説明

分散剤

【課題】真比重の大きい微粒子状の無機化合物を、水系媒体に分散させるに際し、特定の化学構造を有する化合物を分散剤として配合することで、凝集及び沈降を防止し、安定性が高められた分散剤を提供することを目的とする。
【解決手段】糖の水酸基と、1分子内に2つ以上のカルボキシル基を有する多塩基酸がエステル結合した化合物であって、該化合物が1分子内に1つ以上のカルボキシル基を有することを特徴とする化合物を含む分散剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、比重の大きい無機化合物を水系媒体に分散させてスラリーを得る際に、好適に使用できる分散剤に関する。詳しくは、生分解性、環境適合性に優れる界面活性剤を配合した分散剤において、少量の添加で、無機化合物の微粒子を分散し、凝集の防止性、沈降の防止性等の安定性が改善された分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一つの分子内に、親水基と疎水基を併せ持つ両親媒性化合物には、液体の表面張力を減少する性質を有し、このような性質を有する化合物を界面活性剤という。界面活性剤の基礎的性質には、湿潤、浸透、濡れ、分散、乳化、可溶化、起泡、洗浄等があり、これらの性質を応用して、多くの産業で利用されている。特に、糖エステル型の界面活性剤は、生分解性が良好で、環境に影響を与え難く、人体にも安全であることから、今後の分散剤として有用である。
【0003】
無機化合物を水系媒体中に分散し、スラリー化する分散剤については、従来、ポリカルボン酸塩等の高分子型の分散剤が検討されてきた。例えば、特許文献1には、無機化合物用分散剤として、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル及びメトキシポリエチレングリコールメタクリレートとの共重合体の塩が開示されている。
特許文献2には、エチレン系モノカルボン酸、ポリアルキレングリコールアクリレート又はメタクリレート及びエチレン系不飽和ジカルボン酸の共重合体の塩を含有する無機化合物用分散剤が開示されている。
化学構造の一部に糖残基を含む高分子型分散剤は、以下の文献に開示されている。
特許文献3には、カルボキシル含有フルクタンを用いて、炭酸カルシウム、二酸化チタンおよびクレー等の水性媒体中で安定化することが開示されている。該文献によると、このカルボキシル含有フルクタンは、少なくとも3〜1000の平均重合度(糖残基)を有するイヌリンの誘導体であり、無水フルクトース単位当たり0.3〜3個のカルボキシル基を含有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−313004
【特許文献2】特開2005−46781
【特許文献3】国際公開第99/64143号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、真比重の大きい微粒子状の無機化合物を、水系媒体に分散させるに際し、特定の化学構造を有する化合物を分散剤として配合することで、凝集及び/または沈降を防止し、安定性を高められた分散剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の化学構造を有する化合物を分散剤として配合することで、凝集及び沈降を防止し、安定性を高められることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、下記の通りである。
(1)糖の水酸基と、1分子内に2つ以上のカルボキシル基を有する多塩基酸がエステル結合し、1分子内に1つ以上のカルボキシル基を有する化合物を含む分散剤。
(2)前記糖が、グルコース、フラクトース、ガラクトース、またはマンノースから選ばれるヘキソースまたはその異性体もしくは誘導体、キシロース、アラビノースから選ばれるペントースまたはその異性体あるいは誘導体、及びエリトロース、トレオースから選ばれるテトロースまたはその異性体あるいは誘導体等から選ばれる少なくとも1種を構成糖とする単糖またはオリゴ糖であり、前記多塩基酸が、炭素数2〜36の飽和又は不飽和の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種である(1)に記載の分散剤。
【0007】
(3)前記糖がグルコースであり、多塩基酸が炭素数2〜12の飽和二塩基酸であり、糖の水酸基と二塩基酸がモノエステル結合した化合物を含む(1)又は(2)に記載の分散剤。
(4)(1)〜(3)のいずれか一つに記載の分散剤と、酸化チタン、炭酸カルシウム、アルミナ及びチタン酸バリウムから選ばれる少なくとも1種の無機化合物を含む分散液。
