説明

分散染料組成物、および疎水性繊維材料への適用

【課題】 疎水性繊維材料を吸尽染色する際に、中濃色の三原色用赤色分散染料として、吸尽染色時に併用される黄色分散染料や青色分散染料との相容性が良好である三原色用赤色分散染料組成物の提供。
【解決手段】 化合物群(I)から選ばれる1種以上の化合物、化合物(II)及び化合物(III)を含むことを特徴とする赤色分散染料組成物。


(I)


(II)


(III)
[式中、Xはハロゲン、Xは水素等、R及びRはシアノ等を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性繊維材料を赤色に着色する際に有用な分散染料組成物、および疎水性繊維材料への適用に関する。
【背景技術】
【0002】
C.I.Disperse Red 54やC.I.Disperse Red 205等の下式(I)で示される化合物は特許文献1に記載されている。また、式(II)で示されるC.I.Disperse Red 146は特許文献3に記載されている。さらに、式(III)で示されるC.I.Disperse Red 191は特許文献2に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭50−122526号公報
【特許文献2】特開平4−173875号公報
【特許文献3】特開平10−130522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中濃色の三原色用赤色分散染料として、上記赤色分散染料化合物(I)を用いて吸尽染色すると、得られた着色物の耐光堅牢度が満足できるレベルではなかった。また、上記赤色分散染料化合物(II)を用いて吸尽染色すると、得られた着色物の昇華堅牢度が満足できるレベルではなかった。さらに、上記赤色分散染料化合物(I)と(II)の混合染料を用いて吸尽染色すると、相容性(各色染料における染着速度が揃っていること)が悪いという問題があった。このように、従来の三原色用赤色分散染料は吸尽染色には不適であった。
本発明の目的は、疎水性繊維材料を吸尽染色する際に、特に、中濃色の三原色用赤色分散染料として、吸尽染色時に併用される黄色分散染料や青色分散染料との相容性が良好である中濃色の三原色用赤色分散染料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、黄色分散染料や青色分散染料との相容性が良好である赤色分散染料を開発すべく鋭意検討した結果、特定の赤色分散染料の混合物を用いると上記課題が解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下式(I)で示される化合物群から選ばれる1種以上の化合物、下式(II)で示される化合物及び下式(III)で示される化合物を含むことを特徴とする赤色分散染料組成物を提供するものである。また、本発明は、上記赤色分散染料組成物と、黄色分散染料と青色分散染料を用いることを特徴とする疎水性繊維材料の着色方法を提供するものである。
【0007】

(I)
【0008】
[式中、Xはハロゲン原子である。Xは水素原子又はメチル基である。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、シアノ基又はアルキルカルボニルオキシ基である。該アルキルカルボニルオキシ基におけるアルキルはメチル又はエチルである。]
【0009】

