説明

分散染料組成物、及び疎水性繊維材料への適用

【課題】 疎水性繊維材料を染色する際に、併用される黄色分散染料や青色分散染料との染着速度が揃っており、且つ着色物における昇華堅牢度と湿潤堅牢度のバランスが良好な三原色用赤色分散染料組成物の提供。
【解決手段】 化合物(I)と化合物(II)の1種以上を含み、化合物(I)と化合物(II)の1種以上の重量比が(5〜60):(95〜40)である分散染料組成物。


(I)


(II)
〔式中、Xは塩素、シアノ、CH−SO−を、Yは水素、塩素、メチル、アセチルアミノ、プロピオニルアミノを、R、Rはシアノエチル、フェノキシエチル、メチルカルボニルオキシエチル、エチルカルボニルオキシエチル、メトキシカルボニルオキシエチル、エトキシカルボニルオキシエチル基を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水性繊維材料を赤色に着色する分散染料組成物、及び疎水性繊維材料への適用に関する。
【背景技術】
【0002】
下式(I)で示される化合物は下記非特許文献1に記載されている。また、下式(II)で示される化合物は下記特許文献1に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭58−160357号公報
【非特許文献1】「新版 染料便覧(昭和45年7月20日丸善株式会社発行)」、760頁、768頁、773頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記化合物(I)を中濃色三原色用の赤色染料として用いて吸尽染色すると、高いカラーバリューを有する着色物が得られる。しかし、該着色物の昇華堅牢度及び湿潤堅牢度が満足できるレベルではなかった。また、前記化合物(I)が疎水性繊維材料の高温着色時において凝集し易いという問題があった。さらに、疎水性繊維材料の三原色染色時に通常併用される黄色分散染料や青色分散染料と相容性(各色染料の染着速度の揃い具合)が悪いという問題があった。したがって、前記化合物(I)を赤色分散染料として用いて染色すると、疎水性繊維材料を均一に着色することが難しく、上記染色を繰返し行ったときの再現性が悪いという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、疎水性繊維材料を三原色染色する際に、併用される黄色分散染料や青色分散染料との相容性が良好であり、且つ、得られた着色物における昇華堅牢度と湿潤堅牢度が良好な三原色用の赤色分散染料組成物を提供することにある。
【0006】
すなわち、本発明は、下式(I)で示される化合物と1種以上の下式(II)で示される化合物とを含み、前記化合物(I)と1種以上の化合物(II)の重量比が(5〜60):(95〜40)であることを特徴とする赤色分散染料組成物を提供する。
また、本発明は、上記の赤色分散染料組成物を用いることを特徴とする疎水性繊維材料の着色方法を提供するものである。
【0007】

(I)

(II)
【0008】
〔式中、Xは塩素原子、シアノ基又はCH−SO−基を表す。Yは水素原子、塩素原子、メチル基、アセチルアミノ基又はプロピオニルアミノ基を表す。R及びRは、それぞれ独立にシアノエチル基、フェノキシエチル基、メチルカルボニルオキシエチル基、エチルカルボニルオキシエチル基、メトキシカルボニルオキシエチル基又はエトキシカルボニルオキシエチル基を表す。〕
【発明の効果】
【0009】
本発明の赤色分散染料組成物は、黄色分散染料及び/又は青色分散染料と併用して三原色用の分散染料組成物とした際に、疎水性繊維材料に対する相容性が改良され、高温染色時における上記分散染料の凝集がなく、均染性と繰り返し染色時の再現性が良好な着色物が得られる。また、本発明により得られた着色物は染色斑が無く、昇華堅牢度及び湿潤堅牢度のバランスが優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
上式(II)において、Xは塩素原子、シアノ基又はCH−SO−基を表す。Xとしては、塩素原子又はシアノ基が好ましい。Yは水素原子、塩素原子、メチル基、アセチルアミノ基又はプロピオニルアミノ基を表す。R及びRは、それぞれ独立にシアノエチル基、フェノキシエチル基、メチルカルボニルオキシエチル基、エチルカルボニルオキシエチル基、メトキシカルボニルオキシエチル基又はエトキシカルボニルオキシエチル基を表す。R及びRとしては、それぞれ独立に、シアノエチル基、フェノキシエチル基、メチルカルボニルオキシエチル基及びエチルカルボニルオキシエチル基からなる群より選ばれるいずれかの基が好ましい。
【0011】
式(II)で示される化合物として具体的には、以下に示す化合物等を挙げることができる。
【0012】