(5)(4)に記載の分散液からなる塗料。
(6)(4)に記載の分散液からなる電子材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、真比重の大きい微粒子状の無機化合物を、水系媒体に分散させるに際し、凝集及び沈降を防止し、安定性を高められた分散剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に用いられる代表的な化合物化学構造を表す図である。
【図2】実施例、比較例の分散剤に関する懸濁安定性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、特にその好ましい態様を中心に、以下具体的に説明する。
本実施の形態は、糖の水酸基と、1分子内に2つ以上のカルボキシル基を有する多塩基酸がエステル結合し、1分子内に1つ以上のカルボキシル基を有する化合物を含む必要がある。
上述の糖とは、グルコース、フラクトース、ガラクトース、マンノースから選ばれるヘキソースまたはその異性体もしくは誘導体、キシロース、アラビノースから選ばれるペントースまたはその異性体あるいは誘導体、エリトロース、トレオースから選ばれるテトロースまたはその異性体あるいは誘導体等が挙げられる。また、これらの糖はD体であっても、L体であってもよい。この中でも、ヘキソースが親水性の点で優れており、ヘキソースの中でも、グルコースが親水基としては優れており、さらにD体がより優れている。
【0011】
糖は、上述の構成糖が単独で存在する単糖類であっても、2個以上がエーテル結合した多糖類であってもよい。これらの中でも、構成糖が1個の単糖または構成糖が2〜10個エーテル結合したオリゴ糖類は、水溶性が高く、粘度が低い点で優れている。糖における構成糖の数は、1〜5個が好ましく、1〜3がさらに好ましく、1〜2が特に好ましい。
二糖類としては、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ショ糖、ラミナリビオース、キシロビオース、キトビオース、ソホロース、ゲンチオビオース、トレハロース等が好適に使用できる。三糖類としては、マルトトリオース、イソマルトトリオースセロトリオース、ラフィノース、キシロトリオース等が好適に使用できる。
【0012】
次に、本実施の形態で用いる多塩基酸について説明する。多塩基酸としては、1分子内に2つ以上のカルボキシル基を有する必要がある。多塩基酸が、1分子内に2つ以上のカルボキシル基を有することで、1つのカルボン酸がエステル結合しても、化合物が、1つ以上のカルボキシル基を有することになる。このため、本発明の優れた分散効果が得られる。
この多塩基酸としては、炭素数が2〜36の飽和又は不飽和の二塩基酸から選ばれる構造を有することが好ましい。炭素数が2以上であれば、固体の分散能に優れ、36以下であれば化合物の水溶性が向上する。より好ましい炭素数は2〜18、さらに好ましくは2〜14、特に好ましくは2〜12、最も好ましくは2〜10である。
【0013】
多塩基酸の例としては、ジカルボン酸(二塩基酸)、トリカルボン酸等が挙げられる。
ジカルボン酸は、2つのカルボキシル基をもつ有機化合物のことである。ジカルボン酸の分子式はHOOC−R−COOHと書くことができる(Rはアルカン、アルケン、アルキンなどから誘導される2価の置換基)。ジカルボン酸としては、例えば、直鎖飽和ジカルボン酸として、シュウ酸(炭素数2)、マロン酸(炭素数3)、コハク酸(炭素数4)、イタコン酸(炭素数4)、グルタル酸(炭素数5)、アジピン酸(炭素数6)、ピメリン酸(炭素数7)、スベリン酸(炭素数8)、アゼライン酸(炭素数9)、セバシン酸(炭素数10)、ドデカン二酸(炭素数12)、テトラデカン二酸(炭素数14)、ヘキサデカン二酸(炭素数16)、オクタデカン二酸(炭素数18)、ダイマー酸(炭素数36)等が挙げられ、飽和/不飽和環式ジカルボン酸として、フタル酸(炭素数8)、イソフタル酸(炭素数8)、テレフタル酸(炭素数8)、シクロヘキサンジカルボン酸(炭素数8)等が挙げられる。
【0014】
次に、トリカルボン酸は、3つのカルボキシル基をもつ有機化合物のことである。トリカルボン酸としては、例えば、クエン酸(2−ヒドロキシプロパントリカルボン酸(炭素数6))、アコニット酸(2−カルボキシプロパ−1−エントリカルボン酸(炭素数6))、イソクエン酸(1−ヒドロキシプロパン−1,2,3−トリカルボン酸(炭素数6))、オキサロコハク酸(1−オキソプロパン−1,2,3−トリカルボン酸(炭素数6))、1,3,6−ヘキサメチレントリカルボン酸、トリメシン酸(ベンゼン−1,3,5−トリカルボン酸(炭素数9))等が挙げられる。
