用して編成する。破線X−Xは分岐部2における境界を示す。
【0016】
図2は、図1で示す前身頃1の分岐部2の編成図である。図3および図4は、分岐部2に続く右肩部6と左肩部7の編成図である。各編成図において、図中左側の数字は編成ステップ(S)を示し、左右方向の矢印は編成方向を、上下方向の矢印は目移し方向を示し、FBは前針床を、BBは後針床を示す。大文字のA〜RはFBの編針を、小文字のa〜rはBBの編針を示す。また、丸印はその編成ステップで形成される新たな編目または目移しされる編目を、V印はタックを、二重丸印は重ね目を示す。尚、その編成ステップでの編成に関係せず、編針に係止されたままの編目については図示を省略している。また、図1と同様にX−X線は分岐部2の境界を示す。また、FB側を表側、BB側を裏側と表現する場合もある。
【0017】
以下、図2で示す編成ステップS1〜S12について説明する。S1は、前身頃1の全幅部4の編成を示し、給糸口10はキャリッジ(不図示)により左方向に移動され、FBの編針R〜Aで編目を形成する。S2以降は交差部の形成に先立つ編成として、給糸口10と給糸口11を使用する。
【0018】
S2では、給糸口11を使用して、左方向に編針R〜編針Jで編目を形成する。この時、編針Jと編針Kにて割増やし編成を行なう。即ち、表側であるFBの編針Jと編針Kで新たな編目22を形成すると同時に、元々編針Jと編針Kで係止していた編目21が目移しされて裏側であるBBの編針jと編針kで係止されるようになる。以上のようにして、BBの編針jと編針kに増し目される。S3では、右方向にBBの編針jと編針kで編目32を形成し、FBの編針Lでタックする。S4では、左方向にFBの編針Kと編針Jで編目を形成する。S5では、右方向にBBの編針jと編針kで編目33を形成し、FBの編針L〜編針Rでも編目を形成する。上記S2〜S5において、増し目に対峙するFBの編針Jと編針Kおよび増し目を係止するBBの編針jと編針kで周回するように袋編みを行なうことで、それらに続く新たな編目を形成し、この部分が袋状につながった編地になる。
【0019】
S6〜S9は、前述のS2〜S5の編成をX−X線で対称にしたものである。S6では、給糸口10を使用して、右方向に編針A〜編針Iで編目を形成する。この時、表側の編針Hと編針Iにて割増やし編成を行ない、裏側であるBBの編針hと編針iに増し目する。S7では、左方向にBBの編針iと編針hで編目を形成し、FBの編針Gでタックする。S8では、右方向にFBの編針Hと編針Iで編目を形成する。S9では、左方向にBBの編針iと編針hで編目を形成し、FBの編針G〜編針Aでも編目を形成する。上記S6〜S9において、増し目に対峙するFBの編針Hと編針Iおよび増し目を係止するBBの編針hと編針iで周回するように袋編みを行なうことで、それらに続く新たな編目を形成し、この部分が袋状につながった編地になる。
【0020】
S10〜S12は、分岐部の境界を越えて編目を交差させる工程である。本実施例では、分岐部を挟んで表側の編目を、増し目に続いて形成された裏側の編目に重ね、分岐部の境界を越えて交差させる。S10では、編針H,Iおよび編針J、Kの編目を目移しして、それぞれ編針h,iおよび編針j,kの編目と重ねる。S11では、分岐部の境界を越えて、編針jと編針kで係止する重ね目をそれぞれ編針Hと編針Iに目移しする。S12では、分岐部の境界を越えて、編針hと編針iで係止する重ね目を編針Jと編針Kに目移しする。以上のようにして、分岐部で編目の交差が完了する。
【0021】
S2およびS6で、増し目を行なっているため、交差部を形成する編糸の本数が増加し、分岐部の強化が図れる。S3〜S5およびS7〜S9で、増し目およびそれに対峙する編目に続けて袋編みを行なっているため、S11とS12での重ね目の目移し時に編糸にゆとりが有り、各編目が突っ張ることなく容易に目移しができる。本実施例での増し目は、割増やし編成によって一つの編目が割られて増し目が形成されているため、その増し目のループ長は短い。特にこのような場合には、上記の袋編みによる効果が大きい。
【0022】
本実施例では、S10〜S12の目移し工程で交差部を形成したが、これに限らず他の方法で重ねと交差を行なってもよい。例えば、分岐部の境界を挟んで表側の編目同士を先に交差させた後、裏側の編目を分岐部の境界を越えて表側の編目と重ねるようにして、本件実施例とは異なる前後関係で編目を重ねても良い。この場合には、公知のホールディング技術(例えば、特許第2995464号公報を参照)を使用すれば良い。また、4枚ベッド機であれば、上部針床を使用すれば良い。何れの場合においても、本実施例で示した目移し方法の方が、工程数が少なくて済む。
【0023】
次に図3および図4で示す分岐部2に続く右肩部6と左肩部7の編成について説明する。分岐部2で前述のように編目の交差を行なった後は、右肩部6と左肩部7の各編地をそれぞれ編成しながら、分岐部の境界に面する各側端部9R,9Lが分岐部の境界から遠ざかるように減らし編成を行なう。これにより、Vネック部の開口8を形成していく。
【0024】
S13〜S16における編成は、前述のS2〜S5と同様である。S13で、給糸口11を使用して、左方向に編針R〜編針Jで編目を形成する。この時、編針Jと編針Kにて割増やし編成を行なう。S14〜S16における袋編みも、S3〜S5と同様に増し目とそれに対峙する表側の編目に続く新たな編目を袋編みで形成する。S17では、編針J〜編針Oの編目を編針j〜編針oに目移しし、編針kと編針lで重ね目ができる。S18では、編針j〜編針oの編目を編針K〜編針Pに目移しして減らしを行なう。これにより、左肩部7の側端部9Lが分岐部の境界から遠ざかる。
【0025】
S19〜S24については、前述のS13〜S18の編成をX−X線で対称にしたものである。但し、給糸口10を使用する。S24で減らしを行なうことで、右肩部6の側端部9Rが分岐部の境界から遠ざかる。
