説明

分析容器と分析装置

【課題】反応室に試薬が担持されていても光路長を正しく測定できる分析容器を提供する。
【解決手段】単一の前記反応室(5)の中に、試薬(8)を担持する試薬担持領域(22)と、試薬担持領域(22)に隣接し混合液が流入する分析領域(21)とを設けたため、製造ばらつきのある各分析容器の混合液が流入する前の分析領域(21)の光路長を予め測長しておき、混合液で満たされた分析領域(21)の吸光度を光路長で補正することで、製造ばらつきの影響なく分析を行える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野や環境分野などにおいて、液体試料中に含まれる特定成分の濃度を分析する分析装置で使用される分析容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、血液などの液体試料を分析する分析装置は、例えば特許文献1に見られるように構成されている。これは図16に示すように、分析容器の受液部40に注入された試料液Sを、前記分析容器の流路41を介して前記分析容器の反応室41Bへ遠心力、毛細管現象で移送し、反応室41Bにおいて、反応室41Bにセットされていた試薬部44と前記試料液Sとを反応させ反応室41Bの混合液に光学的にアクセスして前記混合液の呈色反応を読み取るように構成されている。
【0003】
分析装置の前記光学的にアクセスとは、試薬が試料液Sによって溶解して呈色反応が起きている反応室41B内を、分析装置に搭載された光源で照射し、その反射光もしくは透過光を受光部で検出することで、その照射光量と検出光量との比の対数である吸光度:ABSは、
ABS = log10(I/O)
ここで、Iは照射光量(入射光量)、Oは検出光量(出射光量)
と、装置内に予め記憶されている吸光度と濃度との関係データ、いわゆる検量線から液体試料中の特定成分の濃度を換算する。
【0004】
この分析容器は、流路41と反応室41B等を形成する各種の凹部が上面に形成されたベースと、このベースの前記上面に接着層で接着されるカバーとで構成されており、反応室41Bへの試薬44の担持は、カバーをベースの上面に接着する前に、反応室41Bに液体状の試薬を必要量だけ滴下し、自然乾燥または凍結乾燥した後に、前記ベースと前記カバーとを接着層で接着することで分析容器が完成する。
【特許文献1】特開2004−150804号公報(図10)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
試料液Sに含まれる特定成分の濃度は、前述のとおりの方法で換算されるが、これはランバード・ベールの法則にしたがって求められるものである。
ABS = ε・c・L
ここでABSは吸光度、εはモル吸光係数、cは測定対象物の濃度、Lは測定対象物の光路長である。この式を見てもわかるように、同じ濃度の測定対象物を測定したとしても分析容器の反応室41Bの光路長のばらつきにより、吸光度がそのばらつきに比例して誤差を含み、結果として検量線から換算される濃度にも誤差を含むことになる。
【0006】
しかし光路長ばらつきは、部品のばらつきや貼り合わせ工程時に発生する貼り合わせばらつきなどで発生し、製造上の工夫だけでは完全には無くすことが出来ない。
そこで、分析精度の向上のためには、光路長を製造時に実測し、実測値を分析容器情報としてバーコード等にして分析容器へ書き込んでおき、分析時に補正を行う必要がある。
【0007】
しかしながら、前記従来の構成では、貼り合わせ後にレーザを利用した非接触式の位置計測器を用いて光路長を測定しようとしても、反応室41Bに担持した試薬44によってレーザ光が阻害されるため、反応室の光路長を測定できない。
【0008】
また、試薬担持前に光路長を測定した場合、貼り合わせばらつきまでは考慮されないため、正しく光路長を測定できないという課題を有している。
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、製造段階において反応室に試薬が担持されていても正しく光路長を測定できる分析容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の分析容器は、反応室に移送された液体試料と前記反応室にセットされた試薬との混合液に光学的にアクセスする読み取りに使用される分析容器であって、単一の前記反応室の中に、前記試薬を担持する試薬担持領域と、前記試薬担持領域に隣接し前記混合液が流入する分析領域とを設けたことを特徴とする。
