説明

分散剤

【課題】 有機溶剤中において、微細化された金属化合物粒子を高濃度で2次凝集することなく、単分散又はそれに近い状態となるように分散させるための分散剤を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表される酸性基を有する化合物(A)を含有してなる分散剤である。
【化9】


[式中、R1は炭素数2〜22のアルキル基又はアルケニル基;R2はメチレン基又は−CH=CH−CH2−で表される基;Qは酸性基;Xは水素原子、水酸基及び−O−(AO)m−CH2COOHで表される基からなる群から選ばれる1種以上である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤に関する。更に詳しくは、有機溶剤中に金属化合物粒子を分散させるための分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物粒子等の金属化合物粒子は、例えば、有機溶剤中に分散させ、場合によりバインダー樹脂や可塑剤等を加え、スラリーにしたものが電子部品用の材料として用いられている。
従来、前記スラリーを得るための分散剤としては、パルミチン酸やステアリン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸、ソルビタンエステル類及びリン酸エステル類等の酸含有高分子化合物や、酸性基を含む共重合物等が知られている(例えば特許文献1〜3)。しかしながら、これらの分散剤は、微細化された金属化合物粒子を高濃度で2次凝集することなく、単分散又はそれに近い状態となるように分散させるには未だ分散性が不十分であるという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−105453号公報
【特許文献2】特開2004−10453号公報
【特許文献3】特開2006−169417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、微細化された金属化合物粒子を高濃度で2次凝集することなく、単分散又はそれに近い状態となるように分散させるための分散剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、一般式(1)で表される酸性基を有する化合物(A)を含有してなる分散剤;及び前記分散剤で金属化合物粒子を有機溶剤中に分散してなる有機溶剤系金属化合物粒子スラリー;である。
【0006】
【化1】

【0007】
式中、R1は炭素数2〜22のアルキル基又はアルケニル基;R2はメチレン基又は−CH=CH−CH2−で表される基;Qは酸性基;Xは水素原子、水酸基又は−O−(AO)m−CH2COOHで表される基を表す。
【発明の効果】
【0008】
本発明の分散剤は、微細化された金属化合物粒子を高濃度で2次凝集することなく、単分散又はそれに近い状態となるように分散させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一般式(1)におけるR1で表される炭素数2〜22のアルキル基としては、直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。例えば、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、直鎖又は分岐のオクチル基、直鎖又は分岐のノニル基、直鎖又は分岐のデシル基、直鎖又は分岐のウンデシル基、直鎖又は分岐のドデシル基、直鎖又は分岐のトリデシル基、直鎖又は分岐のテトラデシル基、直鎖又は分岐のペンタデシル基、直鎖又は分岐のヘキサデシル基、直鎖又は分岐のオクタデシル基、直鎖又は分岐のドコシル基及び直鎖又は分岐のエイコシル基等が挙げられる。炭素数2〜22のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、アリル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基及びオクタデセニル基等が挙げられる。R1のうち好ましいのは、炭素数6〜16のアルキル基である。
2は、メチレン基又は−CH=CH−CH2−で表される基である。
【0010】
一般式(1)におけるXとしては、水素原子、水酸基及び−O(AO)m−CH2COOHで表される基からなる群から選ばれる1種以上である。−O(AO)m−CH2COOHで表される基におけるAOは、炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、炭素数2〜4のオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基及びオキシブチレン基が挙げられる。これらのうち好ましいのは、オキシエチレン基及びオキシプロピレン基である。これらのオキシアルキレン基は、1種でも2種以上の混合物でもよい。2種以上の混合物の場合、m個のオキシアルキレンの結合様式はブロック、ランダム及びこれらの組み合わせのいずれでもよい。mは0〜200の数であり、分散性の観点から好ましいのは0〜100の数であり、更に好ましいのは0〜20の数である。
Xとして分散性の観点から好ましいのは、水素原子と−O(AO)m−CH2COOHで表される基の併用、及び水酸基と−O(AO)m−CH2COOHで表される基の併用である。
【0011】
一般式(1)において、Qで表される酸性基としては、一般式(2)〜(4)のいずれかで表される基が挙げられる。
【0012】
【化2】