(II)
【0010】

(III)
【発明の効果】
【0011】
本発明の赤色分散染料組成物は、黄色分散染料や青色分散染料と配合して三原色用の分散染料組成物とした際に、疎水性繊維材料に対する相容性が改良され、得られる着色物の耐光堅牢度が優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
式(I)におけるXはハロゲン原子である。Xとしては塩素原子が好ましい。Xは水素原子又はメチル基である。R1及びR2は、互いに独立に、水素原子、シアノ基またはアルキルカルボニルオキシ基を表す。該アルキルカルボニルオキシ基におけるアルキルはメチルまたはエチルを表す。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、シアノ基又はアルキルカルボニルオキシ基である。アルキルカルボニルオキシ基としては、アセチルオキシ基が好ましい。
【0013】
本発明における赤色分散染料組成物は、化合物群(I)から選ばれる1種以上の化合物、化合物(II)及び化合物(III)を含む分散染料組成物である。化合物群(I)、化合物(II)及び化合物(III)の好ましい含有量は、重量比で(75〜35):(5〜40):(10〜40)である。化合物群(I)、化合物(II)及び化合物(III)のより好ましい含有量は、重量比で(75〜35):(10〜30):(15〜35)である。
【0014】
本発明の赤色分散染料組成物は、化合物群(I)から選ばれる1種以上の化合物、化合物(II)及び化合物(III)を混合することにより得られる。上記の混合は、例えば、後述する分散剤でそれぞれ個別に分散処理した後に、該分散化された分散染料を所定の割合に混合してもよい。また、本発明の赤色分散染料組成物は、上記分散化方法で得た分散染料を染色浴中で混合して調製してもよい。
【0015】
化合物群(I)、化合物(II)及び化合物(III)の分散化は、例えばサンドミルを使用して、水性媒体中で分散剤の存在下に行うことができる。上記の分散剤としては、ナフタリンスルホン酸のホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸やクレゾール・シェーファー酸ホルマリン縮合物等のアニオン界面活性剤が挙げられる。
分散化処理においては、必要に応じて、ノニオン界面活性剤を上記のアニオン界面活性剤と併用してもよい。上記のノニオン界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。
得られた分散液は、液体のままで用いてもよいし、上記の分散液を噴霧乾燥等により乾燥して得た粉体又は顆粒状として用いてもよい。
【0016】
また、本発明の赤色分散染料組成物は、性能を損なわない範囲で、上記の化合物群(I)、化合物(II)及び化合物(III)以外の分散染料化合物、例えば、アゾベンゼン系分散染料やアントラキノン系分散染料等の公知の分散染料と混合して、色相の調整を行ってもよい。
【0017】
色相の調整に好適な分散染料としては、例えば、以下の染料が挙げられる。
カラーインデックス ジェネリックネーム ディスパースの分類に属するイエロー54、同64、同114、同116、同119、同122、同149、同163、同198、同211、同226、同227、同23、同231、同33、同42、同49、同58、同60、同66、同71、同79、同86、同9、同90、同93;カラーインデックス ジェネリックネーム ディスパースの分類に属するオレンジ118、同25、同29、同30、同31、同32、同37、同45、同56、同61、同76、同96、同97;カラーインデックス ジェネリックネーム ディスパースの分類に属するバイオレット28、同57、同27;カラーインデックス ジェネリックネーム ディスパースの分類に属するブルー56、ブルー60、ブルー79:1等を挙げることができる。
【0018】
さらに、本発明の赤色分散染料組成物は、色相調整用の上記分散染料化合物以外に、上記ノニオン界面活性剤等の分散剤、増量剤、pH調整剤、分散均染剤、ビルダー、染色助剤、沸点が100℃以上である有機溶剤や樹脂バインダー等を含有することができる。
【0019】
本発明の赤色分散染料組成物は、ポリエステル、トリアセテート、ジアセテートやポリアミド等の疎水性繊維材料を染色又は捺染する分散染料として有用である。
【0020】
上記の疎水性繊維材料を染色するにあたっては、本発明の赤色分散染料組成物を水性媒体中に分散させた染色浴に、必要に応じて、pH調整剤や分散均染剤等を加えた後、疎水性繊維材料をこの染色浴に浸漬して、例えばポリエステル繊維の場合は、加圧下で通常100℃以上、好ましくは105〜140℃で15〜60分間染色する。この染色時間は、染着の状態により短縮又は延長することができる。
【0021】
また、本発明の赤色分散染料組成物を用いて前記の疎水性繊維材料を染色するにあたっては、o−フェニルフェノールやメチルナフタレン等のキャリアーの存在下で、例えば水を沸騰させた状態で染色することもできる。
さらに、本発明の赤色分散染料組成物を用いて疎水性繊維材料をパディング染色する場合は、上述した方法で調製した染料分散液を布にパディングした後、100℃以上の温度で、スチーミングや乾熱処理をすることもできる。
【0022】
捺染の場合は、染料分散液を適当な糊剤と共に練り合わせ、これを布に印捺乾燥した後、スチーミング又は乾熱処理を行う。また、インクジェット方式によって捺染することもできる。
【0023】
本発明の着色方法(染色方法や捺染方法)に適用される疎水性繊維材料としては、エチレングリコールやエチレングリコール以外のポリオールとテレフタル酸の重縮合により得られるポリエステル繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維やポリアミド繊維等が挙げられる。本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、上記例示の繊維の混紡品又は交織品も挙げられる。また、上記例示以外のセルロース繊維、羊毛又は絹との混紡品や交織品等が挙げられる。本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、特にポリエステル繊維材料が好ましい。
【0024】
本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、新合繊材料も挙げられる。新合繊材料としては、糸、織物や編み物等の形態が挙げられる。例えば糸の形態である場合、0.3デニールよりも大きく、且つ1デニール以下のファインデニールファイバー、0.3デニール以下のウルトラマイクロファイバー、異型断面糸、又は異収縮混紡糸等が挙げられる。これらはフィラメント状であってもよく、また、二酸化チタン等を含む艶消し加工糸等のように、各種の加工や改質が施されたものであってもよい。
上記新合繊材料の素材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、又はテレフタル酸と1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンとの重縮合物等のポリエステル繊維類;ナイロン等のポリアミド系繊維と上記ポリエステル繊維類との混紡品や混織品;木綿、絹、羊毛等の天然繊維と上記ポリエステル繊維類との混紡品や混織品が挙げられる。
【0025】
本発明の着色方法に併用される黄色及び青色分散染料としては、特に制限されないが、例えば、モノアゾ、ビスアゾやナフタレンアゾを含むベンゼンアゾ系;チアゾールアゾ、ベンゾチアゾールアゾ、ピリジンアゾ、イミダゾールアゾやチオフェンアゾ等の複素環アゾ系;アントラキノン系等の公知の染料群から選択することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。例中、部及び%は、それぞれ重量部及び重量%である。
【0027】
1)赤色分散染料組成物の調製
上式(III)、(IV)、(V)及び(VII)で示される化合物の1gを、それぞれ個別に、ナフタレンスルホン酸ソーダとホルマリンとの縮合物3gと共に6gの水中でサンドミルにより微粒子化し、噴霧乾燥後、4種の赤色分散染料組成物を得た。これらの赤色分散染料組成物を表1に記載の比率で配合し、赤色分散染料を得た。
【0028】
2)配合染色試験(三原色適性の確認)
i)市販の黄色分散染料(Disperse Yellow 64)の0.025g、市販の青色分散染料(Disperse Blue 54)の0.05g、上記1)の分散染料組成物の調製の項で得た表1記載の赤色分散染料0.04g及びイオネットRAP-1170[商品名;三洋化成(株)製]の0.27gを水に均一に分散させた後、該分散液に酢酸0.045gと酢酸ソーダ0.18gを添加して180mlの染浴を作製した。
この操作を繰り返して、合計7つの同じ染浴を作製した。
【0029】
ii)上記の各染浴にテトロントロピカル[商品名;東レ(株)製のポリエステル繊維織物]5gを投入後、60℃〜130℃まで毎分1℃の速度で昇温後、130℃で30分間保温して染色した。上記の昇温工程において、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃及び130℃の各温度に到達した時に、これら6つの染浴からテトロントロピカルを抜き取り水洗した。
残り1つの染浴において、130℃に到達後、同温度で30分保温して得たテトロントロピカルを抜き取り、水洗した。これらの7枚のテトロントロピカルを、それぞれ還元洗浄後、乾燥して番号1〜7の染色布を得た(130℃で30分保温後、洗浄及び乾燥して得られた染色布を番号7とする)。
【0030】
3)相容性の評価
上述した番号1〜7の染色布を順に並べて、染色布表面の色相の変化を目視し、下記の基準で相容性を評価した。相容性は、赤、黄及び青色の各染料における混合割合の変化を観察するものであり、色の濃度を観察するものではない。
○:番号7の染色布とほぼ同色相で、濃度のみが変化している
△:番号7の染色布と色相が多少異なるが、ほぼ同系統の色相で変化している
×:番号7の染色布と全く異なる色相の抜き取り布が存在する
【0031】
表1記載の比率で配合染色したときの相容性及び耐光堅牢度試験結果、並びに表1記載の赤色染料組成物による赤色染色布の堅牢度試験結果を表2に纏めて示した。表2に記載のように本発明の実施例1〜4では、いずれの場合も相容性が良好であった。一方、比較例1〜3では、相容性が悪かった。
【0032】
【表1】