(III)
【0013】

(IV)
【0014】

(V)
【0015】

(VI)
【0016】

(VII)
【0017】

(VIII)
【0018】

(IX)
【0019】

(X)
【0020】
本発明の赤色分散染料組成物は上記化合物(I)と1種以上の化合物(II)とを含む組成物である。また、本発明の赤色分散染料組成物における化合物(I)と1種以上の化合物(II)との好ましい重量比は、(15〜40):(85〜60)である。
【0021】
本発明の赤色分散染料組成物は、化合物(I)と1種以上の化合物(II)とを所定の割合に混合することにより得られる。上記の赤色分散染料組成物は、例えば後述する分散剤でそれぞれ個別に分散処理した後、該分散化された分散染料を所定の割合に混合することにより得られる。また、本発明の赤色分散染料組成物は、上記分散化方法でそれぞれ得られた分散染料を、染色浴中で所定の割合に混合して調製してもよい。
【0022】
化合物(I)及び化合物(II)の分散化は、例えば、水性媒体中でサンドミルを使用し、分散剤の存在下に行うことができる。分散剤としては、例えばアニオン界面活性剤が挙げられる。該アニオン界面活性剤としては、例えば、ナフタリンスルホン酸のホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸やクレゾール・シェーファー酸ホルマリン縮合物等が挙げられる。上記の分散化処理においては、必要に応じて、ノニオン界面活性剤を上記のアニオン界面活性剤と併用してもよい。ノニオン界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。得られた分散液は、液体のままで用いてもよい。また、上記の分散液を噴霧乾燥等により乾燥してもよい。噴霧乾燥後の形態は、粉体状であってもよく、顆粒状であってもよい。
【0023】
本発明の赤色分散染料組成物は、その性能を損なわない範囲で、化合物(I)及び化合物(II)以外の分散染料化合物、例えば、アゾベンゼン系分散染料やアントラキノン系分散染料等の分散染料と配合して、色相の調整を行ってもよい。
【0024】
色相の調整に好適な染料としては、例えば、カラーインデックス ジェネリックネーム ディスパースの分類に属するイエロー54、イエロー64、イエロー114、イエロー116、イエロー119、イエロー122、イエロー149、イエロー163、イエロー198、イエロー211、イエロー226、イエロー227、イエロー23、イエロー231、イエロー33、イエロー42、イエロー49、イエロー58、イエロー60、イエロー66、イエロー71、イエロー79、イエロー86、イエロー9、イエロー90及びイエロー93;オレンジ118、オレンジ25、オレンジ29、オレンジ31、オレンジ32、オレンジ37、オレンジ45、オレンジ56、オレンジ61、オレンジ76、オレンジ96及びオレンジ97;レッド146、レッド60、レッド92レッド191、レッド283及びレッド288;バイオレット28、バイオレット57及びバイオレット27;ブルー56、ブルー60及びブルー79:1等が挙げられる。
さらに、本発明の赤色分散染料組成物は、色相調整用の上記分散染料化合物以外に、例えば上記ノニオン界面活性剤等の分散剤、増量剤、pH調整剤、分散均染剤、ビルダー、染色助剤、沸点が100℃以上である有機溶剤や樹脂バインダー等を含有することができる。
【0025】
本発明の赤色分散染料組成物は、ポリエステル、トリアセテート、ジアセテートやポリアミド等の疎水性繊維材料を染色又は捺染することができる。
【0026】
上記の疎水性繊維材料を染色する際には、上記の赤色分散染料組成物を水性媒体中に分散させた染色浴に、必要に応じてpH調整剤や分散均染剤等を加えた後、疎水性繊維材料を該染色浴に浸漬して、例えばポリエステル繊維の場合は加圧下で通常100℃以上、好ましくは105〜140℃で15〜60分間染色する。この染色時間は染着の状態により短縮又は延長することができる。
【0027】
また、本発明の赤色分散染料組成物を用いて前記の疎水性繊維材料を染色するに際には、o−フェニルフェノールやメチルナフタレン等のキャリアーの存在下で、例えば水を沸騰させた状態で染色することもできる。さらに、上記赤色分散染料組成物を用いて疎水性繊維材料をパディング染色する場合は、上述した方法で調製した染料分散液を布にパディングした後、100℃以上の温度でスチーミングや乾熱処理することもできる。
【0028】
捺染の場合は、上記の染料分散液を適当な糊剤と共に練り合わせ、これを布に印捺乾燥した後、スチーミング又は乾熱処理を行う。また、インクジェット方式によって捺染することもできる。
【0029】
本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、エチレングリコールやエチレングリコール以外のポリオールとテレフタル酸との重縮合により得られるポリエステル繊維が挙げられる。さらに、本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維やポリアミド繊維等も挙げられる。