【化3】

【化4】

式中、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基;nは0〜200の数;Yは水素原子又は2−ヒドロキシエチル基を表す。
【0013】
一般式(2)におけるAOで表される炭素数2〜4のオキシアルキレン基としては、一般式(1)における炭素数2〜4のオキシアルキレン基と同様の基が挙げられる。n個のオキシアルキレンの結合様式はブロック、ランダム及びこれらの組み合わせのいずれでもよい。nは0〜200の数であり、分散性の観点から好ましいのは0〜100の数であり、更に好ましいのは0〜20の数である。
【0014】
一般式(4)におけるYとしては、水素原子又は2−ヒドロキシエチル基であり、分散性の観点から好ましいのは2−ヒドロキシエチル基である。
【0015】
一般式(1)で表される酸性基を有する化合物(A)としては、以下の(a1)〜(a6)の化合物が挙げられる。
(a1)ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸[一般式(1)において、Xが水素原子、R1が炭素数2〜22のアルキル基、R2がメチレン基、Qが一般式(2)で表される基であり、AOが炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nが1〜200の数である化合物]
(a2)β−ヒドロキシアルキルエーテル酢酸[一般式(1)において、Xが水酸基、R1が炭素数2〜22のアルキル基、R2がメチレン基、Qが一般式(2)で表される基であり、nが0である化合物]
(a3)アルキル−α,β−ジエーテル酢酸[一般式(1)において、Xが−O(AO)m−CH2COOHで表される基、R1が炭素数2〜22のアルキル基、R2がメチレン基、Qが一般式(2)で表される基であり、nが0である化合物]
(a4)アルケニルコハク酸[一般式(1)において、Xが水素原子、R1が炭素数2〜22のアルキル基、R2が−CH=CH−CH2−で表される基、Qが一般式(3)で表される基である化合物]
(a5)アルケニルコハク酸モノエタノールアミド[一般式(1)において、Xが水素原子、R1が炭素数2〜22のアルキル基、R2が−CH=CH−CH2−で表される基、Qが一般式(4)で表される基であり、Yが水素原子である化合物]
(a6)アルケニルコハク酸ジエタノールアミド[一般式(1)において、Xが水素原子、R1が炭素数2〜22のアルキル基、R2が−CH=CH−CH2−で表される基、Qが一般式(4)で表される基であり、Yが2−ヒドロキシエチル基である化合物]
【0016】
上記(a1)〜(a6)の具体例としては以下の化合物が挙げられる。
(a1)としては、ポリオキシエチレン(7モル)オクチルエーテル酢酸、ポリオキシエチレン(5モル)デシルエーテル酢酸、ポリオキシエチレン(2.5モル)ラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレン(4モル)ラウリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレン(3モル)イソトリデシルエーテル酢酸、ポリオキシエチレン(3モル)イソステアリルエーテル酢酸、ポリオキシエチレン(3モル)オレイルエーテル酢酸、ポリオキシプロピレン(2モル)/ポリオキシエチレン(4モル)(ブロック付加)ラウリルエーテル酢酸及びポリオキシプロピレン(2モル)/ポリオキシエチレン(2モル)(ランダム付加)ラウリルエーテル酢酸等が挙げられる。
(a2)としては、β−ヒドロキシオクチルエーテル酢酸、β−ヒドロキシデシルエーテル酢酸、β−ヒドロキシラウリルエーテル酢酸及びβ−ヒドロキシテトラデシルエーテル酢酸等が挙げられる。
(a3)としては、オクチル−α,β−ジエーテル酢酸、デシル−α,β−ジエーテル酢酸、ラウリル−α,β−ジエーテル酢酸及びテトラデシル−α,β−ジエーテル酢酸等が挙げられる。
(a4)としては、オクテニルコハク酸、デセニルコハク酸、ドデセニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸及びテトラプロペニルコハク酸等が挙げられる。
(a5)としては、オクテニルコハク酸モノエタノールアミド、デセニルコハク酸モノエタノールアミド、ドデセニルコハク酸モノエタノールアミド、テトラデセニルコハク酸モノエタノールアミド、ペンタデセニルコハク酸モノエタノールアミド及びテトラプロペニルコハク酸モノエタノールアミド等が挙げられる。
(a6)としては、オクテニルコハク酸ジエタノールアミド、デセニルコハク酸ジエタノールアミド、ドデセニルコハク酸ジエタノールアミド、テトラデセニルコハク酸ジエタノールアミド、ペンタデセニルコハク酸ジエタノールアミド及びテトラプロペニルコハク酸ジエタノールアミド等が挙げられる。
【0017】
(a1)〜(a6)のうち、分散性の観点から好ましいのは(a1)、(a2)、(a3)及び(a6)であり、更に好ましいのは(a1)、並びに(a2)及び(a3)の併用である。
【0018】
本発明の分散剤は、有機溶媒中への金属化合物粒子の分散に有用であり、例えば、セラミック回路基板、セラミックパッケージ、積層セラミックコンデンサ、プラズマディスプレイパネル及びLED等の電子部品の製造用分散剤として特に効果を発揮する。
【0019】
本発明における金属化合物粒子としては、例えば、アルミナ、チタン酸バリウム、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、中空セラミック粒子、粉末ガラス、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化インジウム・錫(ITO)、酸化イットリウム、メタル粉、アルミニウム粉、ニッケル粉、タンタル粉、銀粉、銅粉、貴金属粉末、はんだ粉、タングステン及びモリブテン等が挙げられる。