【0026】
S25〜S28については、前述のS13〜S16と略同様である。但し、S18で減らし行なったため、編針の位置が針1本右にずれている。S18では減らしを行なったが、S29では減らしを行なわずに、編針kと編針lの編目を編針Kと編針Lに目移しして重ねる。
【0027】
S30〜S34については、前述のS25〜S29の編成をX−X線で対称にしたものである。但し、給糸口10を使用する。
【0028】
S34以降は、S13〜S24の減らしを含む工程と、S25〜S34の減らしを含まない工程とを例えば交互に繰り返すなど、所定のコースおきに行なうようにすれば、Vネック部の開口8を形成できる。
【0029】
図3および図4で、袋編みによって最も分岐部の境界側の表側と裏側の編目をつなぐ編糸が生じ、且つ袋編みされた表側と裏側の編目が重ねられ、Vネックの開口部周縁の厚みが増して強化される。また、開口部周縁が波打ったり、カールすることを防止できるため、V字ラインが綺麗に仕上がる。また図2で示す交差部を形成する編目の編成と同様に、ここでも増し目の形成とそれに続く袋編みを行っているため、分岐部を含むVネックの開口部周縁の見栄えや編地の厚みが同じになる。
【0030】
図5は、図2のS1からS5における編針Jと編針jまたは編針Kと編針kで形成される編目のつながりを示す概略図である。図に示すように、割増やしにより増し目された編目21はFB(表)側からBB(裏)側へ割られて引出されるように形成されるため、そのループ長は短い。それに続く袋編みを行なわずに、目移しを行なうのが困難な場合があり、編糸の許容張力を超えると糸切れする場合もある。表側と裏側の編目に続いて袋編みを行なって、それぞれ編目23,32,33を形成し、編目23と編目33を目移しして交差部を形成するようにすれば、目移しが容易になり、分岐部の直近となる編地、特に編目21,22,32の部分が突っ張ることがなく、編地の外観を損なわない。また、増し目形成後の袋編みによって、表側の編目22,23と裏側の編目32,33が形成されて、この部分のみ表裏2層の編目から成る袋状の編地となり、厚みが増している。図3および図4において、割増やしにより増し目を形成し、それに続く袋編みを行なっている箇所の編目のつながりも、図5と同じである。
【0031】
本実施例における増し目形成後の袋編みは、例えばS2〜S5で示すように同方向に周回しているが、袋編みの方法はこれに限らない。例えば、S3の最後のタックの後、そのタックで折り返すように反転して、裏側の編針k,j、表側の編針J,Kの順に編成しても良い。
【0032】
本実施例では、割増やしで増し目を形成したが、裏側の編針に掛け目を形成して増し目するようにしても良い。また、図2〜図4にて割増やしは左右で各2本の編針で行なったが、例えば各1本や各3本でも良く、それに続く袋編みの針本数もそれに応じて適宜変更すれば良い。
【0033】
また、本実施例では、2枚ベッド機での前身頃1の編成を示したが、前身頃と後身頃の両端部が繋がった状態で横編機上で編成する公知の筒状編成を行なう場合でも、本発明を適用することができる。Vネックの前身頃における分岐部での編成を一実施例として示したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨に逸脱しない範囲において実施可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 前身頃
2 分岐部
6 右肩部
7 左肩部
8 開口
9 側端部
10,11 給糸口
21,22,23,32,33 編目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用いて、編地を分岐部で左右に分岐して編成する際に、分岐部を挟んで位置する少なくとも左右一対の編目を交差させることで分岐部に交差部を形成して分岐部を強化した分岐部を有する編地の編成方法において、
前記交差部の形成に先立って、分岐部を境界として編地を左右に分離して編成を行なう際に、分離して編む編地の分岐部を挟む左右の編目のそれぞれに対して、編地の裏側で増し目を形成し、続いて増し目とそれに対峙する表側の編目に続く新たな編目を袋編みで形成した後、分岐部を挟む左右の編目を交差して交差部を形成することを特徴とする分岐部を有する編地の編成方法。
【請求項2】
前記分岐部を挟む左右の編目の交差は、前記袋編みされた表側の編目と裏側の編目を目移しにより重ねた後に行なうことを特徴とする請求項1記載の分岐部を有する編地の編成方法。
【請求項3】
分岐部で交差部を形成した後、これに続いて編成される左右の編地部分の編成では、前記分岐部に続く側端部の編成を、編地の裏側で増し目を形成し、続いて増し目とそれに対峙する表側の編目に続く新たな編目を袋編みで形成した後、袋編みで形成した表側と裏側の編目を重ねることを繰り返し行なうことを特徴とする請求項1または2記載の分岐部を有する編地の編成方法。
【請求項4】
横編機を用いて編成され、編み幅の途中で左右に分岐される分岐部を有する編地において、分離して編む編地の分岐部を挟む左右の編目のそれぞれに対して、編地の裏側に増し目が形成され、該増し目と該増し目に対峙する表側の編目に続く新たな編目が袋編みで形成されており、左右の袋編み部分の編目が交差し、且つ重ねられていることを特徴とする分岐部を有する編地。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−285715(P2010−285715A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139965(P2009−139965)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】