本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、上記例示の繊維の混紡品又は交織品も挙げられる。該混紡品又は交織品としては、上記例示の繊維同士の混紡品や交織品、前記例示以外のセルロース繊維、羊毛又は絹との混紡品や交織品等が挙げられる。本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、特にポリエステル繊維材料が好ましい。
本発明の着色方法に適用される疎水性繊維材料としては、新合繊も挙げられる。
上記の新合繊の形態としては、糸、織物や編み物等が挙げられる。例えば糸の形態である場合、0.3デニールよりも大きく、且つ1デニール以下のファインデニールファイバー糸、0.3デニール以下のウルトラマイクロファイバー糸、異型断面糸、又は異収縮混紡糸等が挙げられる。これらの糸はフィラメント状であってもよく、また、二酸化チタン等を含む艶消し加工糸等のように各種の加工や改質が施された糸であってもよい。該新合繊の素材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートやテレフタル酸と1,4−ビス−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンとの重縮合物等のポリエステル繊維類;ナイロン等のポリアミド系繊維と上記ポリエステル繊維類との混紡品や混織品;木綿、絹や羊毛等の天然繊維と上記ポリエステル繊維類との混紡品や混織品が挙げられる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例等により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。例中、部及び%は、それぞれ重量部及び重量%である。
【0031】
実施例1〜4及び比較例1〜2
1)赤色分散染料組成物の調製
上式(I)、(III)、(IV)及び(VIII)で示される化合物の1gを、それぞれ個別に、ナフタレンスルホン酸ソーダとホルマリンとの縮合物3gと共に6gの水中で微粒子化し、噴霧乾燥して赤色分散染料組成物を各々得た。この各分散染料を表1記載の比率で配合して、赤色分散染料組成物を得た。
【0032】
2)配合染色試験
i)市販の黄色分散染料(Disperse Orange 30)の0.025g、市販の青色分散染料(Disperse Blue 183)の0.05g、上記1)の赤色分散染料組成物の調製の項で得た表1記載の赤色分散染料0.04gとイオネットRAP-1170(商品名:三洋化成(株)製)の0.27gとを水に均一に分散させた後、得られた分散液に酢酸0.045gと酢酸ソーダ0.18gを添加して180mlの染浴とする。この操作を繰り返して、合計7つの同じ染浴を調製した。
【0033】
ii)上記の各染浴にテトロントロピカル(東レ(株)製ポリエステル繊維織物)5gを投入後、60℃〜130℃まで毎分1℃の速度で昇温して、130℃で30分間保温して染色を行った。上記の昇温工程において、80℃、90℃、100℃、110℃、120℃及び130℃の各温度に到達した時に、これら6つの染浴からテトロントロピカルを抜き取り水洗した。残り1つの染浴において、130℃に到達後、さらに同温度で30分保温して得たテトロントロピカルを抜き取り、水洗した。これらの7枚のテトロントロピカルを、それぞれ還元洗浄後、更に乾燥して、番号1〜7の染色布を得た(130℃で30分保温後、洗浄及び乾燥して得られた染色布を番号7とする)。
【0034】
3)相容性(染着速度の一致状態)の評価
上述した番号1〜7の染色布を順に並べて、染色布表面の色相の変化を目視し、使用した黄色染料、赤色染料及び青色染料の相容性を評価した。なお、相容性は黄色、赤色及び青色の各染料における混合割合の変化を観察するものであり、濃度の変化を観察するものではない。
○:番号7の染色布とほぼ同色相で、濃度のみが変化している
△:番号7の染色布と色相が多少異なるが、ほぼ同系統の色相で変化している
×:番号7の染色布と全く異なる色相の抜き取り布が存在する
4)高温凝集性の評価
表1に記載した分散染料組成物の0.9gとイオネットRAP-1170(三洋化成(株)製)の0.27gを水に均一に分散させて、分散液を得た。該分散液に酢酸0.045gと酢酸ソーダ0.18gを添加して、180mlの水溶液を作製した。この水溶液を、上記テトロントロピカルを入れない状態で、130℃で60分加熱処理した後、冷水にて40℃以下まで急冷し、濾紙を用いて吸引濾過後、濾紙上の濾過残渣量を目視により判定した。
○:濾過残渣が全く認められないもの
△:濾過残渣が少量認められるもの
×:濾過残渣が著しく認められるもの
【0035】
表1記載の赤色分散染料組成物を使用して、2)配合染色試験の項に記載した染色法で染色して得た実施例1〜4の組成物は、いずれも、高温での凝集が認められず、且つ相容性、湿潤堅牢度及び昇華堅牢度が良好であった[実施例1〜4]。
一方、上記化合物(III)の単独を化合物(I)と併用して得た組成物や、下式(XI)で示される化合物の単独を化合物(I)と併用して得た組成物を用いて染色したところ、実用上の問題を生じることが予見される結果を得た。
【0036】