【0010】
また、単一の前記反応室の底面と上面の少なくとも一方の面に凹凸を形成し、前記凹凸の一方を試薬担持領域とし、前記凹凸の他方を分析領域としたことを特徴とする。
また、単一の前記反応室の底面と上面の少なくとも一方の面に、同一レベルの前記試薬担持領域と前記分析領域を形成し、前記試薬担持領域と前記分析領域の境目に凸部または凹部を形成したことを特徴とする。
【0011】
また、前記分析領域に疎水処理を施したことを特徴とする。
また、単一の前記反応室の中に、種類の異なる前記試薬を担持する複数の試薬担持領域を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この構成によれば、単一の前記反応室の中に試薬担持領域を設けるとともに、試薬担持領域とは別に前記単一の前記反応室の中に混合液が流入する分析領域を設けたので、液体試料を反応室に送り込む前に前記分析領域を測定して光路長を測定できる。そして、液体試料が反応室に送り込まれて前記試薬担持領域の試薬と反応した混合液を、前記分析領域に受け入れて分析できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の分析容器を各実施の形態に基づいて説明する。
なお、ここでは血液等の液体試料中に含まれる特定成分の濃度を分析する分析装置で使用される分析容器の場合を例に挙げて説明する。
【0014】
(実施の形態1)
図1〜図5は本発明の実施の形態1を示す。
この実施の形態1の分析容器は、図1(a)(b)に示すようにベース9にカバー10が貼り合わせて構成されている。ベース9のカバー10との貼り合わせ面には、一時的に液体試料を収容しておくための液体試料収容室4と、液体試料と試薬の呈色反応を光学的に検出するための複数の反応室5a,5b,5cと、余った液体試料を溜めておくための廃液溜6が形成されている。これらの各室は、ベース9に形成された凹部の開口をカバー10で閉塞することで形成されている。3aはカバー10の液体試料注入口2から受け入れた液体試料を液体試料収容室4へ送る第1流路、3bは液体試料収容室4から反応室5a,5b,5c,廃液溜6へ液体試料を送る第2流路であって、ベース9に形成された凹部の開口をカバー10で閉塞することで形成されている。
【0015】
ベース9のカバー10との貼り合わせは、反応室5a,5b,5cとなるベース9の凹部に試薬8a,8b,8cを担持させた後に、UV接着剤、ホットメルト、両面テープなどの接着用の材料を用いて実行される。また、ベース9やカバー10の一部をレーザや超音波を用いて溶かして接合することもできる。
【0016】
図2はベース9の詳細を示し、図3はベース9とカバー10との接着層11による貼り合わせ後の図2のB−B′で示す反応室5a付近の断面を示している。
反応室5aの凹部の底面には、中央に周囲よりレベルが高い分析領域21が形成されており、分析領域21を取り巻く溝には試薬8aが担持されており、この部分が分析領域21に隣接した試薬担持領域22となっている。
【0017】
反応室5b,5cの凹部も同様に形成されており、反応室5bの分析領域21を取り巻く溝に担持された試薬8bは試薬8aとは種類が異なっている。反応室5cの分析領域21を取り巻く溝に担持された試薬8cは試薬8a,8bとは種類が異なっている。
【0018】
図4(a)は分析領域21を取り巻く溝への試薬8を担持させる工程を示しており、試薬塗布機12によって液状の試薬8aを試薬担持領域22に必要量だけ滴下し、その後に自然乾燥あるいは凍結乾燥することで固形化し、固定される。
【0019】
図4(b)は図4(a)のC−C′断面を示しており、各反応室5a,5b,5cの試薬担持領域22となる溝7a,7b,7cの深さdは50μm以上あれば試薬の担持に好適である。反応室5bの溝7b,反応室5cの溝7cへも同様にして試薬8b,8cが担持させてある。
【0020】
なお、試薬8a,8b,8cを試薬担持領域22に担持させる際に試薬が分析領域21に付着しないように、反応室5a,5b,5cの各分析領域21には予め疎水処理を施すことが好ましい。
【0021】