上述の多塩基酸の炭素鎖の構造に関しては、特に制限はないが、飽和多塩基酸を用いることが好ましい。
上述の多塩基酸の中でも、その構造中に、メチレン鎖−(CH−(ここでnは1以上)を有するものが好ましい。このメチレン鎖を有することで、化合物中のカルボキシル基の運動性が向上するため、固体との結合性が増加し、分散能が向上するため好ましい。メチレン鎖中のn数は、1〜34が好ましく、1〜16がより好ましく、さらに好ましくは2〜12、特に好ましくは3〜10、最も好ましくは4〜8である。
【0015】
本実施の形態で用いる化合物は、糖の水酸基と、カルボン酸のカルボキシル基がエステル結合した両親媒性化合物である。エステル結合は、環境中に排出された後に、微生物により生分解される過程で、リパーゼによる分解を受けやすく、生分解性に優れるものである。
糖におけるエステル結合の部位は、グルコースのC6位の水酸基と、二塩基酸を用いる場合には、末端カルボン酸のカルボキシル基が脱水縮合したものであることが好ましい。グルコースのC6位の水酸基は、この糖のなかで、一級の水酸基であるため、当該化合物が環境中で生分解されやすいため好ましい。本実施の形態で用いる糖としてグルコースを使用した場合の化合物の代表的な化学構造を図1に示す。
【0016】
本実施の形態で用いる化合物は、原料として、糖と多塩基酸を用い、各種方法で、エステル化することができる。エステル化の方法としては、リパーゼ、プロテアーゼ等の酵素を用いて脱水縮合する方法、酸触媒又はアルカリ触媒を用いて脱水縮合する方法、多塩基酸のカルボン酸を一旦、メチルエステル化し、エステル交換反応で糖とエステル化する方法等が挙げられる。
上述の方法の中でも、特にリパーゼ、またはプロテアーゼを用いて、酵素的にエステル化する反応において、脱水縮合する方法が、モノエステルが選択的に得られるため好ましい。
【0017】
リパーゼとは、脂質を構成するエステル結合を加水分解する酵素のことであり、プロテアーゼとは、蛋白質を構成するペプチド結合を加水分解する酵素のことである。酵素が脂質又は蛋白質の分解活性を有していれば、リパーゼまたはプロテアーゼと定義する。上述の加水分解の逆反応を利用して、脱水縮合を行うことが好ましい。リパーゼ、またはプロテアーゼとしては、酵素産生生菌体そのもの、産生菌が分泌する酵素を精製したもの、精酵素を賦形剤、安定化剤等の添加剤ともに製剤化したもの等が挙げられる。酵素製剤品の場合、それに添加される添加剤にも特に制限はなく、その剤形は、粉末、顆粒、液体等いずれでもよい。
【0018】
リパーゼの起源については、特に制限はないが、例えば、公知のリパーゼを生産する微生物としては、Rhizopus niveus、Rhizopus arrhizus、Candida antarctica、Candida sp.、Penicillium camembertii、Humicola lanuginosa、Pseudomonas fluorescens、Candida lipolytica、Candida rugosa、Rhizomucor miehei、Mucor miehei等が生産するリパーゼを挙げることができる。脂質を分解する酵素であれば、上記公知の菌由来の酵素に限らず、新規の菌由来の酵素も、リパーゼに含まれる。
【0019】
酵素によるエステル化方法は、公知の方法を使用すればよく、特に制限されるものではないが、一例としては、糖を、多塩基酸を溶解させた有機溶剤に懸濁させ、リパーゼを添加し、攪拌または振とうしながら、加温して反応を行う方法等が挙げられる。
上記方法において、懸濁方法、攪拌方法、基質の添加方法・添加順序、それらの濃度等の反応条件は、化合物がより高収率で得られるよう適宜調整されるものである。その際の、反応液の温度は、酵素が失活しない範囲内であればよく、一般的には、常圧で反応を行う場合、温度は5〜95℃の範囲でよい。また、この圧力、温度等についても、上記同様、化合物がより高収率で得られるよう適宜調整されるものである。
また、脱水方法としては、減圧で還流を掛けながら系外に水を取り除く方法、モレキュラーシーブ等に水を吸着させる方法、P10などの脱水剤を添加して化学反応により脱水する方法等が挙げられる。
【0020】
上述の反応により得られた化合物溶液は、必要に応じて、脱色、脱塩、酵素除去等の精製処理を施すことができる。精製方法は、公知の方法であれば特に制限されないが、例えば、活性炭処理、イオン交換樹脂処理、クロマトグラフィー処理、精密ろ過、限外ろ過、逆浸透ろ過等の濾過処理、晶析処理等を使用してもよく、これらを単独で使用しても、2種以上を組み合わせてもよい。
【0021】
以下に、本実施の形態と無機化合物からなる分散液について説明する。