【0033】
*・・化合物(IV)及び(V)は、化合物(I)に包含される。
【0034】

(VI)
【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の赤色分散染料組成物は、ポリエステル等の疎水性繊維材料を染色する際に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)で示される化合物群から選ばれる1種以上の化合物、下式(II)で示される化合物及び下式(III)で示される化合物を含むことを特徴とする分散染料組成物。

(I)
[式中、Xはハロゲン原子である。Xは水素原子又はメチル基である。R及びRは、それぞれ独立に水素原子、シアノ基又はアルキルカルボニルオキシ基である。該アルキルカルボニルオキシ基におけるアルキルはメチル又はエチルである。]

(II)

(III)
【請求項2】
式(I)で示される化合物群から選ばれる1種以上の化合物が、下式(IV)で示される化合物である請求項1に記載の分散染料組成物。

(IV)
【請求項3】
式(I)で示される化合物群から選ばれる1種以上の化合物が、下式(V)で示される化合物である請求項1に記載の分散染料組成物。

(V)
【請求項4】
式(I)で示される化合物群から選ばれる1種以上の化合物、式(II)で示される化合物及び式(III)で示される化合物の重量比が、(75〜35):(5〜40):(10〜40)である請求項1〜3のいずれかに記載の分散染料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の赤色分散染料組成物と、黄色分散染料と青色分散染料を用いることを特徴とする疎水性材料の着色方法。

【公開番号】特開2006−257377(P2006−257377A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145050(P2005−145050)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】