このようにして試薬を担持させた分析容器1における反応室5a,5b,5cの各分析領域21の光路長がレーザ光を利用して測定され、得られた光路長の実測値が分析容器情報としてバーコードにして分析容器に印刷される。
【0022】
この光路長の測定を図5(a)に示すようにカバー10の側から計測を行う場合には、カバー10はレーザ測長機23から出射するレーザ光の波長は透過する材質で、かつ後に説明する分析装置での分析時に使用する発光ダイオード等の光源の波長の光も透過する材質で成形されている。ベース9は前記波長の光を透過する必要は無いが、分析装置での分析時に呈色反応を検出するため、受光部に入射する光量は一定光量確保する必要がある。ここでレーザ測長機23が検出した分析領域21の実測距離L1、レーザ測長機23が検出したカバー10の内側面10aの実測距離L2であった場合には、光路長(L1−L2)をバーコードにして分析容器に印刷する。
【0023】
ベース9の材料に光を透過しない材料を使用して分析装置での分析時に呈色反応を反射式で測定する場合には、各分析領域21の面にアルミ等の蒸着を行うなどして、反応室を通過する光をカバー10の側に反射させ、カバー10の側に配置した受光部で検出する必要がある。ベース9、カバー10共に光を透過する材料で構成することもできる。
【0024】
光路長の測定を図5(b)に示すようにベース9の側から計測を行う場合には、ベース9は計測に使用するレーザ光の波長を透過する材質で、かつ分析装置での分析時に使用する光源の波長の光も透過する必要がある。カバー10は光を透過する必要は無いが、カバー10の材料に光を透過しない材料を使用する場合、カバー10にアルミ等の蒸着を行うなどして、反応室を通過する光をベース9の側に反射させベース9の側に配置した受光部で検出する必要がある。ベース9、カバー10共に光を透過する材料で構成することもできる。
【0025】
ここでレーザ測長機23が検出した分析領域21の実測距離L2、レーザ測長機23が検出したカバー10の内側面10aの実測距離L1であった場合には、光路長(L1−L2)をバーコードにして分析容器に印刷する。
【0026】
なお、分析容器情報の記録方法としては、バーコードに限らず、光路長の情報を記録したICタグ等のデータキャリアを分析容器に付属させて構成することもできる。
このようにして試薬を担持させた分析容器1を使用して、次のようにして分析処理が実行されている。
【0027】
液体試料には、血液の血漿成分等が用いられ、遠心分離機で分離した血液の血漿成分をマイクロビペットなどで一定量抽出し、液体試料注入口2から注入する。液体試料注入口2から注入された液体試料は、毛細管現象で液体試料収容室4へ移送される。以降の液体試料の移送操作および分析は、分析容器を分析装置に挿入後、分析装置内にて行われる。
【0028】
図6に示すように分析装置100のターンテーブル103の上にターンテーブル103の回転軸102から離れた位置に分析容器1がセッティングされる。104はターンテーブル103を回転軸102の回りに駆動するモータで、鉛直方向から角度θだけ傾けて取り付けられている。ターンテーブル103には開口51,52が設けられており、発光ダイオード105から出射した光が、ターンテーブル103にセットされた分析容器1の反応室5a,5b,5cの各分析領域21の位置を透過してフォトディテクタ106で検出するよう配置されている。
【0029】
ターンテーブル103が回転することによって図2に示すように矢印A方向へ遠心力が生じ、液体試料収容室4の内部の液体試料の移送が行われ、液体試料が反応室5a,5b,5cへと運ばれる。
【0030】
液体試料が反応室5a,5b,5cへ流れ込むことによって、試薬8a,8b,8cが液体試料によって溶け出し、その成分に応じて呈色反応が起きる。このときには、図7に示すように、分析領域21は試薬と液体試料の混合液15によって光路長方向に満たされ、気泡による隙間がないようにしなければならない。反応室内に気泡がある場合は、回転による遠心力を利用して混合液15を一方向へ寄せるなどして、分析領域21が混合液15で満たされ光路長方向に隙間が生じないようにする必要がある。各反応室5a,5b,5cの分析領域21が混合液15で満たされた状態で発光ダイオード105とフォトディテクタ106の間を通過するタイミングに分析装置100が読み取りを実行し、このときの吸光度と分析容器1から読み取った各反応室5a,5b,5cの光路長の情報などから液体試料中の特定成分の濃度を演算する。