分散液は、上述の化合物を含む分散剤を、無機化合物の固形分に対し、0.001〜30質量%含有することが好ましい。分散液中の化合物の含量は、0.001質量%以上であると、充分な分散効果が得られる。化合物含量は、30質量%以下であると、分散工程において、泡が発生せず、充分な分散効果が得られる。また、保存中に固体の沈殿の発生を防止するため、より好ましい範囲としては0.01〜30質量%、さらに好ましくは0.01〜20質量%、特に好ましくは0.01〜10質量%、最も好ましくは0.01〜5質量%である。
【0022】
無機化合物としては、酸化チタン、アルミナ、チタン酸塩、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素、窒化硼素等のセラミック用顔料類、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、クレー、ベントナイト、サチンホワイト、亜鉛華、ベンガラ、フェライト、酸化マグネシウム、タルク、ホワイトカーボン、セメント、石膏、カーボンブラック、珪酸塩等の無機顔料類等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。上述の無機化合物の中でも、酸化チタン、炭酸カルシウム、アルミナ、チタン酸バリウムが好適に使用できる。
無機化合物の平均粒子径は、微粒子状であることが好ましい。平均粒子径の値は、種類や用途により異なるが、5μm以下が好ましい。より好ましくは1.0μm以下であり、0.5μm以下がさらに好ましく、0.1μm以下が特に好ましい。塗料用途では、無機化合物の粒子径は小さいほど、塗工面が均一になり、品質が向上するため好ましい。分散と凝集の観点から、平均粒子径の下限としては0.01μm以上が好ましい。
【0023】
上述の平均粒子径は、以下の方法で測定できる。レーザー回折/散乱式粒度分布計(NIKKISO製 マイクロトラックMT3300)を用いて、超音波処理なしで、測定される累積50%粒子径が、平均粒子径に該当する。
分散液における無機化合物の含有量は、用途に応じて設定されるものであり、特に制限されないが、0.1〜99質量%が好ましい。特に、塗料用途で使用する場合は、1〜80質量%が好ましい。
分散液における媒体は、水系媒体が好ましい。水系媒体とは、水単独または、水に可溶性の有機溶剤を溶解したもののことであり、有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。安全性、経済性の観点から、水単独で媒体とするのが好ましい。
【0024】
分散液は、必要に応じて補助成分を含んでいてもよい。
塗料等に使用する場合の、補助成分としては、塗膜成分として、液体塗膜形成要素、固体塗膜形成要素、可塑剤、乾燥剤、硬化剤、顔料分散剤、乳化剤、増粘剤、皮張防止剤、殺虫殺菌剤、着色顔料、金属粉顔料、体質顔料、つや消し顔料、補強顔料、さび止顔料、毒性顔料等が挙げられ、塗膜形成助要素として、炭化水素、アルコール、エステル、ケトン、エーテル、水等が挙げられる。
液体塗膜形成要素としては、例えば、乾性油として、あまに油、えの油、大豆油、シナきり油等が挙げられ、改良乾性油として、脱水みまし油、マレイン酸化油、スチレン化油、ソルビン酸化油、ウレタン化油、エポキシ化油等が挙げられ、液体合成樹脂として、不飽和ポリエステル、合成漆、合成乾性油等が挙げられ、天然フェノールとして、生漆、カシューナットセル油等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
【0025】
固体塗膜形成要素としては、例えば、天然樹脂として、ロジン、セラック、ダンマルゴム、コーバル等が挙げられ、加工樹脂として、エステルゴム、石灰ロジン、マレイン酸ロジン等が挙げられ、固体合成樹脂として、アルキド樹脂、ブチルエーテル化アミノアルデヒド樹脂、フェノール樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、炭化水素樹脂、ウレタン樹脂、ビニルブチラール樹脂、珪素樹脂等が挙げられ、繊維素誘導体として、ニトロセルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース等が挙げられ、ゴム誘導体として、塩化ゴム、環化ゴム等が挙げられ、ビチューメンとして、アスファルト、ギルソナイト、コールタールピッチ、膨潤炭等が挙げられ、水溶性結合剤として、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、カゼイン、溶性デンプン、水溶性油脂等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