【0020】
本発明の分散剤により金属化合物粒子を分散させるための有機溶剤としては、特に限定はされないが、例えば芳香族炭化水素類(トルエン及びキシレン等)、アルコール類(メタノール、エタノール及びイソプロピルアルコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン及びヘプタン等)、エーテル類(テトラヒドロフラン等)、アミド系溶剤(DMF及びDMAc等)及びこれらの混合物等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、芳香族炭化水素類、アルコール類及びその混合物である。
【0021】
本発明の分散剤を用いて金属化合物粒子を有機溶剤媒中に分散して有機溶剤系スラリーを作製する場合、分散剤の使用量は、金属化合物粒子の全重量に基づき、好ましいのは0.1〜10重量%であり、更に好ましいのは0.5〜5重量%である。また、金属化合物粒子の量は、有機溶剤系スラリーの全重量に基づき、好ましいのは60〜90重量%であり、更に好ましいのは70〜90重量%である。
【0022】
本発明の分散剤を使用して金属化合物粒子を有機溶剤中に分散する方法としては、公知の分散方法でよく、例えば、本発明の分散剤を溶解した有機溶剤中に金属化合物粒子を添加して攪拌、混合する方法が挙げられる。攪拌、混合には高速デイスパー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル及びジェットミル等の一般に用いられる攪拌装置を使用することができる。
【0023】
本発明の分散剤の他に、バインダー樹脂(ポリビニルブチラール樹脂、セルロース系樹脂、酢酸ビニル樹脂及びポリビニルアルコール樹脂等)及び可塑剤(フタル酸エステル、アジピン酸、燐酸エステル及びグリコール類等)等を適宜併用することも可能である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において特に規定しない限り、部は重量部を示す。
【0025】
<実施例1>
有機溶剤としてトルエン30部に分散剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸(a1−1)0.5部を均一に溶解した中へ、金属化合物粒子としてアルミナ粉末(平均粒子径:0.2〜0.3μm)を70部添加し、TKホモミキサー[特殊機化工業(株)製]を用いて3,000回転で10分間攪拌、混合することで分散させ、有機溶剤系金属化合物粒子スラリーを調製した。
【0026】
<実施例2及び比較例1、2>
表1に記載した部数の各原料を用いて、実施例1と同様にして、実施例2及び比較例1、2の有機溶剤系金属化合物粒子スラリーを調製した。
【0027】
実施例1,2及び比較例1,2の有機溶剤系金属化合物粒子スラリーについて、分散性試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
有機溶剤系金属化合物粒子スラリーの分散性試験法は以下の通りである。
【0030】
<分散性試験>
実施例1、2及び比較例1、2で調整した有機溶剤系金属化合物粒子スラリーをBL型粘度計を用いて25℃、60rpmの条件で粘度を測定した。数値が低い程、凝集物が少なく、分散性が良好であることを示す。
【0031】
表1における各分散剤成分は以下の通りである。
(a1−1):ポリオキシエチレン(4モル)ラウリルエーテル酢酸
(a1−2):ポリオキシエチレン(2.5モル)ラウリルエーテル酢酸
比較分散剤−1:オレイン酸
比較分散剤−2:ソルビタンモノオレート
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の分散剤は、有機溶剤中に金属化合物粒子を分散させるのに有用であり、セラミック回路基板、セラミックパッケージ、積層セラミックコンデンサ、プラズマディスプレイパネル及びLED等の電子部品の製造用分散剤として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される酸性基を有する化合物(A)を含有してなる分散剤。
【化5】

[式中、R1は炭素数2〜22のアルキル基又はアルケニル基;R2はメチレン基又は−CH=CH−CH2−で表される基;Qは酸性基;Xは水素原子、水酸基及び−O−(AO)m−CH2COOHで表される基からなる群から選ばれる1種以上である。]
【請求項2】
一般式(1)におけるQが一般式(2)〜(4)のいずれかで表される基である請求項1記載の分散剤。
【化6】

【化7】

【化8】

[式中、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基;nは0〜200の数;Yは水素原子又は2−ヒドロキシエチル基を表す。]
【請求項3】
Qが前記一般式(2)で表される基である請求項2記載の分散剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の分散剤で金属化合物粒子を有機溶剤中に分散してなる有機溶剤系金属化合物粒子スラリー。

【公開番号】特開2011−11182(P2011−11182A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159613(P2009−159613)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】