【0031】
このように、反応室に試薬を担持させていたにもかかわらず試薬に妨げられることなく光路長を測定できるので、貼り合わせ工程の作業ばらつきによって接着層11の厚みばらつきが生じても、分析結果をより精度よく導き出すことが出来る。
【0032】
(実施の形態2)
図3に示した実施の形態1では、分析領域21の高さが試薬担持領域22よりも高く形成されていたが、図8に示す本発明の実施の形態2では、この点が異なっている。
【0033】
図8(a)はベース9とカバー10とを張り合わして構成される分析容器1のベース9の平面図を示し、図8(b)は図8(a)の反応室5のD−D′に沿った試薬塗布前の断面図、図8(c)はカバー貼り付け後の断面図を示している。
【0034】
この実施の形態2では図8(a)(b)に示すように分析領域21と試薬担持領域22とを同一レベルに形成し、分析領域21と試薬担持領域22との境目に凸部24を形成し、前記試薬塗布機12によって液状の試薬8aを試薬担持領域22に必要量だけ滴下して図8(c)に示すように担持させることによっても、分析領域21への試薬8aの侵入を食い止めることができる。反応室5b,5cも同様である。
【0035】
(実施の形態3)
図3に示した実施の形態1では、分析領域21の高さが試薬担持領域22よりも高く形成されていたが、図9に示す本発明の実施の形態3では、この点が異なっている。
【0036】
図9(a)はベース9とカバー10とを張り合わして構成される分析容器1のベース9の平面図を示し、図9(b)は図9(a)の反応室5のE−E′に沿った試薬塗布前の断面図、図9(c)はカバー貼り付け後の断面図を示している。
【0037】
この実施の形態3では図9(a)(b)に示すように分析領域21と試薬担持領域22とを同一レベルに形成し、分析領域21と試薬担持領域22の境目に凹部25を形成し、前記試薬塗布機12によって液状の試薬を試薬担持領域22に必要量だけ滴下して図9(c)に示すように担持させることによっても、分析領域21への試薬の侵入を食い止めることができる。反応室5b,5cも同様である。
【0038】
(実施の形態4)
上記の各実施の形態では分析領域21の外側を試薬担持領域22が取り巻く形状であったが、図10に示す本発明の実施の形態4では、この点が異なっている。
【0039】
図10(a)はベース9とカバー10とを張り合わして構成される分析容器1のベース9の平面図を示し、図10(b)は図10(a)の反応室5cのF−F′断面を示している。
【0040】
この実施の形態4では図10(a)に示すように反応室5cの中で、分析容器1をターンテーブル103にセットして回転させることに発生する遠心力の方向Aの最外端に分析領域21よりも深い試薬担持領域22を形成し、この試薬担持領域22に試薬8cを担持させてある。反応室5a,5bも同様である。
【0041】
なお、この実施の形態4では分析領域21と試薬担持領域22の高さが異なる場合を例に挙げて説明したが、分析領域21と試薬担持領域22の高さを同じに形成するとともに、実施の形態2の図8に見られた凸部24を前記遠心力の方向Aと交差する方向に設けて分析領域21と試薬担持領域22を区切ることによっても実現できる。
【0042】
なお、この実施の形態4では分析領域21と試薬担持領域22の高さが異なる場合を例に挙げて説明したが、分析領域21と試薬担持領域22の高さを同じに形成するとともに、実施の形態3の図9に見られた凹部25を前記遠心力の方向Aと交差する方向に設けて分析領域21と試薬担持領域22を区切ることによっても実現できる。
【0043】
(実施の形態5)
上記の各実施の形態では分析領域21の外側を試薬担持領域22が取り巻く形状であったが、図11に示す本発明の実施の形態5では、この点が異なっている。
【0044】
図11(a)はベース9とカバー10とを張り合わして構成される分析容器1のベース9の平面図を示し、図11(b)は図11(a)の反応室5cのG−G′断面を示している。
【0045】
この実施の形態5では図11(a)に示すように反応室5cの中で、反応室5cの中央にこの分析容器1をターンテーブル103にセットして回転させることに発生する遠心力の方向Aに沿って分析領域21を形成し、前記遠心力の方向Aに沿って分析領域21の両側に図11(b)に示すように分析領域21よりも深い試薬担持領域22を形成し、この試薬担持領域22に試薬8cを担持させてある。試薬担持領域22は分析領域21の前記両側ではなくて片側に形成しても良い。