【0026】
可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチル、リン酸トリクレジル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジプロピル、n−ヒドロキシメチルフタルイミド等が挙げられ、これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
乾燥剤・硬化剤としては、乾性油用として、リノール酸コバルト、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ジルコニウム等が挙げられ、液体合成樹脂用として、過酸化ベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、オクトイン酸コバルト等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
顔料分散剤としては、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
【0027】
乳化剤としては、トリエタノールアミン等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
増粘剤としては、モンモリロナイト等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
皮張防止剤としては、ジペンテンオキシム等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
殺虫殺菌剤としては、DDT、PCP、BHC、デルドリン、ハロゲン化フェナルサジン等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
【0028】
着色顔料としては、白顔料として、チタン白、亜鉛華、リトポン、鉛白等が挙げられ、赤顔料として、カドミウム赤、ベンガラ、トルイジンレッド、キナクリドンレッド等が挙げられ、黄顔料として、黄鉛、鉄黄、チタン黄等が挙げられ、緑顔料として、酸化クロム、フタロシアニングリーン等が挙げられ、青顔料として、紺青、群青、フタロシアニンブルー等が挙げられ、黒顔料として、カーボンブラック、鉄黒、グラファイト等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
金属粉顔料としては、アルミニウム粉、ブロンズ粉等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
【0029】
体質顔料としては、白亜、バライト粉、タルク等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
つや消し顔料としては、合成シリカ粉等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
補強顔料としては、アスベスチン、雲母粉等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
さび止顔料としては、鉛丹、酸化亜鉛、亜鉛末、亜酸化鉛、クロム酸亜鉛、塩基性クロム酸鉛、シアナミド鉛、塩基性硫酸鉛、亜酸化銅等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
【0030】
毒性顔料としては、黄色酸化水銀等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
塗膜形成助要素としては、炭化水素として、ミネラルリピッド、灯油、トルエン、キシレン等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
アルコールとしては、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソピロピルアルコール等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
エステルとしては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
エーテルとしては、エチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。これらは、1種または2種以上を併用してもよい。
【0031】
以下に、分散液の製造方法について記述するが、本発明の効果は、以下の方法に制限されるものではない。