(XI)
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
表2における湿潤堅牢度はAATCC−IIA(アセテート汚染)に準じて評価した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の赤色分散染料組成物はポリエステル等の疎水性繊維材料を赤色に着色する染料として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(I)で示される化合物と1種以上の下式(II)で示される化合物とを含み、前記化合物(I)と1種以上の化合物(II)の重量比が(5〜60):(95〜40)であることを特徴とする赤色分散染料組成物。

(I)

(II)
〔式中、Xは塩素原子、シアノ基又はCH−SO−基を表す。Yは水素原子、塩素原子、メチル基、アセチルアミノ基又はプロピオニルアミノ基を表す。R及びRは、それぞれ独立にシアノエチル基、フェノキシエチル基、メチルカルボニルオキシエチル基、エチルカルボニルオキシエチル基、メトキシカルボニルオキシエチル基又はエトキシカルボニルオキシエチル基を表す。〕
【請求項2】
式(II)で示される化合物において、Xが塩素原子又はシアノ基であり、且つ、R及びRが、それぞれ独立にシアノエチル基、ヒドロキシエチル基、フェノキシエチル基、メチルカルボニルオキシエチル基又はエチルカルボニルオキシエチル基である請求項1に記載の赤色分散染料組成物。
【請求項3】
式(I)で示される化合物と1種以上の化合物(II)の重量比が、(15〜40):(85〜60)である請求項1又は2に記載の赤色分散染料組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の赤色分散染料組成物を用いることを特徴とする疎水性繊維材料の着色方法。

【公開番号】特開2006−219616(P2006−219616A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−35810(P2005−35810)
【出願日】平成17年2月14日(2005.2.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】