【0046】
この実施の形態5において分析領域21の両側に試薬担持領域22を形成した場合、2つの試薬担持領域22に担持させる試薬の種類は同じであったが、分析領域21の両側に形成した試薬担持領域22に担持させる試薬の種類は異なっていても良い。
【0047】
なお、この実施の形態5では分析領域21と試薬担持領域22の高さが異なる場合を例に挙げて説明したが、分析領域21と試薬担持領域22の高さを同じに形成するとともに、実施の形態2の図8に見られた凸部24を前記遠心力の方向Aに沿った方向に設けて分析領域21と試薬担持領域22を区切ることによっても実現できる。
【0048】
なお、この実施の形態5では分析領域21と試薬担持領域22の高さが異なる場合を例に挙げて説明したが、分析領域21と試薬担持領域22の高さを同じに形成するとともに、実施の形態3の図9に見られた凹部25を前記遠心力の方向Aに沿った方向に設けて分析領域21と試薬担持領域22を区切ることによっても実現できる。
【0049】
(実施の形態6)
上記の各実施の形態ではベース9とカバー10とを張り合わして構成される分析容器1のベース9の側にだけ試薬担持領域22を形成したが、図12に示す本発明の実施の形態6では、この点が異なっている。
【0050】
図12(a)はベース9とカバー10とを張り合わして構成される分析容器1の図3と同じ位置の断面図を示し、ベース9の側だけでなくカバー10の側にベース9の分析領域21と対向しない位置に溝26を形成し、この溝26に試薬8dを担持させて構成することもできる。反応室5a,5bも同様である。
【0051】
この実施の形態6においてベース9の側の試薬8aとカバー10の側の試薬8dとは、種類が同じであっても、異なっていても良い。
なお、この実施の形態6の上記の説明では実施の形態1の変形例を説明したが、実施の形態2〜実施の形態5の各実施の形態においても、カバー10の側にも分析領域21と対向しない位置に溝を形成し、この溝に試薬を担持させて構成することもできる。
【0052】
なお、この実施の形態6の上記の説明では実施の形態1の変形例を説明したが、実施の形態2〜実施の形態5の各実施の形態においても、カバー10の側にも分析領域と試薬担持領域とを区切る凸部または凹部を形成し、カバー10の側にも試薬を担持させて構成することもできる。
【0053】
(実施の形態7)
上記の実施の形態1の分析容器では、分析領域21の高さが試薬担持領域22よりも高く形成されていたが、図13に示す本発明の実施の形態7では、この点が異なっている。
【0054】
実施の形態7のベース9の平面図は図2(a)と同じであって、反応室5のB−B′断面が図13に示すように分析領域21の高さが試薬担持領域22よりも低く形成されている。その他は実施の形態1と同じである。反応室5a,5bも同様である。
【0055】
(実施の形態8)
上記の各実施の形態の分析容器では、単一の反応室に担持された試薬は、反応室に満たされた液体試料に一度に溶け込んで反応し、その後に分析装置によって分析領域の光透過量から一つの特定成分の濃度を分析するのに使用されていたが、図14と図15に示す本発明の実施の形態8は、特定成分の分析に試薬と液体試料との反応ステップとして2段階必要な場合を示している。
【0056】
工程を追って説明する。
図14(a)はベース9とカバー10とを張り合わして構成される分析容器1のベース9の要部の斜視図を示す。この分析容器1を分析装置100の前記ターンテーブル103にセットした状態の断面図を図14(b)に示す。図14(b)のベース9は図14(a)のH−H′断面を示している。
【0057】
図14(a)に示すように反応室5aとなるベース9の凹部には、ターンテーブル103の回転中心27に対して最外周部に分析領域21として形成された液受け部28と、ターンテーブル103の回転中心27に対して液受け部28に隣接して液受け部28よりも内周側に試薬担持領域22としての第1試薬担持領域22a,第2試薬担持領域22bとが形成されている。
【0058】