各成分の添加方法は、通常行われている方法であれば特に制限はないが、1)分散剤と、無機化合物を同時に水系媒体に添加し、混合/分散しても、2)分散剤を予め水系媒体に混合/分散した後、無機化合物を添加し、混合/分散しても、3)無機化合物を予め水系媒体に混合/分散した後、分散剤を添加し、混合/分散しても、これらの添加方法を組み合わせた方法でもよい。
ここで用いる装置としては、小型吸引輸送装置、空気輸送装置、バケットコンベヤ、圧送式輸送装置、バキュームコンベヤ、振動式定量フィーダー、スプレー、漏斗等を用いて連続的に添加しても、一括投入してもよい。また、各成分の混合方法は、通常行われている方法であれば特に制限はないが、V型、W型、ダブルコーン型、コンテナタック型混合機などの容器回転式混合機、あるいは高速撹拌型、万能撹拌型、リボン型、パグ型、ナウター型混合機などの撹拌式混合機、高速流動式混合機、ドラム式混合機、流動層式混合機等を使用してもよい。またシェーカー等の容器振とう式混合機を使用することもできる。
【0032】
分散方法としては、通常行われる分散方法であれば特に制限はないが、ポータブルミキサー、立体ミキサー、側面ミキサーなどの1方向回転式、多軸回転式、往復反転式、上下移動式、回転+上下移動式、管路式等の撹拌翼を使用する撹拌混合方法、ラインミキサー等の噴流式撹拌混合方法、気体吹き込み式の撹拌混合方法、高剪断ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー等を使用する混合方法でも、シェーカーを使用する容器振とう式混合方法等を用いてもよく、これらを組み合わせた方法でもよい。また、粉砕と分散を同時に行う目的で、ビーズミル、ロールミル等を用いてもよい。
上記の方法で得られた水溶液、分散体、乳液等の各液状、ペースト、ゲル等の各半固形状の分散液は、必要に応じて乾燥または焼成し、造粒、コーティング、成型等の加工を施してもよい。
【0033】
得られた分散剤と無機化合物を含む分散液は、少量の添加で、無機化合物の微粒子を分散し、凝集の防止性、沈降の防止性等の安定性が改善される点から上述の塗料に加えて、電子材料、塗工紙等への用途に最適である。
特に、電子材料は、上記分散液を押し出し成形した後に焼成して得られる積層コンデンサー等の誘電材料、電子回路用多層配線基盤の絶縁材料等に好適である。また、塗工紙は、上述の分散液を、紙の表面に塗布することで得られる。得られた塗工紙は、必要に応じて、乾燥等を行ってもよい。
本発明を以下の実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
[製造例1]
糖としてグルコースを使用し、二塩基酸としてドデカン二酸(炭素数12)を用いた化合物の製造方法を記す。
グルコースと、ドデカン二酸(いずれも和光純薬製 特級)を、それぞれ0.2mMずつ、150mLの脱水したアセトンに分散し、酵素として、リパーゼ(ノボザイム製 SP435)を6g添加し、ついでモレキュラーシーブ3Aを30g添加し、50℃の水浴中で、攪拌しながら、48時間反応させた。(モノエステルの選択率は95%。グルコースの変換率は70%)
得られた反応物を、ジメトキシエタン2Lに溶解し、PTFE製のメンブラン(目開き0.2μm)を通して、清澄液を得た。これを、90torrで減圧濃縮し、粗化合物を得た。この粗化合物を、120℃で、n−酢酸プロピルに溶解し、冷却晶析することで、化合物を得た。
【0035】
得られた化合物を、5質量%の濃度で、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、高分解能NMR(BRUKER製 ADVANCE400 400MHz)を用いて、C−H COSYにより、二次元NMRを測定し、化学構造を同定した。その結果、本化合物は、グルコースのC6位の水酸基と、ドデカン二酸の片末端のカルボン酸がエステル化したグルコース−ドデカン二酸エステルであることを確認した(カルボン酸残基は1つ、メチレン鎖長は10)。
【0036】
[製造例2]
製造例1の方法において、二塩基酸をオクタン二酸(炭素数8)に変更する以外は、同様の操作で、化合物を調製した。(酵素反応時のモノエステルの選択率は95%。グルコースの変換率は70%)。
また、製造例1と同様の操作で、化学構造を同定した結果、得られた化合物は、グルコース−オクタン二酸エステルであることを確認した(カルボン酸残基は1つ、メチレン鎖長は6)。
【0037】
[製造例3]
製造例1の方法において、二塩基酸をデカン二酸(炭素数10)に変更する以外は、同様の操作で、化合物を調製した。(酵素反応時のモノエステルの選択率は95%。グルコースの変換率は70%)。
また、製造例1と同様の操作で、化学構造を同定した結果、得られた化合物は、グルコース−デカン二酸エステルであることを確認した(カルボン酸残基は1つ、メチレン鎖長は8)。
【0038】
[製造例4]
製造例1の方法において、二塩基酸をアジピン酸(炭素数6)に変更する以外は、同様の操作で、化合物を調製した。(酵素反応時のモノエステルの選択率は95%。グルコースの変換率は80%)。
また、製造例1と同様の操作で、化学構造を同定した結果、得られた化合物は、グルコース−アジピン酸エステルであることを確認した(カルボン酸残基は1つ、メチレン鎖長は4)。
【0039】
[製造例5]
製造例1の方法において、二塩基酸をテトラデカン二酸(炭素数14)に変更する以外は、同様の操作で、化合物を調製した。(酵素反応時のモノエステルの選択率は95%。グルコースの変換率は70%)。
また、製造例1と同様の操作で、化学構造を同定した結果、得られた化合物は、グルコース−テトラデカン二酸エステルであることを確認した(カルボン酸残基は1つ、メチレン鎖長は12)。
【0040】
[製造例6]
製造例1の方法において、二塩基酸をオクタデカン二酸(炭素数18)に変更する以外は、同様の操作で、化合物を調製した。(酵素反応時のモノエステルの選択率は95%。グルコースの変換率は70%)。
また、製造例1と同様の操作で、化学構造を同定した結果、得られた化合物は、グルコース−オクタデカン二酸エステルであることを確認した(カルボン酸残基は1つ、メチレン鎖長は16)。
【0041】
[実施例1]
製造例1の化合物を0.01質量%として水溶液を作成し、この水溶液250mLに、酸化チタン(石原産業製 TTO−55A 一次粒子径は0.04μm)を1質量%となるように添加して、高せん断分散機(プライミクス製 TKホモジナイザー マークII モデル2.5)を使用し、10000rpmで2分間分散した後、100mLの沈降管に密栓の上、40℃で静置した。
静置後の所定時間で、水面から5mmの部位から、2mLをサンプリングし、波長660nmの吸光度を測定した。結果を図2に示した。
【0042】
[実施例2]
実施例1の方法において、製造例2の化合物を用いる以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。結果を図2に示した。
【0043】
[実施例3]
実施例1の方法において、製造例3の化合物を用いる以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。結果を図2に示した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。結果を図2に示した。
【0044】
[比較例1]
実施例1の方法において、化合物を添加せずに、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。結果を図2に示した。
【0045】
[比較例2]
実施例1の方法において、化合物の代わりにサーファクチンナトリウム(昭和電工製)を用いる以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。結果を図2に示した。
【0046】
[比較例3]
実施例1の方法において、化合物の代わりに炭素数12〜14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム塩(ライオン製 商品名 ライポンPS−260)を用いる以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。結果を図2に示した。
【0047】
[比較例4]
実施例1の方法において、化合物の代わりにドデシル硫酸ナトリウム塩(和光純薬製)を用いる以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。結果を図2に示した。
図2に示すように、実施例1から3の化合物を含有する分散剤は、分散後144時間まで吸光度は2.5以上であり、液体表面の離水及び底面の沈殿を生じなかった。それに対し、分散剤を添加しない比較例1は、20時間で離水及び沈殿を生じた。
比較例2は、アミノ基に加え、親水基としてカルボキシル基を有する界面活性剤であるが、分散直後から離水を生じ、20時間以内に沈殿を生じた。このことから、糖と、カルボキシル基を有する実施例1〜3の化合物は、非常に固体分散能に優れることが分かる。また、一般的な界面活性剤を添加した比較例3は、48時間で離水及び沈殿を生じ、比較例4は、20時間以内に離水及び沈殿を生じた。
【0048】
[実施例4]
実施例1の方法において、製造例4の化合物を用いる以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。