液受け部28と第1,第2試薬担持領域22a,22bはカバー10で図9(b)に示すように閉塞されて反応室5aを形成しており、第1,第2試薬担持領域22a,22bとカバー10との内面との間には液体試料に対して毛細管力が作用する隙間29が形成されている。第1試薬担持領域22aにはカバー10をベース9に張り合わせる前に第1の試薬8aaを担持させてある。第2試薬担持領域22bには第1の試薬8aaとは種類の違う第2の試薬8abがカバー10をベース9に張り合わせる前に担持させてある。
【0059】
液体試料を液受け部28に受け入れていない状態で、図5の場合と同様にレーザ測長機23を用いて光路長Lを測定し、その光路長Lをバーコードにして分析容器1に印刷または分析容器に付けたデータキャリアに記録する。
【0060】
このようにして第1,第2試薬8aa,8abを担持させた分析容器1を使用して、次のようにして分析処理が実行されている。
液体試料には、血液の血漿成分等が用いられ、遠心分離機で分離した血液の血漿成分をマイクロビペットなどで一定量抽出し、分析容器1に注入する。注入された液体試料は、毛細管現象とターンテーブル103の回転によって発生する遠心力によって、流路3を介して図15(a)に示すように液受け部28に移送される。次に分析容器1が図15(b)に示すように第1試薬担持領域22aが下方になる位置でターンテーブル103を停止させる。これによって、液受け部28の液体試料30が第1試薬担持領域22aの隙間29に保持されて、この状態でターンテーブル103を規程時間停止させておくことで、液体試料30に第1の試薬8aaが溶け込んで反応する(第1反応)。
【0061】
次にターンテーブル103を回転させると、第1試薬担持領域22aの隙間29に保持されていた混合液31が前記遠心力によって図15(c)に示すように液受け部28に移送される。
【0062】
次に、分析容器1が図15(d)に示すように第2試薬担持領域22bが下方になる位置でターンテーブル103を停止させる。これによって、液受け部28の混合液31が第2試薬担持領域22bの隙間29に保持されて、この状態でターンテーブル103を規程時間停止させておくことで、混合液31に第2の試薬8abが更に溶け込んで反応(第2反応)して混合液32となる。
【0063】
次にターンテーブル103を回転させると、第2試薬担持領域22bの隙間29に保持されていた混合液32が前記遠心力によって図15(e)に示すように液受け部28に移送される。分析装置100の前記発光ダイオード105とフォトディテクタ106の間を、液受け部28が第2の試薬8abが溶け込んだ混合液32で満たされた反応室5aが通過するタイミングに読み取りを実行し、このときの吸光度と分析容器1から予め読み取って保持している反応室5aの光路長Lの情報などから液体試料中の特定成分の濃度を演算する。
【0064】
このように、反応室5aに第1,第2の試薬8aa,8abを担持させてたにもかかわらず試薬に妨げられることなく光路長を測定できるので、貼り合わせ工程の作業ばらつきによって接着層11の厚みばらつきが生じても、分析結果をより精度よく導き出すことが出来る。また、単一の反応室5aの中に種類の異なる試薬を担持する複数の試薬担持領域8aa,8abを設けたため、試薬と液体試料との反応ステップとして2段階必要な特定成分の分析を、分析装置100による分析容器1の姿勢制御によって、単一の反応室5aだけを使用して実施できる。反応室5b,5cも同様である。
【0065】
なお、上記の各実施の形態において、分析の前処理の血球分離処理を分析容器1の外で行ったが、分析装置100に分析容器1をセットした後に、ターンテーブル103の回転制御によって分離してから反応室5a,5b,5cに移送するよう構成することもできる。
【0066】
また、上記の各実施の形態において、反応室5a,5b,5cへの液体試料の移送をターンテーブル103の回転に伴う遠心力を用いたが、遠心力によらずにポンプを用いて液体試料を反応室へ移送するように構成することもできる。
【0067】
なお、実施の形態1〜実施の形態5,実施の形態7では、単一の反応室5a,5b,5cの底面(ベース9の側)と上面(カバー10の側)の底面に凹凸を形成し、前記凹凸の一方を試薬担持領域とし、前記凹凸の他方を分析領域としたが、単一の反応室5a,5b,5cの底面(ベース9の側)と上面(カバー10の側)の上面に凹凸を形成し、前記凹凸の一方を試薬担持領域とし、前記凹凸の他方を分析領域として構成することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、生物などから採取した試料あるいは汚水などの中の各種の成分の濃度を測定する分析装置の分析精度の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態1における分析容器の分解斜視図と組立斜視図