その結果、実施例4は、144時間保存後の吸光度が3.0であり、沈殿を生じなかった。
【0049】
[実施例5]
実施例1の方法において、製造例5の化合物を用いる以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。
その結果、実施例5は、144時間保存後の吸光度が1.7であり、沈殿を生じなかった。
【0050】
[実施例6]
実施例1の方法において、製造例6の化合物を用いる以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。
その結果、実施例6は、144時間保存後の吸光度が1.6であり、沈殿を生じなかった。
【0051】
[比較例5]
実施例1の方法において、化合物の代わりに、市販のショ糖脂肪酸エステル(三菱化学フーズ製 リョートーシュガーエステル P−1670 HLB16 炭素数16)を用いる以外は同様の操作で、酸化チタン分散液を作成した。
実施例1と同様の操作で、サンプリング及び吸光度を測定した。
その結果、比較例5は、24時間保存で、沈殿を生じた。
【0052】
[実施例7]
実施例1の方法において、製造例1の化合物を0.001質量%とする以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成し、同様に評価した。その結果、実施例7は、144時間保存後に、沈殿を生じなかった。
【0053】
[実施例8]
実施例1の方法において、製造例2の化合物を0.001質量%とする以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成し、同様に評価した。その結果、実施例8は、144時間保存後に、沈殿を生じなかった。
【0054】
[実施例9]
実施例1の方法において、製造例3の化合物を0.001質量%とする以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成し、同様に評価した。その結果、実施例9は、144時間保存後に、沈殿を生じなかった。
【0055】
[実施例10]
実施例1の方法において、製造例4の化合物を0.001質量%とする以外は、同様の操作で、酸化チタン分散液を作成し、同様に評価した。その結果、実施例10は、144時間保存後に、沈殿を生じなかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、真比重の大きい微粒子状の無機化合物を、水系媒体に分散させるに際し、特定の化学構造を有する化合物を分散剤として配合することで、凝集及び/または沈降を防止し、安定性が高められた分散剤を提供でき、塗料、セラミック産業等において好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖の水酸基と、1分子内に2つ以上のカルボキシル基を有する多塩基酸がエステル結合し、1分子内に1つ以上のカルボキシル基を有する化合物を含む分散剤。
【請求項2】
前記糖が、グルコース、フラクトース、ガラクトース、またはマンノースから選ばれるヘキソースまたはその異性体もしくは誘導体、キシロース、アラビノースから選ばれるペントースまたはその異性体あるいは誘導体、及びエリトロース、トレオースから選ばれるテトロースまたはその異性体あるいは誘導体等から選ばれる少なくとも1種を構成糖とする単糖またはオリゴ糖であり、前記多塩基酸が、炭素数2〜36の飽和又は不飽和の多塩基酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の分散剤。
【請求項3】
前記糖がグルコースであり、多塩基酸が炭素数2〜12の飽和二塩基酸であり、糖の水酸基と二塩基酸がモノエステル結合した化合物を含む請求項1又は2に記載の分散剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の分散剤と、酸化チタン、炭酸カルシウム、アルミナ及びチタン酸バリウムから選ばれる少なくとも1種の無機化合物を含む分散液。
【請求項5】
請求項4に記載の分散液からなる塗料。
【請求項6】
請求項4に記載の分散液からなる電子材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−234214(P2010−234214A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83531(P2009−83531)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】