【図2】同実施の形態におけるベースの平面図
【図3】図2のB−B′線に沿った要部の拡大断面図
【図4】同実施の形態における試薬塗布工程の斜視図とそのC−C′断面図
【図5】同実施の形態における試薬と液体試料の混合液と光路長の関係を説明する断面図
【図6】同実施の形態における分析容器をセットした分析装置の断面図
【図7】同実施の形態における分析容器をセットした分析装置での分析中の断面図
【図8】本発明の実施の形態2の分析容器の反応室のカバー貼り付け前の平面図とそのD−D′に沿った試薬塗布前とカバー貼り付け後の断面図
【図9】本発明の実施の形態3の分析容器の反応室のカバー貼り付け前の平面図とそのE−E′に沿った試薬塗布前とカバー貼り付け後の断面図
【図10】本発明の実施の形態4におけるベースの平面図とF−F′に沿った断面図
【図11】本発明の実施の形態5におけるベースの平面図とG−G′に沿った断面図
【図12】本発明の実施の形態6の分析容器の断面図
【図13】本発明の実施の形態7の分析容器の反応室の断面図
【図14】本発明の実施の形態8の分析容器の反応室のベース側の斜視図と分析装置にセットした分析容器の反応室の断面図
【図15】同実施の形態の分析装置による分析容器の姿勢制御工程の説明図
【図16】従来の分析容器の平面図
【符号の説明】
【0070】
1 分析容器
2 液体試料注入口
3a 第1流路
3b 第2流路
4 液体試料収容室
5a,5b,5c 反応室
6 廃液溜
7a,7b,7c 溝
8a,8b,8c,8d 試薬
8aa,8ab 第1,第2の試薬
9 ベース
10 カバー
11 接着層
12 試薬塗布機
21 分析領域
22 試薬担持領域
22a 第1試薬担持領域(試薬担持領域)
22b 第2試薬担持領域(試薬担持領域)
23 レーザ測長機
24 凸部
25 凹部
26 溝
27 ターンテーブル103の回転中心
28 液受け部(分析領域)
29 隙間
30 液体試料
31,32 混合液
51,52 開口
100 分析装置
102 回転軸
103 ターンテーブル
104 モータ
105 発光ダイオード
106 フォトディテクタ
A 遠心力の方向
L 光路長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室に移送された液体試料と前記反応室にセットされた試薬との混合液に光学的にアクセスする読み取りに使用される分析容器であって、
単一の前記反応室の中に、
前記試薬を担持する試薬担持領域と、
前記試薬担持領域に隣接し前記混合液が流入する分析領域と
を設けた分析容器。
【請求項2】
単一の前記反応室の底面と上面の少なくとも一方の面に凹凸を形成し、前記凹凸の一方を試薬担持領域とし、前記凹凸の他方を分析領域とした
請求項1記載の分析容器。
【請求項3】
単一の前記反応室の底面と上面の少なくとも一方の面に、同一レベルの前記試薬担持領域と前記分析領域を形成し、前記試薬担持領域と前記分析領域の境目に凸部または凹部を形成した
請求項1記載の分析容器。
【請求項4】
前記分析領域に疎水処理を施した
請求項2または請求項3記載の分析容器。
【請求項5】
単一の前記反応室の中に、種類の異なる前記試薬を担持する複数の試薬担持領域を設けた
請求項1記載の分析容器。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の分析容器と、
回転軸芯を持ち前記分析容器を保持する回転体と、
前記分析容器に遠心力が作用するように前記回転体を回転させる回転駆動部と、
前記分析容器の前記操作チャンバ内の液体に光学的にアクセスして測定する測定手段と
を有する分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−98039(P2009−98039A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270764(P2007−270764)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】